説明

湯水混合装置及びそれを備えた湯水混合水栓

【課題】十分な吐出流量を確保しながら、温度調節性能を向上させることができる湯水混合装置を提供する。
【解決手段】本発明の湯水混合装置1は、湯水混合装置本体20aと、吐出される湯水の温度を設定する湯温調節用操作ハンドル8と、湯水混合装置本体の内部に移動可能に配置され、移動することにより、湯水混合装置本体内に流入する湯及び水の流量を変化させる主弁体30と、湯温調節用操作ハンドルの操作に応じて、主弁体を所定方向に摺動させる付勢力を発生するバイアスばね32と、湯水混合装置本体内に流入して混合された湯水の温度に応じて、バイアスばねとは逆方向に主弁体を摺動させる付勢力を発生する感温ばね34と、主弁体の内部に配置され、供給された湯及び水の混合を促進し、その下流側端部44aが上流側から下流側に向かって軸方向に沿って凹状の曲面を形成して先細り形状となっているブッシュ44と、を有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湯水混合装置及びそれを備えた湯水混合水栓に関し、特に、供給された湯及び水を混合し、適温に調整された湯を吐出させる湯水混合装置及びそれを備えた湯水混合水栓に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の湯水混合装置の一例として、円筒状の湯水混合装置本体内部に摺動可能に配置された円筒状の主弁体の両側に感温ばねとバイアスばねが配置され、これらのばねによる付勢力が釣り合う位置に主弁体が移動されるようになっているものが知られている。このような湯水混合装置においては、混合された湯の温度が上昇すると、感温ばねの付勢力が増加して湯水混合装置本体に形成された湯側シート面と主弁体との間の隙間が狭くなり、水側シート面と主弁体との間の隙間が広くなるように主弁体が移動され、湯水混合装置から吐出される湯の温度が操作ハンドルにより設定された所定の温度に調整されるようになっている。
また、さらに温度調節性能を向上させるために、特許文献1に記載されているように、主弁体と一体的に形成された軸部を感温ばねの中央に挿入して貫通させることにより、湯水混合装置本体内部に流入した湯水を感温ばねの内部を経て吐出側へ誘導するように整流効果を生じさせたものが知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−46527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような湯水混合装置では、湯又は水の供給圧力が急激に変化した場合等の湯水の圧力条件やその他の現場条件によって、吐出される湯の温度が操作ハンドルによって設定された温度からずれるという問題がある。それゆえ、使用する現場条件に合わせてその都度操作ハンドルの初期設定を行わなければ、温度調節性能が十分に発揮できていないという問題がある。
また、特に、特許文献1に記載されているような湯水混合装置においては、主弁体と一体的に形成された軸部が感温ばねの中央に挿入されて貫通しているために、感温ばねの内部を通過する湯水の流路面積が小さくなり、湯水混合装置の吐出流量が減少してしまうという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、上述した従来技術の問題を解決するためになされたものであり、十分な吐出流量を確保しながら、温度調節性能を向上させることができる湯水混合装置及びそれを備えた湯水混合水栓を提供することを目的としている。
また、本発明は、現場条件によって、操作ハンドルの初期設定を行う必要がなく取り扱いが容易である湯水混合装置及びそれを備えた湯水混合水栓を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明は、湯及び水を混合し適温に調整された湯水を吐出させる湯水混合装置であって、湯水混合装置本体と、吐出される湯水の温度を設定する操作ハンドルと、上記湯水混合装置本体の内部に移動可能に配置され、移動することにより、上記湯水混合装置本体内に流入する湯及び水の流量を変化させる主弁体と、上記湯水混合装置本体の内部に配置され、上記操作ハンドルの操作に応じて、上記主弁体を所定方向に摺動させる付勢力を発生する付勢部と、上記湯水混合装置本体の内部に配置され、上記湯水混合装置本体内に流入して混合された湯水の温度に応じて、上記付勢部とは逆方向に上記主弁体を摺動させる付勢力を発生する感温付勢部と、上記主弁体の内部に配置され、供給された湯及び水の混合を促進する湯水混合促進部材であって、その下流側端部が上流側から下流側に向かって軸方向に沿って凹状の曲面を形成して先細り形状となっている上記湯水混合促進部材と、を有することを特徴としている。
【0007】
このように構成された本発明においては、下流側端部が上流側から下流側に向かって軸方向に沿って凹状の曲面を形成して先細り形状となっている湯水混合促進部材が主弁体の内部に配置されているため、湯水混合装置本体内に流入した湯水が、湯水混合促進部材から感温付勢部に向かってスムーズに流れて混合が促進されるので、湯水の圧力条件にかかわらず、十分な吐出流量を確保しながら、温度調節性能を向上させることができる。また、現場条件によって、操作ハンドルの初期設定を行う必要のない湯水混合装置とすることができる。
【0008】
本発明において、好ましくは、湯水混合促進部材の下流側端部の先端は、感温付勢部に最も接近した状態でも感温付勢部の上流側端部付近に位置するように構成されている。
このように構成された本発明においては、湯水混合促進部材の下流側端部の先端が感温付勢部に最も接近した状態でも感温付勢部の上流側端部付近に位置するように構成されているため、感温付勢部の内部全体に常に十分な流路を確保することができ、従来技術のように、感温付勢部の内部を流れる湯水の流量の減少を抑え、吐水量が減少するといったことを抑制することができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、さらに、上記操作ハンドルと上記付勢部の間に介在して設けられ、上記操作ハンドルの操作により移動して上記付勢部を押えて上記付勢部に付勢力を発生させる押え部材を備え、この押え部材に上記湯水混合促進部材が連結されている。
このように構成された本発明においては、湯水混合促進部材が主弁体に固定されているのではなく、押え部材に連結されているので、湯水混合促進部材により湯水の混合が促進される際に、湯水混合促進部材で発生する振動が直接的に主弁体に伝わることがない。それゆえ、湯水混合促進部材が主弁体に固定されていることにより発生するような主弁体の異音を抑えることができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、湯水混合促進部材は、付勢部から外れないように付勢部に係合されている。このように構成された本発明においては、湯水混合促進部材が押え部材に連結され、更に付勢部から外れないよう付勢部に係合されているため、湯及び水の流れによって、湯水混合促進部材が押さえ部材から、又は付勢部から外れてしまうのを防ぐことができる。
【0011】
また、本発明の湯水混合水栓は、本発明による湯水混合装置と、この湯水混合装置を収納する水栓本体と、湯水混合装置によって混合された湯の吐水状態と止水状態を切替える開閉弁と、混合された湯を吐出させる吐出部と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の湯水混合装置及びそれを備えた湯水混合水栓によれば、十分な吐出流量を確保しながら、温度調節性能を向上させることができる。また、現場条件によって、操作ハンドルの初期設定を行う必要がなく取り扱いが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態による湯水混合水栓を添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態による湯水混合水栓全体を示す斜視図である。
図1に示すように、本発明の実施形態による湯水混合水栓1は、水栓本体2と、この水栓本体2に給湯器(図示せず)からの湯を供給する湯供給脚4と、水栓本体2に水道水を供給する水供給脚6と、を有する。さらに、湯水混合水栓1は、水栓本体2左端部に取り付けられた湯温調節用操作ハンドル8と、右端部に取り付けられた吐止水切替ハンドル10と、を有する。また、湯水混合水栓1は、温度調節された湯を吐出させる吐出部であるカラン12及びシャワーヘッド14を有する。さらに、水栓本体2には、開閉弁である切替バルブ16が内蔵されている。本実施形態の湯水混合水栓1は、湯供給脚4及び水供給脚6から夫々供給された湯及び水を、湯温調節用操作ハンドル8によって設定された温度になるように混合し、吐止水切替ハンドル10を操作して、カラン12又はシャワーヘッド14から吐出させるように構成されている。
【0014】
湯供給脚4は、壁面に設けられた給湯管(図示せず)と水栓本体2とを連結し、水栓本体2に湯を供給するように構成されている。
水供給脚6は、壁面に設けられた水道管(図示せず)と水栓本体2とを連結し、水栓本体2に水を供給するように構成されている。
【0015】
水栓本体2には、湯供給脚4及び水供給脚6を介して導入された湯及び水を、適宜混合して所望の温度に調節する湯水混合装置20が内蔵されている。また、水栓本体2に取り付けられた吐止水切替ハンドル10は、これを回転操作することによって、水栓本体2に内蔵された切替バルブ16を切替え、止水状態、カラン12からの吐水状態、シャワーヘッド14からの吐水状態が切替えられるようになっている。吐止水切替ハンドル10をカランの側に回転させると、湯水混合装置20によって適温に混合された湯がカラン12から吐水され、吐止水切替ハンドル10をシャワーの側に回転させると、適温に混合された湯が、シャワーヘッド14から吐水される。
【0016】
また、湯温調節用操作ハンドル8は、これを廻すことによって水栓本体2に内蔵された湯水混合装置20を操作し、湯水混合装置20によって調節される湯の温度を変化させることができるように構成されている。
【0017】
つぎに、図2を参照して、本実施形態の湯水混合水栓1に内蔵された湯水混合装置20を説明する。図2は湯水混合装置20の断面図である。
【0018】
図2に示すように、湯水混合装置20は、第1本体部材22と、この第1本体部材22に取り付けられている第2本体部材24と、湯温調節用操作ハンドル8に連結される送りねじ26と、この送りねじ26に螺合され、送りねじ26が回転されると第1本体部材22内で摺動する摺動部材28と、を有する。
また、湯水混合装置20は、第1本体部材22の内部に移動可能に配置された主弁体30と、主弁体30を図2における右方向に付勢する付勢部であるバイアスばね32と、バイアスばね32とは反対方向の図2における左方向に主弁体30を付勢する感温付勢部である感温ばね34と、を有する。本実施形態においては、感温ばね34として、形状記憶合金製のコイルばねを使用している。
【0019】
第1本体部材22は、概ね円筒状の形態であり、図2において右側に位置する第2本体部材24と螺合されることにより湯水混合装置本体20aを構成している。また、第1本体部材22には、湯を流入させるための湯導入口22a及び水を流入させるための水導入口22bがそれぞれ円周方向に設けられている。また、湯導入口22aの図2における左側の端面は、主弁体30と当接する湯側シート面22cとして形成されている。
【0020】
第2本体部材24は、概ね円筒状の形態であり、その外周端部に形成された雄ねじ部24aを、第1本体部材22の端部に形成された雌ねじ部22dと螺合させることによって、第1本体部材22に取り付けられている。また、第2本体部材24の先端部は、主弁体30と当接する水側シート面24bとして形成されている。このため、第2本体部材24を第1本体部材22に螺合させるねじ込み量を変化させることにより、湯側シート面22cと水側シート面24bの間隔を調整することができる。さらに、第2本体部材24の水側シート面24bとは反対側の端部には、湯水混合装置本体20a内で混合された湯を流出させる吐出口24cが形成されている。
【0021】
送りねじ26は、第1本体部材22の内部に回転可能に配置されている。送りねじ26の一方の端部には、湯温調節用操作ハンドル8が取り付けられるスプライン部26aが形成され、他方の端部には、摺動部材28と螺合される送り雄ねじ部26bが形成されている。
【0022】
摺動部材28は、概ね円筒形の形態であり、第1本体部材22の内部に摺動可能に配置されている。また、摺動部材28の外側には、軸線方向の溝(図示せず)が形成されており、この溝(図示せず)が、第1本体部材22の内部に形成された軸線方向に延びる突起(図示せず)を受け入れることによって、摺動部材28の第1本体部材22に対する回転が拘束されている。さらに、摺動部材28の内側には、送りねじ26の送り雄ねじ部26bと螺合される送り雌ねじ部28aが形成されている。これにより、送りねじ26を回転させると、摺動部材28は第1本体部材22の軸線方向に摺動される。
【0023】
主弁体30は、概ね円筒状の円筒部30aを有し、この円筒状の円筒部30aの両端には、湯側シート面22cと当接する湯側シート部30bと、水側シート面24bと当接する水側シート部30cがそれぞれ形成されている。
【0024】
また、湯水隔離手段であって、位置規制部材であるスペーサーリング38は、主弁体30の円筒部30aの外周に当接するように配置し、脚付スペーサーリング40は主弁体30と第1本体部材22の間に配置されている。スペーサーリング38は、Oリングであり、第1本体部材22の内壁に形成された段部22eに係合するように配置されている。これらのスペーサーリング38及び脚付スペーサーリング40は、主弁体30の円筒部30aと第1本体部材22の内壁面との間に位置し、湯水混合装置本体20a内に流入した湯及び水が主弁体30の外側で混合されるのを抑制している。
【0025】
また、詳細は後述するが、主弁体30の左側には、脚付環状部材42、ブッシュ44、バイアスばね32、ばね押え部材46、及び、クリップ48が配置されている。
一方、主弁体30の右側には、感温ばねガイド部材50及び感温ばね34が配置されている。感温ばねガイド部材50は、概ね円筒状の部材であり、第2本体部材24の内部で摺動可能に配置されている。
【0026】
また、感温ばねガイド部材50の図2における左側端部は主弁体30に当接するように配置され、この左側端部には、湯水混合装置本体20aに流入した湯及び水を混合させ、温度を均一にするための放射状の羽根50aが設けられている。
さらに、感温ばね34は、感温ばねガイド部材50の内部に配置されており、この感温ばね34の図2における左側の端部は、感温ばねガイド部材50に当接し、右側端部は第2本体部材24の内壁面の端部に当接するように配置されている。この構成により、感温ばね34は、感温ばねガイド部材50を介して、主弁体30を図2における左方向に付勢する。
【0027】
また、第1本体部材22の外側には、湯導入口22a及び水導入口22bを覆うように、円筒状のフィルター52、54がそれぞれ配置されており、湯又は水に混入したゴミ等が、湯水混合装置20内に流入するのを防止している。
【0028】
つぎに、図2〜図4を参照して、上述した脚付環状部材42、ブッシュ44、バイアスばね32、ばね押え部材46、及び、クリップ48の詳細について説明する。
ここで、図3は図2におけるブッシュ、バイアスばね、ばね押え部材、及び、クリップの部分を拡大した拡大断面図であり、図4はブッシュ、バイアスばね、ばね押え部材、及び、クリップの分解斜視図である。
【0029】
図3及び図4に示すように、脚付環状部材42は、その脚部42aが主弁体30に当接すると共に、環状部42bがバイアスばね32の右側端部の内周部に挿入されてバイアスばね32を保持している。
【0030】
ばね押え部材46は、中央部が隆起したドーナツ板状の金具であり、摺動部材28とバイアスばね32との間に介在して設けられており、バイアスばね32の左側端部を押えて保持している。さらに、バイアスばね32は、予め圧縮された状態で脚付環状部材42の環状部42bとばね押え部材46との間に挟まれて配置されている。これらの構成により、湯温調節用操作ハンドル8の操作によって摺動部材28が図3における右方向に摺動してばね押え部材46に当接すると、ばね押え部材46が図3の右方向に移動し、バイアスばね32が圧縮されて脚付環状部材42を介して主弁体30を図3における右方向に付勢するようになっている。
【0031】
また、ブッシュ44は、主弁体30とは別体として、主弁体30の内部に軸方向に相対的に移動可能に配置され、湯水混合装置本体20a内に供給された湯及び水の混合を促進する湯水混合促進部材として機能している。このブッシュ44の構成をより具体的に説明すると、ブッシュ44は、脚付環状部材42の中央穴42cに挿入されており、その下流側端部44a(図3における右側の端部)が上流側(図3における左側)から下流側(図3における右側)に向かって軸方向に沿って凹状の曲面を形成して先細り形状となっている中空の樹脂製部材である。
【0032】
さらに、ブッシュ44は、クリップ48を介してばね押え部材46に連結されている。より具体的に説明すると、クリップ48は、両脚部48a,48aと、これら両脚部48aの最下部で外側に突出した両突起部48b,48bとを備えた金具である。ブッシュ44とばね押え部材46をクリップ48で連結する際、クリップ48の両脚部48a,48aのそれぞれがばね押え部材46の両挿入孔46a,46aのそれぞれに挿入された後、クリップ48の両突起部48b,48bのそれぞれがブッシュ44の長孔44b,44bに弾性的に挿入されて連結され、さらには、ブッシュ44の外側に配置された脚付環状部材42の環状部42bの取付孔42d,42dに挿入されている。
【0033】
また、ブッシュ44の両長孔44b,44bは、軸方向に延びた長孔であるため、クリップ48の両突起部48b,48bとの連結にある程度の軸方向の遊びを持たせているため、ばね押え部材46が軸方向に移動することにより、クリップ48が軸方向に移動し或いは主弁体30がバイアスばね32及び脚付環状部材42を介して軸方向に移動したとしても、ブッシュ44の長孔44b,44bとクリップ48の両突起部48b,48bとの連結の遊びの程度の範囲でブッシュ44が軸方向に移動せずに留まって、主弁体30の動きとは独立に動くようになっている。このように、ブッシュ44が、主弁体30の内部に軸方向に相対的に移動可能であるので、感温ばね34や脚付環状部材42へのブッシュ44で発生した振動の伝達が抑えられる。
【0034】
さらに、ブッシュ44の先細り形状を形成する下流側端部44aの先端部44cは、ブッシュ44が軸方向の最も下流側(図3における右側)に移動して感温ばね34に最も接近した状態でも感温ばね34の上流側端部34aの付近に位置し、感温ばね34の内部の中央付近までは到達しないようになっている。
【0035】
また、ブッシュ44は、脚付環状部材42の中央穴42cに挿入される共にバイアスばね32の円筒状の内部を通過可能に係合されており、ブッシュ44が不用意にバイアスばね32から外れてしまうことがないようになっている。
【0036】
つぎに、図1〜図7を参照して、本発明の一実施形態による湯水混合水栓1の作用について説明する。
まず、湯水混合水栓1の使用者は、湯温調節用操作ハンドル8を所望の温度に設定する。ここで、湯温調節用操作ハンドル8を最低温度に設定した場合には、摺動部材28は図3における左端に位置される。この状態では、図3に示すように、摺動部材28がばね押え部材46から離間するのでバイアスばね32による付勢力は作用せず、主弁体30の湯側シート部30bは、感温ばね34の付勢力により湯側シート面22cに当接される。すなわち、湯水混合装置本体20a内には、水のみが流入できる状態となる。
【0037】
つぎに、使用者が設定温度を上昇させるために、湯温調節用操作ハンドル8を操作して送りねじ26を回転させると、摺動部材28は図3における右方向に移動され、摺動部材28はばね押え部材46と当接する。これにより、バイアスばね32による付勢力も主弁体30に作用するようになり、主弁体30は、バイアスばね32の付勢力と感温ばね34の付勢力が釣り合う位置に移動される。
【0038】
湯温調節用操作ハンドル8を設定した後、使用者が吐止水切替ハンドル10を操作して、切替バルブ16を止水位置からカラン12又はシャワーヘッド14からの吐水位置に切替えると、カラン又はシャワーからの吐水が開始される。吐水が開始されると、湯供給脚4から導入された湯は、フィルター52を介して湯導入口22aに流入し、水供給脚6から導入された水は、フィルター54を介して水導入口22bに流入する。湯導入口22aから流入した湯は主弁体30の湯側シート部30bと湯側シート面22cの間を通って湯水混合装置本体20a内部に流入し、水導入口22bから流入した水は主弁体30の水側シート部30cと水側シート面24bの間を通って湯水混合装置本体20a内部に流入する。
【0039】
湯水混合装置本体20aに流入した湯は、主弁体30の円筒部30aの中を通って、図2及び図3における右方向に流れる。また、湯水混合装置本体20aに流入した水は、主弁体30の円筒部30aの中を流れる湯と混合され、ブッシュ44の下流側端部44aの外側を通過し、感温ばね34の内部を通って吐出口24cから流出する。
この際、ブッシュ44の下流側端部44aの外側を通過する湯水は、ブッシュ44の下流側端部44aにおける上流側から下流側に向かって軸方向に沿って凹状の曲面を形成した先細り形状の効果によって、ブッシュ44から感温ばね34の内部に向かって整流化され、脈動を発生させることなくスムーズに流れ、湯と水の混合が非常に効果的に促進される。
さらには、感温ばねガイド部材50の羽根50aによっても、湯と水の混合がさらに促進され、ほぼ均一な温度に混合されて感温ばね34の内部を流れ、吐出口24cから流出した湯は、切替バルブ16(図1)を通って、カラン12又はシャワーヘッド14から吐出される。
【0040】
感温ばね34の内部を流れる湯の温度が設定温度よりも高い場合には、感温ばね34は伸びるように作用するので、感温ばね34による付勢力が増大する。これにより、感温ばね34による付勢力とバイアスばね32による付勢力が釣り合う位置が図2及び図3における左側に移動し、主弁体30は左方向に移動される。その結果、湯側シート部30bと湯側シート面22cの間の距離は短くなり、水側シート部30cと水側シート面24bの間の距離は長くなるので、湯水混合装置本体20aに流入する水の割合が増大し、吐出される湯の温度が低下する。逆に、感温ばね34の内部を流れる湯の温度が設定温度よりも低い場合には、感温ばね34による付勢力は減少し、主弁体30は図3における右方向に移動されて、吐出される湯の温度が上昇する。これらの作用により、カラン12又はシャワーヘッド14から吐出される湯の温度が、設定温度に調節される。
【0041】
つぎに、図5〜図7を参照して、本実施形態の湯水混合水栓で用いられた湯水混合促進部材であるブッシュによる湯水の整流効果について、本実施形態と比較例を比較しながら説明する。
図5は、本実施形態の湯水混合水栓で用いられたブッシュを採用し、所定の湯圧の湯と所定の水圧の水を混合させた場合におけるブッシュ周辺を流れる湯水の脈動の発生について調べた実験結果を示している。一方、図6及び図7のそれぞれは、図5の実験結果に対する比較例1及び比較例2として、本実施形態の湯水混合水栓で用いられたブッシュの形状とは異なる形状をそれぞれ採用したブッシュの周辺を流れる湯水の脈動の発生について調べた実験結果を示している。
ここで、図5〜図7における湯圧と水圧の組み合わせの各欄には、脈動の発生がない場合には「○」を表示し、脈動の発生がある場合には「×」を表示している。
また、図6に示す比較例1で採用されたブッシュについては、その下流側端部が上流側から下流側に向かって軸方向に沿ってテーパー状に窄まる先細り形状となっている。
一方、図7に示す比較例2で採用されたブッシュについては、その下流側端部が上流側から下流側に向かって軸方向に沿って凸状の曲面を形成して先細り形状となっている。
【0042】
まず、図5に示すように、本実施形態の湯水混合水栓で用いられたブッシュでは、湯圧と水圧の各組み合わせにおいても脈動の発生が見られず、ブッシュ周辺を流れる湯水がブッシュ44から感温ばね34の内部に向かって整流化され、脈動を発生させることなくスムーズに流れていることが確認できた。
【0043】
つぎに、図6に示す比較例1では、湯圧と水圧の多くの組み合わせで脈動の発生を確認し、図5に示す本実施形態の湯水混合水栓で用いられたブッシュを採用した場合に比べ、ブッシュ周辺を流れる湯水がブッシュから感温ばねの内部に向かってスムーズに流れていないことが確認できた。
また、図7に示す比較例2においても、湯圧と水圧のいくつかの組み合わせで脈動の発生を確認し、図5に示す本実施形態の湯水混合水栓で用いられたブッシュを採用した場合に比べ、ブッシュ周辺を流れる湯水がブッシュから感温ばねの内部に向かってスムーズに流れていないことが確認できた。
【0044】
上述した本発明の一実施形態の湯水混合水栓1によれば、ブッシュ44が主弁体30とは別体として主弁体30の内部に軸方向に相対的に移動可能に配置されており、ブッシュ44の下流側端部44aが上流側から下流側に向かって軸方向に沿って凹状の曲面を形成した先細り形状となっているため、ブッシュ44の下流側端部44aの外側を通過する湯水が、ブッシュ44から感温ばね34の内部に向かって整流化され、脈動を発生させることなくスムーズに流れ、湯と水の混合を非常に効果的に促進させることができる。それゆえ、湯水の圧力条件にかかわらず、十分な吐出流量を確保しながら、温度調節性能を向上させることができる。さらに、現場条件によって、湯温調節用操作ハンドル8の初期設定を行う必要のない湯水混合装置とすることができる。
【0045】
また、本実施形態の湯水混合水栓1によれば、ブッシュ44の先細り形状を形成する下流側端部44aの先端部44cは、ブッシュ44が軸方向の最も下流側(図3における右側)に移動して感温ばね34に最も接近した状態でも感温ばね34の上流側端部34aの付近に位置し、感温ばね34の内部の中央付近までは到達しないようになっているため、感温ばね34の内部全体に常に十分な流路を確保することができ、感温ばね34の内部を流れる湯水の流量の減少を抑え、吐水量の減少を抑制することができる。
【0046】
さらに、本実施形態の湯水混合水栓1によれば、ブッシュ44が主弁体30に固定されているのではなく、主弁体30とは別体として、クリップ48を介してばね押え部材46に連結されているため、ブッシュ44により湯水の混合が促進される際に、ブッシュ44で発生する振動が主弁体30に伝わることがない。それゆえ、ブッシュが主弁体に固定されている場合やブッシュが主弁体に一体的に形成されている場合に比べ、ブッシュが要因となって主弁体で発生させる異音を抑えることができる。
【0047】
また、本実施形態の湯水混合水栓1によれば、ブッシュ44が脚付環状部材42の中央穴42cに挿入される共にバイアスばね32の円筒状の内部を通過可能に係合されているため、ブッシュ44が不用意にバイアスばね32の外部へ外れてしまうのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態による湯水混合水栓全体を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態による湯水混合水栓に内蔵されている湯水混合装置の断面図である。
【図3】図2におけるブッシュ、バイアスばね、ばね押え部材、及び、クリップの部分を拡大した拡大断面図である。
【図4】本発明の一実施形態による湯水混合水栓に内蔵されている湯水混合装置のブッシュ、バイアスばね、ばね押え部材、及び、クリップの分解斜視図である。
【図5】本実施形態の湯水混合水栓で用いられたブッシュを採用し、所定の湯圧の湯と所定の水圧の水を混合させた場合におけるブッシュ周辺を流れる湯水の脈動の発生について調べた実験結果を示す図である。
【図6】図5の実験結果に対する比較例1として、本実施形態の湯水混合水栓で用いられたブッシュの形状とは異なる形状を採用したブッシュの周辺を流れる湯水の脈動の発生について調べた実験結果を示す図である。
【図7】図5の実験結果に対する比較例1として、本実施形態の湯水混合水栓で用いられたブッシュの形状とは異なる形状を採用したブッシュの周辺を流れる湯水の脈動の発生について調べた実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 湯水混合水栓
2 水栓本体
4 湯供給脚
6 水供給脚
8 湯温調節用操作ハンドル
10 吐止水切替ハンドル
12 カラン
14 シャワーヘッド
16 切替バルブ
20 湯水混合装置
20a 湯水混合装置本体
22 第1本体部材
22a 湯導入口
22b 水導入口
22c 湯側シート面
22d 雌ねじ部
22e 段部
22f スプライン部
24 第2本体部材
24a 雄ねじ部
24b 水側シート面
24c 吐出口
26 送りねじ
26a スプライン部
26b 送り雄ねじ部
28 摺動部材
28a 溝
28b 送り雌ねじ部
30 主弁体
30a 円筒部
30b 湯側シート部
30c 水側シート部
32 バイアスばね
34 感温ばね
38 スペーサーリング
40 脚付スペーサーリング
42 脚付環状部材
42a 脚部
42b 環状部
42c 中央穴
44 ブッシュ
44a 下流側端部
44b 長孔
44c 先端部
46 ばね押え部材
46a 挿入孔
48 クリップ
48a 脚部
48b 突起部
50 感温ばねガイド部材
50a 羽根
52,54 フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湯及び水を混合し適温に調整された湯水を吐出させる湯水混合装置であって、
湯水混合装置本体と、
吐出される湯水の温度を設定する操作ハンドルと、
上記湯水混合装置本体の内部に移動可能に配置され、移動することにより、上記湯水混合装置本体内に流入する湯及び水の流量を変化させる主弁体と、
上記湯水混合装置本体の内部に配置され、上記操作ハンドルの操作に応じて、上記主弁体を所定方向に摺動させる付勢力を発生する付勢部と、
上記湯水混合装置本体の内部に配置され、上記湯水混合装置本体内に流入して混合された湯水の温度に応じて、上記付勢部とは逆方向に上記主弁体を摺動させる付勢力を発生する感温付勢部と、
上記主弁体の内部に配置され、供給された湯及び水の混合を促進する湯水混合促進部材であって、その下流側端部が上流側から下流側に向かって軸方向に沿って凹状の曲面を形成して先細り形状となっている上記湯水混合促進部材と、
を有することを特徴とする湯水混合装置。
【請求項2】
上記湯水混合促進部材の下流側端部の先端は、上記感温付勢手段に最も接近した状態でも上記感温付勢部の上流側端部付近に位置するように構成されている請求項1記載の湯水混合装置。
【請求項3】
さらに、上記操作ハンドルと上記付勢部の間に介在して設けられ、上記操作ハンドルの操作により移動して上記付勢部を押えて上記付勢部に付勢力を発生させる押え部材を備え、この押え部材に上記湯水混合促進部材が連結されている請求項2記載の湯水混合装置。
【請求項4】
上記湯水混合促進部材は、上記付勢部から外れないように上記付勢部に係合されている請求項3記載の湯水混合装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の湯水混合装置と、
この湯水混合装置を収納する水栓本体と、
上記湯水混合装置によって混合された湯の吐水状態と止水状態を切替える開閉弁と、
混合された湯を吐出させる吐出部と、
を有することを特徴とする湯水混合水栓。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−84781(P2010−84781A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251104(P2008−251104)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】