説明

滑らかな表面を有する無機質成形体とその製造方法

【課題】軽量であって滑らかな表面を有する無機質成形体を提供する。
【解決手段】珪酸カルシウムを主成分とする無機質成形体であって、当該成形体の少なくとも一面に於いて、最表面を走査型電子顕微鏡を用いて倍率10000倍で見た時、珪酸カルシウムの結晶が、当該最表面に沿うように配向した状態で観察され、且つ当該最表面の光沢度が4%以上で、且つ当該最表面を形成する前記結晶の配向指数が1.5以上であることを特徴とする無機質成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑らかな表面を有する無機質成形体とその製造方法に関する。本明細書における「滑らかな表面」とは、成形体を形成する少なくとも一面(3次元曲面よりなる模様面を含む)の光沢度が4%以上であることを言う。このような無機質成形体は、内装材、内装仕上げ材、外装材等の用途に好適である。
【背景技術】
【0002】
内装材・外装材等の建材に用いられる珪酸カルシウム板は、製造時に、珪酸質原料と石灰質原料と水とを混合した原料スラリーや、合成されたけい酸カルシウム水和物の水性スラリーを脱水成形する工程を有している。前記脱水成形時には、脱水し易いように濾布や金網を用いるが、成形体に濾布や金網の跡が残り、見映えが悪いという問題がある。
【0003】
濾布や金網の跡を消す手段として、例えば、成形体表面の研削がある。しかしながら、研削により製品の歩留まりが低下すると共に工程も増えるため余分なコストが発生する。また、研削により表面の緻密な層が削られたり、表面の組織が乱されたりするため、成形体の表面が粉っぽくなる。そこで、そのまま仕上げ材として用いるには適さないため、表面に壁紙を貼ったり、塗装をしたりして表面仕上げする必要があるが、壁紙や塗装を施す手間を要する上、壁紙を貼るために使用する接着剤がVOC(揮発性有機化合物)の原因になったり、塗装や通気性のない壁紙により珪酸カルシウム板が本来有するVOC吸着性や調湿性が阻害されたりしている。更に、そのまま表面に塗装すると塗装面にクラックが入ったり剥がれたりし易くなるため、一旦表面をシーラー処理することが望ましく、種々の理由で余分な工程やコストが生じている。
【0004】
上記問題を改善するためには、研削によらず表面を滑らかにする必要がある。この点、特許文献1には、滑らかな表面を有する珪酸カルシウム板の製造方法として、「珪酸質原料10〜45重量%、石灰質原料10〜45重量%、石膏原料0〜30重量%、補強繊維2〜15重量%、無機充填材0〜40重量%の配合物のスラリーを抄造して珪酸カルシウム板を製造する方法において、予め珪酸質原料、石灰質原料または石膏原料と酸化アルミニウム原料を混合焼成した粉末を、上記配合物に外割で15〜75重量%配合してスラリーとし、このスラリーを抄造してグリーンシート(生シート)を得、このグリーンシートを積層等して所定の厚みにし、平滑な磨き鉄板で挟んでプレスした後、オートクレーブ養生(水熱合成)する軽量珪酸カルシウム板の製造方法」が記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の製造方法では、プレス後にオートクレーブ養生するため、磨き鉄板でプレスした成形板の表面に珪酸カルシウム水和物の結晶が成長することにより、部分的に光沢度が低下するなど一様な光沢度が得られず、滑らかな表面が損なわれるという欠点がある。
【0006】
他方、珪酸カルシウム板以外に、滑らかな表面を有するフレキシブル板(セメント板)等が市販されているが、これは成形体の比重が1.6程度と大きく、施工性を上げるべく大板化しようとしても、成形体が重くなり過ぎて取扱いが困難になるという問題がある。
【特許文献1】特開2000−191359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、軽量であって滑らかな表面を有する無機質成形体を製造する方法及び当該製造方法により得られる無機質成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、特定の製法により得られる無機質成形体が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の無機質成形体とその製造方法に関する。
1.珪酸カルシウムを主成分とする無機質成形体であって、当該成形体の少なくとも一面に於いて、最表面を走査型電子顕微鏡を用いて倍率10000倍で見た時、珪酸カルシウムの結晶が、当該最表面に沿うように配向した状態で観察され、且つ当該最表面の光沢度が4%以上で、且つ当該最表面を形成する前記結晶の配向指数が1.5以上であることを特徴とする無機質成形体。
2.前記無機質成形体の主成分である珪酸カルシウムが、珪酸カルシウムの結晶が絡合してなる集塊物及び/又はその圧縮変形物である、上記項1に記載の無機質成形体。
3.前記珪酸カルシウムが、ウォラストナイトグループに属する珪酸カルシウム,トバモライトグループに属する珪酸カルシウム,ジェナイトグループに属する珪酸カルシウム,ジャイロライトグループに属する珪酸カルシウム,γ−ダイカルシウムシリケートグループに属する珪酸カルシウム,α−ダイカルシウムシリケートハイドレートからなる群から選択される少なくとも1種である、上記項1又は2に記載の無機質成形体。
4.前記珪酸カルシウムが、ウォラストナイトグループに属する珪酸カルシウムのゾノトライト,フォシャジャイト,ウォラストナイト、トバモライトグループに属する珪酸カルシウムのトバモライト,CSH(I)、ジャイロライトグループに属する珪酸カルシウムのジャイロライト、α−ダイカルシウムシリケートハイドレートからなる群から選択される少なくとも1種である、上記項1又は2に記載の無機質成形体。
5.前記ウォラストナイトが、ゾノトライト,フォシャジャイト,トバモライト,CSH(I),ジャイロライトからなる群から選択される少なくとも1種の珪酸カルシウムを加熱したものである、上記項4に記載の無機質成形体。
6.珪酸カルシウムと水とを含む水性スラリーを、必要に応じて脱水した後、表面の十点平均粗さが2μm以下の押圧板をプレス面の少なくとも一方に用いてプレス脱水成形し、得られた成形体を乾燥することを特徴とする無機質成形体の製造方法。
7.前記押圧板をプレス面の少なくとも一方に用いてプレス脱水成形する際に、加熱した押圧板を用いる、上記項6に記載の無機質成形体の製造方法。
8.前記水性スラリー中の珪酸カルシウムが、当該珪酸カルシウムの結晶が絡合してなる集塊物である、上記項6又は7に記載の無機質成形体の製造方法。
9.前記珪酸カルシウムが、ウォラストナイトグループに属する珪酸カルシウム,トバモライトグループに属する珪酸カルシウム,ジェナイトグループに属する珪酸カルシウム,ジャイロライトグループに属する珪酸カルシウム,γ−ダイカルシウムシリケートグループに属する珪酸カルシウム,α−ダイカルシウムシリケートハイドレートからなる群から選択される少なくとも1種である、上記項6〜8に記載の無機質成形体の製造方法。
10.前記珪酸カルシウムが、ウォラストナイトグループに属する珪酸カルシウムのゾノトライト,フォシャジャイト,ウォラストナイト、トバモライトグループに属する珪酸カルシウムのトバモライト,CSH(I)、ジャイロライトグループに属する珪酸カルシウムのジャイロライト、α−ダイカルシウムシリケートハイドレートからなる群から選択される少なくとも1種である、上記項6〜8に記載の無機質成形体の製造方法。
11.前記ウォラストナイトが、ゾノトライト,フォシャジャイト,トバモライト,CSH(I),ジャイロライトからなる群から選択される少なくとも1種の珪酸カルシウムを加熱したものである、上記項10に記載の無機質成形体の製造方法。
12.上記項10に記載の製造方法により得られる無機質成形体を更に焼成する、珪酸カルシウムがウォラストナイトからなる無機質成形体の製造方法。

以下、本発明の無機質成形体とその製造方法について詳細に説明する。
【0010】
無機質成形体
本発明の無機質成形体は、珪酸カルシウムを主成分とする無機質成形体であって、当該成形体の少なくとも一面(例えば、板状成形体の上面及び/又は下面)に於いて、最表面を走査型電子顕微鏡を用いて倍率10000倍で見た時、珪酸カルシウムの結晶が、当該最表面に沿うように配向した状態で観察され、且つ当該最表面の光沢度が4%以上で、且つ当該最表面を形成する前記結晶の配向指数が1.5以上であることを特徴とする。
【0011】
上記特徴を有する本発明の無機質成形体は、光沢度が4%以上であり表面が滑らかで、且つ軽量で実用強度を有している。よって、表面を研削しなくてもそのまま内装材、内装仕上げ材、外装材として使用可能である。また、施工性も良いため、従来から表面の見映え等を良くするために行われてきた塗装や壁紙の貼り付け等の表面仕上げ工程を省略でき、コスト削減が可能である。
【0012】
また、本発明の無機質成形体の主成分である珪酸カルシウムとしては、天然や合成の既存の珪酸カルシウムが利用できるが、例えば、「ウォラストナイトグループに属する珪酸カルシウム,トバモライトグループに属する珪酸カルシウム,ジェナイトグループに属する珪酸カルシウム,ジャイロライトグループに属する珪酸カルシウム,γ−ダイカルシウムシリケートグループに属する珪酸カルシウム,α−ダイカルシウムシリケートハイドレート」などが利用できる。これらの珪酸カルシウムは、1種又は2種以上で使用できる。
【0013】
上記の中でも、ウォラストナイトグループの「ゾノトライト,フォシャジャイト,ウォラストナイト」や、トバモライトグループの「トバモライト,CSH(I)」や、ジャイロライトグループの「ジャイロライト」や、α−ダイカルシウムシリケートハイドレートなどが好ましく利用できる。これらは、1種又は2種以上で使用できる。上記CSH(I)は、トバモライトグループの準結晶を示す。なお、ジャイロライトには特公昭60−29643号公報に示されるジャイロライトと非晶質シリカが複合したものも含まれる。
【0014】
更にこれらの中でも、耐熱性や機械的強度に優れ工業的に利用されているトバモライトやゾノトライトがより好ましい。珪酸カルシウムとしては、これらの結晶(一次粒子)が凝集(絡合)して二次粒子を形成したものの方が、一次粒子のみで構成されるものよりも、成形性や成形体の強度や成形体の軽量化の点で好ましい。例えば、特公昭53−12526号公報等に示されるように、トバモライトやゾノトライトなどの珪酸カルシウムの二次粒子からなるものが好ましく利用できる。また、ウォラストナイト(シュウドウォラストナイトを含む)は天然品や、ゾノトライト,フォシャジャイト,トバモライト,CSH(I),ジャイロライトを加熱して得られるものが利用でき、特にゾノトライト,フォシャジャイト,トバモライト,CSH(I),ジャイロライトの二次粒子を加熱して得られるウォラストナイトの二次粒子が好ましく利用できる。
【0015】
本発明の無機質成形体には、主成分以外に、無機質成形体の性能(効果)を損なわない範囲で、顔料、染料、繊維、重合体(樹脂)、凝集剤、撥水剤、充填剤など既存の添加物が含有されていても良い。特に、重合体(樹脂)を含有させると光沢度が向上するので好ましい。また、添加物の含有量は上記主成分となる珪酸カルシウムの含有量より少なく、且つ本成形体の光沢度等の性能を損なわない範囲で、用途に応じて適宜決定すれば良い。また、本成形体の密度についても、用途に応じて適宜設定すれば良い。
【0016】
本発明の無機質成形体は、当該成形体の少なくとも一面において、最表面を走査型電子顕微鏡を用いて倍率10000倍で見た時、珪酸カルシウムの結晶が当該最表面に沿うように配向した状態で観察される。例えば、当該珪酸カルシウムのひとつであるゾノトライトの結晶が当該最表面に沿うように配向した状態を図1に例示する。
【0017】
無機質成形体の製造方法
本発明の無機質成形体は、珪酸カルシウムと水とを含む水性スラリーを、必要に応じて脱水した後、表面の十点平均粗さが2μm以下の押圧板をプレス面の少なくとも一方に用いてプレス脱水成形し、得られた成形体を乾燥することにより得られる。
【0018】
前記水性スラリーは、天然に産出する前記珪酸カルシウムや公知の方法で合成される前記珪酸カルシウムと、水とが均一に分散されていれば良く、例えば、特公昭53−12526号公報等に示されるように、珪酸質原料と石灰質原料と水を混合した原料スラリーを、撹拌下オートクレーブ処理(水熱処理)して得られる、ゾノトライトやトバモライトなどの珪酸カルシウムの結晶の集塊物(二次粒子)が水に分散したものや、ゾノトライトやトバモライトなどの珪酸カルシウムの結晶よりなる粉末に水を混合したものなどを利用できる。水性スラリーの固形分濃度は限定されず、ペースト状のものも含まれる。また、必要に応じて、前記顔料、染料、繊維、重合体(樹脂)、凝集剤、撥水剤、充填剤など既存の添加物を加えてもよい。
【0019】
前記水性スラリーは、次に押圧板を用いてプレス脱水成形されるが、上記プレス脱水成形の前に、必要に応じて水性スラリーを脱水しても良い。
【0020】
脱水方法としては、前記水性スラリーが脱水できれば良く、既存の方法が利用できる。例えば、吸引濾過方法、抄造方法、濾布及び/又は金網を用いてプレス脱水する方法などが挙げられる。中でも抄造方法、濾布及び/又は金網を用いてプレス脱水方法が生産性等の観点から好ましい。また、抄造には連続式抄造(丸網式,長網式,短網式等)やバッチ式抄造(CTC法,チャップマン法等)等の既存の抄造方法が利用でき、例えば、特許第2519075号公報に開示されている方法などが好適に利用できる。上記抄造において、抄造物を単独又は複数枚重ねてプレス脱水することもできる。
【0021】
なお、水性スラリーが希薄な場合は、上記方法で一旦脱水したものを、押圧板を用いてプレス脱水成形した方が、プレス脱水成形時の脱水効率が向上するので好ましい。
【0022】
押圧板には、表面の十点平均粗さが2μm以下の押圧板を用いる。なお、十点平均粗さは旧JIS B 0601(1994年)の方法により測定したものである。また、押圧板はプレス脱水成形する際にプレス面の少なくとも一方(一面)に使用する。例えば、前記水性スラリーを投入したプレス金型(プレス装置)の上面又は下面のいずれか一方の片面に押圧板を設置して使用するか、上面と下面の両方に設置して使用する。なお、片面のみに使用する場合には、他方の面には濾布又は金網などを使用すれば良い。この際、押圧板はプレス脱水成形する際に使用するプレス機本体と一体にしても良い。また、押圧板は滑らかな表面よりなる三次元の凹凸模様が施されていても良いし、押圧板の表面にテフロン(登録商標)コーティングやクロムメッキやセラミックコーティングが施されても良い。また、離型性を高める為に、押圧板の表面に離型剤やグリスを塗布したり、離型時にバイブレーターなどで振動を与えても良い。
【0023】
押圧板を用いてプレス脱水成形された生成形体は、次いで乾燥され、本発明の成形体が得られる。乾燥方法は公知の方法が利用でき、乾燥温度は成形体の組成や目的・用途に応じて適宜設定すれば良い。また、押圧板を直接又は間接的に加熱しながらプレス脱水成形することにより、成形しながらそのまま乾燥することもできる。加熱した押圧板を用いることにより、無機質成形体の製造工程を簡便化できる。
【0024】
なお、珪酸カルシウムがウォラストナイトの場合は、前記のウォラストナイトと水とを含む水性スラリーを用いて、前記方法で本発明の無機質成形体を製造しても良いし、「ゾノトライト,トバモライト,CSH(I),ジャイロライト」のいずれか少なくとも一つよりなる珪酸カルシウムと水とを含む水性スラリーを用いて前記方法で得られた無機質成形体を700〜1000℃で焼成(珪酸カルシウム結晶の種類によって焼成温度は調整する)して,珪酸カルシウムがウォラストナイトからなる本発明の無機質成形体とすることもできる。
【0025】
前記乾燥又焼成させて得られた本発明の成形体は、押圧板が接していた、成形体の最表面において、前記主成分が最表面に沿うように配向した状態で存在し、配向指数が1.5以上になっており、且つその面の光沢度が4%以上となり、表面が滑らかになっている。なお、珪酸カルシウムの前記結晶が絡合してなる集塊物を用いたものは、集塊物がプレス成形過程で圧縮変形されて、少なからず集塊物の圧縮変形物となる。また、水性スラリーに前記添加物を混合してプレス脱水成形した場合は、本成形体の性能を損なわない範囲で添加物の一部が最表面に存在してもよい。
【0026】
光沢度は上記条件(数値)を満足する範囲で、用途に合わせて適宜選択すれば良い。なお、光沢度はJIS Z 8741の方法3(60度鏡面光沢法)により測定した値である。また、光沢度は成形体の密度が大きくなるほど高くなる傾向がある。また、珪酸カルシウムの結晶の配向指数の測定方法については実施例で示す通りである。
【発明の効果】
【0027】
本発明の無機質成形体は、珪酸カルシウムを主成分とすることにより軽量であり、また、表面の十点平均粗さが2μm以下の押圧板を用いてプレス脱水成形することにより、成形体の押圧板が接していた面の光沢度が4%以上で、且つその面を形成する前記珪酸カルシウムの結晶の配向指数が1.5以上となり、表面が滑らかで粉っぽくない。よって、更に表面を研削しなくてもそのまま内装材・外装材として使用可能であり、表面の見映えを良くするために行われている塗装や壁紙の貼り付け等の表面仕上げ工程の省略やコスト削減を図ることができるようになる。また、塗装や壁紙で表面を仕上げる必要がないため、前記珪酸カルシウムが本来有する性能、例えば、湿気の吸放湿性能やVOC等の吸着性能などが損なわれない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、実施例・比較例を示して本発明を説明する。但し本発明は実施例に限定されない。
【0029】
実施例1
ゾノトライトと少量のトバモライトが混在した二次粒子よりなる水性スラリーを固形分換算で90重量部とガラス繊維5重量部とホワイトセメント2重量部とアクリル樹脂3重量部を混合した後、混合物を抄造し、抄造した生シートを積層・加圧して脱水した後、得られた生積層体を、表面の十点平均粗さが0.6μmである押圧板(テフロン(登録商標)コーティングした金属板)と、生積層体と接する側から離型材(テフロン(登録商標)コーティングしたアラミド繊維の織布)・金網・金属板の順で構成される積層部材で、挟んだ状態でプレス熱盤間に設置し、プレス熱盤を170℃に加熱しながら加圧することにより、脱水成形して得られた成形体(厚さ12mm)の物性を表1に示す。
【0030】
実施例2
ゾノトライトと少量のトバモライトが混在した二次粒子よりなる水性スラリーを固形分換算で93重量部とガラス繊維5重量部とホワイトセメント2重量部を混合した後、混合物を金型に投入して上下の両面に金網を用いてプレス脱水し、得られた生成形体を、表面の十点平均粗さが0.6μmである押圧板(テフロン(登録商標)コーティングした金属板)と、生成形体と接する側から離型材(テフロン(登録商標)コーティングしたアラミド繊維の織布)・金網・金属板の順で構成される積層部材で、挟んだ状態でプレス熱盤間に設置し、プレス熱盤を170℃に加熱しながら加圧することにより、脱水成形して得られた成形体(厚さ12mm)の物性を表1に示す。
【0031】
実施例3
実施例1に於いて、成形体の密度を0.32g/cmにした以外は実施例1と同様に製造したものの物性を表1に示す。
【0032】
実施例4
トバモライトの二次粒子よりなる水性スラリーを固形分換算で93重量部とガラス繊維5重量部とホワイトセメント2重量部を混合した後、混合物を金型に投入して上下の両面に金網を用いてプレス脱水し、得られた生成形体を、表面の十点平均粗さが0.6μmである押圧板(テフロン(登録商標)コーティングした金属板)と、生成形体と接する側から離型材(テフロン(登録商標)コーティングしたアラミド繊維の織布)・金網・金属板の順で構成される積層部材で、挟んだ状態でプレス熱盤間に設置し、プレス熱盤を170℃に加熱しながら加圧することにより、脱水成形して得られた成形体(厚さ12mm)の物性を表1に示す。
【0033】
実施例5
ゾノトライトと少量のトバモライトが混在した二次粒子よりなる水性スラリーを固形分換算で93重量部とガラス繊維5重量部とホワイトセメント2重量部を混合した後、混合したものを金型に投入し、片面に表面の十点平均粗さが0.6μmである押圧板(テフロン(登録商標)コーティングした金属板)を用い、他方の面に金網を用いてプレス脱水成形し、生成形体を170℃で乾燥して得られた成形体(厚さ12mm)の物性を表1に示す。
【0034】
実施例6
ゾノトライトの二次粒子を1000℃で3時間焼成して得られたウォラストナイトの二次粒子よりなる水性スラリーを用いて、実施例2と同様の方法でえられた成形体(厚さ12mm)の物性を表1に示す。
【0035】
実施例7
ゾノトライトの二次粒子よりなる水性スラリーを用いて、実施例2と同様の方法で得られた成形体(厚さ12mm)を1000℃で3時間焼成して、成形体中のゾノトライトの二次粒子をウォラストナイトの二次粒子に転換した成形体の物性を表1に示す。
【0036】
実施例8
CSH(I)の二次粒子よりなる水性スラリーを用いて、実施例2と同様の方法で得られた成形体(厚さ12mm)の物性を表1に示す。
【0037】
実施例9
ジャイロライトの二次粒子よりなる水性スラリーを用いて、実施例2と同様の方法で得られた成形体(厚さ12mm)の物性を表1に示す。
【0038】
実施例10
ジャイロライトと非晶質シリカの複合物の二次粒子よりなる水性スラリーを用いて、実施例2と同様の方法で得られた成形体(厚さ12mm)の物性を表1に示す。
【0039】
実施例11
α−ダイカルシウムシリケートハイドレートの二次粒子よりなる水性スラリーを用いて、実施例2と同様の方法で得られた成形体(厚さ12mm)の物性を表1に示す。
【0040】
実施例12
フォシャジャイトの二次粒子よりなる水性スラリーを用いて、実施例2と同様の方法で得られた成形体(厚さ12mm)の物性を表1に示す。
【0041】
実施例13
ゾノトライトと少量のトバモライトが混在した二次粒子よりなる水性スラリーを固形分換算で90重量部とガラス繊維5重量部とホワイトセメント2重量部とアクリル樹脂3重量部を混合した後、混合物を抄造し、抄造した生シートを積層・加圧して脱水した後、得られた生積層体を、グリスが表面に塗布された表面の十点平均粗さが0.6μmである縞板模様付き押圧板(縞板模様付きステンレス板)と、生積層体と接する側から離型材(テフロン(登録商標)コーティングしたアラミド繊維の織布)・金網・金属板の順で構成される積層部材で、挟んだ状態でプレス熱盤間に設置し、プレス熱盤を170℃に加熱しながら加圧することにより、脱水成形して得られた成形体(厚さ12mm)の物性を表1に示す。なお、光沢度及び配向指数は上記押圧板が接していた面の凹凸のない部分で測定した。
【0042】
比較例1
ゾノトライトと少量のトバモライトが混在した二次粒子よりなる水性スラリーを固形分換算で93重量部とガラス繊維5重量部とホワイトセメント2重量部を混合した後、混合物を金型に投入して上下の両面に金網を用いてプレス脱水し、得られた生成形体を、生成形体と接する側から離型材(テフロン(登録商標)コーティングしたアラミド繊維の織布)・金網・金属板の順で構成される積層部材で、両面から挟んだ状態でプレス熱盤間に設置し、プレス熱盤を170℃に加熱しながら加圧することにより、脱水成形して、得られた成形体(厚さ14mm)を#2000の粒度の研磨布で表面を2mm分研削したものの物性を表1に示す。
【0043】
比較例2
トバモライトの二次粒子よりなる水性スラリーを固形分換算で90重量部とガラス繊維5重量部とホワイトセメント2重量部とアクリル樹脂3重量部を混合した後、混合物を金型に投入して上下の両面に金網を用いてプレス脱水し、得られた生成形体を、生成形体と接する側から離型材(テフロン(登録商標)コーティングしたアラミド繊維の織布)・金網・金属板の順で構成される積層部材で、両面から挟んだ状態でプレス熱盤間に設置し、プレス熱盤を170℃に加熱しながら加圧することにより、脱水成形して、得られた成形体(厚さ14mm)を#2000の粒度の研磨布で表面を2mm分研削したものの物性を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
注1)光沢度は、押圧板が接していた成形体の面(比較例1,2の場合は研削面)について、前記した方法で測定。
注2)配向指数は、X線回折による所定の結晶面のピーク強度を基に以下の式から求めた。
〈1〉ゾノトライトとトバモライトが混在している場合(実施例1,2,3,5,13、比較例1)
a)又はb)の式から算出された値の内、高い方の値を選択する。
a) 配向指数(P)=[{I0(320)+I0(220)}/I0(001)]×[I1(001)/{I1(320)+I1(220)}]
b) 配向指数(P)=[{I0(320)+I0(220)}/I0(002)]×[I1(002)/{I1(320)+I1(220)}]
〈2〉トバモライト単独の場合(実施例4,比較例2)
配向指数(P)={I0(220)/I0(002)}×{I1(002)/I1(220)}
〈3〉ゾノトライト単独の場合(上記実施例・比較例では該当するもの無し)
配向指数(P)={I0(320)/I0(001)}×{I1(001)/I1(320)}
〈4〉ウォラストナイト単独の場合(実施例6,7)
配向指数(P)={I0(320)/I0(002)}×{I1(002)/I1(320)}
〈5〉CSH(I)単独の場合(実施例8)
配向指数(P)={I0(220)/I0(620)}×{I1(620)/I1(220)}
〈6〉ジャイロライト単独の場合(実施例9,10)
配向指数(P)={I0(-220)/I0(002)}×{I1(002)/I1(-220)}
〈7〉α−ダイカルシウムシリケートハイドレート単独の場合(実施例11)
配向指数(P)={I0(122)/I0(002)}×{I1(002)/I1(122)}
〈8〉フォシャジャイト単独の場合(実施例12)
配向指数(P)={I0(210)/I0(001)}×{I1(001)/I1(210)}
なお、上記〈1〉〜〈3〉式に於いて、I0(320),I0(001),I1(320),I1(001)はゾノトライトの(320)面と(001)面の結晶面のピーク強度、I0(220),I0(002),I1(220),I1(002)はトバモライトの(220)面と(002)面の結晶面のピーク強度である。また、上記〈4〉式のI0(320),I0(002),I1(320),I1(002)はウォラストナイトの(320)面と(002)面の結晶面のピーク強度、上記〈5〉式のI0(220),I0(620),I1(220),I1(620)はCSH(I)の(220)面と(620)面の結晶面のピーク強度、上記〈6〉式のI0(-220),I0(002),I1(-220),I1(002)はジャイロライトの(-220)面と(002)面の結晶面のピーク強度、上記〈7〉式のI0(122),I0(002),I1(122),I1(002)はα−ダイカルシウムシリケートハイドレートの(122)面と(002)面の結晶面のピーク強度、上記〈8〉式のI0(210),I0(001),I1(210),I1(001)はフォシャジャイトの(210)面と(001)面の結晶面のピーク強度である。
【0046】
また、上記式に於いてI0は押圧板が接していた成形体の面(比較例1,2の場合は研削面)の表面部から組成物を採取して粉砕し、それに外割で20%のレークサイトセメントを混合した後、加熱し一体化したものを再度粉砕してX線回折用試料(無配向試料)としたものの場合であり,I1は押圧板が接していた成形体の面(比較例1,2の場合は研削面)の表面部をそのまま切り出してX線回折用試料(配向試料)としたものの場合である。
【0047】
なお、3次元曲面よりなる模様面の場合に於いて,I1の測定用に平滑な表面部を有する試料をそのまま切り出せない場合は,模様面の直下の表層部から切り出し測定面を平滑にして試料とする。
【0048】
表1より、実施例は比較例に比べて光沢度が高いことが判る。また、配向指数は成形体のプレス面で合成珪酸カルシウム水和物の結晶(一次粒子)が表面に沿って配向している度合いを示すものであり、同じ配合で同程度の密度である実施例2と比較例1を比べると、実施例2の方が比較例1より結晶が配向していることが判る。また、比較例1に比べて実施例2は粉っぽさもなかった。
【0049】
図1に実施例2の光沢度・配向指数を測定した面のSEM観察写真(10000倍)を示す。また、図2に比較例1の光沢度・配向指数を測定した面のSEM写真(10000倍)を示す。また、図3に実施例4の光沢度・配向指数を測定した面のSEM観察写真(10000倍)を示す。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例2の無機質成形体の光沢度・配向指数を測定した面のSEM観察像(10000倍)を示す図である。
【図2】比較例1の無機質成形体の光沢度・配向指数を測定した面のSEM観察像(10000倍)を示す図である。
【図3】実施例4の無機質成形体の光沢度・配向指数を測定した面のSEM観察像(10000倍)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸カルシウムを主成分とする無機質成形体であって、当該成形体の少なくとも一面に於いて、最表面を走査型電子顕微鏡を用いて倍率10000倍で見た時、珪酸カルシウムの結晶が、当該最表面に沿うように配向した状態で観察され、且つ当該最表面の光沢度が4%以上で、且つ当該最表面を形成する前記結晶の配向指数が1.5以上であることを特徴とする無機質成形体。
【請求項2】
前記無機質成形体の主成分である珪酸カルシウムが、珪酸カルシウムの結晶が絡合してなる集塊物及び/又はその圧縮変形物である、請求項1に記載の無機質成形体。
【請求項3】
前記珪酸カルシウムが、ウォラストナイトグループに属する珪酸カルシウム,トバモライトグループに属する珪酸カルシウム,ジェナイトグループに属する珪酸カルシウム,ジャイロライトグループに属する珪酸カルシウム,γ−ダイカルシウムシリケートグループに属する珪酸カルシウム,α−ダイカルシウムシリケートハイドレートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の無機質成形体。
【請求項4】
前記珪酸カルシウムが、ウォラストナイトグループに属する珪酸カルシウムのゾノトライト,フォシャジャイト,ウォラストナイト、トバモライトグループに属する珪酸カルシウムのトバモライト,CSH(I)、ジャイロライトグループに属する珪酸カルシウムのジャイロライト、α−ダイカルシウムシリケートハイドレートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の無機質成形体。
【請求項5】
前記ウォラストナイトが、ゾノトライト,フォシャジャイト,トバモライト,CSH(I),ジャイロライトからなる群から選択される少なくとも1種の珪酸カルシウムを加熱したものである、請求項4に記載の無機質成形体。
【請求項6】
珪酸カルシウムと水とを含む水性スラリーを、必要に応じて脱水した後、表面の十点平均粗さが2μm以下の押圧板をプレス面の少なくとも一方に用いてプレス脱水成形し、得られた成形体を乾燥することを特徴とする無機質成形体の製造方法。
【請求項7】
前記押圧板をプレス面の少なくとも一方に用いてプレス脱水成形する際に、加熱した押圧板を用いる、請求項6に記載の無機質成形体の製造方法。
【請求項8】
前記水性スラリー中の珪酸カルシウムが、当該珪酸カルシウムの結晶が絡合してなる集塊物である、請求項6又は7に記載の無機質成形体の製造方法。
【請求項9】
前記珪酸カルシウムが、ウォラストナイトグループに属する珪酸カルシウム,トバモライトグループに属する珪酸カルシウム,ジェナイトグループに属する珪酸カルシウム,ジャイロライトグループに属する珪酸カルシウム,γ−ダイカルシウムシリケートグループに属する珪酸カルシウム,α−ダイカルシウムシリケートハイドレートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6〜8に記載の無機質成形体の製造方法。
【請求項10】
前記珪酸カルシウムが、ウォラストナイトグループに属する珪酸カルシウムのゾノトライト,フォシャジャイト,ウォラストナイト、トバモライトグループに属する珪酸カルシウムのトバモライト,CSH(I)、ジャイロライトグループに属する珪酸カルシウムのジャイロライト、α−ダイカルシウムシリケートハイドレートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6〜8に記載の無機質成形体の製造方法。
【請求項11】
前記ウォラストナイトが、ゾノトライト,フォシャジャイト,トバモライト,CSH(I),ジャイロライトからなる群から選択される少なくとも1種の珪酸カルシウムを加熱したものである、請求項10に記載の無機質成形体の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の製造方法により得られる無機質成形体を更に焼成する、珪酸カルシウムがウォラストナイトからなる無機質成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−13051(P2009−13051A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2008−145837(P2008−145837)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000149136)日本インシュレーション株式会社 (19)
【Fターム(参考)】