説明

溶液製膜設備のバンド位置制御装置及び方法

【課題】バンドの蛇行に起因するストレスを抑え、バンドの寿命を長くする。
【解決手段】第1ドラム21と第2ドラム22との間に駆け巡らしたバンド23を、モータ29により回転する。第2ドラムエッジセンサ45により、第2ドラム22近くでバンド23の一方のエッジ位置を第2方向において検出する。第2ドラムエッジ移動速度検出部により、第2ドラム22におけるエッジ移動速度Veを求める。エッジ移動速度Veが0となるように、第2ドラム位置指令制御器により、シフト機構41R,41Lを作動させる。エッジ移動速度Veに着目してこのエッジ移動速度Veが0となる方向に第2ドラム22の位置を制御する。第2ドラム22上でバンド23が第2方向へ移動することが抑えられる。バンド23へのストレスが少なくなり、バンド23の寿命が長くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜設備のバンド位置制御装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長尺の光学フィルムの代表的な製造方法としては、連続方式の溶液製膜方法がある。溶液製膜方法は、周知のように、ポリマが溶剤に溶解している溶液(ドープ)を、走行する流延支持体の上に流延し、流延により膜状になったドープ、すなわち流延膜を流延支持体から剥がして乾燥することによりフィルムを製造する方法である。
【0003】
流延支持体には金属製のバンドやドラムがある。ドラムの場合には流延から剥がされるまでの距離がバンドに比べて短くなるため、流延膜が支持体から剥がせる程度の自己支持性を備えるように乾燥させる場合には不利である。このため、流延膜を長い距離で支持することができるバンド方式が多く利用されている。ところで、製造することができるフィルムの幅はバンドの幅に制約される。より広い幅のフィルムを製造するには、より広い幅のバンドが必要となる。しかし、これまで、バンドの製造技術上の問題から、幅が2m程度までのバンドしか得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−297486号公報
【特許文献2】特開2002−254452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、以下のようにしてフィルム製造装置における蛇行を制御している。先ず、エンドレスベルト(バンド)が正規走行路より右方に位置ずれを起こした際に、この位置ずれを第1検知手段で検知する。第1検知手段は位置ずれを検出したときに、右側修正指令信号を出力して右側伸縮手段により右側軸受部材を固定する。この状態では左側軸受部材はフリー状態が維持されるため、位置ずれを起こしたバンドからの張力により、ターンプーリ(ターンドラム)の回転軸が傾斜する。この傾斜によりバンドが張力の小さい方に移動し、バンドの位置ずれが修正される。同様にして、バンドが正規走行路より左方に位置ずれを起こした際にも、第2検知手段がこれを検知して同様の動作を行うことにより、位置ずれが修正される。
【0006】
特許文献2では、エンドレスベルトを保持する第1ドラムの近くに、ベルトエッジの位置を検出する第1ベルト位置検出手段と、第2ドラムの近くにベルトエッジの位置を検出する第2ベルト位置検出手段とを設け、各検出手段の位置検出情報と基準位置との差に応じて、ベルト位置調整機構を制御する。ベルト位置調整機構は、第2ドラムの一端部をシリンダによって変位させてドラム軸を傾斜させ、特許文献1と同様に蛇行を抑えている。
【0007】
ところで、従来は広幅の要求がなかったため、バンドの蛇行量としてはバンドの幅方向に、例えば2mのバンド幅の場合に50mm程度は許されていた。したがって、上記のような蛇行制御方法によっても対応が可能である。しかしながら、広幅化の要請によって、上記非流延領域を狭くしていくと、例えば2mのバンド幅の場合にはその蛇行量を2mm程度に抑える必要が出てくる。このため、例えば先行文献1,2に記載のように、一方の軸端部を変位させてターンドラム軸を傾斜させ、バンドの張力を利用しターンドラム上でバンドを移動させて位置ずれを修正する方法では、迅速に且つ精度良く位置ずれを修正することができず、広幅化の要請に対応することができないという問題がある。
【0008】
また、流延ダイのバンド走行方向上流側には、流延ダイからバンドに至るドープ流れであるビードを安定させるために、内部を負圧にした減圧チャンバを設けている。この減圧チャンバにおいて、負圧を一定に保つためには、バンドとの隙間を一定に保つ必要がある。したがって、バンドの蛇行量が大きくなると、減圧チャンバ内にバンドの側縁が位置してしまうこともある。この場合には、バンドの厚み分の隙間が減圧チャンバの側縁部にできてしまい、負圧の急激な変動が発生してビードが不安定になってしまうという問題がある。
【0009】
さらに、溶液製膜設備において、長期間のバンドの使用によってフィルムに厚みムラや表面特性ムラが発生することがある。鋭意研究を重ねた結果、この厚みムラ等はバンドを長期間使用することによって発生すること、特にバンドのドラム上における蛇行に起因するストレスによることが判明した。すなわち、バンドが蛇行する場合には、例えばドラムの周面上で、バンドがドラムの回転軸方向に滑って移動する。このドラム周面上におけるドラム回転軸方向への移動によって、バンドにはストレスがかかり、主に裏面に、走行方向に長い筋状の厚みムラ(ピーク)が発生し、このバンドの厚みムラは、バンド上の流延膜に転写され、フィルムの厚みムラ、表面特性ムラとなって現れることが判った。このため、バンドへのストレスを軽減するために、バンドの蛇行を効果的に抑える必要がある。
【0010】
しかしながら、従来の蛇行制御では、流延位置でのバンドの振れを小さくするという観点のみに着目しているため、流延位置の振れを小さくすることはできるものの、フィルムの厚みムラを無くすということには着目されていなかった。このため、経年変化による厚みムラ対策が不十分であり、厚みムラを少なくすることが望まれていた。
【0011】
そこで、本発明は、バンドへのストレスを極力抑えてバンドの長寿命化と筋状の厚みムラを無くすようにし、しかも広幅化にも対応可能な溶液製膜設備のバンド位置制御装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、前記第2ドラムの両軸端部の両軸受を前記第1方向に個別に移動させる右側移動機構及び左側移動機構と、前記第2ドラムの両軸受の前記第1方向における位置を検出する第2ドラム右側位置センサ及び第2ドラム左側位置センサと、前記バンドの幅方向である第2方向におけるエッジ位置を前記第2ドラムにて検出する第2ドラムバンドエッジ位置センサと、前記右側移動機構及び左側移動機構を作動させて前記第2ドラムバンドエッジ位置センサからのバンドエッジ位置の変動を抑えるバンドエッジ位置コントローラとを有する。
【0013】
前記バンドエッジ位置コントローラは、前記第2ドラムの前記第2方向におけるバンドエッジの移動速度を検出する第2ドラムバンドエッジ移動速度検出部と、前記第2ドラムバンドエッジ移動速度検出部からの第2ドラムバンドエッジ位置移動速度に基づき第2ドラムの傾きを求める第2ドラム傾き演算部と、前記第2ドラム傾き演算部からの第2ドラムの傾きに基づき、前記右側移動機構及び左側移動機構のドラム位置差を求めるドラム位置差演算部とを有し、前記ドラム位置差に基づき前記右側移動機構及び左側移動機構を作動させ、前記バンドエッジ移動速度を0に収束させることが好ましい。
【0014】
本発明は、第1ドラムにおける前記バンドの前記第2方向におけるエッジ位置を検出する第1ドラムバンドエッジ位置センサを有し、前記バンドエッジ位置コントローラは、前記第1ドラムバンドエッジ位置センサからの第1エッジ位置信号及び第1ドラムバンドエッジ位置センサにおける目標エッジ位置信号との差をフィードバックして、前記第2ドラムの前記軸受の位置を前記第1方向で変える第2ドラムの軸受位置補正信号を出力し、第1ドラムエッジ位置センサでのバンドエッジ位置を前記第2方向で一定にすることが好ましい。
【0015】
また、バンドエッジ位置コントローラは、バンドエッジ位置補償器を有し、前記バンドエッジ位置補償器は、前記第2ドラムバンドエッジ位置センサ、前記第1ドラムバンドエッジ位置センサの各信号と前記バンドの走行速度信号とに基づき、第1ドラムにおける前記バンドの前記第2方向でのエッジ位置を予測し、このエッジ位置予測値により前記差を補正することが好ましい。
【0016】
本発明の溶液製膜設備のバンドエッジ位置制御方法では、前記第2ドラムの両軸受の前記第1方向における位置を、第2ドラム右側位置センサ及び第2ドラム左側位置センサにより検出し、前記バンドの幅方向である第2方向におけるバンドエッジ位置を第2ドラムにて、第2ドラムバンドエッジ位置センサにより検出し、バンドエッジ位置コントローラにより、前記第2ドラムバンドエッジ位置センサからのバンドエッジ位置信号に基づき、第2ドラムの右側移動機構及び左側移動機構を用いて、第2ドラムの前記両軸受を前記第1方向に個別に移動させ、第2ドラムバンドエッジ位置センサからのエッジ位置の変動を抑える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、バンドの位置制御が精度良く行え、例えば2000mm幅のバンドに対して2〜3mm程度の振れ幅に抑えることができる。したがって、バンドのドラム軸方向での移動量が少なくなる。これにより、バンドの両側縁と流延膜の両側縁との間の非流延領域の幅を狭くすることができ、広幅の長尺フィルムを効率良く製造することができる。しかも、迅速且つ精度良くバンドの蛇行を抑えることができ、蛇行制御時のドラム上でのバンドシフト量も小さくなる。したがって、バンドの蛇行に起因する経年変化によって、バンドに筋状のピークが発生することが抑えられる。これにより、バンドの長寿命化と、製膜されるフィルムの厚みムラを無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】溶液製膜設備の概略図である。
【図2】バンドエッジ位置制御装置を平面から見たブロック図である。
【図3】同じく側面から見たブロック図である。
【図4】同じく制御ブロック図である。
【図5】第1・第2バンド相対位置とBE移動速度との関係を示すグラフである。
【図6】第2ドラムのドラム角度とバンドエッジ移動速度との関係を示すグラフである。
【図7】第2ドラムのドラム角度θ1を変えてバンドエッジの移動速度Veを変える原理を示す平面図である。
【図8】第2ドラムのドラム位置とテンションとの関係を示すグラフである。
【図9】第2ドラムバンドエッジ位置の制御における不感帯を示すグラフである。
【図10】バンドエッジ位置制御方法を示すフローチャートである。
【図11】エッジ位置の推移を示す説明図であり、蛇行の周期と振幅の一例を示している。
【図12】第2条件蛇行制御におけるエッジ位置の推移の一例を示す説明図である。
【図13】流延開始時に、テンションに基づくBEP制御を行わない比較例と、テンションを加味したBEP制御を行う本実施形態方法とのBEP変動の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すように、溶液製膜設備10は、流延装置11と、第1テンタ12と、ローラ乾燥装置13と、第2テンタ14と、スリッタ15と、巻取装置16とを上流側から順に直列に接続して構成される。
【0020】
流延装置11は、ドラム21,22に掛け巡らされたバンド23と、流延ダイ24と、ダクト25と、減圧チャンバ26と、剥ぎ取りローラ27と、バンドエッジ位置(BEP)の制御装置(以下、BEP制御装置という)28とを備える。バンド23は、環状に形成されたエンドレスの流延支持体であり、第1ドラム21と第2ドラム22との周面に巻き掛けられる。第1ドラム21はモータ(図2参照)29により回転駆動され、これによりバンド23が矢印Aで示す第1方向に走行する。
【0021】
第1ドラム21の上方には流延ダイ24が配置される。流延ダイ24は、走行しているバンド23に対し、ドープ30を連続的に流す。これにより、バンド23上には流延膜31が形成される。ドープ30は、例えばセルロースアシレートを溶剤に溶解したものであり、図示しないドープ製造ラインで製造され、流延ダイ24に供給される。
【0022】
流延ダイ24からのビード34に対して、バンド23の走行方向における上流には、減圧チャンバ26が設けられる。この減圧チャンバ26は、ビード34の上流側エリアの雰囲気を吸引して前記エリアを減圧し、ビード34の振動を減少させる。
【0023】
製造速度を向上するために、剥ぎ取りローラ27に向かう流延膜31は、第2ドラム22及びバンド23により加熱される。また、流延位置では、バンド23が過度に昇温することがないように、第1ドラム21によりバンド23が冷却される。このため、各ドラム21,22は図示しない温度調節装置を有する。
【0024】
ダクト25はバンド23の走行路に沿って、複数が並べて設けられる。各ダクト25はそれぞれ送風機を有する温風コントローラ(共に図示無し)に接続され、流出口から乾燥風を吹き出す。温風コントローラは、乾燥風の温度、湿度、流量を独立して制御する。乾燥風の温度及び流量の制御と、ドラム21,22自体の温度調節装置による温度制御とにより、流延膜31の温度が調節され、流延膜31の乾燥が進行する。そして、第1テンタ12での搬送が可能な程度にまで流延膜31が固化されて自己支持性が付与される。
【0025】
第1ドラム21の流延ダイ24の走行方向上流側には、剥ぎ取りローラ27が設けられる。剥ぎ取りローラ27は、溶剤を含む状態の乾燥が進行した流延膜31をバンド23から剥がす際に、流延膜31を支持する。剥ぎ取られた流延膜31、すなわちフィルム32は、第1テンタ12に案内される。
【0026】
第1テンタ12では、クリップ33によりフィルム32の両側縁部を把持して、フィルム32を搬送しながら、矢印Bで示す第2方向(フィルム幅方向)への張力を付与し、フィルム32の幅を拡げる。第1テンタ12には、上流側から順に、予熱エリア、延伸エリア、及び緩和エリアが形成される。なお、緩和エリアは必要に応じて設けられる。
【0027】
第1テンタ12は、1対のレール及びチェーン(共に図示無し)を有する。レールはフィルム32の搬送路の両側に、所定の間隔で離間して配される。このレール間隔は、予熱エリアでは一定であり、延伸エリアでは下流に向かうに従って次第に広くなり、緩和エリアでは一定、または下流に向かうに従って次第に狭くなっている。チェーンには一定間隔でクリップ33が取り付けられる。
【0028】
予熱エリア、延伸エリア、緩和エリアは、ダクト35からの乾燥風の送り出しによって空間として形成されるもので、これら各エリアの間に明確な境界はない。ダクト35のスリットからは、所定の温度や湿度に調整した乾燥風がフィルム32に向けて送られる。
【0029】
ローラ乾燥装置13では、多数のローラ36にフィルム32が巻き掛けられて搬送される。ローラ乾燥装置13の内部の雰囲気は、温度や湿度などが図示しない温調機により調節されており、フィルム32が搬送されている間に、フィルム32から溶剤が蒸発する。
【0030】
第2テンタ14は、第1テンタ12と同様の構造であり、クリップ38及びダクト39を有する。第2テンタ14は、フィルム32をクリップ38により保持して延伸する。この延伸により、所望の光学特性を有するフィルム32となる。得られるフィルム32は、例えば液晶ディスプレイ用の位相差フィルムとして利用することができる。なお、フィルム32の光学特性によっては、第2テンタ14は用いなくてもよい。
【0031】
スリッタ15は、第1テンタ12や第2テンタ14の各クリップ33,38による保持跡を含む側部を切除する。側部が切除されたフィルム32は、巻取装置16によりロール状に巻き取られる。
【0032】
図2及び図3に示すように、BEP制御装置28は、第2ドラム22のドラム軸22aの両端部に設けられる軸受40R,40Lと、シフト機構41R,41Lと、第2ドラム22の軸受位置センサ42R,42Lと、テンションセンサ43R,43Lと、第1ドラムバンドエッジ位置センサ(以下、第1ドラムBEPセンサという)44、第2ドラムバンドエッジ位置センサ(以下、第2ドラムBEPセンサという)45、中間部テンションセンサ46、バンドエッジ位置コントローラ(以下、BEPコントローラという)47とを備える。なお、図2において、バンド23の走行方向である第1方向Aに向かったときを基準にして、右側にある部材には各部材の符号に「R」が付してあり,左側にある部材には各部材の符号に「L」が付してある。
【0033】
第1ドラム21は軸受51によってドラム軸21aの両端部が回転自在に保持される。また、一端部にはドラム回転モータ29が接続される。ドラム回転モータ29にはTG(タコジェネレータ)50が接続され、このTG50は第1ドラム21の回転速度を検出する。ドラム回転モータ29はドライバ49を介してシステムコントローラ48に接続される。また、TG50もシステムコントローラ48に接続される。システムコントローラ48は、バンド23が一定速度で回転するように、ドラム回転モータ29の回転を制御する。なお、システムコントローラ48は、製膜条件に応じてバンド23の走行速度や乾燥温度を変更する。
【0034】
第2ドラム22のドラム軸22a(回転軸)の両端部は、軸受40R,40Lによって回転自在に保持される。これら軸受40R,40Lは各ドラム軸21a,22aを含む水平面内で、第1ドラム21に向かう第1方向に移動自在に設けられる。そして、シフト機構41R,41Lによって、それぞれ独自に第1方向Aに変位する。各軸受40R,40Lはシフト機構41R,41Lに水平面内で回転自在に取り付けられる。この第1方向への各軸受40R,40Lの独立した変位により、第2ドラム22は水平面内において、基準線BL1に対して任意の傾斜角度θ1で傾斜する。この傾斜によって、バンド23の蛇行が修正されるとともに、バンド23の張り(テンション)が調節される。しかも、左右両側で、個別に各軸受40R,40Lの位置を変更することができるため、第2方向(バンド幅方向)Bにおけるテンションムラも解消することができる。
【0035】
シフト機構41R,41Lは、各軸受40R,40Lを移動させることができるものであればよく、油圧シリンダを用いたものや、ウォーム軸の回転駆動によるものなどが、適宜選択される。
【0036】
右側軸受40Rには右側軸受位置センサ42Rが、また左側軸受40Lには左側軸受位置センサ42Lが取り付けられる。これら軸受位置センサ42R,42Lは、各軸受40R,40Lの第1方向Aでの位置を検出し、この位置信号を出力し、第2ドラム右側位置センサ及び第2ドラム左側位置センサとして機能する。なお、軸受位置センサ42R,42Lにより各軸受位置を検出する代わりに、第2ドラム22の軸端部の変位を第1方向で検出することができるものであればよく、検出位置や検出方法については、特に限定されない。
【0037】
各軸受40R,40Lとシフト機構41R,41Lとの間には、右側テンションセンサ43R及び左側テンションセンサ43Lが取り付けられる。これら右側テンションセンサ43R及び左側テンションセンサ43Lは、バンド23のテンションをそれぞれ検出し、テンション信号として出力する。
【0038】
第1ドラム21近傍には第1ドラムバンドエッジ位置センサセンサ(以下、第1ドラムBEPセンサという)44が設けられる。また、第2ドラム22上には第2ドラムバンドエッジ位置センサ(以下、第2ドラムBEPセンサという)45が設けられる。これら第1及び第2ドラムBEPセンサ44,45は、バンド23の一方の側縁、例えば左エッジ位置をフィルム幅方向(第2方向B)において検出し、第1バンドエッジ位置信号(以下、第1BEP信号という)、第2バンドエッジ位置信号(以下、第2BEP信号という)として出力する。
【0039】
第1ドラム21と第2ドラム22との中間位置で下側のバンド23の左側縁部近くには、中間部テンションセンサ46が設けられる。この中間部テンションセンサ46は、バンド23のテンションを下側バンド23の中央位置での懸垂量から求める。バンド23のテンションと懸垂量との間には、テンションが大きくなると懸垂量が小さくなる関係がある。式(1)はこの関係を表すもので、Tはバンドのテンション(N)、Ldはドラム中心間の距離(m)、Wbはバンドの幅(mm)、tはバンドの厚み(mm)、γはバンドの密度(kg/dm)、gは重力加速度(9.81m/s)、Dはドラム中間位置における自然な懸垂量(mm)である。
T=(Ld・Wb・t・γ・g)/(8・D) ・・・・(1)
【0040】
なお、バンド中央部の懸垂量は、上記のように、バンド自体の重みによる自然な懸垂量であってもよいし、または押さえローラなどにより下方に付勢した状態での懸垂量であってもよい。この場合には上記(1)式で求めたものに押圧力に応じた補正量を加味して算出する。この中間部テンションセンサ46からのテンション信号が一定になるように、各軸受40R,40Lの変位量を変化させることにより、常に一定範囲内に懸垂量を収めることができ、バンド23のテンションも略一定に保つことができる。
【0041】
各センサ42R,42L,43R,43L,44〜46からの信号はバンドエッジ位置コントローラ(以下、BEPコントローラという)47に送られる。BEPコントローラ47は、各センサ42R,42L,43R,43L,44,45からの各信号及びシステムコントローラ48からの第1バンドエッジ位置指令信号(以下、第1BEP指令信号という)、速度指令信号、テンション指令信号に基づき、第2ドラム22の各軸受40R,40Lの位置信号を出力し、第1ドラム21におけるバンド23のエッジが第2方向で常に一定範囲内に収まるようにバンドエッジ位置を制御する。
【0042】
図4に示すように、BEPコントローラ47は、第1ドラムバンドエッジ位置補償器(以下、第1ドラムBEP補償器という)56、第2ドラムバンドエッジ位置指令制御器(以下、第2ドラムBEP指令制御器という)57、第2ドラム位置指令制御器58、テンション制御器59、第1加算器61、第2加算器62、第3加算器63R,63L、第4加算器64、第2ドラムバンドエッジ移動速度検出部65(以下、第2ドラムBE移動速度検出部という)、テンション制御器59を備えている。
【0043】
第1ドラムBEP補償器56は、第1ドラムBEPセンサ44からの第1ドラムバンドエッジ位置信号と、第2ドラムBEPセンサ45からの第2ドラムバンドエッジ位置信号と、システムコントローラ48からのバンド走行速度指令信号との入力を受ける。まず、第2ドラムバンドエッジ位置の変動量から第2ドラムにおける第2方向Bでのバンドエッジ移動速度Ve1を求め、図5の移動速度図を作成する。バンドエッジ移動速度Ve1は、バンド23の走行速度に比例して変化するので、バンド走行速度指令信号も用いる。このバンドエッジ移動速度Ve1は、バンドが例えば1周する程度の長い期間における移動速度である。
【0044】
図5は、第1・第2バンド相対位置とバンドエッジ移動速度Veとの関係を表している。ここで、第1・第2バンド相対位置とは、(第1ドラムBEP−第2ドラムBEP)/バンド走行速度から求められるもので、第2ドラム22から見たバンド23の傾斜角度を示している。実線SLで表示する比例式Y=a1・Xは予め実機における実験やシミュレーションで求められている。平衡状態では、第1・第2バンド相対位置が基準位置「0」にあり、BE移動速度Veは「0」となる。この平衡状態から温度上昇によるバンドの温度分布ムラなどに起因し、平衡状態が崩れると、破線BRLで示すように、比例関係が例えば上方にY成分b1だけシフトする。そして、第1・第2バンド相対位置が例えば右側に変化すると、この変化に応じてBE移動速度Veも比例係数a1の比例関係で増加し、第1・第2バンド相対位置が左側に変化すると、第1・第2バンド相対位置が同じく比例関係で減少する。
【0045】
第1ドラムBEP補償器56には、第1及び第2ドラムBEPセンサ44,45から第1BEP信号、第2BEP信号が入力されており、またシステムコントローラ48からはバンド23の走行速度が入力されている。そして、第2ドラムBEPセンサ45からのBEP信号の変動量から現時点での第2ドラムバンドエッジ移動速度Ve1を求め、求めた第2ドラムバンドエッジ移動速度Ve1を、実線SLに対するシフト量b1として、Y=a1・X+b1の比例式からなる破線BRLを作成する。この破線BRLから、BE移動速度Veが「0」となる第1・第2相対位置、例えば図5の場合では「−0.2」を求める。
【0046】
次に、求めた第1・第2相対位置信号「−0.2」に基づき、現時点の速度指令と、第1ドラムBEPセンサ44からの第1ドラムBEP信号と、第2ドラムBEPセンサ45からの第2ドラムBEP信号とから、現時点の第1BEP信号に対し目標とする第2BEP信号を求める。これは、
(第1・第2バンド相対位置)=(第1ドラムBEP−第2ドラムBEP)/バンド走行速度・・・(2)
の式に、第1・第2バンド相対位置の「−0.2」と、現在のバンド走行速度と、現時点の第1ドラムBEP信号とを代入し、目標とする第2ドラムBEP信号を得る。そして、得られた第2BEP信号を第2ドラムにおける目標BEP信号とする。次に、この目標BEP信号と第2ドラムBEPセンサからの実際のBEP信号との偏差を求め、この偏差を位置補償値として、第2バンド位置指令制御器57に出力する。
【0047】
第1加算器61は、第1ドラムBEPセンサ44からの第1BEP信号とシステムコントローラ48からの目標値としての位置指令信号との偏差を求め、この偏差を第2ドラムBEP指令制御器57に入力する。
【0048】
第2ドラムBEP指令制御器57は、第1加算器61から入力された偏差信号をPID制御信号とし、このPID制御信号に第1ドラムBEP補償器56からの補償値を加算し、第2ドラムBEP指令信号として加算器62に出力する。
【0049】
第2加算器62は、第2ドラムBEPセンサ45からの第2BEP信号と、第2ドラムBEP指令制御器57からの第2BEP指令信号とを加算する。この加算後の信号は、第2ドラム位置指令制御器58に入力される。
【0050】
第2ドラムBE移動速度検出部65は、第2ドラムBEPセンサ45からのBEP信号に基づき、第2ドラム22におけるバンドエッジの第2方向における移動速度Ve2を求める。求めたBE移動速度Ve2は、第2ドラム位置指令制御器58に送られる。なお、ここで求めるBE移動速度Ve2は、第1ドラム補償器56で求めたBE移動速度Ve1に比較して、より短時間における移動速度であり、例えば第2ドラム1回転毎のデータに基づき算出される。
【0051】
第2ドラム位置指令制御部58は、BE移動速度Ve2と、各軸受位置センサ42R,42Lからの軸受位置信号に基づき、このBE移動速度Ve2を「0」にする方向に、第2ドラムの回転軸を傾斜させる各軸受位置信号をシフト機構41R,41Lに出力する。
【0052】
このため、第2ドラム位置指令制御器58は、第2ドラム傾き演算部58Aとドラム位置差演算部58Bとを有する。第2ドラム傾き演算部58Aは、図6に示すようなドラム角度θ1とBE移動速度Ve2との関係を示すテーブルを記憶している。上記テーブルの比例式からなる実線SLの比例係数a2は、予め実機による実験やシミュレーションなどにより求められる。この実線SLは、ドラム角度θ1が変化するときの、ドラム角度θ1に対応するBE移動速度Ve2の関係を表すものである。この実線SLを用いて、BE移動速度Ve2からこのBE移動速度Veを「0」に収束させるための目標ドラム角度θ1を求める。そして、求めた目標ドラム角度θ1をドラム位置差演算部58Bに送る。
【0053】
図6において、平衡状態では、第2ドラム22のドラム角度θ1が「0」のときにBE移動速度Ve2も「0」となる。この平衡状態から温度上昇によるバンドの温度分布ムラなどに起因し、平衡状態が崩れると、破線BRLで示すように、比例関係が例えば上方にY成分b2だけシフトする。そして、ドラム角度θ1が例えば右側に変化すると、この変化に応じてBE移動速度Ve2も比例係数a2の比例関係で増加し、ドラム角度θ1が左側に変化すると、BE移動速度Ve2が同じく比例関係で減少する。
【0054】
そこで、図6に示すように、実線SLに対するシフト量をb2とするY=a2・X+b2の比例式からなる破線BRLを作成する。この破線BRLから、BE移動速度Ve2が「0」となるドラム角度θ1、例えば図6の場合では「−0.2」を求める。この求めたドラム角度θ1を目標ドラム角度信号として、ドラム位置差演算部58Bに出力する。
【0055】
ドラム位置差演算部58Bは、目標ドラム角度θ1(=−0.2)に基づき両側の軸受の位置差に基づく補正量を算出する。この場合に、本実施形態では、第2ドラムBEPセンサ45のある位置を基準にして、それぞれ右側軸受位置差補正量MR1と、左側軸受位置差補正量ML1を求め、これらを第3加算器63R,63Lに出力する。具体的には、図7に示すように、第2ドラムBEPセンサ45を基準にして右側軸受の位置差補正量MR1を(MR1=LR1・tanθ1)から求める。同様にして、左側軸受の位置差補正量ML1を(ML1=LL1・tanθ1)から求める。なお、本実施形態では、第2ドラムBEPセンサ45の取り付け位置を基準にして各軸受の位置差補正量MR1,ML1を求めているが、第2ドラム22の第2方向における中央部を基準として、各位置差補正量MR1,ML1を求めてもよい。
【0056】
第3加算器63R,63Lは、テンション制御器59のテンションを一定にするための補償信号を各位置差補正量MR1,ML1に加算する。第4加算器64は、右側テンションセンサ43R及び左側テンションセンサ43Lからの左右のテンション信号の加算値と、システムコントローラ48からの目標値としてのテンション指令信号との差を求め、この信号をテンション制御器59に出力する。
【0057】
テンション制御器59はドラム位置補償器59aから構成され、テンション変動を打ち消すドラム位置補償値を出力する。このため、ドラム位置補償器59aには、右側軸受位置センサ42Rから右側軸受位置信号PR1が、左側軸受位置センサ42Lから左側軸受位置信号PL1が、また第4加算器64からテンション指令差信号T1がそれぞれ入力される。
【0058】
テンション制御器59は、図8に示すようなドラム位置PとテンションTとの関係を示すテーブルを記憶している。上記テーブルの比例式からなる実線SLの比例係数a3は、予め実機による実験やシミュレーションなどにより求められる。この実線SLは、ドラム位置Pが変化するときの、ドラム位置Pに対応するテンションTの変動を示している。この比例式SLを用いて、テンション指令差信号T1に対応するドラム位置差補正量MR2,ML2を求める。
【0059】
図8において、平衡状態では、第2ドラム22のドラム位置Pが「0」のときにテンションTも「0」となる。この平衡状態から温度上昇によるバンドの温度分布ムラなどに起因し、平衡状態が崩れると、破線BRLで示すように、比例関係が例えば上方にY成分b3だけシフトする。そして、ドラム位置Pが例えば右側に変化すると、この変化に応じてテンションTも比例係数a3の比例関係で増加し、ドラム位置Pが左側に変化すると、テンションTが同じく比例関係で減少する。
【0060】
そこで、図8に示すように、実線SLに対するシフト量をbとするY=a3・X+b3の比例式からなる破線BRLを作成する。この破線BRLから、テンションTが「0」となるドラム位置P、例えば図8の場合では「−0.1」を求め、この求めたドラム位置Pを目標ドラム位置差補正量とする。そして、右側軸受位置センサ42Rの位置信号PR1に対しドラム位置差補正量MR2,ML2を加算して右側軸受の補償値信号(PR1+MR2),左側軸受の補償値信号(PL1+ML2)として、第3加算器63R,63Lに出力する。
【0061】
第3加算器63R,63Lは、第2ドラム位置指令制御器58からの右側軸受位置差補正量MR1、左側軸受位置差補正量ML1がそれぞれ出力されるから、各シフト機構41R,41Lには、右側軸受位置信号(PR1+MR1+MR2)と、左側軸受位置信号(PL1+ML1+ML2)とが出力される。
【0062】
各シフト機構41R,41Lは、右側軸受位置信号(PR1+MR1+MR2)と、左側軸受位置信号(PL1+ML1+ML2)とに基づき各軸受40R,40L(図2参照)を移動させる。これにより、第2ドラム22のドラム軸22aが水平面において基準線BL1に対してドラム角度θ1で傾斜し、これに対応してバンド23が傾斜分だけ第2ドラム22上で変位し、第1ドラムBEPセンサ44におけるバンドエッジ位置が目標位置に変更される。このように、左右のシフト機構41R,41Lを用いて、第2ドラム22のドラム軸を瞬時に変更させることができるため、バンド23の走行が高速度であっても、迅速且つ確実に蛇行を抑えることができる。
【0063】
以上の一連の動作によって、第2ドラム22のドラム軸22aの両端部が各信号に見合った位置に変化するため、第1ドラム21におけるバンドエッジ位置が常に一定した範囲内に保持される。したがって、第1ドラムにおけるバンドエッジ位置の変動を抑えることができ、ビードを精度良くバンドの一定位置に流延させることができる。バンドエッジ位置の変動が抑えられるため、バンド23のエッジ近くまで流延することができ、フィルム32の広幅化に容易に対応することができる。
【0064】
特に、第1ドラムBEPセンサ44、第2ドラムBEPセンサ45を設け、第1ドラムBEP補償器56により、第2ドラムBEPセンサ45、第1ドラムBEPセンサ44の信号と前記バンド23の走行速度信号とに基づき、第1ドラム21におけるバンド23の第2方向におけるエッジを予測し、この予測値により前記差を補償しているので、蛇行が実際に発生する前に蛇行を抑えることができ、且つ蛇行幅も小さく抑えることができる。したがって、第1ドラム21におけるバンド23のエッジを範囲の狭い一定位置に保持させることができる。
【0065】
さらに、第2ドラム22のドラム軸22aの両端部にそれぞれ設けられ、バンド23のテンションを右側及び左側でそれぞれ検出する右側テンションセンサ43R及び左側テンションセンサ43Lと、テンション制御器59とを設け、テンション制御器59により、右側テンションセンサ43R及び左側テンションセンサ43Lの各テンション信号と目標テンションとに基づき目標テンションになるように第2ドラム22の軸受位置補正信号を出力するので、テンション変動も加味した蛇行制御が可能になり、第1ドラム21におけるバンド23のエッジをほぼ一定位置に、さらに精度良く位置させることができる。
【0066】
また、テンション制御器59によって、バンド23の温度分布が不安定な時期でのテンション変動が効率良く抑えられるため、流延開始時や、流延速度の変更、流延膜の乾燥温度の変更などにおいてバンドの蛇行が効率よく抑えられる。このようにテンション変動も考慮した多重ループによって、流延開始時などのバンドの温度分布が変化しやすい時期であっても、第1ドラム21上のバンドエッジ位置のフィルム幅方向における変動幅を従来のものに比べて小さい一定範囲、例えばバンド幅が2000mmの場合に、2mmの変動幅に抑えることができ、この分だけ蛇行制御が精度良く行われる。
【0067】
以上のように、テンション変動に対する蛇行補正制御は、流延開始時に特に有効である。流延開始時は定常時と異なり、バンド23の幅方向温度分布が均一になっていないため、この温度分布の不均一によりバンド23の第1方向長さが第2方向において部分的に変動しやすい。この部分的なテンション変動を左右のテンションセンサ43R,43Lによって、蛇行要因成分としてとらえることができ、バンド23の温度分布むらに起因する蛇行を効果的に取り除くことができる。したがって、流延開始時の蛇行制御を精度良く行うことができる。
【0068】
なお、上記実施形態では、第2ドラム角度θそのものを用いることなく、制御因子として直接利用可能な軸受位置センサ42R,42Lの位置信号を用いて、蛇行を抑える制御を行っているが、用いる制御因子としては第2ドラム角度θを変更することができるものであればよく、第2ドラム角度θをそのまま用いて、蛇行を抑える制御を行ってもよい。
【0069】
上記実施形態では、図5、図6、図8において、各関係を直線で表した比例関係で説明したが、この関係は比例関係に限られず、各種曲線で表される関係であってもよい。
【0070】
上記実施形態では、第2ドラム22のドラム軸22aに設けたテンションセンサ43R,43Lからのテンション信号によって、バンド23の左右でのテンション変動も加味した蛇行制御を行っているが、これに代えて、バンド走行方向の中間位置における下側バンドの懸垂量に基づくテンションセンサ46からの信号に基づき、テンション変動を加味させた蛇行制御をしてもよい。この場合には、図4において、右側及び左側のテンションセンサ43R,43Lを省略して、これらからのテンション信号の代わりに、中間部テンションセンサ46のテンション信号を第4加算器64に入力する。
【0071】
さらには、右側及び左側のテンションセンサ43R,43Lのテンション信号の他に、中間部テンションセンサ46のテンション信号を第4加算器64に入力し、中間部テンションセンサ46のテンション信号を加味して蛇行制御してもよい。この場合には、右側及び左側のテンションセンサ43R,43Lのテンション信号と、中間部テンションセンサ46のテンション信号との重み付けを変えて、加算することで、蛇行制御をより精度よく行うことができる。
【0072】
図9に示すように、第2ドラムBEPが一定範囲の不感帯Z1に入っている場合には、上記各軸受位置信号を変化させないように設定する。したがって、不感帯Z1から第2ドラムBEPが出たときに、ドラム傾き制御(両側の軸受位置の個別移動によるドラム傾き制御)を開始する。このような不感帯Z1内での変動に対し、いちいち制御を行っていたのでは、さらに大きな変動を誘発してしまうこともあるので、不感帯Z1を超えたものに対してのみ制御を行う。これにより、大きな変動が誘発されることがなく、精度よく所定の制御幅内にバンドエッジ位置を抑えることができる。
【0073】
上記のようにして、流延開始時の他に、乾燥条件変更時、流延速度変更、ドープ成分切り換え時などの各種変化に対応させて蛇行制御を精度よく行うことができる。なお、流延開始や条件変更から一定時間が経過して、バンド23の温度むらや乾燥風の温度むらなどが少なくなると、蛇行も少なくなり、バンド23の走行も安定してくる。このような場合には、バンドの温度むらや乾燥風の温度むらに起因するテンション変動が無くなるため、テンション変動に起因する蛇行制御は停止してもよい。テンション変動に起因する蛇行制御を停止することにより、シフト機構の長寿命化が図れる。
【0074】
この場合には、図10に示すように、流延開始時や製膜条件の変更時に行う第1条件蛇行制御ステップS1から、テンション変動に起因する蛇行制御を不実施とし、第1ドラムBEPセンサ44、第2ドラムBEPセンサ45の信号に基づくBEP制御のみを実施する第2条件蛇行制御ステップS2に、自動的に切り替える。この切り換えは、バンド23の温度分布などが均一となって定常状態に移行した後に行う。定常状態への移行の検出は、経験値に基づく定常状態への移行時間に基づき行う。この第2条件蛇行制御ステップS2では、バンド23へのストレスを小さくする蛇行制御が行われる。
【0075】
第1条件蛇行制御ステップS1から、第2条件蛇行制御ステップS2への切り換えは、一定時間を経過したか否かに代えて、または加えて、蛇行の振幅Wm1(図11参照)が一定範囲内に収束し、この収束している時間が一定時間を経過したときに、第2条件蛇行制御ステップS2に切り換えてもよい。
【0076】
バンド23にかかるストレスはK・Wm/Tmで求めることができる。Kは補正係数、Wmは蛇行の振幅、Tmは蛇行の周期である(図11参照)。上記式から明らかなように、振幅Wmが大きくなるとそれに比例してストレスが増加する。また、周期Tmが長くなると、周期Tmの二乗に反比例してストレスは減少する。
【0077】
本実施形態では、定常状態では、テンション変動に起因する蛇行制御を停止するため、テンション変動を抑えるような軸受位置変更を発生させることがなくなるため、その分だけBEPの変動周期が長くなり、バンド23へのストレスを軽減することができる。したがって、バンド23の蛇行に起因する経年変化によって、バンド23に筋状のピークが発生することを抑えることができ、寿命を長くすることができる。
【0078】
図11は流延開始時のBEP信号に基づく蛇行周期Tm1と振幅Wm1とを示している。また、図12は定常状態に移行した後のBEP信号に基づく蛇行周期Tm2と振幅Wm1とを示している。このように、定常状態では蛇行周期Tm2が流延開始時の蛇行周期Tm1よりも長くなっており、ストレスが軽減される。図13は、流延開始時に従来方法と本実施形態方法とを実施した際のBEPによる蛇行の一例を示している。従来方法では、テンションを加味したBEP制御を行っていないため、バンド23の温度分布ムラによるテンション変動分が加わり、振幅が大きくなっていることがわかる。これに対して、本実施形態のように、テンションを加味したBEP制御を行うことによって、バンド23の温度分布ムラによるテンション変動分が効果的に抑えられ、振幅幅が狭い範囲に抑えられている。
【0079】
上記実施態様では、流延位置が第1ドラム21に対するバンド23の巻き掛け領域上になるように流延ダイ24を設けたが、流延ダイ24の位置は適宜変更してよい。例えば、流延位置が第1ドラム21から第2ドラム22に向かうバンド23上になるように、両ドラム21,22の間に流延ダイ24を設けてもよい。この場合には、ドラム21からドラム22へ向かうバンド23の下に支持ローラを設け、支持ローラ上のバンド23に対向するように流延ダイ24を配置することが好ましい。この場合に、第1ドラムBEPセンサ44を第1ドラム21近くに設ける代わりに、流延位置近くに設けてもよい。
【0080】
バンド23の幅は特に限定されるものではないが、幅Wbが1500mm以上2100mm以下のものが好ましく用いられ、製造するフィルム32の広幅化の要請からは幅が広いものが用いられる。バンド23の長さは、流延速度や乾燥条件などに応じて決定される。
【0081】
バンド23上に流延されるドープは溶液製膜が可能なポリマを溶剤に溶解させたドープであればよいが、セルロースアシレートが好ましく用いられる。セルロースアシレートのアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基を有していても良い。アシル基が2種以上であるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわち、アシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものが好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、アシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。
【0082】
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 1.0≦ A ≦3.0
(III) 0 ≦ B ≦2.0
【0083】
アシル基の全置換度A+Bは、2.20以上2.90以下であることがより好ましく、2.40以上2.88以下であることが特に好ましい。また、炭素原子数3〜22のアシル基の置換度Bは、0.30以上であることがより好ましく、0.5以上であることが特に好ましい。中でも、セルロースアシレートとしてセルロースジアセテート(DAC)が好ましく用いられる。
【符号の説明】
【0084】
10 溶液製膜設備
11 流延装置
21 第1ドラム
22 第2ドラム
21a ドラム軸
23 バンド
30 ドープ
31 流延膜
32 フィルム
40R,40L 軸受
41R,41L シフト機構
42R,42L 軸受位置センサ
43R,43L テンションセンサ
44 第1ドラムBEPセンサ
45 第2ドラムBEPセンサ
46 中間部テンションセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ドラムと第2ドラムとの間に掛け渡されて、前記第1ドラムから前記第2ドラムに向かう第1方向に走行するバンド上に、ポリマが溶剤に溶解したドープを流延ダイから流延して前記バンドに流延膜を形成し、前記流延膜をバンドから剥がして乾燥させフィルムにする溶液製膜設備のバンドエッジ位置制御装置において、
前記第2ドラムの両軸端部の両軸受を前記第1方向に個別に移動させる右側移動機構及び左側移動機構と、
前記第2ドラムの両軸受の前記第1方向における位置を検出する第2ドラム右側位置センサ及び第2ドラム左側位置センサと、
前記バンドの幅方向である第2方向におけるエッジ位置を前記第2ドラムにて検出する第2ドラムバンドエッジ位置センサと、
前記右側移動機構及び左側移動機構を作動させて前記第2ドラムバンドエッジ位置センサからのバンドエッジ位置の変動を抑えるバンドエッジ位置コントローラと
を有することを特徴とする溶液製膜設備のバンドエッジ位置制御装置。
【請求項2】
前記バンドエッジ位置コントローラは、
前記第2ドラムの前記第2方向におけるバンドエッジの移動速度を検出する第2ドラムバンドエッジ移動速度検出部と、
前記第2ドラムバンドエッジ移動速度検出部からの第2ドラムバンドエッジ位置移動速度に基づき第2ドラムの傾きを求める第2ドラム傾き演算部と、
前記第2ドラム傾き演算部からの第2ドラムの傾きに基づき、前記右側移動機構及び左側移動機構のドラム位置差を求めるドラム位置差演算部とを有し、
前記ドラム位置差に基づき前記右側移動機構及び左側移動機構を作動させ、前記バンドエッジ移動速度を0に収束させることを特徴とする請求項1記載の溶液製膜設備のバンドエッジ位置制御装置。
【請求項3】
前記第1ドラムにおける前記バンドの前記第2方向におけるエッジ位置を検出する第1ドラムバンドエッジ位置センサを有し、
前記バンドエッジ位置コントローラは、前記第1ドラムバンドエッジ位置センサからの第1エッジ位置信号及び第1ドラムバンドエッジ位置センサにおける目標エッジ位置信号との差をフィードバックして、前記第2ドラムの前記軸受の位置を前記第1方向で変える第2ドラムの軸受位置補正信号を出力し、第1ドラムエッジ位置センサでのバンドエッジ位置を前記第2方向で一定にすることを特徴とする請求項1または2記載の溶液製膜設備のバンドエッジ位置制御装置。
【請求項4】
前記バンドエッジ位置コントローラは、バンドエッジ位置補償器を有し、
前記バンドエッジ位置補償器は、前記第2ドラムバンドエッジ位置センサ、前記第1ドラムバンドエッジ位置センサの各信号と前記バンドの走行速度信号とに基づき、第1ドラムにおける前記バンドの前記第2方向でのエッジ位置を予測し、このエッジ位置予測値により前記差を補正することを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の溶液製膜設備のバンドエッジ位置制御装置。
【請求項5】
第1ドラムと第2ドラムとの間に掛け渡されて、前記第1ドラムから前記第2ドラムに向かう第1方向に走行するバンド上に、ポリマが溶剤に溶解したドープを流延ダイから流延して前記バンドに流延膜を形成し、前記流延膜をバンドから剥がして乾燥させフィルムにする溶液製膜設備のバンドエッジ位置制御方法において、
前記第2ドラムの両軸受の前記第1方向における位置を、第2ドラム右側位置センサ及び第2ドラム左側位置センサにより検出し、
前記バンドの幅方向である第2方向におけるバンドエッジ位置を第2ドラムにて、第2ドラムバンドエッジ位置センサにより検出し、
バンドエッジ位置コントローラにより、前記第2ドラムバンドエッジ位置センサからのバンドエッジ位置信号に基づき、第2ドラムの右側移動機構及び左側移動機構を用いて、第2ドラムの前記両軸受を前記第1方向に個別に移動させ第2ドラムバンドエッジ位置センサからのエッジ位置の変動を抑えることを特徴とする溶液製膜設備のバンドエッジ位置制御方法。
【請求項6】
前記第2ドラムでの前記第2方向におけるバンドエッジの移動速度を第2ドラムバンドエッジ移動速度検出部により検出し、
検出した前記バンドエッジの移動速度信号に基づき、第2ドラムの第2方向における基準線に対する第2ドラムの傾きを第2ドラム傾き検出部により求め、求めた第2ドラム傾きに基づき、前記右側移動機構及び左側移動機構を作動させ、前記バンドエッジ移動速度を0に収束させることを特徴とする請求項5記載の溶液製膜設備のバンドエッジ位置制御方法。
【請求項7】
前記第1ドラムにおける前記バンドの前記第2方向におけるエッジ位置を、第1ドラムバンドエッジ位置センサにより検出し、
前記バンドエッジ位置コントローラにより、前記第1ドラムバンドエッジ位置センサからの第1バンドエッジ位置信号及び第1ドラムバンドエッジ位置センサにおける目標エッジ位置信号との差をフィードバックし、前記第2ドラムの前記軸受の位置を前記第1方向で変え、第2ドラムの軸受位置補正信号を出力し、第1ドラムバンドエッジ位置センサでのバンドエッジ位置を前記第2方向で一定に保持することを特徴とする請求項5または6記載の溶液製膜設備のバンドエッジ位置制御方法。
【請求項8】
前記バンドエッジ位置コントローラはバンドエッジ位置補償器を有し、
前記バンドエッジ位置補償器により、前記第2ドラム右側位置センサ、第2ドラム左側位置センサ、第2ドラムバンドエッジ位置センサ、第1ドラムバンドエッジ位置センサの各信号と前記バンドの走行速度信号とに基づき、第1ドラムにおける前記バンドの前記第2方向でのバンドエッジ位置を予測し、このエッジ位置予測値により前記差を補正することを特徴とする請求項5から7いずれか1項記載の溶液製膜設備のバンドエッジ位置制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−18181(P2013−18181A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152817(P2011−152817)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】