説明

湿度センサ

【課題】応答性よく湿度を計測し、計測のために消費するエネルギーの少ない湿度センサを提供する。
【解決手段】送波素子1は、熱誘起型であって、通電に伴って媒質に局所的な熱衝撃を与えて圧力波を発生させる。受波素子2は、送波素子1とは規定の距離だけ離れた位置に配置され送波素子1からの圧力波を受波して電気信号に変換する。温度検出素子8は、圧力波が伝播される媒質の温度を計測する。送波素子1は、制御部6から出力される単峰性のパルスにより送波素子1を駆動する。処理部7は、送波素子1と受波素子2との間で伝送される圧力波の伝播時間と温度検出素子8が計測した温度とを用いて媒質の湿度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒質中を伝播される圧力波を利用して湿度を計測する湿度センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の湿度センサとして、対向させて配置した一対の振動子の一方から超音波(圧力波)を送出させ、他方で超音波を受波することにより、両振動子の間で伝播された超音波の音速に基づいて、空気の湿度を求める構成が知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された湿度センサは、1組の音波発信子と音波受信子を備えた2つの中空体を備え、一方は既知の湿度の空気を封入した中空体(参照部)で、他方は通気用の小孔を設けた中空体であり、両者の中空体の空気の湿度差によって生じる音波の到達時間差によって湿度を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−312667号公報(特許請求の範囲、段落[0004][0005]、第1図参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術では、湿度による小さな音速の変化を捉えるため、実質的に同一形状の2つの中空体と、各々2つの音波発信素子と音波受波素子とからなり、各々の中空体には一組の音波発信素子と音波受波素子とを一定の距離を隔てて対向せしめ、一方の中空体(参照部)には既知の湿度量を有する空気(たとえば、乾燥空気)を封入し、他方の中空体は通気用小孔をあけ、両方の中空体を近接せしめた構成としている。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術では、以下の問題を有している。
・2つの中空体を設けているためサイズが大きくなる。
・一方の中空体に既知の湿度量を有している空気を封入しているが、長期間に渡って湿度量を維持することが困難である。
・2つの中空体のうちの一方が密閉されているため内部空気の温度追従性が異なるから、温度差による湿度誤差が大きくなる。
【0006】
本発明は、サイズが小さく、長期間に渡って湿度を安定に計測でき、応答性よく湿度を計測することを可能とし、さらに、音速計測から導く湿度の精度を高め、計測のために消費するエネルギーが少ない湿度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、通電に伴って媒質に局所的な熱衝撃を与えて圧力波を発生させる熱誘起型の送波素子と、送波素子とは規定の距離だけ離れた位置に配置され送波素子からの圧力波を受波して電気信号に変換する受波素子と、圧力波が伝播される媒質の温度を計測する温度検出素子と、単峰性のパルスにより送波素子を駆動する制御部と、送波素子と受波素子との間で伝送される圧力波の伝播時間と温度検出素子が計測した温度とを用いて媒質の湿度を算出する処理部とを備えることを特徴とする。
【0008】
送波素子と受波素子との間の空間を周囲空間と分離し、塵埃の通過を阻止するエアフィルタを付加した構成が好ましい。
【0009】
処理部は、送波素子に通電する前にコンデンサに規定量の電荷を充電し制御部が送波素子に通電した後にコンデンサの放電を開始する充放電部と、受波素子が圧力波を受波した時点におけるコンデンサの電荷量を送波素子と受波素子との間での圧力波の伝播時間に換算する換算部とを備えるのが好ましい。
【0010】
この場合、充放電部は、送波素子に通電した時点から規定の遅れ時間後にコンデンサの放電を開始し、遅れ時間は、媒質の温度および湿度の計測範囲に応じて上限値が設定されていることが好ましい。
【0011】
また、充放電部は、送波素子に通電した時点から規定の遅れ時間後にコンデンサの放電を開始し、遅れ時間は、温度検出素子で検出された媒質の温度と湿度の計測範囲とに応じて設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の構成によれば、単峰性のパルスで熱誘起型の送波素子を駆動することにより圧力波を送波し、送波素子と受波素子との間の圧力波の伝播時間と、温度検出素子により計測した媒質の温度とを用いて媒質の湿度を算出しており、発生する単峰性のパルス音波は急伸に音圧変化するため、音波到来時間を高精度に計測でき、これに基づく音速から算出した湿度も高精度に換算できるため湿度精度が向上する。さらに、基準となる既知の湿度量の中空体(参照部)を設ける必要がなくなりサイズが小さくでき、単峰性のパルス1波で計測できるので、湿度を計測する最小の時間間隔をパルスを送波する時間間隔にすることができる。すなわち、応答性よく湿度を計測することがができるという利点がある。しかも、送波素子が熱誘起型であって、送波素子を単峰性のパルスで駆動するから、連続的な音波(超音波など)によって位相差を用いる場合に比較すると計測のために送波素子に与えるエネルギーが少なく、計測のために消費するエネルギーが少なくなるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態を示すブロック図である。
【図2】同上に用いる送波素子の構成例を示す断面図である。
【図3】同上に用いる受波素子の構成例を示し、(a)は一部破断した斜視図、(b)は断面図である。
【図4】同上の要部の外観を示す斜視図である。
【図5】同上の要部回路図である。
【図6】同上の動作説明図である。
【図7】同上の動作説明図である。
【図8】同上の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態は、湿度を計測する媒質で満たされた空間において、送波素子から圧力波を送出し、送波素子からの圧力波を受波素子で受波することにより、圧力波の伝播時間(実際には、伝播速度)を計測している。媒質の湿度は、媒質中での圧力波の伝播時間と媒質の温度とをパラメータとして以下の関係がある。具体的には、送波素子と受波素子との間で圧力波が伝播される距離をL[m]、伝播時間をt[s]、媒質の温度をT[°K]、媒質の水蒸気圧をP[Pa]、大気圧をPA[Pa]としたときに、以下の関係が得られる。
L/t=k1{T(1+k2・P/PA)}1/2
ここで、温度Tにおける飽和水蒸気圧をPs[Pa]とし、相対湿度をRH[%]とすると、以下の関係が得られる。
RH=P/Ps×100
k1,k2は適宜に定められる係数であり、たとえば、媒質を空気とすると、k1=20.067、k2=0.3192を用いることができる。
【0015】
上式において、L/tは媒質中の圧力波の伝播速度であるから、圧力波の伝播速度(つまり、伝播時間)を正確に求めると、湿度を求める精度が高められることになる。また、媒質は空気を例として説明するが、他の気体であってもよい。空気以外の媒質では、係数k1,k2を変える必要がある。
【0016】
本実施形態では、図1に示すように、送波素子1と受波素子2とを規定の距離だけ離れた位置に対向させて配置している。送波素子1と受波素子2との距離を保つために、送波素子1と受波素子2とは適宜のフレーム3に取り付けられる。また、フレーム3は、送波素子1と受波素子2との間の計測空間5を周囲空間と分離するエアフィルタ4を保持する。
【0017】
エアフィルタ4は湿度を計測する対象である媒質を計測空間5に取り込むことができるが、周囲空間に浮遊する塵埃の通過は阻止する。
【0018】
エアフィルタ4は、円筒状や角筒状に形成することにより、湿度の計測対象である媒質を計測空間5に取り込む際の方向による選択性を低減させることが好ましい。ただし、媒質を計測空間5に取り込む方向が定まっている場合は、エアフィルタ4を他の形状に形成してもよい。図4に示す例では、送波素子1および受波素子2とフレーム3とにより左右両側面が開放された箱状に形成してあり、エアフィルタ4をフレーム3の左右両面にそれぞれ設けている。
【0019】
上述のように計測空間5と周囲空間とを分離するエアフィルタ4を設けることにより、送波素子1と受波素子2との間の計測空間5への塵埃(つまり、湿度成分以外の浮遊粒子)の侵入を防止できる。言い換えると、塵埃が存在することによる圧力波の伝播速度の変化が防止され、湿度の計測精度が高められる。
【0020】
送波素子1は、たとえば、図2に示す構成を備える。図示する送波素子1は、単結晶半導体であってp形の導電形を付与したベース基板11を備え、ベース基板11の一表面(図2の上面)側に、多孔質半導体からなる熱絶縁層12を介して金属薄膜からなる発熱体層13を設けてある。さらに、送波素子1は、ベース基板11の前記一表面側に、発熱体層13とオーミックに接続された一対の電極パッド14を備える。ベース基板11は平面視(図2の上面視)において長方形状に形成され、ベース基板11の前記一表面のうち熱絶縁層12を形成していない部位には半導体酸化膜からなる絶縁膜(図示せず)が形成されている。
【0021】
両電極パッド14の間には発熱体層13が設けられているから、両電極パッド14の間に通電すると発熱体層13が発熱する。ここで、発熱体層13に短時間だけ通電すると、発熱体層13の周囲の媒質が急激に加熱され媒質に局所的な熱衝撃が与えられ、発熱体層13の周囲の媒質が瞬間的に膨張と収縮とを行うことによって圧力波が発生する。この圧力波の振幅は、発熱体層13の温度の変化率に対応し、発熱体層13に通電される電流が一定になり発熱体層13の周囲の媒質の加熱量と放熱量とが均衡するようになると圧力波は停止する。この種の送波素子1を熱誘起型と称している。
【0022】
熱絶縁層12は、熱伝導率および熱容量を小さくするために、多孔度を60〜70%程度に設定してある。この構成により、発熱体層13への通電時に媒質との熱交換の効率が高められ、少ないエネルギーで振幅の大きい圧力波を発生させることができる。すなわち、エネルギーの利用効率が高くなる。また、熱絶縁層12は、熱伝導率と熱容量との積をベース基板11よりも小さくしてあり、熱絶縁層12からベース基板11に熱を逃がしやすくして、熱絶縁層12に熱が蓄積されないようにしてある。
【0023】
ベース基板11および熱絶縁層12には、シリコンのほか、ゲルマニウム、炭化ケイ素、ガリウムヒ素などの半導体材料を用いてもよい。これらの半導体材料は、陽極酸化処理による多孔質化が可能である。
【0024】
また、発熱体層13を形成する金属は、高融点の金属材料であるタングステン、モリブデン、タンタル、イリジウムなどから選択するのが好ましいが、アルミニウムなどを用いてもよい。この種の送波素子1の設計条件および製造方法は周知であるから詳述しない。なお、設計条件の一例を示すと、ベース基板11の厚み寸法を300〜700μm、熱絶縁層12の厚み寸法を1〜10μm、発熱体層13の厚み寸法を20〜100μm、電極パッド14の厚み寸法を0.5μmとすることができる。
【0025】
上述した送波素子1は、強い共振を生じる実質的な共振点がなく、発熱体層13に通電した電流波形に応じた波形の圧力波が発生する。たとえば、電流波形をガウス波形とすればガウス波形の圧力波が発生し、電流波形が矩形波状であれば立ち上がりと立ち下がりとにおいて粗密を生じる圧力波が発生する。すなわち、多くの周波数成分を含んだ圧力波を発生させることができる。
【0026】
受波素子2は、多くの周波数成分を含む圧力波(単峰性のパルス音波)を受波するために、共振点を持たない構成を採用することが望ましい。本実施形態では、この要求を満たすために、図3に示すような、静電容量型のマイクロホンを受波素子2に用いている。この受波素子2は、矩形状に開口する窓孔23が貫設されたフレーム21と、フレーム21の一表面側においてフレーム21の一辺に一端が片持ち支持された受圧板22とを備える。受圧板22の他端部はフレーム21の一表面に対向する。また、フレーム21と受圧板22には、互いに対向する部位に感知電極24,25が設けられる。
【0027】
フレーム21と受圧板22との接合部には、感知電極24,25の間に間隙が生じるように受圧板22を支持するとともに受圧板22に復帰力を与えるために、弾性支持部26を設けてある。したがって、受圧板22に圧力が作用すると、圧力の大きさに応じて感知電極24,25の距離が変化し、感知電極24,25の間の静電容量が変化する。すなわち、感知電極24,25の静電容量の変化を検出することにより、受圧板22に作用する圧力の変化を検出することができる。
【0028】
静電容量型のマイクロホンの構成は周知であって、上述のように、フレーム21と受圧板22とにそれぞれ感知電極24,25を設ける構成以外の構成を採用してもよい。たとえば、フレーム21に2個の感知電極を設け、感知電極間の静電容量が受圧板22との距離変化に応じて変化するのを利用する構成、この構成に加えて受圧板22にエレクトレットを設けた構成など種々構成を用いることができる。また、受波素子2として、受圧板22に作用する圧力を感知電極24,25の間の静電容量に変えて検出する静電容量型のマイクロホンではなく、受圧板22の変形を歪みゲージによって検出するマイクロホンを採用してもよい。
【0029】
図1に示すように、送波素子1は、制御部6から出力される駆動信号で駆動される。本実施形態で用いる駆動信号は、電流波形が矩形波状となる信号であり、所定の時間間隔で発熱体層13に通電される。したがって、送波素子1からは、矩形波の立ち上がりと立ち下がりとにおいて粗密を生じる圧力波が発生する。ここに、送波素子1を駆動する駆動信号は単峰性のパルスであれば、矩形波状に限らずガウス波形などであってもよい。なお、単峰性とはリンギング(波打ち)部分を持たない波形を意味している。
【0030】
また、比較的短い時間間隔で複数個の圧力波をグループとして送出し、グループを単位とする圧力波を比較的長い時間間隔で送出することが望ましい。この動作では、グループとなる複数個の圧力波から得た結果を統計的に処理(異常値を除去して平均値を求めるなど)することによって、単発の圧力波から得た結果による誤差の発生を抑制することになる。また、圧力波のグループを比較的長い時間間隔で送出するから、短い時間間隔で圧力波を連続的に送出する場合よりも消費電力を低減することができる。すなわち、計測のために消費するエネルギーが低減される。
【0031】
一方、受波素子2が圧力波を受波すると、圧力波の波形と相似になる波形を有した電気信号が受波素子2から出力される。受波素子2から出力された電気信号は処理部7に入力され、処理部7では、送波素子1が圧力波を送出してから受波素子2に圧力波が受波されるまでの時間(すなわち、圧力波の伝播時間)が求められる。処理部7には、温度検出素子8により計測された計測空間5の温度に相当する電気信号も入力される。温度検出素子8としては、サーミスタのような周知の温度センサを用いる。
【0032】
送波素子1と受波素子2との距離は既知であり、圧力波が伝播される媒質の温度は温度検出素子8により計測されているから、送波素子1と受波素子2との間を伝播される圧力波の伝播時間を求めることにより、上述した計算式から媒質の湿度が求められる。また、送波素子1は単峰性のパルスにより駆動されて圧力波を送出し、かつ圧力波の伝播時間に基づいて湿度を計測するから、連続波や間欠波を用いて減衰率により湿度を計測する従来構成に比較すると、湿度を応答性よく検出することができる。ここに、処理部7は、たとえばマイコンを主構成として構成され、アナログ−デジタル変換器(以下、「A/D変換器」という)を内蔵している。
【0033】
ところで、送波素子1が圧力波を送出してから受波素子2が圧力波を受信するまでの時間は、本実施形態では、以下の構成によって計測している。図5に示すように、処理部7は、送波素子1に通電する前にコンデンサ31に規定量の電荷を充電しておき、送波素子1が圧力波を送出した時点からコンデンサ31の放電を開始する充放電部32を備える。また、処理部7は、受波素子2が圧力波を受波した時点のコンデンサ31の電荷量を送波素子1と受波素子2との間の圧力波の伝播時間に換算する換算部33を備える。
【0034】
充放電部32は、コンデンサ31に規定量の電荷を充電する充電部321と、コンデンサ31を定電流で放電させる放電部322とを備える。充電部321は、送波素子1から圧力波を送出するために通電する前に、コンデンサ31に規定量の電荷を充電する。したがって、送波素子1から圧力波を送出する直前におけるコンデンサ31の端子電圧は規定した電圧値になる。
【0035】
充電部321と放電部322とは、充放電部32に設けた切替部323により選択される。実際には、制御部6から送波素子1に駆動信号を与えた時点で、切替部323は放電部322を選択し、コンデンサ31の放電を開始させる。したがって、コンデンサ31の端子電圧は、図6に示すように、送波素子1から圧力波が送出された時点t1から時間経過に伴って低下する。
【0036】
充放電部32は、受波素子2から出力される電気信号を基準値と比較する比較部324を備えている。比較部324は、受波素子2から出力される電気信号(電圧値)が基準値を超えると切替部323に指示し(時刻t2)、コンデンサ31の放電を停止させる。この時点では、コンデンサ31の充放電は停止する。したがって、コンデンサ31の端子電圧は、送波素子1から圧力波が送出された後に、受波素子2により圧力波が受波されるまでの時間(t2−t1)に対応する。すなわち、コンデンサ31の端子電圧を用いて圧力波の伝播時間(t2−t1)を計測することができる。
【0037】
コンデンサ31の端子電圧は、温度検出素子8から出力される電気信号とともに、換算部33に入力され、必要に応じて増幅された後、アナログ−デジタル変換(以下、「A/D変換」という)が施される。換算部33では、コンデンサ31の端子電圧から求められる圧力波の伝播時間と、温度検出素子8で計測された温度と、既知情報とを上式に当てはめることにより、媒質の湿度を算出する。
【0038】
ここに、換算部33では、複数個の圧力波から求められる伝播時間を統計的に処理することにより、伝播時間の算出精度を高める。すなわち、伝播時間の計測値における異常値や変動成分を除去することによって、伝播時間の計測誤差を抑制する。
【0039】
なお、送波素子1と受波素子2との間での圧力波の伝播時間を計測するには、コンデンサ31の充放電を利用する技術のほか、他の周知の時間計測の技術を用いてもよい。たとえば、一定周期で発生するクロック信号をカウンタで計数する技術を用い、送波素子1に駆動信号を与えた時点から受波素子2で圧力波が受波されるまでの時間をクロック信号の計数値として計測してもよい。
【0040】
ところで、換算部33では、コンデンサ31の端子電圧を増幅した後にA/D変換を施しているから、伝播時間の分解能は増幅後の電圧の変化幅とA/D変換の際の分解能とに依存する。すなわち、A/D変換器の入力電圧の範囲と出力ビット数とに依存して伝播時間の分解能が決まることになる。一方、コンデンサ31は送波素子1が圧力波を送波した時点から受波素子2が圧力波を受波するまでの期間に放電されるから、コンデンサ31の端子電圧は伝播時間の計測範囲外の期間においても変化している。
【0041】
たとえば、伝播時間の計測範囲が100〜500nsであるとすると、0〜100nsの期間は計測範囲外であるから、A/D変換器の入力電圧の範囲にこの期間の電圧を含むことは無駄である。図7(a)のように時刻t1において送波素子1から圧力波を送出し、図7(b)のように時刻t2において受波素子2において圧力波が受波されるとすると、上述した構成では、圧力波の伝播時間を時刻t1からの経過時間txとして計測していることになる。
【0042】
しかしながら、送波素子1が圧力波を送出してから受波素子2が圧力波を受波するまでの伝播時間が変化する範囲(計測範囲tv)は、計測しようとする媒質の温度および湿度に応じて決定され、変化する範囲の下限値より短い時間範囲では伝播時間は変化しない。つまり、伝播時間が変化しない範囲まで計測範囲tvに含めると、A/D変換器の限られたダイナミックレンジを有効に利用していないことになる。
【0043】
ここでは、説明を簡単にするために、A/D変換器の入力電圧の範囲が0〜5Vであり、伝播時間の計測範囲が100〜500nsであって、A/D変換器の入力電圧と伝播時間とが線形関係である場合を想定する。つまり、入力電圧の5Vは伝播時間の0nsに対応し、入力電圧の0Vは伝播時間の500nsに対応する。
【0044】
この場合、入力電圧の10mVの変化が伝播時間の1nsの変化に対応する。仮にA/D変換器の出力ビット数を8ビットとすれば、1ビット当たり5/255≒20mVになるから、伝播時間を約2nsの単位で検出することができる。ただし、伝播時間について0〜100nsは計測範囲外であるから、入力電圧について4〜5Vの範囲は利用されないことになる。
【0045】
そこで、A/D変換器の入力電圧の範囲のうち伝播時間の計測に利用されていない範囲を伝播時間の計測に利用すれば、伝播時間についての分解能を高めることができると考えられる。本実施形態では、以下に説明する技術を採用することにより、A/D変換器の性能を変更することなく伝播時間についての分解能を向上させている。
【0046】
ここでは、充放電部32において、送波素子1に通電した時点から規定の遅れ時間後にコンデンサ31の放電を開始する構成を採用している。圧力波の伝播時間は媒質の温度および湿度に依存するから、遅れ時間は媒質の温度および湿度の計測範囲に応じて上限値を設定する。
【0047】
すなわち、図8(a)のように時刻t1において送波素子1から圧力波を送出し、図8(b)のように時刻t2において受波素子2において圧力波が受波される場合、圧力波の伝播時間を時刻t1から遅れ時間tdが経過した後の経過時間tyとして計測するのである。言い換えると、実際の伝播時間は遅れ時間tdと経過時間tyとの和になる。この場合、伝播時間を実際に計測している期間は、時刻t1から遅れ時間tdが経過した後のみであり、遅れ時間tdは計測する必要がないから、経過時間tyを計測する期間と計測範囲tvとが重複する割合が多くなる。ここに、計測範囲tvは、計測の対象である媒質の温度および湿度の範囲により決まるから、計測範囲tvを開始する遅れ時間tdの上限値を、媒質の温度および湿度の範囲によって決めておく。
【0048】
たとえば、上述した条件であれば、遅れ時間の上限値を100nsに設定する。いま、遅れ時間を100nsに設定するだけで他の条件を変更しなければ、伝播時間の100〜500nsに対応するA/D変換器の入力電圧は1〜5Vになる。A/D変換器の入力電圧の範囲は0〜5Vであるから、伝播時間の計測範囲をA/D変換器の入力電圧の範囲に対応付けるように条件を変更する。具体的には、コンデンサ31の放電に際しての時定数を変更するか(放電部322の放電電流を変更する)、コンデンサ31の端子電圧の増幅率を変更し、伝播時間の100〜500nsを入力電圧の0〜5Vに対応付ける。
【0049】
この場合、入力電圧の10mVの変化は伝播時間の0.8nsの変化に対応することになる。すなわち、A/D変換器の出力ビット数が8ビットであるとすれば、伝播時間を約1.6nsの単位で検出することが可能になる。言い換えると、A/D変換器の入力電圧の範囲を伝播時間の計測に無駄なく利用して、伝播時間についての分解能を向上させることになる。
【0050】
上述した動作では、遅れ時間を固定的に設定しており遅れ時間に設定可能な上限値を定めているが、温度検出素子8で検出した媒質の温度を用いて遅れ時間を調整する構成としてもよい。すなわち、温度が上昇すれば、音速が大きくなり伝播時間が短くなるから、温度検出素子8により検出した温度が高いほど遅れ時間を短くするように調整する構成を採用してもよい。
【0051】
この構成を採用する場合でも、遅れ時間には上限値を定めておくのが望ましい。すなわち、遅れ時間が大きすぎると遅れ時間の経過後に設定されている計測期間において、圧力波が検出されなくなる可能性があるから、遅れ時間には上限値を設定しておくのが望ましい。
【符号の説明】
【0052】
1 送波素子
2 受波素子
4 エアフィルタ
6 制御部
7 処理部
8 温度検出素子
31 コンデンサ
32 充放電部
33 換算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電に伴って媒質に局所的な熱衝撃を与えて圧力波を発生させる熱誘起型の送波素子と、前記送波素子とは規定の距離だけ離れた位置に配置され前記送波素子からの圧力波を受波して電気信号に変換する受波素子と、圧力波が伝播される媒質の温度を計測する温度検出素子と、単峰性のパルスにより前記送波素子を駆動する制御部と、前記送波素子と前記受波素子との間で伝送される圧力波の伝播時間と前記温度検出素子が計測した温度とを用いて媒質の湿度を算出する処理部とを備えることを特徴とする湿度センサ。
【請求項2】
前記送波素子と前記受波素子との間の空間を周囲空間と分離し、塵埃の通過を阻止するエアフィルタを付加したことを特徴とする請求項1記載の湿度センサ。
【請求項3】
前記処理部は、前記送波素子に通電する前にコンデンサに規定量の電荷を充電し前記制御部が前記送波素子に通電した後に前記コンデンサの放電を開始する充放電部と、前記受波素子が圧力波を受波した時点における前記コンデンサの電荷量を前記送波素子と前記受波素子との間での圧力波の伝播時間に換算する換算部とを備えることを特徴とする請求項1又は2記載の湿度センサ。
【請求項4】
前記充放電部は、前記送波素子に通電した時点から規定の遅れ時間後に前記コンデンサの放電を開始し、遅れ時間は、媒質の温度および湿度の計測範囲に応じて上限値が設定されていることを特徴とする請求項3記載の湿度センサ。
【請求項5】
前記充放電部は、前記送波素子に通電した時点から規定の遅れ時間後に前記コンデンサの放電を開始し、遅れ時間は、前記温度検出素子で検出された媒質の温度と湿度の計測範囲とに応じて設定されることを特徴とする請求項3記載の湿度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−154726(P2012−154726A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13055(P2011−13055)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】