説明

湯水混合装置及びそれを備えた湯水混合水栓

【課題】温度調節の応答性を著しく悪化させることなく、脈流現象を抑制することができる湯水混合装置を提供する。
【解決手段】本発明は、湯水混合装置(20)であって、湯水混合装置本体(21)と、湯水混合装置本体の内部に摺動可能に配置され、摺動されることにより、各シート面との間の隙間を変化させ流入する湯及び水の流量を変化させる主弁体(30)と、主弁体を摺動させる付勢手段(32)と、付勢手段とは逆方向に主弁体を付勢し、湯の温度に応じて付勢力が変化する感温付勢手段(34)と、主弁体と湯水混合装置本体の間に配置され、湯及び水の混合を防止する弾性シール部材(42)と、弾性シール部材と接触する部分に形成され、主弁体が湯水混合装置本体内で摺動されるとき、弾性シール部材を弾性変形させることにより主弁体の摺動に抵抗を与える摺動抵抗付与手段(64)と、を有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湯水混合装置及びそれを備えた湯水混合水栓に関し、特に、供給された湯及び水を混合し、適温に調整された湯を吐出させる湯水混合装置及びそれを備えた湯水混合水栓に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、形状記憶合金等により形成された感温ばねの付勢力により弁体を移動させ、吐出される湯水の温度を調整する湯水混合水栓が広く普及している。このように、感温ばねの付勢力により弁体を駆動することにより、温度調節の応答が速い湯水混合水栓を構成することが可能になる。しかしながら、弁体の移動の応答性が向上することにより、湯水が適温に混合される位置に弁体が静止せず、振動を繰り返すハンチング現象と呼ばれる脈流現象が発生するという問題がある。
【0003】
特開平9−89156号公報(特許文献1)には、感温ばねの応答性調節方法が記載されている。この感温ばねの応答性調節方法では、自動温度調節式の湯水混合水栓の中に配置される感温ばねに処理を施すことにより、応答性を調節することが記載されている。即ち、この応答性調節方法では、感温ばねの表面にショットピーニング加工を施したり、感温ばねの表面にコーディングを施すことにより、感温ばねの応答性を調節している。
【0004】
【特許文献1】特開平9−89156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開平9−89156号公報に記載された応答性調節方法では、感温ばね自体の応答性が低下するため、湯水混合水栓に供給される湯や水の急激な圧力変化等に十分に対応することができず、吐出される湯水の温度が一時的に高くなったり、低くなったりすることがあるという問題がある。
【0006】
一方、湯水混合装置において弁体の周囲に配置されているOリング等が弁体に作用させる摺動抵抗により、脈流現象が発生しにくくなることが知られている。従って、例えば、弁体の周囲に配置されているOリングの締め代を大きくすることにより弁体に作用する摺動抵抗を大きくし、脈流現象を抑制することが考えられる。しかしながら、Oリングの締め代を調整することにより適度な摺動抵抗を得ることは困難であり、締め代が小さすぎれば抑制効果が得られず、締め代が大きすぎれば温度調節の応答性が著しく悪化することになる。即ち、Oリングの締め代の大きさの変化に対する摺動抵抗の増減は、極めて急激であり、湯水混合装置を構成する各部品の寸法公差等を考慮すると、安定して適度な摺動抵抗を得ることが難しいという問題がある。
【0007】
従って、本発明は、温度調節の応答性を著しく悪化させることなく、脈流現象を抑制することができる湯水混合装置及びそれを備えた湯水混合水栓を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、供給された湯及び水を混合し、適温に調整された湯を吐出させる湯水混合装置であって、湯側シート面及び水側シート面を備えた湯水混合装置本体と、両側にシート部が形成されており、湯水混合装置本体の内部に摺動可能に配置され、摺動されることにより、各シート部と湯側シート面及び水側シート面との間の隙間を変化させ、湯水混合装置本体内に流入する湯及び水の流量を変化させる主弁体と、この主弁体を所定方向に摺動させるように付勢する付勢手段と、この付勢手段とは逆の方向に主弁体を付勢し、湯水混合装置本体内で混合された湯の温度に応じて付勢力が変化する感温付勢手段と、主弁体の外周と湯水混合装置本体の内壁面との間に配置され、湯水混合装置本体内に流入した湯及び水が、主弁体の外側で混合されるのを防止する環状の弾性シール部材と、主弁体又は湯水混合装置本体の内壁面の、弾性シール部材と接触する部分に形成され、主弁体が湯水混合装置本体内で摺動されるとき、弾性シール部材を弾性変形させることにより主弁体の摺動に抵抗を与える摺動抵抗付与手段と、を有することを特徴としている。
【0009】
このように構成された本発明においては、湯水混合装置本体の内部に摺動可能に配置された主弁体が、主弁体を所定方向に摺動させるように付勢する付勢手段と、主弁体を付勢手段とは逆の方向に付勢する感温付勢手段の付勢力により摺動される。また、主弁体が摺動されることにより、主弁体の両側の各シート部と湯側シート面及び水側シート面との間の隙間が変化され、湯水混合装置本体内に流入する湯及び水の流量が変化される。一方、摺動抵抗付与手段は、主弁体の外周と湯水混合装置本体の内壁面との間に配置された弾性シール部材と接触するように形成されており、この摺動抵抗付与手段は、主弁体が湯水混合装置本体内で摺動されるとき弾性シール部材を弾性変形させ、この弾性変形により主弁体の摺動に抵抗が与えられる。
【0010】
このように構成された本発明によれば、摺動抵抗付与手段が主弁体の摺動に適度な抵抗を与えるので、温度調節の応答性を著しく悪化させることなく、脈流現象を抑制することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、摺動抵抗付与手段は環状溝であり、この環状溝の縁が弾性シール部材に食い込むことにより、弾性シール部材が弾性変形される。
【0012】
このように構成された本発明においては、主弁体が湯水混合装置本体内で摺動されるとき、弾性シール部材に環状溝の縁が食い込むことにより、弾性シール部材が弾性変形される。この弾性変形により主弁体に付与される摺動抵抗は、弾性シール部材が環状溝と整合している場合には小さく、環状溝の縁が弾性シール部材に食い込むにつれて大きくなる。
【0013】
このように構成された本発明によれば、温度調節性能を向上させたい位置において主弁体に付与される摺動抵抗を小さくすると共に、その位置で発生した脈動現象等を、増大された摺動抵抗により速やかに減衰させることができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、環状溝の幅は、弾性シール部材の断面の直径よりも狭く形成されている。
このように構成された本発明によれば、環状溝の縁を弾性シール部材に効果的に食い込ませることができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、摺動抵抗付与手段は、主弁体が摺動される軸線に直交する平面に対して傾斜して延びるように形成された畝であり、弾性シール部材が畝を横断する位置が変化することにより、弾性シール部材が弾性変形される。
【0016】
このように構成された本発明においては、弾性シール部材は、主弁体が摺動される軸線に直交する平面に対して傾斜して延びるように形成された畝を横断するように配置される。主弁体の摺動により、弾性シール部材と畝の相対位置が変化すると、弾性シール部材が畝を横断する位置が変化し、この際、弾性シール部材が弾性変形される。
【0017】
このように構成された本発明によれば、弾性シール部材の円周上の一部で、弾性シール部材の弾性変形量を大きくすることができるので、主弁体に付与される摺動抵抗を、容易に、適切な値に設定することができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、畝は、螺旋状に形成されている。
このように構成された本発明によれば、螺旋状に畝が形成されている部分全体に亘って、ほぼ均一な摺動抵抗を主弁体に付与することができる。
【0019】
また、本発明の湯水混合水栓は、本発明の湯水混合装置と、この湯水混合装置を収納する水栓本体と、湯水混合装置によって混合された湯の吐水状態と止水状態を切替える開閉弁と、混合された湯を吐出させる吐出部と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
従って、本発明の湯水混合装置及びそれを備えた湯水混合水栓によれば、温度調節の応答性を著しく悪化させることなく、脈流現象を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による湯水混合水栓を説明する。
まず、図1乃至図9を参照して、本発明の第1実施形態による湯水混合水栓を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態による湯水混合水栓全体を示す斜視図である。図2は、本実施形態による湯水混合水栓に内蔵されている湯水混合装置の斜視図である。
【0022】
図1に示すように、本発明の第1実施形態による湯水混合水栓1は、水栓本体2と、この水栓本体2に給湯器(図示せず)からの湯を供給する湯供給脚4と、水栓本体2に水道水を供給する水供給脚6と、を有する。さらに、湯水混合水栓1は、水栓本体2左端部に取り付けられた湯温調節用ダイヤル8と、右端部に取り付けられた吐止水切替ハンドル10と、を有する。また、湯水混合水栓1は、温度調節された湯を吐出させる吐出部であるカラン12及びシャワーヘッド14を有する。さらに、水栓本体2には、開閉弁である切替バルブ16が内蔵されている。本実施形態の湯水混合水栓1は、湯供給脚4及び水供給脚6から夫々供給された湯及び水を、湯温調節用ダイヤル8によって設定された温度になるように混合し、吐止水切替ハンドル10を操作して、カラン12又はシャワーヘッド14から吐出させるように構成されている。
【0023】
湯供給脚4は、壁面に設けられた給湯管(図示せず)と水栓本体2とを連結し、水栓本体2に湯を供給するように構成されている。
水供給脚6は、壁面に設けられた水道管(図示せず)と水栓本体2とを連結し、水栓本体2に水を供給するように構成されている。
【0024】
水栓本体2には、湯供給脚4及び水供給脚6を介して導入された湯及び水を、適宜混合して所望の温度に調節する湯水混合装置20(図2)が内蔵されている。また、水栓本体2に取り付けられた吐止水切替ハンドル10は、これを回転操作することによって、水栓本体2に内蔵された切替バルブ16を切替え、止水状態、カラン12からの吐水状態、シャワーヘッド14からの吐水状態が切替えられるようになっている。吐止水切替ハンドル10をカランの側に回転させると、湯水混合装置20(図2)によって適温に混合された湯がカラン12から吐水され、吐止水切替ハンドル10をシャワーの側に回転させると、適温に混合された湯が、シャワーヘッド14から吐水される。
【0025】
また、湯温調節用ダイヤル8は、これを廻すことによって水栓本体2に内蔵された湯水混合装置20を操作し、湯水混合装置20によって調節される湯の温度を変化させることができるように構成されている。
【0026】
次に、図2乃至図6を参照して、本実施形態の湯水混合水栓1に内蔵された湯水混合装置20を説明する。図3は湯水混合装置20の断面図であり、図4は分解斜視図である。また、図5は湯水混合装置20に内蔵された主弁体の斜視図であり、図6は断面図である。また、図7は、Oリングと主弁体の接触部分を拡大して示す図である。
【0027】
図3に示すように、湯水混合装置20は、第1本体部材22と、この第1本体部材22に螺合される第2本体部材24と、湯温調節用ダイヤル8に連結される送りねじ26と、この送りねじ26に螺合され、送りねじ26が回転されると第1本体部材22内で摺動する摺動部材28と、を有する。また、湯水混合装置20は、第1本体部材22の内部に移動可能に配置された主弁体30と、主弁体30を図3における右方向に付勢する付勢手段であるバイアスばね32と、バイアスばね32とは反対方向の図3における左方向に主弁体30を付勢する感温付勢手段である感温ばね34と、を有する。本実施形態においては、感温ばね34として、形状記憶合金製のコイルばねを使用している。
【0028】
図3及び図4に示すように、第1本体部材22は、概ね円筒状の形態であり、図3において右側に位置する第2本体部材24と螺合されることにより湯水混合装置本体21を構成している。また、第1本体部材22には、湯を流入させるための湯導入口22a及び水を流入させるための水導入口22bが夫々円周方向に設けられている。また、湯導入口22aの図3における左側の端面は、主弁体30と当接する湯側シート面22cとして形成されている。
【0029】
第2本体部材24は、概ね円筒状の形態であり、その外周端部に形成された雄ねじ部24aを、第1本体部材22の端部に形成された雌ねじ部22dと螺合させることによって、第1本体部材22に取り付けられている。また、第2本体部材24の先端部は、主弁体30と当接する水側シート面24bとして形成されている。このため、第2本体部材24を第1本体部材22に螺合させるねじ込み量を変化させることにより、湯側シート面22cと水側シート面24bの間隔を調整することができる。なお、本実施形態においては、主弁体30のストロークが約0.8mmになるように、各シート面の間隔が調整されている。さらに、第2本体部材24の水側シート面24bとは反対側の端部には、湯水混合装置本体21内で混合された湯を流出させる吐出口24cが形成されている。
【0030】
送りねじ26は、第1本体部材22の内部に回転可能に配置されている。送りねじ26の一方の端部には、湯温調節用ダイヤル8が取り付けられるスプライン部26aが形成され、他方の端部には、摺動部材28と螺合される送り雄ねじ部26bが形成されている。
【0031】
摺動部材28は、概ね円筒形の形態であり、第1本体部材22の内部に摺動可能に配置されている。また、摺動部材28の外側には、軸線方向の溝28aが形成されており、この溝28aが、第1本体部材22の内部に形成された軸線方向に延びる突起(図示せず)を受け入れることによって、摺動部材28の第1本体部材22に対する回転が拘束されている。さらに、摺動部材28の内側には、送りねじ26の送り雄ねじ部26bと螺合される送り雌ねじ部28bが形成されている。これにより、送りねじ26を回転させると、摺動部材28は第1本体部材22の軸線方向に摺動される。
【0032】
主弁体30は、図5乃至図7に示すように、概ね円筒状の円筒部60と、この円筒部60の内壁から内方に延びる張出部62と、を有する。円筒状の円筒部60の両端には、湯側シート面22cと当接するシート部60aと、水側シート面24bと当接するシート部60bが夫々形成されている。
【0033】
また、円筒部60の外周には、摺動抵抗付与手段である螺旋状の畝部64が形成されている。図7に示すように、本実施形態においては、円筒部60の外周面に、深さ約50μmの溝を約0.5mmのピッチで螺旋状に10周形成することにより、畝部64を構成している。即ち、円筒部60の外周面に形成した溝の間に、高さが約50μmの螺旋状に延びる畝が構成されることになる。また、螺旋状に延びる畝は、主弁体30が摺動される軸線に直交する平面に対して、約1.5°傾斜して延びている。
【0034】
一方、図3に示すように、弾性シール部材であるOリング42が、主弁体30の円筒部60の外周に配置されている。このOリング42は、主弁体30の円筒部60に形成された畝部64と第1本体部材22の内壁面との間に位置し、湯水混合装置本体21内に流入した湯及び水が主弁体30の外側で混合されるのを防止している。ここで、Oリング42は、畝部64の外周に、主弁体30が摺動される軸線にほぼ直交する平面内に配置される。一方、畝部64の畝は、主弁体30が摺動される軸線に直交する平面に対して傾斜して延びているため、Oリング42は、畝部64の少なくとも1本の畝を横断するように配置される。なお、本実施形態においては、図7に示すように、Oリング42の断面は円形であり、その直径Dは約2mmである。
【0035】
好ましくは、主弁体30の円筒部60に形成する畝の高さHはOリング42の断面の直径に対して約1〜5%であり、ピッチPはOリング42の断面の直径に対して約10%以上の長さにする。なお、畝の高さHが約1%よりも小さい場合には、十分な摺動抵抗を付与することができず、脈流現象を効果的に防止することができない。逆に、畝の高さHが約5%よりも大きい場合には、Oリング42による確実なシールが困難になる。さらに、ピッチPの長さが、Oリング42の断面の直径の約10%よりも小さい場合には、畝のOリング42への食い込みが小さくなるため、十分な摺動抵抗を付与することができず、脈流現象を効果的に防止することができない。
【0036】
また、Oリング42の水側(図3における右側)には、位置規制部材である脚付スペーサーリング46が配置されている。図4に示すように、脚付スペーサーリング46は、軸線方向に延びる6本の脚部46aを備えたリングである。図3に示すように、この脚部46aの先端は、第2本体部材24の水側シート面24bに当接するように配置されている。これにより、Oリング42の位置は、脚付スペーサーリング46と、第1本体部材22の内壁に形成された段部22eによって規制され、第1本体部材22内の所定の位置に位置決めされる。
【0037】
一方、図3に示すように、主弁体30の左側には、脚付環状部材38と、バイアスばね32と、ばね押え金具36と、U字金具44が配置されている。脚付環状部材38は、その脚部が主弁体30の張出部62に当接するように配置されている。ばね押え金具36は、中央部が隆起したドーナツ板状の金具であり、U字金具44によって脚付環状部材38と連結されている。バイアスばね32は、脚付環状部材38の環状部とばね押え金具36の間に挟まれ、予め圧縮された状態で第1本体部材22の内部に配置される。この構成により、バイアスばね32は、摺動部材28がばね押え金具36に当接すると、主弁体30を、図3における右方向に付勢する。
【0038】
また、図3に示すように、主弁体30の右側には、感温ばねガイド部材40と、感温ばね34が配置されている。感温ばねガイド部材40は、概ね円筒状の部材であり、第2本体部材24の内部で摺動可能に配置されている。また、感温ばねガイド部材40の図3における左側の端部は主弁体30の張出部62に当接するように配置され、この端部には、湯水混合装置本体21に流入した湯及び水を混合させ、温度を均一にするための放射状の羽根40aが設けられている。さらに、感温ばね34は、感温ばねガイド部材40の内部に配置されている。この感温ばね34の図3における左側の端部は、感温ばねガイド部材40に当接し、右側の端部は第2本体部材24の内壁面の端部に当接するように配置されている。この構成により、感温ばね34は、感温ばねガイド部材40を介して、主弁体30を図3における左方向に付勢する。
【0039】
一方、第1本体部材22の外側には、湯導入口22a及び水導入口22bを覆うように、円筒状のフィルター52、54が夫々配置されており、湯又は水に混入したゴミ等が、湯水混合装置20内に流入するのを防止している。
【0040】
次に、図1乃至図7を参照して、本発明の実施形態による湯水混合水栓1の作用を説明する。
まず、湯水混合水栓1の使用者は、湯温調節用ダイヤル8を所望の温度に設定する。ここで、湯温調節用ダイヤル8を最低温度に設定した場合には、摺動部材28は図3における左端に位置される。この状態では、図3に示すように、摺動部材28がばね押え金具36から離間するのでバイアスばね32による付勢力は作用せず、主弁体30のシート部60aは、感温ばね34の付勢力により湯側シート面22cに当接される。即ち、湯水混合装置本体21内には、水のみが流入できる状態となる。
【0041】
次に、使用者が設定温度を上昇させるために、湯温調節用ダイヤル8を操作して送りねじ26を回転させると、摺動部材28は図3における右方向に移動され、摺動部材28はばね押え金具36と当接する。これにより、バイアスばね32による付勢力も主弁体30に作用するようになり、主弁体30は、バイアスばね32の付勢力と感温ばね34の付勢力が釣り合う位置に移動される。
【0042】
湯温調節用ダイヤル8を設定した後、使用者が吐止水切替ハンドル10を操作して、切替バルブ16を止水位置からカラン12又はシャワーヘッド14からの吐水位置に切替えると、カラン又はシャワーからの吐水が開始される。吐水が開始されると、湯供給脚4から導入された湯は、フィルター52を介して湯導入口22aに流入し、水供給脚6から導入された水は、フィルター54を介して水導入口22bに流入する。湯導入口22aから流入した湯は主弁体30のシート部60aと湯側シート面22cの間を通って湯水混合装置本体21内部に流入し、水導入口22bから流入した水は主弁体30のシート部60bと水側シート面24bの間を通って湯水混合装置本体21内部に流入する。
【0043】
湯水混合装置本体21に流入した湯は、主弁体30の円筒部60の中を通って、図3における右方向に流れる。また、湯水混合装置本体21に流入した水は、円筒部60の中を流れる湯と混合され、主に感温ばね34の内部を通って吐出口24cから流出する。この際、感温ばねガイド部材40の羽根40aにより、湯と水の混合が促進され、ほぼ均一な温度に混合されて感温ばね34の内部を流れる。吐出口24cから流出した湯は、切替バルブ16(図1)を通って、カラン12又はシャワーヘッド14から吐出される。
【0044】
感温ばね34の内部を流れる湯の温度が設定温度よりも高い場合には、感温ばね34は伸びるように作用するので、感温ばね34による付勢力が増大する。これにより、感温ばね34による付勢力とバイアスばね32による付勢力が釣り合う位置が図3における左側に移動し、主弁体30は左方向に移動される。その結果、シート部60aと湯側シート面22cの間の距離は短くなり、シート部60bと水側シート面24bの間の距離は長くなるので、湯水混合装置本体21に流入する水の割合が増大し、吐出される湯の温度が低下する。逆に、感温ばね34の内部を流れる湯の温度が設定温度よりも低い場合には、感温ばね34による付勢力は減少し、主弁体30は図3における右方向に移動されて、吐出される湯の温度が上昇する。これらの作用により、カラン12又はシャワーヘッド14から吐出される湯の温度が、設定温度に調節される。
【0045】
ここで、主弁体30が移動される際には、主弁体30の周囲に配置されたOリング42は、主弁体30上で移動される。即ち、主弁体30の周囲に配置されたOリング42は、第1本体部材22の段部22e及び脚付スペーサーリング46によって位置決めされているため、主弁体30の移動により、畝部64上で移動される。ここで、Oリング42は、主弁体30と湯水混合装置本体の内壁面の間に予め所定量押しつぶされた状態で配置されている。この初期の弾性変形に加えて、主弁体30が移動されるとき、Oリング42が畝部64の畝を横断する位置が変化されるため、この横断位置の変化によりOリング42は、さらに弾性変形される。このOリング42を弾性変形させるために要する力は、主弁体30を移動させる際の摺動抵抗として作用する。
【0046】
一方、主弁体の周囲に畝部が形成されていない従来の湯水混合装置では、主弁体の周囲のOリングは、所定量押しつぶされた状態で配置されているが、主弁体が移動される際には殆ど弾性変形されず、押しつぶされた形状を保ったまま主弁体の外周面上を滑るように移動される。このように、従来の湯水混合装置においては、Oリングが主弁体の外周面上を滑る際の摩擦力が、専ら主弁体に対する摺動抵抗として作用する。このため、従来の湯水混合装置においては、主弁体に作用する摺動抵抗は、主弁体と湯水混合装置本体の内壁面の間で押しつぶされているOリングの締め代の大きさに強く依存し、摺動抵抗を正確に調整することが非常に困難である。即ち、本実施形態の湯水混合水栓では、従来の湯水混合水栓とは全く異なるメカニズムで主弁体の摺動に摺動抵抗を付与しているため、摺動抵抗を比較的容易に調整することが可能になる。
【0047】
次に、図8及び図9を参照して、本発明の第1実施形態による湯水混合水栓1と、従来の湯水混合水栓について、温度調節性能及び脈流現象の発生の有無を比較した実験の結果を説明する。図8は、(a)本実施形態の湯水混合水栓、及び(b)比較例1、(c)比較例2の湯水混合水栓において吐出される湯水の温度を示す表である。また、図9は、本実施形態の湯水混合水栓、及び比較例1、比較例2の湯水混合水栓における摺動抵抗を模式的に示すグラフである。
【0048】
図8(a)は、本実施形態の湯水混合水栓1において、湯温調節用ダイヤル8を40゜Cに設定し、給水圧力Pcを0.1乃至0.5MPaの5段階、給湯圧力Phを0.1乃至0.5MPaの5段階に変化させた夫々の場合において、吐出された湯水の温度を示している。なお、図8の各表に示す数値は、小数点第一位以下を0.5゜C間隔に丸めて示したものであり、例えば、40.0〜40.3゜Cは40.0゜Cと表示され、40.4〜40.6゜Cは40.5゜Cと表示され、40.7〜40.9゜Cは41.0゜Cと表示されている。
【0049】
図8(a)に示すように、本実施形態の湯水混合水栓1では、給水圧力Pcと給湯圧力Phが等しい場合は、何れも設定温度である40゜Cの湯水が吐出され、給水圧力Pcと給湯圧力Phが極端に異なる場合においても、設定温度からのずれは−1〜+2゜C以下であり、良好な温度調節性能を示している。また、給水圧力Pcと給湯圧力Phの何れの組み合わせにおいても脈流現象は発生しなかった。
【0050】
図8(b)に実験結果を示す比較例1は、本実施形態の湯水混合水栓において、主弁体を畝部が形成されていないものに交換した湯水混合水栓である。図8(b)に示すように、比較例1の湯水混合水栓は、主弁体に畝部が形成されていないため、主弁体に作用する摺動抵抗が小さく、非常に良好な温度調節性能を示している。しかしながら、比較例1の湯水混合水栓においては、図中に網掛けを施した圧力の組み合わせにおいて、脈流現象が発生した。
【0051】
図8(c)に実験結果を示す比較例2は、比較例1の湯水混合水栓において、Oリングの締め代を拡大し、主弁体の摺動抵抗を増大させたものである。比較例2の湯水混合水栓においては、主弁体の摺動抵抗が大きいため、給水圧力Pcと給湯圧力Phの何れの組み合わせにおいても脈流現象は発生しなかった。しかしながら、吐出される湯水の設定温度からのずれは、−3〜+2゜Cの範囲に増大し、十分な温度調節性能が得られなかった。
【0052】
図9は、上記の実験結果から推測される主弁体のストロークと摺動抵抗の関係を示すグラフであり、本実施形態の湯水混合水栓1を実線に、比較例1を破線に、比較例2を一点鎖線に示している。図9に示すように、比較例1の湯水混合水栓においては、Oリングの締め代が小さく、Oリングは弾性変形されることなく主弁体の外周面上を滑るため、摺動抵抗が小さく、ストロークの全域に亘って一定であると考えられる。このため、比較例1においては、温度調節性能は良好なものの、脈流現象が発生したものと考えられる。
【0053】
一方、本実施形態の湯水混合水栓1では、Oリングが弾性変形されながら畝部64の畝を乗り越えているため、摺動抵抗に僅かな変動が見られるが、摺動抵抗は全体として適度な大きさに維持されている。これにより、本実施形態の湯水混合水栓1においては、温度調節性能を大きく損なうことなく、脈流現象が発生を抑制できたものと考えられる。
【0054】
また、図9に示すように、比較例2の湯水混合水栓においては、Oリングの締め代が大きく、Oリングは弾性変形されることなく主弁体の外周面上を滑る際の摩擦が摺動抵抗となるため、摺動抵抗は全体に大きく、ストロークの全域に亘って一定であると考えられる。このため、比較例2においては、脈流現象の発生は防止できたものの、温度調節性能が大きく損なわれたものと考えられる。また、Oリングの締め代が大きい比較例2の湯水混合水栓では、Oリングを挟んで主弁体を組み込む際の組み付け作業が困難であるという問題も発生した。
【0055】
ここで、理論的には、Oリングの締め代を比較例1と比較例2の間に設定し、本実施形態の湯水混合水栓1と同程度の摺動抵抗を得ることも可能であると考えられるが、実際には、締め代の変化に対する摺動抵抗の変化が急激であるため、主弁体、Oリング、湯水混合装置本体等の寸法精度を考慮すると、適度な摺動抵抗をもつ湯水混合装置を安定して製造することは非常に困難である。
【0056】
本発明の第1実施形態の湯水混合水栓によれば、畝部が主弁体の摺動に適度な抵抗を与えるので、温度調節の応答性を著しく悪化させることなく、脈流現象を抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態の湯水混合水栓によれば、畝部の畝が、Oリングの円周上の一部の締め代を増大させ、Oリングを弾性変形させているので、Oリングの全体を同時に弾性変形させる場合よりも、摺動抵抗の変化を緩やかにすることができる。これにより、主弁体に付与される摺動抵抗を、容易に、適切な値に設定することができる。
【0058】
さらに、本実施形態の湯水混合水栓によれば、螺旋状に形成された畝により畝部が構成されているので、畝が形成されている部分全体に亘って、ほぼ均一な摺動抵抗を主弁体に付与することができる。このため、各部品の製作誤差等により、主弁体に形成された畝に対するOリングの位置がずれた場合でも、主弁体に付与される摺動抵抗はほぼ一定であり、主弁体に適度な摺動抵抗を与えることができると共に、湯水混合水栓の組立性が向上する。また、螺旋状の畝が形成された主弁体は、主弁体を樹脂成型する場合においても金型の型割が容易であり、容易に成型することができる。
【0059】
また、上述した本発明の第1実施形態の湯水混合水栓においては、畝部は、螺旋状に形成された畝によって構成されていたが、変形例として図10に示すように、主弁体に1本の環状の畝を設けることにより畝部を形成することもできる。即ち、図10に示す主弁体70においては、主弁体が摺動する軸線に直交する平面に対して傾斜した平面内に延びる環状の畝72が1本形成されている。また、本変形例においては、畝72は環状に隆起した部分によって構成され、Oリング42は、畝72を横断するように配置される。なお、図10には、畝72の傾斜が、実際の傾斜よりも強調して描かれている。本変形例の湯水混合水栓においても、主弁体70が移動されると、畝72を横断するように配置されたOリング42が弾性変形され、主弁体70の摺動に適度な摺動抵抗が付与される。
或いは、さらなる変形例として、図10に示す環状の畝を、複数本平行に設けることもできる。
【0060】
次に、図11を参照して、本発明の第2実施形態による湯水混合水栓を説明する。本実施形態の湯水混合水栓は、内蔵されている湯水混合装置の主弁体に摺動抵抗を与える機構が上述した第1実施形態とは異なる。従って、ここでは、本発明の第2実施形態の第1実施形態とは異なる点のみを説明し、同様の構成については、同様の符号を付して説明を省略する。
【0061】
図11は本実施形態による湯水混合水栓に内蔵されている湯水混合装置の主弁体の部分を拡大して示す断面図である。
図11に示すように、本発明の第2実施形態による湯水混合水栓に内蔵されている湯水混合装置200は、第1本体部材222と、第2本体部材224と、主弁体230と、バイアスばね32と、感温ばね34と、脚付環状部材38と、感温ばねガイド部材40と、Oリング42と、を有する。
【0062】
第1本体部材222と第2本体部材224は、結合されることによって湯水混合装置本体を構成する。主弁体230は、第1本体部材222の内部に摺動可能に配置されている。また、主弁体230は、バイアスばね32によって、脚付環状部材38を介して図11における右方向に付勢されている。さらに、主弁体230は、感温ばね34によって、感温ばねガイド部材40を介して図11における左方向に付勢されている。
【0063】
また、図11に示すように、主弁体230の外周には、環状のOリング受入溝230aが形成されている。Oリング42は、Oリング受入溝230aに受け入れられるように配置され、主弁体230と共に移動される。一方、第1本体部材222の内壁面には、摺動抵抗付与手段である畝部222aが形成されている。この畝部222aは、Oリング42に対応する位置に配置され、螺旋状に延びるように形成された1本の畝によって構成されている。また、畝部222aの畝は、第1本体部材222の内壁面から突出するように形成された線状の隆起部によって構成されている。一方、Oリング42は、主弁体230の摺動軸線にほぼ直交する平面内に配置されている。このため、Oリング42は、螺旋状に延びるように形成された畝部222aの畝を横断するように延びる。従って、主弁体230が摺動されると、これと共に移動されるOリング42が、畝部222aの畝を横断する位置が変化し、これによりOリング42は弾性変形される。このOリング42の弾性変形により、主弁体230の摺動に、適度な摺動抵抗が付与される。
【0064】
本発明の第2実施形態による湯水混合水栓の他の構成、及び作用は、上述した第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。また、本実施形態の変形例として、畝部222aを、主弁体230の摺動軸線に直交する平面に対して傾斜して延びるように形成された1本又は複数本の環状の畝によって構成することもできる。
【0065】
本発明の第2実施形態の湯水混合水栓によれば、主弁体にOリングが嵌め込まれ、Oリングが主弁体と共に移動されるタイプの湯水混合装置に本発明を適用することができる。
【0066】
次に、図12及び図13を参照して、本発明の第3実施形態による湯水混合水栓を説明する。本実施形態の湯水混合水栓は、内蔵されている湯水混合装置の主弁体に形成された摺動抵抗付与手段が上述した第1実施形態とは異なる。従って、ここでは、本発明の第3実施形態の第1実施形態とは異なる点のみを説明し、同様の構成については、同様の符号を付して説明を省略する。
【0067】
図12は本実施形態による湯水混合水栓に内蔵されている湯水混合装置の主弁体の部分を拡大して示す断面図である。また、図13は、主弁体のストロークに対する摺動抵抗を示すグラフであり、本実施形態における摺動抵抗を実線で示し、第1実施形態における摺動抵抗を破線で示している。
【0068】
図12に示すように、本発明の第3実施形態による湯水混合水栓に内蔵されている湯水混合装置300は、第1本体部材22と、第2本体部材24と、主弁体330と、バイアスばね32と、感温ばね34と、脚付環状部材38と、感温ばねガイド部材40と、Oリング42と、を有する。
【0069】
第1本体部材22と第2本体部材24は、結合されることによって湯水混合装置本体を構成する。主弁体330は、第1本体部材22の内部に摺動可能に配置されている。また、主弁体330は、バイアスばね32によって、脚付環状部材38を介して図12における右方向に付勢されている。さらに、主弁体330は、感温ばね34によって、感温ばねガイド部材40を介して図12における左方向に付勢されている。また、Oリング42は、脚付スペーサーリング46と、第1本体部材22の内壁面に形成された段部22eの間に配置され、位置決めされている。
【0070】
図12に示すように、主弁体330の外周には、摺動抵抗付与手段である環状の環状溝330aが形成されており、この環状溝330aを覆うようにOリング42が配置されている。環状溝330aは浅い溝であり、Oリング42の円形の断面の下部を受け入れている。また、環状溝330aの幅は、Oリング42の断面の直径よりも狭く形成されている。本実施形態においては、Oリング42は、その断面が直径2mmの円形であり、環状溝330aの幅は1mm、深さは0.1mmである。
【0071】
また、環状溝330aは、本実施形態の湯水混合水栓に通常の圧力で湯及び水が供給された場合において、通常使用される約40゜Cの湯水を吐出させる際にOリング42の位置と整合するように、主弁体330上に位置決めされている。即ち、環状溝330aは、上記の条件で約40゜Cの湯水を吐出させる際に、Oリング42が環状溝330aのほぼ中央に位置するように位置決めされている。
【0072】
図13に破線で示すように、本発明の第1実施形態の湯水混合水栓における摺動抵抗は、上述したように、主弁体のストロークに対してほぼ一定の値となる。これに対して、図13に実線で示すように、本実施形態において環状溝330aとOリング42によって主弁体330に付与される摺動抵抗は、ストロークの中央付近において小さく、中央から離れると共に増大する。また、本実施形態の湯水混合水栓は、摺動抵抗の最小値が第1実施形態の湯水混合水栓における摺動抵抗よりも小さく、本実施形態における摺動抵抗の最大値は、第1実施形態における摺動抵抗よりも大きくなるように構成されている。
【0073】
また、本実施形態の湯水混合水栓は、通常の圧力で湯及び水が供給さた場合において、主弁体330がストロークのほぼ中央に位置するとき、通常使用される約40゜Cの湯水が吐出されるように構成されている。このため、本実施形態の湯水混合水栓は、主弁体330の通常使用位置において、主弁体330に作用する摺動抵抗が小さく、良好な温度調節性能を得ることができる。また、主弁体330の通常使用位置において、脈流現象が発生し、主弁体330がストロークの中央から大きく移動されると、環状溝330aの縁330bがOリング42の下に潜り込むようになる。
【0074】
ここで、Oリング42は、主弁体330と湯水混合水栓本体の内壁面との間に、所定量押しつぶされた状態で配置されているが、この初期の弾性変形に加えて、主弁体330が移動されたとき、環状溝330aの縁330bがOリング42に食い込むことによって、Oリング42は更に弾性変形される。この主弁体330が移動される際のOリング42を弾性変形させるための力は、主弁体330に対して摺動抵抗として作用する。このように、湯水混合装置300に脈流現象が発生して主弁体330が振動し始めると、主弁体330に大きな摺動抵抗が作用するようになり、この摺動抵抗が主弁体330の振動を速やかに減衰させる。
【0075】
なお、環状溝330aの幅はOリングの断面の直径の約25〜75%とし、深さはOリングの断面の直径の約1〜10%とするのが良い。ここで、環状溝330aの幅がOリングの断面の直径の約25%よりも小さい場合には、環状溝330aの縁330bのOリングへの食い込みが小さくなるため、十分な摺動抵抗を付与することができず、脈流現象を効果的に防止することが困難になる。逆に、環状溝330aの幅がOリングの断面の直径の約75%よりも大きい場合には、十分な摺動抵抗を得ることができるが、摺動抵抗が大きくなりすぎるため、温度調節性能が悪化する。同様に、環状溝330aの深さが、Oリングの断面の直径の約1%よりも小さい場合には十分な摺動抵抗を得ることができず、約25%よりも大きい場合には温度調節性能が悪化する。
【0076】
本発明の第3実施形態の湯水混合水栓によれば、主弁体がストロークの中央付近にあり、Oリングが環状溝と整合している場合には主弁体に付与される摺動抵抗が小さく、環状溝の縁が弾性シール部材に食い込むにつれて付与される摺動抵抗が大きくなる。これにより、温度調節性能を向上させたい通常使用位置においては主弁体に付与される摺動抵抗を小さくすることができると共に、通常使用位置で発生した脈動現象等を、増大された摺動抵抗により速やかに減衰させることができる。
【0077】
また、本実施形態の湯水混合水栓によれば、環状溝の幅がOリングの断面の直径よりも狭く形成されているので、Oリングは環状溝の縁と接触する。このため、Oリングが主弁体と共に移動される動きは抑制され、概ね静止したOリングに環状溝の縁が押し付けられるように作用する。これにより、環状溝の縁をOリングに効果的に食い込ませることができ、主弁体に適度な摺動抵抗を付与することができる。
【0078】
また、上述した本発明の第3実施形態においては、主弁体330に環状溝330aが形成されていたが、変形例として、湯水混合装置本体側に環状溝を設けても良い。本変形例によれば、Oリングが主弁体と共に移動されることにより、湯水混合装置本体側に設けた環状溝の縁がOリングに食い込み、Oリングが弾性変形される。これにより、主弁体の摺動に摺動抵抗が付与される。
【0079】
さらに、上述した本発明の第3実施形態においては、環状溝330aの両側の縁330bが同じ高さに形成されていたが、変形例として、図14に示すように、両側の縁の高さが異なるように主弁体を構成することもできる。図14に示す変形例の主弁体350においては、摺動抵抗付与手段である環状溝350aの左側の円筒部352aが、右側の円筒部352bよりも直径が大きく構成されている。このように構成された本変形例によれば、主弁体350がストロークの中心から右側に移動されたときと、左側に移動されたときで、発生する摺動抵抗が異なる。このように、環状溝350aの縁の高さを変えることにより、主弁体350の使用条件等に応じて、適切な摺動抵抗を発生させることができる。
【0080】
また、図15に示す変形例の主弁体360のように、摺動抵抗付与手段である環状溝360aの断面形状をV字形に構成することもできる。このように、環状溝360aの縁の立ち上がりを緩やかにすることにより、主弁体360の移動に対する摺動抵抗の増加を緩やかにすることができる。
【0081】
さらに、図16に示す変形例の主弁体370のように、主弁体370の外周面に摺動抵抗付与手段である複数の突起370aを設け、これらの突起370aにOリングを乗り上げさせることにより、Oリングを弾性変形させ、主弁体370の移動に摺動抵抗を付与しても良い。
【0082】
また、図17に示す変形例の主弁体380のように、主弁体380の外周面に摺動抵抗付与手段である複数の凹部380aを設け、これらの凹部380aにOリングを食い込ませることにより、Oリングを弾性変形させ、主弁体380の移動に摺動抵抗を付与しても良い。
【0083】
さらに、図18に示す変形例の主弁体390のように、主弁体390の外周面に円周方向に延びる摺動抵抗付与手段である複数の隆起部390aを設け、これらの隆起部390aにOリングを乗り上げさせることにより、Oリングを弾性変形させ、主弁体390の移動に摺動抵抗を付与しても良い。
【0084】
また、図19に示す変形例の主弁体400のように、主弁体400の外周面に円周方向に延びる摺動抵抗付与手段である複数の窪み部400aを設け、これらの窪み部400aにOリングを食い込ませることにより、Oリングを弾性変形させ、主弁体400の移動に摺動抵抗を付与しても良い。
【0085】
或いは、図20に示す変形例の主弁体410のように、主弁体410に、その摺動軸線に直交する平面内に延びる摺動抵抗付与手段である環状の環状隆起部410aを設け、この環状隆起部410aにOリングを乗り上げさせることにより、Oリングを弾性変形させ、主弁体410の移動に摺動抵抗を付与しても良い。
【0086】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態においては、主弁体又は湯水混合装置本体の内壁面の何れか一方に摺動抵抗付与手段が形成されていたが、それらの両方に摺動抵抗付与手段を形成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の第1実施形態による湯水混合水栓全体を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態による湯水混合水栓に内蔵されている湯水混合装置の斜視図である。
【図3】湯水混合装置の断面図である。
【図4】湯水混合装置の分解斜視図である。
【図5】湯水混合装置に内蔵された主弁体の斜視図である。
【図6】湯水混合装置に内蔵された主弁体の断面図である。
【図7】Oリングと主弁体の接触部分を拡大して示す図である。
【図8】図8は、(a)本発明の第1実施形態の湯水混合水栓、及び(b)比較例1、(c)比較例2の湯水混合水栓において吐出される湯水の温度を示す表である。
【図9】本発明の第1実施形態の湯水混合水栓、及び比較例1、比較例2の湯水混合水栓における摺動抵抗を模式的に示すグラフである。
【図10】変形例による主弁体の斜視図である。
【図11】本発明の第2実施形態による湯水混合水栓に内蔵されている湯水混合装置の主弁体の部分を拡大して示す断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態による湯水混合水栓に内蔵されている湯水混合装置の主弁体の部分を拡大して示す断面図である。
【図13】主弁体のストロークに対する摺動抵抗を示すグラフである。
【図14】変形例による主弁体の斜視図である。
【図15】変形例による主弁体の斜視図である。
【図16】変形例による主弁体の斜視図である。
【図17】変形例による主弁体の斜視図である。
【図18】変形例による主弁体の斜視図である。
【図19】変形例による主弁体の斜視図である。
【図20】変形例による主弁体の斜視図である。
【符号の説明】
【0088】
1 本発明の第1実施形態による湯水混合水栓
2 水栓本体
4 湯供給脚
6 水供給脚
8 湯温調節用ダイヤル
10 吐止水切替ハンドル
12 カラン(吐出部)
14 シャワーヘッド(吐出部)
16 切替バルブ(開閉弁)
20 湯水混合装置
21 湯水混合装置本体
22 第1本体部材
22a 湯導入口
22b 水導入口
22c 湯側シート面
22d 雌ねじ部
22e 段部
24 第2本体部材
24a 雄ねじ部
24b 水側シート面
24c 吐出口
26 送りねじ
26a スプライン部
26b 雄ねじ部
28 摺動部材
28a 溝
28b 送り雌ねじ部
30 主弁体
32 バイアスばね(付勢手段)
34 感温ばね(感温付勢手段)
36 ばね押え金具
38 脚付環状部材
40 感温ばねガイド部材
40a 羽根
42 Oリング(弾性シール部材)
44 U字金具
46 脚付スペーサーリング
52 フィルター
54 フィルター
60 円筒部
60a シート部
60b シート部
62 張出部
64 畝部
70 変形例による主弁体
72 畝(摺動抵抗付与手段)
200 本発明の第2実施形態における湯水混合装置
222 第1本体部材
224 第2本体部材
230 主弁体
300 本発明の第3実施形態における湯水混合装置
330 主弁体
330a 環状溝(摺動抵抗付与手段)
350 変形例の主弁体
350a 環状溝(摺動抵抗付与手段)
352a 円筒部
352b 円筒部
360 主弁体
360a 環状溝(摺動抵抗付与手段)
370 変形例の主弁体
370a 突起(摺動抵抗付与手段)
380 変形例の主弁体
380a 凹部(摺動抵抗付与手段)
390 変形例の主弁体
390a 隆起部(摺動抵抗付与手段)
400 主弁体
400a 窪み部(摺動抵抗付与手段)
410 変形例の主弁体
410a 環状隆起部(摺動抵抗付与手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給された湯及び水を混合し、適温に調整された湯を吐出させる湯水混合装置であって、
湯側シート面及び水側シート面を備えた湯水混合装置本体と、
両側にシート部が形成されており、上記湯水混合装置本体の内部に摺動可能に配置され、摺動されることにより、上記各シート部と上記湯側シート面及び上記水側シート面との間の隙間を変化させ、上記湯水混合装置本体内に流入する湯及び水の流量を変化させる主弁体と、
この主弁体を所定方向に摺動させるように付勢する付勢手段と、
この付勢手段とは逆の方向に上記主弁体を付勢し、上記湯水混合装置本体内で混合された湯の温度に応じて付勢力が変化する感温付勢手段と、
上記主弁体の外周と上記湯水混合装置本体の内壁面との間に配置され、上記湯水混合装置本体内に流入した湯及び水が、上記主弁体の外側で混合されるのを防止する環状の弾性シール部材と、
上記主弁体又は上記湯水混合装置本体の内壁面の、上記弾性シール部材と接触する部分に形成され、上記主弁体が上記湯水混合装置本体内で摺動されるとき、上記弾性シール部材を弾性変形させることにより上記主弁体の摺動に抵抗を与える摺動抵抗付与手段と、
を有することを特徴とする湯水混合装置。
【請求項2】
上記摺動抵抗付与手段が環状溝であり、この環状溝の縁が上記弾性シール部材に食い込むことにより、上記弾性シール部材が弾性変形される請求項1記載の湯水混合装置。
【請求項3】
上記環状溝の幅は、上記弾性シール部材の断面の直径よりも狭く形成されている請求項2記載の湯水混合装置。
【請求項4】
上記摺動抵抗付与手段は、上記主弁体が摺動される軸線に直交する平面に対して傾斜して延びるように形成された畝であり、上記弾性シール部材が上記畝を横断する位置が変化することにより、上記弾性シール部材が弾性変形される請求項1記載の湯水混合装置。
【請求項5】
上記畝が、螺旋状に形成されている請求項4記載の湯水混合装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の湯水混合装置と、
この湯水混合装置を収納する水栓本体と、
上記湯水混合装置によって混合された湯の吐水状態と止水状態を切替える開閉弁と、
混合された湯を吐出させる吐出部と、
を有することを特徴とする湯水混合水栓。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2008−248960(P2008−248960A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88596(P2007−88596)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】