説明

漏出阻止部材およびこれを用いた漏出阻止方法

【課題】クラックに起因する冷却路からの冷却水の漏出を阻止する。
【解決手段】構造体に生じたクラックを介して冷却路からの冷却媒水の漏出を阻止するための漏出阻止部材1であって、一端に拡径部12を有する内側筒状部材10と、内側筒状部材10の軸部11に外挿された外側筒状部材20と、内側筒状部材10の一端で、ネジ15、43を介して軸方向に変位可能に設けられた保持部材40と、外側筒状部材20の両側に位置する環状のOリング51、52と、を備え、拡径部12と外側筒状部材20と保持部材40の外径を冷却路の内径に整合する外径D3とし、Oリングの外径をD3よりも小径とし、Oリング51、52は、保持部材40の拡径部12に近づく方向への変位により軸方向に圧縮された圧縮状態で、径方向外側に拡大して冷却路の内面に圧接し、非圧縮状態で、外側筒状部材20の外周面21aよりも内径側に退避する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏出阻止部材およびこれを用いた漏出阻止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム鋳造物などの作成に用いられるダイカストマシンの金型(ダイカスト金型)には、金型温度の安定化のための冷却回路が内部に設けられている。
ダイカストマシンでは、ダイカスト金型内のキャビティ(製品となる空間)に、圧力をかけて溶湯を注入するようになっており、例えば熱衝撃などにより、ダイカスト金型にクラックが発生することがある。
ここで、クラックを介してキャビティ内に冷却回路内の冷却水が漏出すると、キャビティ内に漏れ出た冷却水により、鋳造物に鋳巣などが発生し、品質低下の原因となる。
【0003】
特許文献1のように、冷却回路がダイカスト金型とは別体に構成されている場合には、クラックの補修は比較的に容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−110511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、例えば、冷却回路がダイカスト金型内に形成した穴(冷却路)から構成され、この冷却路に冷却媒体を直接通流させる構成である場合、ダイカスト金型にクラックが生じると、キャビティ側から金型を削って補修穴を形成し、補修穴内で露出するクラック(隙間)を溶接等により塞ぎ、補修穴を埋める、という複数の工程を経て、ダイカスト金型を補修して、キャビティ内への漏出を阻止していた。
【0006】
そこで、ダイカスト金型において、クラックに起因するキャビティ内への冷却媒体の漏出が発生した場合に、キャビティ内への漏出を簡単に止められるようにすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
構造体に形成された流体通路に挿入されて、前記構造体に生じたクラックを介した流体の漏出を阻止する漏出阻止部材であって、
前記流体通路の内径に整合する外径の拡径部を有する内側筒状部材と、
前記内側筒状部材に外挿されて軸方向に移動可能に設けられると共に、前記流体通路の内径に整合する外径の外側筒状部材と、
前記内側筒状部材の一端でネジを介して軸方向に変位可能に設けられると共に、前記流体通路の内径に整合する外径の保持部材と、
前記内側筒状部材に外挿されて、前記外側筒状部材と前記拡径部との間、および前記外側筒状部材と前記保持部材との間にそれぞれ配置された環状の弾性部材と、を備え、
前記弾性部材の外径を前記外側筒状部材の外径よりも小径とし、
前記弾性部材は、
前記保持部材の前記拡径部に近づく方向への変位により軸方向に圧縮された圧縮状態では、径方向外側に拡大して前記流体通路の内面に圧接し、
非圧縮状態では、外側筒状部材の外周面よりも内径側に退避することを特徴とする漏出阻止部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、弾性部材が非圧縮状態である漏出阻止部材を、流体通路内に挿入したのちに弾性部材を圧縮状態にすると、径方向外側に拡大した弾性部材が、流体通路の内周面に圧接されて、外側筒状部材の外周面と流体通路の内周面との間への流体の侵入が防止される。
よって、外側筒状部材の径方向外側にクラックが位置するように漏出阻止部材を挿入し、弾性部材を圧縮状態とすることで、流体通路内を通流する流体がクラックを介して外部に漏出することを好適に防止できる。
また、弾性部材が軸方向に圧縮されていない非圧縮状態では、弾性部材は外側筒状部材の外周面よりも内径側に退避しているので、漏出阻止部材を流体通路内にスムーズに挿入できる。
よって、流体通路がダイカスト金型内の冷却路である場合、金型に発生したクラックにより、冷却路内の流体(例えば水)の金型のキャビティ内への漏出が発生すると、冷却路内に漏出阻止部材を挿入し、弾性部材を圧縮状態にするだけで、漏出を簡単に阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施の形態にかかる漏出阻止部材の分解斜視図である。
【図2】実施の形態にかかる漏出阻止部材を説明する図である。
【図3】実施の形態にかかる漏出阻止部材の内側筒状部材を説明する図である。
【図4】実施の形態にかかる漏出阻止部材の外側筒状部材を説明する図である。
【図5】実施の形態にかかる漏出阻止部材のカム部材を説明する図である。
【図6】実施の形態にかかる漏出阻止部材の係止部材を説明する図である。
【図7】実施の形態にかかる漏出阻止部材の動作を説明する図である。
【図8】実施の形態にかかる漏出阻止部材を用いた漏出阻止方法を説明する図である。
【図9】漏出阻止部材の係止部材の変形例を説明する図である。
【図10】変形例にかかる漏出阻止部材を説明する図である。
【図11】変形例にかかる漏出阻止部材の要部を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、漏出阻止部材1の分解斜視図であり、図2は、漏出阻止部材1を説明する図であって、(a)は左側面図であり、(b)は(a)におけるA−A断面図であり、(c)は右側面図であり、(d)は正面図であって、後記するOリング51、52、および係止部材60を断面で示した図である。
【0011】
図1および図2に示すように、漏出阻止部材1は、一端に拡径部12を有する内側筒状部材10と、内側筒状部材10に外挿されて軸方向に移動可能に設けられた外側筒状部材20およびカム部材30と、内側筒状部材10の一端でネジを介して軸方向に変位可能に設けられて、外側筒状部材20およびカム部材30を軸方向の所定位置で保持する保持部材40と、を備える。
外側筒状部材20と拡径部12との間、および外側筒状部材20とカム部材30との間には、それぞれ環状のOリング51、52が位置しており、Oリング51は外側筒状部材20の縮径部22に、Oリング52は、カム部材30の縮径部32に、それぞれ外嵌して取り付けられている。
さらに、カム部材30と保持部材40との間には、係止部材60が位置しており、係止部材60は、カム部材30のカム部33に外嵌して取り付けられている。
【0012】
以下、漏出阻止部材1の各構成部品を説明する。
図3は、内側筒状部材10を説明する図であって、(a)は、左側面図であり、(b)は、(a)におけるA―A断面図であり、(c)は、(a)におけるB―B断面図であり、(d)は、正面図である。
【0013】
図3の(b)に示すように、内側筒状部材10は、筒状の軸部11の一端に拡径部12を備える。
拡径部12は、軸部11の外周面11aから径方向外側に所定高さh1で延びており、軸方向から見て、軸部11の外周面の全周に亘って設けられている。
軸方向から見た拡径部12の外形は円形状であり、軸部11とは反対側の端面12aには、互いに平行な二面幅部13が形成されている。
二面幅部13は、内側筒状部材10の中心軸Xを挟んで対称となる位置に設けられており、拡径部12の厚み方向で、所定深さh2で形成されている。
【0014】
拡径部12の軸部11側の面12bは、中心軸Xに対して直交する平坦面となっており、Oリング51(図2参照)の当接面となっている。
【0015】
軸部11は、長手方向の全長に亘って同じ外径D1で形成されており、内側筒状部材10を長手方向に貫通する貫通穴14は、長手方向の全長に亘って同じ内径D2で形成されている。そのため、軸部11の外周面11aと、貫通穴14の内径を規定する軸部11の内周面11bとは、本体部の中心を通る中心軸Xに沿って互いに平行に位置しており、軸部11の径方向厚みW1は、長手方向の全長に亘って同じである。
軸部11の他端(拡径部12とは反対側の端部)側の外周面11aには、雄ネジ15が、長手方向に沿って所定長さL1で設けられており、雄ネジ15が設けられた軸部11の他端には、有底円筒形状の保持部材40(図2参照)が螺合されるようになっている。
【0016】
実施の形態では、漏出阻止部材1は、ダイカスト金型内で直線状に形成された冷却路に挿入されて使用される。そのため、拡径部12の外径D3は、断面円形形状の冷却路と整合する径を備えている。さらに、貫通穴14は、漏出阻止部材1が冷却路に挿入された状態で、冷却媒体(例えば水)の流路となる。
【0017】
図2に示すように、保持部材40は、底部41と、底部41を囲む周壁部42とを備え、周壁部42の内周面には、雌ネジ43が設けられている。
周壁部42の高さh3は、軸部11の雄ネジ15が形成されている長さL1(図3参照)と略同じであり、保持部材40は、雌ネジ43を軸部11の雄ネジ15に螺入して、軸部11に着脱自在に取り付けられている。
【0018】
底部41の外形は、軸方向から見て円形形状であり、底部41の中央部であって、前記した内側筒状部材10の貫通穴14の延長上となる位置には、底部41を厚み方向に貫通する六角穴44が形成されている。
【0019】
実施の形態では、内側筒状部材10の貫通穴14に拡径部12側から挿入された六角レンチ(図示せず)が、六角穴44に内嵌するようになっている。そのため、六角穴44に内嵌させた六角レンチで、保持部材40を軸部11に対して相対回転させることで、保持部材40を軸部11の軸方向に移動(変位)させることができるようになっている。
【0020】
図2の(c)に示すように、六角穴44は、軸方向から見て、その内径が最も大きい部分44aが、内側筒状部材10の貫通穴14の僅かに内径側に位置する大きさで形成されている。
この六角穴44は、漏出阻止部材1が冷却路に挿入された場合に、冷却媒体(例えば水)の流路を兼ねている。
【0021】
保持部材40の外径(図2の(a)参照)は、拡径部12と同じ外径D3であり、保持部材40を軸部11に螺入させた状態で、保持部材40の外周面40aと、拡径部12の外周面12cとが、中心軸Xに平行な仮想線IM1上に位置するようになっている。
前記したように、実施の形態では、漏出阻止部材1は、ダイカスト金型内で直線状に形成された冷却路に挿入されて使用される。そのため、図2の(b)における仮想線IM1が冷却路の内周面に相当する。
【0022】
内側筒状部材10の軸部11には、拡径部12側から順番に、Oリング51が外嵌した外側筒状部材20と、Oリング52と係止部材60とが外嵌したカム部材30と、が外挿されている。
外側筒状部材20とカム部材30は、軸部11に外挿された状態で内側筒状部材10の中心軸Xの軸方向(以下、軸方向という)に移動可能とされている。
そして、保持部材40の内側筒状部材10(軸部11)に対する相対回転により、保持部材40が内側筒状部材10の拡径部12側に変位すると、外側筒状部材20とカム部材30が、保持部材40により拡径部12側に押圧されるようになっている。
【0023】
図4は、外側筒状部材20を説明する図であって、(a)は左側面図、(b)は(a)におけるA−A断面図、(c)は(b)におけるB−B断面図であって、Oリング51の図示を省略した図であり、(d)は正面図であって、Oリング51を断面で示した図であり、(e)は(b)における領域Cの拡大図である。
【0024】
外側筒状部材20の本体部21は、長手方向の全長に亘って同じ厚みW2で形成されており、本体部21の外径は、前記した拡径部12と同じ外径D3である。
本体部21において、拡径部12(図中仮想線で示す)側の端部には、本体部21よりも小径の縮径部22が一体に設けられており、この縮径部22の外周には、Oリング51が外嵌して取り付けられている。
【0025】
Oリング51は、ゴムなどの弾性部材から構成され、その断面形状は円形状である。
図4の(e)に示すように、Oリング51の断面における直径d1(軸部11の軸方向におけるOリング51の幅)は、本体部21の外径と縮径部22の外径との差h3よりも小さくなっている。すなわち、図4の(d)に示すように、Oリング51の直径R1は、本体部21の外径D3よりも小さくなっており、Oリング51が縮径部22に取り付けられた状態で、Oリング51の外周51aが、本体部21の外周面21aよりも径方向内側に位置するようになっている(図4の(e)参照)。
【0026】
縮径部22の軸方向長さL2は、軸部11の軸方向におけるOリング51の幅d1よりも小さくなっており、Oリング51が縮径部22に取り付けられた状態で、Oリング51が、縮径部22の先端面22aよりも拡径部12側にΔtだけ突出するようになっている。
縮径部22の先端面22aは、中心軸Xに対して直交する平坦面となっており、この先端面22aは、内側筒状部材10の拡径部12の面12b(図3参照)に当接する当接面となっている。
【0027】
本体部21における縮径部22とは反対側の端面21cは、中心軸Xに対して直交する平坦面となっており、この端面21cは、カム部材30に取り付けられたOリング52(図2参照)の当接面となっている。
【0028】
図5は、カム部材30を説明する図であって、(a)は左側面図、(b)は(a)におけるA−A断面図、(c)は(b)におけるB−B断面図であってOリング52の図示を省略した図であり、(d)は正面図であって、Oリング52と係止部材60を断面で示した図であり、(e)は(b)における領域Cの拡大図である。
【0029】
カム部材30は、軸方向から見てリング形状を有している。カム部材30の本体部31は、前記した外側筒状部材20の本体部21(図4参照)と同じ径方向幅W2を有しており、本体部31の外径D3は、前記した拡径部12(図3参照)と同じ外径である。
本体部31の外側筒状部材20側には、本体部31よりも小径の縮径部32が一体に設けられており、縮径部32の外周には、Oリング52が外嵌して取り付けられている。
【0030】
Oリング52は、前記したOリング51と同様に、断面円形形状を有しており、ゴムなどの弾性部材から構成される。
図5の(e)に示すように、Oリング52の断面における直径d1は、前記したOリング51と同じであり、この直径d1は、本体部31の外径と縮径部32の外径との差h3よりも小さくなっている。すなわち、図5の(d)に示すように、Oリング52の直径R1は、本体部31の直径D3よりも小さくなっており、Oリング52が縮径部32に取り付けられた状態で、Oリング52の外周52aが、本体部31の外周面31aよりも径方向内側に位置するようになっている。
【0031】
縮径部32の軸方向長さL2は、前記した外側筒状部材20の縮径部22と同じであり、Oリング52の幅d1よりも小さくなっている。
そのため、Oリング52が縮径部32に取り付けられた状態で、Oリング52は、縮径部32の先端面32aよりも外側筒状部材20側にΔtだけ突出するようになっている。
縮径部32の先端面32aは、中心軸Xに対して直交する平坦面となっており、この先端面32aは、外側筒状部材20の端面21c(図4参照)に当接する当接面となっている。
【0032】
図5の(e)に示すように、カム部材30の本体部31における縮径部32とは反対側には、本体部31よりも小径のカム部33が設けられている。
カム部33は、本体部31から離れるにつれて縮径しており、外周面33bが、中心軸Xに所定角度で交差する傾斜面となっている。
カム部33の先端面33aは、軸方向から見てリング形状の平坦面となっており、この先端面33aは、中心軸Xに対して直交している。先端面33aは、保持部材40の周壁部42の端面42a(図5の(b)において仮想線で示す)に当接する当接面となっている。カム部33の外周面33bには、係止部材60が外嵌して取り付けられている。
【0033】
係止部材60を説明する。
図6は、係止部材60を説明する図であって、(a)は、平面図、(b)は、係止部材60がカム部材30に取り付けられた初期状態の断面図であり、(c)は、(b)における領域Bの拡大図であり、(d)は、保持部材40がカム部材30に当接する位置まで変位して、係止部材60が径方向に拡大した作動状態の断面図であり、(e)は、(d)における領域Cの拡大図である。
【0034】
係止部材60は、軸方向から見て円環の一部が切り欠かれたC形状を有しており、実施の形態では、鉄で構成される。
この係止部材60の断面は、前記したOリング51、52と同様に円形形状である。
【0035】
係止部材60の内径D4は、カム部材30の外径D3よりも小さく、かつ貫通穴34の内径D1よりも大きいので、係止部材60は、カム部33に取り付けられた状態で、外周面(傾斜面)33bの途中位置(図6の(c)に示す初期位置)に配置される。
そして、係止部材60の外径D5は、カム部材30の外径D3よりも小さいので、初期位置において係止部材60の外周60aは、カム部材30の本体部31の外周面31aよりも径方向内側に位置する(図6の(c)参照)。
【0036】
さらに、カム部33の軸方向高さh4は、係止部材60の幅d2と同じであるので、初期位置において係止部材60の外周60aは、カム部材30の先端面33aよりも保持部材40側に突出している。
【0037】
なお、図6の(d)において矢印X1で示す方向に保持部材40が変位して、保持部材40の端面42aがカム部材30の先端面33aに当接する位置に達すると、係止部材60は、図6の(e)に示す作動位置に配置されて、その外周60aが、本体部31の外周面31aよりも径方向外側に突出した状態となるようになっている。
【0038】
かかる構成の漏出阻止部材1の動作を、説明する。
図7は、漏出阻止部材1の動作を説明する図であり、(a)は、漏出阻止部材1が非圧縮状態である場合の断面図であり、(b)は(a)におけるA−A断面図である。(c)は、漏出阻止部材1が圧縮状態である場合の断面図であり(d)は、(c)におけるA−A断面図である。
【0039】
実施の形態の漏出阻止部材1には、Oリング51、52が軸方向に圧縮された状態となる圧縮状態と、圧縮されていない状態となる非圧縮状態の2つの状態がある。
非圧縮状態の漏出阻止部材1では、Oリング51、52が、それぞれ軸方向に圧縮されていない状態となる位置に保持部材40が配置されており、Oリング51、52と、係止部材60が、漏出阻止部材1の外周面(外側筒状部材20の外周面21a)よりも径方向内側に退避している(図7の(a)参照)。
【0040】
この状態で、保持部材40の六角穴44に六角レンチWrを嵌合して回転させると、保持部材40が軸方向に変位する。
この際の変位方向を、保持部材40が拡径部12に近づく方向(図7の(a)において矢印X1で示す方向)にすると、カム部材30と外側筒状部材20とが、保持部材40に押されて、図中矢印X1で示す方向に移動する。
この際、保持部材40の端面42aと、カム部材30の縮径部32の先端面32aと、外側筒状部材20の縮径部22の先端面22aが、それぞれ、カム部材30の先端面33a、外側筒状部材20の端面21c、拡径部12の面12bに当接する位置まで、保持部材40を変位させることができる、この状態が圧縮状態の漏出阻止部材1となる。
【0041】
ここで、縮径部32、22の軸方向長さL2は、Oリング51、52の幅d1よりも短いので(図4の(e)、図5の(e)参照)、漏出阻止部材1が圧縮状態になると、Oリング51、52は、径方向外側に拡大して、漏出阻止部材1の外周面(外側筒状部材20の外周面21a、カム部材30の外周面31a)よりも径方向外側に、例えばΔa突出する。
【0042】
また、この際、係止部材60は、保持部材40により押されてカム部33の外周面33bを本体部31側に摺動する。
ここで、カム部33は本体部31に向かうにつれて拡径しており、さらに係止部材60は、円環の一部が切り欠かれたC形状を有しているので、係止部材60は、カム部33の外周面33bを本体部31側に摺動するにつれて、当該係止部材60の端部61が径方向外側に押し広げられる(図7の(d)の矢印参照)。
そして、保持部材40の端面42aがカム部材30の先端面33aに当接する位置に達すると、係止部材60は、本体部31の側面31cと保持部材40の端面42aとの間に挟み込まれると共に、外周60aが、カム部材30の外周面31aよりも径方向外側に、例えばΔbだけ、突出した状態となる(図6の(e)、図7の(c)、(d)参照)。
【0043】
次に、漏出阻止部材1を、ダイカスト金型内の冷却媒体が通流する直線状の冷却路に挿入して、ダイカスト金型に生じたクラックを介して、冷却路内の冷却媒体がキャビティ内に漏出することを阻止する場合を例に挙げて説明する。
【0044】
図8は、漏出阻止部材1を用いて、ダイカスト金型M1に生じたクラックCkを介して、冷却路C1を通流する冷却媒体がキャビティC内に漏出することを阻止する場合を説明する図であり、(a)は、非圧縮状態の漏出阻止部材1の冷却路C1への挿入方法を示す図であり、(b)は、非圧縮状態の漏出阻止部材1を回り止めした状態で、保持部材40を回転させて軸方向に変位させる方法を示す図であり、(c)は、(b)における領域Aの拡大図であり、(d)は、圧縮状態とされた漏出阻止部材1を示す図であり、(e)は、(d)における領域Bの拡大図である。
【0045】
図8の(a)に示すように、接合面に製品となる空間(キャビティ)Cが形成される一対のダイカスト金型M1、M2の一方の金型M1には、冷却媒体である水が通流する冷却回路が、冷却路C1、C2により形成されている。
各冷却路C1は、ダイカスト金型M1の外部から直線状に、キャビティCに対して平行に延びている。そして、この冷却路C1の一端側の開口OPは、プラグP(図8の(c)参照)により封止されるようになっている。
また、冷却路C1の一端側には、冷却媒体の導入ライン(図示せず)に接続された冷却路C2が接続されると共に、冷却路C1の図示しない他端側は、冷却媒体の排出ライン(図示せず)に接続されている。これにより、これら冷却路C1、C2によりダイカスト金型M1内に形成される冷却回路では、冷却媒体が通流するようになっている。
【0046】
ダイカスト金型M1においてキャビティCに対して平行に延びる冷却路C1の途中位置には、クラックCkが発生しており、冷却路C1内を通流する冷却媒体が、このクラックCkを介してキャビティC内に漏出する状態となっている。
【0047】
この冷却路C1に漏出阻止部材1を挿入して、クラックCkを介した冷却媒体の漏出を阻止する場合、図7の(a)、(b)に示す非圧縮状態の漏出阻止部材1を用いる。
【0048】
始めに、図8の(a)に示すように、冷却路C1の開口OPを封止するプラグを外したのち、保持部材40側を先にして、漏出阻止部材1を冷却路C1内に挿入する。
この際、拡径部12の二面幅部13に係合する係合部を有する筒状の挿入具Tを用いて、外側筒状部材20の径方向外側にクラックCkが位置するまで、漏出阻止部材1を冷却路C1に挿入する(図8の(b)参照)。
【0049】
続いて、筒状の挿入具Tの中央を挿通させた六角レンチWrを、保持部材40の六角穴44に拡径部12側から係合させる。
そして、二面幅部13に先端を係合させた挿入具Tにより、漏出阻止部材1を回り止めした状態で、六角レンチWrで保持部材40を回転させて、保持部材40を拡径部12に近づく方向に変位させて、漏出阻止部材1を圧縮状態にする。
【0050】
ここで、漏出阻止部材1の拡径部12、外側筒状部材20、カム部材30、保持部材40の径方向の外径が、冷却路C1の内径に整合する径で形成されている。漏出阻止部材1が圧縮状態にされると、径方向外側に拡大したOリング51、52は冷却路C1の内周面に圧接する(図8の(d)、(e)参照)。
これにより、外側筒状部材20の径方向外側のOリング51、52の間の範囲(図中符号Reで示す範囲)に、冷却路C1内を通流する冷却媒体が浸入できなくなるので、クラックCkを介して、冷却媒体がキャビティC内に漏出することを防止できる。
【0051】
また、図7に示したように、圧縮状態の漏出阻止部材1では、係止部材60もまた、径方向外側に拡大されて、冷却路C1の内周面に圧接する。
ここで、係止部材60は、ダイカスト金型M1と同種金属(鉄)で構成されており、ダイカスト金型M1との接合面では、係止部材60とダイカスト金型M1(冷却路C1の内周面)とが親和性良く接合している。そのため、Oリング51、52のみが冷却路C1に圧接している場合よりも、漏出阻止部材1の軸方向の移動が強く規制された状態となっている。
【0052】
これにより、冷却回路に冷却媒体を通流しても、冷却路C1を通流する流体の圧力で、漏出阻止部材1を軸方向に移動することがより好適に防止され、クラックCkを介したキャビティCへの冷却媒体の漏出もより確実に防止できる。
【0053】
このように、非圧縮状態の漏出阻止部材1を冷却路C1内に挿入し、漏出阻止部材1を挿入具Tにより回り止めした状態で六角レンチWrで保持部材40を回転させて、漏出阻止部材1を圧縮状態にするだけで、漏出を簡単に阻止することができる。
【0054】
ここで、ダイカスト金型M1、M2が鉄製であり、冷却媒体が水である場合、冷却路C1〜C3の内周面が錆びていることがある。この状態の冷却路C1に漏出阻止部材1を挿入する場合、ゴム製のOリング51、52が、漏出阻止部材1(外側筒状部材20)の外周面よりも径方向外側に突出していると、Oリング51、52が冷却路C1の内周面を修動する際に切れてしまい、Oリング51、52によるシール性が損なわれてしまうことがある。
【0055】
非圧縮状態の漏出阻止部材1では、Oリング51、52と、係止部材60が、漏出阻止部材1の外周面(外側筒状部材20の外周面21a)よりも径方向内側に退避している(図8の(c)参照)。非圧縮状態の漏出阻止部材1では、Oリング51、52が冷却路C1の内周面を摺動しないので、漏出阻止部材1を挿入している途中で、Oリング51、52が切れてしまうことがない。
すなわち、Oリング51、52が、漏出阻止部材1の外周面よりも径方向外側に突出していない非圧縮状態の漏出阻止部材1を用いることで、かかる問題の発生を好適に防止できる。
【0056】
さらに、漏出阻止部材1を回り止めする挿入具Tが筒状であり、保持部材40の六角穴44は、二面幅部13が設けられた拡径部12側からアクセス可能となっているので、一方側にのみ開口OPが設けられた直線状の冷却路C1であっても、漏出阻止部材1を圧縮状態にして冷却路C1内で位置決めできる。
【0057】
以上の通り、本実施形態では、ダイカスト金型M1内の冷却媒体が通流する直線状の冷却路C1内に挿入されて、ダイカスト金型M1に生じたクラックCkを介して、冷却路C1内を通流する冷却媒体(水)が、キャビティC内に漏出することを阻止するための漏出阻止部材1であって、冷却路C1の内径に整合する外径D3の拡径部12を有する内側筒状部材10と、内側筒状部材10の軸部11に外挿されて軸方向に移動可能に設けられた外側筒状部材20と、内側筒状部材10の軸部11の一端で、雄ネジ15、雌ネジ43を介して軸方向に変位可能に設けられた保持部材40と、内側筒状部材10の軸部11に外挿されて、外側筒状部材20と拡径部12との間、および外側筒状部材20と保持部材40との間にそれぞれ位置する環状のOリング51、52と、を備え、外側筒状部材20と保持部材40の外径を冷却路C1の内径に整合する外径D3にすると共に、Oリングの外径D4をD3よりも小径とし、Oリング51、52は、保持部材40の拡径部12に近づく方向への変位により軸方向に圧縮された圧縮状態で、径方向外側に拡大して冷却路C1の内周面に圧接し、非圧縮状態で、外側筒状部材20の外周面21aよりも内径側に退避する構成とした。
【0058】
このように構成すると、漏出阻止部材1を冷却路C1内に挿入した状態でOリング51、52を圧縮状態にすると、径方向外側に拡大したOリング51、52が、冷却路C1の内周面に押しつけられた状態となり、冷却路C1内を流れる冷却媒体(水)が、外側筒状部材20の径方向外側に位置する冷却路C1の内周面との間に浸入することが防止される。よって、外側筒状部材20の径方向外側にクラックCkが位置するように漏出阻止部材1を配置し、Oリング51、52を圧縮状態とすることで、冷却路C1内を通流する冷却媒体がクラックCkを介して外部(キャビティC)に漏出することを好適に防止できる。
また、Oリング51、52が軸方向に圧縮されていない非圧縮状態では、弾性部材は外側筒状部材20の外周面21aよりも内径側に退避しているので、冷却路C1内への漏出阻止部材1の挿入をスムーズに行うことができる。この際、冷却路C1の内周面に錆などが生じていても、漏出阻止部材1を冷却路C1に挿入する際に、冷却路C1の内周面に形成された錆などの突出物などにより、Oリング51、52が切断されることがない。
【0059】
冷却路C1が金属(例えば鉄)製のダイカスト金型内に設けられた冷却路である場合には、冷却路内に漏出阻止部材を挿入し、弾性部材を圧縮状態にするだけで、冷却路内で漏出阻止部材1を固定することができる。
これにより、溶接などでクラックを塞ぐ場合に比べて、ごく短時間で漏出を止めることができる。よって、漏出が生じた場合に、ダイカスト金型M1、M2を用いた鋳造物の生産性の低下を最小にでき、さらに金型の修理費の低減が可能になる。
また、溶接によりクラックを塞ぐ場合には、クラックや漏出の再発が懸念され、クラックや漏出が頻繁に起こるようになると、鋳造物の品質低下や、金型の修理費の累積による高騰が問題になるが、冷却路内で漏出阻止部材1を固定することで漏出を阻止する場合には、このような問題が生ずる虞を低減できる。
【0060】
また、内側筒状部材10の軸部11に外挿されて、外側筒状部材20と保持部材40との間で軸方向に移動可能に設けられたカム部材30をさらに備え、カム部材30は、保持部材40側に向かうにつれて縮径するカム部33を備え、
カム部33の外周面33bの保持部材40寄りの位置には、係止部材60が外嵌して取り付けられており、係止部材60は、保持部材40の拡径部12に近づく方向への変位により軸方向に押された押圧時には、カム部33を拡径部12に近づく方向に変位して、外周60aが、外側筒状部材20の外周面21a(カム部材30の外周面31a)よりも径方向外側に突出し、被押圧時には、外側筒状部材20の外周面21aよりも径方向内側に位置する構成とした。
【0061】
このように構成すると、漏出阻止部材1を冷却路C1内に挿入した状態で、係止部材60が保持部材40により押圧された状態となる押圧時には、外周60aが、冷却路C1の内周面に押しつけられた状態となる。
ここで、係止部材60を、ダイカスト金型と同種金属(例えば鉄)で構成すると、係止部材60が、冷却路C1における漏出阻止部材1の軸方向の移動をより確実に規制する。
これにより、冷却回路に冷却媒体を通流しても、冷却路C1を通流する流体の圧力で、漏出阻止部材1を軸方向に移動することが好適に防止される。さらに、外側筒状部材20とクラックCkの位置がずれることもないので、クラックCkへの流体の浸入を確実に防止して、クラックCkを介してキャビティCへの冷却媒体の漏出をより確実に阻止できるようになる。
【0062】
内側筒状部材10の軸部11には、内側筒状部材10を回り止め支持する筒状の支持部材が軸方向から係合する二面幅部13が設けられ、保持部材40は、内側筒状部材10の貫通穴14を塞ぐ底部41と、底部41を囲むと共に内側筒状部材10の外周の雄ネジ15に螺合する雌ネジ43を内周に有する周壁部42とを備え、底部41における貫通穴14に整合する位置には、保持部材40を回転させる六角レンチ(治具)が軸方向から嵌合する六角穴44が厚み方向に貫通して設けられており、軸方向から見た六角穴44の形状を、六角レンチの断面に整合する形状とし、
Oリング51、52を非圧縮状態とした漏出阻止部材1を、保持部材40側から(保持部材40を先頭にして)直線状の冷却路C1に挿入して、外側筒状部材20の径方向外側にクラックCkが来る位置に配置し、支持部材Tで漏出阻止部材1を回り止めした状態で、漏出阻止部材1の中央貫通穴14を挿通して六角穴44に嵌合させた六角レンチWrを回転させて、支持部材40を拡径部12に近づく方向へ変位させ、Oリング51、52を圧縮状態にして、冷却路C1の内周面に当接させる構成とした。
【0063】
このように構成すると、保持部材40の六角穴44は、二面幅部13が設けられた拡径部12側からアクセス可能となっているので、一方側にのみ開口OPが設けられた直線状の冷却路C1であっても、漏出阻止部材1を圧縮状態にして冷却路C1内で位置決めできる。冷却路C1内に漏出阻止部材1を挿入し、Oリング51、52を圧縮状態にするだけで、漏出を簡単に止めることができる。
【0064】
前記した実施の形態では、Oリング51とOリング52が、それぞれ外側筒状部材20とカム部材30に取り付けられている場合(図2参照)を例に挙げて説明をしたが、例えば、Oリング51を拡径部12側に、Oリング52を外側筒状部材側にそれぞれ取り付けるようにしても良い。
すなわち、Oリングは、漏出阻止部材1の軸方向でOリングを挟んで両側に位置する部材または部位の何れか一方に取り付けられていれば良い。この場合、Oリングが取り付けられる部材または部位に、前記した縮径部22と同じ構成の縮径部を設けて、この縮径部にOリングを外嵌して取り付けるようにすることで、Oリングが圧縮状態にされたときに、外側筒状部材20の外周面21aよりも径方向外側に、Oリングを突出させることができるようになる。
【0065】
なお、この場合において、縮径部は、Oリングを挟んで両側に位置する部材または部位の何れか一方と必ずしも一体に形成されている必要はなく、Oリングを挟んで両側に位置する部材または部位とは別体に設けられている場合であっても良い。
【0066】
図9は、係止部材65の変形例を説明する図であり、(a)は、変形例にかかる係止部材65を備える漏出阻止部材1Aが、非圧縮状態である場合を、(b)は、(a)における符号Aで囲んだ領域の拡大図であり、(c)は、(b)の状態から、漏出阻止部材1Aが圧縮状態にされた場合を説明する拡大図である。
【0067】
変形例にかかる係止部材65は、その断面形状が、略矩形形状であるという点において係止部材60と異なっており、軸方向から見た形状は、前記した係止部材60と同じ円環の一部が切り欠かれたC形状であり、さらに係止部材60と同じ内径D4および外径D5で形成されている。
【0068】
係止部材65では、カム部33の外周面33bとの対向面に、テーパ部65bが形成されており、係止部材65は、テーパ部65bをカム部33の外周面33bに外嵌させた状態で、カム部33に取り付けられている。
【0069】
係止部材65の外周面65aは、中心軸Xに対して平行な平坦面となっており、漏出阻止部材1Aが非圧縮状態である場合には、カム部材30の外周面31aや保持部材40の外周面40aよりも径方向内側に位置するように、カム部33の形状と、係止部材65の内径D4と外径D5が設定されている。
そして、図9の(c)に示すように、中心軸Xの軸方向における外周面65aの幅は、カム部33の軸方向幅h4と同じとされており、漏出阻止部材1Aが圧縮状態とされた場合に、外周面65aが、カム部材30の外周面31aや保持部材40の外周面40aよりも径方向外側に突出するように設定されている。
【0070】
このように構成すると、漏出阻止部材1Aが冷却路内に挿入された状態で、漏出阻止部材1Aを非圧縮状態から圧縮状態にすると、径方向外側に突出した係止部材65が、冷却路の内周面に、所定幅h4の面で当接した状態となる。
ここで、前記した係止部材60の場合には、断面が円形であるために、漏出阻止部材が圧縮状態にされると、冷却路の内周面と線で接触する。これに対して、係止部材65の場合には、係止部材60の場合よりも接触面積が広い面で、冷却路の内周面と接触する。
そうすると、内周面との接触面積が広くなる分、漏出阻止部材を径方向に移動させようとする力に対する抵抗力が大きくなる。よって、冷却路を通流させる流体の流速を上げても、漏出阻止部材1Aを設定された位置に保持しつつけることができるようになる。
【0071】
次に、実施の形態の漏出阻止部材1の変形例を説明する。
図10は、変形例にかかる漏出阻止部材1Bを説明する図であって、(a)は、左側面図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面図であり、(c)は、右側面図であり、(d)は、正面図であって、Oリング51〜53を断面で示した図である。図11は、図10の(b)における領域Bの拡大図である。
【0072】
図10に示すように、外側筒状部材20の両側には、筒状部材70が設けられている。
筒状部材70は、外側筒状部材20と同様に、内側筒状部材10に外挿されて軸方向に移動可能に設けられている。
筒状部材70の本体部71は、前記した外側筒状部材20と同じ内径D1および外径D3を有しており、前記した外側筒状部材20の本体部21と同じ径方向幅W2を有している。
【0073】
本体部71の軸方向における一方側の端部には、本体部71よりも小径の縮径部72が一体に設けられている。
図11に示すように、縮径部72の軸方向の長さL2は、前記した外側筒状部材20の縮径部22と同じであり、この縮径部72の外周には、Oリング53が外嵌して取り付けられている。
Oリング53は、前記したOリング51、52と同様に、断面円形形状を有しており、ゴムなどの弾性部材から構成される。
【0074】
Oリング53の断面における直径d1は、前記したOリング51と同じであり、この直径d1は、本体部71の外径と縮径部72の外径との差h3よりも小さくなっている。Oリング53は、縮径部32に取り付けられた状態で、その外周53aが、本体部71の外周面71aよりも径方向内側に位置するようになっている。
【0075】
縮径部72の軸方向長さL2は、軸部11の軸方向におけるOリング53の幅d1よりも小さくなっており、Oリング53が縮径部72に取り付けられた状態で、Oリング51が、縮径部72の先端面72aよりも拡径部12側にΔtだけ突出するようになっている。
縮径部72の先端面72aは、中心軸Xに対して直交する平坦面となっている。図10において拡径部12側に位置する筒状部材70の場合、この先端面72aは、拡径部12の面12bに当接する当接面となっている(図11参照)。
【0076】
この筒状部材70の場合もまた、保持部材40が拡径部12に近づく方向に変位して、縮径部72の先端面72aが拡径部12に当接すると、Oリング53の外周53aが、本体部71の外周面71aよりも径方向外側に突出した状態となるようになっている。
【0077】
これにより、変形例にかかる漏出阻止部材1Bの場合であっても、前記した漏出阻止部材1の場合と同じ作用効果が奏されることになる。
特に、外側筒状部材20の両側に、Oリング53が外嵌した筒状部材70が設けられており、外側筒状部材20の両側にOリングが2つずつ並んで配置されているので、外側筒状部材20の径方向外側と冷却路の内周面との間に、冷却路内を通流する冷却媒体が浸入することをより確実に防止できる。よって、クラックCkを介して、冷却媒体がキャビティC内に漏出することをより確実に防止できる。
【0078】
前記した実施の形態および変形例では、係止部材60をダイカスト金型と同じ材料(鉄)で構成し、その形状を円環の一部を切り欠いたC形状とした場合を例示した。しかし、係止部材60は、漏出阻止部材の軸方向の移動を阻止できる限り、他の材料から構成しても良い。例えば、係止部材60を、鉄に比べて展性に優れている銅から構成しても良い。かかる場合、銅は圧縮されたときに変形しやすいので、その形状を円環形状としても、径方向に圧縮されたときに径方向に拡大するので、鉄の場合のように、係止部材60の形状を、必ずしも円環の一部を切り欠いたC形状とする必要がない。すなわち、円環の一部を切り欠く工程を省略できるので、係止部材60の作製コストの低減に寄与することができる。
【0079】
なお、漏出阻止部材1Bにおいても、Oリング51、51、53は、漏出阻止部材1Bの軸方向でOリングを挟んで両側に位置する部材または部位の何れか一方に取り付けられていれば良い。
【符号の説明】
【0080】
1、1A、1C 漏出阻止部材(漏出阻止プラグ)
10 内側筒状部材
11 軸部
12 拡径部
13 二面幅部
14 貫通穴
15 雄ネジ
20 外側筒状部材
21 本体部
22 縮径部
30 カム部材
31 本体部
32 縮径部
33 カム部
34 貫通穴
40 保持部材
41 底部
42 周壁部
43 雌ネジ
44 六角穴
51、52、53 Oリング(弾性部材)
60、65 係止部材
70 筒状部材
71 本体部
72 縮径部
C キャビティ
C1 冷却路(流体通路)
C2 冷却路(流体通路)
M1、M2 金型(構造体)
OP 開口
P プラグ
T 挿入具(支持部材)
Wr 六角レンチ(治具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体に形成された流体通路に挿入されて、前記構造体に生じたクラックを介した流体の漏出を阻止する漏出阻止部材であって、
前記流体通路の内径に整合する外径の拡径部を有する内側筒状部材と、
前記内側筒状部材に外挿されて軸方向に移動可能に設けられると共に、前記流体通路の内径に整合する外径の外側筒状部材と、
前記内側筒状部材の一端でネジを介して軸方向に変位可能に設けられると共に、前記流体通路の内径に整合する外径の保持部材と、
前記内側筒状部材に外挿されて、前記外側筒状部材と前記拡径部との間、および前記外側筒状部材と前記保持部材との間にそれぞれ配置された環状の弾性部材と、を備え、
前記弾性部材の外径を前記外側筒状部材の外径よりも小径とし、
前記弾性部材は、
前記保持部材の前記拡径部に近づく方向への変位により軸方向に圧縮された圧縮状態では、径方向外側に拡大して前記流体通路の内面に圧接し、
非圧縮状態では、外側筒状部材の外周面よりも内径側に退避することを特徴とする漏出阻止部材。
【請求項2】
前記内側筒状部材に外挿されて、前記外側筒状部材と前記保持部材との間で軸方向に移動可能に設けられたカム部材をさらに備え、
前記カム部材は、前記保持部材側に向かうにつれて縮径するカム部を備え、
前記カム部の外周面には、係止部材が外嵌して取り付けられており、
前記係止部材は、
前記保持部材の前記拡径部に近づく方向への変位により軸方向に押された押圧時には、前記カム部を前記拡径部に近づく方向に変位すると共に、径方向外側に拡大して前記流体通路の内面に圧接し、
非押圧時には、前記外側筒状部材の外周面よりも径方向内側に位置することを特徴とする請求項1に記載の漏出阻止部材。
【請求項3】
前記外側筒状部材と前記拡径部との間、および前記外側筒状部材と前記保持部材との間には、それぞれ前記弾性部材が2つずつ設けられており、
前記漏出阻止部材は、
前記内側筒状部材に外挿されて軸方向に移動可能に設けられると共に、前記流体通路の内径に整合する外径の筒状部材をさらに備え、
前記筒状部材は、前記外側筒状部材と前記拡径部との間と、前記外側筒状部材と前記保持部材との間で、隣接する弾性部材の間に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の漏出阻止部材。
【請求項4】
前記軸方向で前記弾性部材の両側に位置する部材または部位のうちの一方では、前記弾性部材が外嵌して取り付けられる取付部が、他方の部材または部位との対向面から軸方向に突出して形成されており、
前記取付部は、前記弾性部材の内径に整合する外径を有すると共に、
前記取付部の前記軸方向の幅は、前記弾性部材の前記軸方向の幅よりも短いことを特徴とする請求項1から請求項3のうちの何れか一項に記載の漏出阻止部材。
【請求項5】
前記内側筒状部材には、前記内側筒状部材を回り止め支持する筒状の支持部材が前記軸方向から係合する係合部が設けられ、
前記保持部材は、
前記内側筒状部材の開口を塞ぐ底部と、底部を囲むと共に前記内側筒状部材の外周に螺合する周壁部とを備え、
前記底部における前記開口に整合する位置には、前記保持部材を回転させる治具が軸方向から嵌合する嵌合穴が厚み方向に貫通して設けられており、
前記軸方向から見た前記嵌合穴の形状を、前記治具の断面に整合する形状としたことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の漏出阻止部材。
【請求項6】
直線状の流体通路を内部に有する構造体に生じたクラックによる流体の外部への漏出を、請求項5に記載の漏出阻止部材を用いて阻止する漏出阻止方法であって、
前記弾性部材を前記非圧縮状態とした前記漏出阻止部材を、前記保持部材側から前記流体通路に挿入して、前記外側筒状部材の径方向外側に前記クラックが来る位置に配置するステップと、
前記支持部材で前記漏出阻止部材を回り止めするステップと、
前記漏出阻止部材の中央貫通穴を挿通した治具を、前記保持部材の嵌合穴に係合させるステップと、
前記漏出阻止部材を回り止めした状態で、前記治具を回転させて前記支持部材を前記拡径部に近づく方向への変位させ、前記弾性部材を前記圧縮状態にするステップと、を備えることを特徴とする漏出阻止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−15179(P2013−15179A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147817(P2011−147817)
【出願日】平成23年7月3日(2011.7.3)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】