説明

温度調節機能を備えた金属基複合材料部材

【課題】 複数の領域ごとに温度を調節する機能を具備する金属基複合材料部材であって、構造が簡略であり細分化された領域での高精度な温度制御が可能な金属基複合材料部材を提供することを目的としている。
【解決手段】 複数の領域ごとに温度を調節する機能を具備する金属基複合材料部材であって、前記温度を調節する機能が温度検知手段と、複数のペルチェ素子とからなり、かつ、前記金属基複合材料部材がAl合金マトリックス中にSiC強化材が複合された金属基複合材料からなり、前記金属基複合材料中のSiC強化材の含有率が40〜80体積%であることを特徴とする温度調節機能を備えた金属基複合材料部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属基複合材料部材の適用事例に関し、特に、ガラス基板などを保持するステージ部材などに用いられる温度調節機能を備えた金属基複合部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属基複合材料部材は、軽量、高剛性という特長を生かし、半導体や液晶の製造工程に用いられる露光装置などの製造装置部材として使用されている。例えば、液晶製造用の露光装置では、ガラス基板を保持するステージ部材に用いることが検討されている。
【0003】
露光装置においては、被転写物体としてのガラス基板に塗布したレジストに対してマスクを対向させ、このマスクに光を当て、マスクのパターンをレジストに転写している。この際、製造工程中のガラス基板の加熱によりガラス基板に残留伸び(ヒステリシス)が生じることがある。また、露光光により加熱されてマスク及びガラス基板の熱膨張が生じることもある。
【0004】
こうした課題に対して本発明者らは、内部溝を有しその溝に加熱、冷却媒体を通して温度を制御する金属基複合材料を提案した(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−329350号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年露光精度の微細化が進み、以前より細分化された温度制御が出来る金属基複合材料部材に対する要望が高まってきた。これに対し、従来の内部溝を設ける温度制御法では、加熱、冷却媒体を通す流路の数が多くなり、形状も複雑になって対応が困難になるという課題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、複数の領域ごとに温度を調節する機能を具備する金属基複合材料部材であって、構造が簡略であり細分化された領域での高精度な温度制御が可能な金属基複合材料部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した本発明の目的は、下記する手段により達成される。
(1)複数の領域ごとに温度を調節する機能を具備する金属基複合材料部材であって、前記温度を調節する機能が温度検知手段と、複数のペルチェ素子とからなることを特徴とする温度調節機能を備えた金属基複合材料部材。
(2)前記金属基複合材料部材がAl合金マトリックス中にSiC強化材が複合された金属基複合材料からなり、かつ、前記金属基複合材料中のSiC強化材の含有率が40〜80体積%であることを特徴とする(1)記載の温度調節機能を備えた金属基複合材料部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来の内部溝構造を形成した部材に比べ、構造が簡略であり細分化された領域での温度制御が可能な金属基複合材料部材が容易に得られる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究した結果、温度を検知する手段と、複数のペルチェ素子を備え、これらを用いて複数の領域ごとに温度を制御するように構成することで上記課題が解決できることを見出し本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明では、複数の領域ごとに温度を調節する機能を具備する金属基複合材料部材であって、前記温度を調節する機能が温度検知手段と、複数のペルチェ素子とからなることを特徴とする温度調節機能を備えた金属基複合材料部材を提案している。
本発明では、複数の領域ごとに温度を調節することで、細分化された領域での温度制御が可能となる。
また、複数の領域ごとに、温度を調節する手段として温度検知手段と、複数のペルチェ素子により構成することで、従来より構造が簡略であり細分化された領域での温度制御が可能となったものである。
【0011】
次に、本発明では、前記金属基複合材料部材がAl合金マトリックス中にSiC強化材が複合された金属基複合材料からなり、かつ、前記金属基複合材料中のSiC強化材の含有率が40〜80体積%であることを特徴とする温度調節機能を備えた金属基複合材料部材を提案している。
40〜80体積%に限定したのは、SiC強化材含有率が40体積%より少ないと、複合材料のヤング率が120GPa以下に低下し制振性が低下するため好ましくないためである。
また、SiC強化材の含有率を80体積%以下とする理由は、これよりSiC強化材含有率が多いと緻密な金属基複合材料が得られなくなるからである。
【0012】
本発明の製造方法を述べると、まず強化材としてSiC粉末を、マトリックス金属としてAl合金を用意する。用意したSiC粉末とAl合金を複合化するが、SiC粉末はAl合金との濡れ性が悪く複合化が困難である。この問題を解決した製造方法として注目されているのが、米国ランクサイド社が開発した非加圧金属浸透法である。この方法は、SiC粉末で形成されたプリフォームにAl合金を接触、窒素雰囲気中で700〜900℃の温度で加熱処理し、溶融したAl合金をプリフォーム中に浸透させる方法であるが、これは化学反応を利用して溶融したAl合金のSiC粉末への濡れ性を改善し、機械的な加圧を行わなくてもAl合金がプリフォーム中に浸透できるという特徴を持っている。
【0013】
本発明ではこの方法を採用することとし、SiC粉末で40〜80体積%の充填率を有するプリフォームを形成する。プリフォームの形成方法としては、例えばSiC粉末に有機バインダーを加えプレスにより形成する方法や、SiC粉末に水などの溶媒を加え、フィルタープレスにより形成する方法などが挙げられる。
【0014】
次いで、得られたプリフォームをAl合金と共に窒素雰囲気中700〜900℃の温度で加熱処理し、溶融したAl合金を非加圧でプリフォーム中に浸透させて複合材料を作製する。得られた複合材料に機械加工を施し、温度検知手段としての熱電対とペルチェ素子を取り付けることで本発明の温度調節機能を備えた金属基複合材料部材をえることができる。
【0015】
ペルチェ素子としては、慣用のものが用いられることか可能で、例えばBi2(Te,Se)3のn型と(Bi,Sb)2Te3のp型の半導体を交互に連結したものを用いることが出来る。これは、印加電流の向きを変えることで加熱も冷却も出来る。
こうして得られた金属基複合材料部材は、従来の内部溝に加温、冷却用媒体を通す方法に比べて、構造が簡略で、より細分化された領域での温度制御が可能となる。
【0016】
以下、実施例を本発明に係わる温度調節機能を備えた金属基複合材料部材の概略構成図である図1により具体的に挙げ、より詳細に説明する。
なお、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
[実施例]
(1)複合材料の作製
出発原料のSiC粉末としては、市販の平均粒径70μm のSiC粉末(信濃電気製錬社製)60重量%と平均粒径10μmのSiC粉末(信濃電気製錬社製)40重量%を混合して用いた。
次に、このSiC粉末に有機バインダーとしてPVB(ポリビニルブチラール)を5重量%添加し、これをプレスして200×200×10mmのサイズの、60体積%のSiC粉末充填率を有するプリフォームを形成した。
得られたプリフォームをAl合金(JIS AC8A)と共に炉内に設置し、窒素雰囲気中で800℃の温度で加熱処理してAl合金を溶融し、溶融したAl合金をプリフォーム中に非加圧で浸透させ、冷却して金属基複合材料1を作製した。(金属基複合材料中のSiC強化材の含有率は、60体積%である)
【0017】
(2)温度の制御
得られた金属基複合材料1の4つの領域に、ペルチェ素子2(センサーコントロールズ社製、UT7070-AL)を4個取り付け、リード線3を通じて電流を流した。
金属基複合材料1の表面温度は、ペルチェ素子を取り付けた面とは反対の面に取り付けた熱電対(図示せず。)により測定した。
その結果、ペルチェ素子2に流す電流量を制御して各ペルチェ素子上の複合材料の表面温度を20℃から70℃の範囲で設定制御したところ、設定温度から±0.5℃の精度で4つの領域を制御することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係わる温度調節機能を備えた金属基複合材料部材の概略構成図である。(a)は下面図である。(b)は正面図である。
【符号の説明】
【0019】
1;金属基複合材料
2;ペルチェ素子
3;リ−ド線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の領域ごとに温度を調節する機能を具備する金属基複合材料部材であって、前記温度を調節する機能が温度検知手段と、複数のペルチェ素子とからなることを特徴とする温度調節機能を備えた金属基複合材料部材。
【請求項2】
前記金属基複合材料部材がAl合金マトリックス中にSiC強化材が複合された金属基複合材料からなり、かつ、前記金属基複合材料中のSiC強化材の含有率が40〜80体積%であることを特徴とする請求項1記載の温度調節機能を備えた金属基複合材料部材。

【図1】
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【公開番号】特開2006−54271(P2006−54271A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233980(P2004−233980)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】