説明

溶液中の異物検査方法

【課題】溶液中に含まれている気泡と異物を迅速かつ精度良く判別することができる、溶液中の異物検査方法を提供する。
【解決手段】撮像手段により溶液中の異物を撮像して溶液中の異物を検出する異物検出方法であって、(a)前記撮像手段により得られた画像に対して、予め設けられた第1の閾値と比較し明部データと暗部データを抽出する第1の演算手段と、(b)前記第1の演算手段により抽出された暗部データの凸包図形を生成し、抽出する第2の演算手段と、(c)前記第1の演算手段により抽出された暗部データの面積と、前記第2の演算手段により抽出された暗部データの凸包図形の面積の比を演算し、予め設けられた第2の閾値と比較して、気泡と異物を判別する第3の演算手段を有する溶液中の異物検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物が含まれる溶液に対して使用することができる溶液中の異物検査方法に関し、特に、気泡と異物を迅速かつ精度良く判別することができる溶液中の異物検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、炭素繊維前駆体繊維用のポリアクリロニトリル系ポリマーの重合溶液においては、ポリマー溶液の製造後に外部から混入される異物や、熱履歴変動による溶液の一部が硬質化したゲルなどを後工程へ流出させてしまうと、品位低下などの要因となりうる。そのため、ポリマー溶液中に混入している異物の大きさ、数を正確に検出し、品位を判断することは重要である。
【0003】
また、溶液中には外部から空気が入り込むことにより気泡が発生することがしばしばあるが、気泡は後工程へ流出することなく消滅することから、後工程での品位低下に影響がなく、製造プロセス上、問題視されていない。したがって、検出する必要のない気泡と異物を判別することも重要である。
【0004】
従来、投光手段によりポリマー溶液を送液する配管に光を照射し、受光手段により配管を透過した光を受光することにより、ポリマー溶液中の異物を検出する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、異物と気泡を判別する機能を備えていないために、検出する必要のない気泡を異物と誤検出してしまう場合がある。
【0005】
また、撮像手段により得られた画像データを演算することにより、異物と気泡を判別する方法が提案されている(特許文献2,3参照)。しかしながら、溶液中に発生する気泡はさまざまな形状があることと、溶液内を撮像手段により撮像する方向が一意となることが多いため、気泡を撮像した画像は、中央部が空洞となった画像以外にさまざまな形状になりうる。その際に、特許文献2,3に記載の方法では、依然として気泡を異物と誤検出してしまう場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−31181号公報
【特許文献2】特開2004−354100号公報
【特許文献3】特開2006−10612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来の技術の欠点を改良し、異物が含まれる溶液に対して使用することができる溶液中の異物検査方法に関し、特に、異物と気泡を迅速かつ精度良く判別することができる溶液中の異物検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は次の方法を採用する。すなわち、撮像手段により溶液中の異物を撮像して溶液中の異物を検出する異物検出方法であって、
(a)前記撮像手段により得られた画像に対して、予め設けられた第1の閾値と比較し明部データと暗部データを抽出する第1の演算手段と、
(b)前記第1の演算手段により抽出された暗部データの凸包図形を生成し、抽出する第2の演算手段と、
(c)前記第1の演算手段により抽出された暗部データの面積と、前記第2の演算手段により抽出された暗部データの凸包図形の面積の比を演算し、予め設けられた第2の閾値と比較して、気泡と異物を判別する第3の演算手段
を有する溶液中の異物検査方法である。
【0009】
本発明の溶液中の異物検査方法において、第1の演算手段により抽出された暗部データの面積と輪郭長の比を演算し、予め設けられた第3の閾値と比較して、気泡と異物を判別する第4の演算手段を含むことが好ましい。
【0010】
また、本発明の溶液中の異物検査方法は、検出の対象として用いられる溶液が、炭素繊維前駆体繊維用のポリアクリロニトリル系ポリマーの重合に用いられる重合溶液であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、異物が含まれる溶液において、溶液中に発生した気泡と異物を精度良く判別することができ、溶液の品質管理の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の溶液中の異物検査方法の実施に用いられる異物検出装置の構成斜視図である。
【図2】本発明の検出対象となる異物、気泡の画像である。なお、(a)がゲル、(b)が繊維状の異物、(c)〜(e)が気泡である。
【図3】本発明の溶液中の異物検査方法の実施に用いられるデータ処理手段の概略図である。
【図4】本発明の第2の演算手段により生成される凸包図形の概念図である。なお、(a)が元図形、(b)が凸包図形である。
【図5】本発明の第2の演算手段により生成される凸包図形の具体例である。なお、(a)が元図形、(b)が凸包図形である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明における溶液中の異物検出方法に好適に用いられる装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。図1は本発明の異物検出方法に好適に用いられる異物検出装置を示す。異物検出装置は、溶液を送液する透明配管21に対して光を照射する照明手段22と、照明手段によって照明された溶液を撮像する撮像手段23と、撮像手段により得られた画像を処理して異物を検出するデータ処理手段24から構成される。
【0014】
本発明の効果をより顕著にするために好ましく設けられる照明手段としては、溶液を送液する透明配管に対して、均一に照明できるものが好ましい。具体的には、高周波点灯式の蛍光灯、メタルハライドランプ、ハロゲンランプ、LEDなどが挙げられる。
【0015】
本発明における撮像手段としては、溶液中の異物を撮像できるものであれば特に制約はないが、前記照明手段により照射された光を撮像素子(画素)により受光し、画像としてデジタル出力し記録できるものが好ましい。具体的には、デジタルカメラ、小型CCDカメラ、デジタルビデオカメラなどが挙げられる。
【0016】
また、検出対象となる異物やゲルと気泡を撮像手段にて撮像した画像を図2に示す。ここで、(a)はゲル、(b)は繊維状の異物、(c)〜(e)は気泡である。このように、異物やゲルと気泡はその発生条件によって、丸形や繊維状などさまざまな形状をしていることがわかる。
【0017】
本発明におけるデータ処理手段は、図3に示すように、第1の演算手段31、第2の演算手段32、第3の演算手段33から構成される。
【0018】
第1の演算手段とは、撮像手段により得られた画像に対して、予め設けられた第1の閾値と比較し明部データと暗部データを抽出する演算手段である。
【0019】
第2の演算手段とは、第1の演算手段により抽出された暗部データの凸包図形を生成し、抽出する演算手段である。
【0020】
第3の演算手段とは、第1の演算手段により抽出された暗部データの面積と、第2の演算手段により抽出された暗部データの凸包図形の面積の比を演算し、予め設けられた第2の閾値と比較して、気泡と異物を判別する演算手段である。
【0021】
ここで、データ処理手段における各演算手段について詳しく説明する。
【0022】
まず、第1の演算手段では、撮像手段により得られた画像に対して、予め設けられた第1の閾値と比較し明部データと暗部データを抽出する。ここでいう撮像手段により得られた画像には、検出対象となる異物以外のもの(例えば、撮像領域の背景)が含まれている可能性があるため、この画像中から検出対象となる異物のみを抽出する処理を実施する。このような抽出処理には、一般的に2値化があり、予め設定した明るさ(閾値)よりも画像中の画素が明るければ明部データ、暗ければ暗部データとして抽出する。本発明である溶液中の異物検出方法では、照明手段から照射された光を透過光として撮像することで、異物を背景よりも暗く撮像することができるため、2値化処理を適用することができる。このような処理を画像中の全画素で実施することで、背景を明部データとして、異物や気泡を暗部データとして抽出する。
【0023】
また、画像にノイズ(例えば、ゴマ塩ノイズと呼ばれるゴマを散らしたような転々としたノイズなど)が含まれる場合には、2値化処理を実施する前に、平均化フィルタ、ガウスフィルタやメディアンフィルタなどのフィルタ処理を実施して、異物をより暗部データとして抽出しやすいように、ノイズを低減することが好ましい。
【0024】
第2の演算手段では、第1の演算手段により抽出された暗部データに対して、凸包図形を生成して、生成された凸包図形を抽出する。ここでいう凸包図形とは、各頂点の内角が鋭角、鈍角、直角のいずれかのみからなる多角形、あるいは、変曲点を持たない曲線で囲まれる図形のことである。例えば、暗部データが図4(a)に示すような形状である場合、第1の頂点41の内角のみ鋭角、鈍角、直角のいずれでもない。そこで、図4(a)の第2の頂点42と第3の頂点43を結ぶことにより、図4(b)に示すように、各頂点の内角が鋭角、鈍角、直角のいずれかのみからなる多角形、つまり凸包図形を得ることができる。具体的に、第1の演算手段により抽出された暗部データが図5(a)に示すようなへこみがある形状の場合、この暗部データの凸包図形はへこみが埋められて、図5(b)に示すような形状となる。このようにして、第1の演算手段により抽出された暗部データの凸包図形を生成し、抽出する。
【0025】
第3の演算手段では、第1の演算手段により抽出された暗部データの面積と、第2の演算手段により抽出された暗部データの凸包図形の面積の比を演算し、予め設けられた第2の閾値と比較して、気泡と異物を判別する。ここで面積とは、第1の演算手段により抽出された暗部データおよび第2の演算手段により抽出された暗部データの凸包図形を構成する画素数のことをいう。したがって、面積はこの暗部データを構成する画素数を数えることによって得られる。
【0026】
また、第1の演算手段により抽出された暗部データの面積と、第2の演算手段により抽出された暗部データの凸包図形の面積の比は、凸面度といい、次式(1)で計算することができる。
T=Fo/Fc (1)
ここで、T:凸面度、Fo:暗部データの面積、Fc:凸包図形の面積である。
【0027】
凸面度Tは、暗部データがへこみや穴が全くない単純な形状(例えば、長方形や円など)であれば1となり、暗部データがへこみや穴がある複雑な形状であれば1未満となり、凸な形態から離れれば離れるほど、凸面度Tは小さくなる。
【0028】
したがって、抽出された暗部データの形状によって凸面度Tが異なるため、予め閾値を設け、例えば、この閾値よりも暗部データの凸面度Tが大きければ異物、小さければ気泡というように、暗部データが異物なのか気泡なのかを判別することができる。
【0029】
また、前記第1の演算手段、第2の演算手段、第3の演算手段を実施した後に、次に示す第4の演算手段を実施してもよい。
【0030】
第4の演算手段とは、前記第1の演算手段により抽出された暗部データの面積と輪郭長の比を演算し、予め設けられた第3の閾値と比較して、気泡と異物を判別する演算手段である。
【0031】
ここで、第4の演算手段について詳しく説明する。
【0032】
第4の演算手段では、第1の演算手段により抽出された暗部データの面積と輪郭長の比を演算し、予め設けられた第3の閾値と比較して、気泡と異物を判別する。ここで輪郭長とは、第1の演算手段により抽出された暗部データを構成する画素のうち周囲の明部データを構成する画素と隣接した画素を抽出した部分(輪郭部)の長さのことをいう。例えば、抽出した暗部データから輪郭部を構成する画素を抽出する方法として、輪郭追跡がある。抽出対象の1画素に対して隣接する周囲8近傍の画素を調べ、暗部の画素が見つかればその画素に移動する。そして、移動先の1画素に対して隣接する周囲8近傍の画素を調べ、暗部の画素が見つかればその画素に移動するという手順を繰り返すことにより、輪郭部を抽出することができる。したがって、抽出された画素数を数えることにより、輪郭長を得ることができる。
【0033】
また、第1の演算手段により抽出された暗部データの面積と輪郭長の比は、円形度といい、次式(2)で計算することができる。
C=L/(4・Fo・π) (2)
ここで、C:円形度、L:輪郭長、Fo:暗部データの面積、π:円周率である。
【0034】
円形度Cは、暗部データが円形であれば1となり、暗部データが円形でなければ(例えば、正方形、長方形、多角形など)1より大きくなり、円形から離れれば離れるほど、円形度Cは大きくなる。
【0035】
したがって、抽出された暗部データの形状によって円形度Cが異なるため、予め閾値を設けることにより、例えば、この閾値よりも暗部データの円形度Cが大きければ異物、小さければ気泡というように、暗部データが異物なのか気泡なのかを判別することができる。
【0036】
この第4の演算手段を前述の第1の演算手段、第2の演算手段、第3の演算手段の後に実施することにより、異物と気泡をさらにより精度良く細かく判別することが可能となる。
【0037】
本発明の溶液中の異物検査方法において、検出の対象として用いられる溶液に特に制約はないが、ポリマー重合溶液に内在するゲルや異物と気泡を判別するという点でポリマー重合溶液であることは好ましく、炭素繊維前駆体繊維用のポリアクリロニトリル系ポリマーの重合に用いられる重合溶液であることが、前記溶液に内在するゲルや異物と気泡を判別してゲルや異物の発生状況を把握し前記溶液の品質を管理するという点で特に好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例について説明する。この実施例において用いた溶液中の異物検出装置の構成を以下に示す。
【0039】
照明手段:メタルハライドランプ(面光源型ライトガイド)
撮像手段:エリアカメラ(200万画素、キーエンス社製、CV−200C)。
【0040】
上記の構成により、溶液中の異物や気泡を撮像した画像が図2である。この図2に示した異物や気泡の画像に対して、本発明の演算手段を実施し、気泡と異物を判別する実験をデータ処理手段として画像処理ライブラリソフトHALCON(Ver.8.0、MVTec社製)を用いて行った。
【0041】
なお、図2は撮像手段により異物を撮像した画像に対して、第1の演算手段を実施し、異物や気泡を暗部データとして抽出した後の画像である。
【0042】
まず、図2(a)〜(e)に対して、第2の演算手段を実施し、暗部データの凸包図形を生成して抽出する。その後、第3の演算手段を実施し、図2(a)〜(e)の凸面度Tを演算した結果を表1に示す。
【0043】
ここで、(a)はゲル、(b)は繊維状の異物、(c)〜(e)は気泡である。
【0044】
したがって、凸面度Tの閾値を0.75(凸面度Tが0.75よりも大きければ異物、小さければ気泡)とすることにより、第1の演算手段により抽出された暗部データが気泡なのか異物なのかを判別することが可能となった。
【0045】
また、第3の演算手段を実施した後に、第4の演算手段を実施し、図2(a)〜(e)の円形度Cを演算した結果を表2に示す。ここで、先ほどの第3の演算手段によって、暗部データが異物なのか気泡なのかを判別することは完了しているが、異物がどんなものなのかをさらに細かく判別したい場合(この実施例でいえば、図2(a)のゲルと図2(b)の繊維状の異物を判別したい場合)、円形度Cの閾値を2.30(円形度Cが2.30よりも大きければ繊維状の異物、小さければゲル)とすることにより、第1の演算手段により抽出された暗部データがゲルなのか繊維状の異物なのかを判別することが可能となった。
【0046】
このように、従来の方法と比べて、微分などの複雑な処理を行わなくとも、迅速かつ精度良く気泡と異物を判別することが可能である。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【符号の説明】
【0049】
21:透明配管
22:照明手段
23:撮像手段
24:データ処理手段
31:第1の演算手段
32:第2の演算手段
33:第3の演算手段
41:第1の頂点
42:第2の頂点
43:第3の頂点
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、異物が含まれる溶液(例えば、炭素繊維前駆体繊維用のポリアクリロニトリル系ポリマーの重合溶液など)を撮像手段によって撮像した画像から気泡と異物を迅速かつ精度良く判別することができるという特性を有していることから、ポリマー溶液製造工程の異物検査、品質管理に好適に用いることができるが、その応用範囲がこれに限られるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像手段により溶液中の異物を撮像して溶液中の異物を検出する異物検出方法であって、
(a)前記撮像手段により得られた画像に対して、予め設けられた第1の閾値と比較し明部データと暗部データを抽出する第1の演算手段と、
(b)前記第1の演算手段により抽出された暗部データの凸包図形を生成し、抽出する第2の演算手段と、
(c)前記第1の演算手段により抽出された暗部データの面積と、前記第2の演算手段により抽出された暗部データの凸包図形の面積の比を演算し、予め設けられた第2の閾値と比較して、気泡と異物を判別する第3の演算手段
を有する溶液中の異物検査方法。
【請求項2】
前記第1の演算手段により抽出された暗部データの面積と輪郭長の比を演算し、予め設けられた第3の閾値と比較して、気泡と異物を判別する第4の演算手段を含む、請求項1に記載の溶液中の異物検査方法。
【請求項3】
前記溶液が、炭素繊維前駆体繊維用のポリアクリロニトリル系ポリマーの重合に用いられる重合溶液である、請求項1または2に記載の溶液中の異物検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−78195(P2012−78195A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223527(P2010−223527)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】