説明

滑り軸受

【課題】 ポリフェニレンサルファイド樹脂を主成分とする耐熱性、導電性を有する耐摩耗性が良好な滑り軸受を提供する。
【解決手段】 ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部、鱗片状天然黒鉛5〜15重量部、四フッ化エチレン樹脂30〜40重量部、カーボンブラック1〜10重量部、アラミド繊維5〜15重量部を必須成分として成形されたことを特徴とする滑り軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱、導電性滑り軸受に関する。特に、複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真装置のトナー粉末が介在する部位に設置される摺動部材に用いられる軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トナーを用いる電子写真装置の可動部の軸受として、耐熱性と導電性を備えた滑り軸受として、ポリフェニレンサルファイド樹脂を主成分とする摺動軸受が用いられている。
例えば、特許文献1(特許第3252190号公報)には、射出成形が良好なポリアミド樹脂や非晶性熱可塑性樹脂に、粉末状高密度ポリエチレンを添加すると、機械的特性、熱変形温度及び良好な成形収縮率を良好にするのみならず、PTW配合量が増加するに従い、動摩擦係数、摩耗量が低下し、相手材をカジらない軸受組成物として、ポリフェニレンサルファイド樹脂40〜92.5重量%、粘度平均分子量50000〜300000であり平均粒子径200μm以下の高密度ポリエチレン樹脂である粉末状ポリエチレン樹脂2〜15重量%、チタン酸カリウム繊維、珪酸カルシウム繊維、ホウ酸マグネシウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、塩基性硫酸マグネシウム繊維、炭素繊維及び炭化珪素繊維等のウィスカ状強化繊維5〜40重量%が配合された樹脂組成物において、更に酸無水物基含有モノマー、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、アクリロニトリル、スチレン又は酢酸ビニルで変性されたポリオレフィン0.5〜5.0重量%が配合されている射出成形用樹脂組成物が提案されている。
ポリフェニレンサルファイド樹脂は自己潤滑性が乏しいため、潤滑性を必要とする部分の材料として使用するに際しては、潤滑剤などを添加して別途潤滑性を付与しなければならず、たとえば黒鉛、四フッ化エチレン樹脂、潤滑油、金属酸化物、芳香族ポリアミド樹脂等を用いた複合材料が開発されてはいるものの、このような複合材料は、高温、高負荷条件のもとで良好な摩擦摩耗特性を発揮させるという点で決して充分であるとは言えず、一方、炭素繊維を配合した複合材料は初期においては良好な摩擦摩耗特性を示すが、相手材を損傷させ、その損傷にともない摩擦摩耗特性が急激に悪化する欠点を克服した提案として、ポリフェニレンサルファイド樹脂に黒鉛10〜30重量%と、四フッ化エチレン樹脂10〜35重量%と、カーボンブラック2〜10重量%とを必須成分として添加した滑り軸受用潤滑性樹脂組成物が特許文献2(特許第2804294号公報)に記載されている。
本発明者は、電子写真装置の加熱定着部用のアルミニウム合金を摺動相手とする滑り軸受としては、摩擦係数を下げるために多量の黒鉛添加すると摩擦摩耗性が悪化する問題があることを発見し、この耐摩耗性を改善する為に、強化繊維を添加すると摺動時にアルミニウム等の軟質金属である相手材の表面を荒らしてしまい、結果として軸受部材自体も荒れた相手材の表面と摺擦して損傷し、耐摩耗性が悪化するという問題があった。従来、充填されているガラス繊維、炭素繊維、ウィスカ繊維も相手材を傷つけてしまい耐摩耗性が劣化する原因となっている。
【0003】
【特許文献1】特許第3252190号公報
【特許文献2】特許第2804294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下「PPS」と表記する場合もある)を主成分とする耐熱性、導電性を有する耐摩耗性が良好な滑り軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意研究開発を続けた結果、黒鉛とアラミド繊維を併用することにより黒鉛の問題点である耐摩耗性の悪化を押さえることができるという機能を知見したことに基づき、本発明を完成したものである。
本発明の主な構成はつぎのとおりである。
【0006】
(1)ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、鱗片状天然黒鉛5〜15重量部、四フッ化エチレン樹脂30〜40重量部、カーボンブラック1〜10重量部、アラミド繊維5〜15重量部を必須成分として成形されたことを特徴とする滑り軸受。
(2)電子写真装置の加熱定着部用軸受であることを特徴とする(1)記載の滑り軸受。
【発明の効果】
【0007】
アラミド繊維と黒鉛、特に、鱗片状天然黒鉛を併用することにより、黒鉛の量を減少させ、耐摩耗性を向上したポリフェニレンサルファイド樹脂を主成分とした滑り軸受を実現できた。
特に、耐熱性と導電性が求められる複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真装置の定着ユニットに設置されるヒートロールの支持に用いられる軸受に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<ポリフェニレンサルファイド樹脂>
ポリフェニレンサルファイド樹脂は、以下に示す一般式で表わされる合成樹脂である。本発明に使用するPPS樹脂としては、架橋型のPPS樹脂でも、直鎖型(リニア(Liner)型)のPPS樹脂でも良い。

【0009】
【化1】

【0010】
<黒鉛>
本発明で使用する黒鉛は、鱗片状天然黒鉛である。配合量は、PPS100に対し、5〜15重量部が望ましい。黒鉛は、炭素から構成され、潤滑性、導電性、耐熱性、耐酸耐アルカリ性に優れた性質を持つ。黒鉛には、天然黒鉛と人造黒鉛がある。天然黒鉛には主に中国産の土状黒鉛、主に中国、ブラジル、ウクライナから算出される鱗片状黒鉛、主にスリランカから産出する塊状黒鉛等がある。人造黒鉛は、石炭コークス系、石油コークス系、ピッチ系などがある。従来、これらが区別無く使用されていたが、本発明では、比較試験の結果、鱗片状天然黒鉛が適していることが確認され、これに特定して用いる。
配合量は、5重量部以下では、潤滑性が不十分であり、15重量部以上では、摩耗性が改善されない。
従来、黒鉛の量は、特許第2804294号公報等に開示されるように10〜30重量%程度使用されているが、本発明では、PPSに対し15重量部以下に押さえることができた。黒鉛量が多くなると摩耗量が多くなるが、本発明では、少なくすることができた。
【0011】
<四フッ化エチレン樹脂>
四フッ化エチレン樹脂は、四フッ化エチレンの重合体であり、成形用の粉末であっても、また、いわゆる固体潤滑剤用の微粉末であってもよく、たとえば三井デュポンフロロケミカル社製:テフロン(登録商標)7J、TLP−10、旭硝子社製:フルオンG163、ダイキン工業社製:ポリフロンM15、ルブロンL5などを例示することができる。
四フッ化エチレン樹脂の配合量は30〜40重量部が望ましい。30重量部以下では潤滑性が不充分で、40重量部以上では成形性が著しく悪化する。
【0012】
<カーボンブラック>
カーボンブラックは、軸受に導電性を付与する目的で使用される。
種類は従来から用いられているケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ロールブラック、ディスクブラック等用いることができる。
その配合量は、1〜10重量部が望ましい。
【0013】
<アラミド繊維重量部>
本発明で用いるアラミド繊維は、高温域での耐摩耗性向上材として寄与している。
その配合量は、5〜15重量部が望ましい。
従来は、炭素繊維(特開平7−268126号公報参照)やウィスカー繊維(特許文献1参照)用いた例がある。アラミド繊維を用いる例は、特許第350837号公報には、アセチレンブラックは粒子の二次構造が鎖状構造を呈するものであり、またケッチェンブラック(アクゾ社製)のものは特殊な粒子形態のものであって、両者はポリフェニレンサルファイド樹脂脂組成物の添加物の一つである芳香族ポリアミド繊維に絡み付いた状態となり、このようなカーボンブラックが芳香族ポリアミド繊維に絡んだ材料を有するポリフェニレンサルファイド樹脂系の樹脂組成物では、摺動相手となるアルミニウム合金製のローラの軸などを損傷するという問題点が生ずるとして、欠点材料として評価されている。
【0014】
<製造工程>
本発明に採用する製造方法は、通常に工程によることができる。例えば、この滑り軸受の成形に用いる各原材料をヘンシェルミキサーで十分混合し、二軸溶融混錬押出機に供給し増粒し、得られたペレットを射出成形し、成型品を得る。
【0015】
こうして得られるポリフェニレンサルファイド樹脂軸受の摺動部分の摩擦係数は、高温下での使用では、0.20以下となり、限界PV値は700kgf/cm2・m/min以上となり、好ましい。
【0016】
<性能、用途>

【実施例】
【0017】
実施例1〜3及び比較例1〜3の組成を表1、表2に示す。表1は重量部表示であり、表2は重量パーセント表示である。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
これらの各原材料をヘンシェルミキサーで充分混合し、二軸溶融混錬押出機に供給し造粒し、得られたペレットを射出成形機にて成形し、電子写真装置の加熱定着部のアルミニウム合金製ロールの滑り軸受成形品を製造した。
【0021】
次の試験を行って評価した。
<摩擦摩耗試験>
評価試験機として、鈴木式摩擦試験機を使用した。相手材として、アルミ合金AL5052を用いた。試験は、1.47MPa、300mm/sec、23時間連続試験を25℃雰囲気、200℃雰囲気、250℃雰囲気で実施した。試験方法の概略を図10に示す。
試験結果を図1〜9に示す。
【0022】
図1〜3には、各温度雰囲気における軸受材と軸材となるアルミニウム材の双方を並べて摩耗量を示している。アルミニウム材の摩耗量は、0.00037cm3以下であって、軸受の摩耗量より格段に少なく、図示のレベルでは殆ど表示されない。図4〜5には、各温度雰囲気における軸受材の摩擦係数の平均値を示した。
図7〜9には、各温度雰囲気における軸受の摩擦係数の経時変化を示した。
【0023】
この摩擦摩耗試験の結果、アルミニウム材の摩耗は各温度、各実施例、各比較例において、大差ないことが確認できた。一方、軸受は、常温に近い25℃雰囲気では、各実施例は現行発売されている比較例3より、摩耗量が大きいが、200℃及び250℃の高温雰囲気では、極めて摩耗量が少ないことが確認できた。本発明で得られた滑り軸受は、特に、高温雰囲気での耐摩擦性に優れていることが解る。この使用条件として、電子写真装置の加熱定着部が適している。
【0024】
<限界PV値>
限界PV値評価試験を行った。結果を表3に示す。
実施例1〜3はいずれも滑り速度V=36m/minにおける限界P値が20kgf/cm、限界PV値が700kgf/cm・m/min以上であり、比較例ではそれぞれの値が18kg/cm以下、650kgf/cm・m/min以下であった。
【0025】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】25℃雰囲気摩耗量グラフ
【図2】200℃雰囲気摩耗量グラフ
【図3】250℃雰囲気摩耗量グラフ
【図4】25℃雰囲気軸受摩擦係数グラフ
【図5】200℃雰囲気軸受摩擦係数グラフ
【図6】250℃雰囲気軸受摩擦係数グラフ
【図7】25℃雰囲気軸受摩擦係数の経時変化グラフ
【図8】200℃雰囲気軸受摩擦係数の経時変化グラフ
【図9】250℃雰囲気軸受摩擦係数の経時変化グラフ
【図10】摩擦試験方法概略図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、鱗片状天然黒鉛5〜15重量部、四フッ化エチレン樹脂30〜40重量部、カーボンブラック1〜10重量部、アラミド繊維5〜15重量部を必須成分として成形されたことを特徴とする滑り軸受。
【請求項2】
電子写真装置の加熱定着部用軸受であることを特徴とする請求項1記載の滑り軸受。





【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−25434(P2007−25434A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209684(P2005−209684)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】