説明

満充電検知装置および満充電検知方法

【課題】二次電池の種類によらず満充電を検知すること。
【解決手段】二次電池(鉛蓄電池13)の等価回路モデルに基づいて当該二次電池の満充電状態を検知する満充電検知装置1において、二次電池の充電時における電圧および電流を測定する測定手段(電圧検出部11、電流検出部12)と、測定手段による測定結果に基づいて、等価回路モデルに含まれる複数のパラメータに対して学習処理を施す学習手段(制御部10)と、学習手段によって学習処理が施されたパラメータのうち、二次電池の反応抵抗に対応するパラメータが所定の閾値よりも大きい場合に、二次電池が満充電状態であると判定する判定手段(制御部10)を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、満充電検知装置および満充電検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、二次電池が満充電状態になったことを判定する場合、充電率であるSOC(State of Charge)が100%になったか否かにより判定していた。このようなSOCの検知方法としては、例えば、特許文献1に開示されているように、二次電池の安定電圧OCV(Open Circuit Voltage)を測定し、このOCVからSOCを予測する手法が知られている。
【0003】
また、特許文献2には、OCVを測定するタイミングにおいて、SOC=100%が常に成立しないことから、そのような場合に対応するために、OCV測定後のSOCの変化を継続的な電流の観察から時間積算によって算出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−091217号公報
【特許文献2】特開2008−145349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示されている技術では、OCVとSOCの相関に基づいて満充電を判断しているが、このOCVとSOCの相関は、二次電池の種類によって異なるため、例えば、自動車の鉛蓄電池のように、様々なメーカから供給される製品群の中から、ユーザが任意に選択した製品を使用する場合には、満充電を正確に判定することができない場合がある。
【0006】
また、特許文献2に開示されている技術では、二次電池に対する電流の出入りによるSOCの変化を算出するためには、二次電池の容量に対する出入り量の割合を算出する必要があるが、この容量も固体差や検知誤差が存在するため、満充電を正確に判定することができない場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、二次電池の種類によらず、満充電を正確に判定することが可能な満充電検知装置および満充電検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の満充電検知装置は、二次電池の等価回路モデルに基づいて当該二次電池の満充電状態を検知する満充電検知装置において、前記二次電池の充電時における電圧および電流を測定する測定手段と、前記測定手段による測定結果に基づいて、前記等価回路モデルに含まれる複数のパラメータに対して学習処理を施す学習手段と、前記学習手段によって学習処理が施された前記パラメータのうち、前記二次電池の反応抵抗に対応するパラメータが所定の閾値よりも大きい場合に、前記二次電池が満充電状態であると判定する判定手段とを有することを特徴とする。
このような構成によれば、二次電池の種類によらず、満充電を正確に判定することが可能な満充電検知装置を提供することが可能になる。
【0009】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記学習手段または前記判定手段は、前記電流の値に基づいて前記反応抵抗の値または前記閾値を補正することを特徴とする。
このような構成によれば、電流の大小によらず、満充電を正確に検知することが可能になる。
【0010】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記学習手段または前記判定手段は、前記二次電池の温度に基づいて前記反応抵抗の値または前記閾値を補正することを特徴とする。
このような構成によれば、温度の高低によらず、満充電を正確に検知することが可能になる。
【0011】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記学習手段または前記判定手段は、前記二次電池の劣化状態に基づいて前記反応抵抗の値または前記閾値を補正することを特徴とする。
このような構成によれば、電池の劣化状態によらず、満充電を正確に検知することが可能になる。
【0012】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記学習手段は、前記測定手段によって測定された電圧および電流の値と、前記等価回路モデルの応答との誤差が最小となるように、カルマンフィルタ演算によって前記複数のパラメータを最適化することを特徴とする。
このような構成によれば、ノイズが存在する環境下であっても、満充電を正確に検知することが可能になる。
【0013】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記学習手段は、前記測定手段によって測定された電圧および電流の値と、前記等価回路モデルの応答との誤差が最小となるように、最小二乗演算によって前記複数のパラメータを最適化することを特徴とする。
このような構成によれば、ロバストな検知装置を提供することが可能になる。
【0014】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記学習手段は、前記測定手段によって測定された電圧および電流の値と、前記等価回路モデルの応答との誤差が最小となるように、ニューラルネットワークによって前記複数のパラメータを最適化することを特徴とする。
このような構成によれば、比較的小さい計算量で良好な検知結果を得ることができる。
【0015】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記学習手段は、前記測定手段によって測定された電圧および電流の値と、前記等価回路モデルの応答との誤差が最小となるように、サポートベクターマシンによって前記複数のパラメータを最適化することを特徴とする。
このような構成によれば、局所最適解で学習が停止することなく、適切なパラメータを求め、当該パラメータに基づいて満充電を正確に検知することができる。
【0016】
また、他の発明は、上記満充電検知装置を有する二次電池電源システムであることを特徴とする。
このような構成によれば、二次電池の種類によらず、満充電を正確に判定することが可能な二次電池電源システムを提供することが可能になる。
【0017】
また、本発明の満充電検知方法は、二次電池の等価回路モデルに基づいて当該二次電池の満充電状態を検知する満充電検知方法において、前記二次電池の充電時における電圧および電流を測定する測定ステップと、前記測定ステップによる測定結果に基づいて、前記等価回路モデルに含まれる複数のパラメータに対して学習処理を施す学習ステップと、前記学習ステップによって学習処理が施された前記パラメータのうち、前記二次電池の反応抵抗に対応するパラメータが所定の閾値よりも大きい場合に、前記二次電池が満充電状態であると判定する判定ステップとを有することを特徴とする。
このような方法によれば、二次電池の種類によらず、満充電を正確に判定することが可能な満充電検知方法を提供することが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、二次電池の種類によらず、満充電を正確に判定することが可能な満充電検知装置および満充電検知方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る満充電検知装置の構成例を示す図である。
【図2】図1に示す制御部の構成例を示す図である。
【図3】本実施形態において実行される処理アルゴリズムを説明するための図である。
【図4】鉛蓄電池の等価回路モデルの一例である。
【図5】図1に示す実施形態において実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図6】図5に示すステップS11の処理の詳細を説明するためのフローチャートである。
【図7】反応抵抗を補正するためのテーブルの一例である。
【図8】反応抵抗とSOCとの関係を示す図である。
【図9】閾値を補正するためのテーブルの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0021】
(A)実施形態の構成の説明
図1は本発明の実施形態に係る満充電検知装置を有する二次電池電源システムの構成例を示す図である。この図1に示すように、本実施形態の満充電検知装置1は、制御部10(請求項中の「学習手段」および「判定手段」に対応)、電圧検出部11(請求項中の「測定手段」に対応)、電流検出部12(請求項中の「測定手段」に対応)、および、温度検出部14を主要な構成要素としており、鉛蓄電池13(請求項中の「二次電池」に対応)の満充電を検知する。この例では、鉛蓄電池13には、電流検出部12を介してオルタネータ15、セルモータ16、および、負荷17が接続されている。なお、本実施形態では、満充電検知装置1が、例えば、自動車等の車両に搭載されている場合を例に挙げて説明する。これ以外の用途に用いてもよいことはいうまでもない。
【0022】
制御部10は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)10a、ROM(Read Only Memory)10b、RAM(Random Access Memory)10c、および、I/F(Interface)10dを主要な構成要素としている。CPU10aは、ROM10bに格納されているプログラム10baに基づいて装置の各部を制御する。ROM10bは、半導体メモリによって構成され、プログラム10ba、テーブル10bb、および、その他の情報を格納している。RAM10cは、半導体メモリによって構成され、パラメータ10caその他の情報を書き換え可能に格納する。I/F10dは、電圧検出部11、電流検出部12、および、温度検出部14からの検出信号をデジタル信号に変換して入力するとともに、鉛蓄電池13が満充電になった場合には図示しないオルタネータ15が有する電磁クラッチを遮断することにより、図示しないレシプロエンジン等の原動機への負荷を軽減する。
【0023】
電圧検出部11は、鉛蓄電池13の端子電圧を検出して制御部10に通知する。電流検出部12は、鉛蓄電池13に流れる電流を検出して制御部10に通知する。温度検出部14は、例えば、サーミスタ等によって構成され、鉛蓄電池13自体の温度またはその周辺温度を検出して制御部10に通知する。オルタネータ15は、例えば、レシプロエンジン等の原動機によって駆動され、直流電力を生成して鉛蓄電池13を充電する。セルモータ16は、例えば、直流モータによって構成され、鉛蓄電池13から供給される直流電力によって回転し、原動機を始動する。負荷17は、例えば、ステアリングモータ、デフォッガ、ヘッドライト、ワイパー、方向指示ライト、ナビゲーション装置その他の装置によって構成されている。
【0024】
図3は、プログラム10baが実行されることにより実現される処理アルゴリズムの概略を説明するための図である。この図に示すように、本実施形態では、複数のパラメータを有する鉛蓄電池13の等価回路モデル30を設定する。そして、対象となる鉛蓄電池13を測定して測定値を得るとともに、等価回路モデル30に基づいて測定値に対応する計算値を得る。これらの測定値と計算値の偏差を計算し、拡張カルマンフィルタ31による適応学習によって最適なパラメータを推定する。そして、推定されたパラメータにより、等価回路モデル30を更新することにより、等価回路モデル30を最適化することができる。満充電検知モジュール32は、このようにして最適学習されたパラメータRrに基づいて、満充電状態を検出する。
【0025】
なお、本明細書中において「適応学習」とは、パラメータを有する柔軟で一般的なモデルを用意し、学習によって統計的・適応的にパラメータを最適化する手法を言う。以下の実施形態では、適応学習の一例として拡張カルマンフィルタを用いているが、本発明はこのような場合にのみ限定されるものではなく、例えば、最小二乗法を用いた適応学習、ニューラルネットワークモデルを用いた適応学習、サポートベクターマシンを用いた適応学習、あるいは、遺伝的アルゴリズムモデルを用いた適応学習等を用いることも可能である。すなわち、学習対象のモデルを作成し、観測により得られた結果によって、モデルを構成するパラメータを最適化する手法であれば、どのような手法でも使用することができる。
【0026】
図4は、鉛蓄電池13の等価回路モデル30(この例では電気的な等価回路)の一例を示す図である。この例では、等価回路モデル30は、電圧源V0、液抵抗Rs、反応抵抗Rr、および、コンデンサCを主要な構成要素としている。
【0027】
ここで、液抵抗Rsは、鉛蓄電池13の電解液の液抵抗および電極の導電抵抗を主要な要素とする内部抵抗である。インピーダンスZは、鉛蓄電池13の陽極とこれに接する電解液とに対応する等価回路であり、基本的にはバトラー・ボルマー(Butler-Volmer)の式に基づく特性を有し、反応抵抗RrとコンデンサCとの並列接続回路として表すことができる。電圧源V0は、内部インピーダンスが0の理想的な電圧源である。
【0028】
(B)実施形態の動作原理の説明
つぎに、本実施形態の動作を説明する。以下では、まず、本実施形態の動作原理について説明した後、図5および図6を参照して詳細な動作について説明する。
【0029】
本実施形態では、図4に示す鉛蓄電池13の等価回路モデルを用い、この等価回路モデルのうち、少なくとも反応抵抗Rrをパラメータとして含む状態ベクトルを定義する。そして、鉛蓄電池13が充電状態である場合に、測定値としての電流値および電圧値を取得し、学習処理によってパラメータを統計的・適応的に最適化する。つぎに、最適化がなされたパラメータの中の反応抵抗Rrを取得し、この反応抵抗Rrが所定の閾値Thよりも大きい場合には、鉛蓄電池13が満充電状態であると判定する。図8は反応抵抗RrとSOCとの関係の一例を示す図である。この例では、SOCが84%を超える付近から反応抵抗Rrの値が増加し、88%を超えると急上昇している。つまり、充電中の反応抵抗Rrは、SOCが90%近くなると急激に増加するので、反応抵抗Rrが所定の閾値Thよりも大きくなったことを検出することで、満充電を検出することができる。
【0030】
このように、本実施形態では、反応抵抗Rrを含む等価回路モデルを設定し、この等価回路モデルを構成するパラメータを適応学習によって最適化する。そして最適化がなされたパラメータの中から反応抵抗Rrを取得し、反応抵抗Rrが所定の閾値Thよりも大きい場合には満充電であると判定する。ここで、充電中の反応抵抗Rrの挙動は、鉛蓄電池13の種類または個体差による差異が少ないことから、鉛蓄電池13の種類の相違(例えば、メーカの相違、製造ロットの相違)や、個体差による相違による誤検出を防止することができる。
【0031】
(C)実施形態の詳細な動作の説明
図5は、図1に示す実施形態において実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。このフローチャートの処理が開始されると、以下のステップが実行される。
【0032】
ステップS10では、CPU10aは、電流検出部12から供給される電流値と、電圧検出部11から供給される電圧に基づいて、鉛蓄電池13が充電中か否かを判定し、充電中である場合(ステップS10:Yes)にはステップS11に進み、それ以外の場合(ステップS10:No)には同様の処理を繰り返す。例えば、電圧検出部11によって検出される電圧が所定値以上であって、かつ、鉛蓄電池13に流入する方向に所定値以上の電流が流れていることが電流検出部12によって検出された場合には充電中と判定してステップS11に進む。
【0033】
ステップS11では、CPU10aは、図3に示す等価回路モデル30に対する学習処理を実行する。なお、この学習処理の詳細については、図6を参照して後述する。
【0034】
ステップS12では、CPU10aは、ステップS11において学習対象となっているパラメータの値が収束したか否かを判定し、収束したと判定した場合(ステップS12:Yes)にはステップS13に進み、それ以外の場合(ステップS12:No)にはステップS11に戻って同様の処理を繰り返す。例えば、ステップS17における判断の対象となる反応抵抗Rrの残差の標準偏差を求め、当該標準偏差が所定の閾値以下になった場合に、収束したと判定することができる。なお、誤判定を防ぐために、時間を判断要素に含めるようにしてもよい。具体的には、所定の時間が経過した後に、標準偏差が所定の閾値以下になった場合に収束したと判定するようにしてもよい。あるいは、標準偏差が所定の閾値以下になった後に、所定の時間が経過した場合に収束したと判定するようにしてもよい。
【0035】
ステップS13では、CPU10aは、ステップS11における学習処理によって得られたパラメータの中から、反応抵抗Rrの値を取得する。
【0036】
ステップS14では、CPU10aは、ステップS13で取得した反応抵抗Rrに対して電流による補正を行う。すなわち、反応抵抗Rrは、電流が0から増加すると急激に減少し、電流値がある程度大きくなると所定の値に収束する特性を有しているので、電流の値によらず反応抵抗Rrが一定になるように補正を行う。補正の方法としては、例えば、反応抵抗Rrの値と、電流値Imesと、補正後の反応抵抗R’rとを対応付けした図7(A)に示すようなテーブルを、例えば、ROM10bにテーブル10bbとして格納しておき、このテーブルに基づいて補正を行うことができる。なお、図7(A)の例では、電流が0の場合を基準とし、電流が0以外の場合の反応抵抗Rrを基準である0の場合に補正している。例えば、反応抵抗Rrが2.5mΩである場合において、電流Imesが5Aの場合には2.6mΩに補正され、10Aの場合には2.7mΩに補正され、15Aの場合には2.8mΩに補正される。電流値Imesとしては、測定時における平均電流を用いることができる。なお、電流値が大幅に変動する場合に対応するために、ステップS14の処理を、例えば、ステップS11とステップS12の間に行うようにしてもよい。
【0037】
ステップS15では、CPU10aは、ステップS14で補正した反応抵抗Rrに対して温度による補正を行う。すなわち、反応抵抗Rrは、温度が上昇すると減少する特性を有しているので、温度によらず反応抵抗Rrが一定になるように補正を行う。補正の方法としては、例えば、ステップS14における補正後の反応抵抗を再度Rrと設定した場合に、反応抵抗Rrの値と、温度Kと、補正後の反応抵抗R’rとを対応付けした図7(B)に示すようなテーブルを、例えば、ROM10bにテーブル10bbとして格納しておき、このテーブルに基づいて補正を行うことができる。なお、図7(B)の例では、温度が25℃の場合を基準とし、温度が25℃以外の場合の反応抵抗Rrを基準である25℃の場合に補正している。例えば、反応抵抗Rrが2.5mΩである場合において、温度が30℃の場合には2.6mΩに補正され、25℃の場合には2.5mΩで不変であり、20℃の場合には2.4mΩに補正される。なお、ステップS14の処理同様に、ステップS15の処理をステップS11とステップS12の間に移動することも可能であるが、温度は電流ほど大幅に変動しないので、学習処理が終了した後に一括して補正することで、処理の負荷を減らすことができる。
【0038】
ステップS16では、CPU10aは、ステップS15で補正した反応抵抗Rrに対して鉛蓄電池13の劣化による補正を行う。すなわち、反応抵抗Rrは、鉛蓄電池13の劣化が進行すると、増加する特性を有しているので、劣化の進行によらず反応抵抗Rrが一定になるように補正を行う。補正の方法としては、例えば、ステップS15における補正後の反応抵抗を再度Rrと設定した場合に、反応抵抗Rrの値と、劣化の進行と相関を有する液抵抗Rsと、補正後の反応抵抗R’rとを対応付けした図7(C)に示すようなテーブルを、例えば、ROM10bにテーブル10bbとして格納しておき、このテーブルに基づいて補正を行うことができる。なお、図7(C)の例では、新品の状態(この例では、Rs=0.5mΩの状態)を基準とし、劣化が進行してRs≠0.5mΩの場合の反応抵抗Rrを基準であるRs=0.5mΩの場合に補正している。例えば、反応抵抗Rrが2.5mΩである場合において、液抵抗Rs=0.5mΩのときには補正がなされず、反応抵抗Rrが2.6mΩである場合においてRs=0.6mΩの場合には2.5mΩに補正され、反応抵抗Rrが2.7mΩである場合においてRs=0.7mΩの場合には2.5mΩに補正される。なお、ステップS14の処理同様に、ステップS16の処理をステップS11とステップS12の間に移動することも可能であるが、劣化は電流ほど大幅に変動しないので、学習処理が終了した後に一括して補正することで、処理の負荷を減らすことができる。
【0039】
ステップS17では、CPU10aは、ステップS14〜ステップS16の補正によって得られたRr’と閾値Thとを比較し、Rr’≧Thが成立する場合(ステップS17:Yes)にはステップS18に進み、それ以外の場合(ステップS17:No)にはステップS19に進む。図8は反応抵抗RrとSOCとの関係の一例を示す図である。この図において、×印は各測定点を示している。この例では、SOCが84%を超える付近から反応抵抗Rrの値が増加し、88%を超えると急上昇している。そこで、閾値Thとして、例えば、2mΩを選択することができる。その場合、Rr’≧2mΩが成立する場合にステップS17に進む。
【0040】
ステップS18では、CPU10aは、鉛蓄電池13が満充電状態であると判定し、例えば、オルタネータ15に内蔵されているレギュレータ(不図示)を制御し、オルタネータ15の発電電圧を下げることにより、レシプロエンジンの負荷を軽減して燃費を向上させる。
【0041】
ステップS19では、CPU10aは、鉛蓄電池13が満充電状態でないと判定し、例えば、オルタネータ15に内蔵されているレギュレータ(不図示)を制御し、オルタネータ15の発電電圧を上げることにより、オルタネータ15による鉛蓄電池13の充電を実行する。
【0042】
つぎに、図6を参照して、図5のステップS11の処理の詳細について説明する。図6の処理が開始されると以下のステップが実行される。
【0043】
ステップS30では、CPU10aは、時間を示す変数Tに、前回値Tn−1にΔTを加算した値を代入する。なお、ΔTとしては、例えば、数msec〜数百msecを用いることができる。
【0044】
ステップS31では、CPU10aは、電流検出部12、電圧検出部11、および、温度検出部14からの検出信号に基づいて、電流I、電圧V、温度Kを測定する。
【0045】
ステップS32では、CPU10aは、ステップS31で測定した電圧Vを以下の式(1)に適用し、電圧降下ΔVを算出する。
【0046】
【数1】

【0047】
ここで、OCVは、安定開回路電圧と呼ばれ、電気化学的に平衡状態における開回路電圧を示す。なお、安定開回路電圧は、電気化学的に完全に平衡状態である必要はなく、平衡に近い状態を含めるようにしてもよい。OCVを求める方法としては、例えば、鉛蓄電池13の起動直前に測定された鉛蓄電池13の端子電圧、または、鉛蓄電池13の充放電状態から推定した鉛蓄電池13の安定開回路電圧をOCVとすることができる。
【0048】
ステップS32では、CPU10aは、n回目の観測値と前回の状態ベクトル推定値とから、以下の式(2)に基づいてヤコビアン行列Fの更新を行う。
【0049】
【数2】

ここで、diag()は対角行列を示す。
【0050】
ステップS34では、CPU10aは、ステップS32で計算によって得たΔVを以下の式(3)で示すように、拡張カルマンフィルタの実測観測値Yとする。
【数3】

【0051】
ステップS35では、CPU10aは、以下の式(4)に基づいて、一期先の状態ベクトルXn+1を求める。
【数4】

【0052】
ここで、XおよびUは、以下の式(5)および式(6)で表される。なお、Tは転置行列を示す。
【数5】

【数6】

【0053】
なお、Hを以下の式(7)ように定めることで、観測方程式および予測観測値Yn+1を式(8)のように定めることができる。
【0054】
【数7】

【0055】
【数8】

【0056】
ステップS36では、CPU10aは、状態ベクトルの一期先の予測値Xn+1と実測観測値Yn+1と予測観測値Yn+1に基づいて、カルマンゲイン計算とフィルタリング計算による拡張カルマンフィルタ演算により、最適な状態ベクトルXを逐次的に推定し、推定された状態ベクトルXから(等価回路モデルの)調整パラメータを最適なものに更新する。そして、図5のステップS12の処理に復帰(リターン)する。
【0057】
以上に説明したように、本実施形態によれば、鉛蓄電池13が充電状態である場合に、電流値および電圧値を測定し、測定された電流値および電圧値に基づいて拡張カルマンフィルタにより、等価回路モデルに対して適応学習を実行してパラメータを最適化する。そして、最適化が終了したパラメータのうち、反応抵抗Rrに対応するパラメータを取得し、反応抵抗Rrが閾値Th以上の場合には満充電状態であると判定するようにした。充電中の反応抵抗Rrは、満充電状態になると値が急激に変化するので、満充電か否かの判定を容易に行うことができる。また、このような急激な変化は、鉛蓄電池13の種類または個体によらないので、種類または個体によらず、満充電を正確に判定することができる。
【0058】
また、本実施形態では、反応抵抗値Rrを電流値、温度、および、劣化に応じて補正するようにしたので、電流の大小、温度の高低、および、劣化の進行に拘わらず、満充電状態を正確に判定することができる。
【0059】
また、本実施形態では、拡張カルマンフィルタを用いて適応学習を行うようにしたので、ノイズが多い環境下であっても、満充電状態を正確に判断することができる。すなわち、自動車に搭載されている鉛蓄電池13の場合には、例えば、負荷17であるステアリングモータや、デフォッガ等の動作により電流が常に変動し、このような変動はノイズとして作用する。しかしながら、拡張カルマンフィルタを用いることにより、そのようなノイズの存在下においても正確に満充電状態を判定することができる。
【0060】
(D)変形実施形態
なお、上記の実施形態は、一例であって、これ以外にも各種の変形実施態様が存在する。例えば、以上の実施形態では、拡張カルマンフィルタを用いて適応学習を行うようにしたが、これ以外の方法を用いるようにしてもよい。具体的には、最小二乗法を用いて適応学習を行ったり、ニューラルネットワークモデルを用いたり、サポートベクターマシンを用いたり、遺伝的アルゴリズムモデルを用いて適応学習を行うようにしたりしてもよい。
【0061】
例えば、最小二乗法の場合、図4の等価回路モデルの両端の端子電圧の計算値Vcalを以下の式(9)で表すことができる。
【数9】

【0062】
ここで、I2は以下の式(10)で表すことができる。
【数10】

【0063】
そして、以下の式(11)の偏差平方和Mが最小となるように各パラメータを適応学習することで、パラメータを最適化することができる。具体例としては、式(9),(10)に含まれる各パラメータをGauss−Newton法またはLevenberg−Marquardt法等のように、予め定めた初期値から順次Mを小さくしていくように、パラメータを最適値に更新していく逐次演算法を用いればよい。
【数11】

なお、Vmesは電圧検出部11から得られる電圧の実測値である。
【0064】
また、サポートベクターマシンおよびニューラルネットワークについては、サポートベクターマシンであれば適切なカーネル関数を設定し、ニューラルネットワークであれば例えば多段パーセプトロンのような適切なネットワークを設定し、予め実験によって確認された電流、電圧、温度等の入力に対する前述の等価回路モデルの定数の正解の組み合わせ既知データを用いて、サポートベクターマシンであれば分離超平面を決定し、ニューラルネットワークであればニューロンセルの発火の閾値/結合係数を最適に決定しておけば、任意の電流、電圧、温度のデータ入力に対し、最適な等価回路モデルを出力させるようにすることができる。
【0065】
また、遺伝的アルゴリズムの場合には、例えば、全パラメータを含む個体をN個準備し、各個体の各パラメータをランダムに生成する。そして、各個体についてVcalを計算し、測定されたVと、Vcalの差の絶対値を適応度とし、適応度に応じて自然淘汰を行うとともに、各個体について交叉、突然変異、および、コピーを実行し、次世代の個体を生成する。例えば、このような操作を繰り返すことで、パラメータを最適化することができる。
【0066】
また、以上の実施形態では、反応抵抗Rrを図7に示すテーブルを用いて補正するようにしたが、例えば、電流、温度、劣化のそれぞれと反応抵抗Rrとの関係を近似する多項式等を用いて、補正を行うようにしてもよい。
【0067】
また、反応抵抗Rrを補正するのではなく、電流、温度、劣化に応じて、閾値Thを補正するようにしてもよい。図9は、電流、温度、劣化のそれぞれと、補正前後の閾値Thとの関係を示す図である。すなわち、図9(A)は、補正前の閾値Thと、測定された電流Imesと、補正後の閾値Th’の関係を示す図である。この例では、電流値が大きくなるにつれて補正後の閾値Th’が小さくなっている。図9(B)は、補正前の閾値Thと、測定された温度Kと、補正後の閾値Th’の関係を示す図である。この例では、温度が25℃のときが基準とされ、温度が25℃より高い場合には補正後の閾値Th’が小さい値に設定され、温度が25℃より低い場合には補正後の閾値Th’が大きい値に設定される。また、図9(C)は、補正前の閾値Thと、劣化を示す液抵抗Rsと、補正後の閾値Th’の関係を示す図である。この例では、新品の状態であるRs=0.5mΩのときが基準とされ、劣化が進行してRsが大きくなるにつれて、補正後の閾値Th’が大きい値に設定される。
【0068】
また、以上の実施形態では、図5に示すように、満充電か否かの判定を1度だけ実行するようにしたが、例えば、図5に示す処理を複数回実行し、満充電と判定された回数の頻度に応じて満充電であるか否かの最終的な判断をするようにしてもよい。そのような実施形態によれば、満充電か否かの判断をより正確に行うことができる。
【0069】
また、以上の実施形態では、鉛蓄電池を例として説明を行ったが、これ以外の電池(例えば、ニッケルカドミウム電池等)についても本発明を適用することが可能である。なお、その場合には、電池の種類に応じて等価回路モデル30を変更するようにすればよい。
【0070】
また、以上の実施形態では、制御部10は、CPU、ROM、RAM等から構成されるようにしたが、例えば、DSP(Digital Signal Processor)等によって構成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 満充電検知装置
10 制御部(学習手段、判定手段)
10a CPU
10b ROM
10c RAM
10d I/F
11 電圧検出部(測定手段)
12 電流検出部(測定手段)
13 鉛蓄電池(二次電池)
14 温度検出部
15 オルタネータ
16 セルモータ
17 負荷
30 等価回路モデル
31 拡張カルマンフィルタ
Rr 反応抵抗
Rs 液抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の等価回路モデルに基づいて当該二次電池の満充電状態を検知する満充電検知装置において、
前記二次電池の充電時における電圧および電流を測定する測定手段と、
前記測定手段による測定結果に基づいて、前記等価回路モデルに含まれる複数のパラメータに対して学習処理を施す学習手段と、
前記学習手段によって学習処理が施された前記パラメータのうち、前記二次電池の反応抵抗に対応するパラメータが所定の閾値よりも大きい場合に、前記二次電池が満充電状態であると判定する判定手段と、
を有することを特徴とする満充電検知装置。
【請求項2】
前記学習手段または前記判定手段は、前記電流の値に基づいて前記反応抵抗の値または前記閾値を補正することを特徴とする請求項1に記載の満充電検知装置。
【請求項3】
前記学習手段または前記判定手段は、前記二次電池の温度に基づいて前記反応抵抗の値または前記閾値を補正することを特徴とする請求項1または2に記載の満充電検知装置。
【請求項4】
前記学習手段または前記判定手段は、前記二次電池の劣化状態に基づいて前記反応抵抗の値または前記閾値を補正することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の満充電検知装置。
【請求項5】
前記学習手段は、前記測定手段によって測定された電圧および電流の値と、前記等価回路モデルの応答との誤差が最小となるように、カルマンフィルタ演算によって前記複数のパラメータを最適化することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の満充電検知装置。
【請求項6】
前記学習手段は、前記測定手段によって測定された電圧および電流の値と、前記等価回路モデルの応答との誤差が最小となるように、最小二乗演算によって前記複数のパラメータを最適化することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の満充電検知装置。
【請求項7】
前記学習手段は、前記測定手段によって測定された電圧および電流の値と、前記等価回路モデルの応答との誤差が最小となるように、ニューラルネットワークによって前記複数のパラメータを最適化することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の満充電検知装置。
【請求項8】
前記学習手段は、前記測定手段によって測定された電圧および電流の値と、前記等価回路モデルの応答との誤差が最小となるように、サポートベクターマシンによって前記複数のパラメータを最適化することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の満充電検知装置。
【請求項9】
前記請求項1乃至8にいずれか1項に記載の満充電検知装置を有する二次電池電源システム。
【請求項10】
二次電池の等価回路モデルに基づいて当該二次電池の満充電状態を検知する満充電検知方法において、
前記二次電池の充電時における電圧および電流を測定する測定ステップと、
前記測定ステップによる測定結果に基づいて、前記等価回路モデルに含まれる複数のパラメータに対して学習処理を施す学習ステップと、
前記学習ステップによって学習処理が施された前記パラメータのうち、前記二次電池の反応抵抗に対応するパラメータが所定の閾値よりも大きい場合に、前記二次電池が満充電状態であると判定する判定ステップと、
を有することを特徴とする満充電検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−132724(P2012−132724A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283564(P2010−283564)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】