説明

温調装置

【課題】精密機器が配設されたブース内の圧力の変動を防止して測定精度の低下を抑制しつつ、省エネをも実現できる温調装置を提供する。
【解決手段】精密機器Fが配設されたブース1内に温調用空気Pを供給して温調する温調手段2の運転を制御する制御手段3を備えた温調装置Eにて、ブース1内の圧力K1を検出する圧力検出手段9をブース1内に備え、温調手段2が温調用空気Pをブース1内に送り込む送風手段4を備え、制御手段3が、送風手段4を運転させてブース1内に温調用空気Pを送り込みブース1内の圧力K1を大気圧K0よりも大きな圧力にし、精密機器Fの運転開始時t1又は運転開始前に圧力検出手段9によりブース内1の圧力K1である基準圧力K1aを検出させ、送風手段4の運転を制御して、精密機器Fの運転開始時t1から運転停止t2までの間、ブース1内の圧力K1を基準圧力K1aに維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密機器が配設されたブース内に、温調用空気を供給してブース内を温調する温調手段と、温調手段の運転を制御する制御手段とを備えた温調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記温調装置として、温調された空気をブース内に送り込んで、当該ブース内を温調するとともに、当該空気の送り込みにより、ブース内の圧力をブースの外部の圧力よりも高圧(陽圧)とする温調装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、かかる温調装置では、ブースの上方から温調された空気を送り込むことにより、ブース内において上下方向にエアーカーテンを形成し、このエアーカーテンを介して内側には高圧(陽圧)の領域が形成され、外側には内側よりも低圧な領域が形成される。
これにより、微細な塵や雑菌等がエアーカーテンの外側(ブースの外部)から内側に侵入することを防止でき、ブース内のエアーカーテンの内側にクリーンな作業環境を形成することができるとされる。
【0003】
一方で、上記のようなブースにおいて、両端が開口されトンネル形に形成された塗装ブースが提案されている(例えば、特許文献2参照)。かかる塗装ブースは、塗装ブース内に給気ファンによって清浄空気を供給すると同時に、塗装ブース内から排気ファンによって塗料ミスト等を含む汚染空気を排出するように構成されている。そして、塗装ブース内の気圧を圧力センサで検出し、その検出した気圧と外気圧とを比較して両者の差値を求め、その差値に応じて塗装ブース内を一定の陽圧に保つように排気ファンの排気量を可変制御する給排気制御方法が採用されている。
これにより、塗装ブース内に外部空気が流入することがなく、塗装ブース内で塗装される被塗物の塗膜に塵埃等が付着して塗装品質を損なう虞がないとされる。
すなわち、これら特許文献1及び2では、ブース内をブースの外部の外気圧(大気圧)よりも高圧(陽圧)にして、ブース内に外部からの空気が侵入しないように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−168551号公報
【特許文献2】特開平3−178368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ブース内に電子顕微鏡等の精密機器を配設した場合、この精密機器による各種作業は、ブース内の圧力変動等の影響により、その測定精度や運転状態が悪影響を受ける場合がある。例えば、ブース内に電子顕微鏡を配設した場合において、電子顕微鏡のケースにより形成される測定空間内(真空状態)に測定対象の試料を設置する際には、ケースの開口部にシール部材を介してフランジ蓋体を締結具により固定し、上記試料がフランジ蓋体から測定空間内に延出された測定台上に載置される。この場合、測定空間の外側、すなわち、ブース内の圧力が変動すると、例えば、フランジ蓋体及び測定台が僅かに移動して測定対象の試料も移動することがあり、測定精度が低下する虞がある。
従って、特許文献1の温調装置では、ブース内の圧力を外部の圧力よりも陽圧にするが、ブースの外部の圧力は大気圧となっている。ここで、ブース内の圧力を大気圧に対して所定圧だけ高い陽圧状態を保とうとすると、通常、大気圧は天候等により変動するため、ブース内の圧力も当該大気圧の変動に応じて変動するので、ブース内に配設された電子顕微鏡等を作動させた場合には、測定精度が低下する虞がある。
【0006】
一方で、特許文献2の塗装ブースでは、ブース内を一定の陽圧に維持するため、ブース内の圧力はある程度安定すると考えられる。しかしながら、ブース内の圧力を常時検出し、当該検出された圧力と外気圧との差値を導出して、排気ファンによる排気量を常に制御してブース内を一定の陽圧に維持する必要があり、エネルギーの無駄を生じるという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、精密機器が配設されたブース内の圧力の変動を防止して測定精度の低下を抑制しつつ、省エネをも実現できる温調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る温調装置は、精密機器が配設されたブース内に、温調用空気を供給して前記ブース内を温調する温調手段と、前記温調手段の運転を制御する制御手段とを備えた温調装置であって、その特徴構成は、
前記ブース内の圧力を検出する圧力検出手段を前記ブース内に備え、
前記温調手段が、温調された前記温調用空気を前記ブース内に送り込む送風手段を備え、
前記制御手段が、前記送風手段を運転させて前記ブース内に前記温調用空気を送り込んで、前記ブース内の圧力を大気圧よりも大きな圧力にするとともに、
前記制御手段が、前記精密機器の運転開始時又は運転開始前に前記圧力検出手段により前記ブース内の圧力である基準圧力を検出させ、前記送風手段の運転を制御して、前記精密機器の運転開始時から運転停止までの間、前記ブース内の圧力を前記基準圧力に維持する点にある。
【0009】
上記特徴構成によれば、制御手段により送風手段の運転が制御され、精密機器の運転開始時から運転停止までの間、ブース内の圧力が精密機器の運転開始時又は運転開始前の圧力である基準圧力に維持されるので、ブース内は大気圧よりも大きな圧力(陽圧)で、しかも、均一な圧力となり、精密機器の運転を安定させ測定精度の低下を抑制しつつ、省エネを図ることができる。
説明を加えると、制御手段が、温調された温調用空気をブース内に送り込む送風手段を運転させて、ブース内に温調用空気を送り込むことで、ブース内の圧力はブースの外部の圧力である大気圧よりも大きな圧力(陽圧)となる。そして、制御手段が、精密機器の運転開始時又は運転開始前にブース内の圧力である基準圧力(陽圧)を圧力検出手段により検出させ、送風手段の運転を制御することで、精密機器の運転開始から運転停止までの間だけブース内の圧力を上記基準圧力に維持する。すなわち、ブース内の圧力は常に陽圧に維持されるが、精密機器の運転開始から運転停止までの時間だけ均一な圧力に維持される。
これにより、精密機器の運転時には、ブース内の圧力を陽圧で、しかも均一な圧力に維持することができるので、精密機器の運転を安定させ測定精度の低下を抑制することができる。また、均一に維持されるブース内の圧力は精密機器の運転開始時又は運転開始前の基準圧力であるので、当該基準圧力が単に維持されるように送風手段の運転を行うだけで(送風手段の出力の増減の幅が小さな状態の運転で)、ブース内の圧力を所望の均一の圧力に容易に維持することができる。さらに、精密機器の運転時のみブース内の圧力を均一に維持するだけでよいので、精密機器の運転時以外にはブース内を均一な圧力にするために出力を増減させて送風手段を運転させる必要がなくなり(単に一定の出力で運転すればよくなり)、省エネを図ることができる。また、圧力検出手段によるブース内の圧力検出も、精密機器の運転開始時又は運転開始前及び運転時だけでよく、圧力の監視負担も軽減する。なお、このような構成としても、温調手段により温調された温調用空気がブース内に送り込まれることによりブース内を所望の温度に温調でき、また、当該温調用空気が送り込まれてブース内が陽圧とされることにより、ブースの外部からブース内に塵埃等が侵入することを防止することができる。
【0010】
本発明に係る温調装置の更なる特徴構成は、前記精密機器が電子顕微鏡であり、前記電子顕微鏡が、内部に測定空間を形成するケースと、前記ケースに形成された開口部にシール部材を介して締結具により固定されたフランジ蓋体と、前記フランジ蓋体から前記測定空間内に延出された測定台とを備え、前記測定台上に測定対象の試料が載置されるように構成されている点にある。
【0011】
上記特徴構成によれば、ブースの内部空間と、当該ブースの内部空間に配設された電子顕微鏡のケースにより区画される測定空間とを連通する開口部が、シール部材を介して締結具で固定されたフランジ蓋体により閉塞されているので、フランジ蓋体から延出する測定台に載置される試料を開口部を介して容易に交換できるが、仮に、ブース内の圧力変動等が発生すると、当該電子顕微鏡ではシール部材が伸縮して、フランジ蓋体から延出する測定台が移動する虞がある。しかしながら、当該構成の電子顕微鏡を採用したとしても、上述のとおり、電子顕微鏡の運転時にはブース内の圧力が均一に維持されているので、シール部材を介して固定されたフランジ蓋体及び測定台上に載置された測定対象の試料が移動してしまうことがなく、電子顕微鏡の測定精度の低下を防止することができる。
【0012】
本発明に係る温調装置の更なる特徴構成は、前記温調手段が、前記温調用空気を冷却する冷却手段及び加熱する加熱手段と、前記温調用空気を、前記冷却手段、前記加熱手段、前記送風手段、前記ブース、前記冷却手段の順に循環通風させる温調用空気循環路と、前記ブースの外部の空気を前記温調用空気循環路における前記冷却手段の上流側と前記ブースの下流側との間に導入可能な外部空気導入路と、前記外部空気導入路に配設され、前記ブースの外部から導入される空気の量を調整可能な流量調整手段とを備える点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、温調用空気循環路を循環通風する温調用空気の流量(ブース内に供給される温調用空気の量)は、当該温調空気循環路に配設された送風手段の運転状態を制御することで調整できることに加え、外部空気導入路に配設された流量調整手段の作動状態を制御することで調整することができる。これにより、ブース内の圧力をより確実に陽圧で、しかも均一な圧力(基準圧力)に維持することができる。
また、温調手段は、温調用空気を冷却する冷却手段及び加熱する加熱手段を備えるので、温調用空気を精度よく温調でき、さらに、外部空気導入路から導入されるブースの外部の空気は、温調用空気循環路における冷却手段の上流側とブースの下流側との間に導入され温調用空気と合流し、冷却手段及び加熱手段にて温調された上でブース内に送り込まれるため、当該空気が外部から導入されてもブース内の温調の精度が低下することはない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】温調装置を備えた温調システムの概略構成図
【図2】温調装置を備えた温調システムの温調系の概略構成図
【図3】ブース内の圧力及びブースの外部の圧力(大気圧)の時間的変動を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る温調装置Eを備えた温調システムDについて、図1〜図3を参照しながら説明する。
【0016】
温調システムDは、図1に示すように、電子顕微鏡F(精密機器の一例)が配設されるブース1と、ブース1内に温調用空気Pを供給してブース1内の温調用空気Pの温度を調整可能な温調手段2及び温調手段2の運転を制御する制御部3(制御手段の一例)を備えた温調装置Eとを備える。基本的に、制御部3は、ブース1内の温調用空気Pの温度が電子顕微鏡Fの運転に適した設定温度になるように温調手段2の運転を制御するが、後述するようにその他の手段等の制御を行うことも可能に構成されている。
以下では、ブース1の構成及び温調装置Eの構成を説明した後、制御部3による温調装置Eの運転について説明する。
【0017】
ブース1は、天井部1a及び側壁部1bを構成する壁面により囲繞されて概略立方体形状に形成されており、ブース1内の内部空間に外部から空気等が侵入しないように構成されている。ブース1の内部空間の底部には架台Gが配設され、当該架台G上に電子顕微鏡Fが配設されている。ブース1の側壁部1bの上部には、温調手段2から供給される温調用空気Pの流入する入口1cが設けられ、ブース1の側壁部1bの下部には、ブース1内の温調用空気Pの流出する出口1dが設けられている。なお、ブース1の温調用空気Pの入口1cには、HEPA等のフィルタが搭載され、ブース1はクリーンルームとされている。
【0018】
ブース1内に配設される電子顕微鏡Fは、公知の電子顕微鏡であるため、その詳細構成については説明を省略するが、少なくとも以下の構成を備える。
すなわち、電子顕微鏡Fは、内部に測定空間20を形成するケース21と、ケース21に形成された開口部22にゴムパッキン23(シール部材の一例)を介してボルト・ナット24(締結具の一例)により固定されたフランジ蓋体25と、フランジ蓋体25から測定空間20内に延出された測定台26とを備え、測定台26上に測定対象の試料27が載置されるように構成されている。
なお、ケース21は概略立方体形状に形成され、その内部の測定空間20内は略真空状態とされる。
【0019】
温調装置Eは、図2に示すように、圧縮機31、凝縮器32、第1膨張弁33、第1蒸発器34(冷却手段の一例)の順に冷媒A(図中点線矢印参照)を循環させる第1冷媒回路50(冷凍サイクル)を備えて構成されている。第1蒸発器34は、膨張された冷媒Aと温調用空気Pとを熱交換させて温調用空気Pを冷却させるように構成されている。なお、第1膨張弁33は、第1冷媒回路50を通流する冷媒Aの流量を調整自在で、当該冷媒Aを膨張可能に構成されている。
【0020】
第1冷媒回路50には、凝縮器32と第1膨張弁33との間から分岐されて第1蒸発器34と圧縮機31との間に合流される第2冷媒回路51(冷凍サイクル)が接続されている。
この第2冷媒回路51は、冷媒Aを凝縮器32と第1膨張弁33との間から分岐させて、第1膨張弁33及び第1蒸発器34に対して並列に設けられた第1電磁弁47、第2膨張弁36及び第2蒸発器37の順に通流させ、第1蒸発器34と圧縮機31との間に戻すように構成されている。すなわち、第2冷媒回路51は、第1冷媒回路50の圧縮機31及び凝縮器32を共用するように構成され、圧縮機31、凝縮器32、第1電磁弁47、第2膨張弁36、第2蒸発器37、圧縮機31の順に冷媒Aを通流可能に構成されている。なお、第2蒸発器37は、膨張された冷媒Aと水Q(液体の一例)とを熱交換させて水Qを冷却させるように構成されている。また、第2膨張弁36は、第2冷媒回路51を通流する冷媒Aの流量を調整自在で、当該冷媒Aを膨張可能に構成されている。さらに、第1電磁弁47は、第2冷媒回路51を通流する冷媒Aの断続、すなわち、当該冷媒Aの通流の停止状態と通流状態とに切換できるように構成されている。なお、第1電磁弁47を、冷媒Aの通流状態では当該冷媒Aの流量を調整可能な構成としてもよい。
【0021】
第1冷媒回路50には、圧縮機31と凝縮器32との間から分岐される3つの第1分岐路52、第2分岐路53、第3分岐路54が設けられている。
【0022】
第1分岐路52は、冷媒Aを圧縮機31と凝縮器32との間から分岐させて、温調用空気Pを加熱する加熱用熱交換器35(加熱手段の一例)に通流させ、第1冷媒回路50における第1膨張弁33と第1蒸発器34との間に戻すように構成されている。第1分岐路52には、冷媒Aの流れ方向の上流側から順に、温調用空気Pを加熱する加熱用熱交換器35、第1分岐路52を通流する冷媒Aの流量を調整自在で、当該冷媒Aを膨張させることが可能な第3膨張弁42が配設されている。なお、加熱用熱交換器35は、第1蒸発器34で冷却された温調用空気Pと圧縮機31から吐出された冷媒Aとを熱交換させて、温調用空気Pを加熱させるように構成されている。
【0023】
第2分岐路53は、冷媒Aを圧縮機31と凝縮器32との間から分岐させて、第2冷媒回路51における第2膨張弁36と第2蒸発器37との間に戻すように構成されている。第2分岐路53には、冷媒Aの流れ方向の上流側から順に、第2蒸発器37にて冷却された水Qを、第2分岐路53を通流する冷媒Aと熱交換させて、水Qを温調する温調部38、第2分岐路53を通流する冷媒Aの断続、すなわち、当該冷媒Aの通流の停止状態と通流状態とに切換できるように構成された第2電磁弁48が配設されている。第2電磁弁48を、冷媒Aの通流状態では当該冷媒Aの流量を調整可能な構成としてもよい。
【0024】
第3分岐路54は、冷媒Aを圧縮機31と凝縮器32との間から分岐させて、圧縮空気Rを温調する温調部40を通流させ、第1冷媒回路50における第1膨張弁33と第1蒸発器34との間に戻すように構成されている。第3分岐路54には、冷媒Aの流れ方向の上流側から順に、冷却部39にて冷却された圧縮空気Rを、第3分岐路54を通流する冷媒Aと熱交換させて、圧縮空気Rを温調する温調部40、第3分岐路54を通流する冷媒Aの流量を調整自在で、当該冷媒Aを膨張させることが可能な第4膨張弁43、第3分岐路54を通流する冷媒Aの断続、すなわち、当該冷媒Aの通流の停止状態と通流状態とに切換できるように構成された第3電磁弁49が配設されている。なお、冷却部39は、圧縮空気Rと後述する第1蒸発器34にて冷却された第2分岐温調用空気P2とを熱交換させて、圧縮空気Rを冷却させるように構成されている。
【0025】
ブース1及び温調装置Eには、温調用空気Pを、第1蒸発器34、加熱用交換器35及び冷却部39、ブロア4(送風手段の一例)、ブース1、第1蒸発器34の順に循環通流させる温調用空気循環路5が設けられている。なお、この温調用空気循環路5に設けられたブロア4は、温調された温調用空気Pを温調用空気循環路5に循環通流させ、ブース1内に送り込む送風手段として機能する。
【0026】
この温調用空気循環路5において、第1蒸発器34と加熱用熱交換器35との間には、第1蒸発器34を通過した温調用空気Pを、加熱用熱交換器35に供給する第1分岐温調用空気P1と冷却部39に供給する第2分岐温調用空気P2とに分岐する分岐手段61が設けられている。詳細な説明は省略するが、分岐手段61は、第1蒸発器34を通過した第1分岐温調用空気P1を加熱用熱交換器35に導く第1流路61aと、第1蒸発器34を通過した第2分岐温調用空気P2を冷却部39に導く第2流路61bとから構成されている。なお、第1流路61aと第2流路61bとは、第1流路61aを通流する第1分岐温調用空気P1の流量と第2流路61bを通流する第2分岐温調用空気P2の流量との関係が予め設定された関係(例えば、1対1)となるように流路面積等が調整されている。
さらに、この温調用空気循環路5において、加熱用熱交換器35及び冷却部39とブロア4との間には、加熱用熱交換器35を通過した第1分岐温調用空気P1と冷却部39を通過した第2分岐温調用空気P2とを合流させて、合流させた温調用空気Pをブロア4に供給する合流手段62が設けられている。詳細な説明は省略するが、合流手段62は、加熱用熱交換器35を通過した第1分岐温調用空気P1をブロア4に導く第3流路62aと、冷却部39を通過した第2分岐温調用空気P2を第3流路62aの途中部分に供給する第4流路62bとから構成されている。
なお、図2に示すように、温調用空気循環路5に配設される加熱用熱交換器35及び冷却部39は一体の熱交換器として構成されている。
【0027】
また、この温調用空気循環路5における第1蒸発器34の上流側とブース1の下流側との間には外部空気導入路10が接続され、この外部空気導入路10を介してブース1の外部から温調用空気循環路5に外部空気OA(空気)を導入可能に構成されている。温調用空気循環路5と接続する外部空気導入路10内の一端部には、当該外部空気導入路10から温調用空気循環路5に導入される外部空気OAの量を調整可能なダンパー11(流量調整手段の一例)が配設され、外部空気導入路10の他端部は大気解放されている。また、制御部3は、ダンパー11の開度を制御して、温調用空気循環路5に導入される外部空気OAの量を調整可能に構成されている。
上記より、温調手段2は、少なくとも第1蒸発器34、加熱用交換器35、ブロア4、温調用空気循環路5、外部空気導入路10及びダンパー11を備えて構成されている。
【0028】
温調装置Eには、圧縮空気Rを、第1ポンプ6a、冷却部39、温調部40の順に循環通流させる圧縮空気循環路6が設けられている。この圧縮空気循環路6に設けられた第1ポンプ6aは、圧縮空気Rを圧縮空気循環路6に循環通流させる循環手段として機能する。なお、圧縮空気循環路6は、圧縮空気Rをブース1内の各種機器に供給可能に構成することができ、必要に応じて、ブース1内において圧縮空気Rを利用することもできる。
【0029】
温調装置Eには、水Qを、第2蒸発器37、温調部38、第2ポンプ7a、の順に循環通流させる水循環路7が設けられている。この水循環路7に設けられた第2ポンプ7aは、水Qを水循環路7に循環通流させる循環手段として機能する。なお、水循環路7は、水Qをブース1内の各種機器に供給可能に構成することができ、必要に応じて、ブース1内において水Qを利用することもできる。
【0030】
ブース1内には、ブース1内の温調用空気Pの温度を検出する空気温度センサ8が配設されている。空気温度センサ8による温度検出結果は、制御部3に入力される構成となっている。制御部3に入力された温度検出結果は、ブース1内の温度が設定温度となるように制御するための制御対象温度として参照される。
【0031】
また、ブース1内には、ブース1内の圧力を検出する圧力センサ9(圧力検出手段の一例)が配設されている。圧力センサ9としては公知の圧力センサを採用することができる。圧力センサ9による圧力検出結果は、制御部3に入力される構成となっている。なお、制御部3に入力された圧力検出結果は、後述するように、電子顕微鏡Fの運転開始時t1の圧力K1は基準圧力K1aとして用いられ、また、電子顕微鏡Fの運転開始時t1から運転停止時t2には、ブース1内の圧力が上記基準圧力K1aに維持されるように制御するための制御対象圧力として参照される。
【0032】
制御部3は、公知の情報演算処理手段から構成され、ブロア4、第1ポンプ6a、第2ポンプ7a及びダンパー11の制御のほかに、第1電磁弁47、第2電磁弁48、第3電磁弁49、圧縮機31、第1膨張弁33、第2膨張弁36、第3膨張弁42、第4膨張弁43等の動作を制御し、温調用空気P、水Q及び圧縮空気Rの流量や温度制御等が可能に構成されている。なお、制御部3には、各機器の作動状態に関する信号が、当該各機器から入力されるように構成されている。また、図示を省略するが、制御部3には各種情報を記憶可能な記憶部を備えている。
【0033】
次に、温調装置Eの運転について説明する。
図1に示すように、電子顕微鏡Fの運転を開始しようとするときには、まず、ユーザが測定対象の試料27をケース21内の測定空間20における測定台26上に載置した後、操作部(図示せず)を操作して電子顕微鏡Fを起動し、真空ポンプ(図示せず)等を用いて測定空間20内を略真空状態とする。そして、ユーザが操作部を操作して温調装置Eを起動させると共に、電子顕微鏡Fの周囲の温度(ブース1内の温度)が測定に最適な温度(設定温度:例えば20〜22℃)となるように、当該設定温度を入力する。なお、温調装置Eの起動と同時に、予め設定された温度を記憶部から読み出して、設定温度として用いてもよい。
【0034】
温調装置Eが起動されると、制御部3は、空気温度センサ8により検出されたブース1内の温調用空気Pの温度が設定温度となるように、温調装置Eの運転を制御する。この際には、温調用空気Pは温調用空気循環路5を通流する際に、第1蒸発器34にて冷却され、加熱用熱交換器35及び冷却部39にて加熱されて設定温度に温調される(図2参照)。
また、制御部3は、図3に示すように、ブロア4を一定の出力で運転させ、温調装置Eにより温調された一定量の温調用空気Pをブース1内に送り込んで、ブース1内の圧力K1(図3の実線)を、大気圧K0(図3の破線)よりも一定値ΔKだけ大きな圧力(陽圧)にする(図3参照)。この一定値ΔKは、ブース1内の圧力K1の最小値が大気圧K0の最大値よりも常に大きくなるような圧力に設定されている。そして、例えば、この状態では、制御部3は、外部空気導入路10に配設されたダンパー11の開度を、50%程度の開度とし、温調用空気循環路5と外部空気導入路10との合流箇所の下流側における温調用空気Pと外部空気OAとの通流割合を、温調用空気P:外部空気OA=9:1程度とする。なお、ブロア4の出力やダンパー11の開度、温調用空気Pと外部空気OAとの通流割合等は例示であり適宜変更することが可能である。
【0035】
次に、制御部3は、空気温度センサ8により検出されたブース1内の温調用空気Pの温度が上記設定温度となると、圧力センサ9によりブース1内の圧力K1を検出し、当該圧力K1を基準圧力K1a(陽圧)として設定する。そして、制御部3は、ブロア4の出力及びダンパー11の開度を調整して、ブース1内の圧力K1を、設定された基準圧力K1aに維持する。具体的には、制御部3は、基準圧力K1aの設定後、圧力センサ9により順次検出される圧力K1が当該基準圧力K1aに維持されるように、上述のように一定の出力で運転されるブロア4の出力を、当該出力よりも低下させ、さらに、上述のように開度調整されたダンパー11の開度を、当該開度よりも大きくする。
【0036】
ここで、上述のようにブース1内の温調用空気Pの温度が設定温度となると、電子顕微鏡Fの運転(測定)が開始できる状態となるため、上記では、この時点におけるブース1内の圧力K1を基準圧力K1aとしている。すなわち、制御部3は、電子顕微鏡Fの運転開始時のブース1内の圧力K1を基準圧力K1aとして、電子顕微鏡Fの運転開始時t1から運転停止時t2までの間(運転時間:Δt)、ブース1内の圧力K1を基準圧力K1aに維持している。この電子顕微鏡Fの運転時間Δtは、例えば、数時間とされる。なお、一般的に、大気圧K0は比較的長い周期(例えば、1日や2日)で変動するため、電子顕微鏡Fの運転時間Δt内(数時間程度)では当該大気圧K0の変動幅は比較的小さくなり、上述のようにブース1内の圧力K1を基準圧力K1aに維持しても、当該ブース1内の圧力K1(基準圧力K1a)は常に陽圧に維持されることとなる(ブース1内の圧力K1(基準圧力K1a)が、大気圧K0以下となることはない)。
【0037】
次に、試料27の測定が終了し、電子顕微鏡Fの運転(測定)が停止する運転停止時t2には、制御部3は、ブロア4を一定の出力での運転に戻すとともに、ダンパー11の開度を、50%程度の開度に戻す。すなわち、制御部3は、ブース1内の圧力K1を基準圧力K1aに維持する制御を停止し、温調装置Eにより温調された一定量の温調用空気Pをブース1内に送り込んで、ブース1内の圧力K1(図3の実線)を、電子顕微鏡Fの運転時における基準圧力K1aよりも大きな圧力で、しかも、大気圧K0(図3の破線)よりも一定値(ΔK)だけ大きな圧力にまで上昇させる(図3参照)。
【0038】
これにより、ブース1内の圧力K1は常に陽圧に維持されるが、電子顕微鏡Fの運転開始t1から運転停止t2までの時間だけ均一な圧力(基準圧力K1a)に維持される。従って、電子顕微鏡Fの運転時(運転時間:Δt)には、ブース1内の圧力K1を陽圧で、しかも均一な圧力(基準圧力K1a)に維持することができるので、電子顕微鏡Fの運転を安定させ測定精度の低下を抑制することができる。また、均一に維持されるブース1内の圧力K1は電子顕微鏡Fの運転開始時t1の基準圧力K1aであるので、当該基準圧力K1aが単に維持されるようにブロア4及びダンパー11の運転を行うだけで(ブロア4の出力の増減の幅が小さな状態の運転で)、ブース1内の圧力K1を所望の均一の圧力に容易に維持することができる。さらに、電子顕微鏡Fの運転時のみブース1内の圧力K1を均一に維持するだけでよいので、電子顕微鏡Fの運転時以外にはブース1内を均一な圧力にするために、出力を増減させてブロア4を運転させる必要がなくなる(単に一定の出力で運転すればよくなる)とともに、ダンパー11の開度を調整したりする必要がなくなり、省エネを図ることができる。また、圧力センサ9によるブース1内の圧力検出も、電子顕微鏡Fの運転開始時t1及び運転時だけでよく、圧力の監視負担も軽減する。なお、このような構成としても、温調手段2により温調された温調用空気Pがブース1内に送り込まれることによりブース1内を所望の設定温度に温調でき、また、温調用空気Pが送り込まれてブース1内が陽圧とされることにより、ブース1の外部からブース1内に塵埃等が侵入することを防止することができる。
【0039】
しかも、上述のように、電子顕微鏡Fにおいて、ブース1の内部空間と、当該ブース1の内部空間に配設された電子顕微鏡Fのケース21により区画される測定空間20とを連通する開口部22が、シール部材23を介して締結具24で固定されたフランジ蓋体25により閉塞されているので、仮に、ブース1内の圧力変動等が発生すると、当該電子顕微鏡Fではシール部材23が伸縮して、フランジ蓋体25から延出する測定台26が移動する虞がある。しかしながら、当該構成の電子顕微鏡Fを採用したとしても、電子顕微鏡Fの運転時にはブース1内の圧力K1が均一に維持されているので、シール部材23を介して固定されたフランジ蓋体25及び測定台26上に載置された測定対象の試料27が移動してしまうことがなく、電子顕微鏡Fの測定精度の低下を防止することができる。
【0040】
さらに、温調用空気循環路5を循環通風する温調用空気Pの流量(ブース1内に供給される温調用空気Pの量)は、当該温調空気循環路5に配設されたブロア4の運転状態を制御することで調整できることに加え、外部空気導入路10に配設されたダンパー11の作動状態を制御することで調整することができ、ブース1内の圧力K1をより確実に陽圧で、しかも均一な圧力(基準圧力K1a)に維持することができる。
【0041】
〔別実施形態〕
(A)上記実施形態においては、精密機器として電子顕微鏡Fを採用した例を述べたが、これに限らず、精密機器として、ブース1内の圧力変動により測定精度や運転状態に悪影響を受ける虞がある、ナノオーダの加工精度が要求される超精密な加工を行う加工機械等(例えば、半導体露光装置など)にも適用することができる。
【0042】
(B)上記実施形態においては、圧力センサ9によりブース1内の圧力K1を基準圧力K1aとして検出する際に、その検出タイミングを電子顕微鏡Fの運転(測定)開始時t1とする例について説明したが、特にこの構成に限定されるものではなく、例えば、電子顕微鏡の運転(測定)開始前(運転開始時t1よりも前)に圧力センサ9によりブース1内の圧力K1を基準圧力K1aとして検出する構成としてもよい。
【0043】
(C)上記実施形態においては、電子顕微鏡Fの運転時においてブース1内の圧力K1を基準圧力K1aに維持する際に、ブース1内の圧力K1が時間の経過とともに増加する傾向にある場合において(図3参照)、ブロア4の出力を低下させ、ダンパー11の開度を大きくする例について説明したが、適切にブース1内の圧力K1を基準圧力K1aに維持できる構成であれば、特にこの構成に限定されるものではない。
例えば、ブース1内の圧力K1が時間の経過とともに減少する傾向にある場合には、ブロア4の出力を上昇させ、ダンパー11の開度を小さくするように調整して、電子顕微鏡Fの運転時においてブース1内の圧力K1を基準圧力K1aに維持することもできる。また、ブロア4による温調用空気Pの送り込みのみで、ブース1内の圧力K1を大気圧K0よりも大きくすることができ、しかも、ブロア4の出力の調整で、電子顕微鏡Fの運転時にブース1内の圧力K1を基準圧力K1aに維持することができれば、ダンパー11を省略する構成とすることもできる。
【0044】
(D)上記実施形態においては、温調装置Eにおいて温調用空気Pのほかに、水Q及び圧縮空気Rを温調することができる構成について説明したが、水Q及び圧縮空気Rが必要なければ、これら水Q及び圧縮空気Rに関する構成を省略した温調装置を採用することもできる。この場合、例えば、第2冷媒回路51、第1分岐路52、第2分岐路53、第3分岐路54、圧縮空気循環路6、水循環路7、分岐手段61及び合流手段62を省略し、加熱手段としての加熱用熱交換器35の替わりに、電気ヒータ等を用いた構成の温調装置とすることができる。
また、温調装置Eにおける冷却手段や加熱手段としては、温調用空気Pを冷却できる公知の冷却手段や加熱できる公知の加熱手段を用いることができる。また、冷却手段や加熱手段の数についても適宜設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上説明したように、精密機器が配設されたブース内の圧力の変動を防止して測定精度の低下を抑制しつつ、省エネをも実現できる温調装置として有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 ブース
2 温調手段
3 制御部(制御手段)
4 ブロア(送風手段)
5 温調用空気循環路
9 圧力センサ(圧力検出手段)
10 外部空気導入路
11 ダンパー(流量調整手段)
20 測定空間
21 ケース
22 開口部
23 ゴムパッキン(シール部材)
24 ボルト・ナット(締結具)
25 フランジ蓋体
26 測定台
27 試料
34 第1蒸発器(冷却手段)
35 加熱用熱交換器(加熱手段)
E 温調装置
F 電子顕微鏡(精密機器)
P 温調用空気
OA 外部空気(空気)
0 大気圧
1 ブース内の圧力
1a 基準圧力
t1 運転開始時
t2 運転停止時

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精密機器が配設されたブース内に、温調用空気を供給して前記ブース内を温調する温調手段と、前記温調手段の運転を制御する制御手段とを備えた温調装置であって、
前記ブース内の圧力を検出する圧力検出手段を前記ブース内に備え、
前記温調手段が、温調された前記温調用空気を前記ブース内に送り込む送風手段を備え、
前記制御手段が、前記送風手段を運転させて前記ブース内に前記温調用空気を送り込んで、前記ブース内の圧力を大気圧よりも大きな圧力にするとともに、
前記制御手段が、前記精密機器の運転開始時又は運転開始前に前記圧力検出手段により前記ブース内の圧力である基準圧力を検出させ、前記送風手段の運転を制御して、前記精密機器の運転開始時から運転停止までの間、前記ブース内の圧力を前記基準圧力に維持する温調装置。
【請求項2】
前記精密機器が電子顕微鏡であり、前記電子顕微鏡が、内部に測定空間を形成するケースと、前記ケースに形成された開口部にシール部材を介して締結具により固定されたフランジ蓋体と、前記フランジ蓋体から前記測定空間内に延出された測定台とを備え、前記測定台上に測定対象の試料が載置されるように構成されている請求項1に記載の温調装置。
【請求項3】
前記温調手段が、前記温調用空気を冷却する冷却手段及び加熱する加熱手段と、前記温調用空気を、前記冷却手段、前記加熱手段、前記送風手段、前記ブース、前記冷却手段の順に循環通風させる温調用空気循環路と、前記ブースの外部の空気を前記温調用空気循環路における前記冷却手段の上流側と前記ブースの下流側との間に導入可能な外部空気導入路と、前記外部空気導入路に配設され、前記ブースの外部から導入される空気の量を調整可能な流量調整手段とを備える請求項1又は2に記載の温調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−149817(P2012−149817A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8596(P2011−8596)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000229047)日本スピンドル製造株式会社 (328)
【Fターム(参考)】