説明

測定装置

【課題】センサチップを用いる測定装置において、粘性の異なる試料液が供給されても、測定時の各試料液の流速を一定あるいはそれに近い値に維持する。
【解決手段】試料液Sを流通させる微小流路11が設けられ、この微小流路11内の一部に、試料液S中の物質と特異的に結合する物質13を固定したセンサ部14が配設されてなるセンサチップ10を用い、微小流路11に接続させた配管33を介してポンプ34により試料液Sを吸引して流通させ、その試料液中に含まれ得る被検出物質に関する測定を行う測定装置において、前記測定がなされる前に、ポンプ34により吸引されて微小流路11をセンサ部14に向かって流れる試料液Sについて、その粘性に関わる特性を検出する特性検出手段40、41と、前記測定がなされるときポンプ34の動作条件を、前記特性が示す粘性が高いほど吸引速度増大側に制御するポンプ動作制御手段41とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液中に含まれる可能性が有る被検出物質について測定を行う装置、特に詳細には、試料液を流通させる微小流路を備えたセンサチップを用いる測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオ測定においては、抗原抗体反応などの生体分子反応を検出することにより、被検出物質である抗原(あるいは抗体)などの存在の有無、量を測定している。
【0003】
例えば、互いに特異的に結合する2つの物質の一方(抗原、抗体、各種酵素、受容体など)を基板上に固定化し、他方の物質(これは被検出物質そのものであってもよいし、あるいは試料中で被検出物質と競合する競合物質であってもよい)を基板上に固定された固定層に結合させ、この結合反応を検出することにより、試料中における被検出物質の有無、量を測定することができる。具体的には、試料に含まれる被検出物質である抗原を検出するため、基板上にその抗原と特異的に結合する抗体を固定しておき、基板上に試料を供給することにより抗体に抗原を特異的に結合させ、次いで、抗原と特異的に結合する、標識が付与された標識抗体を添加し、抗原と結合させることにより、抗体―抗原―標識抗体の、所謂サンドイッチを形成し、標識からの信号を検出するサンドイッチ法や、標識された競合抗原を被検出物質である抗原と競合的に固定化抗体と結合させ、固定化抗体と結合した競合抗原に付与されている標識からの信号を検出する競合法などのイムノアッセイが知られている。
【0004】
なお上記サンドイッチ法においては、被検出物質である抗原が上記「他方の物質」に相当し、競合法においては競合抗原が上記「他方の物質」に相当する。後者の競合法においては、固定化抗体と結合した競合抗原の量が多いほど、被検出物質である抗原の量が少ないという関係があるので、この関係に基づいて、競合抗原の量に対応する標識からの信号レベルにより抗原の量を求めることができる。
【0005】
また、上述のようなバイオ測定に適用可能で、高感度かつ容易な測定法として蛍光検出法が広く用いられている。この蛍光検出法は、特定波長の光により励起されて蛍光を発する被検出物質を含むと考えられる試料に上記特定波長の励起光を照射し、そのとき蛍光を検出することによって被検出物質の存在を確認する方法である。また、被検出物質が蛍光体ではない場合、蛍光色素で標識されて被検出物質と特異的に結合する物質を試料に接触させ、その後上記と同様にして蛍光を検出することにより、この結合すなわち被検出物質の存在を確認することも広くなされている。
【0006】
さらに、このような蛍光検出法において、感度を向上させるため、プラズモン共鳴による電場増強の効果を利用する方法が特許文献1などに提案されている。この方法は、透明な支持体上の所定領域に金属層を設けたセンサチップを用い、支持体と金属膜との界面に対して支持体の金属層形成面と反対の面側から、全反射角以上の入射角で励起光を入射させ、この励起光の照射により金属層に表面プラズモンを生じさせ、その電場増強作用によって蛍光を増強させることにより、S/Nを向上させるものである。
【0007】
以上述べたようなバイオ測定においては測定時間の短縮化が望まれており、そこで、センサ部における反応を効率良く生じさせて、測定時間の短縮を図る方法が種々提案されている。例えば特許文献2には、交換自在の微小流路(マイクロ流路)型のセンサチップを用い、試料液を一定の高速で流下させることにより測定の高速化を図ることが提案されている。この種のセンサチップは、上述した蛍光検出による被検出物質の検出や定量分析を行うために適用することも可能である。その場合は、センサチップの微小流路内の一部に、試料中の物質と特異的に結合する物質を固定したセンサ部が配設されることになる。
【0008】
このセンサチップを用いて被検出物質の検出や定量分析を行う測定装置においては一般に、例えば特許文献3に記載されているように、微小流路に接続させた配管を介してポンプにより試料液を吸引して、微小流路中に流通させるようにしている。
【0009】
上記のように、試料液中の物質と特異的に結合する物質を固定したセンサ部を微小流路内に持つセンサチップを用い、試料液をセンサ部に流しながら測定を行う測定装置においては、粘性が異なる試料液が測定に供されることもある。そのような場合、試料液吸引ポンプが一定の動作条件で駆動されれば、粘性が高い試料液ほど流速は低くなる。こうして、センサ部における流速が試料液毎に大きく変動すると、前述した特異的な結合の反応速度(例えば抗原抗体反応速度)に差が生じ、最終的に得られる測定結果にバラつきが発生してしまう。なお試料液の粘性は、同じ人間同士、動物同士から得た試料液であっても、個体によって相違することがある。
【0010】
特許文献4には、試料液が吸引される流路を開閉する制御弁を設け、流路の内部と外部との差圧に応じてこの制御弁を瞬間的に開閉することにより、高粘性の試料液吸引に適した比較的高出力の試料液吸引ポンプを用いても、低粘性の試料液を適切な条件で吸引できるようにした試料液吸引装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−307141号公報
【特許文献2】特開2007−101221号公報
【特許文献3】特開2008−128906号公報
【特許文献4】特開2004−257804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし上記特許文献4に記載されている装置は、高速で開閉動作する制御弁を設けるために装置が複雑化する、制御弁を高速で開閉させているため信頼性が低い、といった問題が認められる。
【0013】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、先に述べたようなセンサチップを用いる測定装置において、粘性の異なる試料液が供給されても、測定時の各試料液の流速を一定あるいはそれに近い値に維持可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による測定装置は、
前述したように試料液を流通させる微小流路が設けられ、この微小流路内の一部に、試料液中の物質と特異的に結合する物質を固定したセンサ部が配設されてなるセンサチップを用い、
前記微小流路に接続させた配管を介してポンプにより試料液を吸引して流通させ、その試料液中に含まれ得る被検出物質に関する測定を行う測定装置において、
前記測定がなされる前に、前記ポンプにより吸引されて微小流路を前記センサ部に向かって流れる試料液について、その粘性に関わる特性を検出する特性検出手段と、
前記測定がなされるとき、ポンプの動作条件を、前記特性が示す粘性が高いほど吸引速度増大側に制御するポンプ動作制御手段とが設けられたことを特徴とするものである。
【0015】
なお上記動作条件としてより具体的には、ポンプのピストン移動速度を変化させることが挙げられる。その場合、動作条件を吸引速度増大側に制御するということは、このポンプピストン駆動モータの回転数(駆動発振周波数)を増大することを意味する。
【0016】
一方、上記の特性検出手段としては、微小流路内の所定区間を試料液先端が通過するのに要した時間を検出するものが好適に用いられる。そのような時間を検出する場合は、上記所定区間を規定する2点を試料液先端が通過することを検知する必要がある。
【0017】
それを実現する特性検出手段として具体的には、上記所定区間を規定する流路断面積変化点を試料液先端が通過することを、該微小流路内の圧力を測定してその変化に基づいて検知するものが適用可能である。
【0018】
あるいは、それに代えて、上記所定区間を規定する微小流路内の所定位置に光を照射し、そのとき該微小流路を透過した光を検出し、その検出光量の変化に基づいて該所定位置を試料液先端が通過することを検知する特性検出手段も適用可能である。
【0019】
さらには、上記所定区間を規定する微小流路内の所定位置において微小流路に光を照射し、該微小流路を流れる試料液に含まれる蛍光物質が上記光により励起されて発する蛍光を検出して、該所定位置を試料液先端が通過することを検知する特性検出手段も適用可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の測定装置においては、測定がなされる前に、ポンプにより吸引されて微小流路をセンサ部に向かって流れる試料液について、その粘性に関わる特性を検出する特性検出手段が設けられるとともに、上記測定がなされるとき、ポンプの動作条件を、前記特性が示す粘性が高いほど吸引速度増大側に制御するポンプ動作制御手段とが設けられたので、本来、試料液の粘性が高いほど試料液流速が低下することを、ポンプの動作制御によって補償できるようになる。そこで本発明の測定装置によれば、測定時に粘性の異なる試料液が供給されても、各試料液の流速を一定あるいはそれに近い値に維持できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態による測定装置を示す概略構成図
【図2】上記測定装置に用いられる微小流路型センサチップを示す斜視図
【図3】図2のセンサチップにおける生体物質検出時の状態を説明する図
【図4】図1の装置において検出される微小流路内圧力の変化特性例を示すグラフ
【図5】図1の装置における、微小流路内の試料液先端検知位置を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による測定装置の概略構成を示すものである。本実施形態の測定装置は、先に述べた通りの微小流路型センサチップ(以下、単にセンサチップという)10を用いて生体由来物質を検出する装置として構成されたものである。まず図2および図3も参照して、このセンサチップ10について説明する。
【0023】
図1および図2に示される通りセンサチップ10は、試料液が流される微小流路11を有する流路部材12と、微小流路11の一部であって、互いに特異的に結合する2つの物質のうちの一方の物質13を壁面に固定しているセンサ部14と、流路部材12の上に固着された上板部材17とを備えてなるものである。本実施形態では、抗原抗体反応においてサンドイッチ法によるアッセイを行う場合を例とし、そこで上記物質13が、被検出物質である抗原Aと特異的に結合する抗体であるとして説明する。
【0024】
なお、抗体13は直接微小流路11の壁面に固定されてもよいが、後述するように表面プラズモンによる電場増強により蛍光を増強する場合は、この壁面の上に金属膜(図示せず)が形成され、その上に抗体13が固定される。
【0025】
上記上板部材17は、図2に示されるように、上表面に開口した試料液流入口16aおよび試料液流出口16bと、試料液流入口16aと微小流路11の上流端とを連通させる開口15aと、試料液流出口16bと微小流路11の下流端とを連通させる開口15aとを有している。この上板部材17と流路部材12は、例えば超音波溶接により接合されている。
【0026】
流路部材12および上板部材17はポリスチレン等の透明な誘電体材料からなり、射出成型によりそれぞれ成型されている。微小流路11のサイズは、一例として幅が2mm、深さが2mm程度である。なお図1に明示される通り、本実施形態において、センサ部14はその前後における微小流路11よりも浅く、つまり深さが50μm程度に形成されている。
【0027】
また本例のセンサチップ10においては、図3にも示すように、抗体13が固定されている領域の上流側において微小流路11の内面に、標識抗体20が付着されている。標識抗体20は、被検出物質に対して、前述の抗体13とは異なるエピトープに特異的に結合する抗体23と蛍光標識22とから構成されたものである。ここでは蛍光標識22として、多数の蛍光色素分子Fと該蛍光色素分子Fを内包する光透過材料21とからなる蛍光微粒子が用いられている。
【0028】
上記蛍光微粒子の大きさには特に制限はないが、直径数十nm〜数百nm程度が好ましく、ここでは一例として直径100nmのものが用いられている。光透過材料21としては、具体的には、ポリスチレンやSiO2などが挙げられるが、蛍光色素分子Fを内包でき、かつ該蛍光色素分子Fからの蛍光を透過させて外部に放出できるものであれば特に制限されない。本例における標識抗体20は、蛍光標識22を、それよりも小さい抗体23により表面修飾して構成されている。
【0029】
次に図1に戻って測定装置について説明する。この測定装置は、上記センサチップ10が例えば屈折率マッチングオイルを介して載置されるプリズム30と、このプリズム30とセンサチップ10との界面に対して、全反射条件となる入射角で励起光L0を入射させる半導体レーザ等からなる光源31と、センサチップ10の試料液流出口16bにノズル32を介して一端が連通される配管33と、この配管33の他端に吸込口が接続された試料吸引ポンプ34と、配管33に介設された開放弁35と、センサチップ10のセンサ部14の近傍部分から後述するようにして発せられる蛍光Lfを検出する光検出器36とを備えている。なお励起光L0は、表面プラズモンを誘起するように、上記界面に対してp偏光で入射させる。
【0030】
さらにこの測定装置は、配管33の内部圧力を検出する圧力センサ40と、上記試料吸引ポンプ34および開放弁35の動作等を制御する制御部41と、光検出器36の光検出信号が入力される信号処理部42と、この信号処理部42が出力するデータを一時記憶するメモリ等からなる記憶部43と、この記憶部43からデータを読み出して所定の演算を行う演算部44と、この演算部44に接続された液晶パネル等からなる表示手段45と、制御部41に接続されて表示手段45と共にユーザインターフェイスを構成する、例えばキーボードやマウス等からなる入力手段46とを有している。
【0031】
なお上記の説明において「○○部」と表記された要素は、それぞれ個別の回路等から構成されてもよいし、あるいはコンピュータシステムの一部として、所定のプログラムによって機能するソフトウェアから構成されてもよい。
【0032】
次に、この測定装置による被検出物質の検出について説明する。ここでは一例として、血漿である試料液Sに含まれる可能性のある抗原Aを検出する場合について説明する。まず、図1に示す試料液流入口16aに試料液Sが注入され、それとともに試料吸引ポンプ34が駆動されて、試料液Sがセンサチップ10の微小流路11内に導入される。なお、この試料液Sの吸入については、後に詳しく説明する。また開放弁35は、試料吸引ポンプ34の駆動に先立って、それまでの開状態から閉状態に設定される。
【0033】
微小流路11に導入された試料液Sは、図3に模式的に示すように、該流路11に吸着固定されている標識抗体20と混ぜ合わされる。それにより、抗原Aが標識抗体20の抗体23と結合し、さらに抗体23と結合した抗原Aが、センサ部14の抗体13と結合し、抗原Aが抗体13と抗体23で挟み込まれたいわゆるサンドイッチが形成される。
【0034】
このようにしてセンサ部14の部分に吸着した抗原Aは、以下の通りにして検出される。光源31から発せられた励起光L0は、プリズム30とセンサチップ10の界面に対して、全反射条件となる入射角で入射する。すると、この場合は抗体13と微小流路11の壁面との間に介在している金属膜(図示せず)上の試料液S中にエバネッセント波が滲み出し、このエバネッセント波によって金属膜中に表面プラズモンが励起される。この表面プラズモンにより金属膜表面に電界分布が生じ、電場増強領域が形成される。
【0035】
このとき、エバネッセント波の滲み出し領域内に蛍光標識22が存在すると、その蛍光標識22が励起されて蛍光Lfが発生する。ここで、エバネッセント波の染み出し領域とほぼ同等の領域に存在する表面プラズモンによる電場増強効果により、蛍光Lfは増強されたものとなる。光検出器36は、この増強された蛍光Lfを検出する。以上のようにして蛍光標識22の存在を検出することは、すなわち、抗体13と結合した抗原Aの存在を検出することになる。
【0036】
光検出器36が出力する蛍光検出信号は信号処理部42に送られ、そこで所定の時間間隔でサンプリングされ、またそのサンプリングされた信号は増幅やA/D変換等の処理にかけられて所定規格の蛍光測定データとされる。この蛍光測定データは、一旦記憶部43に記憶される。演算部44は記憶部43から上記蛍光測定データを読み出し、それらの蛍光測定データに演算処理を加えて、最終的な測定結果として出力する。この測定結果は、例えば測定時間とそれに対応した演算値(例えばセンサ部14における単位面積当たりの抗原Aの固定量など)の関係等である。
【0037】
なお微小流路11中には、固定されている抗体13と結合していない抗原Aや標識抗体20が浮遊しており、またセンサ部14には標識抗体20が非特異吸着している。これらを除去するため、蛍光Lfの検出前に、適宜洗浄液を流路に導入するようにしてもよい。
【0038】
また、例えば励起光L0として780nmに中心波長を有するレーザ光を用い、前述の金属膜として金(Au)膜を用いる場合、金属膜の厚みは50nm±20nmが好適である。さらに好ましくは、47nm±10nmである。なお、金属薄膜は、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、およびこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とするものが好ましい。
【0039】
次に、この測定装置においてなされる試料液Sの流速制御について説明する。試料吸引ポンプ34が試料液Sの吸引を開始した後に圧力センサ40が検出する配管33内の圧力、つまり微小流路11内の圧力(負圧)は、基本的に図4に示すように変化する。同図にAで示す時間範囲は測定前段すなわち、前記蛍光Lfの検出を行う前に試料液Sをセンサ部14まで送る段階を示し、時間T以降のBで示す時間範囲が蛍光Lfの検出を行う測定段階である。なお上記測定前段の後、一時開放弁35が開かれて配管33内が大気開放される。
【0040】
同図に示される通り、測定前段において時間Tに試料吸引が開始してから、その後時間Tになると、微小流路11内の圧力(負圧)が急激に増大する。この点について、図5を参照して説明する。なおこの図5において、図1〜3中の要素と同等の要素には同番号を付してあり、それらについての説明は特に必要のない限り省略する。先に述べた通りセンサ部14は、その前後における微小流路11よりも著しく浅く形成されている。つまり図5に(4)で示す部分において、微小流路11の断面積は上流側から下流側に向けて急激に減少している。このような部分を試料液Sの先端部分が通過するとき流路抵抗が急増するので、圧力センサ40が検出している圧力(負圧)が急激に増大するのである。
【0041】
圧力センサ40は、測定圧力を示す圧力検出信号Spを制御部41に入力する。制御部41はこの圧力検出信号Spに基づいて、試料液Sの先端が図5に示す(4)の位置に到達したことを検知する。そして制御部41は、この検知がなされた時間Tを求める。この時間Tはすなわち、図5に示すように吸引前に試料液Sの先端が位置する部分(1)から(4)の位置までの区間を、試料液Sが通過するのに要する時間である。なお、試料液流入口16aに注入された試料液Sの先端が位置する部分(1)は、通常ほぼ一定である。
【0042】
ここで、試料吸引ポンプ34の動作条件を一定に設定しておく限り、試料液Sの粘性が高い場合ほど吸引速度が低下するので、上記所要時間Tはより長くなる。そして、試料吸引ポンプ34の動作条件がそのままにされれば、後の測定段階でセンサ部14を通過する試料液Sの流速が低下してしまう。そのようにして試料液Sの流速が、その粘性次第でまちまちになってしまうと、正確な測定が行われ得ないことは先に述べた通りである。以下、そのよう事態の発生を防止する点について説明する。
【0043】
通常の測定に先行して予め、試料吸引ポンプ34の一つの動作条件であるピストン駆動モータ回転数(駆動発振周波数)を基準的な値REFに設定し、また基準的な試料液Sを用いて通常と同様の測定がなされる。このとき、前記所要時間Tが求められ、それが基準所要時間Trとして定義される。そして制御部41の内部メモリには、実際の測定に際して測定前段で計測され得る所要時間Tの上記基準所要時間Trに対する比T/Trと、補正係数Kとの対応関係が、下表に示す補正テーブルの形で記憶されている。なおこれらの補正係数Kは、K1からK7側に行くほど、上記ピストン駆動モータ回転数(駆動発振周波数)を吸引速度増大側に補正する値とされている。
【表1】

【0044】
各回の実際の測定時に制御部41は、測定前段において実際に求めた所要時間Tの、基準所要時間Trに対する比T/Trを求め、それと対応する補正係数Kの値を上記テーブルから求める。そして制御部41は、図4の時間Tからなされる測定段階においては、試料吸引ポンプ34のピストン駆動モータ回転数(駆動発振周波数)を、基準的な値REFに係数Kを乗じた値に設定する。こうすることにより、測定前段において求められた所要時間Tが大であるほど、つまり試料液Sの粘性がより高い場合ほど、測定段階における試料吸引ポンプ34のピストン駆動モータ回転数(駆動発振周波数)が、吸引速度増大側に補正される。そこで試料液Sはセンサ部14において、その粘性に依らず常に一定の流速で、あるいはそれに近い流速で流れるようになるので、この流速の違いによって測定結果にバラつきが発生することを防止可能となる。
【0045】
以上の説明から明らかな通り本実施形態においては、圧力センサ40および制御部41が本発明における特性検出手段を構成しており、制御部41が本発明におけるポンプ動作制御手段を構成している。
【0046】
なお、試料吸引ポンプ34のピストン駆動モータ回転数(駆動発振周波数)を補正する補正テーブルとしては、表1に示した所要時間比T/Trの代わりに、微小流路11の(1)から(4)までの区間(図5参照)の実測容積Vを所要時間Tで除した値、つまりこの区間における試料液Sの平均流量を用いたもの等も適用可能である。
【0047】
また、微小流路11の所定位置を試料液Sの先端が通過したことを検知するには、上記実施形態におけるように微小流路11内の圧力を検出してその変化に基づいて検知する他、光学的に検知するようにしてもよい。より具体的には、微小流路11の所定位置に光を照射し、そのとき該微小流路11を透過した光を検出し、その検出光量の変化に基づいて試料液先端の通過を検知するもの等が適用可能である。そのような光学的検知手段は、例えば図5の(2)の位置に設けて、該(2)の位置と(1)の位置との間を所定区間として、その区間を試料液Sの先端が通過するのに要した時間を検出すればよい。あるいは、例えば図5の(2)、(3)の位置にそれぞれ上記光学的検知手段を配置して、該(2)の位置と(3)の位置との間を所定区間としてもよい。ここで、上記検出光量の変化について詳しく説明する。微小流路11に試料液Sが存在しない場合は、そこに照射した光が該流路11と流路部材12との界面で多く反射するため、上記検出光量は比較的少ないものとなる。それに対して微小流路11に試料液Sが存在する場合は、そこに照射した光が上記界面で反射し難くなるので、より多くの光が微小流路11を透過し、よって上記検出光量は比較的多いものとなる。そこで、上記検出光量が低レベル状態から急激に高レベルに変化したことを検出して、微小流路11の光照射位置を試料液Sの先端が通過したことを検知することができる。
【0048】
さらに、試料液Sに蛍光物質が含まれる場合は、測定前段において本来不要の励起光L0を照射し、図5の(5)の位置まで試料液先端が到達したとき前述のエバネッセント波により蛍光物質が励起されるようにすれば、図1に示した光検出器36の出力に基づいて、試料液先端が(5)の位置まで到達したことを検知できる。このようにする場合、試料液先端を検知する所定区間は、(1)の位置と(5)の位置との間としてもよいし、あるいは、光学的検知手段を配置した(2)の位置と(5)の位置との間としてもよい。
【0049】
なお先に述べた実施形態では、表面プラズモンによる電場増強を利用して蛍光強度を高めているが、通常の落射法による光照射を適用してもよい。その場合は、センサ部14の部分に先に述べた金属膜を形成しておくことは不要になる。
【0050】
さらに、本発明の測定装置が対象とする被検出物質(アナライト)は抗原や抗体の他、遺伝子、細胞などの固層化して観察できる生体由来物質であれば、特に制限がない。遺伝子、細胞を検出する場合は、それらに特異的に吸着する物質を微小流路の内壁に固定しておけばよい。反対に、遺伝子、細胞に特異的に吸着する物質を本発明の測定装置によって検出することも可能であり、その場合は遺伝子、細胞を微小流路の内壁に固定しておけばよい。
【0051】
また、被検出物質、あるいは試料中で被検出物質と競合する競合物質と特異的に結合する物質は、センサ表面に直接固定されている必要はなく、自己組織化単分子膜(SAM)、SiO等の誘電体膜、カルボキシメチルデキストラン等の高分子膜などを介して固定されていてもよい。
【0052】
また、被検出物質、あるいはこの被検出物質と試料液中で競合する競合物質と、それと特異的に結合する物質との組合せも、上述した抗原と抗体に限られるものではなく、その他、アビジン・ビオチン反応、酵素・基質反応など、バイオアッセイに使われる反応により結合する物質の組合せが用いられる場合にも、本発明は同様に適用可能である。
【0053】
さらに、免疫アッセイを適用する場合は、先に説明したサンドイッチアッセイだけではなく、競合法を適用することも可能である。
【0054】
また標識物質は蛍光分子に限らず、蛍光ビーズ、金属微粒子など光応答性があるその他の物質からなるものも適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 微小流路型センサチップ
11 微小流路
12 流路部材
13 抗体
14 センサ部
20 標識抗体
22 標識
23 抗体
30 プリズム
31 光源
32 ノズル
33 配管
34 試料吸引ポンプ
36 光検出器
40 圧力センサ
41 制御部
44 演算部
45 表示手段
46 入力手段
A 抗原
0 励起光
Lf 蛍光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液を流通させる微小流路が設けられ、この微小流路内の一部に、試料液中の物質と特異的に結合する物質を固定したセンサ部が配設されてなるセンサチップを用い、
前記微小流路に接続させた配管を介してポンプにより試料液を吸引して流通させ、その試料液中に含まれ得る被検出物質に関する測定を行う測定装置において、
前記測定がなされる前に、前記ポンプにより吸引されて微小流路を前記センサ部に向かって流れる試料液について、その粘性に関わる特性を検出する特性検出手段と、
前記測定がなされるとき、ポンプの動作条件を、前記特性が示す粘性が高いほど吸引速度増大側に制御するポンプ動作制御手段とが設けられたことを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記特性検出手段が、微小流路内の所定区間を試料液先端が通過するのに要した時間を検出するものであることを特徴とする請求項1記載の測定装置。
【請求項3】
前記特性検出手段が、前記所定区間を規定する流路断面積変化点を試料液先端が通過することを、該微小流路内の圧力を測定してその変化に基づいて検知するものであることを特徴とする請求項2記載の測定装置。
【請求項4】
前記特性検出手段が、前記所定区間を規定する微小流路の所定位置に光を照射し、そのとき該微小流路を透過した光を検出し、その検出光量の変化に基づいて該所定位置を試料液先端が通過することを検知するものであることを特徴とする請求項2記載の測定装置。
【請求項5】
前記特性検出手段が、前記所定区間を規定する微小流路内の所定位置において微小流路に光を照射し、該微小流路を流れる試料液に含まれる蛍光物質が前記光により励起されて発する蛍光を検出して、該所定位置を試料液先端が通過することを検知するものであることを特徴とする請求項2記載の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−215014(P2011−215014A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83856(P2010−83856)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】