説明

測位方法、プログラム、測位装置及び電子機器

【課題】測位処理の切り替えによる測位精度の低下を防止すること。
【解決手段】複数のGPS衛星から発信されているGPS衛星信号を受信して最小二乗法
を用いたLS測位処理を行って現在位置が測位される。そして、LS測位処理の結果が、
測位処理を移行する条件として予め定められた測位移行条件を満たすか否かが判定され、
満たすと判定された場合に、LS測位処理を停止させ、複数のGPS衛星から発信されて
いるGPS衛星信号を受信してカルマンフィルタを用いたKF測位処理をが行われて、現
在位置が測位される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位方法、プログラム、測位装置及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星を利用した測位システムとしては、GPS(Global Positioning System)が
広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵された測位装置に利
用されている。GPSでは、自機の位置を示す3次元の座標値と、時計誤差との4つのパ
ラメータの値を、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から自機までの擬似距離等の情
報に基づいて求める測位演算を行うことで、自機の現在位置を測位する。
【0003】
しかし、GPSによる測位では、いわゆるマルチパスによる影響等、種々の誤差要因が
存在しており、測位誤差の発生を回避することが困難であるため、測位誤差を低減させる
ための様々な技術が考案されている。その一例として、特許文献1には、カルマンフィル
タを用いた測位処理に関する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−337156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カルマンフィルタを用いた測位処理では、1時刻前の測位位置からの相対移動距離を推
測して現在の測位位置を求める手順を繰り返して測位を行うが、最初に初期位置を設定す
る必要がある。特許文献1に開示されている技術では、例えば最小二乗法を用いた測位処
理で得られた測位位置を初期位置として設定することにしている。
【0005】
しかし、最小二乗法を用いた測位処理で得られた測位位置が、測位装置の真位置から大
きく離れているような場合、カルマンフィルタを用いた測位処理では、その大きく離れた
位置からの相対移動距離を推測して測位位置を求めるため、測位精度が低下するという問
題があった。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みて為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するための第1の発明は、測位装置が、複数の測位用衛星から発信さ
れている測位用信号を受信して最小二乗法を用いた第1の測位処理を行って現在位置を測
位することと、前記第1の測位処理の結果が、測位処理を移行する条件として予め定めら
れた測位移行条件を満たすか否かを判定することと、前記測位移行条件を満たすと判定さ
れた場合に、前記第1の測位処理を停止させ、複数の測位用衛星から発信されている測位
用信号を受信してカルマンフィルタを用いた第2の測位処理を行って現在位置を測位する
こととを含む測位方法である。
【0008】
また、第9の発明として、複数の測位用衛星から発信されている測位用信号を受信して
最小二乗法を用いた第1の測位処理を行って現在位置を測位する第1の測位処理部と、前
記第1の測位処理の結果が、測位処理を移行する条件として予め定められた測位移行条件
を満たすか否かを判定する測位移行条件判定部と、前記測位移行条件を満たすと判定され
た場合に、前記第1の測位処理を停止させ、複数の測位用衛星から発信されている測位用
信号を受信してカルマンフィルタを用いた第2の測位処理を行って現在位置を測位する第
2の測位処理部とを備えた測位装置を構成してもよい。
【0009】
この第1の発明等によれば、複数の測位用衛星から発信されている測位用信号を受信し
て最小二乗法を用いた第1の測位処理を行って現在位置が測位される。そして、第1の測
位処理の結果が、測位処理を移行する条件として予め定められた測位移行条件を満たすか
否かが判定され、満たすと判定された場合に、第1の測位処理を停止させ、複数の測位用
衛星から発信されている測位用信号を受信してカルマンフィルタを用いた第2の測位処理
を行って現在位置が測位される。
【0010】
第1の測位処理において信頼性の高い測位位置が得られた時点で、測位移行条件を満た
したものと判定して第2の測位処理へと移行することで、信頼性の低い測位位置が第2の
測位処理に用いられることがなくなり、測位精度が低下することが防止される。
【0011】
第2の発明は、第1の発明の測位方法であって、前記測位移行条件を満たすかの判定で
は、前記第1の測位処理による現在位置の測位の連続回数が所定の測位移行回数に達した
場合に、前記測位移行条件を満たしたと判定する測位方法である。
【0012】
また、第10の発明として、第9の発明の測位装置であって、前記測位移行条件判定部
が、前記測位移行条件を満たすかの判定では、前記第1の測位処理による現在位置の測位
の連続回数が所定の測位移行回数に達した場合に、前記測位移行条件を満たしたと判定す
る測位装置を構成してもよい。
【0013】
この第2の発明等によれば、第1の測位処理による現在位置の測位の連続回数が所定の
測位移行回数に達した場合に、測位移行条件を満たしたと判定される。第1の測位処理を
ある程度の回数繰り返し実行することで、信頼性の高い測位位置が得られる可能性が高ま
る。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明の測位方法であって、前記第1の測位処理は、現在
位置の測位の他に、前記測位装置の位置情報及び速度情報の誤差を算出する処理であり、
前記測位移行条件を満たすかの判定では、前記第1の測位処理において今回算出された誤
差と前回算出された誤差とが所定の誤差同等条件を満足する場合に、前記測位移行条件を
満たしたと判定する測位方法である。
【0015】
また、第11の発明として、第9又は第10の発明の測位装置であって、前記第1の測
位処理部が、前記第1の測位処理において、現在位置の測位の他に、位置情報及び速度情
報の誤差を算出し、前記測位移行条件判定部が、前記測位移行条件を満たすかの判定では
、前記第1の測位処理において今回算出された誤差と前回算出された誤差とが所定の誤差
同等条件を満足する場合に、前記測位移行条件を満たしたと判定する測位装置を構成して
もよい。
【0016】
この第3の発明等によれば、第1の測位処理では、測位装置の位置情報及び速度情報の
誤差が算出され、今回算出された誤差と前回算出された誤差とが所定の誤差同等条件を満
たした場合に、測位移行条件を満たしたと判定される。位置情報及び速度情報の誤差が今
回測位時と前回測位時とで同等であれば、今回の測位位置は信頼性の高いものである可能
性が高い。
【0017】
第4の発明は、第3の発明の測位方法であって、前記第2の測位処理は、現在位置の測
位の他に、前記測位装置の位置情報及び速度情報の誤差の共分散を算出する処理であり、
前記誤差の共分散の初期値を、前記第1の測位処理において算出された誤差に基づいて設
定することを更に含む測位方法である。
【0018】
また、第12の発明として、第11の発明の測位装置であって、前記第2の測位処理部
が、前記第2の測位処理において、現在位置の測位の他に、位置情報及び速度情報の誤差
の共分散を算出し、前記誤差の共分散の初期値を、前記第1の測位処理において算出され
た誤差に基づいて設定する誤差共分散初期値設定部を更に備えた測位装置を構成してもよ
い。
【0019】
この第4の発明等によれば、第2の測位処理では、測位装置の位置情報及び速度情報の
誤差の共分散が算出されるが、この誤差の共分散の初期値が、第1の測位処理において算
出された誤差に基づいて設定される。これにより、実環境に合った誤差の共分散の初期値
が設定されることになり、第2の測位処理の測位精度が向上する。
【0020】
第5の発明は、第4の発明の測位方法であって、前記第2の測位処理において算出され
た誤差の共分散が、所定の低誤差条件を満たすか否かを判定することと、前記低誤差条件
を満たさないと判定された場合に、前記第2の測位処理を停止させ、前記第1の測位処理
を行うこととを更に含む測位方法である。
【0021】
また、第13の発明として、第12の発明の測位装置であって、前記第2の測位処理に
おいて算出された誤差の共分散が、所定の低誤差条件を満たすか否かを判定する低誤差条
件判定部を備え、前記第1の測位処理部が、前記低誤差条件を満たさないと判定された場
合に、前記第2の測位処理を停止させ、前記第1の測位処理を行う測位装置を構成しても
よい。
【0022】
この第5の発明等によれば、第2の測位処理において算出された誤差の共分散が、所定
の低誤差条件を満たすか否かが判定され、満たさないと判定された場合に、第2の測位処
理を停止させ、第1の測位処理が行われる。従って、第2の測位処理で精度の低い測位位
置が得られた時点で、第1の測位処理へと移行される。
【0023】
第6の発明は、第1〜第5の何れかの発明の測位方法であって、前記第2の測位処理が
最後に行われてからの経過時間が所定の測位移行時間に達したか否かを判定することと、
前記測位移行時間に達したと判定された場合に、前記第2の測位処理を停止させ、前記第
1の測位処理を行うこととを更に含む測位方法である。
【0024】
また、第14の発明として、第9〜第13の何れかの発明の測位装置であって、前記第
2の測位処理が最後に行われてからの経過時間が所定の測位移行時間に達したか否かを判
定する測位移行時間判定部を備え、前記第1の測位処理部が、前記測位移行時間に達した
と判定された場合に、前記第2の測位処理を停止させ、前記第1の測位処理を行う測位装
置を構成してもよい。
【0025】
この第6の発明等によれば、第2の測位処理が最後に行われてからの経過時間が所定の
測位移行時間に達したか否かが判定され、達したと判定された場合に、第2の測位処理を
停止させ、第1の測位処理が行われる。従って、第2の測位処理が一定時間行われなかっ
た場合に、第1の測位処理へと移行される。
【0026】
また、第7の発明として、第1〜第6の何れかの発明の測位方法であって、前記第1の
測位処理から前記第2の測位処理へと測位処理が移行されて後、所定の安定条件が成立す
るまでの間は、時刻変化に伴う測位位置の変動が大きくなるように前記カルマンフィルタ
のフィルタ特性を変化させて前記第2の測位処理を行うことを更に含む測位方法を構成し
てもよい。
【0027】
この第7の発明によれば、第1の測位処理から第2の測位処理へと測位処理が移行され
て後、所定の安定条件が成立するまでの間は、時刻変化に伴う測位位置の変動が大きくな
るようにカルマンフィルタのフィルタ特性を変化させる。第1の測位処理で得られた測位
位置は精度が低い可能性があるため、第2の測位処理に移行してから暫くの間は、時刻変
化に伴う測位位置の変動を大きくすることで、測位位置が真位置に近づき易くなるように
する。
【0028】
また、第8の発明として、第1〜第7の何れかの発明の測位方法を、測位装置に内蔵さ
れたコンピュータに実行させるためのプログラムを構成してもよいし、さらには、第15
の発明として、第9〜第14の何れかの発明の測位装置を備えた電子機器を構成してもよ
い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明に好適な実施形態の一例を説明する。尚、以下では、測
位装置を備えた電子機器として携帯型電話機を例に挙げ、測位システムとしてGPSを用
いた場合について説明するが、本発明を適用可能な実施形態がこれに限定されるわけでは
ない。
【0030】
1.原理
携帯型電話機1は、測位用衛星であるGPS衛星から発信(送出)されている測位用信
号としてのGPS衛星信号を受信し、受信したGPS衛星信号に重畳されているGPS衛
星の軌道情報(エフェメリスデータやアルマナックデータ)等の航法メッセージに基づい
て、GPS衛星の位置、移動方向、速度等の衛星情報を算出する。GPS衛星信号は、C
/A(Coarse and Acquisition)コードと呼ばれるスペクトラム拡散変調された信号であ
り、1.57542[GHz]を搬送波周波数とするL1帯の搬送波に重畳されている。
【0031】
尚、GPS衛星は、6つの周回軌道面それぞれに4機ずつ配置され、原則、地球上のど
こからでも常時4機以上の衛星が幾何学的配置のもとで観測できるように運用されている
。以下では、捕捉したGPS衛星信号を発信したGPS衛星を、他のGPS衛星と区別す
るために「捕捉衛星」と称する。
【0032】
また、携帯型電話機1は、内蔵している水晶時計により特定されるGPS衛星信号の受
信時刻と、当該受信したGPS衛星信号のGPS衛星からの送信時刻との差に基づいて、
捕捉衛星から自機までの電波伝搬時間を計算する。そして、計算した電波伝搬時間に光速
度を乗算することで、捕捉衛星から自機までの距離(疑似距離)を計算する。
【0033】
携帯型電話機1は、自機の位置を示す3次元の座標値と、時計誤差との4つのパラメー
タの値を、複数の捕捉衛星の衛星情報や各捕捉衛星から自機までの距離(擬似距離)等の
情報に基づいて算出する測位演算を行うことで、自機の現在位置を測位する。
【0034】
本実施形態では、携帯型電話機1は、最小二乗法を用いた測位処理(以下、「LS(Le
ast Square)測位処理」と称す。)と、カルマンフィルタを用いた測位処理(以下、「K
F(Kalman Filter)測位処理」と称す。)とを相互に切り替えながら、現在位置を測位
する。LS測位処理は周知の処理であるため説明を省略し、ここでは本実施形態における
KF測位処理について詳細に説明する。
【0035】
カルマンフィルタは、誤差を含む観測値を利用して、時々刻々と変化する状態量を推定
する確率理論に基づく推定方法である。本実施形態では、携帯型電話機1の状態を状態ベ
クトル「X」で表し、状態ベクトル「X」と真値との誤差の共分散を誤差共分散行列「P
」で表す。
【0036】
状態ベクトル「X」は、携帯型電話機1の3次元の位置ベクトル(x,y,z)、クロ
ックバイアス(b)、3次元の速度ベクトル(u,v,w)及びクロックドリフト(d)
を成分とする8次元のベクトルである。また、誤差共分散行列「P」は、状態ベクトル「
X」の各成分の誤差の共分散を示す8×8の行列である。
【0037】
KF測位処理では、状態ベクトル「X」及び誤差共分散行列「P」の予測処理(Predic
tion)及び補正処理(Correction)を行う。以下説明においては、この計算処理上の時間
経過(計算処理上の所定時間間隔)を表す単位を「1時刻」と称し、時刻1つ1つを進め
ながら、各時刻毎に携帯型電話機1の現在位置を測位する。
【0038】
図1は、本実施形態におけるKF測位処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、携帯型電話機1の速度を予測する速度予測処理を行う(ステップA1)。具体的
には、式(1)及び式(2)に従って、現在の状態ベクトル「X」及び誤差共分散行列「
P」の予測値を算出する。
【数1】

【数2】

【0039】
ここで、各式における下付きの添え字「t」は時刻を示しており、上付きの添え字「−
」は予測値、「+」は補正値、「T」は転置行列をそれぞれ示している。また、「φ」は
、状態遷移行列と呼ばれる8×8の行列であり、「Q」は、プロセスノイズと呼ばれる8
×8の行列である。状態遷移行列「φ」及びプロセスノイズ「Q」の行と列の並びは、状
態ベクトル「X」の8次元の成分(x,y,z,b,u,v,w,d)にそれぞれ対応し
ている。
【0040】
本実施形態では、次式(3)で表される状態遷移行列「φ」を用いて計算を行う。
【数3】

但し、「dt」は、前回のKF測位処理時の時刻と現在(今回)の時刻との時刻差であ
る。
【0041】
式(1)からわかるように、速度予測処理では、1時刻前の状態ベクトル「X」の補正
値を現在の状態ベクトル「X」の予測値とする。すなわち、携帯型電話機1の現在の速度
が、1時刻前に求められた速度と同一であると予測する。速度予測処理を行った後、予測
速度を補正する速度補正処理を行う(ステップA3)。
【0042】
図2は、速度補正処理の流れを示すフローチャートである。
速度補正処理では、各捕捉衛星について、ループAの処理を繰り返し実行する(ステッ
プB1〜B19)。ループAでは、先ず当該捕捉衛星からのGPS衛星信号を受信した受
信周波数を取得して、受信周波数に関する実測値(以下、受信したGPS衛星信号に関す
る実測値のことを「メジャメント実測値」と称す。)とする(ステップB3)。
【0043】
GPS衛星信号の周波数は、1.57542[GHz]に規定されているが、GPS衛
星と携帯型電話機1との相対的な移動方向・移動速度の変化に応じて携帯型電話機1での
受信周波数が変化する。この周波数偏移がいわゆるドップラー周波数であり、受信周波数
はドップラー周波数による偏移後の周波数である。
【0044】
また、当該捕捉衛星の位置、移動方向及び速度の情報(衛星情報)と、状態ベクトル「
X」の予測値から得られる携帯型電話機1の位置、移動方向及び速度の情報(以下、包括
的に「自機情報」と称す。)とに基づいて、当該GPS衛星信号の受信周波数を予測して
、受信周波数に関する予測値(以下、メジャメント実測値を予測した値のことを「メジャ
メント予測値」と称す。)とする(ステップB5)。
【0045】
次いで、当該捕捉衛星の衛星情報と自機情報とに基づいて、携帯型電話機1から当該捕
捉衛星への視線方向を示す視線方向行列「H」を算出する(ステップB7)。また、カル
マンフィルタの入力値とする観測値「Z」の測定誤差を示す行列として、所定の測定誤差
行列「R」を設定する(ステップB9)。そして、受信周波数に関して、ステップB3で
取得したメジャメント実測値と、ステップB5で算出したメジャメント予測値との差を算
出して、当該捕捉衛星の観測値「Z」とする(ステップB11)。
【0046】
GPS衛星信号の受信周波数の実測値と予測値との差をカルマンフィルタの入力値とす
ることで、状態ベクトル「X」の3次元の速度ベクトル(u,v,w)及びクロックドリ
フト(d)の変化量を求めることができる。尚、この場合、状態ベクトル「X」の3次元
の位置ベクトル(x,y,z)及びクロックバイアス(b)の変化量は「0」である。
【0047】
次いで、速度予測処理で算出された誤差共分散行列「P」の予測値と、視線方向行列「
H」と、測定誤差行列「R」とを用いて、次式(4)に従ってカルマンゲイン「K」を算
出する(ステップB13)。
【数4】

【0048】
そして、カルマンゲイン「K」と、観測値「Z」と、視線方向行列「H」とを用いて、
次式(5)に従って状態ベクトルの差分「ΔX」を算出する(ステップB15)。
【数5】

【0049】
また、カルマンゲイン「K」と、視線方向行列「H」と、誤差共分散行列「P」の予測
値とを用いて、次式(6)に従って誤差共分散行列「P」を補正する(ステップB17)

【数6】

但し、「I」は単位行列である。
【0050】
ステップB3〜B17の処理を全捕捉衛星について順次行い、状態ベクトルの差分「Δ
X」及び誤差共分散行列「P」を更新していく。そして、次式(7)に従って、速度予測
処理で算出された状態ベクトル「X」の予測値に、状態ベクトルの差分「ΔX」を加算し
て状態ベクトル「X」を補正することで、携帯型電話機1の速度を決定する(ステップB
21)。
【数7】

【0051】
ステップB21で得られた状態ベクトル「X」は、3次元の速度ベクトル(u,v,w
)及びクロックドリフト(d)が、それぞれ予測値から補正されたものとなっている。こ
れは、上述したように、GPS衛星信号の受信周波数に関するメジャメント実測値とメジ
ャメント予測値との差を観測値「Z」として、状態ベクトルの差分「ΔX」を算出したこ
とによるものである。補正後の状態ベクトル「X」の3次元の速度ベクトル(u,v,w
)で表される速度が、現在の時刻の速度となる。
【0052】
図1のKF測位処理に戻って、速度補正処理を行った後、携帯型電話機1の位置を予測
する位置予測処理を行う(ステップA5)。具体的には、次式(8)に従って、速度補正
処理で求められた状態ベクトル「X」の補正値に状態遷移行列「φ」を乗算することで、
状態ベクトル「X」の予測値を算出する。
【数8】

【0053】
式(3)からわかるように、状態遷移行列「φ」のうち、3次元の速度ベクトル(u,
v,w)に対応する3×3の行列部分の対角成分は、前回の時刻と現在の時刻との時刻差
「dt」となっている。従って、状態ベクトル「X」の補正値に状態遷移行列「φ」を乗
算した場合、その位置成分に着目すると、1時刻前の測位位置に予測移動距離が加算され
ることになり、携帯型電話機1の現在の予測位置が算出される。位置予測処理を行った後
、予測位置を補正する位置補正処理を行う(ステップA7)。
【0054】
図3は、位置補正処理の流れを示すフローチャートである。
位置補正処理の流れは速度補正処理の流れとほぼ同一であるため、異なる部分を中心に
説明する。位置補正処理では、当該捕捉衛星から受信したGPS衛星信号のコード位相を
取得してコード位相に関するメジャメント実測値とし(ステップC3)、当該GPS衛星
信号のコード位相を予測してコード位相に関するメジャメント予測値とする(ステップC
5)。そして、このコード位相に関するメジャメント実測値とメジャメント予測値との差
を算出して、カルマンフィルタの入力値である観測値「Z」とする(ステップC11)。
【0055】
ここで、コード位相とは、GPS衛星信号に変調されているC/Aコードの位相のこと
である。観念的には、GPS衛星と携帯型電話機1との間には、C/Aコードが連続的に
並んでいると考えることができるが、GPS衛星から携帯型電話機1までの距離がC/A
コードの長さの整数倍になるとは限らない。この場合、C/Aコードの長さの整数倍に端
数部分を加えた長さがGPS衛星と携帯型電話機1間の距離になるが、この端数部分に相
当する位相がコード位相である。
【0056】
GPS衛星信号のコード位相に関するメジャメント実測値とメジャメント予測値との差
をカルマンフィルタの入力値とすることで、状態ベクトル「X」の3次元の位置ベクトル
(x,y,z)及びクロックバイアス(b)の変化量を求めることができる。尚、この場
合、3次元の速度ベクトル(u,v,w)及びクロックドリフト(d)の変化量は「0」
である。
【0057】
ステップC3〜C17の処理を全捕捉衛星について順次行い、状態ベクトルの差分「Δ
X」及び誤差共分散行列「P」を更新していく。そして、式(7)に従って、位置予測処
理で算出された状態ベクトル「X」の予測値に、状態ベクトルの差分「ΔX」を加算して
状態ベクトル「X」を補正することで、携帯型電話機1の測位位置を決定する(ステップ
C21)。
【0058】
ステップC21で得られた状態ベクトル「X」は、3次元の位置ベクトル(x,y,z
)及びクロックバイアス(b)が、それぞれ予測値から補正されたものとなっている。こ
れは、上述したように、GPS衛星信号のコード位相の実測値と予測値との差を観測値「
Z」として、状態ベクトルの差分「ΔX」を算出したことによるものである。補正後の状
態ベクトル「X」の3次元の位置ベクトル(x,y,z)で表される位置が、最終的に求
めた現在の時刻における測位位置となる。
【0059】
次に、LS測位処理とKF測位処理とを切り替える原理について説明する。本実施形態
では、測位処理において、携帯型電話機1の位置、クロックバイアス、速度及びクロック
ドリフトのそれぞれの誤差を示す値(以下、それぞれ「位置σ値」、「クロックバイアス
σ値」、「速度σ値」及び「クロックドリフトσ値」と称し、これらを包括して「σ値」
と称す。)を算出し、当該σ値に基づいて測位処理を切り替える。
【0060】
σ値の算出方法について説明する。携帯型電話機1の3次元の位置ベクトル(x,y,
z)及びクロックバイアス(b)の視線方向行列「H」に、小さな変動「δr」があった
時、位置及びクロックバイアスを成分とするベクトル(x,y,z,s)に与える影響「
δX」と、視線方向行列「H」と、変動「δr」との間には、次式(9)のような関係が
成立する。
【数9】

【0061】
視線方向行列「H」の逆行列を用いて式(9)から「δX」を求めると、次式(10)
のようになる。
【数10】

【0062】
このとき、誤差伝播の法則を用いて「δX」の共分散行列「cov(δX)」を求める
と、次式(11)のようになる。
【数11】

【0063】
ここで、「δr」の各成分の間に相関がなく、測定誤差の分散が「σ2」と表されるも
のとすると、次式(12)が成立する。
【数12】

【0064】
従って、式(12)を式(11)に代入することで、次式(13)を得ることができる

【数13】

【0065】
このとき、位置σ値「σP」及びクロックバイアスσ値「σB」は、共分散行列「cov
(δX)」の成分を用いて、次式(14)、(15)に従ってそれぞれ算出することがで
きる。
【数14】

【数15】

【0066】
速度σ値及びクロックドリフトσ値についても、同様にして算出することができる。す
なわち、携帯型電話機1の3次元の速度ベクトル(u,v,w)及びクロックドリフト(
d)の視線方向行列「H」を用いて上記と同様の計算を行い、小さな変動「δr」が、速
度及びクロックドリフトを成分とするベクトル(u,v,w,d)に与える影響「δX」
の共分散行列「cov(δX)」を求めると、次式(16)のようになる。
【数16】

【0067】
このとき、速度σ値「σV」及びクロックドリフトσ値「σD」は、共分散行列「cov
(δX)」の成分を用いて、次式(17)、(18)に従ってそれぞれ算出することがで
きる。
【数17】

【数18】

【0068】
本実施形態では、LS測位処理による現在位置の測位の連続回数が所定回数(例えば「
20回」)に達しており、且つ、LS測位処理において今回算出されたσ値と前回算出さ
れたσ値とが所定の誤差同等条件を満たす場合に、LS測位処理からKF測位処理へと処
理を移行する。
【0069】
具体的には、位置σ値、クロックバイアスσ値、速度σ値及びクロックドリフトσ値の
それぞれについて、今回のLS測位処理で算出された値と、前回のLS測位処理で算出さ
れた値との差分を算出する。そして、算出したσ値の差分を、4種類のσ値それぞれにつ
いて予め定められた閾値と比較し、全てのσ値の差分が閾値を超えなかった場合に(閾値
を超えたσ値の差分が1つも存在しなかった場合に)、誤差同等条件を満たすものと判定
する。
【0070】
前回と今回のLS測位処理における位置、クロックバイアス、速度及びクロックドリフ
トのそれぞれの誤差が同等であれば、今回のLS測位処理で得られた測位位置は信頼性の
高いものである可能性が高い。そこで、LS測位処理をある程度の回数連続して実行した
後、誤差同等条件が満たされた時点で、KF測位処理へと移行することにしている。
【0071】
KF測位処理へと移行した後、KF測位処理で得られた誤差共分散行列「P」が所定の
低誤差条件を満たしている間は、KF測位処理を続行する。具体的には、誤差共分散行列
「P」のうち、3次元の位置ベクトル(x,y,z)に対応する3×3の行列部分の各成
分が、それぞれ所定の閾値を超えていない場合は、低誤差条件を満たすものと判定する。
一方、閾値を超えた成分が1つでも存在する場合は、低誤差条件を満たさないものと判定
して、LS測位処理へと処理を移行する。
【0072】
2.機能構成
図4は、携帯型電話機1の機能構成を示すブロック図である。携帯型電話機1は、GP
Sアンテナ10と、GPS受信部20と、TCXO(Temperature Compensated Crystal
Oscillator)40と、ホストCPU(Central Processing Unit)50と、操作部60と
、表示部70と、携帯電話用アンテナ80と、携帯電話用無線通信回路部90と、ROM
(Read Only Memory)100と、RAM(Random Access Memory)110とを備えて構成
される。
【0073】
GPSアンテナ10は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を含むRF信号
を受信するアンテナであり、受信した信号をGPS受信部20に出力する。
【0074】
GPS受信部20は、GPSアンテナ10から出力された信号に基づいて携帯型電話機
1の現在位置を測位する測位部であり、いわゆるGPS受信機に相当する機能ブロックで
ある。GPS受信部20は、RF(Radio Frequency)受信回路部21と、ベースバンド
処理回路部30とを備えて構成される。尚、RF受信回路部21と、ベースバンド処理回
路部30とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも
、1チップとして製造することも可能である。
【0075】
RF受信回路部21は、高周波信号(RF信号)の回路ブロックであり、TCXO40
により生成された発振信号を分周或いは逓倍することで、RF信号乗算用の発振信号を生
成する。そして、生成した発振信号を、GPSアンテナ10から出力されたRF信号に乗
算することで、RF信号を中間周波数の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)
信号」と称す。)にダウンコンバートし、IF信号を増幅等した後、A/D変換器でデジ
タル信号に変換して、ベースバンド処理回路部30に出力する。
【0076】
ベースバンド処理回路部30は、RF受信回路部21から出力されたIF信号に対して
相関処理等を行ってGPS衛星信号を捕捉・抽出し、データを復号して航法メッセージや
時刻情報等を取り出して測位演算を行う回路部である。ベースバンド処理回路部30は、
衛星捕捉・追尾部31と、プロセッサとしてのCPU33と、メモリとしてのROM35
及びRAM37とを備えて構成される。尚、本実施形態においては現在位置の測位演算そ
のものはCPU33で実行することとして説明するが、CPU33で実行する処理全てを
ホストCPU50で実行することとしてもよいのは勿論である。
【0077】
衛星捕捉・追尾部31は、RF受信回路部21から出力されたIF信号から、GPS衛
星信号の捕捉・追尾を行う回路部であり、GPS衛星信号の捕捉・追尾により得られた受
信周波数やコード位相に関する情報を、メジャメント実測値としてCPU33に出力する

【0078】
GPS衛星信号の捕捉は、擬似的に発生させた拡散符合(レプリカC/Aコード)とI
F信号との相関値を算出し、最も振幅が大きい周波数成分及び位相成分を抽出する相関処
理によって実現する。また、GPS衛星信号の追尾は、例えば遅延ロックループ(DLL
(Delay Locked Loop))として知られるコードループや、位相ロックループ(PLL(Ph
ase Locked Loop))として知られるキャリアループ等の回路によって、GPS衛星信号
に含まれるC/Aコード及び搬送波の位相を追尾することで実現する。
【0079】
図5は、ROM35に格納されたデータの一例を示す図である。ROM35には、CP
U33により読み出され、ベースバンド処理(図9参照)として実行されるベースバンド
処理プログラム351が記憶されている。また、ベースバンド処理プログラム351には
、LS測位処理として実行されるLS測位プログラム3511と、KF測位移行判定処理
(図10参照)として実行されるKF測位移行判定プログラム3513と、KF測位処理
(図1〜3参照)として実行されるKF測位プログラム3515とがサブルーチンとして
含まれている。
【0080】
ベースバンド処理とは、CPU33が、LS測位処理とKF測位処理とを切り替えなが
ら、携帯型電話機1の現在位置を測位して出力する処理である。ベースバンド処理につい
ては、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0081】
LS測位処理とは、CPU33が、複数の捕捉衛星について最小二乗法を用いた測位演
算を行うことで、携帯型電話機1の現在位置を測位する処理である。LS測位処理につい
ては周知の処理内容であるため、詳細な説明を省略する。
【0082】
KF測位移行判定処理とは、CPU33が、LS測位処理を連続して実行した回数が所
定回数に達しているか否かを判定し、所定回数に達していると判定した場合であって、所
定の誤差同等条件が成立する場合に、KF測位処理への移行が可能であると判定する処理
である。KF測位移行判定処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0083】
KF測位処理とは、CPU33が、複数の捕捉衛星についてカルマンフィルタを用いた
測位演算を行うことで、携帯型電話機1の現在位置を測位する処理である。KF測位処理
については、図1〜図3を参照して説明した通りである。
【0084】
図6は、RAM37に格納されるデータの一例を示す図である。RAM37には、LS
測位カウンタデータ371と、KF測位カウンタデータ373と、KF測位フラグデータ
375と、捕捉衛星別メジャメントデータ377と、測位履歴データ379とが記憶され
る。
【0085】
LS測位カウンタデータ371は、LS測位処理の連続実行回数をカウントするための
LS測位カウンタが記憶されたデータであり、ベースバンド処理においてCPU33によ
り更新される。
【0086】
KF測位カウンタデータ373は、KF測位処理の連続実行回数をカウントするための
KF測位カウンタが記憶されたデータであり、ベースバンド処理においてCPU33によ
り更新される。
【0087】
KF測位フラグデータ375は、LS測位処理からKF測位処理への移行が可能である
と判定された場合に「ON」に設定されるKF測位フラグが記憶されたデータであり、ベ
ースバンド処理においてCPU33により更新される。
【0088】
図7は、捕捉衛星別メジャメントデータ377のデータ構成例を示す図である。捕捉衛
星別メジャメントデータ377には、捕捉衛星3771と、メジャメント実測値3773
と、メジャメント予測値3775とが対応付けて記憶される。捕捉衛星3771には、当
該捕捉衛星の番号が記憶され、メジャメント実測値3773及びメジャメント予測値37
75には、当該捕捉衛星から受信したGPS衛星信号の受信周波数やコード位相の実測値
及び予測値がそれぞれ記憶される。
【0089】
例えば、捕捉衛星「S1」についてのメジャメント実測値は、受信周波数が「SFre
q1」、コード位相が「SCP1」であり、メジャメント予測値は、受信周波数が「EF
req1」、コード位相が「ECP1」である。KF測位処理では、CPU33は、メジ
ャメント実測値とメジャメント予測値との差を観測値「Z」として、速度補正処理及び位
置補正処理を行う。
【0090】
図8は、測位履歴データ379のデータ構成例を示す図である。測位履歴データ379
には、測位位置が決定された時刻3791と、その測位位置3793と、σ値3795と
が対応付けて新しい順に記憶されていく。測位履歴データ379のうち、最も新しい1レ
コード分の時刻3791、測位位置3793及びσ値3795の組合せを「最新測位情報
」、次に新しい1レコード分の時刻3791、測位位置3793及びσ値3795の組合
せを「前回測位情報」と称する。また、最新測位情報に含まれる測位位置3793を「最
新測位位置」と称する。
【0091】
例えば、時刻「t1」における測位位置は(X1,Y1,Z1)であり、σ値は、位置
σ値が「Pσ1」、クロックバイアスσ値が「Bσ1」、速度σ値が「Vσ1」、クロッ
クドリフトσ値が「Dσ1」である。測位履歴データ379は、LS測位処理及びKF測
位処理においてCPU33により更新される。
【0092】
TCXO40は、所定の発振周波数で発振信号を生成する温度補償型水晶発振器であり
、生成した発振信号をRF受信回路部21及びベースバンド処理回路部30に出力する。
【0093】
ホストCPU50は、ROM100に記憶されているシステムプログラム等の各種プロ
グラムに従って携帯型電話機1の各部を統括的に制御するプロセッサである。ホストCP
U50は、ベースバンド処理回路部30のCPU33から入力した最新測位位置をプロッ
トしたナビゲーション画面を、表示部70に表示させる。
【0094】
操作部60は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であ
り、押下されたキーやボタンの信号をホストCPU50に出力する。この操作部60の操
作により、通話要求やメールの送受信要求等の各種指示入力がなされる。
【0095】
表示部70は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、ホストCPU5
0から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部70には、
ナビゲーション画面や時刻情報等が表示される。
【0096】
携帯電話用アンテナ80は、携帯型電話機1の通信サービス事業者が設置した無線基地
局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。
【0097】
携帯電話用無線通信回路部90は、RF変換回路、ベースバンド処理回路等によって構
成される携帯電話の通信回路部であり、携帯電話用無線信号の変調・復調等を行うことで
、通話やメールの送受信等を実現する。
【0098】
ROM100は、ホストCPU50が携帯型電話機1を制御するためのシステムプログ
ラムや、ナビゲーション機能を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している

【0099】
RAM110は、ホストCPU50により実行されるシステムプログラム、各種処理プ
ログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを形
成している。
【0100】
3.処理の流れ
図9は、CPU33によりROM35に記憶されているベースバンド処理プログラム3
51が読み出されて実行されることで、携帯型電話機1において実行されるベースバンド
処理の流れを示すフローチャートである。
【0101】
ベースバンド処理は、RF受信回路部21によるGPS衛星信号の受信と併せて、CP
U33が、操作部60に測位開始指示の操作がなされたことを検出した場合に実行を開始
する処理であり、各種アプリケーションの実行といった各種の処理と並行して行われる処
理である。尚、携帯型電話機1の電源のON/OFFとGPSの起動/停止とを連動させ
、携帯型電話機1の電源投入操作を検出した場合に処理の実行を開始させることにしても
よい。原則として、測位演算は「1秒」毎に行われるものとする。
【0102】
また、特に説明しないが、以下のベースバンド処理の実行中は、GPSアンテナ10に
よるRF信号の受信や、RF受信回路部21によるIF信号へのダウンコンバート、衛星
捕捉・追尾部31によるGPS衛星信号の捕捉・追尾等が随時行われている状態にあるも
のとする。
【0103】
先ず、CPU33は、初期設定を行う(ステップS1)。具体的には、LS測位カウン
タ及びKF測位カウンタを「0」に設定し、RAM37のLS測位カウンタデータ371
及びKF測位カウンタデータ373にそれぞれ記憶させる。また、KF測位フラグを「O
FF」に設定し、RAM37のKF測位フラグデータ375に記憶させる。
【0104】
次いで、CPU33は、RAM37のKF測位フラグデータ375に記憶されているK
F測位フラグが「OFF」であるか否かを判定し(ステップS3)、「OFF」であると
判定した場合は(ステップS3;Yes)、ROM35に記憶されているLS測位プログ
ラム3511を読み出して実行することで、LS測位処理を行う(ステップS5)。
【0105】
LS測位処理では、複数の捕捉衛星について最小二乗法を用いた測位演算を行うことで
、携帯型電話機1の現在位置を測位する。また、式(9)〜式(18)に従って位置σ値
、クロックバイアスσ値、速度σ値及びクロックドリフトσ値を算出し、時刻3791と
、測位位置3793と、σ値3795とを対応付けて、RAM37の測位履歴データ37
9に記憶させる。
【0106】
次いで、CPU33は、RAM37のLS測位カウンタデータ371に記憶されている
LS測位カウンタをインクリメントする(ステップS7)。そして、ROM35に記憶さ
れているKF測位移行判定プログラム3513を読み出して実行することで、KF測位移
行判定処理を行う(ステップS9)。
【0107】
図10は、KF測位移行判定処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU33は、RAM37のLS測位カウンタデータ371に記憶されているL
S測位カウンタが「20」未満であるか否かを判定し(ステップT1)、「20」未満で
あると判定した場合は(ステップT1;Yes)、KF測位移行不可と判定して(ステッ
プT3)、KF測位移行判定処理を終了する。
【0108】
一方、LS測位カウンタが「20」以上であると判定した場合は(ステップT1;No
)、CPU33は、RAM37の測位履歴データ379に記憶されている各σ値3795
それぞれについて、最新測位情報に含まれる値と、前回測位情報に含まれる値との差分を
算出する(ステップT5)。
【0109】
次いで、CPU33は、誤差同等条件が成立したか否かを判定する(ステップT7)。
具体的には、ステップT5で算出した各σ値の差分が、各σ値それぞれについて予め定め
られた閾値未満であるか否かを判定し、全てのσ値の差分が閾値未満である場合に、誤差
同等条件が成立したものと判定する。一方、閾値以上となったσ値が1つでも存在した場
合は、誤差同等条件が成立しなかったものと判定する。
【0110】
ステップT7において誤差同等条件が成立しなかったものと判定した場合は(ステップ
T7;No)、CPU33は、ステップT3へと処理を移行する。一方、誤差同等条件が
成立したと判定した場合は(ステップT7;Yes)、測位移行条件を満たし、KF測位
移行可と判定して(ステップT9)、KF測位移行判定処理を終了する。
【0111】
図9のベースバンド処理に戻って、KF測位移行判定処理を行った後、CPU33は、
KF測位移行不可である場合は(ステップS11;No)、ステップS21へと処理を移
行する。また、KF測位移行可である場合は(ステップS11;Yes)、LS測位処理
で求められた測位位置を、カルマンフィルタの状態ベクトル「X」の位置成分に設定する
(ステップS13)。
【0112】
また、CPU33は、式(13)及び(16)に従って算出された「δX」の共分散行
列「cov(δX)」の各成分を、カルマンフィルタの誤差共分散行列「P」の各成分に
対応付けて設定する(ステップS15)。これにより、実環境に合った誤差共分散行列「
P」の初期値が設定されることになり、KF測位処理の測位精度が向上する。
【0113】
次いで、CPU33は、RAM37のKF測位フラグデータ375に記憶されているK
F測位フラグを「ON」に設定する(ステップS17)。また、RAM37のLS測位カ
ウンタデータ371に記憶されているLS測位カウンタをリセットする(ステップS19
)。
【0114】
その後、CPU33は、RAM37の測位履歴データ379に記憶されている最新測位
位置をホストCPU50に出力する(ステップS21)。そして、CPU33は、操作部
60に対してユーザによる測位終了指示がなされたか否かを判定し(ステップS23)、
なされなかったと判定した場合は(ステップS23;No)、ステップS3に戻る。また
、測位終了指示がなされたと判定した場合は(ステップS23;Yes)、ベースバンド
処理を終了する。
【0115】
一方、ステップS3においてKF測位フラグが「ON」であると判定した場合は(ステ
ップS3;No)、CPU33は、RAM37の測位履歴データ379に記憶されている
最新測位位置の決定時刻からの経過時間が「30秒」以上であるか否かを判定する(ステ
ップS25)。
【0116】
そして、経過時間が「30秒」以上であると判定した場合は(ステップS25;Yes
)、CPU33は、ステップS5へと処理を移行する。携帯型電話機1がトンネル内に位
置している場合等、GPS衛星からGPS衛星信号を受信することができず、長時間に亘
ってKF測位処理を実行することができないと、最後に得られた測位位置が携帯型電話機
1の真位置から大きく外れることにより、現在位置が正しく推定されなくなるおそれがあ
る。そこで、最新測位位置の決定時刻から所定時間が経過している場合は、KF測位処理
を停止して、LS測位処理へと移行することにしている。
【0117】
一方、ステップS25において経過時間が「30秒」未満であると判定した場合は(ス
テップS25;No)、CPU33は、RAM37のKF測位カウンタデータ373に記
憶されているKF測位カウンタが「10」以下であるか否かを判定する(ステップS27
)。
【0118】
そして、KF測位カウンタが「10」よりも大きいと判定した場合は(ステップS27
;No)、CPU33は、ステップS31へと処理を移行し、「10」以下であると判定
した場合は(ステップS27;Yes)、カルマンフィルタのパラメータであるプロセス
ノイズ「Q」の各成分に既定値を設定する(ステップS29)。
【0119】
本実施形態では、LS測位処理で求められた測位位置をKF測位処理の初期位置として
いるが(ステップS13)、このLS測位処理で求められた測位位置は、携帯型電話機1
の真位置から離れている可能性がある。
【0120】
そこで、KF測位処理に移行してから所定回数は、時刻変化に伴う測位位置の変動を大
きくし、測位位置が真位置に近づき易くなるようにするため、8×8の行列で表されるプ
ロセスノイズ「Q」のうち、3次元の位置ベクトル(x,y,z)に対応する3×3の行
列部分の各成分に大きな値(具体的な数値としては、例えば「5.65m」)を設定し、
それ以外の成分には「0」を設定する。
【0121】
ステップS29においてプロセスノイズ「Q」を設定した後、CPU33は、ROM3
5に記憶されているKF測位プログラム3515を読み出して実行することで、KF測位
処理を行う(ステップS31)。KF測位処理では、CPU33は、図1〜図3のフロー
チャートに従って処理を実行する。
【0122】
次いで、CPU33は、RAM37のKF測位カウンタデータ373に記憶されている
KF測位カウンタをインクリメントする(ステップS33)。そして、CPU33は低誤
差条件が成立したか否かを判定する(ステップS35)。具体的には、KF測位処理によ
り求められた誤差共分散行列「P」のうち、3次元の位置ベクトル(x,y,z)に対応
する3×3の行列部分の各成分が、それぞれ所定の閾値未満であるか否かを判定し、閾値
未満であると判定した場合に、低誤差条件を満たすものと判定する。
【0123】
そして、低誤差条件を満たすと判定した場合は(ステップS35;Yes)、CPU3
3は、ステップS21へと処理を移行し、低誤差条件を満たさないと判定した場合は(ス
テップS35;No)、RAM37のKF測位フラグデータ375に記憶されているKF
測位フラグを「OFF」に設定する(ステップS37)。そして、CPU33は、RAM
37のKF測位カウンタデータ373に記憶されているKF測位カウンタをリセットして
(ステップS39)、ステップS5へと処理を移行する。
【0124】
4.作用効果
本実施形態によれば、複数のGPS衛星から発信されているGPS衛星信号を受信して
最小二乗法を用いたLS測位処理を行って現在位置が測位される。そして、LS測位処理
の結果が、測位処理を移行する条件として予め定められた測位移行条件を満たすか否かが
判定され、満たすと判定された場合に、LS測位処理を停止させ、複数のGPS衛星から
発信されているGPS衛星信号を受信してカルマンフィルタを用いたKF測位処理が行わ
れて、現在位置が測位される。
【0125】
LS測位処理による現在位置の測位の連続回数が所定回数(例えば「20回」)に達し
ており、且つ、LS測位処理において今回算出されたσ値と前回算出されたσ値とが誤差
同等条件を満たす場合に、測位移行条件を満たし、KF測位処理への移行が可能であると
判定することにしているため、信頼性の低い測位位置がKF測位処理に用いられることが
なくなり、測位精度が低下することが防止される。
【0126】
また、KF測位処理で算出された誤差共分散行列「P」が所定の低誤差条件を満たさな
いと判定された場合や、KF測位処理が最後に行われてからの経過時間が所定時間に達し
たと判定された場合には、KF測位処理を停止して、LS測位処理へと移行される。従っ
て、KF測位処理で精度の低い測位位置が得られた場合や、携帯型電話機1がトンネル内
に位置しているためにKF測位処理を一定時間行うことができない場合等に、LS測位処
理へと移行されることになる。
【0127】
5.変形例
5−1.電子機器
本発明は、測位装置を備えた電子機器であれば何れの電子機器にも適用可能である。例
えば、ノート型パソコンやPDA(Personal Digital Assistant)、カーナビゲーション
装置等についても同様に適用可能である。
【0128】
5−2.衛星測位システム
上述した実施形態では、衛星測位システムとしてGPSを例に挙げて説明したが、WA
AS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)
、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛
星測位システムであってもよい。
【0129】
5−3.処理の分化
CPU33が実行する処理の一部又は全部を、ホストCPU50が実行することにして
もよい。例えば、ホストCPU50がKF測位移行判定処理を実行することとし、その判
定結果に基づいて、CPU33が測位処理を切り替えるようにする。また、LS測位処理
及びKF測位処理も含めて、CPU33が実行する処理全てをホストCPU50が実行す
ることにしてもよい。
【0130】
5−4.測位移行条件
上述した実施形態では、LS測位処理による現在位置の測位の連続回数が所定回数(例
えば「20回」)に達しており、且つ、LS測位処理において今回算出されたσ値と前回
算出されたσ値とが誤差同等条件を満たす場合に、KF測位処理への移行が可能であると
判定するものとして説明したが、何れか一方の条件が成立した場合に、KF測位処理への
移行が可能であると判定することにしてもよい。
【0131】
5−5.測定誤差行列「R」の設定
上述した実施形態では、LS測位処理からKF測位処理に切り替えた後、所定回数は、
プロセスノイズ「Q」の位置成分に大きな値を設定することで、時刻変化に伴う測位位置
の変動を大きくし、測位位置が真位置に近づき易くなるようにするものとして説明した。
これを、カルマンフィルタの他のパラメータである測定誤差行列「R」の位置成分に小さ
な値を設定することによって実現することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】KF測位処理の流れを示すフローチャート。
【図2】速度補正処理の流れを示すフローチャート。
【図3】位置補正処理の流れを示すフローチャート。
【図4】携帯型電話機の機能構成を示すブロック図。
【図5】ROMに格納されたデータの一例を示す図。
【図6】RAMに格納されたデータの一例を示す図。
【図7】捕捉衛星別メジャメントデータのデータ構成例を示す図。
【図8】測位履歴データのデータ構成例を示す図。
【図9】ベースバンド処理の流れを示すフローチャート。
【図10】KF測位移行判定処理の流れを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0133】
1 携帯型電話機 、 10 GPSアンテナ、 20 GPS受信部、
21 RF受信回路部、 30 ベースバンド処理回路部、 31 衛星捕捉・追尾部、
33 CPU、 35 ROM、 37 RAM、 40 TCXO、
50 ホストCPU、 60 操作部、 70 表示部、 80 携帯電話用アンテナ、
90 携帯電話用無線通信回路部、 100 ROM、 110 RAM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位装置が、
複数の測位用衛星から発信されている測位用信号を受信して最小二乗法を用いた第1の
測位処理を行って現在位置を測位することと、
前記第1の測位処理の結果が、測位処理を移行する条件として予め定められた測位移行
条件を満たすか否かを判定することと、
前記測位移行条件を満たすと判定された場合に、前記第1の測位処理を停止させ、複数
の測位用衛星から発信されている測位用信号を受信してカルマンフィルタを用いた第2の
測位処理を行って現在位置を測位することと、
を含む測位方法。
【請求項2】
前記測位移行条件を満たすかの判定では、前記第1の測位処理による現在位置の測位の
連続回数が所定の測位移行回数に達した場合に、前記測位移行条件を満たしたと判定する
請求項1に記載の測位方法。
【請求項3】
前記第1の測位処理は、現在位置の測位の他に、前記測位装置の位置情報及び速度情報
の誤差を算出する処理であり、
前記測位移行条件を満たすかの判定では、前記第1の測位処理において今回算出された
誤差と前回算出された誤差とが所定の誤差同等条件を満たした場合に、前記測位移行条件
を満たしたと判定する、
請求項1又は2に記載の測位方法。
【請求項4】
前記第2の測位処理は、現在位置の測位の他に、前記測位装置の位置情報及び速度情報
の誤差の共分散を算出する処理であり、
前記誤差の共分散の初期値を、前記第1の測位処理において算出された誤差に基づいて
設定することを更に含む、
請求項3に記載の測位方法。
【請求項5】
前記第2の測位処理において算出された誤差の共分散が、所定の低誤差条件を満たすか
否かを判定することと、
前記低誤差条件を満たさないと判定された場合に、前記第2の測位処理を停止させ、前
記第1の測位処理を行うことと、
を更に含む請求項4に記載の測位方法。
【請求項6】
前記第2の測位処理が最後に行われてからの経過時間が所定の測位移行時間に達したか
否かを判定することと、
前記測位移行時間に達したと判定された場合に、前記第2の測位処理を停止させ、前記
第1の測位処理を行うことと、
を更に含む請求項1〜5の何れか一項に記載の測位方法。
【請求項7】
前記第1の測位処理から前記第2の測位処理へと測位処理が移行されて後、所定の安定
条件が成立するまでの間は、時刻変化に伴う測位位置の変動が大きくなるように前記カル
マンフィルタのフィルタ特性を変化させて前記第2の測位処理を行うことを更に含む請求
項1〜6の何れか一項に記載の測位方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の測位方法を、測位装置に内蔵されたコンピュータに
実行させるためのプログラム。
【請求項9】
複数の測位用衛星から発信されている測位用信号を受信して最小二乗法を用いた第1の
測位処理を行って現在位置を測位する第1の測位処理部と、
前記第1の測位処理の結果が、測位処理を移行する条件として予め定められた測位移行
条件を満たすか否かを判定する測位移行条件判定部と、
前記測位移行条件を満たすと判定された場合に、前記第1の測位処理を停止させ、複数
の測位用衛星から発信されている測位用信号を受信してカルマンフィルタを用いた第2の
測位処理を行って現在位置を測位する第2の測位処理部と、
を備えた測位装置。
【請求項10】
前記測位移行条件判定部が、前記測位移行条件を満たすかの判定では、前記第1の測位
処理による現在位置の測位の連続回数が所定の測位移行回数に達した場合に、前記測位移
行条件を満たしたと判定する請求項9に記載の測位装置。
【請求項11】
前記第1の測位処理部が、前記第1の測位処理において、現在位置の測位の他に、位置
情報及び速度情報の誤差を算出し、
前記測位移行条件判定部が、前記測位移行条件を満たすかの判定では、前記第1の測位
処理において今回算出された誤差と前回算出された誤差とが所定の誤差同等条件を満たし
た場合に、前記測位移行条件を満たしたと判定する、
請求項9又は10に記載の測位装置。
【請求項12】
前記第2の測位処理部が、前記第2の測位処理において、現在位置の測位の他に、位置
情報及び速度情報の誤差の共分散を算出し、
前記誤差の共分散の初期値を、前記第1の測位処理において算出された誤差に基づいて
設定する誤差共分散初期値設定部を更に備えた、
請求項11に記載の測位装置。
【請求項13】
前記第2の測位処理において算出された誤差の共分散が、所定の低誤差条件を満たすか
否かを判定する低誤差条件判定部を備え、
前記第1の測位処理部が、前記低誤差条件を満たさないと判定された場合に、前記第2
の測位処理を停止させ、前記第1の測位処理を行う、
請求項12に記載の測位装置。
【請求項14】
前記第2の測位処理が最後に行われてからの経過時間が所定の測位移行時間に達したか
否かを判定する測位移行時間判定部を備え、
前記第1の測位処理部が、前記測位移行時間に達したと判定された場合に、前記第2の
測位処理を停止させ、前記第1の測位処理を行う、
請求項9〜13の何れか一項に記載の測位装置。
【請求項15】
請求項9〜14の何れか一項に記載の測位装置を備えた電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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