温度計
【課題】低価格で非接触方式である、据え置き型の温度計101を提供する。
【解決手段】据え置き型温度計101は、ハーフミラーの表面に赤色LEDとサーモパイルセンサが目視可能な状態で埋め込まれている。被計測者はハーフミラーに自らの顔を写す。その際、発光する赤色LEDが自らの額の中心に位置し、且つその位置がサーモパイルセンサと一致するように、ハーフミラーと被計測者自身の顔との距離を調整する。赤色LEDが額を照らす点と、サーモパイルセンサとが一致した位置が、温度計101が温度計測のために定めた位置関係である。この状態で、サーモパイルセンサは被計測者の額から発される赤外線を捕捉し、マイコンが体表面温度或は体温を算出する。
【解決手段】据え置き型温度計101は、ハーフミラーの表面に赤色LEDとサーモパイルセンサが目視可能な状態で埋め込まれている。被計測者はハーフミラーに自らの顔を写す。その際、発光する赤色LEDが自らの額の中心に位置し、且つその位置がサーモパイルセンサと一致するように、ハーフミラーと被計測者自身の顔との距離を調整する。赤色LEDが額を照らす点と、サーモパイルセンサとが一致した位置が、温度計101が温度計測のために定めた位置関係である。この状態で、サーモパイルセンサは被計測者の額から発される赤外線を捕捉し、マイコンが体表面温度或は体温を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触型の温度計に関する。
【背景技術】
【0002】
2009年4月にメキシコで確認された新型インフルエンザ(パンデミックインフルエンザA(H1N1))は、その後世界的に流行し、我が国でも2009年第28週から第51週までの累積推計患者数は約1653万人と推定されている(https://hasseidoko.mhlw.go.jp/Hasseidoko/Levelmap/flu/new_jmap.html)。
このような背景から、インフルエンザ等の感染の拡大を防ぐために、人が多く集まる公共機関や企業等の建造物の入口で、人の体温を瞬時に計測する機器のニーズが高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2000−513975号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ユニット形体表面温度チェッカ TP-U0260ET(サーモピクス愛):[2010年1月6日検索]、インターネット<URL:http://www.yamagata-chino.co.jp/product/tp-u.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ペン型の非接触形式体温計が開示されている。サーモパイルセンサを用いて、被計測者の額から約3cm程離して、体温を計測する。非接触式なので、接触に基づく病原菌等の感染の虞はないものの、医者或は看護師が被計測者に対面して操作を行う必要があるので、空気感染の可能性を払拭できない。
非特許文献1には、据え置き型の非接触形式体温計が開示されている。赤外線カメラを用いて、被計測者の顔を撮影し、額を認識した後、額の表面温度から体温を計測する。非接触式であり、且つ対面して操作を行う必要がない点で優れているが、赤外線カメラが高価である。
以上のような背景から、市場では、低価格で導入が可能な、据え置き型の体温計が求められている。
【0006】
本発明は係る課題を解決し、低価格で非接触方式である、据え置き型の温度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の温度計は、被計測者の額を映すことが可能な鏡と、鏡に設けられて被計測者の額に光を照射する発光部と、鏡の、発光部に隣接して設けられて被計測者の額の表面温度を計測する温度計測センサと、温度計測センサから得られる信号に基づいて被計測者の体表面温度或は体温を算出して温度データを出力する温度データ演算部と、温度データを表示する表示部とを具備する。
【0008】
発光部と温度計測センサを鏡と組み合わせることにより、被計測者自身が温度計と自身の顔との距離を調整することができ、温度計本体と被計測者の額との距離及び角度を容易に固定させることができる。そして、非接触且つ操作者の存在なくして、体表面温度或は体温の計測を高精度に実現できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、低価格で非接触方式である、据え置き型の温度計を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る温度計の外観斜視図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る温度計の分解斜視図である。
【図3】天板の断面図である。
【図4】本発明の第一の実施形態に係る温度計のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第一の実施形態に係る温度計のソフトウェアの機能を説明するブロック図である。
【図6】本発明の第一の実施形態に係る温度計の全体的な動作の流れを示すフローチャートである。
【図7】本発明の第一の実施形態に係る温度計の、計測処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】被計測者が温度計の天板に自らの顔を映した状態を示す図である。
【図9】被計測者と温度計との位置関係を示す概略図である。
【図10】本発明の第二の実施形態に係る温度計の外観斜視図である。
【図11】本発明の第二の実施形態に係る温度計のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の第二の実施形態に係る温度計のソフトウェアの機能を説明するブロック図である。
【図13】本発明の第二の実施形態に係る温度計の、計測処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】被計測者の頭上から被計測者と温度計を見下ろす視点で、被計測者と温度計の位置関係を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[温度計の概要]
本発明の実施形態の概要を説明する。
本実施形態に係る据え置き型の温度計は、ハーフミラーの表面に赤色LEDとサーモパイルセンサが目視可能な状態で埋め込まれている。被計測者はハーフミラーに自らの顔を写す。その際、発光する赤色LEDが自らの額の中心に位置し、且つその位置が、被計測者がハーフミラーから見えるサーモパイルセンサの位置と一致するように、ハーフミラーと被計測者自身の顔との距離を調整する。ハーフミラーに映る被計測者の顔において、赤色LEDが額を照らす点と、サーモパイルセンサとが一致した位置(図8及び図9参照)が、温度計が被計測者の体表面温度を計測するために定めた位置関係である。この状態で、サーモパイルセンサは被計測者の額から発される赤外線を捕捉し、マイコンが体表面温度或は体温を算出する。
【0012】
[第一の実施形態:温度計101の外観と内部構成]
図1は、本発明の第一の実施形態に係る温度計101の外観斜視図である。
温度計101は本体部102の天板103が鏡を形成している。本体部102は土台104によっておよそ70°の角度で傾けられている。
アクリルの天板103にはハーフミラーフィルム105が裏面に張り付けられており、鏡として機能する。また、天板103の裏面のハーフミラーフィルム105には上側に第一LCDユニット106が、下側に第二LCDユニット107が固定されている。ハーフミラーフィルム105はマジックミラーとしても周知の、アクリルやガラス等の透明な板に張り付けてハーフミラーを形成するためのフィルムであり、誘電多層膜や金属薄膜等の材料で構成される。
【0013】
ハーフミラーフィルム105を通じて、第一LCDユニット106には現在の日時と温度及び湿度が表示され、第二LCDユニット107には被計測者の体表面温度が表示される。つまり、鏡から第一LCDユニット106及び第二LCDユニット107の表示文字が浮かび上がるように見える。これは、近年の携帯電話等で見受けられる視覚的美観を奏する効果と共に、限りある装置の面積を有効に活用するための方策である。
なお、第一LCDユニット106及び第二LCDユニット107は液晶表示素子に表示される文字の表示を照らすためのバックライトLEDを内蔵している。
【0014】
天板103の、第一LCDユニット106の下側には、発光部ともいえる赤色LEDユニット108の発光開口部109が設けられている。
天板103の、赤色LEDユニット108の発光開口部109の下側には、温度計測センサともいえるサーモパイルセンサユニット110の赤外線受光開口部111が設けられている。
本体部102の側面には電源スイッチ112と、日時較正のための押ボタンスイッチ113が設けられている。
【0015】
図2は温度計101の分解斜視図である。
天板103は透明のアクリル板202と、その裏に張り付けられたハーフミラーフィルム105と、後述する部品を固定するための固定板203で構成される。
アクリル板202には発光開口部109と赤外線受光開口部111が設けられている。
固定板203には発光開口部109と赤外線受光開口部111に加えて、第一LCDユニット106が嵌め込まれる第一LCD開口部204と、第二LCDユニット107が嵌め込まれる第二LCD開口部205が設けられている。
赤色LEDユニット108とサーモパイルセンサユニット110は、アクリル板202と固定板203を貫通して固定される。
【0016】
第一LCDユニット106は第一LCD開口部204に、第二LCDユニット107は第二LCD開口部205に固定され、アクリル板202の裏面に張り付けられたハーフミラーフィルム105と密着する。
赤色LEDユニット108、サーモパイルセンサユニット110、第一LCDユニット106及び第二LCDユニット107は基板206に接続される。
基板206には図示しないマイコンを中心とする回路の他に、湿度センサ207が設けられている。
また、基板206が固定される本体裏ケース208には音声伝達部ともいえるスピーカ209が張り付けられており、スピーカ209は基板206と接続されている。
【0017】
図3(a)及び(b)は、天板103の断面図である。図3は、図1のa−a’の矢印方向に見た状態を示す。
図3(a)は、天板103全体の断面図であり、図3(b)は赤色LEDユニット108とサーモパイルセンサユニット110のみを拡大した断面図である。
前述の図2で説明したように、赤色LEDユニット108とサーモパイルセンサユニット110は、アクリル板202と固定板203を貫通して固定される。赤色LEDユニット108とサーモパイルセンサユニット110は、それぞれ角度を伴って固定される。
【0018】
赤色LEDユニット108は、赤色LED素子302と集光レンズ303aとカバー307aが筒304に収められている。赤色LED素子302の光は集光レンズ303aで集光され、およそ20cm程度離れた被計測者の額の表面で焦点を結ぶように構成される。赤色LEDユニット108は、天板103の鉛直線に対しておよそ16.7°下方へ傾けられている。
【0019】
サーモパイルセンサユニット110は、サーモパイルセンサ305と集光レンズ303bとカバー307bが筒306に収められている。およそ20cm程度離れた被計測者の額から発される赤外線は集光レンズ303bで集光され、サーモパイルセンサ305で焦点を結ぶように構成される。サーモパイルセンサユニット110は、天板103の鉛直線に対しておよそ4.3°上方へ傾けられている。
【0020】
赤色LEDユニット108とサーモパイルセンサユニット110との間の距離は、7.5cmである。この距離、そして前述の赤色LEDユニット108とサーモパイルセンサユニット110のそれぞれに設けられた角度は、被計測者が温度計101から約20cmの距離に位置した際に、赤色LEDユニット108の発光点が被計測者の額に当たり、更に被計測者の目から鏡(天板103)に映る自らの顔の額に位置する場所にサーモパイルセンサユニット110が発光点と重なっている状態を想定している。これらの位置関係については図8及び図9で詳述する。
【0021】
図4は温度計101のハードウェア構成を示すブロック図である。
温度計101は周知のマイコンを中心として構成される。バス402には周知のCPU403、ROM404、RAM405が接続される他、LCD表示部406、LCD表示部406を照射するバックライトLED407、赤色LED素子302、オーディオインターフェース408、そしてA/D変換器410が接続されている。なお、LCD表示部406は図1乃至図3で説明した第一LCDユニット106及び第二LCDユニット107を示す。また、図4には明記していないが、第一LCDユニット106に表示する日時データを取得するためのリアルタイムクロックがバス402に接続されている。
【0022】
サーモパイルセンサ305は赤外線センサ411と基準温度センサ412の複合体であり、アナログ回路の温度信号生成部413に接続される。温度信号生成部413の出力信号がA/D変換器410に供給される。また、温度信号生成部413はバス402を通じて電源供給の制御が行われる。
一般的に、サーモパイルセンサは対象物の温度と周囲の温度との差分を出力するので、対象物の温度を計測するためには赤外線センサ411の出力信号に対して基準温度センサ412の出力信号を加算する必要がある。このための加算回路を含む増幅回路が、温度信号生成部413である。
一方、湿度センサ207の出力信号もA/D変換器410に供給される。
【0023】
オーディオインターフェース408は、温度計101が体表面温度を計測する状態になった際に、被計測者に対して使用の案内や計測結果に応じたメッセージを、スピーカ209を通じて発声する。このための音声データがROM404に格納されている。
【0024】
図5は温度計101のソフトウェアの機能を説明するブロック図である。
ROM404に格納されたプログラムは、CPU403とRAM405によって動作モード制御部502と温度データ演算部503と間欠制御部504として機能する。
温度信号生成部413から出力されるアナログの温度電圧信号は、A/D変換器410によってデジタルデータに変換され、温度データ演算部503に入力される。
【0025】
温度データ演算部503は、サーモパイルセンサ305のデータを連続的に取得してRAM405に保持する。RAM405は周知のリングバッファを構成する。
この、リングバッファに格納されたサーモパイルセンサ305のデータが31℃以上で、且つ予め定められた数のサンプルデータの温度変動範囲が、予め定められた変動許容値に収まっていれば、そのサンプルデータを有効な値とする。そして、その有効サンプルデータの全平均値を計測した体表面温度として決定し、LED表示部(第二LCDユニット107)に表示する。
【0026】
サンプルデータの「予め定められた数」は、計測時間とサンプリング周波数で決まる。例えば、計測時間を0.5秒、サンプリング周波数を1kHzとするならば、サンプルデータの数は500サンプルとなる。リングバッファにはこのサンプル数の倍以上のサンプル数を格納できるだけの容量を備えることが望ましい。
変動許容値は、温度計101に被計測者が近づいてきて、温度計101の前に静止した状態に至るまでの温度計測値の傾向(トレンド)に基づいて、決定する。全500サンプルのデータの温度変動範囲として、例えば0.3℃とする。
【0027】
ところで、本発明の第一の実施形態の温度計101は、被計測者が近づいたら動作するように構成される。つまり、被計測者が温度計101の前にいない時は、動作する必要がないので、電力消費を極力削減することが望ましい。
図4に示したブロック図から、CPU403を中心とするマイコンよりも、オペアンプで構成される温度信号生成部413と、A/D変換器410で、多くの電力を消費する傾向がある。そこで、非計測時(以下「パワーセーブモード」と呼ぶ。また計測時の状態を「計測モード」と呼ぶ。)は被計測者の有無を検出するだけの間欠動作にする。
例えば1秒に1kHzのサンプリング周波数で10サンプル程度のデータを取り込むための間欠的な電力供給をオペアンプに与えると共に、A/D変換器410に出力ビット数を抑えることで消費電力を抑える低消費電力モードがあればこれを指定し、且つオペアンプと共に動作する間欠動作を行わせる。このような動作を実現するのが、間欠制御部504である。また、パワーセーブモードの時にはLCD表示部406及びバックライトLED407、そして額を照らすための赤色LED素子302には電力供給をしない。
【0028】
つまり、パワーセーブモードでは、サーモパイルセンサ305は人感センサとして機能する。パワーセーブモードでは、サーモパイルセンサ305を人感センサとして機能させるために、赤外線センサ411の出力信号と基準温度センサ412の出力信号との差が予め定めた温度差を超えたか否かを検出するとよい。或は、予め定めた基準温度として例えば33℃を設定し、これを超えたら人の存在を検出したと判断してもよい。
【0029】
被計測者が近づいたことを、温度データ演算部503を通じて動作モード制御部502が検出すると、動作モード制御部502はパワーセーブモードから計測モードに動作を切り替える。
動作モード制御部502が間欠制御部504に連続的な動作を命じると、間欠制御部504は温度信号生成部413及びA/D変換器410に連続的な電力供給を行い、A/D変換器410も計測モードに切り替えられる。これと共に、動作モード制御部502は額を照らすための赤色LED素子302及びLCD表示部406のバックライトLED407を発光させる。
【0030】
[第一の実施形態:温度計101の計測動作]
図6は温度計101の全体的な動作の流れを示すフローチャートである。
処理を開始すると(S601)、動作モード制御部502は最初に基準温度センサ412を通じて温度計101周囲の気温を計測する等の初期化動作を行う(S602)。
次に、動作モード制御部502は一旦パワーセーブモードに入る(S603)。このパワーセーブモードでは、具体的には赤色LED素子302を消灯し、間欠制御部504を通じて温度信号生成部413(アナログ回路)及びA/D変換器410を間欠動作させ、A/D変換器410を省電力モードに設定し、LCD表示部406をオフ制御し、バックライトLED407を消灯する。
【0031】
これ以降はループ処理である。
動作モード制御部502は、温度データ演算部503を通じて人(被計測者)が近づいたか否かを確認する(S604)。もし人の存在を認識したら(S604のYES)、計測処理を実行し(S605)、再び人の存在を確認する(S604)。
ステップS604で、人が存在しないことを認識したら(S604のNO)、動作モード制御部502は次に直前の計測終了時点から第一の所定時間が経過したか否かを確認する(S606)。この「第一の所定時間」とは、計測モードからパワーセーブモードに移行するためのタイムアウトとなる時間である。例えば30秒である。
ステップS606で第一の所定時間が経過していなければ(S606のNO)、再び人の存在を確認する(S604)。
【0032】
ステップS606で第一の所定時間が経過していれば(S606のYES)、動作モード制御部502は次に直前の初期化処理を実行した時点から第二の所定時間が経過したか否かを確認する(S607)。この「第二の所定時間」とは、温度計101が周囲の気温を確認して較正する等、定期的に初期化処理を行うための時間である。例えば5分である。
ステップS607で第二の所定時間が経過していなければ(S607のNO)、動作モード制御部502はパワーセーブモードを実行する(S603)。
ステップS607で第二の所定時間が経過していれば(S607のYES)、動作モード制御部502は一連の処理を終了する(S608)。そして、一連の処理は常にループしているので、再度ステップS601から処理が開始され、結果的に第二の所定時間が経過する度に初期化処理(S602)が実行されることとなる。
【0033】
図7は計測処理の流れを示すフローチャートである。図6のステップS605の中身である。
処理を開始すると(S701)、動作モード制御部502は最初に動作モードをパワーセーブモードから計測モードに切り替える(S702)。この計測モードでは、具体的には赤色LED素子302を点灯し、間欠制御部504を通じて温度信号生成部413(アナログ回路)及びA/D変換器410を連続動作させ、A/D変換器410を通常動作モードに設定し、LCD表示部406をオン制御し、バックライトLED407を点灯する。つまり、図6のステップS603の逆の動作となる。
【0034】
次に、動作モード制御部502は温度データ演算部503を制御して、温度データ演算部503が演算したデータをリングバッファに記録させる(S703)。
そして、温度データ演算部503はリングバッファ内のデータを検証する。前述の図5において説明したように、リングバッファに格納された、予め定められた数のサンプルデータの平均値が31℃以上で、且つその温度変動範囲(上限値−下限値)が、予め定められた変動許容値(閾値)である0.3℃に収まっているか否かを確認する(S704)。確認の結果、条件を満たしていなければ(S704のNO)、再度ステップS703に戻って、データの取り込み(S703)と演算(S704)を繰り返す。
確認の結果、条件を満たしていれば(S704のYES)、温度データ演算部503はその平均値を計測値としてRAM405に書き出し(S705)、その値を第二LCDに表示して(S706)、一連の処理を終了する(S707)。
【0035】
[第一の実施形態:温度計101と被計測者との位置関係]
図8は、被計測者が温度計101の天板103に自らの顔を映した状態を示す図である。
図9は、被計測者と温度計101との位置関係を示す概略図である。
図8及び図9に示すように、本発明の第一の実施形態の温度計101の最大の特徴は、被計測者901が鏡に自らの顔を映しながら、赤色LEDユニット108の発光点を自らの額に当てつつ、その発光点と鏡に埋め込まれているサーモパイルセンサユニット110と合わせ込むことで、温度計101本体と被計測者901の額との距離及び角度を容易に固定させることができる点にある。
【0036】
図8に示す状態は、図9に示す正規位置P902に被計測者901がいる状態である。被計測者901の目からは、鏡(温度計101の天板103)の向こう側にいる自分(仮想映像V903)を見ていることとなるが、その際、被計測者901の目線が仮想映像V903の額を見上げると、そこにサーモパイルセンサユニット110が存在しているので、ちょうど額にサーモパイルセンサユニット110が重なって見えることとなる。一方、赤色LEDユニット108から照射される光は、被計測者901の額を照らす。この、ちょうど仮想映像V903の額と一致する状態の位置が、正規位置P902である。
【0037】
一方、被計測者901が正規位置P902から鏡に向かって近づいてしまう(位置P904)と、赤色LEDユニット108から照射される光の照射点は、仮想映像V903上の被計測者901の額に見えるサーモパイルセンサユニット110の位置より上へ外れてしまう。
逆に、被計測者901が正規位置P902から鏡に向かって遠ざかってしまう(位置P905)と、赤色LEDユニット108から照射される光の照射点は、仮想映像V903上の被計測者901の額に見えるサーモパイルセンサユニット110の位置より下へ外れてしまう。
【0038】
被計測者901は図9に示したように、温度計101と自身の顔との距離を、鏡に映る額と、赤色LEDユニット108から照射される光の照射点と、サーモパイルセンサユニット110とを合わせ込むように調整することで、温度計101本体と被計測者901の額との距離及び角度を容易に固定させることができる。
一旦、温度計101本体と被計測者901の額との距離及び角度が固定されれば、サーモパイルセンサ305を用いた体表面温度の計測は高精度に実現できる。
【0039】
以上に説明したことから、本発明の第一の実施形態の温度計101の天板103が形成する鏡は、最低限、被計測者901の額を映すに必要な面積を備えている必要がある。一般的な成人の顔の大きさに基づいて設計すると、最低でも横幅は10cm、縦は7cm程度の大きさが求められる。望ましくは、顔全体を映すことができる面積として、横幅を20cm、縦を30cm程度、又はこれ以上の大きさにすることが望ましい。
【0040】
[第二の実施形態:温度計1001の外観と内部構成]
図10は、本発明の第二の実施形態に係る温度計1001の外観斜視図である。
温度計1001の、第一の実施形態の温度計101と同一の構成要素は、同一の符号を付して説明を省略する。
温度計1001の、外観上における第一の実施形態の温度計101と違う点は、(a)温度計101ではサーモパイルセンサユニット110の直上に設けられていた赤色LEDユニット1008が、温度計1001ではサーモパイルセンサユニット110の左側に設けられていることと、(b)新たに距離センサ1002が設けられていることである。
距離測定部ともいえる距離センサ1002は、第一LCDユニット106及び第二LCDユニット107と同様に、天板103の裏に固定されている。
距離センサ1002は、赤外線LED、フォトダイオード、そして信号処理回路を内蔵する、周知の三角測量方式を用いる距離計測装置であり、距離を計測した結果をアナログ電圧信号で出力する。
【0041】
図11は温度計1001のハードウェア構成を示すブロック図である。
図11においても図10と同様に、温度計1001の、第一の実施形態の温度計101と同一の構成要素は、同一の符号を付して説明を省略する。
図11中、図4のブロック図との相違点は、距離センサ1002がA/D変換器410に接続されていることである。
【0042】
図12は温度計1001のソフトウェアの機能を説明するブロック図である。
図12においても図10及び図11と同様に、温度計1001の、第一の実施形態の温度計101と同一の構成要素は、同一の符号を付して説明を省略する。
図12中、図5のブロック図との相違点は、(a)A/D変換器410が時分割で動作するので、温度信号生成部413の出力信号を処理するA/D変換器410aと、距離センサ1002が出力する距離計測信号を処理するA/D変換器410bに分けて示されていることと、(b)距離センサ1002がA/D変換器410bを通じて動作モード制御部502に接続されていることである。
【0043】
本発明の第二の実施形態の温度計1001も、本発明の第一の実施形態の温度計101と同様に、被計測者が近づいたら動作するように構成される。つまり、被計測者が温度計1001の前にいない時は、温度計測の動作をする必要がないので、電力消費を極力削減することが望ましい。
そこで温度計1001は、パワーセーブモードにおいて、サーモパイルセンサ305のうち気温を計測する基準温度センサ412を通じて気温を計測するための間欠動作と、距離センサ1002を通じて被計測者の有無を検出する動作を行う。
実際にはA/D変換器410は時分割で動作するので、A/D変換器410は、基準温度センサ412を通じて温度信号生成部413が出力する気温計測信号と、距離センサ1002が出力する距離計測信号を時分割で変換する。
動作モード制御部502は、A/D変換器410bから得られる、距離センサ1002の距離計測信号に基づく距離計測情報を受け取る。距離センサ1002が例えば60cm以内の範囲に人体を検出すると、動作モード制御部502は距離計測情報が60cmに相当する閾値の範囲内に入ったことを認識することで、温度計1001から60cmの範囲内に人体が存在することを認識する。そして、動作モード制御部502は間欠制御部504を制御し、これによって温度計1001は計測モードに復帰する。
つまり、温度計1001は、サーモパイルセンサ305を人感センサとして機能させる温度計101と異なり、専用の人感センサとして距離センサ1002を備えている。
【0044】
被計測者が近づいたことを、A/D変換器410bを通じて動作モード制御部502が検出すると、動作モード制御部502はパワーセーブモードから計測モードに動作を切り替える。
動作モード制御部502が間欠制御部504に連続的な動作を命じると、間欠制御部504は温度信号生成部413及びA/D変換器410aに連続的な電力供給を行い、A/D変換器410aも計測モードに切り替えられる。これと共に、動作モード制御部502は額を照らすための赤色LED素子302及びLCD表示部406のバックライトLED407を発光させる。
【0045】
更に、距離センサ1002からA/D変換器410bを通じて得られる、温度計1001と被計測者との距離を示す距離データが、例えば30cm±2cmの範囲であれば、動作モード制御部502は温度データ演算部503に温度の演算を指示する。
つまり、距離センサ1002は、パワーセーブモードと計測モードの切り替えを指示する情報と、計測動作のトリガを指示する情報を出力する。
なお、測定距離が30cm+2cm以上離れていたり、30cm−2cmより近づきすぎていたりした場合は、赤色LED素子302を点灯しない代わりに、被計測者に距離合わせを促すメッセージをLCD表示部406に表示させることで、被計測者の距離合わせを補助することができる。
【0046】
第二の実施形態の温度計1001の計測動作は、一部を除いて第一の実施形態の温度計101と同一である。
図13は計測処理の流れを示すフローチャートである。図6のステップS605の中身である。
図13に示す計測処理の、第一の実施形態の温度計101に係る図7の計測処理との相違点は、ステップS702とステップS703との間に、距離センサ1002から得られる、温度計1001と被計測者との距離が、30cm±2cmの範囲内に収まっているか否かを確認するステップS1301が追加されている点である。
【0047】
[第二の実施形態:温度計1001と被計測者との位置関係]
図14は、被計測者901の頭上から被計測者901と温度計1001を見下ろす視点で、被計測者901と温度計1001の位置関係を示す概略図である。
温度計1001は、第一の実施形態の温度計101の、赤色LEDユニット108とサーモパイルセンサユニット110の位置関係が横になったものと解することができる。
正規位置P1402に被計測者1401がいる状態において、被計測者1401の視点からは、鏡(温度計1001の天板103)の向こう側にいる自分(仮想映像V1403)を見ていることとなるが、その際、被計測者1401の目線が仮想映像V1403の額を見ると、そこにサーモパイルセンサユニット110が存在しているので、ちょうど額にサーモパイルセンサユニット110が重なって見えることとなる。一方、赤色LEDユニット108から照射される光は、被計測者1401の額を照らす(点P1310)。この、ちょうど仮想映像V1403の額と一致する状態の位置が、正規位置P1402である。
【0048】
一方、被計測者1401が正規位置P1402から鏡に向かって近づいてしまうと(位置P1404)、赤色LEDユニット108から照射される光の照射点は、仮想映像V1403上の被計測者1401の額に見えるサーモパイルセンサユニット110の位置より左側の点P1405へ外れてしまう。
逆に、被計測者1401が正規位置P1402から鏡に向かって遠ざかってしまうと(位置P1406)、赤色LEDユニット108から照射される光の照射点は、仮想映像V1403上の被計測者1401の額に見えるサーモパイルセンサユニット110の位置より右側の点P1407へ外れてしまう。
【0049】
被計測者1401は図9に示したように、温度計1001と自身の顔との距離を、鏡に映る額と、赤色LEDユニット108から照射される光の照射点と、サーモパイルセンサユニット110とを合わせ込むように調整することで、温度計1001本体と被計測者1401の額との距離を容易に固定させることができる。
一旦、温度計1001本体と被計測者1401の額との距離が固定されれば、サーモパイルセンサ305を用いた体表面温度の計測は高精度に実現できる。
【0050】
本実施形態は以下のような応用が可能である。
(1)計測開始スイッチを設けて、動作モード制御部502に対して明示的にパワーセーブモードから計測モードへの移行を指示することもできる。
【0051】
(2)図7の点線で囲まれるステップS704及びS705の処理は、被計測者の体表面温度を計測するための、アルゴリズムの一例である。ステップS704及びS705に限らず、例えばリングバッファ内のデータの平均と分散を求めて、分散が所定の閾値を下回った時に平均値を出力する他、所定時間内に平均値を所定回数取得し、それら複数の平均値の平均値を出力する等、様々なアルゴリズムが適用可能である。
【0052】
(3)サーモパイルセンサユニット110の赤外線集光手段は、集光レンズ303bに限らず、例えば細長い穴でもよい。
【0053】
(4)天板103は鏡として機能すればよいので、必ずしもハーフミラーでなくてもよい。
【0054】
(5)温度データ演算部503は、測定した体表面温度から体温を算出してもよい。この場合、温度計101又は温度計1001は体温計となる。
【0055】
(6)体表面温度或は体温をLCD表示部406で表示する代わりに、体表面温度或は体温を音声合成で読み上げることもできる。
また、体表面温度或は体温の具体的な数値の表示の代わりに、熱がある(例えば37℃以上)ならLED等の発光体を赤色に発光させ、平熱である(例えば37℃未満)なら発光体を青色に発光させる、という表示態様を採用することもできる。
【0056】
(7)サーモパイルセンサ305はレンズを搭載したサーモパイルセンサであってもよい。この場合、図3の集光レンズ303bは不要になる。
【0057】
本実施形態では非接触型の温度計を開示した。
安価なサーモパイルセンサを鏡と組み合わせることにより、被計測者自身が温度計と自身の顔との距離を調整することができ、温度計と被計測者の額との距離を容易に固定させることができる。そして、非接触且つ操作者の存在なくして、体表面温度の計測を高精度に実現できる。
また、本実施形態の温度計は、被計測者の体表面温度或は体温を計測するためのサーモパイルセンサ305を、パワーセーブモードでは人感センサとして兼用することもできる。
【0058】
以上、本発明の実施形態例について説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
【符号の説明】
【0059】
101…温度計、102…本体部、103…天板、104…土台、105…ハーフミラーフィルム、106…第一LCDユニット、107…第二LCDユニット、108…赤色LEDユニット、109…発光開口部、110…サーモパイルセンサユニット、111…赤外線受光開口部、112…電源スイッチ、113…押ボタンスイッチ、202…アクリル板、203…固定板、204…第一LCD開口部、205…第二LCD開口部、206…基板、207…湿度センサ、208…本体裏ケース、209…スピーカ、302…赤色LED素子、303a…集光レンズ、303b…集光レンズ、304…筒、305…サーモパイルセンサ、306…筒、307a…カバー、307b…カバー、402…バス、403…CPU、404…ROM、405…RAM、406…LCD表示部、407…バックライトLED、408…オーディオインターフェース、410…A/D変換器、410a…A/D変換器、410b…A/D変換器、411…赤外線センサ、412…基準温度センサ、413…温度信号生成部、500…全、502…動作モード制御部、503…温度データ演算部、504…間欠制御部、901…被計測者、1001…温度計、1002…距離センサ、1008…赤色LEDユニット、1401…被計測者
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触型の温度計に関する。
【背景技術】
【0002】
2009年4月にメキシコで確認された新型インフルエンザ(パンデミックインフルエンザA(H1N1))は、その後世界的に流行し、我が国でも2009年第28週から第51週までの累積推計患者数は約1653万人と推定されている(https://hasseidoko.mhlw.go.jp/Hasseidoko/Levelmap/flu/new_jmap.html)。
このような背景から、インフルエンザ等の感染の拡大を防ぐために、人が多く集まる公共機関や企業等の建造物の入口で、人の体温を瞬時に計測する機器のニーズが高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2000−513975号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ユニット形体表面温度チェッカ TP-U0260ET(サーモピクス愛):[2010年1月6日検索]、インターネット<URL:http://www.yamagata-chino.co.jp/product/tp-u.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ペン型の非接触形式体温計が開示されている。サーモパイルセンサを用いて、被計測者の額から約3cm程離して、体温を計測する。非接触式なので、接触に基づく病原菌等の感染の虞はないものの、医者或は看護師が被計測者に対面して操作を行う必要があるので、空気感染の可能性を払拭できない。
非特許文献1には、据え置き型の非接触形式体温計が開示されている。赤外線カメラを用いて、被計測者の顔を撮影し、額を認識した後、額の表面温度から体温を計測する。非接触式であり、且つ対面して操作を行う必要がない点で優れているが、赤外線カメラが高価である。
以上のような背景から、市場では、低価格で導入が可能な、据え置き型の体温計が求められている。
【0006】
本発明は係る課題を解決し、低価格で非接触方式である、据え置き型の温度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の温度計は、被計測者の額を映すことが可能な鏡と、鏡に設けられて被計測者の額に光を照射する発光部と、鏡の、発光部に隣接して設けられて被計測者の額の表面温度を計測する温度計測センサと、温度計測センサから得られる信号に基づいて被計測者の体表面温度或は体温を算出して温度データを出力する温度データ演算部と、温度データを表示する表示部とを具備する。
【0008】
発光部と温度計測センサを鏡と組み合わせることにより、被計測者自身が温度計と自身の顔との距離を調整することができ、温度計本体と被計測者の額との距離及び角度を容易に固定させることができる。そして、非接触且つ操作者の存在なくして、体表面温度或は体温の計測を高精度に実現できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、低価格で非接触方式である、据え置き型の温度計を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る温度計の外観斜視図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る温度計の分解斜視図である。
【図3】天板の断面図である。
【図4】本発明の第一の実施形態に係る温度計のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第一の実施形態に係る温度計のソフトウェアの機能を説明するブロック図である。
【図6】本発明の第一の実施形態に係る温度計の全体的な動作の流れを示すフローチャートである。
【図7】本発明の第一の実施形態に係る温度計の、計測処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】被計測者が温度計の天板に自らの顔を映した状態を示す図である。
【図9】被計測者と温度計との位置関係を示す概略図である。
【図10】本発明の第二の実施形態に係る温度計の外観斜視図である。
【図11】本発明の第二の実施形態に係る温度計のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の第二の実施形態に係る温度計のソフトウェアの機能を説明するブロック図である。
【図13】本発明の第二の実施形態に係る温度計の、計測処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】被計測者の頭上から被計測者と温度計を見下ろす視点で、被計測者と温度計の位置関係を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[温度計の概要]
本発明の実施形態の概要を説明する。
本実施形態に係る据え置き型の温度計は、ハーフミラーの表面に赤色LEDとサーモパイルセンサが目視可能な状態で埋め込まれている。被計測者はハーフミラーに自らの顔を写す。その際、発光する赤色LEDが自らの額の中心に位置し、且つその位置が、被計測者がハーフミラーから見えるサーモパイルセンサの位置と一致するように、ハーフミラーと被計測者自身の顔との距離を調整する。ハーフミラーに映る被計測者の顔において、赤色LEDが額を照らす点と、サーモパイルセンサとが一致した位置(図8及び図9参照)が、温度計が被計測者の体表面温度を計測するために定めた位置関係である。この状態で、サーモパイルセンサは被計測者の額から発される赤外線を捕捉し、マイコンが体表面温度或は体温を算出する。
【0012】
[第一の実施形態:温度計101の外観と内部構成]
図1は、本発明の第一の実施形態に係る温度計101の外観斜視図である。
温度計101は本体部102の天板103が鏡を形成している。本体部102は土台104によっておよそ70°の角度で傾けられている。
アクリルの天板103にはハーフミラーフィルム105が裏面に張り付けられており、鏡として機能する。また、天板103の裏面のハーフミラーフィルム105には上側に第一LCDユニット106が、下側に第二LCDユニット107が固定されている。ハーフミラーフィルム105はマジックミラーとしても周知の、アクリルやガラス等の透明な板に張り付けてハーフミラーを形成するためのフィルムであり、誘電多層膜や金属薄膜等の材料で構成される。
【0013】
ハーフミラーフィルム105を通じて、第一LCDユニット106には現在の日時と温度及び湿度が表示され、第二LCDユニット107には被計測者の体表面温度が表示される。つまり、鏡から第一LCDユニット106及び第二LCDユニット107の表示文字が浮かび上がるように見える。これは、近年の携帯電話等で見受けられる視覚的美観を奏する効果と共に、限りある装置の面積を有効に活用するための方策である。
なお、第一LCDユニット106及び第二LCDユニット107は液晶表示素子に表示される文字の表示を照らすためのバックライトLEDを内蔵している。
【0014】
天板103の、第一LCDユニット106の下側には、発光部ともいえる赤色LEDユニット108の発光開口部109が設けられている。
天板103の、赤色LEDユニット108の発光開口部109の下側には、温度計測センサともいえるサーモパイルセンサユニット110の赤外線受光開口部111が設けられている。
本体部102の側面には電源スイッチ112と、日時較正のための押ボタンスイッチ113が設けられている。
【0015】
図2は温度計101の分解斜視図である。
天板103は透明のアクリル板202と、その裏に張り付けられたハーフミラーフィルム105と、後述する部品を固定するための固定板203で構成される。
アクリル板202には発光開口部109と赤外線受光開口部111が設けられている。
固定板203には発光開口部109と赤外線受光開口部111に加えて、第一LCDユニット106が嵌め込まれる第一LCD開口部204と、第二LCDユニット107が嵌め込まれる第二LCD開口部205が設けられている。
赤色LEDユニット108とサーモパイルセンサユニット110は、アクリル板202と固定板203を貫通して固定される。
【0016】
第一LCDユニット106は第一LCD開口部204に、第二LCDユニット107は第二LCD開口部205に固定され、アクリル板202の裏面に張り付けられたハーフミラーフィルム105と密着する。
赤色LEDユニット108、サーモパイルセンサユニット110、第一LCDユニット106及び第二LCDユニット107は基板206に接続される。
基板206には図示しないマイコンを中心とする回路の他に、湿度センサ207が設けられている。
また、基板206が固定される本体裏ケース208には音声伝達部ともいえるスピーカ209が張り付けられており、スピーカ209は基板206と接続されている。
【0017】
図3(a)及び(b)は、天板103の断面図である。図3は、図1のa−a’の矢印方向に見た状態を示す。
図3(a)は、天板103全体の断面図であり、図3(b)は赤色LEDユニット108とサーモパイルセンサユニット110のみを拡大した断面図である。
前述の図2で説明したように、赤色LEDユニット108とサーモパイルセンサユニット110は、アクリル板202と固定板203を貫通して固定される。赤色LEDユニット108とサーモパイルセンサユニット110は、それぞれ角度を伴って固定される。
【0018】
赤色LEDユニット108は、赤色LED素子302と集光レンズ303aとカバー307aが筒304に収められている。赤色LED素子302の光は集光レンズ303aで集光され、およそ20cm程度離れた被計測者の額の表面で焦点を結ぶように構成される。赤色LEDユニット108は、天板103の鉛直線に対しておよそ16.7°下方へ傾けられている。
【0019】
サーモパイルセンサユニット110は、サーモパイルセンサ305と集光レンズ303bとカバー307bが筒306に収められている。およそ20cm程度離れた被計測者の額から発される赤外線は集光レンズ303bで集光され、サーモパイルセンサ305で焦点を結ぶように構成される。サーモパイルセンサユニット110は、天板103の鉛直線に対しておよそ4.3°上方へ傾けられている。
【0020】
赤色LEDユニット108とサーモパイルセンサユニット110との間の距離は、7.5cmである。この距離、そして前述の赤色LEDユニット108とサーモパイルセンサユニット110のそれぞれに設けられた角度は、被計測者が温度計101から約20cmの距離に位置した際に、赤色LEDユニット108の発光点が被計測者の額に当たり、更に被計測者の目から鏡(天板103)に映る自らの顔の額に位置する場所にサーモパイルセンサユニット110が発光点と重なっている状態を想定している。これらの位置関係については図8及び図9で詳述する。
【0021】
図4は温度計101のハードウェア構成を示すブロック図である。
温度計101は周知のマイコンを中心として構成される。バス402には周知のCPU403、ROM404、RAM405が接続される他、LCD表示部406、LCD表示部406を照射するバックライトLED407、赤色LED素子302、オーディオインターフェース408、そしてA/D変換器410が接続されている。なお、LCD表示部406は図1乃至図3で説明した第一LCDユニット106及び第二LCDユニット107を示す。また、図4には明記していないが、第一LCDユニット106に表示する日時データを取得するためのリアルタイムクロックがバス402に接続されている。
【0022】
サーモパイルセンサ305は赤外線センサ411と基準温度センサ412の複合体であり、アナログ回路の温度信号生成部413に接続される。温度信号生成部413の出力信号がA/D変換器410に供給される。また、温度信号生成部413はバス402を通じて電源供給の制御が行われる。
一般的に、サーモパイルセンサは対象物の温度と周囲の温度との差分を出力するので、対象物の温度を計測するためには赤外線センサ411の出力信号に対して基準温度センサ412の出力信号を加算する必要がある。このための加算回路を含む増幅回路が、温度信号生成部413である。
一方、湿度センサ207の出力信号もA/D変換器410に供給される。
【0023】
オーディオインターフェース408は、温度計101が体表面温度を計測する状態になった際に、被計測者に対して使用の案内や計測結果に応じたメッセージを、スピーカ209を通じて発声する。このための音声データがROM404に格納されている。
【0024】
図5は温度計101のソフトウェアの機能を説明するブロック図である。
ROM404に格納されたプログラムは、CPU403とRAM405によって動作モード制御部502と温度データ演算部503と間欠制御部504として機能する。
温度信号生成部413から出力されるアナログの温度電圧信号は、A/D変換器410によってデジタルデータに変換され、温度データ演算部503に入力される。
【0025】
温度データ演算部503は、サーモパイルセンサ305のデータを連続的に取得してRAM405に保持する。RAM405は周知のリングバッファを構成する。
この、リングバッファに格納されたサーモパイルセンサ305のデータが31℃以上で、且つ予め定められた数のサンプルデータの温度変動範囲が、予め定められた変動許容値に収まっていれば、そのサンプルデータを有効な値とする。そして、その有効サンプルデータの全平均値を計測した体表面温度として決定し、LED表示部(第二LCDユニット107)に表示する。
【0026】
サンプルデータの「予め定められた数」は、計測時間とサンプリング周波数で決まる。例えば、計測時間を0.5秒、サンプリング周波数を1kHzとするならば、サンプルデータの数は500サンプルとなる。リングバッファにはこのサンプル数の倍以上のサンプル数を格納できるだけの容量を備えることが望ましい。
変動許容値は、温度計101に被計測者が近づいてきて、温度計101の前に静止した状態に至るまでの温度計測値の傾向(トレンド)に基づいて、決定する。全500サンプルのデータの温度変動範囲として、例えば0.3℃とする。
【0027】
ところで、本発明の第一の実施形態の温度計101は、被計測者が近づいたら動作するように構成される。つまり、被計測者が温度計101の前にいない時は、動作する必要がないので、電力消費を極力削減することが望ましい。
図4に示したブロック図から、CPU403を中心とするマイコンよりも、オペアンプで構成される温度信号生成部413と、A/D変換器410で、多くの電力を消費する傾向がある。そこで、非計測時(以下「パワーセーブモード」と呼ぶ。また計測時の状態を「計測モード」と呼ぶ。)は被計測者の有無を検出するだけの間欠動作にする。
例えば1秒に1kHzのサンプリング周波数で10サンプル程度のデータを取り込むための間欠的な電力供給をオペアンプに与えると共に、A/D変換器410に出力ビット数を抑えることで消費電力を抑える低消費電力モードがあればこれを指定し、且つオペアンプと共に動作する間欠動作を行わせる。このような動作を実現するのが、間欠制御部504である。また、パワーセーブモードの時にはLCD表示部406及びバックライトLED407、そして額を照らすための赤色LED素子302には電力供給をしない。
【0028】
つまり、パワーセーブモードでは、サーモパイルセンサ305は人感センサとして機能する。パワーセーブモードでは、サーモパイルセンサ305を人感センサとして機能させるために、赤外線センサ411の出力信号と基準温度センサ412の出力信号との差が予め定めた温度差を超えたか否かを検出するとよい。或は、予め定めた基準温度として例えば33℃を設定し、これを超えたら人の存在を検出したと判断してもよい。
【0029】
被計測者が近づいたことを、温度データ演算部503を通じて動作モード制御部502が検出すると、動作モード制御部502はパワーセーブモードから計測モードに動作を切り替える。
動作モード制御部502が間欠制御部504に連続的な動作を命じると、間欠制御部504は温度信号生成部413及びA/D変換器410に連続的な電力供給を行い、A/D変換器410も計測モードに切り替えられる。これと共に、動作モード制御部502は額を照らすための赤色LED素子302及びLCD表示部406のバックライトLED407を発光させる。
【0030】
[第一の実施形態:温度計101の計測動作]
図6は温度計101の全体的な動作の流れを示すフローチャートである。
処理を開始すると(S601)、動作モード制御部502は最初に基準温度センサ412を通じて温度計101周囲の気温を計測する等の初期化動作を行う(S602)。
次に、動作モード制御部502は一旦パワーセーブモードに入る(S603)。このパワーセーブモードでは、具体的には赤色LED素子302を消灯し、間欠制御部504を通じて温度信号生成部413(アナログ回路)及びA/D変換器410を間欠動作させ、A/D変換器410を省電力モードに設定し、LCD表示部406をオフ制御し、バックライトLED407を消灯する。
【0031】
これ以降はループ処理である。
動作モード制御部502は、温度データ演算部503を通じて人(被計測者)が近づいたか否かを確認する(S604)。もし人の存在を認識したら(S604のYES)、計測処理を実行し(S605)、再び人の存在を確認する(S604)。
ステップS604で、人が存在しないことを認識したら(S604のNO)、動作モード制御部502は次に直前の計測終了時点から第一の所定時間が経過したか否かを確認する(S606)。この「第一の所定時間」とは、計測モードからパワーセーブモードに移行するためのタイムアウトとなる時間である。例えば30秒である。
ステップS606で第一の所定時間が経過していなければ(S606のNO)、再び人の存在を確認する(S604)。
【0032】
ステップS606で第一の所定時間が経過していれば(S606のYES)、動作モード制御部502は次に直前の初期化処理を実行した時点から第二の所定時間が経過したか否かを確認する(S607)。この「第二の所定時間」とは、温度計101が周囲の気温を確認して較正する等、定期的に初期化処理を行うための時間である。例えば5分である。
ステップS607で第二の所定時間が経過していなければ(S607のNO)、動作モード制御部502はパワーセーブモードを実行する(S603)。
ステップS607で第二の所定時間が経過していれば(S607のYES)、動作モード制御部502は一連の処理を終了する(S608)。そして、一連の処理は常にループしているので、再度ステップS601から処理が開始され、結果的に第二の所定時間が経過する度に初期化処理(S602)が実行されることとなる。
【0033】
図7は計測処理の流れを示すフローチャートである。図6のステップS605の中身である。
処理を開始すると(S701)、動作モード制御部502は最初に動作モードをパワーセーブモードから計測モードに切り替える(S702)。この計測モードでは、具体的には赤色LED素子302を点灯し、間欠制御部504を通じて温度信号生成部413(アナログ回路)及びA/D変換器410を連続動作させ、A/D変換器410を通常動作モードに設定し、LCD表示部406をオン制御し、バックライトLED407を点灯する。つまり、図6のステップS603の逆の動作となる。
【0034】
次に、動作モード制御部502は温度データ演算部503を制御して、温度データ演算部503が演算したデータをリングバッファに記録させる(S703)。
そして、温度データ演算部503はリングバッファ内のデータを検証する。前述の図5において説明したように、リングバッファに格納された、予め定められた数のサンプルデータの平均値が31℃以上で、且つその温度変動範囲(上限値−下限値)が、予め定められた変動許容値(閾値)である0.3℃に収まっているか否かを確認する(S704)。確認の結果、条件を満たしていなければ(S704のNO)、再度ステップS703に戻って、データの取り込み(S703)と演算(S704)を繰り返す。
確認の結果、条件を満たしていれば(S704のYES)、温度データ演算部503はその平均値を計測値としてRAM405に書き出し(S705)、その値を第二LCDに表示して(S706)、一連の処理を終了する(S707)。
【0035】
[第一の実施形態:温度計101と被計測者との位置関係]
図8は、被計測者が温度計101の天板103に自らの顔を映した状態を示す図である。
図9は、被計測者と温度計101との位置関係を示す概略図である。
図8及び図9に示すように、本発明の第一の実施形態の温度計101の最大の特徴は、被計測者901が鏡に自らの顔を映しながら、赤色LEDユニット108の発光点を自らの額に当てつつ、その発光点と鏡に埋め込まれているサーモパイルセンサユニット110と合わせ込むことで、温度計101本体と被計測者901の額との距離及び角度を容易に固定させることができる点にある。
【0036】
図8に示す状態は、図9に示す正規位置P902に被計測者901がいる状態である。被計測者901の目からは、鏡(温度計101の天板103)の向こう側にいる自分(仮想映像V903)を見ていることとなるが、その際、被計測者901の目線が仮想映像V903の額を見上げると、そこにサーモパイルセンサユニット110が存在しているので、ちょうど額にサーモパイルセンサユニット110が重なって見えることとなる。一方、赤色LEDユニット108から照射される光は、被計測者901の額を照らす。この、ちょうど仮想映像V903の額と一致する状態の位置が、正規位置P902である。
【0037】
一方、被計測者901が正規位置P902から鏡に向かって近づいてしまう(位置P904)と、赤色LEDユニット108から照射される光の照射点は、仮想映像V903上の被計測者901の額に見えるサーモパイルセンサユニット110の位置より上へ外れてしまう。
逆に、被計測者901が正規位置P902から鏡に向かって遠ざかってしまう(位置P905)と、赤色LEDユニット108から照射される光の照射点は、仮想映像V903上の被計測者901の額に見えるサーモパイルセンサユニット110の位置より下へ外れてしまう。
【0038】
被計測者901は図9に示したように、温度計101と自身の顔との距離を、鏡に映る額と、赤色LEDユニット108から照射される光の照射点と、サーモパイルセンサユニット110とを合わせ込むように調整することで、温度計101本体と被計測者901の額との距離及び角度を容易に固定させることができる。
一旦、温度計101本体と被計測者901の額との距離及び角度が固定されれば、サーモパイルセンサ305を用いた体表面温度の計測は高精度に実現できる。
【0039】
以上に説明したことから、本発明の第一の実施形態の温度計101の天板103が形成する鏡は、最低限、被計測者901の額を映すに必要な面積を備えている必要がある。一般的な成人の顔の大きさに基づいて設計すると、最低でも横幅は10cm、縦は7cm程度の大きさが求められる。望ましくは、顔全体を映すことができる面積として、横幅を20cm、縦を30cm程度、又はこれ以上の大きさにすることが望ましい。
【0040】
[第二の実施形態:温度計1001の外観と内部構成]
図10は、本発明の第二の実施形態に係る温度計1001の外観斜視図である。
温度計1001の、第一の実施形態の温度計101と同一の構成要素は、同一の符号を付して説明を省略する。
温度計1001の、外観上における第一の実施形態の温度計101と違う点は、(a)温度計101ではサーモパイルセンサユニット110の直上に設けられていた赤色LEDユニット1008が、温度計1001ではサーモパイルセンサユニット110の左側に設けられていることと、(b)新たに距離センサ1002が設けられていることである。
距離測定部ともいえる距離センサ1002は、第一LCDユニット106及び第二LCDユニット107と同様に、天板103の裏に固定されている。
距離センサ1002は、赤外線LED、フォトダイオード、そして信号処理回路を内蔵する、周知の三角測量方式を用いる距離計測装置であり、距離を計測した結果をアナログ電圧信号で出力する。
【0041】
図11は温度計1001のハードウェア構成を示すブロック図である。
図11においても図10と同様に、温度計1001の、第一の実施形態の温度計101と同一の構成要素は、同一の符号を付して説明を省略する。
図11中、図4のブロック図との相違点は、距離センサ1002がA/D変換器410に接続されていることである。
【0042】
図12は温度計1001のソフトウェアの機能を説明するブロック図である。
図12においても図10及び図11と同様に、温度計1001の、第一の実施形態の温度計101と同一の構成要素は、同一の符号を付して説明を省略する。
図12中、図5のブロック図との相違点は、(a)A/D変換器410が時分割で動作するので、温度信号生成部413の出力信号を処理するA/D変換器410aと、距離センサ1002が出力する距離計測信号を処理するA/D変換器410bに分けて示されていることと、(b)距離センサ1002がA/D変換器410bを通じて動作モード制御部502に接続されていることである。
【0043】
本発明の第二の実施形態の温度計1001も、本発明の第一の実施形態の温度計101と同様に、被計測者が近づいたら動作するように構成される。つまり、被計測者が温度計1001の前にいない時は、温度計測の動作をする必要がないので、電力消費を極力削減することが望ましい。
そこで温度計1001は、パワーセーブモードにおいて、サーモパイルセンサ305のうち気温を計測する基準温度センサ412を通じて気温を計測するための間欠動作と、距離センサ1002を通じて被計測者の有無を検出する動作を行う。
実際にはA/D変換器410は時分割で動作するので、A/D変換器410は、基準温度センサ412を通じて温度信号生成部413が出力する気温計測信号と、距離センサ1002が出力する距離計測信号を時分割で変換する。
動作モード制御部502は、A/D変換器410bから得られる、距離センサ1002の距離計測信号に基づく距離計測情報を受け取る。距離センサ1002が例えば60cm以内の範囲に人体を検出すると、動作モード制御部502は距離計測情報が60cmに相当する閾値の範囲内に入ったことを認識することで、温度計1001から60cmの範囲内に人体が存在することを認識する。そして、動作モード制御部502は間欠制御部504を制御し、これによって温度計1001は計測モードに復帰する。
つまり、温度計1001は、サーモパイルセンサ305を人感センサとして機能させる温度計101と異なり、専用の人感センサとして距離センサ1002を備えている。
【0044】
被計測者が近づいたことを、A/D変換器410bを通じて動作モード制御部502が検出すると、動作モード制御部502はパワーセーブモードから計測モードに動作を切り替える。
動作モード制御部502が間欠制御部504に連続的な動作を命じると、間欠制御部504は温度信号生成部413及びA/D変換器410aに連続的な電力供給を行い、A/D変換器410aも計測モードに切り替えられる。これと共に、動作モード制御部502は額を照らすための赤色LED素子302及びLCD表示部406のバックライトLED407を発光させる。
【0045】
更に、距離センサ1002からA/D変換器410bを通じて得られる、温度計1001と被計測者との距離を示す距離データが、例えば30cm±2cmの範囲であれば、動作モード制御部502は温度データ演算部503に温度の演算を指示する。
つまり、距離センサ1002は、パワーセーブモードと計測モードの切り替えを指示する情報と、計測動作のトリガを指示する情報を出力する。
なお、測定距離が30cm+2cm以上離れていたり、30cm−2cmより近づきすぎていたりした場合は、赤色LED素子302を点灯しない代わりに、被計測者に距離合わせを促すメッセージをLCD表示部406に表示させることで、被計測者の距離合わせを補助することができる。
【0046】
第二の実施形態の温度計1001の計測動作は、一部を除いて第一の実施形態の温度計101と同一である。
図13は計測処理の流れを示すフローチャートである。図6のステップS605の中身である。
図13に示す計測処理の、第一の実施形態の温度計101に係る図7の計測処理との相違点は、ステップS702とステップS703との間に、距離センサ1002から得られる、温度計1001と被計測者との距離が、30cm±2cmの範囲内に収まっているか否かを確認するステップS1301が追加されている点である。
【0047】
[第二の実施形態:温度計1001と被計測者との位置関係]
図14は、被計測者901の頭上から被計測者901と温度計1001を見下ろす視点で、被計測者901と温度計1001の位置関係を示す概略図である。
温度計1001は、第一の実施形態の温度計101の、赤色LEDユニット108とサーモパイルセンサユニット110の位置関係が横になったものと解することができる。
正規位置P1402に被計測者1401がいる状態において、被計測者1401の視点からは、鏡(温度計1001の天板103)の向こう側にいる自分(仮想映像V1403)を見ていることとなるが、その際、被計測者1401の目線が仮想映像V1403の額を見ると、そこにサーモパイルセンサユニット110が存在しているので、ちょうど額にサーモパイルセンサユニット110が重なって見えることとなる。一方、赤色LEDユニット108から照射される光は、被計測者1401の額を照らす(点P1310)。この、ちょうど仮想映像V1403の額と一致する状態の位置が、正規位置P1402である。
【0048】
一方、被計測者1401が正規位置P1402から鏡に向かって近づいてしまうと(位置P1404)、赤色LEDユニット108から照射される光の照射点は、仮想映像V1403上の被計測者1401の額に見えるサーモパイルセンサユニット110の位置より左側の点P1405へ外れてしまう。
逆に、被計測者1401が正規位置P1402から鏡に向かって遠ざかってしまうと(位置P1406)、赤色LEDユニット108から照射される光の照射点は、仮想映像V1403上の被計測者1401の額に見えるサーモパイルセンサユニット110の位置より右側の点P1407へ外れてしまう。
【0049】
被計測者1401は図9に示したように、温度計1001と自身の顔との距離を、鏡に映る額と、赤色LEDユニット108から照射される光の照射点と、サーモパイルセンサユニット110とを合わせ込むように調整することで、温度計1001本体と被計測者1401の額との距離を容易に固定させることができる。
一旦、温度計1001本体と被計測者1401の額との距離が固定されれば、サーモパイルセンサ305を用いた体表面温度の計測は高精度に実現できる。
【0050】
本実施形態は以下のような応用が可能である。
(1)計測開始スイッチを設けて、動作モード制御部502に対して明示的にパワーセーブモードから計測モードへの移行を指示することもできる。
【0051】
(2)図7の点線で囲まれるステップS704及びS705の処理は、被計測者の体表面温度を計測するための、アルゴリズムの一例である。ステップS704及びS705に限らず、例えばリングバッファ内のデータの平均と分散を求めて、分散が所定の閾値を下回った時に平均値を出力する他、所定時間内に平均値を所定回数取得し、それら複数の平均値の平均値を出力する等、様々なアルゴリズムが適用可能である。
【0052】
(3)サーモパイルセンサユニット110の赤外線集光手段は、集光レンズ303bに限らず、例えば細長い穴でもよい。
【0053】
(4)天板103は鏡として機能すればよいので、必ずしもハーフミラーでなくてもよい。
【0054】
(5)温度データ演算部503は、測定した体表面温度から体温を算出してもよい。この場合、温度計101又は温度計1001は体温計となる。
【0055】
(6)体表面温度或は体温をLCD表示部406で表示する代わりに、体表面温度或は体温を音声合成で読み上げることもできる。
また、体表面温度或は体温の具体的な数値の表示の代わりに、熱がある(例えば37℃以上)ならLED等の発光体を赤色に発光させ、平熱である(例えば37℃未満)なら発光体を青色に発光させる、という表示態様を採用することもできる。
【0056】
(7)サーモパイルセンサ305はレンズを搭載したサーモパイルセンサであってもよい。この場合、図3の集光レンズ303bは不要になる。
【0057】
本実施形態では非接触型の温度計を開示した。
安価なサーモパイルセンサを鏡と組み合わせることにより、被計測者自身が温度計と自身の顔との距離を調整することができ、温度計と被計測者の額との距離を容易に固定させることができる。そして、非接触且つ操作者の存在なくして、体表面温度の計測を高精度に実現できる。
また、本実施形態の温度計は、被計測者の体表面温度或は体温を計測するためのサーモパイルセンサ305を、パワーセーブモードでは人感センサとして兼用することもできる。
【0058】
以上、本発明の実施形態例について説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
【符号の説明】
【0059】
101…温度計、102…本体部、103…天板、104…土台、105…ハーフミラーフィルム、106…第一LCDユニット、107…第二LCDユニット、108…赤色LEDユニット、109…発光開口部、110…サーモパイルセンサユニット、111…赤外線受光開口部、112…電源スイッチ、113…押ボタンスイッチ、202…アクリル板、203…固定板、204…第一LCD開口部、205…第二LCD開口部、206…基板、207…湿度センサ、208…本体裏ケース、209…スピーカ、302…赤色LED素子、303a…集光レンズ、303b…集光レンズ、304…筒、305…サーモパイルセンサ、306…筒、307a…カバー、307b…カバー、402…バス、403…CPU、404…ROM、405…RAM、406…LCD表示部、407…バックライトLED、408…オーディオインターフェース、410…A/D変換器、410a…A/D変換器、410b…A/D変換器、411…赤外線センサ、412…基準温度センサ、413…温度信号生成部、500…全、502…動作モード制御部、503…温度データ演算部、504…間欠制御部、901…被計測者、1001…温度計、1002…距離センサ、1008…赤色LEDユニット、1401…被計測者
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測者の額を映すことが可能な鏡と、
前記鏡に設けられて前記被計測者の額に光を照射する発光部と、
前記鏡の、前記発光部に隣接して設けられて前記被計測者の額の表面温度を計測する温度計測センサと、
前記温度計測センサから得られる信号に基づいて前記被計測者の体表面温度或は体温を算出して温度データを出力する温度データ演算部と、
前記温度データを表示する表示部と
を具備する温度計。
【請求項2】
前記発光部は、前記被計測者の額に光を照射するために前記鏡の鉛直線に対して所定の角度だけ傾けられており、
前記温度計測センサは、前記被計測者が前記鏡から所定の距離及び角度の位置から前記鏡を見ると、前記鏡に映る前記被計測者の額に前記発光部が発光する前記光の照射点と一致する位置関係を有する、請求項1記載の温度計。
【請求項3】
更に、
被計測者との距離を測定する距離測定部と、
前記距離測定部から得られる距離データに基づいて、被計測者が前記温度計測センサの計測可能範囲内に存在しないと判断したら前記発光部の発光動作を停止する動作モード制御部と
を具備する、請求項1又は2記載の温度計。
【請求項4】
前記動作モード制御部は、前記発光部の発光動作を停止している状態から、前記距離測定部から得られる前記距離データから被計測者が前記温度計測センサの計測可能範囲内に存在すると判断したら、前記発光部の発光動作を開始する、請求項3記載の温度計。
【請求項5】
更に、
前記温度データ演算部から得られる前記温度データに基づいて、前記被計測者が前記温度計測センサの計測可能範囲内に存在しないと判断したら前記発光部の発光動作を停止する動作モード制御部と
を具備する、請求項1又は2記載の温度計。
【請求項6】
前記動作モード制御部は、前記発光部の発光動作を停止している状態から、前記温度データ演算部から得られる前記温度データから前記被計測者が前記温度計測センサの計測可能範囲内に存在すると判断したら、前記発光部の発光動作を開始する、請求項5記載の温度計。
【請求項7】
前記表示部は、前記温度データが所定の閾値以上の場合に第一の表示色で発光し、前記温度データが前記閾値未満の場合に第二の表示色で発光する、請求項1又は2又は3又は4又は5又は6記載の温度計。
【請求項8】
被計測者の額を映すことが可能な鏡と、
前記鏡に設けられて前記被計測者の額に照射する光を照射する発光部と、
前記鏡の、前記発光部に隣接して設けられて前記被計測者の額の表面温度を計測する温度計測センサと、
前記温度計測センサから得られる信号に基づいて前記被計測者の体表面温度或は体温を算出して温度データを出力する温度データ演算部と、
前記温度データを音声合成にて読み上げる音声伝達部と
を具備する温度計。
【請求項1】
被計測者の額を映すことが可能な鏡と、
前記鏡に設けられて前記被計測者の額に光を照射する発光部と、
前記鏡の、前記発光部に隣接して設けられて前記被計測者の額の表面温度を計測する温度計測センサと、
前記温度計測センサから得られる信号に基づいて前記被計測者の体表面温度或は体温を算出して温度データを出力する温度データ演算部と、
前記温度データを表示する表示部と
を具備する温度計。
【請求項2】
前記発光部は、前記被計測者の額に光を照射するために前記鏡の鉛直線に対して所定の角度だけ傾けられており、
前記温度計測センサは、前記被計測者が前記鏡から所定の距離及び角度の位置から前記鏡を見ると、前記鏡に映る前記被計測者の額に前記発光部が発光する前記光の照射点と一致する位置関係を有する、請求項1記載の温度計。
【請求項3】
更に、
被計測者との距離を測定する距離測定部と、
前記距離測定部から得られる距離データに基づいて、被計測者が前記温度計測センサの計測可能範囲内に存在しないと判断したら前記発光部の発光動作を停止する動作モード制御部と
を具備する、請求項1又は2記載の温度計。
【請求項4】
前記動作モード制御部は、前記発光部の発光動作を停止している状態から、前記距離測定部から得られる前記距離データから被計測者が前記温度計測センサの計測可能範囲内に存在すると判断したら、前記発光部の発光動作を開始する、請求項3記載の温度計。
【請求項5】
更に、
前記温度データ演算部から得られる前記温度データに基づいて、前記被計測者が前記温度計測センサの計測可能範囲内に存在しないと判断したら前記発光部の発光動作を停止する動作モード制御部と
を具備する、請求項1又は2記載の温度計。
【請求項6】
前記動作モード制御部は、前記発光部の発光動作を停止している状態から、前記温度データ演算部から得られる前記温度データから前記被計測者が前記温度計測センサの計測可能範囲内に存在すると判断したら、前記発光部の発光動作を開始する、請求項5記載の温度計。
【請求項7】
前記表示部は、前記温度データが所定の閾値以上の場合に第一の表示色で発光し、前記温度データが前記閾値未満の場合に第二の表示色で発光する、請求項1又は2又は3又は4又は5又は6記載の温度計。
【請求項8】
被計測者の額を映すことが可能な鏡と、
前記鏡に設けられて前記被計測者の額に照射する光を照射する発光部と、
前記鏡の、前記発光部に隣接して設けられて前記被計測者の額の表面温度を計測する温度計測センサと、
前記温度計測センサから得られる信号に基づいて前記被計測者の体表面温度或は体温を算出して温度データを出力する温度データ演算部と、
前記温度データを音声合成にて読み上げる音声伝達部と
を具備する温度計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−177499(P2011−177499A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23141(P2011−23141)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(596118600)NEC Avio赤外線テクノロジー株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(596118600)NEC Avio赤外線テクノロジー株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
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