説明

溶接トーチのスパッタ除去装置

【課題】 溶接トーチに付着したスパッタを短時間で除去することができるスパッタ除去装置を提供する。
【解決手段】 押しボタン21が押圧されることにより給気バルブ25,34を開作動させる起動機構20と、給気バルブ25から圧縮空気が供給されることによりピストン42が進退動してハンマー48が繰り返し打撃され、該ハンマーに当接させた溶接トーチ1を激しく振動させ該溶接トーチの内面に付着したスパッタをその振動により離脱させる振動発生機構40と、給気バルブ34から溶接トーチに圧縮空気が供給されることにより溶接トーチ内のスパッタを排出させる圧縮空気供給管路7とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接用のトーチに付着したスパッタを短時間で除去するためのスパッタ除去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接用のトーチは、周知のように、溶接ワイヤの周囲にノズルが形成され、該ノズルから炭酸ガス、アルゴンガス等のシールドガスで溶接部分をシールドすることにより溶接部分の酸化が防止されるようにしているが、作業中にスパッタがこのノズルの先端部およびノズル内面に付着し、その付着量が増すとシールドガスの吹き出しに悪影響を及ぼすことから、従来では作業者がノズルの先端部や内面を切刃や金属ブラシによって擦ってスパッタを離脱させ、除去するようにしていた。しかし、これでは作業能率が悪い欠点があるとともに、ノズルに擦りキズが付き、スパッタが一層付着し易くなるという問題がある。なお、スパッタの付着を防ぐためにノズルに薬品を塗布したり、或いはスパッタが付着し難いカーボン製のノズルを使用することも知られているが、そのようにしても十分に防ぐことができなかった。
【0003】
一方、下記特許文献1に示されたスパッタ掃除装置は、空圧回路に設けられた電磁弁を開閉することにより空圧シリンダに断続的に圧縮空気を送ることで該空圧シリンダに設けられたハンマーを振動させ、該ハンマーに溶接トーチを当てることにより、ノズルに付着したスパッタを振動で離脱、除去しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−94875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来のように振動によりスパッタを離脱させるだけでは、ノズル内部のガス噴出口に付着しているスパッタが排出され難く、掃除に時間がかかるという問題があった。特にノズルの形状が先端部で細く奥部で広がっているものでは、内部のスパッタが一層排出され難いといった問題がある。
本発明はこのような問題点を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのために本発明に係る溶接トーチのスパッタ除去装置は、押しボタンが押圧されることにより給気バルブを開作動させる起動機構と、該起動機構の給気バルブから圧縮空気が供給されることによりピストンが進退動してハンマーが繰り返し打撃され、該ハンマーに当接させた溶接トーチを激しく振動させ該溶接トーチの内面に付着したスパッタをその振動により離脱させる振動発生機構と、該起動機構の給気バルブから溶接トーチに圧縮空気が供給されることにより溶接トーチ内のスパッタを排出させる圧縮空気供給管路とからなることを特徴とする。
【0007】
また、上記起動機構は、振動発生機構に高圧の圧縮空気を送給する第1の給気バルブと、これよりも低圧の圧縮空気を圧縮空気供給管路に送給する第2の給気バルブとを備えており、押しボタンが押圧されることにより両給気バルブが開作動するようにしたことを特徴とする。
このように、高圧の圧縮空気を振動発生機構に送給することにより、ピストンがハンマーを強力に叩打し得るようになり、溶接トーチを激しく振動させることができる。また、低圧大容量の圧縮空気を圧縮空気供給管路を経て溶接トーチに送給することにより、ノズル内のスパッタが直ぐに排出されるようになる。
【0008】
また、上記振動発生機構は、太径部と細径部とからなるピストンがシリンダ内に進退動可能に設けられ、該ピストンの細径部の外周面と該シリンダの内周面との間に空気流入空間が形成され、該シリンダの一端部に該ピストンの太径部と相対する加圧室が形成され、該シリンダの他端部に該ピストンの細径部が突出する大気開放空間が形成されているとともに、ハンマーの基部が該ピストンの突出端と相対するように配置され、該ピストン中には一端が前記加圧室と連通し他端が該ピストンの外周に開口している通気路が形成され、該開口は該ピストンの進退動時に前記空気流入空間または大気開放空間と連通するように開設され、前記空気流入空間に流入した圧縮空気が該通気路を通して断続的に前記加圧室に流入することにより該ピストンが進退動し前記ハンマーの基部が該ピストンによって繰り返し打撃されるようにしたことを特徴とする。
このように、圧縮空気によってピストンを直に進退動させ、該ピストンによりハンマーが打激されることにより、激しい強力な振動を得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ハンマーの強力な打撃によって溶接トーチを激しく振動させることができるので、スパッタを離脱させることが容易であると同時に、離脱したスパッタが圧縮空気により直ぐに排出されるので、スパッタを溶接トーチから短時間できれいに除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態を示すスパッタ除去装置の部分断面側面図。
【図2】本発明に係るスパッタ除去装置の起動機構および振動発生機構を示す縦断面図。
【図3】図2の作動状態図。
【図4】図2の作動状態図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本発明の実施形態を図面に従い説明する。図1において、1はロボットアームによって把持されて移動する溶接トーチ、2は該溶接トーチにシールドガスおよび溶接ワイヤー3を供給するために設けられた可撓性のホースである。4は一対の送りローラからなるワイヤー送給装置で、該装置4を作動させることにより溶接ワイヤー3はホース2内を通って溶接トーチ1に供給される。5は該ホースより分岐して設けられたシャトルバルブで、該シャトルバルブの一方の流入口は開閉弁6を介してシールドガス供給源に連結されており、溶接時に該開閉弁6を開けることによりシールドガスがシャトルバルブ5およびホース2を経て溶接トーチ1に供給される。また、7はシャトルバルブ5の他方の流入口に連結された圧縮空気供給管路である。なお、1aは溶接トーチの先端部に着脱自在に設けられたノズル、1bはコンタクトチップを示す。
【0012】
11は内部に装置本体10が設けられたケース体、21は該ケース体11の前壁面12に突設された押しボタン、48は該押しボタンの下部に位置するように該前壁面12に突設されたハンマーである。そして、前記溶接トーチ1はその先端を下にして該押しボタン21およびハンマー48に押し付けられるようにしている。なお、押しボタン21およびハンマー48は耐衝撃性のある合成樹脂により円柱状に形成されている。また、9は溶接トーチ1から離脱し落下するスパッタ8を受けるためにケース体11の下縁部に着脱自在に設けた受皿を示す。
【0013】
図2に示したように、装置本体10には、起動機構20および振動発生機構40が構成される。13は圧縮空気の供給源と連結されるマニホールド、14,15は該マニホールドに設けられた圧力調整弁で、一方の圧力調整弁14の2次側空気圧は4.5〜5.0Kgf/cmに設定され、他の圧力調整弁15の2次側空気圧はこれよりも低圧の2.5〜2.8Kgf/cmに設定される。
【0014】
次に起動機構20を説明する。起動機構20は、圧力調整弁14の2次側と配管22を介して連通する弁室23を形成し、該弁室内に弁体24を進退動自在に設けることにより第1の給気バルブ25を構成し、該弁体24に前記押しボタン21を軸26を介して直結している。なお、24aは弁室23内に設けられ弁体24を閉方向に付勢しているバネ状弾性体である。該給気バルブ25の2次側には通気路27と通気路28が分岐形成され、通気路27は区画室29に連通し、該区画室には上下動可能に往復動体30が設けられている。31は前記圧力調整弁15の2次側と配管32を介して連通するように形成された弁室で、該弁室内に弁体33を進退動自在に設けることにより第2の給気バルブ34を形成する。なお、33aは弁室31内に設けられ弁体33を閉方向に付勢しているバネ状弾性体である。そして、該弁体33の下方延長端を前記往復動体30の上面と対向させている。そして、該給気バルブ34の2次側は前記圧縮空気供給管路7に連通させている。
【0015】
このため、押しボタン21が押されると、弾性体24aに抗して弁体24が移動して第1の給気バルブ25が開かれ、高圧の圧縮空気が通気路27と通気路28に流入する。そして、通気路27に流入した圧縮空気は往復動体30を押し上げ、該往復動体30はさらに弾性体33aに抗して弁体33を押し上げることから、第2の給気バルブ34も同時に開かれ、低圧の圧縮空気が圧縮空気供給管路7に供給されるようになる。
【0016】
また、振動発生機構40は、シリンダ41が水平に配置され、該シリンダ41内に太径部42aと細径部42bとからなるピストン42が進退動可能に設けられ、該シリンダ41の略中間部に通気口43が形成され、細径部42bの外周面と該シリンダ41の内周面との間に空気流入空間44が形成され、該空気流入空間44が通気口43を介して前記通気路28と連通する。該シリンダ41の一端部には該ピストン42の太径部42aと相対する加圧室45が形成される。46はシリンダ41の一端部を包囲して加圧室45を形成するために固着された蓋部材である。また、シリンダ41の他端部にはピストン42の細径部42bが突出する大気開放空間47が形成されている。50は前記ハンマー48の軸49を進退動自在に支持している軸受部材で、これによって該軸49の内端部に形成された基部51がピストン42の突出端と相対するように配置される。なお、該軸受部材50には大気開放空間47を外部と連通させる通気口52が開設される。
【0017】
また、ピストン42中には一端が前記加圧室45と連通し他端が該ピストンの外周に開口54する通気路53が形成される。なお、開口54はピストン42が進退動することにより前記空気流入空間44または大気開放空間47と連通する位置に開設される。
【0018】
このように構成したスパッタ除去装置では、図2に破断線で示したように、溶接トーチ1をその先端を下にして押しボタン21およびハンマー48に押し付けることにより、第1の給気バルブ25が開き、高圧の圧縮空気が通気口43から空気流入空間44に流入し、該圧縮空気の空圧がピストン42の太径部42aを押圧することにより該ピストン42を図中左方向に移動させる。そうすると図3に示したように該ピストンの開口54が空気流入空間44に連通するようになり、該空気流入空間44の圧縮空気は該開口54から通気路53を通って加圧室45に流入するようになり、該加圧室45の空圧を上昇させる。このため図4に示したように加圧室45の空圧によりピストン42は図中右方向に移動し、該ピストン42の突出端(図中右端)が基部51を叩打しハンマー48を突出させる。そのとき、該ピストン42の開口54が大気開放空間47と連通することで、加圧室45の空気が開口54から該大気開放空間47に抜け、該加圧室45は大気圧になる。するとまた空気流入空間44に流入した高圧の圧縮空気がピストン42の太径部42aを押圧することにより該ピストン42を図中左方向に移動させ、図2の状態となり、図3の状態を経て図4に示した状態になる。このため高圧の圧縮空気によりピストン42は高速で激しく進退動し、ハンマー48の基部が該ピストンによって繰り返し打撃され、該ハンマー48に押し当てられた溶接トーチ1を激しく振動させる。このため該溶接トーチ1のノズル1a内面および先端部に付着しているスパッタを即座に離脱させることができる。
【0019】
また、押しボタン21に溶接トーチ1を押し付けることにより、第1の給気バルブ25と同時に第2の給気バルブ34が開くことから、低圧大容量の圧縮空気が圧縮空気供給管路7に供給され、該圧縮空気はシャトルバルブ5からホース2内を通って溶接トーチ1に供給され、振動により離脱したスパッタを該溶接トーチ1のノズル1a内から外に排出させ、該スパッタ8を受皿9中に落下させる。このため、ロボットアームの移動範囲にこのスパッタ除去装置を配置しておけば、該ロボットの作動で該溶接トーチ1を押しボタン21およびハンマー48に押し付けさせるだけで、該溶接トーチ1内に付着したスパッタを非常に短時間(2〜3秒間で可能)で除去することができ、溶接の作業性を大幅に向上させることができる。
【0020】
なお、この実施形態は、起動機構20として2つの給気バルブ25,34を備えたものを示したが、両バルブを一体的なものとし、圧縮空気供給管路7および振動発生機構40に同時に高圧大容量の圧縮空気が送給されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0021】
1 溶接トーチ
1a ノズル
1b コンタクトチップ
2 ホース
3 溶接ワイヤー
4 ワイヤー送給装置
5 シャトルバルブ
6 開閉弁
7 圧縮空気供給管路
8 スパッタ
9 受皿
10 装置本体
11 ケース体
12 前壁面
13 マニホールド
14,15 圧力調整弁
20 起動機構
21 押しボタン
22 配管
23 弁室
24 弁体
25 第1の給気バルブ
26 軸
27 通気路
28 通気路
29 区画室
30 往復動体
31 弁室
32 配管
33 弁体
34 第2の給気バルブ
40 振動発生機構
41 シリンダ
42 ピストン
42a 太径部
42b 細径部
43 通気口
44 空気流入空間
45 加圧室
46 蓋部材
47 大気開放空間
48 ハンマー
49 軸
50 軸受部材
51 基部
52 通気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押しボタンが押圧されることにより給気バルブを開作動させる起動機構と、該起動機構の給気バルブから圧縮空気が供給されることによりピストンが進退動してハンマーが繰り返し打撃され、該ハンマーに当接させた溶接トーチを激しく振動させ該溶接トーチの内面に付着したスパッタをその振動により離脱させる振動発生機構と、該起動機構の給気バルブから溶接トーチに圧縮空気が供給されることにより溶接トーチ内のスパッタを排出させる圧縮空気供給管路とからなることを特徴とする溶接トーチのスパッタ除去装置。
【請求項2】
起動機構は、振動発生機構に高圧の圧縮空気を送給する第1の給気バルブと、これよりも低圧の圧縮空気を圧縮空気供給管路に送給する第2の給気バルブとを備えており、押しボタンが押圧されることにより両給気バルブが開作動するようにしたことを特徴とする請求項1に記載した溶接トーチのスパッタ除去装置。
【請求項3】
振動発生機構は、太径部と細径部とからなるピストンがシリンダ内に進退動可能に設けられ、該ピストンの細径部の外周面と該シリンダの内周面との間に空気流入空間が形成され、該シリンダの一端部に該ピストンの太径部と相対する加圧室が形成され、該シリンダの他端部に該ピストンの細径部が突出する大気開放空間が形成されているとともに、ハンマーの基部が該ピストンの突出端と相対するように配置され、該ピストン中には一端が前記加圧室と連通し他端が該ピストンの外周に開口している通気路が形成され、該開口は該ピストンの進退動時に前記空気流入空間または大気開放空間と連通するように開設され、前記空気流入空間に流入した圧縮空気が該通気路を通して断続的に前記加圧室に流入することにより該ピストンが進退動し前記ハンマーの基部が該ピストンによって繰り返し打撃されるようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載した溶接トーチのスパッタ除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−45590(P2012−45590A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190909(P2010−190909)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(500521290)光工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】