溶接方法
【課題】単結晶または一方向凝固材料の母材を溶接した際に、母材の結晶方位と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ一方向に凝固した結晶で形成される領域を広げる。
【解決手段】母材40に溶融深さが異なるように溶融凝固処理を複数回施して溶接する際に、1回目の溶融凝固処理で形成された第1の溶融層47の側部から凝固して母材40と同じ結晶方位を持つ側部凝固組織43および熱源の走査方向に凝固して母材40と同じ結晶方位を持つ走査方向凝固組織44が形成されている場合に、この第1の溶融層47よりも浅く、かつ、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44を含む領域を溶融させた第2の溶融層48を形成し、この第2の溶融層48を凝固させてこの第2の溶融層48の底部から凝固して母材と同じ結晶方位を持つ底部凝固組織42を積層させる2回目の溶融凝固処理を施す。
【解決手段】母材40に溶融深さが異なるように溶融凝固処理を複数回施して溶接する際に、1回目の溶融凝固処理で形成された第1の溶融層47の側部から凝固して母材40と同じ結晶方位を持つ側部凝固組織43および熱源の走査方向に凝固して母材40と同じ結晶方位を持つ走査方向凝固組織44が形成されている場合に、この第1の溶融層47よりも浅く、かつ、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44を含む領域を溶融させた第2の溶融層48を形成し、この第2の溶融層48を凝固させてこの第2の溶融層48の底部から凝固して母材と同じ結晶方位を持つ底部凝固組織42を積層させる2回目の溶融凝固処理を施す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶および一方向凝固材料のいずれかの母材の溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンやジェットエンジンの翼には大きな遠心力と、より高温での運転に耐えるために、単結晶材や一方向凝固材を用いた翼が使用されるようになってきている。このような単結晶翼や一方向凝固翼は、従来型の翼に比べて耐久性は優れているものの、長時間使用すれば開口き裂や減肉などの損傷を避けることは困難である。このため、補修を行うことが必要となってくる。しかし、従来用いられていた補修方法であるロウ付けや溶接では、補修部の結晶が翼材と同じ方向凝固結晶とはならずに多結晶化して、強度低下を生じる。
【0003】
たとえば特許文献1には、単結晶の母材の溶融溶接を行った際に、母材と同じ結晶方位を有する溶融溶接層を形成する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−152918号公報
【非特許文献1】西本、他3名、「表面溶融部の結晶成長に関する理論的検討 −LDレーザによる結晶制御クラッディング第2報−」、溶接学会全国大会講演概要集第75集、p.46−47、2004年9月
【非特許文献2】坂本、片山、「Ni基超合金の溶融溶接性(第3報)−多結晶化に及ぼす母材結晶面と方位の影響−」、溶接学会講演概要集第73集、p.100−101、2003年10月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された方法による溶融溶接では、非特許文献1および非特許文献2に示されているように、凝固方向が異なった結晶が形成される。たとえば、単結晶材の表面に熱源を走査させて溶融、凝固させた場合、溶融部底部から母材の結晶方位と同じ方向に凝固した領域と溶融部側面から凝固した領域と熱源の走査方向に凝固した領域が溶融層に混在する。いずれの領域も母材の結晶方位と同じ結晶方位を有しているが、凝固の方向が異なる結晶であり、母材の凝固形態と異なるものである。
【0005】
そこで、本発明は、単結晶または一方向凝固材料の母材を溶接した際に、母材の結晶方位と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ一方向に凝固した結晶で形成される領域を広げることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明は、単結晶および一方向凝固材料のいずれかの母材に熱源を走査して溶融層を形成しこの溶融層を凝固させる溶融凝固処理を溶融深さが異なるように複数回施してこの母材を溶接する溶接方法において、前回の溶融凝固処理で形成された第1の溶融層の側部から凝固して前記母材と同じ結晶方位を持つ側部凝固組織および前記熱源の走査方向に凝固して前記母材と同じ結晶方位を持つ走査方向凝固組織が形成されている場合に、この第1の溶融層よりも浅く、かつ、この側部凝固組織およびこの走査方向凝固組織を含む領域を溶融させた第2の溶融層を形成し、この第2の溶融層を凝固させてこの第2の溶融層の底部から凝固して前記母材と同じ結晶方位を持つ底部凝固組織を積層させる溶融凝固処理を施す底部凝固組織積層工程、を有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、単結晶および一方向凝固材料のいずれかの母材に熱源を走査して溶融層を形成しこの溶融層を凝固させる溶融凝固処理を施してこの母材を溶接する溶接方法において、溶化材を供給しながら前記母材に熱源を走査してこの母材の表面との界面での接線とこの母材の表面との間の角度が45度以下となる溶融層を形成し、この溶融層を凝固させる工程、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、単結晶および一方向凝固材料のいずれかの母材に熱源を走査して溶融層を形成しこの溶融層を凝固させる溶融凝固処理を施してこの母材を溶接する溶接方法において、テーパー角度が45度未満のテーパー面を持つ除去部を前記母材の表面から除去する除去工程と、前記除去工程の後に、前記除去部に溶化材を供給しながら前記母材に熱源を走査してこの母材の表面に溶融層を形成し、この溶融層を凝固させる工程、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、単結晶または一方向凝固材料の母材を溶接した際に、母材の結晶方位と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ一方向に凝固した結晶で形成される領域を広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る溶接方法の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
[第1の実施の形態]
図3は、単結晶材の溶融凝固組織の例を示す一部断面斜視図である。
【0012】
単結晶の母材40の表面に、図3に矢印41で示す方向に熱源を走査して溶融層46を形成し、凝固させると、溶融層46に対応する領域には、溶融部底部から母材40の結晶方位と同じ方向に凝固した底部凝固組織42と、溶融部側面から凝固した側部凝固組織43と、熱源の走査方向41に凝固した走査方向凝固組織44が形成される。底部凝固組織42、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44は、いずれも母材40の結晶方位と同じ結晶方位を持つ。しかし、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44は、母材40と凝固の方向が異なり、凝固形態が異なる結晶である。
【0013】
本実施の形態の溶接方法は、母材と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ方向に凝固した結晶で形成される補修溶接層の領域を広げる方法である。また、最終的には、補修溶接層の全ての領域を、母材と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ方向に凝固した結晶とする。
【0014】
図2は、本発明に係る溶接方法の第1の実施の形態におけるフローチャートである。
【0015】
本実施の形態の溶接方法は、単結晶および一方向凝固材料のいずれかの母材40に熱源を走査して、溶融層46を形成し、この溶融層46を凝固させる溶融凝固処理を溶融深さが異なるように複数回施して、母材40を溶接する方法である。まず、1回目の溶融凝固処理として、母材40に熱源を走査して、母材40の表面に溶融層46を形成し、この溶融層46を凝固させる(工程S1)。
【0016】
次に、2回目の溶融凝固処理として、母材40に熱源を走査して、母材40の表面に再び溶融層46を形成し、この溶融層46を凝固させる(工程S2)。工程S2で形成する溶融層46は、前回の溶融工程で形成された溶融層46よりも浅く、かつ、前回の溶融工程で形成された側部凝固組織43および走査方向凝固組織44を含む領域を溶融させたものとする。さらに、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が残存しているか否かを判定し(工程S3)、残存している場合には、再び2回目の溶融凝固処理と同様の処理を施してもよい。母材40の溶融に用いる熱源としては、レーザやプラズマ、アークなどを用いることができる。
【0017】
図1は、本実施の形態における凝固組織の変化を示す母材の断面図であって、(a)は1回目の溶融凝固処理後、(b)は2回目の溶融凝固処理後、(c)は3回目の溶融凝固処理後の状態を示すものである。
【0018】
1回目の溶融凝固処理では、母材40の表面に第1の溶融層47を形成し、この第1の溶融層47を凝固させる。第1の溶融層47が形成されていた領域に凝固によって生じる凝固組織は、底部凝固組織42、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44からなる。
【0019】
2回目の溶融凝固処理では、第2の溶融層48を形成する。この第2の溶融層48は、第1の溶融層47よりも浅く、かつ、第1溶融工程で形成された側部凝固組織43および走査方向凝固組織44を含む領域を溶融させたものとする。このような第2の溶融層48は、たとえば熱源の出力を1回目の溶融凝固処理よりも小さくしたり、熱源の走査速度を1回目の溶融凝固処理より速めることにより形成することができる。
【0020】
第2の溶融層48を形成した後に、この第2の溶融層48を凝固させる。これにより、1回目の溶融凝固処理と同様に、第2の溶融層48が形成されていた領域に、底部凝固組織42、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が形成される。このようにして、母材40と同じ結晶方位を持ち、第1の溶融層47の底部から一方向に凝固した結晶が、第1の溶融層47の底部から連続して積層される。つまり、母材40と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ方向に凝固した結晶で形成される補修溶接層の領域を広げることができる。
【0021】
2回目の溶融処理で側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が残存しているか否かを判定し(工程S3)、ここでは図1(b)に示す通り残存しているため、再度2回目の溶融凝固処理と同様の処理を施す(工程S2)。前回の溶融層とは第2の溶融層48のことであるから、第1の溶融層47よりも浅く、かつ、2回目の溶融処理で形成された側部凝固組織43および走査方向凝固組織44を含む領域を溶融させた第3の溶融層49を形成し、この第3の溶融層49を凝固させる。
【0022】
第3の溶融層49が十分に浅い場合には、第3の溶融層49が形成された領域には、底部凝固組織42のみが形成される。このように、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が残存しなくなった場合には、溶接処理を終了する。第3の溶融層49がある程度深く、底部凝固組織42以外の凝固組織も形成された場合には、再度2回目の溶融凝固処理と同様の処理を施す(工程S2)。
【0023】
このようにして、最終的には、母材40の表面まで、母材40と同一の結晶方位を持ち、第1の溶融層47の底部から一方向に凝固した結晶を積層することができる。つまり、補修溶接層の全ての領域を、母材と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ方向に凝固した結晶とすることができる。
【0024】
溶融層47,48,49を形成するために、熱源を母材40の表面方向に間隔を置いて2回以上走査してもよい。この際、前回の熱源の走査によって形成された溶融層47,48,49と重なり合う溶融層47,48,49を形成するような位置に熱源を走査することにより、より広い領域に溶接処理を施すことができる。
【0025】
また、たとえば第1の溶融層47に対して、第2の溶融層48の母材40の表面方向の幅を大きくしておくと、第1の溶融層47が凝固して形成された側部凝固組織43および走査方向凝固組織44の全体が再び溶融される。このため、前回の溶融凝固処理によって形成された側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が残存しないようにできる。
【0026】
[第2の実施の形態]
本発明に係る溶接方法の第2の実施の形態では、溶融凝固処理の際に、溶融部に溶化材を供給しながら熱源を走査し、肉盛溶接を行う。また、最後に表面仕上げ加工を行う。
【0027】
図4は、本実施の形態における凝固組織の変化を示す母材の断面図であって、(a)は1回目の肉盛溶接後、(b)は2回目の肉盛溶接後、(c)は仕上げ加工後の状態を示すものである。図5は、本実施の形態におけるフローチャートである。
【0028】
1回目の肉盛溶接では、溶融部に溶化材を供給しながら母材40に熱源を走査して、この母材40の表面に第1の肉盛溶接層51を形成し、この第1の肉盛溶接層51を凝固させる(工程S11)。第1の肉盛溶接層51が形成された領域には、凝固によって、底部凝固組織42、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が形成される。この肉盛溶接に際しては、底部凝固組織42の厚さH1が肉盛溶接層51の余盛高さH2よりも大きくなるように溶化材の供給量を調節する。
【0029】
次に、2回目の肉盛溶接で、母材40に熱源を走査して第2の肉盛溶接層52を形成する(工程S21)。この第2の肉盛溶接層52は、第1の肉盛溶接層51よりも浅く、かつ、1回目の溶融処理で形成された側部凝固組織43および走査方向凝固組織44を含む領域を溶融させたものとする。1回目の溶接処理は、底部凝固組織42の厚さH1が肉盛溶接層51の余盛高さH2よりも大きくなるものであるから、1回目の溶融凝固処理と同じ条件で肉盛溶接することによって、このような2回目の溶融凝固処理を施すことができる。
【0030】
次に、溶接前の母材40の表面に側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が残存しているか否かを判定する(工程S31)。ここでは、2回の肉盛溶接によって底部凝固組織42が溶接前の母材40の表面まで形成されているため、溶融凝固処理を終了し、表面仕上げ加工(工程S4)を行う。この表面仕上げ加工によって、溶接前の母材40の表面の上に形成された肉盛溶接層51,52の部分を削り取って、母材40の表面を平坦にする。
【0031】
図6は、底部凝固組織の厚さが肉盛溶接層の余盛高さよりも小さい肉盛溶接を2回繰り返した場合の凝固組織の変化の例を示す母材の断面図であって、(a)は1回目の肉盛溶接後、(b)は2回目の肉盛溶接後の状態を示すものである。
【0032】
図6に示すように、底部凝固組織42の厚さが肉盛溶接層53の余盛高さよりも小さい肉盛溶接を2回繰り返した場合には、底部凝固組織42が連続しない2以上の領域に形成され、底部凝固組織42を連続して積層していくことができない。一方、図4に示すように、底部凝固組織42の厚さが肉盛溶接層51,52の余盛高さよりも小さい肉盛溶接を繰り返すことによって、底部凝固組織42を連続して積層していくことができる。
【0033】
また、単結晶材に溶化材を加えながらレーザ溶接を行うと、溶接割れが発生することがある。
【0034】
図7は、溶接割れがある場合とない場合のレーザ出力と溶接速度の関係を示すグラフである。
【0035】
レーザ出力をP(kW)、溶接速度、すなわち、熱源の走査速度をV(mm/s)とすると、図7より、V<11.25−12.5×Pの条件を満たすときに溶接割れが生じないことがわかる。そこで、この条件を満たすようにレーザ出力と溶接速度を制御することにより、単結晶材および一方向凝固材料の溶接を行う際に溶接割れの発生を抑制することができる。たとえば、レーザ出力を300〜600W、レーザビームの直径をφ1.5〜3.0mmとし、溶接部の参加を防止するためにArガスを溶接部に吹き付けながら溶接すればよい。
【0036】
このようにして、肉盛溶接を用いても、補修溶接層の全ての領域を、母材と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ方向に凝固した結晶とすることができる。また、レーザ出力と溶接速度を適切に制御することにより、溶接割れの発生を抑制することができる。
【0037】
[第3の実施の形態]
図8は、本発明に係る溶接方法の第3の実施の形態における凝固組織の変化を示す母材の断面図であって、(a)は2回目の肉盛溶接後、(b)は3回目の溶融凝固処理後、(c)は4回目の溶融凝固処理後、(d)は5回目の溶融行幸処理後の状態を示す。
【0038】
本実施の形態では、まず、第2の実施の形態と同様に、母材40に熱源を走査して、この母材40の表面に第1の肉盛溶接層51を形成し、この第1の肉盛溶接層51を凝固させる(工程S11)。次に、2回目の肉盛溶接で、母材40に熱源を走査して第2の肉盛溶接層52を形成する(工程S21)。この第2の肉盛溶接層52は、第1の肉盛溶接層51よりも浅く、かつ、1回目の溶融凝固処理で形成された側部凝固組織43および走査方向凝固組織44を含む領域を溶融させたものとする。ここでは、2回の肉盛溶接によって底部凝固組織42が溶接前の母材40の表面まで形成されていて、母材40の断面は、図8(a)に示す状態となっている。
【0039】
その後、本実施の形態では、第2の実施の形態と異なり、母材40の表面仕上げ処理を行わずに、溶接前の母材40の表面の上に形成された肉盛溶接層51,52の部分に対して、第1の実施の形態と同様の処理を施す。つまり、3回目の溶融凝固処理として、母材40に熱源を走査して、肉盛溶接後の母材40の表面に第1の溶融層47を形成し、この第1の溶融層47を凝固させる。この際、第1の溶融層47は、前回の溶融凝固処理である2回目の肉盛溶接の際に生じた第2の肉盛溶接層52よりも浅く、かつ、2回目の肉盛溶接で形成された側部凝固組織43および走査方向凝固組織44を含む領域を溶融させたものとする。
【0040】
次に、肉盛溶接後の母材40の表面に側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が残存しているか否かを判定する(工程S31)。ここでは、母材40の断面は、図8(b)に示す状態となっているため、さらに3回目の溶融凝固処理と同様の処理を複数回施し(工程S2)、図8(c)、図8(d)に示す状態にする。図8(d)に示す状態となったところで、肉盛溶接後の母材40の表面に側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が残存しなくなっているため、そこで溶融凝固処理を終了する。
【0041】
このようにして、肉盛った溶接金属の全体を、母材と同じ結晶方位を持ち、かつ、溶融底部から一方向に凝固した結晶、すなわち、底部凝固組織42とすることができる。
【0042】
[第4の実施の形態]
本発明に係る溶接方法の第4の実施の形態は、第3の実施の形態の溶接方法を施した後に、さらに肉盛溶接を施す方法である。
【0043】
図9は、本実施の形態における3回目の肉盛溶接後の状態を示す母材の断面図である。
【0044】
本実施の形態では、第3の実施の形態の溶接方法を施した後に、さらに、溶融部に溶化材を供給しながら、母材40に熱源を走査して、この母材40の表面に第3の肉盛溶接層53を形成する。この際、この第3の肉盛溶接層53は、第1の溶融層47よりも浅くなるようにする。
【0045】
その後、肉盛溶接層の厚さを必要な厚さになるまで、さらに肉盛溶接を施し、第3の実施形態の溶接方法を施すことにより、必要な厚さまで肉盛った溶接金属の全体を、母材と同じ結晶方位を持ち、かつ、溶融底部から一方向に凝固した結晶、すなわち、底部凝固組織42とすることができる。
【0046】
また、底部凝固組織42が必要な厚さになったところで、残存する側部凝固組織43および走査方向凝固組織44を削り取る表面仕上げ処理を施してもよい。
【0047】
[第5の実施の形態]
図10は、肉盛溶接を行った際の凝固組織の配置の例を示す断面図である。
【0048】
上述の通り、母材40に熱源を走査して、この母材40の表面に溶融層を形成し、その溶融層を凝固させると、底部凝固組織42、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が形成される。
【0049】
図11は、底部凝固組織と側部凝固組織の界面における接線方向の測定結果を示すグラフである。
【0050】
この図は、様々な条件で母材40を溶融させた場合の、底部凝固組織42と側部凝固組織43との界面における接線の母材40の表面との角度θを、入熱量に対する溶接速度の比に対してプロットしたものである。図8より、溶接時の入熱が変化しても、溶融界面の接線角度θは45度以下であることがわかる。
【0051】
図12は、本発明に係る第5の実施の形態における肉盛溶接後の状態を示す母材の断面図である。図13および図14は、レーザの照射形状の例を示す母材の上面図である。
【0052】
本実施の形態では、図12に示すように母材40との界面における接線60の方向と母材との間の角度θが45度未満となるように溶融層45を形成し、この溶融層45を凝固させる。このとき生じる凝固組織は、底部凝固組織42および走査方向凝固組織44であり、側部凝固組織43は形成されない。このように、本実施の形態の溶接方法を用いると、単結晶または一方向凝固材料の母材を溶接した際に、母材の結晶方位と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ一方向に凝固した結晶で形成される領域を広げることができる。
【0053】
溶融部界面の接線角度を小さくし、溶け込みが浅い溶接を行う方法としては、レーザを熱源として用いる場合には、熱源走査速度を速くするか、レーザ出力を小さくすればよい。円形ビームを照射する場合には、ビーム直径を大きくしてもよい。レーザビーム形状を、図13に示すような楕円ビーム21としたり、図14に示す線状ビーム22として、図13および図14に矢印41で示す方向に走査してもよい。また、レーザのエネルギー強度分布をカライドスコープなどによって均一化したビームを用いることも効果的である。
【0054】
図15は、本実施の形態における溶融層を重ねて形成する場合の母材の断面図である。図16は、溶融層を重ねて形成した場合の母材の断面図の例である。
【0055】
溶融層45を重ねて形成する場合であっても、溶融界面の接線角度θが45度未満の場合には、図15に示すように、溶融層45を凝固させて生じる凝固組織は、底部凝固組織42および走査方向凝固組織44であり、側部凝固組織43は形成されない。一方、溶融界面の接線角度θ1が45度以上の場合には、図16に示すように、溶融層50を凝固させて生じる凝固組織には、側部凝固組織43が形成される。
【0056】
したがって、溶融層を重ねて形成する場合であっても、単結晶または一方向凝固材料の母材を溶接した際に、母材の結晶方位と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ一方向に凝固した結晶で形成される領域を広げることができる。
【0057】
[第6の実施の形態]
図17は、本発明に係る溶接方法の第6の実施の形態における母材の断面図である。図18は、欠陥部分を除去した母材に肉盛溶接を施した場合の例を示す断面図である。
【0058】
翼などの被溶接体にき裂などの欠陥が発生した際に、欠陥部分を除去して、その除去部に肉盛溶接を施して補修する場合がある。本実施の形態は、このような場合に対応したもので、溶接処理の前に、まず母材40の欠陥部などを除去し、この欠陥除去部23に肉盛溶接層54を形成し、凝固させる。
【0059】
上述の通り、溶融界面の接線角度θが45度未満の場合には、溶融層を凝固させて生じる凝固組織は、底部凝固組織42および走査方向凝固組織44であり、側部凝固組織43は形成されない。そこで、本実施の形態では、欠陥除去部23に、テーパー角度θ2が45度未満となるようなテーパー面24を設けている。このようなテーパー面24を設けることにより、欠陥除去部23の端部では、溶融部界面の接線角度を45度未満に制御することが可能となり、底部凝固組織42を積層することができる。
【0060】
一方、テーパー角度θ3が45度以上となるようなテーパー面24を設けた除去部23に肉盛溶接層54を形成した場合には、溶融部界面の接線角度を45度未満に制御することができず、肉盛溶接層54の側部に側部凝固組織43が形成される。
【0061】
このように、単結晶または一方向凝固材料の母材から、テーパー角度が45度未満のテーパー面を持つように欠陥などを除去すると、その除去部を溶接した際に、母材の結晶方位と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ一方向に凝固した結晶で形成される領域を広げることができる。
【0062】
[他の実施の形態]
上述の各実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれらに限定されない。たとえば上述の各実施の形態は、単結晶の母材の溶接について説明したが、一方向凝固材料でも同様である。また、各実施の形態の特徴を組み合わせて実施することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る溶接方法の第1の実施の形態における凝固組織の変化を示す母材の断面図であって、(a)は1回目の溶融凝固処理後、(b)は2回目の溶融凝固処理後、(c)は3回目の溶融凝固処理後の状態を示すものである。
【図2】本発明に係る溶接方法の第1の実施の形態におけるフローチャートである。
【図3】単結晶材の溶融凝固組織の例を示す一部断面斜視図である。
【図4】本発明に係る溶接方法の第2の実施の形態における凝固組織の変化を示す母材の断面図であって、(a)は1回目の肉盛溶接後、(b)は2回目の肉盛溶接後、(c)は仕上げ加工後の状態を示すものである。
【図5】本発明に係る溶接方法の第2の実施の形態におけるフローチャートである。
【図6】底部凝固組織の厚さが肉盛溶接層の余盛高さよりも小さい肉盛溶接を2回繰り返した場合の凝固組織の変化の例を示す母材の断面図であって、(a)は1回目の肉盛溶接後、(b)は2回目の肉盛溶接後の状態を示すものである。
【図7】溶接割れがある場合とない場合のレーザ出力と溶接速度の関係を示すグラフである。
【図8】本発明に係る溶接方法の第3の実施の形態における凝固組織の変化を示す母材の断面図であって、(a)は2回目の肉盛溶接後、(b)は3回目の溶融凝固処理後、(c)は4回目の溶融凝固処理後、(d)は3回目の溶融行幸処理後の状態を示す。
【図9】本発明に係る溶接方法の第4の実施の形態における3回目の肉盛溶接後の状態を示す母材の断面図である。
【図10】肉盛溶接を行った際の凝固組織の配置の例を示す断面図である。
【図11】底部凝固組織と側部凝固組織の界面における接線方向の測定結果を示すグラフである。
【図12】本発明に係る第5の実施の形態における肉盛溶接後の状態を示す母材の断面図である。
【図13】レーザの照射形状の例を示す母材の上面図である。
【図14】レーザの照射形状の例を示す母材の上面図である。
【図15】本発明に係る第5の実施の形態における溶融層を重ねて形成する場合の母材の断面図である。
【図16】溶融層を重ねて形成した場合の母材の断面図の例である。
【図17】本発明に係る溶接方法の第6の実施の形態における母材の断面図である。
【図18】欠陥部分を除去した母材に肉盛溶接を施した場合の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0064】
21…楕円ビーム、22…線状ビーム、23…欠陥除去部、24…テーパー面、40…母材、41…熱源の走査方向、42…底部凝固組織、43…側部凝固組織、44…走査方向凝固組織、45,46,47,48,49,50…溶融層、51,52,53,54…肉盛溶接層、60…接線
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶および一方向凝固材料のいずれかの母材の溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンやジェットエンジンの翼には大きな遠心力と、より高温での運転に耐えるために、単結晶材や一方向凝固材を用いた翼が使用されるようになってきている。このような単結晶翼や一方向凝固翼は、従来型の翼に比べて耐久性は優れているものの、長時間使用すれば開口き裂や減肉などの損傷を避けることは困難である。このため、補修を行うことが必要となってくる。しかし、従来用いられていた補修方法であるロウ付けや溶接では、補修部の結晶が翼材と同じ方向凝固結晶とはならずに多結晶化して、強度低下を生じる。
【0003】
たとえば特許文献1には、単結晶の母材の溶融溶接を行った際に、母材と同じ結晶方位を有する溶融溶接層を形成する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−152918号公報
【非特許文献1】西本、他3名、「表面溶融部の結晶成長に関する理論的検討 −LDレーザによる結晶制御クラッディング第2報−」、溶接学会全国大会講演概要集第75集、p.46−47、2004年9月
【非特許文献2】坂本、片山、「Ni基超合金の溶融溶接性(第3報)−多結晶化に及ぼす母材結晶面と方位の影響−」、溶接学会講演概要集第73集、p.100−101、2003年10月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された方法による溶融溶接では、非特許文献1および非特許文献2に示されているように、凝固方向が異なった結晶が形成される。たとえば、単結晶材の表面に熱源を走査させて溶融、凝固させた場合、溶融部底部から母材の結晶方位と同じ方向に凝固した領域と溶融部側面から凝固した領域と熱源の走査方向に凝固した領域が溶融層に混在する。いずれの領域も母材の結晶方位と同じ結晶方位を有しているが、凝固の方向が異なる結晶であり、母材の凝固形態と異なるものである。
【0005】
そこで、本発明は、単結晶または一方向凝固材料の母材を溶接した際に、母材の結晶方位と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ一方向に凝固した結晶で形成される領域を広げることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明は、単結晶および一方向凝固材料のいずれかの母材に熱源を走査して溶融層を形成しこの溶融層を凝固させる溶融凝固処理を溶融深さが異なるように複数回施してこの母材を溶接する溶接方法において、前回の溶融凝固処理で形成された第1の溶融層の側部から凝固して前記母材と同じ結晶方位を持つ側部凝固組織および前記熱源の走査方向に凝固して前記母材と同じ結晶方位を持つ走査方向凝固組織が形成されている場合に、この第1の溶融層よりも浅く、かつ、この側部凝固組織およびこの走査方向凝固組織を含む領域を溶融させた第2の溶融層を形成し、この第2の溶融層を凝固させてこの第2の溶融層の底部から凝固して前記母材と同じ結晶方位を持つ底部凝固組織を積層させる溶融凝固処理を施す底部凝固組織積層工程、を有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、単結晶および一方向凝固材料のいずれかの母材に熱源を走査して溶融層を形成しこの溶融層を凝固させる溶融凝固処理を施してこの母材を溶接する溶接方法において、溶化材を供給しながら前記母材に熱源を走査してこの母材の表面との界面での接線とこの母材の表面との間の角度が45度以下となる溶融層を形成し、この溶融層を凝固させる工程、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、単結晶および一方向凝固材料のいずれかの母材に熱源を走査して溶融層を形成しこの溶融層を凝固させる溶融凝固処理を施してこの母材を溶接する溶接方法において、テーパー角度が45度未満のテーパー面を持つ除去部を前記母材の表面から除去する除去工程と、前記除去工程の後に、前記除去部に溶化材を供給しながら前記母材に熱源を走査してこの母材の表面に溶融層を形成し、この溶融層を凝固させる工程、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、単結晶または一方向凝固材料の母材を溶接した際に、母材の結晶方位と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ一方向に凝固した結晶で形成される領域を広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る溶接方法の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
[第1の実施の形態]
図3は、単結晶材の溶融凝固組織の例を示す一部断面斜視図である。
【0012】
単結晶の母材40の表面に、図3に矢印41で示す方向に熱源を走査して溶融層46を形成し、凝固させると、溶融層46に対応する領域には、溶融部底部から母材40の結晶方位と同じ方向に凝固した底部凝固組織42と、溶融部側面から凝固した側部凝固組織43と、熱源の走査方向41に凝固した走査方向凝固組織44が形成される。底部凝固組織42、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44は、いずれも母材40の結晶方位と同じ結晶方位を持つ。しかし、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44は、母材40と凝固の方向が異なり、凝固形態が異なる結晶である。
【0013】
本実施の形態の溶接方法は、母材と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ方向に凝固した結晶で形成される補修溶接層の領域を広げる方法である。また、最終的には、補修溶接層の全ての領域を、母材と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ方向に凝固した結晶とする。
【0014】
図2は、本発明に係る溶接方法の第1の実施の形態におけるフローチャートである。
【0015】
本実施の形態の溶接方法は、単結晶および一方向凝固材料のいずれかの母材40に熱源を走査して、溶融層46を形成し、この溶融層46を凝固させる溶融凝固処理を溶融深さが異なるように複数回施して、母材40を溶接する方法である。まず、1回目の溶融凝固処理として、母材40に熱源を走査して、母材40の表面に溶融層46を形成し、この溶融層46を凝固させる(工程S1)。
【0016】
次に、2回目の溶融凝固処理として、母材40に熱源を走査して、母材40の表面に再び溶融層46を形成し、この溶融層46を凝固させる(工程S2)。工程S2で形成する溶融層46は、前回の溶融工程で形成された溶融層46よりも浅く、かつ、前回の溶融工程で形成された側部凝固組織43および走査方向凝固組織44を含む領域を溶融させたものとする。さらに、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が残存しているか否かを判定し(工程S3)、残存している場合には、再び2回目の溶融凝固処理と同様の処理を施してもよい。母材40の溶融に用いる熱源としては、レーザやプラズマ、アークなどを用いることができる。
【0017】
図1は、本実施の形態における凝固組織の変化を示す母材の断面図であって、(a)は1回目の溶融凝固処理後、(b)は2回目の溶融凝固処理後、(c)は3回目の溶融凝固処理後の状態を示すものである。
【0018】
1回目の溶融凝固処理では、母材40の表面に第1の溶融層47を形成し、この第1の溶融層47を凝固させる。第1の溶融層47が形成されていた領域に凝固によって生じる凝固組織は、底部凝固組織42、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44からなる。
【0019】
2回目の溶融凝固処理では、第2の溶融層48を形成する。この第2の溶融層48は、第1の溶融層47よりも浅く、かつ、第1溶融工程で形成された側部凝固組織43および走査方向凝固組織44を含む領域を溶融させたものとする。このような第2の溶融層48は、たとえば熱源の出力を1回目の溶融凝固処理よりも小さくしたり、熱源の走査速度を1回目の溶融凝固処理より速めることにより形成することができる。
【0020】
第2の溶融層48を形成した後に、この第2の溶融層48を凝固させる。これにより、1回目の溶融凝固処理と同様に、第2の溶融層48が形成されていた領域に、底部凝固組織42、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が形成される。このようにして、母材40と同じ結晶方位を持ち、第1の溶融層47の底部から一方向に凝固した結晶が、第1の溶融層47の底部から連続して積層される。つまり、母材40と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ方向に凝固した結晶で形成される補修溶接層の領域を広げることができる。
【0021】
2回目の溶融処理で側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が残存しているか否かを判定し(工程S3)、ここでは図1(b)に示す通り残存しているため、再度2回目の溶融凝固処理と同様の処理を施す(工程S2)。前回の溶融層とは第2の溶融層48のことであるから、第1の溶融層47よりも浅く、かつ、2回目の溶融処理で形成された側部凝固組織43および走査方向凝固組織44を含む領域を溶融させた第3の溶融層49を形成し、この第3の溶融層49を凝固させる。
【0022】
第3の溶融層49が十分に浅い場合には、第3の溶融層49が形成された領域には、底部凝固組織42のみが形成される。このように、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が残存しなくなった場合には、溶接処理を終了する。第3の溶融層49がある程度深く、底部凝固組織42以外の凝固組織も形成された場合には、再度2回目の溶融凝固処理と同様の処理を施す(工程S2)。
【0023】
このようにして、最終的には、母材40の表面まで、母材40と同一の結晶方位を持ち、第1の溶融層47の底部から一方向に凝固した結晶を積層することができる。つまり、補修溶接層の全ての領域を、母材と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ方向に凝固した結晶とすることができる。
【0024】
溶融層47,48,49を形成するために、熱源を母材40の表面方向に間隔を置いて2回以上走査してもよい。この際、前回の熱源の走査によって形成された溶融層47,48,49と重なり合う溶融層47,48,49を形成するような位置に熱源を走査することにより、より広い領域に溶接処理を施すことができる。
【0025】
また、たとえば第1の溶融層47に対して、第2の溶融層48の母材40の表面方向の幅を大きくしておくと、第1の溶融層47が凝固して形成された側部凝固組織43および走査方向凝固組織44の全体が再び溶融される。このため、前回の溶融凝固処理によって形成された側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が残存しないようにできる。
【0026】
[第2の実施の形態]
本発明に係る溶接方法の第2の実施の形態では、溶融凝固処理の際に、溶融部に溶化材を供給しながら熱源を走査し、肉盛溶接を行う。また、最後に表面仕上げ加工を行う。
【0027】
図4は、本実施の形態における凝固組織の変化を示す母材の断面図であって、(a)は1回目の肉盛溶接後、(b)は2回目の肉盛溶接後、(c)は仕上げ加工後の状態を示すものである。図5は、本実施の形態におけるフローチャートである。
【0028】
1回目の肉盛溶接では、溶融部に溶化材を供給しながら母材40に熱源を走査して、この母材40の表面に第1の肉盛溶接層51を形成し、この第1の肉盛溶接層51を凝固させる(工程S11)。第1の肉盛溶接層51が形成された領域には、凝固によって、底部凝固組織42、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が形成される。この肉盛溶接に際しては、底部凝固組織42の厚さH1が肉盛溶接層51の余盛高さH2よりも大きくなるように溶化材の供給量を調節する。
【0029】
次に、2回目の肉盛溶接で、母材40に熱源を走査して第2の肉盛溶接層52を形成する(工程S21)。この第2の肉盛溶接層52は、第1の肉盛溶接層51よりも浅く、かつ、1回目の溶融処理で形成された側部凝固組織43および走査方向凝固組織44を含む領域を溶融させたものとする。1回目の溶接処理は、底部凝固組織42の厚さH1が肉盛溶接層51の余盛高さH2よりも大きくなるものであるから、1回目の溶融凝固処理と同じ条件で肉盛溶接することによって、このような2回目の溶融凝固処理を施すことができる。
【0030】
次に、溶接前の母材40の表面に側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が残存しているか否かを判定する(工程S31)。ここでは、2回の肉盛溶接によって底部凝固組織42が溶接前の母材40の表面まで形成されているため、溶融凝固処理を終了し、表面仕上げ加工(工程S4)を行う。この表面仕上げ加工によって、溶接前の母材40の表面の上に形成された肉盛溶接層51,52の部分を削り取って、母材40の表面を平坦にする。
【0031】
図6は、底部凝固組織の厚さが肉盛溶接層の余盛高さよりも小さい肉盛溶接を2回繰り返した場合の凝固組織の変化の例を示す母材の断面図であって、(a)は1回目の肉盛溶接後、(b)は2回目の肉盛溶接後の状態を示すものである。
【0032】
図6に示すように、底部凝固組織42の厚さが肉盛溶接層53の余盛高さよりも小さい肉盛溶接を2回繰り返した場合には、底部凝固組織42が連続しない2以上の領域に形成され、底部凝固組織42を連続して積層していくことができない。一方、図4に示すように、底部凝固組織42の厚さが肉盛溶接層51,52の余盛高さよりも小さい肉盛溶接を繰り返すことによって、底部凝固組織42を連続して積層していくことができる。
【0033】
また、単結晶材に溶化材を加えながらレーザ溶接を行うと、溶接割れが発生することがある。
【0034】
図7は、溶接割れがある場合とない場合のレーザ出力と溶接速度の関係を示すグラフである。
【0035】
レーザ出力をP(kW)、溶接速度、すなわち、熱源の走査速度をV(mm/s)とすると、図7より、V<11.25−12.5×Pの条件を満たすときに溶接割れが生じないことがわかる。そこで、この条件を満たすようにレーザ出力と溶接速度を制御することにより、単結晶材および一方向凝固材料の溶接を行う際に溶接割れの発生を抑制することができる。たとえば、レーザ出力を300〜600W、レーザビームの直径をφ1.5〜3.0mmとし、溶接部の参加を防止するためにArガスを溶接部に吹き付けながら溶接すればよい。
【0036】
このようにして、肉盛溶接を用いても、補修溶接層の全ての領域を、母材と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ方向に凝固した結晶とすることができる。また、レーザ出力と溶接速度を適切に制御することにより、溶接割れの発生を抑制することができる。
【0037】
[第3の実施の形態]
図8は、本発明に係る溶接方法の第3の実施の形態における凝固組織の変化を示す母材の断面図であって、(a)は2回目の肉盛溶接後、(b)は3回目の溶融凝固処理後、(c)は4回目の溶融凝固処理後、(d)は5回目の溶融行幸処理後の状態を示す。
【0038】
本実施の形態では、まず、第2の実施の形態と同様に、母材40に熱源を走査して、この母材40の表面に第1の肉盛溶接層51を形成し、この第1の肉盛溶接層51を凝固させる(工程S11)。次に、2回目の肉盛溶接で、母材40に熱源を走査して第2の肉盛溶接層52を形成する(工程S21)。この第2の肉盛溶接層52は、第1の肉盛溶接層51よりも浅く、かつ、1回目の溶融凝固処理で形成された側部凝固組織43および走査方向凝固組織44を含む領域を溶融させたものとする。ここでは、2回の肉盛溶接によって底部凝固組織42が溶接前の母材40の表面まで形成されていて、母材40の断面は、図8(a)に示す状態となっている。
【0039】
その後、本実施の形態では、第2の実施の形態と異なり、母材40の表面仕上げ処理を行わずに、溶接前の母材40の表面の上に形成された肉盛溶接層51,52の部分に対して、第1の実施の形態と同様の処理を施す。つまり、3回目の溶融凝固処理として、母材40に熱源を走査して、肉盛溶接後の母材40の表面に第1の溶融層47を形成し、この第1の溶融層47を凝固させる。この際、第1の溶融層47は、前回の溶融凝固処理である2回目の肉盛溶接の際に生じた第2の肉盛溶接層52よりも浅く、かつ、2回目の肉盛溶接で形成された側部凝固組織43および走査方向凝固組織44を含む領域を溶融させたものとする。
【0040】
次に、肉盛溶接後の母材40の表面に側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が残存しているか否かを判定する(工程S31)。ここでは、母材40の断面は、図8(b)に示す状態となっているため、さらに3回目の溶融凝固処理と同様の処理を複数回施し(工程S2)、図8(c)、図8(d)に示す状態にする。図8(d)に示す状態となったところで、肉盛溶接後の母材40の表面に側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が残存しなくなっているため、そこで溶融凝固処理を終了する。
【0041】
このようにして、肉盛った溶接金属の全体を、母材と同じ結晶方位を持ち、かつ、溶融底部から一方向に凝固した結晶、すなわち、底部凝固組織42とすることができる。
【0042】
[第4の実施の形態]
本発明に係る溶接方法の第4の実施の形態は、第3の実施の形態の溶接方法を施した後に、さらに肉盛溶接を施す方法である。
【0043】
図9は、本実施の形態における3回目の肉盛溶接後の状態を示す母材の断面図である。
【0044】
本実施の形態では、第3の実施の形態の溶接方法を施した後に、さらに、溶融部に溶化材を供給しながら、母材40に熱源を走査して、この母材40の表面に第3の肉盛溶接層53を形成する。この際、この第3の肉盛溶接層53は、第1の溶融層47よりも浅くなるようにする。
【0045】
その後、肉盛溶接層の厚さを必要な厚さになるまで、さらに肉盛溶接を施し、第3の実施形態の溶接方法を施すことにより、必要な厚さまで肉盛った溶接金属の全体を、母材と同じ結晶方位を持ち、かつ、溶融底部から一方向に凝固した結晶、すなわち、底部凝固組織42とすることができる。
【0046】
また、底部凝固組織42が必要な厚さになったところで、残存する側部凝固組織43および走査方向凝固組織44を削り取る表面仕上げ処理を施してもよい。
【0047】
[第5の実施の形態]
図10は、肉盛溶接を行った際の凝固組織の配置の例を示す断面図である。
【0048】
上述の通り、母材40に熱源を走査して、この母材40の表面に溶融層を形成し、その溶融層を凝固させると、底部凝固組織42、側部凝固組織43および走査方向凝固組織44が形成される。
【0049】
図11は、底部凝固組織と側部凝固組織の界面における接線方向の測定結果を示すグラフである。
【0050】
この図は、様々な条件で母材40を溶融させた場合の、底部凝固組織42と側部凝固組織43との界面における接線の母材40の表面との角度θを、入熱量に対する溶接速度の比に対してプロットしたものである。図8より、溶接時の入熱が変化しても、溶融界面の接線角度θは45度以下であることがわかる。
【0051】
図12は、本発明に係る第5の実施の形態における肉盛溶接後の状態を示す母材の断面図である。図13および図14は、レーザの照射形状の例を示す母材の上面図である。
【0052】
本実施の形態では、図12に示すように母材40との界面における接線60の方向と母材との間の角度θが45度未満となるように溶融層45を形成し、この溶融層45を凝固させる。このとき生じる凝固組織は、底部凝固組織42および走査方向凝固組織44であり、側部凝固組織43は形成されない。このように、本実施の形態の溶接方法を用いると、単結晶または一方向凝固材料の母材を溶接した際に、母材の結晶方位と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ一方向に凝固した結晶で形成される領域を広げることができる。
【0053】
溶融部界面の接線角度を小さくし、溶け込みが浅い溶接を行う方法としては、レーザを熱源として用いる場合には、熱源走査速度を速くするか、レーザ出力を小さくすればよい。円形ビームを照射する場合には、ビーム直径を大きくしてもよい。レーザビーム形状を、図13に示すような楕円ビーム21としたり、図14に示す線状ビーム22として、図13および図14に矢印41で示す方向に走査してもよい。また、レーザのエネルギー強度分布をカライドスコープなどによって均一化したビームを用いることも効果的である。
【0054】
図15は、本実施の形態における溶融層を重ねて形成する場合の母材の断面図である。図16は、溶融層を重ねて形成した場合の母材の断面図の例である。
【0055】
溶融層45を重ねて形成する場合であっても、溶融界面の接線角度θが45度未満の場合には、図15に示すように、溶融層45を凝固させて生じる凝固組織は、底部凝固組織42および走査方向凝固組織44であり、側部凝固組織43は形成されない。一方、溶融界面の接線角度θ1が45度以上の場合には、図16に示すように、溶融層50を凝固させて生じる凝固組織には、側部凝固組織43が形成される。
【0056】
したがって、溶融層を重ねて形成する場合であっても、単結晶または一方向凝固材料の母材を溶接した際に、母材の結晶方位と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ一方向に凝固した結晶で形成される領域を広げることができる。
【0057】
[第6の実施の形態]
図17は、本発明に係る溶接方法の第6の実施の形態における母材の断面図である。図18は、欠陥部分を除去した母材に肉盛溶接を施した場合の例を示す断面図である。
【0058】
翼などの被溶接体にき裂などの欠陥が発生した際に、欠陥部分を除去して、その除去部に肉盛溶接を施して補修する場合がある。本実施の形態は、このような場合に対応したもので、溶接処理の前に、まず母材40の欠陥部などを除去し、この欠陥除去部23に肉盛溶接層54を形成し、凝固させる。
【0059】
上述の通り、溶融界面の接線角度θが45度未満の場合には、溶融層を凝固させて生じる凝固組織は、底部凝固組織42および走査方向凝固組織44であり、側部凝固組織43は形成されない。そこで、本実施の形態では、欠陥除去部23に、テーパー角度θ2が45度未満となるようなテーパー面24を設けている。このようなテーパー面24を設けることにより、欠陥除去部23の端部では、溶融部界面の接線角度を45度未満に制御することが可能となり、底部凝固組織42を積層することができる。
【0060】
一方、テーパー角度θ3が45度以上となるようなテーパー面24を設けた除去部23に肉盛溶接層54を形成した場合には、溶融部界面の接線角度を45度未満に制御することができず、肉盛溶接層54の側部に側部凝固組織43が形成される。
【0061】
このように、単結晶または一方向凝固材料の母材から、テーパー角度が45度未満のテーパー面を持つように欠陥などを除去すると、その除去部を溶接した際に、母材の結晶方位と同じ結晶方位を持ち、かつ、母材と同じ一方向に凝固した結晶で形成される領域を広げることができる。
【0062】
[他の実施の形態]
上述の各実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれらに限定されない。たとえば上述の各実施の形態は、単結晶の母材の溶接について説明したが、一方向凝固材料でも同様である。また、各実施の形態の特徴を組み合わせて実施することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る溶接方法の第1の実施の形態における凝固組織の変化を示す母材の断面図であって、(a)は1回目の溶融凝固処理後、(b)は2回目の溶融凝固処理後、(c)は3回目の溶融凝固処理後の状態を示すものである。
【図2】本発明に係る溶接方法の第1の実施の形態におけるフローチャートである。
【図3】単結晶材の溶融凝固組織の例を示す一部断面斜視図である。
【図4】本発明に係る溶接方法の第2の実施の形態における凝固組織の変化を示す母材の断面図であって、(a)は1回目の肉盛溶接後、(b)は2回目の肉盛溶接後、(c)は仕上げ加工後の状態を示すものである。
【図5】本発明に係る溶接方法の第2の実施の形態におけるフローチャートである。
【図6】底部凝固組織の厚さが肉盛溶接層の余盛高さよりも小さい肉盛溶接を2回繰り返した場合の凝固組織の変化の例を示す母材の断面図であって、(a)は1回目の肉盛溶接後、(b)は2回目の肉盛溶接後の状態を示すものである。
【図7】溶接割れがある場合とない場合のレーザ出力と溶接速度の関係を示すグラフである。
【図8】本発明に係る溶接方法の第3の実施の形態における凝固組織の変化を示す母材の断面図であって、(a)は2回目の肉盛溶接後、(b)は3回目の溶融凝固処理後、(c)は4回目の溶融凝固処理後、(d)は3回目の溶融行幸処理後の状態を示す。
【図9】本発明に係る溶接方法の第4の実施の形態における3回目の肉盛溶接後の状態を示す母材の断面図である。
【図10】肉盛溶接を行った際の凝固組織の配置の例を示す断面図である。
【図11】底部凝固組織と側部凝固組織の界面における接線方向の測定結果を示すグラフである。
【図12】本発明に係る第5の実施の形態における肉盛溶接後の状態を示す母材の断面図である。
【図13】レーザの照射形状の例を示す母材の上面図である。
【図14】レーザの照射形状の例を示す母材の上面図である。
【図15】本発明に係る第5の実施の形態における溶融層を重ねて形成する場合の母材の断面図である。
【図16】溶融層を重ねて形成した場合の母材の断面図の例である。
【図17】本発明に係る溶接方法の第6の実施の形態における母材の断面図である。
【図18】欠陥部分を除去した母材に肉盛溶接を施した場合の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0064】
21…楕円ビーム、22…線状ビーム、23…欠陥除去部、24…テーパー面、40…母材、41…熱源の走査方向、42…底部凝固組織、43…側部凝固組織、44…走査方向凝固組織、45,46,47,48,49,50…溶融層、51,52,53,54…肉盛溶接層、60…接線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶および一方向凝固材料のいずれかの母材に熱源を走査して溶融層を形成しこの溶融層を凝固させる溶融凝固処理を溶融深さが異なるように複数回施してこの母材を溶接する溶接方法において、
前回の溶融凝固処理で形成された第1の溶融層の側部から凝固して前記母材と同じ結晶方位を持つ側部凝固組織および前記熱源の走査方向に凝固して前記母材と同じ結晶方位を持つ走査方向凝固組織が形成されている場合に、この第1の溶融層よりも浅く、かつ、この側部凝固組織およびこの走査方向凝固組織を含む領域を溶融させた第2の溶融層を形成し、この第2の溶融層を凝固させてこの第2の溶融層の底部から凝固して前記母材と同じ結晶方位を持つ底部凝固組織を積層させる溶融凝固処理を施す底部凝固組織積層工程、
を有することを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
前記底部凝固組織積層工程は、前記熱源を前記母材の表面方向に間隔を置いて2回以上走査して前記母材の表面方向に重なり合う前記第2の溶融層を形成することを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記第2の溶融層の前記母材の表面方向の幅は、前記第1の溶融処理の溶融層に比べて大きいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記溶融凝固処理の少なくとも1回は、前記溶融層に溶化材を供給して肉盛溶接層を形成するものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記底部凝固組織が溶接前の前記母材の表面の位置に形成されるまで前記底部凝固組織積層工程を繰り返し、前記肉盛溶接層のうち溶接前の前記母材の表面から突出した部分を削り取る工程を有することを特徴とする請求項4に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記底部凝固組織が前記母材の表面の位置に形成されるまで前記底部凝固組織積層工程を繰り返すことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項7】
前記母材の表面に前記底部凝固組織が形成された後、さらに、前記溶融層に溶化材を供給して肉盛溶接層を形成する前記溶融凝固処理を施す肉盛溶接工程と、この肉盛溶接工程の後に前記底部凝固組織積層工程と、を行うことを特徴とする請求項6に記載の溶接方法。
【請求項8】
単結晶および一方向凝固材料のいずれかの母材に熱源を走査して溶融層を形成しこの溶融層を凝固させる溶融凝固処理を施してこの母材を溶接する溶接方法において、
溶化材を供給しながら前記母材に熱源を走査してこの母材の表面との界面での接線とこの母材の表面との間の角度が45度以下となる溶融層を形成し、この溶融層を凝固させる工程、
を有することを特徴とする溶接方法。
【請求項9】
単結晶および一方向凝固材料のいずれかの母材に熱源を走査して溶融層を形成しこの溶融層を凝固させる溶融凝固処理を施してこの母材を溶接する溶接方法において、
テーパー角度が45度未満のテーパー面を持つ除去部を前記母材の表面から除去する除去工程と、
前記除去工程の後に、前記除去部に溶化材を供給しながら前記母材に熱源を走査してこの母材の表面に溶融層を形成し、この溶融層を凝固させる工程、
を有することを特徴とする溶接方法。
【請求項10】
前記熱源はレーザであって、前記レーザの出力をP(kW)とすると、前記熱源の走査速度V(mm/s)は、V<11.25−12.5×Pを満たすことを特徴とする請求項1ないし請求項9に記載の溶接方法。
【請求項1】
単結晶および一方向凝固材料のいずれかの母材に熱源を走査して溶融層を形成しこの溶融層を凝固させる溶融凝固処理を溶融深さが異なるように複数回施してこの母材を溶接する溶接方法において、
前回の溶融凝固処理で形成された第1の溶融層の側部から凝固して前記母材と同じ結晶方位を持つ側部凝固組織および前記熱源の走査方向に凝固して前記母材と同じ結晶方位を持つ走査方向凝固組織が形成されている場合に、この第1の溶融層よりも浅く、かつ、この側部凝固組織およびこの走査方向凝固組織を含む領域を溶融させた第2の溶融層を形成し、この第2の溶融層を凝固させてこの第2の溶融層の底部から凝固して前記母材と同じ結晶方位を持つ底部凝固組織を積層させる溶融凝固処理を施す底部凝固組織積層工程、
を有することを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
前記底部凝固組織積層工程は、前記熱源を前記母材の表面方向に間隔を置いて2回以上走査して前記母材の表面方向に重なり合う前記第2の溶融層を形成することを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記第2の溶融層の前記母材の表面方向の幅は、前記第1の溶融処理の溶融層に比べて大きいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記溶融凝固処理の少なくとも1回は、前記溶融層に溶化材を供給して肉盛溶接層を形成するものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記底部凝固組織が溶接前の前記母材の表面の位置に形成されるまで前記底部凝固組織積層工程を繰り返し、前記肉盛溶接層のうち溶接前の前記母材の表面から突出した部分を削り取る工程を有することを特徴とする請求項4に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記底部凝固組織が前記母材の表面の位置に形成されるまで前記底部凝固組織積層工程を繰り返すことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項7】
前記母材の表面に前記底部凝固組織が形成された後、さらに、前記溶融層に溶化材を供給して肉盛溶接層を形成する前記溶融凝固処理を施す肉盛溶接工程と、この肉盛溶接工程の後に前記底部凝固組織積層工程と、を行うことを特徴とする請求項6に記載の溶接方法。
【請求項8】
単結晶および一方向凝固材料のいずれかの母材に熱源を走査して溶融層を形成しこの溶融層を凝固させる溶融凝固処理を施してこの母材を溶接する溶接方法において、
溶化材を供給しながら前記母材に熱源を走査してこの母材の表面との界面での接線とこの母材の表面との間の角度が45度以下となる溶融層を形成し、この溶融層を凝固させる工程、
を有することを特徴とする溶接方法。
【請求項9】
単結晶および一方向凝固材料のいずれかの母材に熱源を走査して溶融層を形成しこの溶融層を凝固させる溶融凝固処理を施してこの母材を溶接する溶接方法において、
テーパー角度が45度未満のテーパー面を持つ除去部を前記母材の表面から除去する除去工程と、
前記除去工程の後に、前記除去部に溶化材を供給しながら前記母材に熱源を走査してこの母材の表面に溶融層を形成し、この溶融層を凝固させる工程、
を有することを特徴とする溶接方法。
【請求項10】
前記熱源はレーザであって、前記レーザの出力をP(kW)とすると、前記熱源の走査速度V(mm/s)は、V<11.25−12.5×Pを満たすことを特徴とする請求項1ないし請求項9に記載の溶接方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2008−264841(P2008−264841A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112589(P2007−112589)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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