説明

測定器

【課題】セッティング時の使い勝手を向上させることができるとともに、測定値の信頼性を維持しつつ、有効測定範囲を最大限使用可能な測定器を提供する。
【解決手段】本体と、本体に対して移動可能に構成されたスタイラスと、本体に対するスタイラスの変位量を検出するエンコーダ12と、エンコーダ12により検出された変位量から測定値を演算する演算部13と、演算部13が演算した測定値を表示する表示部14と、演算部に指令を与える操作部15,16と、スタイラスの移動ストロークの下限値よりも大きく、かつ、上限値よりも小さい有効測定範囲を記憶した記憶部17を備える。演算部13は、エンコーダ12により検出された変位量が記憶部17に記憶された有効測定範囲内であるか否かを判定し、その判定結果を表示部に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定部材に対する可動部材の変位量を測定する測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定物の寸法等を測定するデジタル式測定器として、ノギス、マイクロメータ、インジケータ、テストインジケータ、ハイトゲージ等が知られている。例えば、特許文献1に記載のテストインジケータ等が知られている。
この種の測定器は、固定部材と、固定部材に対して移動可能に構成された可動部材と、固定部材に対する可動部材の変位量を検出する検出手段と、検出手段により検出された固定部材に対する可動部材の変位量を表示する表示部とを備える。
【0003】
また、図9に示すように、可動部材の移動ストロークαよりも狭い有効測定範囲β、つまり、可動部材の移動ストロークαの下限値Cよりも大きく、かつ、上限値Dよりも小さい有効測定範囲β(始点Aから終点Bの範囲)については、メーカにおいて精度検査が行われ、測定精度が保証されている。
そのため、測定にあたっては、可動部材の移動ストロークαよりも狭い有効測定範囲β内において、常に測定が行えるように、測定器を被測定物に対してセットしたのち、可動部材を被測定物に対して相対移動させながら測定を行う。あるいは、基準ゲージを測定したのち、被測定物を測定して基準ゲージとの差を求める、つまり、比較測定を行う。
【0004】
【特許文献1】実公平2−45762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のテストインジケータ等においては、可動部材の移動ストロークαの下限値Cおよび上限値Dに対して、有効測定範囲βの始点Aおよび終点Bの位置が明確でないため、測定の不確かさを悪化させないように、安全をみて使用する有効測定範囲を狭めて使用しているのが実情である。
そのため、セッティングの煩わしさがあるうえ、有効測定範囲外で測定しても気が付かないなど、測定の信頼性が低下する虞がある。
【0006】
本発明の目的は、このような課題を解決し、セッティング時の使い勝手を向上させることができるとともに、測定値の信頼性を維持しつつ、有効測定範囲を最大限使用可能な測定器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の測定器は、固定部材と、前記固定部材に対して移動可能に構成された可動部材と、前記固定部材に対する前記可動部材の変位量を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された前記変位量から測定値を演算する演算部と、前記演算部が演算した前記測定値を表示する表示部と、前記演算部に指令を与える操作部とを備えた測定器において、前記可動部材の移動ストロークの下限値よりも大きく、かつ、上限値よりも小さい有効測定範囲を記憶した記憶部を備え、前記演算部は、前記検出手段により検出された前記変位量が前記記憶部に記憶された有効測定範囲内であるか否かを判定し、その判定結果を前記表示部に表示する、ことを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、測定にあたって、可動部材を移動させながら被測定物に関与させると、固定部材に対する可動部材の変位量が検出手段により検出されたのち、測定値として表示部に表示される。このとき、演算部において、検出手段により検出された変位量が記憶部に記憶された有効測定範囲内であるか否かが判定され、その判定結果が表示部に表示される。
従って、測定が可動部材の有効測定範囲内で行われたか否かが表示されるから、測定値の信頼性を維持できる。また、従来のように、測定の不確かさを悪化させないように、安全をみて使用する有効測定範囲を狭めて、測定器を被測定物に対してセッティングしなくてもよいから、使い勝手を向上させることができるとともに、有効測定範囲を最大限使用した測定を実現できる。
【0009】
本発明の測定器において、前記演算部は、前記測定値、前記記憶部に記憶された前記有効測定範囲の始点および終点を前記表示部に表示する、ことが好ましい。
このような構成によれば、表示部には、検出手段により検出された変位量が有効測定範囲内であるか否かの判定結果だけでなく、測定値、記憶部に記憶された有効測定範囲の始点および終点も表示されるから、測定値が有効測定範囲内のどの領域に分布しているかを把握できる。
【0010】
本発明の測定器において、前記記憶部には、前記可動部材の移動ストローク下限値および上限値が記憶され、前記演算部は、前記測定値、前記記憶部に記憶された前記有効測定範囲の始点および終点、前記可動部材の移動ストローク下限値および上限値を前記表示部に表示する、ことが好ましい。
このような構成によれば、表示部には、更に、可動部材の移動ストロークの下限値および上限値も表示されるから、可動部材の移動ストロークの下限値および上限値に対して測定値がどれだけ離れているか、あるいは、接近しているかを把握できる。
【0011】
本発明の測定器において、前記演算部は、有効測定範囲設定モードにおいて、前記操作部によって始点記憶処理が指令されたときに前記検出手段により検出された前記変位量を前記有効測定範囲の始点として前記記憶部に記憶させる始点記憶処理と、前記操作部によって終点記憶処理が指令されたときに前記検出手段により検出された前記変位量を前記有効測定範囲の終点として前記記憶部に記憶させる終点記憶処理とを実行する、ことが好ましい。
【0012】
このような構成によれば、有効測定範囲設定モードにおいて、可動部材を移動ストローク下限値よりも大きい値の位置に位置させたのち、操作部によって始点記憶処理を指令すると、検出手段により検出された変位量(可動部材の位置)が有効測定範囲の始点として記憶部に記憶される。次に、可動部材を移動ストローク上限値よりも小さい値の位置に位置させたのち、操作部によって終点記憶処理を指令すると、検出手段により検出された変位量(可動部材の位置)が有効測定範囲の終点として記憶部に記憶される。
従って、可動部材を所望の位置、例えば、精度検査で保障された有効測定範囲の始点位置および終点位置に移動させたのち、操作部によって始点記憶処理や終点記憶処理を指令するだけで、記憶部に有効測定範囲の始点および終点を記憶させることができる。つまり、通常の測定操作と同様な操作によって、有効測定範囲の始点および終点を記憶させることができる。
【0013】
本発明の測定器において、前記記憶部には、前記可動部材の移動ストロークに応じた有効測定範囲が予め記憶され、前記演算部は、有効測定範囲設定モードにおいて、前記操作部によって移動ストローク下限値記憶処理が指令されたときに前記検出手段により検出された前記変位量を前記移動ストローク下限値として前記記憶部に記憶させる移動ストローク下限値記憶処理と、前記操作部によって移動ストローク演算処理が指令されたときに前記検出手段により検出された前記変位量から前記記憶部に記憶された移動ストローク下限値を減算して前記可動部材の移動ストロークを求める移動ストローク演算処理と、前記移動ストローク演算処理によって求められた前記移動ストロークに対応する有効測定範囲を前記記憶部から読み出し、この有効測定範囲、前記可動部材の移動ストロークおよび前記記憶部に記憶された前記移動ストローク下限値から、前記有効測定範囲の始点を求めたのち、前記記憶部に記憶させる始点演算記憶処理と、前記始点および有効測定範囲から前記有効測定範囲の終点を求めたのち、前記記憶部に記憶させる終点演算記憶処理とを実行する、ことが好ましい。
【0014】
このような構成によれば、有効測定範囲設定モードにおいて、可動部材を移動ストローク下限値の位置に位置させたのち、操作部によって移動ストローク下限値記憶処理を指令すると、検出手段により検出された変位量(可動部材の移動ストローク下限位置)が移動ストローク下限値として記憶部に記憶される。
次に、可動部材を移動ストローク上限値の位置に位置させたのち、操作部によって移動ストローク演算処理を指令すると、検出手段により検出された変位量(可動部材の移動ストローク上限位置)から記憶部に記憶された移動ストローク下限値を減算して、可動部材の移動ストロークが求められる。
すると、これによって求められた移動ストロークに対応する有効測定範囲が記憶部から読み出され、この有効測定範囲、可動部材の移動ストロークおよび記憶部に記憶された移動ストローク下限値から、有効測定範囲の始点が求められたのち、記憶部に記憶される。また、この始点および有効測定範囲から有効測定範囲の終点が求められたのち、記憶部に記憶される。
従って、可動部材を移動ストロークの下限値の位置および上限値の位置に移動させたのち、操作部によって、移動ストローク下限値記憶処理、移動ストローク演算処理を指令するだけで、自動的に有効測定範囲の始点および終点が求められる。つまり、この場合には、可動部材を移動ストローク下限値および上限値に位置させたのち、操作部から指令するだけでよいから、個人差なく有効測定範囲の始点および終点を設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
<全体構成:図1>
図1に、本実施形態の測定器であるテストインジケータ1の断面図を示す。
図1に示すように、テストインジケータ1は、固定部材である本体10と、この本体10に揺動可能に支持される可動部材であるスタイラス11と、このスタイラス11の本体10に対する変位量を検出する検出手段であるエンコーダ12と、このエンコーダ12により検出された本体10に対するスタイラス11の変位量から測定値を算出する演算部13と、この演算部13が算出した測定値を表示する表示部14と、演算部13に指令を与える操作部15および設定操作部16とを備える。
【0016】
本体10は、一端をスタンド3に固定され、他端にスタイラス11を支持する略矩形形状の筐体である。本体10は、上面に表示部14および操作部15,16を、内部にエンコーダ12および演算部13を有する。
スタイラス11は、本体10に貫通して設けられ被支持部111を中心に揺動可能に支持されている。スタイラス11は、本体10と逆側の一端に、被測定物2の測定部位と当接される略球状の接触部112を有する。
エンコーダ12は、スタイラス11の本体10側の端部に設けられた電極121と本体10に設けられ電極121と静電結合してスタイラス11の変位量を検出する検出ヘッド122とを有し、スタイラス11の本体10に対する変位量を絶対位置として検出することができる絶対位置エンコーダが用いられている。
操作部15は、測定に際して演算部13に指令を与える押圧式のボタンである。設定操作部16は、有効測定範囲の設定、つまり、図9に示す有効測定範囲βの始点Aおよび終点Bの設定に際して、演算部13に指令を与える押圧式のボタンである。なお、設定操作部16は、テストインジケータ1の精度検査時(出荷時)や校正検査時のみに必要なものであるため、本体10に内蔵した構成でもよく、また、押圧式のボタンでなくてもよい。
【0017】
<表示部14:図2>
図2に示すように、表示部14は、演算部13が算出した測定値をデジタル表示する液晶表示装置であり、測定値表示欄14A、有効測定範囲始点表示欄14B、有効測定範囲終点表示欄14C、および、判定結果表示欄14Dを備える。これらの表示欄14A,14B,14Cなどは7セグメント表示素子によって構成されている。判定結果表示欄14Dは、判定結果がOKである旨を表示する「○]欄と、判定結果がNG(エンコーダ12によって検出された変位量が有効測定範囲始点未満である旨を表示する「▽」欄と、判定結果がNG(エンコーダ12によって検出された変位量が有効測定範囲終点超である旨を表示する「△」欄とを有する。
【0018】
<内部構成:図3>
図3に、テストインジケータ1の内部構成を示す。
図3に示すように、演算部13には、エンコーダ12、表示部14および操作部15,16のほかに、記憶部17が接続されている。
記憶部17は、不揮発性メモリによって構成されている。また、記憶部17には、エンコーダ12により検出された変位量等のほかに、スタイラス11の移動ストロークαの下限値Cよりも大きく、かつ、上限値Dよりも小さい有効測定範囲βの始点Aおよび終点Bが記憶されている。
【0019】
演算部13は、測定モードにおいて、操作部15からの指令に応じて、エンコーダ12によって検出された位置を測定基準値として記憶部17に記憶させるとともに、現在位置(スタイラス11の現在位置)と記憶部17に記憶された測定基準値との差を基に測定値を算出する処理を行う。
また、演算部13は、エンコーダ12により検出された変位量が記憶部17に記憶された有効測定範囲β内であるか否かを判定し、その判定結果を表示部14に表示する。具体的には、エンコーダ12により検出された変位量を測定値表示欄14Aに、有効測定範囲βの始点Aおよび終点Bを有効測定範囲始点表示欄14Bおよび有効測定範囲終点表示欄14Cに、判定結果を判定結果表示欄14Dにそれぞれ表示する。
さらに、有効測定範囲設定モードにおいて、設定操作部16によって始点記憶処理が指令されたときにエンコーダ12により検出された変位量を有効測定範囲の始点として記憶部17に記憶させる始点記憶処理と、設定操作部16によって終点記憶処理が指令されたときにエンコーダ12により検出された変位量を有効測定範囲の終点として記憶部17に記憶させる終点記憶処理とを実行する。
【0020】
<有効測定範囲の設定:図4>
ST1:有効測定範囲設定モードにおいて、スタイラス11を移動ストロークαの下限値Cからそれよりも大きい値(始点A)の位置に移動させる。
ST2:エンコーダ12がスタイラス11の始点Aの絶対位置(A)を検出。
ST3:設定操作部16を操作して始点記憶処理を指令する。
ST4:エンコーダ12により検出された絶対位置(A)が有効測定範囲βの始点Aとして記憶部17に記憶される。
ST5:スタイラス11を有効測定範囲βの終点Bの位置(スタイラス11の移動ストロークの上限値よりも小さい値の位置)に移動させる。
ST6:エンコーダ12がスタイラス11の終点Bの絶対位置(B)を検出。
ST7:設定操作部16によって終点記憶処理を指令する。
ST8:エンコーダ12により検出された絶対位置(B)が有効測定範囲βの終点Bとして記憶部17に記憶される。
【0021】
従って、スタイラス11を所望の位置に移動させたのち、設定操作部16によって始点記憶処理や終点記憶処理を指令するだけで、記憶部17に有効測定範囲の始点Aおよび終点Bを記憶させることができる。つまり、通常の測定操作と同様な操作によって、有効測定範囲の始点Aおよび終点Bを記憶させることができる。
【0022】
<測定処理:図5>
測定では、図5に示す手順に沿って実行される。
ST11:エンコーダ12がスタイラス11の現在位置Xを検出。
ST12:現在位置Xが始点A以上か否かを判定。
ST13:現在位置Xが始点A以上の場合、現在位置Xが終点B以下か否かを判定。
ST14:現在位置Xが終点B以下の場合、判定結果表示欄14Dの「○」欄を点灯。
ST15:ST12の判定において、現在位置Xが始点A以上でない場合、つまり、現在位置Xが始点A未満の場合、判定結果表示欄14Dの「▽」欄を点灯。
ST16:ST13の判定において、現在位置Xが終点B以下でない場合、つまり、現在位置Xが終点B超の場合、判定結果表示欄14Dの「△」を点灯。
【0023】
従って、測定がスタイラス11の有効測定範囲β内で行われたか否かが表示されるから、測定値の信頼性を維持できる。また、従来のように、測定の不確かさを悪化させないように、安全をみて使用する有効測定範囲を狭めて、テストインジケータ1を被測定物に対してセッティングしなくてもよいから、使い勝手を向上させることができるとともに、有効測定範囲を最大限使用した測定を実現できる。
また、表示部14には、エンコーダ12により検出された変位量が有効測定範囲β内であるか否かの判定結果だけでなく、測定値や、記憶部17に記憶された有効測定範囲の始点Aおよび終点Bも表示されるから、測定値が有効測定範囲β内のどの領域に分布しているかを把握できる。
【0024】
<変形例>
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
前記実施形態において、有効測定範囲βの設定を図4に示す手順に沿って行ったが、これに限られない。
例えば、図6に示すような手順でも行うことができる。これは、記憶部17に、スタイラス11の移動ストロークαに応じた有効測定範囲βが記憶されている。演算部13は、有効測定範囲設定モードにおいて、次の処理を行う。
【0025】
移動ストローク下限値記憶処理:設定操作部16によって移動ストローク下限値記憶処理が指令されると、エンコーダ12により検出された変位量を移動ストローク下限値Cとして記憶部17に記憶させる。
移動ストローク演算処理:設定操作部16によって移動ストローク演算処理が指令されると、エンコーダ12により検出された変位量から記憶部17に記憶された移動ストローク下限値を減算してスタイラス11の移動ストロークαを求める。
始点演記憶算処理:移動ストローク演算処理によって求められた移動ストロークαに対応する有効測定範囲βを記憶部17から読み出し、この有効測定範囲β、スタイラス11の移動ストロークαおよび記憶部17に記憶された移動ストローク下限値Cから、有効測定範囲βの始点Aを求める。つまり、A=C+(α−β)/2から求める。
終点演算記憶処理:始点Aおよび有効測定範囲βから有効測定範囲βの終点Bを求める。つまり、B=A+βから求める。
【0026】
具体的には、有効測定範囲設定モードにおいて、図6に示すような手順に沿って行われる。
ST21:スタイラス11を移動ストロークαの下限値Cの位置に移動させる。
ST22:エンコーダ12によってスタイラス11の下限値Cの絶対位置(C)が検出される。
ST23:設定操作部16の操作によって移動ストローク下限値記憶処理を指令する。すると、エンコーダ12によって検出されたスタイラス11の下限値Cの絶対位置(C)が移動ストローク下限値として記憶部17に記憶される。
ST24:スタイラス11を移動ストロークαの上限値Dの位置に移動させる。
ST25:エンコーダ12によってスタイラス11の上限値Dの絶対位置(D)が検出される。
【0027】
ST26:設定操作部16の操作によって移動ストローク演算処理を指令する。
ST27:エンコーダ12によって検出されたスタイラス11の上限値Dの絶対位置(D)から記憶部17に記憶された移動ストローク下限値Cを減算して、スタイラス11の移動ストロークαが求められる。
ST28:これによって求められた移動ストロークαに対応する有効測定範囲βが記憶部17から読み出される。
ST29:有効測定範囲β、スタイラス11の移動ストロークαおよび記憶部17に記憶された移動ストローク下限値Cから、有効測定範囲の始点Aが求められる。つまり、A=C+(α−β)/2が演算される。
ST30:求められた絶対位置Aを有効測定範囲βの始点Aとして記憶部17に記憶。
ST31:始点Aおよび有効測定範囲βから有効測定範囲βの終点Bが求められる。つまり、B=A+βが演算される。
ST32:求められた絶対位置Bを有効測定範囲βの終点Bとして記憶部17に記憶。
【0028】
従って、スタイラス11を移動ストローク下限値の位置および上限値の位置に移動させたのち、設定操作部16によって、移動ストローク下限値記憶処理、移動ストローク演算処理を指令するだけで、自動的に有効測定範囲βの始点Aおよび終点Bが求められ、記憶部17に記憶される。つまり、この場合には、スタイラス11を移動ストロークαの下限値Cおよび上限値Dに移動させたのち、設定操作部16から指令するだけでよいから、個人差なく有効測定範囲の始点および終点を設定することができる。
【0029】
前記実施形態では、表示部14を図2に示す構成としたが、これに限られない。
例えば、図7に示すように、表示部14に、スタイラス11の移動ストロークαの下限値Cおよび上限値Dを表示する移動ストローク下限値表示欄14Eおよび移動ストローク上限値表示欄14Fを付加してもよい。
この場合、記憶部17には、スタイラス11の移動ストロークの下限値Cおよび上限値Dを記憶しておく。演算部13は、測定値、記憶部17に記憶された有効測定範囲βの始点Aおよび終点B、スタイラス11の移動ストローク下限値Cおよび上限値Dを表示部14に表示する。
このような構成によれば、表示部14には、スタイラス11の移動ストロークαの下限値Cおよび上限値Dも表示されるから、スタイラス11の移動ストロークαの下限値Cおよび上限値Dに対して測定値がどれだけ離れているか、あるいは、接近しているかを把握できる。
【0030】
前記実施形態等では、測定値、有効測定範囲βの始点Aおよび終点B、移動ストローク下限値Cおよび上限値Dをデジタル表示するようにしたが、これに限られない。
例えば、図8に示すように、複数の表示素子を所定ピッチ毎に配列したアナログ表示欄14Gに、有効測定範囲βの始点Aおよび終点B(更には、移動ストロークαの下限値Cおよび上限値D)を点灯して表示させるとともに、測定値Pを点灯させるようにしてもよい。
【0031】
本発明の測定器は、前記実施形態で述べたテストインジケータ1に限定されない。例えば、ノギス、マイクロメータ、インジケータ、ハイトゲージ等であってもよい。このような測定器に本発明を適用した場合においても、前記実施形態と同様な効果が期待できる。
【0032】
検出手段は、前記実施形態で述べた静電容量式のエンコーダ12に限定されない。検出手段は、可動部材(スタイラス11)の固定部材(本体10)に対する変位量を検出できるものであればよく、例えば、電磁誘導式や光学式のエンコーダ等でもよい。
【0033】
表示部14は、前記実施形態で述べた液晶表示装置に限定されない。表示部14は
、演算部が算出した測定値を表示できるものであればよく、例えば、有機または無機のエレクトロルミネッセンスを用いた表示装置等であってもよい。
操作部15,16は、共用として構成してもよい。例えば、押下時間で設定機能を切り替えるように構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、固定部材に対する可動部材の変位量を測定する測定器として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態に係る測定器の断面図。
【図2】本実施形態に係る測定器の表示部を示す図。
【図3】本実施形態に係る測定器の内部構成を示す図。
【図4】本実施形態に係る測定器の有効測定範囲の設定処理を示すフローチャート。
【図5】本実施形態に係る測定器の測定処理を示すフローチャート。
【図6】変形例に係る測定器の有効測定範囲の設定処理を示すフローチャート。
【図7】変形例に係る測定器の表示部を示す図。
【図8】変形例に係る測定器の表示部を示す図。
【図9】可動部材の移動ストロークと有効測定範囲の関係を示す図。
【符号の説明】
【0036】
1…テストインジケータ(測定器)、
10…本体(固定部材)、
11…スタイラス(可動部材、
12…エンコーダ(検出手段)、
13…演算部、
14…表示部、
14A…測定値表示欄、
14B…有効測定範囲始点表示欄、
14C…有効測定範囲終点表示欄、
14D…判定結果表示欄、
15,16…操作部、
17…記憶部、
A…始点(有効測定範囲の始点)、
B…始点(有効測定範囲の始点)、
C…下限値(移動ストロークの下限値)、
D…上限値(移動ストロークの上限値)、
α…移動ストローク、
β…有効測定範囲。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材と、
前記固定部材に対して移動可能に構成された可動部材と、
前記固定部材に対する前記可動部材の変位量を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された前記変位量から測定値を演算する演算部と、
前記演算部が演算した前記測定値を表示する表示部と、
前記演算部に指令を与える操作部とを備えた測定器において、
前記可動部材の移動ストロークの下限値よりも大きく、かつ、上限値よりも小さい有効測定範囲を記憶した記憶部を備え、
前記演算部は、前記検出手段により検出された前記変位量が前記記憶部に記憶された有効測定範囲内であるか否かを判定し、その判定結果を前記表示部に表示する、ことを特徴とする測定器。
【請求項2】
請求項1に記載の測定器において、
前記演算部は、前記測定値、前記記憶部に記憶された前記有効測定範囲の始点および終点を前記表示部に表示する、ことを特徴とする測定器。
【請求項3】
請求項1に記載の測定器において、
前記記憶部には、前記可動部材の移動ストロークの下限値および上限値が記憶され、
前記演算部は、前記測定値、前記記憶部に記憶された前記有効測定範囲の始点および終点、前記可動部材の移動ストロークの下限値および上限値を前記表示部に表示する、ことを特徴とする測定器。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の測定器において、
前記演算部は、有効測定範囲設定モードにおいて、
前記操作部によって始点記憶処理が指令されたときに前記検出手段により検出された前記変位量を前記有効測定範囲の始点として前記記憶部に記憶させる始点記憶処理と、
前記操作部によって終点記憶処理が指令されたときに前記検出手段により検出された前記変位量を前記有効測定範囲の終点として前記記憶部に記憶させる終点記憶処理とを実行する、
ことを特徴とする測定器。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の測定器において、
前記記憶部には、前記可動部材の移動ストロークに応じた有効測定範囲が予め記憶され、
前記演算部は、有効測定範囲設定モードにおいて、
前記操作部によって移動ストローク下限値記憶処理が指令されたときに前記検出手段により検出された前記変位量を前記移動ストローク下限値として前記記憶部に記憶させる移動ストローク下限値記憶処理と、
前記操作部によって移動ストローク演算処理が指令されたときに前記検出手段により検出された前記変位量から前記記憶部に記憶された移動ストローク下限値を減算して前記可動部材の移動ストロークを求める移動ストローク演算処理と、
前記移動ストローク演算処理によって求められた前記移動ストロークに対応する有効測定範囲を前記記憶部から読み出し、この有効測定範囲、前記可動部材の移動ストロークおよび前記記憶部に記憶された前記移動ストローク下限値から、前記有効測定範囲の始点を求めたのち、前記記憶部に記憶させる始点演算記憶処理と、
前記始点および有効測定範囲から前記有効測定範囲の終点を求めたのち、前記記憶部に記憶させる終点演算記憶処理とを実行する、
ことを特徴とする測定器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−101655(P2010−101655A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271289(P2008−271289)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】