説明

湿式充填用化粧料容器

【課題】湿式充填法に用いられる容器であって、長時間の加熱によっても熱収縮を殆ど生じず、固形粉末化粧料との密着性および耐衝撃性に優れた化粧料容器を提供する。
【解決手段】溶剤との混合により流動性が付与された固形粉末化粧料を容器内に充填した後、溶剤を揮発除去して容器入り化粧料を製造する方法に用いられる容器であって、ガラス転移温度が90℃以上の非結晶性ポリマーによって形成されている湿式充填用化粧料容器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形粉末化粧料を、溶剤と混合して流動性を付与した状態で容器内に充填した後、溶剤を揮発除去するようにした、いわゆる湿式充填に用いられる湿式充填用化粧料容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ファンデーションやアイカラー、リップカラー等の固形粉末化粧料の容器への充填方法としては、従来から、これをそのまま容器凹部内にプレス充填するプレス法が多く用いられてきたが、最近は、上記固形粉末化粧料をエタノール等の溶剤と混合して流動性を付与した状態で容器内に充填し、溶剤を揮発除去して容器入り化粧料を得る、いわゆる湿式充填法が主流となりつつある。
【0003】
このような湿式充填法では、溶剤を揮発除去するために、固形粉末化粧料入り容器を、例えば70℃×12時間、といった長時間の高温環境に置くことが必要であり、このとき、熱による歪みや収縮が生じないように、アルミニウム等からなる金皿を用いるのが一般的である。
【0004】
しかしながら、上記金皿は、中身である固形粉末化粧料との密着性に乏しいため、上記固形粉末化粧料が熱収縮を生じると、金皿の内壁と固形粉末化粧料との間に隙間ができ、例えば落下等の衝撃を受けると、金皿内の固形粉末化粧料が金皿から外れて粉々に割れたり、ひびが入ったりするという問題がある。また、使用によって固形粉末化粧料の残量が少なくなってくると、固形粉末化粧料が金皿内からパラパラ外れて塗布に供することができず、無駄になってしまうという問題もある。
【0005】
そこで、金皿の少なくとも片面に、特定の樹脂層を被覆したり(特許文献1参照)、容器全体を特定の樹脂材を形成する(特許文献2参照)ことにより、中身である固形粉末化粧料との密着性を高めることが提案されている。
【特許文献1】特開平6−245812号公報
【特許文献2】特開2005−289514公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの容器に用いられる樹脂材も、熱によって、中身である固形粉末化粧料とは異なる、歪みを伴う熱収縮を生じるため、容器と固形粉末化粧料との密着性がやはり損なわれることから、期待されるほどの効果が得られていないのが実情である。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、湿式充填法に用いられる容器であって、長時間の加熱によっても熱収縮を殆ど生じず、固形粉末化粧料との密着性および耐衝撃性に優れた化粧料容器の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、溶剤との混合により流動性が付与された固形粉末化粧料を容器内に充填した後、溶剤を揮発除去して容器入り化粧料を製造する方法に用いられる容器であって、ガラス転移温度が90℃以上の非結晶性ポリマーによって形成されている湿式充填用化粧料容器を第1の要旨とする。
【0009】
そして、本発明は、そのなかでも、特に、上記非結晶性ポリマーが、耐熱アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンポリマー、ポリカーボネート、ポリカーボネートとアクリロニトリル−ブタジエン−スチレンポリマーのポリマーアロイから選択される少なくとも一種のポリマーである湿式充填用化粧料容器を第2の要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
すなわち、本発明の湿式充填用化粧料容器は、従来、結晶ポリマーに比べて機械的強度が低い等の点から化粧料容器として用いられていなかった非結晶性ポリマーのうち、ガラス転移温度が90℃以上のものを用いて形成されたものである。この湿式充填用化粧料容器によれば、充分な強度と熱安定性を備えているだけでなく、ポリアミド、ポリアセタール等の結晶ポリマーでは得られない、固形粉末化粧料との高い密着性を示し、固形粉末化粧料の熱収縮によっても両者の界面に剥離が生じないため、製品化した後の耐衝撃性にも、非常に優れたものとなる。
【0011】
また、本発明のなかでも、特に、上記非結晶性ポリマーが、耐熱アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンポリマー、ポリカーボネート、ポリカーボネートとアクリロニトリル−ブタジエン−スチレンポリマーのポリマーアロイから選択される少なくとも一種のポリマーであるものは、より優れた効果を得ることができる。
【0012】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0013】
まず、本発明の湿式充填用化粧料容器は、溶剤との混合により流動性が付与された固形粉末化粧料を容器内に充填した後、溶剤を揮発除去して容器入り化粧料を製造する、いわゆる湿式充填法に用いられるものである。
【0014】
上記固形粉末化粧料としては、ファンデーション、フェイスカラー、アイカラー、リップカラー、チークカラー等、各種の化粧料があげられ、固形粉末状の化粧料であれば、特に限定するものではない。
【0015】
そして、上記固形粉末化粧料に流動性を付与するために用いられる溶剤としては、水、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソデドカン、軽質流動イソパラフィン、低分子量鎖状シリコーン、環状シリコーン、低分子量フッ素系油等が用いられる。
【0016】
なお、本発明の湿式充填用化粧料容器は、熱安定性に優れ、加熱下での形状安定性に優れていることを特徴とするものであるから、従来、溶剤揮発のための加熱条件が過酷になる、沸点の高い溶剤を用いたものであっても、なんらトラブルを生じることがない。したがって、比較的沸点の高い溶剤、例えば水、揮発性シリコン等の溶剤を用いた場合に、より優れた効果を得ることができる。
【0017】
そして、上記溶剤揮発のための加熱条件も、上記溶剤の種類や固形粉末化粧料の組成に応じて、適宜に設定することができるが、より過酷な加熱条件下において、本発明の特徴が活きるのであり、より優れた効果を得ることができる。
【0018】
つぎに、本発明の化粧料容器は、ガラス転移温度が90℃以上の非結晶性ポリマーによって形成されたものでなければならない。
【0019】
なお、上記「非結晶性ポリマー」とは、結晶化度が30%以下であるか、結晶化状態になり得ないポリマーであって、分子鎖の全部もしくは大部分がランダムに存在し、耐衝撃性、耐候性、寸法安定性に優れたものである。しかも、結晶性ポリマーが、ガラス転移温度未満であっても熱エネルギーが加えられるとすぐに、結晶部分が溶解して剛性が低下し、また熱収縮しやすいのに対し、非結晶性ポリマーは、ガラス転移温度を超えない限り、剛性が低下せず、熱収縮も生じないという特性を備えている。また、上記非結晶性ポリマーは、分子鎖の全部もしくは大部分がランダムに存在しており、容器として成形されたときの表面が、ごく微細な凹凸粗面となるため、充填される固形粉末化粧料との密着性に優れ、固形粉末化粧料が熱収縮を生じても、その際、固形粉末化粧料と容器との界面剥離を生じることがない。そして、ランダムに分子鎖が延びているため、どの方向から衝撃を受けても、その衝撃を吸収して固形粉末化粧料の損傷には至らないという利点を有する。
【0020】
このような、ガラス転移温度が90℃以上の非結晶性ポリマーとしては、例えば、耐熱アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンポリマー(耐熱ABS)、ポリカーボネート(PC)、PCとアクリロニトリル−ブタジエン−スチレンポリマー(ABS)のポリマーアロイ、非結晶性ポリプロピレン、非結晶性ポリエチレンテレフタレート等があげられる。
【0021】
これらのなかでも、特に、耐熱ABS、PC、PCとABSのポリマーアロイを用いることが、効果の上から好ましい。そして、PCとABSのポリマーアロイを用いる場合には、その混合比は、重量基準で3/1〜1/3、なかでも1/1に設定することが好適である。すなわち、PCが多ければ多いほど熱安定性に優れたものが得られるが、上記PCは比較的価格が高いため、コストと熱安定性のバランスから、上記の範囲内で設定することが好ましいのである。
【実施例】
【0022】
つぎに、本発明の実施例について、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0023】
〔実施例1〜5、比較例1,2〕
後記の表1に示す材質の容器を、各例ごとに10個ずつ作製した。その形状は、図1に示すように、平面視の外形が、40mm×40mmの正方形で、高さHが5mmである。また、厚みはどの部分も1.8mmである。そして、以下に示す組成の固形粉末化粧料(ファンデーション)を調製し、後記の湿式充填用法にしたがって、上記容器に充填し、溶剤を揮発除去することにより、容器入り固形粉末化粧料を得た。そして、後記の評価基準にもとづいて、各例の熱安定性と耐衝撃性を評価し、その結果を、後記の表1に併せて示した。
【0024】
〔固形粉末化粧料の組成〕
酸化チタン 10 重量%
セリサイト 残量
タルク 20 〃
ベンガラ 0.2 〃
黄酸化鉄 3 〃
黒酸化鉄 0.1 〃
ナイロンパウダー 5 〃
有機変性ベントナイト 1.5 〃
ワセリン 4 〃
ジメチルポリシロキサン 5 〃
流動パラフィン 5 〃
パルチミン酸イソプロピル 5 〃
防腐剤 0.2 〃
香料 0.05〃
【0025】
〔湿式充填法〕
(1)固形粉末化粧料1重量部に対し、軽質流動イソパラフィン(IPソルベント1620、出光石油化学社製)0.6重量部を添加して混合した後、この混合物(流動性が付与されている)を、前記容器に充填して70℃×24時間の加熱乾燥処理を行い、固形粉末化粧料に混合されていた溶剤を揮発除去した。
【0026】
〔熱安定性〕
溶剤を揮発除去し、常温まで冷却した後、容器内の固形粉末化粧料の表面を観察し、ひび割れや容器との剥離等の異常の有無を目視により判断した。10個のうち、異常があったものの個数を数えて、下記のとおり評価した。
○…0個
△…1〜3個
×…4個以上
【0027】
〔耐衝撃性〕
上記熱安定性の評価を行った容器入り固形粉末化粧料を、高さ50cmの位置から、コンクリート床上に落下させ、容器内の固形粉末化粧料のひび割れや容器との剥離、脱落等の異常の有無を目視により判断した。10個のうち、異常があったものの個数を数えて、下記のとおり評価した。
○…0〜2個
△…3〜5個
×…6個以上
【0028】
【表1】

【0029】
上記の結果から、実施例品1〜5は、いずれの評価項目においても、概ね優れた性能を有していることがわかる。これに対し、比較例品1、2品は、固形粉末化粧料との密着性が悪く、いずれも悪い評価となっている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例である容器の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤との混合により流動性が付与された固形粉末化粧料を容器内に充填した後、溶剤を揮発除去して容器入り化粧料を製造する方法に用いられる容器であって、ガラス転移温度が90℃以上の非結晶性ポリマーによって形成されていることを特徴とする湿式充填用化粧料容器。
【請求項2】
上記非結晶性ポリマーが、耐熱アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンポリマー、ポリカーボネート、ポリカーボネートとアクリロニトリル−ブタジエン−スチレンポリマーのポリマーアロイから選択される少なくとも一種のポリマーである請求項1記載の湿式充填用化粧料容器。

【図1】
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【公開番号】特開2008−212215(P2008−212215A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50081(P2007−50081)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000158781)紀伊産業株式会社 (327)
【Fターム(参考)】