説明

溶液製膜方法

【課題】チップの再利用と、ドープの切り替え対応とを両立する。
【解決手段】原料ドープ調製設備11は、原料TACが溶剤に溶解する原料ドープ48を調製する。制御部16により三方弁15が切り替えられ、原料ドープ48が溶液製膜設備13に送られる。溶液製膜設備13は、原料ドープ48を用いてフィルム69を製造する。耳切装置70a、70bは、フィルム69を切断し、耳部を除去する。クラッシャ71a、71bは耳部を破砕してチップ76にする。送風装置77はチップドープ調製設備12にチップ76を送る。チップドープ調製設備12では、チップ76と溶剤96とが混合され、この混合物の温度が20℃以上溶剤96の沸点以下に保持され、チップ76が溶剤に溶解するチップドープ98が調製される。制御部16により三方弁15が切り替えられ、チップドープ98が溶液製膜設備13に送られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー形成体の破砕物と溶剤とから調製されたドープを用いて、フィルムを製造する溶液製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルム(以下、フィルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟並びに軽量化及び薄膜化が可能であるなどの特長から光学機能性フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、強靭性を有し、低複屈折率であることから、写真感光用フィルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置の構成部材である偏光板の保護フィルムまたは光学補償フィルムなどの光学機能性フィルムに用いられている。
【0003】
フィルムの主な製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法とは、ポリマーをそのまま加熱溶解させた後、押出機で押し出してフィルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。しかし、フィルムの膜厚を高い精度で調整することが難しく、また、フィルム上に細かいスジ(ダイライン)ができるために、光学機能性フィルムへ使用することができるような高品質のフィルムを製造することが困難である。一方、溶液製膜方法は、ポリマーが溶剤に溶解するポリマー溶液(以下、ドープと称する)を、流延ダイを用いて支持体上に吐出し、支持体上に形成した流延膜が自己支持性を有するものとなった後、これを支持体から剥がして湿潤フィルムとし、さらに、この湿潤フィルムを乾燥させてフィルムとする方法である。このような溶液製膜方法は、溶融押出方法に比べて、光学等方性や膜厚の厚み均一性に優れるとともに、含有異物の少ないフィルムを得ることができるため、光学機能性フィルムは、主に溶液製膜方法で製造されている。
【0004】
溶液製膜方法で用いられるドープを調製する場合において、セルロースアシレート等のように、ポリマーが溶剤に溶けにくい化合物である場合には、特許文献1のように、加熱溶解方法や冷却溶解方法などを用いてポリマーを溶剤に溶解させる。加熱溶解方法では、加熱装置を用いて、ポリマーと溶剤との混合物を加熱する、或いは、加圧条件下で混合物を加熱する。一方、冷却溶解方法では、冷却装置を用いて混合物を一旦冷却した後、加熱装置を用いて加熱する。また、混合物においてポリマーの溶解が十分でない場合には、冷却溶解方法を繰り返し行う。また、ポリマー濃度が高いドープを調製する場合には、フラッシュ装置内を用いて、加熱溶解方法や冷却溶解方法等により得られたドープを加熱し、ドープに含まれる溶剤を蒸発させる濃縮工程を行う。以上の各溶解方法や濃縮工程により、所望のポリマー濃度のドープを調製することができる。
【0005】
ところで、溶液製膜方法では、フィルムのシワやタルミの除去、或いは、フィルムの光学特性が所望の範囲内となるように、クリップ等を用いてフィルムの幅方向両端(以下、耳部と称する)を把持して、幅方向に延伸する延伸処理を行うことが多い。このような延伸処理が施されたフィルムの耳部は、クリップ等の把持跡が残るため、製品フィルムとしては用いることができない。そこで、延伸処理を経たフィルムから耳部を切断除去し、耳部を除く部分を製品フィルムとして用いていた。
【0006】
フィルムから切断除去された耳部の廃棄は、コストの増大、及び環境の汚染等の問題となる。そこで、クラッシャを用いて耳部を破砕してチップとし、原料となる綿等から精製されたポリマーとともに、このチップを溶剤に溶解させることで、チップを再利用してドープをつくっていた。
【特許文献1】特開2006−76280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年において、液晶表示装置の需要の急速な増加に伴い、多種多様の液晶表示装置が開発されている。したがって、あらゆる液晶表示装置に応じて、多種多様の光学機能性フィルムを効率よく製造する方法の確立が求められている。
【0008】
ところが、フィルムには添加剤が含まれる場合がある為、フィルムから得られたチップには添加剤が含まれてしまう。添加剤を含むチップを用いてドープを調製した場合には、冷却装置、加熱装置やフラッシュ装置などから構成されるドープ調製設備に添加剤が残留する。この添加剤は、製造する光学機能性フィルムの種類によって、必要な成分となったり、不要な成分となったりする。したがって、製造する光学機能性フィルムにおいて、ドープ調製設備に残留する添加剤が不要な成分である場合には、新たなドープ(以下、切替用ドープと称する)を用いて、ドープ調製設備内に残留するドープ及び添加剤を押し出して、ドープの切り替えを行う必要がある。
【0009】
しかしながら、ドープ調製設備は、冷却装置、加熱装置やフラッシュ装置などを備えることから、ドープの切り替えに要する膨大な時間、及び膨大な量の切替用ドープが必要となる。また、切り替えに用いられた切替用ドープを処分し、又は再利用するためには、適宜所定の処理を行わなければならない。したがって、溶液製膜方法において、チップの再利用と、ドープの品種切り替え対応との両立が困難であった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、チップの再利用とドープの品種切り替え対応との両立を可能にする溶液製膜方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の溶液製膜方法は、ポリマーが溶剤に溶解するドープから形成されたポリマー形成体の破砕物と前記溶剤とを混合し、この混合物の温度を溶剤の沸点以下にして、前記破砕物に含まれる前記ポリマーが前記溶剤に溶解する破砕物ドープをつくるドープ調製工程と、流延ダイを用いて前記破砕物ドープを支持体に吐出し、前記支持体上に流延膜を形成する膜形成工程と、前記支持体から剥ぎ取った前記流延膜を乾燥する乾燥工程とを有することを特徴とする。
【0012】
前記ドープを前記流延ダイに送る状態と前記破砕物ドープを前記流延ダイに送る状態とに切り替え自在の切替え装置を用いて、前記ドープと前記破砕物ドープとのうちいずれか一方を前記流延ダイに送る切替工程を、前記膜形成工程の前に行うことが好ましい。また、前記膜形成工程では、前記ドープと前記破砕物ドープとを前記支持体に同時に吐出し、前記ドープと前記破砕物ドープとがそれぞれ層を成す前記流延膜を前記支持体上に形成することが好ましい。
【0013】
前記ドープ調製工程では、第1の破砕物ドープ及びこの第1の破砕物ドープと組成が異なる第2の破砕物ドープをつくり、前記第1の破砕物ドープと前記第2の破砕物ドープとを混合する混合工程を前記膜形成工程の前に行うことが好ましい。
【0014】
前記ドープ調製工程にて、前記破砕物ドープに脱泡処理を行うことが好ましい。前記破砕物ドープに含まれる前記ポリマーの濃度が、15重量%以上25重量%以下であることが好ましい。冷却により前記流延膜をゲル化させた後に、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取ることが好ましい。前記ポリマーがセルロースアシレートであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の溶液製膜方法によれば、破砕物ドープを調製する設備が小規模となるため、ドープの切り替えに要する時間及びドープの切り替えに用いられる新たなドープの量が従前に比べ、少なくて済む。したがって、本発明によれば、チップの再利用とドープの品種切り替えとの両立を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に示すように、原料ドープ調製設備11、チップドープ調製設備12、及び溶液製膜設備13は、配管14a〜14cにより、それぞれ三方弁15と接続する。三方弁15は、各設備11〜13のうち原料ドープ調製設備11及びと溶液製膜設備13のみが連通する第1の位置と、各設備11〜13のうちチップドープ調製設備12及び溶液製膜設備13のみが連通する第2の位置とを切り替え自在になっている。制御部16の制御の下、三方弁15は、第1の位置と第2の位置とのうち一方の位置に切り替えられる。
【0017】
(原料ドープ調製設備)
原料ドープ製造設備11には、溶剤を貯留するための溶剤タンク21と、溶剤と原料TAC等とを混合するための溶解タンク22と、セルロースから精製された原料TACを供給するためのホッパ23と、添加剤を含む添加剤液を貯留するための添加剤タンク24と、後述する膨潤液を加熱するための加熱装置28と、調製されたドープの温度を調整する温調機29と、ドープを濾過する濾過装置30と、ドープを濃縮するフラッシュ装置31,濃縮後のドープを濾過する濾過装置32などが備えられている。更に、原料ドープ製造設備11には、溶剤を回収するための回収装置33と、回収された溶剤を再生するための再生装置34とが備えられている。また、溶解タンク22の下流にはポンプ35が設けられ、フラッシュ装置31の下流にはポンプ36が設けられる。ポンプ35は溶解タンク22中の膨潤液38を加熱装置28に送り、ポンプ36はフラッシュ装置31中の濃縮後の濾過装置32に送る。そして、濾過装置30,32の下流側には、ストックタンク40が接続する。配管14aは、ストックタンク40と三方弁15とを連通し、配管14aにはポンプ43及び濾過装置44が設けられる。
【0018】
溶剤タンク21と溶解タンク22とを接続する配管21aに設けられたバルブ21bを開き、溶剤を溶剤タンク21から溶解タンク22に送る。次に、ホッパ23に入れられている原料TACを計量しながら溶解タンク22に送り込む。添加剤タンク24と溶解タンク22とを接続する配管24aに設けられたバルブ24bの開閉操作を行って、必要量の添加剤液を添加剤タンク24から溶解タンク22に送り込む。なお、溶解タンク22に入れる順番が、溶剤、原料TAC、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。
【0019】
溶解タンク22には、その外面を包み込むジャケット22aと、モータ22bにより回転する第1攪拌翼22cとが備えられている。さらに、溶解タンク22には、モータ22dにより回転する第2攪拌翼22eが取り付けられていることが好ましい。ジャケット22aに伝熱媒体を流して溶解タンク22内を−10℃以上55℃以下の範囲に温度調整することが好ましい。第1攪拌翼22c,第2攪拌翼22eを適宜選択して回転させることで原料TACが溶剤中で膨潤した膨潤液38を得ることができる。
【0020】
膨潤液38をポンプ35により加熱装置28に送液する。加熱装置28を用いて、膨潤液38を加熱、または加圧条件下で加熱することにより、原料TACなどを溶剤に溶解させてドープを得ることができる。なお、加熱装置28により、膨潤液38の温度を0℃以上97℃以下にすることが好ましい。温調機29によりドープの温度を略室温とした後に、濾過装置30により濾過を行いドープ中の不純物を取り除く。濾過装置30の濾過フィルタの平均孔径が100μm以下であることが好ましい。また、濾過流量は、50L/時以上であることが好ましい。濾過後のドープは、バルブ46を介してストックタンク40に入れられる。なお、加熱溶解法のほか、冷却溶解法を用いて原料TACを溶剤に溶解させることも可能でなる。
【0021】
膨潤液38を調製した後に原料TACを溶剤に溶解させる方法は、目標とするTAC濃度が高くなるに従い、時間がかかりコストの点で問題が生じる場合がある。例えば、目標とするTAC濃度が15重量%以上25重量%以下である場合には、目標とするTAC濃度より低濃度のドープを調製した後に目的とする濃度のドープを調製する濃縮工程を行うことが好ましい。濾過装置30で濾過されたドープに濃縮工程を施す場合には、バルブ46を介してフラッシュ装置31にドープを送液する。フラッシュ装置31内でドープを加熱して、ドープ中の溶剤の一部を蒸発させる。なお、フラッシュ装置31により、ドープの温度を25℃以上50℃以下にすることが好ましい。蒸発した溶剤は、凝縮器(図示しない)により液体とした後に回収装置33で回収する。その溶剤は再生装置34によりドープ調製用の溶剤として再生を行い再利用することがコストの点から有利である。
【0022】
濃縮されたドープをフラッシュ装置31からポンプ36を用いて抜き出す。さらに、ドープ中の泡抜きを行うことが好ましい。泡抜きは、公知のいずれの方法により行っても良く、例えば超音波照射法が挙げられる。その後、濃縮されたドープを濾過装置32に送液して異物の除去を行う。なお、この際にドープの温度が0℃以上200℃以下であることが好ましい。そして、ストックタンク40にドープを入れる。
【0023】
これらの方法により、TAC濃度が所定の範囲のドープを製造することができる。ドープのTAC濃度は、5重量%以上40重量%以下であることが好ましく、15重量%以上25重量%以下であることがより好ましい。なお、製造されたドープ(以下、原料ドープと称する)48は、ストックタンク40に貯蔵される。
【0024】
ストックタンク40には、その外面を包み込むジャケット40aと、モータ40bにより回転する攪拌翼40cとが備えられている。ジャケット40aに伝熱媒体を流して、ストックタンク40内の原料ドープ48を、25℃以上40℃以下の範囲に温度調整することが好ましい。攪拌翼40cの回転により原料ドープ48を攪拌することで、原料ドープ48における凝集物の生成を防ぎ、原料ドープ48を均質に保持することができる。
【0025】
(溶液製膜設備)
図2に示すように、溶液製膜設備13は、流延室49とピンテンタ50とクリップテンタ51と乾燥室52と冷却室53と巻取室54とを有する。
【0026】
流延室49には、配管14cにより三方弁15と連通する流延ダイ55と、支持体である流延ドラム56と、流延ドラム56から流延膜57を剥ぎ取る剥取ローラ58と、温調装置59、60とが備えられている。
【0027】
(流延ドラム)
流延ドラム56は、図示しない駆動装置により軸56aを中心に回転する。流延ドラム56の回転により、周面56bは方向Z1へ所定の速度で走行する。温調装置60は、図示しない制御部の制御の下、所望の温度に調節された伝熱媒体を、流延ドラム56内に設けられる流路中を循環させる。この伝熱媒体の循環により、流延ドラム56の周面56bの温度を所望の範囲内で一定に保つことができる。
【0028】
流延ドラム56の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム56の周面56bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0029】
(流延ダイ)
流延ダイ55は、配管14cと連通するスリットと、スリットを通過したドープが吐出する吐出口とを有する。流延ダイ55は、吐出口と周面56bとが近接するように配される。流延ダイ55は、走行する周面56bに向けて吐出口からドープを吐出する。吐出したドープは、流延ダイ55の吐出口から周面56bにかけて流延ビードを形成した後、周面56b上で流れ延ばされ、流延膜57を形成する。
【0030】
なお、減圧チャンバ61を流延ダイ55に対し方向Z1の上流側に配置してもよい。減圧チャンバ61は、流延ビードの方向Z1の上流側を所望の圧力まで減圧する。図示しない制御部の制御の下、減圧チャンバ61は、流延ビードの上流側の圧力が下流側に対して−10Pa以上−2000Pa以下となるように、流延ビードの上流側を減圧することができる。
【0031】
流延室49の下流には、渡り部63、ピンテンタ50、クリップテンタ51、乾燥室52、冷却室53、及び巻取室54が順に設置されている。渡り部63には、搬送ローラ64が設けられる。渡り部63では、搬送ローラ64が、剥取ローラ58によって剥ぎ取られた湿潤フィルム68をピンテンタ50に案内する。ピンテンタ50は、湿潤フィルム68の耳部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。ピンプレートにより走行する湿潤フィルム68に対し、乾燥風が送られる。これにより、湿潤フィルム68の温度は30℃以上130℃以下となり、湿潤フィルム68から溶剤が蒸発して、フィルム69となる。
【0032】
クリップテンタ51は、フィルム69の耳部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を走行する。クリップにより走行するフィルム69に対し、乾燥風が送られる。これにより、フィルム69の温度は140℃以上180℃以下となり、フィルム69から溶剤が蒸発する。こうして、フィルム69には、フィルム幅方向への延伸処理とともに、乾燥処理が施される。なお、クリップテンタ51は省略しても良い。
【0033】
ピンテンタ50及びクリップテンタ51の下流にはそれぞれ耳切装置70a、70bが設けられている。耳切装置70a、70bはフィルム69の耳部を切断除去する。この切断された耳部は、送風によりクラッシャ71a、71bに送られて、破砕または粉砕され、チップ76となる。一方、残った部分はフィルム69として、下流へ搬送される。チップ76は、送風装置77により、チップドープ調製設備12に送られる。チップドープ調製設備12に送られたチップ76は、ドープ調製に再利用することができる。
【0034】
乾燥室52には、多数のローラ78が設けられており、これらにフィルム69が巻き掛けられて搬送される。乾燥室52内の雰囲気の温度や湿度などは、図示しない空調機により調節されており、乾燥室52の通過によりフィルム69の乾燥処理が行われる。乾燥室52には吸着回収装置79が接続されており、フィルム69から蒸発した溶剤が吸着回収される。
【0035】
乾燥室52の出口側には冷却室53が設けられており、この冷却室53でフィルム69が室温となるまで冷却される。冷却室53の下流には強制除電装置(除電バー)81が設けられており、フィルム69が除電される。さらに、強制除電装置81の下流側には、ナーリング付与ローラ82が設けられており、フィルム69の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室54には、プレスローラ83を有する巻取機84が設置されており、フィルム69は、巻取機84に取り付けられた巻き芯85に巻き取られる。
【0036】
(チップドープ調製設備)
チップドープ調製設備12は、配管14bにより三方弁15と連通するストックタンク91と、配管14bに設けられるポンプ92及び濾過装置93とを有する。ストックタンク91は、ストックタンク40と同様の構造を有する。送風装置77によって送られたチップ76は、ストックタンク91に送られる。また、溶剤96及び添加剤97もストックタンク91に送られる。なお、溶剤96及び添加剤97は、原料ドープ調整設備11(図1参照)で用いた溶剤、添加剤と同一でもよいし、異なっていてもよい。ストックタンク91では、溶剤96にチップ76が溶解し、チップドープ98がつくられる。なお、チップドープ98のTAC濃度は、チップ76の原料である原料ドープ48のTAC濃度以下であることが好ましい。また、添加剤97は省略してもよい。
【0037】
(添加剤液調製設備)
図2及び図3に示すように、配管14cに合流部100を設け、この合流部100にノズル101を設けることが好ましい。ノズル101は、配管14dを介して、添加剤及び溶剤とからなる添加剤液104を調製する添加剤液調製設備102と連通する。添加剤液調製設備102にて調製された添加剤液104は、配管14dを介してノズル101に送られ、ノズル101の吐出口101aから吐出する。なお、原料ドープ調製設備11内の配管、配管14a及び配管14cの合計の容量をVとするときに、合流部100から溶液製膜設備13に設けられた流延ダイまでの配管14aの容量Vが、V/280以上V/7以下となるように、合流部100を配管14cに設けることが好ましい。また、合流部100を、流延ダイ55の直前の配管14cに設けてもよい。
【0038】
合流部100よりも下流側の配管14cには、インラインミキサ108が設けられる。インラインミキサ108は、上流側から順に直列に並べられる分割混合型ミキサ111と、捻転混合型ミキサ112とから構成される。分割混合型ミキサ111は、ノズル101の吐出口101aの直後に設置される。分割混合型ミキサ111は、エレメント111a、111bを有する。エレメント111a、111bが配管14cの長手方向に交互に配置されている。エレメント111a、111bは、複数の細長い仕切板を交互に交差させるように組み付けて形成されている。また、エレメント111aとエレメント111bとは、配管14cを上流側から観察したときに、仕切板の長手方向が直交するようにドープ用配管の軸を中心に90°回転された状態で配置される。
【0039】
捻転混合型ミキサ112は、エレメント112a、112bを有する。エレメント112a、112bは配管14cの長手方向に交互に配置されている。エレメント112a、112bは、長方形の板を180°ねじって形成されたものであり、エレメント112aとエレメント112bとではねじられる方向が逆にされている。エレメント112a、112bは、隣り合うエレメントの板の側端部が直交するように、配管14cの軸を中心に90°回転された状態で配置される。捻転混合型ミキサ112、配管14c内を流される各ドープと添加剤液とを、エレメント112a、112bによって捻転しながら混合する。
【0040】
なお、説明を簡略化するため、図3では、分割混合型ミキサ111、及び捻転混合型ミキサ112は、それぞれ2つのエレメントから構成される例を示したが、実際はより多くのエレメントが並べられている。エレメントの数は適宜設定することができるが、スタティックミキサのエレメント数は、6以上90以下であることが好ましく、さらには、6以上60以下であることがより好ましい。
【0041】
次に、本発明の作用について説明する。図1に示すように、制御部16により三方弁15は第1の位置に切り替えられ、原料ドープ調製設備11と溶液製膜設備13とが連通し、チップドープ調製設備12と溶液製膜設備13とが切り離される。
【0042】
原料ドープ調製設備11では、原料TACと溶剤と添加剤液とを混合して膨潤液38がつくられる。その後、加熱装置28は、膨潤液38を所定の温度まで加熱し、原料TACが溶剤に溶解してドープとなる。必要に応じて、ドープをフラッシュ装置31に送る。フラッシュ装置31では、ドープが更に加熱され、ドープ中の溶剤の一部が蒸発する。こうして、一連の原料ドープ調整工程により所望のTAC濃度の原料ドープ48を調製することができる。ポンプ43により、原料ドープ48は濾過装置44に送られ、濾過処理を施された後、三方弁15を介して、配管14cに送られる。
【0043】
図2及び図3に示すように、添加剤液調製設備102は、溶剤と添加剤とを混合して、添加剤液104を調製する。添加剤液104は、配管14dを介してノズル101の吐出口101aから吐出する。こうして、合流部100では、配管14c中を流れる原料ドープ48中に添加剤液104が添加される。添加剤液104及び原料ドープ48は、分割混合型ミキサ111及び捻転混合型ミキサ112により攪拌混合され、流延ドープとなって、溶液製膜設備13に送られる。
【0044】
図2に示すように、溶液製膜設備13では、温調装置59は、流延室49内の雰囲気温度を10℃〜30℃の範囲内で略一定となるように調節する。図示しない制御部により、流延ドラム56は軸56aを中心に回転し、周面56bはZ1方向に走行し、流延ドラム56の周面56bの温度は、−20℃以上0℃以下の範囲内で一定に保たれる。流延ダイ55は、流延ドープを流延ドラム56の周面56bに吐出する。周面56bには流延膜57が形成する。流延ドラム56により、流延膜57が冷却され、流延膜57のゲル化が開始する。
【0045】
剥取ローラ58は、ゲル化により自己支持性を有するものとなった流延膜57を周面56bから剥ぎ取る。剥ぎ取られた流延膜57は、湿潤フィルム68として、渡り部63を介して、ピンテンタ50へ案内される。耳切装置70a、70bは、ピンテンタ50及びクリップテンタ51を経たフィルム69の耳部を切断する。耳切装置70a、70bを経たフィルム20は、乾燥室52、冷却室53を経て、巻取室54にて、ロール状に巻き取られる。こうして、原料ドープ48からフィルム69を製造することができる。一方、耳切装置70a、70bにより切断された耳部は、クラッシャ71a、71bに送られ、破砕されてチップ76となる。チップ76は送風装置75により、チップドープ調製設備12に送られる。
【0046】
チップドープ調製設備12では、チップ76、溶剤96及び添加剤97がストックタンク91にて混合される。ストックタンク91に設けられたジャケットにより、ストックタンク91内の混合物の温度は、20℃以上であって溶剤の沸点以下の範囲で略一定となるように保持される。これにより、チップ76が溶剤96に溶解し、チップドープ98となる。なお、ストックタンク91内の混合物の温度は、チップ76に含まれるTACにできるだけ熱を与えない点から、チップ76に含まれるTACが溶剤96に溶解する範囲内であれば、できるだけ低い温度であることが好ましい。
【0047】
溶剤が一つの化合物からなる場合には、当該化合物の沸点を当該溶剤の沸点とすればよい。また、溶剤が複数の化合物から構成される場合には、混合溶剤をなす化合物のうち組成割合が最も多い化合物の沸点を当該溶剤の沸点とすればよい。
【0048】
制御部16により三方弁15が第2の位置に切り替えられると、チップドープ調製設備12と溶液製膜設備13とが連通し、原料ドープ調製設備11と溶液製膜設備13とが切り離される。ポンプ92により、チップドープ98は濾過装置93に送られ、濾過処理を施された後、三方弁15及びインラインミキサ108等を介して、流延ドープとなって流延ダイ55に送られる。こうして、溶液製膜設備13は、チップドープ98からつくられた流延ドープからフィルムを製造する。
【0049】
チップ76に含まれるTACは原料ドープ調製設備11における原料ドープ調製工程を経ているため、原料ドープ調製工程が施される前の原料TACと異なり、比較的低温域であっても溶剤に溶解しやすい。また、チップドープ調製設備12ではドープのポリマー成分としてチップ76のみを用いているため、チップ76に含まれるTACにほとんど熱を加えずに、溶剤に溶解させることができる。
【0050】
綿などの原料からフィルムに至るまでの過程において、ポリマーに与えられた熱の累積量が大きくなるに従い、フィルムのヘイズの悪化の問題が顕著になることは知られていた。しかしながら、チップ76が低温域で溶剤に溶解しないと考えられており、チップ76からドープを調製する場合には、原料ドープ調製設備11における加熱処理と同様の処理を行っていた。その結果、チップ76のみを再利用して調製されたドープを用いて得られたフィルムでは、ヘイズの悪化が問題となっていた。
【0051】
本発明によれば、従来に比べ低い温度でチップ76を溶剤に溶解することができるため、ヘイズの悪化を回避しながら、フィルムを製造することができる。また、本発明では、原料ドープ調製設備11及び溶液製膜設備13に加え、チップドープ調製設備12を備えるため、各設備11〜13と接続する三方弁15の切り替えにより、ドープの品種切り替えを容易に行うことができる。したがって、本発明によれば、チップの再利用及びドープの品種切り替えを両立させつつ、フィルムを製造することができる。
【0052】
更に、ポリマー成分としてチップ76のみを用いてドープを作る場合には、原料ドープ調製設備11での加熱処理、加圧加熱処理、及びフラッシュ濃縮処理等が不要となるため、チップドープ調製設備12は、原料ドープ調製設備11のような大規模なものにならない。したがって、チップドープ調製設備12にて組成の異なるチップドープを調製し、各チップドープを切り替えて異なる種類のフィルムを製造する場合でも、原料ドープ調製設備11に比べて比較的小規模のチップドープ調製設備12におけるドープの切り替えに要する時間、及び切り替えに用いる切替用ドープの量を低減させながら、異なる品種のフィルムを製造することができる。
【0053】
上記実施形態では、切替え装置として三方弁15を用いたが、本発明はこれに限られない。例えば、配管14a、14bにそれぞれ弁を設け、制御部の制御の下、いずれか片方の弁を開け、他方の弁を閉めるようにしてもよい。
【0054】
上記実施形態では、1つの原料ドープ調製設備11及び1つのチップドープ調製設備12を、三方弁15を介して溶液製膜設備13と接続したが、本発明はこれに限られず、1つの原料ドープ調製設備11及び複数のチップドープ調製設備12を、切り替え装置を介して溶液製膜設備13と接続してもよいし、複数のチップドープ調製設備12のみを、切り替え装置を介して溶液製膜設備13と接続してもよい。
【0055】
上記実施形態では、フィルム69の耳部を切断したものをチップとしたが、本発明はこれに限られず、製品として用いられるフィルム69を破砕してもよいし、液晶表示装置に取り付けられたフィルムを、液晶表示装置から取り外し、その後に破砕してもよい。また、チップ76はフィルムの破砕物に限られず、ポリマー形成体を破砕したものをチップ76としてもよい。
【0056】
上記実施形態では、チップドープ98に添加剤液104を添加して、流延ドープをつくったが、本発明はこれに限られず、添加剤液104の代わりにチップドープ98と異なる組成のチップドープを、チップドープ98に添加して、流延ドープをつくってもよい。
【0057】
なお、チップドープ調整設備12において、チップドープ98に脱泡処理を行うことが好ましい。脱泡処理として、TACにできるだけ熱を与えないようにする点から、遠心脱泡または真空脱泡を行うことが好ましい。
【0058】
遠心脱泡は、遠心脱泡装置を用いる。遠心脱泡装置は、ドープを貯留する容器と、回転自在に設けられ、容器内のドープを攪拌する攪拌器とを備え、ドープの攪拌により生じた遠心力により、ドープ中の気泡をドープの回転軸近傍に集め、ドープから気泡を取り除くことができる。真空脱泡は、ドープが貯留する容器を大気圧よりも低い減圧環境下に配することにより行われる。これにより、ドープから気泡を取り除くことができる。更に、真空脱泡中においては、コンデンサを用いて、ドープから蒸発した溶剤を回収し、液化させた後に、ドープへ戻すことが好ましい。また、真空脱泡においてドープから溶剤が蒸発し、ドープのTAC濃度がΔC1だけ上昇してしまう場合には、TAC濃度が、目標とするTAC濃度にΔC1を加えたドープを予め調製した上で、このドープに真空脱泡を行ってもよい。なお、遠心脱泡装置を減圧環境下に配し、遠心脱泡及び真空脱泡を同時に行ってもよい。
【0059】
上記実施形態では、分割混合型ミキサ111と、捻転混合型ミキサ112とを上流側から順に直列に並べるようにして、インラインミキサ108を構成したが本発明はこれに限られない。例えば、分割混合型ミキサ111及び捻転混合型ミキサ112とともに、ホモミキサーなどのダイナミックミキサを直列に並べてもよいし、分割混合型ミキサ111と捻転混合型ミキサ112とのうちいずれか一方と、ダイナミックミキサとを直列に並べてもよい。なお、各種類のミキサを並べる順番は特に限定されない。また、分割混合型ミキサ111、捻転混合型ミキサ112、及びダイナミックミキサのうち少なくとも1つを用いてインラインミキサ108を構成してもよい。
【0060】
ポリマーと溶剤とともに添加剤を用いてドープを調製する、或いは、添加剤を流延ダイの直前で所定のドープに添加するかは、用いる添加剤によって適宜決定すればよい。成分の異なる複数のドープを切り替えながら、複数の品種のフィルムを製造する溶液製膜方法において、いずれのドープにも共通して含まれる成分の添加剤は、原料ドープ調製設備11やチップドープ調製設備12にて、所定のドープに添加してもよい。また、いずれのドープにも共通して含まれない成分の添加剤は、合流部100にて所定のドープに添加すればよい。
【0061】
なお、原料ドープ48やチップドープ98に添加剤液104を添加して流延ドープをつくらない場合には、添加剤液調製設備102やインラインミキサ108を省略してもよい。
【0062】
上記実施形態では、1種類のドープを吐出する溶液製膜方法を行ったが、本発明はこれに限られない。以下、本発明の別の実施形態を説明する。同一の装置や部材には同一の符号を付し、その詳細の説明は省略する。
【0063】
図4に示すように、溶液製膜設備13と第1〜第3チップドープ調製設備121〜123とは、配管121a〜123aにより接続する。第1〜第3チップドープ調製設備121〜123は、チップドープ調製設備12(図2参照)と同様の構成を有し、チップ及び溶剤等から第1〜第3チップドープ131〜133をそれぞれ調製する。溶液製膜設備13の流延ダイ55の上流側にはフィードブロック134が設けられる。フィードブロック134は、配管121aと流延ダイ55のスリットとを連通する主流路と、主流路に設けられた合流部と配管122a、123aと連通する2つの副流路とを備える。
【0064】
第1〜第3チップドープ調製設備121〜123で調製された第1〜第3チップドープ131〜133は、フィードブロック134に送られる。第1〜第3チップドープ131〜133は、フィードブロック134内の合流部にて合流し、第1〜第3チップドープ131〜133が厚み方向に層を成す積層ドープとなる。流延ダイ55は、積層ドープを流延ドラム56に吐出することで、第1〜第3チップドープ131〜133が厚み方向に層を成す積層流延膜138を形成することができる。この積層流延膜138を周面56bから剥ぎ取り、所定の処理を施すことで、厚さ方向に層をなす積層フィルム139を製造することができる。
【0065】
上記実施形態では、フィードブロック134を設けたが、本発明はこれに限られず、流延ダイ55に代えて、マルチマニホールドダイを用いて、各チップドープ131〜133を合流させて積層ドープをつくり、積層ドープを流延ドラム56に吐出してもよい。また、本発明は、同時積層共流延に限られず、複数の流延ダイを用いて、異なるドープを逐次吐出し、積層流延膜を形成する逐次積層共流延に適用することもできる。
【0066】
更に、第1〜第3チップドープ調製設備121〜123に加え、1つまたは複数のチップドープ調製設備や、1つまたは複数の原料ドープ調製設備を設け、切替え装置を用いて、溶液製膜設備と接続する各設備を切り替えてもよい。また、第1〜第3チップドープ131〜133のうち、少なくとも1つを原料ドープ調整設備11からつくられた原料ドープ48(図2参照)に代えてもよい。
【0067】
上記実施形態では、冷却により流延膜57に自己支持性を発現させたが、本発明はこれに限られず、流延膜57に含まれる溶剤の蒸発により流延膜57に自己支持性を発現させてもよい。
【0068】
上記実施形態では、支持体として流延ドラム56を用いたが、本発明はこれに限られず、ローラに掛け渡され、ローラの回転により、エンドレスに走行する流延バンドを用いてもよい。
【0069】
上記実施形態では、走行する支持体にドープを流延したが、本発明はこれに限られず、静止する支持体にドープを流延してもよい。
【0070】
(ポリマー)
以下、本発明において各ドープを調製する際に使用する原料について説明する。
【0071】
本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、AおよびBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0072】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0073】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基がアセチル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基がアセチル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基がアセチル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
【0074】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0075】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れた溶液(ドープ)を作製することができる。特に、非塩素系有機溶剤を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0076】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでもよい。
【0077】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0078】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶剤に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
【0079】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度および光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは、5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0080】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶剤組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステルおよびアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶剤として用いることができる。
【0081】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶剤および可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【実施例】
【0082】
次に、本発明の効果の有無を確認するために、実験1〜4を行った。詳細な説明は実験1で行い、実験2〜4については、実験1と同じ条件の箇所の説明は省略し、異なる部分のみを説明する。
【0083】
(実験1)
次に、実験1について説明する。フィルム製造に使用したポリマー溶液(ドープ)の調製に際しての配合を下記に示す。
【0084】
[ドープの調製]
原料ドープ48の調製に用いた化合物の処方を下記に示す。
セルローストリアセテート(置換度2.8) 88.0重量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 6.5重量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 5.5重量%
の組成比からなる固形分X(溶質)を
ジクロロメタン 83.0重量%
メタノール 16.0重量%
n−ブタノール 1.0重量%
からなる混合溶剤Yに添加し、攪拌溶解して原料ドープ48を調製した。なお、原料ドープ48のTAC濃度は略23重量%であった。原料ドープ48を濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した。
【0085】
[セルローストリアセテート]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有率が58ppm、Mg含有率が42ppm、Fe含有率が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンを15ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8重量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であった。このTACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたものである。
【0086】
原料ドープ48の調製の詳細について説明する。攪拌羽根を有する4000Lのステンレス製の溶解タンク22で前記複数の溶剤を混合してよく攪拌し、混合溶剤Yとした。なお、溶剤の各原料としては、すべてその含水率が0.5重量%以下のものを使用した。次に、TACのフレーク状粉体をホッパ23から徐々に添加した。TAC粉末は、溶解タンク22に投入されて、最初は5m/秒の周速で攪拌するディゾルバータイプの第2攪拌翼22e及び中心軸にアンカー翼を有する第1攪拌翼22cを周速1m/秒で攪拌する条件下で30分間分散した。分散開始時の温度は25℃であり、最終到達温度は48℃となった。さらに、予め調製された添加剤液を添加剤タンク24から溶解タンク22に送り、バルブ24bで送液量を調整して、全体が2000kgとなるようにした。添加剤液の分散を終了した後に、高速攪拌は停止した。そして、第1攪拌翼22cのアンカー翼の周速を0.5m/秒としてさらに100分間攪拌し、TACフレークを膨潤させて膨潤液38を得た。膨潤終了までは窒素ガスにより溶解タンク22内を0.12MPaになるように加圧した。この際の溶解タンク22の内部は、酸素濃度が2vol%未満であり防爆上で問題のない状態を保った。また膨潤液38中の水分量は0.3重量%であった。
【0087】
膨潤液38を溶解タンク22からポンプ35を用いてジャケット付配管に送液した。ジャケット付き配管で膨潤液38を50℃まで加熱して、更に2MPaの加圧下で90℃まで加熱し、完全溶解した。このときの加熱時間は15分であった。次に溶解された液を温調機29で36℃まで温度を下げ、公称孔径8μmの濾材を有する濾過装置30を通過させドープ(以下、濃縮前ドープと称する)を得た。濃縮前ドープのTAC濃度は略23重量%であった。この際、濾過装置30における1次側圧力は1.5MPa、2次側圧力を1.2MPaとした。高温にさらされるフィルタ、ハウジング及び配管はハステロイ(登録商標)合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の伝熱媒体を流通させるジャケットを備えたものを使用した。
【0088】
このようにして得られた濃縮前ドープを80℃で常圧とされたフラッシュ装置31内でフラッシュ蒸発させて、蒸発した溶剤を凝縮器で回収した。なお、凝縮された溶剤はドープ調製用溶剤として再利用すべく回収装置33で回収した。その後に再生装置34で再生した後に溶剤タンク21に送液した。回収装置33,再生装置34では、蒸留や脱水を行った。フラッシュ装置31のフラッシュタンクには攪拌軸にアンカー翼を備えた攪拌機(図示しない)を設け、その攪拌機により周速0.5m/秒でフラッシュされたドープを攪拌して脱泡を行った。このフラッシュタンク内のドープの温度は25℃であり、タンク内におけるドープの平均滞留時間は50分であった。
【0089】
次に、図2に示す溶液製膜設備13を用いて、原料ドープ48からフィルム69を製造した。原料ドープ48の温度を略34℃で略一定となるように調整するために、流延ダイ55にジャケット(図示しない)を設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の温度を調節した。軸56aの駆動により、周面56bの走行方向A1における速度を略70m/分とした。温調装置60は、流延ドラム56の周面56bの温度を−10℃で略一定になるように調節した。流延ドラム56上での乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。
【0090】
流延ダイ55は、原料ドープ48を周面56b上に流延し、流延膜57を形成した。冷却により、流延膜57が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ58を用いて、流延ドラム56から流延膜57を湿潤フィルム68として剥ぎ取った。剥取ローラ58は、湿潤フィルム68に渡り部63に案内した。渡り部63では、温度が略60℃の乾燥空気を湿潤フィルム68にあてて、湿潤フィルム68を乾燥させた。渡り部63に設けられるローラ64は、湿潤フィルム68をピンテンタ50に案内した。
【0091】
ピンテンタ50では、温度が略60℃の乾燥空気を湿潤フィルム68にあてて、湿潤フィルム68を乾燥した。この乾燥により湿潤フィルム68からフィルム69を得た。その後、ピンテンタ50は、フィルム69をクリップテンタ51に送った。クリップテンタ51では、温度が略60℃の乾燥空気をフィルム69にあてて、フィルム69を乾燥しながら、幅方向に延伸処理を施した。ピンテンタ50、クリップテンタ51から送られたフィルム69の両側縁部を、耳切装置70a、70bにて、切断した。耳切装置70bを経たフィルム69を、乾燥室52に送った。乾燥室52では、フィルム69に温度が略140℃の乾燥空気をあてて、フィルム69を乾燥した。
【0092】
クラッシャ71a、71bは、耳切装置70a、70bにより切断除去された耳部を破砕して、チップ76とした。送風装置77は、チップ76をチップドープ調製設備12に送った。
【0093】
チップドープ調製設備12では、チップ76と混合溶剤Yとをストックタンク91に送った。ストックタンク91に設けられたジャケットにより、チップ76と混合溶剤Yとからなる混合物の温度KTを35℃に保持した。チップ76が混合溶剤Yに溶解し、チップドープ98を得た。チップドープ98のTAC濃度C1は23重量であった。チップドープ98を濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した。
【0094】
溶液製膜設備13を用いて、チップドープ98からフィルム(以下、チップフィルムと称する)を製造した。溶液製膜設備13における製膜条件は、原料ドープ48からフィルム69を製造した条件と同様である。
【0095】
(評価)
製造したチップフィルムについて以下の評価を行った。
【0096】
1.ヘイズ
スガ試験機(株)製の直読式ヘイズメータHGM−2DPを用いて、ヘイズHを測定した。
【0097】
2.輝点異物の有無
輝点異物は、直交状態(クロスニコル)で配置した2枚の偏光板の間にチップフィルムを置き、一方の偏光板の外側から光を当て、他方の偏光板の外側から顕微鏡で25mm2 当たり白く抜けて見える異物(輝点異物)の数を100箇所で測定し、その平均値Nで表示した。この時の顕微鏡の条件は倍率30倍で透過光源であった。そして、平均値Nについて以下基準で評価した。
○:平均値Nが100個未満であり、光学機能性フィルムとして実用上問題のない程度であった。
×:平均値Nが100個以上であり、光学機能性フィルムとして実用に耐えないものであった。
【0098】
(実験2〜4)
各条件を表1に示す値に代えたこと以外は、実験1と同様にして、チップフィルムを製造した。
【0099】
表1には、実験1〜実験4における、チップ76と混合溶剤Yとの混合物の温度KT(℃)、チップドープ98のTAC濃度C1(重量%)、ヘイズH(%)、輝点異物の数N(個)、及び輝点異物の数Nについての評価結果を示す。
【0100】
【表1】

【0101】
表1より、チップフィルムは、原料ドープから製造されたフィルムと同等の光学特性を有することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】第1のチップドープ調製設備、溶液製膜設備、及び原料ドープ調製設備の構成、並びに原料ドープ調製設備の詳細を示す概略図である。
【図2】第1のチップドープ調製設備、溶液製膜設備、及び原料ドープ調製設備の構成、並びにチップドープ調製設備及び溶液製膜設備の詳細を示す概略図である。
【図3】インラインミキサの概要を示す斜視図である。
【図4】第2のチップドープ調製設備、及び溶液製膜設備の概要を示す概略図である。
【符号の説明】
【0103】
11 原料ドープ調製設備
12 チップドープ調製設備
13 溶液製膜設備
48 原料ドープ
76 チップ
98 チップドープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーが溶剤に溶解するドープから形成されたポリマー形成体の破砕物と前記溶剤とを混合し、この混合物の温度を溶剤の沸点以下にして、前記破砕物に含まれる前記ポリマーが前記溶剤に溶解する破砕物ドープをつくるドープ調製工程と、
流延ダイを用いて前記破砕物ドープを支持体に吐出し、前記支持体上に流延膜を形成する膜形成工程と、
前記支持体から剥ぎ取った前記流延膜を乾燥する乾燥工程とを有することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記ドープを前記流延ダイに送る状態と前記破砕物ドープを前記流延ダイに送る状態とに切り替え自在の切替え装置を用いて、前記ドープと前記破砕物ドープとのうちいずれか一方を前記流延ダイに送る切替工程を、前記膜形成工程の前に行うことを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記膜形成工程では、前記ドープと前記破砕物ドープとを前記支持体に同時に吐出し、前記ドープと前記破砕物ドープとがそれぞれ層を成す前記流延膜を前記支持体上に形成することを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記ドープ調製工程では、第1の破砕物ドープ及びこの第1の破砕物ドープと組成が異なる第2の破砕物ドープをつくり、
前記第1の破砕物ドープと前記第2の破砕物ドープとを混合する混合工程を前記膜形成工程の前に行うことを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項5】
前記ドープ調製工程にて、前記破砕物ドープに脱泡処理を行うことを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項6】
前記破砕物ドープに含まれる前記ポリマーの濃度が、15重量%以上25重量%以下であることを特徴とする請求項1ないし5のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項7】
冷却により前記流延膜をゲル化させた後に、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取ることを特徴とする請求項1ないし6のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項8】
前記ポリマーがセルロースアシレートであることを特徴とする請求項1ないし7のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−82855(P2010−82855A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252182(P2008−252182)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】