説明

溶剤紡糸セルロース繊維系布帛及びその製造方法

【課題】 一方の面は、上品な光沢感、ソフトな風合い、落ち着いた起毛感を有し、他方の面は、プレーンな風合いを有する溶剤紡糸セルロース繊維系布帛、及び品位に優れた溶剤紡糸セルロース繊維系布帛を簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】 一方の面がフィブリル化され、他方の面がフィブリル抑制化されていることを特徴とする溶剤紡糸セルロース繊維系布帛。及び溶剤紡糸セルロース繊維を含有する布帛の一方の面に、繊維素反応型樹脂とエマルジョン糊とを含む樹脂糊液を塗布し、乾燥、熱処理し、しかる後に揉布処理することを特徴とする上記の溶剤紡糸セルロース繊維系布帛の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤紡糸セルロース繊維系布帛及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、溶剤紡糸セルロース繊維は、湿潤した状態で摩擦又は揉布処理を施されると、溶剤紡糸セルロース繊維を形成するセルロース分子の特異的な結晶構造により、単繊維が繊維軸方向に沿って1〜数μmの繊維直径で枝分かれ状に剥離分繊する。この剥離分繊した繊維をフィブリルといい、単繊維にフィブリルが発生して布帛表面がフィルリルで覆われる状態をフィブリル化されるという。
【0003】
溶剤紡糸セルロース繊維系布帛をフィブリル化する方法(フィブリル化加工)としては、一般的に、液流染色機、ワッシャー加工機などを用いて、水により溶剤紡糸セルロース繊維を湿潤させ、摩擦、揉布処理を行い、その後、酵素処理を行う方法が知られている。この方法によれば、機械的摩耗によりフィブリルを発生させ、次いでセルラーゼ系酵素により余分な毛羽を除去するので、上品な光沢感、ソフトな風合い、落ち着いた起毛感を有する布帛が得られる。
【0004】
溶剤紡糸セルロース繊維系布帛をフィブリル化すると、上記のように、特に風合い面に優れた布帛を得ることができるが、その反面、着用時の繰り返し洗濯によってフィブリルの生成が進行し、ピリングが生じたり、布帛表面が白化するという問題がある。
【0005】
そこで、フィブリル化を抑制する方法(フィブリル抑制化加工)として、特許文献1において、溶剤紡糸セルロース繊維含有布帛を酵素処理し、次いでポリウレタン樹脂を含有する水溶液を付与し、しかる後に熱処理することで、溶剤紡糸セルロース繊維含有布帛のフィブリル化を抑制する方法が開示されている。
【0006】
溶剤紡糸セルロース繊維系布帛のフィブリル化を抑制すると、ピリング及び表面白化の抑制に効果があるが、その反面、起毛感は低減し、プレーンな風合いを発現するようになる。
【0007】
このように、フィブリル化又はフィブリル抑制化された溶剤紡糸セルロース繊維系布帛においては、特性に一長一短があり、用途に応じて、これらの布帛を使い分けているのが実状である。
【0008】
溶剤紡糸セルロース繊維系布帛において、フィブリル抑制化加工が施されたことにより発現するプレーンな風合いは、従来は好ましくないとされてきたが、昨今では、消費者の嗜好性が多様化したのに伴い、このような風合いを好む向きもある。したがって、昨今では、一方の面がフィブリル化され、他方の面がフィブリル抑制化されている溶剤紡糸セルロース繊維系布帛が要望されている。
【0009】
そこで、このような要望を満足する溶剤紡糸セルロース繊維系布帛を得るために、溶剤紡糸セルロース繊維系布帛の一方の面を樹脂でコーティングした後、フィブリル化加工を施す方法が提案されている。
【特許文献1】特開2002−88659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記の如く布帛に樹脂をコーティングすると、樹脂が他方の面へ浸透し、この面におけるフィブリル化加工を阻害するという問題がある。この問題は、予め撥水処理をすることである程度改善できるが、撥水処理するとコーティング以降の工程に支障が出るという問題が生じる。
【0011】
このように、一方の面がフィブリル化され、他方の面がフィブリル抑制化されている溶剤紡糸セルロース繊維系布帛は、未だ得られていない。
【0012】
したがって、本発明は、このような現状に鑑みて行われたものであり、一方の面は、上品な光沢感、ソフトな風合い、落ち着いた起毛感を有し、他方の面は、プレーンな風合いを有する溶剤紡糸セルロース繊維系布帛、及び品位に優れた溶剤紡糸セルロース繊維系布帛を簡便に製造する方法を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、一方の面にフィブリル抑制化加工を施すに際し、繊維素反応型樹脂とエマルジョン糊とを含む樹脂糊液を用いれば、他方の面へ樹脂糊液が浸透し難くなることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は、第一に、一方の面がフィブリル化され、他方の面がフィブリル抑制化されていることを特徴とする溶剤紡糸セルロース繊維系布帛を要旨とするものである。
【0015】
また、本発明は、第二に、溶剤紡糸セルロース繊維を含有する布帛の一方の面に、繊維素反応型樹脂とエマルジョン糊とを含む樹脂糊液を塗布し、乾燥、熱処理し、しかる後に揉布処理することを特徴とする上記の溶剤紡糸セルロース繊維系布帛の製造方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の溶剤紡糸セルロース繊維系布帛は、一方の面では、上品な光沢感、ソフトな風合い、落ち着いた起毛感を発現し、他方の面では、プレーンな風合いを発現すると共に抗ピリング性に優れ、表面白化を抑制しうるものである。
【0017】
また、本発明の布帛の製造方法によれば、樹脂糊液が他方の面へ浸透し難くなるため、高品位の布帛を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
溶剤紡糸セルロース繊維とは、パルプを原料として用い、パルプを溶解しうる溶剤、例えば、N−メチルモルフォリン−N−オキサイド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピペリジン−N−オキサイド、ジメチルアセトアミドなどに溶解させ、濾過して不純物を除去した後、溶液を乾式紡糸法又は湿式紡糸法により紡糸することにより得られる繊維である。溶剤紡糸セルロース繊維は、通常のビスコースレーヨンよりも重合度、結晶化度及び配向度が高く、高強力、低伸度及び耐アルカリ性などの特性も有している。
【0020】
本発明の溶剤紡糸セルロース繊維系布帛は、上記の溶剤紡糸セルロース繊維を含む布帛である。具体的には、溶剤紡糸セルロース繊維を含む織物、編物、不織布である。本発明の溶剤紡糸セルロース繊維系布帛においては、溶剤紡糸セルロース繊維以外の繊維が混用されていてもよい。このような繊維としては、木綿、麻、竹、羊毛、絹などの天然繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ポリノジック、ハイウェットモジュラスレーヨンなどの再生繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリウレタンなどの合成繊維があげられる。勿論、石油資源の枯渇や地球環境の問題から近年注目されているポリ乳酸などの生分解性合成繊維も使用可能である。
【0021】
混用方法としては一般的に用いられている方法、具体的には、混紡、交撚、交織、交編など任意の方法で混用すればよい。混用割合は、用途などに応じて任意に設定することができるが、本発明の効果は、溶剤紡糸セルロース繊維に対して発現するので、溶剤紡糸セルロース繊維を60%以上含有していることが好ましい。
【0022】
本発明の溶剤紡糸セルロース繊維系布帛は、一方の面がフィブリル化され、他方の面がフィブリル抑制化されている。このため、一方の面では、上品な光沢感、ソフトな風合い、落ち着いた起毛感を発現し、他方の面では、プレーンな風合いを発現すると共に抗ピリング性に優れ、表面白化を抑制しうるものである。
【0023】
次に、本発明の溶剤紡糸セルロース繊維系布帛の製造方法を説明する。
【0024】
本発明の溶剤紡糸セルロース繊維系布帛を製造するには、まず、溶剤紡糸セルロース繊維を含有する布帛の一方の面に、繊維素反応型樹脂とエマルジョン糊とを含む樹脂糊液を塗布する。
【0025】
本発明に用いられる繊維素反応型樹脂としては、N−メチロール系繊維素反応型樹脂、グリシジル基を有する化合物などがあげられる。
【0026】
N−メチロール系繊維素反応型樹脂としては、グリオキザール尿素、ジメチロールエチレン尿素、ジメチロールプロピレン尿素、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素、ジメチロールジメトキシエチレン尿素、ジメチロールウロン、ジメチロールトリアジンなどがあげられる。
【0027】
また、グルシジル基を有する化合物としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、グルセロールポリグリシジルエーテル、ポリグルセロールポリグリシジルエーテル、エチレングルコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングルコールジグリシジルエーテル、プロピレングルコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングルコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどがあげられる。
【0028】
繊維素反応型樹脂は、全糊液に対し0.1〜50質量%の範囲で用いるのが好ましい。繊維素反応型樹脂の使用量が0.1質量%未満であると、フィブリル化を十分に抑制できない傾向にあり、一方、50質量%を超えると、布帛の強度が低下すると共に風合いが硬くなる傾向にあり、いずれも好ましくない。
【0029】
一方、エマルジョン糊とは、ミネラルターペン、乳化剤、水からなるO/W型エマルジョン糊を指す。エマルジョン糊は、全糊液に対し30〜70質量%の範囲で用いるのが好ましい。また、ミネラルターペンと水との配合比率は、ミネラルターペン/水=40/60〜95/5が好ましい。
【0030】
本発明に用いられる樹脂糊液は、上記の繊維素反応型樹脂とエマルジョン糊とを含むものであるが、繊維素反応型樹脂と溶剤紡糸セルロース繊維とを効率よく反応させる観点から、触媒をも含むのが好ましい。触媒としては,有機アミン塩や金属塩、塩化マグネシウム、硝酸亜鉛、ホウフッ化亜鉛、硝酸マグネシウム、塩化亜鉛等の金属塩、有機酸などがあげられる。
【0031】
溶剤紡糸セルロース繊維を含有する布帛の一方の面に樹脂糊液を塗布する方法としては、公知の方法をあげることができるが、布帛への押し圧が制御しやすいことから、捺染が好ましい。使用可能な捺染機としてはスクリーン捺染機、ロール捺染機、グラビア捺染機などがあげられるが、コストと生産効率との面からスクリーン捺染機が好ましく、中でもフラットスクリーン捺染機が最適である。
【0032】
樹脂糊液を塗布した後は、乾燥し、次いで120〜200℃で0.5〜3分間の熱処理を行う。
【0033】
上記のように、溶剤紡糸セルロース繊維を含有する布帛の一方の面に、繊維素反応型樹脂とエマルジョン糊とを含む樹脂糊液を塗布し、乾燥、熱処理することで、この面に耐久性ある樹脂皮膜が形成され、フィブリル化を抑制できるようになるのである。
【0034】
本発明においては、熱処理の後、揉布処理を施す。揉布処理は、熱処理後の布帛をフィブリル化させるために行うものであるが、フィブリル化する面は、上記の樹脂皮膜を有しない面である。樹脂皮膜を有する面は、樹脂皮膜により保護されているため、フィブリル抑制化されている。揉布処理としては、液流染色機、ワッシャー加工機、気流式染色機などを用いて、熱処理後の布帛を40〜120℃で30〜180分間揉むのが一般的である。また、揉布処理を施す際、染色も同時に行うことができる。なお、揉布処理に先立ち、熱処理後の布帛に酵素処理又はアルカリ処理などを施しておくと、フィブリル化が一層促進されるので、好ましい。
【0035】
揉布処理の後は、必要により、洗浄、染色、柔軟処理などを施してもよい。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、樹脂糊液が一方の面から他方の面へ浸透する度合いについては、染色後の溶剤紡糸セルロース繊維系布帛における、樹脂糊液を塗布しない面のK/S値及びイラツキ発生から相対評価した。
【0037】
(1)K/S値
自動記録式分光光度計を用いて、樹脂糊液を塗布しない面における分光反射率を測定し、測定された値を下記式で示されるKubelka−Munkの式へ代入し、K/S値を算出した。K/S値は、色濃度に比例する。したがって、樹脂糊液の浸透が進行している程、染料が繊維に吸着され難くなるため、K/S値が下がる傾向にある。
【0038】
【数1】

【0039】
(2)イラツキ発生の評価
イラツキとは、染色された布帛表面を観察した際、光沢斑のため布帛表面の色彩が一様に見えない態様をいう。樹脂糊液の浸透が進行している程、光沢斑が著しくなるため、イラツキの発生が顕著となる。
【0040】
20人のパネラーによる官能検査に基づいて、樹脂糊液を塗布しない面におけるイラツキを下記の3段階の基準にて相対評価した。
【0041】
〔評価基準〕
A:認められない。
B:やや認められる
C:顕著に認められる
【0042】
(実施例1)
溶剤紡糸セルロース繊維(レンチング社製、「リヨセル」)30番手単糸を経緯糸に用いて、経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度80本/2.54cmの綾組織の織物を製織した。得られた織物に通常の方法で糊抜、精練した後、下記処方2に示されるエマルジョン糊を含有する下記処方1に示される樹脂糊液を、この織物の一方の面に捺染した。捺染には、1200メッシュのフラットスクリーン捺染機を用いた。
【0043】
〔処方1〕
繊維素反応型樹脂(住化ケムテックス社製、「スミテックスレジンNS−19」(固形分45%)) 20質量%
触媒(住化ケムテックス社製、「スミテックスアクセラレーターX−80」(固形分12)6質量%
エマルジョン糊 54質量%
水 20質量%
〔処方2〕
ミネラルターペン 85質量%
乳化剤(新中村化学(株)製、「ビスコンKM−8」) 5質量%
水 10質量%
【0044】
次に、捺染された織物を120℃で1分間乾燥し、160℃で1分間熱処理した。その後、熱処理された織物をワッシャー加工機により60℃で60分間揉布処理して、本発明の溶剤紡糸セルロース繊維系布帛を得た。
【0045】
さらに、この布帛を下記処方3に示される染色液を用いて、浴比1:30、95℃で30分間染色し、乾燥後、樹脂糊液を塗布しない面のK/S値を測定したところ、10.8であった。また、イラツキの発生については、評価基準Aであった。
【0046】
〔処方3〕
直接染料(日本化薬(株)製、「Kayarus Supra Blue FGL」) 1%omf
無水ボウ硝 5%omf
【0047】
(参考例1)
処方2に示されるエマルジョン糊に代えて市販のアルギン酸ソーダ系糊剤を用いること以外は、実施例1と同様に行い、溶剤紡糸セルロース繊維系布帛を得た。なお、樹脂糊液を塗布しない面のK/S値は、8.9であり、イラツキの発生については、評価基準Cであった。
【0048】
以上のように、本発明の溶剤紡糸セルロース繊維系布帛は、一方の面では、上品な光沢感、ソフトな風合い、落ち着いた起毛感を発現し、他方の面では、プレーンな風合いを発現すると共に抗ピリング性に優れ、表面白化を抑制しうるものであった。
【0049】
対して、参考例1では、K/S値が実施例1より低下し、かつイラツキも顕著に認められた。これは、樹脂糊液が一方の面から他方の面へ浸透したことによる。したがって、樹脂糊液を塗布しない面における光沢感、ソフトな風合い、起毛感といった特性は、実施例1と比べて何れも劣る結果となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面がフィブリル化され、他方の面がフィブリル抑制化されていることを特徴とする溶剤紡糸セルロース繊維系布帛。
【請求項2】
溶剤紡糸セルロース繊維を含有する布帛の一方の面に、繊維素反応型樹脂とエマルジョン糊とを含む樹脂糊液を塗布し、乾燥、熱処理し、しかる後に揉布処理することを特徴とする請求項1記載の溶剤紡糸セルロース繊維系布帛の製造方法。


【公開番号】特開2007−277766(P2007−277766A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106433(P2006−106433)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(599089332)ユニチカテキスタイル株式会社 (53)
【Fターム(参考)】