説明

溶銑の脱りん処理方法

【課題】フッ素を含有する転炉由来のスラグを資源として利用できる方法を提供することにある。具体的には、混銑車で溶銑を脱りん処理するにあたり、フッ素を含有する転炉由来のスラグを脱りん剤の一部として利用しつつ、脱りん処理時のスロッピング発生を防止し、脱りん処理後における混銑車からのスラグの排出性を改善し、しかも排出されるスラグを地球環境に悪影響を及ぼすことなく再利用可能なものとすることができる溶銑の脱りん処理方法を提供する。
【解決手段】フッ素を含有する転炉由来のスラグを配合した脱りん剤を用いて混銑車内で溶銑を脱りん処理を行なうにあたり、前記転炉由来のスラグとしてフッ素を0.1質量%以上含有するものを用い、前記脱りん剤としてCaO源と酸化鉄を含むものを用い、脱りん処理後のスラグの塩基度を2.1〜3.0、脱りん処理後のスラグに含まれるフッ素を0.01〜0.13質量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混銑車で溶銑を脱りん処理する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶銑予備処理の一貫として、混銑車中で溶銑を脱りん処理することは広く行なわれているが、スロッピングが発生し易いという危険がある。というのも、混銑車に溶銑を供給したときのフリーボード(溶銑湯面より上の空間高さ)はせいぜい1m程度であり、転炉のフリーボード(8m程度)に比べて遥かに短いからである。そのうえ、混銑車に設けられた溶銑の受け口(スラグの排出口を兼ねる)が小さいため、混銑車内のスラグを完全に排出することは難しい。特に、受け口周辺にスラグが付着して凝固すると、受け口の開口径が一層小さくなり、次チャージに際して、混銑車内への溶銑の供給作業に不都合を生じる。
【0003】
溶銑脱りん方法としては、例えば、特許文献1に、脱りん処理後のスラグの塩基度とT.Fe濃度を所定の範囲とし、処理終点温度を所定の温度以上とすることにより、Mnの歩留まりを確保しつつ、脱りん効率高める技術が開示されている。ここでは、脱りん処理を行なう容器として、混銑車(トーピードカー)や取鍋(装入鍋)、転炉型容器が例示されているが、実施例で実際に用いている脱燐処理容器は、転炉型容器である。
【0004】
一方、製鋼における要求品質が高いときには、転炉においても溶銑中の残存りんを更に低下させる必要があり、脱りん目的で、CaOの滓化性を改善するために、蛍石が添加される。そのため、転炉スラグにも蛍石が多く含まれていることがある。ところが、転炉由来のスラグのうち、フッ素溶出が多いスラグについては、土壌への流出が環境に悪影響を及ぼすという観点から、路盤材やセメント原料としての再利用における障害となっている。
【特許文献1】特開2007−262575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、フッ素を含有する転炉由来のスラグを資源として再利用できる方法を提供することにある。具体的には、混銑車で溶銑を脱りん処理するにあたり、フッ素を含有する転炉由来のスラグを脱りん剤の一部として利用しつつ、脱りん処理時のスロッピング発生を抑制し、脱りん処理後における混銑車からのスラグの排出性を改善し、しかも排出されるスラグを地球環境に悪影響を及ぼすことなく再利用可能なものとすることができる溶銑の脱りん処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成することのできた本発明に係る溶銑の脱りん処理方法は、処理容器として混銑車を用い、フッ素を含有する転炉由来のスラグを配合した脱りん剤を用いて脱りん処理を行なうにあたり、前記転炉由来のスラグとしてフッ素を0.1%(質量%の意味。以下、成分について同じ。)以上含有するものを用い、前記脱りん剤としてCaO源と酸化鉄を含むものを用い、脱りん処理後のスラグの塩基度を2.1〜3.0、脱りん処理後のスラグに含まれるフッ素を0.01〜0.13%とする点に要旨を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、混銑車で行なう溶銑の脱りん剤の一部としてフッ素含有転炉由来スラグを利用しているため、従来では処分に困っていたフッ素含有転炉スラグを新たな資源として再利用できる。また、フッ素含有転炉スラグを脱りん剤として利用する際に、脱りん処理後のスラグの塩基度を適切な範囲とすることによって、脱りん処理時におけるスロッピングの発生を防止でき、しかも脱りん処理後に混銑車からスラグを容易に排出できるようになる。また、脱りん処理後のスラグの塩基度と、該スラグに含まれるフッ素量を適切な範囲に調整することで、排出されたスラグのフッ素溶出が抑えられ、環境庁告示46号で規定されている方法で測定されたフッ素溶出量の基準を満足するものとなり、再利用可能な資源となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者らは、転炉から排出されるスラグのなかでもフッ素を多く含むスラグ(具体的には、フッ素含有量が0.1%以上のスラグ)を資源として再利用するために鋭意検討を重ねてきた。その結果、混銑車内で溶銑を脱りん処理する際に用いる脱りん剤に高フッ素含有スラグを適切に配合すれば、高フッ素含有スラグが脱りん剤として作用して有効利用できるほか、脱りん処理後に排出されるスラグを新たな資源として再利用できることを見出し、本発明を完成した。具体的には、転炉由来のスラグとしてフッ素を0.1%以上含有するものを用い、脱りん剤としてCaO源と酸化鉄を含むものを用い、該脱りん剤に配合するフッ素含有転炉由来スラグの量を制御することにより、脱りん処理後のスラグの塩基度と、該スラグに含まれるフッ素量を適切な範囲に調整すれば、スロッピングを発生させることなく混銑車内で脱りん処理でき、しかも脱りん処理後のスラグ排出性を改善できること、また脱りん処理したときに副生するスラグは、フッ素の溶出が抑えられているため、該スラグを例えば路盤材等の素材として有効活用できることを見出した。以下、本発明について、詳細に説明する。
【0009】
本発明では、溶銑の脱りん処理容器として混銑車を用い、脱りん剤にフッ素を0.1%以上含有する転炉由来のスラグを配合するところに特徴がある。脱りん剤に高フッ素含有転炉由来スラグを配合することで、従来は廃棄処分することが困難であった高フッ素含有スラグを資源として再利用できる。本発明では、特に転炉由来のスラグに含まれるフッ素が0.1%以上のスラグを資源として再利用できる。フッ素含有量の多い転炉由来のスラグは、環境に悪影響を及ぼすことから処理が困難であったが、本発明によれば、フッ素含有量の多い転炉由来のスラグを脱りん剤に配合して利用することでフッ素濃度が希釈され、フッ素含有量を低減できる。
【0010】
転炉由来のスラグは、そのフッ素量を公知の方法によって測定し、必要に応じて濃度別に分別したものを用いればよい。スラグに含まれるフッ素量は、例えば、本出願人が特願2007−287758号で提案した方法で分析してもよい。ここで、本出願人が提案した分析方法について説明する。
【0011】
まず、転炉から採取したスラグを、ミル(例えば、島津製のオートマティックディスクミル「OD−10A型」)を用いて粉砕し、スラグの95%以上が球換算直径で50μm以下となるように調整する。スラグの95%以上を球換算直径で50μm以下とすることで、試料(ブリケット)表面を平滑にすることができる。
【0012】
次に、粉砕されたスラグを60〜70g計量し、計量したスラグを試料作製用の鋼製円筒内に充填する。上記円筒のサイズは、直径35mm、高さ10mm、厚さ0.5mmであり、スラグの充填密度は約2.8g/cm3である。なお、粉砕したスラグにはバインダーを添加しないことが必要である。バインダーを添加すると、分析値に誤差が生じるためである。
【0013】
次いで、スラグを充填した円筒を、油圧プレス装置(例えば、島津製のオートマティックサンプラー「SPA−10型」)を用いて筒軸方向に圧縮する。プレスの条件は、圧力30t/cm2以上で20秒以上加えるものとし、得られた試料厚みが2〜4mmとなるように成形する。なお、圧力を過剰に加えると、試料厚みが2mmを下回り、波打ち易くなるので平坦な試料表面を得ることができなくなる。そこでプレス圧力は40t/cm2以下とすることが好ましい。また、プレス時間をかけ過ぎても同様に試料厚みが2mmを下回るので、プレス時間は40秒以内とすることが好ましい。
【0014】
上記の粉砕条件およびプレス条件にしたがって試料を作製すれば、試料表面の凹凸を平坦に、具体的には、最大高さ(Ry)を0.05mm以下にすることができる。
【0015】
ここで、試料表面の凹凸を測定できる装置について説明する。図1は光切断法によって試料表面の凹凸を測定する装置の原理図である。同図において、10はスポット光を出射するレーザーポインタであり、出射されたスポット光は試料表面11で反射し、レンズ12を通過してPSD(Position Sensitive Detector)13上に結像するようになっている。A点で反射したスポット光はPSD13のA′点に結像され、B点で反射したスポット光は同じくB′点で結像され、C点で反射した場合には同じくC′点で結像される。PSD13はスポット光が当たると、光量に応じた電圧を発生し、スポット位置から離れた点の電位は膜材質の抵抗によって低下するため、PSD13の両端に発生する電圧の比に基づき、結像点の位置情報を求めることができる。今、測定したい点がA点であると、三角測量の原理を利用して試料表面11のA点の高さを求めることができる。
【0016】
次に、上記条件でプレスして得られた試料について蛍光X線分析を行い、フッ素量を測定する。X線照射条件は、電圧を40〜50kV、電流を40〜50mAに設定した。
【0017】
フッ素量を測定した転炉由来のスラグは、(a)脱りん処理後のスラグの塩基度が2.1〜3.0、(b)脱りん処理後のスラグに含まれるフッ素が0.01〜0.13%となるように、脱りん剤に配合する。
【0018】
脱りん剤は、溶銑を脱りん処理するときに通常用いられるものを使用すればよく、CaO源と酸化鉄を含むものを使用すればよい。CaO源とは、CaOまたはCaOを生成可能なCa化合物を指す。即ち、CaO源として、例えば、生石灰や石灰石、消石灰、ドロマイト、CaCO3やCa(OH)2、CaMgO2などを用いることができる。一方、酸化鉄としては、鉄鉱石やミルスケールなどを用いればよい。この酸化鉄に含まれる酸素が、固体酸素として作用する。
【0019】
[(a)脱りん処理後のスラグの塩基度]
脱りん処理後のスラグの塩基度が2.1未満では、脱りん処理時にスロッピングが発生して非常に危険であるし、脱りん処理が中断されると生産効率が低下する。即ち、転炉のように、内容積の大きい容器を脱りん処理容器として用いると、フリーボードが高いためスロッピングは発生しないが、混銑車は内容積が小さいため、フリーボードが低く、スロッピングが発生し易い。そのため混銑車内で脱りん処理する場合は、スロッピングが発生しないように注意を払う必要がある。従って本発明では、脱りん処理後のスラグの塩基度を2.1以上とする。好ましくは2.2以上、より好ましくは2.3以上とする。しかし脱りん処理後のスラグの塩基度が、3.0を超えると、スラグに溶解しないCaOが増加してスラグの粘性が高くなる。そのため、脱りん処理後に混銑車からスラグを完全に排出できず、混銑車内壁面にスラグが付着したままとなり、歩留まりが悪くなる。また、受け口周辺にスラグが付着して凝固すると、受け口の開口径が一層小さくなり、次チャージに際して、混銑車内への溶銑の供給作業に不都合を生じる。
【0020】
しかもスラグの塩基度が高くなり過ぎると、脱りん処理後に排出されたスラグに含まれるフッ素が、スラグから溶出し易くなる。即ち、脱りん処理後のスラグの塩基度が3.0以下の場合には、スラグの主要鉱物相の組成が2CaO・SiO2となり、この2CaO・SiO2が、フッ素が溶け出す液のpHを上昇させてスラグから溶出してくるフッ素の平衡値を下げる結果、フッ素の溶出量を低減できる。しかし、スラグの塩基度が3.0を超えて高くなり過ぎると、スラグの主要鉱物相の組成が2CaO・SiO2とならないため、スラグに含まれるフッ素が溶出し易くなり、スラグを資源として再利用できなくなる。従って脱りん処理後のスラグの塩基度は3.0以下とする。好ましくは2.9以下、より好ましくは2.8以下とする。なお、スラグの塩基度は、スラグに含まれるCaO量とSiO2量の比(CaO/SiO2)で算出した値である。
【0021】
[(b)脱りん処理後のスラグに含まれるフッ素量]
脱りん処理後のスラグに含まれるフッ素が0.01%未満では、フッ素量不足となり、CaOの滓化が促進されず、溶銑を充分に脱りんできない。従って脱りん処理後のフッ素は0.01%以上とする。好ましくは0.03%以上であり、より好ましくは0.05%以上である。しかし脱りん処理後のスラグに含まれるフッ素が0.13%を超えると、スラグからフッ素が溶出し易くなり、地球環境へ悪影響を及ぼすため資源として再利用できない。従って脱りん処理後のフッ素は0.13%以下とする。好ましくは0.11%以下、より好ましくは0.09%以下である。脱りん処理後のスラグに含まれるフッ素量は、例えば、上記本出願人が特願2007−287758号で提案した分析方法によって測定すればよい。
【0022】
脱りん剤に転炉由来のスラグを配合する際には、配合する転炉由来のスラグに応じて、CaO源と酸化鉄を低減すればよい。脱りん処理後におけるスラグの塩基度と、該スラグに含まれるフッ素量が上記範囲を満足するように脱りん剤に配合する転炉由来のスラグ量は、後記する実施例で詳述する手順で決定すればよい。
【0023】
転炉由来のスラグを配合した脱りん剤は、キャリアガスとして例えば酸素ガスを用い、浸漬ランスによる溶銑中へのインジェクションにより供給する方法や、溶銑の上方から転炉由来のスラグを配合した塊状の脱りん剤を供給する方法が採用できる。
【0024】
脱りん処理は、常法に従って、気体酸素を供給しつつ行なう。気体酸素としては、酸素ガスの他、酸素含有ガスを用いることができる。気体酸素は、上吹きランスによる上吹きや溶銑中へのインジェクション、或いは底吹きなど任意の方法により溶銑中へ供給すればよい。
【0025】
脱りん処理は、1280℃程度以上で行なうことが推奨される。本発明で脱りん処理容器として用いる混銑車では、気体酸素による加熱は行なえるものの、加熱能力が低いため、脱りん処理が終了するまでの間に溶銑の温度はある程度低下する。そこで、脱りん処理が終了するまでの間の温度低下を見込んで、混銑車へ供給する時点での溶銑温度は1300℃以上とすることが好ましい。より好ましくは1320℃以上、更に好ましくは1350℃以上である。
【0026】
混銑車内で溶銑を脱りん処理した後は、混銑車内から溶銑を排出し、次いでスラグを排出する。本発明によれば、脱りん処理後のスラグの塩基度を適切な範囲に調整しているため、混銑車の内壁面にスラグが付着することなく、混銑車内のスラグを排出することができる。
【0027】
また、排出されたスラグは、塩基度とフッ素含有量が上記範囲に調整されているため、スラグからのフッ素の溶出が抑制されている。即ち、スラグから溶出するフッ素量を、環境庁告示46号に規定されている方法に従って測定した場合であっても、環境庁告示46号に「土壌の汚染に係る環境基準」として規定されている基準(フッ素量が0.8mg/L以下)を満足している。本発明において脱りん処理して副生するスラグは、上記基準を満たしているため、このスラグは例えば路盤材やセメントの原料等の素材として再利用可能となる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0029】
混銑車に溶銑を供給し、次いでキャリアガスとして酸素ガスを用い、浸漬ランスによる溶銑中へのインジェクションにより転炉由来のスラグを配合した脱りん剤を供給し、溶銑の脱りん処理を行なった。
【0030】
溶銑は、[C]を4%、[Si]を0.20%、[Mn]を0.30%、[P]を0.120%含有しており、脱りん処理前の溶銑の温度は約1360℃である。脱りん処理は、溶銑の目標[P]量を0.010〜0.030%として行なった。
【0031】
脱りん剤は、石灰と酸化鉄の混合物を用いた。脱りん剤に含まれる石灰と酸化鉄の組成を下記表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
転炉由来のスラグとしては、転炉で吹錬を行なった後のスラグを分取したものを用いた。分取したスラグを本出願人が特願2007−287758号で提案したスラグ分別方法に従って分析し、フッ素含有量が0.1%以上のものを用いた。フッ素含有量が0.1%未満のスラグは、フッ素の溶出が少ないため、そのまま資源として利用すればよい。なお、転炉は、容量は250トンの上吹き型転炉である。
【0034】
脱りん剤に配合する転炉由来のスラグ量は、脱りん処理後に排出されるスラグの塩基度が2.1〜3.0で、該スラグに含まれるフッ素が0.01〜0.13%となるように、次の手順で決定した。
【0035】
《脱りん剤に配合する転炉由来スラグ量の決定手順》
転炉由来のスラグに含まれるフッ素量、脱りん剤に含まれるSiO2量、脱りん処理後に排出されるスラグの塩基度をパラメータとして、4元連立一次方程式による計算を行ない、脱りん処理後のスラグに含まれるSiO2量と、該スラグの塩基度を算出する。算出された脱りん処理後のスラグに含まれるSiO2量と、該スラグの塩基度のうち、実際に操業できる条件を選択する。このとき、脱りん処理後のスラグの塩基度が2.1〜3.0の範囲で、該スラグに含まれるフッ素が0.01〜0.13%となるようにする。
【0036】
4元連立一次方程式による計算は、次の手順で行った。まず、操業実績から求められる脱りん処理中における温度低下量ΔT(ΔT=脱りん処理前の溶銑の温度−脱りん処理後の溶銑の温度)を従属変数(目的変数)とし、脱りん剤に含まれる石灰量、脱りん剤に含まれる酸化鉄量、脱りん剤に配合する転炉スラグ量、および気酸原単位、脱りん処理前の溶銑の[Si]濃度、脱りん処理前の溶銑の[Mn]濃度、目標とする脱硫率[脱硫率=ln(Sf/Si)]の7つを独立変数(説明変数)として重回帰を実施し、説明変数の係数を求める。なお、気酸原単位とは、脱りん処理時に使用した気体酸素量(Nm3)を脱りん処理した溶銑量(tp;ton pigmetall)で割った値である。脱りん処理時に使用した気体酸素量は、オリフィスで測定した酸素流量を積算して求めた。lnは自然対数、Siは脱りん処理前の溶銑の[S]量、Sfは脱りん処理後の溶銑の[S]量、を夫々示している。
【0037】
脱りん処理前の溶銑の温度、脱りん処理前の溶銑の[Si]量、脱りん処理前の溶銑の[Mn]量、脱りん処理前の溶銑の[S]量、脱りん処理後の溶銑の目標[S]量、脱りん処理後の溶銑の目標温度を入力し、「脱りん処理後の溶銑の目標[S]量」を「脱りん処理後の溶銑の実際の[S]量」、「脱りん処理後の溶銑の目標温度」を「脱りん処理後の溶銑の実際の温度」とすれば以下の式(1)が作成できる。
a×TCaO+b×TFeO+c×TO+d×TLDS=ΔT+α ・・・(1)
【0038】
(1)式の左辺のうち、aは石灰の原単位、bは酸化鉄の原単位、cはO(酸素)の原単位、dは転炉スラグ(LDS)の原単位[kg/tp]を示しており、TCaO,TFeO,TO,TLDSは、夫々、石灰(CaO)、酸化鉄(FeO)、酸素(O)、転炉スラグ(LDS)について重回帰で求めた係数を示している。左辺の値は、温度低下量(ΔT)[℃/kg/tp]と定数αの和と等しくなる。αは、溶銑成分等の脱りん処理条件で決まる定数であり、溶銑成分、必要脱S率から算出される温度分である。αは、下記式から算出できる。下記式中、a1〜a3は、夫々の成分の脱硫率に対する溶銑温度係数である。
α=脱りん処理前の溶銑のSi量×a1+脱りん処理前の溶銑のMn量×a2+ln(Sf/Si)×a3
【0039】
次いで、同様に、操業実績より脱りん率[脱りん率=ln(Pf/Pi)]を従属変数(目的変数)とし、気酸原単位、転炉スラグ中の酸素量(以下、固酸原単位1、KO1と呼ぶことがある。)、酸化鉄中の酸素量(以下、固酸原単位2、KO2と呼ぶことがある。)、1/(脱りん処理後の溶銑の目標温度+273)、脱りん処理前の溶銑のSi量を独立変数(説明変数)として重回帰を行ない、説明変数の係数を求める。
【0040】
脱りん処理前の溶銑Si量、脱りん処理前の溶銑のP量、脱りん処理後の溶銑の目標P量、脱りん処理後の溶銑の目標温度を入力し、「脱りん処理後の溶銑の目標P量」を「脱りん処理後の溶銑の実際のP量」、「脱りん処理後の溶銑の目標温度」を「脱りん処理後の溶銑の実際の温度」とすれば、以下の式(2)が作成できる。
b×XFeO×PKO2+d×XLDS×PKO1+c×PO=ln(Pf/Pi)+β ・・・(2)
【0041】
(2)式の左辺のうち、bは酸化鉄の原単位、dは転炉スラグの原単位、cはO(酸素)の原単位[kg/tp]、XLDSは転炉スラグの気酸換算濃度、XFeOは酸化鉄の気酸換算濃度[Nm3/kg]、PKO1は転炉スラグ原単位の重回帰係数、PKO2は酸化鉄源単位の重回帰係数、POは気酸原単位の重回帰係数であり、ln(Pf/Pi)、βは溶銑成分等の脱りん処理条件で決まる定数である。
【0042】
また、各剤のSiO2量、CaO量に基づいて、以下の式(3)、式(4)を作成できる。
b×XSFeO+d×XSLDS=ST−SO ・・・(3)
ここで、bは酸化鉄の原単位、dは転炉スラグの原単位[kg/tp]、XSFeOは酸化鉄中のSiO2量、XSLDSは転炉スラグ中のSiO2量、SOは各剤以外に起因するSiO2量[kg/t]、STは脱りん処理後のスラグ中のSiO2量[kg/t]である。
a×XCCaO+d×XCLDS=CT−CO ・・・(4)
ここで、aは石灰の原単位、bは酸化鉄の原単位、dは転炉スラグの原単位[kg/tp]、XCCaOは石灰中のCaO濃度、XCFeOは酸化鉄中のCaO濃度、XCLDSは転炉スラグ中のCaO濃度、COは各剤以外に起因するCaO量[kg/t]、CTは脱りん処理後のスラグ中のCaO量[kg/t]である。
【0043】
このようにして4つの連立一次方程式[式(1)〜式(4)]を立てた。ここで、C/S=C/Sおよび各剤のSiO2量[式(3)の左辺]を決めてやれば式(1)〜式(4)を解くことにより、石灰、酸化鉄、転炉スラグの原単位と気酸原単位Oが求まる。
【0044】
しかし、C/Sと各剤のSiO2量を単一の値としたのでは、溶銑のSi濃度等の条件によっては各剤の使用原単位がマイナスとなったり、通常ではあり得ないほど多量の値となることがある。このため、C/Sと各剤SiO2量は単一の目標値とするのでは無く、ある範囲内を動くパラメータとしてそれぞれのC/S、各剤のSiO2の時の各剤の原単位を求め、常識的な値であり、且つ処理時間等が最も条件の良い値をガイダンス値として採用する仕組みとした。
【0045】
以上の手順によって、脱りん剤に配合する転炉由来スラグ量を決定することができる。
【0046】
次に、実施例のうち、表3のNo.19の場合について脱りん剤に配合する転炉由来スラグ量を決定する手順を具体的に説明する。脱りん剤に含まれる石灰と酸化鉄の組成を下記表2に示す。また、転炉由来のスラグの組成を下記表2に併せて示す。
【0047】
【表2】

【0048】
脱りん処理中の溶銑温度の低下量から、下記式(a)が導かれる[上記(1)式に相当]。
−2.4×a−3.7×b+16×c−1.9×d=(脱りん処理後の目標温度−脱りん処理前の温度)−161×[Si]−38×[Mn]+ln(Sf/Si)−9.6 ・・・(a)
脱りん処理前の温度を1340℃、脱りん処理後の目標温度を1300℃、脱りん処理後の目標S量(Sf)を0.003%とした場合は、上記(a)式は、下記(b)式となる。
−2.4×a−3.7×b+16×c−1.9×d=−132 ・・・(b)
【0049】
次に、各剤、気体酸素等の脱りん率から下記(c)式が導かれる[上記(2)式に相当]。
0.03×b+0.01×d+0.14×c=ln(Pf/Pi)+1.33×[Si]−21100/(脱りん処理後の溶銑の目標温度+273)+13.3 ・・・(c)
脱りん処理前のP量(Pi)を0.12%、脱りん処理後のP量(Pe)を0.015%、脱りん処理後の目標温度を1300℃とした場合は、上記(c)式は、下記(d)式となる。
0.03×b+0.01×d+0.14×c=2.05 ・・・(d)
【0050】
次に、脱りん処理後のスラグの塩基度を、2.1〜3.0にしなければならないため、投入した各剤のトータルCaO量、投入した各剤および反応生成物のトータルSiO2量をそれぞれ下記式(e)、式(f)で表す。式(f)中、「[Si]/100×WHM×1000×(60/28)/WHM」は、溶銑中のSiが酸化されて発生するSiO2量を意味する。
T=0.909×a+0.444×d ・・・(e)
T=0.032×b+0.115×d+[Si]/100×WHM×1000×(60/28)/WHM ・・・(f)
脱りん処理前の[Si]が0.2%、処理溶銑量が290tpの場合は、上記(f)式は、下記(g)式となる。
T=0.032×b+0.115×d+4.3 ・・・(g)
となる。
【0051】
ここで、塩基度を
T/ST=2.1〜3.0
とするため、
T/ST=(0.909×a+0.444×d)/(0.032×b+0.115×d+4.3)=2.1〜3.0 ・・・(h)
ここで、脱りん処理後のスラグの塩基度が3.0の場合は、式(h)は、下記式(i)となる。
0.909×a−0.096×b+0.099×d=12.9 ・・・(i)
【0052】
次に、脱りん処理後の全スラグ中のフッ素濃度を0.13%以下にしなければならないことから、転炉スラグ中のフッ素濃度を[F]とした場合、d×[F]がインプットフッ素量となる。脱りん処理中には、おおよそ30%のフッ素が気化するため、脱りん処理後のスラグ中のフッ素量は下記(j)式となる。
T=0.7×d×[F] ・・・(j)
脱りん処理後のスラグ量は、
T=a+b+d+[Si]/100×WHM×1000×(60/28)/WHM ・・・(k)
従って、脱りん処理後のスラグ中のフッ素量は、
T/ST=〔0.7×d×[F]〕/〔a+b+d+[Si]/100×WHM×1000×(60/28)/WHM〕×100≦0.13 ・・・(l)
転炉スラグ中のフッ素濃度[F]を0.5%、脱りん処理後のスラグ中のフッ素量を0.03%とした場合、上記(l)式は、
0.10×a+0.10×b−0.25×d=−0.43 ・・・(m)
【0053】
上記式(b)、式(d)、式(i)、式(m)から、4連連立一次方程式を解くと、
a=17、b=32.3、d=5.0、c=4.8、
となる。これらの値をもとに行なった実施例が、表1のNo.19である。
【0054】
脱りん処理時における混銑車内でのスロッピング発生の有無を観察した。スロッピングの発生の有無は、フリーボード(溶銑の上方の空間)の変化が1m以下であった場合をスロッピング無し(合格;○)と判定し、フリーボードの変化が1mを超えた場合をスロッピング有り(不合格;×)と判定した。スロッピングの有無と判定結果を下記表3〜表7に示す。
【0055】
脱りん処理後、混銑車から溶銑を排出し、次いでスラグを排出した。脱りん処理した溶銑に含まれるりん量は、発光分光分析装置(島津製、「PDA−5500II(装置名)」)で測定した。測定結果を下記表3〜表7に示す。
【0056】
また、脱りん処理後に混銑車からスラグを排出するときの排出性を調べた。スラグの排出性は、脱りん処理前後における混銑車の質量を測定し、混銑車の質量の増加分が、混銑車に付着したスラグ量と考え、スラグ付着の有無によって評価した。混銑車の質量は、溶銑を供給する前に1回目の測定を行ない、次いで混銑車に溶銑を供給して脱りん処理を行ない、脱りん処理した溶銑を排出した後、スラグを排出してから2回目の測定を行なった。1回目と2回目の質量の差が−10トンから+10トンの範囲である場合は、混銑車にスラグ付着が無いと評価し、合格(○)と判定した。質量の差が前記範囲を外れる場合は、混銑車にスラグ付着が有ると評価し、不合格(×)と判定した。スラグ付着の有無と判定結果を下記表3〜表7に示す。
【0057】
次に、脱りん処理後に、混銑車から排出したスラグの塩基度と、該スラグに含まれるフッ素量を測定した。スラグの塩基度とスラグに含まれるフッ素量は、蛍光X線分析装置(理学製、「サイマルテックス12型(装置名)」)で測定した。測定したスラグの塩基度とスラグに含まれるフッ素量を下記表3〜表7に示す。
【0058】
また、脱りん処理後に、混銑車から排出したスラグについて、スラグからのフッ素溶出量を環境庁告示46号に規定されている方法に従って測定した。具体的には、pHを5.8〜6.3に調製した水の中に、粒子径が2mm以下となるように粉砕したスラグ粉末を所定量入れて6時間浸透した後、水中に溶け出したフッ素量(フッ素溶出量)を分析した。単位はmg/Lである。
【0059】
表3〜表7から次のように考察できる。No.1〜30は、いずれも本発明で規定する要件を満足する例であり、混銑車内で脱りん処理を行なってもスロッピングは発生せず、溶銑のりん量を0.015%以下に脱りんできた。また、脱りん処理に副生したスラグは、混銑車からの排出性が良好であった。また、副生したスラグの塩基度が2.1〜3.0、該スラグに含まれるフッ素が0.01〜0.13%に制御されているため、スラグからのフッ素溶出量を0.8mg/L以下に抑えることができた。従って本発明によれば、高フッ素含有転炉由来スラグを新たな資源として再利用できる。
【0060】
No.31〜90は、本発明で規定する要件を外れる例である。No.31〜48は、脱りん処理で副生するスラグの塩基度が2.1を下回っているため、脱りん処理時にスロッピングが発生した。また、No.37〜39、No.46〜48は、脱りん処理で副生するスラグに含まれるフッ素が0.13%を超えているため、該スラグからのフッ素溶出量が多くなり、このままでは資源として再利用できない。
【0061】
No.49〜75は、脱りん処理で副生するスラグの塩基度が3.0を超えているため、混銑車からのスラグ排出性が悪かった。また、No.55〜57、No.64〜66、No.73〜75は、脱りん処理で副生するスラグに含まれるフッ素が0.13%を超えているため、該スラグからのフッ素溶出量が多くなり、このままでは資源として再利用できない。なお、No.54、62、63、71、72は、脱りん処理で副生するスラグに含まれるフッ素が0.01〜0.13%の範囲に制御できているが、塩基度が3.0を超えているため、スラグからのフッ素溶出量が多くなり、このままでは資源として再利用できない。
【0062】
No.76〜87は、脱りん処理で副生するスラグに含まれるフッ素が0.13%を超えているため、該スラグからのフッ素溶出量が多くなり、このままでは資源として再利用できない。No.88〜90は、脱りん剤に転炉スラグを配合していない例であり、脱りん処理で副生するスラグに含まれるフッ素が0%となっているため、溶銑の脱りんが不充分である。
【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
【表6】

【0067】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、試料表面の凹凸を測定する装置の原理図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混銑車で溶銑を脱りん処理する方法であって、フッ素を含有する転炉由来のスラグを配合した脱りん剤を用いて脱りん処理を行なうにあたり、
前記転炉由来のスラグとしてフッ素を0.1%(質量%の意味。以下、成分について同じ。)以上含有するものを用い、前記脱りん剤としてCaO源と酸化鉄を含むものを用い、脱りん処理後のスラグの塩基度を2.1〜3.0、脱りん処理後のスラグに含まれるフッ素を0.01〜0.13%とすることを特徴とする溶銑の脱りん処理方法。



【図1】
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【公開番号】特開2010−43298(P2010−43298A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206252(P2008−206252)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】