説明

溶液遠心濃縮装置及び方法

【課題】 タンパク質溶液のような透明又は透明に近い溶液の液面位置を高速回転中に高い精度で検出する溶液遠心濃縮装置及び方法を提供する。
【解決手段】 上部容器と下部容器の間にフィルタが装着された透明な筒状容器1(チューブ)を用いる。複数の筒状容器1を鉛直回転軸Zに対し対称に装着可能であり鉛直回転軸Zを中心に高速回転可能なロータ12と、ロータの回転中に各筒状容器の位置を検出する位置検出センサ14と、ロータの回転中に筒状容器内の溶液の液面3を検出する液面検出装置16と、ロータの回転及び停止を制御する遠心制御装置とを備える。液面検出装置16は、複数対の発光素子16aと受光素子16bを有し、各対の発光素子と受光素子は、溶液が無い場合には、光が筒状容器の表面で反射して受光素子に戻って受光素子がオンの状態となり、溶液が有る場合には、筒状容器と溶液でレンズ効果となり、光が散乱して受光素子がオフとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質溶液のような実質的に透明又は透明に近い溶液を、高速回転による遠心力で短時間に濃縮し、かつ回転中に液面位置を高い精度で検出して無駄時間なく停止し、これにより濃縮を短時間に確実に行う溶液遠心濃縮装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学分野において、血液から血液成分を分離する手段として、遠心分離器を用いた手段が開示されている(例えば、特許文献1〜3)。
これらの手段は、血液をその比重差により、血漿、白血球、血小板、赤血球等の血液成分に連続的に遠心分離し、成分間の界面を光学的センサで検出して遠心分離器の運転状態(例えば回転速度)を制御するものである。
【0003】
また、成分間の界面を検出する手段として、特許文献2には、図7に示す光学センサ51が開示されている。この光学センサ51は、LEDのような発光素子とフォトダイオードのような受光素子が列状に配置されたラインセンサである。このラインセンサは、発光素子から発せられた光の血液成分での反射光を受光素子により受光し、その受光光量を光電変換するように構成されている。この構成により、分離されたバフィーコート層52と赤血球層53とで反射光の強度が異なるため、受光光量すなわち出力電圧が変化した受光素子に対応する位置を、界面の位置として検出する。
【0004】
また、成分間の界面を検出する別の手段として、特許文献3には、図8に示す光学センサ61が開示されている。この光学センサ61は、投光部62から光(例えばレーザー光)を照射(投光)し、ロータ63の反射面64で反射された反射光を受光部65で受光し、受光光量の変動を受光部65からの出力電圧の変化として検出するものである。
【0005】
一方、例えば、核磁気共鳴(NMR)スペクトルやX線結晶構造解析により、タンパク質の構造解析を行うために、タンパク質を含む溶液(以下、「タンパク質溶液」と呼ぶ)を精製後、濃縮して測定試料を調製するための溶液濃縮手段として、遠心分離限外ろ過法が知られている。
この遠心分離限外ろ過法は、所定の分画分子量を有するろ膜(フィルタ)が装着された遠心分離用のチューブ(筒状容器)に少量のタンパク質液を入れ(分注し)、遠心分離器を用いて各チューブ内の溶液を遠心力で限外ろ過するものである。
【0006】
タンパク質は、変性、分解、吸着などにより失活するので、タンパク質溶液の濃縮は、できるだけ短時間に行うことが必要となる。
しかし、従来の遠心分離限外ろ過法では、濃縮液の量が測定所要量になるまでに遠心分離器を何度も停止させて目視による確認を行わなければならず、目的の濃縮液が得られるまでに長時間(例えば4〜8時間)かかる問題点があった。
また特に、複数種類の溶液を同一の遠心分離器で濃縮する場合には、それぞれの溶液のろ過速度が相違するため、遠心分離器の停止頻度が増加し、チューブ内溶液の目視観察に時間と手間がさらにかかる問題点があった。
【0007】
そこで、上述した従来の遠心分離限外ろ過法の問題点を解決するため、本発明の発明者らは、先にこれらの操作を自動化可能な溶液濃縮装置を創案し出願している(特許文献4)。
【0008】
この装置は、図9に示すように、複数の溶液収容手段71と、溶液収容手段を保持するロータ72と、そのロータを回転させる駆動モータ73と、溶液収容手段に収容された溶液の液面レベルを検出する液面検出手段75と、液面検出手段により検出された液面レベル情報に基づいて、溶液収容手段に供給すべき溶液の量を制御する溶液供給量制御手段77と、溶液供給量制御手段により求められた量の溶液を溶液収容手段に供給する溶液供給手段79とを具備したものである。
【0009】
また、この発明の好ましい実施例では、溶液収容手段71の回転周期に同期して溶液供給手段79を回転駆動する回転機構と、溶液収容手段と溶液収容手段とを連結する溶液供給路を更に備え、溶液収容手段への溶液の供給を溶液収容手段の回転駆動中に行うようになっている。
【0010】
また、この出願において、液面検出手段75は、例えばCCDセンサであり、チューブ内の液面の画像情報、光透過、光吸収、光散乱等の状態変化、又は反射率の変化から液面位置を検出する。
さらに、この液面検出手段75は、溶液収容手段の回転周期に同期したタイミングで溶液の液面レベルを検出するようになっていた。
【0011】
【特許文献1】特開平7−206691号公報、「自動化された血漿隔離のための装置と方法」
【特許文献2】特開平9−47505号公報、「血液成分分離装置および血小板採取方法」
【特許文献3】特開2002−291872号公報、「血液成分採取装置」
【特許文献4】特開2004−73993号公報、「溶液濃縮装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、タンパク質は、変性、分解、吸着などにより失活するので、タンパク質溶液の濃縮は、できるだけ短時間に行う必要がある。
また、タンパク質の構造解析等を目的とする場合、ヒトのタンパク質だけでも約10000種類にも及ぶため、異なるタンパク質溶液を、解析可能な少量ずつ、できるだけ複数を同時に濃縮することが要望される。
【0013】
上述した特許文献1〜3の手段は、比重差による連続遠心分離であるため、複数の異なる溶液を、少量ずつ同時に濃縮(フィルタを用いてろ過)することはできない。
また、特許文献2、3の界面検出手段は、光の吸収率が大きく異なる血液成分(例えば、バフィーコート層と赤血球層)の界面を反射光又は透過光の受光光量の変化から検出するため、タンパク質溶液のように、実質的に透明又は透明に近い溶液の場合、液面からの反射光又は溶液の透過光は、受光光量がほとんど変化しないため、正確な検出が困難であった。
【0014】
また、特許文献4に開示した液面検出手段の場合、液面の画像情報から液面位置を検出することは原理的には可能であるが画像処理等を必要とするため、複雑でありかつ位置検出精度が低い問題点があった。また、光透過、光吸収、光散乱等の状態変化、又は反射率の変化から液面位置を検出するのは、実質的に透明な溶液の場合、光透過、光吸収、光散乱、反射光の光量はほとんど変化しないため、特許文献1〜3と同様に正確な検出が困難であった。
【0015】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、タンパク質溶液のような実質的に透明又は透明に近い溶液を対象とすることができ、複数の異なる溶液の液面位置を高速回転中に高い精度で検出することができ、複数の異なる溶液を少量ずつ同時に短時間に濃縮でき、かつ溶液の再注入や緩衝液の注入を短時間に確実に行うことができる溶液遠心濃縮装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、上部容器と下部容器が着脱可能に連結されその間にフィルタが装着された透明な複数の筒状容器を鉛直回転軸に対し対称に装着可能であり、前記鉛直回転軸を中心に高速回転可能なロータと、
ロータの回転中に各筒状容器の位置を検出する位置検出センサと、
ロータの回転中に各筒状容器内の溶液の液面を検出する液面検出装置と、
ロータの回転及び停止を制御する遠心制御装置とを備え、
前記液面検出装置は、複数対の発光素子と受光素子を有し、各対の発光素子と受光素子は、それぞれ所定位置の液面に対し、溶液が無い場合には、光が筒状容器の表面で反射して受光素子に戻って受光素子がオンの状態となり、溶液が有る場合には、筒状容器と溶液でレンズ効果となり、光が散乱して受光素子がオフとなる、ことを特徴とする溶液遠心濃縮装置が提供される。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記液面検出装置は、位置検出センサによる各筒状容器の検出と同期して、各筒状容器内の液面検出を行なう。
【0018】
また、前記ロータは、前記複数対の発光素子と受光素子の検出位置において、各対の発光素子からの光をそれぞれ所定位置の筒状容器の表面に導き、かつそれぞれ所定位置の筒状容器の表面から反射した光を各対の受光素子のみに導く複数対の開口孔を有する。
【0019】
また、前記ロータの上部に位置し、前記筒状容器内に所定の溶液又は緩衝液を注入する分注ユニットを備え、
前記遠心制御装置は、ロータ内の所定の筒状容器が所定の注入位置に位置するようにロータを停止させる。
【0020】
前記分注ユニットは、所定の溶液又は緩衝液を内部に収容し、上部が閉じ下端部が細く下方に伸び、下端が開口した中空円筒形の複数の分注シリンジと、
該各分注シリンジの液面上に連通し、液面上の気体圧を調整可能な注圧調整装置と、
複数の分注シリンジを水平に間隔を隔てて保持し、順次所定の注入位置に間隔を保ちつつ水平に移動させる水平移動装置と、
所定の注入位置に位置する分注シリンジを下降させて、注入位置に位置する筒状容器内に分注シリンジの下端部を挿入する昇降装置と、
前記注圧調整装置、水平移動装置、及び昇降装置を制御する分注制御装置とを備える。
【0021】
また、本発明によれば、上部容器と下部容器が着脱可能に連結されその間にフィルタが装着された透明な筒状容器を使用し、
複数の前記筒状容器を装着したロータを、ロータ内の所定の筒状容器が所定の注入位置に位置するようにロータを回転させるロータ位置決めステップと、
所定の溶液を内部に収容した中空円筒形の分注シリンジから前記筒状容器内に溶液を注入する溶液注入ステップと、
ロータを所定の速度で回転させ遠心力で溶液をフィルタによりろ過する遠心濃縮ステップと、
ロータの回転中に各筒状容器の位置を検出し、この検出と同期して、各筒状容器内の溶液の液面を検出する液面検出ステップと、
液面が所定位置に達したときに、ロータを減速し停止するロータ停止ステップと、を有することを特徴とする溶液遠心濃縮方法が提供される。
【0022】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記液面検出ステップにおいて、予め複数の液面位置を設定し、
各液面位置に対し、溶液が無い場合には、光が筒状容器の表面で反射して受光素子に戻って受光素子がオンの状態となり、溶液が有る場合には、筒状容器と溶液でレンズ効果となり、光が散乱して受光素子がオフとなる。
【0023】
また、予め再注入の有無を設定し、再注入有りの場合、前記ロータ位置決めステップ、溶液注入ステップ、遠心濃縮ステップ、及び液面検出ステップを設定回数繰り返す、ことが好ましい。
【0024】
また、予め緩衝液の有無を設定し、緩衝液有りの場合、所定の緩衝液を内部に収容した中空円筒形の緩衝液シリンジから前記筒状容器内に緩衝液を注入する緩衝液注入ステップと、
ロータを所定の速度で回転させ遠心力で緩衝液をフィルタを透過させる緩衝液透過ステップとを設定回数繰り返す、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
上記本発明の装置及び方法によれば、ロータの回転中に筒状容器内の溶液の液面を検出する液面検出装置を備え、各液面位置に対し、前記液面検出ステップにおいて、予め複数の液面位置を設定し、溶液が無い場合には、光が筒状容器の表面で反射して受光素子に戻って受光素子がオンの状態となり、溶液が有る場合には、筒状容器と溶液でレンズ効果となり、光が散乱して受光素子がオフとなるので、タンパク質溶液のような実質的に透明又は透明に近い溶液を対象とすることができる。
また、ロータの回転中に各筒状容器の位置を検出する位置検出センサを備え、位置検出センサによる各筒状容器の検出と同期して、各筒状容器内の液面検出を行なうので、複数の異なる溶液の液面位置を高速回転中に高い精度で検出することができる。
また、ロータの上部に位置し、前記筒状容器内に所定の溶液又は緩衝液を注入する分注ユニットを備え、ロータ位置決め、溶液注入、遠心濃縮、液面検出、ロータ停止の各ステップを順次自動でできるので、複数の異なる溶液を少量ずつ同時にかつ短時間に濃縮することができる。
さらに、再注入の有無及び緩衝液の有無を予め設定することにより、溶液の再注入や緩衝液の注入を自動でできるので、溶液の再注入や緩衝液の注入を短時間に確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面に基づき説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複して説明を省略する。
図1は、本発明の溶液遠心濃縮装置の全体構成図である。この図において、本発明の溶液遠心濃縮装置は、遠心ユニット10、分注ユニット20、及び制御ユニット30からなる。
【0027】
制御ユニット30は、主制御装置32、遠心制御装置34、及び分注制御装置36からなる。主制御装置32は、入力装置32a、表示装置32b、記憶装置32c、演算装置32d、及び入出力装置を備えたPC(コンピュータ)であり、遠心制御装置34及び分注制御装置36を制御する。
入力装置32aは、例えばキーボードであり、複数の筒状容器1に対し、予め再注入の有無、緩衝液の有無、回転速度、液面検出位置等を設定する。これらの各データは記憶装置32cに記憶される。
【0028】
遠心ユニット10は、ロータ12、位置検出センサ14、及び液面検出装置16を備える。
ロータ12は、透明な複数(例えば8本)の筒状容器1を鉛直回転軸Zに対し対称に装着可能であり、かつ鉛直回転軸Zを中心に高速モータ13により高速回転可能に構成されている。
高速モータ13は、好ましくはインバータ制御により、低速(例えば1000rpm)、中速(例えば3000rpm)、高速(例えば6200rpm)に変速可能であるのがよい。
【0029】
図2は、本発明で使用する筒状容器1(チューブ)の模式図である。この図において、(A)は部分分解図、(B)は組立状態図、(C)は使用状態図である。
この図に示すように、筒状容器1は、上部容器1aにろ過前の溶液、下部容器1bにろ過後のろ液を収容し、その間にフィルタ2が装着された透明な容器である。上部容器1aと下部容器1bは、(A)のように分離可能であるが、(B)のように棒状に連結して使用する。上部容器1aは、上端が開口しており、この開口からろ過前の溶液を注入するようになっている。
フィルタ2は、上部容器1aの下端にこの例では斜めに装着され、これを通過したろ液が図示しない開口を介して下部容器1bに溜まるようになっている。フィルタ2には所定の分画分子量を有するものが用いられる。
筒状容器1は、(C)に示すようにロータ12に斜めに装着される。従って、ロータ12が高速回転するとき、上部容器1a内のろ過前の溶液の液面3は、ほぼ鉛直となる。上部容器1aのろ過前の溶液量は、例えば定格2mlである。
【0030】
図1において、位置検出センサ14は、ロータ12の外周部に取り付けられたマーカー(図示せず)を非接触で検出する光学センサであり、ロータ12の回転中に各筒状容器1(例えば8本それぞれ)の位置を検出する。
この例において、位置検出センサ14は、基準位置検出センサ14aと容器位置検出センサ14bとからなる。基準位置検出センサ14aは、ロータ12の外周部下面に1つだけ設けられたマーカー(図示せず)を検出し、ロータの基準位置(例えば、第1の筒状容器の位置)を検出する。また、容器位置検出センサ14bは、ロータ12の外周部外面に各筒状容器1に対応して複数箇所(例えば、8箇所)に設けられたマーカー(図示せず)を検出し、各筒状容器1の位置を検出する。従って、基準位置検出センサ14aと容器位置検出センサ14bの出力信号から、ロータ12の回転中に各筒状容器1の位置を正確に検出することができる。
【0031】
図1に示すように、本発明の遠心ユニット10の遠心分離機筐体11の内部には、ロータ12を収納するための回転室(図示せず)が配置されており、回転室の上部には、ドア(図示せず)が開閉可能に設けられている。更に、回転室の低部ほぼ中央部にはロータ12を回転駆動するための高速モータ13が配置されている。
【0032】
図3に示すように、ロータ12には試料の入った複数のチューブ(筒状容器)1を挿入するためのチューブ挿入穴(図示せず)が所定の角度をなして形成されている。更に、チューブ挿入穴には複数のセンサ光路穴12aが設けられており、ロータ室内に設けられている、複数の光学センサ16a,16bによってチューブ1内の濾過の進行状態を検出するよう構成されている。
制御ユニット30は、記憶装置32cに入力装置32aから入力された条件(回転速度、温度、運転時間)を記憶し、高速モータ1やロータ12の運転中の温度を各センサからの信号や、光学センサ16a,16bからの出力信号を元に、遠心ユニット10を制御するように構成されている。
更に表示装置32bには入力装置32aより入力された条件や、運転状態を表示する回転速度表示部(図示せず)を有している。
【0033】
図3は、本発明による液面検出の原理図である。この図において、(A)は図1の部分拡大図、(B)はそのB−B矢視図である。
この図に示すように、液面検出装置16は、複数対(この例では5対)の発光素子16aと受光素子16bを有する。 発光素子16aは、例えば発光ダイオード(LED)であり、受光素子16bは例えばフォトセルである。
複数の発光素子16aからの光がロータ12に配設されたセンサ光路穴12aを通過して、チューブ1内の溶液の有無を検出する。複数の受光素子16bから出力される信号は溶液が無い場合には、発光素子16aから出た光はチューブ1の表面で反射し、受光部に戻り、受光素子16bの信号はオンの状態となる。
溶液が有る場合、チューブ1と溶液でレンズ効果となり、光が散乱し、発光素子16aから出た光はチューブ1の表面で散乱され、受光部に戻ってこず受光素子16bの信号はオフとなる。
なお、センサ光路穴12aは図3のように個々のセンサに対して1個づづの穴を有していなくても、全ての光学センサーをカバーするような1つの長穴であっても良い。
光学センサ16a,16bの信号はチューブがセットされない場合と液がある場合にはオフとなり、液がなくなるにつれて、上方から信号がオンする。フィルタ位置に対応したセンサからの信号がオンした時に、回転停止することで、所望の結果を得ることができる。また、詳細は示していないが、必要に応じて検出レベルを変更することで一定の位置まで遠心が進んだことを判断し停止することも可能である。
光学センサをラインセンサとすることでも、同様の結果を得ることができる。
なお、どのチューブが遠心完了したかを自動的に判別できるようにしている。
【0034】
図1において、遠心制御装置34は、主制御装置32から速度指令及び停止指令を受け、ロータ12の回転及び停止を制御する。また、この遠心制御装置34は、基準位置検出センサ14aと容器位置検出センサ14bの出力信号から、ロータ12の回転中に各筒状容器1の位置を検出し、この検出と同期して、液面検出装置16により各筒状容器1内の液面検出を行なうようになっている。
また遠心制御装置34は、基準位置検出センサ14aと容器位置検出センサ14bの出力信号を基に、ロータ12の制動を制御して、ロータ12内の所定の筒状容器1が所定の注入位置(この図で右端)に位置するようにロータ12を停止させるようになっている。
【0035】
上述した本発明の構成によれば、ロータ12の回転中に筒状容器1内の溶液の液面3を検出する液面検出装置16を備え、各液面位置3に対し、溶液が無い場合には、光はチューブ1の表面で反射し、受光部に戻り、受光素子16bの信号はオンの状態となり、溶液が有る場合、チューブ1と溶液でレンズ効果となり、光が散乱し、受光素子16bの信号はオフとなるので、タンパク質溶液のような実質的に透明又は透明に近い溶液を対象とすることができる。
また、ロータ12の回転中に各筒状容器1の位置を検出する位置検出センサ14を備え、位置検出センサ14による各筒状容器11の検出と同期して、各筒状容器内の液面検出を行なうので、複数の異なる溶液の液面位置を高速回転中に高い精度で検出することができる。
【0036】
図1において、分注ユニット20は、ロータ12の上部に位置し、筒状容器1内に所定の溶液又は緩衝液を注入する機能を有する。この分注ユニット20は、複数の分注シリンジ21、注圧調整装置22、水平移動装置24、及び昇降装置26を備える。
【0037】
複数の分注シリンジ21は、上部が閉じ、下端部が細く下方に伸び、下端が開口した中空円筒形の容器であり、所定の溶液又は緩衝液を内部に予め収容する。上部は開閉可能であり、この開口から溶液又は緩衝液を充填できるようになっているのがよい。
注圧調整装置22は、各分注シリンジ21の液面上に例えば細長いチューブを介して連通するガス吸引供給装置であり、各分注シリンジ21内の液面上の気体(不活性ガス、空気)をわずかに減圧して内部の液の滴下を防止し、かつその気体圧を調整して、所定量の液を随時滴下できるようになっている。
水平移動装置24は、例えば円形リングに沿って、複数の分注シリンジ21を水平に間隔を隔てて保持し、円形リングを鉛直軸を中心に回転させて、順次所定の注入位置(この図で右から4番目)に分注シリンジ21を間隔を保ちつつ水平に移動させるようになっている。
なお、本発明において、「水平に移動」とは、分注シリンジ21の高さを水平に維持して移動することを意味し、水平である限り、円運動でも直線運動でもその他の移動であってもよい。
昇降装置26は、所定の注入位置(右から4番目)に位置する分注シリンジ21を下降させて、注入位置に位置する所定の筒状容器1内に分注シリンジ12の下端部を挿入する。
【0038】
分注制御装置36は、 主制御装置32から速度指令及び停止指令を受け、注圧調整装置22、水平移動装置24、及び昇降装置26を制御し、筒状容器1内に所定の溶液又は緩衝液を注入する。
【0039】
図4は、本発明の溶液遠心濃縮方法を示すフローチャートである。この図において、チューブ装填S1、スタートS2、チューブ検査S3、チューブ回収S4の各ステップは手動操作であり、ロータ12に複数の筒状容器1を装着し(S1)、スタート釦を押す(S2)ことにより、この装置は自動運転を開始し、遠心濃縮が完了した時点で装置が自動的に停止し、チューブを回収して(S4)、一連の濃縮作業が完了する。
【0040】
本発明の方法では、図2に示した筒状容器1(「チューブ」と呼ぶ)を使用する。この筒状容器1(チューブ)は、上部容器1aにろ過前の溶液、下部容器1bにろ過後のろ液を収容し、その間にフィルタ2が装着された透明な容器である。
【0041】
本発明のスタートS2の後の自動運転は、主としてロータ位置決めステップS10、溶液注入ステップS20、遠心濃縮ステップS30、液面検出ステップS40、ロータ停止ステップS50の各ステップからなる。
【0042】
ロータ位置決めステップS10では、複数の筒状容器1を装着したロータ12を、ロータ内の所定の筒状容器1が所定の注入位置(図1で右端)に位置するようにロータを回転させ停止する。
溶液注入ステップS20では、所定の溶液を内部に収容した中空円筒形の分注シリンジ21から筒状容器1内に溶液を注入する。
【0043】
遠心濃縮ステップS30では、ロータ12を所定の速度(例えば高速:6200rpm)で回転させ、遠心力で溶液をフィルタ2によりろ過する。
液面検出ステップS40では、ロータ12の回転中に各筒状容器1の位置を検出し、この検出と同期して、各筒状容器1内の溶液の液面3(例えば最低液面+α)を検出する。このαは、ロータを減速し停止するまでに濃縮される量を予め設定するのがよい。
ロータ停止ステップS50では、液面3が所定位置(例えば最低液面+α)に達したときに、ロータを減速し停止する。
【0044】
上述した方法により、 スタートS2の後は、ロータ位置決め、溶液注入、遠心濃縮、液面検出、ロータ停止の各ステップを順次自動でできるので、複数の溶液を少量ずつ同時に、かつ短時間に濃縮できる。
複数の溶液は、できるだけろ過条件が同一であるものを同時に濃縮するのが好ましい。
また、複数の溶液のろ過速度が異なる場合、すべての筒状容器1がろ過される(すべての条件を満たす)まで、ロータ12を回転するのが好ましい。しかしこの逆に、いずれか1つの筒状容器1がろ過された時に停止してもよい。
【0045】
また本発明では、液面検出ステップS40において、予め複数の液面位置3(例えば、最高液面から最低液面まで5段階)を設定し、各液面位置3に対し、図3(B)に示すように、溶液が無い場合には、光が筒状容器の表面で反射して受光素子に戻って受光素子がオンの状態となり、溶液が有る場合には、筒状容器と溶液でレンズ効果となり、光が散乱して受光素子がオフとなる。
この方法により、筒状容器の表面で反射した光の有無によりそれぞれ所定位置の溶液の有無を検出することができる。
【0046】
また図4において、溶液注入ステップS20と遠心濃縮ステップS30の間に、中速回転ステップS21、液面検出ステップS22を有し、中速回転ステップS21で所定の中速(例えば3000rpm)でロータ12を回転させ、その際の液面変化を液面検出ステップS22で検出し、予め定めた液面範囲にあるときは、そのまま遠心濃縮ステップS30に移行し、液面変化がない、或いは速すぎる等の異常がある場合には、ロータ停止ステップS23で回転を自動的に停止し、チューブを手動で取り出して検査する(S3)ようになっている。
【0047】
また予め再注入の有無を設定することにより、再注入有りの場合、ステップS41でロータ位置決めステップS10に戻り、溶液注入ステップS20、遠心濃縮ステップS30、及び液面検出ステップS40を設定回数繰り返す。
【0048】
さらに、予め緩衝液の有無を設定することにより、緩衝液有りの場合、ステップS42でステップS43に移行し、ここでロータの位置決めを行い(S43)、緩衝液注入ステップS44で、所定の緩衝液を内部に収容した中空円筒形の緩衝液シリンジ21から筒状容器1内に緩衝液を注入する。
さらに、緩衝液透過ステップS45でロータを所定の速度(例えば高速:6200rpm)で回転させ、遠心力で緩衝液をフィルタを透過させる。
次いで、液面検出ステップS46で、ロータ12の回転中に各筒状容器1の位置を検出し、この検出と同期して、各筒状容器1内の溶液の液面3(例えば最低液面+α)を検出し、ステップS47に移行する。
【0049】
ステップS47はならし運転であり、ロータを所定の低速(例えば1000rpm)で回転させ、遠心力でフィルタ上の濃縮液を均一に分散させる。
次いで、液面検出ステップS48で、ロータ12の回転中に各筒状容器1の位置を検出し、この検出と同期して、各筒状容器1内の溶液の液面3(例えば最低液面)を検出し、ロータ停止ステップS50でロータを減速し停止する。
【0050】
上述したように、本発明の方法では、ロータ位置決め、溶液注入、遠心濃縮、液面検出、ロータ停止の各ステップを順次自動でできるので、複数の異なる溶液を少量ずつ同時に遠心力により短時間に濃縮できる。
また、再注入の有無及び緩衝液の有無を予め設定することにより、溶液の再注入や緩衝液の注入を自動でできるので、溶液の再注入や緩衝液の注入を短時間に確実に行うことができる。
【0051】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0052】
図5は、本発明による遠心ユニット10の遠心加速度と検知液量の関係図である。この図において、横軸は遠心加速度、縦軸は検知液量である。また図中の○は純水の場合、□はタンパク質溶液の一例として使用した塩化リゾチームの場合である。
この図は、チューブ8本を同時に10回試験し、その平均を示したものである。また、回転中の純水と塩化リゾチームの検知液量は、それぞれ0.39g、0.37gであった。
【0053】
この結果、全てのチューブで、液面検知がミスなく正常に行われた。また、チューブ8本の検出誤差はほとんどなく、ほぼ同一の値を示した。
なお、この図で、遠心加速度が高いほど、検知液量が少なくなっているが、これは液面検知後、回転停止までに濃縮が進行するためである。従って、この特性を考慮して、検出液面を設定することが望ましい。
【0054】
図6は、本発明による遠心時間と残り液量の関係図である。この図において、横軸は遠心時間、縦軸は残り液量である。なおこの試験は遠心加速度を一定(5000G)に設定して行った。
この図から、定格容量が2mlのチューブを用い、最少液量を0.4mlとする場合、塩化リゾチームでは約10分間で濃縮が完了することがわかる。
また、この結果から、本発明の装置及び方法により、各筒状容器の検出と同期して、各筒状容器内の液面検出を行なうことにより、複数の異なる溶液の液面位置を高速回転中に高い精度で検出することにより、無駄な時間を減らし、短時間に確実に濃縮できることがわかる。
【0055】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の溶液遠心濃縮装置の全体構成図である。
【図2】本発明を構成するチューブ(筒状容器)と分注シリンジの模式図である。
【図3】本発明による液面検出の原理図である。
【図4】本発明の溶液遠心濃縮方法を示すフローチャートである。
【図5】本発明による遠心加速度と検知液量の関係図である。
【図6】本発明による遠心時間と残り液量の関係図である。
【図7】特許文献2の界面検出手段の模式図である。
【図8】特許文献3の界面検出手段の模式図である。
【図9】特許文献4の溶液濃縮装置の模式図である。
【符号の説明】
【0057】
1 筒状容器(チューブ)、1a 上部容器、1b 下部容器、
2 フィルタ、3 液面、
10 遠心ユニット、12 ロータ、12a 開口孔、13 高速モータ、
14 位置検出センサ、14a 基準位置検出センサ、14b 容器位置検出センサ、
16 液面検出装置、16a 発光素子(光学センサ)、
16b 受光素子(光学センサ)、
20 分注ユニット、21 分注シリンジ、22 注圧調整装置、
24 水平移動装置、26 昇降装置、
30 制御ユニット、32 主制御装置、32a 入力装置、32b 表示装置、
32c 記憶装置、32d 演算装置、34 遠心制御装置、36 分注制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部容器と下部容器が着脱可能に連結されその間にフィルタが装着された透明な複数の筒状容器を鉛直回転軸に対し対称に装着可能であり、前記鉛直回転軸を中心に高速回転可能なロータと、
ロータの回転中に各筒状容器の位置を検出する位置検出センサと、
ロータの回転中に各筒状容器内の溶液の液面を検出する液面検出装置と、
ロータの回転及び停止を制御する遠心制御装置とを備え、
前記液面検出装置は、複数対の発光素子と受光素子を有し、各対の発光素子と受光素子は、それぞれ所定位置の液面に対し、溶液が無い場合には、光が筒状容器の表面で反射して受光素子に戻って受光素子がオンの状態となり、溶液が有る場合には、筒状容器と溶液でレンズ効果となり、光が散乱して受光素子がオフとなる、ことを特徴とする溶液遠心濃縮装置。
【請求項2】
前記液面検出装置は、位置検出センサによる各筒状容器の検出と同期して、各筒状容器内の液面検出を行なう、ことを特徴とする請求項1に記載の溶液遠心濃縮装置。
【請求項3】
前記ロータは、前記複数対の発光素子と受光素子の検出位置において、各対の発光素子からの光をそれぞれ所定位置の筒状容器の表面に導き、かつそれぞれ所定位置の筒状容器の表面から反射した光を各対の受光素子のみに導く複数対の開口孔を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の溶液遠心濃縮装置。
【請求項4】
前記ロータの上部に位置し、前記筒状容器内に所定の溶液又は緩衝液を注入する分注ユニットを備え、
前記遠心制御装置は、ロータ内の所定の筒状容器が所定の注入位置に位置するようにロータを停止させる、ことを特徴とする請求項1に記載の溶液遠心濃縮装置。
【請求項5】
前記分注ユニットは、所定の溶液又は緩衝液を内部に収容し、上部が閉じ下端部が細く下方に伸び、下端が開口した中空円筒形の複数の分注シリンジと、
該各分注シリンジの液面上に連通し、液面上の気体圧を調整可能な注圧調整装置と、
複数の分注シリンジを水平に間隔を隔てて保持し、順次所定の注入位置に間隔を保ちつつ水平に移動させる水平移動装置と、
所定の注入位置に位置する分注シリンジを下降させて、注入位置に位置する筒状容器内に分注シリンジの下端部を挿入する昇降装置と、
前記注圧調整装置、水平移動装置、及び昇降装置を制御する分注制御装置とを備える、ことを特徴とする請求項4に記載の溶液遠心濃縮装置。
【請求項6】
上部容器と下部容器が着脱可能に連結されその間にフィルタが装着された透明な筒状容器を使用し、
複数の前記筒状容器を装着したロータを、ロータ内の所定の筒状容器が所定の注入位置に位置するようにロータを回転させるロータ位置決めステップと、
所定の溶液を内部に収容した中空円筒形の分注シリンジから前記筒状容器内に溶液を注入する溶液注入ステップと、
ロータを所定の速度で回転させ遠心力で溶液をフィルタによりろ過する遠心濃縮ステップと、
ロータの回転中に各筒状容器の位置を検出し、この検出と同期して、各筒状容器内の溶液の液面を検出する液面検出ステップと、
液面が所定位置に達したときに、ロータを減速し停止するロータ停止ステップと、を有することを特徴とする溶液遠心濃縮方法。
【請求項7】
前記液面検出ステップにおいて、予め複数の液面位置を設定し、
各液面位置に対し、溶液が無い場合には、光が筒状容器の表面で反射して受光素子に戻って受光素子がオンの状態となり、溶液が有る場合には、筒状容器と溶液でレンズ効果となり、光が散乱して受光素子がオフとなる、ことを特徴とする請求項6に記載の溶液遠心濃縮方法。
【請求項8】
予め再注入の有無を設定し、再注入有りの場合、前記ロータ位置決めステップ、溶液注入ステップ、遠心濃縮ステップ、及び液面検出ステップを設定回数繰り返す、ことを特徴とする請求項6に記載の溶液遠心濃縮方法。
【請求項9】
予め緩衝液の有無を設定し、緩衝液有りの場合、所定の緩衝液を内部に収容した中空円筒形の緩衝液シリンジから前記筒状容器内に緩衝液を注入する緩衝液注入ステップと、
ロータを所定の速度で回転させ遠心力で緩衝液をフィルタを透過させる緩衝液透過ステップとを設定回数繰り返す、ことを特徴とする請求項6に記載の溶液遠心濃縮方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−7595(P2007−7595A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193560(P2005−193560)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】