測定装置
【課題】低コスト、迅速、且つ高精度に試料を測定可能な測定装置を提供すること。
【解決手段】測定装置1によれば、空間分解測光法および時間分解測光法を用い、さらに試料3に照射するレーザエネルギー量を制御したことによって、大気中において試料3の測定が可能となった。これまで測定に必要であった、ガスボンベや真空ポンプ等が不要となるので、装置のコストダウンおよび小型化が可能であり、使用者が装置を簡便に使用することができる。そして、測定結果が、表示装置16に出力されるので、使用者は、表示装置16を視認することにより、試料3に含まれる各測定対象成分の含有率についての測定結果(正常である場合は含有率、または、不明であるか)、または、試料3において、略同一な成分である層の厚さを知ることができる。
【解決手段】測定装置1によれば、空間分解測光法および時間分解測光法を用い、さらに試料3に照射するレーザエネルギー量を制御したことによって、大気中において試料3の測定が可能となった。これまで測定に必要であった、ガスボンベや真空ポンプ等が不要となるので、装置のコストダウンおよび小型化が可能であり、使用者が装置を簡便に使用することができる。そして、測定結果が、表示装置16に出力されるので、使用者は、表示装置16を視認することにより、試料3に含まれる各測定対象成分の含有率についての測定結果(正常である場合は含有率、または、不明であるか)、または、試料3において、略同一な成分である層の厚さを知ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ光を試料に照射し、試料に含まれる成分をプラズマ化させて分析することにより、試料の成分を測定する測定装置に関し、特に、低コスト、迅速、且つ高精度に試料を測定可能な測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、産業廃棄物による環境汚染が深刻化してきており、産業界に対し、有害物質の使用を規制する要望が高まってきている。例えば、ヨーロッパでは、RoHS指令により、電気・電子機器における特定有害物質(鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭化ビフェニール、ポリ臭化ジフェニルエーテル)の使用が制限され、ELV指令により、自動車使用部品中の有害物質(カドミウム、鉛、水銀、六価クロム)の使用が制限される。
【0003】
このような社会情勢を受けて、電化製品等の製造現場では、部品内に含まれる有害物質の測定、検査が実施されている。有害物質の有無の測定方法としては、例えば、誘導結合プラズマ分析法、ガスクロマトグラフ質量分析法、蛍光X線分析法など様々な方法が知られている。特に、蛍光X線分析法は、試料を破壊せずに試料内の有害物質含有率を測定できるので、広く利用されている。
【特許文献1】特開2003−139750号公報
【特許文献2】特開2006−119108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の測定法では測定に時間がかかり、またコストが高いという問題点があった。特に、上述した従来の測定方法のうち、誘導結合プラズマ分析法、ガスクロマトグラフ法などは、測定対象物を破壊しなければならないので、コストおよび時間を要する。また、蛍光X線分析法は、測定対象物の破壊を要しないが、X線を用いるため、測定対象物を管理区域まで移動させなければならず、また管理者を必要とするため、やはりコストおよび時間を要する。そのため、例えば工場から出荷される全製品、または、工場に入荷する全部品について全数測定することは事実上不可能であった。
【0005】
さらに、蛍光X線分析法は、測定対象がX線の照射領域より小さい場合や、厚みが薄い場合には、測定精度が低くなるという問題点がある。その結果、蛍光X線分析法では、薄膜(めっき)、微少部分の検査ができないという不都合があった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、低コスト、迅速、且つ高精度に試料を測定可能な測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の測定装置は、レーザ光を試料に照射し、試料に含まれる成分をプラズマ化させて分析することにより、試料の成分を測定するものであって、レーザ光を出力するレーザ光出力手段と、そのレーザ光出力手段から出力されたレーザ光を試料に集光照射する光学系と、前記試料が前記レーザ光を受けて生成するプラズマから放出されるプラズマ光を分光し、プラズマ光のスペクトルを測定する測定手段と、その測定手段により測定されたスペクトルと、測定対象成分の特徴波長とに基づいて、前記試料における測定対象成分の含有率に相当する含有率測定値を取得する含有率測定値取得手段と、その含有率測定値取得手段により取得された含有率測定値に基づく測定結果を出力する測定結果出力手段とを備えている。
【0008】
請求項2記載の測定装置は、請求項1記載の測定装置において、前記測定手段によるプラズマ光の測定時間帯を制御するタイミング制御手段を備え、そのタイミング制御手段は、前記レーザ光出力手段によるレーザ光出力開始から所定時間経過後に、前記測定手段によるプラズマ光の測定を開始させるものである。
【0009】
請求項3記載の測定装置は、請求項1または2記載の測定装置において、前記測定手段は、前記光学系を通過して前記試料に入射するレーザ光の光路に対して、斜め方向または垂直方向に放射されるプラズマ光を分光し、プラズマ光のスペクトルを測定する。
【0010】
請求項4記載の測定装置は、請求項1から3のいずれかに記載の測定装置において、前記レーザ光出力手段から出力されるレーザ光の照射回数を計数する計数手段と、前記レーザ光の照射回数と、そのレーザ光の照射により前記試料に形成される穴の深さとの関係を記憶する第1記憶手段と、前記含有率測定値取得手段により取得された含有率測定値を記憶する第2記憶手段と、その第2記憶手段に記憶される含有率測定値と、前記含有率測定値取得手段により新たに取得された含有率測定値との差分が、所定値以上であるかを判定する判定手段と、その判定手段により前記差分が所定値以上であると判定された場合に、前記計数手段により計数された照射回数および前記第1記憶手段に記憶される前記レーザ光の照射回数と、そのレーザ光の照射により前記試料に形成される穴の深さとの関係に基づいて、前記試料における測定対象成分の厚さを算出する厚算出手段とを備え、前記測定結果出力手段は、前記厚算出手段により算出された測定対象成分の厚さを測定結果として出力する。
【0011】
請求項5記載の測定装置は、請求項1から4のいずれかに記載の測定装置において、前記試料に集光照射するレーザ光の照射位置を、前記試料に対し相対的に移動させる照射位置移動手段を備え、前記測定結果出力手段は、前記照射位置移動手段により移動させるレーザ光の照射位置と、その照射位置においてレーザ光を照射して取得する含有率測定値とに基づいた測定結果を出力する。
【0012】
請求項6記載の測定装置は、請求項5記載の測定装置において、前記測定結果出力手段は、前記試料において前記レーザ光を複数の前記照射位置に照射して取得する各含有率測定値の平均値を測定結果として出力する。
【0013】
請求項7記載の測定装置は、請求項1から5のいずれかに記載の測定装置において、前記測定結果出力手段は、前記試料において前記レーザ光の照射により形成されたクレータにさらにレーザ光を照射し、その複数回の照射により取得された複数の各含有率測定値の平均値を測定結果として出力する。
【0014】
請求項8記載の測定装置は、請求項7記載の測定装置において、前記レーザ光出力手段から出力されるレーザ光の照射回数を計数する計数手段を備え、前記測定結果出力手段は、前記計数手段により計数される照射回数が所定回数以上である場合に取得された各含有率測定値の平均値を測定結果として出力する。
【0015】
請求項9記載の測定装置は、請求項1から8のいずれかに記載の測定装置において、前記試料が前記レーザ光の照射を受けて生成するプラズマの中心部であるプライマリプルームから外れた部位に焦点を合わせて、前記プラズマから放射されるプラズマ光を受光する受光手段を備え、前記測定手段は、前記受光手段により受光するプラズマ光を分光し、プラズマ光のスペクトルを測定する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の測定装置によれば、レーザ光出力手段により、レーザ光が出力され、光学系により、レーザ光出力手段から出力されたレーザ光が試料に集光照射される。測定手段により、試料がレーザ光を受けて生成するプラズマから放出されるプラズマ光が分光され、プラズマ光のスペクトルが測定される。含有率測定値取得手段によって、測定手段により測定されたスペクトルと、測定対象成分の特徴波長とに基づいて、試料における測定対象成分の含有率に相当する含有率測定値が取得される。測定結果出力手段によって、含有率測定値取得手段により取得された含有率測定値に基づく測定結果が出力される。よって、従来の蛍光X線分析法と比較して、管理者や管理区域などを要さず、低コスト、且つ、迅速に試料を測定できるという効果がある。さらに、レーザ光は微少部分に照射可能であると共に、試料の厚みが薄い場合であっても照射可能であり、そのスペクトルの測定が可能であるため、例えば、めっき、基板上はんだ接合部などの薄膜、微少な特定領域であっても高精度に測定することができるという効果がある。
【0017】
請求項2記載の測定装置によれば、請求項1記載の測定装置の奏する効果に加え、タイミング制御手段により、測定手段によるプラズマ光の測定時間帯が制御される。タイミング制御手段によって、レーザ光出力手段によるレーザ光出力開始から所定時間経過後に、測定手段によるプラズマ光の測定が開始させられるので、プラズマ光の経時変化に応じた適切なタイミングでプラズマ光を測定することができ、高精度に測定することができるという効果がある。
【0018】
請求項3記載の測定装置によれば、請求項1または2記載の測定装置の奏する効果に加え、測定手段により、光学系を通過して試料に入射するレーザ光の光路に対して、斜め方向または垂直方向に放射されるプラズマ光が分光され、プラズマ光のスペクトルが測定される。試料に照射されるレーザ光が試料において反射する場合、その多くが試料に入射するレーザ光の光路と同軸方向に反射するので、その光路に対して斜め方向または垂直方向に放射されるプラズマ光を測定することにより、試料において反射するレーザ光が測定手段により測定されることを抑制でき、高精度に測定することができるという効果がある。
【0019】
請求項4記載の測定装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の測定装置の奏する効果に加え、計数手段により、レーザ光出力手段から出力されるレーザ光の照射回数が計数される。レーザ光の照射回数と、そのレーザ光の照射により試料に形成される穴の深さとの関係が、第1記憶手段に記憶され、含有率測定値取得手段により取得された含有率測定値が、第2記憶手段に記憶される。判定手段によって、第2記憶手段に記憶される含有率測定値と、含有率測定値取得手段により新たに取得された含有率測定値との差分が、所定値以上であるかが判定される。判定手段により差分が所定値以上であると判定された場合に、厚算出手段によって、計数手段により計数された照射回数および第1記憶手段に記憶されるレーザ光の照射回数と、そのレーザ光の照射により試料に形成される穴の深さとの関係に基づいて、試料における測定対象成分の厚さが算出される。よって、試料の厚さを測定することができるという効果がある。
【0020】
請求項5記載の測定装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の測定装置の奏する効果に加え、照射位置移動手段により、試料に集光照射するレーザ光の照射位置が、試料に対し相対的に移動させられるので、簡単に、試料における複数箇所の含有率測定値を測定することができるという効果がある。また、測定結果出力手段によって、照射位置移動手段により移動させられるレーザ光の照射位置と、その照射位置においてレーザ光を照射して取得する含有率測定値とに基づいた測定結果が出力されるので、利用者は、試料における含有率測定値の分布を知ることができるという効果がある。
【0021】
請求項6記載の測定装置によれば、請求項5記載の測定装置の奏する効果に加え、測定結果出力手段により、試料においてレーザ光が複数の照射位置に照射され取得される各含有率測定値の平均値が測定結果として出力されるので、利用者は、試料の複数箇所で測定された各含有率測定値の平均値を知ることができるという効果がある。
【0022】
請求項7記載の測定装置によれば、請求項1から5のいずれかに記載の測定装置の奏する効果に加え、測定結果出力手段により、試料においてレーザ光の照射により形成されたクレータにさらにレーザ光を照射し、その複数回の照射により取得された複数の各含有率測定値の平均値が測定結果として出力されるので、利用者は、試料の同一箇所の深さ方向の各含有率測定値の平均値を知ることができるという効果がある。
【0023】
請求項8記載の測定装置によれば、請求項7記載の測定装置の奏する効果に加え、計数手段により、レーザ光出力手段から出力されるレーザ光の照射回数が計数される。測定結果出力手段によって、計数手段により計数される照射回数が所定回数以上である場合に取得された各含有率測定値の平均値が測定結果として出力される。よって、試料表面近傍の性質が酸化などにより変化していても、所定回数のレーザの照射により、その性質の変化した試料が削られるので、性質の変化した試料の含有率測定値が平均値に含まれることが抑制され、利用者は、より高精度に試料の含有率測定値の平均値を知ることができるという効果がある。
【0024】
請求項9記載の測定装置によれば、請求項1から8のいずれかに記載の測定装置の奏する効果に加え、受光手段によって、試料がレーザ光の照射を受けて生成するプラズマの中心部であるプライマリプルームから外れた部位に焦点が合わされ、プラズマから放射されるプラズマ光が受光される。測定手段によって、受光手段により受光するプラズマ光が分光され、プラズマ光のスペクトルが測定される。プライマリプルームに焦点を合わせてプラズマ光を受光するよりも、プライマリプルームから外れた部位に焦点を合わせてプラズマ光を受光することで、測定手段により測定される測定ノイズを抑制することができるので、高精度に測定することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態における測定装置1の概略構成を示すブロック図である。
【0026】
測定装置1は、レーザマイクロプローブ発光分光分析法(LMA:Laser Microprobe Analyzer)を利用した発光分析装置であり、試料3内に含まれる複数種類の有害物質(以下、測定対象成分と称する)の含有率を自動的に測定できる測定装置である。なお、測定装置1、および、後述の測定装置31(図11参照)は、試料3として、電気製品または自動車の部品などを測定するものであり、測定対象成分として、鉛(Pb)、水銀(Hg)、カドミウム(Cd)、クロム(Cr)、臭素(Br)の含有率を測定するものとして説明する。
【0027】
図1に示すように、測定装置1は、レーザ光を出力するレーザ発振器2と、レーザ発振器2から出力されたレーザ光を試料3に集光照射する対物レンズ4と、レーザ光を受けた試料3が生成したプラズマ5から放射されるプラズマ光を集光する集光レンズ6と、集光レンズ6により集光されたプラズマ光を測定し、そのスペクトルをコンピュータ10へ出力する分光器8と、レーザ発振器2がレーザ光を出力するタイミング及び分光器8がプラズマ光を測定するタイミングを制御するゲートコントローラ9と、分光器8から入力されるスペクトルに基づいて、試料3の測定結果を算出し表示するコンピュータ10とを有している。
【0028】
レーザ発振器2は、後述のゲートコントローラ9からレーザ制御信号が入力された場合に、例えば、レーザエネルギー30mJでパルス幅10nsのYAGレーザ光を出力する。対物レンズ4は、レーザ発振器2から出力されるレーザ光を集光して、試料3に照射するためのレンズであり、試料3においてレーザ光の照射径が直径1mm程度となるように構成されている。
【0029】
試料3が、対物レンズ4により集光されたレーザ光(集光照射)を受けると、試料3の一部が蒸発励起しプラズマ5が生成される。その生成されるプラズマ5の中心部のことを、特に、プライマリプルーム5aと呼ぶ。プラズマ5は、レーザ光の照射終了と共に再結合が始まり、数μ秒から数十μ秒の間は試料3の構成元素が励起状態の原子となり、この励起状態の原子が下準位に遷移するとき、原子数に比例したプラズマ光を放射する。即ち、それぞれの原子は、固有の波長のプラズマ光を放射するので、このプラズマ5から放射されるプラズマ光の所定の波長における強度を測定することによって、目的とする測定対象成分の含有率を高い精度で得ることができる。
【0030】
集光レンズ6は、試料3が生成するプラズマ5のプラズマ光を集光させて、分光器8に入力するためのレンズである。集光レンズ6は、プライマリプルーム5aから外れた部位に焦点が合わされている。プライマリプルーム5aに焦点を合わせてプラズマ光を集光するよりも、プライマリプルーム5aから外れた部位に焦点を合わせてプラズマ光を集光することで、分光器8により測定される測定ノイズを抑制することができるので、高精度に測定することができる。なお、光路Lに対して斜め方向に放射されるプラズマ光を測定する場合、試料3の形状(例えば、凸凹など)の影響を受けにくく、試料3の形状にかかわらず、高精度に測定することができる。このようにプラズマ5における特定の位置に焦点を合わせ、プラズマ光の測定を行うことを、空間分解測光法と称することとする。
【0031】
また、集光レンズ6は、対物レンズ4を通過して試料3に入射するレーザ光の光路Lに対して、斜め方向または垂直方向に放射されるプラズマ光を集光させて、分光器8に入力している。試料3に照射されるレーザ光が試料3において反射する場合、その多くが試料3に入射するレーザ光の光路Lと同軸方向(対物レンズ4に向かって)に反射するので、その光路Lに対して斜め方向または垂直方向に放射されるプラズマ光を測定することにより、試料3において反射するレーザ光が分光器8により測定されることを抑制でき、高精度に測定することができる。
【0032】
分光器8は、後述のゲートコントローラ9から測定制御信号が入力された場合に、集光レンズ6により集光されるプラズマ光を測定し、測定したプラズマ光のスペクトルを生成するものである(図8のS27の処理)。スペクトルとは、図3(a)に示すように、各波長毎のスペクトル線強度を、波長順に並べたものである。分光器8は、生成したスペクトルをコンピュータ10へ出力する。コンピュータ10では、分光器8より入力されたスペクトルのスペクトル線強度の値を直接演算に使用するのではなく、測定により生じたオフセット成分を取り除いてから演算に使用している。一般的に測定器から出力される最小値は、ゼロが基準となるように設定されているが、測定条件や測定器の経時変化などにより、その基準が変動する。その基準(ゼロ)の変動量をオフセット成分と称する。本実施例では、平均スペクトル(図8参照)の値から、オフセット成分を取り除いた値を、各測定対象成分のスペクトル線強度としている。つまり、図3(a)に示す平均スペクトルの鉛(Pb)のスペクトル線強度は、3326[a.u.]とされる。これ以後、スペクトル線強度とは、オフセット成分を除いた値を用いているものとして説明する。
【0033】
ゲートコントローラ9は、後述のコンピュータ10からトリガ信号が入力されると、レーザ光の出力開始を指令するレーザ制御信号をレーザ発振器2へ出力し、また、プラズマ光の測定の測定時間帯(測定開始タイミングおよび測定時間幅)を規定する測定制御信号を分光器8へ出力する。ゲートコントローラ9は、レーザ光の照射とプラズマ光の測定との同期を取るためのディレイ回路9aを有しており、コンピュータ10からのトリガ信号の入力を契機としてレーザ発振器2へレーザ制御信号を出力するが、ディレイ回路9aにより、レーザ制御信号に所定時間の遅れをもって、分光器8へ測定制御信号を出力する。したがって、レーザ光の照射によって生じ、そして経時変化するプラズマ光に対して、その変化に適切に設定された遅れ時間をもって、分光器8にプラズマ光の測定を開始させることができる(図5参照)。
【0034】
次に、図2を参照して、コンピュータ10と、コンピュータ10に接続される各種機器とについて説明する。図2は、コンピュータ10の概略構成を示すブロック図である。図2に示すように、コンピュータ10は、CPU11と、ROM12と、RAM13と、HDD14と、入力装置15と、表示装置16と、分光器8から出力されるスペクトルを入力するためのインターフェース17(I/F17)と、ゲートコントローラ9にトリガ信号を出力するためのインターフェース18(I/F18)とを有しており、これらは、バスライン19を介してお互いに接続されている。
【0035】
CPU11は、ROM12やRAM13に記憶される固定値やプログラムに従って、バスライン19に接続された各部を制御するものである。ROM12は、CPU11により実行される制御プログラムなどが格納された書換不能なメモリである。RAM13は、書換可能な揮発性のメモリであり、CPU11により実行される各種処理に必要なデータやプログラムを一時的に記憶するためのメモリである。分光器8から出力され、コンピュータ10へ入力されるスペクトルは、一時的に、このRAM13に記憶される(図8のS24の処理)。
【0036】
HDD14は、ハードディスクであり、書換可能な不揮発性のメモリである。このHDD14に記憶されたデータは、コンピュータ10の電源オフ後も保持される。後述する図7、図8、図10、図13のフローチャートに示すプログラムなどは、このHDD14に記憶されている。
【0037】
HDD14には、分光器8により測定されたスペクトルのスペクトル線強度から、各測定対象成分の含有率を取得するための検量データが記憶されている検量データメモリ14aと、測定結果として算出された各測定対象成分の含有率の精度を評価するための閾値が記憶されている閾値メモリ14bと、レーザ光の集光照射によりプラズマ化して消耗する試料3の量(深さ)が記憶されている消耗量メモリ14cと、測定結果として算出された各測定対象成分の含有率、または、測定により消耗した試料の厚さを記憶するための測定結果メモリ14dとが設けられている。
【0038】
検量データメモリ14aは、分光器8により測定されたスペクトルのスペクトル線強度から、各測定対象成分の含有率を取得するための検量データが記憶されているメモリである。検量データメモリ14aには、鉛検量データ14a1と、水銀検量データ14a2と、カドミウム検量データ14a3と、クロム検量データ14a4と、臭素検量データ14a5とが設けられている。鉛検量データ14a1には、予め実験的に求められた鉛(Pb)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データ(図3(b)参照)が記憶されている。同様に、水銀検量データ14a2には、予め実験的に求められた水銀(Hg)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データが、カドミウム検量データ14a3には、予め実験的に求められたカドミウム(Cd)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データが、クロム検量データ14a4には、予め実験的に求められたクロム(Cr)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データが、臭素検量データ14a5には、予め実験的に求められた臭素(Br)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データが、それぞれ記憶されている。
【0039】
ここで、図3を参照して、検量データメモリ14aに記憶されているそれぞれの検量データについて説明する。図3(a)は、はんだを測定した場合に、コンピュータ10により作成される平均スペクトルの内容の一例を示すグラフであり、X軸方向に波長が、Y軸方向にそれぞれの波長におけるスペクトル線強度が記されている。図3(b)は、予め実験的に求められた鉛(Pb)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データの内容の一例を示すグラフであり、X軸方向に含有率が、Y軸方向にスペクトル線強度が記されている。
【0040】
分光器8は、試料3が生成するプラズマ5のプラズマ光を測定すると、測定したプラズマ光のスペクトルを生成しコンピュータ10へ出力する。コンピュータ10は、分光器8より入力された複数のスペクトルに基づいて、図3(a)に示す平均スペクトルを作成する(図8のS27の処理)。原子から放射されるプラズマ光の波長は、各原子毎に固有であり、試料3が生成したプラズマ5から放射されるプラズマ光には、試料3に含まれる各原子からそれぞれ放射されたプラズマ光が含まれている。測定対象成分の各原子が放射する固有の波長のプラズマ光が、試料3が生成したプラズマ5から放射されたかを調べることで、試料3に測定対象成分が含まれているかを判別することができる。
【0041】
図3(b)は、予め実験的に求められた鉛(Pb)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データの一例を示すグラフである。本実施形態では、予め含有率の分かっている測定対象成分のスペクトル線強度を実験的に求め、図3(b)に示すような、測定対象成分のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データを作成している。各原子が放射するスペクトル線強度は、測定する試料3に含まれる各原子の含有率と比例関係にあるので、試料3から放射されるスペクトル線強度と、検量線データとを比較することにより、コンピュータ10は、試料3の測定対象成分の含有率を取得することができる(図8のS28の処理)。検量データメモリ14aの各検量データ14a1〜14a5には、各測定対象成分の検量データがそれぞれ記憶されている。
【0042】
ここで、図2の説明に戻る。閾値メモリ14bは、測定結果として算出された各測定対象成分の含有率の精度を評価するための閾値が記憶されているメモリである(図4(a)参照)。試料3に含まれる各測定対象成分の含有率を求める場合、本実施形態では、複数回(例えば、10回)測定した各測定対象成分の含有率の平均値を測定結果としている(図7のS7の処理)。複数回測定した各含有率の平均値を測定結果とすることで、測定誤差の影響を少なくすることができる。
【0043】
また、複数回測定した含有率の標準偏差を算出し、その標準偏差を、標準偏差の算出に用いた含有率の平均値で除算した値を精度判定値としている。そして、精度判定値が所定値を上回る場合は、測定の精度が低いとして、測定結果を不明としている(図7のS6の処理)。試料の種類(金属であるか、樹脂であるかなど)、測定する測定対象成分の種類、測定する測定対象成分以外の成分の影響、レーザ発振器2の精度、分光器8の精度などにより、測定結果の精度が得られない場合は、測定結果を不明とすることで、測定の信頼性を高めることができる。
【0044】
閾値メモリ14bには、測定結果を評価するために用いる精度判定値の閾値が、精度閾値として記憶されている。例えば、精度閾値を5%とした場合は、測定により求められたある測定対象成分の含有率の精度判定値が5%より大きいと、その測定対象成分の測定結果を不明とする。
【0045】
消費量メモリ14cは、レーザ光の集光照射によりプラズマ化して消耗する試料3の量(深さ)が記憶されているメモリである。試料3はレーザ光の集光照射を受けると、その一部が蒸発励起しプラズマ5を生成すると共に、その試料3におけるレーザ光の集光照射を受けた部分には、クレータ状の穴が形成される。消費量メモリ14cには、図4(b)に示すように、1回のレーザ光の集光照射により形成されるクレータ状の穴の深さである消耗量が記憶されている。この消耗量は、予め実験的に求められた値である。例えば、測定装置1(または後述の測定装置31)において、はんだに1回レーザ光を集光照射すると、50nmの深さのクレータが形成される。上述したように、試料3におけるレーザ光の照射径を直径1mm程度としたことにより、このように安定した深さのクレータを形成することができる。
【0046】
測定結果メモリ14dは、測定結果として算出された各測定対象成分の含有率、または、測定により消耗した試料の厚さを記憶するためのメモリである。測定結果メモリ14dには、鉛含有率測定結果14d1と、水銀含有率測定結果14d2と、カドミウム含有率測定結果14d3と、クロム含有率測定結果14d4と、臭素含有率測定結果14d5と、厚さ測定結果14d6とが設けられている。
【0047】
鉛含有率測定結果14d1は、試料3について測定した測定結果である各測定対象成分の含有率のうち、鉛の含有率を記憶するためのメモリである。同様に、水銀含有率測定結果14d2には、水銀の含有率が、カドミウム含有率測定結果14d3には、カドミウムの含有率が、クロム含有率測定結果14d4には、クロムの含有率が、臭素含有率測定結果14d5には、臭素の含有率が、それぞれ記憶される。また、厚さ測定結果14d6には、厚さ測定処理(図10参照)が行われた場合に算出される消耗した試料3の厚さが記憶される。
【0048】
入力装置15は、コンピュータ10を管理したり、ゲートコントローラ9へトリガ信号を出力する命令(コマンド)などを入力する場合に使用するものであり、例えば、キーボードやマウスなどにより構成されている。表示装置16は、コンピュータ10で実行される処理内容や、分光器8から入力されたスペクトルなどを視覚的に確認するために、文字や画像などを表示するものであり、特に、各測定対象成分の含有率についての測定結果、および、厚さ測定処理(図10参照)を行った場合の試料3の厚さが表示される。表示装置16は、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイなどにより構成されている。
【0049】
I/F17は、コンピュータ10と分光器8とを接続し、分光器8から出力されるスペクトルを入力するためのものである。I/F18は、コンピュータ10とゲートコントローラ9とを接続するものである。入力装置15からトリガ信号を出力する命令(コマンド)が入力されると、コンピュータ10は、I/F18を介して、所定のタイミングでゲートコントローラ9へトリガ信号を入力する。ゲートコントローラ9は、トリガ信号が入力されると、レーザ制御信号および測定制御信号を出力するので、試料3の測定が開始される。
【0050】
次に、図5を参照して、分光器8により測定するプラズマ光の測定時間帯(測定開始タイミングおよび測定時間幅)について説明する。ここでは、試料3として、はんだを用いているものとして説明を行う。図5(a)は、はんだから放射されるプラズマ光の発光強度と、時間との関係の一例を示すグラフであり、はんだにレーザ光が集光照射され、プラズマ5からプラズマ光が放射された瞬間を基準として、X軸方向に時間が、Y軸方向にプラズマ光の発光強度が記されている。
【0051】
図5(b)は、後述する遅延時間Tdを設けずに、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度を測定した測定結果の一例を示すグラフである。図5(c)は、後述する遅延時間Tdを0.4μ秒設け、図5(b)と同じはんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度を測定した測定結果の一例を示すグラフである。図5(b)および図5(c)は、X軸方向に波長が、Y軸方向にそれぞれの波長におけるスペクトル線強度が記されている。
【0052】
プラズマ5から放射されるプラズマ光の発光強度は、図5(a)に示すように、プラズマ5からプラズマ光が放射された瞬間が一番強く、その後、急な勾配で下降する。そして、その発光強度は、下降の途中で、上昇と下降とを繰り返しながら、緩やかに減少する。本実施形態では、(プラズマ5からプラズマ光が放射され)プラズマ光の発光強度が急な勾配で下降し、上昇に転じる瞬間を測定の開始時間としている。そして、発光強度が下降し、次の上昇に転じる前までの時間である測定時間幅Tgを測定時間としている。つまり、試料3にレーザ光の集光照射を行ってから、遅延時間Tdを設けて、測定時間幅Tgの測定を行うのである。このように特定の時間帯にプラズマ光の測定を行うことを、時間分解測光法と称することとする。この時間分解測光法を用いることによって、測定対象成分のスペクトル線強度を、より確実に測定することができる。
【0053】
例えば、遅延時間Tdを0μ秒とした場合は、図5(b)に示すように、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度と、鉛(Pb)周辺の他の波長のスペクトル線強度とが近似するため、試料3に鉛(Pb)が含まれているのか判別が困難である。しかしながら、遅延時間Td(一例として、0.4μ秒)を設けることで、図5(c)に示すように、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度と、鉛(Pb)周辺の他の波長のスペクトル線強度との差が明確となり、試料3に鉛(Pb)が含まれていると確実に判別することができる。このように、遅延時間Tdを設けることによって、測定対象成分のスペクトル線強度を、より確実に測定することができ、高精度に測定することができる。
【0054】
次に、図6を参照して、レーザ発振器2から出力するレーザ光のレーザエネルギー量について説明する。ここでは、試料3として、はんだを用いているものとして説明を行う。図6(a)は、はんだにレーザ光を集光照射した場合の、レーザ光のレーザエネルギー量と、スペクトル線強度との関係の一例を示すグラフであり、X軸方向にレーザエネルギーの量が、Y軸方向にスペクトル線強度が記されている。
【0055】
図6(b)は、レーザエネルギー90mJであるレーザ光をはんだに集光照射し、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度を測定した測定結果の一例を示すグラフである。図6(c)は、レーザエネルギー30mJであるレーザ光を、図6(b)と同じはんだに集光照射し、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度を測定した測定結果の一例を示すグラフである。図6(b)および図6(c)は、X軸方向に波長が、Y軸方向にそれぞれの波長におけるスペクトル線強度が記されている。なお、スペクトル光の測定には、上述した時間分解測光法(遅延時間Tdを設け、測定時間幅Tgの測定を行う)を用いている。
【0056】
図6(a)は、はんだに、レーザエネルギー10mJから90mJまで、10mJずつ増加させながらレーザ光を集光照射した場合の、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度をそれぞれ測定した測定結果の一例を示すグラフである。
【0057】
図6(a)に示すように、はんだに集光照射するレーザエネルギーを10mJから20mJに増加させることにより、分光器8により測定されるスペクトル線強度が上昇する。同様にレーザエネルギーを10mJずつ増加させると、それに伴ってスペクトル線強度も上昇する。しかし、レーザエネルギーが40mJ以上になると、レーザエネルギーを増加させるに伴い、測定されるスペクトル線強度が減少する。即ち、はんだに集光照射するレーザエネルギー量を単に増加させるよりも、レーザエネルギー量を適正値に制御することによって、より強いスペクトル線強度を測定することができる。
【0058】
例えば、図6(b)に示すように、はんだに、レーザエネルギー90mJのレーザ光を集光照射すると、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度と、鉛(Pb)周辺の他の波長のスペクトル線強度とが近似するため、試料3に鉛(Pb)が含まれているのか判別が困難である。しかしながら、レーザエネルギーを30mJのレーザ光を集光照射すると、図6(c)に示すように、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度と、鉛(Pb)周辺の他の波長のスペクトル線強度との差が明確となり、試料3に鉛(Pb)が含まれていると確実に判別することができる。本実施形態は、試料3に集光照射するレーザ光のレーザエネルギー量を30mJに制御しているので、測定対象成分のスペクトル線強度を、より確実に測定することができ、高精度に測定することができる。また、試料3に集光照射するレーザエネルギー量を適正値とすることで、レーザ発振器2で消費される消費電力を削減でき、また、レーザ発振器2を小型化することができる。
【0059】
次に、図7のフローチャートを参照して、上記のように構成されるコンピュータ10において実行される、成分測定処理について説明する。図7は、コンピュータ10で実行される成分測定処理を示すフローチャートである。この成分測定処理は、入力装置15から成分測定開始の指示が入力されると実行される処理であり、試料3に含まれる各測定対象成分の含有率を自動的に測定する処理である。
【0060】
成分測定処理では、まず、変数iを「1」に初期化する(S1)。次に、第i回目の測定を行い、その測定の結果として得られる各測定対象成分毎の含有率を、測定結果メモリ14d(図2参照)の各含有率測定結果14d1〜14d5に記憶するi回目測定結果取得処理を実行する(S2)。
【0061】
ここで、図8を参照して、i回目測定結果取得処理(S2)について説明する。図8は、i回目測定結果取得処理(S2)を示すフローチャートである。このi回目測定結果取得処理(S2)は、ゲートコントローラ9によって、レーザ発振器2のレーザ光の照射と、分光器8によるプラズマ光の測定との同期を取り、分光器8により測定されたプラズマ光のスペクトルから、各測定対象成分の含有率をそれぞれ取得するための処理である。
【0062】
i回目測定結果取得処理(S2)では、まず、変数jを「0」に初期化する(S21)。次に、ゲートコントローラ9にトリガ信号を入力して、試料3にレーザ光を集光照射する(S22)。そして、変数jが「5」以上であるかを判定し(S23)、変数jが「5」以上であれば(S23:Yes)、分光器8より入力されるスペクトルをRAM13に書き込む(S24)。一方、変数jが「5」未満である場合は(S23:No)、試料3の表面近傍の性質が酸化などにより変化している可能性があるため、スペクトルの測定を行わず、S24の処理をスキップし、S25の処理に移行する。
【0063】
所定回数(一例として、5回)のレーザ光の集光照射が行われた後であれば、その性質の変化した試料3が、所定回数分消耗している(削られている)ので、性質の変化した試料3の影響が抑制されたスペクトルを測定することができ、より高精度に試料3のスペクトルを測定することができる。
【0064】
次に、変数jに「1」を加算し(S25)、変数jが「M」(Mは5以上の整数)と等しいか否かを判定する(S26)。変数jが「M」よりも小さい場合は(S26:No)、S22の処理に戻り、上述したS22〜S26の各処理を繰り返す。このようにして「M」回分のレーザ光の集光照射が終了し、「M−5」回分の測定結果がRAM13に記憶されると、変数jが「M」と等しくなるので(S26:Yes)、S27の処理に移行する。
【0065】
S27の処理では、RAM13に記憶された「M−5」個のスペクトルから、平均スペクトルを作成する(S27)。「M−5」個のスペクトルから、平均スペクトルを作成して含有率を取得するので、スペクトルの測定誤差やノイズなどが除去され、測定の精度を向上させることができる。
【0066】
そして、平均スペクトルおよび検量データメモリ14aに記憶される各測定対象成分の検量データ14a1〜14a5から、各測定対象成分の含有率をそれぞれ取得する(S28)。
【0067】
ここで、図3を参照して、平均スペクトルから、測定対象成分の含有率を取得(定量)する処理の一例について、鉛(Pb)を例にとって説明する。
【0068】
図3(a)は、はんだを測定した場合に、コンピュータ10により作成される平均スペクトルの内容の一例を示すグラフであり、図3(b)は、検量データメモリ14aの鉛検量データ14a1(図2参照)に記憶されている、予め実験的に求められた鉛(Pb)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データである。このスペクトル線強度と含有率との関係は、予め実験的に求められる。鉛(Pb)の特徴波長は、405.78(nm)であるから、これに基づいて、図3(a)の平均スペクトルにおける鉛(Pb)の特徴波長のスペクトル線強度(3326[a.u.])を得る。
【0069】
そして、図3(b)に示す検量データに表わされるように、スペクトル線強度と含有率とは略比例の関係にあるから、この相関関係を用いて、スペクトル線強度から鉛(Pb)の含有率を取得することができる。つまり、スペクトル線強度が3326[a.u.]である場合に、図3(b)から、その含有率は、103[ppm]であると取得することができる。ここでは、一例として、鉛(Pb)を例にとって説明したが、各測定対象成分についても同様に、各測定対象成分の特徴波長と、各測定対象成分について予め実験的に求められたスペクトル線強度と含有率との相関関係に基づいて、試料3における含有率を取得することができる。
【0070】
ここで、図8のフローチャートの説明に戻る。そして、各測定対象成分のそれぞれの含有率を、i回目測定結果として、測定結果メモリ14dの各含有率測定結果14d1〜14d5に書き込み(S29)、このi回目測定結果取得処理(S2)を終了する。
【0071】
この図8のフローチャートのi回目測定結果取得処理(S2)により、ゲートコントローラ9を制御し、レーザ発振器2のレーザ光の照射と、分光器8によるプラズマ光の測定との同期を取ることができる。また、分光器8により測定されたプラズマ光のスペクトルから、各測定対象成分の含有率をそれぞれ取得することができる。
【0072】
i回目測定結果取得処理(S2)の終了後は、図7のS3の処理に戻る。S3の処理では、変数iに「1」を加算し(S3)、変数iが「N」(Nは2以上の整数)より大きいか否かを判定し(S4)、変数iがN以下であれば(S4:No)、S2の処理に戻り、S2〜S4の各処理を繰り返す。このようにしてN回分の測定が終了し、N回分の測定結果が測定結果メモリ14dに記憶されると、変数iがNよりも大きくなるので(S4:Yes)、S5の処理に移行する。
【0073】
次に、N回分の測定結果である各測定対象成分の含有率の精度を評価する。なお、各測定対象成分毎に、要求される精度、および許容される(正常であると評価される)含有率は異なる。よって、精度判定値の演算および評価は、全て、各測定対象成分毎に行う。
【0074】
まず、複数の測定対象成分のうち、1つの測定対象成分についての標準偏差を算出し、その標準偏差を、標準偏差の算出に用いた平均値で除算して、精度判定値とする(S5)。本実施形態では、N回の測定が行われているので、1つの測定対象成分について測定されたN個の値(含有率)が測定結果メモリ14dの各含有率測定結果14d1〜14d5に記憶されている。これらを読み出し、それらN個の含有率の標準偏差を算出し、その標準偏差を、標準偏差の算出に用いた含有率の平均値で除算して、精度判定値とするのである。
【0075】
次に、求めた精度判定値が、閾値メモリ14bに記憶される精度閾値(図4(a)参照)より大きいかを判定し(S6)、精度判定値が、精度閾値よりも大きい場合は(S6:Yes)、測定の精度が悪いと判断できる。試料の種類(金属であるか、樹脂であるかなど)、検出する測定対象成分の種類(検出感度が高いものと低いものがある)、検出する測定対象成分以外の成分の影響、レーザ発振器2の精度、分光器8の精度などにより、測定結果の精度が得られない場合がある。よって、そのような場合は、その測定対象成分の含有率についての測定結果を「不明」とし(S8)、S9の処理に移行する。このように測定結果の精度が得られない場合は、測定結果を「不明」であるとすることにより、判定結果の信頼性を高めることができる。
【0076】
一方、精度判定値が、精度閾値以下である場合(S6:No)、すなわち、N個の含有率のばらつきが小さい場合は、N回の測定結果の精度は良いと判断できる。よって、そのN個の含有率の平均値を測定結果とする(S7)。
【0077】
次に、全ての測定対象成分について評価したか否かを判定する(S9)。未だ全ての測定対象成分について評価していない場合(S9:No)、S5の処理に戻り、次の測定対象成分について評価する。このようにして処理を繰り返すうちに、全ての測定対象成分についての評価が終了すると(S9:Yes)、全ての測定対象成分についての測定結果をそれぞれ表示装置16(図2参照)に表示出力し(S10)、処理を終了する。この図7のフローチャートの成分測定処理によって、性質の変化した試料3の影響が抑制された各測定対象成分の含有率をそれぞれ測定することができ、使用者は、表示装置16を視認することにより、試料3に含まれる各測定対象成分の含有率についての測定結果(正常である場合は含有率、または、不明であるか)を知ることができる。
【0078】
この測定装置1によれば、従来の蛍光X線分析法と比較して、管理者や管理区域などを要さず、低コスト、且つ、迅速に試料を測定できる。さらに、レーザ光は微少部分に照射可能であると共に、試料3の厚みが薄い場合であっても照射可能であり、そのスペクトルの測定が可能であるため、例えば、めっき、基板上はんだ接合部などの薄膜、微少な特定領域であっても高精度に測定することができる。
【0079】
さらに、この測定装置1に代えて、従来の蛍光X線分析法を用いて測定を行う場合、X線が試料3に照射され、そのX線が透過した試料3の成分が測定される。つまり、X線が透過した部位の試料3の成分が測定されるので、X線の照射方向に広範囲に測定された結果からは、どの深さにどのような成分が含まれているかは不明である。しかしながら、この測定装置1(または後述の測定装置31)であれば、測定される成分は、レーザ光の集光照射を受けプラズマ化して消耗する部位に限られるため、局所的な成分の測定を行うことができる。
【0080】
また、これまでのレーザマイクロプローブ発光分光分析法を利用した発光分析装置では、スペクトル線強度の受光感度を増加させるために、試料3の周囲をアルゴンガスなどの不活性ガスで充填したり、真空状態とする必要があった。しかしながら、測定装置1(または後述の測定装置31)を用いれば、大気中において試料3の測定を行うことができる。
【0081】
ここで、図9(a)を参照して、測定装置1を用いて、大気中およびアルゴンガス中において、はんだを測定した場合の鉛(Pb)のスペクトル線強度と含有率との関係の一例について説明する。この測定は、試料3として、鉛(Pb)の含有率が異なるはんだを複数用意し、それぞれのはんだについての鉛(Pb)の含有率を測定したものである。
【0082】
図9(a)は、大気中およびアルゴンガス中において、はんだを測定した場合の鉛(Pb)のスペクトル線強度と含有率との関係の一例を示すグラフであり、X軸方向に含有率が、Y軸方向にスペクトル線強度が記されている。
【0083】
図9(a)に示すように、大気中において測定した検量データのスペクトル強度よりも、アルゴンガス中において測定した検量データのスペクトル強度よりも若干大きい傾向があるが、どちらの検量データも、略同一であり、スペクトル線強度と含有率とが略比例関係を示している。つまり、上述した、空間分解測光法および時間分解測光法を用い、さらに試料3に照射するレーザエネルギー量を制御したことによって、大気中において試料3の測定が可能となったことを示している。即ち、これまで測定に必要であった、ガスボンベや真空ポンプ等が不要となるので、装置のコストダウンおよび小型化が可能であり、使用者が装置を簡便に使用することができる。
【0084】
次に、図10のフローチャートを参照して、コンピュータ10において実行される、厚さ測定処理について説明する。図10は、コンピュータ10で実行される厚さ測定処理を示すフローチャートである。この厚さ測定処理は、入力装置15から厚さ測定開始の指示が入力されると実行される処理であり、試料3に含まれる各測定対象成分の厚さを自動的に測定する処理である。
【0085】
試料3はレーザ光の集光照射を受けると、その一部が蒸発励起しプラズマ5を生成すると共に、その試料3におけるレーザ光の集光照射を受けた部分には、クレータ状の穴が形成される。1回のレーザ光の集光照射により形成されるクレータ状の穴の深さである消耗量は、予め実験的に求めておく値であり、消費量メモリ14c(図4(b)参照)に記憶されている。
【0086】
この厚さ測定処理では、測定される試料3の各測定対象成分の含有率が略同一である場合に、レーザ光の集光照射を繰り返し、その試料3に集光照射したレーザ光の照射回数から形成されたクレータ状の穴の深さを算出する。つまり、試料3において、略同一な成分である層の厚さを測定するための処理である。
【0087】
図10に示すように、厚さ測定処理では、まず、変数iを「1」に初期化する(S31)。次に、ゲートコントローラ9にトリガ信号を入力して、試料3にレーザ光を集光照射する(S32)。分光器8より入力されるスペクトルおよび検量データメモリ14aに記憶される各測定対象成分の検量データ14a1〜14a5から、各測定対象成分の含有率をそれぞれ取得する(S33)。
【0088】
そして、取得した各測定対象成分のそれぞれの含有率を、i回目測定結果として、測定結果メモリ14dの各含有率測定結果14d1〜14d5に書き込む(S34)。次に、ゲートコントローラ9にトリガ信号を入力して、試料3にレーザ光を集光照射し(S35)、分光器8より入力されるスペクトルおよび検量データメモリ14aに記憶される各測定対象成分の検量データ14a1〜14a5から、各測定対象成分の含有率をそれぞれ取得する(S36)。
【0089】
S36の処理において取得した各測定対象成分のそれぞれの含有率が、前回取得したそれぞれの含有率と所定値以上異なるかを判定し(S37)、S36の処理において取得した各測定対象成分のそれぞれの含有率が、前回取得したそれぞれの含有率と所定値未満の差であれば(S37:No)、試料3の成分は略同一であると判断できるので、この測定を続ける。なお、この所定値は、測定する試料3や、測定対象成分の含有率により異なるため、予め実験的に算出しなければならない。そして、S36の処理において取得した各測定対象成分の含有率を、i回目測定結果として、測定結果メモリ14dの各含有率測定結果14d1〜14d5に書き込み(S38)、変数iに「1」を加算し(S39)、S35の処理に戻り、上述したS35〜S39の各処理を繰り返す。
【0090】
一方、S37の処理において、S36の処理において取得した各測定対象成分の含有率が、前回取得した含有率と所定値以上異なる場合は(S37:Yes)、消耗量メモリ14cに記憶される「消耗量(50nm)」と「i(レーザ光の照射回数)」とを乗算して、測定によって消耗した試料3の厚さを算出し、測定結果メモリ14dの厚さ測定結果14d6に書き込む(S40)。そして、算出した厚さ(消耗した試料3の厚さ)を、表示装置6に出力し(S41)、厚さ測定処理を終了する。
【0091】
この図10のフローチャートの厚さ測定処理により、試料3に含まれる各測定対象成分の含有率から測定対象成分を特定し、その測定対象成分の含有率が略同一である場合に、レーザ光の集光照射を繰り返し、その試料3に集光照射したレーザ光の照射回数から形成されたクレータ状の穴の深さを算出することができる。つまり、試料3において、略同一な成分である層の厚さを測定することができる。
【0092】
ここで、図9(b)を参照して、厚さ測定処理により、めっき層の深さ(厚さ)を測定した一例について説明する。この一例では、鉄(Fe)を母材とし、その表面に無電解ニッケルめっきを施したものを試料3としているため、測定対象成分を鉄(Fe)、鉛(Pb)、ニッケル(Ni)として説明する。そして、レーザ光の集光照射によりめっき層を消耗させ、母材である鉄(Fe)が露出した場合に、それまで集光照射したレーザ光の照射回数から、めっき層の深さ(厚さ)を求める。
【0093】
図9(b)は、試料3に繰り返し集光照射されたレーザ光の照射回数と、そのレーザ光の集光照射により得られた各測定対象成分のスペクトル線強度との関係の一例を示すグラフであり、X軸方向に、レーザ光の照射回数が、Y軸方向に鉄(Fe)、鉛(Pb)、ニッケル(Ni)のスペクトル線強度がそれぞれ記されている。
【0094】
試料3にレーザ光を集光照射すると、鉄(Fe)、鉛(Pb)、ニッケル(Ni)のそれぞれのスペクトル線強度が測定される。図9(b)に示すように、測定される各測定対象成分のスペクトル線強度(検量データから、含有率を求めても良い)は、めっきの成分の分布のばらつきや測定誤差により、少量の変化が生じているが略同一である。例えば、鉄(Fe)のスペクトル線強度は、レーザ光の照射回数が0〜120回まで、100[a.u.]以下であるが、120回を越えると、徐々に鉄(Fe)のスペクトル線強度が上昇し始め、130回を越えると急激に上昇する。140回では、スペクトル線強度が約2300[a.u.]となり、150回では、約5200[a.u.]となる。つまり、130回から150回の間で、めっきが消耗して母材である鉄(Fe)が露出したことが分かる。
【0095】
例えば、図10のS37の処理における所定値(変化量の判定値)を、1000[a.u.]にしておけば、130回から140回の間で、スペクトル線強度の変化量が約2000[a.u.]となるため、130回のレーザ光の集光照射により形成されたクレータ状の穴の深さが算出される。そして、1回のレーザ光の集光照射により消耗する試料3の深さ方向の距離は、例えば50nmと予め実験的に求められているので、その深さは、50nm×130回=6.5μmと算出することができるのである。
【0096】
これまで上述した第1実施形態である測定装置1によれば、性質の変化した試料3の影響が抑制された各測定対象成分の含有率をそれぞれ測定することができ、また、試料3において、略同一な成分である層の厚さを測定することができる。そして測定結果が、表示装置16に出力されるので、使用者は、表示装置16を視認することにより、試料3に含まれる各測定対象成分の含有率についての測定結果(正常である場合は含有率、または、不明であるか)、または、試料3において、略同一な成分である層の厚さを知ることができる。
【0097】
次に、第2実施形態である測定装置31について説明する。この測定装置31では、試料3におけるある一平面の任意の位置にレーザ光を集光照射することができる。測定装置31は、試料3の複数の位置にレーザ光の集光照射を行って、それぞれのスペクトル線強度を測定し、試料3の各測定対象成分の含有率の分布を表示装置16に表示するものである。
【0098】
図11は、測定装置31の概略構成を示すブロック図である。図11のブロック図において、第1の実施形態である測定装置1のブロック図(図1参照)と同一な部分については、同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。測定装置31は、図1に示す測定装置1のブロック図と同一部分と、XYステージ21と、コンピュータ35とを有している。
【0099】
XYステージ21は、試料3を載置するためのテーブルと、テーブルをX軸方向に搬送するためのX軸方向搬送用モータ(図示しない)と、テーブルをY軸方向に搬送するためのY軸方向搬送用モータ(図示しない)と有している。このXYステージ21は、I/F22(図12参照)を介してパーソナルコンピュータ10と接続されており、後述のパーソナルコンピュータ35から入力される位置制御命令に従って、テーブルをX軸方向およびY軸方向の任意の位置に移動可能に構成されている。つまり、テーブルの移動に伴って試料3も移動するので、試料3におけるある一平面の任意の位置にレーザ光を集光照射させることができる。
【0100】
次に、図12を参照して、コンピュータ35と、コンピュータ35に接続される各種機器とについて説明する。図12は、コンピュータ35の概略構成を示すブロック図である。図12のブロック図において、第1の実施形態である測定装置1のコンピュータ10のブロック図(図2参照)と同一な部分については、同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。コンピュータ35は、図2に示すコンピュータ10のブロック図と同一部分と、I/F22とを有している。
【0101】
I/F22は、バスライン19と接続されている。I/F22は、コンピュータ35とXYステージ21とを接続するものであり、コンピュータ10からXYステージ21に位置制御命令が入力されると、XYステージ21は、その命令に従ってテーブルを所定の位置に移動させる。
【0102】
次に、図13のフローチャートを参照して、上記のように構成されるコンピュータ35において実行される、XY位置成分測定処理について説明する。図13は、コンピュータ35で実行されるXY位置成分測定処理を示すフローチャートである。このXY位置成分測定処理は、入力装置15から成分測定開始の指示が入力されると実行される処理であり、XYステージに載置された試料3に含まれる各測定対象成分の含有率の分布を自動的に測定する処理である。
【0103】
XY位置成分測定処理では、まず、変数Yを「0」に初期化し(S51)、変数Xを「0」に初期化する(S52)。次に、I/F22を介して、XYステージ21に、位置制御命令を入力し、XYステージ21を、位置(X,Y)に移動させる(S53)。
【0104】
そして、変数iを「1」に初期化し(S54)、第i回目の測定を行い、その測定の結果として得られる各測定対象成分毎の含有率を、測定結果メモリ14d(図12参照)の各含有率測定結果14d1〜14d5に記憶するi回目測定結果取得処理を実行する(図8のS2の処理)。このi回目測定結果取得処理(S2)が実行されると、i回目の測定結果として測定された、各測定対象成分のそれぞれの含有率が、測定結果メモリ14dの各含有率測定結果14d1〜14d5にそれぞれ書き込まれる。
【0105】
次に、変数iに「1」を加算し(S55)、変数iが「N」(Nは2以上の整数)より大きいか否かを判定し(S56)、変数iがN以下であれば(S56:No)、S2の処理に戻り、S2〜S56の各処理を繰り返す。このようにしてN回分の測定が終了し、N回分の測定結果が測定結果メモリ14dに記憶されると、変数iがNよりも大きくなるので(S56:Yes)、S57の処理に移行する。
【0106】
次に、N回分の測定結果である含有率の精度を評価する。なお、各測定対象成分毎に、要求される精度、および許容される(正常であると評価される)含有率は異なる。よって、精度判定値の演算および評価は、全て、各測定対象成分毎に行う。
【0107】
まず、複数の測定対象成分のうち、1つの測定対象成分についての標準偏差を算出し、その標準偏差を、標準偏差の算出に用いた平均値で除算して、精度判定値を求める(S57)。本実施形態では、N回の測定が行われているので、1つの測定対象成分について測定されたN個の値(含有率)が測定結果メモリ14dの各含有率測定結果14d1〜14d5に記憶されている。これらを読み出し、それらN個の含有率の標準偏差を算出し、その標準偏差を、標準偏差の算出に用いた含有率の平均値で除算して、精度判定値とするのである。
【0108】
次に、求めた精度判定値が、閾値メモリ14bに記憶される精度閾値(図4(a)参照)より大きいかを判定し(S58)、精度判定値が、精度閾値よりも大きい場合は(S58:Yes)、測定の精度が悪いと判断できる。試料の種類(金属であるか、樹脂であるかなど)、検出する測定対象成分の種類(検出感度が高いものと低いものがある)、検出する測定対象成分以外の成分の影響、レーザ発振器2の精度、分光器8の精度などにより、測定結果の精度が得られない場合がある。よって、そのような場合は、位置(X,Y)における各測定対象成分の含有率についての測定結果を「不明」とし(S60)、S61の処理に移行する。このように測定結果の精度が得られない場合は、測定結果を「不明」であるとすることにより、判定結果の信頼性を高めることができる。
【0109】
一方、精度判定値が、精度閾値以下である場合(S58:No)、すなわち、N個の含有率のばらつきが小さい場合は、N回の測定結果の精度は良いと判断できる。よって、そのN個の含有率の平均値を位置(X,Y)における測定結果とする(S59)。
【0110】
次に、全ての測定対象成分について評価したか否かを判定する(S61)。未だ全ての測定対象成分について評価していない場合(S61:No)、S57の処理に戻り、次の測定対象成分について評価する。このようにして処理を繰り返すうちに、全ての測定対象成分についての評価が終了すると(S61:Yes)、変数Xに「1」を加算し(S62)、変数Xが、「Xmax」(Xmaxは1以上の整数)と等しいか否かを判定する(S63)。変数Xが「Xmax」よりも小さい場合は(S63:No)、S53の処理に戻り、上述したS53〜S63の各処理を繰り返す。このようにして、試料3において、X軸方向に「Xmax」回分の測定が行われると、変数Xが「Xmax」と等しくなるので(S63:Yes)、S64の処理に移行する。
【0111】
S64の処理では、変数Yに「1」を加算し(S64)、変数Yが、「Ymax」(Ymaxは1以上の整数)と等しいか否かを判定する(S65)。変数Yが「Ymax」よりも小さい場合は(S65:No)、S52の処理に戻り、上述したS52〜S65の各処理を繰り返す。このようにして、試料3において、Y軸方向に「Ymax」回分の測定が行われると、変数Yが「Ymax」と等しくなるので(S65:Yes)、S66の処理に移行する。
【0112】
上述した処理により、XYテーブル21上に載置された試料3におけるある一平面において、XYテーブル21の位置(0,0)から、位置(Xmax,Ymax)までの、各位置における測定が終了し、その測定結果が測定結果メモリ13dの各測定対象成分14d1〜14d5に記憶される。そして、各測定対象成分毎に、XY平面における各含有率の分布図を作成し、それぞれの結果を表示装置16(図2参照)に表示出力し(S66)、処理を終了する。
【0113】
この図13のフローチャートのXY位置成分測定処理によって、試料3におけるある一平面の各測定対象成分の含有率の分布を測定することができ、使用者は、その分布図を表示装置16を視認することにより、試料3におけるある一平面に含まれる各測定対象成分の分布を知ることができる。
【0114】
次に、図14(a)を参照して、XY位置成分測定処理により作成される各測定対象成分の含有率の分布図について説明する。図14(a)は、試料3における鉛(Pb)の含有率の分布図の一例を示している。他の測定対象成分の分布図も同様であるため、ここでは、鉛(Pb)の分布図についてのみ説明を行い、その他の測定対象成分については説明を省略する。
【0115】
XYテーブル21上に載置された試料3は、XYテーブル21の位置(0,0)が基準とされ、X軸方向に「Xmax」回の測定が、Y軸方向に「Ymax」回の測定が行われる。そして、その測定結果である鉛(Pb)の含有率が、図14(a)に示すように、分布図として表示装置16に表示される。
【0116】
この分布図では、位置(X,Y)での測定において、鉛(Pb)の含有率が所定の範囲内である場合に、その位置(X,Y)の表示を無地としており、所定の範囲外である場合に、色を変化させて表示している。所定の範囲の値は、測定する試料3や、測定対象成分の含有率などに応じて、使用者が決める値である。このように、分布図を作成して表示することにより、使用者は、表示装置16を視認することにより、試料3に含まれる各測定対象成分の含有率の分布を知ることができる。
【0117】
これまで上述した、XY位置成分測定処理では、試料3におけるある一平面の各測定対象成分の含有率をそれぞれ測定したが、ある特定の位置や、ある範囲内を繰り返し測定して、深さ方向の分布図を作成しても良い。
【0118】
次に、図14(b)を参照して、深さ方向の各測定対象成分の含有率の測定の一例について説明する。図14(b)は、図14(a)のA−A’断面における、深さ方向の鉛(Pb)の含有率の分布図の一例を示している。
【0119】
図14(a)に示すように、試料3においてある一平面の鉛(Pb)の含有率の分布を測定したとしても、試料3の表面のみが測定されるため、測定対象成分である鉛(Pb)が、深さに方向どのように分布しているのか知ることができない。しかし、ある特定の位置や、ある範囲内を繰り返し測定することで、深さ方向の鉛(Pb)の含有率を測定することができる。図14(b)は、図14(a)のA−A’断面線上に位置する試料3を繰り返し測定し、その分布図を作成したものである。
【0120】
図14(b)の分布図では、位置(X,Y(一定))のある深さの測定において、鉛(Pb)の含有率が所定の範囲内である場合に、その位置(X,Y(一定))のある深さの表示を無地としており、所定の範囲外である場合に、色を変化させて表示している。所定の範囲の値は、測定する試料3や、測定対象成分の含有率などに応じて、使用者が決める値である。
【0121】
このように、深さ方向の分布図を作成して表示することにより、表示装置16を視認することができ、試料3に含まれる深さ方向の各測定対象成分の含有率の分布(つまり、偏在)を知ることができる。
【0122】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものである。
【0123】
例えば、上記実施例の測定装置31では、対物レンズ4を通過して試料に入射するレーザ光の光路Lに対して、斜め方向または垂直方向に放射されるプラズマ光を、集光レンズ6により集光させて分光器8に入力しているが、レーザ光の光路Lと同軸方向に放射されるプラズマ光を測定しても良い。
【0124】
図15は、測定装置1および測定装置31における第1変形例の概略構成を示す図である。図15に示すように、レーザ発振器2から照射されるレーザ光を、リフレクタ23により反射させ、対物レンズ4に入射させている。対物レンズ4に入射されたレーザ光は集光されて、試料3に照射される。そして、試料3が生成するプラズマ5から放射されるプラズマ光を、対物レンズ4に入射させて、集光レンズ24により集光させ、分光器8により測定を行う。なお、リフレクタ23は、分光器8によるプラズマ光の測定に影響を及ぼさない小さな形状のリフレクタである。このように、レーザ光の光路Lと同軸方向に放射されるプラズマ光を測定することで、対物レンズ4と集光レンズ24とリフレクタ23とを同軸上に配設できるため、装置を小型化することができる。
【0125】
また、測定装置31では、XYステージ21を移動させることにより、試料3の複数の箇所にレーザ光を集光照射し、各測定対象成分の含有率の測定を行っているが、対物レンズ4やレーザ発振器2を移動させ、試料3の複数の箇所にレーザ光を集光照射しても良い。
【0126】
また、測定装置31では、試料3におけるある一平面の測定を行っているが、XYZステージを設けたり、対物レンズ4や、レーザ発振器2をX軸方向、Y軸方向、Z軸方向にそれぞれ移動可能に構成して、立体的に測定を行っても良い。
【0127】
また、測定装置31では、試料3におけるある一平面の測定を複数箇所で行い、各測定対象成分の含有率の分布を表示しているが、その測定した複数箇所の各測定対象成分の含有率の平均値を算出して、測定結果として表示装置16に表示しても良い。使用者は、表示装置16を視認することにより、試料3におけるある一平面の複数箇所の各測定対象成分の含有率の平均値を知ることができる。
【0128】
また、測定装置1および測定装置31において、集光レンズ6の焦点を、プライマリプルーム5aから外れた部位に合わせているが、集光レンズ6の焦点を、プライマリプルーム5a(または、レーザ光の照射位置)のある部位に固定しておくように構成しても良い。この場合、好適には、まずプラズマ5から放射されたプラズマ光が集光レンズ6により集光される焦点に、光ファイバーの入射端を設置し、光ファイバーの出射端を分光器8に接続する。そして、光ファイバーの入射端の位置を可変に構成し、その入射端を焦点位置からずらすことで、光ファイバーの入射端に入射されるプラズマ光の像を変化させる。即ち、光ファイバーの入射端には、プライマリプルーム5aに合わせた焦点から外れた部位のプラズマ光が入射されるので、分光器8において、プライマリプルーム5aから外れた部位のプラズマ光を測定することができる。
【0129】
また、図16は、測定装置1および測定装置31における第2変形例の概略構成を示す図である。図16に示すように、集光レンズ6の焦点を、プライマリプルーム5aを外したある部位に固定し、その部位を基準として、集光レンズ6と分光器8とを同心円上に移動させ、レーザ光の光路Lに対して任意の角度(例えば、0度から90度の範囲)でプラズマ5から照射されるプラズマ光を受光するようにしても良い。
【0130】
また、測定装置1および測定装置31において、試料3の同一箇所の測定を複数回行い、各測定対象成分の含有率を求め、その平均値を算出して、測定結果として表示装置16に表示しても良い。使用者は、表示装置16を視認することにより、同一箇所の深さ方向の各測定対象成分の平均値を知ることができる。
【0131】
また、測定装置1および測定装置31において、閾値メモリ14bに記憶される精度閾値を5%としているが、試料3の各測定対象成分の含有率や、測定環境などに応じて、使用者などにより任意に変更できるようにしても良い。
【0132】
また、測定装置1および測定装置31は、試料3として、電気製品または自動車の部品を検査するものとして説明したが、試料3の種類はこれに限られるものではなく、例えば、その他装置の部品、土壌、水質、原材料、素材を検査しても良い。
【0133】
また、測定装置1および測定装置31は、測定対象成分として、鉛、水銀、カドミウム、クロム、臭素の含有率を測定するものとして説明したが、これ以外の測定対象成分について測定するものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の第1実施形態である測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態におけるコンピュータの概略構成を示すブロック図である。
【図3】(a)は、はんだを測定した場合に、コンピュータ10により作成される平均スペクトルの内容の一例を示すグラフであり、(b)は、予め実験的に求められた鉛(Pb)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データの内容の一例を示すグラフである。
【図4】(a)は、閾値メモリの内容の一例を示す概略図であり、(b)は、消耗量メモリの内容の一例を示す概略図である。
【図5】(a)は、はんだから放射されるプラズマ光の発光強度と、時間との関係の一例を示すグラフであり、(b)は、遅延時間Tdを設けずに、(c)は、遅延時間Tdを0.4μ秒設けて、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度を測定した測定結果の一例を示すグラフである。
【図6】(a)は、はんだにレーザ光を集光照射した場合の、レーザ光のレーザエネルギー量と、スペクトル線強度との関係の一例を示すグラフであり、(b)は、レーザエネルギー90mJとして、(c)は、レーザエネルギー30mJとして、はんだにレーザ光を集光照射し、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度を測定した測定結果の一例を示すグラフである。
【図7】コンピュータで実行される成分測定処理を示すフローチャートである。
【図8】i回目測定結果取得処理を示すフローチャートである。
【図9】(a)は、大気中およびアルゴンガス中において、はんだを測定した場合の鉛(Pb)のスペクトル線強度と含有率との関係の一例を示すグラフであり、(b)は、試料3に繰り返し集光照射されたレーザ光の照射回数と、そのレーザ光の集光照射により得られた各測定対象成分のスペクトル線強度との関係の一例を示すグラフである。
【図10】コンピュータで実行される厚さ測定処理を示すフローチャートである。
【図11】本発明の第2実施形態である測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の第2実施形態におけるコンピュータの概略構成を示すブロック図である。
【図13】コンピュータで実行されるXY位置成分測定処理を示すフローチャートである。
【図14】(a)は、試料における鉛(Pb)の含有率の分布図の一例であり、(b)は、図14(a)のA−A’断面における、深さ方向の鉛(Pb)の含有率の分布図の一例である。
【図15】測定装置の第1変形例の概略構成を示すブロック図である。
【図16】測定装置の第2変形例の概略構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0135】
1、31 測定装置
2 レーザ発振器(レーザ光出力手段)
3 試料
4 対物レンズ(光学系)
5 プラズマ
5a プライマリプルーム
6 集光レンズ(受光手段)
8 分光器(測定手段)
9 タイミング制御手段
14c 消耗量メモリ(第1記憶手段)
14d 測定結果メモリ(第2記憶手段)
21 XYステージ(照射位置移動手段)
S10、S42、S66 測定結果出力手段
S28、S33、S36 含有率測定値取得手段
S31、S39 計数手段
S37 判定手段
S40、S41 厚算出手段
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ光を試料に照射し、試料に含まれる成分をプラズマ化させて分析することにより、試料の成分を測定する測定装置に関し、特に、低コスト、迅速、且つ高精度に試料を測定可能な測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、産業廃棄物による環境汚染が深刻化してきており、産業界に対し、有害物質の使用を規制する要望が高まってきている。例えば、ヨーロッパでは、RoHS指令により、電気・電子機器における特定有害物質(鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭化ビフェニール、ポリ臭化ジフェニルエーテル)の使用が制限され、ELV指令により、自動車使用部品中の有害物質(カドミウム、鉛、水銀、六価クロム)の使用が制限される。
【0003】
このような社会情勢を受けて、電化製品等の製造現場では、部品内に含まれる有害物質の測定、検査が実施されている。有害物質の有無の測定方法としては、例えば、誘導結合プラズマ分析法、ガスクロマトグラフ質量分析法、蛍光X線分析法など様々な方法が知られている。特に、蛍光X線分析法は、試料を破壊せずに試料内の有害物質含有率を測定できるので、広く利用されている。
【特許文献1】特開2003−139750号公報
【特許文献2】特開2006−119108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の測定法では測定に時間がかかり、またコストが高いという問題点があった。特に、上述した従来の測定方法のうち、誘導結合プラズマ分析法、ガスクロマトグラフ法などは、測定対象物を破壊しなければならないので、コストおよび時間を要する。また、蛍光X線分析法は、測定対象物の破壊を要しないが、X線を用いるため、測定対象物を管理区域まで移動させなければならず、また管理者を必要とするため、やはりコストおよび時間を要する。そのため、例えば工場から出荷される全製品、または、工場に入荷する全部品について全数測定することは事実上不可能であった。
【0005】
さらに、蛍光X線分析法は、測定対象がX線の照射領域より小さい場合や、厚みが薄い場合には、測定精度が低くなるという問題点がある。その結果、蛍光X線分析法では、薄膜(めっき)、微少部分の検査ができないという不都合があった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、低コスト、迅速、且つ高精度に試料を測定可能な測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の測定装置は、レーザ光を試料に照射し、試料に含まれる成分をプラズマ化させて分析することにより、試料の成分を測定するものであって、レーザ光を出力するレーザ光出力手段と、そのレーザ光出力手段から出力されたレーザ光を試料に集光照射する光学系と、前記試料が前記レーザ光を受けて生成するプラズマから放出されるプラズマ光を分光し、プラズマ光のスペクトルを測定する測定手段と、その測定手段により測定されたスペクトルと、測定対象成分の特徴波長とに基づいて、前記試料における測定対象成分の含有率に相当する含有率測定値を取得する含有率測定値取得手段と、その含有率測定値取得手段により取得された含有率測定値に基づく測定結果を出力する測定結果出力手段とを備えている。
【0008】
請求項2記載の測定装置は、請求項1記載の測定装置において、前記測定手段によるプラズマ光の測定時間帯を制御するタイミング制御手段を備え、そのタイミング制御手段は、前記レーザ光出力手段によるレーザ光出力開始から所定時間経過後に、前記測定手段によるプラズマ光の測定を開始させるものである。
【0009】
請求項3記載の測定装置は、請求項1または2記載の測定装置において、前記測定手段は、前記光学系を通過して前記試料に入射するレーザ光の光路に対して、斜め方向または垂直方向に放射されるプラズマ光を分光し、プラズマ光のスペクトルを測定する。
【0010】
請求項4記載の測定装置は、請求項1から3のいずれかに記載の測定装置において、前記レーザ光出力手段から出力されるレーザ光の照射回数を計数する計数手段と、前記レーザ光の照射回数と、そのレーザ光の照射により前記試料に形成される穴の深さとの関係を記憶する第1記憶手段と、前記含有率測定値取得手段により取得された含有率測定値を記憶する第2記憶手段と、その第2記憶手段に記憶される含有率測定値と、前記含有率測定値取得手段により新たに取得された含有率測定値との差分が、所定値以上であるかを判定する判定手段と、その判定手段により前記差分が所定値以上であると判定された場合に、前記計数手段により計数された照射回数および前記第1記憶手段に記憶される前記レーザ光の照射回数と、そのレーザ光の照射により前記試料に形成される穴の深さとの関係に基づいて、前記試料における測定対象成分の厚さを算出する厚算出手段とを備え、前記測定結果出力手段は、前記厚算出手段により算出された測定対象成分の厚さを測定結果として出力する。
【0011】
請求項5記載の測定装置は、請求項1から4のいずれかに記載の測定装置において、前記試料に集光照射するレーザ光の照射位置を、前記試料に対し相対的に移動させる照射位置移動手段を備え、前記測定結果出力手段は、前記照射位置移動手段により移動させるレーザ光の照射位置と、その照射位置においてレーザ光を照射して取得する含有率測定値とに基づいた測定結果を出力する。
【0012】
請求項6記載の測定装置は、請求項5記載の測定装置において、前記測定結果出力手段は、前記試料において前記レーザ光を複数の前記照射位置に照射して取得する各含有率測定値の平均値を測定結果として出力する。
【0013】
請求項7記載の測定装置は、請求項1から5のいずれかに記載の測定装置において、前記測定結果出力手段は、前記試料において前記レーザ光の照射により形成されたクレータにさらにレーザ光を照射し、その複数回の照射により取得された複数の各含有率測定値の平均値を測定結果として出力する。
【0014】
請求項8記載の測定装置は、請求項7記載の測定装置において、前記レーザ光出力手段から出力されるレーザ光の照射回数を計数する計数手段を備え、前記測定結果出力手段は、前記計数手段により計数される照射回数が所定回数以上である場合に取得された各含有率測定値の平均値を測定結果として出力する。
【0015】
請求項9記載の測定装置は、請求項1から8のいずれかに記載の測定装置において、前記試料が前記レーザ光の照射を受けて生成するプラズマの中心部であるプライマリプルームから外れた部位に焦点を合わせて、前記プラズマから放射されるプラズマ光を受光する受光手段を備え、前記測定手段は、前記受光手段により受光するプラズマ光を分光し、プラズマ光のスペクトルを測定する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の測定装置によれば、レーザ光出力手段により、レーザ光が出力され、光学系により、レーザ光出力手段から出力されたレーザ光が試料に集光照射される。測定手段により、試料がレーザ光を受けて生成するプラズマから放出されるプラズマ光が分光され、プラズマ光のスペクトルが測定される。含有率測定値取得手段によって、測定手段により測定されたスペクトルと、測定対象成分の特徴波長とに基づいて、試料における測定対象成分の含有率に相当する含有率測定値が取得される。測定結果出力手段によって、含有率測定値取得手段により取得された含有率測定値に基づく測定結果が出力される。よって、従来の蛍光X線分析法と比較して、管理者や管理区域などを要さず、低コスト、且つ、迅速に試料を測定できるという効果がある。さらに、レーザ光は微少部分に照射可能であると共に、試料の厚みが薄い場合であっても照射可能であり、そのスペクトルの測定が可能であるため、例えば、めっき、基板上はんだ接合部などの薄膜、微少な特定領域であっても高精度に測定することができるという効果がある。
【0017】
請求項2記載の測定装置によれば、請求項1記載の測定装置の奏する効果に加え、タイミング制御手段により、測定手段によるプラズマ光の測定時間帯が制御される。タイミング制御手段によって、レーザ光出力手段によるレーザ光出力開始から所定時間経過後に、測定手段によるプラズマ光の測定が開始させられるので、プラズマ光の経時変化に応じた適切なタイミングでプラズマ光を測定することができ、高精度に測定することができるという効果がある。
【0018】
請求項3記載の測定装置によれば、請求項1または2記載の測定装置の奏する効果に加え、測定手段により、光学系を通過して試料に入射するレーザ光の光路に対して、斜め方向または垂直方向に放射されるプラズマ光が分光され、プラズマ光のスペクトルが測定される。試料に照射されるレーザ光が試料において反射する場合、その多くが試料に入射するレーザ光の光路と同軸方向に反射するので、その光路に対して斜め方向または垂直方向に放射されるプラズマ光を測定することにより、試料において反射するレーザ光が測定手段により測定されることを抑制でき、高精度に測定することができるという効果がある。
【0019】
請求項4記載の測定装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の測定装置の奏する効果に加え、計数手段により、レーザ光出力手段から出力されるレーザ光の照射回数が計数される。レーザ光の照射回数と、そのレーザ光の照射により試料に形成される穴の深さとの関係が、第1記憶手段に記憶され、含有率測定値取得手段により取得された含有率測定値が、第2記憶手段に記憶される。判定手段によって、第2記憶手段に記憶される含有率測定値と、含有率測定値取得手段により新たに取得された含有率測定値との差分が、所定値以上であるかが判定される。判定手段により差分が所定値以上であると判定された場合に、厚算出手段によって、計数手段により計数された照射回数および第1記憶手段に記憶されるレーザ光の照射回数と、そのレーザ光の照射により試料に形成される穴の深さとの関係に基づいて、試料における測定対象成分の厚さが算出される。よって、試料の厚さを測定することができるという効果がある。
【0020】
請求項5記載の測定装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の測定装置の奏する効果に加え、照射位置移動手段により、試料に集光照射するレーザ光の照射位置が、試料に対し相対的に移動させられるので、簡単に、試料における複数箇所の含有率測定値を測定することができるという効果がある。また、測定結果出力手段によって、照射位置移動手段により移動させられるレーザ光の照射位置と、その照射位置においてレーザ光を照射して取得する含有率測定値とに基づいた測定結果が出力されるので、利用者は、試料における含有率測定値の分布を知ることができるという効果がある。
【0021】
請求項6記載の測定装置によれば、請求項5記載の測定装置の奏する効果に加え、測定結果出力手段により、試料においてレーザ光が複数の照射位置に照射され取得される各含有率測定値の平均値が測定結果として出力されるので、利用者は、試料の複数箇所で測定された各含有率測定値の平均値を知ることができるという効果がある。
【0022】
請求項7記載の測定装置によれば、請求項1から5のいずれかに記載の測定装置の奏する効果に加え、測定結果出力手段により、試料においてレーザ光の照射により形成されたクレータにさらにレーザ光を照射し、その複数回の照射により取得された複数の各含有率測定値の平均値が測定結果として出力されるので、利用者は、試料の同一箇所の深さ方向の各含有率測定値の平均値を知ることができるという効果がある。
【0023】
請求項8記載の測定装置によれば、請求項7記載の測定装置の奏する効果に加え、計数手段により、レーザ光出力手段から出力されるレーザ光の照射回数が計数される。測定結果出力手段によって、計数手段により計数される照射回数が所定回数以上である場合に取得された各含有率測定値の平均値が測定結果として出力される。よって、試料表面近傍の性質が酸化などにより変化していても、所定回数のレーザの照射により、その性質の変化した試料が削られるので、性質の変化した試料の含有率測定値が平均値に含まれることが抑制され、利用者は、より高精度に試料の含有率測定値の平均値を知ることができるという効果がある。
【0024】
請求項9記載の測定装置によれば、請求項1から8のいずれかに記載の測定装置の奏する効果に加え、受光手段によって、試料がレーザ光の照射を受けて生成するプラズマの中心部であるプライマリプルームから外れた部位に焦点が合わされ、プラズマから放射されるプラズマ光が受光される。測定手段によって、受光手段により受光するプラズマ光が分光され、プラズマ光のスペクトルが測定される。プライマリプルームに焦点を合わせてプラズマ光を受光するよりも、プライマリプルームから外れた部位に焦点を合わせてプラズマ光を受光することで、測定手段により測定される測定ノイズを抑制することができるので、高精度に測定することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態における測定装置1の概略構成を示すブロック図である。
【0026】
測定装置1は、レーザマイクロプローブ発光分光分析法(LMA:Laser Microprobe Analyzer)を利用した発光分析装置であり、試料3内に含まれる複数種類の有害物質(以下、測定対象成分と称する)の含有率を自動的に測定できる測定装置である。なお、測定装置1、および、後述の測定装置31(図11参照)は、試料3として、電気製品または自動車の部品などを測定するものであり、測定対象成分として、鉛(Pb)、水銀(Hg)、カドミウム(Cd)、クロム(Cr)、臭素(Br)の含有率を測定するものとして説明する。
【0027】
図1に示すように、測定装置1は、レーザ光を出力するレーザ発振器2と、レーザ発振器2から出力されたレーザ光を試料3に集光照射する対物レンズ4と、レーザ光を受けた試料3が生成したプラズマ5から放射されるプラズマ光を集光する集光レンズ6と、集光レンズ6により集光されたプラズマ光を測定し、そのスペクトルをコンピュータ10へ出力する分光器8と、レーザ発振器2がレーザ光を出力するタイミング及び分光器8がプラズマ光を測定するタイミングを制御するゲートコントローラ9と、分光器8から入力されるスペクトルに基づいて、試料3の測定結果を算出し表示するコンピュータ10とを有している。
【0028】
レーザ発振器2は、後述のゲートコントローラ9からレーザ制御信号が入力された場合に、例えば、レーザエネルギー30mJでパルス幅10nsのYAGレーザ光を出力する。対物レンズ4は、レーザ発振器2から出力されるレーザ光を集光して、試料3に照射するためのレンズであり、試料3においてレーザ光の照射径が直径1mm程度となるように構成されている。
【0029】
試料3が、対物レンズ4により集光されたレーザ光(集光照射)を受けると、試料3の一部が蒸発励起しプラズマ5が生成される。その生成されるプラズマ5の中心部のことを、特に、プライマリプルーム5aと呼ぶ。プラズマ5は、レーザ光の照射終了と共に再結合が始まり、数μ秒から数十μ秒の間は試料3の構成元素が励起状態の原子となり、この励起状態の原子が下準位に遷移するとき、原子数に比例したプラズマ光を放射する。即ち、それぞれの原子は、固有の波長のプラズマ光を放射するので、このプラズマ5から放射されるプラズマ光の所定の波長における強度を測定することによって、目的とする測定対象成分の含有率を高い精度で得ることができる。
【0030】
集光レンズ6は、試料3が生成するプラズマ5のプラズマ光を集光させて、分光器8に入力するためのレンズである。集光レンズ6は、プライマリプルーム5aから外れた部位に焦点が合わされている。プライマリプルーム5aに焦点を合わせてプラズマ光を集光するよりも、プライマリプルーム5aから外れた部位に焦点を合わせてプラズマ光を集光することで、分光器8により測定される測定ノイズを抑制することができるので、高精度に測定することができる。なお、光路Lに対して斜め方向に放射されるプラズマ光を測定する場合、試料3の形状(例えば、凸凹など)の影響を受けにくく、試料3の形状にかかわらず、高精度に測定することができる。このようにプラズマ5における特定の位置に焦点を合わせ、プラズマ光の測定を行うことを、空間分解測光法と称することとする。
【0031】
また、集光レンズ6は、対物レンズ4を通過して試料3に入射するレーザ光の光路Lに対して、斜め方向または垂直方向に放射されるプラズマ光を集光させて、分光器8に入力している。試料3に照射されるレーザ光が試料3において反射する場合、その多くが試料3に入射するレーザ光の光路Lと同軸方向(対物レンズ4に向かって)に反射するので、その光路Lに対して斜め方向または垂直方向に放射されるプラズマ光を測定することにより、試料3において反射するレーザ光が分光器8により測定されることを抑制でき、高精度に測定することができる。
【0032】
分光器8は、後述のゲートコントローラ9から測定制御信号が入力された場合に、集光レンズ6により集光されるプラズマ光を測定し、測定したプラズマ光のスペクトルを生成するものである(図8のS27の処理)。スペクトルとは、図3(a)に示すように、各波長毎のスペクトル線強度を、波長順に並べたものである。分光器8は、生成したスペクトルをコンピュータ10へ出力する。コンピュータ10では、分光器8より入力されたスペクトルのスペクトル線強度の値を直接演算に使用するのではなく、測定により生じたオフセット成分を取り除いてから演算に使用している。一般的に測定器から出力される最小値は、ゼロが基準となるように設定されているが、測定条件や測定器の経時変化などにより、その基準が変動する。その基準(ゼロ)の変動量をオフセット成分と称する。本実施例では、平均スペクトル(図8参照)の値から、オフセット成分を取り除いた値を、各測定対象成分のスペクトル線強度としている。つまり、図3(a)に示す平均スペクトルの鉛(Pb)のスペクトル線強度は、3326[a.u.]とされる。これ以後、スペクトル線強度とは、オフセット成分を除いた値を用いているものとして説明する。
【0033】
ゲートコントローラ9は、後述のコンピュータ10からトリガ信号が入力されると、レーザ光の出力開始を指令するレーザ制御信号をレーザ発振器2へ出力し、また、プラズマ光の測定の測定時間帯(測定開始タイミングおよび測定時間幅)を規定する測定制御信号を分光器8へ出力する。ゲートコントローラ9は、レーザ光の照射とプラズマ光の測定との同期を取るためのディレイ回路9aを有しており、コンピュータ10からのトリガ信号の入力を契機としてレーザ発振器2へレーザ制御信号を出力するが、ディレイ回路9aにより、レーザ制御信号に所定時間の遅れをもって、分光器8へ測定制御信号を出力する。したがって、レーザ光の照射によって生じ、そして経時変化するプラズマ光に対して、その変化に適切に設定された遅れ時間をもって、分光器8にプラズマ光の測定を開始させることができる(図5参照)。
【0034】
次に、図2を参照して、コンピュータ10と、コンピュータ10に接続される各種機器とについて説明する。図2は、コンピュータ10の概略構成を示すブロック図である。図2に示すように、コンピュータ10は、CPU11と、ROM12と、RAM13と、HDD14と、入力装置15と、表示装置16と、分光器8から出力されるスペクトルを入力するためのインターフェース17(I/F17)と、ゲートコントローラ9にトリガ信号を出力するためのインターフェース18(I/F18)とを有しており、これらは、バスライン19を介してお互いに接続されている。
【0035】
CPU11は、ROM12やRAM13に記憶される固定値やプログラムに従って、バスライン19に接続された各部を制御するものである。ROM12は、CPU11により実行される制御プログラムなどが格納された書換不能なメモリである。RAM13は、書換可能な揮発性のメモリであり、CPU11により実行される各種処理に必要なデータやプログラムを一時的に記憶するためのメモリである。分光器8から出力され、コンピュータ10へ入力されるスペクトルは、一時的に、このRAM13に記憶される(図8のS24の処理)。
【0036】
HDD14は、ハードディスクであり、書換可能な不揮発性のメモリである。このHDD14に記憶されたデータは、コンピュータ10の電源オフ後も保持される。後述する図7、図8、図10、図13のフローチャートに示すプログラムなどは、このHDD14に記憶されている。
【0037】
HDD14には、分光器8により測定されたスペクトルのスペクトル線強度から、各測定対象成分の含有率を取得するための検量データが記憶されている検量データメモリ14aと、測定結果として算出された各測定対象成分の含有率の精度を評価するための閾値が記憶されている閾値メモリ14bと、レーザ光の集光照射によりプラズマ化して消耗する試料3の量(深さ)が記憶されている消耗量メモリ14cと、測定結果として算出された各測定対象成分の含有率、または、測定により消耗した試料の厚さを記憶するための測定結果メモリ14dとが設けられている。
【0038】
検量データメモリ14aは、分光器8により測定されたスペクトルのスペクトル線強度から、各測定対象成分の含有率を取得するための検量データが記憶されているメモリである。検量データメモリ14aには、鉛検量データ14a1と、水銀検量データ14a2と、カドミウム検量データ14a3と、クロム検量データ14a4と、臭素検量データ14a5とが設けられている。鉛検量データ14a1には、予め実験的に求められた鉛(Pb)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データ(図3(b)参照)が記憶されている。同様に、水銀検量データ14a2には、予め実験的に求められた水銀(Hg)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データが、カドミウム検量データ14a3には、予め実験的に求められたカドミウム(Cd)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データが、クロム検量データ14a4には、予め実験的に求められたクロム(Cr)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データが、臭素検量データ14a5には、予め実験的に求められた臭素(Br)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データが、それぞれ記憶されている。
【0039】
ここで、図3を参照して、検量データメモリ14aに記憶されているそれぞれの検量データについて説明する。図3(a)は、はんだを測定した場合に、コンピュータ10により作成される平均スペクトルの内容の一例を示すグラフであり、X軸方向に波長が、Y軸方向にそれぞれの波長におけるスペクトル線強度が記されている。図3(b)は、予め実験的に求められた鉛(Pb)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データの内容の一例を示すグラフであり、X軸方向に含有率が、Y軸方向にスペクトル線強度が記されている。
【0040】
分光器8は、試料3が生成するプラズマ5のプラズマ光を測定すると、測定したプラズマ光のスペクトルを生成しコンピュータ10へ出力する。コンピュータ10は、分光器8より入力された複数のスペクトルに基づいて、図3(a)に示す平均スペクトルを作成する(図8のS27の処理)。原子から放射されるプラズマ光の波長は、各原子毎に固有であり、試料3が生成したプラズマ5から放射されるプラズマ光には、試料3に含まれる各原子からそれぞれ放射されたプラズマ光が含まれている。測定対象成分の各原子が放射する固有の波長のプラズマ光が、試料3が生成したプラズマ5から放射されたかを調べることで、試料3に測定対象成分が含まれているかを判別することができる。
【0041】
図3(b)は、予め実験的に求められた鉛(Pb)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データの一例を示すグラフである。本実施形態では、予め含有率の分かっている測定対象成分のスペクトル線強度を実験的に求め、図3(b)に示すような、測定対象成分のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データを作成している。各原子が放射するスペクトル線強度は、測定する試料3に含まれる各原子の含有率と比例関係にあるので、試料3から放射されるスペクトル線強度と、検量線データとを比較することにより、コンピュータ10は、試料3の測定対象成分の含有率を取得することができる(図8のS28の処理)。検量データメモリ14aの各検量データ14a1〜14a5には、各測定対象成分の検量データがそれぞれ記憶されている。
【0042】
ここで、図2の説明に戻る。閾値メモリ14bは、測定結果として算出された各測定対象成分の含有率の精度を評価するための閾値が記憶されているメモリである(図4(a)参照)。試料3に含まれる各測定対象成分の含有率を求める場合、本実施形態では、複数回(例えば、10回)測定した各測定対象成分の含有率の平均値を測定結果としている(図7のS7の処理)。複数回測定した各含有率の平均値を測定結果とすることで、測定誤差の影響を少なくすることができる。
【0043】
また、複数回測定した含有率の標準偏差を算出し、その標準偏差を、標準偏差の算出に用いた含有率の平均値で除算した値を精度判定値としている。そして、精度判定値が所定値を上回る場合は、測定の精度が低いとして、測定結果を不明としている(図7のS6の処理)。試料の種類(金属であるか、樹脂であるかなど)、測定する測定対象成分の種類、測定する測定対象成分以外の成分の影響、レーザ発振器2の精度、分光器8の精度などにより、測定結果の精度が得られない場合は、測定結果を不明とすることで、測定の信頼性を高めることができる。
【0044】
閾値メモリ14bには、測定結果を評価するために用いる精度判定値の閾値が、精度閾値として記憶されている。例えば、精度閾値を5%とした場合は、測定により求められたある測定対象成分の含有率の精度判定値が5%より大きいと、その測定対象成分の測定結果を不明とする。
【0045】
消費量メモリ14cは、レーザ光の集光照射によりプラズマ化して消耗する試料3の量(深さ)が記憶されているメモリである。試料3はレーザ光の集光照射を受けると、その一部が蒸発励起しプラズマ5を生成すると共に、その試料3におけるレーザ光の集光照射を受けた部分には、クレータ状の穴が形成される。消費量メモリ14cには、図4(b)に示すように、1回のレーザ光の集光照射により形成されるクレータ状の穴の深さである消耗量が記憶されている。この消耗量は、予め実験的に求められた値である。例えば、測定装置1(または後述の測定装置31)において、はんだに1回レーザ光を集光照射すると、50nmの深さのクレータが形成される。上述したように、試料3におけるレーザ光の照射径を直径1mm程度としたことにより、このように安定した深さのクレータを形成することができる。
【0046】
測定結果メモリ14dは、測定結果として算出された各測定対象成分の含有率、または、測定により消耗した試料の厚さを記憶するためのメモリである。測定結果メモリ14dには、鉛含有率測定結果14d1と、水銀含有率測定結果14d2と、カドミウム含有率測定結果14d3と、クロム含有率測定結果14d4と、臭素含有率測定結果14d5と、厚さ測定結果14d6とが設けられている。
【0047】
鉛含有率測定結果14d1は、試料3について測定した測定結果である各測定対象成分の含有率のうち、鉛の含有率を記憶するためのメモリである。同様に、水銀含有率測定結果14d2には、水銀の含有率が、カドミウム含有率測定結果14d3には、カドミウムの含有率が、クロム含有率測定結果14d4には、クロムの含有率が、臭素含有率測定結果14d5には、臭素の含有率が、それぞれ記憶される。また、厚さ測定結果14d6には、厚さ測定処理(図10参照)が行われた場合に算出される消耗した試料3の厚さが記憶される。
【0048】
入力装置15は、コンピュータ10を管理したり、ゲートコントローラ9へトリガ信号を出力する命令(コマンド)などを入力する場合に使用するものであり、例えば、キーボードやマウスなどにより構成されている。表示装置16は、コンピュータ10で実行される処理内容や、分光器8から入力されたスペクトルなどを視覚的に確認するために、文字や画像などを表示するものであり、特に、各測定対象成分の含有率についての測定結果、および、厚さ測定処理(図10参照)を行った場合の試料3の厚さが表示される。表示装置16は、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイなどにより構成されている。
【0049】
I/F17は、コンピュータ10と分光器8とを接続し、分光器8から出力されるスペクトルを入力するためのものである。I/F18は、コンピュータ10とゲートコントローラ9とを接続するものである。入力装置15からトリガ信号を出力する命令(コマンド)が入力されると、コンピュータ10は、I/F18を介して、所定のタイミングでゲートコントローラ9へトリガ信号を入力する。ゲートコントローラ9は、トリガ信号が入力されると、レーザ制御信号および測定制御信号を出力するので、試料3の測定が開始される。
【0050】
次に、図5を参照して、分光器8により測定するプラズマ光の測定時間帯(測定開始タイミングおよび測定時間幅)について説明する。ここでは、試料3として、はんだを用いているものとして説明を行う。図5(a)は、はんだから放射されるプラズマ光の発光強度と、時間との関係の一例を示すグラフであり、はんだにレーザ光が集光照射され、プラズマ5からプラズマ光が放射された瞬間を基準として、X軸方向に時間が、Y軸方向にプラズマ光の発光強度が記されている。
【0051】
図5(b)は、後述する遅延時間Tdを設けずに、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度を測定した測定結果の一例を示すグラフである。図5(c)は、後述する遅延時間Tdを0.4μ秒設け、図5(b)と同じはんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度を測定した測定結果の一例を示すグラフである。図5(b)および図5(c)は、X軸方向に波長が、Y軸方向にそれぞれの波長におけるスペクトル線強度が記されている。
【0052】
プラズマ5から放射されるプラズマ光の発光強度は、図5(a)に示すように、プラズマ5からプラズマ光が放射された瞬間が一番強く、その後、急な勾配で下降する。そして、その発光強度は、下降の途中で、上昇と下降とを繰り返しながら、緩やかに減少する。本実施形態では、(プラズマ5からプラズマ光が放射され)プラズマ光の発光強度が急な勾配で下降し、上昇に転じる瞬間を測定の開始時間としている。そして、発光強度が下降し、次の上昇に転じる前までの時間である測定時間幅Tgを測定時間としている。つまり、試料3にレーザ光の集光照射を行ってから、遅延時間Tdを設けて、測定時間幅Tgの測定を行うのである。このように特定の時間帯にプラズマ光の測定を行うことを、時間分解測光法と称することとする。この時間分解測光法を用いることによって、測定対象成分のスペクトル線強度を、より確実に測定することができる。
【0053】
例えば、遅延時間Tdを0μ秒とした場合は、図5(b)に示すように、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度と、鉛(Pb)周辺の他の波長のスペクトル線強度とが近似するため、試料3に鉛(Pb)が含まれているのか判別が困難である。しかしながら、遅延時間Td(一例として、0.4μ秒)を設けることで、図5(c)に示すように、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度と、鉛(Pb)周辺の他の波長のスペクトル線強度との差が明確となり、試料3に鉛(Pb)が含まれていると確実に判別することができる。このように、遅延時間Tdを設けることによって、測定対象成分のスペクトル線強度を、より確実に測定することができ、高精度に測定することができる。
【0054】
次に、図6を参照して、レーザ発振器2から出力するレーザ光のレーザエネルギー量について説明する。ここでは、試料3として、はんだを用いているものとして説明を行う。図6(a)は、はんだにレーザ光を集光照射した場合の、レーザ光のレーザエネルギー量と、スペクトル線強度との関係の一例を示すグラフであり、X軸方向にレーザエネルギーの量が、Y軸方向にスペクトル線強度が記されている。
【0055】
図6(b)は、レーザエネルギー90mJであるレーザ光をはんだに集光照射し、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度を測定した測定結果の一例を示すグラフである。図6(c)は、レーザエネルギー30mJであるレーザ光を、図6(b)と同じはんだに集光照射し、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度を測定した測定結果の一例を示すグラフである。図6(b)および図6(c)は、X軸方向に波長が、Y軸方向にそれぞれの波長におけるスペクトル線強度が記されている。なお、スペクトル光の測定には、上述した時間分解測光法(遅延時間Tdを設け、測定時間幅Tgの測定を行う)を用いている。
【0056】
図6(a)は、はんだに、レーザエネルギー10mJから90mJまで、10mJずつ増加させながらレーザ光を集光照射した場合の、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度をそれぞれ測定した測定結果の一例を示すグラフである。
【0057】
図6(a)に示すように、はんだに集光照射するレーザエネルギーを10mJから20mJに増加させることにより、分光器8により測定されるスペクトル線強度が上昇する。同様にレーザエネルギーを10mJずつ増加させると、それに伴ってスペクトル線強度も上昇する。しかし、レーザエネルギーが40mJ以上になると、レーザエネルギーを増加させるに伴い、測定されるスペクトル線強度が減少する。即ち、はんだに集光照射するレーザエネルギー量を単に増加させるよりも、レーザエネルギー量を適正値に制御することによって、より強いスペクトル線強度を測定することができる。
【0058】
例えば、図6(b)に示すように、はんだに、レーザエネルギー90mJのレーザ光を集光照射すると、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度と、鉛(Pb)周辺の他の波長のスペクトル線強度とが近似するため、試料3に鉛(Pb)が含まれているのか判別が困難である。しかしながら、レーザエネルギーを30mJのレーザ光を集光照射すると、図6(c)に示すように、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度と、鉛(Pb)周辺の他の波長のスペクトル線強度との差が明確となり、試料3に鉛(Pb)が含まれていると確実に判別することができる。本実施形態は、試料3に集光照射するレーザ光のレーザエネルギー量を30mJに制御しているので、測定対象成分のスペクトル線強度を、より確実に測定することができ、高精度に測定することができる。また、試料3に集光照射するレーザエネルギー量を適正値とすることで、レーザ発振器2で消費される消費電力を削減でき、また、レーザ発振器2を小型化することができる。
【0059】
次に、図7のフローチャートを参照して、上記のように構成されるコンピュータ10において実行される、成分測定処理について説明する。図7は、コンピュータ10で実行される成分測定処理を示すフローチャートである。この成分測定処理は、入力装置15から成分測定開始の指示が入力されると実行される処理であり、試料3に含まれる各測定対象成分の含有率を自動的に測定する処理である。
【0060】
成分測定処理では、まず、変数iを「1」に初期化する(S1)。次に、第i回目の測定を行い、その測定の結果として得られる各測定対象成分毎の含有率を、測定結果メモリ14d(図2参照)の各含有率測定結果14d1〜14d5に記憶するi回目測定結果取得処理を実行する(S2)。
【0061】
ここで、図8を参照して、i回目測定結果取得処理(S2)について説明する。図8は、i回目測定結果取得処理(S2)を示すフローチャートである。このi回目測定結果取得処理(S2)は、ゲートコントローラ9によって、レーザ発振器2のレーザ光の照射と、分光器8によるプラズマ光の測定との同期を取り、分光器8により測定されたプラズマ光のスペクトルから、各測定対象成分の含有率をそれぞれ取得するための処理である。
【0062】
i回目測定結果取得処理(S2)では、まず、変数jを「0」に初期化する(S21)。次に、ゲートコントローラ9にトリガ信号を入力して、試料3にレーザ光を集光照射する(S22)。そして、変数jが「5」以上であるかを判定し(S23)、変数jが「5」以上であれば(S23:Yes)、分光器8より入力されるスペクトルをRAM13に書き込む(S24)。一方、変数jが「5」未満である場合は(S23:No)、試料3の表面近傍の性質が酸化などにより変化している可能性があるため、スペクトルの測定を行わず、S24の処理をスキップし、S25の処理に移行する。
【0063】
所定回数(一例として、5回)のレーザ光の集光照射が行われた後であれば、その性質の変化した試料3が、所定回数分消耗している(削られている)ので、性質の変化した試料3の影響が抑制されたスペクトルを測定することができ、より高精度に試料3のスペクトルを測定することができる。
【0064】
次に、変数jに「1」を加算し(S25)、変数jが「M」(Mは5以上の整数)と等しいか否かを判定する(S26)。変数jが「M」よりも小さい場合は(S26:No)、S22の処理に戻り、上述したS22〜S26の各処理を繰り返す。このようにして「M」回分のレーザ光の集光照射が終了し、「M−5」回分の測定結果がRAM13に記憶されると、変数jが「M」と等しくなるので(S26:Yes)、S27の処理に移行する。
【0065】
S27の処理では、RAM13に記憶された「M−5」個のスペクトルから、平均スペクトルを作成する(S27)。「M−5」個のスペクトルから、平均スペクトルを作成して含有率を取得するので、スペクトルの測定誤差やノイズなどが除去され、測定の精度を向上させることができる。
【0066】
そして、平均スペクトルおよび検量データメモリ14aに記憶される各測定対象成分の検量データ14a1〜14a5から、各測定対象成分の含有率をそれぞれ取得する(S28)。
【0067】
ここで、図3を参照して、平均スペクトルから、測定対象成分の含有率を取得(定量)する処理の一例について、鉛(Pb)を例にとって説明する。
【0068】
図3(a)は、はんだを測定した場合に、コンピュータ10により作成される平均スペクトルの内容の一例を示すグラフであり、図3(b)は、検量データメモリ14aの鉛検量データ14a1(図2参照)に記憶されている、予め実験的に求められた鉛(Pb)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データである。このスペクトル線強度と含有率との関係は、予め実験的に求められる。鉛(Pb)の特徴波長は、405.78(nm)であるから、これに基づいて、図3(a)の平均スペクトルにおける鉛(Pb)の特徴波長のスペクトル線強度(3326[a.u.])を得る。
【0069】
そして、図3(b)に示す検量データに表わされるように、スペクトル線強度と含有率とは略比例の関係にあるから、この相関関係を用いて、スペクトル線強度から鉛(Pb)の含有率を取得することができる。つまり、スペクトル線強度が3326[a.u.]である場合に、図3(b)から、その含有率は、103[ppm]であると取得することができる。ここでは、一例として、鉛(Pb)を例にとって説明したが、各測定対象成分についても同様に、各測定対象成分の特徴波長と、各測定対象成分について予め実験的に求められたスペクトル線強度と含有率との相関関係に基づいて、試料3における含有率を取得することができる。
【0070】
ここで、図8のフローチャートの説明に戻る。そして、各測定対象成分のそれぞれの含有率を、i回目測定結果として、測定結果メモリ14dの各含有率測定結果14d1〜14d5に書き込み(S29)、このi回目測定結果取得処理(S2)を終了する。
【0071】
この図8のフローチャートのi回目測定結果取得処理(S2)により、ゲートコントローラ9を制御し、レーザ発振器2のレーザ光の照射と、分光器8によるプラズマ光の測定との同期を取ることができる。また、分光器8により測定されたプラズマ光のスペクトルから、各測定対象成分の含有率をそれぞれ取得することができる。
【0072】
i回目測定結果取得処理(S2)の終了後は、図7のS3の処理に戻る。S3の処理では、変数iに「1」を加算し(S3)、変数iが「N」(Nは2以上の整数)より大きいか否かを判定し(S4)、変数iがN以下であれば(S4:No)、S2の処理に戻り、S2〜S4の各処理を繰り返す。このようにしてN回分の測定が終了し、N回分の測定結果が測定結果メモリ14dに記憶されると、変数iがNよりも大きくなるので(S4:Yes)、S5の処理に移行する。
【0073】
次に、N回分の測定結果である各測定対象成分の含有率の精度を評価する。なお、各測定対象成分毎に、要求される精度、および許容される(正常であると評価される)含有率は異なる。よって、精度判定値の演算および評価は、全て、各測定対象成分毎に行う。
【0074】
まず、複数の測定対象成分のうち、1つの測定対象成分についての標準偏差を算出し、その標準偏差を、標準偏差の算出に用いた平均値で除算して、精度判定値とする(S5)。本実施形態では、N回の測定が行われているので、1つの測定対象成分について測定されたN個の値(含有率)が測定結果メモリ14dの各含有率測定結果14d1〜14d5に記憶されている。これらを読み出し、それらN個の含有率の標準偏差を算出し、その標準偏差を、標準偏差の算出に用いた含有率の平均値で除算して、精度判定値とするのである。
【0075】
次に、求めた精度判定値が、閾値メモリ14bに記憶される精度閾値(図4(a)参照)より大きいかを判定し(S6)、精度判定値が、精度閾値よりも大きい場合は(S6:Yes)、測定の精度が悪いと判断できる。試料の種類(金属であるか、樹脂であるかなど)、検出する測定対象成分の種類(検出感度が高いものと低いものがある)、検出する測定対象成分以外の成分の影響、レーザ発振器2の精度、分光器8の精度などにより、測定結果の精度が得られない場合がある。よって、そのような場合は、その測定対象成分の含有率についての測定結果を「不明」とし(S8)、S9の処理に移行する。このように測定結果の精度が得られない場合は、測定結果を「不明」であるとすることにより、判定結果の信頼性を高めることができる。
【0076】
一方、精度判定値が、精度閾値以下である場合(S6:No)、すなわち、N個の含有率のばらつきが小さい場合は、N回の測定結果の精度は良いと判断できる。よって、そのN個の含有率の平均値を測定結果とする(S7)。
【0077】
次に、全ての測定対象成分について評価したか否かを判定する(S9)。未だ全ての測定対象成分について評価していない場合(S9:No)、S5の処理に戻り、次の測定対象成分について評価する。このようにして処理を繰り返すうちに、全ての測定対象成分についての評価が終了すると(S9:Yes)、全ての測定対象成分についての測定結果をそれぞれ表示装置16(図2参照)に表示出力し(S10)、処理を終了する。この図7のフローチャートの成分測定処理によって、性質の変化した試料3の影響が抑制された各測定対象成分の含有率をそれぞれ測定することができ、使用者は、表示装置16を視認することにより、試料3に含まれる各測定対象成分の含有率についての測定結果(正常である場合は含有率、または、不明であるか)を知ることができる。
【0078】
この測定装置1によれば、従来の蛍光X線分析法と比較して、管理者や管理区域などを要さず、低コスト、且つ、迅速に試料を測定できる。さらに、レーザ光は微少部分に照射可能であると共に、試料3の厚みが薄い場合であっても照射可能であり、そのスペクトルの測定が可能であるため、例えば、めっき、基板上はんだ接合部などの薄膜、微少な特定領域であっても高精度に測定することができる。
【0079】
さらに、この測定装置1に代えて、従来の蛍光X線分析法を用いて測定を行う場合、X線が試料3に照射され、そのX線が透過した試料3の成分が測定される。つまり、X線が透過した部位の試料3の成分が測定されるので、X線の照射方向に広範囲に測定された結果からは、どの深さにどのような成分が含まれているかは不明である。しかしながら、この測定装置1(または後述の測定装置31)であれば、測定される成分は、レーザ光の集光照射を受けプラズマ化して消耗する部位に限られるため、局所的な成分の測定を行うことができる。
【0080】
また、これまでのレーザマイクロプローブ発光分光分析法を利用した発光分析装置では、スペクトル線強度の受光感度を増加させるために、試料3の周囲をアルゴンガスなどの不活性ガスで充填したり、真空状態とする必要があった。しかしながら、測定装置1(または後述の測定装置31)を用いれば、大気中において試料3の測定を行うことができる。
【0081】
ここで、図9(a)を参照して、測定装置1を用いて、大気中およびアルゴンガス中において、はんだを測定した場合の鉛(Pb)のスペクトル線強度と含有率との関係の一例について説明する。この測定は、試料3として、鉛(Pb)の含有率が異なるはんだを複数用意し、それぞれのはんだについての鉛(Pb)の含有率を測定したものである。
【0082】
図9(a)は、大気中およびアルゴンガス中において、はんだを測定した場合の鉛(Pb)のスペクトル線強度と含有率との関係の一例を示すグラフであり、X軸方向に含有率が、Y軸方向にスペクトル線強度が記されている。
【0083】
図9(a)に示すように、大気中において測定した検量データのスペクトル強度よりも、アルゴンガス中において測定した検量データのスペクトル強度よりも若干大きい傾向があるが、どちらの検量データも、略同一であり、スペクトル線強度と含有率とが略比例関係を示している。つまり、上述した、空間分解測光法および時間分解測光法を用い、さらに試料3に照射するレーザエネルギー量を制御したことによって、大気中において試料3の測定が可能となったことを示している。即ち、これまで測定に必要であった、ガスボンベや真空ポンプ等が不要となるので、装置のコストダウンおよび小型化が可能であり、使用者が装置を簡便に使用することができる。
【0084】
次に、図10のフローチャートを参照して、コンピュータ10において実行される、厚さ測定処理について説明する。図10は、コンピュータ10で実行される厚さ測定処理を示すフローチャートである。この厚さ測定処理は、入力装置15から厚さ測定開始の指示が入力されると実行される処理であり、試料3に含まれる各測定対象成分の厚さを自動的に測定する処理である。
【0085】
試料3はレーザ光の集光照射を受けると、その一部が蒸発励起しプラズマ5を生成すると共に、その試料3におけるレーザ光の集光照射を受けた部分には、クレータ状の穴が形成される。1回のレーザ光の集光照射により形成されるクレータ状の穴の深さである消耗量は、予め実験的に求めておく値であり、消費量メモリ14c(図4(b)参照)に記憶されている。
【0086】
この厚さ測定処理では、測定される試料3の各測定対象成分の含有率が略同一である場合に、レーザ光の集光照射を繰り返し、その試料3に集光照射したレーザ光の照射回数から形成されたクレータ状の穴の深さを算出する。つまり、試料3において、略同一な成分である層の厚さを測定するための処理である。
【0087】
図10に示すように、厚さ測定処理では、まず、変数iを「1」に初期化する(S31)。次に、ゲートコントローラ9にトリガ信号を入力して、試料3にレーザ光を集光照射する(S32)。分光器8より入力されるスペクトルおよび検量データメモリ14aに記憶される各測定対象成分の検量データ14a1〜14a5から、各測定対象成分の含有率をそれぞれ取得する(S33)。
【0088】
そして、取得した各測定対象成分のそれぞれの含有率を、i回目測定結果として、測定結果メモリ14dの各含有率測定結果14d1〜14d5に書き込む(S34)。次に、ゲートコントローラ9にトリガ信号を入力して、試料3にレーザ光を集光照射し(S35)、分光器8より入力されるスペクトルおよび検量データメモリ14aに記憶される各測定対象成分の検量データ14a1〜14a5から、各測定対象成分の含有率をそれぞれ取得する(S36)。
【0089】
S36の処理において取得した各測定対象成分のそれぞれの含有率が、前回取得したそれぞれの含有率と所定値以上異なるかを判定し(S37)、S36の処理において取得した各測定対象成分のそれぞれの含有率が、前回取得したそれぞれの含有率と所定値未満の差であれば(S37:No)、試料3の成分は略同一であると判断できるので、この測定を続ける。なお、この所定値は、測定する試料3や、測定対象成分の含有率により異なるため、予め実験的に算出しなければならない。そして、S36の処理において取得した各測定対象成分の含有率を、i回目測定結果として、測定結果メモリ14dの各含有率測定結果14d1〜14d5に書き込み(S38)、変数iに「1」を加算し(S39)、S35の処理に戻り、上述したS35〜S39の各処理を繰り返す。
【0090】
一方、S37の処理において、S36の処理において取得した各測定対象成分の含有率が、前回取得した含有率と所定値以上異なる場合は(S37:Yes)、消耗量メモリ14cに記憶される「消耗量(50nm)」と「i(レーザ光の照射回数)」とを乗算して、測定によって消耗した試料3の厚さを算出し、測定結果メモリ14dの厚さ測定結果14d6に書き込む(S40)。そして、算出した厚さ(消耗した試料3の厚さ)を、表示装置6に出力し(S41)、厚さ測定処理を終了する。
【0091】
この図10のフローチャートの厚さ測定処理により、試料3に含まれる各測定対象成分の含有率から測定対象成分を特定し、その測定対象成分の含有率が略同一である場合に、レーザ光の集光照射を繰り返し、その試料3に集光照射したレーザ光の照射回数から形成されたクレータ状の穴の深さを算出することができる。つまり、試料3において、略同一な成分である層の厚さを測定することができる。
【0092】
ここで、図9(b)を参照して、厚さ測定処理により、めっき層の深さ(厚さ)を測定した一例について説明する。この一例では、鉄(Fe)を母材とし、その表面に無電解ニッケルめっきを施したものを試料3としているため、測定対象成分を鉄(Fe)、鉛(Pb)、ニッケル(Ni)として説明する。そして、レーザ光の集光照射によりめっき層を消耗させ、母材である鉄(Fe)が露出した場合に、それまで集光照射したレーザ光の照射回数から、めっき層の深さ(厚さ)を求める。
【0093】
図9(b)は、試料3に繰り返し集光照射されたレーザ光の照射回数と、そのレーザ光の集光照射により得られた各測定対象成分のスペクトル線強度との関係の一例を示すグラフであり、X軸方向に、レーザ光の照射回数が、Y軸方向に鉄(Fe)、鉛(Pb)、ニッケル(Ni)のスペクトル線強度がそれぞれ記されている。
【0094】
試料3にレーザ光を集光照射すると、鉄(Fe)、鉛(Pb)、ニッケル(Ni)のそれぞれのスペクトル線強度が測定される。図9(b)に示すように、測定される各測定対象成分のスペクトル線強度(検量データから、含有率を求めても良い)は、めっきの成分の分布のばらつきや測定誤差により、少量の変化が生じているが略同一である。例えば、鉄(Fe)のスペクトル線強度は、レーザ光の照射回数が0〜120回まで、100[a.u.]以下であるが、120回を越えると、徐々に鉄(Fe)のスペクトル線強度が上昇し始め、130回を越えると急激に上昇する。140回では、スペクトル線強度が約2300[a.u.]となり、150回では、約5200[a.u.]となる。つまり、130回から150回の間で、めっきが消耗して母材である鉄(Fe)が露出したことが分かる。
【0095】
例えば、図10のS37の処理における所定値(変化量の判定値)を、1000[a.u.]にしておけば、130回から140回の間で、スペクトル線強度の変化量が約2000[a.u.]となるため、130回のレーザ光の集光照射により形成されたクレータ状の穴の深さが算出される。そして、1回のレーザ光の集光照射により消耗する試料3の深さ方向の距離は、例えば50nmと予め実験的に求められているので、その深さは、50nm×130回=6.5μmと算出することができるのである。
【0096】
これまで上述した第1実施形態である測定装置1によれば、性質の変化した試料3の影響が抑制された各測定対象成分の含有率をそれぞれ測定することができ、また、試料3において、略同一な成分である層の厚さを測定することができる。そして測定結果が、表示装置16に出力されるので、使用者は、表示装置16を視認することにより、試料3に含まれる各測定対象成分の含有率についての測定結果(正常である場合は含有率、または、不明であるか)、または、試料3において、略同一な成分である層の厚さを知ることができる。
【0097】
次に、第2実施形態である測定装置31について説明する。この測定装置31では、試料3におけるある一平面の任意の位置にレーザ光を集光照射することができる。測定装置31は、試料3の複数の位置にレーザ光の集光照射を行って、それぞれのスペクトル線強度を測定し、試料3の各測定対象成分の含有率の分布を表示装置16に表示するものである。
【0098】
図11は、測定装置31の概略構成を示すブロック図である。図11のブロック図において、第1の実施形態である測定装置1のブロック図(図1参照)と同一な部分については、同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。測定装置31は、図1に示す測定装置1のブロック図と同一部分と、XYステージ21と、コンピュータ35とを有している。
【0099】
XYステージ21は、試料3を載置するためのテーブルと、テーブルをX軸方向に搬送するためのX軸方向搬送用モータ(図示しない)と、テーブルをY軸方向に搬送するためのY軸方向搬送用モータ(図示しない)と有している。このXYステージ21は、I/F22(図12参照)を介してパーソナルコンピュータ10と接続されており、後述のパーソナルコンピュータ35から入力される位置制御命令に従って、テーブルをX軸方向およびY軸方向の任意の位置に移動可能に構成されている。つまり、テーブルの移動に伴って試料3も移動するので、試料3におけるある一平面の任意の位置にレーザ光を集光照射させることができる。
【0100】
次に、図12を参照して、コンピュータ35と、コンピュータ35に接続される各種機器とについて説明する。図12は、コンピュータ35の概略構成を示すブロック図である。図12のブロック図において、第1の実施形態である測定装置1のコンピュータ10のブロック図(図2参照)と同一な部分については、同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。コンピュータ35は、図2に示すコンピュータ10のブロック図と同一部分と、I/F22とを有している。
【0101】
I/F22は、バスライン19と接続されている。I/F22は、コンピュータ35とXYステージ21とを接続するものであり、コンピュータ10からXYステージ21に位置制御命令が入力されると、XYステージ21は、その命令に従ってテーブルを所定の位置に移動させる。
【0102】
次に、図13のフローチャートを参照して、上記のように構成されるコンピュータ35において実行される、XY位置成分測定処理について説明する。図13は、コンピュータ35で実行されるXY位置成分測定処理を示すフローチャートである。このXY位置成分測定処理は、入力装置15から成分測定開始の指示が入力されると実行される処理であり、XYステージに載置された試料3に含まれる各測定対象成分の含有率の分布を自動的に測定する処理である。
【0103】
XY位置成分測定処理では、まず、変数Yを「0」に初期化し(S51)、変数Xを「0」に初期化する(S52)。次に、I/F22を介して、XYステージ21に、位置制御命令を入力し、XYステージ21を、位置(X,Y)に移動させる(S53)。
【0104】
そして、変数iを「1」に初期化し(S54)、第i回目の測定を行い、その測定の結果として得られる各測定対象成分毎の含有率を、測定結果メモリ14d(図12参照)の各含有率測定結果14d1〜14d5に記憶するi回目測定結果取得処理を実行する(図8のS2の処理)。このi回目測定結果取得処理(S2)が実行されると、i回目の測定結果として測定された、各測定対象成分のそれぞれの含有率が、測定結果メモリ14dの各含有率測定結果14d1〜14d5にそれぞれ書き込まれる。
【0105】
次に、変数iに「1」を加算し(S55)、変数iが「N」(Nは2以上の整数)より大きいか否かを判定し(S56)、変数iがN以下であれば(S56:No)、S2の処理に戻り、S2〜S56の各処理を繰り返す。このようにしてN回分の測定が終了し、N回分の測定結果が測定結果メモリ14dに記憶されると、変数iがNよりも大きくなるので(S56:Yes)、S57の処理に移行する。
【0106】
次に、N回分の測定結果である含有率の精度を評価する。なお、各測定対象成分毎に、要求される精度、および許容される(正常であると評価される)含有率は異なる。よって、精度判定値の演算および評価は、全て、各測定対象成分毎に行う。
【0107】
まず、複数の測定対象成分のうち、1つの測定対象成分についての標準偏差を算出し、その標準偏差を、標準偏差の算出に用いた平均値で除算して、精度判定値を求める(S57)。本実施形態では、N回の測定が行われているので、1つの測定対象成分について測定されたN個の値(含有率)が測定結果メモリ14dの各含有率測定結果14d1〜14d5に記憶されている。これらを読み出し、それらN個の含有率の標準偏差を算出し、その標準偏差を、標準偏差の算出に用いた含有率の平均値で除算して、精度判定値とするのである。
【0108】
次に、求めた精度判定値が、閾値メモリ14bに記憶される精度閾値(図4(a)参照)より大きいかを判定し(S58)、精度判定値が、精度閾値よりも大きい場合は(S58:Yes)、測定の精度が悪いと判断できる。試料の種類(金属であるか、樹脂であるかなど)、検出する測定対象成分の種類(検出感度が高いものと低いものがある)、検出する測定対象成分以外の成分の影響、レーザ発振器2の精度、分光器8の精度などにより、測定結果の精度が得られない場合がある。よって、そのような場合は、位置(X,Y)における各測定対象成分の含有率についての測定結果を「不明」とし(S60)、S61の処理に移行する。このように測定結果の精度が得られない場合は、測定結果を「不明」であるとすることにより、判定結果の信頼性を高めることができる。
【0109】
一方、精度判定値が、精度閾値以下である場合(S58:No)、すなわち、N個の含有率のばらつきが小さい場合は、N回の測定結果の精度は良いと判断できる。よって、そのN個の含有率の平均値を位置(X,Y)における測定結果とする(S59)。
【0110】
次に、全ての測定対象成分について評価したか否かを判定する(S61)。未だ全ての測定対象成分について評価していない場合(S61:No)、S57の処理に戻り、次の測定対象成分について評価する。このようにして処理を繰り返すうちに、全ての測定対象成分についての評価が終了すると(S61:Yes)、変数Xに「1」を加算し(S62)、変数Xが、「Xmax」(Xmaxは1以上の整数)と等しいか否かを判定する(S63)。変数Xが「Xmax」よりも小さい場合は(S63:No)、S53の処理に戻り、上述したS53〜S63の各処理を繰り返す。このようにして、試料3において、X軸方向に「Xmax」回分の測定が行われると、変数Xが「Xmax」と等しくなるので(S63:Yes)、S64の処理に移行する。
【0111】
S64の処理では、変数Yに「1」を加算し(S64)、変数Yが、「Ymax」(Ymaxは1以上の整数)と等しいか否かを判定する(S65)。変数Yが「Ymax」よりも小さい場合は(S65:No)、S52の処理に戻り、上述したS52〜S65の各処理を繰り返す。このようにして、試料3において、Y軸方向に「Ymax」回分の測定が行われると、変数Yが「Ymax」と等しくなるので(S65:Yes)、S66の処理に移行する。
【0112】
上述した処理により、XYテーブル21上に載置された試料3におけるある一平面において、XYテーブル21の位置(0,0)から、位置(Xmax,Ymax)までの、各位置における測定が終了し、その測定結果が測定結果メモリ13dの各測定対象成分14d1〜14d5に記憶される。そして、各測定対象成分毎に、XY平面における各含有率の分布図を作成し、それぞれの結果を表示装置16(図2参照)に表示出力し(S66)、処理を終了する。
【0113】
この図13のフローチャートのXY位置成分測定処理によって、試料3におけるある一平面の各測定対象成分の含有率の分布を測定することができ、使用者は、その分布図を表示装置16を視認することにより、試料3におけるある一平面に含まれる各測定対象成分の分布を知ることができる。
【0114】
次に、図14(a)を参照して、XY位置成分測定処理により作成される各測定対象成分の含有率の分布図について説明する。図14(a)は、試料3における鉛(Pb)の含有率の分布図の一例を示している。他の測定対象成分の分布図も同様であるため、ここでは、鉛(Pb)の分布図についてのみ説明を行い、その他の測定対象成分については説明を省略する。
【0115】
XYテーブル21上に載置された試料3は、XYテーブル21の位置(0,0)が基準とされ、X軸方向に「Xmax」回の測定が、Y軸方向に「Ymax」回の測定が行われる。そして、その測定結果である鉛(Pb)の含有率が、図14(a)に示すように、分布図として表示装置16に表示される。
【0116】
この分布図では、位置(X,Y)での測定において、鉛(Pb)の含有率が所定の範囲内である場合に、その位置(X,Y)の表示を無地としており、所定の範囲外である場合に、色を変化させて表示している。所定の範囲の値は、測定する試料3や、測定対象成分の含有率などに応じて、使用者が決める値である。このように、分布図を作成して表示することにより、使用者は、表示装置16を視認することにより、試料3に含まれる各測定対象成分の含有率の分布を知ることができる。
【0117】
これまで上述した、XY位置成分測定処理では、試料3におけるある一平面の各測定対象成分の含有率をそれぞれ測定したが、ある特定の位置や、ある範囲内を繰り返し測定して、深さ方向の分布図を作成しても良い。
【0118】
次に、図14(b)を参照して、深さ方向の各測定対象成分の含有率の測定の一例について説明する。図14(b)は、図14(a)のA−A’断面における、深さ方向の鉛(Pb)の含有率の分布図の一例を示している。
【0119】
図14(a)に示すように、試料3においてある一平面の鉛(Pb)の含有率の分布を測定したとしても、試料3の表面のみが測定されるため、測定対象成分である鉛(Pb)が、深さに方向どのように分布しているのか知ることができない。しかし、ある特定の位置や、ある範囲内を繰り返し測定することで、深さ方向の鉛(Pb)の含有率を測定することができる。図14(b)は、図14(a)のA−A’断面線上に位置する試料3を繰り返し測定し、その分布図を作成したものである。
【0120】
図14(b)の分布図では、位置(X,Y(一定))のある深さの測定において、鉛(Pb)の含有率が所定の範囲内である場合に、その位置(X,Y(一定))のある深さの表示を無地としており、所定の範囲外である場合に、色を変化させて表示している。所定の範囲の値は、測定する試料3や、測定対象成分の含有率などに応じて、使用者が決める値である。
【0121】
このように、深さ方向の分布図を作成して表示することにより、表示装置16を視認することができ、試料3に含まれる深さ方向の各測定対象成分の含有率の分布(つまり、偏在)を知ることができる。
【0122】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものである。
【0123】
例えば、上記実施例の測定装置31では、対物レンズ4を通過して試料に入射するレーザ光の光路Lに対して、斜め方向または垂直方向に放射されるプラズマ光を、集光レンズ6により集光させて分光器8に入力しているが、レーザ光の光路Lと同軸方向に放射されるプラズマ光を測定しても良い。
【0124】
図15は、測定装置1および測定装置31における第1変形例の概略構成を示す図である。図15に示すように、レーザ発振器2から照射されるレーザ光を、リフレクタ23により反射させ、対物レンズ4に入射させている。対物レンズ4に入射されたレーザ光は集光されて、試料3に照射される。そして、試料3が生成するプラズマ5から放射されるプラズマ光を、対物レンズ4に入射させて、集光レンズ24により集光させ、分光器8により測定を行う。なお、リフレクタ23は、分光器8によるプラズマ光の測定に影響を及ぼさない小さな形状のリフレクタである。このように、レーザ光の光路Lと同軸方向に放射されるプラズマ光を測定することで、対物レンズ4と集光レンズ24とリフレクタ23とを同軸上に配設できるため、装置を小型化することができる。
【0125】
また、測定装置31では、XYステージ21を移動させることにより、試料3の複数の箇所にレーザ光を集光照射し、各測定対象成分の含有率の測定を行っているが、対物レンズ4やレーザ発振器2を移動させ、試料3の複数の箇所にレーザ光を集光照射しても良い。
【0126】
また、測定装置31では、試料3におけるある一平面の測定を行っているが、XYZステージを設けたり、対物レンズ4や、レーザ発振器2をX軸方向、Y軸方向、Z軸方向にそれぞれ移動可能に構成して、立体的に測定を行っても良い。
【0127】
また、測定装置31では、試料3におけるある一平面の測定を複数箇所で行い、各測定対象成分の含有率の分布を表示しているが、その測定した複数箇所の各測定対象成分の含有率の平均値を算出して、測定結果として表示装置16に表示しても良い。使用者は、表示装置16を視認することにより、試料3におけるある一平面の複数箇所の各測定対象成分の含有率の平均値を知ることができる。
【0128】
また、測定装置1および測定装置31において、集光レンズ6の焦点を、プライマリプルーム5aから外れた部位に合わせているが、集光レンズ6の焦点を、プライマリプルーム5a(または、レーザ光の照射位置)のある部位に固定しておくように構成しても良い。この場合、好適には、まずプラズマ5から放射されたプラズマ光が集光レンズ6により集光される焦点に、光ファイバーの入射端を設置し、光ファイバーの出射端を分光器8に接続する。そして、光ファイバーの入射端の位置を可変に構成し、その入射端を焦点位置からずらすことで、光ファイバーの入射端に入射されるプラズマ光の像を変化させる。即ち、光ファイバーの入射端には、プライマリプルーム5aに合わせた焦点から外れた部位のプラズマ光が入射されるので、分光器8において、プライマリプルーム5aから外れた部位のプラズマ光を測定することができる。
【0129】
また、図16は、測定装置1および測定装置31における第2変形例の概略構成を示す図である。図16に示すように、集光レンズ6の焦点を、プライマリプルーム5aを外したある部位に固定し、その部位を基準として、集光レンズ6と分光器8とを同心円上に移動させ、レーザ光の光路Lに対して任意の角度(例えば、0度から90度の範囲)でプラズマ5から照射されるプラズマ光を受光するようにしても良い。
【0130】
また、測定装置1および測定装置31において、試料3の同一箇所の測定を複数回行い、各測定対象成分の含有率を求め、その平均値を算出して、測定結果として表示装置16に表示しても良い。使用者は、表示装置16を視認することにより、同一箇所の深さ方向の各測定対象成分の平均値を知ることができる。
【0131】
また、測定装置1および測定装置31において、閾値メモリ14bに記憶される精度閾値を5%としているが、試料3の各測定対象成分の含有率や、測定環境などに応じて、使用者などにより任意に変更できるようにしても良い。
【0132】
また、測定装置1および測定装置31は、試料3として、電気製品または自動車の部品を検査するものとして説明したが、試料3の種類はこれに限られるものではなく、例えば、その他装置の部品、土壌、水質、原材料、素材を検査しても良い。
【0133】
また、測定装置1および測定装置31は、測定対象成分として、鉛、水銀、カドミウム、クロム、臭素の含有率を測定するものとして説明したが、これ以外の測定対象成分について測定するものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の第1実施形態である測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態におけるコンピュータの概略構成を示すブロック図である。
【図3】(a)は、はんだを測定した場合に、コンピュータ10により作成される平均スペクトルの内容の一例を示すグラフであり、(b)は、予め実験的に求められた鉛(Pb)のスペクトル線強度と含有率との関係を示す検量データの内容の一例を示すグラフである。
【図4】(a)は、閾値メモリの内容の一例を示す概略図であり、(b)は、消耗量メモリの内容の一例を示す概略図である。
【図5】(a)は、はんだから放射されるプラズマ光の発光強度と、時間との関係の一例を示すグラフであり、(b)は、遅延時間Tdを設けずに、(c)は、遅延時間Tdを0.4μ秒設けて、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度を測定した測定結果の一例を示すグラフである。
【図6】(a)は、はんだにレーザ光を集光照射した場合の、レーザ光のレーザエネルギー量と、スペクトル線強度との関係の一例を示すグラフであり、(b)は、レーザエネルギー90mJとして、(c)は、レーザエネルギー30mJとして、はんだにレーザ光を集光照射し、はんだに含まれている鉛(Pb)のスペクトル線強度を測定した測定結果の一例を示すグラフである。
【図7】コンピュータで実行される成分測定処理を示すフローチャートである。
【図8】i回目測定結果取得処理を示すフローチャートである。
【図9】(a)は、大気中およびアルゴンガス中において、はんだを測定した場合の鉛(Pb)のスペクトル線強度と含有率との関係の一例を示すグラフであり、(b)は、試料3に繰り返し集光照射されたレーザ光の照射回数と、そのレーザ光の集光照射により得られた各測定対象成分のスペクトル線強度との関係の一例を示すグラフである。
【図10】コンピュータで実行される厚さ測定処理を示すフローチャートである。
【図11】本発明の第2実施形態である測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の第2実施形態におけるコンピュータの概略構成を示すブロック図である。
【図13】コンピュータで実行されるXY位置成分測定処理を示すフローチャートである。
【図14】(a)は、試料における鉛(Pb)の含有率の分布図の一例であり、(b)は、図14(a)のA−A’断面における、深さ方向の鉛(Pb)の含有率の分布図の一例である。
【図15】測定装置の第1変形例の概略構成を示すブロック図である。
【図16】測定装置の第2変形例の概略構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0135】
1、31 測定装置
2 レーザ発振器(レーザ光出力手段)
3 試料
4 対物レンズ(光学系)
5 プラズマ
5a プライマリプルーム
6 集光レンズ(受光手段)
8 分光器(測定手段)
9 タイミング制御手段
14c 消耗量メモリ(第1記憶手段)
14d 測定結果メモリ(第2記憶手段)
21 XYステージ(照射位置移動手段)
S10、S42、S66 測定結果出力手段
S28、S33、S36 含有率測定値取得手段
S31、S39 計数手段
S37 判定手段
S40、S41 厚算出手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を試料に照射し、試料に含まれる成分をプラズマ化させて分析することにより、試料の成分を測定する測定装置であって、
レーザ光を出力するレーザ光出力手段と、
そのレーザ光出力手段から出力されたレーザ光を試料に集光照射する光学系と、
前記試料が前記レーザ光を受けて生成するプラズマから放出されるプラズマ光を分光し、プラズマ光のスペクトルを測定する測定手段と、
その測定手段により測定されたスペクトルと、測定対象成分の特徴波長とに基づいて、前記試料における測定対象成分の含有率に相当する含有率測定値を取得する含有率測定値取得手段と、
その含有率測定値取得手段により取得された含有率測定値に基づく測定結果を出力する測定結果出力手段とを備えていることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記測定手段によるプラズマ光の測定時間帯を制御するタイミング制御手段を備え、
そのタイミング制御手段は、前記レーザ光出力手段によるレーザ光出力開始から所定時間経過後に、前記測定手段によるプラズマ光の測定を開始させるものであることを特徴とする請求項1記載の測定装置。
【請求項3】
前記測定手段は、前記光学系を通過して前記試料に入射するレーザ光の光路に対して、斜め方向または垂直方向に放射されるプラズマ光を分光し、プラズマ光のスペクトルを測定することを特徴とする請求項1または2記載の測定装置。
【請求項4】
前記レーザ光出力手段から出力されるレーザ光の照射回数を計数する計数手段と、
前記レーザ光の照射回数と、そのレーザ光の照射により前記試料に形成される穴の深さとの関係を記憶する第1記憶手段と、
前記含有率測定値取得手段により取得された含有率測定値を記憶する第2記憶手段と、
その第2記憶手段に記憶される含有率測定値と、前記含有率測定値取得手段により新たに取得された含有率測定値との差分が、所定値以上であるかを判定する判定手段と、
その判定手段により前記差分が所定値以上であると判定された場合に、前記計数手段により計数された照射回数および前記第1記憶手段に記憶される前記レーザ光の照射回数と、そのレーザ光の照射により前記試料に形成される穴の深さとの関係に基づいて、前記試料における測定対象成分の厚さを算出する厚算出手段とを備え、
前記測定結果出力手段は、前記厚算出手段により算出された測定対象成分の厚さを測定結果として出力することを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の測定装置。
【請求項5】
前記試料に集光照射するレーザ光の照射位置を、前記試料に対し相対的に移動させる照射位置移動手段を備え、
前記測定結果出力手段は、前記照射位置移動手段により移動させるレーザ光の照射位置と、その照射位置においてレーザ光を照射して取得する含有率測定値とに基づいた測定結果を出力することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の測定装置。
【請求項6】
前記測定結果出力手段は、前記試料において前記レーザ光を複数の前記照射位置に照射して取得する各含有率測定値の平均値を測定結果として出力することを特徴とする請求項5記載の測定装置。
【請求項7】
前記測定結果出力手段は、前記試料において前記レーザ光の照射により形成されたクレータにさらにレーザ光を照射し、その複数回の照射により取得された複数の各含有率測定値の平均値を測定結果として出力することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の測定装置。
【請求項8】
前記レーザ光出力手段から出力されるレーザ光の照射回数を計数する計数手段を備え、
前記測定結果出力手段は、前記計数手段により計数される照射回数が所定回数以上である場合に取得された各含有率測定値の平均値を測定結果として出力することを特徴とする請求項7記載の測定装置。
【請求項9】
前記試料が前記レーザ光の照射を受けて生成するプラズマの中心部であるプライマリプルームから外れた部位に焦点を合わせて、前記プラズマから放射されるプラズマ光を受光する受光手段を備え、
前記測定手段は、前記受光手段により受光するプラズマ光を分光し、プラズマ光のスペクトルを測定することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の測定装置。
【請求項1】
レーザ光を試料に照射し、試料に含まれる成分をプラズマ化させて分析することにより、試料の成分を測定する測定装置であって、
レーザ光を出力するレーザ光出力手段と、
そのレーザ光出力手段から出力されたレーザ光を試料に集光照射する光学系と、
前記試料が前記レーザ光を受けて生成するプラズマから放出されるプラズマ光を分光し、プラズマ光のスペクトルを測定する測定手段と、
その測定手段により測定されたスペクトルと、測定対象成分の特徴波長とに基づいて、前記試料における測定対象成分の含有率に相当する含有率測定値を取得する含有率測定値取得手段と、
その含有率測定値取得手段により取得された含有率測定値に基づく測定結果を出力する測定結果出力手段とを備えていることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記測定手段によるプラズマ光の測定時間帯を制御するタイミング制御手段を備え、
そのタイミング制御手段は、前記レーザ光出力手段によるレーザ光出力開始から所定時間経過後に、前記測定手段によるプラズマ光の測定を開始させるものであることを特徴とする請求項1記載の測定装置。
【請求項3】
前記測定手段は、前記光学系を通過して前記試料に入射するレーザ光の光路に対して、斜め方向または垂直方向に放射されるプラズマ光を分光し、プラズマ光のスペクトルを測定することを特徴とする請求項1または2記載の測定装置。
【請求項4】
前記レーザ光出力手段から出力されるレーザ光の照射回数を計数する計数手段と、
前記レーザ光の照射回数と、そのレーザ光の照射により前記試料に形成される穴の深さとの関係を記憶する第1記憶手段と、
前記含有率測定値取得手段により取得された含有率測定値を記憶する第2記憶手段と、
その第2記憶手段に記憶される含有率測定値と、前記含有率測定値取得手段により新たに取得された含有率測定値との差分が、所定値以上であるかを判定する判定手段と、
その判定手段により前記差分が所定値以上であると判定された場合に、前記計数手段により計数された照射回数および前記第1記憶手段に記憶される前記レーザ光の照射回数と、そのレーザ光の照射により前記試料に形成される穴の深さとの関係に基づいて、前記試料における測定対象成分の厚さを算出する厚算出手段とを備え、
前記測定結果出力手段は、前記厚算出手段により算出された測定対象成分の厚さを測定結果として出力することを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の測定装置。
【請求項5】
前記試料に集光照射するレーザ光の照射位置を、前記試料に対し相対的に移動させる照射位置移動手段を備え、
前記測定結果出力手段は、前記照射位置移動手段により移動させるレーザ光の照射位置と、その照射位置においてレーザ光を照射して取得する含有率測定値とに基づいた測定結果を出力することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の測定装置。
【請求項6】
前記測定結果出力手段は、前記試料において前記レーザ光を複数の前記照射位置に照射して取得する各含有率測定値の平均値を測定結果として出力することを特徴とする請求項5記載の測定装置。
【請求項7】
前記測定結果出力手段は、前記試料において前記レーザ光の照射により形成されたクレータにさらにレーザ光を照射し、その複数回の照射により取得された複数の各含有率測定値の平均値を測定結果として出力することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の測定装置。
【請求項8】
前記レーザ光出力手段から出力されるレーザ光の照射回数を計数する計数手段を備え、
前記測定結果出力手段は、前記計数手段により計数される照射回数が所定回数以上である場合に取得された各含有率測定値の平均値を測定結果として出力することを特徴とする請求項7記載の測定装置。
【請求項9】
前記試料が前記レーザ光の照射を受けて生成するプラズマの中心部であるプライマリプルームから外れた部位に焦点を合わせて、前記プラズマから放射されるプラズマ光を受光する受光手段を備え、
前記測定手段は、前記受光手段により受光するプラズマ光を分光し、プラズマ光のスペクトルを測定することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−268067(P2008−268067A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113062(P2007−113062)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(597143960)テクノシステム株式会社 (6)
【出願人】(506192283)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(597143960)テクノシステム株式会社 (6)
【出願人】(506192283)
【Fターム(参考)】
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