説明

湿式塗装ブース循環水の処理方法

【課題】スラッジの浮上による分離性をより向上することができる方法を提供すること
【解決手段】塗料を含む湿式塗装ブース循環水を処理する方法は、塗料の粘性を低下させ、湿式塗装ブース循環水をフェノール系樹脂と、エトリンガイト水和物及び/又はカルシウムシリケート水和物との存在下におくことで、湿式塗装ブース循環水から塗料を分離する工程を有する。エトリンガイト水和物及び/又はカルシウムシリケート水和物は、湿式塗装ブース循環水に、カルシウム、ケイ素及びアルミニウムからなる群より選ばれる1種以上の元素の酸化物を含むソースを添加することで生成することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料を含む湿式塗装ブース循環水から塗料を分離する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車工業や家庭電器、金属製品製造業等の塗装工程では、様々な塗料がスプレー塗装されている。工業的に使用されている塗料は溶剤型塗料と水性塗料とに大別され、各塗料は単独又は併用で使用されている。このうち、水性塗料は水を主な溶媒とするため、安全かつ衛生的であり、溶剤による公害発生の恐れがない等の利点を有し、特にその応用範囲が拡大されつつある。
【0003】
ところで、塗装工程では、一般に被塗装物に噴霧された塗料の歩留りは必ずしも100%ではなく、例えば自動車工業においては、60〜80%程度であり、使用塗料の40〜20%は次工程で除去すべき余剰塗料である。この余剰塗料を捕集するために、通常、水洗が湿式塗装ブースで行われており、水洗水は循環使用される。
【0004】
この場合、水性塗料は水に溶解ないし分散し、固液分離が難しいために、湿式塗装ブースの循環水に残留して蓄積し、種々の問題を引き起こす。そこで、従来、循環水中の余剰塗料を凝集して分離することが行われており、例えば、メラミン・アルデヒド酸コロイド溶液を添加し、塗料を浮上させて分離することが提案されている。
【0005】
さらには、スラッジ(凝集した塗料)が微細化して浮遊しにくく、ブース内及び循環水槽内にスラッジが堆積しやすいという問題を解消するため、特許文献1には、塗料の粘性を低下させた後、フェノール系樹脂を添加することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−247456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の方法でも、スラッジが軟質で壊れやすいため、撹拌や乱流の下では、スラッジの再分散を十分に抑制できない。このため、スラッジが十分に浮上しなかったり、浮上に時間を要したりしやすいという問題が残る。
【0008】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、スラッジの浮上による分離性をより向上することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、粘性低下した塗料を、フェノール系樹脂に加え、エトリンガイト水和物及び/又はカルシウムシリケート水和物の存在下におくことで、塗料を含むスラッジが硬化し、再分散しにくくなることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) 塗料を含む湿式塗装ブース循環水を処理する方法であって、
前記塗料の粘性を低下させ、前記湿式塗装ブース循環水をフェノール系樹脂と、エトリンガイト水和物及び/又はカルシウムシリケート水和物との存在下におくことで、前記湿式塗装ブース循環水から前記塗料を分離する工程を有する方法。
【0011】
(2) 前記エトリンガイト水和物及び/又はカルシウムシリケート水和物は、前記湿式塗装ブース循環水に、カルシウム、ケイ素及びアルミニウムからなる群より選ばれる1種以上の元素の酸化物を含むソースを添加することで生成する(1)記載の方法。
【0012】
(3) 前記ソースは、焼却灰及び/又はゼオライトを含む(2)記載の方法。
【0013】
(4) 前記焼却灰は、二酸化ケイ素70〜40質量%、酸化アルミニウム25〜10%、酸化カルシウム30〜5質量%を含む(3)記載の方法。
【0014】
(5) 前記湿式塗装ブース循環水に、硫酸カルシウムを含む成分を更に添加する工程を有する(2)から(4)いずれか記載の方法。
【0015】
(6) 前記成分は、石膏を含む(5)記載の方法。
【0016】
(7) 前記ソース及び前記成分は、総量で、二酸化ケイ素70〜40質量%、酸化アルミニウム25〜10%、酸化カルシウム30〜5質量%を含む(5)又は(6)記載の方法。
【0017】
(8) 前記ソース及び前記成分は、3:7〜7:3の質量比で添加される(5)から(7)いずれか記載の方法。
【0018】
(9) 前記ソース及び前記成分は、前記塗料の固形分量に対し5質量%以上20質量%以下の総量で添加される(2)から(8)いずれか記載の方法。
【0019】
(10) 前記塗料の粘性の低下は、前記湿式塗装ブース循環水に、メラミン・アルデヒド酸コロイド溶液及び/又はアルミニウム化合物を添加することで行う(1)から(9)いずれか記載の方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、粘性低下した塗料を、フェノール系樹脂に加え、エトリンガイト水和物及び/又はカルシウムシリケート水和物の存在下におくことで、塗料を含むスラッジが硬化し、再分散しにくくなる。これにより、スラッジの浮上による分離性をより向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例に係る方法で生成された塗料を含むスラッジの電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例に係る方法で生成された塗料を含むスラッジの電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を説明するが、これに本発明が限定されるものではない。
【0023】
塗料を含む湿式塗装ブース循環水の処理方法は、塗料の粘性を低下させ、湿式塗装ブース循環水をフェノール系樹脂と、エトリンガイト水和物及び/又はカルシウムシリケート水和物との存在下におくことで、湿式塗装ブース循環水から塗料を分離する工程を有する。これにより、塗料を含むスラッジが硬化し、再分散しにくくなり、スラッジの浮上による分離性をより向上することができる。また、分離し回収するスラッジが硬く凝集しているため、低い含水量を得ることもできる。
【0024】
塗料の粘性の低下は、特に限定されないが、湿式塗装ブース循環水に、メラミン・アルデヒド酸コロイド溶液及び/又はアルミニウム化合物を添加することで行ってよい。メラミン・アルデヒド酸コロイド溶液としては、メラミンとアルデヒドとを反応させて得られるメチロールメラミンに更に酸を加えることによって製造される。必要に応じてメチロールメラミンを更にアルキルエーテル化したものに酸を加えて製造してもよい。
【0025】
アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、パラアセトアルデヒド等が挙げられるが、とりわけホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが取扱い及び反応効率の面から好ましい。メラミンとアルデヒドとの仕込み割合は、メラミン1モルに対してアルデヒド1〜6モルとするのが好ましい。但し、アルデヒドが2.5モルを越えると酸コロイド溶液としたときに遊離のアルデヒド量が多くなるので、アルデヒドは2.5モル以下とするのが好ましい。
【0026】
メチロールメラミンは水に溶解しないが、酸溶液にはコロイド状となって溶解する。メチロールメラミンを更にアルキルエーテル化して得られるアルキル化メチロールメラミンは水溶性であり、酸を加えるとコロイド状になる。
【0027】
酸としては、一塩基性酸が適する。具体的には、塩酸、硝酸等の鉱酸の他、蟻酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸等の有機酸が挙げられる。とりわけ塩酸は安定したコロイド溶液が得られるので好ましい。一塩基性酸、特に塩酸の添加量は、メラミン1モルに対し、0.5〜1.5モル程度、好ましくは0.7〜1.3モルとするのが好適である。
【0028】
コロイド溶液調整初期においては遊離のアルデヒドが多く存在するが、調整後、室温で放置して熟成すると、遊離のアルデヒドが減少する。熟成時間は、室温の場合には5日〜3ヶ月、加熱する場合には50℃で2〜3時間程度が適当である。
【0029】
メラミン・アルデヒド酸コロイド溶液の添加量としては、塗装ペイント量、塗装方法等により異なるが、水洗水中のメラミン・アルデヒド酸コロイド溶液濃度で1〜5000mg/l、通常5〜500mg/l程度である。余剰塗料量に対して、メラミン・アルデヒド酸コロイド溶液の質量は0.1〜300%の範囲であることが好ましい。
【0030】
なお、メラミン・アルデヒド酸コロイド溶液を水洗水に添加した後、水洗水のpHを4〜10、特に5〜9に調整するのが好ましい。pHがこの範囲を逸脱すると、塗料の粘着性低減効果が十分に発揮されにくい。pH調整に用いる酸やアルカリとしては、塩酸、硝酸、水酸化ナトリウム、アンモニア等の公知のpH調整剤が挙げられる。
【0031】
アルミニウム化合物としては、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、又はアルミナゾルが例示される。
【0032】
メラミン・アルデヒド酸コロイド溶液やアルミニウム化合物のブースへの添加は、通常、塗装ブースへの水洗水スプレー量に応じて連続注入により行うのが好ましいが、間欠注入で行ってもよい。また、メラミン・アルデヒド酸コロイド溶液や無機化合物の添加場所としては、特に制限はないが、水洗水の塗装ブース送給側、特に水洗水と塗料とが接触する直前の配管系が好ましい。
【0033】
以上のように塗料を粘性低下させた後、フェノール樹脂を添加する。
【0034】
フェノール系樹脂としては、フェノール、クレゾール、キシレノール等の一価フェノール等のフェノール類とホルムアルデヒド等のアルデヒドとの縮合物或いはその変性物であって、架橋硬化する前のフェノール系樹脂が挙げられる。具体的には次のものが挙げられる。なお、フェノール系樹脂は、1種単独でもよく、2種以上の組合せでもよい。
[1]フェノールとホルムアルデヒドとの縮合物
[2]クレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物
[3]キシレノールとホルムアルデヒドとの縮合物
[4]上記[1]〜[3]のフェノール系樹脂をアルキル化して得られるアルキル変性フェノール系樹脂
[5]ポリビニルフェノール
【0035】
フェノール系樹脂は、ノボラック型又はレゾール型のいずれでもよい。フェノール系樹脂は水に難溶であるので、水に溶解可能な溶媒に溶解ないし分散させる等して溶液状又はエマルジョンとして用いるのが好ましい。使用される溶媒としてはアセトン等のケトン、酢酸メチル等のエステル、メタノール等のアルコール等の水溶性有機溶媒、アルカリ水溶液、アミン等が挙げられ、好ましくは、苛性ソーダ(NaOH)、苛性カリ(KOH)等のアルカリ剤が挙げられる。
【0036】
フェノール系樹脂をアルカリ性水溶液として用いる場合、アルカリ剤濃度が1〜25質量%、フェノール系樹脂濃度が1〜50質量%であることが好ましい。フェノール系樹脂濃度が高い場合、70〜80℃程度に加温してフェノール系樹脂を溶解させてもよい。
【0037】
フェノール系樹脂の添加量は、湿式塗装ブース循環水に対し、有効成分量(樹脂固形分量)で1mg/L以上、好ましくは5mg/L以上であり、かつ循環水中の塗料(固形分)に対して有効成分量で0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上である。フェノール系樹脂添加量が過小であると、十分な凝集効果が得られにくい。一方、フェノール系樹脂添加量が過大であっても、それに見合う凝集効果の向上は得られにくく、また発泡が生じることがある。このため、湿式塗装ブース循環水に対するフェノール系樹脂の添加量は、有効成分量で1000mg/L以下、特に5〜200mg/Lであり、循環水中の塗料に対し有効成分量で100質量%以下、特に0.5〜10質量%であることが好ましい。
【0038】
フェノール系樹脂の添加量のより好適な範囲は、循環水中の塗料量含有量や塗料の種類によって異なるが、フェノール系樹脂を添加した後の循環水のコロイド溶液当量値が+0.001meq/L以上、特に+0.005meq/L以上で、+1meq/L以下、特に+0.5meq/L以下となるように、とりわけ+0.005〜+0.05meq/Lとなる範囲である。コロイド溶液当量値が上記範囲を外れると、良好な凝集効果が得られにくい。
【0039】
循環水へのフェノール系樹脂の添加は、特に限定されず、循環水系に1日に1〜2回程度の頻度で間欠的に行ってもよく、連続的に行ってもよい。望ましくは、ポンプにより連続的に定量注入する。フェノール系樹脂の添加箇所は、特に限定されないが、通常、循環水の戻りの分離槽入口側であることが好ましい。
【0040】
エトリンガイト水和物及び/又はカルシウムシリケート水和物は、これらを湿式塗装ブース循環水に添加してもよいし、これらの原料を湿式塗装ブース循環水に添加し、水中で生成してもよい。ただし、添加の容易さやコストの観点からは、後者が好ましい。なお、エトリンガイト水和物及びカルシウムシリケート水和物の存在は、湿式塗装ブース循環水中に生成された固形物を電子顕微鏡で観察することで確認できる。
【0041】
エトリンガイト水和物は、3CaO・Al・3CaSO・32HOであり、カルシウムシリケート水和物は、3CaO・2SiO・3HOである。これらの原料は、カルシウム、ケイ素及びアルミニウムからなる群より選ばれる1種以上の元素の酸化物を含むソースを含んでよい。酸化物は、水和してエトリンガイト水和物又はカルシウムシリケート水和物を生成可能なものであれば特に限定されず、カルシウム、ケイ素及びアルミニウムの酸化物の1種でも、2種以上が任意の比率で共晶したものであってもよい。湿式塗装ブース循環水中の無機質成分に応じ、カルシウム、ケイ素及びアルミニウムの中で不足する元素の酸化物を添加してもよい。なお、ソースは、エトリンガイト水和物及び/又はカルシウムシリケート水和物を迅速に生成できる点で、粉末化されていることが好ましく、一般的には100メッシュ以下であることが好ましい。
【0042】
かかるソースは、上記酸化物を含む限りにおいて特に限定されないが、焼却灰及び/又はゼオライトであることが好ましい。焼却灰は、廃棄物(例えば、製紙スラッジ、石炭灰、高炉スラグ)を焼却して残った灰であり、上記酸化物を豊富に含み、コストの点から有利である。また、ゼオライトは、重金属等の不純物を含有しない又はその含有量が小さい点で有利である。ゼオライトは、乾燥又は灰化されたものであることが、水との接触により変化し上記酸化物を豊富に提供できる点で好ましい。
【0043】
焼却灰は、二酸化ケイ素70〜40質量%、酸化アルミニウム25〜10%、酸化カルシウム30〜5質量%を含むものであることが好ましい。これにより、エトリンガイト水和物又はカルシウムシリケート水和物の生成がされやすい。ゼオライトは、酸化カルシウムを3質量%程度しか含まないことが一般的であり、その不足分は後述する石膏等により補うことが好ましい。ただし、湿式塗装ブース循環水中の無機質成分によっては、酸化物を上記比率で含まなくてもよい。
【0044】
また、本発明の方法は、湿式塗装ブース循環水に、硫酸カルシウムを含む成分を更に添加する工程を有することが好ましい。これにより、硫酸カルシウムを成分とするエトリンガイト水和物の生成がより促進される。ただし、湿式塗装ブース循環水中に硫酸塩、カルシウム塩が十分に存在する場合には、必ずしも上記成分を添加しなくてもよい。なお、上記成分も、ソースと同様、粉末化されていることが好ましい。
【0045】
かかる成分は、上記硫酸カルシウムを含み、水和可能である限りにおいて特に限定されないが、石膏を含むことが好ましい。石膏は、水不溶性のため、ブース水における塩類濃度の上昇が少ない点で有利である。石膏は、特に限定されず、無水石膏、半水石膏等の任意のものであってよい。石膏は、水に接触すると、酸化カルシウムを生じる点でも好ましい。
【0046】
ソース及び上記成分は、上記成分が過小であるとエトリンガイト水和物の生成が十分に促進されにくく、ソースが過小であるとカルシウムシリケート水和物のみならずエトリンガイト水和物も十分に生成されにくい。このため、ソース及び上記成分は、3:7〜7:3の質量比で添加されることが好ましく、より好ましくは4:6〜6:4である。これにより、エトリンガイト水和物及びカルシウムシリケート水和物の生成が、バランス良く向上する。ただし、ソース及び上記成分の比率は、湿式塗装ブース循環水中の無機物成分に応じて適宜変更してもよい。
【0047】
ソース及び上記成分は、塗料の固形分量に対し過小であると、スラッジの十分な硬化が得られにくい一方、過大であっても不経済である。そこで、ソース及び上記成分は、塗料の固形分量に対し5質量%以上20質量%以下の総量で添加されることが好ましく、より好ましくは5質量%以上15質量%以下である。
【0048】
エトリンガイト水和物及び/又はカルシウムシリケート水和物を存在させる箇所は、特に限定されないが、通常、後述の浮上分離装置の手前の配管、又は循環水槽であってよい。前者は、浮上分離装置での効率的なスラッジの分離の点で好ましく、後者は再分散したスラッジが蓄積されやすい箇所のため、そのようなスラッジを効率的に分離し回収する点で好ましい。また、ソース及び上記成分の添加は、特に限定されず、循環水系に1日に1〜2回程度の頻度で間欠的に行ってもよく、連続的に行ってもよい。また、ソース及び上記成分は、別々の時間又は箇所に添加してもよく、混合して添加してもよい。
【0049】
その後、塗料(スラッジ)を、浮上分離装置を用いて、浮上させ水と分離する。浮上分離装置は、一般的な加圧浮上装置であってよい。分離し回収したスラッジは、重力脱水後、或いは通常の方法で脱水した後、焼却、埋立て処理する。
【0050】
以上の本発明の方法は、水性塗料を含む湿式塗装ブース循環水、溶剤型塗料を含む湿式塗装ブース循環水、水性塗料及び溶剤型塗料を含む湿式塗装ブース循環水の処理において、有用である。
【実施例】
【0051】
メラミン・アルデヒド酸コロイド溶液及びフェノール系樹脂は、次のようにして溶液化したものを用いた。
【0052】
メラミン1モルに対し、2モルのホルムアルデヒドを反応させて得られたメチロール化メラミン0.05モルを1.35質量%塩酸水溶液100mlに加えて熟成調製したもの(以下「M/F」と略記する)。
【0053】
苛性ソーダ10gと純水150gをビーカーに採り、70℃に加温後、撹拌下に、ノボラック型フェノール系樹脂(群栄化学社製)「レジトップ PSM4324」40gを加え、撹拌することにより溶解させた。
【0054】
ソースとしては、イタヤ・ゼオライト(ジークライト社製)で100メッシュ以下の粉末を用い、上記成分としては無水石膏の粉末を用い、両者を質量比1:1で混合した。
【0055】
比較例では、ソース及び上記成分の代わりに、従来公知の凝集剤である、A剤:カチオン系ポリマー「グリフィックスDC302」(栗田工業社製)、及びB剤:無機系凝集剤「セビオライト ミラクレーPV80」(近江鉱業社製)を用いた。
【0056】
<試験例>
保有水量50Lの試験装置を用いて、循環水量100L/分とした。塗料は、10g/分の速度で、20分間に亘って吹き付けた。薬剤は、メラミン・アルデヒド酸コロイド溶液、固形硫酸バンド(住友化学社製)、フェノール系樹脂、並びにソース及び上記成分の混合粉末(比較例では凝集剤)を、表1に示す量で連続的に添加した。その後、スラッジを、1Lの水を収容したシリンダ(シリンダの底から水面までの距離30cm)に移し、50回の上下振とうの後、全スラッジに対する浮上したスラッジの割合、スラッジの浮上速度を求めた。また、浮上したスラッジを採取し、濾布の上に1時間置いた後、その含水率を測定した。この結果を表1に示す。なお、表1における薬剤の量は、塗料の固形分量に対する量である。スラッジの浮上速度は、水中のほぼすべてのスラッジが水面に浮上するまでの時間を測定し、その時間に基づき算出した。
【0057】
[水性塗料]
上塗り塗料:「GWP−600」(日本ペイント社製)
中塗り塗料:「AR−2300」(日本ペイント社製)
[溶剤型塗料]
クリア塗料:「OG173」(日本ペイント社製)
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表1に示されるように、比較例は、ソース及び上記成分の混合粉末を用いない点、又は、メラミン・アルデヒド酸コロイド溶液又は硫酸バンドと、フェノール系樹脂とを用いない点を除き、実施例と同等の条件である。そして、実施例は、同じ塗料を用いたいずれの比較例よりも、スラッジの浮上量及び速度が大きく、含水率が低かった。これにより、メラミン・アルデヒド酸コロイド溶液又は硫酸バンドと、フェノール系樹脂と、ソース及び上記成分の混合粉末とのすべてを用いることで初めて、スラッジの浮上量及び速度の向上、含水率の低下という効果が得られることが分かった。また、表2より、メラミン・アルデヒド酸コロイド溶液又は硫酸バンドと、フェノール系樹脂と組み合わせることで上記効果を奏するのは、ソース及び上記成分の混合粉末に特有であることも分かった。
【0061】
また、実施例1及び比較例1において採取した浮上スラッジを、常法に従い、走査型電子顕微鏡で観察した。この結果を図1及び2に示す。図1(実施例、倍率2500倍)には、針状に見えるエトリンガイト結晶、及び薄板状に見えるカルシウムシリケート結晶が確認される一方、図2(比較例、倍率1000倍)にはそのような結晶は確認されない。これにより、エトリンガイト水和物及びカルシウムシリケート水和物が、実施例のスラッジには存在した一方、比較例のスラッジには存在せず、前述のスラッジの浮上による分離性向上が、エトリンガイト水和物及びカルシウムシリケート水和物の存在により得られたものであることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料を含む湿式塗装ブース循環水を処理する方法であって、
前記塗料の粘性を低下させ、前記湿式塗装ブース循環水をフェノール系樹脂と、エトリンガイト水和物及び/又はカルシウムシリケート水和物との存在下におくことで、前記湿式塗装ブース循環水から前記塗料を分離する工程を有する方法。
【請求項2】
前記エトリンガイト水和物及び/又はカルシウムシリケート水和物は、前記湿式塗装ブース循環水に、カルシウム、ケイ素及びアルミニウムからなる群より選ばれる1種以上の元素の酸化物を含むソースを添加することで生成する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ソースは、焼却灰及び/又はゼオライトを含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記焼却灰は、二酸化ケイ素70〜40質量%、酸化アルミニウム25〜10%、酸化カルシウム30〜5質量%を含む請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記湿式塗装ブース循環水に、硫酸カルシウムを含む成分を更に添加する工程を有する請求項2から4いずれか記載の方法。
【請求項6】
前記成分は、石膏を含む請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記ソース及び前記成分は、総量で、二酸化ケイ素70〜40質量%、酸化アルミニウム25〜10%、酸化カルシウム30〜5質量%を含む請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
前記ソース及び前記成分は、3:7〜7:3の質量比で添加される請求項5から7いずれか記載の方法。
【請求項9】
前記ソース及び前記成分は、前記塗料の固形分量に対し5質量%以上20質量%以下の総量で添加される請求項2から8いずれか記載の方法。
【請求項10】
前記塗料の粘性の低下は、前記湿式塗装ブース循環水に、メラミン・アルデヒド酸コロイド溶液及び/又はアルミニウム化合物を添加することで行う請求項1から9いずれか記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−187482(P2012−187482A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51996(P2011−51996)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】