説明

溶接補強板を用いた高力ボルト継手による鉄骨構造物

【課題】
従来の高力ボルト接合では、鋼材本体の降伏点までは摩擦が一定の割合で確保されているが、鋼材本体の降伏点よりも鋼材本体に働く応力が高くなると鋼材本体の伸びと絞りが起こり、鋼材本体の断面積が減少し、鋼材本体とスプライスプレートとの摩擦力が低減する。建築の耐震鋼材本体に働く応力が降伏点を超えて鋼材本体の変形が進むと応力がボルトと鋼材本体のボルト穴部に掛かりボルト破損又は鋼材本体の破損が起こる。
【解決手段】
本発明は、前記目的を達成するために建築物や橋梁等の摩擦接合高力ボルト継手に、フィラー材を補強材としてスプライスプレートと鋼材本体との間に挿入し、該フィラー材をスプライスプレートから鋼材本体に働く主応力方向にはみ出させてはみ出したフィラー材と本体鋼材を溶接接合させ、鋼材本体のボルト継手部の断面積増加によりボルト継手部で降伏させないようにする方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
鉄骨構造物の接合には、溶接接合によるものとボルト接合によるものがある。本発明は、柱又は梁に取り付ける高力ボルト継手を更に高強度にした鉄骨構造物に関するものである。ボルト継手には、スプライスプレート(添板)と母材とをボルトとナットで締め付けて両部材間の摩擦力を利用するものを通常のボルト継手とし、両部材間の摩擦力を利用するもの高力ボルト継手とする。
【背景技術】
【0002】
高力ボルト継手は、スプライスプレートと母材とを強度の高いボルトとナットで締め付けて両部材間で生ずる摩擦力で継手の強度を確保する。従って、高力ボルト継手は高力ボルトによる摩擦接合継手とも言う。
特開2008−2268に、高力ボルトによる摩擦接合構造及び構造物耐震補強方法がある。本方法は、鋼材の外側に突きだした第1添え板と第2添え板との間にスペーサを配置させて鋼材に穴を開けずに鋼材同士を接合させる方法である。本方法は、溶接による接合が難しいところに適用することを目的としている。
また、特開平7−82800では、摩擦接合高力ボルト継手と溶接継手を併用する施工方法である。本方法では、この方法では、同じ材料部材の中で溶接とボルト接合が併用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−2268
【特許文献2】特開平7−82800
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1に示す従来の高力ボルト接合では、鋼材本体の降伏点までは摩擦が一定の割合で確保されているが、鋼材本体の降伏点よりも鋼材本体に働く応力が高くなると鋼材本体の伸びと絞りが起こり、鋼材本体の断面積が減少し、鋼材本体とスプライスプレートとの摩擦力が低減する。建築の耐震鋼材本体に働く応力が降伏点を超えて鋼材本体の変形が進むと応力がボルトと鋼材本体のボルト穴部に掛かりボルト破損又は鋼材本体の破損が起こる。その場合、鋼材本体の引張強度まで確保できない。建築設計で保有水平耐力設計を実施した場合は、保有耐力(規格引張強度)までボルト継手が確保されない場合はそれだけ耐力を低減させて設計する必要がある。
特開2008−2268では、ボルト穴が本体に開けられていないので、鋼材本体の保有耐力は確保できない。また、特開平7−82800では、鋼材本体の耐力は向上するが、ボルト接合も残っているのでその分耐力の低下が避けられないし、また、建設現場での溶接作業が必要で建設現場での雨・風等天候の影響や現場作業員の採用、現場養生等が必要になってくる。本発明では、係る現場溶接の問題を避けると共に、ボルト継手において保有耐力なでの強度が確保できることを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記目的を達成するために建築物や橋梁等の摩擦接合高力ボルト継手に、接合される鋼材本体の板厚等異なったときに良く用いられるフィラー材をスプライスプレートと鋼材本体との間に挿入し、該フィラー材をスプライスプレートから鋼材本体に働く主応力方向にはみ出させてはみ出したフィラー材と本体鋼材を溶接接合させ、鋼材本体のボルト継手部の断面積増加によりボルト継手部で降伏させないようにする方法を用いる。この
ようにすればフィラー材は予め工場で鋼材本体と溶接接合させて、建設現場で溶接ほど天候に左右されずに摩擦接合高力ボルト継手を作ることができる。
請求項1について説明する。
図2に示すように、
請求項1に係る発明は、鉄骨構造物のボルト継手2に対して、スプライスプレート5と鋼材本体1との間に補強板10を挟み込んで、該スプライスプレート5から鋼材本体1の軸方向12に該補強板10をはみ出させて、該補強板10のはみ出し端部11と鋼材本体1とを溶接接合7させたことを特徴とする鉄骨構造物である。この発明の特徴は、該スプライスプレート5から鋼材本体1の軸方向11に該補強板10をはみ出させることであり、はみ出したところの端部11と鋼材本体1とを突合せ溶接又はすみ肉溶接で溶接接合7させることである。このようにして、ボルト継手部及び鋼材本体の部分まで鋼材本体の板厚を増加させ該補強板10部分で鋼材本体よりも耐力を向上させて荷重が付加されても鋼材本体よりも降伏荷重を増加させ該補強板10部での摩擦力の低下を防ぎ、ボルト穴部の鋼材本体10又はボルト剪断破壊を防止することを目的としている。また、図2に示すように、該スプライスプレート5から鋼材本体1の軸方向12に該補強板10をはみ出させるのは、ボルト継手部2に対して突合せ溶接又はすみ肉溶接の溶接接合7による熱影響及び熱変形を避けるためである。また、補給板10はボルト継手部の鋼材本体の両側に付けることもできるが、通常片方で実施する。
請求項1に係る発明では、特許文献1のように、ボルト穴が本体に開けられていないのではなく、スペーサがスプライスプレート間に挿入されているわけでもない。また、請求項1に係る発明では、特許文献2のように、ボルト継手部と溶接継手部を独立させて併用させているわけでもない。請求項1に係る発明では、特許文献1及び特許文献2と発明の構成が異なる。
請求項2について説明する。
図5に示すように、請求項1に係る発明を柱梁接合部に適用した場合はボルト継手の強度が増加して梁ブラケット13の長さ(スパン)Lを500mm以下に短くすることができ
る。その場合に、請求項2に係る発明は、図6及び図7に示すように、請求項1に係る発明を用いて、建築鉄骨柱梁接合部に対し、柱14から突出したダイアフラム15端部と梁フランジ3の端部とを高力ボルト接合2したことを特徴とする鉄骨建築物である。この場合、突出したダイアフラム17と柱14との間でガセットをすみ肉溶接等で接合させておき、該ガセットと梁1のウエブ4とを補強板を用いた高力ボルト継手で接合させることもできる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の効果については、上記の説明の中でも行っているが、要点を列挙すると次の通りである。
1 小梁の重量低減(10〜20%)が図れる。
【0007】
大梁の左右で小梁が剛接合と見なせるので、従来のピン接合と比較して、大きな強度と剛性がえられて、小梁の重量低減(10〜20%)が図れる。
2 小梁の最大変形量(撓み)が1/5に低減及び最大応力度が2/3に低減する。
【0008】
大梁の左右で小梁が剛接合と見なせるので、従来のピン接合と比較して、小梁の最大変形量(撓み)が1/5に低減及び最大応力度が2/3に低減する。
3 小梁取付けの現場施工が容易になり、製作・建設工数が低減する。
【0009】
従来の小梁剛接合方式では、大梁間で小梁が使われており長さを大梁スパン以上に長くできない。本発明では、小梁は大梁の上に載せる方式なので大梁スパンに限定されることなく長い小梁を用いることができて、従来方式に比較して小梁の接合部の減少と個々の小梁同士の接合も簡単になる。従って、小梁取付けの現場施工が容易になり、工数が低減
する。
4 配管等取付けのスリーブ箇所が半減する。
【0010】
従来方式では大梁と小梁が同一平面状にあるので、配管は梁のウエブを貫通するスリーブを設ける必要がある。本発明では、大梁と小梁は同一平面になくて、段違いに交差しているので配管等は大梁フランジの上をスリーブなしで通過させることができる。
5 大梁に取付けるガセットとボルトが大幅に減少する。
【0011】
従来方式では、大梁にボルト穴付きガセットを取り付けて、小梁とボルト接合している。本発明では、大梁と小梁は同一平面になくて、段違いに交差しているので、小梁取付のガセットとボルトは不要である。
【0012】
6 天井を小梁の高さに合わせれば、同じ階高でも大梁を基準にするよりも天井高さを大きくすることができる。
【0013】
7 短い片持ちの小梁で、横座屈防止の大梁間の小梁を省略し小梁重量を軽減することができる。
【0014】
8 柱本体とボルト継手間の距離(スパン)を小さく取れるので、つまり柱からのブラケットの出っ張りが少ないので、柱部材の工場から建設現場までの運搬が容易となる。
【0015】
9 ダイアフラムを柱から出っ張らすことにより、ブラケット梁が不必要になり、
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】H形鋼の場合の従来の摩擦接合高力ボルト継手の外観図
【図2】H形鋼の場合で、スプライスプレートと梁フランジの間に補強板を挿入した摩擦接合高力ボルト継手の外観図
【図3】梁フランジと補強板の長手方向が梁軸方向11に設置されて互いに完全溶け込み溶接されている正面図
【図4】梁フランジと補強板の長手方向が梁軸方向11に設置されて互いに溶接される状況の正面図。(イ)は、開先角度θが30〜60°の場合の完全溶け込み溶接の例。(ロ)は開先角度θが60〜120°の場合のすみ肉溶の例。
【図5】建築鉄骨柱梁接合部でダイアフラムに梁ブラケット13を取り付けて、その梁ブラケットと注梁1とを請求項1の発明に係る高力ボルト接合した正面図
【図6】建築鉄骨柱梁接合部でダイアフラムを柱から突出させて、その突出ダイアフラム端部と中央梁の両方に補強板を溶接させて請求項1の発明に係る高力ボルト接合した正面図
【図7】建築鉄骨柱梁接合部で厚板のダイアフラムを柱から突出させて、その突出ダイアフラムと補強板溶接された中央梁とを請求項1の発明に係る高力ボルト接合した正面図
【図8】角形鋼管柱及び該柱から突出したダイアフラムの上面図。(イ)はダイアフラムが2方向に突出した場合。(ロ)はダイアフラムが3方向に突出した場合。(ハ)はダイアフラムが4方向に突出した場合。これらのダイアフラム端部と中央梁とボルト継手で接合される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施例1
請求項1に係る発明において、通常用いられる最適な寸法は図2において次の通りである。
完全溶け込み溶接(突合せ溶接)の開先角度範囲はθ=30〜60°(度)
すみ肉溶接の開先角度範囲はθ=60〜120°(度)
補強板のはみ出し部10の長さ=補強板が取り付けられる鋼材母材板厚の1倍〜5倍
鋼材本体と補強板の溶接はシャコ万力等で抑えて実施し、その後スプライスプレートをあてがってボルト接合を行う。シャコ万力の代わりに、鋼材本体と補強板とスプライスプレートを同時にボルトで仮締めして鋼材本体と補強板の溶接を実施して、その後ボルトで本締めしても良い。
実施例2
鋼材本体、スプライスプレート、補強板の全ての部材のボルト摩擦接合される表面はいずれもサンドブラスト処理をするか赤さび状態にする。そして、通常、ボルトは高力ボルトを用いて仮締めを行った後に所定のボルト締めを行い摩擦接合させる。
実施例3
補強ボルト継手が、鋼材本体よりも高い耐力を持つために用いられる鋼材・補強板・スプライスプレートが同様の強度の場合は次の条件を満たす必要がある。
(1)スプライスプレートの全横断面積≧1.3×(鋼材本体の全横断面積)
即ち、鋼材本体が終局耐力に達してもスプライスプレートが降伏しない条件である。
(2)補強板の全横断面積≧0.3×(鋼材本体の横断面積)
即ち、鋼材本体が終局耐力に達しても溶接された補強板はみ出し部(余長部)で降伏しない。これにより、鋼材本体の降伏による降伏変形で補強板はみ出し部の鋼材本体とはみ出し補強板部で降伏せず断面の収縮が抑制されて、鋼材本体と補強板部とスプライスプレートの間の摩擦力が確保される。
実施例4
図7に一例を示すように、左右の鋼材本体(突出ダイアフラム16と中央梁フランジ3)で板厚が異なる場合は、その片方(中央梁フランジ3)だけに該補強板10を挿入して鋼材本体(中央梁フランジ3)と補強板10のはみ出し部11との溶接8を行う。
実施例5に入れる
請求項1に係る発明において、スプライスプレート又は補強板又はその両方を鋼材本体よりも高い強度の材質を用いることを特徴とする鉄骨構造物とする。このようにすれば、降伏強度の比の分だけスプライスプレート又はボルト材料を節約できるし、より効率的なボルト継手を得ることができる。
実施例6
請求項1に係る発明において、スプライスプレート又は補強板又はその両方を本体鋼板よりも幅広にして板厚を増やす効果を上げること。
実施例7
溶接継手開先と溶接のど厚の例を入れる
図3は、請求項1に係る発明で梁フランジと補強板の長手方向が梁軸方向11に設置されて互いに完全溶け込み溶接されている正面図である。
図4は、梁フランジ3と補強板10の長手方向が梁軸方向11に設置されて互いに溶接される状況の正面図である。(イ)は、開先角度θが30〜60°の場合の完全溶け込み溶接の例。(ロ)は開先角度θが60〜120°の場合のすみ肉溶の例。なお、補強板10の板厚が必要とされる板厚以上の場合は、図4(イ)又は(ロ)ののど厚は必要とする板厚に必要な分だけでも良い。
実施例8
請求項1に係る発明を柱梁接合部に適用した場合は、図5に示す梁ブラケット13の長さ(スパン)Lを500mm以下に短くすることができる。これは、請求項1に係る発明で
は、建築の保有水平耐力による耐震設計時に、ボルト継手が母材と同等以上であるために、ボルト継手が柱近傍の高いモーメントによる高い応力に対しても耐えることができるため柱フランジの母材よりも先に塑性ヒンジとなることがないである。従来では、ボルト継手は建築の保有水平耐力による耐震設計時に、ボルト継手が母材と以下であるために梁ブラケットの長さ即ちスパンLを大きくして梁の応力度の小さいところまで移動せざるを得ない。この場合、余りスパンLを長くすると製作工場から建設現場までの運送が困難にな
るという問題がある。従って、このスパンLは小さい方が望ましく、請求項1に係る発明により柱梁接合部等部材の輸送上の効率が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明において、補強板を梁又は鋼材本体に溶接接合させることにより、高力ボルト接合部の降伏変形を防止してボルト継手の強度を梁又は鋼材本体より高めて接合効率を上げるのに、薄い補強板を梁又は鋼材本体に溶接接合させるだけで可能になるので、製作が容易であり、且つ、本体梁又は鋼材本体のサイズダウンによりコスト低減が図れる。これらの理由で、産業上の利用可能性が高く且つ実現性が高い。
【符号の説明】
【0019】
1 梁又は鋼材本体
2 ボルト継手
3 フランジ
4 ウエブ
5 スプライスプレート
6 高力ボルト
7 溶接接合(すみ肉溶接又は突合せ溶接)
8 突合せ溶接(完全溶け込み溶接)
9 すみ肉溶接
10 補強板又はフィラー
11 補強板又はフィラーのスプライスプレートからのはみ出し部
12 梁軸方向又は主応力方向
13 梁ブラケット
14 柱
15 ダイアフラム
16 柱から突出したダイアフラム
17 柱と突出ダイアフラムで囲まれたところに取り付けられたガセット又はウエブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨構造物のボルト継手に対して、スプライスプレートと鋼材本体との間に補強板を取り付けて、該スプライスプレートから鋼材本体の軸方向に該補強板をはみ出させて、該補強板のはみ出し端部と鋼材本体とを溶接接合させたことを特徴とする鉄骨構造物
【請求項2】
請求項1に係る発明を用いて、建築鉄骨柱梁接合部に対し、柱から突出したダイアフラム端部と梁端部とを高力ボルト接合したことを特徴とする鉄骨建築物

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−57450(P2012−57450A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204884(P2010−204884)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(503318518)株式会社アークリエイト (16)
【Fターム(参考)】