温調装置
【課題】運転の安定を正確かつ迅速に判断し、ブース内の空気温度を短い時間で且つハンチングを防止しつつ空気用目標設定温度に収束させ、省エネを実現する温調装置の提供。
【解決手段】空気温度P1の温度制御範囲の異なるレベルが相互にオーバーラップして設定され、レベル間を移動可能なステップサーモ方式で温調手段の温調出力をPID制御する温調装置で、制御手段が、流体温度Q1を流体用目標設定温度Q2にPID制御する構成で、各レベルに異なる流体用目標設定温度Q2を設定し各レベルに制御の基準点を夫々設定し各基準点に該各基準点に所定温度を加算又は減算した基準点変更用閾温度Cを夫々設定し、現在の基準点を制御基準とした制御状態にて、空気温度P1が現在の基準点での現在のレベルから新たなレベルに移動後、現在の基準点の基準点変更用閾温度Cに初めて到達した場合に、現在の基準点を新たなレベルの新たな基準点に変更しPID制御する。
【解決手段】空気温度P1の温度制御範囲の異なるレベルが相互にオーバーラップして設定され、レベル間を移動可能なステップサーモ方式で温調手段の温調出力をPID制御する温調装置で、制御手段が、流体温度Q1を流体用目標設定温度Q2にPID制御する構成で、各レベルに異なる流体用目標設定温度Q2を設定し各レベルに制御の基準点を夫々設定し各基準点に該各基準点に所定温度を加算又は減算した基準点変更用閾温度Cを夫々設定し、現在の基準点を制御基準とした制御状態にて、空気温度P1が現在の基準点での現在のレベルから新たなレベルに移動後、現在の基準点の基準点変更用閾温度Cに初めて到達した場合に、現在の基準点を新たなレベルの新たな基準点に変更しPID制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブース内に流体を供給してブース内の空気を温調する温調手段と、ブース内の空気の空気温度を検出する空気温度検出手段と、温調手段の運転を制御する制御手段とを備えた温調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子顕微鏡等の精密機器による各種作業は、周囲温度等の環境からの影響により、その計測精度や運転状態が大きな悪影響を受ける場合があることから、通常、精密機器が配設されるブース内の温度を所定温度に温調する温調装置が採用される。
このような温調装置として、ブース内に供給される空気の空気温度を、PID制御を用いて所定の空気用目標設定温度に温調して、当該温調された空気をブース内に直接送風する送風式の温調装置がある(特許文献1参照)。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の温調装置では、温調手段の温調出力の制御として、いわゆるステップサーモ方式が採用されている。具体的には、ブース内の空気温度の温度制御範囲として下限値と上限値とが設定された温度制御範囲の異なる複数のレベルが、当該複数のレベルのうち隣接するレベルの温度制御範囲を相互にオーバーラップさせた環状ステップを形成するように設定されている。そして、制御手段が、現在のレベルにおいて温調手段の温調出力を制御している制御状態において、空気温度が現在のレベルの温度制御範囲における上限値に到達した場合には、現在のレベルを、より大きな上限値を有する新たなレベルに変更して温調出力を上昇させ、空気温度が現在のレベルの温度制御範囲における下限値に到達した場合には、現在のレベルを、より小さな下限値を有する新たなレベルに変更して温調出力を低下させるように、複数のレベル間に亘って移動可能なステップサーモ方式を用いている。一方、特定のレベルにおける温度制御は、所定の空気用目標設定温度を目標温度とするPID制御となっている。なお、特許文献1に記載の温調装置では、各レベルの温度制御範囲は、制御手段により空気温度に応じて冷凍機、加熱器、冷凍機の冷媒レヒートコイル、冷凍機のアンロード(冷媒の容量制御)のそれぞれの機器の運転・停止の信号が指令されることで、異なる温調出力の温度制御範囲となるように設定される。
【0004】
そして、温調手段の温調出力をPID制御している制御状態において、例えば、空気温度が現在のレベルにおける温度制御範囲の上限値に到達して現在のレベルから新たなレベルに変更後、当該新たなレベルにおいて下限値方向に移動し、新たなレベルの基準点付近で安定した場合には、運転が安定していると判断して、制御の基準となる現在の基準点が新たなレベルの基準点となるように温度制御範囲が変更される。
【0005】
これにより、PID制御により、温度振れの少ない温度制御が行えるとともに、各レベルの温度制御範囲を越えたときに新たなレベルに変更し、新たなレベルにおける空気温度の変化状況に応じて、現在の基準点を新たな基準点に変更することができ、無駄のない温度制御を実現できるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−316448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上述のとおり、特許文献1に記載の温調装置では、現在のレベルから新たなレベルに変更され、当該新たなレベルにおいて新たなレベルの基準点付近で安定した場合に、制御手段が、新たなレベルにおいて運転が安定していると判断するものとされている。
しかしながら、PID制御方式を採用しているとはいえ、通常、系が新たなレベルに対応する基準点付近で安定するとは限らず、安定するとしてもそれまでには、新たなレベルに変更後、比較的長い時間が必要となる。また、特許文献1においては、新たなレベルに対応する基準点付近で運転が安定したことを、実質的に、どのタイミングで判断するのかは明確にされていない。そのため、制御において問題となるハンチングを起こしたり、運転が安定する場合には、既に運転が安定している状態であるにも拘らず、或いは、運転が安定していると予測できるにも拘わらず、運転の安定の判定までに比較的長い時間がかかる虞があった。
【0008】
よって、ブース内の空気の空気温度が空気用目標設定温度を挟んで比較的長い時間ハンチングしたり、当該空気温度が空気用目標設定温度に収束するまでに比較的長い時間が必要となる虞があり、この場合、温調手段の運転のために余分なエネルギーが必要となる。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ブース内を温調する際に、運転が安定することを正確かつ迅速に判断して、ブース内の空気の空気温度を短い時間で且つハンチングを防止しながら空気用目標設定温度に収束するように安定させ、省エネを実現できる温調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る温調装置は、ブース内に流体を供給して前記ブース内の空気を温調する温調手段と、前記ブース内の空気の空気温度を検出する空気温度検出手段と、前記温調手段の運転を制御する制御手段とを備え、前記空気温度の温度制御範囲として下限値と上限値とが設定された温度制御範囲の異なる複数のレベルが、当該複数のレベルのうち隣接するレベルの前記温度制御範囲を相互にオーバーラップさせた環状ステップを形成するように設定され、前記制御手段が、現在のレベルにおいて前記温調手段の温調出力を制御している制御状態において、前記空気温度が前記現在のレベルの温度制御範囲における上限値に到達した場合には、前記現在のレベルを、より大きな上限値を有する新たなレベルに変更して温調出力を上昇させ、前記空気温度が前記現在のレベルの温度制御範囲における下限値に到達した場合には、前記現在のレベルを、より小さな下限値を有する新たなレベルに変更して温調出力を低下させるように、前記複数のレベル間に亘って移動可能なステップサーモ方式の下に、前記温調手段の温調出力をPID制御する温調装置であって、その特徴構成は、
前記ブース内に供給される流体の流体温度を検出する流体温度検出手段を備え、
前記制御手段が、前記流体温度検出手段により検出される流体温度が流体用目標設定温度となるように前記温調手段をPID制御する構成で、
前記複数のレベルそれぞれに、異なる温度の前記流体用目標設定温度が対応して設定され、
前記各レベルには、制御の基準となる基準点がそれぞれ対応して設定されるとともに、各基準点には、当該各基準点に所定温度を加算又は減算した基準点変更用閾温度がそれぞれ対応して設定され、
前記各基準点に加算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する前記各レベルにおける温度制御範囲の上限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定されるとともに、前記各基準点に減算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する前記各レベルにおける温度制御範囲の下限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定され、
現在の基準点を制御の基準として前記温調手段の温調出力をPID制御している制御状態において、前記空気温度が、前記現在の基準点に対応する現在の前記レベルから新たな前記レベルに移動した後、前記現在の基準点に対応して設定された前記基準点変更用閾温度に初めて到達した場合に、前記制御手段が、当該現在の基準点を当該新たなレベルに設定された新たな基準点に変更し、当該新たな基準点を制御の基準として、前記温調手段の温調出力をPID制御する点にある。
【0011】
ここで、PID制御とは、設定された目標温度に対して、比例、積分、微分による制御を行う制御方式であって、比例制御による残留偏差を積分制御によって解消するとともに、負荷の変動による目標温度からのズレに対し、微分制御によって修正し制御応答の迅速性を確保する制御をいう。
【0012】
上記特徴構成によれば、基本的に、制御手段は、ブース内に供給される流体の流体温度(流体温度検出手段により検出される流体温度)が流体用目標設定温度となるように、温調手段の温調出力の運転制御(PID制御)を実行する。
この際には、ブース内において検出される空気の空気温度の温度制御範囲として下限値と上限値とが設定された温度制御範囲が異なる複数のレベルが設定され、複数のレベルのうち隣接するレベルの温度制御範囲が相互にオーバーラップした環状ステップを形成するように設定される。これにより、制御手段が、現在のレベルにおいて温調手段の温調出力をPID制御している制御状態において、空気温度が現在のレベルの温度制御範囲における上限値に到達した場合には、現在のレベルを、より大きな上限値を有する新たなレベルに変更して温調出力を上昇させ、空気温度が現在のレベルの温度制御範囲における下限値に到達した場合には、現在のレベルを、より小さな下限値を有する新たなレベルに変更して温調出力を低下させるように、複数のレベル間に亘って移動可能なステップサーモ方式の下で、温調手段の温調出力をPID制御する。
【0013】
また、複数のレベルそれぞれに、異なる温度の流体用目標設定温度が対応して設定される。これにより、制御手段が、ステップサーモ方式の下で温調手段の温調出力を制御するにあたり、流体温度が各レベルに対応する異なる温度の流体用目標設定温度となるように、温調手段の運転を各レベルごとの温調出力でPID制御する。従って、リアルタイムに流体用目標設定温度を変更する場合と比較すると、本特徴構成によれば、レベルの数の分だけ流体用目標設定温度を設定して、レベル間を往復する場合にのみ流体用目標設定温度を変更するだけでよく、流体の温度変化を小さくすることができるとともに、空気温度の温度変化も小さくすることができ、安定した温度制御が可能となる。特に、PID制御を用いているので、より確実且つ迅速に流体温度を流体用目標設定温度に収束させることが可能となる。
【0014】
更に、制御手段では、ステップサーモ方式の下で温調手段の温調出力をPID制御するにあたり、各レベルに対応して制御の基準となる基準点がそれぞれ設定されるとともに、各基準点には、当該各基準点に所定温度を加算又は減算した基準点変更用閾温度がそれぞれ対応して設定されている。そして、制御手段は、現在の基準点を制御の基準として温調手段の温調出力を制御している制御状態において、ブース内や外部の負荷等の影響によりブース内の空気温度が、現在の基準点に対応する現在のレベルから新たなレベルに移動した後、現在の基準点に対応して設定された基準点変更用閾温度に初めて到達した場合に、当該現在の基準点を当該新たなレベルに設定された新たな基準点に変更する制御を実行する。
すなわち、上述のとおり、現在のレベルから新たなレベルに変更された後、空気温度が、新たなレベルにおいて現在の基準点に近づく方向に移動して、当該現在の基準点に対応して設定された基準点変更用閾温度に初めて到達した場合には、空気温度が当該新たなレベル以外のレベルを移動することがないものとして、当該新たなレベル内において安定するものと判断する。このように、新たなレベルにおいて、系が現在の基準点に近づく方向に移動する挙動を示す場合には、当該新たなレベルの温調出力にて温調することにより空気温度が空気用目標設定温度に収束する可能性があるものと判断することができる。
【0015】
ここで、各基準点に所定温度を加算又は減算した基準点変更用閾温度は、各基準点に加算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する各レベルにおける温度制御範囲の上限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定されるとともに、各基準点に減算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する各レベルにおける温度制御範囲の下限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定されている。これにより、現在の基準点から新たな基準点への変更により、空気温度は、新たなレベルに位置する状態を維持しながら、現在の基準点と新たな基準点との差分値(正の値)だけ増分した位置に変更されることとなる。この場合、新たなレベルの温度制御範囲が、現在の基準点と新たな基準点との差分値(正の値)と、現在の基準点に対応する基準点変更用閾温度との和よりも大きく設定されているので、現在の基準点を新たな基準点に変更したとしても、空気温度は、新たなレベルに位置する状態を維持したまま(レベルが変更することなく)、現在の基準点と新たな基準点との差分値だけ増分することとなる。
【0016】
これらにより、運転が安定するか否かを判断するタイミングを明確にすることができるとともに、当該タイミングを正確かつ迅速に判断することができる。また、空気温度が空気用目標設定温度に収束すると予測できる新たなレベルでの移動状態で、当該新たなレベルに対応する新たな基準点を制御の基準として用いることで、新たな基準点からの空気温度の偏移量の絶対値を現在の基準点からの空気温度の偏移量の絶対値よりも比較的小さく抑えることができる。
よって、的確かつ迅速に新たな基準点を基準とした温調出力のPID制御を実行することができ、ブース内の空気の空気温度を短い時間で且つハンチングを防止しながら空気用目標設定温度に収束させることが可能となり、省エネを実現することができる。
【0017】
本発明に係る温調装置の更なる特徴構成は、前記温調手段が、前記ブース内に配設された輻射パネル内に前記流体としての熱媒を循環供給して前記ブース内の空気を輻射温調する輻射温調手段で構成され、前記輻射温調手段が、前記熱媒を冷却する冷却手段と、前記冷却手段により冷却された前記熱媒を加熱する加熱手段とを備え、
前記流体温度検出手段が、前記冷却手段により冷却され、前記加熱手段により加熱される前の前記熱媒の熱媒温度を検出する熱媒温度検出手段で構成されるとともに、
前記制御手段が、前記空気温度に替えて、当該空気温度と前記ブース内における空気の空気用目標設定温度との差分値である制御変数を用いて、前記熱媒温度が前記流体用目標設定温度としての熱媒用目標設定温度となるように前記冷却手段をPID制御するとともに、前記制御変数が前記新たな基準点に収束するように前記加熱手段をPID制御する点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、ブース内に配設された輻射パネル内に熱媒を循環供給してブース内の空気を輻射温調するので、ブース内に直接空気を送風する場合と比較して、ブース内に発生する空気流を低減することができ、ブース内の精密機器の測定精度の低下を低減することができる。
また、輻射温調手段の温調出力を、ブース内の空気温度に替えて、当該空気温度と空気用目標設定温度との差分値を制御変数として用いて制御するので、空気温度が空気用目標設定温度から乖離している度合いを適切に反映させた状態で、温調出力の制御を行うことができる。
【0019】
更に、制御手段が、冷却手段により冷却されたあと加熱手段により加熱される前の熱媒の熱媒温度が熱媒用目標設定温度となるように、熱媒を冷却する冷却手段をPID制御することに加えて、制御変数が新たな基準点(制御変数がゼロとなる点)を目標温度として、当該新たな基準点に収束するように、冷却手段により冷却された熱媒を加熱する加熱手段をPID制御するので、冷却手段と加熱手段とをそれぞれ独立した状態で異なる目標温度を採用した状態でPID制御することができ、制御が複雑になることを防止することができる。また、PID制御を行う際において、例えば、主として冷却手段により熱媒を熱媒用目標設定温度に冷却しながら、副として加熱手段により当該冷却された熱媒を空気用目標設定温度に加熱して微調整する構成とすることができ、加熱手段の加熱容量を、制御変数が各レベルにおける温度制御範囲内の全域を移動可能にする程度の最低限の容量として、簡便な構成とすることができる。
【0020】
特に、ブース内に配設された輻射パネル内に熱媒を循環供給してブース内の空気を輻射温調する場合には、当該空気の空気温度に応じて当該熱媒の熱媒温度や流量を即座に変更しても、応答性が悪いためブース内の空気の温調状態を即座に変更することは困難であり、過大な時間遅れが生じて、ブース内の空気温度が空気用目標設定温度を挟んだハンチングが生じ易い。このような場合であっても、上述のとおり、新たなレベルに変更後、制御変数が、新たなレベルにおいて現在の基準点に対応する基準点変更用閾温度に初めて到達したことにより、運転が安定する可能性が高いか否かを迅速に判断して、当該迅速な判断に基づいて、現在の基準点を新たなレベルに対応する新たな基準点に変更するので、空気温度が空気用目標設定温度に収束する(制御変数がゼロに収束する)と予測できる新たなレベルでの移動状態で、当該新たな基準点を制御の基準として用いることができる。これにより、応答性の悪い輻射温調を用いる構成であっても、制御変数が新たなレベルを移動している状態において、当該新たなレベルに対応する新たな基準点からの制御変数の偏移量の絶対値を、現在の基準点からの制御変数の偏移量の絶対値よりも比較的小さく抑えることができ、空気温度をより迅速で且つハンチングを低減した状態で空気用目標設定温度に収束(制御変数をゼロに収束)させることが可能となる。
【0021】
本発明に係る温調装置の更なる特徴構成は、前記現在の基準点を制御の基準として前記温調手段の温調出力をPID制御している制御状態において、前記現在のレベルから前記新たなレベルへのレベル変更が前記温調出力の大きくなる方向又は小さくなる方向に連続して実行された後、前記現在の基準点の前記基準点変更用閾温度が変更後の前記新たなレベルの温度制御範囲内に位置するように設定される点にある。
【0022】
上記特徴構成によれば、仮に、現在のレベルから新たなレベルへのレベル変更が温調出力の大きくなる方向又は小さくなる方向に連続して(例えば、3連続や4連続で)実行された場合でも、変更後の新たなレベルの温度制御範囲内に、現在の基準点に対応する基準点変更用閾温度を位置させることが可能となり、現在の基準点から新たな基準点への変更を確実に行うことが可能となる。
【0023】
本発明に係る温調装置の更なる特徴構成は、前記各基準点は、前記各レベルの中間値に設定されている点にある。
【0024】
上記特徴構成によれば、各基準点が各レベルの温度制御範囲の下限値と上限値の中間値に設定されるので、系が特定のレベルで安定化できる場合には、制御変数が当該特定のレベルの中間値を中心として当該特定のレベル上を往復移動することとなり、当該中間値を中心とする温度制御範囲内に制御変数の変動を抑えることができ、迅速な安定化を図ることができる。
【0025】
本発明に係る温調装置の更なる特徴構成は、前記各レベルに対応する異なる温度の前記熱媒用目標設定温度が、前記空気用目標設定温度に所定値を加算又は減算した値である点にある。
【0026】
上記特徴構成によれば、ブース内の空気の空気用目標設定温度を基準として、複数のレベルそれぞれに対応する異なる温度の熱媒用目標設定温度を設定できる。これにより、例えば、空気温度と空気用目標設定温度との差分値である制御変数に応じて、制御変数が大きい場合には、熱媒用目標設定温度を空気用目標設定温度よりも低い温度に設定し、制御変数が小さい場合には、熱媒用目標設定温度を空気用目標設定温度よりも高い温度に設定することができ、ブース内の空気の温調に必要な輻射温調手段の温調出力を適切に設定することができる。よって、適切な熱媒温度に温調された熱媒からの輻射により、ブース内の空気の空気温度をより迅速に空気用目標設定温度に収束(制御変数をゼロに収束)させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】輻射温調装置を備えた輻射温調システムの概略構成図
【図2】ステップサーモ方式の各レベルにおける冷却能力と制御変数Xとの関係を示す概念図
【図3】ステップサーモ方式の基本的な制御状態において、レベル3からレベル4に変更された状態を示す概念図
【図4】ステップサーモ方式の基本的な制御状態において、レベル4からレベル5に変更された状態を示す概念図
【図5】ステップサーモ方式の基本的な制御状態において、レベル5から、順次レベル4、レベル3に変更された状態を示す概念図
【図6】ステップサーモ方式の基本的な制御状態において、レベル3からレベル2に変更され、さらにレベル3に変更された状態を示す概念図
【図7】本願に係るステップサーモ方式の制御状態において、起動時における制御変数Xに基づいてレベル3が選択された状態を示す概念図
【図8】本願に係るステップサーモ方式の制御状態において、制御変数Xが上限値fに移動し、レベル3からレベル4に変更された状態を示す概念図
【図9】変更後のレベル4において制御変数Xが上限値hに移動し、レベル4からレベル5に変更された状態を示す概念図
【図10】変更後のレベル5において制御変数Xがオーバーシュートして、上限値j方向に移動した後、下限値i方向に移動して、現在の基準点である第3基準点N3の基準点変更用閾温度C3に初めて到達した状態を示す概念図
【図11】現在の基準点である第3基準点N3が、新たな基準点である第5基準点N5に変更された状態を示す概念図
【図12】変更後のレベル5において変更後の第5基準点N5を基準としてPID制御が実行されている状態を示す概念図
【図13】変更後のレベル5において変更後の第5基準点N5の近傍で、系が安定している状態を示す概念図
【図14】制御部による輻射温調制御の概略作動フロー図
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る輻射温調装置E(温調装置の一例)を備えた輻射温調システムD(温調システムの一例)について、図1〜図14を参照しながら説明する。
【0029】
輻射温調システムDは、図1に示すように、電子顕微鏡F(精密機器の一例)が収容されるブース1と、輻射温調装置Eとを備えて構成される。
輻射温調装置Eは、ブース1内に配設された輻射パネル2a内に熱媒としての冷却水Q(流体の一例)を循環供給してブース1内の空気Pを輻射温調する輻射温調手段2(温調手段の一例)と、輻射パネル2aに供給される冷却水Qの冷却水温度Q1(流体温度及び熱媒温度の一例)を検出する冷却水用温度センサ3(流体温度検出手段及び熱媒温度検出手段の一例)と、ブース1内の空気Pの空気温度P1を検出する空気用温度センサ4(空気温度検出手段の一例)と、運転を制御する制御部5(制御手段の一例)とを備える。なお、図示を省略するが、制御部5にはブース1内の空気用目標設定温度P2及び冷却水用目標設定温度Q2(流体用目標設定温度及び熱媒用目標設定温度の一例)等を設定可能で、設定された各種情報を記憶可能な記憶部を備えている。
以下では、ブース1の構成及び輻射温調装置Eの構成を説明した後、制御部5による制御方法、及び輻射温調装置Eの運転方法について説明する。
【0030】
ブース1は、図1に示すように、壁面により側面部及び天井部が囲繞されることで、ブース1内の内部空間に外部から空気等が侵入しないように構成され、ブース1はクリーンルームとされている。ブース1内には、輻射温調装置Eから供給される冷却水Qからの輻射により、ブース1内の空気Pを温調する一対の輻射パネル2aが、互いに対向する状態で、それぞれ壁面の側面部に配設されている。ブース1の内部空間の底部には架台Gが配設され、当該架台G上に電子顕微鏡Fが載置された状態でブース1内に収容されている。
【0031】
ブース1内には、ブース1内の空気Pの空気温度P1を検出する空気用温度センサ4が配設されている。空気用温度センサ4により検出された空気温度P1は、輻射温調装置Eの制御部5に入力される構成となっている。
【0032】
輻射温調装置Eの輻射温調手段2は、冷却水Qを温調することが可能な熱交換部10(冷却手段の一例)を備える。例えば、図示しないが、輻射温調手段2を、循環通流する冷媒と熱交換することで冷却水Qを冷却、加熱可能な熱交換部10を有する公知の冷凍回路を備えた構成とすることができる。輻射温調手段2の熱交換部10は、後述するように、制御部5により冷却水Qの冷却水温度Q1が冷却水用目標設定温度Q2となるように、その運転状態(温調出力)がPID制御される。
【0033】
また、輻射温調手段2は、冷却水Qを、送液ポンプ11、熱交換部10、電気ヒータ12(加熱手段の一例)、輻射パネル2aの入口及び出口、送液ポンプ11の順に循環通流させる流体循環流路13が設けられている。この流体循環流路13に設けられた電気ヒータ12は、公知の電気ヒータであり、流体循環流路13を通流し熱交換部10により温調された冷却水Qを加熱可能に構成されている。輻射温調手段2の電気ヒータ12は、後述するように、熱交換部10により温調された冷却水Qを加熱する際、制御部5により、空気温度P1が空気用目標設定温度P2となるように、その運転状態(温調出力)がPID制御される。また、流体循環流路13に設けられた送液ポンプ11は、冷却水Qを流体循環流路13に循環通流させる循環手段として機能する。この流体循環流路13は、電気ヒータ12の下流側と輻射パネル2aの上流側との間で分岐しており、冷却水Qを一対の輻射パネル2aにそれぞれ供給可能に構成され、また、それぞれの輻射パネル2aの下流側と送液ポンプ11の上流側との間で合流しており、一対の輻射パネル2aから排出された冷却水Qを送液ポンプ11側に通流可能に構成されている。
【0034】
この流体循環流路13において熱交換部10の下流側と電気ヒータ12の上流側との間には、一対の輻射パネル2aに供給される冷却水Q(電気ヒータ12に供給される前の冷却水Q)の冷却水温度Q1を検出する冷却水用温度センサ3が配設されている。冷却水用温度センサ3により検出された冷却水温度Q1は、輻射温調装置Eの制御部5に入力される構成となっている。
【0035】
輻射パネル2aは、公知の輻射パネルにより構成され、ブース1内に一対設けられて、例えば、輻射パネル2a内に蛇行して配設された伝熱パイプ(図示せず)内を入口から出口に向かって冷却水Qが通流することにより、当該冷却水Qからの輻射(伝熱)によりブース1内の空気Pを温調することが可能に構成されている。
【0036】
制御部5は、公知の情報演算処理手段から構成され、熱交換部10、送液ポンプ11、電気ヒータ12等の作動状態を制御し、冷却水Qの流量や温度制御等が可能に構成されている。なお、制御部5には、各機器の作動状態に関する信号が、当該各機器から入力されるように構成されている。
以下に、制御部5による輻射温調の制御方法について説明する。
【0037】
図2に示すように、制御部5は、空気用温度センサ4により検出される空気温度P1とブース1内における空気Pの空気用目標設定温度P2との差分値(P1−P2)を制御変数X(=P1−P2)とし、制御変数Xの温度制御範囲として下限値と上限値とが設定された温度制御範囲が異なる複数のレベルを設定する。本実施形態では、複数のレベルとして、下限値及び上限値が最も低い温度の温度制御範囲のレベル1から最も高い温度の温度制御範囲のレベル6までの、それぞれ異なる温度制御範囲の6つのレベルが、隣接するレベルの温度制御範囲を相互にオーバーラップさせた環状ステップを形成するように設定されている。
【0038】
また、複数のレベルのそれぞれに対応して異なる温度の冷却水用目標設定温度Q2が設定され、基本的に制御部5は、各レベルに応じて、冷却水温度Q1が当該異なる温度の各冷却水用目標設定温度Q2となるように輻射温調手段2(熱交換部10)の温調出力をPID制御する。各レベルに対応する異なる温度の各冷却水用目標設定温度Q2は、空気用目標設定温度P2に所定値を加算又は減算した値に設定される。具体的には、本実施形態では、レベル1では、冷却水用目標設定温度Q2は、空気用目標設定温度P2に2℃を加算した値(Q2=P2+2)に設定され、同様に、レベル2では、冷却水用目標設定温度Q2は、空気用目標設定温度P2に設定され、レベル3では、冷却水用目標設定温度Q2は、空気用目標設定温度P2に2℃を減算した値(Q2=P2−2)に設定され、レベル4では、冷却水用目標設定温度Q2は、空気用目標設定温度P2に4℃を減算した値(Q2=P2−4)に設定され、レベル5では、冷却水用目標設定温度Q2は、空気用目標設定温度P2に6℃を減算した値(Q2=P2−6)に設定され、レベル6では、冷却水用目標設定温度Q2は、空気用目標設定温度P2に8℃を減算した値(Q2=P2−8)に設定される。すなわち、制御部5は、レベルが変更される毎に、変更されたレベルに対応した各冷却水用目標設定温度Q2を目標温度として温調出力をPID制御するように構成されている。従って、制御部5は、複数のレベル間をステップ状に移動可能なステップサーモ方式の下で、輻射温調手段2の温調出力を制御するにあたり、レベル間で冷却・加熱能力が異なるように設定し、レベル1からレベル6に上がるに従って、加熱から冷却を行うように構成されている。具体的には、レベル6の温調出力(冷却能力)を100%とすると、レベル1の温調出力は−30%、レベル2の温調出力は0%、以下同様に、レベル3は30%、レベル4は60%、レベル5は80%に設定される。
【0039】
図2に示すように、レベル1は下限値a及び上限値bで規定される温度制御範囲(1.6℃)とされ、レベル2は下限値c及び上限値dで規定される温度制御範囲(1.6℃)とされ、レベル3は下限値e及び上限値fで規定される温度制御範囲(1.6℃)とされ、レベル4は下限値g及び上限値hで規定される温度制御範囲(1.6℃)とされ、レベル5は下限値i及び上限値jで規定される温度制御範囲(1.6℃)とされ、レベル6は下限値k及び上限値lで規定される温度制御範囲(1.6℃)とされる。
【0040】
図2に示すように、レベル1とレベル2との温度制御範囲のオーバーラップは、レベル2の下限値cからレベル1の上限値bまでであり、当該オーバーラップした温度制御範囲(1.2℃)により第1環状ステップが形成される。同様に、レベル2とレベル3との温度制御範囲のオーバーラップは、レベル3の下限値eからレベル2の上限値dまでであり、当該オーバーラップした温度制御範囲(1.2℃)により第2環状ステップが形成される。レベル3とレベル4との温度制御範囲のオーバーラップは、レベル4の下限値gからレベル3の上限値fまでであり、当該オーバーラップした温度制御範囲(1.2℃)により第3環状ステップが形成される。レベル4とレベル5との温度制御範囲のオーバーラップは、レベル5の下限値iからレベル4の上限値hまでであり、当該オーバーラップした温度制御範囲(1.2℃)により第4環状ステップが形成される。レベル5とレベル6との温度制御範囲のオーバーラップは、レベル6の下限値kからレベル5の上限値jまでであり、当該オーバーラップした温度制御範囲(1.2℃)により第5環状ステップが形成される。なお、隣接するレベル間でオーバーラップしない温度制御範囲(ac間、ce間、eg間、gi間、ik間、bd間、df間、fh間、hj、ji間)の部分(ディファレンシャル)は、それぞれ0.4℃に設定されている。
【0041】
以下、まず、本発明の基礎となるステップサーモ方式について、図2〜図6に基づいて説明する。
図2に示すように、レベル1とレベル2との間を移動する第1環状ステップでは、高い温度からc点に到達したときにレベル2をレベル1に変更し、低い温度からb点に到達したときにレベル1をレベル2に変更するように制御状態が変更される。
同様に、レベル2とレベル3との間を移動する第2環状ステップでは、高い温度からe点に到達したときにレベル3をレベル2に変更し、低い温度からd点に到達したときにレベル2をレベル3に変更するように制御状態が変更される。
レベル3とレベル4との間を移動する第3環状ステップでは、高い温度からg点に到達したときにレベル4をレベル3に変更し、低い温度からf点に到達したときにレベル3をレベル4に変更するように制御状態が変更される。
レベル4とレベル5との間を移動する第4環状ステップでは、高い温度からi点に到達したときにレベル5をレベル4に変更し、低い温度からh点に到達したときにレベル4をレベル5に変更するように制御状態が変更される。
レベル5とレベル6との間を移動する第5環状ステップでは、高い温度からk点に到達したときにレベル6をレベル5に変更し、低い温度からj点に到達したときにレベル5をレベル6に変更するように制御状態が変更される。
【0042】
また、制御部5は、輻射温調手段2の起動時には、制御変数Xの大小に応じて、上記のように設定された複数のレベルから、制御に用いるのに最適なレベルを選択する。
例えば、本実施形態では、輻射温調手段2の起動時には、レベル3の下限値eと上限値fとの中間値を起動用基準点N0として、制御変数Xがそれぞれ、所定温度制御範囲(X≦−1.2℃)にある場合にレベル1とし、所定温度制御範囲(−1.2℃<X<−0.8℃)にある場合にレベル2とし、起動用基準点N0を挟んで所定温度制御範囲(−0.8℃≦X<0.8℃)にある場合にレベル3とし、さらに、所定温度制御範囲(0.8℃≦X<1.2℃)にある場合にレベル4とし、所定温度制御範囲(1.2℃≦X<1.6℃)にある場合にレベル5とし、所定温度制御範囲(1.6℃≦X)にある場合にレベル6とするように選択可能に構成されている。
【0043】
具体的に説明すると、輻射温調装置Eの起動時(電子顕微鏡Fの作業開始前)には、制御部5は、空気用温度センサ4により検出されたブース1内の空気Pの空気温度P1と起動時に設定された空気用目標設定温度P2との温度差(差分値:P1−P2)を、制御変数X(=P1−P2)として導出する。そして、制御部5は、起動用基準点N0から制御変数Xがいずれの所定温度制御範囲にあるかに応じて、レベル1〜レベル6のうちから適切なレベルを選択する。例えば、図3に示すように、起動用基準点N0を基準として、制御変数Xの値が+0.2℃となっている場合(図3では、X1と記載)には、レベル3を選択する。
【0044】
続いて、制御部5は、冷却水温度Q1が、選択されたレベルにおいて設定されている冷却水用目標設定温度Q2(空気用目標設定温度P2に所定値を加減した値)となるように、輻射温調手段2の熱交換部10の温調出力を制御して、冷却水Qを温調する。例えば、レベル3を選択した場合には、冷却水用目標設定温度Q2を空気用目標設定温度P2に2℃を減算した値(Q2=P2−2)とし、冷却水Qの冷却水温度Q1が当該冷却水用目標設定温度Q2となるように輻射温調手段2の熱交換部10の温調出力がPID制御される。
【0045】
次に、制御部5は、起動用基準点N0を基準として制御変数Xを所定の時間間隔で繰り返し導出し、選択されたレベルにおいて制御変数Xが移動して、当該レベルの上限値或いは下限値に到達した場合には、選択されたレベルから新たなレベルに変更する。同様に、新たなレベルに変更した後も、起動用基準点N0を基準として制御変数Xを所定の時間間隔で繰り返し導出し、変更されたレベルにおいて制御変数Xが移動して、当該レベルの上限値或いは下限値に到達した場合には、変更されたレベルからさらに新たなレベルに変更する。
【0046】
例えば、図3に示すように、レベル3において制御変数Xが上限値f方向に移動して、当該上限値fに到達すると、制御部5は、レベル3からより大きな上限値を有するレベル4に変更し、温調出力を変更した状態で輻射温調手段2を運転させる。すなわち、レベル3の流体用目標設定温度Q2よりも低い温度であるレベル4の流体用目標設定温度Q2(空気用目標設定温度P2よりも4℃低い温度(Q2=P2−4))とし、熱交換部10の温調出力が制御される。その結果、例えば、図4に示すように、制御変数Xが、変更されたレベル4において当該レベル4の上限値h方向に移動して、当該上限値hに到達すると、制御部5は、さらに、当該レベル4から、より大きな上限値を有するより新たなレベル5に変更し温調出力を変更した状態で輻射温調手段2を運転させる。すなわち、レベル4の流体用目標設定温度Q2よりも低い温度であるレベル5の流体用目標設定温度Q2(空気用目標設定温度P2よりも6℃低い温度(Q2=P2−6))とし、熱交換部10の温調出力が制御される。
【0047】
また、図5に示すように、制御変数Xが、変更されたレベル5において当該レベル5の下限値i方向に移動して、当該下限値iに到達すると、制御部5は、当該レベル5からより小さな下限値を有するレベル4に変更し、当該レベル4の流体用目標設定温度Q2(Q2=P2−4)にて熱交換部10の温調出力を制御し、更に、制御変数Xが、変更されたレベル4において当該下限値g方向に移動して、当該下限値gに到達すると、制御部5は当該レベル4から、より小さな下限値を有するレベル3に変更し、当該レベル3の流体用目標設定温度Q2(Q2=P2−2)にて熱交換部10の温調出力を制御する。
【0048】
その後、図6に示すように、制御変数Xが、変更されたレベル3において当該下限値e方向に移動して、当該下限値eに到達すると、制御部5は当該レベル3をより小さな下限値を有するレベル2に変更し、当該レベル2の流体用目標設定温度Q2(空気用目標設定温度P2(Q2=P2))にて、熱交換部10の温調出力を制御し、更に、制御変数Xが、変更されたレベル2において当該レベル2の上限値d方向に移動して、当該上限値dに到達すると、制御部5は、当該レベル2をより大きな上限値を有するレベル3に変更し、当該レベル3の流体用目標設定温度Q2(空気用目標設定温度P2よりも2℃低い温度(Q2=P2−2))にて、熱交換部10の温調出力を制御する。
【0049】
このように、基本的なステップサーモ方式の制御状態では、起動用基準点N0を基準とした制御変数Xが各レベルの上限値或いは下限値に到達することで、制御変数Xが存在する現在のレベルが隣接する新たなレベルに順次変更されて、当該制御変数Xの値に応じて輻射温調手段2の熱交換部10の温調出力がステップ状に変更されるように構成されている。また、基本的なステップサーモ方式では、制御変数Xの基準点(例えば、起動用基準点N0)を固定し、各レベルにおいて、当該各レベルの下限値或いは上限値に到達した時点で、現在のレベルを隣接する新たなレベルに変更し、熱交換部10の温調出力を変更する構成とされる。
【0050】
次に、図2、図7〜図14を用いて、本願に係るステップサーモ方式について説明する。
本願に係るステップサーモ方式では、図7に示すように、上述の起動用基準点N0とは別に、複数のレベルのそれぞれに対応して、それら各レベルにおける制御の基準となる基準点(制御変数Xがゼロとなる点(X=P1−P2=0))が設定される。本実施形態では、これら複数の基準点N1〜N6(図7では、6つ)は、各レベルの温度制御範囲における中間値にそれぞれ設定される。
【0051】
具体的には、レベル1における制御の基準となる第1基準点N1は、a点とb点との中間値に設定される。同様に、レベル2における制御の基準となる第2基準点N2は、c点とd点との中間値に設定され、レベル3における制御の基準となる第3基準点N3は、e点とf点との中間値に設定され、さらに、レベル4における制御の基準となる第4基準点N4は、g点とh点との中間値に設定され、レベル5における制御の基準となる第5基準点N5は、i点とj点との中間値に設定され、レベル6における制御の基準となる第6基準点N6は、k点とl点との中間値に設定される。なお、これら基準点は、第1基準点N1から、第2基準点N2、第3基準点N3、第4基準点N4、第5基準点N5に向かうにつれて順次、相対的に制御変数Xが一定の間隔で増加する位置に設定され、当該一定の間隔は、0.4℃とされている。
【0052】
図7及び図14に示すように、輻射温調装置Eの起動時(電子顕微鏡Fの作業開始前)には、ユーザが操作部(図示せず)を操作して輻射温調装置Eを起動させると共に(ステップ♯1)、ブース1内の空気Pの空気温度P1が当該電子顕微鏡Fの作業に最適な温度(空気用目標設定温度P2:例えば18〜22℃)となるように、当該空気用目標設定温度P2を入力する(ステップ♯2)。なお、輻射温調装置Eの起動と同時に、制御部5が、予め設定された温度を記憶部(図示せず)から読み出して、空気用目標設定温度P2として用いてもよい。
【0053】
輻射温調装置Eが起動されると、制御部5は、空気用温度センサ4により検出されたブース1内の空気Pの空気温度P1と空気用目標設定温度P2との温度差(差分値:P1−P2)を、制御変数X(=P1−P2)として導出する(ステップ♯3)。そして、制御部5は、起動用基準点N0(X=P1−P2=0)から制御変数Xがいずれの所定温度制御範囲にあるかに応じて、レベル1〜レベル6のうちから適切なレベルを選択する(ステップ♯4)。例えば、図7に示すように、起動用基準点N0を基準として、制御変数Xの値が+0.2℃となっている場合(図7では、X1と記載)には、レベル3を選択する。
【0054】
続いて、制御部5は、冷却水温度Q1が選択されたレベルにおいて設定されている冷却水用目標設定温度Q2(空気用目標設定温度P2に所定値を加減した値)となるように、熱交換部10の温調出力をPID制御して冷却水Qを温調する。これに加えて、制御部5は、制御変数Xが選択されたレベルの現在の基準点(空気温度P1が空気用目標設定温度P2となり、制御変数Xがゼロ(X=P1−P2=0))となるように、電気ヒータ12の温調出力をPID制御して熱交換部10で温調された冷却水Qを温調し、制御変数Xを現在の基準点(制御変数Xがゼロ(X=0))に収束させる(ステップ♯5)。
例えば、レベル3を選択した場合には、冷却水用目標設定温度Q2を空気用目標設定温度P2から2℃減算した値(Q2=P2−2)とし、検出された冷却水Qの冷却水温度Q1が当該冷却水用目標設定温度Q2(Q1=Q2)となるように熱交換部10の温調出力がPID制御される。これに加えて、制御変数Xが現在の基準点である第3基準点N3(X=P1−P2=0)となるように、電気ヒータ12の温調出力をPID制御し熱交換部10で温調された冷却水Qを温調して、当該温調された冷却水Qによる輻射温調により、制御変数Xを第3基準点N3(制御変数Xがゼロ(X=0))に収束させる。この電気ヒータ12の加熱容量は、電気ヒータ12の運転状態により、制御変数Xが各レベルにおける温度制御範囲内の全域を移動可能にする程度の最低限の容量とされている。
なお、起動時には起動用基準点N0を基準とする制御変数Xを、選択されたレベルの温度制御範囲に位置させるようにしたが、起動してレベルを選択した後すぐに、起動用基準点N0ではなく制御変数Xが属するレベルの基準点(現在の基準点)を制御の基準として制御が行われる(起動時のみの処理)。例えば、図8に示すように、レベル3において制御変数Xが上限値f方向に移動すると、制御変数Xはレベル3に位置しているので、当該レベル3に対応する第3基準点N3を制御の基準として制御が行われる。
【0055】
次に、制御部5は、制御変数Xを所定の時間間隔で繰り返し導出し(ステップ♯6)、ブース1内或いは外部からの負荷(熱負荷)の影響等により、時間の経過とともに制御変数Xが変動し、選択されたレベルにおいて制御変数Xが移動して、当該レベルの上限値或いは下限値に到達した場合には、選択された現在のレベルから新たなレベルに変更する。その後、当該新たなレベルにおいて制御変数Xが移動して、当該レベルの上限値或いは下限値に到達した場合には、新たなレベルからより新たなレベルに変更する。このように制御変数Xが順次変動することにより、現在の基準点を制御の基準とした状態で、レベルが順次変更され、上述のように、輻射温調手段2の熱交換部10及び電気ヒータ12が夫々PID制御されて、制御変数Xを現在の基準点(制御変数Xがゼロ(X=0))に収束させるように温調出力が制御される。
【0056】
説明を加えると、例えば、図8に示すように、現在の基準点である第3基準点N3を制御の基準として輻射温調手段2の温調出力を制御している状態において、レベル3にて制御変数Xが上限値f方向に移動し、制御変数Xが当該上限値fに到達すると(図8では、X2と記載)、制御部5は、レベル3からより大きな上限値hを有するレベル4に変更し、温調出力を変更した状態で輻射温調手段2を運転させる。すなわち、レベル3における輻射温調手段2の温調出力では、制御変数Xを第3基準点N3に収束させることは困難と判断して、レベル3の流体用目標設定温度Q2よりも低い温度であるレベル4の流体用目標設定温度Q2(空気用目標設定温度P2よりも4℃低い温度)とし、熱交換部10の温調出力が制御される。
【0057】
そして、更に、図9に示すように、第3基準点N3を制御の基準として新たなレベル4で輻射温調手段2の温調出力を制御している状態において、レベル4にて制御変数Xが上限値h方向に移動し、制御変数Xが当該上限値hに到達すると(図9では、X3と記載)、制御部5は、レベル4からより大きな上限値jを有するレベル5に変更し、温調出力を更に変更した状態で輻射温調手段2を運転させる。すなわち、レベル4における輻射温調手段2の温調出力では、制御変数Xを第3基準点N3に収束させることは困難と判断して、レベル4の流体用目標設定温度Q2よりも低い温度であるレベル5の流体用目標設定温度Q2(空気用目標設定温度P2よりも6℃低い温度)とし、熱交換部10の温調出力が制御される。これにより、現在の基準点である第3基準点N3を制御の基準として輻射温調手段2の温調出力を制御して、制御変数Xを第3基準点N3(制御変数Xがゼロ(X=0))に収束させるように構成できる。
【0058】
制御部5は、上記のように、現在の基準点である第3基準点N3に対応する現在のレベルから、新たなレベルに変更したか否かを判断する(ステップ♯7)。
例えば、上述のように、レベル3からレベル4に変更され、更にレベル4からレベル5に変更された場合には、制御変数Xは、レベル3(現在のレベル)から、レベル5(新たなレベル)に移動した状態となっている(ステップ♯7:Yes)。
【0059】
一方、例えば、レベル3にて第3基準点N3を制御の基準として温調出力が制御されている状態において、当該レベル3の上限値fに到達せず、レベル3を移動している場合には、レベル4やレベル5に変更されることがなく、制御変数Xは、現在のレベルから、新たなレベルに変更されない。(ステップ♯7:No)。なお、この場合、ステップ♯6に戻り、制御変数Xの導出を繰り返す。
【0060】
ここで、各レベルの各基準点には、当該各基準点に所定温度を加算又は減算した基準点変更用閾温度Cがそれぞれ対応して設定されている。また、各基準点に加算又は減算される所定温度の絶対値は、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する各レベルにおける温度制御範囲の上限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定されるとともに、各基準点に減算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する各レベルにおける温度制御範囲の下限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定される。
具体的には、第1基準点N1には、第1基準点に0.7℃(所定温度)を加算又は減算した第1基準点変更用閾温度C1が、第1レベルの温度制御範囲内(第1基準点N1を除く温度制御範囲内)に位置するように設定され、第2基準点N2には、第2基準点に0.7℃(所定温度)を加算又は減算した第2基準点変更用閾温度C2が、第2レベルの温度制御範囲内(第2基準点N2を除く温度制御範囲内)に位置するように設定され、第3基準点N3には、第3基準点に0.7℃(所定温度)を加算又は減算した第3基準点変更用閾温度C3が、第3レベルの温度制御範囲内(第3基準点N3を除く温度制御範囲内)に位置するように設定され、第4基準点N4には、第4基準点に0.7℃(所定温度)を加算又は減算した第4基準点変更用閾温度C4が、第4レベルの温度制御範囲内(第4基準点N4を除く温度制御範囲内)に位置するように設定され、第5基準点N5には、第5基準点に0.7℃(所定温度)を加算又は減算した第5基準点変更用閾温度C5が、第5レベルの温度制御範囲内(第5基準点N5を除く温度制御範囲内)に位置するように設定されている。なお、簡単のため、図10に、第3基準点変更用閾温度C3を示し、図12に、第5基準点変更用閾温度C5を示し、その他の基準点変更用閾温度C1,C2,C4の図示を省略した。
【0061】
次に、制御変数Xが、現在の基準点に対応する現在のレベルから、新たなレベルに移動した場合には(ステップ♯7:Yes)、制御変数Xが、新たなレベルにおいて、現在の基準点に対応して設定された基準点変更用閾温度Cに初めて到達したか否かを判断する(ステップ♯8)。
例えば、レベル4からレベル5に変更された後(図9参照)、図10に示すように、レベル5において制御変数Xがオーバーシュートして、上限値j方向に移動した後、下限値i方向に移動して、現在の基準点である第3基準点N3の第3基準点変更用閾温度C3に初めて到達(図10では、X4と記載)すると(ステップ♯8:Yes)、図11に示すように、第3基準点N3(現在の基準点)をレベル5(新たなレベル)に対応する第5基準点N5(新たな基準点)に変更する(ステップ♯9)。この第3基準点N3から第5基準点N5への変更により、制御変数Xは、レベル5に位置する状態を維持しながら、第5基準点N5と第3基準点N3との差分値(正の値)だけ増分した位置に変更されることとなる。すなわち、制御変数Xは、レベル5において、X4と記載した位置からX4´と記載した位置に変更される状態となる。この場合、レベル5の温度制御範囲(ij間)が、第5基準点N5と第3基準点N3との差分値(正の値)と、第3基準点変更用閾温度C3との和よりも大きく設定されているので、第3基準点N3を第5基準点N5に変更したとしても、制御変数Xは、レベル5に位置する状態を維持したまま(レベルが変更することなく)、第5基準点N5と第3基準点N3との差分値だけ増分することとなる。同様に、各レベルの温度制御範囲は、基本的に、基準点同士の差分値(正の値)と、一方の基準点に対応する基準点変更用閾温度Cとの和よりも大きく設定されている。
なお、本実施形態では、複数設定されたレベルのうち、最上位のレベル又は最下位のレベルに変更された場合には、上述の説明に関わらず、現在の基準点から最上位又は最下位のレベルに対応する新たな基準点に即座に変更するように構成されている。
【0062】
このように、制御変数Xが、現在の基準点に対応する現在のレベルから、新たなレベルに移動し(ステップ♯7:Yes)、新たなレベルにおいて、制御変数Xがオーバーシュートして、現在の基準点に近づく方向に移動し、現在の基準点の基準点変更用閾温度Cに初めて到達した場合には(ステップ♯8:Yes)、制御変数Xが当該新たなレベル以外のレベルを移動することがないものとして、当該新たなレベル内において安定するものと判断することができる。すなわち、当該新たなレベルにおいて、現在の基準点に近づく方向に移動する挙動を示す場合には、当該新たなレベルの温調出力にて温調することにより空気温度P1が空気用目標設定温度P2に収束する可能性があるものと判断することができる。
【0063】
そしてこの状態では、図12に示すように、制御部5は、第5基準点N5を新たな現在の基準点として、検出された冷却水温度Q1がレベル5に対応した冷却水用目標設定温度Q2(Q2=P2−6)となるように、熱交換部10の温調出力をPID制御して冷却水Qを温調する。これに加えて、制御部5は、制御変数Xがレベル5の第5基準点N5(X=P1−P2=0)となるように、電気ヒータ12の温調出力をPID制御し熱交換部10で温調された冷却水Qを温調して、当該温調された冷却水Qによる輻射温調により、制御変数Xを第5基準点N5(制御変数Xがゼロ(X=0))に収束させる(ステップ♯10)。そして、制御変数Xが、レベル5内にて当該レベル5の中間値である第5基準点N5を中心として往復を繰り返して、図13に示すように、第5基準点N5を中心として系が安定し、当該第5基準点N5近傍に収束した場合には(ステップ♯11:Yes)、当該運転状態を維持する(ステップ♯12)。
一方で、制御変数Xが当該第5基準点N5近傍に収束しない場合には(ステップ♯11:No)、ステップ♯6に戻り、制御変数Xの導出を繰り返す。なお、第3基準点N3から第5基準点N5への変更に伴って、図12に示すように、第5基準点N5には、対応する第5基準点変更用閾温度C5が設定されている。
【0064】
また、一方で、例えば、レベル3からレベル5に順次変更されたものの(ステップ♯7:Yes)、制御変数Xが、レベル5(新たなレベル)において、第3基準点N3(現在の基準点)に近づく方向に移動せず、上限値j方向に移動し、第3基準点N3の第3基準点変更用閾温度C3に初めて到達しなかった場合には(ステップ♯8:No)、レベル5内において安定する可能性が低下するため、基準点の変更は行わず、第3基準点N3を制御の基準として制御を行う。なお、この場合、ステップ♯6に戻り、制御変数Xの導出を繰り返す。
【0065】
これらにより、運転が安定するか否かを判断するタイミングを明確にすることができるとともに、当該タイミングを正確かつ迅速に判断することができる。また、空気温度P1が空気用目標設定温度P2に収束する(制御変数Xがゼロに収束する)と予測できる新たなレベルでの移動状態で、当該新たなレベルに対応する新たな基準点を制御の基準として用いることで、新たな基準点からの空気温度P1の偏移量の絶対値を現在の基準点からの空気温度の偏移量の絶対値よりも比較的小さく抑えることができる。
よって、的確かつ迅速に新たな基準点を基準とした温調出力のPID制御を実行することができ、ブース内の空気の空気温度を短い時間で且つハンチングを防止しながら空気用目標設定温度に収束させることが可能となり、省エネを実現することができる。
【0066】
〔別実施形態〕
(A)上記実施形態においては、各基準点に所定温度を加算又は減算した各基準点変更用閾温度Cを設定する際に、当該所定温度の絶対値を0.7℃に設定したが、これに限らず、各基準点に加算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する各レベルにおける温度制御範囲の上限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定されるとともに、各基準点に減算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する各レベルにおける温度制御範囲の下限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定された構成とすることができる。
これに加えて、例えば、各基準点変更用閾温度を、現在の基準点を制御の基準として輻射温調手段2の温調出力をPID制御している制御状態において、現在のレベルから新たなレベルへのレベル変更が温調出力の大きくなる方向又は小さくなる方向に連続して実行された後、現在の基準点の基準点変更用閾温度Cが変更後の新たなレベルの温度制御範囲内に位置するように設定することができる。この場合、仮に、現在のレベルから新たなレベルへのレベル変更が温調出力の大きくなる方向又は小さくなる方向に連続して(例えば、3連続や4連続で)実行された場合でも、変更後のレベルの温度制御範囲内に、現在の基準点に対応する基準点変更用閾温度Cを位置させることが可能となり、現在の基準点から新たな基準点への変更を確実に行うことが可能な構成とすることができる。
【0067】
(B)上記実施形態においては、各基準点として、各レベルの温度制御範囲の下限値と上限値との中間値を用いたが、当該各基準点としては、その他の構成を採用することもできる。
例えば、各レベルの温度制御範囲の下限値と上限値との中間値よりも下限値側に或いは上限値側に一定温度だけ変位した箇所を、各基準点とすることができる。この場合、一定温度は、0.1℃〜0.6℃程度とすることができる。
【0068】
(C)上記実施形態では、輻射温調手段2の起動時において、制御変数Xに応じてレベルの選択を行ったが、起動時に選択されるレベルを予め特定のレベルに固定する構成とすることもできる。すなわち、起動時において、その特定のレベルにて輻射温調手段2の温調を制御している状態において制御変数Xを導出し、上記実施形態と同様に、制御変数Xが当該特定のレベルの上限値又は下限値に到達して、特定のレベルから順次新たなレベルに変更するように構成して、輻射温調手段2の温調出力の制御を行う構成とすることもできる。
【0069】
(D)上記実施形態においては、制御変数Xの温度制御範囲として複数の異なるレベル(例えば、6つ)を設定し、隣接するレベルの温度制御範囲を相互にオーバーラップさせた状態で設定したが、制御変数Xの温度制御範囲の具体的な温度範囲や、設定数、或いはオーバーラップする範囲等については適宜変更することができる。なお、この場合には、上記別実施形態(A)で説明したように、各レベルの各基準点変更用閾温度Cは、現在の基準点から新たな基準点への変更を確実に行うことができるように適切な温度に設定される。
【0070】
(E)上記実施形態においては、各レベルに対応する各冷却水用目標設定温度Q2を、空気用目標設定温度P2にレベルに対応した所定値を加算又は減算した値とする際の所定値として、+2、0、−2、−4、−6、−8、の6つの数値を用いて、6つのレベルを設定したが、これに限らず、各種の数値を用いることができ、レベル数も適宜増減することができる。
【0071】
(F)上記実施形態においては、空気温度検出手段により検出された空気温度P1に替えて、当該空気温度P1と空気用目標設定温度P2との温度差(差分値:P1−P2)である制御変数Xを用いて、当該制御変数Xを横軸とするステップサーモ方式について説明したが(図2〜図13の横軸参照)、当該空気温度P1自体を横軸とするステップサーモ方式にて制御する構成としてもよい。
【0072】
(G)上記実施形態においては、冷却水Q(流体の一例)を用いた輻射温調装置Eによりブース1内を温調する構成について説明したが、ブース1内に空気(流体の一例)を送風供給してブース1内の空気を温調する構成としてもよい。この場合、上記実施形態における一対の輻射パネル2aは必要なく、流体循環流路13に熱交換部10、電気ヒータ12により温調された空気を循環通流させてブース1内に送風する構成とすることができる。
【0073】
(H)上記実施形態においては、輻射温調手段として、熱交換部10(冷却手段の一例)を有する冷凍回路と、電気ヒータ12(加熱手段の一例)とを備えた構成について説明したが、冷却手段及び加熱手段としては、公知の冷却手段及び加熱手段を用いることができる。例えば、加熱手段としての電気ヒータ12に替えて、上記冷凍回路の再熱器を用いる構成とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上説明したように、ブース内を温調する際に、運転が安定することを正確かつ迅速に判断して、ブース内の空気の空気温度を短い時間で且つハンチングを防止しながら空気用目標設定温度に収束するように安定させ、省エネを実現できる温調装置として有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 ブース
2 輻射温調手段(温調手段)
2a 輻射パネル(輻射温調手段)
3 冷却水用温度センサ(流体温度検出手段及び熱媒温度検出手段)
4 空気用温度センサ(空気温度検出手段)
5 制御部(制御手段)
10 熱交換部(冷却手段、輻射温調手段)
12 電気ヒータ(加熱手段、輻射温調手段)
13 流体循環流路
X 制御変数
P1 空気温度
P2 空気用目標設定温度
Q1 冷却水温度(流体温度及び熱媒温度)
Q2 冷却水用目標設定温度(流体用目標設定温度及び熱媒用目標設定温度)
C 基準点変更用閾温度
E 輻射温調装置(温調装置)
P 空気
Q 冷却水(流体及び熱媒)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブース内に流体を供給してブース内の空気を温調する温調手段と、ブース内の空気の空気温度を検出する空気温度検出手段と、温調手段の運転を制御する制御手段とを備えた温調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子顕微鏡等の精密機器による各種作業は、周囲温度等の環境からの影響により、その計測精度や運転状態が大きな悪影響を受ける場合があることから、通常、精密機器が配設されるブース内の温度を所定温度に温調する温調装置が採用される。
このような温調装置として、ブース内に供給される空気の空気温度を、PID制御を用いて所定の空気用目標設定温度に温調して、当該温調された空気をブース内に直接送風する送風式の温調装置がある(特許文献1参照)。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の温調装置では、温調手段の温調出力の制御として、いわゆるステップサーモ方式が採用されている。具体的には、ブース内の空気温度の温度制御範囲として下限値と上限値とが設定された温度制御範囲の異なる複数のレベルが、当該複数のレベルのうち隣接するレベルの温度制御範囲を相互にオーバーラップさせた環状ステップを形成するように設定されている。そして、制御手段が、現在のレベルにおいて温調手段の温調出力を制御している制御状態において、空気温度が現在のレベルの温度制御範囲における上限値に到達した場合には、現在のレベルを、より大きな上限値を有する新たなレベルに変更して温調出力を上昇させ、空気温度が現在のレベルの温度制御範囲における下限値に到達した場合には、現在のレベルを、より小さな下限値を有する新たなレベルに変更して温調出力を低下させるように、複数のレベル間に亘って移動可能なステップサーモ方式を用いている。一方、特定のレベルにおける温度制御は、所定の空気用目標設定温度を目標温度とするPID制御となっている。なお、特許文献1に記載の温調装置では、各レベルの温度制御範囲は、制御手段により空気温度に応じて冷凍機、加熱器、冷凍機の冷媒レヒートコイル、冷凍機のアンロード(冷媒の容量制御)のそれぞれの機器の運転・停止の信号が指令されることで、異なる温調出力の温度制御範囲となるように設定される。
【0004】
そして、温調手段の温調出力をPID制御している制御状態において、例えば、空気温度が現在のレベルにおける温度制御範囲の上限値に到達して現在のレベルから新たなレベルに変更後、当該新たなレベルにおいて下限値方向に移動し、新たなレベルの基準点付近で安定した場合には、運転が安定していると判断して、制御の基準となる現在の基準点が新たなレベルの基準点となるように温度制御範囲が変更される。
【0005】
これにより、PID制御により、温度振れの少ない温度制御が行えるとともに、各レベルの温度制御範囲を越えたときに新たなレベルに変更し、新たなレベルにおける空気温度の変化状況に応じて、現在の基準点を新たな基準点に変更することができ、無駄のない温度制御を実現できるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−316448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上述のとおり、特許文献1に記載の温調装置では、現在のレベルから新たなレベルに変更され、当該新たなレベルにおいて新たなレベルの基準点付近で安定した場合に、制御手段が、新たなレベルにおいて運転が安定していると判断するものとされている。
しかしながら、PID制御方式を採用しているとはいえ、通常、系が新たなレベルに対応する基準点付近で安定するとは限らず、安定するとしてもそれまでには、新たなレベルに変更後、比較的長い時間が必要となる。また、特許文献1においては、新たなレベルに対応する基準点付近で運転が安定したことを、実質的に、どのタイミングで判断するのかは明確にされていない。そのため、制御において問題となるハンチングを起こしたり、運転が安定する場合には、既に運転が安定している状態であるにも拘らず、或いは、運転が安定していると予測できるにも拘わらず、運転の安定の判定までに比較的長い時間がかかる虞があった。
【0008】
よって、ブース内の空気の空気温度が空気用目標設定温度を挟んで比較的長い時間ハンチングしたり、当該空気温度が空気用目標設定温度に収束するまでに比較的長い時間が必要となる虞があり、この場合、温調手段の運転のために余分なエネルギーが必要となる。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ブース内を温調する際に、運転が安定することを正確かつ迅速に判断して、ブース内の空気の空気温度を短い時間で且つハンチングを防止しながら空気用目標設定温度に収束するように安定させ、省エネを実現できる温調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る温調装置は、ブース内に流体を供給して前記ブース内の空気を温調する温調手段と、前記ブース内の空気の空気温度を検出する空気温度検出手段と、前記温調手段の運転を制御する制御手段とを備え、前記空気温度の温度制御範囲として下限値と上限値とが設定された温度制御範囲の異なる複数のレベルが、当該複数のレベルのうち隣接するレベルの前記温度制御範囲を相互にオーバーラップさせた環状ステップを形成するように設定され、前記制御手段が、現在のレベルにおいて前記温調手段の温調出力を制御している制御状態において、前記空気温度が前記現在のレベルの温度制御範囲における上限値に到達した場合には、前記現在のレベルを、より大きな上限値を有する新たなレベルに変更して温調出力を上昇させ、前記空気温度が前記現在のレベルの温度制御範囲における下限値に到達した場合には、前記現在のレベルを、より小さな下限値を有する新たなレベルに変更して温調出力を低下させるように、前記複数のレベル間に亘って移動可能なステップサーモ方式の下に、前記温調手段の温調出力をPID制御する温調装置であって、その特徴構成は、
前記ブース内に供給される流体の流体温度を検出する流体温度検出手段を備え、
前記制御手段が、前記流体温度検出手段により検出される流体温度が流体用目標設定温度となるように前記温調手段をPID制御する構成で、
前記複数のレベルそれぞれに、異なる温度の前記流体用目標設定温度が対応して設定され、
前記各レベルには、制御の基準となる基準点がそれぞれ対応して設定されるとともに、各基準点には、当該各基準点に所定温度を加算又は減算した基準点変更用閾温度がそれぞれ対応して設定され、
前記各基準点に加算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する前記各レベルにおける温度制御範囲の上限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定されるとともに、前記各基準点に減算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する前記各レベルにおける温度制御範囲の下限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定され、
現在の基準点を制御の基準として前記温調手段の温調出力をPID制御している制御状態において、前記空気温度が、前記現在の基準点に対応する現在の前記レベルから新たな前記レベルに移動した後、前記現在の基準点に対応して設定された前記基準点変更用閾温度に初めて到達した場合に、前記制御手段が、当該現在の基準点を当該新たなレベルに設定された新たな基準点に変更し、当該新たな基準点を制御の基準として、前記温調手段の温調出力をPID制御する点にある。
【0011】
ここで、PID制御とは、設定された目標温度に対して、比例、積分、微分による制御を行う制御方式であって、比例制御による残留偏差を積分制御によって解消するとともに、負荷の変動による目標温度からのズレに対し、微分制御によって修正し制御応答の迅速性を確保する制御をいう。
【0012】
上記特徴構成によれば、基本的に、制御手段は、ブース内に供給される流体の流体温度(流体温度検出手段により検出される流体温度)が流体用目標設定温度となるように、温調手段の温調出力の運転制御(PID制御)を実行する。
この際には、ブース内において検出される空気の空気温度の温度制御範囲として下限値と上限値とが設定された温度制御範囲が異なる複数のレベルが設定され、複数のレベルのうち隣接するレベルの温度制御範囲が相互にオーバーラップした環状ステップを形成するように設定される。これにより、制御手段が、現在のレベルにおいて温調手段の温調出力をPID制御している制御状態において、空気温度が現在のレベルの温度制御範囲における上限値に到達した場合には、現在のレベルを、より大きな上限値を有する新たなレベルに変更して温調出力を上昇させ、空気温度が現在のレベルの温度制御範囲における下限値に到達した場合には、現在のレベルを、より小さな下限値を有する新たなレベルに変更して温調出力を低下させるように、複数のレベル間に亘って移動可能なステップサーモ方式の下で、温調手段の温調出力をPID制御する。
【0013】
また、複数のレベルそれぞれに、異なる温度の流体用目標設定温度が対応して設定される。これにより、制御手段が、ステップサーモ方式の下で温調手段の温調出力を制御するにあたり、流体温度が各レベルに対応する異なる温度の流体用目標設定温度となるように、温調手段の運転を各レベルごとの温調出力でPID制御する。従って、リアルタイムに流体用目標設定温度を変更する場合と比較すると、本特徴構成によれば、レベルの数の分だけ流体用目標設定温度を設定して、レベル間を往復する場合にのみ流体用目標設定温度を変更するだけでよく、流体の温度変化を小さくすることができるとともに、空気温度の温度変化も小さくすることができ、安定した温度制御が可能となる。特に、PID制御を用いているので、より確実且つ迅速に流体温度を流体用目標設定温度に収束させることが可能となる。
【0014】
更に、制御手段では、ステップサーモ方式の下で温調手段の温調出力をPID制御するにあたり、各レベルに対応して制御の基準となる基準点がそれぞれ設定されるとともに、各基準点には、当該各基準点に所定温度を加算又は減算した基準点変更用閾温度がそれぞれ対応して設定されている。そして、制御手段は、現在の基準点を制御の基準として温調手段の温調出力を制御している制御状態において、ブース内や外部の負荷等の影響によりブース内の空気温度が、現在の基準点に対応する現在のレベルから新たなレベルに移動した後、現在の基準点に対応して設定された基準点変更用閾温度に初めて到達した場合に、当該現在の基準点を当該新たなレベルに設定された新たな基準点に変更する制御を実行する。
すなわち、上述のとおり、現在のレベルから新たなレベルに変更された後、空気温度が、新たなレベルにおいて現在の基準点に近づく方向に移動して、当該現在の基準点に対応して設定された基準点変更用閾温度に初めて到達した場合には、空気温度が当該新たなレベル以外のレベルを移動することがないものとして、当該新たなレベル内において安定するものと判断する。このように、新たなレベルにおいて、系が現在の基準点に近づく方向に移動する挙動を示す場合には、当該新たなレベルの温調出力にて温調することにより空気温度が空気用目標設定温度に収束する可能性があるものと判断することができる。
【0015】
ここで、各基準点に所定温度を加算又は減算した基準点変更用閾温度は、各基準点に加算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する各レベルにおける温度制御範囲の上限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定されるとともに、各基準点に減算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する各レベルにおける温度制御範囲の下限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定されている。これにより、現在の基準点から新たな基準点への変更により、空気温度は、新たなレベルに位置する状態を維持しながら、現在の基準点と新たな基準点との差分値(正の値)だけ増分した位置に変更されることとなる。この場合、新たなレベルの温度制御範囲が、現在の基準点と新たな基準点との差分値(正の値)と、現在の基準点に対応する基準点変更用閾温度との和よりも大きく設定されているので、現在の基準点を新たな基準点に変更したとしても、空気温度は、新たなレベルに位置する状態を維持したまま(レベルが変更することなく)、現在の基準点と新たな基準点との差分値だけ増分することとなる。
【0016】
これらにより、運転が安定するか否かを判断するタイミングを明確にすることができるとともに、当該タイミングを正確かつ迅速に判断することができる。また、空気温度が空気用目標設定温度に収束すると予測できる新たなレベルでの移動状態で、当該新たなレベルに対応する新たな基準点を制御の基準として用いることで、新たな基準点からの空気温度の偏移量の絶対値を現在の基準点からの空気温度の偏移量の絶対値よりも比較的小さく抑えることができる。
よって、的確かつ迅速に新たな基準点を基準とした温調出力のPID制御を実行することができ、ブース内の空気の空気温度を短い時間で且つハンチングを防止しながら空気用目標設定温度に収束させることが可能となり、省エネを実現することができる。
【0017】
本発明に係る温調装置の更なる特徴構成は、前記温調手段が、前記ブース内に配設された輻射パネル内に前記流体としての熱媒を循環供給して前記ブース内の空気を輻射温調する輻射温調手段で構成され、前記輻射温調手段が、前記熱媒を冷却する冷却手段と、前記冷却手段により冷却された前記熱媒を加熱する加熱手段とを備え、
前記流体温度検出手段が、前記冷却手段により冷却され、前記加熱手段により加熱される前の前記熱媒の熱媒温度を検出する熱媒温度検出手段で構成されるとともに、
前記制御手段が、前記空気温度に替えて、当該空気温度と前記ブース内における空気の空気用目標設定温度との差分値である制御変数を用いて、前記熱媒温度が前記流体用目標設定温度としての熱媒用目標設定温度となるように前記冷却手段をPID制御するとともに、前記制御変数が前記新たな基準点に収束するように前記加熱手段をPID制御する点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、ブース内に配設された輻射パネル内に熱媒を循環供給してブース内の空気を輻射温調するので、ブース内に直接空気を送風する場合と比較して、ブース内に発生する空気流を低減することができ、ブース内の精密機器の測定精度の低下を低減することができる。
また、輻射温調手段の温調出力を、ブース内の空気温度に替えて、当該空気温度と空気用目標設定温度との差分値を制御変数として用いて制御するので、空気温度が空気用目標設定温度から乖離している度合いを適切に反映させた状態で、温調出力の制御を行うことができる。
【0019】
更に、制御手段が、冷却手段により冷却されたあと加熱手段により加熱される前の熱媒の熱媒温度が熱媒用目標設定温度となるように、熱媒を冷却する冷却手段をPID制御することに加えて、制御変数が新たな基準点(制御変数がゼロとなる点)を目標温度として、当該新たな基準点に収束するように、冷却手段により冷却された熱媒を加熱する加熱手段をPID制御するので、冷却手段と加熱手段とをそれぞれ独立した状態で異なる目標温度を採用した状態でPID制御することができ、制御が複雑になることを防止することができる。また、PID制御を行う際において、例えば、主として冷却手段により熱媒を熱媒用目標設定温度に冷却しながら、副として加熱手段により当該冷却された熱媒を空気用目標設定温度に加熱して微調整する構成とすることができ、加熱手段の加熱容量を、制御変数が各レベルにおける温度制御範囲内の全域を移動可能にする程度の最低限の容量として、簡便な構成とすることができる。
【0020】
特に、ブース内に配設された輻射パネル内に熱媒を循環供給してブース内の空気を輻射温調する場合には、当該空気の空気温度に応じて当該熱媒の熱媒温度や流量を即座に変更しても、応答性が悪いためブース内の空気の温調状態を即座に変更することは困難であり、過大な時間遅れが生じて、ブース内の空気温度が空気用目標設定温度を挟んだハンチングが生じ易い。このような場合であっても、上述のとおり、新たなレベルに変更後、制御変数が、新たなレベルにおいて現在の基準点に対応する基準点変更用閾温度に初めて到達したことにより、運転が安定する可能性が高いか否かを迅速に判断して、当該迅速な判断に基づいて、現在の基準点を新たなレベルに対応する新たな基準点に変更するので、空気温度が空気用目標設定温度に収束する(制御変数がゼロに収束する)と予測できる新たなレベルでの移動状態で、当該新たな基準点を制御の基準として用いることができる。これにより、応答性の悪い輻射温調を用いる構成であっても、制御変数が新たなレベルを移動している状態において、当該新たなレベルに対応する新たな基準点からの制御変数の偏移量の絶対値を、現在の基準点からの制御変数の偏移量の絶対値よりも比較的小さく抑えることができ、空気温度をより迅速で且つハンチングを低減した状態で空気用目標設定温度に収束(制御変数をゼロに収束)させることが可能となる。
【0021】
本発明に係る温調装置の更なる特徴構成は、前記現在の基準点を制御の基準として前記温調手段の温調出力をPID制御している制御状態において、前記現在のレベルから前記新たなレベルへのレベル変更が前記温調出力の大きくなる方向又は小さくなる方向に連続して実行された後、前記現在の基準点の前記基準点変更用閾温度が変更後の前記新たなレベルの温度制御範囲内に位置するように設定される点にある。
【0022】
上記特徴構成によれば、仮に、現在のレベルから新たなレベルへのレベル変更が温調出力の大きくなる方向又は小さくなる方向に連続して(例えば、3連続や4連続で)実行された場合でも、変更後の新たなレベルの温度制御範囲内に、現在の基準点に対応する基準点変更用閾温度を位置させることが可能となり、現在の基準点から新たな基準点への変更を確実に行うことが可能となる。
【0023】
本発明に係る温調装置の更なる特徴構成は、前記各基準点は、前記各レベルの中間値に設定されている点にある。
【0024】
上記特徴構成によれば、各基準点が各レベルの温度制御範囲の下限値と上限値の中間値に設定されるので、系が特定のレベルで安定化できる場合には、制御変数が当該特定のレベルの中間値を中心として当該特定のレベル上を往復移動することとなり、当該中間値を中心とする温度制御範囲内に制御変数の変動を抑えることができ、迅速な安定化を図ることができる。
【0025】
本発明に係る温調装置の更なる特徴構成は、前記各レベルに対応する異なる温度の前記熱媒用目標設定温度が、前記空気用目標設定温度に所定値を加算又は減算した値である点にある。
【0026】
上記特徴構成によれば、ブース内の空気の空気用目標設定温度を基準として、複数のレベルそれぞれに対応する異なる温度の熱媒用目標設定温度を設定できる。これにより、例えば、空気温度と空気用目標設定温度との差分値である制御変数に応じて、制御変数が大きい場合には、熱媒用目標設定温度を空気用目標設定温度よりも低い温度に設定し、制御変数が小さい場合には、熱媒用目標設定温度を空気用目標設定温度よりも高い温度に設定することができ、ブース内の空気の温調に必要な輻射温調手段の温調出力を適切に設定することができる。よって、適切な熱媒温度に温調された熱媒からの輻射により、ブース内の空気の空気温度をより迅速に空気用目標設定温度に収束(制御変数をゼロに収束)させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】輻射温調装置を備えた輻射温調システムの概略構成図
【図2】ステップサーモ方式の各レベルにおける冷却能力と制御変数Xとの関係を示す概念図
【図3】ステップサーモ方式の基本的な制御状態において、レベル3からレベル4に変更された状態を示す概念図
【図4】ステップサーモ方式の基本的な制御状態において、レベル4からレベル5に変更された状態を示す概念図
【図5】ステップサーモ方式の基本的な制御状態において、レベル5から、順次レベル4、レベル3に変更された状態を示す概念図
【図6】ステップサーモ方式の基本的な制御状態において、レベル3からレベル2に変更され、さらにレベル3に変更された状態を示す概念図
【図7】本願に係るステップサーモ方式の制御状態において、起動時における制御変数Xに基づいてレベル3が選択された状態を示す概念図
【図8】本願に係るステップサーモ方式の制御状態において、制御変数Xが上限値fに移動し、レベル3からレベル4に変更された状態を示す概念図
【図9】変更後のレベル4において制御変数Xが上限値hに移動し、レベル4からレベル5に変更された状態を示す概念図
【図10】変更後のレベル5において制御変数Xがオーバーシュートして、上限値j方向に移動した後、下限値i方向に移動して、現在の基準点である第3基準点N3の基準点変更用閾温度C3に初めて到達した状態を示す概念図
【図11】現在の基準点である第3基準点N3が、新たな基準点である第5基準点N5に変更された状態を示す概念図
【図12】変更後のレベル5において変更後の第5基準点N5を基準としてPID制御が実行されている状態を示す概念図
【図13】変更後のレベル5において変更後の第5基準点N5の近傍で、系が安定している状態を示す概念図
【図14】制御部による輻射温調制御の概略作動フロー図
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る輻射温調装置E(温調装置の一例)を備えた輻射温調システムD(温調システムの一例)について、図1〜図14を参照しながら説明する。
【0029】
輻射温調システムDは、図1に示すように、電子顕微鏡F(精密機器の一例)が収容されるブース1と、輻射温調装置Eとを備えて構成される。
輻射温調装置Eは、ブース1内に配設された輻射パネル2a内に熱媒としての冷却水Q(流体の一例)を循環供給してブース1内の空気Pを輻射温調する輻射温調手段2(温調手段の一例)と、輻射パネル2aに供給される冷却水Qの冷却水温度Q1(流体温度及び熱媒温度の一例)を検出する冷却水用温度センサ3(流体温度検出手段及び熱媒温度検出手段の一例)と、ブース1内の空気Pの空気温度P1を検出する空気用温度センサ4(空気温度検出手段の一例)と、運転を制御する制御部5(制御手段の一例)とを備える。なお、図示を省略するが、制御部5にはブース1内の空気用目標設定温度P2及び冷却水用目標設定温度Q2(流体用目標設定温度及び熱媒用目標設定温度の一例)等を設定可能で、設定された各種情報を記憶可能な記憶部を備えている。
以下では、ブース1の構成及び輻射温調装置Eの構成を説明した後、制御部5による制御方法、及び輻射温調装置Eの運転方法について説明する。
【0030】
ブース1は、図1に示すように、壁面により側面部及び天井部が囲繞されることで、ブース1内の内部空間に外部から空気等が侵入しないように構成され、ブース1はクリーンルームとされている。ブース1内には、輻射温調装置Eから供給される冷却水Qからの輻射により、ブース1内の空気Pを温調する一対の輻射パネル2aが、互いに対向する状態で、それぞれ壁面の側面部に配設されている。ブース1の内部空間の底部には架台Gが配設され、当該架台G上に電子顕微鏡Fが載置された状態でブース1内に収容されている。
【0031】
ブース1内には、ブース1内の空気Pの空気温度P1を検出する空気用温度センサ4が配設されている。空気用温度センサ4により検出された空気温度P1は、輻射温調装置Eの制御部5に入力される構成となっている。
【0032】
輻射温調装置Eの輻射温調手段2は、冷却水Qを温調することが可能な熱交換部10(冷却手段の一例)を備える。例えば、図示しないが、輻射温調手段2を、循環通流する冷媒と熱交換することで冷却水Qを冷却、加熱可能な熱交換部10を有する公知の冷凍回路を備えた構成とすることができる。輻射温調手段2の熱交換部10は、後述するように、制御部5により冷却水Qの冷却水温度Q1が冷却水用目標設定温度Q2となるように、その運転状態(温調出力)がPID制御される。
【0033】
また、輻射温調手段2は、冷却水Qを、送液ポンプ11、熱交換部10、電気ヒータ12(加熱手段の一例)、輻射パネル2aの入口及び出口、送液ポンプ11の順に循環通流させる流体循環流路13が設けられている。この流体循環流路13に設けられた電気ヒータ12は、公知の電気ヒータであり、流体循環流路13を通流し熱交換部10により温調された冷却水Qを加熱可能に構成されている。輻射温調手段2の電気ヒータ12は、後述するように、熱交換部10により温調された冷却水Qを加熱する際、制御部5により、空気温度P1が空気用目標設定温度P2となるように、その運転状態(温調出力)がPID制御される。また、流体循環流路13に設けられた送液ポンプ11は、冷却水Qを流体循環流路13に循環通流させる循環手段として機能する。この流体循環流路13は、電気ヒータ12の下流側と輻射パネル2aの上流側との間で分岐しており、冷却水Qを一対の輻射パネル2aにそれぞれ供給可能に構成され、また、それぞれの輻射パネル2aの下流側と送液ポンプ11の上流側との間で合流しており、一対の輻射パネル2aから排出された冷却水Qを送液ポンプ11側に通流可能に構成されている。
【0034】
この流体循環流路13において熱交換部10の下流側と電気ヒータ12の上流側との間には、一対の輻射パネル2aに供給される冷却水Q(電気ヒータ12に供給される前の冷却水Q)の冷却水温度Q1を検出する冷却水用温度センサ3が配設されている。冷却水用温度センサ3により検出された冷却水温度Q1は、輻射温調装置Eの制御部5に入力される構成となっている。
【0035】
輻射パネル2aは、公知の輻射パネルにより構成され、ブース1内に一対設けられて、例えば、輻射パネル2a内に蛇行して配設された伝熱パイプ(図示せず)内を入口から出口に向かって冷却水Qが通流することにより、当該冷却水Qからの輻射(伝熱)によりブース1内の空気Pを温調することが可能に構成されている。
【0036】
制御部5は、公知の情報演算処理手段から構成され、熱交換部10、送液ポンプ11、電気ヒータ12等の作動状態を制御し、冷却水Qの流量や温度制御等が可能に構成されている。なお、制御部5には、各機器の作動状態に関する信号が、当該各機器から入力されるように構成されている。
以下に、制御部5による輻射温調の制御方法について説明する。
【0037】
図2に示すように、制御部5は、空気用温度センサ4により検出される空気温度P1とブース1内における空気Pの空気用目標設定温度P2との差分値(P1−P2)を制御変数X(=P1−P2)とし、制御変数Xの温度制御範囲として下限値と上限値とが設定された温度制御範囲が異なる複数のレベルを設定する。本実施形態では、複数のレベルとして、下限値及び上限値が最も低い温度の温度制御範囲のレベル1から最も高い温度の温度制御範囲のレベル6までの、それぞれ異なる温度制御範囲の6つのレベルが、隣接するレベルの温度制御範囲を相互にオーバーラップさせた環状ステップを形成するように設定されている。
【0038】
また、複数のレベルのそれぞれに対応して異なる温度の冷却水用目標設定温度Q2が設定され、基本的に制御部5は、各レベルに応じて、冷却水温度Q1が当該異なる温度の各冷却水用目標設定温度Q2となるように輻射温調手段2(熱交換部10)の温調出力をPID制御する。各レベルに対応する異なる温度の各冷却水用目標設定温度Q2は、空気用目標設定温度P2に所定値を加算又は減算した値に設定される。具体的には、本実施形態では、レベル1では、冷却水用目標設定温度Q2は、空気用目標設定温度P2に2℃を加算した値(Q2=P2+2)に設定され、同様に、レベル2では、冷却水用目標設定温度Q2は、空気用目標設定温度P2に設定され、レベル3では、冷却水用目標設定温度Q2は、空気用目標設定温度P2に2℃を減算した値(Q2=P2−2)に設定され、レベル4では、冷却水用目標設定温度Q2は、空気用目標設定温度P2に4℃を減算した値(Q2=P2−4)に設定され、レベル5では、冷却水用目標設定温度Q2は、空気用目標設定温度P2に6℃を減算した値(Q2=P2−6)に設定され、レベル6では、冷却水用目標設定温度Q2は、空気用目標設定温度P2に8℃を減算した値(Q2=P2−8)に設定される。すなわち、制御部5は、レベルが変更される毎に、変更されたレベルに対応した各冷却水用目標設定温度Q2を目標温度として温調出力をPID制御するように構成されている。従って、制御部5は、複数のレベル間をステップ状に移動可能なステップサーモ方式の下で、輻射温調手段2の温調出力を制御するにあたり、レベル間で冷却・加熱能力が異なるように設定し、レベル1からレベル6に上がるに従って、加熱から冷却を行うように構成されている。具体的には、レベル6の温調出力(冷却能力)を100%とすると、レベル1の温調出力は−30%、レベル2の温調出力は0%、以下同様に、レベル3は30%、レベル4は60%、レベル5は80%に設定される。
【0039】
図2に示すように、レベル1は下限値a及び上限値bで規定される温度制御範囲(1.6℃)とされ、レベル2は下限値c及び上限値dで規定される温度制御範囲(1.6℃)とされ、レベル3は下限値e及び上限値fで規定される温度制御範囲(1.6℃)とされ、レベル4は下限値g及び上限値hで規定される温度制御範囲(1.6℃)とされ、レベル5は下限値i及び上限値jで規定される温度制御範囲(1.6℃)とされ、レベル6は下限値k及び上限値lで規定される温度制御範囲(1.6℃)とされる。
【0040】
図2に示すように、レベル1とレベル2との温度制御範囲のオーバーラップは、レベル2の下限値cからレベル1の上限値bまでであり、当該オーバーラップした温度制御範囲(1.2℃)により第1環状ステップが形成される。同様に、レベル2とレベル3との温度制御範囲のオーバーラップは、レベル3の下限値eからレベル2の上限値dまでであり、当該オーバーラップした温度制御範囲(1.2℃)により第2環状ステップが形成される。レベル3とレベル4との温度制御範囲のオーバーラップは、レベル4の下限値gからレベル3の上限値fまでであり、当該オーバーラップした温度制御範囲(1.2℃)により第3環状ステップが形成される。レベル4とレベル5との温度制御範囲のオーバーラップは、レベル5の下限値iからレベル4の上限値hまでであり、当該オーバーラップした温度制御範囲(1.2℃)により第4環状ステップが形成される。レベル5とレベル6との温度制御範囲のオーバーラップは、レベル6の下限値kからレベル5の上限値jまでであり、当該オーバーラップした温度制御範囲(1.2℃)により第5環状ステップが形成される。なお、隣接するレベル間でオーバーラップしない温度制御範囲(ac間、ce間、eg間、gi間、ik間、bd間、df間、fh間、hj、ji間)の部分(ディファレンシャル)は、それぞれ0.4℃に設定されている。
【0041】
以下、まず、本発明の基礎となるステップサーモ方式について、図2〜図6に基づいて説明する。
図2に示すように、レベル1とレベル2との間を移動する第1環状ステップでは、高い温度からc点に到達したときにレベル2をレベル1に変更し、低い温度からb点に到達したときにレベル1をレベル2に変更するように制御状態が変更される。
同様に、レベル2とレベル3との間を移動する第2環状ステップでは、高い温度からe点に到達したときにレベル3をレベル2に変更し、低い温度からd点に到達したときにレベル2をレベル3に変更するように制御状態が変更される。
レベル3とレベル4との間を移動する第3環状ステップでは、高い温度からg点に到達したときにレベル4をレベル3に変更し、低い温度からf点に到達したときにレベル3をレベル4に変更するように制御状態が変更される。
レベル4とレベル5との間を移動する第4環状ステップでは、高い温度からi点に到達したときにレベル5をレベル4に変更し、低い温度からh点に到達したときにレベル4をレベル5に変更するように制御状態が変更される。
レベル5とレベル6との間を移動する第5環状ステップでは、高い温度からk点に到達したときにレベル6をレベル5に変更し、低い温度からj点に到達したときにレベル5をレベル6に変更するように制御状態が変更される。
【0042】
また、制御部5は、輻射温調手段2の起動時には、制御変数Xの大小に応じて、上記のように設定された複数のレベルから、制御に用いるのに最適なレベルを選択する。
例えば、本実施形態では、輻射温調手段2の起動時には、レベル3の下限値eと上限値fとの中間値を起動用基準点N0として、制御変数Xがそれぞれ、所定温度制御範囲(X≦−1.2℃)にある場合にレベル1とし、所定温度制御範囲(−1.2℃<X<−0.8℃)にある場合にレベル2とし、起動用基準点N0を挟んで所定温度制御範囲(−0.8℃≦X<0.8℃)にある場合にレベル3とし、さらに、所定温度制御範囲(0.8℃≦X<1.2℃)にある場合にレベル4とし、所定温度制御範囲(1.2℃≦X<1.6℃)にある場合にレベル5とし、所定温度制御範囲(1.6℃≦X)にある場合にレベル6とするように選択可能に構成されている。
【0043】
具体的に説明すると、輻射温調装置Eの起動時(電子顕微鏡Fの作業開始前)には、制御部5は、空気用温度センサ4により検出されたブース1内の空気Pの空気温度P1と起動時に設定された空気用目標設定温度P2との温度差(差分値:P1−P2)を、制御変数X(=P1−P2)として導出する。そして、制御部5は、起動用基準点N0から制御変数Xがいずれの所定温度制御範囲にあるかに応じて、レベル1〜レベル6のうちから適切なレベルを選択する。例えば、図3に示すように、起動用基準点N0を基準として、制御変数Xの値が+0.2℃となっている場合(図3では、X1と記載)には、レベル3を選択する。
【0044】
続いて、制御部5は、冷却水温度Q1が、選択されたレベルにおいて設定されている冷却水用目標設定温度Q2(空気用目標設定温度P2に所定値を加減した値)となるように、輻射温調手段2の熱交換部10の温調出力を制御して、冷却水Qを温調する。例えば、レベル3を選択した場合には、冷却水用目標設定温度Q2を空気用目標設定温度P2に2℃を減算した値(Q2=P2−2)とし、冷却水Qの冷却水温度Q1が当該冷却水用目標設定温度Q2となるように輻射温調手段2の熱交換部10の温調出力がPID制御される。
【0045】
次に、制御部5は、起動用基準点N0を基準として制御変数Xを所定の時間間隔で繰り返し導出し、選択されたレベルにおいて制御変数Xが移動して、当該レベルの上限値或いは下限値に到達した場合には、選択されたレベルから新たなレベルに変更する。同様に、新たなレベルに変更した後も、起動用基準点N0を基準として制御変数Xを所定の時間間隔で繰り返し導出し、変更されたレベルにおいて制御変数Xが移動して、当該レベルの上限値或いは下限値に到達した場合には、変更されたレベルからさらに新たなレベルに変更する。
【0046】
例えば、図3に示すように、レベル3において制御変数Xが上限値f方向に移動して、当該上限値fに到達すると、制御部5は、レベル3からより大きな上限値を有するレベル4に変更し、温調出力を変更した状態で輻射温調手段2を運転させる。すなわち、レベル3の流体用目標設定温度Q2よりも低い温度であるレベル4の流体用目標設定温度Q2(空気用目標設定温度P2よりも4℃低い温度(Q2=P2−4))とし、熱交換部10の温調出力が制御される。その結果、例えば、図4に示すように、制御変数Xが、変更されたレベル4において当該レベル4の上限値h方向に移動して、当該上限値hに到達すると、制御部5は、さらに、当該レベル4から、より大きな上限値を有するより新たなレベル5に変更し温調出力を変更した状態で輻射温調手段2を運転させる。すなわち、レベル4の流体用目標設定温度Q2よりも低い温度であるレベル5の流体用目標設定温度Q2(空気用目標設定温度P2よりも6℃低い温度(Q2=P2−6))とし、熱交換部10の温調出力が制御される。
【0047】
また、図5に示すように、制御変数Xが、変更されたレベル5において当該レベル5の下限値i方向に移動して、当該下限値iに到達すると、制御部5は、当該レベル5からより小さな下限値を有するレベル4に変更し、当該レベル4の流体用目標設定温度Q2(Q2=P2−4)にて熱交換部10の温調出力を制御し、更に、制御変数Xが、変更されたレベル4において当該下限値g方向に移動して、当該下限値gに到達すると、制御部5は当該レベル4から、より小さな下限値を有するレベル3に変更し、当該レベル3の流体用目標設定温度Q2(Q2=P2−2)にて熱交換部10の温調出力を制御する。
【0048】
その後、図6に示すように、制御変数Xが、変更されたレベル3において当該下限値e方向に移動して、当該下限値eに到達すると、制御部5は当該レベル3をより小さな下限値を有するレベル2に変更し、当該レベル2の流体用目標設定温度Q2(空気用目標設定温度P2(Q2=P2))にて、熱交換部10の温調出力を制御し、更に、制御変数Xが、変更されたレベル2において当該レベル2の上限値d方向に移動して、当該上限値dに到達すると、制御部5は、当該レベル2をより大きな上限値を有するレベル3に変更し、当該レベル3の流体用目標設定温度Q2(空気用目標設定温度P2よりも2℃低い温度(Q2=P2−2))にて、熱交換部10の温調出力を制御する。
【0049】
このように、基本的なステップサーモ方式の制御状態では、起動用基準点N0を基準とした制御変数Xが各レベルの上限値或いは下限値に到達することで、制御変数Xが存在する現在のレベルが隣接する新たなレベルに順次変更されて、当該制御変数Xの値に応じて輻射温調手段2の熱交換部10の温調出力がステップ状に変更されるように構成されている。また、基本的なステップサーモ方式では、制御変数Xの基準点(例えば、起動用基準点N0)を固定し、各レベルにおいて、当該各レベルの下限値或いは上限値に到達した時点で、現在のレベルを隣接する新たなレベルに変更し、熱交換部10の温調出力を変更する構成とされる。
【0050】
次に、図2、図7〜図14を用いて、本願に係るステップサーモ方式について説明する。
本願に係るステップサーモ方式では、図7に示すように、上述の起動用基準点N0とは別に、複数のレベルのそれぞれに対応して、それら各レベルにおける制御の基準となる基準点(制御変数Xがゼロとなる点(X=P1−P2=0))が設定される。本実施形態では、これら複数の基準点N1〜N6(図7では、6つ)は、各レベルの温度制御範囲における中間値にそれぞれ設定される。
【0051】
具体的には、レベル1における制御の基準となる第1基準点N1は、a点とb点との中間値に設定される。同様に、レベル2における制御の基準となる第2基準点N2は、c点とd点との中間値に設定され、レベル3における制御の基準となる第3基準点N3は、e点とf点との中間値に設定され、さらに、レベル4における制御の基準となる第4基準点N4は、g点とh点との中間値に設定され、レベル5における制御の基準となる第5基準点N5は、i点とj点との中間値に設定され、レベル6における制御の基準となる第6基準点N6は、k点とl点との中間値に設定される。なお、これら基準点は、第1基準点N1から、第2基準点N2、第3基準点N3、第4基準点N4、第5基準点N5に向かうにつれて順次、相対的に制御変数Xが一定の間隔で増加する位置に設定され、当該一定の間隔は、0.4℃とされている。
【0052】
図7及び図14に示すように、輻射温調装置Eの起動時(電子顕微鏡Fの作業開始前)には、ユーザが操作部(図示せず)を操作して輻射温調装置Eを起動させると共に(ステップ♯1)、ブース1内の空気Pの空気温度P1が当該電子顕微鏡Fの作業に最適な温度(空気用目標設定温度P2:例えば18〜22℃)となるように、当該空気用目標設定温度P2を入力する(ステップ♯2)。なお、輻射温調装置Eの起動と同時に、制御部5が、予め設定された温度を記憶部(図示せず)から読み出して、空気用目標設定温度P2として用いてもよい。
【0053】
輻射温調装置Eが起動されると、制御部5は、空気用温度センサ4により検出されたブース1内の空気Pの空気温度P1と空気用目標設定温度P2との温度差(差分値:P1−P2)を、制御変数X(=P1−P2)として導出する(ステップ♯3)。そして、制御部5は、起動用基準点N0(X=P1−P2=0)から制御変数Xがいずれの所定温度制御範囲にあるかに応じて、レベル1〜レベル6のうちから適切なレベルを選択する(ステップ♯4)。例えば、図7に示すように、起動用基準点N0を基準として、制御変数Xの値が+0.2℃となっている場合(図7では、X1と記載)には、レベル3を選択する。
【0054】
続いて、制御部5は、冷却水温度Q1が選択されたレベルにおいて設定されている冷却水用目標設定温度Q2(空気用目標設定温度P2に所定値を加減した値)となるように、熱交換部10の温調出力をPID制御して冷却水Qを温調する。これに加えて、制御部5は、制御変数Xが選択されたレベルの現在の基準点(空気温度P1が空気用目標設定温度P2となり、制御変数Xがゼロ(X=P1−P2=0))となるように、電気ヒータ12の温調出力をPID制御して熱交換部10で温調された冷却水Qを温調し、制御変数Xを現在の基準点(制御変数Xがゼロ(X=0))に収束させる(ステップ♯5)。
例えば、レベル3を選択した場合には、冷却水用目標設定温度Q2を空気用目標設定温度P2から2℃減算した値(Q2=P2−2)とし、検出された冷却水Qの冷却水温度Q1が当該冷却水用目標設定温度Q2(Q1=Q2)となるように熱交換部10の温調出力がPID制御される。これに加えて、制御変数Xが現在の基準点である第3基準点N3(X=P1−P2=0)となるように、電気ヒータ12の温調出力をPID制御し熱交換部10で温調された冷却水Qを温調して、当該温調された冷却水Qによる輻射温調により、制御変数Xを第3基準点N3(制御変数Xがゼロ(X=0))に収束させる。この電気ヒータ12の加熱容量は、電気ヒータ12の運転状態により、制御変数Xが各レベルにおける温度制御範囲内の全域を移動可能にする程度の最低限の容量とされている。
なお、起動時には起動用基準点N0を基準とする制御変数Xを、選択されたレベルの温度制御範囲に位置させるようにしたが、起動してレベルを選択した後すぐに、起動用基準点N0ではなく制御変数Xが属するレベルの基準点(現在の基準点)を制御の基準として制御が行われる(起動時のみの処理)。例えば、図8に示すように、レベル3において制御変数Xが上限値f方向に移動すると、制御変数Xはレベル3に位置しているので、当該レベル3に対応する第3基準点N3を制御の基準として制御が行われる。
【0055】
次に、制御部5は、制御変数Xを所定の時間間隔で繰り返し導出し(ステップ♯6)、ブース1内或いは外部からの負荷(熱負荷)の影響等により、時間の経過とともに制御変数Xが変動し、選択されたレベルにおいて制御変数Xが移動して、当該レベルの上限値或いは下限値に到達した場合には、選択された現在のレベルから新たなレベルに変更する。その後、当該新たなレベルにおいて制御変数Xが移動して、当該レベルの上限値或いは下限値に到達した場合には、新たなレベルからより新たなレベルに変更する。このように制御変数Xが順次変動することにより、現在の基準点を制御の基準とした状態で、レベルが順次変更され、上述のように、輻射温調手段2の熱交換部10及び電気ヒータ12が夫々PID制御されて、制御変数Xを現在の基準点(制御変数Xがゼロ(X=0))に収束させるように温調出力が制御される。
【0056】
説明を加えると、例えば、図8に示すように、現在の基準点である第3基準点N3を制御の基準として輻射温調手段2の温調出力を制御している状態において、レベル3にて制御変数Xが上限値f方向に移動し、制御変数Xが当該上限値fに到達すると(図8では、X2と記載)、制御部5は、レベル3からより大きな上限値hを有するレベル4に変更し、温調出力を変更した状態で輻射温調手段2を運転させる。すなわち、レベル3における輻射温調手段2の温調出力では、制御変数Xを第3基準点N3に収束させることは困難と判断して、レベル3の流体用目標設定温度Q2よりも低い温度であるレベル4の流体用目標設定温度Q2(空気用目標設定温度P2よりも4℃低い温度)とし、熱交換部10の温調出力が制御される。
【0057】
そして、更に、図9に示すように、第3基準点N3を制御の基準として新たなレベル4で輻射温調手段2の温調出力を制御している状態において、レベル4にて制御変数Xが上限値h方向に移動し、制御変数Xが当該上限値hに到達すると(図9では、X3と記載)、制御部5は、レベル4からより大きな上限値jを有するレベル5に変更し、温調出力を更に変更した状態で輻射温調手段2を運転させる。すなわち、レベル4における輻射温調手段2の温調出力では、制御変数Xを第3基準点N3に収束させることは困難と判断して、レベル4の流体用目標設定温度Q2よりも低い温度であるレベル5の流体用目標設定温度Q2(空気用目標設定温度P2よりも6℃低い温度)とし、熱交換部10の温調出力が制御される。これにより、現在の基準点である第3基準点N3を制御の基準として輻射温調手段2の温調出力を制御して、制御変数Xを第3基準点N3(制御変数Xがゼロ(X=0))に収束させるように構成できる。
【0058】
制御部5は、上記のように、現在の基準点である第3基準点N3に対応する現在のレベルから、新たなレベルに変更したか否かを判断する(ステップ♯7)。
例えば、上述のように、レベル3からレベル4に変更され、更にレベル4からレベル5に変更された場合には、制御変数Xは、レベル3(現在のレベル)から、レベル5(新たなレベル)に移動した状態となっている(ステップ♯7:Yes)。
【0059】
一方、例えば、レベル3にて第3基準点N3を制御の基準として温調出力が制御されている状態において、当該レベル3の上限値fに到達せず、レベル3を移動している場合には、レベル4やレベル5に変更されることがなく、制御変数Xは、現在のレベルから、新たなレベルに変更されない。(ステップ♯7:No)。なお、この場合、ステップ♯6に戻り、制御変数Xの導出を繰り返す。
【0060】
ここで、各レベルの各基準点には、当該各基準点に所定温度を加算又は減算した基準点変更用閾温度Cがそれぞれ対応して設定されている。また、各基準点に加算又は減算される所定温度の絶対値は、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する各レベルにおける温度制御範囲の上限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定されるとともに、各基準点に減算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する各レベルにおける温度制御範囲の下限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定される。
具体的には、第1基準点N1には、第1基準点に0.7℃(所定温度)を加算又は減算した第1基準点変更用閾温度C1が、第1レベルの温度制御範囲内(第1基準点N1を除く温度制御範囲内)に位置するように設定され、第2基準点N2には、第2基準点に0.7℃(所定温度)を加算又は減算した第2基準点変更用閾温度C2が、第2レベルの温度制御範囲内(第2基準点N2を除く温度制御範囲内)に位置するように設定され、第3基準点N3には、第3基準点に0.7℃(所定温度)を加算又は減算した第3基準点変更用閾温度C3が、第3レベルの温度制御範囲内(第3基準点N3を除く温度制御範囲内)に位置するように設定され、第4基準点N4には、第4基準点に0.7℃(所定温度)を加算又は減算した第4基準点変更用閾温度C4が、第4レベルの温度制御範囲内(第4基準点N4を除く温度制御範囲内)に位置するように設定され、第5基準点N5には、第5基準点に0.7℃(所定温度)を加算又は減算した第5基準点変更用閾温度C5が、第5レベルの温度制御範囲内(第5基準点N5を除く温度制御範囲内)に位置するように設定されている。なお、簡単のため、図10に、第3基準点変更用閾温度C3を示し、図12に、第5基準点変更用閾温度C5を示し、その他の基準点変更用閾温度C1,C2,C4の図示を省略した。
【0061】
次に、制御変数Xが、現在の基準点に対応する現在のレベルから、新たなレベルに移動した場合には(ステップ♯7:Yes)、制御変数Xが、新たなレベルにおいて、現在の基準点に対応して設定された基準点変更用閾温度Cに初めて到達したか否かを判断する(ステップ♯8)。
例えば、レベル4からレベル5に変更された後(図9参照)、図10に示すように、レベル5において制御変数Xがオーバーシュートして、上限値j方向に移動した後、下限値i方向に移動して、現在の基準点である第3基準点N3の第3基準点変更用閾温度C3に初めて到達(図10では、X4と記載)すると(ステップ♯8:Yes)、図11に示すように、第3基準点N3(現在の基準点)をレベル5(新たなレベル)に対応する第5基準点N5(新たな基準点)に変更する(ステップ♯9)。この第3基準点N3から第5基準点N5への変更により、制御変数Xは、レベル5に位置する状態を維持しながら、第5基準点N5と第3基準点N3との差分値(正の値)だけ増分した位置に変更されることとなる。すなわち、制御変数Xは、レベル5において、X4と記載した位置からX4´と記載した位置に変更される状態となる。この場合、レベル5の温度制御範囲(ij間)が、第5基準点N5と第3基準点N3との差分値(正の値)と、第3基準点変更用閾温度C3との和よりも大きく設定されているので、第3基準点N3を第5基準点N5に変更したとしても、制御変数Xは、レベル5に位置する状態を維持したまま(レベルが変更することなく)、第5基準点N5と第3基準点N3との差分値だけ増分することとなる。同様に、各レベルの温度制御範囲は、基本的に、基準点同士の差分値(正の値)と、一方の基準点に対応する基準点変更用閾温度Cとの和よりも大きく設定されている。
なお、本実施形態では、複数設定されたレベルのうち、最上位のレベル又は最下位のレベルに変更された場合には、上述の説明に関わらず、現在の基準点から最上位又は最下位のレベルに対応する新たな基準点に即座に変更するように構成されている。
【0062】
このように、制御変数Xが、現在の基準点に対応する現在のレベルから、新たなレベルに移動し(ステップ♯7:Yes)、新たなレベルにおいて、制御変数Xがオーバーシュートして、現在の基準点に近づく方向に移動し、現在の基準点の基準点変更用閾温度Cに初めて到達した場合には(ステップ♯8:Yes)、制御変数Xが当該新たなレベル以外のレベルを移動することがないものとして、当該新たなレベル内において安定するものと判断することができる。すなわち、当該新たなレベルにおいて、現在の基準点に近づく方向に移動する挙動を示す場合には、当該新たなレベルの温調出力にて温調することにより空気温度P1が空気用目標設定温度P2に収束する可能性があるものと判断することができる。
【0063】
そしてこの状態では、図12に示すように、制御部5は、第5基準点N5を新たな現在の基準点として、検出された冷却水温度Q1がレベル5に対応した冷却水用目標設定温度Q2(Q2=P2−6)となるように、熱交換部10の温調出力をPID制御して冷却水Qを温調する。これに加えて、制御部5は、制御変数Xがレベル5の第5基準点N5(X=P1−P2=0)となるように、電気ヒータ12の温調出力をPID制御し熱交換部10で温調された冷却水Qを温調して、当該温調された冷却水Qによる輻射温調により、制御変数Xを第5基準点N5(制御変数Xがゼロ(X=0))に収束させる(ステップ♯10)。そして、制御変数Xが、レベル5内にて当該レベル5の中間値である第5基準点N5を中心として往復を繰り返して、図13に示すように、第5基準点N5を中心として系が安定し、当該第5基準点N5近傍に収束した場合には(ステップ♯11:Yes)、当該運転状態を維持する(ステップ♯12)。
一方で、制御変数Xが当該第5基準点N5近傍に収束しない場合には(ステップ♯11:No)、ステップ♯6に戻り、制御変数Xの導出を繰り返す。なお、第3基準点N3から第5基準点N5への変更に伴って、図12に示すように、第5基準点N5には、対応する第5基準点変更用閾温度C5が設定されている。
【0064】
また、一方で、例えば、レベル3からレベル5に順次変更されたものの(ステップ♯7:Yes)、制御変数Xが、レベル5(新たなレベル)において、第3基準点N3(現在の基準点)に近づく方向に移動せず、上限値j方向に移動し、第3基準点N3の第3基準点変更用閾温度C3に初めて到達しなかった場合には(ステップ♯8:No)、レベル5内において安定する可能性が低下するため、基準点の変更は行わず、第3基準点N3を制御の基準として制御を行う。なお、この場合、ステップ♯6に戻り、制御変数Xの導出を繰り返す。
【0065】
これらにより、運転が安定するか否かを判断するタイミングを明確にすることができるとともに、当該タイミングを正確かつ迅速に判断することができる。また、空気温度P1が空気用目標設定温度P2に収束する(制御変数Xがゼロに収束する)と予測できる新たなレベルでの移動状態で、当該新たなレベルに対応する新たな基準点を制御の基準として用いることで、新たな基準点からの空気温度P1の偏移量の絶対値を現在の基準点からの空気温度の偏移量の絶対値よりも比較的小さく抑えることができる。
よって、的確かつ迅速に新たな基準点を基準とした温調出力のPID制御を実行することができ、ブース内の空気の空気温度を短い時間で且つハンチングを防止しながら空気用目標設定温度に収束させることが可能となり、省エネを実現することができる。
【0066】
〔別実施形態〕
(A)上記実施形態においては、各基準点に所定温度を加算又は減算した各基準点変更用閾温度Cを設定する際に、当該所定温度の絶対値を0.7℃に設定したが、これに限らず、各基準点に加算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する各レベルにおける温度制御範囲の上限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定されるとともに、各基準点に減算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する各レベルにおける温度制御範囲の下限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定された構成とすることができる。
これに加えて、例えば、各基準点変更用閾温度を、現在の基準点を制御の基準として輻射温調手段2の温調出力をPID制御している制御状態において、現在のレベルから新たなレベルへのレベル変更が温調出力の大きくなる方向又は小さくなる方向に連続して実行された後、現在の基準点の基準点変更用閾温度Cが変更後の新たなレベルの温度制御範囲内に位置するように設定することができる。この場合、仮に、現在のレベルから新たなレベルへのレベル変更が温調出力の大きくなる方向又は小さくなる方向に連続して(例えば、3連続や4連続で)実行された場合でも、変更後のレベルの温度制御範囲内に、現在の基準点に対応する基準点変更用閾温度Cを位置させることが可能となり、現在の基準点から新たな基準点への変更を確実に行うことが可能な構成とすることができる。
【0067】
(B)上記実施形態においては、各基準点として、各レベルの温度制御範囲の下限値と上限値との中間値を用いたが、当該各基準点としては、その他の構成を採用することもできる。
例えば、各レベルの温度制御範囲の下限値と上限値との中間値よりも下限値側に或いは上限値側に一定温度だけ変位した箇所を、各基準点とすることができる。この場合、一定温度は、0.1℃〜0.6℃程度とすることができる。
【0068】
(C)上記実施形態では、輻射温調手段2の起動時において、制御変数Xに応じてレベルの選択を行ったが、起動時に選択されるレベルを予め特定のレベルに固定する構成とすることもできる。すなわち、起動時において、その特定のレベルにて輻射温調手段2の温調を制御している状態において制御変数Xを導出し、上記実施形態と同様に、制御変数Xが当該特定のレベルの上限値又は下限値に到達して、特定のレベルから順次新たなレベルに変更するように構成して、輻射温調手段2の温調出力の制御を行う構成とすることもできる。
【0069】
(D)上記実施形態においては、制御変数Xの温度制御範囲として複数の異なるレベル(例えば、6つ)を設定し、隣接するレベルの温度制御範囲を相互にオーバーラップさせた状態で設定したが、制御変数Xの温度制御範囲の具体的な温度範囲や、設定数、或いはオーバーラップする範囲等については適宜変更することができる。なお、この場合には、上記別実施形態(A)で説明したように、各レベルの各基準点変更用閾温度Cは、現在の基準点から新たな基準点への変更を確実に行うことができるように適切な温度に設定される。
【0070】
(E)上記実施形態においては、各レベルに対応する各冷却水用目標設定温度Q2を、空気用目標設定温度P2にレベルに対応した所定値を加算又は減算した値とする際の所定値として、+2、0、−2、−4、−6、−8、の6つの数値を用いて、6つのレベルを設定したが、これに限らず、各種の数値を用いることができ、レベル数も適宜増減することができる。
【0071】
(F)上記実施形態においては、空気温度検出手段により検出された空気温度P1に替えて、当該空気温度P1と空気用目標設定温度P2との温度差(差分値:P1−P2)である制御変数Xを用いて、当該制御変数Xを横軸とするステップサーモ方式について説明したが(図2〜図13の横軸参照)、当該空気温度P1自体を横軸とするステップサーモ方式にて制御する構成としてもよい。
【0072】
(G)上記実施形態においては、冷却水Q(流体の一例)を用いた輻射温調装置Eによりブース1内を温調する構成について説明したが、ブース1内に空気(流体の一例)を送風供給してブース1内の空気を温調する構成としてもよい。この場合、上記実施形態における一対の輻射パネル2aは必要なく、流体循環流路13に熱交換部10、電気ヒータ12により温調された空気を循環通流させてブース1内に送風する構成とすることができる。
【0073】
(H)上記実施形態においては、輻射温調手段として、熱交換部10(冷却手段の一例)を有する冷凍回路と、電気ヒータ12(加熱手段の一例)とを備えた構成について説明したが、冷却手段及び加熱手段としては、公知の冷却手段及び加熱手段を用いることができる。例えば、加熱手段としての電気ヒータ12に替えて、上記冷凍回路の再熱器を用いる構成とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上説明したように、ブース内を温調する際に、運転が安定することを正確かつ迅速に判断して、ブース内の空気の空気温度を短い時間で且つハンチングを防止しながら空気用目標設定温度に収束するように安定させ、省エネを実現できる温調装置として有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 ブース
2 輻射温調手段(温調手段)
2a 輻射パネル(輻射温調手段)
3 冷却水用温度センサ(流体温度検出手段及び熱媒温度検出手段)
4 空気用温度センサ(空気温度検出手段)
5 制御部(制御手段)
10 熱交換部(冷却手段、輻射温調手段)
12 電気ヒータ(加熱手段、輻射温調手段)
13 流体循環流路
X 制御変数
P1 空気温度
P2 空気用目標設定温度
Q1 冷却水温度(流体温度及び熱媒温度)
Q2 冷却水用目標設定温度(流体用目標設定温度及び熱媒用目標設定温度)
C 基準点変更用閾温度
E 輻射温調装置(温調装置)
P 空気
Q 冷却水(流体及び熱媒)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブース内に流体を供給して前記ブース内の空気を温調する温調手段と、前記ブース内の空気の空気温度を検出する空気温度検出手段と、前記温調手段の運転を制御する制御手段とを備え、
前記空気温度の温度制御範囲として下限値と上限値とが設定された温度制御範囲の異なる複数のレベルが、当該複数のレベルのうち隣接するレベルの前記温度制御範囲を相互にオーバーラップさせた環状ステップを形成するように設定され、
前記制御手段が、現在のレベルにおいて前記温調手段の温調出力を制御している制御状態において、前記空気温度が前記現在のレベルの温度制御範囲における上限値に到達した場合には、前記現在のレベルを、より大きな上限値を有する新たなレベルに変更して温調出力を上昇させ、前記空気温度が前記現在のレベルの温度制御範囲における下限値に到達した場合には、前記現在のレベルを、より小さな下限値を有する新たなレベルに変更して温調出力を低下させるように、前記複数のレベル間に亘って移動可能なステップサーモ方式の下に、前記温調手段の温調出力をPID制御する温調装置であって、
前記ブース内に供給される流体の流体温度を検出する流体温度検出手段を備え、
前記制御手段が、前記流体温度検出手段により検出される流体温度が流体用目標設定温度となるように前記温調手段をPID制御する構成で、
前記複数のレベルそれぞれに、異なる温度の前記流体用目標設定温度が対応して設定され、
前記各レベルには、制御の基準となる基準点がそれぞれ対応して設定されるとともに、各基準点には、当該各基準点に所定温度を加算又は減算した基準点変更用閾温度がそれぞれ対応して設定され、
前記各基準点に加算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する前記各レベルにおける温度制御範囲の上限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定されるとともに、前記各基準点に減算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する前記各レベルにおける温度制御範囲の下限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定され、
現在の基準点を制御の基準として前記温調手段の温調出力をPID制御している制御状態において、前記空気温度が、前記現在の基準点に対応する現在の前記レベルから新たな前記レベルに移動した後、前記現在の基準点に対応して設定された前記基準点変更用閾温度に初めて到達した場合に、前記制御手段が、当該現在の基準点を当該新たなレベルに設定された新たな基準点に変更し、当該新たな基準点を制御の基準として、前記温調手段の温調出力をPID制御する温調装置。
【請求項2】
前記温調手段が、前記ブース内に配設された輻射パネル内に前記流体としての熱媒を循環供給して前記ブース内の空気を輻射温調する輻射温調手段で構成され、前記輻射温調手段が、前記熱媒を冷却する冷却手段と、前記冷却手段により冷却された前記熱媒を加熱する加熱手段とを備え、
前記流体温度検出手段が、前記冷却手段により冷却され、前記加熱手段により加熱される前の前記熱媒の熱媒温度を検出する熱媒温度検出手段で構成されるとともに、
前記制御手段が、前記空気温度に替えて、当該空気温度と前記ブース内における空気の空気用目標設定温度との差分値である制御変数を用いて、前記熱媒温度が前記流体用目標設定温度としての熱媒用目標設定温度となるように前記冷却手段をPID制御するとともに、前記制御変数が前記新たな基準点に収束するように前記加熱手段をPID制御する請求項1に記載の温調装置。
【請求項3】
前記現在の基準点を制御の基準として前記温調手段の温調出力をPID制御している制御状態において、前記現在のレベルから前記新たなレベルへのレベル変更が前記温調出力の大きくなる方向又は小さくなる方向に連続して実行された後、前記現在の基準点の前記基準点変更用閾温度が変更後の前記新たなレベルの温度制御範囲内に位置するように設定される請求項2に記載の温調装置。
【請求項4】
前記各基準点は、前記各レベルの中間値に設定されている請求項3に記載の温調装置。
【請求項5】
前記各レベルに対応する異なる温度の前記熱媒用目標設定温度が、前記空気用目標設定温度に所定値を加算又は減算した値である請求項4に記載の温調装置。
【請求項1】
ブース内に流体を供給して前記ブース内の空気を温調する温調手段と、前記ブース内の空気の空気温度を検出する空気温度検出手段と、前記温調手段の運転を制御する制御手段とを備え、
前記空気温度の温度制御範囲として下限値と上限値とが設定された温度制御範囲の異なる複数のレベルが、当該複数のレベルのうち隣接するレベルの前記温度制御範囲を相互にオーバーラップさせた環状ステップを形成するように設定され、
前記制御手段が、現在のレベルにおいて前記温調手段の温調出力を制御している制御状態において、前記空気温度が前記現在のレベルの温度制御範囲における上限値に到達した場合には、前記現在のレベルを、より大きな上限値を有する新たなレベルに変更して温調出力を上昇させ、前記空気温度が前記現在のレベルの温度制御範囲における下限値に到達した場合には、前記現在のレベルを、より小さな下限値を有する新たなレベルに変更して温調出力を低下させるように、前記複数のレベル間に亘って移動可能なステップサーモ方式の下に、前記温調手段の温調出力をPID制御する温調装置であって、
前記ブース内に供給される流体の流体温度を検出する流体温度検出手段を備え、
前記制御手段が、前記流体温度検出手段により検出される流体温度が流体用目標設定温度となるように前記温調手段をPID制御する構成で、
前記複数のレベルそれぞれに、異なる温度の前記流体用目標設定温度が対応して設定され、
前記各レベルには、制御の基準となる基準点がそれぞれ対応して設定されるとともに、各基準点には、当該各基準点に所定温度を加算又は減算した基準点変更用閾温度がそれぞれ対応して設定され、
前記各基準点に加算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する前記各レベルにおける温度制御範囲の上限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定されるとともに、前記各基準点に減算される所定温度の絶対値が、0よりも大きく、かつ、当該各基準点から当該各基準点に対応する前記各レベルにおける温度制御範囲の下限値までの温度差の絶対値よりも小さく設定され、
現在の基準点を制御の基準として前記温調手段の温調出力をPID制御している制御状態において、前記空気温度が、前記現在の基準点に対応する現在の前記レベルから新たな前記レベルに移動した後、前記現在の基準点に対応して設定された前記基準点変更用閾温度に初めて到達した場合に、前記制御手段が、当該現在の基準点を当該新たなレベルに設定された新たな基準点に変更し、当該新たな基準点を制御の基準として、前記温調手段の温調出力をPID制御する温調装置。
【請求項2】
前記温調手段が、前記ブース内に配設された輻射パネル内に前記流体としての熱媒を循環供給して前記ブース内の空気を輻射温調する輻射温調手段で構成され、前記輻射温調手段が、前記熱媒を冷却する冷却手段と、前記冷却手段により冷却された前記熱媒を加熱する加熱手段とを備え、
前記流体温度検出手段が、前記冷却手段により冷却され、前記加熱手段により加熱される前の前記熱媒の熱媒温度を検出する熱媒温度検出手段で構成されるとともに、
前記制御手段が、前記空気温度に替えて、当該空気温度と前記ブース内における空気の空気用目標設定温度との差分値である制御変数を用いて、前記熱媒温度が前記流体用目標設定温度としての熱媒用目標設定温度となるように前記冷却手段をPID制御するとともに、前記制御変数が前記新たな基準点に収束するように前記加熱手段をPID制御する請求項1に記載の温調装置。
【請求項3】
前記現在の基準点を制御の基準として前記温調手段の温調出力をPID制御している制御状態において、前記現在のレベルから前記新たなレベルへのレベル変更が前記温調出力の大きくなる方向又は小さくなる方向に連続して実行された後、前記現在の基準点の前記基準点変更用閾温度が変更後の前記新たなレベルの温度制御範囲内に位置するように設定される請求項2に記載の温調装置。
【請求項4】
前記各基準点は、前記各レベルの中間値に設定されている請求項3に記載の温調装置。
【請求項5】
前記各レベルに対応する異なる温度の前記熱媒用目標設定温度が、前記空気用目標設定温度に所定値を加算又は減算した値である請求項4に記載の温調装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−248015(P2012−248015A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119490(P2011−119490)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000229047)日本スピンドル製造株式会社 (328)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000229047)日本スピンドル製造株式会社 (328)
【Fターム(参考)】
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