説明

溶剤回収方法およびそのシステム、並びに凍結脱水方法およびその装置

【課題】 第三成分を添加または使用することなく、共沸組成よりも含水率が低い高純度の有機溶剤を回収する。
【解決手段】 有機溶剤を含有するガス1を、ガス吸収塔20にて水と気液接触させて、水に有機溶剤を吸収させる。これより得られる有機溶剤の水溶液2を、脱水蒸留塔30で蒸留して、有機溶剤の水溶液中の含水率を、有機溶剤と水との共沸組成である含水率またはそれ以上にまで下げる。これにより得られる有機溶剤水溶液を、凍結脱水装置40にて冷却して、この液中に含まれる水分を氷結分離し、有機溶剤中の水分を、有機溶剤と水との共沸組成である含水率よりも更に下げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤回収方法およびそのシステム、並びに凍結脱水方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラヒドロフラン(THF)は、有機溶剤として広く使用されているが、高価な溶剤であるため、回収して再利用できれば経済的なメリットが大きい。THFを含むガスから、THFを回収する方法としては、非特許文献1に記載されているように、ガス中のTHFを水に吸収した後、このTHFを吸収した水を脱水蒸留する方法が記載されている。しかしながら、THFは水と共沸するため、この方法では、共沸組成である約6wt%の水分を含むTHFしか得ることができない。
【0003】
そこで、非特許文献1には、THFをより高純度に精製するという方法として、上記の共沸組成の蒸留液に、ペンタン等の抽出溶剤を添加して、水、THF、抽出溶剤の3成分系にして精製蒸留を行うことで、水がTHFから分離され、THFをより高濃度に精製する方法が記載されている。また、この非特許文献1には、別法として、上記の共沸組成の蒸留液を、水酸化ナトリウムや塩化カルシウムなどの吸水剤を充填した塔に通水して、THF中の水分を吸収する方法が記載されている。
【0004】
【非特許文献1】「テトラヒドロフラン(THF)の回収(Recovery of Tetrahydrofuran (THF))」,製品情報(Product Information),デュポン・テラタン(登録商標)製品(DuPont Terathane (R) Products)、デュポン(DuPont)社発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ペンタン等の抽出溶剤を添加して精製蒸留をする方法では、回収したTHF中にこの抽出溶剤が混入する可能性があり、高純度のTHFを得るのが難しいという問題がある。また、水酸化ナトリウムなどの吸水剤を使用する方法も、回収したTHF中に吸水剤が混入する可能性があり、高純度のTHFを得るのが難しいとともに、水分を吸収した使用済みの吸水剤が多量に発生することから、この吸水剤の処理も問題となる。なお、このような問題は、THFに限らず、エタノール等といった水と共沸するため、蒸留のみでは共沸組成までしか含水率を下げられない有機溶剤を、高純度に回収する方法においても共通する問題である。
【0006】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、第三成分を添加または使用することなく、共沸組成よりも含水率が低い高純度の有機溶剤を回収することができる溶剤回収方法およびそのシステム、並びに凍結脱水方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、溶剤回収システムであって、有機溶剤を含有するガスを、水と気液接触させて、前記水に前記有機溶剤を吸収させるガス吸収手段と、前記ガス吸収手段から得られる有機溶剤の水溶液を蒸留して、前記有機溶剤の水溶液中の含水率を、前記有機溶剤と水との共沸組成である含水率またはそれ以上にまで下げる脱水蒸留手段と、前記脱水蒸留手段により得られた蒸留液を冷却して、この蒸留液中に含まれる水分を氷結し、前記蒸留液中の水分を、前記有機溶剤と水との共沸組成である含水率よりも更に下げる凍結脱水装置とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明は、別の態様として、溶剤回収方法であって、有機溶剤を含有するガスを、水と気液接触させて、前記水に前記有機溶剤を吸収させるガス吸収工程と、前記ガス吸収工程で得られる有機溶剤の水溶液を蒸留して、前記有機溶剤の水溶液中の含水率を、前記有機溶剤と水との共沸組成である含水率またはそれ以上にまで下げる脱水蒸留工程と、前記脱水蒸留工程により得られた蒸留液を冷却して、この蒸留液中に含まれる水分を氷結し、前記蒸留液中の水分を、前記有機溶剤と水との共沸組成である含水率よりも更に下げる凍結脱水工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明は、また別の態様として、凍結脱水装置であって、有機溶剤と水とを含有する処理対象液を収容する冷却槽と、この冷却槽内の処理対象液を攪拌する攪拌手段と、前記冷却槽内の処理対象液を、処理対象液中の水が氷結して、シャーベット状になるまで冷却する冷却手段と、前記シャーベット状となった処理対象液中から、液体状態を保った前記有機溶剤とシャーベット状の氷を分離するためのフィルタと、前記分離したシャーベット状の氷を加温して液化する手段とを備えたことを特徴とする。前記フィルタの目の開きは0.15mmから1mmの範囲内であることが好ましい。
【0010】
本発明は、さらに別の態様として、溶剤回収方法であって、有機溶剤と水とを含有する処理対象液を攪拌しながら、前記処理対象液中の水が氷結して前記処理対象液がシャーベット状になるまで、前記処理対象液を冷却する冷却工程と、前記シャーベット状となった処理対象液中から、シャーベット状の氷をフィルタによって分離、除去する有機溶剤回収工程と、前記分離したシャーベット状の氷を加温して液化する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このように本発明によれば、第三成分を添加または使用することなく、共沸組成よりも含水率が低い高純度の有機溶剤を回収することができる溶剤回収方法およびそのシステム、並びに凍結脱水方法およびその装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る吸収式溶剤回収システムの一実施の形態について説明する。図1は、本発明に係る吸収式溶剤回収システムの一実施の形態の概略を示す模式図である。なお、処理対象となる溶剤がテトラヒドロフラン(THF)の場合について説明するが、本発明は、THFに限定されるものではなく、エタノールや、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ジオキサンなどの水溶性で、且つ水と共沸する性質を有する有機溶剤についても、同様に高純度で回収することができる。
【0013】
図1に示すように、吸収式溶剤回収システム10は、THF含有ガス1からTHFを吸収、除去するガス吸収塔20と、ガス吸収塔20で生成したTHF水溶液を蒸留して、水分を共沸組成まで除去することができる脱水蒸留塔30と、脱水蒸留塔30で得た含水THF液中の水分を氷結、分離して、高度な脱水を行う凍結脱水装置40と、凍結脱水装置40で得た脱水THFを精製蒸留して、高純度な精製THFを得る精製蒸留塔50とから主に構成されている。
【0014】
ガス吸収塔20は、THF含有ガス1を、吸収液である水と気液接触させて、ガス中のTHFを吸収液に吸収、除去する装置であれば、特に限定されるものではない。なお、ガス吸収塔20のTHF含有ガス1が導入される上流側には、THF含有ガス1中に含まれる微粒子などを除去するガスフィルタ11と、THF含有ガス1をガス吸収塔20に送るためのガスブロワ12と、THF含有ガス1を冷却するガスクーラ13が設置されている。
【0015】
ガス吸収塔20と脱水蒸留塔30との間には、ガス吸収塔20の塔底から排出されるTHF水溶液2を脱水蒸留塔30に送るための配管が設置され、この配管には、THF水溶液2を送るためのポンプ21と、THF水溶液2を予熱する予熱器22が設置されている。ガス吸収塔20の塔頂には、THFが除去されたガスを排出するための排気管26が設置されている。
【0016】
脱水蒸留塔30は、THF水溶液2を蒸留して、水を共沸組成(含水率:約6wt%)まで除去できる装置であれば、特に限定されるものではない。脱水蒸留塔30には、その塔底部に、THF水溶液2を蒸気により加熱するリボイラ31が設置されている。脱水蒸留塔30とガス吸収塔20との間には、脱水蒸留塔30の塔底から排出される水を吸収液として再利用するためにガス吸収塔20へ送るための配管が設置され、この配管には、再利用水を送るためのポンプ23と、この再利用水の熱でTHF水溶液2を予熱する予熱器22と、この再利用水を更に冷却するクーラ24が設置されている。
【0017】
脱水蒸留塔30と凍結脱水装置40との間には、脱水蒸留塔30の塔頂から排出されるガスを凝縮するコンデンサ32が設置されている。また、コンデンサ32により得られた凝縮液である含水THF液3を、脱水蒸留塔30および凍結脱水装置40に送るための配管が設置されている。
【0018】
凍結脱水装置40の詳細については後述するが、含水THF液を冷却して液中の水分を氷結させ、氷とTHFを固液分離する装置である。凍結脱水装置40と精製蒸留塔50との間には、凍結脱水装置40で得られる脱水THF液4を精製蒸留塔50へ送るための配管が設置され、この配管には、脱水THF液を送るためのポンプ41が設置されている。また、凍結脱水装置40には、除去された氷を溶解した溶解液6を脱水蒸留塔30に送るための配管が設置されている。
【0019】
精製蒸留塔50は、第三成分を添加することなく、共沸組成よりも含水率を下げることができる装置であれば、特に限定されるものではない。精製蒸留塔50には、その塔底部に、脱水THF液を蒸気により加熱するリボイラ51が設置されている。また、精製蒸留塔50の塔底側出口には、塔底から排出される精製THF5を冷却するクーラ52が設置されている。精製蒸留塔50の塔頂側出口には、塔頂から排出されるガスを凝縮するコンデンサ53と、このコンデンサ53により得られた凝縮液7を、精製蒸留塔50および凍結脱水装置40に送るための配管が設置されている。
【0020】
以上のような構成によれば、先ず、コーター等の生産設備(図示省略)から排出されたTHF含有ガス1は、ガスブロワ12により、ガスフィルタ11及びガスクーラ13を介してガス吸収塔20に導入する。ガス吸収塔20内では、THF含有ガス1は、吸収液である水と気液接触し、ガス中のTHFが水に吸収、除去され、塔頂の排気管26から清浄なガスとして排出される。一方、THFを吸収した吸収液は、THF水溶液2として塔底から排出される。
【0021】
THF水溶液2は、ポンプ21によって予熱器22に送り、予熱器22で予熱を行った後、脱水蒸留塔30に導入する。脱水蒸留塔30では、THF水溶液2を蒸留することで、沸点が約64℃と低いTHFが塔頂から得られ、塔底からは水が回収される。ここで塔頂から得られるTHFは、水と共沸することから、完全な脱水はできず、水との共沸組成である約6wt%の含水率を少なくとも含むこととなる。THFガスは、コンデンサ32により凝縮されて含水THF液3となる。
【0022】
このようにして得られる含水THF液3の含水率は、6wt%から8wt%にすることが好ましい。脱水蒸留塔30でこの範囲の含水率を得るためには、例えば、脱水蒸留塔30の塔の段数を25〜35段の範囲、塔頂の圧力を大気圧とほぼ同じ、塔底の温度を
100〜110℃の範囲、還流比を7〜15の範囲にすることが好ましい。
【0023】
脱水蒸留塔30で回収された水は、リボイラ31により加熱されていることから、ポンプ23によって予熱器22に送り、THF水溶液2との間で熱交換を行って熱を回収した後、クーラ24で更に温度を下げてから、ガス吸収塔20に導入し、吸収液として再利用する。
【0024】
脱水蒸留塔30で得た含水THF液3は、一部を脱水蒸留塔30の塔頂部へ還流し、一部を抜出して凍結脱水装置40へと導入する。凍結脱水装置40では含水THF液3を冷却する。THFよりも水の方が凝固点が高いため、含水THF液3中の水分を氷結することができる。低温条件下では、THFと水とは包接化合物といわれる固体を生成することが知られている。本明細書では、氷点下の温度で氷あるいは包接化合物の固体が生成することを氷結と称する。冷却温度が下がるに従って、氷の量が増加することから、その分、含水THF液3中の含水率を下げることができる。冷却温度は、−25℃から−60℃の範囲が好ましく、−35℃から−50℃の範囲がより好ましい。そして、固液分離により、液体状態を保ったTHFを凍結脱水装置40から排出することで、水分濃度の高いシャーベット状の物質を分離し、脱水することができる。これによって、含水率が1wt%から3wt%と高度な脱水がなされた脱水THF液4を得ることができる。
【0025】
この脱水THF液4は、ポンプ41により精製蒸留塔50に導入する。一方、凍結脱水装置40に残留した氷は、自然解凍などによって溶解した後、凍結脱水装置40から排出する。この溶解液6は、THFを含むため、脱水蒸留塔30に戻して再処理を行う。
【0026】
精製蒸留塔50では、脱水THF液4を精製蒸留することで、THFの濃度をJIS K9705により規定されるTHF試薬レベルの品質にまで精製する。すなわち、脱水THF液4の含水率を0.05wt%以下にまで下げる。このような精製蒸留を行うためには、例えば、精製蒸留塔50の塔の段数を25〜35段の範囲、塔頂の圧力を大気圧とほぼ同じ、塔底の温度を65〜70℃の範囲、還流比を3〜7の範囲にすることが好ましい。精製蒸留塔50の塔底から得られる精製THF5は、リボイラ51で加熱されていることから、クーラ52で冷却する。
【0027】
一方、精製蒸留塔50の塔頂から排出される蒸気は、THFを含むため、コンデンサ53で凝縮した後、この凝縮液7は一部を精製蒸留塔50の塔頂部へ還流し、一部を凍結脱水装置40に戻して再処理する。
【0028】
このように、本実施の形態によれば、凍結脱水装置40によりTHFに混入する水分を氷結し、固液分離によりTHFと水分とを分離することで、第三成分を何ら添加することなく、THFに混入する水分を共沸組成である約6wt%よりもさらに低い含水率まで除去することができる。したがって、その後の精製蒸留塔50によって、THFを試薬濃度レベルである0.05wt%の含水率まで容易に精製することができる。
【0029】
なお、本実施の形態では、有機溶剤がTHFの場合について説明してきたが、有機溶剤がエタノールの場合、水との共沸組成の含水率は約4wt%であり、凍結脱水装置40で、−35℃から−50℃の範囲に冷却することで、1wt%から2wt%の範囲の含水率まで脱水することができる。有機溶剤がイソプロピルアルコールの場合、水との共沸組成の含水率は約12wt%であり、凍結脱水装置40で、−35℃から−50℃の範囲に冷却することで、2wt%から6wt%の範囲の含水率まで脱水することができる。有機溶剤が酢酸エチルの場合、水との共沸組成の含水率は約8%であり、凍結脱水装置40で、−35℃から−50℃の範囲に冷却することで、2%から4%の範囲の含水率まで脱水することができる。有機溶剤がメチルエチルケトンの場合、水との共沸組成の含水率は約11%であり、凍結脱水装置40で、−35℃から−50℃の範囲に冷却することで、2%から6%の範囲の含水率まで脱水することができる。有機溶剤がジオキサンの場合、水との共沸組成の含水率は約18wt%であり、凍結脱水装置40で、−35℃から−50℃の範囲に冷却することで、3wt%から9wt%の範囲の含水率まで脱水することができる。
【0030】
次に、本発明に係る凍結脱水装置の一実施の形態について詳細に説明する。図2は、本発明に係る凍結脱水装置の一実施の形態の概略を示す模式図である。図1の吸収式溶剤回収システムの凍結脱水装置の詳しい説明でもあり、図1と同様な構成については同じ符号を付した。
【0031】
図2に示すように、凍結脱水装置40は、含水THF液3が導入、収容される冷却槽42と、冷却槽内の含水THF液3を攪拌する攪拌機43と、冷却槽内の含水THF液3を冷却する冷凍機45と、冷却槽内で水分が氷結した氷と液体状態を保ったTHFとを固液分離するフィルタ47とから主に構成されている。
【0032】
冷却槽42は、ステンレス鋼等の材質で形成されていることが好ましい。攪拌機43としては、冷却槽42内で水平方向に回転する複数枚の攪拌翼44が設置されている。撹拌翼44にはステンレスや、ステンレスにポリテトラフルオロエチレンなどの樹脂をコーティングしたものを使用することが好ましい。なお、攪拌機43は、このような機械式攪拌機に限定されず、例えば、ポンプ等によって、冷却槽内から含水THF液の一部を取り込み、再び冷却槽内に含水THF液を導入することで、冷却槽内を同様に攪拌することもできる。
【0033】
含水THF液を間接的に冷却するため、冷凍機45から供給された冷媒が循環する冷却管46が、冷却槽42内に設置されている。図2では、見やすさを優先して、冷却槽の一部分にのみ冷却管46が設置されているが、冷却槽42の全面に冷却管46を設置することが好ましい。また、冷却槽42の壁面に設けたジャケット(図示省略)に、冷却した冷媒を循環させることもできる。冷媒としては、例えば、冷熱媒体油や融点の低い溶剤を用いることが好ましい。
【0034】
冷却槽42の底部には排出管49が取り付けられており、この排出管49にはフィルタ47が設置されている。また、排出管49には、自動弁48が設置されており、これにより排出管49は、脱水THF液4を排出する排出管49aと、溶解液6を排出する排出管49bとに分岐している。
【0035】
このような構成によれば、先ず、冷却槽42に含水THF液3を注入する。冷却槽42内が含水THF液3で満たされたら、次に、冷却管46内に冷却した冷媒を循環させて、冷却槽42内の含水THF液3を冷却する。冷却は、攪拌機43により攪拌翼44を回転させながら行う。このように含水THF液3を攪拌しながら冷却することで、含水THF液3中の水分が氷結を始め、その一部は冷却管46の表面に付着するが、攪拌により表面から剥がれて液中を浮遊する。そして、冷却槽42内全体にわたって均一に水分が氷結することから、含水THF液3をシャーベット状にすることができる。
【0036】
含水THF液3を冷却槽42内全体にわたって均一にシャーベット状になるように冷却するには、冷却槽42内の含水THF液3の冷却速度を、0.2〜1.0℃/分の範囲にするとともに、冷却槽42内の撹拌翼44の撹拌速度を、30〜120rpmの範囲にすることが好ましい。特に、冷却速度を0.4〜0.6℃/分の範囲にすることがより好ましい。また、冷却温度は−25℃から−60℃の範囲が好ましく、−35℃から−50℃の範囲がより好ましい。
【0037】
冷却槽42内を所定の冷却温度まで冷却したら、次に、冷却槽42内から脱水THF液4を回収する。この場合、排出管49の脱水THF側の自動弁48aを開き、溶解液側の自動弁48bは閉じる。これにより、液体状態を保っているTHFがフィルタ47を介して冷却槽42から排出管49aへと排出される。THFの排出は自重により行う。シャーベット状の氷は、フィルタ47によりトラップされて冷却槽42内に残り、高度に脱水された脱水THF4を得ることができる。
【0038】
冷却槽42内で液体状態を保ったTHFとシャーベット状の氷を適切に分離するには、フィルタ47の目の開きを0.15mmから1mmの範囲にすることが好ましく、0.2mmから0.3mmの範囲にすることがより好ましい。
【0039】
脱水THF4の回収を終えたら、次に、冷却槽42内の溶解液6の排出を行う。この場合、排出管49の脱水THF側の自動弁48aを閉じて、溶解液側の自動弁48bを開く。そして、冷却管46の冷媒の循環を止め、冷却槽42内を氷が溶解する温度まで戻す。これにより、冷却槽42内に残った氷が溶解し、この溶解液6が、フィルタ47を介して冷却槽42から排出管49bへと排出される。
【0040】
凍結脱水装置40として、冷却槽42を複数設けることもできる。図3に、2基の冷却槽を並列に設置した場合の実施の形態を示す。なお、図2と同様の構成については同一の符号を付した。また、図4に、この実施の形態における凍結脱水装置の運転スケジュールを示す。
【0041】
図3に示すように、本実施の形態の凍結脱水装置には、冷却槽A42aと冷却槽B42bの2基の冷却槽が配置されており、各冷却槽42a、42bには、図2と同様に、攪拌機43a、43bと、冷却管46a、46bと、フィルタ47a、47bとがそれぞれ設置されている。なお、各冷却管46a、46bには、冷凍機45から冷媒が並列的に供給されるように配管されている。また、各冷却槽42a、42bには、冷却槽内の含水THF液の注入量を検知するセンサ71a、71bと、冷却槽内の含水THF液の温度を測定する温度計73a、73bがそれぞれ設置されている。
【0042】
さらに、2基の冷却槽42に含水THF液3を並列的に注入するための原液タンク61が設置されている。原液タンク61と冷却槽42との間には、含水THF液3を冷却槽42に送るための配管が設置されており、この配管には、含水THF液3を冷却槽に送るためのポンプ62と、脱水THF液4と熱交換を行うための冷熱回収器63が設けられている。また、この配管には、冷却槽A42aに含水THF液3を注入する自動弁72aと、冷却槽B42bに含水THF液3を注入する自動弁72bが設けられている。また、各冷却管46a、46bにも、冷媒の循環を制御する自動弁74a、74bがそれぞれ設けられている。
【0043】
2基の冷却槽42a、42bの底面は、それぞれ自動弁48c、48dを介して、排出管49と接続している。排出管49には、脱水THF液4を排出するための自動弁48aと、溶解液6を排出するための自動弁48bが設けられている。脱水THF液4を排出する排出管49aには、含水THF液3と熱交換を行うための冷熱回収器63が設置されている。
【0044】
また、溶解液6を排出する排出管49bには、溶解液を一時的に貯留する溶解液タンク64と、溶解液を冷却槽42に送るためのポンプ65と、溶解液を加熱するための加熱器66と、溶解液を凍結脱水装置から排水するための自動弁48eと、溶解液を冷却槽A42aに供給するための自動弁48fと、溶解液を冷却槽B42bに供給するための自動弁48gが設けられている。
【0045】
このような構成によれば、先ず、図4に示すように、一方の冷却槽Aに処理対象である含水THF液の注入を行う。よって、原液タンクのポンプ62の運転を開始するとともに、冷却槽Aの注入側の自動弁72aを開く。なお、残りの自動弁は閉じておく。これにより、原液タンク61内の含水THF液3が冷却槽A42a内へと注入される。所定の量の含水THF液が冷却槽A42a内に溜まると、センサ71aがこれを検知して、注入用の自動弁72aを閉じる。
【0046】
冷却槽Aへの含水THF液の注入を終えたら、次に、冷却槽A内の含水THF液の冷却を行う。よって、原液タンクのポンプ62を停止するとともに、冷却槽A側の冷却管の自動弁74aを開き、そして、冷却槽A側の攪拌機43aを起動する。これによって、冷却槽A42a内の含水THF液は、攪拌機43aによる攪拌を受けながら、冷却管46aにより冷却される。冷却槽A42a内の含水THF液が所定の冷却温度に達すると、温度計73aがこれを検知して、冷却管の自動弁74aを閉じる。
【0047】
冷却槽A内の含水THF液を所定の温度まで冷却したら、次に、冷却槽A内の脱水THF液の回収を行う。よって、冷却槽Aの排出側の自動弁48cと、脱水THF液の排出用の自動弁48aを開く。これにより、冷却槽A42a内の脱水THF液4が、フィルタ47aを通って排出され、更に排出管49aを通って冷熱回収器63内に供給される。
【0048】
この冷却槽Aでの脱水THFの回収と同時に、他方の冷却槽Bでは、含水THF液の注入を行う。よって、原液タンクのポンプ62の運転を開始するとともに、冷却槽Bの注入側の自動弁72bを開く。これにより、原液タンク61中の含水THF液3が、冷熱回収器63を経てから、冷却槽B42bに注入される。この時、冷熱回収器63では、通常、約30℃である含水THF液3と、冷却槽A42aで所定の冷却温度に冷却された脱水THF液4との間で熱交換が行われる。これによって脱水THF液4の冷熱を回収することができる。所定の量の含水THF液が冷却槽B42b内に溜まると、センサ71bがこれを検知して、注入用の自動弁72bを閉じる。
【0049】
冷却槽A内の脱水THF液を回収したら、今度は、冷却槽A内の溶解液の排出を行う。それと同時に、冷却槽Bでは、含水THF液の冷却を行う。よって、原液タンクのポンプ62を停止し、脱水THF液の排出用の自動弁48aを閉じる一方で、溶解液タンクのポンプ65の運転を開始し、冷却槽Aの溶解液供給用の自動弁48f、冷却槽B側の冷却管の自動弁74b、溶解液の排出用の自動弁48bを開く。
【0050】
これにより、氷の溶解により生じた溶解液が冷却槽A42a内から排出され、排出管49bを通って溶解液タンク64に供給される。溶解液タンク64内の溶解液は、ポンプ65により加熱器66に送られ、加熱器66で加熱される。加熱器66では、溶解液が常温程度に加熱されれば良いので、加熱器の熱源としては工水67を利用することができる。そして、加熱された溶解液は、冷却槽A42a内に供給、散布される。これによって、フィルタ47aに溜まった氷の解凍や、冷却管46a表面に付着した氷の解凍を促進して、氷結した氷の解凍時間を短縮することができる。なお、図には示していないが、工水を冷却槽A内に供給、散布しても、同様に解凍時間を短縮することができる。
【0051】
冷却槽A42aから排出される全ての溶解液を溶解液タンク64に供給すると、溶解液タンク64内に過剰な量の溶解液が溜まってしまう。そこで、冷却槽A42a内の溶解液の排出が終わったら、冷却槽Aの排出側の自動弁48cと、冷却槽Aの溶解液供給用の自動弁48fを閉じ、溶解液の排出用の自動弁48eを開いて、溶解液タンク64内の一部の溶解液を凍結脱水装置の外へと排出する。排出した溶解液6は、脱水蒸留塔に送って再処理する。
【0052】
このように冷却槽A42aで溶解液の排出が行われている間に、冷却槽B42b内の含水THF液は、攪拌機43bによる攪拌を受けながら、冷却管46bにより冷却される。冷却槽B42b内の含水THF液が所定の冷却温度に達すると、温度計73bがこれを検知して、冷却管の自動弁74bを閉じる。
【0053】
冷却槽Aから溶解液を排出したら、再び、冷却槽Aに含水THF液を注入する。それと同時に、冷却槽Bでは、脱水THF液の回収を行う。よって、原液タンク61のポンプ62の運転を開始する一方、溶解液タンクのポンプ65を停止し、冷却槽Aの注入側の自動弁72a、冷却槽Bの排出側の自動弁48d、脱水THF液の排出用の自動弁48aを開く。これにより、冷却槽B42b内の脱水THF液が、フィルタ47b及び排出管49aを通って冷熱回収器63内に供給される。また、原液タンク61内の含水THF液は、冷熱回収器63において、この所定の冷却温度に冷却された脱水THFとの熱交換が行われた後、冷却槽A42aに注入される。
【0054】
冷却槽Aに含水THF液を注入したら、この含水THF液を冷却する。それと同時に、冷却槽Bでは、溶解液の排出を行う。このように、含水THF液の注入、冷却、脱水THF回収、溶解液排出の4種類の冷却槽の処理内容を、2基の冷却槽でずらして、繰り返し行うことで、凍結脱水装置での処理を効率的に行うことができる。また、冷却槽の基数をさらに増やすことで、大容量の含水THF液を容易に処理することができる。
【実施例】
【0055】
共沸組成である6wt%の含水率を有する含水THF液を調製し、この含水THF液を冷却することで、液中の水分を氷結させ、脱水THF液を得た。この脱水THF液の冷却温度と、その時の脱水THF液中の含水率について測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、冷却温度を下げる程、脱水THF中の含水率は下がった。
【0056】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る吸収式溶剤回収システムの一実施の形態を示す模式図である。
【図2】本発明に係る凍結脱水装置の一実施の形態を示す模式図である。
【図3】本発明に係る凍結脱水装置の別の実施の形態を示す模式図である。
【図4】図3に示す凍結脱水装置の運転スケジュールを示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0058】
1 THF含有ガス
2 THF水溶液
3 含水THF液
4 脱水THF液
5 精製THF
6 溶解液
7 凝縮液
11 ガスフィルタ
12 ガスブロワ
13 ガスクーラ
20 ガス吸収塔
21、23、41 ポンプ
22 予熱器
24、52 クーラ
26 排気管
30 脱水蒸留塔
31、51 リボイラ
32、53 コンデンサ
40 凍結脱水装置
42 冷却槽
43 攪拌機
44 攪拌翼
45 冷凍機
46 冷却管
47 フィルタ
48 自動弁
49 排出管
50 精製蒸留塔
61 原液タンク
62、65 ポンプ
63 冷熱回収器
64 溶解液タンク
66 加熱器
71 センサ
72、74 自動弁
73 温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤を含有するガスを、水と気液接触させて、前記水に前記有機溶剤を吸収させるガス吸収手段と、
前記ガス吸収手段から得られる有機溶剤の水溶液を蒸留して、前記有機溶剤の水溶液中の含水率を、前記有機溶剤と水との共沸組成である含水率またはそれ以上にまで下げる脱水蒸留手段と、
前記脱水蒸留手段により得られた蒸留液を冷却して、この蒸留液中に含まれる水分を氷結し、前記蒸留液中の水分を、前記有機溶剤と水との共沸組成である含水率よりも更に下げる凍結脱水装置と
を備えた溶剤回収システム。
【請求項2】
有機溶剤を含有するガスを、水と気液接触させて、前記水に前記有機溶剤を吸収させるガス吸収工程と、
前記ガス吸収工程で得られる有機溶剤の水溶液を蒸留して、前記有機溶剤の水溶液中の含水率を、前記有機溶剤と水との共沸組成である含水率またはそれ以上にまで下げる脱水蒸留工程と、
前記脱水蒸留工程により得られた蒸留液を冷却して、この蒸留液中に含まれる水分を氷結し、前記蒸留液中の水分を、前記有機溶剤と水との共沸組成である含水率よりも更に下げる凍結脱水工程と
を含む溶剤回収方法。
【請求項3】
有機溶剤と水とを含有する処理対象液を収容する冷却槽と、
この冷却槽内の処理対象液を攪拌する攪拌手段と、
前記冷却槽内の処理対象液を、処理対象液中の水が氷結して、シャーベット状になるまで冷却する冷却手段と、
前記シャーベット状となった処理対象液中から、液体状態を保った前記有機溶剤とシャーベット状の氷を分離するためのフィルタと、
前記分離したシャーベット状の氷を加温して液化する手段と
を備えた凍結脱水装置。
【請求項4】
前記フィルタの目の開きが0.15mmから1mmの範囲内である請求項3に記載の凍結脱水装置。
【請求項5】
有機溶剤と水とを含有する処理対象液を攪拌しながら、前記処理対象液中の水が氷結して前記処理対象液がシャーベット状になるまで、前記処理対象液を冷却する冷却工程と、
前記シャーベット状となった処理対象液中から、シャーベット状の氷をフィルタによって分離、除去する有機溶剤回収工程と、
前記分離したシャーベット状の氷を加温して液化する工程と
を含む溶剤回収方法。
【請求項6】
前記有機溶剤が、テトラヒドロフラン、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、メチルエチルケトン、又はジオキサンである請求項1に記載の溶剤回収システム。
【請求項7】
前記有機溶剤が、テトラヒドロフラン、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、メチルエチルケトン、又はジオキサンである請求項2又は5に記載の溶剤回収方法。
【請求項8】
前記有機溶剤が、テトラヒドロフラン、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、メチルエチルケトン、又はジオキサンである請求項3又は4に記載の凍結脱水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−137195(P2010−137195A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318194(P2008−318194)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(309036221)三菱重工メカトロシステムズ株式会社 (57)
【Fターム(参考)】