説明

潜伏性触媒の製造方法およびエポキシ樹脂組成物

【課題】 成形時に優れた触媒作用を発現して、硬化性、流動性及び保存性が良好な樹脂組成物を与えることができる潜伏性触媒を、短時間、高収率でイオン性不純物の混入なく提供する。
【解決手段】 一般式(1)で表されるプロトン供与体(A)と、トリアルコキシシラン化合物(B)と、ホスホニウム塩化合物(D)とを反応させてホスホニウムシリケート潜伏性触媒を製造する方法であって、第3級アミン化合物(C)の共存下で、反応させることを特徴とする、ホスホニウムシリケート潜伏性触媒の製造方法。
【化1】


[式中、Y1及びY2は、それぞれ、プロトン供与性基がプロトンを1個放出してなる基を表す。Z1は、プロトン供与性基であるY1H、Y2Hと結合する有置換もしくは無置換の有機基を表し、同一分子内の2つの基Y1及びY2は、珪素原子と結合してキレート構造を形成し得るものである。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜伏性触媒の製造方法およびエポキシ樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IC及びLSI等の半導体素子を封止して半導体装置を得る方法としては、エポキシ樹脂組成物を用いてトランスファー成形する方法が、低コストで、大量生産に適しているという点で広く用いられている。また、エポキシ樹脂や、硬化剤であるフェノール樹脂の改良により、半導体装置の特性及び信頼性の向上が図られている。
【0003】
しかしながら、昨今の電子機器における、小型化、軽量化及び高性能化が求められている市場動向において、半導体の高集積化も、年々進んでおり、また、半導体装置の表面実装化も促進されている。これに伴い、半導体素子の封止に用いられるエポキシ樹脂組成物への要求は、益々厳しいものとなってきている。このため、従来からのエポキシ樹脂組成物では、解決できない(対応できない)問題も生じている。
【0004】
近年、半導体素子の封止に用いられる材料には、生産効率の向上を目的とした速硬化性の向上と、半導体を封止した際の、耐熱性や信頼性の向上のため、無機質の充填材を高充填しても損なわれることのない高流動性が求められるようになってきている。
【0005】
電気・電子材料分野向けのエポキシ樹脂組成物には、硬化時における樹脂の硬化反応を促進する目的で、第三ホスフィンとキノン類との付加反応物が、優れた速硬化性を有する硬化促進剤として添加されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
ところで、かかる硬化促進剤は、硬化促進効果を示す温度領域が比較的低温にまで及ぶことから、硬化反応の初期において、その反応をわずかずつであるが促進してしまい、この反応が原因となって、樹脂組成物中の樹脂成分が高分子量化する。かかる高分子量化は、樹脂粘度の向上を引き起こし、結果として、信頼性向上のために充填材を高充填した樹脂組成物においては、流動性の不足により成形不良などの問題を引き起こす。
【0007】
また、樹脂組成物の流動性を向上させるべく、硬化促進剤の活性をコントロールする試みも、さまざまなものが取り組まれてきた。例えば、硬化促進剤の活性点をイオン対として保護することで、低温における活性を抑制した潜伏性挙動を発現する研究がなされており、種々の有機酸とホスホニウムイオンとの塩構造を有する潜伏性触媒が知られている(例えば、特許文献2〜3参照。)。しかし、このような通常の塩構造を有する潜伏性触媒では、樹脂中に硬化促進剤が溶解した時点でイオン対が徐々に解離し活性を示すことから、十分な流動性や保存安定性を得ることができず、また、樹脂に対して、難溶な塩構造にすると、成形温度において塩のイオン解離・活性化がスムーズに起こらないことから、十分な硬化性を得ることができず、流動性と硬化性との両立ができないものであった。
【0008】
近年、エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂の硬化促進剤として、成形時の硬化性と流動特性が両立した好ましい挙動を示す潜伏性触媒の研究がなされ、特に、キレート型構造を有するオニウム塩が、保存安定性と成形時の硬化性・流動性が両立した好ましい挙動を示すとされている(例えば、特許文献4参照。)。
【0009】
従来、これらキレート型構造を有するオニウム塩の合成法としては、キレート型アニオンのナトリウム塩より、水又は水と有機溶媒の混合溶媒中で脱ナトリウムハロゲン塩化する方法が知られている(例えば、特許文献5参照。)。これら合成方法を、キレート型構造を有するホスホニウムシリケート塩の合成に用いた場合、金属水酸化物による中和反応時に副生する水分、或いは溶液中の水分が、かかるアルカリ性条件下で、原料のトリアルコキシシランの加水分解・縮合重合反応を引き起こし、副生物としてシロキサン重合物が生成するため、目的のホスホニウムシリケート塩を高純度・高収率で得ることが困難である問題がある。
また、金属水酸化物を用いることにより、目的のホスホニウムシリケート塩中に金属イオンが残留し、耐湿信頼性・電気特性に悪影響を及ぼす問題がある。
【0010】
【特許文献1】特開平10−25335号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2001−98053号公報(第5頁)
【特許文献3】米国特許第4171420号明細書(第2−4頁)
【特許文献4】特開平11−5829号公報(第3−4頁)
【特許文献5】特開2003−277510号公報(第5−6頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、成形時に良好な硬化性・流動性を有する樹脂組成物及び高品質の成形品を与えることができ、特に成形品の耐湿信頼性に優れた潜伏性触媒を、高収率に製造することができる潜伏性触媒の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前述したような問題点を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、次のような事項を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
珪素原子と結合してキレート構造を形成する基を有するプロトン供与体、トリアルコキシシラン化合物及びホスホニウム塩を反応させてホスホニウムシリケート潜伏性触媒を製造する際に、第3級アミン化合物の共存下、反応させることにより、成形時に良好な硬化性・流動性を有する樹脂組成物及び高品質の成形品を与えることができ、特に成形品の耐湿信頼性に優れたホスホニウムシリケート潜伏性触媒を高収率で生成することを見出した。
【0014】
即ち、下記(1)〜(7)の本発明により達成される。
【0015】
(1)一般式(1)で表されるプロトン供与体(A)と、トリアルコキシシラン化合物(B)と、一般式(2)で表されるホスホニウム塩化合物(D)とを反応させてホスホニウムシリケート潜伏性触媒を製造する方法であって、第3級アミン化合物(C)の共存下で、反応させることを特徴とする、ホスホニウムシリケート潜伏性触媒の製造方法。
【0016】
【化1】

[式中、Y1及びY2は、それぞれ、プロトン供与性基がプロトンを1個放出してなる基を示し、互いに同一であっても異なっていても良い。Z1は、プロトン供与性基であるY1H及びY2Hと結合する置換もしくは無置換の有機基を示し、同一分子内の2つの基Y1及びY2は、珪素原子と結合してキレート構造を形成し得るものである。]
【0017】
【化2】

[式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ、置換若しくは無置換の芳香環又は複素環を有する有機基、或いは置換若しくは無置換の脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。式中X-は、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、又はプロトン供与性基がプロトンを1個放出してなる陰イオンを表す。]
【0018】
(2)前記ホスホニウムシリケート潜伏性触媒の製造方法において、予め、一般式(1)で表されるプロトン供与体(A)、前記トリアルコキシシラン化合物(B)とを、第3級アミン化合物(C)の共存下で、反応させる、請求項1に記載のホスホニウムシリケート潜伏性触媒の製造方法。
(3) 一般式(1)で表されるプロトン供与体(A)が、一般式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物である、請求項1又は2に記載のホスホニウムシリケート潜伏性触媒の製造方法。
【0019】
【化3】

[式中、Ar1は、置換若しくは無置換の芳香環又は複素環を有する有機基を表す。該有機基Ar1上の2つのOH基がプロトンを放出して形成される2つの酸素アニオンは、珪素原子と結合してキレート構造を形成し得るものである。]
【0020】
(4) 一般式(2)で表されるホスホニウム塩化合物が、一般式(4)で表される第4級ホスホニウム塩化合物である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のホスホニウムシリケート潜伏性触媒の製造方法。
【0021】
【化4】

[式中、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ、水素原子、メチル基、メトキシ基及び水酸基から選択される1種を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。式中X-は、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、又はプロトン供与性基がプロトンを1個放出してなる陰イオンを表す。]
【0022】
(5) ホスホニウムシリケート潜伏性触媒が、一般式(5)で表されるホスホニウムシリケート化合物である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のホスホニウムシリケート潜伏性触媒の製造方法。
【0023】
【化5】

[式中、R9、R10、R11及びR12は、それぞれ、置換もしくは無置換の芳香環又は複素環を有する有機基、或いは置換若しくは無置換の脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。Y3、Y4、Y5及びY6は、それぞれ、プロトン供与性基がプロトンを1個放出してなる基を示す。Z2は、Y3及びY4と結合する置換もしくは無置換の有機基を示し、同一分子内の2つの基Y3及びY4は、珪素原子と結合してキレート構造を形成し得るものである。Z3は、Y5及びY6と結合する置換若しくは無置換の有機基を表し、同一分子内の2つの基Y5及びY6は、珪素原子と結合してキレート構造を形成し得るものである。A1は有機基を表す。]
(6)ホスホニウムシリケート潜伏性触媒が、一般式(6)で表されるホスホニウムシリケート化合物である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のホスホニウムシリケート潜伏性触媒の製造方法。
【0024】
【化6】

[式中、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ、水素原子、メチル基、メトキシ基及び水酸基から選択される1種を示し、互いに同一であっても異なっていてもよい。Ar2は、置換もしくは無置換の芳香環又は複素環を有する有機基を表す。該有機基Ar2上の2つのOH基がプロトンを放出して形成される2つの酸素アニオンは、珪素原子と結合してキレート構造を形成し得るものである。A2は有機基を表す。]
【0025】
(7) 1分子内にエポキシ基を2個以上有する化合物と、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物と、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製造方法により得られるホスホニウムシリケート潜伏性触媒とを含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【発明の効果】
【0026】
本発明の潜伏性触媒の製造方法によれば、金属イオン含有量の低いホスホニウムシリケート潜伏性触媒を高収率で製造することができる。本発明により得られる潜伏性触媒は、エポキシ樹脂の硬化促進に極めて有用であり、エポキシ樹脂組成物に混合した場合、優れた流動性、保存性と硬化性の両立したエポキシ樹脂組成物を得ることができ、また、金属イオンの含有量も少ないことから、前記エポキシ樹脂組成物を用いて得られた成形品は、耐湿信頼性及び電気特性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の潜伏性触媒製造方法の好適実施形態について説明する。
【0028】
本発明に用いる、一般式(1)で表されるプロトン供与体(A)は、珪素原子と結合してキレート構造を形成しうるプロトン供与性置換基を、分子内に2個有する化合物であり、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0029】
前記一般式(1)で表されるプロトン供与性基を有する化合物(HY112H)において、Z1は、Y1及びY2と結合する置換もしくは無置換の有機基であり、同一分子内の基Y1、及びY2は、それぞれ、プロトン供与性基がプロトンを1個放出してなる基であり、珪素原子と結合してキレート構造を形成しうるものである。Y1、及びY2は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0030】
このようなZ1の例としては、エチレン基及びシクロへキシレン基などの脂肪族の有機基、フェニレン基、ナフチレン基及びビフェニレン基などの芳香環を有する有機基、ピリジニル基及びキノキサリニル基などの複素環を有する有機基が挙げられる。これらの基においては、Y1及びY2を隣接位に有するものであり、前記ビフェニレン基においては、2,2’位に有するものを挙げることができる。Z1における置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基及びヘキシル基等の脂肪族アルキル基、フェニル基等の芳香族基、メトキシ基及びエトキシ基等のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、水酸基、ハロゲン基などが挙げられる。
また、Y1及びY2の例としては、酸素原子、硫黄原子及びカルボキシラート基などが挙げられる。
【0031】
このような一般式(1)で表されるプロトン供与性基を有する化合物(HY112H)の例としては、例えば、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−エタンジオール、3,4−ジヒドロキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン及びグリセリンなどの脂肪族ヒドロキシ化合物、グリコール酸及びチオ酢酸などの脂肪族カルボン酸化合物、ベンゾイン、カテコール、ピロガロール、没食子酸プロピル、タンニン酸、2−ヒドロキシアニリン、2−ヒドロキシベンジルアルコール、2,2’−ビフェノール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン及び2,3−ジヒドロキシナフタレンなどの芳香族ヒドロキシ化合物、サリチル酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸及び3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などの芳香族カルボン酸化合物等を挙げられる。
【0032】
また、これらのプロトン供与体のうち、潜伏性触媒におけるシリケートアニオンの安定性の観点から、前記一般式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物がより好ましい。
【0033】
一般式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物において、Ar1は、それぞれ、置換若しくは無置換の芳香環又は複素環を有する有機基を表す。Ar1上の2つのOH基がプロトンを放出して形成される2つの酸素アニオンは、珪素原子と結合してキレート構造を形成し得るものである。
【0034】
このようなAr1の例としては、フェニレン基、ナフチレン基及びビフェニレン基などの芳香環を有する有機基、ピリジニル基及びキノキサリニル基などの複素環を有する有機基が挙げられる。これらの基においては、OH基を隣接位に有するものであり、前記ビフェニレン基においては、2,2’位に有するものを挙げることができる。Ar1としての置換芳香環又は置換複素環を有する有機基における置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等の脂肪族アルキル基、フェニル基等の芳香族基、メトキシ基及びエトキシ基等のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、水酸基、ハロゲン基などが挙げられる。
【0035】
一般式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物(HO−Ar1−OH)としては、例えば、カテコール、ピロガロール、没食子酸プロピル、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,2’−ビフェノール及びタンニン酸などの芳香環を有する有機基を有する芳香族ヒドロキシ化合物、2,3−ジヒドロキシピリジン及び2,3−ジヒドロキシキノキサリンなどの複素環を有する有機基を有するジヒドロキシ化合物が挙げられるが、これらの中でも、カテコール、2,2’−ビフェノール、1,2−ジヒドロキシナフタレン及び2,3−ジヒドロキシナフタレンが、潜伏性触媒におけるシリケートアニオンの安定性の面から、より好ましい。
【0036】
本発明に用いるトリアルコキシシラン化合物(B)としては、置換若しくは無置換の芳香環を有する基を有するトリアルコキシシラン化合物、置換若しくは無置換の脂肪族基を有するトリアルコキシシラン化合物及び置換若しくは無置換の複素環を有する基を有するトリアルコキシシラン化合物などが挙げられる。前記芳香環を有する基としては、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基、ベンジル基、メトキシフェニル基、トリル基、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、ニトロフェニル基、シアノフェニル基、アミノフェニル基、アミノフェノキシ基、N−フェニルアニリノ基、N−フェニルアニリノプロピル基、フェノキシプロピル基、フェニルエチニル基、インデニル基、ナフチル基及びビフェニル基などが挙げられ、前記脂肪族基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、グリシジルオキシプロピル基、メルカプトプロピル基、アミノプロピル基、アニリノプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、クロロプロピル基、シアノプロピル基、ジエチルアミノ基、ビニル基、アリル基、メタクリロキシメチル基、メタクリロキシプロピル基、ペンタジエニル基、ビシクロヘプチル基、ビシクロヘプテニル基及びエチニル基などが挙げられ、前記複素環を有する基としては、ピリジル基、ピロリニル基、イミダゾリル基、インドニル基、トリアゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、カルバゾリル基、トリアジニル基、ピペリジル基、キノリル基、モルホリニル基、フリル基、フルフリル基及びチエニル基などが挙げられる。これらの中でも、ビニル基、フェニル基、ナフチル基及びグリシジルオキシプロピル基が、潜伏性触媒におけるシリケートアニオンの安定性の観点から、より好ましい。
【0037】
このようなトリアルコキシシラン化合物(B)の具体例として、前記置換若しくは無置換の芳香環を有する基を有するトリアルコキシシラン化合物としては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン、1−ナフチルトリメトキシシラン及び(N−フェニルアミノプロピル)トリメトキシシラン等が挙げられ、前記置換若しくは無置換の脂肪族基を有するトリアルコキシシラン化合物としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン及び3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、前記置換若しくは無置換の複素環を有する基を有するトリアルコキシシラン化合物としては、2−(トリメトキシシリルエチル)ピリジン及びN−(3−トリメトキシシリルプロピル)ピロール等が挙げられる。なお、前記脂肪族基における置換基としては、グリシジル基、メルカプト基及びアミノ基などが挙げられ、前記芳香環、複素環における置換基としては、メチル基、エチル基、水酸基及びアミノ基などが挙げられる。
【0038】
本発明に用いる、第3級アミン化合物(C)としては、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン及びトリイソブチルアミン等の直鎖状脂肪族第3級アミン、ヘキサメチレンテトラミン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン及び1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン等の環状脂肪族第3級アミン、N,N’−ジメチルピペラジン、ピリジン、キノリン、ピラジン、ピリミジン、キノキサリン、フェナントロリン、N−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール及びN−メチルインドール等の複素環第3級アミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、2−ジメチルアミノメチルフェノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N−フェニルジベンジルアミン及びトリフェニルアミン等の芳香族基含有第3級アミンなどが挙げられ、これらの中でも、コスト面からトリエチルアミンやピリジンが好ましい。
【0039】
本発明に用いる、一般式(2)で表されるホスホニウム塩化合物(D)は、テトラ置換ホスホニウムカチオンとアニオンとの塩からなる第4級ホスホニウム塩化合物である。
【0040】
ここで、前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩化合物を構成するカチオン部において、リン原子に結合するR1、R2、R3及びR4は、それぞれ、置換若しくは無置換の芳香環又は複素環を有する有機基、或いは置換若しくは無置換の脂肪族基を示し、これらは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0041】
これらR1、R2、R3及びR4において、前記置換若しくは無置換の芳香環を有する有機基としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ヒドロキシナフチル基及びベンジル基などが挙げられ、前記置換若しくは無置換の複素環を有する有機基としては、フリル基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピペリジル基、インドリル基、モルフォリニル基、キノリル基、イソキノリル基、イミダゾリル基及びオキサゾリル基などが挙げられ、また、前記置換若しくは無置換の脂肪族基としては、メチル基、エチル基、n−ブチル基、n−オクチル基及びシクロヘキシル基等などの脂肪族基が挙げられる。これらの中でも、潜伏性触媒における反応活性やホスホニウムカチオンの安定性の点から、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基及びヒドロキシナフチル基などの置換若しくは無置換の芳香族基がより好ましい。
なお、置換基R1、R2、R3及びR4としての置換芳香環又は置換複素環を有する有機基及び置換脂肪族基における置換基としては、メチル基、エチル基及びプロピル基等の脂肪族基や、フェニル基等の芳香族基の、メトキシ基及びエトキシ基等のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、水酸基、ハロゲン基などが挙げられる。
【0042】
また、前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩化合物を構成するアニオン部において、X-は、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、又はプロトン供与性基がプロトンを1個放出してなる陰イオンであり、前記ハロゲン化物イオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオンなどが挙げられ、前記プロトン供与性基がプロトンを1個放出してなる陰イオンとしては、硫酸及び硝酸等の鉱酸の陰イオン、酢酸、安息香酸、ビフェニルカルボン酸及びナフタレンカルボン酸等の脂肪族又は芳香族カルボン酸のカルボキシラート陰イオン、フェノール類、ビスフェノール類、ビフェノール類及びヒドロキシナフタレン類のオキシ陰イオン、チオフェノール及びチオカテコール等のメルカプト化合物のチオラート陰イオン、トルエンスルホン酸及びトリフルオロメタンスルホン酸等の有機スルホン酸のスルホナート陰イオンなどが挙げられる。
【0043】
これらホスホニウム塩化合物の具体例としては、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、n−ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、3−ヒドロキシフェニルトリフェニルホスホニウムブロミド、2,5−ジヒドロキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド及びテトラキス(4−メチルフェニル)ホスホニウムブロミドなどのハロゲンアニオンを有する化合物、テトラブチルホスホニウムベンゾエートなどのカルボキシラートアニオンを有する化合物、テトラフェニルホスホニウム−ビスフェノール塩などのフェノラートアニオンを有する化合物などが挙げられる。
【0044】
また、これらのホスホニウム塩化合物のうち、潜伏性触媒における反応活性やホスホニウムカチオンの安定性の点から、前記一般式(4)で表される第4級ホスホニウム塩化合物である、テトラアリール置換ホスホニウム塩分子化合物がより好ましい。
【0045】
ここで、前記一般式(4)で表される第4級ホスホニウム塩化合物を構成するホスホニウムカチオン部において、フェニル基に結合する置換基、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ、水素原子、メチル基、メトキシ基及び水酸基から選択される1種を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、前記第4級ホスホニウム塩化合物を構成するアニオン部においてX-は、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、又はプロトン供与性基がプロトンを1個放出してなる陰イオンを表す。前記ハロゲン化物イオン及びプロトン供与性基がプロトンを1個放出してなる陰イオンは、式(2)で表されるホスホニウム塩を構成するアニオンにおけるものと同様のものを挙げることができる。
【0046】
これら第4級ホスホニウム塩化合物の具体例としては、3−ヒドロキシフェニルトリフェニルホスホニウムブロミド、2,5−ジヒドロキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラキス(4−メチルフェニル)ホスホニウムブロミド及びテトラフェニルホスホニウム−ビスフェノール塩などが挙げられる。
【0047】
ここで、本発明の潜伏性触媒の製造方法について説明する。
【0048】
本発明の潜伏性触媒の製造方法としては、前記一般式(1)で表されるプロトン供与体(A)と、前記トリアルコキシシラン化合物(B)と、前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩化合物(D)とを、第3級アミン化合物の存在下で反応させることにより製造できるが、例えば、前記一般式(1)で表されるプロトン供与体(A)の1種又は2種と、前記トリアルコキシシラン化合物(B)とを、アルコール等のこれらの化合物が可溶な有機溶媒中で混合し、更に前記第3級アミン化合物を直接添加して、前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩化合物を加えて混合する合成ルートによる方法を挙げることができる。また、本発明においては、前記プロトン供与体と前記トリアルコキシシラン化合物と前記ホスホニウム塩化合物とを、前記第3級アミン化合物の存在下で、混合して合成しても良い。
前記第3級アミン化合物は、予め有機溶媒に溶解した溶液を用いてもよく、また、前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩化合物は、固形で用いてもよく、予め有機溶媒に溶解して溶液として用いてもよい。かかる製造方法により得られるホスホニウムシリケ−ト触媒は、金属イオン性不純物を系内に混入することなく、高収率で合成することが可能である。
【0049】
上記の反応は、無溶媒下でも進行するが、反応の均一性、収率の観点から有機溶媒中で実施するのが好ましく、メタノール、エタノール及びプロパノール等の低沸点アルコール系溶媒中やアセトニトリル、テトラヒドロフラン等の低沸点極性溶媒中で実施することがより好ましい。
【0050】
上記の反応において、前記プロトン供与体(A)と、前記トリアルコキシシラン化合物(B)との仕込みモル比は、(A)/(B)=0.5〜5の範囲で反応させることが好ましいが、収率及び純度の観点から1.5〜2.5の範囲がより好ましい。前記プロトン供与体(A)と、前記第3級アミン化合物(C)との仕込みモル比は、(A)/(C)=0.5〜5の範囲で反応させることが好ましいが、収率及び純度の観点から1.5〜2.5の範囲がより好ましい。前記プロトン供与体(A)と、前記ホスホニウム塩化合物(D)とのモル比は、(A)/(D)=0.5〜5の範囲で反応させることが好ましいが、収率及び純度の観点から1.5〜2.5の範囲がより好ましい。
【0051】
上記の反応における反応温度は、室温下においても十分に進行するが、短時間で効率よく所望の潜伏性触媒を得るために、加熱反応を行うこともできる。
【0052】
上記の反応により得られる反応物は、メタノール及びエタノールなどのアルコール溶媒、ジエチルエーテル及びテトラヒドロフランなどのエーテル溶媒、n−ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒等で洗浄することにより、精製して純度を向上させることも可能である。
【0053】
なお、本発明の潜伏性触媒の製造方法は、上記の合成反応ルートが一般的であるが、これらに何ら限定されるものではない。
【0054】
上記の製造方法により得られる潜伏性触媒としては、一般式(5)で表される、ホスホニウムシリケート化合物であることが好ましい。
【0055】
ここで、前記一般式(5)で表されるホスホニウムシリケート化合物を構成するカチオン部において、燐原子に結合するR9、R10、R11及びR12は、それぞれ、置換若しくは無置換の芳香環又は複素環を有する有機基、或いは置換若しくは無置換の脂肪族基を示し、これらは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0056】
これらR9、R10、R11及びR12としては、前記一般式(2)におけるR1、R2、R3及びR4と同様のものを挙げることができ、潜伏性触媒における反応活性やホスホニウムカチオンの安定性の点から、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基及びヒドロキシナフチル基などの置換若しくは無置換の芳香環を有する有機基がより好ましい。
【0057】
また、前記一般式(5)で表されるホスホニウムシリケート化合物を構成するシリケートアニオンにおいて、Y3及びY4はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内のY3、及びY4が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。Y5及びY6はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内のY5、及びY6が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。Y3、Y4、Y5及びY6は互いに同一であっても異なっていてもよい。Z2は、Y3及びY4と結合する有機基であり、Z3は、Y5及びY6と結合する有機基である。
上記Y3、Y4、Y5及びY6としては、前記一般式(1)で表されるプロトン供与体におけるY1及びY2と同様のものを挙げることができ、上記Z2及びZ3は、前記一般式(1)で表されるプロトン供与体におけるZ1と同様のものを挙げることができる。
【0058】
このような一般式(5)で表されるホスホニウムシリケート化合物を構成するシリケートアニオンにおけるY324及びY536で表される基としては、プロトン供与性基を有する化合物(HY324H及びHY536H)が、プロトンを放出してなる基であり、これらは、前記一般式(1)で表されるプロトン供与性基を有する化合物(HY112H)におけるプロトン(H)を放出してなる基と同様のものを挙げることができ、これらの中でも、カテコール、1,2−ジヒドロキシナフタレン及び2,3−ジヒドロキシナフタレン、がプロトンを放出してなる基が、潜伏性触媒におけるシリケートアニオンの安定性の面から、より好ましい。
【0059】
また、一般式(5)で表されるホスホニウムシリケート化合物を構成するシリケートアニオンにおけるA1は、置換もしくは無置換の芳香環又は複素環を有する有機基、あるいは置換もしくは無置換の脂肪族基を表し、これらの具体例としては、前記トリアルコキシシラン化合物(B)における置換若しくは無置換の芳香環を有する基、置換若しくは無置換の脂肪族基及び置換若しくは無置換の複素環を有する基と同様のものを挙げることができ、これらの中でも、ビニル基、フェニル基、ナフチル基及びグリシジルオキシプロピル基が、潜伏性触媒におけるシリケートアニオンの安定性の面から、より好ましい。
【0060】
上記の製造方法により得られる潜伏性触媒としては、一般式(6)で表される、ホスホニウムシリケート化合物であることがさらに好ましい。
【0061】
ここで、前記一般式(6)で表されるホスホニウムシリケート化合物を構成するカチオン部において、フェニル基に結合する置換基、R13、R14、R15及びR16は、前記一般式(4)で表される第4級ホスホニウム塩化合物を構成するホスホニウムカチオン部において、フェニル基に結合する置換基、R5、R6、R7及びR8と、同様のものを挙げることができる。
【0062】
また、前記一般式(6)で表されるホスホニウムシリケート化合物を構成するシリケートアニオン部において、Ar2は、それぞれ、置換若しくは無置換の芳香環又は複素環を有する有機基を表す。Ar2上の2つのOH基がプロトンを放出して形成される2つの酸素原子は、珪素原子と結合してキレート構造を形成し得るものである。
上記Ar2としては、一般式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物におけるAr1と同様のものを挙げることができる。
【0063】
このような一般式(6)で表されるホスホニウムシリケート化合物におけるO−Ar2−Oで示される基は、プロトン供与性基を有する化合物が、プロトンを放出してなる基であり、このような一般式(6)で表されるホスホニウムシリケート化合物におけるO−Ar2−Oで示される基は、プロトン供与性基を有する化合物が、プロトンを放出してなる基であり、前記一般式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物(HO−Ar1−OH)がプロトンを放出してなる基と同様のものを挙げることができ、これらの中でも、カテコール、1,2−ジヒドロキシナフタレン及び2,3−ジヒドロキシナフタレンがプロトンを放出してなる基が、潜伏性触媒におけるシリケートアニオンの安定性の観点から、より好ましい。
【0064】
また、一般式(6)で表されるホスホニウムシリケート化合物を構成するシリケートアニオンにおけるA2は、置換もしくは無置換の芳香環又は複素環を有する有機基、あるいは置換もしくは無置換の脂肪族基を表し、これらの具体的な例としては前記トリアルコキシシラン化合物(B)における、置換若しくは無置換の芳香環を有する基、置換若しくは無置換の脂肪族基及び置換若しくは無置換の複素環を有する基と同様のものを挙げることができ、これらの中でも、ビニル基、フェニル基、ナフチル基及びグリシジルオキシプロピル基が、潜伏性触媒におけるシリケートアニオンの安定性の観点から、より好ましい。
【0065】
以下、本発明で得られた潜伏性触媒を用いたエポキシ樹脂組成物について説明する。
【0066】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、1分子内にエポキシ基を2個以上有する化合物(E)と、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(F)と、上記で得られた潜伏性触媒(G)とを含むものであり、さらに任意に、無機充填材(H)を含んでも良い。
【0067】
本発明に用いる1分子内にエポキシ基を2個以上有する化合物(E)としては、1分子内にエポキシ基を2個以上有するものであれば、何ら制限はない。そのような化合物(E)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及び臭素化ビスフェノール型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼン型エポキシ樹脂など;、さらには、フェノール類やフェノール樹脂やナフトール類などの水酸基にエピクロロヒドリンを反応させて製造するエポキシ化合物、オレフィンを過酸により酸化させエポキシ化したエポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂及びグリシジルアミン型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
本発明に用いる1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(F)は、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するものであり、前記化合物(E)の硬化剤として作用(機能)するものである。そのような化合物(F)としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂、トリスフェノール樹脂、キシリレン変性ノボラック樹脂、テルペン変性ノボラック樹脂及びジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂などが挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
前記任意に用いる無機充填材(H)としては、本発明のエポキシ樹脂組成物を半導体素子などの電子部品の封止などに用いる場合、得られる半導体装置の耐半田性向上などを目的として、エポキシ樹脂組成物中に配合(混合)されるものであり、その種類については、特に制限はなく、一般に封止材料に用いられているものを使用することができる。
【0070】
本発明により得られる潜伏性触媒を含むエポキシ樹脂組成物において、潜伏性触媒(G)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、樹脂成分に対して0.01〜20重量%程度であるのが好ましく、0.1〜10重量%程度であるのが、より好ましい。これにより、エポキシ樹脂組成物の硬化性、保存性、流動性及び硬化物特性がバランスよく発現する。
【0071】
また、前記1分子内にエポキシ基を2個以上有する化合物(E)と、前記1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(F)との配合比率も、特に限定されないが、前記化合物(E)のエポキシ基1モルに対し、前記化合物(F)のフェノール性水酸基が0.5〜2モル程度となるように用いるのが好ましく、0.7〜1.5モル程度となるように用いるのが、より好ましい。これにより、エポキシ樹脂組成物の諸特性のバランスを好適なものに維持しつつ、諸特性が、より向上する。
【0072】
また、無機充填材(H)の含有量(配合量)は、特に限定されないが、前記化合物(E)と前記化合物(F)との合計量100重量部あたり、200〜2400重量部程度であるのが好ましく、400〜1400重量部程度であるのが、より好ましい。無機充填材(H)の含有量は、前記範囲外でも使用できるが、前記下限値未満の場合、無機充填材(H)による補強効果が充分に発現しないおそれがあり、一方、無機充填材(H)の含有量が前記上限値を超えた場合、エポキシ樹脂組成物の流動性が低下し、エポキシ樹脂組成物の成形時(例えば半導体装置の製造時等)に、充填不良等が生じるおそれがある。
【0073】
なお、無機充填材(H)の含有量(配合量)が、前記化合物(E)と前記化合物(F)との合計量100重量部あたり、400〜1400重量部であれば、エポキシ樹脂組成物の硬化物の吸湿率がより低くなり、半田クラックの発生を防止することができるので、より好ましい。かかるエポキシ樹脂組成物は、加熱溶融時の流動性も良好であるため、半導体装置内部の金線変形を引き起こすことが好適に防止される。
【0074】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物中には、前記1分子内にエポキシ基を2個以上有する化合物(E)、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(F)、上記で得られた潜伏性触媒(G)、さらに任意に、無機充填材(H)の他に、必要に応じて、例えば、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン及びフェニルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン類やチタネートエステル類及びアルミナートエステル類に代表されるカップリング剤、カーボンブラック等の着色剤、臭素化エポキシ樹脂、酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛及びリン系化合物等の難燃剤、シリコーンオイル及びシリコーンゴム等の低応力成分、カルナバワックス等の天然ワックス、ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸やステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸、該高級脂肪酸の金属塩類及びパラフィン等の離型剤、マグネシウム、アルミニウム、チタン及びビスマス系等のイオンキャッチャー、酸化防止剤等の各種添加剤を配合(混合)するようにしてもよい。
【0075】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記成分、必要に応じて、その他の添加剤等を、ミキサーを用いて均一混合して得られ、さらには、常温で混合したものを、ロール、ニーダー、コニーダー及び二軸押出機等の混練機を用いて、加熱混練した後、冷却、粉砕することによっても得ることができる。また、上記で得たエポキシ樹脂組成物は、紛体である場合、使用にあたっての作業性を向上させるために、プレス等により加圧タブレット化して使用することもできる。
【0076】
本発明のエポキシ樹脂組成物の用い方としては、例えば、半導体素子等の各種の電子部品を封止し、半導体装置を製造する場合には、トランスファーモールド、コンプレッションモールド及びインジェクションモールド等の従来からの成形方法により、硬化成形すればよい。
【実施例】
【0077】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
【0078】
(実施例1)
冷却管及び撹拌装置付きのセパラブルフラスコ(容量:500mL)に、2,3−ジヒドロキシナフタレン32.0g(0.20mol)、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン19.6g(0.10mol)、及びメタノール150mLを仕込み、攪拌下で均一溶解した。予めトリエチルアミン10.12g(0.10mol)を20mLのアセトニトリルに溶解した溶液を、攪拌下のフラスコ内に滴下し、次いでテトラフェニルホスホニウムブロミド41.9g(0.10mol)を、予め100mLのメタノールで溶解した溶液を、フラスコ内に徐々に滴下すると結晶が析出した。析出した結晶を、濾過、水洗及び真空乾燥することにより精製し化合物G1を得た。
化合物G1を、1H−NMR、マススペクトル、元素分析で分析した。分析結果より、得られた化合物G1は下記式(7)で表されるホスホニウムシリケートであることが確認された。得られた化合物G1の収率は、90%であった。
【0079】
【化7】

【0080】
(実施例2)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシランに代わり、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン23.6g(0.10mol)を用いた他は実施例1と同様に合成し、精製結晶として、化合物G2を得た。化合物G2を、1H−NMR、マススペクトル、元素分析で分析した。分析結果より、得られた化合物G2は下記式(8)で表されるホスホニウムシリケートであることが確認された。得られた化合物G2の収率は、88%であった。
【0081】
【化8】

【0082】
(実施例3)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシランに代わり、ビニルトリメトキシシラン14.8g(0.10mol)を用いた他は実施例1と同様に合成し、精製結晶として、化合物G3を得た。化合物G3を、1H−NMR、マススペクトル、元素分析で分析した。分析結果より、得られた化合物G3は下記式(9)で表されるホスホニウムシリケートであることが確認された。得られた化合物G3の収率は、91%であった。
【0083】
【化9】

【0084】
(実施例4)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシランに代わり、フェニルトリメトキシシラン19.8g(0.10mol)、トリエチルアミンに代わり、トリ−n−ブチルアミン18.5g(0.10mol)を用いた他は実施例1と同様に合成し、精製結晶として、化合物G4を得た。化合物G4を、1H−NMR、マススペクトル、元素分析で分析した。分析結果より、得られた化合物G4は下記式(10)で表されるホスホニウムシリケートであることが確認された。得られた化合物G4の収率は、93%であった。
【0085】
【化10】

【0086】
(実施例5)
テトラフェニルホスホニウムブロミドに代わり、n−ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド39.9g(0.10mol)を用いた他は実施例4と同様に合成し、精製結晶として、化合物G5を得た。化合物G5を、1H−NMR、マススペクトル、元素分析で分析した。分析結果より、得られた化合物G5は下記式(11)で表されるホスホニウムシリケートであることが確認された。得られた化合物G5の収率は、90%であった。
【0087】
【化11】

【0088】
(実施例6)
テトラフェニルホスホニウムブロミドに代わり、2,5−ジドロキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロリド40.7g(0.10mol)を用いた他は実施例4と同様に合成し、精製結晶として、化合物G6を得た。化合物G6を、1H−NMR、マススペクトル、元素分析で分析した。分析結果より、得られた化合物G6は下記式(12)で表されるホスホニウムシリケートであることが確認された。得られた化合物G6の収率は、86%であった。
【0089】
【化12】

【0090】
(実施例7)
2,3−ジヒドロキシナフタレンに代わり、カテコール22.0g(0.20mol)、トリ−n−ブチルアミンに代わり、N,N−ジメチルベンジルアミン13.5g(0.10mol)を用いた他は実施例4と同様に合成し、精製結晶として、化合物G7を得た。化合物G7を、1H−NMR、マススペクトル、元素分析で分析した。分析結果より、得られた化合物G7は下記式(13)で表されるホスホニウムシリケートであることが確認された。得られた化合物G7の収率は、88%であった。
【0091】
【化13】

【0092】
(実施例8)
フェニルトリメトキシシランに代わり、1−ナフチルトリメトキシシラン24.8g(0.10mol)、N,N−ジメチルベンジルアミンに代わり、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン15.2g(0.10mol)を用いた他は実施例7と同様に合成し、精製結晶として、化合物G8を得た。化合物G8を、1H−NMR、マススペクトル、元素分析で分析した。分析結果より、得られた化合物G8は下記式(14)で表されるホスホニウムシリケートであることが確認された。得られた化合物G8の収率は、89%であった。
【0093】
【化14】

【0094】
(比較例1)
冷却管及び撹拌装置付きのセパラブルフラスコ(容量:500mL)に、2,3−ジヒドロキシナフタレン32.0g(0.20mol)、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン19.6g(0.10mol)、及びメタノール150mLを仕込み、攪拌下で均一溶解した。予め水酸化ナトリウム4.00g(0.10mol)を20mLの純水に溶解した溶液を、攪拌下のフラスコ内に滴下し、次いでテトラフェニルホスホニウムブロミド41.9g(0.10mol)を予め100mLのエタノールで溶解した溶液を、フラスコ内に徐々に滴下すると結晶が析出した。析出した結晶を濾過、水洗、真空乾燥することにより精製し、結晶を得た。
上記生成物を、1H−NMR、マススペクトル、元素分析で分析した。分析結果より、得られた生成物は、実施例1で得られた式(7)で表されるホスホニウムシリケートと同様の構造であることが確認された。得られた生成物の収率は、74%であった。
【0095】
(比較例2)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシランに代わり、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン23.6g(0.10mol)を用いた他は比較例1と同様に合成し、精製結晶を得た。
上記生成物を、1H−NMR、マススペクトル、元素分析で分析した。分析結果より、得られた生成物は、実施例2で得られた式(8)で表されるホスホニウムシリケートと同様の構造であることが確認された。得られた生成物の収率は、72%であった。
【0096】
(比較例3)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシランに代わり、フェニルトリメトキシシラン19.8g(0.10mol)を用いた他は比較例1と同様に合成し、精製結晶を得た。
上記生成物を、1H−NMR、マススペクトル、元素分析で分析した。分析結果より、得られた生成物は、実施例4で得られた式(10)で表されるホスホニウムシリケートと同様の構造であることが確認された。得られた生成物の収率は、79%であった。
【0097】
(比較例4)
テトラフェニルホスホニウムブロミドに代わり、3−ヒドロキシフェニルトリフェニルホスホニウムブロミド43.5g(0.10mol)を用いた他は比較例3と同様に合成し、精製結晶を得た。
上記生成物を、1H−NMR、マススペクトル、元素分析で分析した。分析結果より、得られた生成物は、実施例5で得られた式(11)で表されるホスホニウムシリケートと同様の構造であることが確認された。得られた生成物の収率は、78%であった。
【0098】
実施例1〜8及び比較例1〜4の合成結果及び分析結果を表1及び表2にまとめた。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
実施例1〜8では、いずれも収率が85%以上の良好な結果が得られた。一方、比較例1〜4では、いずれも収率は80%以下であり、実施例に比べて低収率の結果となった。比較例では、中和アルカリ種として水酸化ナトリウム水溶液を使用しているため、反応成分のトリアルコキシシランが、水酸化ナトリウム水溶液中の水分とアルカリ条件下で接触することにより、加水分解反応、縮合反応が起こり、目的物の収率が相対的に低下し好ましくない。
【0102】
また、実施例1〜8では、いずれも合成したホスホニウムシリケート中のNaイオン濃度が5ppm以下であるのに対して、比較例1〜4では、いずれも20ppm以上の値となり、不純物としてNaイオンがより多く混入しており好ましくない。
【0103】
[エポキシ樹脂組成物の調製及び半導体装置の製造]
以下のようにして、前記化合物G1〜G8を含むエポキシ樹脂組成物を調製し、半導体装置を製造した。
【0104】
(実施例9)
まず、化合物(E)としてビフェニル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製YX−4000HK)、化合物(F)としてフェノールアラルキル樹脂(三井化学(株)製XLC−LL)、潜伏性触媒(G)として化合物G1、無機充填材(H)として溶融球状シリカ(平均粒径15μm)、その他の添加剤としてカーボンブラック、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びカルナバワックスを、それぞれ用意した。
【0105】
次に、前記ビフェニル型エポキシ樹脂:52重量部、前記フェノールアラルキル樹脂:48重量部、化合物G1:3.79重量部、溶融球状シリカ:730重量部、カーボンブラック:2重量部、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂:2重量部、カルナバワックス:2重量部を、まず室温で混合し、次いで熱ロールを用いて95℃で8分間混練した後、冷却粉砕して、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得た。
【0106】
次に、このエポキシ樹脂組成物をモールド樹脂として用い、100ピンTQFPのパッケージ(半導体装置)を8個、及び、16ピンDIPのパッケージ(半導体装置)を15個、それぞれ製造した。
【0107】
100ピンTQFPは、金型温度175℃、注入圧力7.4MPa、硬化時間2分でトランスファーモールド成形し、175℃、8時間で後硬化させることにより製造した。
【0108】
なお、この100ピンTQFPのパッケージサイズは、14×14mm、厚み1.4mm、シリコンチップ(半導体素子)サイズは、8.0×8.0mm、リードフレームは、42アロイ製とした。
【0109】
また、16ピンDIPは、金型温度175℃、注入圧力6.8MPa、硬化時間2分でトランスファーモールド成形し、175℃、8時間で後硬化させることにより製造した。
【0110】
なお、この16ピンDIPのパッケージサイズは、6.4×19.8mm、厚み3.5mm、シリコンチップ(半導体素子)サイズは、3.5×3.5mm、リードフレームは、42アロイ製とした。
【0111】
(実施例10)
まず、化合物(E)としてビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製NC−3000)、化合物(F)としてビフェニルアラルキル型フェノール樹脂(明和化成(株)製MEH−7851SS)、潜伏性触媒(G)として化合物G1、無機充填材(H)として溶融球状シリカ(平均粒径15μm)、その他の添加剤としてカーボンブラック、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びカルナバワックスを、それぞれ用意した。
【0112】
次に、前記ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂:57重量部、前記ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂:43重量部、化合物G1:3.79重量部、溶融球状シリカ:650重量部、カーボンブラック:2重量部、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂:2重量部、カルナバワックス:2重量部を、まず室温で混合し、次いで熱ロールを用いて105℃で8分間混練した後、冷却粉砕して、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得た。
【0113】
次に、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例9と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0114】
(実施例11)
化合物G1に代わり、化合物G2:3.99重量部を用いた以外は、前記実施例9と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例9と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0115】
(実施例12)
化合物G1に代わり、化合物G2:3.99重量部を用いた以外は、前記実施例10と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例10と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0116】
(実施例13)
化合物G1に代わり、化合物G3:3.55重量部を用いた以外は、前記実施例9と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例9と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0117】
(実施例14)
化合物G1に代わり、化合物G3:3.55重量部を用いた以外は、前記実施例10と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例10と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0118】
(実施例15)
化合物G1に代わり、化合物G4:3.80重量部を用いた以外は、前記実施例9と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例9と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0119】
(実施例16)
化合物G1に代わり、化合物G4:3.80重量部を用いた以外は、前記実施例10と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例10と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0120】
(実施例17)
化合物G1に代わり、化合物G5:3.88重量部を用いた以外は、前記実施例9と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例9と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0121】
(実施例18)
化合物G1に代わり、化合物G5:3.88重量部を用いた以外は、前記実施例10と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例10と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0122】
(実施例19)
化合物G1に代わり、化合物G6:3.96重量部を用いた以外は、前記実施例9と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例9と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0123】
(実施例20)
化合物G1に代わり、化合物G6:3.96重量部を用いた以外は、前記実施例10と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例10と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0124】
(実施例21)
化合物G1に代わり、化合物G7:3.30重量部を用いた以外は、前記実施例9と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例9と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0125】
(実施例22)
化合物G1に代わり、化合物G7:3.30重量部を用いた以外は、前記実施例10と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例10と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0126】
(実施例23)
化合物G1に代わり、化合物G8:3.55重量部を用いた以外は、前記実施例9と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例9と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0127】
(実施例24)
化合物G1に代わり、化合物G8:3.55重量部を用いた以外は、前記実施例10と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例10と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0128】
(比較例5)
化合物G1に代わり、トリフェニルホスフィン:1.31重量部を用いた以外は、前記実施例9と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例9と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0129】
(比較例6)
化合物G1に代わり、トリフェニルホスフィン:1.31重量部を用いた以外は、前記実施例10と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例10と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0130】
(比較例7)
化合物G1に代わり、トリフェニルホスフィン−ベンゾキノン付加物:1.85重量部を用いた以外は、前記実施例9と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例9と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0131】
(比較例8)
化合物G1に代わり、トリフェニルホスフィン−ベンゾキノン付加物:1.85重量部を用いた以外は、前記実施例10と同様にして、エポキシ樹脂組成物(熱硬化性樹脂組成物)を得、このエポキシ樹脂組成物を用いて、前記実施例10と同様にしてパッケージ(半導体装置)を製造した。
【0132】
[特性評価]
各実施例及び各比較例で得られたエポキシ樹脂組成物の特性評価(1)〜(3)、及び、各実施例及び各比較例で得られた半導体装置の特性評価(4)及び(5)を、それぞれ、以下のようにして行った。
【0133】
(1):スパイラルフロー
EMMI−I−66に準じたスパイラルフロー測定用の金型を用い、金型温度175℃、注入圧力6.8MPa、硬化時間2分で測定した。
【0134】
このスパイラルフローは、流動性のパラメータであり、数値が大きい程、流動性が良好であることを示す。
【0135】
(2):硬化トルク
キュラストメーター(オリエンテック(株)製、JSRキュラストメーターIV PS型)を用い、175℃、45秒後のトルクを測定した。
この硬化トルクは、数値が大きい程、硬化性が良好であることを示す。
【0136】
(3):フロー残存率
得られたエポキシ樹脂組成物を、大気中30℃で1週間保存した後、前記(1)と同様にしてスパイラルフローを測定し、調製直後のスパイラルフローに対する百分率(%)を求めた。
このフロー残存率は、数値が大きい程、保存性が良好であることを示す。
【0137】
(4):耐半田クラック性
100ピンTQFPを85℃、相対湿度85%の環境下で168時間放置し、その後、260℃の半田槽に10秒間浸漬した。
【0138】
その後、顕微鏡下に、外部クラックの発生の有無を観察し、クラック発生率=(クラックが発生したパッケージ数)/(全パッケージ数)×100として、百分率(%)で表示した。
【0139】
また、シリコンチップとエポキシ樹脂組成物の硬化物との剥離面積の割合を、超音波探傷装置を用いて測定し、剥離率=(剥離面積)/(シリコンチップの面積)×100として、10個のパッケージの平均値を求め、百分率(%)で表示した。
【0140】
これらのクラック発生率及び剥離率は、それぞれ、数値が小さい程、耐半田クラック性が良好であることを示す。
【0141】
(5):耐湿信頼性
16ピンDIPに、125℃、相対湿度100%の水蒸気中で、20Vの電圧を印加し、断線不良を調べた。15個のパッケージのうち8個以上に不良が出るまでの時間を不良時間とした。
【0142】
なお、測定時間は、最長で500時間とし、その時点で不良パッケージ数が8個未満であったものは、不良時間を500時間超(>500)と示す。
この不良時間は、数値が大きい程、耐湿信頼性に優れることを示す。
各特性評価(1)〜(5)の結果を、表3及び表4に示す。
【0143】
【表3】

【0144】
【表4】

【0145】
表2に示すように、実施例9〜24で得られたエポキシ樹脂組成物(本発明により得られる潜伏性触媒を含むエポキシ樹脂組成物)は、いずれも、硬化性、流動性及び保存性が良好であり、さらに、この硬化物で封止された各実施例のパッケージ(本発明の半導体装置)は、いずれも、耐半田クラック性及び耐湿信頼性が良好なものであった。
【0146】
これに対し、比較例5〜8で得られたエポキシ樹脂組成物は、いずれも、保存性及び流動性に劣り、これらの比較例で得られたパッケージは、相対的に、耐半田クラック性及び耐湿信頼性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明によれば、高収率で副生物の混入なく、常温においては触媒作用を発現することなく、長期に渡り樹脂組成物を安定に保存可能で、成形温度で優れた触媒作用を発現する潜伏性触媒を製造することができる。このような潜伏性触媒を含むエポキシ樹脂組成物は半導体素子などの電子部品の封止に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】実施例における反応物G5の1H−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるプロトン供与体(A)と、トリアルコキシシラン化合物(B)と、一般式(2)で表されるホスホニウム塩化合物(D)とを反応させてホスホニウムシリケート潜伏性触媒を製造する方法であって、第3級アミン化合物(C)の共存下で、反応させることを特徴とする、ホスホニウムシリケート潜伏性触媒の製造方法。
【化1】

[式中、Y1及びY2は、それぞれ、プロトン供与性基がプロトンを1個放出してなる基を示し、互いに同一であっても異なっていても良い。Z1は、プロトン供与性基であるY1H及びY2Hと結合する置換もしくは無置換の有機基を示し、同一分子内の2つの基Y1及びY2は、珪素原子と結合してキレート構造を形成し得るものである。]
【化2】

[式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ、置換若しくは無置換の芳香環又は複素環を有する有機基、或いは置換若しくは無置換の脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。式中X-は、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、又はプロトン供与性基がプロトンを1個放出してなる陰イオンを表す。]
【請求項2】
前記ホスホニウムシリケート潜伏性触媒の製造方法において、予め、一般式(1)で表されるプロトン供与体(A)、前記トリアルコキシシラン化合物(B)とを、第3級アミン化合物(C)の共存下で、反応させる、請求項1に記載のホスホニウムシリケート潜伏性触媒の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)で表されるプロトン供与体(A)が、一般式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物である、請求項1又は2に記載のホスホニウムシリケート潜伏性触媒の製造方法。
【化3】

[式中、Ar1は、置換若しくは無置換の芳香環又は複素環を有する有機基を表す。該有機基Ar1上の2つのOH基がプロトンを放出して形成される2つの酸素アニオンは、珪素原子と結合してキレート構造を形成し得るものである。]
【請求項4】
一般式(2)で表されるホスホニウム塩化合物が、一般式(4)で表される第4級ホスホニウム塩化合物である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のホスホニウムシリケート潜伏性触媒の製造方法。
【化4】

[式中、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ、水素原子、メチル基、メトキシ基及び水酸基から選択される1種を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。式中X-は、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、又はプロトン供与性基がプロトンを1個放出してなる陰イオンを表す。]
【請求項5】
ホスホニウムシリケート潜伏性触媒が、一般式(5)で表されるホスホニウムシリケート化合物である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のホスホニウムシリケート潜伏性触媒の製造方法。
【化5】

[式中、R9、R10、R11及びR12は、それぞれ、置換もしくは無置換の芳香環又は複素環を有する有機基、或いは置換若しくは無置換の脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。Y3、Y4、Y5及びY6は、それぞれ、プロトン供与性基がプロトンを1個放出してなる基を示す。Z2は、Y3及びY4と結合する置換もしくは無置換の有機基を示し、同一分子内の2つの基Y3及びY4は、珪素原子と結合してキレート構造を形成し得るものである。Z3は、Y5及びY6と結合する置換若しくは無置換の有機基を表し、同一分子内の2つの基Y5及びY6は、珪素原子と結合してキレート構造を形成し得るものである。A1は有機基を表す。]
【請求項6】
ホスホニウムシリケート潜伏性触媒が、一般式(6)で表されるホスホニウムシリケート化合物である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のホスホニウムシリケート潜伏性触媒の製造方法。
【化6】

[式中、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ、水素原子、メチル基、メトキシ基及び水酸基から選択される1種を示し、互いに同一であっても異なっていてもよい。Ar2は、置換もしくは無置換の芳香環又は複素環を有する有機基を表す。該有機基Ar2上の2つのOH基がプロトンを放出して形成される2つの酸素アニオンは、珪素原子と結合してキレート構造を形成し得るものである。A2は有機基を表す。]
【請求項7】
1分子内にエポキシ基を2個以上有する化合物と、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物と、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製造方法により得られるホスホニウムシリケート潜伏性触媒とを含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−246671(P2007−246671A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71601(P2006−71601)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】