説明

溶鋼処理用取鍋

【課題】内張りれんがの施工・解体が容易で、かつ、付着物除去時におけるれんがの脱落を効果的に防止しうる溶鋼処理用取鍋を提供する。
【解決手段】溶鋼湯面26より上方に形成されたフリーボード部24に、MgO含有量が50〜80質量%で残部がCr、AlおよびFeよりなる群から選ばれた少なくとも1種からなる焼成れんがを、Al含有量が60質量%以上のハイアルミナモルタルの目地材を用いて施工し、溶鋼処理中に前記焼成れんがのMgO成分と前記ハイアルミナモルタルのAl成分とを反応させてスピネルを生成させることにより、前記焼成れんがと前記ハイアルミナモルタルとを一体結合させて形成した内張り部27を、フリーボード部24の全周のうち70%以上の部分に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼処理用取鍋に関し、特に、付着物除去時のれんが脱落防止、内張りれんがの施工・解体の容易化を得るための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来用いられていた一般的な溶鋼処理用取鍋の動きとしては、転炉からの受鋼→精錬処理→連続鋳造または造塊鋳込み→取鍋内の残留物排出→取鍋の内・外部の整備→転炉からの受鋼という一連のサイクルを繰り返している。しかしながら、取鍋内の残留物排出を行う際に、取鍋内に固着したスラグや地金等の付着物は排出することができず、特に、溶鋼湯面の上部(フリーボード部)には、多くの付着物が固着して成長する。この付着物は空鍋状態で付着物除去装置を用いて除去している。
【0003】
例えば、空鍋状態にて点検員が取鍋の内部を点検し、許容以上の付着物を確認した場合には、後記図3に示すように、取鍋の開口部を横に向けた状態に向きを変えて、台車に搭載した付着物除去装置を接近させ、先端部のエアブレーカを用いて、取鍋内の付着物を除去する方法が用いられている。
【0004】
上述の取鍋内の付着物を除去する装置としては、特許文献1で開示された構成が提案されており、図3にその概要を示している。同図において、符号1で示されるものは溶鋼処理をするための取鍋(取鍋本体)であり、この取鍋1は付着物除去作業場所2に移動され、この付着物除去作業場所2で開口部3を横に向けた状態に向きを変えて取鍋1を鍋置台4上に設置し、さらに、横方向から例えばアトラス等の重機5のハンマ6を挿入して付着物7の除去を行うように構成されている。なお、上記重機5と取鍋1との間には、防熱板8が配設され、取鍋1の背部側に配設された作業デッキ9上では、作業者が作業をすることができるように構成されている。
【0005】
上記のような取鍋の付着物の除去作業においては、内張り部のれんがに損傷を与えることなく、付着物のみを取り除くことが必要であるが、実際には、固着した付着物(スラグや地金等)とともにれんがが脱落してしまうことがあった。
【0006】
上記のようなれんがの脱落を防止するために、フリーボード部の上部の押さえ構造の改善や、図4に示すような、フリーボード部のれんがの背部に鉄板を設けた鉄板巻き部10aを有する背面鉄板巻きれんが10を用い、図5に示すように、鉄板同士を融着させて一体構造とし、内張り部27を形成することによって部分脱落を防止する方法等が採用されてきた。
【0007】
また、MgO含有量が50〜80質量%の焼成れんがおよびAl含有量が60質量%以上のアルミナモルタル自体は、いずれも単独では特許文献2等で周知であったが、組み合わせることについては提案されていなかった。
【0008】
また、特許文献3には、主成分としてアルミナとマグネシアを配合し、1000℃以上の高温における使用中にアルミナとマグネシアを反応させ、膨張性のあるスピネルを生成させるようにしたれんが目地充填材が開示されているものの、MgO含有量が50〜80質量%の焼成れんがとAl含有量が60質量%以上のアルミナモルタルを組み合わせて溶鋼処理中に焼成れんが中のMgOとアルミナモルタル中のAlとを反応させてスピネルを生成させて焼成れんがとアルミナモルタルとを一体化することについては開示も示唆もなされていない。
【0009】
また、近年の粗鋼増産態勢下で1鍋当たりの溶鋼処理量が増加しているため、湯面レベルが上昇し、フリーボード部れんがの溶損増大、またれんが表面への地金付着増加によって、フリーボード部れんがの脱落が生じやすくなり、従来より取鍋の寿命がさらに低下する傾向にあり、その対策が喫緊の課題となっている。
【特許文献1】特開平8−10938号公報
【特許文献2】特開平8−283074号公報
【特許文献3】特開2000−302539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の取鍋内の付着物を除去する装置および方法としては、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。
【0011】
すなわち、上述の特許文献1に開示されたような取鍋の付着物除去装置における課題を解決するために採用された背面鉄板巻きれんがの場合、この背面鉄板巻きれんがは製造工程の工程数が従来よりも増加するため、大幅なコストアップとなっていた。また、れんが解体時には、鉄板融着部を解体することが難しく、解体には多大の時間とコストを必要としていた。また、鉄板部分まで地金が浸透した場合には、地金とともに広範囲のれんがが脱落することがあった。この場合には、フリーボード部における広範囲の吹付け補修が必要となり、取鍋の使用を一旦停止しなければならない場合もあった。
【0012】
また、特許文献2に開示された耐火モルタルはマグネシアとアルミナを主とした組成で、RHでの実施例では、モルタルの目地溶損防止のためにモルタル自体の耐溶損性を向上させることを目的としており、本願のように、付着物除去時におけるれんがの脱落防止のためには不適であった。
【0013】
また、特許文献3に開示されたれんが目地充填材は、充填材(モルタル)中でスピネル反応を起させてモルタルを膨張させることで、目地部への溶鋼の差込みを防止しようとするものであり、つまりはモルタル自体は強化されるとしても、れんがとモルタルとはせいぜい物理的に密着するに留まり、本願のように、れんがとモルタルとの間でスピネル反応を起させて両者を化学的に接着させるものではないため、付着物除去装置の衝撃によるれんが脱落を防止する効果は期待できない。
【0014】
また、れんがの材質からみても、従来のフリーボード部れんがである高アルミナ質れんがは取鍋中の塩基性スラグに溶損されやすく、またスラグライン部に使用されているマグネシアカーボン質れんがでは耐溶損性は高いものの、これをフリーボード部に用いると大気でカーボンが酸化されてれんがが脆くなるため、付着物除去装置の衝撃に耐えられない。
【0015】
したがって、取鍋のフリーボード部には耐溶損性が高くかつ付着物除去装置の衝撃に耐えることのできるれんがが必要とされる。
【0016】
以上のような状況に鑑み、本発明は、内張りれんがの施工・解体が容易で、かつ、付着物除去時におけるれんがの脱落を効果的に防止しうる溶鋼処理用取鍋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に記載の発明は、メタルライン部と、スラグライン部と、溶鋼湯面より上方に形成されたフリーボード部とからなる取鍋本体を有する溶鋼処理用取鍋であって、前記フリーボード部に、MgO含有量が50〜80質量%(以下、「質量%」を単に「%」と略記する。)で残部がCr、AlおよびFeよりなる群から選ばれた少なくとも1種からなる焼成れんがを、Al含有量が60%以上のハイアルミナモルタルを用いて設け、溶鋼処理中に前記焼成れんがのMgO成分と前記ハイアルミナモルタルのAl成分とを反応させてスピネルを生成させることにより、前記焼成れんがと前記ハイアルミナモルタルとを一体結合させて形成した内張り部が、前記フリーボード部の全周のうち70%以上の部分に形成されてなることを特徴とする溶鋼処理用取鍋である。
【0018】
請求項2に記載の発明は、前記メタルライン部がスピネル−マグネシア質不定形耐火物(以下、「不定形耐火物」を「キャスタブル」ともいう。)で形成されている請求項1に記載の溶鋼処理用取鍋である。
【0019】
スピネル−マグネシア質キャスタブルとしては、アルミナ80〜97%、マグネシア3〜20%、その他耐火物微粉、金属粉末、ファイバ、バインダ等各種添加剤からなるものが好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る溶鋼処理用取鍋は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
【0021】
すなわち、請求項1に記載の発明によれば、フリーボード部の全周のうち一定以上の部分に、MgO含有量が50〜80質量%で残部がCr、AlおよびFeよりなる群から選ばれた少なくとも1種からなる焼成れんがを、Al含有量が60質量%以上のハイアルミナモルタルを用いて設けることにより内張り部を形成しているため、この内張り部が溶鋼処理中に加熱されて生成したスピネルにより上記焼成れんがと上記ハイアルミナモルタルとが一体化して内張り部が極めて強固に形成されるので、付着物の除去作業時における空鍋状態での取鍋のれんがの脱落を防止することができる。また、内張り部を焼成れんがとモルタルのみで構成しているので、施工・解体が容易である。
【0022】
また、請求項2に記載の発明によれば、メタルライン部を高耐食性のスピネル−マグネシア質キャスタブルで形成しているので、メタルライン部の耐火物寿命が延長され、上記付着物除去時におけるれんがの脱落防止の効果と相まって取鍋寿命がさらに延長される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る溶鋼処理用取鍋は、フリーボード部に少なくともMgO含有量が50〜80%の焼成れんがをハイアルミナモルタルで内張りし、付着物除去時のれんが脱落防止、内張りれんがの施工・解体の容易化を得るようにした溶鋼処理用取鍋である。
【0024】
[実施形態]
以下、図面を参照しつつ本発明に係る溶鋼処理用取鍋の好適な実施形態について説明する。なお、従来例と同一または同等部分については、同一符号を用いて説明を行う。
【0025】
図1において、符号1で示されるものは全体形状がカップ型をなす取鍋本体であり、この取鍋本体の内壁には、キャスタブル材20からなるメタルライン部21と、MgO−Cれんが22からなるスラグライン部23と、フリーボード部24とが順次形成されている。
【0026】
フリーボード部24は、取鍋本体1の内部に収容された溶鋼25のスラグ層25A上面である溶鋼湯面26から上の部分の領域を示している。
【0027】
フリーボード部24の内張り部27は、MgO含有量が50〜80質量%で残部がCr、AlおよびFeよりなる群から選ばれた少なくとも1種からなる焼成れんが(図示せず)を、Al含有量が60%以上のハイアルミナモルタルを用いて目地等を埋めることによって内張りした構造で形成されている。
【0028】
上記焼成れんがは、フリーボード部24の全周のうち70%以上の部分に形成する必要があり、実際には、MgO含有量50〜80%のマグクロれんが、または、マグネシアスピネル質れんがを適用し、各れんが間の目地材としてハイアルミナ質モルタルを使用することで、使用中(溶鋼処理中)に目地材である上記ハイアルミナ質モルタル中のAl成分とれんが中のMgO成分がスピネル生成反応を起して生成したスピネルにより強固なスピネル(MgO・Al)ボンドを形成することができる。
【0029】
ここで、上記焼成れんがを形成する範囲を、フリーボード部24の全周のうち70%以上とした理由を以下に述べる。すなわち、付着物は通常、フリーボード部24の全周に一様に形成されることは少なく、取鍋へのランスの設置位置の偏り等の影響により上記全周のうち特定の範囲に形成されやすいため、そのような範囲にのみ上記焼成れんがを形成すれば本発明の目的の一つである付着物除去時におけるれんがの脱落防止を達成できるからである。このれんが脱落防止の目的をより確実に達成するため、上記焼成れんがを形成する範囲は、フリーボード部24の全周のうち80%以上とするのがさらに好ましい(後記実施例1、図2参照)。
【0030】
上記スピネルボンドは、極めて強力な接着力を発揮することができ、従来のような鉄板を用いた鉄板巻きによる背部融着構造を採用しなくても、これに相当する強さを有するれんがの一体化構造を得ることができ、付着物除去時のれんが脱落防止を達成することができる。
【0031】
また、実際に上記構成からなる取鍋の製作を行った結果、その施工方法、施工コストおよび解体については、従来の通常の耐火物構成に対する施工とほとんど同じであり、鉄板巻きれんがの施工および解体よりも格段に容易で、施工コストも大幅に低減できることが確認できた。
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0033】
まず、250t取鍋のフリーボード部24の内張り部27にMgO:62%、Cr:22%の焼成マグクロれんがを、取鍋の円周方向における施工範囲を変更して施工したときの取鍋寿命に及ぼす影響を調査し、その結果を図2に示す。なお、内張り部27の残部はAl:80%のハイアルミナれんがで施工し、目地材としては内張り部27の全周すべてにおいてAl:70%のハイアルミナモルタルを用いた。また、スラグライン部はMgO:75%、C:15%のMgO−Cれんが、メタルライン部はAl:87%、C:15%のAl−Mg質キャスタブルで施工した。
【0034】
同図に示すように、フリーボード部24全周の70%以上施工することにより平均90ch以上、80%以上施工することにより平均95chの耐用が実現され、十分な効果が得られることが確認された。
【実施例2】
【0035】
次に、上記実施例1と同じ250t取鍋フリーボード部24の内張り部27に、れんが材質とモルタル材質の組み合わせを種々変更して施工したときの取鍋寿命に及ぼす影響を調査し、その結果を表1に示す。なお、上記各材質の組み合わせの施工範囲はいずれも100%(全周全て)とした。
【0036】
同表において、中修理寿命とは、フリーボード部およびスラグライン部の耐火物寿命に相当し、大修理寿命とは、取鍋全体の寿命に相当し、メタルライン部の耐火物寿命に律速される。なお、この取鍋では、大修理寿命は中修理寿命の4倍になるように目標設定されている。
【0037】
同表から明らかなように、れんが材質とモルタル材質のうち、両方の材質ともまたはいずれかの材質が本発明の規定する成分範囲を外れる場合(No.1〜4)には、本実施例において目標とする中修理寿命90chをいずれも達成できないのに対し、本発明の規定する成分範囲のれんが材質とモルタル材質との組み合わせによる施工の場合(No.5,6)には、上記目標の中修理寿命90chを超える95chを達成できることが確認された。
【0038】
なお、No.5および6では、中修理寿命はいずれも95chを達成できたものの、大修理寿命は、メタルライン部21をアルミナーマグネシア質(Al−Mg質)キャスタブルで施工したNo.5では目標設定値である中修理寿命の4倍の380chに足りない365chまでしか到達しなかったが、メタルライン部21をスピネルーマグネシア質(SP−Mg質)キャスタブルで施工したNo.6では上記目標設定値である380chを達成することができた。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、溶鋼処理用取鍋だけではなく、他の鉄鋼製造プロセスにおいて使用される耐火れんがで内張りされた容器、例えば溶銑鍋、トピード、転炉などへの適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態に係る溶鋼処理用取鍋を示す断面図である。
【図2】実施例1における、焼成マグクロれんがの円周方向における施工範囲と取鍋寿命との関係を示すグラフ図である。
【図3】取鍋の付着物の除去作業を説明するための部分断面図である。
【図4】従来の背面鉄板巻きれんがを示す斜視図である。
【図5】図4の背面鉄板巻きれんがを用いた内張り部の一部を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
1:取鍋本体
21:メタルライン部
23:スラグライン部
24:フリーボード部
26:溶鋼湯面
27:内張り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタルライン部と、スラグライン部と、溶鋼湯面より上方に形成されたフリーボード部とからなる取鍋本体を有する溶鋼処理用取鍋であって、前記フリーボード部に、MgO含有量が50〜80質量%で残部がCr、AlおよびFeよりなる群から選ばれた少なくとも1種からなる焼成れんがを、Al含有量が60質量%以上のハイアルミナモルタルを用いて設け、溶鋼処理中に前記焼成れんがのMgO成分と前記ハイアルミナモルタルのAl成分とを反応させてスピネルを生成させることにより、前記焼成れんがと前記ハイアルミナモルタルとを一体結合させて形成した内張り部が、前記フリーボード部の全周のうち70%以上の部分に形成されてなることを特徴とする溶鋼処理用取鍋。
【請求項2】
前記メタルライン部がスピネル−マグネシア質不定形耐火物で形成されている請求項1に記載の溶鋼処理用取鍋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−125605(P2007−125605A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322610(P2005−322610)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】