説明

溶接構造物の製造方法、及び溶接構造物

【課題】応力腐食割れの発生を抑制することができる溶接構造物の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の母材10と第2の母材20のそれぞれの開先面11に、前記開先面に沿って延びる溝部12、22を形成する工程と、前記開先面同士を突き合わせるとともに、前記溝部同士を対向させて前記第1及び第2の母材を配置する工程と、前記開先面のうち前記溝部よりも内側の領域を溶接する第1の溶接工程と、前記開先面のうち前記溝部よりも外側の領域を溶接する第2の溶接工程と、を有することを特徴とする溶接構造物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接構造物の製造方法、及び溶接構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図13は、従来の溶接方法を示す図であり、図14は、溶接される配管の斜視図である。
溶接される2本の配管400、500は、まず、図13(a)及び図14に示すように、接合部となるそれぞれの開先面401、501を開先加工された後、図13(a)に示すように、開先面401、501を突き合わせて配置される。その後、図13(b)に示すように、開先面401、501を側壁とする断面V字状の溝内に、溶接金属600を多層盛りすることで溶接される。なお、溝の断面は、V字状以外にも、U字状、I字状、二段開先などがある。
【0003】
ところで、上記のような配管の溶接部分において、応力腐食割れが生じることが知られている。そこで例えば特許文献1には、応力腐食割れを進展しにくくする溶接方法として、開先加工を施した配管の端面(図13では開先面401、501)に予め肉盛を行い、配管外面から内面に向かって溶接金属のデンドライト組織を成長させる溶接方法が提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−39734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、開先面における溶接金属の結晶組織を制御する技術では、応力腐食割れの進展を抑制することはできるものの、応力腐食割れの発生自体を抑制することはできなかった。
また、配管の補修時期を判断するためには、応力腐食割れの進展状況を、図15に示すような超音波探傷装置等を用いて測定することが必要であった。超音波探傷装置等の亀裂深さ測定精度は必ずしも高くないため、測定誤差を見込んだ保守的な評価に基づいて補修時期を判断せざるを得なかった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、溶接部における応力腐食割れの発生を抑えることができる溶接構造物の製造方法、及び溶接部における応力腐食割れが発生しにくい溶接構造物を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の溶接構造物の製造方法は、上記課題を解決するために、第1の母材と第2の母材のそれぞれの開先面に、前記開先面に沿って延びる溝部を形成する工程と、前記開先面同士を突き合わせるとともに、前記溝部同士を対向させて前記第1及び第2の母材を配置する工程と、前記開先面のうち前記溝部よりも内側の領域を溶接する第1の溶接工程と、前記開先面のうち前記溝部よりも外側の領域を溶接する第2の溶接工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
この溶接構造物の製造方法によれば、第1の母材と第2の母材とを、それらの開先面に形成された溝部を接続するように溶接することができる。これにより、接合部の内部に、第1の母材の溝部と第2の母材の溝部とを接続してなる円筒状の空隙を形成することができる。そして、このような円筒状の空隙を形成することで、接合部を内側管とそれを取り囲む外側管とからなる二重管構造とすることができる。かかる構造では、内側管の肉厚を薄くすることができ、内圧負荷に伴う変形により残留応力を打ち消すような弾性応力が配管内表面に作用するような内側管を構成することができる。よって、この溶接構造物の製造方法によれば、配管内表面に作用する応力の低減により応力腐食割れを発生しにくくした溶接構造物を得ることができる。
【0009】
本発明の溶接構造物の製造方法は、開先面上に前記開先面に沿って延びる溝部が形成された第1の母材及び第2の母材を、前記開先面同士を突き合わせるとともに、前記溝部同士を対向させて配置する工程と、前記開先面のうち前記溝部よりも内側の領域を溶接する第1の溶接工程と、前記開先面のうち前記溝部よりも外側の領域を溶接する第2の溶接工程と、を有することを特徴とする。
このように、第1の母材及び第2の母材に予め溝部が形成されていてもよい。この場合にも上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0010】
前記溝部を形成する工程において、前記溝部の形成位置を、前記第1の母材及び前記第2の母材のそれぞれの内面から最大許容亀裂深さの範囲内とすることもできる。
この溶接構造物の製造方法によれば、溶接により得られる溶接構造物において溝部により形成される円筒状の空隙が最大許容亀裂深さの範囲に配置される。そうすると、二重管構造の外側管によって内圧を保持できる構造となるので、内側管に発生したクラックが内側管を貫通したとしても、外側管によって内圧を保持できるため、その後の相当期間にわたって溶接構造物の機能を維持することができる。
【0011】
前記第1の母材又は前記第2の母材の外周面に開口し前記溝部内に通じる貫通孔を形成する工程を有する方法としてもよい。
この製造方法によれば、溶接構造物の接合部内部の円筒状の空隙と外部とを連通させる貫通孔を形成するので、円筒状の空隙への内容物の漏洩を、かかる貫通孔を介して検出することができる。またセンサ等を容易に設置することが可能となる。
【0012】
前記第2の溶接工程において、溶加材を用いた溶接を実施する前に、対向配置された前記開先のルート付近に、前記開先面の最小間隔よりも大きい幅のインサートリングを2分割以上にしたものを配置することもできる。
この製造方法によれば、溝部よりも外側の領域を溶接する際に、インサートリングによって溝部側の隙間を閉塞した状態で溶接するので、溶融させた溶接金属が溝部側へ入り込むのを防止することができる。これにより、第1の母材の溝部と第2の母材の溝部とを接続した円筒状の空隙を容易かつ確実に形成することができる。
【0013】
本発明の溶接構造物の製造方法は、接合部となる部分に薄肉部を有する第1の母材と第2の母材とを、それぞれの前記開先面同士を突き合わせて配置し、前記開先面を溶接することで薄肉接合部を形成する第1の溶接工程と、前記薄肉接合部の外周にスリーブを周回させて配置する工程と、前記スリーブの内周面と前記薄肉接合部の外周面との間に、周方向に延びる円筒状の空隙を保持した状態で、前記スリーブと、前記第1の母材及び前記第2の母材とを溶接する第2の溶接工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
この製造方法によれば、薄肉接合部を内側管とし、スリーブを外側管とする二重管構造を備えた溶接構造物を製造することができる。そして、かかる二重管構造に基づいて、先に記載の構成と同様の作用効果を得ることができる。
【0015】
前記スリーブの内周面又は前記薄肉接合部の外周面に形成された突起部により前記内周面と前記外周面との間隔を保持し、前記空隙を形成する方法としてもよい。
この製造方法によれば、突起部を突き当てるという簡便な操作で所望の厚さの空隙を保持することができ、溶接を容易に実施することができる。また、突起部の高さによって空隙の厚さを容易に調整できる利点も得られる。
【0016】
前記スリーブを配置する工程において、前記スリーブを周方向に複数個に分割してなるスリーブ分割体を組み合わせて配置し、前記第2の溶接工程において、前記スリーブ分割体同士を溶接する方法としてもよい。
この製造方法によれば、薄肉接合部を取り囲むスリーブを容易に形成することができる。
【0017】
前記スリーブが、前記第1の母材及び前記第2の母材の構成材料よりも少なくとも高強度かまたは低熱膨張率の材料で形成されている構成としてもよい。
この製造方法によれば、外側管となるスリーブが高強度になるため、肉厚の薄いスリーブであっても内圧を保持することが可能となる。したがって、母材の肉厚を増やすことなくスリーブと薄肉接合部との間に円筒状の空隙を形成することができる。また、薄肉接合部においても必要な肉厚を確保しやすくなる。
一方、スリーブを低熱膨張率の材料で形成した場合には、温度上昇を伴う使用時に、内側管に対して圧縮応力が作用し、この圧縮応力が溶接部における残留応力を打ち消すように働くため、応力腐食割れがより発生しにくくなる。
【0018】
前記スリーブを貫通して前記空隙に通じる貫通孔を形成する工程を有する方法としてもよい。
この製造方法によれば、溶接構造物の接合部内部の円筒状の空隙と外部とを連通させる貫通孔を形成するので、円筒状の空隙への内容物の漏洩を、かかる貫通孔を介して検出することが可能になる。またセンサ等を容易に設置することが可能となる。
【0019】
前記貫通孔に漏洩センサを接続する工程を有する方法としてもよい。
この製造方法によれば、貫通孔に接続した漏洩センサを用いて、内容物の漏洩を検出可能な溶接構造物を製造することができる。
【0020】
本発明の溶接構造物は、第1の母材と第2の母材とを溶接してなる溶接構造物であって、前記第1の母材と前記第2の母材との接合部の内部に、前記母材同士の溶接部を跨いだ状態で前記溶接部に沿って延びる円筒状の空隙が形成されていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、接合部を内側管とそれを取り囲む外側管とからなる二重管構造とすることができる。かかる構造では、内側管の肉厚を薄くすることができ、内圧負荷に伴う変形により残留応力を打ち消すような弾性応力が配管内表面に作用するような内側管を構成することができる。よって、この溶接構造物によれば、配管内表面に作用する応力の低減により応力腐食割れを発生しにくくすることができる。
【0022】
前記空隙が前記第1の母材の開先面に形成された溝部と、前記第2の母材の開先面に形成された溝部とを接続したものであってもよい。
この構成によれば、第1の母材と第2の母材を加工することで円筒状の空隙を形成できるため、簡便な工程で製造可能な溶接構造物となる。
【0023】
前記溝部の形成位置が、前記第1の母材及び前記第2の母材のそれぞれの内面から最大許容亀裂深さの範囲内にある構成としてもよい。
この構成によれば、円筒状の空隙が最大許容亀裂深さの範囲に配置される。そうすると、二重管構造の外側管によって内圧を保持できる構造となるので、内側管に発生したクラックが内側管を貫通したとしても、外側管によって内圧を保持できるため、その後の相当期間にわたって溶接構造物の機能を維持することができる。
【0024】
前記第1の母材又は前記第2の母材を貫通して前記空隙に通じる貫通孔を有する構成としてもよい。
この構成によれば、円筒状の空隙への内容物の漏洩を、かかる貫通孔を介して検出することができる。またセンサ等を容易に設置することが可能となる。
【0025】
前記第1の母材及び前記第2の母材の接合端となる部分にそれぞれ薄肉部が形成されるとともに、前記薄肉部の先端面同士が溶接され、溶接された前記薄肉部からなる薄肉接合部の外周を取り囲んでスリーブが配置されるとともに、前記スリーブは前記第1の母材及び前記第2の母材に溶接されており、前記スリーブの内周面と前記薄肉接合部の外周面との間に、前記円筒状の空隙が形成されている構成としてもよい。
この構成によれば、薄肉接合部を内側管とし、スリーブを外側管とする二重管構造を備えた溶接構造物を得ることができる。そして、かかる二重管構造に基づいて、先に記載の構成と同様の作用効果を得ることができる。
【0026】
前記スリーブが、前記第1の母材及び前記第2の母材の構成材料よりも少なくとも高強度かまたは低熱膨張率の材料で形成されている構成としてもよい。
この構成によれば、外側管となるスリーブが高強度になるため、肉厚の薄いスリーブであっても内圧を保持することが可能となる。したがって、母材の肉厚を増やすことなくスリーブと薄肉接合部との間に円筒状の空隙を形成することができる。また、薄肉接合部においても必要な肉厚を確保しやすくなる。
一方、スリーブを低熱膨張率の材料で形成した場合には、温度上昇を伴う使用時に、内側管に対して圧縮応力が作用し、この圧縮応力が溶接部における残留応力を打ち消すように働くため、応力腐食割れがより発生しにくくなる。
【0027】
前記スリーブを貫通して前記空隙に通じる貫通孔を有する構成としてもよい。
この構成によれば、円筒状の空隙への内容物の漏洩を、かかる貫通孔を介して検出することができる。またセンサ等を容易に設置することが可能となる。
【0028】
前記貫通孔に漏洩センサが接続されている構成としてもよい。
この構成によれば、貫通孔に接続した漏洩センサを用いて内容物の漏洩を検出可能な溶接構造物とすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、溶接部における応力腐食割れの発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1実施形態に係る溶接構造物の断面構造を示す図。
【図2】配管の端部の構造を示す図。
【図3】第1実施形態に係る溶接構造物の接合部を拡大して示す作用説明図。
【図4】内側管に作用する応力の説明図。
【図5】第1実施形態に係る溶接構造物における漏水検出の説明図。
【図6】第1実施形態に係る溶接構造物における漏水検出の説明図。
【図7】第1実施形態の製造方法に係る溶接工程を示す図。
【図8】変形例に係る溶接構造物を示す図。
【図9】変形例に係る溶接構造物の製造工程を示す図。
【図10】第2実施形態に係る溶接構造物を示す斜視図。
【図11】第2実施形態に係る溶接構造物の分解斜視図。
【図12】第2実施形態の製造方法に係る溶接工程を示す図。
【図13】従来の溶接方法を示す図。
【図14】従来の溶接方法において溶接される配管の斜視図。
【図15】従来の溶接構造物におけるクラック検出の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0032】
(第1の実施形態)
図1は、第1実施形態に係る溶接構造物の溶接部における断面構造を示す図である。図2は、配管の端部の構造を示す図である。
【0033】
図1に示すように、本実施形態の溶接構造物100は、第1の配管10(第1の母材)と、第2の配管20(第2の母材)とを互いの管端を突き合わせて溶接した構造を有する。第1の配管10と第2の配管20の接合部50(継手部)は、第1の配管10の開先面11と第2の配管20の開先面21との間に溶接金属30a、30bを突合せ溶接した構成である。接合部50の内部には、配管10、20の周方向に沿って円筒状空隙32が形成されている。
【0034】
本実施形態において第1の配管10及び第2の配管20、並びに溶接金属30a、30bの構成材料は特に限定されず、溶接構造物100の用途に応じて適宜選択される。溶接構造物100が例えばプラントの高圧水配管や圧力容器である場合には、第1の配管10及び第2の配管20の構成材料としては、SUS316L等の低炭素ステンレス鋼(オーステナイト系ステンレス鋼)や、ニッケル基合金が一般的に用いられ、溶接金属30a、30bとしては第1の配管10及び第2の配管20と同系の材料が用いられる。
【0035】
接合部50の内部に形成された円筒状空隙32は、第1の配管10に形成された溝部12と第2の配管20に形成された溝部22とを接続し、1つの円筒状の空隙とした構成である。したがって、溝部12と溝部22の開口部は、円形の配管10、20の開先面11、21の同軸位置に、ほぼ同一の直径及び幅で形成されている。
【0036】
溝部12は、図2(a)に示すように、第1の配管10の開先面11に沿って円形状に形成されている。溝部12は、図2(b)に示すように、管壁部と同一の管軸Lを中心とする円形状に形成されている。これにより、第1の配管10の管端部が、溝部12によって径方向に分割されている。本実施形態の場合、溝部12よりも内周側に位置する断面円形状の内周壁部13と、溝部12よりも外周側に位置する外周壁部14とに分割されている。
なお、第1の配管10の開先面11と第2の配管20の開先面21は、図2に示すように、ほぼ同一の形状である。すなわち、第2の配管20の管端部は、開先面21に形成された溝部22によって内周壁部23と外周壁部24とに分割されている。
【0037】
接合部50は、円筒状空隙32よりも内周側の部分と外周側の部分が、それぞれ個別に溶接された構造である。
図1に示すように、円筒状空隙32よりも内周側の内周壁部13の先端面と内周壁部23の先端面とが溶接金属30aを突合せ溶接することにより接合されている。これらの内周壁部13、23及び溶接金属30aが、接合部50における内側管33を構成している。
また、円筒状空隙32よりも外周側の外周壁部14の先端面と外周壁部24の先端面とが溶接金属30bを突合せ溶接することにより接合されている。これらの外周壁部14、24及び溶接金属30bが、接合部50における外側管34を構成している。上記の構成により、接合部50は、内側管33の外周側に外側管34が配置された二重管構造を有している。
【0038】
外側管34の厚さは、溶接構造物100内に配置される内容物(冷却水などの媒体や各種ガスなど)の圧力に耐える厚さとされていれば、特に限定されない。
一方、内側管33の厚さは、内容物の圧力によって容易に破損しない程度の厚さであればよく、内容物の圧力によって変形し,内表面に軸方向の圧縮応力が作用するように形成される。
【0039】
以上の構成を備えた本実施形態の溶接構造物100によれば、接合部50(溶接部)における応力腐食割れの発生を低減することができる。以下、本実施形態の溶接構造物100の作用効果について、図3及び図4を参照しつつ詳細に説明する。
図3は、本実施形態の溶接構造物100の接合部50を拡大して示す作用説明図である。図4は、図3の領域Oを拡大して示す図であり、内側管33の曲げ変形により作用する軸方向応力の説明図である。
【0040】
図3に示すように、本実施形態の溶接構造物100の接合部50では、溶接構造物100の内容物による内圧によって内側管33が外側管34側に向かって湾曲し、円筒状空隙32を押し潰すように変形する。このとき、肉厚の薄い内側管33は剛性が低いために変形するが、外側管34は先に記載のように内圧に耐える肉厚であるため、図3に示すように、変形した内側管33が外側管34の内面に当接すると、内側管33はそれ以上変形しなくなる。これにより、溶接構造物100の内圧が保持される。
【0041】
このように、使用時に円筒状空隙32を押し潰すように内側管33が変形すると、図4に示すように、内側管33に曲げモーメントMが作用する。そうすると、図示のように、内側管33の外周側(外側管34側)の面である第1面S1に引張応力が作用し、内周側の面である第2面S2には圧縮応力が作用する。
【0042】
一方、従来の溶接構造物の製造方法では、図13(b)に示すように、第1の配管400と第2の配管500とを溶接した場合に、溶接金属600が凝固する際の収縮力によって接合部700がくびれるように変形し、接合部700に残留応力(溶接残留応力)が発生する。この溶接残留応力は、接合部700の内周面では引張応力となり、外周面では圧縮応力となる。
【0043】
このように、内容物の内圧による内側管33の変形で生じる応力は、配管10,20の溶接によって生じる溶接残留応力を緩和するように作用する。これにより、内容物と接する内側管33の内周面における応力腐食割れの発生感受性を低下させることができる。
なお、図3に示すように、外側管34は内容物の内圧ではほとんど変形しないため、外側管34の溶接残留応力はほとんど変化しない。しかし、外側管34が内容物に直接触れることはほぼないため、外側管34において応力腐食割れが生じる可能性は極めて低い。
【0044】
上記した内側管33の変形による溶接残留応力の緩和作用は、内側管33の弾性変形量(外側管34側への変位量)に応じて大きくなる。したがって、本実施形態の溶接構造物100は、不具合を生じない範囲で内側管33の変形量が大きくなるように構成することが好ましい。
例えば、円筒状空隙32の厚さ(溝部12、22の幅)を大きくすれば、内側管33の変位幅を大きくすることができる。ただし、内側管33及び外側管34の肉厚を変化させることなく円筒状空隙32の厚さを大きくする場合には、配管10、20の肉厚を大きくする必要があり、重量やコストの点で不利である。
また、内側管33の肉厚を薄くすると、内側管33の内周面の変位量が大きくなり、溶接残留応力の緩和作用を大きくすることができる。ただしこの場合には、内側管33に万一亀裂が発生した際に,亀裂が円筒状空隙32に達するまでの期間が短くなるため,検査等を実施することなく当該溶接継手部を運用できる期間が短くなるおそれがある。
【0045】
また、本実施形態の溶接構造物100では、円筒状空隙32の内側と外側を別々に溶接している。これにより、内側管33においては溶着金属量を大幅に低減することができ、開先面11、21近傍の加工硬化を低減することができる。その結果、材料の硬化に起因する応力腐食割れの発生感受性の上昇を抑えることができる。
なお、肉厚の薄い内周壁部13、23を溶接した場合に加工硬化を抑えられる理由は、溶着金属量の減少に伴い、内側管33への溶接入熱が減少し,溶着金属の凝固時に生じるくびれ変形(たが締め変形)が抑制されるためであると予想される。
【0046】
次に、図5及び図6は、溶接構造物100における漏水検出の説明図である。
図5に示すように、本実施形態の溶接構造物100は、接合部50に漏水センサ60を配設して使用することができる。第2の配管20の外周壁部24を厚さ方向に貫通する貫通孔20aが形成されている。貫通孔20a内に漏水センサ60が挿入されている。漏水センサ60の先端60aは溝部22(円筒状空隙32)内に到達しており、円筒状空隙32内の水分を検出可能に構成されている。
【0047】
溶接構造物100は、図5に示すような、クラックCkが短く、円筒状空隙32に到達していない状態では、閉空間である円筒状空隙32内の水分量は変動しないため、漏水センサ60は反応しない。
一方、クラックCkが進展し、図6に示すように、内側管33を貫通して円筒状空隙32に達すると、内容物である水(内部流体)が円筒状空隙32内に進入し、漏水センサ60に水分が検出される。
このように、円筒状空隙32に漏水センサ60を接続して用いることで、クラックCkが内側管33を貫通する長さにまで進展したことを正確に検出することができる。これにより、溶接構造物100の補修時期を正確に把握することができる。
【0048】
ここで、図15は、従来の溶接構造物におけるクラック検出の説明図である。
図15に示すように、図13に示した従来の溶接構造物においてクラックCkを検出するには、接合部700の近傍に超音波探傷装置750等を設置し、超音波の反射により検出する必要があった。また、クラックCkは目視することができないため、最大許容亀裂深さDiを超えるクラックCkの有無を定期的に確認しなければならなかった。
さらに、超音波探傷装置等の亀裂深さ測定精度は必ずしも高くないため、測定誤差を見込んだ保守的な評価とならざるを得ず、補修の間隔が短くなる傾向にあった。
【0049】
これに対して本実施形態の溶接構造物100では、円筒状空隙32内への漏水が検知されない限り、内側管33を貫通する長さのクラックCkは存在しないことが保証されるため、上述した従来の定期検査は不要になる。したがって、使用中の監視が容易であるとともに、超音波探傷法などと比較すると簡易な測定系であり、しかも高信頼性のクラック検出が可能である。
【0050】
なお、円筒状空隙32は、接合部50の内周面から、最大許容亀裂深さDiの範囲内に形成されている。これは、外側管34の肉厚が、内容物の圧力に耐える最小肉厚Doよりも厚く形成されるためである。そうすると、円筒状空隙32と内容物との間に位置する内側管33の肉厚は、最大許容亀裂深さDiよりも小さくなる。したがって、図6に示すようにクラックCkが内側管33を貫通したとしても、その時点では外側管34は損傷していない状態であり、接合部50がすぐに破損してしまうことはない。
【0051】
また、漏水が検出された時点から外側管34に新たなクラックが生じて限界寸法に達するまでにはかなりの時間があるため、漏水が検出されてから接合部50の補修準備を開始したとしても十分に間に合う。したがって、接合部50の補修を計画的に実施することができ、プラント等では停止期間を短くすることができる。
【0052】
外側管34における許容亀裂深さDzは、最大許容亀裂深さDiと外側管34の内周面(円筒状空隙32に面する壁)の深さDcとの差によって規定される。許容亀裂深さDzが小さすぎると漏水を検知してから補修までの期間を短くしなければならない。一方、許容亀裂深さDzを大きくすると内側管33の肉厚を確保しにくくなるため、配管10、20の肉厚を大きくする必要が生じる場合がある。これらを勘案すると、許容亀裂深さDzは、補修実施までの期間を十分に確保できる範囲で薄くすることが好ましい。
【0053】
上記では円筒状空隙32に漏水センサ60を接続した構成について説明したが、円筒状空隙32に接続するセンサは、溶接構造物100の内容物の漏洩を検出できる漏洩センサであれば、水分を検出するセンサに限られない。例えば、ガスセンサや有機物センサであってもよい。
【0054】
漏水センサ60は、その全体を貫通孔20a内に配置する形態であっても、検出部のみを貫通孔20a内に挿入する形態であってもよい。さらには、貫通孔20aに管やチューブ等の管状部材を接続し、かかる管状部材に対して接続されている構成としてもよい。
漏水センサ60としては、漏水センサ60に水分が接触したことを検出できればよいため、電極間抵抗の変化を検出する装置などに限られず、水分との接触により変色するシートなどの簡易的な検出手段であってもよい。
【0055】
漏水センサ60を、第1の配管10の溝部12に連通する位置に設けてもよいのはもちろんである。また場合によっては、第1の配管10と第2の配管20の両方に漏水センサを設けてもよい。さらに、第2の配管20に漏水センサを設置する一方、第1の配管10に他の漏洩センサ(例えばガスセンサ)を設置してもよい。
【0056】
漏洩センサは,超音波や磁気を用いる方法や,円筒状の空隙にあらかじめ充填した物質と内容物との接触による化学反応を検出する方法など,貫通孔を用いない方式とすることもできる。
【0057】
[製造方法]
次に、図7を参照して溶接構造物100の製造方法について説明する。
図7は、実施形態に係る溶接工程を示す図である。
溶接構造物100を製造する際の第1の配管10と第2の配管20との溶接工程は、図7(a)〜(c)に示す溝部形成工程S101と、配管配置工程S102と、第1の溶接工程S103と、第2の溶接工程S104と、を有する。
【0058】
まず、図7(a)に示す溝部形成工程S101では、第1の配管10と第2の配管20のそれぞれの開先面11、21に、これらの開先面11、21に沿って延びる溝部12、22を、円形の配管10、20のほぼ同軸位置に、ほぼ同一の幅で形成する。溝部12、22の形成方法としては、機械加工や放電加工など、公知の加工方法を用いることができる。溝部12、22を形成することで、第1の配管10の接合端に内周壁部13と外周壁部14とが形成され、第2の配管20の接合端に内周壁部23と外周壁部24とが形成される。
【0059】
なお、図7に示す第1の配管10の開先面11及び第2の配管20の開先面21には、それぞれテーパー状の開先加工を施されている。この開先加工を施す工程と上記の溝部形成工程との順序は特に限定されない。
また、第1の配管10と第2の配管20として、予め所定の位置に溝部12、22が形成されたものを用いてもよい。溝部12、22の形成位置は、配管10、20の材質や寸法に基づく設計により所定の位置に設定することができるため、配管10、20の製造時に形成することができる。このように予め溝部12、22が形成された配管10、20を用いる場合には、溝部形成工程S101は省略することができる。
【0060】
開先面11、21に溝部12、22を形成したならば、配管配置工程S102に移行する。
配管配置工程S102では、図7(a)に示すように、第1の配管10と第2の配管20とを、互いの開先面11、21を対向させ、内周壁部13、23の先端面11a、21a同士を突き合わせるようにして配置する。このとき、溝部12、22の開口端同士が管軸L方向で対向するように配置される。その後、第1の溶接工程S103に移行する。
【0061】
図7(b)に示す第1の溶接工程S103では、開先面11のうち溝部12よりも内周側に位置する先端面11aと、開先面21のうち溝部22よりも内周側に位置する先端面21aとを、溶接金属30aを突合せ溶接することで接合する。突合せ溶接は1回のみで完了してもよいし、複数層を重ねる多層突合せ溶接としてもよい。溶接金属30aの上面(外周側の表面)は、できるだけ平坦面となるように形成し、溶接金属30aによって溝部12と溝部22との間が閉塞されてしまわないようにする。
【0062】
次に、図7(c)に示す第2の溶接工程S104では、開先面11のうち溝部12よりも外周側に位置する先端面11bと、開先面21のうち溝部22より外周側に位置する先端面21bとを、溶接金属30bを突合せ溶接することで接合する。外周壁部14、24間の突合せ溶接は、通常は多層突合せ溶接により行われるが、可能であれば1回のみの溶接で完了してもよい。
【0063】
ここで、第2の溶接工程S104では、図7(c)に示すように、溶接金属30bを先端面11b、21bに挟まれた領域(空隙)に選択的に配置し、溶接金属30aから離間されるようにして溶接金属30bを突合せ溶接する。このようにして、溶接金属30a、30b間に隙間を形成し、かかる隙間を介して溝部12と溝部22とを接続する。これにより、接合部50の内部に円筒状空隙32が形成される。
【0064】
以上の工程により、第1の配管10と第2の配管20とが接合部50において溶接された構造を備える本実施形態の溶接構造物100を製造することができる。
【0065】
さらに必要に応じて、図7(c)に示す漏水センサ60(漏洩センサ)を設けてもよい。漏水センサ60を設けるには、まず、第2の配管20を径方向に貫通し、第2の配管20の外周面と溝部22内とを連通させる貫通孔20aを形成する。貫通孔20aは、放電加工や機械加工により形成することができ、例えば溝部形成工程S101において溝部22とともに形成することができる。貫通孔20aは、第2の溶接工程S104の後に形成してもよく、予め貫通孔20aが形成された第2の配管20を図示の溶接工程に供してもよい。
第2の配管20に貫通孔20aが形成されたならば、図7(c)に示すように、漏水センサ60を貫通孔20aに挿入し、必要に応じてシール処理などを行うことで、センサ設置工程が終了する。
【0066】
以上に説明した本実施形態の製造方法によれば、第1の配管10、20の接合部50に、溝部12、22を接続した円筒状空隙32を形成することができ、円筒状空隙32を介して内側管33と外側管34とが重なった二重管構造を形成することができる。よって本実施形態の製造方法によれば、先に記載した応力腐食割れの生じにくい溶接構造物100を容易に製造することができる。
【0067】
[変形例]
図8は、変形例に係る溶接構造物の分解斜視図である。図9は、同溶接構造物の製造工程を示す図である。以下の説明及び参照図面において、第1の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付し、それらの詳細な説明は省略する。
【0068】
先の実施形態では、先端面11bの溝部12側の角部と、先端面21bの溝部22側の角部は、管軸L方向(図示左右方向)において離間して配置されている。この先端面11b、21b間の隙間31は、第1の溶接工程S103において先端面11a、21aを溶接する際のトーチ挿入口として必要であるが、第2の溶接工程S104では、この隙間31から溶接金属30bが溶接金属30a側へ漏れ出てしまわないようにする必要がある。
【0069】
そこで、本変形例の溶接構造物100Aでは、図8に示すように、突き合わされた開先面11、21の間にインサートリング部品130a、130bを配置し、この状態で第2の溶接工程S104を実行する。
【0070】
図9に示すように、本変形例の溶接構造物の製造方法において、工程S101〜S104の基本構成は第1実施形態と同様であるが、第2の溶接工程S104において、図9(c)に示すように、先端面11b、21bの最深部(開先のルート付近)に先端面11b、21b間の最小間隔よりも大きい幅のインサートリング部品130aを配置する。インサートリング部品130a、130bは、円形のインサートリングを分割した部品であり、図8に示すように開先面11、21間に形成された溝状部にそれらを嵌め込むことで、溝状部に沿って一周するインサートリングが形成される。その後、溶加材を用いずに溶接トーチによりインサートリングを部分的に溶融させるなどすることで、図9(c)に示すように、インサートリング(インサートリング部品130a、130b)によって隙間31が閉塞される。
【0071】
その後、図9(d)に示すように、溶加材を溶融させて溶接金属30bを形成することで、先端面11b、21bを溶接することができる。このように本例によれば、インサートリングによって隙間31に溶接金属30bが入り込むのを容易に防止することができ、良好な形状で円筒状空隙32を形成することができる。
【0072】
(第2の実施形態)
図10は、本発明の第2実施形態である溶接構造物200の概略構造を示す斜視図である。図11は、溶接構造物200の分解斜視図である。図12は、溶接構造物200の製造方法における溶接工程を示す図である。
【0073】
本実施形態の溶接構造物200は、図10及び図11に示すように、第1の配管210と、第2の配管220と、第1の配管210及び第2の配管220の接合部を覆うスリーブ250と、を備えている。
第1の配管210と第2の配管220は、それらの接合端となる部分が薄肉加工されている。第1の配管210の端部に薄肉部213が形成され、第2の配管220の端部には薄肉部223が形成されている。そして、薄肉部213、223の先端部分に溶接金属230を突合せ溶接することで、第1の配管210と第2の配管220とが接合されている。
【0074】
スリーブ250は、半円筒型のスリーブ分割体250A、250Bを組み合わせて溶接し、円筒型としたものである。スリーブ250は、第1の配管210の薄肉部213と第2の配管220の薄肉部223とによって形成された段差凹部に係合されている。第1の配管210とスリーブ250とは、薄肉部213基端側の段差面とスリーブ250との間に溶接金属231を突合せ溶接することで接合されている。第2の配管220とスリーブ250とは、薄肉部223基端側の段差面とスリーブ250との間に溶接金属232を突合せ溶接することで接合されている。スリーブ250を構成するスリーブ分割体250A、250Bは、円筒型に組み合わせたときに対向配置される端面に溶接金属233を突合せ溶接することで接合されている。
【0075】
本実施形態の溶接構造物200も、第1実施形態に係る溶接構造物100と同様の二重管構造を有している。本実施形態の場合、図11に示すように、薄肉部213、223と溶接金属230とからなる薄肉接合部235が内側管を形成しており、かかる薄肉接合部235を取り囲むように配置されたスリーブ250が外側管を構成している。図12に示すように、薄肉接合部235とスリーブ250との間には、円筒状空隙236が形成されている。スリーブ250を貫通する貫通孔250eを形成することで、第1実施形態と同様の漏水センサ60などの漏洩センサを円筒状空隙236に接続することができる。
【0076】
第1の配管210及び第2の配管220は、第1実施形態と同様に、例えばSUS316L等のオーステナイト系ステンレス鋼や、ニッケル基合金等、配管内容物により腐食や応力腐食割れ等を生じにくい材料で構成される。スリーブ250は、第1の配管210、第2の配管220の外側に配置され、溶接構造物200の内容物にはほとんど接触しないため、耐食性、耐応力腐食割れ性を考慮することなく、第1の配管210及び第2の配管220とは異なる材料を用いて構成することもできる。例えば、スリーブ250の構成材として高強度の炭素鋼を用いることができる。なお、スリーブ250を第1の配管210、第2の配管220と同等の材質としてもよいのはもちろんである。
【0077】
[製造方法]
ここで、溶接構造物200の製造方法について説明する。
図12は、実施形態に係る溶接工程を示す図であり、図10に示した溶接構造物200の図示上面部分における断面図である。
溶接構造物200を製造する際の第1の配管210と第2の配管220との溶接工程は、図12(a)〜(d)に示す配管配置工程S201と、第1の溶接工程S202と、スリーブ配置工程S203と、第2の溶接工程S204と、を含む。
【0078】
まず、図12(a)に示す配管配置工程S201では、先端部に薄肉部213が形成された第1の配管210と、先端部に薄肉部223が形成された第2の配管220とを、薄肉部213先端の開先面211と、薄肉部223先端の開先面221とを突き合わせるようにして対向配置する。第1の配管210と第2の配管220はほぼ同径で同肉厚の円筒状であり、それらの先端部に形成された薄肉部213と薄肉部223もほぼ同径、同肉厚の円筒状である。したがって、配管210、220を接合位置に配置すると、図12(a)に示すように、薄肉部213の外周面と薄肉部223の外周面は同一の円筒面上に配置される。
【0079】
次に、図12(b)に示す第1の溶接工程S202では、開先面211、221間に溶接金属230を突合せ溶接し、第1の配管210と第2の配管220とを接合する。開先面211、221には、テーパー状の開先加工が施されているため、図12(a)に示すように接合位置に配置すると、開先面211、221により断面視V形の溝が形成される。この溝に溶接金属230を突合せ溶接する。この突合せ溶接により、薄肉部213と溶接金属230と薄肉部223とからなる薄肉接合部235(内側管)が形成される。
【0080】
次に、図12(c)に示すスリーブ配置工程S203では、薄肉部213、223により形成された段差凹部に対して、一対のスリーブ分割体250A、250Bを挟み込むようにして係合させる。スリーブ分割体250A、250Bの内周面の両端には、周方向に沿って延びる凸条250bが形成されている。スリーブ分割体250A、250Bを段差凹部に係合させると、凸条250bが薄肉部213、223の外周面に突き当てられる。これにより、スリーブ分割体250A、250Bの内周面250aと、薄肉接合部235の外周面との間に、これらの周方向に沿って延びる円筒状空隙236が形成される。円筒状空隙236の厚さは凸条250bの高さにより調整することができる。
【0081】
また、スリーブ分割体250A、250Bの軸方向の端面250c、250dには、テーパー状の開先加工が施されている。スリーブ分割体250A、250Bを段差凹部に係合すると、同様に開先加工を施された段差面213a、223aと端面250c、250dとの間に、断面視V形の溝215、225が形成される。
【0082】
次に、図12(d)に示す第2の溶接工程S204では、溝215に溶接金属231を突合せ溶接することで第1の配管210とスリーブ250とが接合され、溝225に溶接金属232を突合せ溶接することで第2の配管220とスリーブ250とが接合される。さらに、図示は省略しているが、スリーブ分割体250Aとスリーブ分割体250Bについても、それらの継ぎ目に溶接金属233(図10参照)を突合せ溶接することで接合される。この工程により、二重管構造の外側管となるスリーブ250が形成される。
【0083】
さらに、薄肉接合部235とスリーブ250との間の円筒状の空隙236に、漏水センサ60などの漏洩センサを接続してもよい。この場合、スリーブ250(スリーブ分割体250A)を貫通して内周面250aに達する貫通孔250eを形成し、かかる貫通孔250eに漏水センサ60を挿入又は接続する。
【0084】
以上に構成及び製造方法を説明した本実施形態の溶接構造物200は、第1の配管210と第2の配管220との接合部(継手部)が、薄肉接合部235(薄肉部213、223、溶接金属230)と、空隙を介して薄肉接合部235を取り囲むスリーブ250とからなる二重管構造とされている。これにより、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0085】
すなわち、上記の二重管構造を備えていることで、溶接構造物200内に高圧流体などの内容物を配置したときに、内容物の圧力により薄肉接合部235が変形し、薄肉接合部235の残留応力が打ち消されるように作用するので、薄肉接合部235における応力腐食割れの発生感受性を低減することができる。
【0086】
また、薄肉接合部235とスリーブ250との間の円筒状空隙236に接続した漏水センサ60により、薄肉接合部235を貫通するクラックの発生を検知することができる。これにより、定期的なクラック検査を行うことなく補修時期を正確に把握することが可能となる。
【0087】
そして、本実施形態の溶接構造物200は、第1の配管210、第2の配管220とは別体のスリーブ250を備えた構成とされ、しかもスリーブ250は炭素鋼などの高強度材料を用いて構成することができる。スリーブ250に高強度材料を用いることで、スリーブ250による内圧保持が容易になり、配管全体の肉厚を増やすことなく円筒状空隙236を形成することが可能となる。
また、スリーブ250の肉厚変更が比較的容易であることから、薄肉接合部235の肉厚や円筒状空隙236の厚さの設計自由度が増し、これらの寸法の最適化がより容易になる。
【0088】
また、スリーブ250の構成材料として炭素鋼を用い、第1の配管210、第2の配管220の構成材料としてステンレス鋼を用いた場合、スリーブ250の方が熱膨張率が小さいため、溶接構造物200の温度が上昇したときに、内側管である薄肉接合部235に圧縮応力が作用し、溶接部における残留応力を打ち消すように働くため、応力腐食割れがより発生しにくくなる。
なお、上記の作用効果を得るには、スリーブ250の熱膨張率が薄肉接合部235の熱膨張率よりも小さければ足り、これらの部材の構成材料は炭素鋼及びステンレス鋼に限定されない。
【0089】
なお、本実施形態では、一対のスリーブ分割体250A、250Bからなるスリーブ250を備えた構成としたが、スリーブ250の分割態様は特に限定されず、3個以上のスリーブ分割体により構成されていてもよい。
また、スリーブ250の内周面側に形成された凸条250bの態様も、スリーブ250の内周面250aと薄肉接合部235との隙間を保持できる態様であれば、特に限定されない。例えば、ドーム状の突起物を複数配列した構成としてもよい。また,このような凸条や突起物はスリーブではなく配管210,220側に存在してもよい。
【符号の説明】
【0090】
100,200 溶接構造物、10,210 第1の配管(第1の母材)、20,220 第2の配管(第2の母材)、30a,30b,230,231,232,233 溶接金属、11,21,211,221 開先面、12,22 溝部、13,23 内周壁部、14,24 外周壁部、20a 貫通孔、32,236 円筒状空隙、33 内側管、34 外側管、50 接合部、60 漏水センサ(漏洩センサ)、130a,130b インサートリング部品、213,223 薄肉部、235 薄肉接合部、250 スリーブ、250A,250B スリーブ分割体、250b 凸条(突起部)、S101 溝部形成工程、S102 配管配置工程、S103 第1の溶接工程、S104 第2の溶接工程、S201 配管配置工程、S202 第1の溶接工程、S203 スリーブ配置工程、S204 第2の溶接工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の母材と第2の母材のそれぞれの開先面に、前記開先面に沿って延びる溝部を形成する工程と、
前記開先面同士を突き合わせるとともに、前記溝部同士を対向させて前記第1及び第2の母材を配置する工程と、
前記開先面のうち前記溝部よりも内側の領域を溶接する第1の溶接工程と、
前記開先面のうち前記溝部よりも外側の領域を溶接する第2の溶接工程と、
を有することを特徴とする溶接構造物の製造方法。
【請求項2】
開先面上に前記開先面に沿って延びる溝部が形成された第1の母材及び第2の母材を、前記開先面同士を突き合わせるとともに、前記溝部同士を対向させて配置する工程と、
前記開先面のうち前記溝部よりも内側の領域を溶接する第1の溶接工程と、
前記開先面のうち前記溝部よりも外側の領域を溶接する第2の溶接工程と、
を有することを特徴とする溶接構造物の製造方法。
【請求項3】
前記溝部を形成する工程において、前記溝部の形成位置を、前記第1の母材及び前記第2の母材のそれぞれの内面から最大許容亀裂深さの範囲内とすることを特徴とする請求項1に記載の溶接構造物の製造方法。
【請求項4】
前記第1の母材又は前記第2の母材の外周面に開口し前記溝部内に通じる貫通孔を形成する工程を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の溶接構造物の製造方法。
【請求項5】
前記第2の溶接工程において、溶加材を用いた溶接を実施する前に、対向配置された前記開先のルート付近に、前記開先面の最小間隔よりも大きい幅のインサートリングを2分割以上にしたものを配置することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の溶接構造物の製造方法。
【請求項6】
接合部となる部分に薄肉部を有する第1の母材と第2の母材とを、それぞれの開先面同士を突き合わせて配置し、前記開先面を溶接することで薄肉接合部を形成する第1の溶接工程と、
前記薄肉接合部の外周にスリーブを周回させて配置する工程と、
前記スリーブの内周面と前記薄肉接合部の外周面との間に、周方向に延びる円筒状の空隙を保持した状態で、前記スリーブと、前記第1の母材及び前記第2の母材とを溶接する第2の溶接工程と、
を有することを特徴とする溶接構造物の製造方法。
【請求項7】
前記スリーブの内周面又は前記薄肉接合部の外周面に形成された突起部により前記内周面と前記外周面との間隔を保持し、前記空隙を形成することを特徴とする請求項6に記載の溶接構造物の製造方法。
【請求項8】
前記スリーブを配置する工程において、前記スリーブを周方向に複数個に分割してなるスリーブ分割体を組み合わせて配置し、
前記第2の溶接工程において、前記スリーブ分割体同士を溶接することを特徴とする請求項6又は7に記載の溶接構造物の製造方法。
【請求項9】
前記スリーブが、前記第1の母材及び前記第2の母材の構成材料よりも少なくとも高強度かまたは低熱膨張率の材料で形成されていることを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の溶接構造物の製造方法。
【請求項10】
前記スリーブを貫通して前記空隙に通じる貫通孔を形成する工程を有することを特徴とする請求項6から9のいずれか1項に記載の溶接構造物の製造方法。
【請求項11】
前記貫通孔に漏洩センサを接続する工程を有することを特徴とする請求項4又は10に記載の溶接構造物の製造方法。
【請求項12】
第1の母材と第2の母材とを溶接してなる溶接構造物であって、
前記第1の母材と前記第2の母材との接合部の内部に、前記母材同士の溶接部を跨いだ状態で前記溶接部に沿って延びる円筒状の空隙が形成されていることを特徴とする溶接構造物。
【請求項13】
前記空隙が前記第1の母材の開先面に形成された溝部と、前記第2の母材の開先面に形成された溝部とを接続したものであることを特徴とする請求項12に記載の溶接構造物。
【請求項14】
前記溝部の形成位置が、前記第1の母材及び前記第2の母材のそれぞれの内面から最大許容亀裂深さの範囲内にあることを特徴とする請求項13に記載の溶接構造物。
【請求項15】
前記第1の母材又は前記第2の母材を貫通して前記空隙に通じる貫通孔を有することを特徴とする請求項13又は14に記載の溶接構造物。
【請求項16】
前記第1の母材及び前記第2の母材の接合端となる部分にそれぞれ薄肉部が形成されるとともに、前記薄肉部の先端面同士が溶接され、
溶接された前記薄肉部からなる薄肉接合部の外周を取り囲んでスリーブが配置されるとともに、前記スリーブは前記第1の母材及び前記第2の母材に溶接されており、
前記スリーブの内周面と前記薄肉接合部の外周面との間に、前記円筒状の空隙が形成されていることを特徴とする請求項12に記載の溶接構造物。
【請求項17】
前記スリーブが、前記第1の母材及び前記第2の母材の構成材料よりも少なくとも高強度かまたは低熱膨張率の材料で形成されていることを特徴とする請求項16に記載の溶接構造物。
【請求項18】
前記スリーブを貫通して前記空隙に通じる貫通孔を有することを特徴とする請求項16又は17に記載の溶接構造物。
【請求項19】
前記貫通孔に漏洩センサが接続されていることを特徴とする請求項15又は18に記載の溶接構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−659(P2012−659A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139525(P2010−139525)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】