説明

潤滑剤組成物及び転動装置

【課題】転動装置に優れた耐焼付き性,耐摩耗性,及び耐久性を付与することが可能な潤滑剤組成物を提供する。また、優れた耐焼付き性,耐摩耗性,及び耐久性を有する転動装置を提供する。
【解決手段】微粒子が内包されたマイクロカプセルを含有する潤滑剤組成物により、深溝玉軸受の両軌道面1a,2aと転動体3との間の潤滑が行われている。この微粒子は、軌道面1a,軌道面2a,及び転動体3の転動面3aのうち少なくともひとつに付着しやすい性質を有する吸着性樹脂で覆われている。また、潤滑剤組成物中のマイクロカプセルの含有量は0.01質量%以上20質量%以下であり、マイクロカプセルの粒径は0.02μm以上10μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑剤組成物に関する。また、本発明は、転がり軸受,リニアガイド装置,ボールねじ,直動ベアリング等の転動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種回転機器等は、小型軽量化や高速化に伴って、高温,高荷重,高速という過酷な条件で使用される場合が多くなっている。また、メンテナンスフリー化の要望も一層強くなっている。このため、各種回転機器等に使用される潤滑剤(潤滑油,グリース)には、より高性能なものが望まれていた。
【特許文献1】特開2005−8744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、例えば特許文献1のような従来の潤滑剤は、前述のような過酷な条件で使用されると、耐焼付き性,耐摩耗性,又は耐久性が不十分となる場合があった。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、転動装置に優れた耐焼付き性,耐摩耗性,及び耐久性を付与することが可能な潤滑剤組成物を提供することを課題とする。また、優れた耐焼付き性,耐摩耗性,及び耐久性を有する転動装置を提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の潤滑剤組成物は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転動装置の潤滑に使用され、微粒子を内包するマイクロカプセルを含有する潤滑剤組成物において、前記微粒子は、前記内方部材の軌道面,前記外方部材の軌道面,及び前記転動体の転動面のうち少なくともひとつに付着しやすい性質を有する吸着性樹脂で覆われていることを特徴とする。
【0005】
このような構成であれば、転動装置の負荷圏(軌道面と転動体との接触部)においてマイクロカプセルが物理的に破壊されることにより、微粒子が負荷圏へ確実に供給される。そして、軌道面や転動面に微粒子が付着して、微粒子膜が容易に形成される。このため、軌道面と転動体との直接接触が生じにくくなって、摩耗,焼付き等の損傷の発生が抑制される。負荷圏以外ではマイクロカプセルは破壊されないので、微粒子は負荷圏のみに確実に供給される。
【0006】
また、微粒子はマイクロカプセル内に隔離された状態で潤滑剤組成物に含有されているので、微粒子をそのまま潤滑剤組成物に添加した場合に生じる潤滑剤組成物の混和ちょう度の低下という不都合が生じにくい。マイクロカプセルは微粒子と比較して潤滑剤組成物との親和性が高いため、混和ちょう度に対する影響は少ない。
なお、吸着性樹脂は、内方部材の軌道面,外方部材の軌道面,及び転動体の転動面のうち少なくともひとつに付着しやすい性質を微粒子に付与するものであり、吸着性樹脂の被覆により、微粒子は吸着性樹脂で覆われていない状態よりも付着しやすくなる。
【0007】
また、本発明に係る請求項2の潤滑剤組成物は、請求項1に記載の潤滑剤組成物において、前記マイクロカプセルの含有量が0.01質量%以上20質量%以下であることを特徴とする。
潤滑剤組成物中のマイクロカプセルの含有量が0.01質量%未満であると、微粒子の量が不十分となって、前述の添加効果が十分に得られないおそれがある。一方、20質量%超過であると、マイクロカプセルの量が多すぎるため、潤滑剤組成物の潤滑性が不十分となるおそれがある。
【0008】
さらに、本発明に係る請求項3の潤滑剤組成物は、請求項1又は請求項2に記載の潤滑剤組成物において、前記マイクロカプセルの粒径が0.02μm以上10μm以下であることを特徴とする。
マイクロカプセルの粒径が0.02μm未満であると、転動装置の負荷圏において破壊されにくくなるため、前述した微粒子の添加効果が十分に得られないおそれがある。また、粒径が小さいため、潤滑剤組成物の混和ちょう度が低下する場合がある(マイクロカプセルが増ちょう作用を有してしまう)。一方、10μm超過であると、転動装置の負荷圏において異物として作用する場合がある。また、潤滑剤組成物への安定した分散が困難となったり、転動装置の負荷圏以外の部分においてマイクロカプセルが破壊される場合が多くなる。
【0009】
さらに、本発明に係る請求項4の潤滑剤組成物は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記両軌道面と前記転動体との間の潤滑を行う潤滑剤と、を備える転動装置において、前記潤滑剤が請求項1〜3のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物であることを特徴とする。
このような転動装置は、前述のような潤滑剤組成物で潤滑されているので、優れた耐焼付き性,耐摩耗性,及び耐久性を有している。
【0010】
なお、本発明は、転がり軸受,リニアガイド装置,ボールねじ,直動ベアリング等の種々の転動装置に適用可能である。
ここで、本発明における内方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には内輪、同じくボールねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には軸をそれぞれ意味する。また、外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には外輪、同じくボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の潤滑剤組成物は、転動装置に優れた耐焼付き性,耐摩耗性,及び耐久性を付与することが可能である。また、本発明の転動装置は、優れた耐焼付き性,耐摩耗性,及び耐久性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る潤滑剤組成物及び転動装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る転動装置の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す縦断面図である。この深溝玉軸受は、外周面に軌道面1aを有する内輪1と、軌道面1aに対向する軌道面2aを内周面に有する外輪2と、両軌道面1a,2a間に転動自在に配された複数の転動体(玉)3と、内輪1及び外輪2の間に複数の転動体3を保持する保持器4と、を備えている。そして、内輪1及び外輪2の間に形成され転動体3が内設された空隙部5内には、図示しない潤滑剤組成物が供給され、両軌道面1a,2aと転動体3との間の潤滑が行われるようになっている。なお、保持器4は備えていなくてもよい。
【0013】
この潤滑剤組成物は、基油と、微粒子を内包するマイクロカプセルと、を含有しており、この微粒子は、軌道面1a,軌道面2a,及び転動体3の転動面3aのうち少なくともひとつに付着しやすい性質を有する吸着性樹脂で覆われている。微粒子は通常はマイクロカプセル内に隔離されているが、潤滑剤組成物が深溝玉軸受の負荷圏(軌道面1a,2aと転動体3との接触部)に到達した際には、マイクロカプセルが物理的に破壊されて微粒子が放出され、負荷圏に供給されるようになっている。
【0014】
なお、潤滑剤組成物中のマイクロカプセルの含有量(内包されている微粒子の質量もマイクロカプセルの質量に含めて計算した含有量)は、0.01質量%以上20質量%以下である。マイクロカプセル全体の質量に対する微粒子の質量の割合は、1質量%以上90質量%以下が好ましい。また、マイクロカプセルの粒径は、0.02μm以上10μm以下である。さらに、潤滑剤組成物は、液体状の潤滑油でもよいし、半固体状のグリースでもよい。
【0015】
以下に、本実施形態の潤滑剤組成物について、詳細に説明する。
〔微粒子について〕
マイクロカプセルに内包される微粒子の種類は特に限定されるものではないが、安定性及び製造しやすさから考えると、ケイ素,マグネシウム,カルシウム,バリウム,イットリウム,チタン,ジルコニウム,バナジウム,ニオブ,クロム,モリブデン,タングステン,マンガン,コバルト,ニッケル,銅,亜鉛,アルミニウム,錫,鉛,アンチモン,ビスマスの中から選ばれる1種以上の金属元素を含む酸化物,窒化物,又は炭化物が好ましい。
【0016】
また、微粒子の粒径は、3nm以上1μm以下であることが好ましく、3nm以上100nm以下であることがより好ましい。1μm超過の微粒子は、砥粒として働き摩耗を促進するおそれがある。
微粒子の製造方法としては、公知のものを問題なく採用することが可能であり、ガス中蒸発法のような物理的方法や、沈殿法,加水分解法のような化学的方法があげられる。ガス中蒸発法とは、例えば、不活性ガス中に酸素ガスを少量混合した雰囲気中において、金属(例えばアルミニウム)からなる1対の電極間でアーク放電を発生させることにより、金属酸化物(例えばAl2 3 )の微粒子を生成させる方法である。また、加水分解法とは、例えば、金属アルコキシド,ミョウバン,金属の硫酸塩,金属の塩化物を加水分解することにより、金属酸化物の微粒子を生成させる方法である。
【0017】
〔吸着性樹脂について〕
吸着性樹脂の種類は、内輪の軌道面,外輪の軌道面,及び転動体の転動面のうち少なくともひとつに付着しやすい性質を微粒子に付与できるものであれば、特に限定されるものではなく、具体例としてはフェノール樹脂があげられる。吸着性樹脂を被覆することにより、微粒子は、被覆前よりも内方部材の軌道面,外方部材の軌道面,及び転動体の転動面のうち少なくともひとつに付着しやすくなる。
【0018】
〔マイクロカプセルについて〕
マイクロカプセルを構成する材料は特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂,熱硬化性樹脂等の樹脂を含有する樹脂組成物が好ましい。具体例としては、ポリウレタン系樹脂組成物,ポリエステル系樹脂組成物,ポリアミド系樹脂組成物,ポリウレア系樹脂組成物,フェノール系樹脂組成物,ポリビニルアルコール系樹脂組成物,メラミン系樹脂組成物等があげられる。なお、これらの樹脂は、内輪の軌道面,外輪の軌道面,及び転動体の転動面のうち少なくともひとつに付着しやすい性質を有する吸着性樹脂であることが特に好ましい。
【0019】
マイクロカプセルを製造する方法は特に限定されるものではなく、内包される微粒子の性質やマイクロカプセルを構成する材料の性質等を考慮して選択される。具体例としては、界面重合法,in situ重合法,相分離法,液中乾燥法,オリフィス法,スプレードライ法,気中懸濁被覆法,ハイブリダンザー法等があげられる。
均一な粒径を有するマイクロカプセルを製造するためには、マイクロカプセルの製造条件を適宜調整することが好ましいが、粒度分布を有するマイクロカプセルから、遠心分離法やフィルター法によって均一な粒径を有するマイクロカプセルを分離してもよい。
【0020】
〔基油について〕
潤滑剤組成物の基油の種類は特に限定されるものではなく、潤滑油,グリースの基油として一般的に使用されるものであるならば、問題なく使用可能である。
基油の具体例としては、鉱油,合成油,及び動植物油があげられる。鉱油としては、減圧蒸留,溶剤脱れき,溶剤抽出,水素化分解,溶剤脱ろう,硫酸洗浄,白土精製,水素化精製等を適宜組み合わせて、粘度指数が100以上となるように精製した鉱油が好ましい。そして、粘度指数が120以上となるように精製した、いわゆる高精製度鉱油がより好ましい。
【0021】
合成油としては、合成炭化水素油,エステル油,エーテル油,シリコーン油,フッ素油等があげられる。
合成炭化水素油としては、ノルマルパラフィン,イソパラフィン,ポリブテン,ポリイソブチレン,1−デセンオリゴマー,1−デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物などがあげられる。また、モノアルキルベンゼン,ジアルキルベンゼン,ポリアルキルベンゼン等のアルキルベンゼンや、モノアルキルナフタレン,ジアルキルナフタレン,ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレンなどもあげられる。
【0022】
また、エステル油としては、ジブチルセバケート,ジ(2−エチルヘキシル)セバケート,ジオクチルアジペート,ジイソデシルアジペート,ジトリデシルアジペート,ジトリデシルグルタレート,メチルアセチルリシノレート等のジエステル油、トリオクチルトリメリテート,トリデシルトリメリテート,テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、トリメチロールプロパンカプリレート,トリメチロールプロパンペラルゴネート,ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート,ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル油、一塩基酸及び二塩基酸の混合脂肪酸と多価アルコールとのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油などがあげられる。
【0023】
さらに、エーテル油としては、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリエチレングリコールモノエーテル,ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、モノアルキルトリフェニルエーテル,アルキルジフェニルエーテル,ジアルキルジフェニルエーテル,テトラフェニルエーテル,ペンタフェニルエーテル,モノアルキルテトラフェニルエーテル,ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油などがあげられる。
【0024】
上記以外の合成油としては、トリクレジルフォスフェート,パーフルオロアルキルエーテル油などがあげられる。
また、動植物油としては、牛脂,豚脂,大豆油,菜種油,米ぬか油,ヤシ油,パーム油,パーム核油等の油脂系油又はその水素化物などがあげられる。
これらの基油は、単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いても差し支えない。
【0025】
潤滑剤組成物が液体状の潤滑油である場合には、基油の40℃における動粘度は1mm2 /s以上400mm2 /s以下であることが好ましい。1mm2 /s未満では、蒸発等が多くなるので潤滑油の損耗が大であり、400mm2 /s超過では、基油のせん断抵抗が大きくなりすぎるので、転動装置用としては不向きとなる。
また、潤滑剤組成物が半固体状のグリースである場合には、グリースの混和ちょう度は150以上400以下であることが好ましく、その基油の40℃における動粘度は15mm2 /s以上400mm2 /s以下であることが好ましい。
【0026】
混和ちょう度が150未満であると、グリースが硬すぎて流動性に劣る。流動性に劣ると、グリースが必要な箇所に行き渡らないこととなるので、マイクロカプセルも該箇所に行き渡らず、微粒子の添加効果が不十分となる。一方、混和ちょう度が400を超えると流動性が過大となるため、必要な箇所からグリースが漏洩することとなって、微粒子の添加効果が不十分となる。
また、グリースの場合は製造工程で加熱することが多く、また、使用時においても連続的に供給されることは少ないので、ある程度の耐熱性が必要である。よって、基油の40℃における動粘度は15mm2 /s以上が好ましい。ただし、400mm2 /sを超えると、基油のせん断抵抗が大きくなりすぎるので、転動装置用としては不向きとなる。
【0027】
〔増ちょう剤について〕
潤滑剤組成物がグリースである場合には、増ちょう剤を使用する必要がある。増ちょう剤の種類は特に限定されるものではなく、用途や使用条件に応じて適宜選択することができる。
例えば、金属石けん(金属はアルミニウム,バリウム,カルシウム,リチウム,ナトリウム等)や金属複合石けん(金属はリチウム,カルシウム,アルミニウム等)があげられる。また、ウレア化合物(ジウレア,トリウレア,テトラウレア,ポリウレア等)、無機系化合物(シリカゲル,ベントナイト等)、ウレタン化合物、ウレア・ウレタン化合物、ナトリウムテレフタラメート化合物、フッ素樹脂等も使用できる。
【0028】
〔添加剤について〕
潤滑剤組成物には、潤滑剤に一般的に使用される各種添加剤を使用することができる。特に、極圧剤,酸化防止剤,防錆剤,金属腐食防止剤が好ましい。また、必要に応じて、泡立ち防止剤,着色剤,固体潤滑剤,流動点降下剤,粘度指数向上剤,清浄分散剤等を使用してもよい。これらの添加剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0029】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
例えば、本実施形態においては、転動装置の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
また、本発明は、転がり軸受に限らず、他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。
【0030】
〔実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
まず、マイクロカプセルの製造方法について説明する。微粒子として一次粒径13nmのコロイダルシリカを用い、吸着性樹脂としてフェノール樹脂を用いて、水中乾燥法により、フェノール樹脂が被覆されたコロイダルシリカを内包するマイクロカプセルを得た。この際、W/OエマルジョンのW分散濃度,撹拌速度,圧力により、マイクロカプセルの粒径を調節した。
このようにして得たマイクロカプセルを含有する種々のウレアグリースを調製した。そして、呼び番号6303DDの転がり軸受にウレアグリース1.5gを封入したものを用意して、回転試験を行い、その耐焼付き性及び耐摩耗性を評価した。
【0031】
〔耐焼付き性の評価方法について〕
ASTM D1741に規定された軸受寿命試験機に類似した試験機に、前述の転がり軸受を装着し、温度140℃、ラジアル荷重98N、回転速度20000min-1の条件で回転させた。そして、転がり軸受を回転させる駆動モーターが過負荷にて停止するか、軸受温度が155℃を超えるまでの時間を測定した。1種の転がり軸受につき10個ずつ回転試験を行って、その平均値を焼付き寿命とした。
【0032】
次に、耐焼付き性の評価に用いたウレアグリースについて説明する。ウレアグリースの基油は、40℃における動粘度が48mm2 /sの合成炭化水素油であり、増ちょう剤はウレア化合物である。そして、マイクロカプセルの含有量は、それぞれ0質量%、0.001質量%、0.01質量%、0.1質量%、1質量%、10質量%、20質量%、30質量%である。
【0033】
耐焼付き性の評価結果を、図2のグラフに示す。なお、このグラフに示した焼付き寿命の数値は、マイクロカプセルの含有量が0質量%であるウレアグリースを封入した転がり軸受の焼付き寿命を1とした場合の相対値で示してある。図2のグラフから分かるように、ウレアグリース中のマイクロカプセルの含有量が0.01質量%以上20質量%以下であると、転がり軸受の焼付き寿命が優れていた。
【0034】
〔耐摩耗性の評価方法について〕
前述の試験機に前述と同様の転がり軸受を装着し、温度160℃、ラジアル荷重1666N、アキシアル荷重490N、回転速度20000min-1の条件で回転させた。そして、200時間回転させた後に、グリース中の鉄の含有量を原子吸光分析により定量した。1種の試験軸受につき10個ずつ回転試験を行って、その平均値を摩耗量とした。
【0035】
次に、耐摩耗性の評価に用いたウレアグリースについて説明する。ウレアグリースの基油は、40℃における動粘度が100mm2 /sのエーテル油であり、増ちょう剤はウレア化合物である。そして、マイクロカプセルの含有量はいずれも1質量%であり、マイクロカプセルの粒径は、それぞれ0.02μm、0.1μm、1μm、10μm、20μmである。
【0036】
耐摩耗性の評価結果を、図3のグラフに示す。なお、このグラフに示した摩耗量の数値は、マイクロカプセルの含有量が0質量%であるウレアグリースを封入した転がり軸受の摩耗量を1とした場合の相対値で示してある。図3のグラフから分かるように、マイクロカプセルの粒径が0.02μm以上10μm以下であると、転がり軸受の摩耗量が少なかった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る転動装置の一実施形態である深溝玉軸受の構成を示す縦断面図である。
【図2】マイクロカプセルの含有量と焼付き寿命との相関を示すグラフである。
【図3】マイクロカプセルの粒径と摩耗量との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
1 内輪
1a 軌道面
2 外輪
2a 軌道面
3 転動体
3a 転動面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転動装置の潤滑に使用され、微粒子を内包するマイクロカプセルを含有する潤滑剤組成物において、
前記微粒子は、前記内方部材の軌道面,前記外方部材の軌道面,及び前記転動体の転動面のうち少なくともひとつに付着しやすい性質を有する吸着性樹脂で覆われていることを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記マイクロカプセルの含有量が0.01質量%以上20質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記マイクロカプセルの粒径が0.02μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記両軌道面と前記転動体との間の潤滑を行う潤滑剤と、を備える転動装置において、前記潤滑剤が請求項1〜3のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物であることを特徴とする転動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−233080(P2006−233080A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51135(P2005−51135)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】