説明

湿式洗浄装置及び湿式洗浄方法、並びに磁気記録媒体用基板の製造方法

【課題】被洗浄物の表面に付着した塵埃などの汚染物質を効率良く除去すると共に、洗浄後に汚染物質が被洗浄物の表面に再付着することを防止した湿式洗浄装置及び湿式洗浄方法を提供する。
【解決手段】基板Wの洗浄を湿式で行うための洗浄槽2と、洗浄槽2の下方側から槽内へと洗浄液Lを供給する供給口9aと、洗浄槽2の上方側から槽外へと洗浄液Lを排出する排出口13a,13b,13cと、基板Wを洗浄槽2内で搬送させる搬送機構14とを備え、洗浄槽2内の下方から上方へと向かう洗浄液Lの流れと共に、基板Wの搬送方向Xとは逆向きの洗浄液Lの流れを発生させるように、供給口9aと排出口13a,13b,13cとの何れかによって供給及び/又は排出される洗浄液Lの流れを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば磁気記録媒体用基板などの被洗浄物の洗浄を湿式で行う湿式洗浄装置及び湿式洗浄方法、並びに磁気記録媒体用基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ハードディスクドライブなどに用いられる磁気記録媒体用の基板には、中心孔が形成された円盤状のアルミニウム基板やガラス基板などが用いられている。このような磁気記録媒体用基板は、表面に研磨加工などの様々な表面処理工程を経て作製されるため、表面処理工程等の後には、基板の表面に付着した塵埃などを除去する基板洗浄工程が行われている。
【0003】
また、近年では、磁気記録媒体の更なる高記録密度化の要求に伴って、磁気ヘッドの低浮上化に対応できるように、磁気記録媒体の高い平坦度が求められると共に、磁気記録媒体用基板の表面に付着した塵埃などを除去するための高度な洗浄技術が求められている。
【0004】
また、上述した磁気記録媒体用基板の表面に付着した塵埃などを除去する以外にも、磁気記録媒体の製造装置に用いられる部品やスパッタ装置のシールド板などに付着した塵埃などを除去するための高度な洗浄技術が求められている。さらに、最近では、磁気記録媒体用基板への成膜プロセスにおいて、基板表面に対して湿式の洗浄工程を設ける場合がある。
【0005】
このような磁気記録媒体用基板等の洗浄装置としては、例えば、磁気ディスク基板などをワークとし、この表面に研磨加工などの表面処理を行った後、ワークの表面に付着している異物などを除去するために、複数の洗浄槽を用いてワークをコンベアにより順次複数の洗浄槽に搬送しながら、各洗浄槽にて液体を用いて洗浄する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
しかしながら、この特許文献1に記載される洗浄装置では、洗浄槽に回転ブラシやシャワーなどを複数設け、基板の1枚1枚に洗浄液を供給しながら、回転ブラシを用いてスクラブ洗浄することになるが、回転ブラシが基板の表面に接触する構成のため、この基板表面に擦傷痕が生じてしまう虞がある。
【0007】
このため、回転ブラシを用いない洗浄方法として、例えば、洗浄槽の底部から洗浄液を供給し、この洗浄液を洗浄槽の上部からオーバーフローさせながら、洗浄槽内の洗浄液に基板を保持したホルダを浸漬させて基板の洗浄を行う、いわゆる4面オーバーフロー洗浄装置が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
しかしながら、この特許文献2に記載される洗浄装置では、洗浄槽内の基板やスクリューコンベアによって洗浄液の循環が阻害され、基板の表面から剥離した塵埃等を含む汚染物質が洗浄槽の上部から洗浄液と共に排出されずに一部が洗浄槽内に滞留してしまうことがある。この場合、基板を洗浄槽から引き上げる際に、洗浄液内に滞留した汚染物質が基板の表面に再付着するといった問題が発生してしまう。特に、搬送方向の前段側の汚れが後段側で対流し、この後段側の基板を汚染することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−96245号公報
【特許文献2】特開平6−31253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、被洗浄物の表面に付着した塵埃などを効率良く除去すると共に、洗浄後にこれらが被洗浄物の表面に再付着することを防止した湿式洗浄装置及び湿式洗浄方法、並びに、そのような湿式洗浄装置及び湿式洗浄方法を用いた磁気記録媒体用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 被洗浄物の洗浄を湿式で行うための洗浄槽と、
前記洗浄槽の下方側から槽内へと洗浄液を供給する供給口と、
前記洗浄槽の上方側から槽外へと洗浄液を排出する排出口と、
前記被洗浄物を前記洗浄槽内で搬送させる搬送機構とを備え、
前記洗浄槽内の下方から上方へと向かう洗浄液の流れと共に、前記被洗浄物の搬送方向とは逆向きの洗浄液の流れを発生させるように、前記供給口と前記排出口との何れかにより供給及び/又は排出される洗浄液の流れを調整する手段が設けられていることを特徴とする湿式洗浄装置。
(2) 前記洗浄液の流れを調整する手段は、前記供給口から供給される洗浄液の流量が、前記被洗浄物の搬送方向の後段側よりも前段側で大きくなるように、及び/又は、前記排出口から排出される洗浄液の流量が、前記被洗浄物の搬送方向の前段側よりも後段側で大きくなるように、流量の調整を行うことを特徴とする前項(1)に記載の湿式洗浄装置。
(3) 前記流量の調整は、前記被洗浄物の搬送方向に並ぶ複数の供給口の開口面積を、前記被洗浄物の搬送方向の後段側から前段側に向かって段階的に大きくする、及び/又は、前記被洗浄物の搬送方向に並ぶ複数の排出口の開口面積を、前記被洗浄物の搬送方向の前段側から後段側に向かって段階的に大きくすることによって行われることを特徴とする前項(2)に記載の湿式洗浄装置。
(4) 前記被洗浄物を挟んだ両側に、前記洗浄槽内を流れる洗浄液の流れを規制する規制板が設けられていることを特徴とする前項(1)〜(3)の何れか一項に記載の湿式洗浄装置。
(5) 前記洗浄槽内の洗浄液に超音波振動を印加する振動発生機構を備えることを特徴とする前項(1)〜(4)の何れか一項に記載の湿式洗浄装置。
(6) 洗浄槽内の洗浄液に被洗浄物を浸漬させた状態で、この被洗浄物を洗浄槽内で搬送させる間に被洗浄物の洗浄を行う湿式洗浄方法であって、
前記洗浄槽内の下方から上方へと向かう洗浄液の流れと共に、前記被洗浄物の搬送方向とは逆向きの洗浄液の流れを発生させながら、前記被洗浄物の洗浄を行うことを特徴とする湿式洗浄方法。
(7) 前項(1)〜(5)に記載の湿式洗浄装置、又は、前項(6)に記載の湿式洗浄方法を用いて、磁気記録媒体用基板を洗浄する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体用基板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、被洗浄物の表面に付着した塵埃などを効率良く除去すると共に、洗浄後にこれらが被洗浄物の表面に再付着することを防止した湿式洗浄装置及び湿式洗浄方法、並びに、そのような湿式洗浄装置及び湿式洗浄方法を用いた磁気記録媒体用基板の製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明を適用した湿式洗浄装置の外観を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す湿式洗浄装置の長手方向の断面図である。
【図3】図3は、図1に示す湿式洗浄装置前段側から見た側面図である。
【図4】図4は、図1に示す湿式洗浄装置に規制板が配置された構成を示し、(a)はその長手方向の断面図、(b)はその短手方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した湿式洗浄装置及び湿式洗浄方法、並びに磁気記録媒体用基板の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態では、例えば図1、図2及び図3に示すような本発明を適用した湿式洗浄装置1を用いて、ハードディスクドライブに搭載される磁気記録媒体用基板(以下、単に基板という。)Wを被洗浄物(ワーク)として湿式で洗浄する工程を例に挙げて説明する。
【0015】
なお、基板Wを洗浄する洗浄液Lとしては、基本的に純水が使用されるが、それ以外にも化学的な処理等が施された処理水などを使用することができる。具体的に、洗浄液Lとしては、例えば、純水や超純水の他に、イソプロピルアルコール等の有機溶剤、界面活性剤を含む薬液洗剤、アノード水、カソード水、純水で低濃度に希釈した酸性溶液やアルカリ性溶液、オゾン水や水素水などを挙げることができる。そして、これらの洗浄液Lは、洗浄対象となる基板(被洗浄物)Wに応じて適宜選択して使用することが可能である。
【0016】
(流水式洗浄装置)
本発明を適用した湿式洗浄装置1は、図1、図2及び図3に示すように、基板Wの洗浄を湿式で行うための洗浄槽2を備えている。この洗浄槽2は、長方形を為す底壁2aと、底壁2aの周囲から立ち上がる4つの側壁2b,2c,2d,2eと、底壁2aと対向する上面の開口部2fとを有して、全体が略直方体状に形成されると共に、その内側に洗浄液Lが収容されて、この洗浄液Lに基板Wが浸漬される略直方体状の浸漬空間Sを形成している。また、この湿式洗浄装置1には、2つの洗浄槽2が並列した状態で設けられている。
【0017】
これら2つの洗浄槽2の下部側には、回収槽3が設けられている。回収槽3は、各洗浄槽2の上部からオーバーフローさせた洗浄液Lを回収するためのものであり、各洗浄槽2の下部側の周囲を囲むように設けられている。また、回収槽3の底部には、回収された洗浄液Lを貯留する貯留部3aが設けられている。この貯留部3aの底面は傾斜しており、傾斜の最深部に設けられたドレイン管4を通して洗浄液Lが排出されるようになっている。なお、図1においては、回収槽3の図示を省略している。
【0018】
また、洗浄槽2の底壁2aには、基板Wに対する洗浄能力を高めるため、浸漬空間S内の洗浄液Lに超音波振動を印加する超音波発振器(振動発生機構)5が設けられている。この超音波発振器5は、上記回収槽3の内側に位置して、洗浄槽2の底壁2aの中央部に設けられた取付開口部2gに臨んで配置されている。また、この超音波発振器5は、その上部側の外周縁部に設けられたフランジ部5aと、取付開口部2gを閉塞する振動板6との間でシール材7を介して取付開口部2gの周囲を挟み込んだ状態で、ネジ止めによって取り付けられている。そして、この超音波発振器5は、洗浄槽2の底壁2a側から洗浄槽2の洗浄液Lに対して、例えば200kHzで500W程度の超音波振動を印加する。
【0019】
湿式洗浄装置1は、洗浄槽2の下方側から槽内へと洗浄液Lを供給する供給機構8を備えている。この供給機構8は、複数の供給口9aが並んで設けられた長尺状の吐出管9を有し、この吐出管9は、洗浄槽2の底壁2aに沿って基板Wの搬送方向(洗浄槽2の長手方向)Xと平行となるように配置されている。また、吐出管9の基端側は、洗浄槽2の底壁2aから側壁2dに沿って折り曲げられて上方へと延びると共に、L字状のユニオンエルボ10を介して供給管11と連結されている。そして、この供給機構8では、図示を省略する洗浄液タンクから供給管11を通して供給される洗浄液Lを吐出管9の各供給口9aから吐出させることによって、洗浄槽2の下方側から槽内へと洗浄液Lを供給することが可能となっている。また、この湿式洗浄装置1には、基板Wを挟んだ搬送方向Xの両側の側壁2b,2eに沿って、2つの吐出管9が並列した状態で設けられている。
【0020】
湿式洗浄装置1は、洗浄槽2の上方側から槽外へと洗浄液Lを排出する排出機構12を備えている。この排出機構12は、洗浄槽2の各側壁2b〜2eの上縁付近において、周方向に並んで設けられた複数の排出口13a,13b,13cによって構成されている。そして、排出機構12では、これら複数の排出口13a,13b,13cを通して洗浄液Lを洗浄槽2の上部側から槽外(回収槽3)へと排出(オーバーフロー)することが可能となっている。
【0021】
湿式洗浄装置1は、複数の基板Wを洗浄槽2内で搬送させるスクリューコンベア(搬送機構)14を備えている。このスクリューコンベア14は、円盤状の基板Wを互いに平行な状態で複数並べた状態で保持しながら、洗浄槽2内の長手方向の一端側(搬送方向Xの前段側という。)から他端側(搬送方向Xの後段側という。)に向かって搬送させるものであり、洗浄槽2の長手方向に沿って互いに平行に並ぶ3つの搬送スクリュー15a,15b,15cを備えている。
【0022】
スクリューコンベア14は、これら3つの搬送スクリュー15a,15b,15cによって、円盤状の基板Wの外周部を3箇所で支持しながら、基板Wを縦置きの状態で保持することが可能となっている。具体的に、各搬送スクリュー15a,15b,15cは、基板Wの外周部が係合される螺旋状の溝部16aが設けられた軸状体16と、この軸状体16の両端にネジ止め等によって取り付けられた一対の支軸17a,17bとを有し、洗浄槽2の側壁2b,2dに対向して配置された一対のブラケット18a,18bに、 一対の支軸17a,17bが回転自在に取り付けられた構造を有している。
【0023】
ブラケット16a,16bは、洗浄槽2の上部側の周囲を囲むように設けられたフレーム19に支持されている。ブラケット16a,16bには、上記支軸17a,17bを貫通させる貫通孔20a,20bが設けられている。また、洗浄槽2の側壁2b,2dにも、上記支軸17a,17bを貫通させる貫通孔21a,21bが設けられている。そして、貫通孔20aを貫通した一方の支軸17aは、ブラケット16aの内側に取り付けられた軸受22aを介して回転自在に支持されている。また、貫通孔20bを貫通した他方の支軸17bは、ブラケット16bの外側に取り付けられた軸受22bを介して回転自在に支持されている。さらに、側壁2b,2dとブラケット16a,16bとの間の支軸17a,17bには、カラー23が取り付けられている。このカラー23の両端には、フランジ部23aが設けられており、上記側壁2b,2dの貫通孔21a,21bと支軸17a,17bの間から流れ出た洗浄液Lを堰き止めながら、下方の回収槽3へと導くことが可能となっている。
【0024】
また、湿式洗浄装置1は、各搬送スクリュー15a,15b,15cを回転駆動する回転駆動機構24を備えている。この回転駆動機構24は、ブラケット16aの外側に、各搬送スクリュー15a,15b,15cの一方の支軸17aに取り付けられた被動ギヤ25a,25b,25cと、各搬送スクリュー15a,15b,15cの被動ギヤ25a,25b,25cと噛合された伝達ギヤ26と、搬送スクリュー15aの被動ギヤ25aと噛合された駆動ギヤ27とを有している。また、伝達ギヤ26及び駆動ギヤ27は、それぞれの支軸26a,27aに取り付けられており、これら支軸26a,27aは、ブラケット16aに設けられた貫通孔(図示せず。)を貫通した状態で、ブラケット16aの内側に取り付けられた軸受(図示せず。)を介して回転自在に支持されている。
【0025】
そして、この回転駆動機構24では、図示を省略する駆動モータにより駆動ギヤ27が回転駆動されると、1つの被動ギヤ25aが回転し、この被動ギヤ25aの回転により伝達ギヤ26を介して残り2つの被動ギヤ25b,25cが回転することで、各搬送スクリュー15a,15b,15cを同期させながら、互いに同一方向に回転させることが可能となっている。
【0026】
各搬送スクリュー15a,15b,15cは、軸状体16の両端で溝部16aのピッチが広がっており、この部分で図示を省略する搬入機構による基板Wの搬入動作と、図示を省略する搬入機構による基板Wの搬出動作が行われる。なお、洗浄後の基板Wは、図示しない乾燥装置に送られて乾燥処理される。
【0027】
なお、この湿式洗浄装置1では、洗浄槽2の底壁2aに設けられたドレイン管28を通して洗浄液Lを排出することも可能である。また、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lを循環的に再使用するための機構として、図示を省略するものの、上記ドレイン管4から排出された洗浄液Lを吸引し、洗浄液タンクへと圧送するポンプと、このポンプにより圧送された洗浄液Lを浄化するフィルタとが設けられている。
【0028】
ところで、本発明を適用した湿式洗浄装置1では、基板Wの搬送方向Xとは逆向きの流れを発生させながら、上記吐出管9に設けられた複数の供給口9aから供給される洗浄液Lの流量が、基板Wの搬送方向Xの後段側(基板Wの搬出側)から前段側(基板Wの搬入側)に向かって段階的に大きくなるように、また、上記側壁2b〜2eに設けられた複数の排出口13a〜13cから排出される洗浄液Lの流量が、基板Wの搬送方向Xの前段側から後段側に向かって段階的に大きくなるように、流量の調整が行われている。
【0029】
具体的に、上記湿式洗浄装置1では、基板Wの搬送方向Xの後段側から前段側に向かって段階的に上記吐出管9の周方向に並ぶ供給口9aの数を増やすことによって、これらの供給口9aから供給される洗浄液Lの流量が基板Wの搬送方向の後段側よりも前段側で大きくなっている。
【0030】
また、上記湿式洗浄装置1では、前段側の側壁2bに設けられた排出口13aの開口面積よりも後段側の側壁2dに設けられた排出口13bの開口面積を大きくすると共に、幅方向の両側の側壁2c,2eに設けられた排出口13cの開口面積を、基板Wの搬送方向Xの前段側から後段側に向かって段階的に大きくすることによって、これらの排出口13a〜13cから排出される洗浄液Lの流量が基板Wの搬送方向Xの前段側から後段側に向かって段階的に大きくなっている。
【0031】
これにより、本発明を適用した湿式洗浄装置1では、洗浄槽2内の下方から上方へと向かう洗浄液Lの流れと共に、基板Wの搬送方向Xとは逆向きの洗浄液Lの流れを発生させることが可能となっている。
【0032】
(湿式洗浄方法)
本発明を適用した湿式洗浄方法は、以上のような構造を有する湿式洗浄装置1を用いて、上記洗浄槽2内の洗浄液Lに基板Wを浸漬させた状態で、この基板Wを洗浄槽2内で搬送させる間に基板Wの洗浄を行う。具体的に、この湿式洗浄装置1を用いた湿式洗浄方法では、上述した洗浄槽2内の下方から上方へと向かう洗浄液Lの流れと共に、基板Wの搬送方向Xとは逆向きの洗浄液Lの流れを発生させながら、基板Wの洗浄を行う。
【0033】
このとき、洗浄槽2内では、基板Wの表面が洗浄液Lにより洗浄されて、基板Wの表面に付着した塵埃や異物などの汚染物質が除去される。また、上述した洗浄槽2内の下方から上方へと向かう洗浄液Lの流れに、基板Wの搬送方向Xとは逆向きの洗浄液Lの流れが加わることによって、上述した基板Wの表面から剥離した塵埃等を含む汚染物質を洗浄槽2内に滞留させることなく、この洗浄槽2の上部側から洗浄液Lと共に速やかに排出することができる。
【0034】
以上のようにして、本発明では、基板Wの表面に付着した塵埃や異物などの汚染物質を効率良く除去すると共に、浸漬槽2内での洗浄液Lの液溜まりや滞留を低減することによって、洗浄後に汚染物質が基板Wの表面に再付着することを防止した高度な湿式洗浄を行うことが可能である。特に、本発明では、搬送方向Xの前段側の汚れが後段側に対流し、この後段側の基板Wを汚すことを防止できる。
【0035】
また、本発明を適用した湿式洗浄装置1では、図4(a),(b)に示すように、基板Wを挟んだ両側に、洗浄槽2内を流れる洗浄液Lの流れを規制する規制板30を配置した構成とすることも可能である。
【0036】
この規制板30は、基板Wを挟んだ両側において、基板Wの外形に合わせて折り曲げられると共に、その上部側が側壁2c,2eに向かって折り曲げられた形状を有している。本発明では、このような規制板30によって基板Wの周囲を流れる洗浄液Lの流れを規制することで、洗浄槽2の底部から供給された洗浄液Lの一部が洗浄槽2の上部から排出されずに基板Wの脇を通って洗浄槽2の底部に戻ることを防止し、上述した浸漬槽2内での洗浄液Lの液溜まりや滞留が発生することを更に低減できる。
【0037】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0038】
具体的に、本発明は、洗浄槽2内の下方から上方へと向かう洗浄液Lの流れと共に、基板Wの搬送方向とは逆向きの洗浄液Lの流れを発生させるように、上記供給口9aと上記排出口13a〜13cとの何れかにより供給及び/又は排出される洗浄液Lの流れを調整する手段が設けられた構成であればよい。
【0039】
この洗浄液Lの流れを調整する手段は、上記供給口9aから供給される洗浄液Lの流量が、基板Wの搬送方向Xの後段側よりも前段側で大きくなるように、及び/又は、上記排出口13a〜13cから排出される洗浄液Lの流量が、基板Wの搬送方向Xの前段側よりも後段側で大きくなるように、流量の調整を行う構成とする。
【0040】
流量の調整は、上記供給口9aの開口面積を基板Wの搬送方向Xの後段側で前段側よりも大きくすることによって行うことができる。また、また、上記排出口13a,13b,13cの開口面積を基板Wの搬送方向Xの前段側で後段側よりも大きくすることによって行うことができる。なお、ここで言う開口面積とは、上記供給口9a及び排出口13a,13b,13cの個々の大きさ(形状)に限らず、上記供給口9a及び排出口13a,13b,13cの大きさと数との積によって求まる開口面積の総和を含むものとする。したがって、上記吐出管9のように、同じ大きさの供給口9aを並べて配置した場合でも、その配置する数を調整することによって、搬送方向Xの前段側と後段側との間で流量の調整を行うことが可能である。
【0041】
また、上記湿式洗浄装置1では、上記スクリューコンベア14を用いて基板Wを搬送する構成となっているが、このような構成に限らず、基板Wを支持する外周部の位置や点数など適宜変更して実施することが可能である。さらに、搬送機構については、上記スクリューコンベア14を用いた構成に限らず、別の構成とすることも可能である。
【0042】
また、本発明は、上述した磁気記録媒体用の基板Wについて、表面処理工程等の後に表面に付着した塵埃や異物などを除去する洗浄工程とは別に、例えば磁性膜等を成膜した後や、潤滑剤を塗布する前の磁気記録媒体の洗浄工程にも適用することが可能である。
【0043】
さらに、本発明は、上述した磁気記録媒体用の基板Wを洗浄する場合に限らず、平板状の被洗浄物を洗浄する場合に好適に用いることが可能であるが、本発明を適用した湿式洗浄装置を用いて洗浄可能なものであれば、被洗浄物については特に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0045】
本実施例では、上記湿式洗浄装置1を用いて250枚の基板Wに対して洗浄を行った。具体的に、上記湿式洗浄装置1では、洗浄槽2の前段の側壁2bに設けた各排出口13aの開口面積を、後段の側壁2bに設けた各排出口13bの開口面積よりも20%大きくした。また、幅方向の両側の側壁2c,2eに設けた各排出口13cの開口面積を前段側から後段側に向かって段階的に大きくし、その前段側と後段側との間で排出口13cの開口面積に20%の差を設けるようにした。また、上記吐出管9では、後段側から前段側に向かって供給口9aの数を増やし、その後段側と前段側との間で供給口9aの開口面積(口径×数)に20%の差を設けるようにした。さらに、上記湿式洗浄装置1では、上記図4に示す規制板30を配置する構成とした。このような構成は、例えば黒インクを洗浄槽2内に滴下し、このインクが速やかに槽外に排出される時間を最適化することにより設定した。
【0046】
また、本実施例では、外径65mm、内径20mm、厚さ0.8mmの円盤状のアルミニウム合金からなる2.5インチの磁気記録媒体用基板Wを純水(供給量5リットル/分)を用いて、1枚につき約5分間行った。洗浄槽2は、長さ約500mm、奥行き約200mm、高さ約200mmであり、上記超音波発信器5は、200kHz、500Wである。上記スクリューコンベア14は、一度に約30枚の基板Wを搬送することが可能である。
【0047】
そして、洗浄後に、各基板Wの表面を微分干渉光学顕微鏡で観察したところ、何れの基板Wの表面にも付着物等は一切観察されなかったことから、上記湿式洗浄装置1によって高い洗浄効果が得られることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0048】
1…湿式洗浄装置 2…洗浄槽 2a…底壁 2b,2c,2d,2e…側壁 2f…開口部 2g…取付開口部 3…回収槽 3a…貯留部 4…ドレイン管 5…超音波発振器(振動発生機構) 6…振動板 7…シール材 8…供給機構 9…吐出管 9a…供給口 10…ユニオンエルボ 11…供給管 12…排出機構 13a,13b,13c…排出口 14…スクリューコンベア(搬送機構) 15a,15b,15c…搬送スクリュー 16…軸状体 16a…溝部 17a,17b…支軸 18a,18b…ブラケット 19…フレーム 20a,20b…貫通孔 22a,22b…軸受 23…カラー 24…回転駆動機構 25a,25b,25c…被動ギヤ 26…伝達ギヤ 26a…支軸 27…駆動ギヤ 27a…支軸 28…ドレイン管 30…規制板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被洗浄物の洗浄を湿式で行うための洗浄槽と、
前記洗浄槽の下方側から槽内へと洗浄液を供給する供給口と、
前記洗浄槽の上方側から槽外へと洗浄液を排出する排出口と、
前記被洗浄物を前記洗浄槽内で搬送させる搬送機構とを備え、
前記洗浄槽内の下方から上方へと向かう洗浄液の流れと共に、前記被洗浄物の搬送方向とは逆向きの洗浄液の流れを発生させるように、前記供給口と前記排出口との何れかにより供給及び/又は排出される洗浄液の流れを調整する手段が設けられていることを特徴とする湿式洗浄装置。
【請求項2】
前記洗浄液の流れを調整する手段は、前記供給口から供給される洗浄液の流量が、前記被洗浄物の搬送方向の後段側よりも前段側で大きくなるように、及び/又は、前記排出口から排出される洗浄液の流量が、前記被洗浄物の搬送方向の前段側よりも後段側で大きくなるように、流量の調整を行うことを特徴とする請求項1に記載の湿式洗浄装置。
【請求項3】
前記流量の調整は、前記被洗浄物の搬送方向に並ぶ複数の供給口の開口面積を前記被洗浄物の搬送方向の後段側で前段側よりも大きくする、及び/又は、前記被洗浄物の搬送方向に並ぶ複数の排出口の開口面積を前記被洗浄物の搬送方向の前段側で後段側よりも大きくすることによって行うことを特徴とする請求項2に記載の湿式洗浄装置。
【請求項4】
前記被洗浄物を挟んだ両側に、前記洗浄槽内を流れる洗浄液の流れを規制する規制板が設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の湿式洗浄装置。
【請求項5】
前記洗浄槽内の洗浄液に超音波振動を印加する振動発生機構を備えることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の湿式洗浄装置。
【請求項6】
洗浄槽内の洗浄液に被洗浄物を浸漬させた状態で、この被洗浄物を洗浄槽内で搬送させる間に被洗浄物の洗浄を行う湿式洗浄方法であって、
前記洗浄槽内の下方から上方へと向かう洗浄液の流れと共に、前記被洗浄物の搬送方向とは逆向きの洗浄液の流れを発生させながら、前記被洗浄物の洗浄を行うことを特徴とする湿式洗浄方法。
【請求項7】
請求項1〜5に記載の湿式洗浄装置、又は、請求項6に記載の湿式洗浄方法を用いて、磁気記録媒体用基板を洗浄する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体用基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−161712(P2012−161712A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21924(P2011−21924)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】