説明

温度制御装置

【課題】 マイクロチップの各部の温度を個別に精密に制御し、汎用性の高い温度制御装置を提供する。
【解決手段】 温度制御装置10は、複数のペルチェモジュール20を備えている。各ペルチェモジュール20にはペルチェ素子の通電方向および通電期間を制御する素子制御部がそれぞれ設置されている。そのため、ペルチェ素子は、制御回路42を通して、時分割によってペルチェモジュール20ごとに個別に制御される。したがって、複数のペルチェモジュール20は、マイクロチップ3を所定の範囲ごとに個別かつ精密に制御することができる。また、ペルチェモジュール20ごとに個別に温度が制御されるため、設定温度の変更が容易である。したがって、汎用性を高めることができる。さらに、隣接するペルチェモジュール20は制御回路42および温度検出回路43を共有するため、配線を簡略化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度制御装置に関し、特に複数のペルチェモジュールを個別に制御する温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばマイクロチップなどのように微小なチップを用いて微生物の培養、遺伝子の複製あるいは化学反応を行う場合、マイクロチップは温度制御装置によって温度が制御されている。すなわち、マイクロチップは、一つの温度制御装置によって全体の温度制御が行われている(例えば、特許文献1参照)。
例えばマイクロチップを用いて遺伝子の複製を行う場合、大量の複製された遺伝子を得るためにマイクロチップには遺伝子の複製を行う複数の複製部が設置される。このとき、従来のようにマイクロチップの全体の温度を温度制御装置によって制御する場合、増幅率の低い複製部のみ複製サイクルを増加させたり、温度を変化させることは困難である。
【0003】
また、マイクロチップを用いて化学反応を行う場合、マイクロチップには反応を行う複数の反応部が設置される。このとき、従来のようにマイクロチップの全体の温度を温度制御装置によって制御する場合、異なる化学反応を一つのマイクロチップで同時に行うことは困難である。
上述のように、マイクロチップの全体を温度制御する場合、マイクロチップの各部ごとの精密な温度制御は困難であり、例えば培養、複製あるいは反応に要する期間が増大する。また、マイクロチップごとに専用の温度制御装置を必要とする。そのため、温度制御装置の汎用性が低いという問題がある。
【特許文献1】特開平07−303468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述の課題を鑑みて創作されたものであり、マイクロチップの各部の温度を個別に精密に制御し、汎用性の高い温度制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明の温度制御装置は、マイクロチップの温度を調節する温度制御装置であって、ペルチェ素子、および前記ペルチェ素子の熱を前記マイクロチップに伝達する温度調節部を有する複数のペルチェモジュールと、複数の前記ペルチェモジュールにそれぞれ設置され、前記ペルチェモジュールの各ペルチェ素子の加熱または冷却、および加熱または冷却期間を制御する素子制御部と、を備える。
これにより、複数設置されているペルチェモジュールには素子制御部がそれぞれ設置されているため、ペルチェ素子はペルチェモジュールごとに個別に温度が制御される。素子制御部は、各ペルチェ素子への通電方向および通電期間を制御する。素子制御部が制御するペルチェ素子は、通電方向によって一端側から他端側へ移動させる熱の方向が変化する。そのため、素子制御部は、ペルチェ素子の通電方向および通電期間を制御することにより、ペルチェ素子による温度調節部の加熱または冷却を制御する。したがって、複数のペルチェモジュールは、マイクロチップを所定の範囲ごとに個別かつ精密に制御することができる。
また、ペルチェモジュールごとに個別に温度が制御されるため、設定温度の変更が容易である。したがって、汎用性を高めることができる。
【0006】
(2)前記ペルチェモジュールは、n行×m列(n≧2、m≧2)のマトリックス状に配置されている。
これにより、マイクロチップはn行×m列のマトリックス状の各部ごとに温度を制御することができる。
【0007】
(3)複数の前記ペルチェモジュールにそれぞれ設置され、前記ペルチェモジュールの各温度調節部の温度を検出する温度検出部をさらに備える。
これにより、温度検出部で検出した温度調節部の温度を利用して素子制御部はペルチェ素子の温度を制御する。したがって、温度調節部の温度を精密に制御することができる。
【0008】
(4)複数の前記ペルチェモジュールを制御する総括制御部をさらに備える。
これにより、例えば所定の被温度調節部に対応するペルチェモジュールの温度を上昇させるとき、総括制御部はそのペルチェモジュールに近接するペルチェモジュールの温度も上昇させる。その結果、所定の被温度調節部に対応するペルチェモジュールの温度は速やかに所定の温度まで上昇する。したがって、複数のペルチェモジュールの総括的な制御が可能となり、各被温度調節部の温度を個別かつ精密に制御することができる。
【0009】
(5)複数の前記ペルチェモジュールの各素子制御部と前記総括制御部とを接続する二系統の素子制御線部と、複数の前記ペルチェモジュールの各温度検出部と前記総括制御部とを接続する二系統の温度制御線部と、を備えている。
これにより、ペルチェモジュールは素子制御線部を経由して総括制御部によって制御される。また、温度検出部が検出した温度調節部の温度は、温度制御線部を経由して総括制御部に出力される。総括制御部は、複数のペルチェモジュールを時分割により個々に制御する。総括制御部は、信号を出力する際に複数のペルチェモジュールのうち一つのペルチェモジュールを特定し、そのペルチェモジュールの素子制御部へ温度調節部の温度を指示する。素子制御部は、総括制御部から指示された温度に基づいてペルチェ素子の通電方向および通電期間を設定し、ペルチェ素子の通電方向および通電時間を制御する。また、総括制御部は、特定したペルチェモジュールの温度検出部から温度調節部の温度を入手する。総括制御部は、入手した温度調節部の温度から特定のペルチェモジュールに次回出力する温度を設定する。このように、温度検出部によって検出した温度調節部の温度に基づいて、複数のペルチェモジュールを個別に制御する。したがって、複数のペルチェモジュールを総括的に制御することができ、各ペルチェモジュールの温度を個別かつ精密に制御することができる。
【0010】
(6)前記ペルチェモジュール、前記素子制御線部および前記温度制御線部が設置され、前記ペルチェ素子を放熱するヒートシンクをさらに備える。
これにより、ペルチェ素子を放熱するヒートシンクに各制御線部が設置される。したがって、構造を簡略化することができる。
【0011】
(7)複数の前記ペルチェモジュールの各素子制御部および各温度検出部と前記総括制御部とを接続する二系統のI/O制御線部をさらに備える。
これにより、ペルチェモジュールのペルチェ素子および温度検出部は、I/O制御線部によって総括制御部と接続している。総括制御部は、複数のペルチェモジュールを時分割により個々に制御する。総括制御部は、信号を出力する際に複数のペルチェモジュールのうち一つのペルチェモジュールを特定し、そのペルチェモジュールの素子制御部へ温度調節部の温度を指示する。素子制御部は、総括制御部から指示された温度に基づいてペルチェ素子の通電方向および通電期間を設定し、ペルチェ素子の通電方向および通電期間を制御する。このとき、総括制御部は、特定したペルチェモジュールの温度検出部から温度調節部の温度を入手する。総括制御部は、入手した温度調節部の温度から特定のペルチェモジュールに次回出力する温度を設定する。このように、I/O制御線部を備えることにより、ペルチェモジュールと総括制御部とを接続する制御線部が簡略化される。したがって、複数のペルチェモジュールを総括的に制御することができ、各ペルチェモジュールの温度を個別かつ精密に制御することができるとともに、配線を削減することができる。
【0012】
(8)前記ペルチェモジュールおよび前記I/O制御線部が設置され、前記ペルチェ素子を放熱するヒートシンクをさらに備える。
これにより、ペルチェ素子を放熱するヒートシンクに各制御線部が設置される。したがって、構造を簡略化することができる。
【0013】
(9)前記総括制御部は、複数の前記ペルチェモジュールのうち温度制御を行う特定ペルチェモジュールに隣接する隣接ペルチェモジュールを、前記特定ペルチェモジュールより温度を高くまたは低く設定する。
これにより、周囲の環境の影響による特定ペルチェモジュールの近傍における温度分布は低減される。そのため、特定ペルチェモジュールは、所定の温度に迅速に加熱または冷却されるとともに、所定の温度で一定に維持される。したがって、複数の部位の温度を、個別かつ精密に制御することができる。
【0014】
(10) 前記総括制御部は、複数の前記ペルチェモジュールのうち外周側のペルチェモジュールを、内周側のペルチェモジュールより温度を高くまたは低く設定する。
外周側のペルチェモジュールは、周囲の環境にさらされる。そのため、内周側および外周側のペルチェモジュールの温度を同一に設定しても、内周側のペルチェモジュールと外周側のペルチェモジュールとの間には温度分布が生じる。そこで、外周側のペルチェモジュールを内周側のペルチェモジュールの設定温度よりも高くまたは低く設定することにより、複数のペルチェモジュールは全体が均一な温度に設定される。したがって、マイクロチップの全体を加熱または冷却する場合、マイクロチップの全体に温度分布が生じることなく均一に加熱または冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図2は、本発明の第1実施形態による温度制御装置を適用した温度制御システム1の概略を示している。温度制御システム1は、温度制御装置10および例えばパーソナルコンピュータなどの外部の処理装置2から構成されている。温度制御装置10は、図1に示すように複数のペルチェモジュール20を備えている。複数のペルチェモジュール20は、n行×m列のマトリックス状に配置されている。nおよびmは、2以上である。温度制御装置10は、ペルチェモジュール20に搭載されるマイクロチップ3の被温度調節部の温度を制御する。マイクロチップ3としては、例えば細胞や細菌などを培養する複数の培養槽を有するバイオチップ、あるいは化学反応や化合物の精製を行う複数の反応槽を有する合成チップなどを適用することができる。
【0016】
温度制御装置10は、ヒートシンク11および回路形成部30を備えている。ヒートシンク11の上方に回路形成部30が設置されている。複数のペルチェモジュール20は、回路形成部30のヒートシンク11とは反対側に設置されている。ヒートシンク11は、例えばアルミニウム合金などの熱伝導率の大きな材料で形成されている。回路形成部30は、各ペルチェモジュール20に電力および信号を供給する回路、およびヒートシンク11と各ペルチェモジュール20との間を絶縁する絶縁層を有している。なお、図1に示す回路形成部30は、説明の簡単のため厚さ方向を拡大して示している。また、他の各図においても、図示する要素は概略図であり、説明を簡単にするため適宜拡大縮小している。
【0017】
各ペルチェモジュール20は、図3に示すようにP型熱電素子とN型熱電素子とを電極を経由して交互に接続した素子群(以下、「ペルチェ素子21」という。)と、ペルチェ素子21の一端側に配置され温度調節部22となる上基板と、他端側に設置されヒートシンク11と接する基板23となる下基板とからなる。ペルチェ素子21は、例えばはんだなどにより温度調節部22および基板23と接続されている。温度調節部22は、例えばアルミナなどにより形成されている。ペルチェ素子21は、通電することにより一方の面が発熱し、他方の面が吸熱する。ペルチェ素子21に印加する電流の向きおよび大きさを制御することにより、温度調節部22は加熱または冷却され、温度調節部22は所定の温度に制御される。
【0018】
温度制御装置10は、素子制御部24および温度検出部25を備えている。素子制御部24および温度検出部25は、複数のペルチェモジュール20にそれぞれ設置されている。素子制御部24は、自身のペルチェモジュール20のペルチェ素子21へ通電する向きおよび通電期間を制御する。温度検出部25は、自身のペルチェモジュール20の温度調節部22の温度を検出する。
【0019】
回路形成部30は、図1に示すようにヒートシンク11と接する側に第一絶縁層31が形成されている。第一絶縁層31のヒートシンク11と反対側には電力回路41が形成されている。電力回路41は、第二絶縁層32により覆われている。電力回路41は、図4に示すように電源ライン(Vcc)411および接地ライン(GND)412から構成されている。
【0020】
第二絶縁層32のヒートシンク11と反対側には、図5に示すように第三絶縁層33に覆われている素子制御線部としての制御回路42のコモンライン421および温度制御線部としての温度検出回路43のコモンライン431が形成されている。さらに、第三絶縁層33のヒートシンク11と反対側には、図6に示すように第四絶縁層34に覆われている制御回路42のセグメントライン422および温度検出回路43のセグメントライン432が形成されている。これらの第一絶縁層31、第二絶縁層32、第三絶縁層33および第四絶縁層34は、いずれも例えばエポキシ樹脂などの絶縁樹脂から形成されている。素子制御線部としての制御回路42は、コモンライン421およびセグメントライン422の二系統の制御線から構成されている。また、温度制御線部としての温度検出回路43は、コモンライン431およびセグメントライン432の二系統の制御線から構成されている。
【0021】
回路形成部30には、図1、図3から図6に示すようにスルーホール51、スルーホール52およびスルーホール53が形成されている。スルーホール51は、第二絶縁層32、第三絶縁層33および第四絶縁層34を貫いている。スルーホール52は、第三絶縁層33および第四絶縁層34を貫いている。スルーホール53は、第四絶縁層34を貫いている。これにより、各ペルチェモジュール20は、スルーホール51を経由して電力回路41に接続している。各ペルチェモジュール20は、図3に示すようにスルーホール51を貫くボンディングワイヤ54により電力回路41に接続している。ボンディングワイヤ54は、ペルチェモジュール20側の端部がパッド55に接続している。
【0022】
各ペルチェモジュール20の素子制御部24は、スルーホール52を貫くボンディングワイヤ56によって制御回路42のコモンライン421に接続し、スルーホール53を貫くボンディングワイヤ57によって制御回路42のセグメントライン422に接続している。同様に、各ペルチェモジュール20の温度検出部25は、スルーホール52を貫くボンディングワイヤ58によって温度検出回路43のコモンライン431に接続し、スルーホール53を貫くボンディングワイヤ59によって温度検出回路43のセグメントライン432に接続している。
【0023】
温度制御装置10は、図2に示すように各ペルチェモジュール20を総括的に制御する総括制御部12を備えている。電力回路41、制御回路42および温度検出回路43は、総括制御部12に接続している。総括制御部12は、処理装置2であらかじめ設定されているプログラムにしたがうとともに、温度検出部25で検出した各ペルチェモジュール20の温度に基づいて、各ペルチェモジュール20の温度を制御する。総括制御部12は各ペルチェモジュール20の素子制御部24に制御信号を出力し、素子制御部24は総括制御部12の制御信号に基づいてペルチェ素子21の通電方向および通電期間を制御する。素子制御部24は、電源回路41に供給される電力によりペルチェ素子21を制御する。
【0024】
素子制御部24は、図7に示すようにメモリ26を有している。メモリ26は、例えば100msec程度の期間、総括制御部12から出力された制御信号を保持するサンプルホールド機能を有している。また、素子制御部24は、通電方向および通電の断続を制御するスイッチング機能、およびパルス幅を変調するPWM機能を有している。これにより、素子制御部24は、ペルチェ素子21への通電の方向および通電期間を制御する。
【0025】
次に、上記構成による温度制御装置10の作動について説明する。
図8に示すように、処理装置2のプログラムにしたがって総括制御部12から各ペルチェモジュール20の素子制御部24には制御信号が出力される。制御信号は、時分割により総括制御部12から各ペルチェモジュール20へ例えば100msec程度の一定の周期で出力される。総括制御部12からは制御回路42のコモンライン421およびセグメントライン422を通してデータが送信される。各ペルチェモジュール20の素子制御部24は、コモンライン421を通したデータがアクティブになると、セグメントライン422からデータを受け取る。素子制御部24は、コモンライン421を通したデータが次にアクティブになるまで、セグメントライン422から受け取ったデータをメモリ26に保持する。素子制御部24がセグメントライン422から受け取るデータには、ペルチェ素子21の通電方向および通電期間が含まれている。ペルチェ素子21の通電期間は、PWMのパルス幅に対応する。
【0026】
同様に、各ペルチェモジュール20の温度検出部25からは総括制御部12へ検出信号が出力される。検出信号は、時分割により各ペルチェモジュール20から一定の周期で総括制御部12へ出力される。総括制御部12は、温度検出回路43のコモンライン431およびセグメントライン432を通して温度検出部25からのデータを受け取る。各ペルチェモジュール20の温度検出部25は、コモンライン431を通したデータがアクティブになると、セグメントライン432へ検出した温度のデータを出力する。温度検出部25は、コモンライン431を通したデータがアクティブになるごとに温度検出部25で検出した温度を検出信号として出力する。これにより、総括制御部12は、各ペルチェモジュール20の温度検出部25で検出された検出信号を受け取る。
【0027】
総括制御部12は、各ペルチェモジュール20の温度検出部25で検出された検出信号から、次の周期で各ペルチェモジュール20の素子制御部24に出力する制御信号を設定する。そして、総括制御部12は、マトリックス状に配置された複数のペルチェモジュール20へ時分割によって制御信号を出力する。各ペルチェモジュール20の素子制御部24は、総括制御部12からの制御信号に基づいて自身のペルチェモジュール20のペルチェ素子21への通電方向および通電期間を制御する。これにより、制御された温度調節部22の温度は、再び温度検出部25から総括制御部12へ出力される。その結果、総括制御部12は、時分割で得た各ペルチェモジュール20の温度から各ペルチェモジュール20を時分割によって制御する。各ペルチェモジュール20は、時分割によって制御されるため、隣接する他のペルチェモジュール20と電力回路41、制御回路42および温度検出回路43の配線を共有する。したがって、各ペルチェモジュール20と総括制御部12との間に個別に電力回路41、制御回路42および温度検出回路43を設置する必要がなく、配線を簡略化することができる。
【0028】
また、第1実施形態では、各ペルチェモジュール20は個別に制御される。したがって、各ペルチェモジュール20に接するマイクロチップ3の被温度調節部を個別に精密に制御することができる。さらに、各ペルチェモジュール20は個別に制御されるため、ペルチェモジュール20ごとに設定温度を変更することができる。その結果、マイクロチップ3によって被温度調節部の温度、位置あるいは範囲などが異なる場合でも、適用されるマイクロチップ3に応じて被温度調節部の設定の変更が容易である。したがって、汎用性を高めることができる。
【0029】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による温度制御装置を図9および図10に示す。なお、第1実施形態と実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
第2実施形態では、図9に示すようにコモンライン45は制御回路42のコモンラインと温度検出回路43のコモンラインとを兼用し、セグメントライン46は制御回路42のセグメントラインと温度検出回路43のセグメントラインとを兼用している。すなわち、第2実施形態では、コモンライン45およびセグメントライン46は、二系統のI/O制御線部を構成している。これにより、第2実施形態では、第1実施形態に比較してコモンラインおよびセグメントラインの本数が削減され、配線をさらに簡略化することができる。
【0030】
第2実施形態による温度制御装置10の作動について説明する。
図11に示すように、総括制御部12から各ペルチェモジュール20へ制御信号が出力される。制御信号は、時分割により各ペルチェモジュール20へ例えば100msec程度の一定の周期で出力される。総括制御部12からはコモンライン45およびセグメントライン46を通してデータが送受信される。総括制御部12から各ペルチェモジュール20へ出力されるコモンライン45がアクティブになると、各ペルチェモジュール20の温度検出部25がセグメントライン46へ検出信号を出力するとともに、各ペルチェモジュール20の素子制御部24はセグメントライン46からデータを受け取る。すなわち、ペルチェモジュール20がアクティブになると、温度検出部25は検出した検出信号をセグメントライン46を経由して総括制御部12へ出力する。そして、温度検出部25と素子制御部24とを接続しているIO制御信号線48を切り換えることにより、出力と入力とを切り換え、素子制御部24は総括制御部12から出力された制御信号を受け取る。素子制御部24は、コモンライン45を通したデータが次にアクティブになるまで、セグメントライン46から受け取ったデータをメモリ26に保持する。
【0031】
第2実施形態では、コモンライン45およびセグメントライン46を制御回路42と温度検出回路43とで兼用している。そのため、制御回路42および温度検出回路43の配線をさらに簡略化することができる。
【0032】
次に、上記の第1実施形態による温度制御装置10を用いた実験例について説明する。なお、以下の複数の実験例では、第1実施形態による温度制御装置10を用いた例について説明するが、第2実施形態による温度制御装置10であっても同様の実験結果を得ることができる。
【0033】
(実験例1)
実験例1では、図12に示すように8行×12列のペルチェモジュール20を備える温度制御装置10を適用する。温度制御装置10には、ペルチェモジュール20のヒートシンク11とは反対側にマイクロチップ3が搭載される。温度制御装置10の各ペルチェモジュール20は、マイクロチップ3の被温度調節部に対応している。
【0034】
実験例1では、マイクロチップ3は温度制御装置10のペルチェモジュール20に対応して8行×12列の被温度調節部を備えている。本実験例では、温度制御装置10の第1行目に対応する位置のマイクロチップ3を温度T1に制御し、温度制御装置10の第4行目に対応する位置のマイクロチップ3の温度を温度T2に制御し、温度制御装置10の第8行目に対応する位置のマイクロチップ3を温度T3に制御する。このとき、図13に示すように、第8行目の温度T3が最も高く、第2行目の温度T2が最も低い。第1行目の温度T1は、T2とT3との中間の温度である。
【0035】
第1行目の温度T1に対し第4行目の温度T2を低く設定することにより、第1行目と第4行目との間には急激な温度勾配が生じる。そのため、第1行目および第4行目の温度を制御しただけでは、第1行目および第4行目の温度を正確にT1またはT2に制御するのは困難である。そこで、実験例1では、第1行目および第4行目の温度をそれぞれT1、T2に制御するとき、隣接ペルチェモジュールである第2行目および第3行目の温度も制御する。第2行目は、第1行目の温度T1よりもやや高いT1*に設定する。また、第3行目は、第4行目の温度T2よりもやや低いT2*に設定する。これにより、第1行目は、第4行目の温度T2が低いときでも、第2行目の温度をT1*に設定することよって温度T1が低下することがない。同様に、第4行目は、第1行目の温度T1が高いときでも、第3行目の温度をT2*に設定することによって温度T2が上昇することはない。その結果、第1行目の温度T1および第4行目の温度T2は精密に制御することができる。
【0036】
また、第4行目と第8行目との間にも大きな温度差が設定されている。そこで、第4行目に隣接する隣接ペルチェモジュールである第5行目は第4行目の温度T2よりもやや低い温度T2**に設定している。第8行目に隣接する隣接ペルチェモジュールである第7行目は、第8行目の温度T3よりもやや高いT3**に設定されている。そして、第5行目と第7行目との間の第6行目は、第5行目の温度T2**と第7行目の温度T3**との間の温度T4に設定されている。これにより、第4行目と第8行目との間に大きな温度差が設定されているときでも、第4行目の温度T2および第8行目の温度T3を精密に制御することができる。
【0037】
図13に示す比較例では、温度T1、温度T2および温度T3の領域を確保するために、第1行目、第2行目および第3行目の温度をT1とし、第4行目、第5行目および第6行目の温度をT2とし、第7行目および第8行目の温度をT3とする例について示している。比較例では、第1行目と第4行目との間、および第4行目と第8行目との間に温度勾配は形成される。しかし、各領域の温度は隣接する領域の温度に影響され、全体として正確な温度T1、T2およびT3の領域を確保することはできない。
以上のように実験例1では、第1実施形態の温度制御装置10により、マイクロチップ3の被温度制御部の温度を行ごとに制御している。これにより、マイクロチップ3を所定の領域ごとに温度を高精度に制御することができる。
【0038】
(実験例2)
実験例2では、図14に示すように8行×12列のペルチェモジュール20を備える温度制御装置10を適用する。温度制御装置10には、ペルチェモジュール20のヒートシンク11とは反対側にマイクロチップ3が搭載されている。温度制御装置10の各ペルチェモジュール20は、マイクロチップ3の被温度調節部に対応している。
【0039】
実験例2では、マイクロチップ3の全体を温度Tに制御する。このとき、図15に示すように、マトリックス状に配置されているペルチェモジュール20の最外周、すなわち第1行目、第8行目、第1列目および第12列目の温度を所望する温度Tよりもやや高いT*に制御する。
例えばマイクロチップ3の全体の温度Tを室温よりも高く設定する場合、マイクロチップ3の最外周は図15の比較例に示すように室温の影響で温度Tよりもやや低くなる。そのため、マイクロチップ3の全体を温度Tに均一に設定するためには、マイクロチップ3よりも一回り大きな温度制御装置を用いる必要があり、消費電力の増大などを招く。
【0040】
第2実験例では、マイクロチップ3の最外周に対応するペルチェモジュール20の温度を温度Tよりもやや高いT*に設定する。これにより、マイクロチップ3の最外周の温度はTに制御することができる。
以上のように実験例2では、第1実施形態の温度制御装置10により、マイクロチップ3の被温度制御部の温度をペルチェモジュール20ごとに制御している。これにより、マイクロチップ3の全体の温度を高精度に制御することができる。
【0041】
(実験例3)
実験例3では、図16に示すように8行×12列のペルチェモジュール20を備える温度制御装置10を適用する。温度制御装置10には、ペルチェモジュール20のヒートシンク11とは反対側にマイクロチップ3が搭載されている。温度制御装置10の各ペルチェモジュール20は、マイクロチップ3の被温度調節部に対応している。
【0042】
実験例3では、マイクロチップ3は温度制御装置10のペルチェモジュール20に対応して8行×12列の被温度調節部を備えている。本実験例では、温度制御装置10の第4行目に対応する位置のマイクロチップ3は、温度がT1→T2→T3と変化するように制御される。このとき、温度制御装置10は、温度を制御する第4行目のペルチェモジュール20だけでなく、第4行目に隣接する隣接ペルチェモジュールである第3行目および第5行目のペルチェモジュール20の温度も制御する。
【0043】
第4行目のペルチェモジュール20をT1に設定するとき、第3行目および第5行目のペルチェモジュール20の温度もT1に制御される。これにより、第4行目は、均一かつ高精度に温度T1に制御される。第4行目の温度がT1からT2へ変化するとき、第3行目および第5行目は図17の実験例3の破線で示すように一旦T2よりも低い温度T2*に制御される。これにより、第4行目は、急速にT2へ冷却される。そして、第4行目の温度がT2に達する前に第3行目および第5行目の温度はT2に制御される。これにより、第4行目は、均一かつ高精度に温度T2に制御される。
【0044】
第4行目の温度がT2からT3へ変化するとき、第3行目および第5行目は一旦T3よりも高い温度T3*に制御される。これにより、第4行目は、急速にT3へ加熱される。そして、第4行目の温度がT3に達する前に第3行目および第5行目の温度はT3に制御される。これにより、第4行目は、均一かつ高精度に温度T3に制御される。これらの結果、第4行目の温度はT1→T2→T3へ急速かつ正確に制御される。
【0045】
これに対し、単純に第4行目のみをT1→T2→T3と変化させる比較例では、第4行目の温度を正確にT2およびT3に制御することは困難である。すなわち、第4行目では、T1からT2へ移行するとき、温度が安定する前にT3へ移行し、T2に到達しない。
以上のように実験例3では、第1実施形態の温度制御装置10により、マイクロチップ3の被温度調節部の温度をペルチェモジュール20ごとに制御している。これにより、マイクロチップ3の被温度調節部の温度を急速かつ正確に変化させることができる。
【0046】
(実験例4)
実験例4では、図18に示すように8行×12列のペルチェモジュール20を備える温度制御装置10を適用する。温度制御装置10には、ペルチェモジュール20のヒートシンク11とは反対側にマイクロチップ3が搭載されている。温度制御装置10の各ペルチェモジュール20は、マイクロチップ3の被温度調節部に対応している。
【0047】
実験例4では、マイクロチップ3は温度制御装置10のペルチェモジュール20に対応して8行×12列の被温度調節部を備えている。本実験例では、マイクロチップ3の一部を加熱し、他の一部を冷却している。すなわち、ペルチェモジュール20の第3行目から第5行目にかけて第2列目から第5列目を加熱する加熱領域Ahとし、第7列目から第10列目までを冷却する冷却領域Acとしている。
【0048】
これにより、実験例4では、マイクロチップ3は加熱領域Ahに対応する領域で吸熱反応が促進され、冷却領域Acに対応する領域で発熱反応が促進される。実験例4では、適用するマイクロチップ3に応じて温度制御装置10の加熱領域Ahおよび冷却領域Acを任意に容易に変更することができる。したがって、マイクロチップ3ごとに所定の領域を所定の温度に制御することができる。
【0049】
以上説明した複数の実施形態および実験例では、ペルチェモジュール20をマトリックス状に配置する例について説明した。しかし、ペルチェモジュール20は、マトリックス状に限らず任意の形状に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態による温度制御装置を示す図であって、(A)はマイクロチップ側から見た概略図であり、(B)は(A)のB−B線における断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態による温度制御装置を適用した温度制御システムを示す模式図である。
【図3】本発明の第1実施形態による温度制御装置のペルチェモジュールを示す拡大図であって、(A)はマイクロチップ側から見た概略図であり、(B)は(A)のB−B線における断面図である。
【図4】図1のIV−IV線における断面図である。
【図5】図1のV−V線における断面図である。
【図6】図1のVI−VI線における断面図である。
【図7】本発明の第1実施形態による温度制御装置の回路構成を示す模式図である。
【図8】本発明の第1実施形態による温度制御装置の作動のタイムチャートを示す概略図である。
【図9】本発明の第2実施形態による温度制御装置を示す図であって、(A)はマイクロチップ側から見た概略図であり、(B)は(A)のB−B線における断面図である。
【図10】本発明の第2実施形態による温度制御装置の回路構成を示す模式図である。
【図11】本発明の第2実施形態による温度制御装置の作動のタイムチャートを示す概略図である。
【図12】本発明の第1実施形態による温度制御装置を適用した実験例1を示す概略図である。
【図13】実験例1および比較例におけるペルチェモジュールの位置と温度との関係を示す概略図である。
【図14】本発明の第1実施形態による温度制御装置を適用した実験例2を示す概略図である。
【図15】実験例2および比較例におけるペルチェモジュールの位置と温度との関係を示す概略図である。
【図16】本発明の第1実施形態による温度制御装置を適用した実験例3を示す概略図である。
【図17】実験例3および比較例におけるペルチェモジュールの位置と温度との関係を示す概略図である。
【図18】本発明の第1実施形態による温度制御装置を適用した実験例4を示す概略図である。
【符号の説明】
【0051】
3 マイクロチップ、10 温度制御装置、11 ヒートシンク、12 総括制御部、20 ペルチェモジュール、21 ペルチェ素子、22 温度調節部、24 素子制御部、25 温度検出部、42 制御回路(素子制御線部)、43 温度検出回路(温度制御線部)、45 コモンライン(I/O制御線部)、46 セグメントライン(I/O制御線部)、421 コモンライン(素子制御線部)、422 セグメントライン(素子制御線部)、431 コモンライン(温度制御線部)、432 セグメントライン(温度制御線部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロチップの温度を調節する温度制御装置であって、
ペルチェ素子、および前記ペルチェ素子の熱を前記マイクロチップに伝達する温度調節部を有する複数のペルチェモジュールと、
複数の前記ペルチェモジュールにそれぞれ設置され、前記ペルチェモジュールの各ペルチェ素子の通電方向および通電期間を制御する素子制御部と、
を備える温度制御装置。
【請求項2】
前記ペルチェモジュールは、n行×m列(n≧2、m≧2)のマトリックス状に配置されている請求項1記載の温度制御装置。
【請求項3】
複数の前記ペルチェモジュールにそれぞれ設置され、前記ペルチェモジュールの各温度調節部の温度を検出する温度検出部をさらに備える請求項1または2記載の温度制御装置。
【請求項4】
複数の前記ペルチェモジュールを制御する総括制御部をさらに備える請求項1、2または3記載の温度制御装置。
【請求項5】
複数の前記ペルチェモジュールの各素子制御部と前記総括制御部とを接続する二系統の素子制御線部と、
複数の前記ペルチェモジュールの各温度検出部と前記総括制御部とを接続する二系統の温度制御線部と、
を備える請求項4記載の温度制御装置。
【請求項6】
前記ペルチェモジュール、前記素子制御線部および前記温度制御線部が設置され、前記ペルチェ素子を放熱するヒートシンクをさらに備える請求項5記載の温度制御装置。
【請求項7】
複数の前記ペルチェモジュールの各素子制御部および各温度検出部と前記総括制御部とを接続する二系統のI/O制御線部をさらに備える請求項4記載の温度制御装置。
【請求項8】
前記ペルチェモジュールおよび前記I/O制御線部が設置され、前記ペルチェ素子を放熱するヒートシンクをさらに備える請求項7記載の温度制御装置。
【請求項9】
前記総括制御部は、複数の前記ペルチェモジュールのうち温度制御を行う特定ペルチェモジュールに隣接する隣接ペルチェモジュールを、前記特定ペルチェモジュールより温度を高くまたは低く設定する請求項5から8のいずれか一項記載の温度制御装置。
【請求項10】
前記総括制御部は、複数の前記ペルチェモジュールのうち外周側のペルチェモジュールを、内周側のペルチェモジュールより温度を高くまたは低く設定する請求項5から8のいずれか一項記載の温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−79893(P2007−79893A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−266373(P2005−266373)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】