説明

溶融処理イマチニブ剤形

【課題】本発明は、簡便かつ効果的に調製できる高薬物負荷のイマチニブ剤形類、本質的にpHに依存せずに活性主薬が放出されるイマチニブ剤形類、および長期放出イマチニブ剤形類を提供する。
【解決手段】本発明は、(a)イマチニブまたはその塩の薬学的有効量、(b)少なくとも1種の高分子性結合剤、および(c)少なくとも1種の薬学的に許容できる非イオン性界面活性剤の溶融処理混合物を含む剤形を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イマチニブまたはその薬学的に許容できる塩類を含む薬学的剤形に関する。
【背景技術】
【0002】
イマチニブは、慢性骨髄性白血病(CML)および消化管間葉性腫瘍(GIST)のような非悪性および悪性増殖性疾患類の治療に使用されるタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)阻害剤である。イマチニブの化学名は、4−(4−メチルピペラジン−1−イルメチル)−N−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イルピリミジン−2−イルアミノ)フェニル]−ベンズアミドであり、それは、式(1)
【0003】
【化1】

【0004】
を有する。
【0005】
イマチニブ遊離塩基およびその許容できる塩類は、欧州特許出願0564409号明細書(特許文献1)に開示されている。イマチニブメシレートおよびイマチニブメシレートアルファおよびベータ結晶形は、国際特許出願99/03854号パンフレット(特許文献2)に開示されている。
【0006】
国際特許出願03/090720号パンフレット(特許文献3)は、錠剤総重量に基づき30〜80重量%のイマチニブを含む錠剤を開示している。この錠剤は、イマチニブまたはその薬学的に許容できる塩類と薬学的に許容できる賦形剤類とを混合する工程;湿式顆粒化工程;顆粒を賦形剤類と混合する工程;および前記混合物を圧縮して錠剤を形成させる工程、を含む多段プロセスによって調製される。
【0007】
その分子構造中に数個の窒素原子類が存在するがゆえに、イマチニブは、酸類の存在下で容易にプロトン化される。イマチニブ塩類は容易に水性媒体に溶解する一方で、イマチニブ遊離塩基は、それほど溶解性ではない。したがって、従来の剤形からのイマチニブ放出は酸環境において迅速で、塩基性環境において顕著に遅い。この挙動は、pH増加によってイマチニブの溶解を妨害する腸に剤形が到達するまで活性化合物の放出を遅延させる徐放性剤形においては不利となることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願0564409号明細書
【特許文献2】国際特許出願 99/03854号パンフレット
【特許文献3】国際特許出願 03/090720号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
簡便かつ効率的に調製できる高薬物負荷のイマチニブ剤形が求められている。
【0010】
さらに、活性成分が本質的にpHに依存せずに放出されるイマチニブ剤形が求められている。
【0011】
さらに、例えば、ピーク血漿濃度を低下させるとともに長期間血漿治療レベルを維持するために、イマチニブを含む長期放出剤形が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、本発明は、
(a)イマチニブまたはその塩の薬学的有効量、および
(b)少なくとも1種の高分子性結合剤、および
(c)少なくとも1種の薬学的に許容できる非イオン性界面活性剤、
の溶融処理混合物を含む剤形を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】異なるpH値における本発明の剤形の薬物放出を示している。
【図2】異なるpH値における本発明の剤形の薬物放出を示している。
【図3】異なるpH値における本発明の剤形の薬物放出を示している。
【図4】異なるpH値における本発明の剤形の薬物放出を示している。
【図5】異なるpH値における本発明の剤形の薬物放出を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
イマチニブは、その遊離塩基形態であってもよいし、またはその薬学的に許容できる塩類であってもよい。
【0015】
イマチニブの薬学的に許容できる塩類には、薬学的に許容できる酸類の付加塩類を含むが、それらに限定されない。薬学的に許容できる酸類の例には、塩酸、硫酸またはリン酸のような無機酸類、または、例えばトリフルオロ酢酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、ヒドロキシマレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸またはシュウ酸のような脂肪族モノ−またはジカルボン酸類、または、アルギニンまたはリシンのようなアミノ酸類、安息香酸、2−フェノキシ安息香酸、2−アセトキシ安息香酸、サリチル酸、4−アミノサリチル酸のような芳香族カルボン酸類、マンデル酸または桂皮酸のような芳香族−脂肪族カルボン酸類、ニコチン酸またはイソニコチン酸のようなヘテロ芳香族酸類、メタン−、エタン−または2−ヒドロキシエタンスルホン酸のような脂肪族スルホン酸類、または、例えばベンゼン−、p−トルエン−またはナフタレン−2−スルホン酸のような芳香族スルホン酸類が含まれる。
【0016】
好適な態様においてはイマチニブ塩が使用され、好ましくはイマチニブのモノメシレート塩で使用される。
【0017】
一般的に、イマチニブの塩は、主に、結晶形として剤形に存在する。例えば、イマチニブメシレートは、アルファまたはベータ結晶形で存在し、最も好ましくはベータ結晶形で存在する。
【0018】
本発明による剤形は好ましくは高薬物負荷で、投与に便利な形態でイマチニブの一日投与量を付与する。特に、イマチニブまたはその塩は、溶融処理混合物の総量に対して少なくとも50重量%で、より好ましくは少なくとも55重量%の量で存在し、例えば少なくとも60重量%で存在する。典型的には、イマチニブまたはその塩の量は、溶融処理混合物の総量に対して80重量%まで変化させることができる。賦形剤が相対的に少量であるとすると、これにより、物理的に小さい剤形の生産が可能になる。本発明の剤形は、薬物高負荷であるにもかかわらず小さく、従って、投与が便利である。これにより、患者コンプライアンスが良好となる。
【0019】
本発明によれば、高分子性結合剤の量が、溶融処理混合物の総量に対して約1〜45重量%、好適には1〜38重量%、特に1〜33重量%の範囲で変化させることができる。
【0020】
非イオン性界面活性剤の量は、溶融処理混合物の総量に対して5〜20重量%の範囲内で変化させることができ、例えば7〜10重量%である。
【0021】
任意の成分類の量は、溶融処理混合物の総量に対して20重量%の範囲内で変化させることができ、例えば1〜10重量%である。
【0022】
本発明の剤形は、好ましくは徐放性剤形である。“徐放性”とは、経口摂取後、比較的長期にわたり活性化合物がゆっくりではあるが連続的にすなわち持続的に放出されることを意味する。
【0023】
好適な態様において、前記剤形からの薬物放出は、37℃において0.1塩酸900mL中100rpmでUSP I バスケット装置を用いて試験した時、1時間において80%を超えず、10時間において80%未満ではない。
【0024】
より好適な態様において、前記剤形からの薬物放出は、37℃において0.1塩酸900mL中50rpmでUSP I バスケット装置を用いて試験した時、2時間において80%を超えず、8時間において80%未満ではない。
【0025】
本発明の投与剤形の好適な態様において、前記剤形からの薬物放出は、本質的にpHに依存していない。
【0026】
例えば、8時間における前記剤形からの薬物放出は、37℃において900mL中50rpmでUSP I バスケット装置を用いて試験した時、pH1.0における放出値に対するpH6.8における放出値の比が少なくとも0.6になる。適切な緩衝液類は、下記の実施例に記載されている。
【0027】
好適な態様において、8時間における前記剤形からの薬物放出は、pH1.0における放出値に対するpH6.8における放出値の比が少なくとも0.7となり、好ましくは少なくとも0.75となり、特に好ましくは少なくとも0.8となる。
【0028】
一般的に、本発明で使用される高分子性結合剤は、少なくとも約+10℃、好ましくは少なくとも約+25℃、最もこの好ましくは約40℃から180℃のガラス転移温度Tgを有している。有機ポリマーのT値の測定方法は、L.H.Sperling著、“物理高分子科学序論(Introduction to Physical Polymer Science)”、第2版、John Wiley&Sons社、1992年に記載されている。T値は、ポリマーを構成する個々のモノマーiの各々から誘導されるホモポリマーのT値の加重和として計算され得る。即ち、T=ΣWであり、式中、Wは有機ポリマー中のモノマーiの重量パーセントであり、Xはモノマーiから誘導されるホモポリマーのT値である。ホモポリマーのT値は、J.Brandrup及びE.H.Immergut著, “ポリマーハンドブック(Polymer Handbook)”,第2版、John Wiley&Sons社、1975年、に示されている。
【0029】
適切な薬学的に許容できるポリマー類は下記の通りである。
【0030】
N−ビニルラクタム類のホモポリマー類およびコポリマー類で、特に、例えばポリビニルピロリドン(PVP)、N−ビニルピロリドンとビニルアセテートまたはビニルプロピオネートとのコポリマー類のようなN−ビニルピロリドンのホモポリマー類およびコポリマー類、
【0031】
セルロースエステル類及びセルロースエーテル類、特にメチルセルロース及びエチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース類、特にヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース類、特にヒドロキシプロピルメチルセルロース、セルロースフタレート類又はスクシネート類、特にセルロースアセテートフタレート及びヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルローススクシネート、又はヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート;
【0032】
ポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシド、並びに、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのコポリマー類等の高分子量ポリアルキレンオキシド類、
【0033】
メタクリル酸/エチルアクリレートコポリマー類、メタクリル酸/メチルメタクリレートコポリマー類、ブチルメタクリレート/2−ジメチルアミノエチルメタクリレートコポリマー類、ポリ(ヒドロキシアルキルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)等のポリアクリレート類及びポリメタクリレート類、
【0034】
ポリアクリルアミド類、
【0035】
ビニルアセテートとクロトン酸とのコポリマー類、部分的加水分解化ポリビニルアセテート(部分的鹸化“ポリビニルアルコール”とも呼ばれる)等のビニルアセテートポリマー類、
【0036】
ポリビニルアルコール、
【0037】
カラギーナン類、ガラクトマンナン類及びキサンタン類等のオリゴ糖類及び多糖類、又は、それらのうちの1つ若しくはそれ以上の混合物。
【0038】
これらのうちで、ビニルピロリドンのホモ−またはコポリマー類が特に好ましく、例えば、12〜100、好適には17〜30のフィケンチャー(Fikentscher)K値を有するポリビニルピロリドン、または、30〜70重量%のN−ビニルピロリドン(VP)と70〜30重量%のビニルアセテート(VA)とから構成されるコポリマー類であって、例えば、60重量%のVPと40重量%のVAとから構成されるコポリマーが挙げられる。
【0039】
もちろん、前記ポリマー類の混合物類を用いることも可能である。
【0040】
好適な高分子性結合剤類は、セルロース誘導体類、特にヒドロキシプロピルセルロースおよびエチルセルロース、および、ビニルピロリドンのホモ−またはコポリマー類、およびその混合物類から選択される。
【0041】
剤形に物理的一体性と十分な機械的強度を付与することとは別に、前記高分子性結合剤は、放出阻害剤として作用すると考えられている。
【0042】
用語“薬学的に許容できる界面活性剤”とは、ここでは、薬学的に許容できる非イオン性界面活性剤を称するものとして使用する。前記界面活性剤は、前記剤形から放出された活性成分の即時懸濁化を実現し、および/または消化管の水性液体中における活性成分の沈殿を防止する。
【0043】
好適な界面活性剤類は、例えば、アルキレングリコール脂肪酸モノ−またはジエステル類またはソルビタン脂肪酸エステル類のようなポリオール脂肪酸エステル類;例えば、ポリアルコキシル化グリセリド類、ポリアルコキシル化ソルビタン脂肪酸エステル類またはポリアルキレングリコール類の脂肪酸エステル類のようなポリアルコキシル化ポリオール脂肪酸エステル類、または脂肪アルコール類のポリアルコキシル化エーテル類から選択される。
【0044】
これらの化合物類中における脂肪酸鎖は、通常、炭素原子8〜22個を含む。前記ポリオールは、エチレングリコールまたはプロピレングリコールのようなジオール、グリセロールのようなトリオール、またはソルビタンのような高次ポリオールであってよい。ポリアルキレンオキシドブロックは、1分子当たり、平均して2〜100個、例えば4〜50個のアルキレンオキシド単位を含み、好ましくはエチレンオキシド単位を含む。
【0045】
適切なアルキレングリコール脂肪酸エステル類は、アルキレングリコール脂肪酸モノエステル類、アルキレングリコール脂肪酸ジエステル類、またはアルキレングリコール脂肪酸モノおよびアルキレングリコール脂肪酸ジエステル類の混合物類である。好適なアルキレングリコール脂肪酸モノエステルは、プロピレングリコール脂肪酸モノエステルであり、例えばプロピレングリコールラウレート類(LAUROGLYCOL(登録商標)という商品名で、詳細にはLAUROGLYCOL(登録商標)90またはLAUROGLYCOL(登録商標)FCCとして、フランス国のGattefosseから購入可能)が挙げられる。好適なアルキレングリコール脂肪酸ジエステルは、プロピレングルリコールジカプリロカプレート(LABRAFAC(登録商標)PGという商品名でフランス国のGattefosseから購入可能)である。
【0046】
適切なソルビタン脂肪酸エステル類は、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレアート、ソルビタントリステアレート、ソルビタントリオレアート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノラウレートまたはソルビタンモノオレアートである。
【0047】
適切なポリアルコキシル化ソルビタン脂肪酸エステル類の例は、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレアート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレアート、ポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノラウレートまたはポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノオレアートである。
【0048】
適切なポリアルコキシル化グリセリド類は、例えば、天然または水素添加グリセリド類のアルコキシル化によって、または天然または水素添加グリセリド類のポリアルキレングリコール類によるエステル交換反応によって得られる。市販品としては、例えば、ポリオキシエチレングリセロールリシノレート35、ポリオキシエチレングリセロールトリヒドロキシステアレート40(Cremophor(登録商標)RH40、BASF AG)や、商標名Gelucire(登録商標)およびLabrafil(登録商標)としてGattefosseから得られるポリアルコキシル化グリセリド類であって、例えば、Gelucire(登録商標)44/14(PEG1500による水素添加パーム核油のエステル交換反応により調製したラウロイルマクロゴール32グリセリド類)、Gelucire(登録商標)50/13(PEG1500による水素添加パーム油のエステル交換反応により調製したステアロイルマクロゴール32グリセリド類)、またはLabrafil M1944CS(PEG300による水素添加杏仁油のエステル交換反応により調製したオレオイルマクロゴール6グリセリド類)のようなポリアルコキシル化グリセリド類を使用できる。
【0049】
ポリアルキレングリコールの適切な脂肪酸エステルは、例えば、PEG660ヒドロキシステアリン酸(30mol%エチレングリコールを有する12−ヒドロキシステアリン酸(70mol%)のポリグリコールエステル)である。
【0050】
脂肪アルコール類の適切なポリアルコキシル化エーテル類は、例えば、マクロゴール6セチルステアリルエーテルまたはマクロゴール25セチルステアリルエーテルである。
【0051】
前記非イオン性界面活性剤類で、プロピレングリコール脂肪酸モノまたはジエステルあるいはその混合物が好適である。
【0052】
好適な態様において、前記非イオン性界面活性剤は、HLB4以下、好適には3.5以下、最も好適には2.5以下を有している。HLB系(Fielder,H.B著、賦形剤類の百科事典(Encylopedia of Excipients)、第5版、Aulendorf:ECV−Editio−Cantor−Verlag(2002))は、界面活性剤類に数値を割り当てており、親油性物質類は低HLBが割り当てられ、親水性物質類には高HLBが割り当てられている。HLB値約2を有する好適な界面活性剤は、プロピレングリコールジカプリロカプレート(LABRAFAC(登録商標)PGという商品名で購入可能)である。下記の実施例にも示したように、4以下のHLB値を有する非イオン性界面活性剤を取り込むことで、本質的にpH非依存性の薬物放出をするイマチニブ剤形の製造が可能となる。
【0053】
ガラス転移温度を低下させかつ前記高分子性結合剤の溶融粘度を低下させるために、可塑剤を前記溶融処理混合物に取り込ませることができる。
【0054】
本発明で有用な可塑剤類は好適には非揮発性の有機化合物類で、例えば、C−C30−アルカノール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、トリメチロールプロパン、トリエチレングリコール、ブタンジオール類、ペンタエリスリトールのようなペンタノール類、およびヘキサノール類、ポリアルキレングリコール類であって、好ましくは200〜1000の分子量を有するポリアルキレングリコール類であり、例えばポリエチレングリコール類(例 PEG300、PEG400)、ポリプロピレングリコール類およびポリエチレン/プロピレングリコール類、シリコン類、芳香族カルボン酸エステル類(例 ジアルキルフタレート類、トリメリト酸エステル類、安息香酸エステル類、テレフタル酸エステル類)または脂肪族ジカルボン酸エステル類(例 ジアルキルアジピン酸類、セバシン酸エステル類、アゼライン酸エステル類、クエン酸および酒石酸エステル類、特にトリエチルクエン酸エステル)、脂肪酸エステル類であって、例えばグリセロールのモノ−、ジ−またはトリアセテート、またはジエチルスルホサクシネートナトリウムのような脂肪酸エステル類、が含まれる。特に好適な可塑剤類は、グリセリルトリアセテート、トリエチルシトレート、ポリエチレングリコールおよびその混合物類から構成される群から選択される。
【0055】
可塑剤の量は、溶融処理混合物の総重量に対して20重量%未満、好適には10重量%未満であるのが好適である。
【0056】
溶融処理混合物は、任意の成分を含むことができる。これら任意の成分類には、薬学的に許容できる充填剤類、崩壊剤類、滑剤類、流動促進剤類、着色剤類、芳香剤類および保存剤類を含む。当該技術のこれらの用語は、一般的に、当業者に公知である。これらの任意の成分類は、使用される活性成分(類)および他の成分類と相溶性があるように選択される。
【0057】
好適には、前記溶融処理混合物中で1種以上の流動促進剤類が使用される。流動促進剤類としては、下記の1種以上を用いることができる:例えば、Aerosil(登録商標)200のようなコロイド状シリカ、マグネシウムトリシリケート、粉末化セルロース、デンプン、タルク、マグネシウムおよびカルシウムステアレート類、ステアリルフマレートナトリウムなど。好適には、コロイド状シリカまたは/およびステアリルフマレートナトリウムが使用される。前記流動促進剤類は、適切には、溶融処理混合物の総重量に対して0.05〜5重量%の量で使用される。
【0058】
“溶融処理”とは、或る成分が、均質に他の成分に組み込まれることができる粘性または糊状状態への転移を意味する。この溶融処理により、粘着性の成形可能な塊が得られる。通常、溶融処理には、上記で特定した成分類の混合物を高分子性結合剤の軟化温度よりも高い温度まで加熱することが必要になる。前記軟化温度は、可塑剤の存在および/または非イオン性界面活性剤が可塑効果を示すことができるという実状により、高分子性結合剤の固有軟化温度よりもやや低いことがある。この軟化温度は、温度関数において高分子性結合剤が粘性低下速度に変化を示す温度として定義できる。前記溶融処理段階において、加熱温度は、イマチニブまたはイマチニブ塩の溶融温度を超えない。
【0059】
前記成分類の混合は、加熱前、加熱中または加熱後において行う。例えば、前記成分類を最初に混合し次に溶融させることもでき、あるいは、同時に混合溶融することもできる。通常、前記塊は、活性成分類を効果的に分散させるため均質にする。また、最初に高分子性結合剤を溶融させ、次に、活性成分を混合し均質化することも好都合であろう。
【0060】
通常、溶融処理が行なわれる温度は、70〜250℃、好適には80〜180℃、最も好適には100〜140℃の範囲である。
【0061】
溶融処理は、この目的にために通常使用されている装置で行う。特に、押出機または混錬機が好適である。適切な押出機には、単軸押出機、噛み合いスクリュー押出機または他の多軸押出機が含まれ、特に二軸押出機が好適で、この二軸押出機は、共回転又は逆回転ができ、また、溶融物を混合または分散させるための混合ディスク類または他のスクリュー要素類を任意に取り付けることができる。作業温度は、押出機の種類、又は使用される押出機の内部構造の種類によっても決められると思われる。押出機内の諸成分を溶融及び混合するのに必要なエネルギーの一部は、加熱要素によって供給できる。しかしながら、押出機内の材料の摩擦及びせん断でもこの混合物に十分なエネルギーを供給でき、これによって諸成分の均質な溶融物の形成が助長される。前記押出機の少なくとも一部分に真空を適用することもできる。例えば水のような残留溶媒類を除くため、賦形剤類と活性成分類との不適合や、単回投与単位の硬度のような製剤安定性へのマイナスの影響を防止するため、あるいは活性成分の分解を防止するためである。
【0062】
溶融処理は、好適には、溶融押出しによってすなわち押出機を使用することによって、行われる。溶融押出しプロセスは、下記の段階を含む:
(a)イマチニブまたはその塩、少なくとも1種の高分子性結合剤、および少なくとも1種の薬学的に許容できる非イオン性界面活性剤、および任意の成分類を混合加熱し、粘着性の成形可能な塊を得ること、および
(b)前記塊をダイに通すこと。
【0063】
本発明によれば、粘着性の成形可能な塊は、好適には、直接形状化される。用語“直接形状化”とは、前記塊を剤形の所望の形状に直接至らしめること;および、前記塊を固体にすること、を含むプロセスを意味する。このようなプロセスは、顆粒(例 湿式顆粒化プロセスによって得られた顆粒または溶融顆粒化プロセスによって得られた顆粒)を用いる従来法と対照的であり、この顆粒は、次に賦形剤と混合され、圧力をかけられあるいは圧縮されて錠剤に形成される。直接形状化プロセスの利点は、明らかに、数種のプロセス段階をなくすことができることにある。圧縮/稠密化成形錠剤類は、典型的には、内相(該プリフォームされた顆粒粒子に対応する)および内相を取り囲み保持する外相を有することを特徴とする。粘着性の成形可能な塊にすでに存在する不均質物は別として、直接形状化した剤形は、本質的に単一相から構成される。
【0064】
数種の直接形状化プロセスが当業者に公知であり、そのうち、カレンダリング、射出成形、および熱形成プロセス類が好適である。
【0065】
カレンダリングとは、相互に合致する窪みを表面に有する2個の逆転ロールを備えたカレンダーに、粘着性の成形可能な塊を投入するプロセスを意味する。広範囲の剤形が、異なる形状の窪みを有するローラーを用いることで、完成できる。適切なプロセスが、例えば、EP0799013、EP0802779またはEP1135092に記載されている。
【0066】
射出成形とは、成形可能な塊を高圧で金型に射出するプロセスを意味し、それは、所望の形状の逆となっている。適切な方法は、WO01/43943に記載されている。
【0067】
熱形成とは、粉末混合物を金型空洞に入れ、形成温度まで加熱し、混合物の焼結を誘発するプロセスを意味する。このようにして形成された粘着性の成形可能な塊は、金型空洞の形状をとる。次いで、成形した剤形は固体化される。前記混合物の変形は、加熱したパンチ手段により補助させることができる。適切な方法は、WO05/016313に記載されている。
【0068】
剤形はその形状を変えることができ、例えば、丸、楕円形、長方形、円筒状または他の適切なあらゆる形状とすることができる。哺乳動物によって摂取され易くするために、剤形に適切な形状を付与することが有用である。従って、気楽に飲み込める大きな錠剤は、形状的には丸形よりも細長形が好ましい。
【0069】
錠剤に付いている被膜(フィルムコート)によって、錠剤を更に容易に飲み込めるようになる。また、被膜によって、味が良くなり、見映えも良くなる。必要ならば、被膜は腸浴膜でもよい。被膜には、通常、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びアクリレート若しくはメタクリレート共重合体のような高分子フィルム形成材料が挙げられる。被膜には、フィルム形成重合体の他に、更に、例えばポリエチレングリコールのような可塑剤、例えばTween(登録商標)タイプのような界面活性剤、及び任意で、例えば二酸化チタン又は酸化鉄のような顔料も含むことが可能である。また、被膜は、粘着防止剤としてタルクも含んでよい。被膜は、剤形の約5重量%未満を占めるのが普通である。
【0070】
本発明の剤形は、改善された磨耗耐性と硬度を示す。
【0071】
本発明の剤形は、例えば白血病、神経膠腫、肉腫、前立腺癌、乳癌、胃癌、腸腫瘍、肺癌、卵巣癌のような非悪性および悪性増殖性疾患類の治療のような抗癌治療のようにイマチニブのヒト適応に有用である。
【実施例】
【0072】
本発明を、付属の図面および下記の非限定的な実施例によって説明する。
図1〜5は、異なるpH値における本発明の剤形の薬物放出を示している。
【0073】
(実施例)
下記の表1に示した成分類を、高せん断ミキサーを用いて配合した。液体賦形剤類は、固体原料とともに顆粒化した。次に、粉末混合物を二軸押出機(Rheomex PTW16、Thermo Electron、Karlsruhe、Germany)に速度0.8kg/hかつ処理温度130℃で供給した。押出し物は次に、相互に合致する空洞を表面に有する2個の逆回転ローラーを備えたカレンダーに供給した。約1200mg(イマチニブ遊離塩基800mgに対応)の長さ18.8mmで直径が9.55mmの楕円錠剤類が得られた。
【0074】
生成した剤形の放出特性を、USPに従い100rpmかつ37℃で溶解装置(回転バスケット)により測定した。溶解媒体の容量は、900mLであった。溶解媒体として塩酸0.1mol/L(pH1.0);酢酸ナトリウム50mmol/L(pH4.5)およびリン酸二水素カリウム50mmol/L(pH6.8)を用いた。10mLのサンプルを、0.5、1、2、3、4、6および8時間に取り出した。適切な容量の0.1mol/L塩酸により希釈した後、サンプルを264nmでUV分光光度計により分析した。
【0075】
溶解研究の結果を図1〜5に示した。
【0076】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)イマチニブまたはその塩の薬学的有効量、
(b)少なくとも1種の高分子性結合剤、および
(c)少なくとも1種の薬学的に許容できる非イオン性界面活性剤、
の溶融処理混合物を含む剤形。
【請求項2】
イマチニブまたはその塩は、前記溶融処理混合物の総重量に対して少なくとも50重量%の量で存在する請求項1記載の剤形。
【請求項3】
直接形状化される請求項1または2記載の剤形。
【請求項4】
直接形状化が、カレンダリング、射出成形または熱形成によって行われる請求項3記載の剤形。
【請求項5】
前記剤形からの薬物放出が、本質的にpHに依存しない請求項1〜4のいずれか一項に記載の剤形。
【請求項6】
8時間における薬物放出が、pH1.0における放出値に対するpH6.8における放出値の比が少なくとも0.6である請求項1〜5のいずれか一項に記載の剤形。
【請求項7】
前記非イオン性界面活性剤が、ポリオール脂肪酸エステル、ポリアルコキシル化ポリオール脂肪酸エステル、ポリアルコキシル化脂肪アルコールエーテルまたはその混合物である請求項1〜6のいずれか一項に記載の剤形。
【請求項8】
前記可溶化剤が、プロピレングリコール脂肪酸モノまたはジエステルあるいはその混合物である請求項7記載の剤形。
【請求項9】
前記非イオン性界面活性剤が、HLB4以下を有する請求項1〜8のいずれか一項に記載の剤形。
【請求項10】
前記高分子性結合剤が、セルロース誘導体類、および、ビニルピロリドンのホモ−またはコポリマー類、およびその混合物類、から構成される群から選択される請求項1〜9のいずれか一項に記載の剤形。
【請求項11】
(a)イマチニブまたはその塩、少なくとも1種の高分子性結合剤、および少なくとも1種の薬学的に許容できる非イオン性界面活性剤、および任意の成分類を混合並びに加熱し、粘着性の成形可能な塊を得ること;および
(b)前記塊をダイに通すこと、
を含む請求項1記載の剤形を調製する方法。
【請求項12】
前記粘着性の成形可能な塊を、前記剤形の所望の形状に直接至らしめることを含む請求項11記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−509288(P2010−509288A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535736(P2009−535736)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際出願番号】PCT/EP2007/062100
【国際公開番号】WO2008/055965
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(506382275)アボット ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー (11)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】