説明

溶接幅測定方法

【課題】非接触での溶融部分の大きさを算出することができるものでありながら、熟練を要することなく安定した検査結果を算出することができる溶接幅測定方法を提供する。
【解決手段】本発明は、一対の板金を溶接により接合した被検体を挟んで加振用Qスイッチパルスレーザ装置20及び表面変位測定装置30とが対向配置され、表面変位測定装置30は溶接部分から外れた直近位置で固定すると共に、加振用Qスイッチパルスレーザ装置20を被検体の溶接部分に跨って一定間隔で変位させつつパルスレーザ光を被検体に向けて照射して衝撃波を生成し、表面変位測定装置30で被検体の溶接部分を透過した衝撃波を検出した際の加振用Qスイッチパルスレーザ装置20の位置を計算機40で算出することによって被検体に形成された溶融部の溶接幅を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接等の溶融層を非破壊(非接触)で検出する溶接幅測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スポット溶接等の溶接部は、肉眼では確認が困難な部位に形成されるため、その強度(面積)等を確認する検査方法として、重ねあわせ面にタガネを打ち込み、溶接部から破断するかどうかで、溶接部の健全性を評価している。
【0003】
しかしながら、このような検査方法では、検査したワークは廃棄しなければならないことから、実際の製品での検査は不可能な場合が多く、あえて検査用のスポット溶接を行ったとしても一部しか実質的には検査することができない。
【0004】
そこで、非破壊でスポット溶接部位を検査する方法として、スポット溶接部の表面から超音波探触子を走査させ、その反射波から溶融部を検出する手法が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−265529号公報
【特許文献2】特開2000−146928号公報
【特許文献3】特開2002−131297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した溶接幅測定方法にあっては、スポット溶接部分の金属表面には窪みが形成されるため、超音波の接触子とワークとの間に水等の接触媒質を充填したり、遅延材を挟むといった工夫が必要となってくる。
【0007】
また、接触子を溶接部に当接する角度や圧力によって反射波の強度が変化してしまうため、検査作業には熟練を要するうえ、作業者によって測定結果にばらつき画発生する等の問題が生じていた。
【0008】
そこで、本発明は、非接触での溶融部分の大きさを算出することができるものでありながら、熟練を要することなく安定した検査結果を算出することができる溶接幅測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の溶接幅測定方法は、一対の板金を溶接により接合した被検体を挟んで振動発生装置と振動検出装置とを配置し、前記振動検出装置を被検体の他面に対して溶接部分から外れた直近位置で固定すると共に、前記振動発生装置を被検体の一面に対して溶接部分を跨るように間隔を空けて振動を発生させ、前記振動検出装置で振動の透過波を検出した際の前記振動発生装置の位置を計算機で算出することによって被検体に形成された溶融部の溶接幅を測定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の溶接幅測定方法は、一対の板金を溶接により接合した被検体を挟んで加振用Qスイッチパルスレーザ装置及び表面変位測定装置とが対向配置され、前記表面変位測定装置は溶接部分から外れた直近位置で固定すると共に、前記加振用Qスイッチパルスレーザ装置を被検体の溶接部分に跨って一定間隔で変位させつつパルスレーザ光を被検体に向けて照射して衝撃波を生成し、前記表面変位測定装置で被検体の溶接部分を透過した衝撃波を検出した際の前記加振用Qスイッチパルスレーザ装置の位置を計算機で算出することによって被検体に形成された溶融部の溶接幅を測定することを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の溶接幅測定方法において、前記表面変位測定装置は、被検体の表面に向けてレーザ光を照射し、その反射光との干渉により弾性波を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の溶接幅測定方法は、非接触での溶融部分の大きさを算出することができるものでありながら、熟練を要することなく安定した検査結果を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る溶接幅測定方法に適用される溶接幅測定装置を示し、(A)は被検体の平面図、(B)は溶接幅測定装置の説明図である。
【図2】表面変位測定装置における測定点aでの弾性波の検出グラフ図である。
【図3】表面変位測定装置における測定点cでの弾性波の検出グラフ図である。
【図4】表面変位測定装置における測定点dでの弾性波の検出グラフ図である。
【図5】表面変位測定装置における測定点fでの弾性波の検出グラフ図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る溶接幅測定方法に適用される溶接幅測定装置を用いた溶融幅算出を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る溶接幅測定方法における溶接幅のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の一実施形態に係る溶接幅測定方法について、図面を参照して説明する。尚、以下に示す実施例は本発明の溶接幅測定方法における好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定を付している場合もあるが、本発明の技術範囲は、特に本発明を限定する記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。また、以下に示す実施形態における構成要素は適宜、既存の構成要素等との置き換えが可能であり、かつ、他の既存の構成要素との組合せを含む様々なバリエーションが可能である。したがって、以下に示す実施形態の記載をもって、特許請求の範囲に記載された発明の内容を限定するものではない。
【0015】
図1は、本発明に係る測定装置の一実施形態を示し、図1(A)は被検体の平面図、図1(B)は要部の説明図である。
【0016】
図1において、本実施形態に係る溶接幅測定装置10は、被測定対象である溶接済みの被検体50を挟んで対向配置された加振用Qスイッチパルスレーザ装置20及び表面変位測定装置(例えば、レーザ干渉計)30と、溶融層判定用のパーソナルコンピュータ(PC)等の計算機40と、を有する。
【0017】
本実施形態では、被検体50は、スポット溶接により所定形状に形成された2枚の板金(例えば、鋼板)51,52が接合されており、そのスポット溶接による溶融部(界面)53の大きさ(直径又は面積)を計算機40で測定することによって、溶接強度を推測する。
【0018】
加振用Qスイッチパルスレーザ装置20は、図示を略する駆動装置によって被検体50に対してXY方向(水平面内)及びZ方向(接近・離反方向)で変位可能とされている。また、加振用Qスイッチパルスレーザ装置20は、その測定中において溶融部53に対して所定幅(例えば、図1の測定点a,b,c,d,e,f)単位でX方向又はY方向にインチング駆動・停止し、被検体50に向けて所定照射強度(エネルギー)のパルスレーザ光を照射する。この際、駆動装置は、被検体50の界面付近にパルスレーザ光が集光するように焦点距離(又は加振用Qスイッチパルスレーザ装置20の離間距離)をフォーカス調整する。さらに、加振用Qスイッチパルスレーザ装置20によって界面付近にパルスレーザ光が照射されると、ブレークダウン現象により衝撃波が生成される。
【0019】
ここで、ブレークダウン現象とは、物体にパルス状のエネルギーが与えられた時、そのエネルギーで急速に体積膨張し、直後に急速に収縮する現象をいい、この急速な体積の膨張と収縮とに伴い、周囲に衝撃波が生成される。
【0020】
表面変位測定装置30は、図示を略する駆動装置によって被検体50に対してXY方向(水平面内)及びZ方向(接近・離反方向)で変位可能とされている。また、表面変位測定装置30は、その測定中においては溶融部53の境界付近で位置固定(例えば、図1の測定点g,h)される。さらに、表面変位測定装置30は、被検体50に向けて加振用Qスイッチパルスレーザ装置20とは異なる波長のレーザ光を板金51の表面に照射し、その反射光との干渉により弾性波(加振用Qスイッチパルスレーザ装置20からの透過波)を検出し、その検出結果を示す信号を計算機40に出力する。尚、図1(A)に示した測定点g,hは、加振用Qスイッチパルスレーザ装置20の測定点b,eとY方向にズレて表示しているが、このズレは説明の便宜上のズレである。
【0021】
上述したように、界面では加振用Qスイッチパルスレーザ装置20のパルスレーザ(衝撃波)は反射し、透過波は減衰するということを利用し、表面変位測定装置30で板金51の表面変位を測定することで被測定物の界面の有無(溶接部43の有無)を容易に特定することができる。
【0022】
上記の構成において、図1に示すように、スポット溶接時に形成される窪み近傍(外周寄り)に表面変位測定装置30を配置する。この際、表面変位測定装置30は、基板51の表面が平らな部位、即ち、窪み部分から外れた位置に配置することで充分な反射光を受光することができ、測定が可能となっている。
【0023】
一方、加振用Qスイッチパルスレーザ装置20を板金52の表面(被検体50の裏面)スポット溶接部位から離れた位置に配置し、パルスレーザを照射し、アブレーションによる衝撃波を発生させる。この際、板金52の裏面の凹凸によらず衝撃波を発生させることができるため、加振用Qスイッチパルスレーザ装置20のみを走査するだけで測定は可能である。
【0024】
ここで、板厚1.4(mm)の軟鋼板から板金51,52をスポット溶接した後、測定した結果を図2〜図5に示す。尚、図2は測定点a(又は測定点b)での波形図、図3は測定点cでの波形図、図4は測定点d(又は測定点e)での波形図、図5は測定点fでの波形図である。
【0025】
図2及び図4に示すように、未溶融部の測定点a及び測定点dでは、透過波Pa1,Pd1を受光した他、重ね合わせの界面からの反射波Pa2,Pd2を受光しており、透過波の振幅は減衰する。一方、図3及び図5に示すように、溶融部の測定点c及び測定点fでは、透過波Pc1,Pf1を受光した他、重ね合わせの界面からの反射波は無く、透過波の減衰は無かった。
【0026】
尚、図2,図4において、最大ピーク値である透過波Pa1,Pd1よりも時間軸で遅れた界面からの反射波Pa2,Pd2は、時間軸と板金51,52の板圧との関係から透過波Pa1,Pd1であると誤認識することは無い。
【0027】
即ち、時間軸はレーザ発振時のトリガ信号の立ち上がりを原点としている。このため、板金52に照射される時間は約150ns程度の遅れが発生する。一方、今回の実験では、板圧1.36mmの板金51,52をスポット溶接している。板金(鋼板)51,52の超音波縦波(板圧方向)の伝播速度は約6000m/sであり、2枚重ねの板金51,52を透過する時間T0は、
T0=(1.36[mm]×2[枚])/6000[m/s]=450[ns]
となる。したがって、図2に示した波形図の場合、時間軸600ns近傍の最大ピーク値が透過波Pa1であると確認することができる。
【0028】
一方、図2の時間軸1500ns近傍に発生したピーク値Pa2の伝播距離D2は、
D2=6000[m/s]×(1500[ns]−150[ns])=8.1[mm]
となり、1.36[mm]厚の板金6枚相当の距離を伝播したことになる。したがって、板金51,52の裏面・表面を2回反射し、裏面に到達した透過波(2次波)と推測することができる。
【0029】
他方、界面からの反射波の伝播距離D1は、板金51の裏面で反射した後、界面で反射したと考えられるので、
D1=1.36[mm]×4=5.44[mm]
となり、界面で反射した波が到達する時間T1は、
T1=5.44[mm]/6000[m/s]+150[ns]=900[ns]
と推測することができる。
【0030】
また、測定点a,b,cは、実際には溶融部53の内周寄りから外周に向って一定間隔で加振用Qスイッチパルスレーザ装置20を移動させながら測定を行う。この際、界面の反射が見られない場合、さらに外周方向に移動して測定の追加を行い、計算機40で各測定点の透過波と界面での反射波の振幅比(ピーク比)を取り込み、その結果から溶融幅Dx(mm)を算出する(図6参照)。
【0031】
そして、図7に示すように、ピーク比(反射波)が「0」となる測定点(例えば、測定点b)と表面変位測定点cとの距離α(mm)を算出する。同様に、表面変位測定点fとの距離β(mm)を算出する。測定点cと測定点fとの距離をL(mm)、表面側の板金51の板厚をt1(mm)、裏面側の板金52の板厚をt2(mm)とすると、溶融幅Dx(mm)は、
Dx=(t1/t1+t2)α+(t1/t1+t2)β+L
で算出することができる。
【0032】
尚、ここで算出される溶融幅Dxは、所謂、スポット溶接のナゲット部分とコロナボンド部分とを含めた溶融部全体を示す。また、同様にY軸方向にも同様の走査によって溶接幅Dy(mm)を求めることができる。
【0033】
また、測定条件としては、表面変位測定装置30と加振用Qスイッチパルスレーザ装置20とでなす角θは20°(板厚1.4(mm)2枚重ねの場合、α,β=1(mm))以下が好ましい。尚、θ>20°とした場合であっても、横波の板厚方向成分を検出するために、界面の反射と横波とを識別することができれば測定は可能である。即ち、θ<20°の場合には、横波の板圧方向の成分は無視できる程度に小さいが、θ>20°としてしまうと、横波の板圧方向の成分が検出されてしまうため、これらを識別する必要が生じてくる。また、この場合、Lを大きくして、角θを20°以下として再測定するのが望ましい。
【0034】
このように、本発明にあっては基準となる位置に表面変位測定装置30を固定し、加振用Qスイッチパルスレーザ装置20のみを変位させて測定点cと測定点fとを決定してその幅Lを算出すると共に、測定点cから溶融部53の外側で最初に透過波Pa1を得られた測定点(例えば、b)の幅α(β)から、幅xを算出して幅Lに加算することで溶接幅Dx(Dy)を算出することにより、溶融部53の幅、大きさ、面積等を容易に算出することができ、溶接強度の確保の確認をすることができる。
【0035】
この際、XY方向の幅Dx,Dyを求めることにより、その幅Dx≒Dyであれば溶接が適正に処理されているといった溶接の不具合の確認も行うことができる。尚、Dx≒Dyとしたのは、測定誤差や許容範囲を含めて不具合判断を計算機40で行うためである。
【0036】
ところで、本実施の形態では、受信用レーザとして、表面変位測定装置(レーザ干渉計)30を使用したもので説明したが、例えば、レーザドップラ振動計等、スポット溶接以外の重ね合わせ溶接の強度判定等に応じたものを適用することができる。
【0037】
また、加振用Qスイッチパルスレーザ装置20と表面変位測定装置30との両方に測定用のレーザを使用することにより、大気中でしかも非接触で測定が可能となり、接触媒質を必要とせず、作業者の熟練度も必要としない簡素な溶接幅測定装置10を提供することができる。
【0038】
さらに、表面変位測定装置30の測定点g(h)をスポット溶接部分として目視可能な窪み近傍(外側)で固定することにより、表面が平面のため充分な戻り光が得られ、安定した反射波測定が可能となるうえ、戻り光のバラツキを最小限に抑えることができる。
【0039】
これにより、加振用Qスイッチパルスレーザ装置20をXY方向に走査させることによって溶接界面の状況を計算機40で推測することができる。
【0040】
したがって、界面では衝撃波が反射することから、透過波は減衰するということを利用し、表面変位測定装置30で板金51の表面変位を測定することで被測定物の界面(内部欠陥)の有無を容易に測定することができる。
【符号の説明】
【0041】
10…溶接幅測定装置
20…加振用Qスイッチパルスレーザ装置(振動発生装置)
30…表面変位測定装置(振動検出装置)
40…計算機
50…被検体
51…板金
52…板金
53…溶融部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の板金を溶接により接合した被検体を挟んで振動発生装置と振動検出装置とを配置し、前記振動検出装置を被検体の他面に対して溶接部分から外れた直近位置で固定すると共に、前記振動発生装置を被検体の一面に対して溶接部分を跨るように間隔を空けて振動を発生させ、前記振動検出装置で振動の透過波を検出した際の前記振動発生装置の位置を計算機で算出することによって被検体に形成された溶融部の溶接幅を測定することを特徴とする溶接幅測定方法。
【請求項2】
一対の板金を溶接により接合した被検体を挟んで加振用Qスイッチパルスレーザ装置及び表面変位測定装置とが対向配置され、前記表面変位測定装置は溶接部分から外れた直近位置で固定すると共に、前記加振用Qスイッチパルスレーザ装置を被検体の溶接部分に跨って一定間隔で変位させつつパルスレーザ光を被検体に向けて照射して衝撃波を生成し、前記表面変位測定装置で被検体の溶接部分を透過した衝撃波を検出した際の前記加振用Qスイッチパルスレーザ装置の位置を計算機で算出することによって被検体に形成された溶融部の溶接幅を測定することを特徴とする溶接幅測定方法。
【請求項3】
前記表面変位測定装置は、被検体の表面に向けてレーザ光を照射し、その反射光との干渉により弾性波を検出することを特徴とする請求項2に記載の溶接幅測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−21918(P2012−21918A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161098(P2010−161098)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】