説明

測定装置

【課題】定電流を測定対象物に流すための電流制御用の出力トランジスタで生じる電力損失を、測定対象物の抵抗やプローブの配線抵抗の大小によらず小さくすることができ、トランジスタで発生する熱量を小さくすることができる測定装置を提供する。
【解決手段】測定装置1は、電源部2から測定対象物Rdutに電流Icを流す経路内に、定電流を流すように駆動されるトランジスタQ1を配して、測定対象物Rdutに定電流を供給し、測定対象物Rdutの両端電圧を検出して、測定対象物Rdutのパラメータを測定する測定装置であって、電源部2が出力電圧を変更可能になっており、電源部2に出力電圧を設定する電圧設定部6を備えると共に、トランジスタQ1のVCEを検出する電位差検出部3と、電位差検出部3の検出したVCEを、トランジスタQ1の飽和電圧VCE(sat)に基づく閾値に対して比較する比較部5とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流制御用のトランジスタにより電源部から測定対象物に定電流を供給し、測定対象物のパラメータを測定する測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
測定装置には、抵抗測定装置やインピーダンス測定装置などのように、測定対象物に定電流を流し、2端子法や4端子法によって測定対象物の両端電圧を検出して、オームの法則に従い抵抗値やインピーダンスの値の測定を行うものがある。例えば、特許文献1に、4端子法で抵抗値を測定する抵抗測定装置が記載されている。
【0003】
特許文献1の抵抗測定装置では、同文献中の図1に示されているように、測定対象物(被測定物Rx)には、トランジスタ(半導体素子14)を介して、定電流が供給される。トランジスタには電源部(駆動電源15)が接続されていて、測定対象物に定電流が流れるように、トランジスタが負帰還制御されている。
【0004】
このような測定装置の動作を説明するために、一般的な従来の測定装置の回路構成図を、図5に示す。なお、出力トランジスタとして特許文献1のようにNPN型トランジスタを用いてもよいが、図5では、コレクタ−エミッタ間の飽和電圧を小さく使用することができるPNP型トランジスタを用いた回路例を図示している。
【0005】
測定装置100では、同図中に破線矢印で示すように、電源VccからトランジスタQ101、電流供給端子Hc、プローブP1、測定対象物Rdut、プローブP2、電流供給端子Lc、電流検出抵抗R101の経路で測定用の電流Icが流れる。この電流Icにより電流検出抵抗R101に発生する電圧が、オペアンプA101の非反転入力端子に入力されている。又、オペアンプA101の反転入力端子には、基準電圧源D101から基準電圧Vrefが入力されている。オペアンプA101の出力端子が、抵抗102を介してトランジスタQ101のベースに接続されていることで、オペアンプA101は、電流検出抵抗R101に発生する電圧が基準電圧Vrefに等しくなるように、トランジスタQ101を駆動(負帰還制御)する。これにより、電流検出抵抗R101に流れる電流Ic、つまり、測定対象物Rdutに流れる測定用の電流Icは一定の定電流になる。
【0006】
又、電圧測定部90の電圧検出端子Hvに接続されたプローブP3、及び電圧検出端子Lvに接続されたプローブP4が、測定対象物Rdutの両端に接触されていて、電圧測定部90が測定対象物Rdutの両端電圧を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平4−118672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図5に示した測定装置100では、測定対象物Rdutの抵抗値に関わらず、常に定電流が流れるように動作する。この定電流が流れるように、トランジスタQ101のコレクタ−エミッタ間電位差(VCE)が変化する。例えば、測定対象物Rdutの抵抗値が小さいときには、トランジスタQ101のVCEが大きくなり、測定対象物Rdutの抵抗値が大きいときには、VCEが小さくなる。トランジスタQ101には電流Icが流れるため、VCEとIcとを乗算した値の電力がトランジスタQ101で熱として消費される。抵抗値が小さいときには、VCEが大きくなるため、発熱量は大きくなる。
【0009】
又、図示していないが、測定装置100は測定値の範囲に対応して切り換える測定レンジを有していて、測定レンジによって、定電流Icの電流値を切り換えるようになっている。低抵抗を測定する測定レンジでは、抵抗値を精度よく測定するように、電流Icの電流値を大きくしている。例えば、100mΩレンジでは、電流Icとして1Aの定電流を流す。このように測定用に大きな電流を流すときには、測定対象物Rdutの抵抗値が小さいと、トランジスタQ101で発生する熱量は一層大きくなる。
【0010】
そのため、トランジスタQ101に、放熱フィンや放熱ファンなど放熱用の部品を備える必要があるし、熱となる電力が無駄である。又、装置内の温度が上昇するため、各使用部品の温度特性により、回路定数が変動し、測定結果に影響がでる場合もある。
【0011】
又、例えば、図5において、電源電圧Vcc=1.5V、基準電圧Vref=100mV、電流検出抵抗R101=100mΩ、測定対象物Rdut=1mΩ、プローブP1,P2の配線にAWG24(84.21mΩ/m)を各5m使用したときに、配線抵抗(図5に等価的にRc1,Rc2で示す)の総和が840mΩであるときは、トランジスタQ101のVCEは、電源電圧Vccから測定対象物Rdut、プローブP1,P2、及び電流検出抵抗R101の電圧降下を減算して、
CE=1.5−1×(0.001+0.840+0.1)=0.559V
になる。したがって、トランジスタQ101の消費電力Pは、
P=1×0.559=0.559W になる。
【0012】
又、プローブP1,P2の配線が各0.5mであるときに、その配線抵抗の総和が84mΩになる。この場合、
CE=1.5−1×(0.001+0.084+0.1)=1.315V
である。したがって、トランジスタQ101の消費電力Pは、
P=1×1.315=1.315W になる。
【0013】
このように、低抵抗を測定するときは、プローブP1,P2の配線抵抗Rc1,Rc2によっても、トランジスタQ101の消費電力の値は大きく変化する。
【0014】
トランジスタQ101の消費電力(電力損失)を小さくするために、電源電圧を低くすることも考えられるが、配線抵抗Rc1+Rc2として許容できる抵抗分が減少するため、電源電圧をあまり小さくすることはできない。
【0015】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、定電流を測定対象物に流すための電流制御用の出力トランジスタで生じる電力損失を、測定対象物の抵抗やプローブの配線抵抗の大小によらず小さくすることができ、トランジスタで発生する熱量を小さくすることができる測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された測定装置は、電源部から測定対象物に電流を流す経路内に、定電流を流すように駆動されるトランジスタを配して、該測定対象物に該定電流を供給し、該測定対象物の両端電圧を検出して、該測定対象物のパラメータを測定する測定装置であって、該電源部が、出力電圧を変更可能になっており、該電源部に該出力電圧を設定する電圧設定部を備えると共に、該トランジスタに生じる電位差を検出する電位差検出部と、該電位差検出部の検出した該電位差を、該トランジスタの飽和電圧に基づく閾値に対して比較する比較部とを備えることを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載された測定装置は、請求項1に記載のもので、前記電圧設定部が、前記比較部の比較結果に基づいて、前記電源部の前記出力電圧を制御することを特徴とする。
【0018】
請求項3に記載された測定装置は、請求項2に記載のもので、前記電源部が、複数の前記出力電圧の中から一つの出力電圧を出力可能に構成されており、前記電圧設定部が、前記比較部の比較結果に基づいて、前記トランジスタに生じる電位差が前記閾値よりも大きくなり、かつ最小となる該出力電圧を該電源部に出力させることを特徴とする。
【0019】
請求項4に記載された測定装置は、請求項2に記載のもので、前記電源部が、連続的に出力電圧を変更して出力可能に構成されており、前記電圧設定部が、前記比較部の比較結果に基づいて、前記トランジスタに生じる電位差が前記閾値になるように、該電源部を制御することを特徴とする。
【0020】
請求項5に記載された測定装置は、請求項1から4のいずれかに記載のもので、前記比較部が、ヒステリシス回路を有していることを特徴とする。
【0021】
請求項6に記載された測定装置は、請求項1から5のいずれかに記載のもので、前記電圧設定部が設定する出力電圧を、手動操作により入力するための操作手段と、前記比較部の比較結果に基づいて、前記トランジスタに生じる電位差が前記閾値以下のときに警告を発する警告部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の測定装置によれば、電源部が出力電圧を変更可能であり、電源部に出力電圧を設定する電圧設定部を備えることで、電源電圧を変更してトランジスタに生じる電位差を調整できるので、トランジスタで生じる電力損失を適宜調整することができる。このため、トランジスタの発生する熱量を小さく調整できる。さらに、トランジスタに生じる電位差を検出する電位差検出部と、電位差検出部の検出した電位差を、トランジスタの飽和電圧に基づく閾値に対して比較する比較部とを備えているので、トランジスタに生じる電位差が飽和電圧に対して適正かどうか判定することができる。
【0023】
電圧設定部が比較部の比較結果に基づいて電源部の出力電圧を制御する場合、トランジスタで生じる電位差を、電力損失の少ない適正な値に自動的に設定することができる。
【0024】
電源部が複数の出力電圧の中から1つを出力可能に構成されており、電圧設定部が比較部の比較結果に基づいて、トランジスタに生じる電位差が閾値よりも大きくなり、かつ最小となる出力電圧を電源部に出力させる場合、正常に動作する最小の電源電圧に自動的に切り替わるので、トランジスタの電力損失を小さくすることができる。
【0025】
電源部が連続的に出力電圧を変更して出力可能に構成されており、電圧設定部が比較部の比較結果に基づいて、トランジスタに生じる電位差が閾値になるように、電源部を制御する場合、トランジスタの電力損失を、自動的に常に一定の小さな値とすることができる。
【0026】
比較部がヒステリシス回路を有している場合、閾値付近で比較結果のばたつきを防止できる。又、ヒステリシス回路を有することで、比較部の比較結果に基づいて電圧設定部が電源部に電源電圧を設定する構成のときに、例えばプローブの接触抵抗の変動などによりトランジスタの電位差が変動したとしても、この変動に追随して電源電圧が変化してしまうことを防止でき、電源電圧を安定させることができる。
【0027】
電圧設定部が設定する出力電圧を、手動操作により入力するための操作手段と、比較部の比較結果に基づいて、トランジスタに生じる電位差が閾値以下のときに警告を発する警告部とを備える場合、測定者が手動操作で電源電圧を変更することができるので、測定の自由度が増す。さらに、電源電圧が不足しているときには警告部から警告が発せられるので、測定者は、警告の有無で電源電圧が適正であるか否かを知ることができ、警告が発せられたときは電源電圧を高くして、正しい測定状態で測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を適用する測定装置の使用状態における要部を示す回路構成図である。
【図2】本発明を適用する他の測定装置の使用状態における要部を示す回路構成図である。
【図3】本発明を適用するさらに他の測定装置の使用状態における要部を示す回路構成図である。
【図4】本発明を適用する測定装置に使用される電位差検出部の一例を示す回路図である。
【図5】従来の測定装置の使用状態を示す回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
図1に、本発明を適用する測定装置1の要部を示す。測定装置1は、測定対象物Rdutに測定用の定電流Icを流すために、電源部2、トランジスタQ1、電流供給端子Hc,Lc、プローブP1,P2、電流検出抵抗R1、基準電圧源D1、オペアンプA1、抵抗R2、電位差検出部3、閾値規定部4、比較部5、電圧設定部6を備えている。なお、図1では、図5に示した電圧検出部90やプローブP3,P4の図示を省略している。
【0031】
電源部2は、出力電圧を変更可能に構成されているものである。この例では、電源部2が複数の異なる電源電圧の中から一つの電源電圧を選択的に切換えて出力することで、出力電圧が変更可能になっている。具体的には、一例として、定電圧回路11aが、電源電圧Vccから一定の電源電圧V1を生成し、定電圧回路11bが、一定の電源電圧V2を生成している。ここで、電源電圧V1<電源電圧V2の関係になっている。なお、電源電圧V2として、一定の電源電圧Vccを使用してもよい。切換スイッチSW1は、2入力の内の1つを切り換えて出力する例えば電磁リレー又は半導体スイッチである。切換スイッチSW1は、電圧設定部6に制御されて、入力端子に接続された電源電圧V1、及び電源電圧V2の内の一つを出力する。この切換スイッチSW1の出力端子は、トランジスタQ1のエミッタに接続されている。
【0032】
トランジスタQ1は、電源部2から測定対象物Rdutに電流を流す経路内に配されていて、定電流を流すように駆動される。具体的には、トランジスタQ1は、PNP型トランジスタであり、そのコレクタが電流供給端子Hcに接続されている。電流供給端子Hcに、プローブP1が取り付けられて、その接触子が測定対象物Rdutの一端に接触されている。また、電流供給端子LcにプローブP2が取り付けられて、その接触子が測定対象物Rdutの他端に接触されている。電流供給端子Lcは、電流検出抵抗R1を介して基準グランド電位に接続されている。また、電流供給端子Lcは、オペアンプA1の非反転入力端子に接続されている。基準グランド電位に対して基準電位Vrefを出力する基準電圧源D1がオペアンプA1の反転入力端子に接続されている。オペアンプA1の出力端子は、抵抗R2を介して、トランジスタQ1のベースに接続されている。
【0033】
電位差検出部3は、トランジスタQ1のエミッタに入力端子IN1が接続されており、コレクタに入力端子IN2が接続されている。電位差検出部3は、測定用の電流Icが流れることでトランジスタQ1に生じる電位差、つまり、コレクタ−エミッタ間電位差(VCE)を検出する。電位差検出部3は、検出したVCEに等しい直流電圧を、出力端子OUTから出力する。なお、電位差検出部3がVCEを所定の増幅率で増幅して出力するようにしてもよい。この出力端子OUTは、比較部5の入力端子Aに接続されている。比較部5の入力端子Bには、閾値規定部4が接続されている。
【0034】
閾値規定部4は、トランジスタの飽和電圧に基づく閾値を出力可能になっている。この例では、閾値規定部4は、閾値として、トランジスタQ1のコレクタ−エミッタ間飽和電位差(飽和電圧)VCE(sat)と等しい直流電圧を比較部5に出力する。なお、閾値規定部4が、閾値としてVCE(sat)を所定の増幅率で増幅して出力するようにしてもよい。VCE(sat)としては、飽和し始める飽和開始電圧を用いることが好ましい。
【0035】
比較部5は、電位差検出部3の検出したVCEと、閾値規定部4から出力されるVCE(sat)とを比較して、その比較結果を電圧設定部6に出力する。この例では、比較部5は、比較結果として、VCEがVCE(sat)よりも高いか低いかを示すと共に、VCEとVCE(sat)との差を示す電圧(信号)を出力する。
【0036】
電圧設定部6は、比較部5の比較結果に基づいて、トランジスタQ1に生じるVCEが飽和電圧VCE(sat)よりも大きく、かつ所定電位差以下になるように、電源部2を制御する。
【0037】
次に、測定装置1の動作について説明する。
【0038】
先ず、概要について説明する。測定装置1では、同図中に破線矢印で示す経路で電流Icが流れ、この電流Icが測定用の定電流になるように、つまり、電流検出抵抗R1に発生する電圧が、基準電圧Vrefと等しい電圧になるように、オペアンプA1がトランジスタQ1を駆動(負帰還制御)する。この負帰還制御で電流Icが測定用の定電流になっているときは、トランジスタQ1が活性領域で動作しており飽和していないので、VCEはVCE(sat)よりも大きくなる。VCEがVCE(sat)よりも必要以上に大き過ぎるときは、トランジスタQ1で生じる電力損失が大きくなるので、トランジスタQ1が飽和しない程度に、電源電圧を低くすればよい。
【0039】
一方、電源電圧が低くてトランジスタQ1が飽和してしまうと、電流Icが測定用の定電流よりも小さな電流になり、VCEがVCE(sat)以下になる。したがって、VCEがVCE(sat)以下のときは、トランジスタQ1が飽和しないように、電源電圧を高く変更すればよい。
【0040】
以下、具体的に説明する。比較部5は、一例として、次の(1)式に示すように、電位差検出部3が検出したトランジスタQ1のVCEと、閾値規定部4の出力するVCE(sat)との差の電圧Vdifを表す信号を電圧設定部6に出力する。
Vdif=VCE−VCE(sat) ・・・(1)
【0041】
ここで、
電源電圧差ΔV=電源電圧V2−電源電圧V1
・・・(2)
とおく。
【0042】
電圧設定部6が切換スイッチSW1を制御して、電源部2から電源電圧V2を出力させている場合、
Vdif>ΔV ・・・(3)
の関係を満たすときには、VCEがVCE(sat)よりも必要以上に大き過ぎるので、電源電圧設定部6は、電源部2を制御して、電源電圧V2から電源電圧V1に切り換える。電源電圧V1に電圧を下げても、Vdif>0、つまりVCE>VCE(sat)になるので、トランジスタQ1は飽和しない。このため、電流Icとして測定用の定電流が流れ、測定対象物Rdutの測定に悪影響を与えない。
【0043】
これにより、VCEがΔVだけ小さくなるので、トランジスタQ1で生じる電力損失がΔV×Ic小さくなる。したがって、トランジスタQ1で発生する熱量を小さくすることができる。
【0044】
一方、電圧設定部6が切換スイッチSW1を制御して、電源部2から電源電圧V1を出力させている場合、比較部5から
Vdif≦0 ・・・(4)
を示す信号が出力されたときには、トランジスタQ1が飽和しているので、電源電圧設定部6は、電源電圧V1から電源電圧V2に電圧を高くする。
【0045】
これにより、VCEが大きくなって、トランジスタQ1が飽和せず活性領域で動作するようになり、電流Icとして測定用の定電流が流れ、測定対象物Rdutを正しく測定することができる。
【0046】
なお、電源部2が電源電圧V1、V2の2つの出力電圧を切り換えて出力可能である例について説明したが、その数は限定されず、例えば5つ(複数)の異なる出力電圧を切り換えて出力するようにしてもよい。この場合も、各出力電圧間の差をΔVとしたときに、Vdif>ΔVであれば電源部の出力電圧が高過ぎるので、Vdif≦ΔVの関係を満たすまで出力電圧を1段ずつ低くする。又、Vdif≦0であればトランジスタQ1が飽和しているので、0<Vdifの関係を満たすまで出力電圧を1段ずつ高くする。このように、電圧設定部は、VCEがVCE(sat)よりも大きくなり、かつ最小となる出力電圧を電源部に出力させる。多くの出力電圧を出力可能にしたほうが、VCEを細やかに制御できるので、無駄な電力損失を可及的に少なくできるので好ましい。
【0047】
次に、本発明を適用する他の測定装置1aについて説明する。
【0048】
図2に、測定装置1aの要部を示す。測定装置1aは、測定装置1と比して、電源部2a、閾値規定部4a、比較部5a、及び電圧設定部6aが相違しているが、あとは測定装置1と同様に構成されている。
【0049】
電源部2aは、連続的に出力電圧を変更可能なものである。この例では、電源部2aは、一例として、公知の降圧型のスイッチング電源であり、電源電圧Vccを、0〜Vccの任意の電圧に変換して、出力可能になっている。電源部2aは、スイッチング回路21及び平滑回路22を備えている。スイッチング回路21は、同図の上部に示すように、電源電圧Vccをパルス幅変調して、繰り返し周期Tでオン/オフする矩形波を出力する。スイッチング回路21は、電圧設定部6aに制御されて、オン期間Tonを可変可能に構成されている。平滑回路22は、スイッチング回路21から出力される矩形波を、チョークコイル及びコンデンサなどの公知の平滑用の回路で一定の直流電圧にして出力する。
【0050】
閾値規定部4aは、閾値として、VCE(sat)にマージンを加えた直流電圧Vsetを、比較部5aに出力する。測定装置1aでは、VsetとVCEとが等しくなるように動作するため、トランジスタQ1で発生する電力損失が大きくなり過ぎないように、マージンを適宜小さな値に設定する。なお、閾値規定部4aがVsetを所定の増幅率で増幅して出力するようにしてもよい。
【0051】
比較部5aは、電位差検出部3から出力されるVCEと、閾値規定部4aから出力されるVsetとの大小を比較して、その比較結果を電圧設定部6aに出力する。電圧設定部6aは、比較部5aの比較結果に基づいて、スイッチング回路21に、オン期間Tonを設定することで、電源部2aの出力電圧を制御する。具体的には、比較部5aから「VCE>Vset」を表す信号が出力されているときには、期間Tonを減少させ、「VCE<Vset」を表す信号が出力されているときには、期間Tonを増加させる。この負帰還制御により、VCE=Vsetになる。
【0052】
したがって、トランジスタQ1で生じる電力損失が常に一定のVset×Icになる。このため、トランジスタQ1で必要以上の無駄な電力損失が殆ど生じず、発生する熱量も小さくなるので、好ましい。
【0053】
なお、例えば、プローブP1,P2を持つ測定者の手の揺れなどにより、測定対象物RdutとプローブP1,P2との接触状態が変動すると、接触抵抗が変化する場合がある。このような微小な抵抗値の変動に対しては、電流検出抵抗R1、オペアンプA1、トランジスタQ1側の負帰還ループが応答して、VCEを変化させるが、このVCEの変化に電位差検出部3、比較部5a、電圧設定部6a及び電源2aの負帰還ループが応答しないように、同図に示すように、比較部5aにヒステリシス回路8を付しておくことが好ましい。ヒステリシス回路8としてはシュミットトリガー回路など公知の回路が使用できる。
【0054】
比較部5aにヒステリシス回路8が付され、そのヒステリシス幅をhとすると、
CE>Vset+h
のときに、比較部5aは電圧設定部6aに「VCE>Vset」を表す信号を出力し、
CE<Vset
のときに、電圧設定部6aに「VCE<Vset」を表す信号を出力する。
【0055】
このヒステリシス回路8により、Vset<VCE<Vset+hの範囲内であれば、接触抵抗の変化などで抵抗値が多少変化したとしても電源電圧が変化しない。このため、測定値が安定する。
【0056】
このようなヒステリシス回路8を、図1を用いて説明した測定装置1の比較部5に付してもよい。測定装置1にヒステリシス回路8を付すことで、接触抵抗の変化などで電源電圧V1,V2が不必要に切り替わってしまうことを防止できると共に、電源電圧V1,V2の切り替わり時のばたつきを防止することができる。
【0057】
次に、本発明を適用する他の測定装置1bについて説明する。
【0058】
図3に、測定装置1bの要部を示す。既に説明した測定装置1,1aは、トランジスタQ1の電力損失が小さくなるように自動的に電源電圧を変化させる例であったが、この測定装置1bは、測定者が手動で電源電圧を変化させる例である。
【0059】
測定装置1bは、同図に示すように、一例として電源部2に電圧設定用操作部6bが接続されている。また、比較部5には、警告発生部9が接続されている。
【0060】
電源部2は、一例として、測定装置1で説明したものと同様のものを使用しているが、測定装置1aの電源部2aを使用してもよい。電圧設定用操作部6bは、本発明における電圧設定部の一例であると共に、電圧を手動操作により設定するための、例えば回転式の切換スイッチ、押しボタンスイッチ、又は数値設定キーなどの操作手段を有するものである。電圧設定用操作部6bは、測定者によって選択又は数値設定された電源電圧を、電源部2に出力させる。
【0061】
警告発生部9は、例えば、警告音、警告用のランプの点灯、警告メッセージの表示などの警告を発生する。
【0062】
この測定装置1bでは、比較部5からVCEがVCE(sat)以下であることを示す信号が出力されたときに、警告発生部9が警告を発生する。この警告の発生により、測定者は、電源電圧が不足してトランジスタQ1が飽和していることを知ることができる。測定者は、この警告が発生したときに、電圧設定用操作部6bを操作して、電源電圧を高くすることで、測定状態を維持でき、正確な測定値を得ることができる。
【0063】
このような電圧設定用操作部6b及び警告発生部9を、既に説明した測定装置1,1aに備えることで、手動/自動を選択して、電源部2(2a)の出力電圧を変化させるようにしてもよい。又、比較部5からVCEとVCE(sat)との電圧差を出力させ、その電圧差を表示部(図示せず)に表示させて、測定者が電圧差を認識できるようにしてもよい。
【0064】
また、測定装置1bの比較部5にヒステリシス回路8を付してもよい。
【0065】
図4に、電位差検出部3の回路例を示す。同図に示すように、電位差検出部3として、オペアンプA2、及び抵抗Rs1,Rs2,Rf1,Rf2で構成される公知の差動増幅回路を用いてもよい。抵抗Rs1=抵抗Rs2、抵抗Rf1=抵抗Rf2としたときに、増幅率は、Rf1/Rs1となる。入力端子IN1、IN2間の電位差が、増幅率が1、又は1以上の所定の増幅率で増幅されて出力端子OUTから出力される。
【0066】
なお、電位差検出部3を図4に示したようなアナログ回路ではなく、デジタル回路で構成してCPU(中央演算処理装置)で演算処理するようにしてもよい。この場合、一例として、電位差検出部3の入力端子IN1,IN2の各々に直接、又は増幅器を介してA/D変換器を接続し、各A/D変換器の出力をCPUで差分を演算する。又、閾値設定部4(4a)、比較部5(5a)や電圧設定部6(6a)を、CPUで演算処理するようにしてもよい。CPUを使用するときには、その動作用のプログラムを記憶させたメモリを備える。
【0067】
又、電流制御用のトランジスタQ1がPNP型トランジスタである例について示したが、NPN型トランジスタや電界効果トランジスタであっても本発明を適用することができる。又、4端子法で測定する測定装置1,1a,1bについて説明したが、2端子法で測定する測定装置に本発明を適用することもできる。又、電流Icが電源部2(2a)→トランジスタQ1→測定対象物Rdut→基準グランド電位の経路で流れる構成の測定装置1(1a,1b)について説明したが、電流Icが電源部2(2a)→測定対象物Rdut→トランジスタQ1→基準グランド電位の経路で流れる構成の測定装置としてもよい。又、トランジスタQ1を駆動する回路構成を、公知の種々の構成に適宜変更してもよい。又、電流検出抵抗R1を配する位置を、回路構成に合わせて電流Icの経路内の他の位置に適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1・1a・1bは測定装置、2・2aは電源部、3は電位差検出部、4・4aは閾値規定部、5・5aは比較部、6・6aは電圧設定部、6bは電圧設定用操作部、8はヒステリシス回路、9は警告発生部、11a・11bは定電圧回路、21はスイッチング回路、22は平滑回路、90は電圧測定部、100は従来の測定装置、A・Bは入力端子、A1・A2はオペアンプ、D1は基準電圧源、Hc・Lcは電流供給端子、Icは測定用の電流、IN1・IN2は入力端子、OUTは出力端子、P1・P2・P3・P4はプローブ、R1は電流検出抵抗、R2・Rs1・Rs2・Rf1・Rf2は抵抗、Q1はトランジスタ、Rdutは測定対象物、SW1は切換スイッチ、Tは繰り返し周期、Tonはオン期間、Vcc・V1・V2は電源電圧、Vrefは基準電圧、VCEはコレクタ−エミッタ間電位差、A101はオペアンプ、D101は基準電源、D101は基準電圧源、R101は電流検出抵抗、R102は抵抗、Q101はトランジスタである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源部から測定対象物に電流を流す経路内に、定電流を流すように駆動されるトランジスタを配して、該測定対象物に該定電流を供給し、該測定対象物の両端電圧を検出して、該測定対象物のパラメータを測定する測定装置であって、
該電源部が、出力電圧を変更可能になっており、該電源部に該出力電圧を設定する電圧設定部を備えると共に、
該トランジスタに生じる電位差を検出する電位差検出部と、
該電位差検出部の検出した該電位差を、該トランジスタの飽和電圧に基づく閾値に対して比較する比較部とを備えることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記電圧設定部が、前記比較部の比較結果に基づいて、前記電源部の前記出力電圧を制御することを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記電源部が、複数の前記出力電圧の中から一つの出力電圧を出力可能に構成されており、
前記電圧設定部が、前記比較部の比較結果に基づいて、前記トランジスタに生じる電位差が前記閾値よりも大きくなり、かつ最小となる該出力電圧を該電源部に出力させることを特徴とする請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記電源部が、連続的に出力電圧を変更して出力可能に構成されており、
前記電圧設定部が、前記比較部の比較結果に基づいて、前記トランジスタに生じる電位差が前記閾値になるように、該電源部を制御することを特徴とする請求項2に記載の測定装置。
【請求項5】
前記比較部が、ヒステリシス回路を有していることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の測定装置。
【請求項6】
前記電圧設定部が設定する出力電圧を、手動操作により入力するための操作手段と、
前記比較部の比較結果に基づいて、前記トランジスタに生じる電位差が前記閾値以下のときに警告を発する警告部とを備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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