説明

溶接継手及びその製造方法

【課題】所謂「9%Ni鋼」に溶接施工の高能率化のための大入熱溶接を適用した場合にも破壊安全性の確保ができる溶接継手を提供する。
【解決手段】母材が、C:0.01〜0.2%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ni:6.0〜10.0%及びAl:0.005〜0.1%を含有し、残部はFeと不純物からなる溶接継手であって、オーステナイト系の溶加材を用いてガスメタルアーク溶接又はエレクトロガスアーク溶接によって接合され、溶接金属の組織がオーステナイトで、且つ、HVWMを溶接金属のビッカース硬さ、HVHAZを溶接熱影響部のビッカース硬さとして、「HVWM≦250」及び「0≦HVHAZ−HVWM≦200」を満足する溶接継手。母材はFeの一部に代えて、(1)Cu≦1%、Cr≦1%、Mo≦1%、B≦0.005%、(2)V≦1%、Nb≦1%、Ti≦1%、Zr≦1%、(3)Ca≦0.005%から選択される1種以上の元素を含有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接継手及びその製造方法に関する。詳しくは、−60℃以下の低温環境下で使用することを前提とした溶接継手及びその製造方法に関し、更に詳しくは、液化石油ガス(以下、「LPG」という。)や液化天然ガス(以下、「LNG」という。)など低温の液体を貯蔵するためのタンク、なかでも−165℃という極低温のLNGを貯蔵するLNGタンクの溶接を大入熱化しても十分な安全性を確保することができる溶接継手及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LPGやLNGなどを貯蔵する所謂「低温用タンク」を製造するための母材(素材鋼)には、安全性確保の面から優れた破壊靱性が要求される。
【0003】
例えば、LNGタンクに使用される質量%で9%のNiを含む所謂「9%Ni鋼」においては、LNGの貯蔵温度である−165℃での母材及び溶接継手の脆性破壊伝播停止特性など破壊に対する抵抗性が求められる。このため、母材特性の改善のために、PやSをはじめとする不純物元素の含有量の低減やC含有量の低減など化学組成の改善が実施され、また、焼入れ(Q)−2相域焼入れ(L)−焼戻し(T)の所謂「3段熱処理法」を適用することによって、金属組織を適正化することが行われてきた。
【0004】
また、9%Ni鋼の溶接施工に関しては、一般に、破壊に対する抵抗性の確保、つまり、破壊安全性の面から、オーステナイト系の溶接材料が用いられ、当初は被覆アーク溶接(以下、「SMAW」という。)でのみ実施されていたが、横向き溶接については、サブマージアーク溶接(以下、「SAW」という。)の適用などで高能率化が図られてきた。また、立て向き溶接については、自動TIG溶接の適用が進められたが、TIG溶接は溶着速度が低く、能率の観点から改善が望まれてきた。
【0005】
そのため、特許文献1〜3に、1トーチ2電極化による溶着速度の向上を狙った技術が開示され、また、非特許文献1には、上記の1トーチ2電極化の技術がプレストレストコンクリートLNGタンクに適用された例が記載されている。
【0006】
TIG溶接はビード形状が美麗であり、溶接後の手直しの必要性が低い点で優れている。しかしながら、上記の2電極化を達成した技術によっても多層溶接による能率の低下は避けられない。
【0007】
一方、一般鋼の場合には、近年、溶接施工の際の大入熱化がますます盛んになって、母材や溶接材料の開発とともに大入熱化技術の開発が成熟して、溶接施工の高能率化が実現している。
【0008】
例えば、非特許文献2には、コンテナ船の重要溶接部位である「ハッチコーミング」や「シアストレイキ」などに大入熱のエレクトロガスアーク溶接(以下、「EGW」ともいう。)が適用され、厚肉部材も単層溶接で施工ができるようになったことが記載されている。
【0009】
また、非特許文献3には、建築構造物の溶接、なかでもボックス柱のダイヤフラム部の溶接にエレクトロスラグ溶接が適用された例が記載されている。
【0010】
しかしながら、9%Ni鋼を母材とする極低温タンクの溶接施工には、上記の大入熱溶接技術に比べて能率の低いSMAWやTIG溶接が未だに用いられており、高能率化への要望が大きい。
【0011】
【特許文献1】特開平9−277052号公報
【特許文献2】特開平9−277055号公報
【特許文献3】特開平9−295154号公報
【非特許文献1】小林、結城、牛尾、田中、上野、山下:「2電極高能率TIG溶接法(SEDAR−TIG)の開発と実用化」、溶接構造シンポジウム2002講演論文集、411〜414ページ
【非特許文献2】皆川、石田、船津、今井:「大型コンテナ船用大入熱溶接対応降伏強度390MPa級鋼板」、新日鉄技報 第380号(2004)、6〜8ページ
【非特許文献3】壱岐、大西、大竹、岡口、横山、波多野:「溶接性に優れた建築用高性能HT590鋼板の開発」、住友金属 Vol.50(1998)No.1、43〜47ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、所謂「9%Ni鋼」に溶接施工の高能率化のための大入熱溶接を適用した場合にも破壊安全性の確保ができる溶接継手及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
溶接施工の高能率化は大入熱化によって達成することができる。このため、本発明者らは、9%Ni鋼を溶接した場合に、機械的特性と破壊に対する抵抗性がともに良好である溶接継手が得られる高能率の大入熱溶接方法について種々検討を行った。
【0014】
その結果、大入熱溶接方法のうちでも特に立て向き溶接が可能なガスメタルアーク溶接(以下、「GMAW」という。)及びEGWが9%Ni鋼の溶接の高能率化に適しているとの知見が得られた。
【0015】
そこで次に、9%Ni鋼を母材として種々の条件でGMAW及びEGWを行って溶接施工性の詳細な評価を実施するとともに、溶接継手の機械的特性及び破壊特性を調査した。
【0016】
その結果、母材、溶接条件、或いはそれらの組み合わせについて下記(a)〜(i)の知見を得た。
【0017】
(a)従来9%Ni鋼の溶接には行われていなかったGMAWやEGWの場合にも、特定の化学組成の母材(9%Ni鋼)とオーステナイト系の溶加材を組み合わせ、溶接金属の組織と硬さを適正化することによって、優れた破壊特性を具備させることができる。
【0018】
(b)9%Ni鋼をオーステナイト系の溶加材を用いて適正な条件でGMAWやEGWによって接合した溶接継手の場合、溶接金属の組織はオーステナイトになる。
【0019】
(c)オーステナイト単相の溶接金属の降伏点は溶接熱影響部(以下、「HAZ」ともいう。)のそれに比べて低いため、両者のビッカース硬さの差が極めて大きくなることがある。
【0020】
(d)軟らかいオーステナイトの溶接金属と硬いHAZとが隣接している状況下においては、一般に、所謂「フュージョンライン」であるボンド部に疲労き裂を導入してき裂開口変位(以下、「CTOD」という。)試験を実施しても、降伏が先行する溶接金属部において延性き裂が発生し、これが連結することによって荷重が低下してCTOD試験が終了する。つまり、オーステナイトは極めて脆性破壊しにくい組織であるから、一般に、HAZの耐脆性破壊特性が極端に悪くない限り、CTOD試験は脆性破壊で終了することはない。したがって、脆性破壊で終了させないためには、溶接金属部の硬さがHAZの硬さに比べて低い、つまりアンダーマッチングである必要がある。
【0021】
(e)しかしながら、溶接金属とHAZの硬さの差が大きすぎる場合、つまり溶接熱影響部の硬さが極端に高い場合には、(d)の理由で初期の段階における変形は溶接金属で多く起こるものの、結局小さな変形レベルでHAZから脆性破壊が発生してしまう。
【0022】
(f)CTOD値はマクロな変形レベルから算出される量であるため、基本的には、溶接金属とHAZとの硬さの差が大きいほどCTOD値は小さくなる。このことを数値で標記すれば、以下のような表現が可能である。すなわち、溶接金属のビッカース硬さ(以下、「HVWM」という。)と溶接熱影響部のビッカース硬さ(以下、「HVHAZ」という)との差は溶接継手の破壊特性、特にCTOD特性に大きく影響するため、「HVHAZ−HVWM」の値が大きすぎると溶接熱影響部の脆性破壊が促進されるという意味でCTOD値の低下が著しくなる。
【0023】
(g)次に、溶接金属の延性破壊抵抗の検討を行ったところ、オーステナイト組織の延性破壊特性をコントロールする上で重要な視点が二つあることが判った。先ず一つ目は、溶接金属自身の強度を高くしすぎないことである。高強度はその強化手段が固溶強化であれ、析出強化であれ、著しく延性破壊抵抗を損なう。もう一つの知見として溶接金属中の介在物量の増加もまた延性破壊抵抗を損なうことが判った。つまり、溶接金属中の介在物量を低減すれば、延性破壊抵抗が向上してCTOD特性を高めることができるということである。これは、介在物(酸化物がその代表である)が溶接金属に分散していると、形状により差はあるものの、歪集中が生じて、延性ボイドの発生が助長されるので、酸化物の量が多い場合には小さな変形レベルで歪集中部から発生した延性ボイドが連結して、CTOD値が顕著に低下する。上記の(a)〜(f)において溶接熱影響部の脆性破壊を防止できたとしても、溶接金属の延性破壊抵抗が乏しい状態であれば、構造物の破壊安全性が高いとはいえない。
【0024】
(h)溶接金属中の介在物の量はシールドガスとして使用するガスの種類に大きな影響を受ける。つまり、シールドガス成分に酸素(O2)や二酸化炭素(CO2)が豊富に入っていると高温でのアーク反応を経て、酸素が溶接金属中に溶け、更には、酸化物として晶出或いは析出する。
【0025】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)〜(5)に示す溶接継手及び(6)に示す溶接継手の製造方法にある。
【0026】
(1)母材が、質量%で、C:0.01〜0.2%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ni:6.0〜10.0%及びAl:0.005〜0.1%を含有し、残部はFe及び不純物からなる溶接継手であって、オーステナイト系の溶加材を用いてガスメタルアーク溶接又はエレクトロガスアーク溶接によって接合され、溶接金属の組織がオーステナイトで、且つ、下記(1)式及び(2)式を満足することを特徴とする溶接継手。
HVWM≦250・・・・・(1)、
0≦HVHAZ−HVWM≦200・・・・・(2)。
ここで、HVWMは溶接金属のビッカース硬さ、HVHAZは溶接熱影響部のビッカース硬さを表す。
【0027】
(2)母材が、Feの一部に代えて、Cu:1%以下、Cr:1%以下、Mo:1%以下及びB:0.005%以下のうちから選択される1種以上を含有することを特徴とする上記(1)に記載の溶接継手。
【0028】
(3)母材が、Feの一部に代えて、V:0.1%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下及びZr:0.05%以下のうちから選択される1種以上を含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の溶接継手。
【0029】
(4)母材が、Feの一部に代えて、Ca:0.005%以下を含有することを特徴とする上記(1)から(3)までのいずれかに記載の溶接継手。
【0030】
(5)−60℃以下の低温環境下で使用することを特徴とする上記(1)から(4)までのいずれかに記載の溶接継手。
【0031】
(6)上記(1)から(4)までのいずれかに記載の母材とオーステナイト系の溶加材を用いて、溶接時の入熱量を4.0kJ/mm以上、シールドガス中のCO2及びO2の分率をいずれも20%以下として、ガスメタルアーク溶接又はエレクトロガスアーク溶接を行うことを特徴とする溶接継手の製造方法。
【0032】
以下、上記 (1)〜(5)の溶接継手に係る発明及び(6)の溶接継手の製造方法に係る発明を、それぞれ、「本発明(1)」〜「本発明(6)」という。また、総称して「本発明」ということがある。
【0033】
なお、本発明でいう「ビッカース硬さ」は、溶接金属又は溶接熱影響部において複数の箇所で測定したビッカース硬さの平均値を指す。便宜的には「溶接金属のビッカース硬さ」は、溶接金属部の1/4tライン(但し、「t」は板厚を指す。)で複数回打刻したビッカース硬さから平均値を算出すればよく、「溶接熱影響部のビッカース硬さ」は「ボンド部」〜「ボンド部から母材側に1mm離れた地点」の間の領域を打刻したビッカース硬さから平均値を算出すればよい。
【0034】
また、「溶接金属の組織」とは溶接金属のあらゆる部分の組織を指す。つまり、「溶接金属の組織がオーステナイト」とは溶接金属のどの部分を観察しても、すべてオーステナイトとなっていることを指す。
【発明の効果】
【0035】
本発明の溶接継手は、良好な破壊靱性、特に、良好なCTOD特性を有し脆性破壊に対する大きな抵抗性を確保することができるので、低温の液体を貯蔵するためのタンクの溶接継手、なかでも−165℃という極低温のLNGを貯蔵するLNGタンクの溶接継手として用いることができる。この溶接継手は、所謂「9%Ni鋼」に大入熱溶接を適用する本発明の方法によって比較的容易に得ることが可能で溶接施工の高能率化が実現できるため、産業上極めて有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、化学成分の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
【0037】
(A)溶接継手の母材の化学組成
C:0.01〜0.2%
Cは、強度確保の観点から0.01%以上含有させる必要がある。しかしながら、Cの含有量が多くなると靱性の低下をきたし、特に、0.2%を超えると靱性の低下が著しくなる。したがって、Cの含有量を0.01〜0.2%とした。なお、優れた靱性の確保という点からは、C含有量の上限は0.1%とすることが好ましい。
【0038】
Si:0.01〜1.0%
Siは、脱酸作用を有するほか、強度を向上させる元素であり、0.01%以上の含有量が必要である。しかしながら、その含有量が多すぎると溶接継手靱性などの低下をきたす。特に、Siの含有量が1.0%を超えると、溶接継手の靱性低下が著しくなる。したがって、Siの含有量を0.01〜1.0%とした。なお、良好な溶接継手靱性確保という点からは、Si含有量の上限は0.50%とすることが好ましい。
【0039】
Mn:0.1〜2.0%
Mnは、強度及び靱性を向上させる元素であり、0.1%以上含有させる必要がある。しかしながら、その含有量が多すぎると溶接性の低下をきたし、また、母材及び溶接継手の特性が不均一になる。特に、Mnの含有量が2.0%を超えると、溶接性の低下が顕著になり、また、母材及び溶接継手の特性の不均一化が著しくなる。したがって、Mnの含有量を0.1〜2.0%とした。なお、Mnの含有量の上限は1.0%とすることが好ましい。
【0040】
Ni:6.0〜10.0%
Niは、強度及び靱性を同時に向上させる作用を有し、低温の液体を貯蔵するためのタンク、なかでも−165℃という極低温のLNGを貯蔵するLNGタンクを製造するための母材に欠かせない元素であり、6.0%以上の含有量が必要である。しかしながら、10.0を超えて含有させてもその効果は飽和しコストが嵩むばかりである。したがって、Niの含有量を6.0〜10.0%とした。
【0041】
Al:Al:0.005〜0.1%
Alは、脱酸元素であり、鋼の清浄性を確保するために0.005%以上含有させる必要がある。しかしながら、その含有量が多すぎると、粗大なAl23を生成したり、溶接継手のCTOD特性が低下する。特に、Alの含有量が0.1%を超えると、粗大なAl23の生成が顕著になり、また、溶接継手の靱性低下が著しくなる。したがって、Alの含有量を0.005〜0.1%とした。なお、Alの含有量が低いほど溶接継手の靱性面で有利であるので、溶接継手の靱性をより重視する場合には、Al含有量の上限は0.05%とすることが好ましい。Al含有量の上限を0.05%と低く抑えれば、AlNに起因する連続鋳造時のスラブ表面品質の劣化を防止することもできる。
【0042】
上記の理由から、本発明(1)に係る溶接継手の母材の化学組成を、上述した範囲のCからAlまでの元素を含有し、残部はFe及び不純物からなることと規定した。
【0043】
なお、本発明に係る溶接継手の母材の化学組成は、必要に応じて、Feの一部に代えて、後述する第1群〜第3群に示される元素を任意に含有させたものでもよい。
【0044】
以下、上記第1群〜第3群の任意添加元素に関して説明する。
【0045】
第1群:Cu:1%以下、Cr:1%以下、Mo:1%以下及びB:0.005%以下
Cuは、強度を高める作用を有する。しかしながら、Cuの含有量が1%を超えると、溶接性が損なわれる。したがって、Cuの含有量を1%以下とした。なお、前記したCuの効果を確実に得るためには、その含有量を0.1%以上とすることが好ましい。したがって、より望ましいCuの含有量は0.1〜1%である。
【0046】
Crは、強度を高める作用を有する。しかしながら、Crの含有量が1%を超えると、溶接性が損なわれる。したがって、Crの含有量を1%以下とした。なお、前記したCrの効果を確実に得るためには、その含有量を0.1%以上とすることが好ましい。したがって、より望ましいCrの含有量は0.1〜1%である。
【0047】
Moは、強度を高める作用を有する。しかしながら、Moの含有量が1%を超えると、溶接性が損なわれる。したがって、Moの含有量を1%以下とした。なお、前記したMoの効果を確実に得るためには、その含有量を0.1%以上とすることが好ましい。したがって、より望ましいMoの含有量は0.1〜1%である。
【0048】
Bは、強度を高める作用を有する。すなわち、Bは粒界に偏析して強度改善効果を有する。しかしながら、Bの含有量が0.005%を超えると、靱性が損なわれる。したがって、Bの含有量を0.005%以下とした。なお、前記したBの効果を確実に得るためには、その含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。したがって、より望ましいBの含有量は0.0005〜0.005%である。
【0049】
上記のCu、Cr、Mo及びBのうちのいずれか1種のみ、又は2種以上の複合で含有することができる。
【0050】
第2群:V:0.1%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下及びZr:0.05%以下
Vは、組織を微細化して靱性を高める作用を有し、特に、オンラインでの加速冷却によって母材を製造する際の組織微細化に効果を発揮する。しかしながら、Vの含有量が多すぎると溶接継手の靱性低下をきたし、特に、0.1%を超えると、溶接継手の靱性低下が著しくなる。したがって、Vの含有量を0.1%以下とした。なお、前記したVの効果を確実に得るためには、その含有量を0.005%以上とすることが好ましい。したがって、より望ましいVの含有量は0.005〜0.1%である。
【0051】
Nbは、組織を微細化して靱性を高める作用を有し、特に、オンラインでの加速冷却によって母材を製造する際の組織微細化に効果を発揮する。しかしながら、Nbの含有量が多すぎると溶接継手の靱性低下をきたし、特に、0.1%を超えると、溶接継手の靱性低下が著しくなる。したがって、Nbの含有量を0.1%以下とした。なお、前記したNbの効果を確実に得るためには、その含有量を0.005%以上とすることが好ましい。したがって、より望ましいNbの含有量は0.005〜0.1%である。
【0052】
Tiは、組織を微細化して靱性を高める作用を有し、特に、オンラインでの加速冷却によって母材を製造する際の組織微細化に効果を発揮する。しかしながら、Tiの含有量が多すぎると溶接継手の靱性低下をきたし、特に、0.1%を超えると、溶接継手の靱性低下が著しくなる。したがって、Tiの含有量を0.1%以下とした。なお、前記したTiの効果を確実に得るためには、その含有量を0.005%以上とすることが好ましい。したがって、望ましいTiの含有量は0.005〜0.1%である。
【0053】
Zrは、組織を微細化して靱性を高める作用を有し、特に、オンラインでの加速冷却によって母材を製造する際の組織微細化に効果を発揮する。しかしながら、Zrの含有量が多すぎると溶接継手の靱性低下をきたし、特に、0.05%を超えると、溶接継手の靱性低下が著しくなる。したがって、Zrの含有量を0.05%以下とした。なお、前記したZrの効果を確実に得るためには、その含有量を0.003%以上とすることが好ましい。したがって、より望ましいZrの含有量は0.003〜0.05%である。
【0054】
上記のV、Nb、Ti及びZrのうちのいずれか1種のみ、又は2種以上の複合で含有することができる。
【0055】
第3群:Ca:0.005%以下
Caは、MnSの生成を防止して母材の板厚方向特性を向上させる作用、なかでも母材の板厚方向のシャルピー吸収エネルギー値を増大させる作用を有する。しかしながら、Caの含有量が0.005%を超えると、鋼の清浄性が損なわれる。したがって、Caの含有量を0.005%以下とした。なお、前記したCaの効果を確実に得るためには、その含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。したがって、より望ましいCaの含有量は0.0005〜0.005%である。
【0056】
上記の理由から、本発明(2)に係る溶接継手の母材の化学組成を、本発明(1)における溶接継手の母材のFeの一部に代えて、Cu:1%以下、Cr:1%以下、Mo:1%以下及びB:0.005%以下のうちから選択される1種以上を含有することと規定した。
【0057】
また、本発明(3)に係る溶接継手の母材の化学組成を、本発明(1)又は本発明(2)における溶接継手の母材のFeの一部に代えて、V:0.1%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下及びZr:0.05%以下のうちから選択される1種以上を含有することと規定した。
【0058】
更に、本発明(4)に係る溶接継手の母材の化学組成を、本発明(1)から本発明(3)までのいずれかにおける溶接継手の母材のFeの一部に代えて、Ca:0.005%以下を含有することと規定した。
【0059】
(B)溶接金属
(A)項で述べた化学組成を有する母材(9%Ni鋼)とオーステナイト系の溶加材を組み合わせて、例えば、後述の条件で、GMAWやEGWによって溶接された本発明の溶接継手における溶接金属の組織はオーステナイトになる。溶接金属の延性破壊抵抗を改善するためには、強度を低く抑える必要がある。つまり、良好なCTOD特性を確保するためには、ビッカース硬さを250以下とする必要がある。
【0060】
すなわち、一般に、オ−ステナイト系材料を含めて、材料の強度(硬さ)が上昇すれば伸びが低下する。これは、強度上昇が転位密度の増加など、伸びを減少させるメカニズムに基づくためである。そして、溶接金属のビッカース硬さ、つまり、HVWMが250を超えると、後述する実施例に示すようにCTOD値が大きく低下してしまう。したがって、前記の(1)式、つまり、「HVWM≦250」を満たすことと規定した。
【0061】
なお、既に述べたように、「溶接金属のビッカース硬さ」は、溶接金属部の1/4tラインで複数回打刻して得たビッカース硬さから平均値を算出すればよい。
【0062】
(C)溶接金属のビッカース硬さと溶接熱影響部のビッカース硬さとの差(HVHAZ−HVWM
脆性破壊に対する抵抗性を表す尺度であるCTOD値はマクロな変形レベルから算出される量である。溶接金属が脆性破壊しにくいオーステナイト組織の場合、前述のように、一般には、HAZの耐脆性破壊特性が極端に悪くない限り、CTOD試験は脆性破壊で終了することはない。脆性破壊で終了させないためには、溶接金属部の硬さがHAZの硬さに比べて低いことが必要である。つまり、「HVWM≦HVHAZ」、したがって、前記(2)式のうちの「0≦HVHAZ−HVWM」を満たす必要がある。
【0063】
一方、溶接金属とHAZとのビッカース硬さの差が大きいほどCTOD値は小さくなる。なかでも、「HVHAZ−HVWM」の値は溶接継手の破壊特性、特にCTOD特性に大きく影響する。
【0064】
図1は、0.05%C−0.7%Mn−0.25%Si−9.0%Ni−0.025%Alの化学組成を有する厚さ25mmの9%Ni鋼の母材に開先角度片側5゜、ルートギャップ5mmのV開先加工を施して、オーステナイト系の溶加材としてNi基の合金であるハステロイTGS−709S(登録商標)を用いて下記の条件でEGWし、後述の実施例に示すのと同じ方法でCTOD試験して調査した、限界CTOD値(図1では単に「CTOD値」と表記した。)に及ぼす「HVHAZ−HVWM」の影響を示す図である。
【0065】
・入熱:10.0kJ/mm、
・シールドガス:Heガス単体(100%He)、
・パス数:1。
【0066】
図1に示すように、「HVHAZ−HVWM」の値が200を超えると、CTOD値の低下が著しくなって、完全な不活性ガスをシールドガスとして用いた場合にも、これまでの9%Ni−TIG継手の実績レベルであるCTOD値で0.8mmを確保できない。したがって、CTOD値で0.8mmを確保するためには、前記(2)式のうちの「HVHAZ−HVWM≦200」を満たす必要がある。
【0067】
以上より、前記の(2)式、つまり、「0≦HVHAZ−HVWM≦200」を満たすことと規定した。
【0068】
なお、既に述べたように、「溶接熱影響部のビッカース硬さ」は、「ボンド部」〜「ボンド部から母材側に1mm離れた地点」の間の領域を複数回打刻して得たビッカース硬さから平均値を算出すればよい。
【0069】
(D)使用環境
本発明の溶接継手は、常温で使用できる他、低温においても破壊靭性特性が良好であることから、LPGやLNGなどを貯蔵する低温用タンクを製造するのに用いる溶接継手としても使用することができる。より具体的には、−60℃以下といった低温環境下でも使用することが可能である。
【0070】
したがって、本発明(5)に係る溶接継手を、−60℃以下の低温環境下で使用することと規定した。
【0071】
(E)溶接条件
極低温下で用いられる鋼の溶接法として従来行われていたSAWは多電極化による大入熱溶接が可能であるが、立て向き溶接が可能ではない。したがって、本発明においては、大入熱溶接方法のうちでも立て向き溶接が可能なGMAW又はEGWによって溶接することと規定する。
【0072】
但し、溶接時の入熱量が4.0kJ/mm未満の場合には、本発明が目的とする溶接施工の高能率化を実現することができない。また、溶接の際のシールドガス中のCO2とO2分率のいずれかが20%を超えると、高温でのアーク反応を経て、酸素が溶接金属中に溶け、更には、酸化物として晶出或いは析出し、酸化物の形状により大小の差はあるものの、歪集中が生じて延性ボイドの発生が助長されて、CTOD値が著しく低下して、溶接金属の延性破壊抵抗が著しく損なわれることから、本発明にて破壊安全性確保の基準として採用している限界CTOD(δc)値で0.8mmを確保できない。
【0073】
したがって、本発明(6)においては、溶接時の入熱量を4.0kJ/mm以上とし、また、シールドガス中のCO2及びO2の分率を20%以下とした。
【0074】
なお、溶接時の入熱量の上限は、特に規定しないが、実際的なLNGタンクの板厚を考慮すれば30.0kJ/mmとするのがよい。
【0075】
(A)項で述べた化学組成を有する9%Ni鋼の母材を、オーステナイト系の溶加材を用い、上記の入熱量とシールドガス条件を満たすようにしてGMAW又はEGWによって溶接することによって、すなわち、本発明(6)の方法で溶接することによって、(B)項で述べた溶接金属の規定及び(C)項で述べた「HVHAZ−HVWM」の規定を満たす本発明(1)〜(4)の溶接継手を得ることができる。また、本発明(1)〜(4)の溶接継手は(D)項で述べた使用環境で使用する本発明(5)の溶接継手として用いることができる。
【0076】
なお、オーステナイト系の溶加材としては、例えば、Ni基合金のハステロイ(登録商標)系材料やインコネル(登録商標)系材料を用いることができる。
【0077】
母材である9%Ni鋼の鋼板は、例えば、次のようにして製造すればよい。なお、以下の記述は製造法の単なる例示であり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0078】
〈1〉成分調整を終えた9%Ni鋼の溶鋼を一般的な条件で連続鋳造してスラブとし、厚板工場へ搬送する。
〈2〉厚板工場へ到着したスラブを加熱炉で、例えば、1050℃に再加熱する。
〈3〉加熱炉から抽出したスラブを熱間圧延機でリバース圧延して、所定の板厚に仕上げる。
〈4〉圧延を終えた鋼板を、成品サイズにシャー切断する。
〈5〉切断した鋼板を、例えば、焼入れ(Q)温度を810℃、2相域焼き入れ(L)温度を580℃、焼戻し(T)温度を500℃として、Q−L−Tの所謂「3段熱処理」を行う。あるいは、焼入れ(Q)温度を810℃、焼戻し(T)温度を500℃としたQ−T処理を行う。
【0079】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
【実施例】
【0080】
[実施例1]
表1に示す化学組成及び表2に示す機械的性質を有する板厚25mmの鋼板を用いて、開先角度が片側5°でルートギャップが5mmのV開先加工を施し、GMAW及びEGWによって溶接して溶接継手性能を調査した。
【0081】
表1における鋼1〜17は、化学組成が本発明(1)〜(4)で規定する条件を満たす本発明例の鋼である。一方、鋼X1〜X5は、化学組成が本発明で規定する条件から外れた比較例の鋼である。
【0082】
なお、母材である25mmの鋼板は、表2に示す加熱温度と圧延仕上げ温度でスラブを圧延した後、種々の温度で焼入れ及び焼戻しして引張試験を行い、降伏強度がほぼ590〜630MPaで引張強度がほぼ690〜735MPaであるものを選んだものである。
【0083】
なお、上記の表2には、記載の引張特性が得られた場合の焼入れ温度と焼戻し温度を示した。
【0084】
母材の機械的性質は次のようにして調査した。
【0085】
・引張特性:
板厚1/4の位置から、圧延方向に平行にJIS Z 2201(1998)に規定された4号引張試験片を採取し、室温にて引張試験を実施して、降伏強度(YS)及び引張強度(TS)を求めた。
【0086】
・衝撃特性:
板厚1/4の位置から、圧延方向に平行にJIS Z 2202(1998)に規定された幅10mmのVノッチ試験片を採取し、−196℃でシャルピー衝撃試験を実施して、吸収エネルギー(vE-196)を求めた。
【0087】
・CTOD特性:
BS 7448-part1(1991)に規定された全厚をBとした標準の「B×2B」タイプの曲げ試験片を採取し、−165℃で3点曲げCTOD試験を実施して、限界CTOD値δcとCTOD試験のタイプを調査した。
【0088】
表2におけるCTOD試験のタイプ4は、安定延性き裂が0.2mm以上成長はするが、その後脆性破壊が発生し、脆性破壊発生地点が最高荷重となるものを意味し、タイプ6は、最高荷重に至るまで脆性破壊は発生せず延性的にき裂が進展するものを意味する。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
前記の開先を設けた母材をGMAW及びEGWによって溶接する場合の溶加材には、表3に示す化学組成を有するNi基の合金であるハステロイTGS−709S(登録商標)の直径1.6mmワイヤを用いた。
【0092】
【表3】

【0093】
表4に、各母材に対する溶接方法と入熱量を示す。なお、全ての場合において溶接時に使用するシールドガスにはHeガス単体(100%He)を用いた。
【0094】
このようにして得た各溶接継手について、溶接金属のビッカース硬さ(HVWM)と組織を調査し、更に、溶接熱影響部のビッカース硬さ(HVHAZ)を測定した。
【0095】
ここで、溶接金属のビッカース硬さは、溶接金属部の1/4tラインで0.5mmピッチで試験力9.807Nにて打刻して得たビッカース硬さの3点の平均値をHVWMとした。また、HAZのビッカース硬さは、ボンド部から1mmまでの区間に対する硬さについて、同じく溶接金属部の1/4tラインでボンド部(フュージョンライン直上)、ボンド部から母材側に0.5mm離れた地点及びボンド部から母材側に1.0mm離れた地点にて試験力9.807Nでビッカース硬さを測定し、この3点を平均することで、HVHAZとした。
【0096】
また、次の溶接継手性能も調査した。
【0097】
・全溶接金属の引張特性:
板厚の約1/4の位置から、平行部の直径が6mm、標点距離が25mmで掴み部がM10の平滑丸棒引張試験片を採取し、室温にて引張試験を実施して、0.2%耐力(0.2%PS)及び引張強度(TS)を求めた。
【0098】
・溶接継手の引張特性:
余盛り切削を行った後、JIS Z 3121(1993)に規定された1A号引張試験片を採取し、室温で引張試験を実施して、引張強度(TS)を求めた。
【0099】
・CTOD特性:
ノッチを所謂「フュージョンライン」であるボンド部に導入し、母材と同様に、BS 7448-part1(1991)に規定された全厚をBとした標準の「B×2B」タイプの曲げ試験片を採取し、−165℃で3点曲げCTOD試験を実施して、限界CTOD値δcとCTOD試験のタイプを調査した。なお、良否の判定基準は、これまでのTIG溶接継手のCTOD試験結果などから限界CTOD値で0.8mmとした。
【0100】
表4に、上記の各試験結果を併せて示す。なお、表4におけるCTOD試験のタイプ4は、安定延性き裂が0.2mm以上成長はするが、その後脆性破壊が発生し、脆性破壊発生地点が最高荷重となるものを意味し、タイプ6は、最高荷重に至るまで脆性破壊は発生せず延性的にき裂が進展するものを意味する。
【0101】
【表4】

【0102】
表2から、化学組成が本発明(1)〜(4)で規定する条件を満たす母材は、良好な強度・靱性を有することがわかる。これに対して、化学組成が本発明で規定する条件から外れた母材X1〜X5の靱性は劣っており、なかでも母材X1は、限界CTOD値δcが0.051mmで、脆性破壊に対する抵抗性が小さいので、CTOD試験のタイプは脆性破壊を含むタイプである4であった。
【0103】
また、表4から、本発明(1)〜(4)で規定する条件を満たす試験番号1〜17の溶接継手は、限界CTOD値δcが1mmを超えており、脆性破壊に対する大きな抵抗性を有していることがわかる。これに対して、母材の化学組成が本発明で規定する条件から外れた試験番号18〜22の溶接継手は、HAZ組織自体の脆化により、いずれもCTOD試験のタイプが脆性破壊を含む4となり、限界CTOD値δcも低く、目標の0.8mmに達していない。
【0104】
[実施例2]
前記の表1に示す化学組成及び表2に示す機械的性質を有する板厚25mmの鋼板のうち、鋼1及び鋼3の鋼板を母材として、開先角度が片側5°でルートギャップが5mmのV開先加工を施し、表5に示す化学組成を有する溶加材の直径1.6mmのソリッドワイヤを用いて溶接した。
【0105】
なお、表5に示した符号A〜Cの溶加材は、それぞれ、オーステナイト系のハステロイ(登録商標)、インコネル625(登録商標)及びマルテンサイト系の共金ワイヤである。
【0106】
【表5】

【0107】
溶接条件は表6に示すとおりであり、次のようにして溶接継手性能を調査した。
【0108】
すなわち、各溶接継手について、溶接金属におけるビッカース硬さ(HVWM)と組織を調査し、更に、HAZのビッカース硬さ(HVHAZ)を測定した。なお、ビッカース硬さの測定法は、前記[実施例1]と同様である。
【0109】
また、溶接継手のCTOD特性についても[実施例1]に記載したのと同様の方法で調査した。
【0110】
表6に、上記の各試験結果を併せて示す。
【0111】
【表6】

【0112】
表6から、本発明で規定する条件を満たす試験番号23〜43の溶接継手は、限界CTOD値δcが1mmを超えており、脆性破壊に対する大きな抵抗性を有していることがわかる。
【0113】
これに対して、化学組成が本発明で規定する条件を満たす母材をオーステナイト系の溶加材を用いてガスメタルアーク溶接又はエレクトロガスアーク溶接によって接合した溶接継手であっても、試験番号44〜47の溶接継手のように、HVHAZの規定及び(HVHAZ−HVWM)の規定の両方を満たさない場合には、限界CTOD値δcが低く、目標の0.8mmに達していない。
【0114】
試験番号44の溶接継手は、(HVHAZ−HVWM)の値が200を超えており、限界CTOD値δcが0.241mmと低い。
【0115】
試験番号45の溶接継手は、HVWMの値が250を超えており、限界CTOD値δcが0.065mmと極めて低い。
【0116】
試験番号46の溶接継手は、シールドガス中のCO2分率を20%超としたため、溶接金属中に多くの酸化物が形成され、更に、HVWMの値が250を超えている。このため、限界CTOD値δcは、0.123mmと低い。
【0117】
試験番号47の溶接継手は、シールドガス中のO2分率を20%超としたため、溶接金属中に多くの酸化物が形成されている。このため、限界CTOD値δcは、0.120mmと低い。
【0118】
一方、試験番号48の溶接継手は、マルテンサイト系の符号Cを溶加材に用いたため、溶接により形成された溶接金属の組織が、マルテンサイト組織になってHVWMの値が340と極めて高いので、限界CTOD値δcが0.056mmと極めて低い。
【0119】
したがって、試験番号44〜48の溶接継手を有する構造物は、破壊安全性を担保することができない。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の溶接継手は、良好な破壊靱性、特に、良好なCTOD特性を有し脆性破壊に対する大きな抵抗性を有するので、低温の液体を貯蔵するためのタンクの溶接継手、なかでも−165℃という極低温のLNGを貯蔵するLNGタンクの溶接継手として用いることができる。この溶接継手は、所謂「9%Ni鋼」に大入熱溶接を適用する本発明の方法によって比較的容易に得ることが可能で溶接施工の高能率化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明で規定する化学組成を有する厚さ25mmの9%Ni鋼の母材に開先角度片側5゜、ルートギャップ5mmのV開先加工を施して、オーステナイト系の溶加材としてNi基の合金であるハステロイTGS−709S(登録商標)を用いてEGWした場合の、限界CTOD値(図中においては「CTOD値」と表記した。)に及ぼす溶接熱影響部のビッカース硬さと溶接金属のビッカース硬さとの差(HVHAZ−HVWM)の影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材が、質量%で、C:0.01〜0.2%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ni:6.0〜10.0%及びAl:0.005〜0.1%を含有し、残部はFe及び不純物からなる溶接継手であって、オーステナイト系の溶加材を用いてガスメタルアーク溶接又はエレクトロガスアーク溶接によって接合され、溶接金属の組織がオーステナイトで、且つ、下記(1)式及び(2)式を満足することを特徴とする溶接継手。
HVWM≦250・・・・・(1)
0≦HVHAZ−HVWM≦200・・・・・(2)
ここで、HVWMは溶接金属のビッカース硬さ、HVHAZは溶接熱影響部のビッカース硬さを表す。
【請求項2】
母材が、Feの一部に代えて、Cu:1%以下、Cr:1%以下、Mo:1%以下及びB:0.005%以下のうちから選択される1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の溶接継手。
【請求項3】
母材が、Feの一部に代えて、V:0.1%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下及びZr:0.05%以下のうちから選択される1種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接継手。
【請求項4】
母材が、Feの一部に代えて、Ca:0.005%以下を含有することを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の溶接継手。
【請求項5】
−60℃以下の低温環境下で使用することを特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の溶接継手。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれかに記載の母材とオーステナイト系の溶加材を用いて、溶接時の入熱量を4.0kJ/mm以上、シールドガス中のCO2及びO2の分率をいずれも20%以下として、ガスメタルアーク溶接又はエレクトロガスアーク溶接を行うことを特徴とする溶接継手の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−119811(P2007−119811A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310797(P2005−310797)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】