説明

溶湯採取具

【課題】 溶湯の所望の箇所を迅速かつ容易に採取することができる溶湯採取具を提供する。
【解決手段】 開口部22を介して導入された溶湯を収容可能な容器2と、容器2を溶湯に浸漬可能に支持する支持棒5とを備える溶湯採取具1であって、容器2内に気体が充満されている状態を保持する開閉蓋3を備え、開閉蓋3は、容器2内の気体を解放して開口部22から溶湯を導入可能に構成されている溶湯採取具1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯を採取して品質評価などを行うための溶湯採取具に関する。
【背景技術】
【0002】
溶湯の品質は、鋳造製品に大きな影響を与えることから、従来より、溶湯をサンプリングして、発光分光分析、K値分析、ガス分析、組成分析などを行っている。
【0003】
溶湯を採取するものとしては、例えば、特許文献1に開示されている溶湯採取具100が知られている。この溶湯採取具100は、図7に示すように、内部に溶湯を収容可能な容器101と、容器101を支持する把持柄102とを備えており、把持柄102を把持して、坩堝などに貯留された溶湯を容器101により汲み上げることにより、溶湯を採取するものである。
【特許文献1】実開平7−12968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、溶湯の品質管理を行うためには、貯留された溶湯の種々の部位においてサンプリングを行う必要がある一方、上記の溶湯採取具100では、特に深層部の溶湯をサンプリングすることが困難であり、溶湯品質のばらつきを的確に評価することができないという問題を有していた。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、溶湯の所望の箇所を迅速かつ容易に採取することができる溶湯採取具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の前記目的は、溶湯導入部を介して導入された溶湯を収容可能な溶湯収容体と、前記溶湯収容体を溶湯に浸漬可能に支持する支持体とを備える溶湯採取具であって、前記溶湯収容体内に気体が充満されている状態を保持する気体保持手段を備え、前記気体保持手段は、前記溶湯収容体内の気体を解放して前記溶湯導入部から溶湯を導入可能に構成されている溶湯採取具により達成される。
【0007】
また、前記気体保持手段は、前記溶湯導入部を開閉する開閉体を備えることが好ましい。
【0008】
また、前記気体保持手段は、前記溶湯収容体内の気体を排気する排気管と、前記排気管を開閉する開閉手段とを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の溶湯採取具によれば、溶湯の所望の箇所を迅速かつ容易に採取することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る試料採取具1の断面図であり、図2は、この試料採取具1の部分拡大図である。この溶湯採取具1は、坩堝炉、誘導炉、電気炉、浸漬炉、反射炉などの種々の溶解炉や保持炉、取鍋、溶湯処理槽などに収容された、銅、アルミニウム、亜鉛などの溶湯を採取するものであって、図1に示すように、内部に溶湯を収容可能な容器2と、容器2を開閉する開閉蓋3と、先端に開閉蓋3が取り付けられた排気管4と、容器2を支持する支持棒5とを備えている。容器2、開閉蓋3、排気管4および支持棒5は、普通鋼、ステンレス、鋳鉄などの金属材料からなり、耐熱性、耐酸性、耐摩耗性を向上させる観点から、シリカ、アルミナ、ジルコニアなどを主成分とするセラミックス質の被膜により被覆されていることが好ましい。
【0011】
容器2は、カップ状に形成され、側面が支持棒5に固定されており、周縁部にテーパ状に形成された開口部22を備えている。
【0012】
開閉蓋3は、上部に固定された補強板34を介して排気管4の下端部に固定されており、中心部には、容器2内の空気が通過する通気孔32が形成されている。また、開閉蓋3は、周縁部にテーパ状に形成された当接部31を備えており、この当接部31が容器2の開口部22に当接することにより、容器2を密封可能に構成されている。
【0013】
排気管4は、空気が通過可能な中空状のパイプ状部材であり、開閉蓋3に固定された部分から上方に延びており、上部には側方に突出する把持部41が設けられている。また、排気管4は、通気孔32を介して容器2の内部に連通することにより、容器2内の空気を外部へ排気可能に構成されている。また、排気管4は、排気バルブ46とバルブレバー45とを備えており、バルブレバー45を回動操作することにより排気バルブ46が排気管4を開閉するように構成されている。
【0014】
支持棒5は、容器2に固定された部分から上方へ延びており、側方へ突出する把持部51が複数設けられている。支持棒5は、排気管4を案内するガイド部52aおよび固定具付ガイド部52bを備えており、ガイド部52aおよび固定具付ガイド部52bは、支持棒5の軸方向に平行するように形成されたガイド孔53を備えている。支持棒5は、ガイド孔53に排気管4が挿入されることにより、排気管4をスライド可能に支持している。固定具付ガイド部52bは、図2に示すように、固定レバー55と固定キー56とを備えており、固定レバー55の回動操作により固定キー56が排気管4を押圧し、排気管4のスライドを規制する。支持棒5の外周面には、溶湯に対する容器2の浸漬深さを計測する目盛が付されていることが好ましい。
【0015】
次に、以上のように構成された溶湯採取具1を用いて溶湯を採取する方法を説明する。
【0016】
まず、開閉蓋3の当接部31を容器2の開口部22に当接させることにより、容器2を開閉蓋3で密封し、容器2内に空気が充満されている状態とする。また、排気管4の排気バルブ46を閉状態とする。この状態で、支持棒5の把持部51を把持し、図3に示すように、容器2を坩堝90に収容された溶湯に浸漬させ、坩堝90内の所望の箇所に位置させる。
【0017】
次に、バルブレバー45を回動操作することにより、排気バルブ46を開状態とし、溶湯により加熱された容器2内の空気を、通気孔32および排気管4を介して外部へ排出する。膨張した空気を排気した後、バルブレバー45を操作して排気バルブ46を再び閉状態とする。
【0018】
続いて、固定レバー55を回動操作することにより、排気管4を支持体5に対してスライド可能とする。そして、把持部41を把持して排気管4をガイド部52a、52bに沿って上方へスライドさせることにより、開閉蓋3を引き上げ、容器2の開口部22を開状態とする。容器2が開口すると、容器2内の空気が解放され、開口部22と開閉蓋3の当接部31との隙間から、溶湯が容器2内に導入されると共に、容器2内の空気が外部に排除される。
【0019】
その後、排気管4を下方へスライドさせることにより、容器2を開閉蓋3で密封する。そして、固定レバー55を操作することにより、排気管4を支持棒5に対して固定した後、溶湯採取具1を溶湯から引き上げる。こうして、坩堝90内の所望の部位の溶湯が採取される。採取された溶湯は、分析用の試料などに用いられる。溶湯を採取した後は、開閉蓋3を開けて容器2の内部を清掃する。
【0020】
本実施形態に係る溶湯採取具1よれば、容器2を溶湯に浸漬可能に支持する支持棒5と、容器2に空気が充満されている状態を保持する開閉蓋3とを備え、開閉蓋3は、容器2の空気を解放可能に構成されているので、容器2内に空気が充満し、溶湯が導入されない状態で容器2を坩堝90の所望の箇所に容易に位置させることができるので、所望の箇所の溶湯を容易に採取することができる。また、容器2が坩堝90の所望の箇所に位置した後には、開閉蓋3を開状態として容器2内の空気を解放することにより、容器2内に溶湯を迅速に導入することができ、溶湯を迅速に採取することができる。
【0021】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の具体的な態様は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0022】
例えば、本実施形態では、支持棒5は容器2から上方に延びるように構成されていたが、容器2を溶湯に浸漬可能に支持することができればその構成は特に限定されない。また、排気管4は開閉蓋3から上方に延びるように構成されていたが、開閉蓋3を開閉することができればその構成は特に限定されない。例えば、図4に示すように、容器2から支持棒5が斜め上方に延び、開閉蓋3から排気管4が斜め上方に延びる構成であってもよい。また、図4に点線で示すように、支持棒5および排気管4が、途中で屈折する構成であってもよい。このような構成によれば、例えば、炉の側面に開口部が形成されている反射炉などに溶湯が収容されている場合であっても、炉の外部で溶湯採取具1を操作することにより、炉内の溶湯を採取することができる。したがって、溶湯を所望の方向から採取することができ、種々の炉から溶湯を容易に採取することができる。
【0023】
また、本実施形態では、開閉蓋3により、容器2内に空気を保持する気体保持手段が構成されていたが、この気体保持手段は、容器2内に空気が充満されている状態を保持すると共に、容器2内の空気を解放可能に構成されていれば、その構成は特に限定されない。また、本実施形態では、容器2の開口部22により、導入部が構成されていたが、この導入部は、容器2内に溶湯を導入することができるのであれば、その構成は、特に限定されない。図5は、他の実施形態に係る溶湯採取具1の断面図である。図5において、図1と同様の構成部分については、同一の符号を付して説明を省略する。この溶湯採取具1において、容器2は、下方に向かってろうと状に形成された底部25を備えており、底部25には、容器2内に溶湯を導入する導入口10が形成されている。また、溶湯採取具1は導入口10を開閉する開閉栓7と、開閉栓7を支持する棒体71とを備えている。開閉栓7は、導入口10の内径とほぼ同じ径を有する球体からなり、導入口10に密接することにより、導入口10を閉塞可能に構成されている。棒体71は、排気管4にスライド可能に挿入されており、一端部に開閉栓7が取り付けられ、他端部に側方へ突出する把持部72が取り付けられている。棒体71と排気管4の内周面との間隙には、空気が通過する空隙49が形成されている。排気管4は、棒体固定レバー75と棒体固定キー76とを備えており、棒体固定レバー75の回動操作により棒体固定キー76が棒体71を押圧し、棒体71のスライドが規制される。
【0024】
このように構成された溶湯採取具1によれば、まず、棒体固定レバー75を回動操作することにより、棒体71を排気管4に対してスライド可能とする。次に、棒体71を下方へスライドさせて導入口10を開閉栓7で閉塞することにより、容器2内に空気が充満された状態を保持する。この状態で、溶湯採取具1を、溶湯に浸漬させ、容器2を坩堝内の所望の箇所に位置させる。この時、容器2内で膨張した空気は、排気管4の空隙49を介して外部に排出される。続いて、棒体71を上方へスライドさせることにより、開閉栓7を上方へ引き上げて、導入口10を開状態とする。導入口10が開口すると、容器2内の空気が解放され、導入口10から容器2内に溶湯が導入される。その後、棒体71を下方へスライドさせることにより、導入口10を開閉栓7により閉塞する。そして、溶湯採取具1を溶湯から引き上げることにより溶湯を採取する。溶湯を採取した後は、棒体71を上方へスライドさせることにより、導入口10を開状態とし、容器2内の溶湯を導入口10から注出する。このような溶湯採取具1によれば、容器2の底部25に導入口10が形成されているので、より深い箇所の溶湯を迅速かつ容易に採取することができる。
【0025】
また、開閉栓7により排気管4を開閉することにより、容器2内に空気が充満されている状態を保持すると共に、容器2内の空気を解放することもできる。この場合、開閉栓7は、開閉蓋3の通気孔32の内径とほぼ同じ径を有する球体からなる。このような構成によれば、まず、図5の点線で示すように、棒体71を上方へスライドさせることにより、通気孔32を開閉栓7により閉塞する。通気孔32が閉塞すると、排気管4が閉状態となり、容器2内に空気が充満された状態となる。この状態で、溶湯採取具1を、溶湯に浸漬させる。次に、棒体71を下方へスライドさせることにより、開閉栓7を下方へ押し下げ、排気管4を開状態とする。排気管4が開状態となると、容器2内の空気が解放され、導入口10から容器2内に溶湯が導入される。その後、通気孔32を開閉栓7により閉塞し、溶湯採取具1を溶湯から引き上げる。
【0026】
また、上記実施形態では、開閉栓7により排気管4を開閉する構成であったが、排気管4を開閉することができるのであれば、その構成は特に限定されず、例えば、排気バルブ46により排気管4を開閉してもよい。図6は、さらに他の実施形態に係る溶湯採取具1の断面図である。図6において、図1および図5と同様の構成部分については、同一の符号を付して説明を省略する。このような溶湯採取具1によれば、まず、排気バルブ46を閉状態とすることにより、排気管4を閉状態とし、容器2内に空気が充満されている状態とする。次に、この状態で、溶湯採取具1を、溶湯に浸漬させる。続いて、排気バルブ46を開状態にすることにより、容器2内の空気を解放して導入口10から容器2内に溶湯を導入する。その後、排気バルブ46を閉状態とした後、溶湯採取具1を溶湯から引き上げて溶湯を採取する。溶湯を採取した後は、排気バルブ46を開状態にすることにより、容器2内の溶湯を導入口10から注出する。こうして、溶湯の所望の箇所を迅速かつ容易に採取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る溶湯採取具の断面図である。
【図2】図1に示す溶湯採取具の部分拡大図である。
【図3】図1に示す溶湯採取具の使用状態を示す図である。
【図4】他の実施形態に係る溶湯採取具の側面図である。
【図5】更に他の実施形態に係る溶湯採取具の断面図である。
【図6】更に他の実施形態に係る溶湯採取具の断面図である。
【図7】従来の溶湯採取具の断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 溶湯採取具
2 容器
3 開閉蓋
4 排気管
5 支持棒
7 開閉栓
10 導入口
22 開口部
31 当接部
32 通気孔
46 排気バルブ
55 固定レバー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯導入部を介して導入された溶湯を収容可能な溶湯収容体と、
前記溶湯収容体を溶湯に浸漬可能に支持する支持体とを備える溶湯採取具であって、
前記溶湯収容体内に気体が充満されている状態を保持する気体保持手段を備え、
前記気体保持手段は、前記溶湯収容体内の気体を解放して前記溶湯導入部から溶湯を導入可能に構成されている溶湯採取具。
【請求項2】
前記気体保持手段は、前記溶湯導入部を開閉する開閉体を備える請求項1に記載の溶湯採取具。
【請求項3】
前記気体保持手段は、前記溶湯収容体内の気体を排気する排気管と、前記排気管を開閉する開閉手段とを備える請求項1に記載の溶湯採取具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−2806(P2008−2806A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169491(P2006−169491)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(592134871)日本坩堝株式会社 (31)
【Fターム(参考)】