説明

溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金およびそのCo基合金からなる鉛フリーはんだ付け装置部材

【課題】鉛フリーはんだ、特に溶融状態のSn−Ag系鉛フリーはんだに対する耐侵食性が優れたCo基合金およびそのCo基合金からなる鉛フリーはんだ付け装置部材を提供する。
【解決手段】Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、さらに必要に応じて(a)Ni:1.0〜24.0%、(b)La:0.01〜0.15%およびCe:0.01〜0.15%の内の1種または2種、(c)Mg:0.001〜0.05%の内の1種または2種以上、または前記(a)〜(c)の内の2種以上を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有するCo基合金およびそのCo基合金からなる鉛フリーはんだ付け装置部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶融鉛フリーはんだ、特に溶融状態のSn−Ag系はんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金およびそのCo基合金からなる鉛フリーはんだ付け装置部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に関する関心が高まり、例えば、ヨーロッパでは電子機器などへの有害物質の含有を規制することが決定されている。その規制物質の1つとして鉛が取り上げられている。鉛は電子部品の接合に用いられているはんだの主成分であることから、鉛を全く使用しないSn−Ag系の鉛フリーはんだ(鉛フリーはんだであるSn−Ag系はんだの組成としてSn−3.5%Ag、Sn−3.0%Ag−0.1%Cuなどが知られている)が開発され、従来の鉛はんだとの置き換えが進みつつある。したがって、現在では鉛フリーはんだと言えば前記Sn−Ag系はんだを一般に示している。ところが、鉛フリーはんだである前記Sn−Ag系はんだは、従来の鉛はんだに比べて反応性が高くかつ溶融温度が高く、そのために従来から使用されているSUS304(Cr:18〜20質量%、Ni:8〜10.5質量%、残部:Feおよび不可避不純物)、SUS309S(Cr:22〜24質量%、Ni:12〜15質量%、残部:Feおよび不可避不純物)、SUS316(Cr:16〜18質量%、Ni:10〜14質量%、Mo:2〜3質量%、残部:Feおよび不可避不純物)などのステンレス鋼で作製したはんだ付け装置では溶融鉛フリーはんだに対する侵食に耐えられず、したがって、従来のステンレス鋼で作製したはんだ付け装置では損傷して短期間で使用寿命に至り、早期にはんだ付け装置の交換を余儀なくされることが明らかとなってきた。
【0003】
ここで、溶融鉛フリーはんだである溶融Sn−Ag系はんだによるステンレス鋼の侵食について説明する。一般に、ステンレス鋼の表面には不働態皮膜と呼ばれる酸化皮膜などの非反応性物質が形成されており、この酸化皮膜などの非反応性物質により溶融Sn−Ag系はんだが直接金属面に接することを防ぎ、損傷を免れている。しかし、使用中に溶融金属の対流などにより摩耗を受けて表面皮膜が消滅すると、溶融Sn−Ag系はんだとメタルが直接反応するようになり、損傷の原因となる。すなわち、融点の高いFe、Niなどの金属がその融点より低い温度で低融点のSnと反応すると、低融点金属であるSnが高融点金属であるFe、Niなどに固体内拡散し、Snと反応生成物を形成し、この反応生成物のSn含有量が高まるに従い、融点が下がり、最終的には溶融金属中に溶融して損傷の原因となる。
そのため、鉛フリーはんだに対するはんだ付け装置の損傷を少しでもやわらげるために、はんだ付け装置を構成するステンレス鋼表面をセラミックコーティングしたり、ステンレス鋼表面に窒化層を設けるなどして装置の溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性を改善しようとしている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4などを参照)。
【非特許文献1】NIKKEI ELECTRONICS 2003.9.1 第49〜52頁
【非特許文献2】NiKKEI ELECTRONICS 2004.1.5 第91〜98頁
【非特許文献3】NIKKEI ELECTRONICS 2004.2.2 第37頁
【非特許文献4】NIKKEI ELECTRONICS 2004.2.16 第35頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、セラミックコーティングまたは窒化処理などの表面処理を施すと、溶接などによる補修が容易にできなかったり、チューブ部材内面などの複雑形状の部材にはこうした処理が施せないなどの課題があり、そのために、コーティングまたは窒化処理などの表面処理せずに使用できる溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性の高い材料が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者は、CoのSnに対する固溶限がNiやFeよりも格段に小さいことに着目し、種々の添加元素を最適化することにより、溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金の金属材料を得るべく鋭意研究を行った。
【0006】
その結果、質量%(以下、%は質量%を示す)でCr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、さらに必要に応じて下記の、
(a)Ni:1.0〜24.0%、
(b)La:0.01〜0.15%およびCe:0.01〜0.15%の内の1種または2種、
(c)Mg:0.001〜0.05%、
の内の1種または2種以上を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有するCo基合金は、溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れ、したがって、このCo基合金で作製したはんだ付け装置は、溶接部を含め、溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性が格段に上昇することから、使用寿命が格段に長くなる、という知見を得たのである。
【0007】
この発明は、かかる知見に基づいてなされたものであって、
(1)質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有する溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金、
(2)質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、さらにNi:1.0〜24.0%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有する溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金、
(3)質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、さらにLa:0.01〜0.15%およびCe:0.01〜0.15%の内の1種または2種を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有する溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金、
(4)質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、さらにMg:0.001〜0.05%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有する溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金、
(5)質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、さらにNi:1.0〜24.0%を含有し、さらにLa:0.01〜0.15%およびCe:0.01〜0.15%の内の1種または2種を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有する溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金、
(6)質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、さらにNi:1.0〜24.0%を含有し、さらにMg:0.001〜0.05%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有する溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金、
(7)質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、さらにLa:0.01〜0.15%およびCe:0.01〜0.15%の内の1種または2種を含有し、さらにMg:0.001〜0.05%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有する溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金、
(8)質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、さらにNi:1.0〜24.0%を含有し、さらにLa:0.01〜0.15%およびCe:0.01〜0.15%の内の1種または2種を含有し、さらにMg:0.001〜0.05%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有する溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金、に特徴を有するものである。
【0008】
したがって、この発明の溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金は、鉛フリーはんだ付け装置の部材として有効であり、一層具体的には、鉛フリーはんだ付け装置のはんだ槽、噴射ノズル、プロペラ、シャフト、ダクト、ヒーター保護管、ヒーター被覆管など鉛フリーはんだ付け装置の各種構成部品の部材として有効である。したがって、この発明は、
(9)前記(1)〜(8)の内のいずれかに記載の成分組成を有するCo基合金からなる鉛フリーはんだ付け装置部材、
(10)前記(1)〜(8)の内のいずれかに記載の成分組成を有するCo基合金からなる鉛フリーはんだ付け装置用はんだ槽、
(11)前記(1)〜(8)の内のいずれかに記載の成分組成を有するCo基合金からなる鉛フリーはんだ付け装置用噴射ノズル、
(12)前記(1)〜(8)の内のいずれかに記載の成分組成を有するCo基合金からなる鉛フリーはんだ付け装置用プロペラ、
(13)前記(1)〜(8)の内のいずれかに記載の成分組成を有するCo基合金からなる鉛フリーはんだ付け装置用シャフト、
(14)前記(1)〜(8)の内のいずれかに記載の成分組成を有するCo基合金からなる鉛フリーはんだ付け装置用ダクト、
(15)前記(1)〜(8)の内のいずれかに記載の成分組成を有するCo基合金からなる鉛フリーはんだ付け装置用ヒーター保護管、
(16)前記(1)〜(8)の内のいずれかに記載の成分組成を有するCo基合金からなる鉛フリーはんだ付け装置用ヒーター被覆管、に特徴を有するものである。
【0009】
次に、この発明の鉛フリーはんだ付け装置部材の合金組成における各元素の限定理由について詳述する。
Cr:
Crは、表面に濃縮して薄くて緻密なCrを主体とする不働態被膜を形成することにより、溶融鉛フリーはんだである溶融Sn−Ag系はんだが直接はんだ付け装置部材と接して反応してしまうことを阻害する効果があるが、Crを20.0%未満含有しても所望の効果が得られず、一方、35.0%を超えて含有すると加工が困難となる。従って、この発明のCo基合金からなる鉛フリーはんだ付け装置部材に含まれるCrは20.0〜35.0%に定めた。一層好ましくは、21.0〜25.0%である。
【0010】
W:
Wは、耐摩耗性を向上させることにより、溶融鉛フリーはんだの流動による損傷を抑制する効果があるが、Wを3.0%未満含有させても所望の効果が得られず、一方、Wを15.0%を超えて含有するとCrの効果を著しく損ない、結果的に溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性が劣化するので好ましくない。したがって、Wの含有量を3.0〜15.0%に定めた。一層好ましくは13.0〜15.0%である。
【0011】
Fe:
Feは、溶融鉛フリーはんだに微量溶出することにより、溶融鉛フリーはんだ、特に溶融Sn−Ag系はんだの反応性を抑制し、結果的に鉛フリーはんだによる損傷を抑制する効果があるので添加するが、Feは0.1%未満含有しても所望の効果が得られず、一方、25.0%を超えて含有すると鉛フリーはんだに対する耐侵食性が劣化するので好ましくない。したがって、Feの含有量を0.1〜25.0%とした。一層好ましくは0.5〜5.0%である。
【0012】
C:
Cは同時に含有するWと共に硬化相であるWCを形成し、これを素地中に微細に分散させることで耐摩耗性を著しく向上させ、流動する溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性を著しく向上させる作用があるが、Cは0.01%未満を含有しても所望の効果が得られず、一方、1.20%を越えて含有すると、合金が脆化し、板などへの形状付与が困難となるので好ましくない。したがって、Cの含有量を0.01〜1.20%に定めた。一層好ましい範囲は0.06〜0.5%である。
【0013】
Mn:
Mnは、母相の結晶構造であるオーステナイト構造を安定化させることにより、脆化を抑制し、その結果、形状付与を容易にする作用があるが、Mnが0.5%未満含有しても所望の効果が得られず、一方、2.0%を超えて含有すると鉛フリーはんだとの濡れ性を高め、溶融鉛フリーハンダとの反応を促進することとなり、損傷を加速するので好ましくない。したがって、Mnの含有量を0.5〜2.0%(一層好ましくは、0.5〜1.5%)とした。
【0014】
Si:
Siは酸素との親和性が高いために表面にSiOを形成し、Crと共に溶融鉛フリーはんだであるSn−Ag合金が直接金属と接して反応してしまうことを阻害する効果があるが、Siを0.1%未満含有しても所望の効果が得られず、一方、2.0%を越えて含有すると、合金の脆化が顕在化し、板などへの形状付与が困難となるので好ましくない。したがって、Siの含有量を0.1〜2.0%に定めた。一層好ましい範囲は0.2〜1.5%である。
【0015】
Ni:
Niは、母相の結晶構造であるオーステナイト構造を安定化させる元素であることから、凝固状態のままとなる溶接部での有害相の生成を抑制することにより、溶接部における溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性を向上させる効果があるため、必要に応じて添加されるが、Niを1.0%未満添加しても所望の効果が得られず、一方、24.0%を越えて含有すると溶融鉛フリーはんだに対する耐摩耗性が低下するようになるので好ましくない。したがって、Niの含有量を1.0〜24.0%に定めた。一層好ましい範囲は8.0〜24.0%である。
【0016】
LaおよびCe:
これら成分は、微量に添加することにより、溶融鉛フリーはんだ中で形成されるCo基合金の表面皮膜の密着性を向上させることにより鉛フリーはんだに対する耐侵食性を向上させる効果があるところから、必要に応じて添加される。しかし、Laの含有量が0.01%未満では所望の効果が得られず、一方、0.15%を越えて含有すると、逆に表面皮膜は剥離し易くなり、有害となるので好ましくない。したがって、Laの含有量を0.01〜0.15%に定めた。Laの含有量の一層好ましい範囲は0.05〜0.12%である。
同様に、Ceの含有量が0.01%未満ではCo基合金の表面皮膜の密着性を向上させるに十分な効果が得られず、一方、0.15%を越えて含有すると、逆に表面皮膜は剥離し易くなり、有害となるので好ましくない。したがって、Ceの含有量を0.01〜0.15%に定めた。Ceの含有量の一層好ましい範囲は0.05〜0.12%である。
【0017】
Mg:
MgはMnと共存させることにより母相の結晶構造であるオーステナイト構造を安定化させ、それにより脆化を抑制し、形状付与を容易にするという効果があるので必要に応じて添加するが、Mgの含有量が0.001%未満では所望の効果が発揮されず、一方、0.05%を超えて含有すると、逆に相安定性を劣化させ加工を困難にさせてしまうので好ましくない。したがって、Mgの含有量を0.001〜0.05%(一層好ましくは、0.002%〜0.010%)とした。
【0018】
不可避不純物:
不可避不純物としてはPやSなどが挙げられるが、これら不純物は、高温加工などの合金製造時における割れや溶接部における高温割れの原因となる。したがって、できるだけ低減することが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
この発明のCo基合金からなる鉛フリーはんだ付け装置部材は、鉛フリーはんだに対する耐侵食性、特に溶接部に対する耐侵食性が優れており、したがって、この部材で作製した鉛フリーはんだ付け装置は長期間損傷することなく使用することができ、電子・電気産業上優れた効果をもたらすものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
通常の高周波溶解炉を用いて溶解し鋳造して表1〜4に示される成分組成を有するCo基合金からなる厚さ:40mm、重さ:約5kgを有するインゴットを作製した。このインゴットを1230℃で10時間均質化熱処理を施し、1000〜1230℃の範囲内に保持しながら、1回の熱間圧延で1mmの厚さを減少させつつ最終的に厚さ:3mmの薄板とし、ついで1200℃で30分間保持し水焼入れすることにより固溶化処理を施し、表面をバフ研磨することにより本発明鉛フリーはんだ付け装置部材(以下、本発明部材という)1〜42および比較鉛フリーはんだ付け装置部材(以下、比較部材という)1〜16からなる薄板を作製した。
さらに、SUS304からなる厚さ:3mmの従来鉛フリーはんだ付け装置部材(以下、従来部材という)を用意した。
さらに、鉛フリーはんだの基本組成として知られているSn−3.0%Ag−0.1%Cuの組成の鉛フリーはんだを用意した。
【0021】
前記本発明部材1〜42、比較部材1〜16および従来部材からなる薄板をそれぞれ縦:30mm、横:20mm、厚さ:3mmの寸法に切断して溶接無し試験片を作製し、さらに前記本発明部材1〜42、比較部材1〜16および従来部材からなる厚さ:3mmの薄板をアルゴンアーク溶接機を用いて同材種の突き合わせ溶接を行い、突き合わせ溶接部を含む板から溶接ビードを中央に位置するように縦:30mm、横:20mmの寸法に切断して溶接有り試験片を作製した。これら試験片の表面を研磨し、最終的に耐水エメリー紙#400仕上げの表面研摩したのち、これらをアセトン中超音波振動状態に5分間保持し脱脂した。
【0022】
さらに、Sn−3.0%Ag−0.1%Cuの組成の鉛フリーはんだを460℃に加熱しこの温度に保持することにより溶融鉛フリーはんだを作製した。この溶融鉛フリーはんだを撹拌翼により対流させ、この対流している溶融鉛フリーはんだに前記溶接無し試験片および溶接有り試験片を浸漬し、1000時間保持した。1000時間保持後、溶接無し試験片および溶接有り試験片を取出し、溶接無し試験片の断面および溶接有り試験片の溶接部の断面を光学顕微鏡により観察し、母材部および溶接部の最大侵食深さを測定し、その結果を表1〜4に示し、溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性を評価した。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
【表4】

【0027】
表1〜4に示された結果から、本発明部材1〜42の溶接無し試験片の最大侵食深さは、従来部材であるSUS304ステンレス鋼の溶接無し試験片の最大侵食深さに比べて小さく、さらに本発明部材1〜42の溶接有り試験片の溶接部における最大侵食深さは従来部材であるSUS304ステンレス鋼の溶接有り試験片の溶接部における最大侵食深さに比べて一層小さいことから、本発明部材1〜42は、従来部材に比べて溶融鉛フリーはんだに対する耐食性、特に溶接部に対する耐食性に優れていることが分かる。
しかし、この発明から外れた比較部材1〜16の溶接有り試験片は溶接部の耐侵食性が劣っていたり、溶接無し試験片および溶接有り試験片の溶接部の両方の耐侵食性が劣っていたり、さらに板に加工する途中で割れが発生するものがあったりして好ましくない特性が有ることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金。
【請求項2】
質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、さらにNi:1.0〜24.0%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金。
【請求項3】
質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、さらにLa:0.01〜0.15%およびCe:0.01〜0.15%の内の1種または2種を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金。
【請求項4】
質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、さらにMg:0.001〜0.05%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金。
【請求項5】
質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、さらにNi:1.0〜24.0%を含有し、さらにLa:0.01〜0.15%およびCe:0.01〜0.15%の内の1種または2種を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金。
【請求項6】
質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、さらにNi:1.0〜24.0%を含有し、さらにMg:0.001〜0.05%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金。
【請求項7】
質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、さらにLa:0.01〜0.15%およびCe:0.01〜0.15%の内の1種または2種を含有し、さらにMg:0.001〜0.05%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金。
【請求項8】
質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:3.0〜15.0%、Fe:0.1〜25.0%、C:0.01〜1.20%、Mn:0.5〜2.0%、Si:0.1〜2.0%を含有し、さらにNi:1.0〜24.0%を含有し、さらにLa:0.01〜0.15%およびCe:0.01〜0.15%の内の1種または2種を含有し、さらにMg:0.001〜0.05%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする溶融鉛フリーはんだに対する耐侵食性に優れたCo基合金。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の成分組成を有するCo基合金からなることを特徴とする鉛フリーはんだ付け装置部材。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の成分組成を有するCo基合金からなることを特徴とする鉛フリーはんだ付け装置用はんだ槽。
【請求項11】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の成分組成を有するCo基合金からなることを特徴とする鉛フリーはんだ付け装置用噴射ノズル。
【請求項12】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の成分組成を有するCo基合金からなることを特徴とする鉛フリーはんだ付け装置用プロペラ。
【請求項13】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の成分組成を有するCo基合金からなることを特徴とする鉛フリーはんだ付け装置用シャフト。
【請求項14】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の成分組成を有するCo基合金からなることを特徴とする鉛フリーはんだ付け装置用ダクト。
【請求項15】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の成分組成を有するCo基合金からなることを特徴とする鉛フリーはんだ付け装置用ヒーター保護管。
【請求項16】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の成分組成を有するCo基合金からなることを特徴とする鉛フリーはんだ付け装置用ヒーター被覆管。

【公開番号】特開2006−257541(P2006−257541A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204505(P2005−204505)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】