説明

溶解スズおよびフッ化物イオンを含有する口腔ケア組成物

液体相を含有する口腔ケア組成物であって、該液体相は、該液体相を基準として30重量%〜90重量%、好ましくは30重量%〜80重量%の水;溶解スズ;該口腔ケア組成物を基準として200〜2000ppmのフッ化物イオン;および該口腔ケア組成物を基準として5〜60重量%のC(3〜5)糖アルコールを含み、該液体相中の溶解スズの含有量[Sn]が該組成物を基準として少なくとも750ppm、好ましくは少なくとも1000ppmであること;この溶解スズの含有量[Sn]のうち60mol%以上、好ましくは75mol%以上は、形式的酸化状態が+II価であること;ならびに該組成物が有機酸および式(I):R−NH−[(CH−NH−R(I)(式中、Rは、飽和または不飽和の、10〜20個の炭素原子の直鎖炭化水素残基であり、vは0〜1の整数であり、uは2〜3の整数であり、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素および−CHCHOHから選択される)のアンモニウムカチオンを含有することを特徴とする。該組成物は、洗口剤であることが好ましい。これらの組成物を、食物酸によって引き起こされる侵食性の歯の脱灰の処置または予防において試験する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、それぞれの内容の全体が参照により本明細書に包含される、欧州特許出願第08155126号および第09153802号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は口腔ケア組成物の分野、詳細には洗口剤(口内洗浄剤;mouthrinse)に関し、また、食物酸または胃液などの内因性の酸によって生じる酸性媒体中での侵食性の歯の脱灰を処置または予防する際のその洗口剤の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
酸の主要な発生源は3種類あり、これらは歯の脱灰を引き起こし得る。第1の発生源は、齲蝕原性の(虫歯を発生させる)口腔内細菌によって食物残渣から産生される酸である。これらの酸は、口腔内細菌によって代謝される食物残渣の炭水化物から生じるカルボン酸である。このような酸は比較的弱いが、長期間にわたって歯に作用する。第2の発生源は、食物自体、特に、果実、果実ジュースもしくは人工的なソフトドリンク、またはサラダドレッシングの中に含まれる外因性の食物酸である。第3の発生源は、内因性の酸、特に塩酸を含有する胃液であり、これらの酸は、過食症患者または逆流症患者などでの嘔吐によって歯と接触しうる。これらの後者2種類の酸は比較的強いが、短時間のみ歯に作用する。この後者2種類の酸によって引き起こされる歯の脱灰は「侵食性の歯の脱灰」と呼ばれ、齲蝕原性の口腔内細菌とは関連がない。過去に、酸を含有するソフトドリンクが消費者の間で高い人気となったために、食物酸による侵食性の歯の脱灰の問題はより深刻になり、今日、総人口のうちのかなりの割合がこの問題によって苦しめられている。同様に、過食症にかかる(主に女性の)患者も増加している。侵食性の歯の脱灰はほぼ不可逆性である(元に戻せない)と考えられていて、罹患した対象者はかなり長い間この脱灰に気がつかない。したがって、この病的状態は遅い段階で初めて診断されることが多く、その時にはすでに治療または治癒することが不可能になっている。
【0004】
フッ化物イオンは、例えばフッ化ナトリウム、フッ化第一スズ、ヘキサフルオロリン酸ナトリウムまたはフッ化アミンの形態で、歯の脱灰の予防に有益であることが長い間知られている。これらのフッ化物は、慣習的に、練歯磨剤、歯科用ゲル剤または洗口剤等の口腔ケア製品の形態で投与される。より高レベルでのフッ化物の毒性を考慮して、口腔ケア製品中の全フッ化物濃度は、典型的なレベルである、1500ppm未満に抑えられている。
【0005】
本出願の出願人は、本出願の優先権主張出願の出願時に、125ppmのフッ化物に相当する量のフッ化水素アミンOLAFLURおよび同様に125ppmのフッ化物に相当する量のフッ化第一スズを含有する洗口剤(meridol(登録商標))を発売した。
【0006】
フッ化第一スズの濃い水溶液(10重量%)は、in vitroで歯のエナメル質に長時間作用させると、SnPOであることが判明した不溶性の沈澱物をエナメル質上に生成することが知られている(非特許文献1:Archs.Oral Biol.16、241頁以降、1971年)。
【0007】
ドイツ、ギーセンにあるJustus−Liebig大学でのAnne SchurmannのPh.D.学位論文「Effekte unterschiedlich dosierter lokaler Fluoridapplikationen auf die erosive Demineralisation von humanem Dentin in situ」(2004年)(非特許文献2)では、本出願の出願人により市販されている3種類の口腔ケア製品、すなわち、a)350ppmのフッ化物に相当する量のOLAFLURおよび1050ppmのフッ化物に相当する量のフッ化第一スズを含有するmeridol(登録商標)練歯磨剤;b)上記のmeridol(登録商標)洗口剤;およびc)2500ppmのフッ化物に相当する量のOLAFLURおよび10000ppmのフッ化物に相当する量のフッ化ナトリウムを含有するが第一スズの塩は含有しないelmex(登録商標)ゼリー剤;の3種の口腔ケア製品を、クエン酸による侵食性の歯の脱灰に対するこれらの製品の効力を調べるために試験した。試験されたのは、a)の練歯磨剤、a)+b)の2つの組合せ、およびa)+b)+c)の3つの組合せであった。侵食性の歯の脱灰に対する効力は、a)から、a)+b)の2つの組合せ、a)+b)+c)の3つの組合せへと増大するのが認められ、この増大は、投与したフッ化物の量の増加によるものであると考えられた。
【0008】
米国特許第5,004,597A号明細書(特許文献1)は、その実施例中に、1000ppmを超える第一スズイオン、フッ化物および約10重量%のグリセロールを含有する口腔ケア組成物を開示している。この刊行物の組成物はフッ化アミンを含んでおらず、侵食性の歯の脱灰を処置または予防することも意図されていなかった。
【0009】
上記の発表された刊行物はいずれも、開示された液剤の長期保存性を調査していなかった。
【0010】
欧州特許出願公開第0 026 539 A2号公報(特許文献2)では、フッ化水素アミンは、フッ化第一スズと共に洗口剤等の口腔ケア組成物中に製剤化すると、酸化および沈澱に対して第一スズイオンを安定化することが認められていた。その実施例のうちのいくつかは、1000ppmを超える第一スズイオンを含有する口腔ケア製剤であった。しかしながら、この刊行物では、侵食性の歯の脱灰に対するその組成物の影響を調査していなかった。
【0011】
J.Dent.Res.50/3、531頁以降(1971年)(非特許文献3)では、pH4.0の酢酸/酢酸塩緩衝液によって引き起こされる侵食性のエナメル質の脱灰に対する、0.01Mのフッ化第一スズ溶液(これは約1180ppmの第一スズイオンに相当する)の効力を試験した。さらに、最長で21日間置いた後にも試験し、錯化剤であるグリセロールまたは酒石酸の存在下でも試験した。これら2種類の錯化剤のうちの1種類を含有するフッ化第一スズ溶液は、21日間の保存後に、フッ化第一スズのみを含有する溶液よりも侵食性のエナメル質の脱灰を予防する活性がより低いことが見出された。
【0012】
最近の刊行物(Caries Res.42、2〜7頁、2008年(非特許文献4))では、クエン酸による侵食性の歯の脱灰を処置するために、塩化第一スズ溶液(総スズ含有量815ppm)およびフッ化第一スズ溶液(総スズ含有量809ppm)をin vitroで試験した。クエン酸で侵食させ、次いでフッ化第一スズで処理した後に、歯の試料が侵食試験の前よりもさらに石灰化されることが認められた(該刊行物の図1を参照されたい)。しかしながら、この侵食アッセイはX線計測によるものであり、歯の表面に付着した微量の第一スズ塩の強い吸収により、歯の脱灰によって引き起こされる吸収の減少が部分的に補われたか、またはさらに過剰に補われたために、見かけ上の再石灰化の効力に誤差が生じている。さらに、これはin vitroの試験であったため、分析した試験溶液の効力に対する、in vivoで歯の表面に存在する唾液の薄膜の影響が考慮されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,004,597号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0 026 539 A2号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Archs.Oral Biol.16、241頁以降、1971年
【非特許文献2】ドイツ、ギーセンにあるJustus−Liebig大学でのAnne Schurmann著のPh.D.学位論文「Effekte unterschiedlich dosierter lokaler Fluoridapplikationen auf die erosive Demineralisation von humanem Dentin in situ」(2004年)
【非特許文献3】J.Dent.Res.50/3、531頁以降(1971年)
【非特許文献4】Caries Res.42、2〜7頁、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本出願は、食物酸または胃液のような内因性の酸によって引き起こされる侵食性の歯の脱灰の処置または予防における効力が向上し、かつ長期保存時に安定な、新規な口腔ケア組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一連の目的は、液体相を含有する口腔ケア組成物によって達成され、
該液体相は、該液体相を基準として30重量%〜90重量%、好ましくは30重量%〜80重量%の水;溶解スズ;該口腔ケア組成物を基準として200〜2000ppmのフッ化物イオン;および該口腔ケア組成物を基準として5〜60重量%のC(3〜5)糖アルコールを含み、
該口腔ケア組成物は、該液体相中の溶解スズの含有量[Sn]が該口腔ケア組成物を基準として少なくとも750ppm、好ましくは少なくとも1000ppmであること;この溶解スズの含有量[Sn]のうち60mol%以上、好ましくは75mol%以上は、形式的酸化状態(formal oxidation state)が+II価であること;ならびに該口腔ケア組成物が有機酸および式(I):
R−NH−[(CH−NH−R (I)
(式中、Rは、炭素原子10〜20個の飽和または不飽和直鎖炭化水素残基であり、vは0〜1の整数であり、uは2〜3の整数であり、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素および−CHCHOHから選択される)のアンモニウムカチオンを含有することを特徴とする。該口腔ケア組成物の好ましい実施形態は、従属項として特許請求の範囲に記載されている通りである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の口腔ケア組成物は、液体相を含む。本出願の文脈中では、「液体」とは、液体と呼ばれる相が室温で1000mPa・s以下の動的粘性を有するべきものであることと理解される。該液体相は、少なくとも部分的に水性であることが好ましい。したがって、該液体相は、該液体相を基準として好ましくは約30重量%〜約90重量%、より好ましくは約30重量%〜約80重量%の水を含有することができる。該液体相を基準として通常5重量%〜15重量%の量のエタノールを共溶媒とすることができる。
【0018】
「溶解スズ」という用語は、形式的酸化状態が+II価および/または+IV価であり、かつ液体相中に溶解している、イオン性または非イオン性のすべてのスズ種を包含することを意図するものである。このような溶解スズ種の例は、水和した第一スズイオン、水酸化第一スズ、配位子としての溶解したC(3〜5)糖アルコールおよび/または溶解した有機酸のアニオン性共役塩基を有する第一スズイオンおよび/または第二スズイオンの可溶性のイオン性錯体または非イオン性錯体、ならびに第一スズイオンおよび/または第二スズイオンのイオン性ヒドロキソ錯体である。溶解スズの含有量[Sn]のうちの好ましくは60mol%以上、より好ましくは75mol%以上は、形式的酸化状態が+II価のスズである。
【0019】
「C(3〜5)糖アルコール」という用語は、全炭素原子数nが3〜5であり、分子式がC(2n+2)であるすべての多価アルコールを包含することを意図するものである。これらの糖アルコールは、非環式で分岐していないことが好ましい。C(3〜5)糖アルコールの例は、グリセロール、エリトリトール、トレイトール、アラビトール、キシリトールおよびリビトールである。より好ましいのは、グリセロール、エリトリトールおよびトレイトール等の非環式で非分岐のC(3〜4)糖アルコールであり、特に好ましいのは、グリセロールである。該溶解C(3〜5)糖アルコールのより好ましい含有量の範囲は、該口腔ケア組成物を基準として25重量%〜45重量%である。該C(3〜5)糖アルコールは、液体相中に溶解されることが好ましい。
【0020】
該有機酸は、カルボン酸であることが好ましく、該組成物の液体相中に溶解されることが好ましい。「溶解(溶解した)」という用語は、ここでは、酸が、遊離酸としてまたはその酸のアニオン性共役塩基の薬学的に許容できる塩として、(いずれの場合であっても)生理学的に許容できるpHの液体相中に溶解されることを意味する。好ましい有機酸の下位群(サブグループ)は、カルボン酸の炭素原子を含めて4〜6個の炭素原子を有する食用のジカルボン酸もしくはトリカルボン酸、例えばコハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸およびアジピン酸等、または食用のα−ヒドロキシC(2〜6)カルボン酸、例えばグリコール酸、乳酸、クエン酸、酒石酸もしくはグルコン酸等である。該有機酸が薬学的に許容できる塩の形態で溶解される場合には、その対となるカチオンは、例えばアルカリ金属(ナトリウムまたはカリウム等)、アルカリ土類金属(マグネシウムまたはカルシウム等)、または亜鉛に由来するような、金属カチオンであってもよい。代替として、該対カチオンは、上記の式(I)のアンモニウムカチオンであってもよい。
【0021】
該有機酸の含有量は、該組成物を基準として、好ましくは0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜3重量%の範囲内であり、これにより、その上限は生理学的に許容できるpHの該液体相中にある共役塩基の塩の溶解性から決定することができる。有機酸の総含有量は、既知の一定分量の該口腔ケア組成物を約pH0まで酸性化して、エーテル等の有機溶剤で遊離有機酸を抽出し、その酸のシリルエステル誘導体を用いて較正GC(ガスクロマトグラフィー)により抽出物を分析することによって決定することができる。
【0022】
該液相中の溶解スズの含有量[Sn]は、該組成物を基準として、より好ましくは1000ppm〜3000ppmの範囲内であり、さらに好ましくは1300ppm〜2500ppmの範囲内であり、さらにより好ましくは1700ppm〜2200ppmの範囲内であり、最も好ましくは1900〜2100ppmの範囲内である。溶解スズの総含有量は、蛍光X線を用いて決定することができる(実施例13を参照されたい)。形式的酸化状態が+II価である溶解スズの含有量は、電位差測定で決定することもできる(実施例14を参照されたい)。溶解スズは、該口腔ケア製剤に添加した薬学的に許容できる第二スズイオン塩から生じることが好ましい。例としては、塩化第一スズ、フッ化第一スズ、水酸化第一スズ、硫酸第一スズがあり、塩化第一スズが好ましい。
【0023】
溶解スズ種(そのうちいくつかはどちらかといえば酸性である)と薬学的に許容できる有機酸塩(どちらかといえば塩基性である)との組合せは、該口腔組成物の液体相中で、口腔ケア組成物用の生理学的に許容できるpH範囲、例えば通常約3.0〜約7.0、好ましくは約4.0〜約5.0、より好ましくは約4.3〜約4.6であるpH範囲を生じさせることができる。必要に応じて、口腔ケア組成物のpHを、酸(塩酸等)または塩基(水酸化ナトリウム等)を添加することによって望ましい値に調整してもよい。
【0024】
該口腔ケア組成物のフッ化物イオン含有量は、該組成物を基準として、200〜2000ppm、好ましくは500〜1000ppmである。該フッ化物は、該組成物の液体相中に溶解されることが好ましい。該口腔ケア組成物のフッ化物イオン含有量は、フッ化物選択性電極を用いて電位差測定で決定することができる(実施例15を参照されたい)。該フッ化物は、慣習的に口腔ケア組成物に用いられる任意のフッ化物イオン源の形態で、例えばフッ化第一スズおよび/またはフッ化ナトリウムおよび/または上記のフッ化アミンとして、該口腔ケア組成物に添加することができる。
【0025】
本発明の口腔ケア組成物の好ましい一実施形態では、該組成物を基準としたフッ化物イオンの含有量[F]は、ppmで、0.70[Sn]≧[F]≧0.40[Sn]、より好ましくは0.60[Sn]≧[F]≧0.40[Sn]の範囲内であり、ここで、[Sn]は上記の意味を有する。他の好ましい一実施形態では、該組成物を基準としたフッ化物イオンの含有量[F]は、ppmで、0.30[Sn]≧[F]≧0.20[Sn]の範囲内であり、ただしこの場合には、上記の溶解スズの含有量[Sn]は、該組成物を基準として、1900〜2200ppmの範囲内または1000〜1400ppmの範囲内であり、好ましくは1050〜1250ppmの範囲内である。これらの好ましい実施形態のすべてにおいて、溶解スズの含有量[Sn]のうちの好ましくは80mol%以上、またはさらに90mol%以上は、形式的酸化状態が+II価である。これらの好ましい実施形態のすべてにおいて、該組成物は洗口剤(口内洗浄剤;mouthrinse)であることが好ましい。
【0026】
式(I)のアンモニウムカチオンは、1個または2個の塩基性窒素原子を含む対応するアミンであって、口腔ケア組成物に許容できる酸のある量を添加することによって式(I)のアンモニウムカチオンに変換される対応するアミンから生じる。このような酸は、例えば、塩酸、フッ化水素酸、炭酸、クエン酸、乳酸またはグルコン酸等の口腔ケア組成物に許容できる酸であり、好ましくは塩酸またはフッ化水素酸、最も好ましくはフッ化水素酸であり、後者(フッ化水素酸)の場合、その酸付加塩は「フッ化水素アミン(amine hydrofluoride)」または「フッ化アミン(amine fluoride)」として知られている。アンモニウムカチオンの含有量は、該組成物を基準として、150ppm〜1000ppmの範囲内であることが好ましい。式(I)のアンモニウムカチオンは、該組成物の液体相中に溶解されることが好ましい。式(I)のアンモニウムカチオンの含有量の測定は、これらの対応する遊離アミン塩基を通じて、較正した逆相HPTLC(高性能薄層クロマトグラフィー)を用いて行うことができる(実施例16および17を参照されたい)。
【0027】
式(I)のアンモニウムカチオン中の残基Rは、偶数または奇数の鎖長を有することができる。式(I)の窒素原子に結合されているRの炭素原子は、メチレン基を形成することが好ましい。生理学的な許容性を考慮して、偶数鎖長を有する残基Rが好ましい。該残基は、飽和であってもよく、または1価、2価もしくは多価の不飽和であってもよく、好ましくは1価不飽和である。偶数鎖長を有する飽和炭化水素残基の例は、デシル、ドデシル(ラウリル)、テトラデシル(ミリスチル)、ヘキサデシル(セチル、パルミチル)、オクタデシル(ステアリル)およびエイコサニルである。偶数鎖長を有する不飽和残基の例は、9−シス−オクタデセン−1−イル(オレイル)、9−トランス−オクタデセン−1−イル(エライジル)、シス,シス−9,12−オクタデカジエン−1−イル(リノリル)、シス,シス,シス−9,12,15−オクタデカトリエン−1−イル(リノレニル)または9−シス−エイコサエン−1−イル(ガドリル)である。好ましいものは、偶数のC(16〜20)アルキルまたは偶数のC(16〜20)アルケニルである。より好ましいものは、RがC18アルキルまたはC18アルケニルである式(I)のカチオンであり、Rが9−シス−オクタデセン−1−イル(オレイル)であるものが最も好ましい。
【0028】
式(I)のアンモニウムカチオンを含む上記の酸付加塩は、対応する遊離アミン塩基R−NR−[(CH−NR−R(式中、すべての記号は請求項1に記載のものと同様の意味を有する)を、遊離アミン塩基に存在する塩基性窒素原子あたり1当量または1当量よりも少し多い(例えば1.05当量)ヒドロニウムイオンの適切な酸と反応させることによってすべての場合において調製することができる。該遊離アミン塩基が純粋な化合物である場合には、塩基性窒素原子の数は、その構造式から明らかである。しかしながら、該アミン塩基が化合物の混合物である場合には、塩基性窒素原子の数は、ガラス電極を使用して、そのような混合物の試料を氷酢酸中の過塩素酸を用いて滴定することによって決定することができる。
【0029】
遊離アミン塩基自体の調製は、以下の(i)〜(iii)の中で簡単に説明する。
【0030】
(i)vが0であり、R、Rが水素である場合には、該アミン塩基は単純に脂肪族アミンR−NHである(式中、Rは請求項1に記載の意味を有する)。
【0031】
(ii)vが0であり、RおよびRのうち少なくとも1つが−CHCHOHである場合には、該アミンは、脂肪族アミンR−NHのヒドロキシエチル化によって得ることができ(Rは請求項1に定義する通りである)、1当量のエチレンオキシドによるヒドロキシエチル化では、RがHであり、Rが−CHCHOHである該アミンが得られ、2当量のエチレンオキシドでは、R、Rが−CHCHOHである該アミンが得られる。
【0032】
(iii)vが1であり、uが2または3である場合には、これらは、塩化アシルR’−COClによるエチレンジアミンまたはプロピレンジアミンのアシル化によってそれぞれ調製することができ、最初に、R、RおよびRが水素であるアミドR’−CO−NR−[(CH−NR−Rが得られる。これらのアミンの非アシル化窒素原子を1当量のエチレンオキシドと反応させることにより、R、Rが水素であり、Rが−CHCHOHである対応するアミドが得られ、または2当量のエチレンオキシドとの反応では、Rが水素であり、R、Rが−CHCHOHである対応するアミドが得られる。さらに、Rを−CHCHOHとして導入するために、これらのアミドのいずれかを、t−BuOKのような強塩基の存在下で、そのアミド窒素(Rをそのアミド窒素に結合させているもの)において、任意選択によりそのヒドロキシル基をジヒドロピランで予め保護したブロモエタノールと反応させることができる。次いで、任意選択により存在するすべてのヒドロキシルをジヒドロピランで予め保護して、こうして得られたアミドのいずれかを、水素化アルミニウムリチウムを用いて対応するアミンへと還元させて、アミンR’−CH−NR−[(CH−NR−Rを得ることができる(式中、R’−CHは請求項1のRと等しい)。このアシル化工程後に前記反応順序を逆にして(すなわち、まずアミド窒素における1−ブロモエタノール/t−BuOKによるアルキル化、次いで1当量のエチレンオキシドとの反応)、その後、水素化アルミニウムリチウムによる還元を実施する場合には、R、Rが−CHCHOHであり、Rが水素であるアミン塩基を得ることができる。
【0033】
すでに述べたように、式(I)のアンモニウムカチオンは、フッ化水素アミンとして該口腔ケア組成物に添加されることが最も好ましい。Rが9−オクタデセン−1−イル(オレイル)であり、vが0であり、R、Rが水素であるフッ化水素アミンは、DECTAFLURという国際一般名のもとで知られている。vが0であり、RおよびRが−CHCHOHであり、Rがオクタデシルまたは9−オクタデセン−1−イルであるフッ化水素アミンは、WO98/22427Aの実施例から知られている。これらの2種類のうち後者は、XIDECAFLURという国際一般名のもとで知られている。vが1であり、uが3であり、R、RおよびRが−CHCHOHであるフッ化アミンは、OLAFLURという国際一般名のもとで知られている。OLAFLUR、DECTAFLURおよびXIDECAFLURは、特に好ましいフッ化水素アミン(またはフッ化アミン)であり、最も好ましいものはOLAFLURである。
【0034】
該口腔ケア組成物は、塩化物イオンを含有することもでき、該液体相中に溶解イオンとして含有することが好ましい。該組成物を基準とした塩化物含有量[Cl]の好ましい範囲は、ppmで、0.65[Sn]≧[Cl]≧0.55[Sn]の範囲内であり、好ましくは0.62[Sn]≧[Cl]≧0.56[Sn]の範囲内であり、最も好ましくは約0.60[Sn]である。該塩化物含有量は、電位差滴定によって測定することができる(実施例18を参照されたい)。該塩化物は、例えば塩化ナトリウム、塩化カルシウムまたは塩化第一スズとして添加することができ、塩化第一スズが好ましい。
【0035】
本発明の口腔組成物は、銅を含まないことが好ましく、すなわち、該組成物を基準として、好ましくは0.05重量%未満、より好ましくは0.001重量%未満の銅を含有することが好ましい。
【0036】
本発明の口腔ケア組成物は、電気的に中性であると理解される。すなわち、存在するすべてのアニオンによってもたらされる負電荷の合計は、存在するすべてのカチオンの合計と等しい。
【0037】
本発明の口腔ケア組成物は、いかなる製剤、例えば練歯磨剤、歯科用ゲル剤、洗口剤(口内洗浄剤)等であってもよい。
【0038】
本発明の組成物は、洗口剤である場合には、基本的に透明な溶液であり、懸濁または沈澱した固形物も混濁も全くないことが好ましい。
【0039】
本発明の組成物は、特に洗口剤の形態で、処置または予防に有効であり、特に、食物酸(すなわち食物由来の酸)または胃液のような内因性の酸によって引き起こされる侵食性の歯の脱灰の予防において有効である。本出願の文脈中において、「食物酸」として考えられるものは、詳細には、リン酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、炭酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、酒石酸、タンニン酸、カフェオタンニン酸、アスコルビン酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルカル酸、ペクチン、水和二酸化硫黄、およびアミノ酸、ならびにヒトの唾液の通常のpH(すなわち、pH約5.6〜約8.4)において水溶液中に少なくとも50mol%まで解離可能な少なくとも1個の水素原子を含有するこれらのあらゆる塩である。食物酸として特に知られているのは、3.0以下の第1pKa値を有するような酸(リン酸、クエン酸、水和二酸化硫黄およびアスパラギン酸等)、および/またはカルシウムイオンをキレート化する配位子として作用することのできるような酸(乳酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸およびアミノ酸等)および/または溶解性の低いカルシウム塩を生成するような酸(シュウ酸、炭酸およびリン酸等)である。本出願において、「溶解性の低いカルシウム塩」として理解されるものは、周囲の温度および圧力ならびに35Paの二酸化炭素分圧において、pH5.7の水100mlあたり0.1g未満の溶解性を有するカルシウム塩である。
【0040】
あらゆる種類の本発明の口腔ケア組成物は、例えば以下のようなさらなる任意選択の構成成分を含有することができる:
− 香味剤および清涼剤、例えば、クマリン、バニリン、芳香油(ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、メントール、アネトールまたはかんきつ油等)または他のエキス(リンゴエキス、ユーカリエキスまたはスペアミントエキス等)。これらの香味剤は、該口腔ケア組成物を基準として、0重量%〜0.5重量%存在していてもよく、0.03重量%〜0.3重量%が好ましい。
− 甘味剤、特に、人工甘味剤、例えば、サッカリン、アセスルファム、ネオテーム、チクロもしくはスクラロース;天然の高甘味度甘味剤、例えば、タウマチン、ステビオシドもしくはグリチルリジン;または、C(3〜5)糖アルコール以外の糖アルコール、例えば、ソルビトール、キシリトール、マルチトールもしくはマンニトール。これらは、該組成物を基準として、0重量%〜0.2重量%の量で存在していてもよく、0.005重量%〜0.1重量%が好ましい。
− 抗菌剤および/または保存剤、例えば、クロルヘキシジン、トリクロサン、第四級アンモニウム化合物(塩化ベンザルコニウム等)またはパラベン(メチルパラベンまたはプロピルパラベン等)。該口腔ケア組成物中の抗微生物剤の量は、該口腔ケア組成物を基準として、通常、0〜約0.5重量%、好ましくは0.05〜0.1重量%である。
− 主に、水性媒体中で溶解性の低いことが多い上記の香味剤および/または抗菌剤に関連した、乳化剤または溶解剤。こうした乳化剤の例は、中性界面活性剤(ポリオキシエチレン水素添加ヒマシ油または糖の脂肪酸等)、アニオン性界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム等)、カチオン性界面活性剤(式(I)のアンモニウムカチオン等)または両イオン性界面活性剤である。これらの界面活性剤または溶解剤は、該口腔ケア組成物を基準として、通常、0重量%〜2重量%の量で存在していてもよく、0.2重量%〜1.5重量%が好ましい。
− 該口腔ケア組成物にチキソトロピー性を付与するのに有効な量のチキソトロピー剤、例えば、溶解性グレードのヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはムチン。
− 安定剤、例えば、ポリビニルピロリドン。
【0041】
特に、練歯磨剤または歯科用ゲル剤のように固体相を有する本発明の口腔ケア組成物のさらなる任意選択の構成成分は、無機研磨剤(例えば、シリカ、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウムまたはピロリン酸第一スズ等)または有機研磨剤(ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリレート(メタクリレート)からのコポリマーおよび他のオレフィンモノマー、ポリアミド、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、硬化して粉砕されたエポキシ樹脂またはポリエステル等)のような研磨剤である。
【0042】
本発明の口腔ケア組成物は、侵食性の歯の脱灰を処置または予防するために、そうした処置または予防を必要とする対象において使用することができる。この用途の場合、該口腔ケア組成物は洗口剤(口内洗浄剤)であることが好ましい。該洗口剤は、洗口剤を、通常1日1回、必須の4種類のイオンの含有量によって通常5〜30ml、好ましくは約10〜20mlの量で使用するための指示が、洗口剤の成分含有量に再び基づいて通常約10秒〜1分、好ましくは約30秒である一定時間で口腔をすすぐようにという対象者への指示と共に印刷されたリーフレットと、洗口剤との双方を含み、このようにして対象者の歯を洗口剤と接触させる、パッケージの形態で必要とする対象者に提供することが好ましい。すすいだ後、洗口剤を飲まずに捨てることができ、その後、口腔を水ですすがないことが好ましい。こうした投与方法は、従来技術の洗口剤の投与方法と同様である。
【0043】
本発明の口腔ケア組成物は、0.60[Sn]≧[F]≧0.40[Sn]のように、フッ化第一スズ自体におけるものでも、SnPOにおけるものでもない、スズ含有量に相対的な量のフッ化物を含むことが好ましいという事実にもかかわらず(本明細書の導入部を参照されたい)、侵食性の歯の脱灰に対して有効である。本発明の口腔ケア組成物は安定であり、したがって、長期保存時に透明で沈澱物のない状態を維持する。本発明の口腔ケア組成物は、出願人自身によって市販される既知のmeridol(登録商標)洗口剤よりもかなり多量のスズを含むという事実にもかかわらず、歯の変色も歯肉の炎症も引き起こさない。
【0044】
以下の非限定的な実施例により、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0045】
実施例1〜12:洗口剤の製剤化
以下の実施例では、「AmF」または「AmF297」はフッ化水素アミンOLAFLURを表す。表中のすべての成分の量は、洗口剤の総量に基づいた重量パーセントで記載している。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
実施例13:本発明の口腔ケア組成物における蛍光X線による溶解スズの総含有量[Sn]の測定
蛍光X線分光計として、Thermo Noran QuanXを用いる。2種類の溶液を以下のように計測する。
【0049】
溶液1:5gの該口腔ケア組成物を、XRFカップ内に直接添加する。次いで、このXRFカップを、適切な閉じリングを用いてポリエチレンホイルで閉じ、その後、該機器のオートサンプラー内に挿入する。
【0050】
溶液2は、溶液1と同様ではあるが、さらに添加した既知量の第一スズ塩[ΔSn]を試料溶液の[Sn]の予想されるppm値の80%〜120%の範囲内で含有している。
【0051】
溶液1および2をそれぞれ、銅フィルター、25.193keVのKα線を用いて、50kV励起のX線で600秒間照射する。溶液1の積分した蛍光強度ピーク下の面積をAとし、溶液2の積分した蛍光強度ピーク下の面積をAとする。
【0052】
該組成物を基準としたppmでの溶解スズ含有量[Sn]は、以下のように得られる:
【数1】

【0053】
実施例14:本発明の口腔ケア組成物における形式的酸化状態が+II価にある溶解スズの計測
スイス、Metrohmの白金複合電極6.1204.310型、およびスイス、Metrohmの電位差計Titrando 809を用いる。使用説明書に従って、電極の較正を実施する。
【0054】
10.0000gの該口腔ケア組成物を、100mlの容器内で正確に計量して(±0.1mg)、40mlの水、5mlの32重量%HClおよび既知の一定分量v(ml)の0.05MのKI標準溶液を添加し、それによってヨウ素が、試料中に含まれる形式的酸化状態が+II価にあるスズよりも、過剰に添加されるようにする(vの通常値は、5mlである)。
【0055】
該電極をこの試料溶液中に浸漬し、それまでに形式的酸化状態が+II価にあるスズによってIに還元されずに残っているヨウ素を0.1MのNa標準溶液で滴定の終点まで逆滴定する。Na溶液のmlでの使用量をvとする。
【0056】
該口腔組成物を基準としたppmでの、該試料中に含まれる形式的な酸化状態が+II価にあるスズ[Sn+II]は、以下のように得られる:
【数2】

【0057】
実施例15:本発明の口腔ケア組成物における電位差によるフッ化物の測定
スイス、Metrohmのフッ化物選択性電極6.0502.150型、スイス、MetrohmのpH/イオンメーター692、およびスイス、MetrohmのAg/AgCl参照電極6.0750.100型を用いる。
【0058】
全イオン強度調整緩衝液(TISAB:total ionic strength adjusted buffer)が必要であり、これを以下のように作製する:
水2リットル中の160mgのNaOHの溶液を調製する(溶液1);水2リットル中に、25gの1,2−ジアミノ−シクロヘキサン−N,N,N’,N’−四酢酸、290gのNaClおよび285mlの氷酢酸を溶解する(溶液2);次いで、溶液1および2を混合し、水で5リットルまでメスアップする。
【0059】
該pH/イオンメーターの使用説明書に従って、フッ化物選択性電極の較正を実施する。
【0060】
1.0000g±0.1mgの該口腔ケア組成物を50mlのプラスチック容器内で正確に計量して20.0000g±0.1mgの重量になるまで水でメスアップし、20mlの上記TISAB緩衝液を添加する。該pH/イオンメーターの使用説明書に従って、該フッ化物選択性電極および該参照電極をこの試料中に浸漬して、5分後に電位差を読み取る。ppmでのフッ化物濃度は、計測した反応値に40(該口腔ケア組成物から計測試料までの合計希釈係数)を乗算し、該口腔ケア組成物試料のgでの重量で除算することによって算出する。
【0061】
実施例16:本発明の口腔ケア組成物における、R、R=水素でv=0、またはR、R=水素でv=1である式(I)のアンモニウムカチオンの測定
この測定は、ニンヒドリンによる染色後、逆相HPTLCプレート上での濃度測定による定量を用いて実施する。
【0062】
方法:
ニンヒドリン溶液:1000mlの分析グレード(p.a.)のエタノールに2gの純粋なニンヒドリンを溶解する。この溶液は、ガラス瓶中、4℃で保存する必要がある(最高保存期間:1カ月)。
【0063】
測定するアンモニウムカチオンの参照溶液は、正確な既知の量の対応する純粋なフッ化水素アミンを分析グレードのメタノールに溶解することによって調製し、該溶液を基準として、約3000ppmの範囲内である正確な既知の含有量のフッ化アミンを含む溶液を作製する。この参照溶液を以下ではRと表す。
【0064】
試料溶液:約1gの該口腔ケア組成物の量Mを、25mlのメスフラスコ内で(0.1mgの範囲内まで)正確に計量して、分析グレードのメタノールでメスアップする。超音波照射に約20分間曝露させる。この溶液をSと表す。
【0065】
HPTLCプレートは、蛍光指示薬を含まないSilicagel 60、10×20cm(Merck no.5626)である。
【0066】
該参照溶液および該試料溶液を、以下のトラック表に従って、アプリケーターLinomat IV(スイス、Camag)を用いてHPTLCプレート上に適用する。
【0067】
【表3】

【0068】
各トラックが有するプレート上の最初の幅は4mmであり、2トラック間の最初の距離は5mmであり、最も外側の1トラックからプレートの近接する端までの最初の距離は11mmである。
【0069】
該プレートを、溶離液として9:1(v/v)のエタノール:25%アンモニア水を用いて約6cmの移動距離まで展開する(これらの条件下で、例えば、R、R=水素かつR=9−オクタデセン−1−イルである式(I)のアンモニウムカチオンは、約0.6のR値まで移動する)。次いで、このプレートを、ニンヒドリン溶液中に10分間浸漬し、100℃で10分間乾燥させる。
【0070】
計算:
展開したすべてのスポットの面積を、TLCスキャナー3(スイス、CAMAG)を用いて波長480nmの光で濃度測定的に評価する。
【0071】
トラック1、3、5、7および9から得られた面積を用いて、放物線状に近似した、面積に対するフッ化アミンのμg量の第1の較正曲線を得る。同様な第2の較正曲線を、トラック11、13、15、17および19から得る。
【0072】
試料トラック2、6、10、14および18からの平均面積を、第1の較正曲線を用いてフッ化アミンのμg量[am1]に変換する。同様に、試料トラック4、8、12、16および20からの平均面積を、第2の較正曲線を用いてフッ化アミンのμg量[am2]に変換する。
【0073】
その後、該口腔ケア組成物を基準とした、ppmでの式(I)のアンモニウムカチオンの含有量[AM]は、以下のように得られる:
【数3】

(式中、M、[am1]および[am2]は上記に定義した通りであり、MWは溶液Rを調製するために使用した純粋なフッ化アミンの分子量であり、かつvは式(I)に定義した通りである)。
【0074】
実施例17:本発明の口腔ケア組成物における式(I)のアンモニウムカチオンの測定
この実施例の方法は、実施例16の表題に示した定義にあてはまらない他のすべての式(I)のアンモニウムカチオンに適用可能である。この測定は、ベルリンブルーによる染色後、逆相HPTLCプレート上で実施する。
【0075】
ベルリンブルー溶液:4gの分析グレードのヘキサシアノ鉄酸(III)カリウムを150mlの蒸留水に溶解し、350mlの分析グレードのアセトンを添加する。これとは別に、500mlの分析グレードのエタノールに7.5gの分析グレードの塩化鉄(III)六水和物を溶解する。この2種類の溶液各40mlと分析グレードのエタノール80mlとを使用直前に混合する。
【0076】
測定するアンモニウムカチオンの参照溶液は、正確な既知の量の対応する純粋なフッ化水素アミンを分析グレードのメタノールに溶解することによって調製し、該溶液を基準として、約500ppmの範囲内である正確な既知の含有量のフッ化アミンを含む溶液を作製する。この参照溶液をRと表す。
【0077】
試料溶液:約1gの該口腔ケア組成物の量Mを、100mlのメスフラスコ内で(0.1mgの範囲内まで)正確に計量して、分析グレードのメタノールでメスアップする。超音波照射に約15分間曝露させる。この溶液をSと表す。
【0078】
該HPTLCプレートは、蛍光指示薬を含まないSilicagel 60、10×20cm(Merck no.5626)である。
【0079】
該参照溶液および該試料溶液を、以下のトラック表に従って、アプリケーターLinomat IV(スイス、Camag)を用いてHPTLCプレート上に適用する。
【0080】
【表4】

【0081】
各トラックが有するプレート上の最初の幅は4mmであり、2トラック間の最初の距離は5mmであり、最も外側の1トラックからプレートの近接する端までの最初の距離は11mmである。
【0082】
該プレートを、溶離液として3:3:3:1(v/v/v/v)のn−ペンタノール:エタノール:ジエチルエーテル:25%アンモニア水を用いて約6cmの移動距離まで展開する(これらの条件下で、例えば、R、R、R=2−ヒドロキシエチル、R=9−オクタデセン−1−イル、v=1かつu=3である式(I)のアンモニウムカチオンは、約0.8のR値まで移動する)。次いで、このプレートを、ベルリンブルー溶液中に10分間浸漬し、100℃で10分間乾燥させる。
【0083】
計算:
展開したすべてのスポットの面積を、TLCスキャナー3(スイス、CAMAG)を用いて波長592nmの光で濃度測定的に評価する。
【0084】
トラック1、3、5、7および9から得られた面積を用いて、放物線状に近似した、面積に対するフッ化アミンのμg量の第1の較正曲線を得る。同様な第2の較正曲線を、トラック11、13、15、17および19から得る。
【0085】
試料トラック2、6、10、14および18からの平均面積を、第1の較正曲線を用いてフッ化アミンのμg量[am1]に変換する。同様に、試料トラック4、8、12、16および20からの平均面積を、第2の較正曲線を用いてフッ化アミンのμg量[am2]に変換する。
【0086】
その後、該口腔ケア組成物を基準とした、ppmでの式(I)のアンモニウムカチオンの含有量[AM]は、以下のように得られる:
【数4】

(式中、M、[am1]および[am2]は上記に定義した通りであり、MWは溶液Rを調製するために使用した純粋なフッ化アミンの分子量であり、かつvは式(I)に定義した通りである)。
【0087】
実施例18:本発明の口腔ケア組成物における電位差による塩化物イオンの測定
スイス、Metrohmの銀/塩化銀複合電極6.0350.100型、およびスイス、Metrohmの電位差計Titrando 809を用いる。使用説明書に従って、電極の較正を実施する。
【0088】
1000±0.1mgの該口腔ケア組成物を100mlのプラスチック容器内で正確に計量して、50mlの水および2mlの65重量%硝酸を添加する。
【0089】
該電極をこの試料中に浸漬して、試料を0.01Mの硝酸銀標準溶液で滴定の終点まで滴定する。硝酸銀溶液のmlでの使用量をvとする。
【0090】
該組成物を基準としたppmでの該試料中に含まれる塩化物イオン[Cl]は、以下のように得られる:
【数5】

【0091】
実施例19:本発明の洗口剤を用いたin situ脱灰試験
この試験は、抜歯された第三大臼歯から切断したエナメル質試料および象牙質試料で実施した。侵食試験は、クエン酸溶液を使用してex situ(実験施設内)で実施し、処置試験は、侵食させた試料を、被験者の顎に固定した試料ホルダーを使用して被験者に口内で保持させて本発明の洗口剤を使用することにより、in situ(その場)で実施した。この試験は、二重盲検無作為化試験として実施した。
【0092】
エナメル質試料および象牙質試料を以下のように調製した:
歯から、残っているすべての軟組織および歯根を除去した。エナメル質または象牙質のいずれかの部分の歯面から、歯の縦方向に、約1mmの厚さの試料を切り取った。本来の天然の歯面であるこれらの試料の表面を、最初に粒径12μm、次いで5μmの紙やすりを使用して研磨し、少なくとも3×3mmの平らな試験表面を得た(象牙質またはエナメル質をそれぞれ、最大約250μmの深さまで除去した)。この方法により、合計で96個のエナメル質試料および96個の象牙質試料を調製した。これらの試料は、週1回新たに調製したチモール溶液中で冷蔵庫内に試験まで保存した。
【0093】
被験者は、良好な口腔状態(人工義歯がなく、開いた齲蝕病変または明らかに不具合のある歯科用固定具がなく、目に見える歯垢がない)を有する8名のヒトであった。これらの被験者は、0.25〜0.35ml/分(非刺激時)、1.0〜3.0ml/分(刺激時)の範囲内の歯の唾液流量;4.25〜4.75(非刺激時)、5.75〜6.5(刺激時)の範囲内の唾液緩衝能;および6.5〜6.9(非刺激時)、7.0〜7.5(刺激時)の範囲内の唾液pH値を有していた。
【0094】
顎装着用の前記試料ホルダーは、被験者ごとに個別に作製され、象牙質試料2個およびエナメル質試料1個用または象牙質試料1個およびエナメル質試料2個用いずれかのための、3個の頬側の支持具を各側に有していた。すなわち、これらの試料ホルダーは、各被験者がエナメル質試料3個および象牙質試料3個を有するように適合されていた。試料ホルダーは、被験者による使用前に、75体積%のエタノール水に30分間浸漬することによって消毒した。
【0095】
各被験者は、実施例7および8の洗口剤、本明細書の導入部に記載した市販のmeridol(登録商標)洗口剤、ならびに第一スズイオンおよびフッ化物のいずれも含まないプラセボの溶液を試験した。被験者は、これらのそれぞれを7日間の試験期間で試験し、これらを被験者に知られていない、無作為化した異なる順序で試験した。7日間の各試験期間における方法は、以下の通りであった。
【0096】
A)試験期間前:
1)5日間の「洗い出し」期間を実施し、期間中、被験者は通常の口腔衛生を行った。
2)上記の研磨したエナメル質試料または象牙質試料の試験表面の半分を光硬化性樹脂(Technovit 7230 VLC、Kulzer−Exakt、Wehrheim、ドイツ)で覆い、他の半分についてはすべての不純物を注意深く除去した。覆われた表面部分は、プロフィロメトリー(表面形状測定)による脱灰の測定用の参照表面としての役割を果たし、一方、覆われていない部分は、脱灰の試験領域としての役割を果たした。
【0097】
B)試験期間中、試験期間の各日について:
1)午前8時30分頃に、試料ホルダー内に挿入するエナメル質試料または象牙質試料の最初のex situでの脱灰処理を少なくとも200mlの0.05Mのクエン酸溶液中で5分間行い、その後、試料ホルダーを水道の流水で1分間すすいだ。
2)この脱灰後に、試料ホルダーを被験者の顎上に装着した状態で、本発明による洗口剤のうち1種類10mlを用いてin situで30秒間の口腔処置を行った;洗口剤はその後吐き出されたが、水でのすすぎは行わなかった。
3)午前10時00分頃、午前11時30分頃、午後1時00分頃、午後2時30分頃および午後4時00分頃に、さらに5回のex situでの脱灰処理を、最初の脱灰処理と同様の条件下で、しかしながら、本発明の洗口剤を用いたその後の処置なしで行った。被験者は、顎上に試料ホルダーを保持していたが、食事中または個人的な口腔衛生の間は除き、こうした時間には、試料ホルダーを湿気のある容器内に保存した。就寝前に、被験者は、試料ホルダーを練歯磨剤を使用せずに歯ブラシで洗浄したが、エナメル質試料または象牙質試料は洗浄せず、次いで、この試料ホルダーを0.1重量%のグルコン酸クロルヘキシジン溶液中に5分間浸漬した。
【0098】
C)試験期間後:
エナメル質試料および象牙質試料を試料ホルダーから取り出した。その後のプロフィロメトリーの結果を妨げやすい象牙質の有機基質を完全に除去するために、象牙質試料を、1リットルあたり0.4gのHPO、1.5gのKCl、1gのNaHCOおよび0.2gのCaClを含む溶液150ml中、15ユニットのコラゲナーゼ(Clostridium histolyticum type VII、Sigma Aldrich、セントルイス、米国)の溶液を用いて30℃で36時間処理した。次いで、試料に番号をつけ、対物スライド上に接着して、プロフィロメトリーによるこれらの脱灰の測定時まで、湿気のある容器内で保存した。
【0099】
プロフィロメトリーによる脱灰の程度の測定は、試料表面の参照部分と試験部分との間の高さの差の計測である(7日間の試験期間について説明した上記のA)の部分を参照されたい)。試料の高さプロファイルは、象牙質試料には機械的プローブ(FRW−750、Perthen Mahr、Goettingen、ドイツ)、エナメル質試料には光学的プローブ(Rodenstock、Munich、ドイツ)を用いて、パーソメーター S8P(Perthen Mahr、Goettingen、ドイツ)で計測した。試料をその上に接着した対物スライドを、成形可能な固定材を用いてプロフィロメーターのxyテーブル上に固定した。試料のそれぞれについて、3回のプロフィロメトリーを行った。これらのプロフィロメトリーを、専用のソフトウェア(Perthometer Concept 4.0、Perthen Mahr、Goettingen、ドイツ)を用いて評価した。このソフトウェアでは、2つの高さが、そのうちの1つは試料の参照部分上で認められる高さプロファイルから、もう1つは試料の試験領域の高さプロファイルから、線形回帰によって決定され、そのため、双方の高さプロファイルについて、参照領域と試験領域との間の境界線から0.2mmの距離までの境界領域は無視された。各試料について3回のプロフィロメトリーから平均した、2本の線形回帰線の中央点間のマイクロメートルでの高さ差異を、その試料の脱灰の程度と考えた。被験者の象牙質脱灰の程度とみなされたのは、被験者が試験期間中に保持していた3個の象牙質試料からの前記高さの差の平均であり、被験者のエナメル質脱灰の程度とみなされたのは、被験者が試験期間中に保持していた3個のエナメル質試料からの前記高さの差の平均であった。
【0100】
得られたデータを、十分な正規分布について確認した(コルモゴロフ−スミルノフ検定)。Tukeyによるposthoc検定を用いて、単純な変動解析(ANOVA)により、試験した各溶液についての全被験者の結果の比較を行った。試験した4種類の溶液について、以下の結果が得られた。
【0101】
【表5】

【0102】
これらの結果により、本発明の洗口剤が、特にエナメル質上で、市販のmeridol(登録商標)洗口剤の約2.5倍の効力である、脱灰を予防する効力を有することが示される。
【0103】
さらに、いずれの被験者においても、口渇感は生じず、また、いかなる歯肉の発赤も被験者自身の歯の風解も歯の試料の風解も認められなかった。特に、meridol(登録商標)液剤と比較して第一スズイオンが増量されたにもかかわらず、被験者自身の歯にも試料の歯にも有意な汚染は認められなかった。
【0104】
実施例20:実施例8の洗口剤を用いたin situ試験
実施例8の洗口剤と、1000ppmのフッ化物イオンに相当する量のNaFのみを含む溶液とを、実施例19に記載のものと同様の装置で、しかしながら、20名の被験者で180個のエナメル質試料および180個の象牙質試料を使用して、試験し、評価した。以下の脱灰の結果が得られた。
【0105】
【表6】

【0106】
合計1000ppmのフッ化物イオンになるフッ化第一スズおよびフッ化アミンの組合せを含む実施例8の洗口剤は、1000ppmのフッ化物イオンに相当するNaFのみを含む溶液よりも特にエナメル質上でずっと効果的であることが認められる。
【0107】
実施例21〜25:洗口剤の製剤化
以下の実施例では、「AmF」または「AmF297/400」はフッ化水素アミンOLAFLURを表す。表中の成分量はすべて、洗口剤の総量に基づいた重量パーセントで記載している。
【0108】
【表7】

【0109】
実施例26:実施例21〜25の洗口剤を用いたin vitro脱灰試験
この試験は、予め飽和チモール水溶液中に保存していた抜歯された第三大臼歯から切断したエナメル質試料で実施した。エナメル質試料を以下のように調製した:
歯から、残っているすべての軟組織および歯根を機械的に除去した。歯面から、歯の縦方向に、約1mmの厚さの試料を切り取った。本来の天然の歯面であるこれらの試料の表面を少なくとも3×3mmの平らな試験表面に研磨し、エナメル質を最大約250μmの深さまで除去した。この平らな試験表面を、粒径12μm、次いで5μmの紙やすりを使用して研磨した。研磨および艶出しのすべての作業は、試料の水冷下で実施した。研磨した試料を、光硬化性樹脂(Technovit 7230 VLC、Kulzer−Exakt、Wehrheim、ドイツ)の手段によって、対物スライド上に接着した。この試料の平らな試験表面の半分を同じ光硬化性樹脂で覆い、他の半分についてはすべての不純物を注意深く除去した。この方法により、合計72個の試料を調製した。このようにして調製した試料は、その後の使用時まで相対湿度100%の湿気のある容器内で保存した。
【0110】
試験溶液として使用したのは、実施例21〜25の洗口剤と、NaFからの500ppmのF、および実施例21〜25の表中に記載のすべての不活性添加剤(賦形剤)を含むがAmF、塩化第一スズおよびD−グルコン酸ナトリウムを欠いた1種類の陰性対照試験溶液である。試験期間中毎日、これらの試験溶液のpH値を確認した。
【0111】
侵食性脱灰試験用に、72個の試料を各12個の試料の5つの試験群と1つの対照群とに分け、試料ホルダー(染色ホルダー、Schott、マインツ、ドイツ)に挿入した。この試験は、6回の侵食性脱灰サイクルおよび2回の試験溶液適用サイクルを毎日行いながら、10日間(2×5就業日)にわたって実施した。試料の処理はすべて、室温で実施した。すべての試験サイクルと適用サイクルとの間および就業日間の終夜には、試料を、1リットルあたり0.4gのHPO、1.5gのKCl、1gのNaHCOおよび0.2gのCaClを含む再石灰化溶液中に保存した。週末の間は、試料を上記の相対湿度100%の湿気のある容器内で保存した。
【0112】
各試験日の処置方法は、以下の通りであった。
1)最初の脱灰サイクルは、エナメル質試料を250mlの0.05Mクエン酸溶液を含む染色容器(Schott、マインツ、ドイツ)内に挿入して5分間行った。次いで、この試料を水道水で1分間すすいだ。
2)5つの試験群の試料には、実施例21〜25の洗口剤のうちの1種類250mlを用いた処置サイクルを2分間行い、一方、6つ目の試験群の試料には、上記の陰性対照溶液250ml中で対照処置サイクルを2分間行った。これらの処置サイクル後、試料を水道水で1分間すすいだ。
3)試料に、上記の1)で説明した脱灰サイクルを、1時間ごとの間隔でさらに4回行った。
4)さらに1時間後、試料に、上記の1)で説明した脱灰サイクルの6回目を行い、次いで、上記の2)で説明したように、5つの試験群の試料には、実施例21〜25の洗口剤のうちの1種類250mlを用いた処置サイクルを2分間行い、一方、6つ目の試験群の試料には、上記の陰性対照溶液250ml中で対照処置サイクルを2分間行った。
【0113】
10日間の試験終了時、樹脂のコートを、該試料の試験表面の保護領域から除去した。各試料の脱灰の程度は、実施例19においてエナメル質試料について説明したのと同様の方法でプロフィロメトリーによって測定し、各試料について測定を3回行い、それらの平均をとった。各群の脱灰の程度は、その群の12個の試料の平均値からの平均および対応する標準偏差によって表した。
【0114】
得られたデータを、十分な正規分布について最初に確認し、次いで、ソフトウェアSPSSによって解析した。Tukeyによるposthoc検定を用いて、単純な変動解析により、群間の結果の比較を行った。有意水準は、0.05に設定した。6種類の溶液(1種類の陰性対照、実施例21〜25からの5種類の洗口剤)についての以下の結果を得た:
【0115】
【表8】

【0116】
これらの結果により、800〜1000ppm、すなわち少なくとも750ppmの[Sn]と、250〜500ppmの範囲内、すなわち200〜2000ppmの範囲のうちより低い領域である[F]とを含有する組成物は、侵食性の歯のエナメル質脱灰の予防または処置において有用な効力を有することが示される。これは、有機酸(塩としてのグルコン酸)の存在にもかかわらず、第一スズイオンの安定化キレート剤として(したがって、かつ活性低下剤になりうるものとして)作用する。
【0117】
また、これらの結果により、[F]が特に0.30[Sn]≧[F]≧0.20[Sn]の範囲内であり、かつ溶解スズの含有量[Sn]が1000〜1400ppmの範囲内である(実施例25)洗口剤等の組成物は、侵食性の歯のエナメル質脱灰の予防または処置において有効であることも示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体相を含有する口腔ケア組成物であって、
前記液体相が、前記液体相を基準として30重量%〜90重量%、好ましくは30重量%〜80重量%の水;溶解スズ;前記口腔ケア組成物を基準として200〜2000ppmのフッ化物イオン;および前記口腔ケア組成物を基準として5〜60重量%のC(3〜5)糖アルコールを含み;
前記液体相中の溶解スズの含有量[Sn]が前記口腔ケア組成物を基準として少なくとも750ppm、好ましくは少なくとも1000ppmであること;溶解スズの前記含有量[Sn]のうち60mol%以上、好ましくは75mol%以上は、形式的酸化状態が+II価であること;ならびに前記口腔ケア組成物が有機酸および式(I):
R−NH−[(CH−NH−R (I)
(式中、Rは、炭素原子10〜20個の飽和または不飽和直鎖炭化水素残基であり、vは0〜1の整数であり、uは2〜3の整数であり、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素および−CHCHOHから選択される)
のアンモニウムカチオンを含有することを特徴とする口腔ケア組成物。
【請求項2】
前記有機酸がカルボン酸であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記有機酸の含有量が前記組成物を基準として0.01〜10重量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記液体相中の溶解スズの総含有量[Sn]が前記組成物を基準として1000ppm〜3000ppmの範囲内であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記液体相中の溶解スズの総含有量[Sn]が前記組成物を基準として1300ppm〜2500ppmの範囲内であることを特徴とする、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
式(I)のアンモニウムカチオンの含有量が前記組成物を基準として1500ppm〜10000ppmの範囲内であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
式(I)において、RがC(16〜20)アルキルまたはC(16〜20)アルケニルであることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
RがC18アルキルまたはC18アルケニルであることを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
式(I)において、
(i)vが0であり、R、Rが水素であること;
(ii)vが0であり、R、Rが−CHCHOHであること;または
(iii)vが1であり、uが3であり、R、R、Rが−CHCHOHであること;
のいずれかを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
[F]が、0.70[Sn]≧[F]≧0.40[Sn]、好ましくは0.60[Sn]≧[F]≧0.40[Sn]の範囲内であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
[F]が0.30[Sn]≧[F]≧0.20[Sn]の範囲内であり、[Sn]が前記組成物を基準として1900〜2200ppmの範囲内または1000〜1400ppmの範囲内であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記液体相からなることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
洗口剤であることを特徴とする、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記液体相、および前記液体相中に分散している、前記組成物を基準として5〜60重量%の固体相からなることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
練歯磨剤または歯科用ゲル剤であることを特徴とする、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
食物酸または内因性の酸によって引き起こされる侵食性の歯の脱灰の処置または予防に使用する、請求項1から15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記使用が侵食性の歯の脱灰の予防を目的とする、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記食物酸が3.0以下の第1pKa値を有する酸である、および/またはカルシウムイオンをキレート化する能力を有する酸である、および/または溶解性の低いカルシウム塩を生成する酸であるか、あるいは前記内因性の酸が胃液である、請求項16または17に記載の組成物。
【請求項19】
食物酸または内因性の酸によって引き起こされる侵食性の歯の脱灰を、そうした処置または予防を必要とする対象において処置または予防する方法であって、前記対象の歯を、そのような侵食性の歯の脱灰を処置または予防するのに有効な量の請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物と接触させる前記方法。
【請求項20】
侵食性の歯の脱灰を予防することを目的とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記食物酸が3.0以下の第1pKa値を有する酸である、および/またはカルシウムイオンをキレート化する能力を有する酸である、および/または溶解性の低いカルシウム塩を生成する酸であるか、あるいは前記内因性の酸が胃液である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記対象の歯を前記組成物と10秒〜1分の範囲内の時間接触させる、請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2011−518810(P2011−518810A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505528(P2011−505528)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054993
【国際公開番号】WO2009/130319
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(510282033)ガバ・インターナショナル・ホールディング・アクチェンゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】