説明

溶接用電源装置の保護装置

【課題】冷却装置に異常が生じても、インバータ回路を構成するスイッチング素子の保護をより確実に行うことができる溶接用電源装置の保護装置を提供する。
【解決手段】制御回路は、冷却ファンの回転異常を判定すると、通常用いる第3設定温度cから下げられた第4設定温度dと温度センサの検出温度との比較に基づいてインバータ停止制御を行う。そのため、温度センサの検出温度と乖離するスイッチング素子自体の温度が過度な高温状態となる前に該素子の動作が停止されるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接用電源装置に備えられるインバータ回路のスイッチング素子を過熱破損から保護する保護装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接機等に用いる溶接用電源装置は、商用電源からの交流入力電力を整流した直流電力をインバータ回路にて高周波交流電力に変換し、溶接トランスにて電圧調整された高周波交流電力を整流回路や直流リアクトル等にてアーク溶接に適した直流出力電力に変換している。
【0003】
このような溶接用電源装置には、例えば特許文献1の高周波加熱装置にもあるように、インバータ回路を構成するスイッチング素子が自身のスイッチング動作で発熱するため、該素子を冷却する冷却装置が備えられる。冷却装置は、例えばスイッチング素子が接触配置されるヒートシンクに主に冷却ファンにて生じた冷却風を供給し、そのヒートシンクを通じてスイッチング素子の冷却を行うように構成される。
【0004】
また、冷却ファン自体の故障や異物による回転阻止に起因して回転ロックや異常低速回転等の回転異常が生じた場合には、冷却風不足からスイッチング素子が過熱状態となって該素子の破損、インバータ回路の破損を招くため、装置内に設けた温度センサにて異常温度が検出されると、インバータ回路のスイッチング素子の動作そのものが停止される。つまり、それ以上に過熱状態になることが防止されて、インバータ回路のスイッチング素子が破損から保護されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−110561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、複数のスイッチング素子に対して1個の温度センサを用いる等、該素子に対して離間した位置に温度センサを設置する場合では、温度センサの検出温度とスイッチング素子自体の温度とに乖離が生じる。
【0007】
特に、上記のように冷却ファンに回転異常が生じて冷却風不足になり、温度センサの検出温度が異常温度に到達してインバータ回路を停止させた時には、温度センサの検出温度とスイッチング素子自体の温度との乖離が拡大するため、素子自体は過度な高温になってしまっていることが考えられる。つまり、温度センサによる異常温度の検出に基づいてインバータ回路のスイッチング素子の動作を停止しても、既に過度な高温状態で素子が破損してしまったといった事態に陥ることが懸念される。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、冷却装置に異常が生じても、インバータ回路を構成するスイッチング素子の保護をより確実に行うことができる溶接用電源装置の保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、後段回路にて溶接用の出力電力を生成すべく、入力された直流電力をスイッチング素子の動作にて高周波交流電力に変換するインバータ回路と、前記スイッチング素子を含む冷却対象に対して冷却風を供給し、該素子の動作に基づく発熱の冷却を行う冷却ファンとを備えた溶接用電源装置において、前記冷却対象の温度検出を行う温度センサと、前記温度センサの検出温度に基づいて前記インバータ回路のスイッチング素子の動作を停止させるインバータ停止制御手段とを備えた溶接用電源装置の保護装置であって、前記冷却ファンの回転異常を判定する回転異常判定手段を備え、前記インバータ停止制御手段は、前記回転異常判定手段にて前記冷却ファンが回転異常であると判定されると、前記温度センサによる検出温度との比較判定に用いる設定温度を相対的に下げ、その比較判定に基づいてインバータ停止制御を実施することをその要旨とする。
【0010】
この発明では、回転異常判定手段にて冷却ファンが回転異常であると判定されると、インバータ停止制御手段は、温度センサによる検出温度との比較判定に用いる設定温度を相対的に下げ(設定温度を単に下げ、若しくは検出温度側を上げて設定温度を相対的に下げ)、その比較判定に基づいてインバータ停止制御を実施する。即ち、冷却ファンに回転異常が生じて冷却風不足になると、発熱元であるインバータ回路のスイッチング素子の温度上昇、これに伴って温度センサの検出温度の上昇が生じるが、スイッチング素子と離間位置に温度センサが設置されるものでは特に、温度センサの検出温度とスイッチング素子自体の温度との乖離が拡大する。それを踏まえ本発明では、冷却ファンが回転異常と判定されると、相対的に下げられた設定温度と温度センサの検出温度との比較に基づいてインバータ停止制御が行われるため、温度センサの検出温度と乖離するスイッチング素子自体の温度が過度な高温状態となる前に該素子の動作が停止され、該素子の保護がより確実に行われる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の溶接用電源装置の保護装置において、前記回転異常判定手段は、複数台備えられる前記冷却ファンの個々の回転異常判定が可能に構成されるものであり、前記インバータ停止制御手段は、回転異常と判定された前記冷却ファンに応じて前記設定温度の相対的な下げ幅を可変としたことをその要旨とする。
【0012】
この発明では、回転異常判定手段において複数台備えられる冷却ファンの個々の回転異常が判定され、インバータ停止制御手段は、回転異常と判定された冷却ファンに応じて設定温度の相対的な下げ幅を可変とする。これにより、回転異常と判定された冷却ファンの数や設置位置等、その時々の状況に応じてより好適なインバータ停止制御を行うことができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の溶接用電源装置の保護装置において、前記回転異常判定手段は、前記冷却ファンの回転速度変化の検出に基づいて回転異常判定が可能に構成されるものであり、前記インバータ停止制御手段は、前記冷却ファンの回転速度の低下度合いに応じて前記設定温度の相対的な下げ幅を可変としたことをその要旨とする。
【0014】
この発明では、回転異常判定手段において冷却ファンの回転速度変化の検出に基づいて回転異常が判定され、インバータ停止制御手段は、その冷却ファンの回転速度の低下度合いに応じて設定温度の相対的な下げ幅を可変とする。これにより、冷却ファンの回転速度の低下状況に応じてより好適なインバータ停止制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、冷却装置に異常が生じても、インバータ回路を構成するスイッチング素子の保護をより確実に行うことができる溶接用電源装置の保護装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態における溶接用電源装置の構成図である。
【図2】ヒートシンク上でのインバータ回路(スイッチング素子)及び温度センサの配置図である。
【図3】温度センサでの検出温度に対する冷却ファン及びインバータ回路の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、アーク溶接機10の溶接用電源装置11は、商用電源から供給される三相の交流入力電力をアーク溶接に適した直流出力電力に変換するものである。交流入力電力は、ダイオードブリッジ等で構成される整流回路12にて直流電力に変換され、変換された直流電力はインバータ回路13にて高周波交流電力に変換される。
【0018】
インバータ回路13にて生成された高周波交流電力は、溶接トランス14にて所定電圧値に調整され、電圧調整されたその二次側の高周波交流電力は、ダイオード等を用いて構成される整流回路15にてアーク溶接に適した直流出力電力に変換される。このように生成される出力電力は、電源装置11に接続されたトーチTHに供給され、溶接対象Mのアーク溶接が行われる。
【0019】
前記インバータ回路13は、IGBT等のスイッチング素子TRを4個用いたHブリッジ回路にて構成され、該スイッチング素子TRの制御回路16のPWM制御にてスイッチング動作が行われる。制御回路16は、直流出力電力がその時々で適正値となるようにインバータ回路13の制御を行っている。
【0020】
また、スイッチング素子TRは、PWM制御でのスイッチング動作により発熱するため、その冷却を行う冷却装置17が電源装置11内に備えられている。冷却装置17は、図1及び図2に示すように、スイッチング素子TRが当接状態で取り付けられるヒートシンク18と、該ヒートシンク18を主に冷却風を供給する冷却ファン19と、該ヒートシンク18の所定部位の温度を検出し、スイッチング素子TRの温度を間接的に検出するサーミスタ等の温度センサ20とを備えている。温度センサ20は、ヒートシンク18上に配置された4個のスイッチング素子TRの中央位置に設置され、検出温度を信号として制御回路16に出力する。
【0021】
制御回路16は、温度センサ20からの出力信号に基づいて検出温度を認識している。図3に示すように、検出温度が上昇してファン動作温度に相当する第1設定温度aを上回ると、制御回路16は、冷却ファン19をオンして送風動作を開始する。やがて、冷却ファン19の送風動作に基づいて検出温度が低下しファン停止温度に相当する第2設定温度bを下回ると、制御回路16は、冷却ファン19をオフして送風動作を停止する。因みに、この冷却ファン19の駆動態様は、単純にオン/オフさせる態様や、また検出温度に応じて回転速度制御(送風量制御)を行う態様等であってもよい。
【0022】
また、制御回路16は、冷却ファン19の動作契機となる第1設定温度aよりも高い第3設定温度cと温度センサ20での検出温度との比較も行っており、該検出温度がその第3設定温度cを上回ることで、異常温度となった過熱状態であると判定する。該判定を行うと、制御回路16は、発熱元であるインバータ回路13のスイッチング素子TRの動作そのものを停止してこれ以上の発熱が生じないようにし、該素子TRの保護を行う。つまり、この場合は出力停止となる。
【0023】
ここで、制御回路16は、冷却ファン19の回転異常判定も行っている。因みに、この回転異常判定は、回転速度の指令値とフィードバック値との偏差を検出する態様や、また冷却ファン19の負荷電流を検出する態様等であってもよい。ところで、本実施形態のように、スイッチング素子TRに対して温度センサ20が離間した位置に設置され、スイッチング素子TRの温度検出を直接的に行えない場合では、温度センサ20での検出温度とスイッチング素子TR自体の温度に乖離が生じ得る。ここで、冷却ファン19が正常回転している場合には、検出温度が第3設定温度cに到達しても前記乖離は小さく、制御回路16が温度センサ20での検出温度が第3設定温度cを上回ることでインバータ回路13のスイッチング素子TRの動作を停止する対応としても、スイッチング素子TR自体が過度な温度に到達することはない。
【0024】
一方、冷却ファン19には、それ自体の故障や異物による回転阻止に起因して回転ロックや異常低速回転等の回転異常が生じることがある。特に本実施形態のように、スイッチング素子TRに対して温度センサ20が離間した位置に設置され、スイッチング素子TRの温度検出を直接的に行えない場合では、温度センサ20での検出温度とスイッチング素子TR自体の温度との乖離が拡大する。そのため、仮に制御回路16が温度センサ20での検出温度が先の第3設定温度cを上回ることでインバータ回路13のスイッチング素子TRの動作を停止する対応とすると、スイッチング素子TR自体は既に過度な温度に到達してしまう(図3に破線にて図示)。
【0025】
そこで、本実施形態の制御回路16は、冷却ファン19の回転異常と判定すると、第3設定温度cよりも十分に小さい第4設定温度d(第1設定温度aよりは高い温度)に切り替えて、温度センサ20による検出温度との比較判定を行うようになっている。第4設定温度dは、固定値若しくは任意に変更可能としてもよい。そして、このような比較判定を行うことで、スイッチング素子TR自体が過度な高温状態となる前に制御回路16がインバータ回路13のスイッチング素子TRの動作を停止し、発熱元からこれ以上の発熱が防止される。これにより、インバータ回路13のスイッチング素子TRの保護がより確実に行われるものとなっている。
【0026】
次に、本実施形態の特徴的な作用効果を記載する。
冷却ファン19に回転異常が生じて冷却風不足になると、発熱元であるインバータ回路13のスイッチング素子TRの温度上昇、これに伴って温度センサ20の検出温度の上昇が生じるが、スイッチング素子TRと離間位置に温度センサ20が設置される本実施形態では特に、温度センサ20の検出温度とスイッチング素子TR自体の温度との乖離が拡大する。それを踏まえ本実施形態では、制御回路16は、冷却ファン19の回転異常を判定すると、通常用いる第3設定温度cから下げられた第4設定温度dと温度センサ20の検出温度との比較に基づいてインバータ停止制御を行う。そのため、温度センサ20の検出温度と乖離するスイッチング素子TR自体の温度が過度な高温状態となる前に該素子TRの動作が停止されることとなり、該素子TRの保護をより確実に行うことができる。
【0027】
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記したが、冷却ファン19の駆動態様は、単純にオン/オフさせる態様や、検出温度に応じて回転速度制御(送風量制御)を行う態様等であってもよい。
【0028】
・上記したが、制御回路16での回転異常判定は、回転速度の指令値とフィードバック値との偏差を検出する態様や、冷却ファン19の負荷電流を検出する態様等を用いて行うようにしてもよい。
【0029】
・制御回路16でのインバータ停止制御にかかる比較判定において、冷却ファン19の回転異常時に、温度センサ20の検出温度との比較判定に用いる設定温度を通常用いる第3設定温度cから第4設定温度dに下げたが、第3設定温度cを固定とし検出温度側を上げることで、設定温度を相対的に下げる態様としてもよい。
【0030】
・制御回路16での回転異常判定において、冷却ファン19の回転速度変化の検出に基づいて行うようにした場合、冷却ファン19の回転異常時の設定温度の下げ幅をその冷却ファン19の回転速度の低下度合いに応じて可変としてもよい。このようにすれば、その時々の状況に応じてより好適なインバータ停止制御が可能となる。
【0031】
・溶接用電源装置11の構成は一例であり、構成を適宜変更してもよい。例えば、冷却ファン19を複数台備えるものであってもよい。この場合、制御回路16での回転異常判定を各冷却ファン毎に行うようにしてもよく、また冷却ファン19の回転異常時の設定温度の下げ幅をその回転異常と判定された冷却ファンの数や設置位置等に応じて可変としてもよい。このようにすれば、その時々の状況に応じてより好適なインバータ停止制御が可能となる。
【0032】
・アーク溶接機10の溶接用電源装置11に実施したが、アーク溶接機以外の溶接用電源装置に実施してもよい。
【符号の説明】
【0033】
11 溶接用電源装置
13 インバータ回路
14 溶接トランス(後段回路)
15 整流回路(後段回路)
16 制御回路(回転異常判定手段、インバータ停止制御手段)
19 冷却ファン
20 温度センサ
TR スイッチング素子
c,d 設定温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後段回路にて溶接用の出力電力を生成すべく、入力された直流電力をスイッチング素子の動作にて高周波交流電力に変換するインバータ回路と、前記スイッチング素子を含む冷却対象に対して冷却風を供給し、該素子の動作に基づく発熱の冷却を行う冷却ファンとを備えた溶接用電源装置において、前記冷却対象の温度検出を行う温度センサと、前記温度センサの検出温度に基づいて前記インバータ回路のスイッチング素子の動作を停止させるインバータ停止制御手段とを備えた溶接用電源装置の保護装置であって、
前記冷却ファンの回転異常を判定する回転異常判定手段を備え、
前記インバータ停止制御手段は、前記回転異常判定手段にて前記冷却ファンが回転異常であると判定されると、前記温度センサによる検出温度との比較判定に用いる設定温度を相対的に下げ、その比較判定に基づいてインバータ停止制御を実施することを特徴とする溶接用電源装置の保護装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接用電源装置の保護装置において、
前記回転異常判定手段は、複数台備えられる前記冷却ファンの個々の回転異常判定が可能に構成されるものであり、
前記インバータ停止制御手段は、回転異常と判定された前記冷却ファンに応じて前記設定温度の相対的な下げ幅を可変としたことを特徴とする溶接用電源装置の保護装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶接用電源装置の保護装置において、
前記回転異常判定手段は、前記冷却ファンの回転速度変化の検出に基づいて回転異常判定が可能に構成されるものであり、
前記インバータ停止制御手段は、前記冷却ファンの回転速度の低下度合いに応じて前記設定温度の相対的な下げ幅を可変としたことを特徴とする溶接用電源装置の保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−100440(P2012−100440A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246337(P2010−246337)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】