説明

潤滑剤組成物

【課題】 高温での蒸発損失が少なく、かつ低温での潤滑性に優れた潤滑剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】 潤滑性基油の少なくとも一部がモノ4級化2,2'−ビイミダゾリウムカチオンもしくはジ4級化2,2'−ビイミダゾリウムカチオンおよびアニオンからなる凝固点の低いイオン性液体(AB)である潤滑剤組成物である。
そして、30℃で半固体状である潤滑剤組成物の場合は、固体潤滑剤および増ちょう剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑剤組成物に関する。詳しくは、イオン性液体を含有する潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、潤滑剤組成物としては鉱物油および合成潤滑油(エステル油、ポリα−オレフィン、フェニルエーテル油、パーフルオロアルキルエーテルなど)を基油したものが使用されている。ところが、従来の鉱物油および合成潤滑油では高温における蒸発損失と低温潤滑性を両立させることができなかった。
また、近年、電解液として開発されたイオン性液体は常温で液体の塩であり、蒸気圧をほとんどもたないことから、高温での蒸発損失および周囲への汚染のない潤滑剤組成物用基油として注目されている。例えば特許文献1には、イオン性液体を基油とした半固体状潤滑剤組成物が記載されている。
ところが、従来のイオン性液体は融点が比較的高く、低温では凝固するため、低温において十分な潤滑性が得られないなどの問題があった。
【特許文献1】特開2005−154755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、高温での蒸発損失が少なく、かつ低温での潤滑性に優れた潤滑剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のカチオンを有するイオン液体を基油の少なくとも一部として使用することにより、高温での蒸発損失が少なく、低温での潤滑性に優れた潤滑剤組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、潤滑性基油の少なくとも一部が一般式(1)もしくは一般式(2)で示される2,2'−ビイミダゾリウムカチオン(A)およびアニオン(B)からなるイオン性液体(AB)である潤滑剤組成物である。
【0005】
【化2】

【0006】
式中、R1〜R4は水素原子または総炭素数1〜36の1価の炭化水素基であって、該炭化水素基は水酸基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、アルキルアミノ基、アルキルエステル基、アルキルエーテル基およびハロゲン原子からなる群から選ばれる1種以上の置換基を有していてもよく、R1〜R4はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の潤滑剤組成物は、高温でも低蒸発性であり、凝固点が低く、良好な低温特性を示し、潤滑性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における「潤滑剤組成物」とは、摩擦面を潤滑し、機械効率の向上を図るために用いられる物質の総称であり、液体として使用される潤滑油組成物および半固体状として使用されるグリース組成物などが含まれる。
【0009】
本発明における「イオン性液体」とは、常温溶融塩と呼ばれる常温で液体の塩であり、様々なアニオンとカチオンの組み合わせが工夫され、グリーンケミストリーの溶剤、電池材料として注目を集めている。イオン性液体は蒸気圧がほとんどなく、熱安定性、酸化安定性に優れ、イオン伝導性が高く、比熱が大きいという特徴を持っている。
【0010】
本発明におけるイオン性液体(AB)は、カチオンが下記一般式(1)で示されるモノ4級化2,2'−ビイミダゾリウムカチオン(A1)または下記一般式(2)で表されるジ4級化2,2'−ビイミダゾリウムカチオン(A2)であることを特徴とする。
【0011】
【化3】

【0012】
式中、R1〜R4は水素原子または総炭素数1〜36の1価の炭化水素基であって、該炭化水素基は水酸基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、アルキルアミノ基、アルキルエステル基、アルキルエーテル基およびハロゲン原子からなる群から選ばれる1種以上の置換基を有していてもよく、R1〜R4はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0013】
炭化水素基としては、直鎖もしくは分岐のメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などの脂肪族炭化水素基、並びにフェニル基、ベンジル基、アルキルフェニル基などの芳香族炭化水素基が挙げられる。
水酸基を有している炭化水素基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、4−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシオクチル基などが挙げられる。
ニトロ基を有している炭化水素基としては、ニトロメチル基、2−ニトロエチル基などが挙げられる。
シアノ基を有している炭化水素基としては、シアノメチル基、2−シアノエチル基などが挙げられる。
カルボキシル基を有している炭化水素基としては、カルボキシメチル基、2−カルボキシエチル基などが挙げられる。
アルキルアミノ基を有している炭化水素基としては、メチルアミノオクチル基、エチルアミノデシル基などが挙げられる。
アルキルエーテル基を有している炭化水素基としては、メチルエーテル基、エチルエーテル基などが挙げられる。
ハロゲン原子を有している炭化水素基としては、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、4,4,4−トリフルオロブチル基などが挙げられる。
【0014】
1〜R4のうち好ましいのは低温での潤滑性の観点から、水素原子、置換基を有しない炭化水素基、およびハロゲン原子を有する炭化水素基であり、特に好ましいのは炭素数1〜4のアルキル基である。
【0015】
また、(A)のうち好ましいのは、低温での潤滑性の観点から(A1)である。
【0016】
(A1)の具体例としては、1,3,1'−トリメチル−2,2'−ビイミダゾリウムカチオン、1,3,1'−トリエチル−2,2'−ビイミダゾリウムカチオン、1,3,1'−トリプロピル−2,2'−ビイミダゾリウムカチオン、1,3,1'−トリブチル−2,2'−ビイミダゾリウムカチオン、1,3,1'−トリ(4,4,4−トリフルオロブチル)−2,2'−ビイミダゾリウムカチオン、1,1'−ジメチル−3−ブチル−2,2'−ビイミダゾリウムカチオン、1,1'−ジブチル−3−(4,4,4−トリフルオロブチル)−2,2'−ビイミダゾリウムカチオン、1,1'−ジメチル−3−(3,3,3−トリフルオロプロピル)−2,2'−ビイミダゾリウムカチオンなどが挙げられる。
【0017】
(A2)の具体例としては、1,3,1',3'−テトラメチル−2,2'−ビイミダゾリウムカチオン、1,3,1',3'−テトラエチル−2,2'−ビイミダゾリウムカチオン、1,3,1',3'−テトラプロピル−2,2'−ビイミダゾリウムカチオン、1,3,1',3'−テトラブチル−2,2'−ビイミダゾリウムカチオン、1,1'−ジメチル−3,3'−ジブチル−2,2'−ビイミダゾリウムカチオン、1,1'−ジブチル−3,3'−ジメチル−2,2'−ビイミダゾリウムカチオン、1,1'−ジブチル−3,3'−ジ(4,4,4−トリフルオロブチル)−2,2'−ビイミダゾリウムカチオン、1,1'−ジブチル−3,3'−ジ(3,3,3−トリフルオロプロピル)−2,2'−ビイミダゾリウムカチオンなどが挙げられる。
【0018】
本発明におけるイオン性液体(AB)を構成するアニオン(B)としては、一般にイオン性液体のアニオンとして知られている化合物が使用でき、例えば下記の無機酸、有機酸(カルボン酸、スルホン酸、フェノール類、リン酸エステルなど)に由来するアニオンが挙げられる。
【0019】
(1)無機酸
ヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、ヒ酸、ホウ酸、臭化水素、炭酸、シアン化水素、シアン酸、チオシアン酸、塩酸、クロロアルミナート、クロム酸、フッ化水素、フッ化水素酸、ヨウ化水素、硝酸、過酸化水素、リン酸、ホスホン酸、硫化水素、硫酸、亜硫酸、ケイ酸などが挙げられる。
【0020】
(2)有機酸
(2−1)炭素数1〜30のカルボン酸;
飽和および不飽和脂肪族カルボン酸としては、脂肪族1価カルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸などの飽和カルボン酸、アクリル酸、メタクリル酸、オレイン酸などの不飽和カルボン酸等)、脂肪族2価またはそれ以上のカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、プロパン−1,2,3−トリカルボン酸などの飽和カルボン酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸等)、オキシ脂肪族カルボン酸(グリコール酸、乳酸、酒石酸など)、およびチオ脂肪族カルボン酸(チオジプロピオン酸等)が挙げられる。
芳香族カルボン酸としては、芳香族1価カルボン酸(安息香酸、ケイ皮酸、ナフトエ酸等)、芳香族2価もしくはそれ以上のカルボン酸(フタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等)、およびオキシ芳香族カルボン酸(サリチル酸等)が挙げられる。
脂環式カルボン酸としては、ビシクロ[2,2,1]ヘプタ−2−エン−2,3−ジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプタ−2,5−ジエン−2,3−ジカルボン酸等が挙げられる。
ハロゲン化カルボン酸としてはトリフルオロ酢酸、パーフルオロエタンカルボン酸などが挙げられる。
(2−2)炭素数1〜30のスルホン酸;
飽和および不飽和脂肪族スルホン酸としては、脂肪族1価スルホン酸(メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸等)、脂肪族2価もしくはそれ以上のスルホン酸(メチオン酸、1,2−エタンジスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等)、オキシ脂肪族スルホン酸(イセチオン酸、3−オキシ−プロパンスルホン酸等)、およびスルホ脂肪族カルボン酸(スルホ酢酸、スルホコハク酸など)が挙げられる。
芳香族スルホン酸としては、芳香族1価スルホン酸(ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸等)、芳香族2価もしくはそれ以上のスルホン酸(ナフタレンジスルホン酸、スルホン化ポリスチレン等)、オキシ芳香族スルホン酸(フェノール−4−スルホン酸等)、スルホ芳香族カルボン酸(o−スルホ安息香酸等)、チオ芳香族スルホン酸(チオフェノールスルホン酸等)、およびその他官能基を有する芳香族スルホン酸(ベンズアルデヒド−o−スルホン酸等)が挙げられる。
脂環式スルホン酸としては、シクロペンタンスルホン酸、シクロヘキサンスルホン酸等が挙げられる。
ハロゲン化スルホン酸としては、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロエエタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸などが挙げられる。
(2−3)フェノール類;
炭素数6〜30またはそれ以上の置換または非置換フェノールとしては、1価フェノール(フェノール、ナフトール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、イソノニルフェノールなど)、および2価以上のフェノール(カテコール、レゾルシン、ピロガロールおよびフロログルシン等)が挙げられる。
(2−4)モノもしくはジアルキル燐酸エステル;
炭素数1〜30またはそれ以上のモノアルキル燐酸エステルとしては、(メチル燐酸エステル、ブチル燐酸エステル等)、および炭素数2〜30またはそれ以上のジアルキル燐酸エステル(ジメチル燐酸エステル、ジブチル燐酸エステル、ジイソデシル燐酸エステル等)が挙げられる。
(2−5)その他の有機酸;
ビストリフルオロメタンスルホン酸イミド、ビスペンタフルオロエタンスルホン酸イミド、三酸化窒素、ビスシアノイミド、トリストリフルオロメタンスルホン酸メチドなどが挙げられる。
【0021】
本発明におけるイオン性液体(AB)を構成するアニオン(B)のうち好ましいのは、低温での潤滑性の観点から、ヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、シアン酸、チオシアン酸、フッ化水素酸、トリフルオロ酢酸、パーフルオロエタンカルボン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミド、ビスシアノイミド、トリストリフルオロメタンスルホン酸メチドである。これらのアニオンは一種または二種以上を用いてもよい。
【0022】
本発明におけるイオン性液体(AB)の凝固点は、低温での潤滑性の観点から、好ましくは−20℃以下、さらに好ましくは−25℃以下である。
凝固点が−25℃以下のイオン性液体としては、例えば以下のものが挙げられる。
1,3,1'−トリメチル−2,2'−ビイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミド(凝固点−46℃)、1,3,1'−トリエチル−2,2'−ビイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミド(凝固点−51℃)、1,3,1'−トリプロピル−2,2'−ビイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホン酸イミド(凝固点−55℃)、1,3,1'−トリブチル−2,2'−ビイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミド(凝固点−56℃)、1,3,1'−トリブチル−2,2'−ビイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(凝固点−43℃)。
【0023】
本発明の潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物全体のうちイオン性液体(AB)を、通常5重量%以上、好ましくは10%以上(以下、%は特に限定しない限り重量%を表す)、さらに好ましくは30%以上含有する。
【0024】
本発明における潤滑剤組成物はイオン性液体(AB)とともに他の基油を含有してもよい。
他の基油としては(AB)以外のイオン性液体ならびに従来から潤滑剤の基油として使用されている鉱物油および合成潤滑油などであれば特に限定されない。
【0025】
(AB)以外のイオン性液体に含まれるカチオンとしては、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピラゾリウム、ピペリジン、モルホリン、ピペラジン、ピロール、ホスフォニウム及び四級アンモニウム塩などのカチオンが挙げられる。アニオンとしては(AB)で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0026】
鉱物油とは、天然の原油から分離、蒸留、精製されるものをさし、パラフィン系、ナフテン系、パラフィン−ナフテン混合系、あるいはこれらを水素化処理、溶剤精製したものが挙げられる。
合成潤滑油とは化学的に合成された潤滑油であって、エステル油(ジカルボン酸のアルキルエステルなどのジエステルおよびポリオールエステルなど)、ポリ−α−オレフィン、
リン酸エステル油、ポリイソブチレン(ポリブテン)、ケイ酸エステル、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、ポリシリコーン、パーフルオロアルキルエーテルなどのフッ素化化合物、アルキルベンゼンなどが挙げられる。
【0027】
本発明の潤滑剤組成物が30℃で液状であって、イオン性液体(AB)以外の基油を含む場合の好ましい基油は、鉱物油、エステル油、ポリα−オレフィンおよびリン酸エステル油からなる群から選ばれる1種以上である。
本発明の潤滑剤組成物を構成する基油のうち、イオン性液体(AB)と他の基油との重量割合は、通常10〜100/0〜90であり、高温での蒸発損失が少なく、かつ低温での潤滑性に優れるという観点から、好ましくは50〜100/0〜50、さらに好ましくは70〜100/0〜30である。
【0028】
本発明の潤滑剤組成物は、30℃で半固体状である、いわゆるグリースであっても、また30℃で液状である潤滑油組成物であっても、イオン性液体(AB)の効果を発揮することができる。
【0029】
30℃で半固体状である潤滑剤組成物の場合は、基油以外に、さらに固体潤滑剤および増ちょう剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。
また、必要によりさらに酸化防止剤、摩擦摩耗調整剤、摩擦改質剤、極圧剤、消泡剤、抗乳化剤および腐食防止剤などを含有していてもよい。
【0030】
固体潤滑剤としては、モリブデン化合物(二硫化モリブデン、有機モリブデンなど)、グラファイト、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレンなど)、窒化ホウ素、メラミンシアヌル酸化合物(MCA)及び軟質金属粒子(例えば、金、銀、銅)からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
固体潤滑剤の含有量は潤滑剤組成物を半固体状にするのに有効な量以上の量であり、潤滑剤組成物全体のうち、好ましくは1〜50%、さらに好ましくは5〜40%である。
【0031】
増ちょう剤としては、金属石鹸、複合金属石鹸、ウレア化合物、ウレタン化合物、無機質微粒子(カーボンブラック、ベントナイト、シリカ化合物など)及び導電性フィラー(非金属無機導電性フィラーなど)からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
金属石鹸および複合金属石鹸は、基油としてイオン性液体以外の基油を含む場合に使用するのが好ましい。金属石鹸の具体例としては、アルミニウム石鹸、カルシウム石鹸、リチウム石鹸、ナトリウム石鹸、バリウム石鹸等が挙げられる。また複合金属石鹸の具体例としては、リチウムコンプレックス石鹸、カルシウムコンプレックス石鹸、アルミニウムコンプレックス石鹸等が挙げられる。
非金属無機導電性フィラーとしては、酸化亜鉛系、硫酸バリウム系、ホウ酸アルミニウム系、酸化チタン系、酸化スズ系、チタンブラック系、チタン酸カリウム系などが挙げられ、金属がドープされていてもされていなくてもよい。特にSbドープSnO2が好ましい。
増ちょう剤の含有量は潤滑剤組成物を半固体状にするのに有効な量以上の量であり、潤滑剤組成物全体のうち、好ましくは1〜30%、さらに好ましくは5〜30%である。
【0032】
増ちょう剤及び固体潤滑剤の両者を含有させる場合は、その合計の含有量は潤滑剤組成物全体のうち、好ましくは1〜50%、さらに好ましくは5〜40%である。
【0033】
酸化防止剤としてはハイドロキノン、ジンクジチオフォスフェート、アミン系(ジフェニルアミンなど)、ヒンダードフェノール系、チオリン酸亜鉛およびトリアルキルフェノールなどが挙げられ、その含有量は潤滑剤組成物全体のうち通常0〜8%、好ましくは0.1〜6%である。
摩擦摩耗調整剤としては、モリブデンジチオフォスフェート、モリブデンジチオカーバメイトおよびジンクジアルキルジチオフォスフェートなどが挙げられ、その含有量は潤滑剤組成物全体のうち通常5%以下、好ましくは0.1〜3%である。
摩擦改質剤としては、長鎖脂肪酸系(オレイン酸など)、長鎖脂肪酸エステル(オレイン酸エステルなど)、長鎖アミン系(オレイルアミンなど)、および長鎖アミド(オレアミドなど)が挙げられ、その含有量は潤滑剤組成物全体のうち通常5%以下、好ましくは0.1〜1%である。
極圧剤としては、硫黄リン系、硫黄系、リン系およびクロル系の極圧剤などが挙げられ、その含有量は潤滑剤組成物全体のうち通常20%以下、好ましくは0.1〜10%である。
消泡剤としては、シリコーン油、金属石けん、脂肪酸エステルおよびリン酸エステルなどが挙げられ、その含有量は潤滑剤組成物全体のうち通常1,000ppm以下、好ましくは10〜700ppmである。
抗乳化剤としては、4級アンモニウム塩、硫酸化油およびリン酸エステルなどが挙げられ、その含有量は潤滑剤組成物全体のうち通常3%以下、好ましくは0〜1%である。
腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾールおよび1,3,4−チオジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカルバメートなどが挙げられ、その含有量は潤滑剤組成物全体のうち通常3%以下、好ましくは0〜2%である。
【0034】
30℃で半固体状である潤滑剤組成物における、酸化防止剤、摩擦摩耗調整剤、摩擦改質剤、極圧剤、消泡剤、抗乳化剤および腐食防止剤の合計は、潤滑剤組成物全体のうち、好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下、さらに好ましくは15%以下である。
【0035】
本発明の潤滑剤組成物が30℃で半固体状である潤滑剤組成物である場合、基油/固体潤滑剤/増ちょう剤/その他の添加剤の含有割合は、通常50〜85/1〜50/0〜30/0〜20、好ましくは低温での潤滑性の観点から50〜80/1〜40/0〜30/0〜15である。
【0036】
また、30℃で液状である潤滑油組成物は、さらに他の添加剤を含有してもよい。
他の添加剤としては、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、摩擦摩耗調整剤、摩擦改質剤、極圧剤、消泡剤、抗乳化剤および腐食防止剤などが挙げられる。
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート系およびポリオレフィン系の粘度指数向上剤などが挙げられる。
流動点降下剤としては、ポリメタクリレート系およびエチレンビニルアセテート系の流動点降下剤などが挙げられる。
清浄剤としては、スルフォネート系、サリシレート系、フェネート系およびナフテネート系などのCaやMg塩、並びに炭酸カルシウムなどが挙げられる。
分散剤としては、コハク酸イミド系(ビスタイプ、モノタイプ、ボレートタイプ、マンニッヒ縮合物など)が挙げられる。
粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄剤または分散剤のそれぞれの含有量は潤滑剤組成物全体のうちの好ましくは20%以下、さらに好ましくは0.1〜10%である。
酸化防止剤、摩擦摩耗調整剤、摩擦改質剤、極圧剤、消泡剤、抗乳化剤および腐食防止剤の具体例および含有量は前述の半固体状の潤滑剤組成物の場合と同様である。
【0037】
本発明の潤滑剤組成物が30℃で液状である潤滑油組成物である場合、基油/その他の添加剤の含有割合は、通常70〜100/0〜30、好ましくは低温での潤滑性の観点から75〜98/2〜25である。
【0038】
[実施例]
以下に、実施例について説明するが、本発明はこれに限定するものではない。なお、実施例および比較例中の部数は特に明記しない限り、重量部を表す。
【0039】
(30℃において半固体状の潤滑剤組成物)
実施例1〜5、比較例1および2
基油としての下記の(AB−1)〜(AB−5)、(H−1)、または(H−2)、および固体潤滑剤としてのPTFEを、表1または表2に示す部数で配合し、三段ロールミルにて混練し、30℃で半固状の潤滑剤組成物を得た。
【0040】
(AB−1):1,3,1'−トリメチル−2,2'−ビイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミド(凝固点−46℃)
(AB−2):1,3,1'−トリエチル−2,2'−ビイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミド(凝固点−51℃)
(AB−3):1,3,1'−トリプロピル−2,2'−ビイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホン酸イミド(凝固点−55℃)
(AB−4):1,3,1'−トリブチル−2,2'−ビイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミド(凝固点−56℃)
(AB−5):1,3,1'−トリブチル−2,2'−ビイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(凝固点−43℃)
(H−1):1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(凝固点11℃)
(H−2):1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート(凝固点−10℃)
PTFE:ポリテトラフルオロエチレンワックス
【0041】
得られた潤滑剤組成物について、以下の物性と性能を、以下の方法で評価した。
評価結果を表1および表2に示す。
【0042】
<混和ちょう度>
JIS K2220 5.3に準拠し測定した。ちょう度とは、潤滑剤の硬さを示す数値である。
<滴点>
JIS K2220 5.4の方法で測定した。滴点とは、半固体状から液状になり、初滴が落下する温度である。
<低温トルク>
JIS K2220 5.14に準拠し、低温トルク試験機で−20℃における起動トルクを測定した。低温トルクが低い方が低温での潤滑性に優れている。
「低温トルクの評価基準」
○:100N・cm未満
△:100N・cm以上、200N・cm未満
×:200N・cm以上
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
(30℃において液状の潤滑剤組成物)
実施例6〜10、比較例3および4
基油としての上記の(AB−1)〜(AB−5)、(H−1)、または下記の(H−3)もしくは(H−4)、および酸化防止剤としてのハイドロキノン(和光純薬工業(株)製)を、表3または表4に示す部数で配合し、三段ロールミルにて混練し30℃において液状の潤滑剤組成物を得た。
(H−3):鉱物油「YUBASE4」(SK Corp.製)
(H−4):ビス(2−エチルヘキシル)セバケート(和光純薬工業(株)製)
【0046】
得られた潤滑剤組成物について、以下の物性と性能を、以下の方法で評価した。
評価結果を表3および表4に示す。
【0047】
<潤滑性>
装置 : オプチモール SRV試験器(日本パーカライジング(株))
ボール : 直径10mm
ディスク: 直径24mm×厚さ7.9mm
測定温度: 30℃
荷重 : 50N振動数 : 50Hz
振幅 : 2mm
測定時間: 30min
「潤滑性の評価基準」
○:摩擦係数が0.05未満
△:摩擦係数が0.05以上、0.09未満
×:摩擦係数が0.09以上
【0048】
<低温流動性>
JIS K−2269の方法で測定した。流動点の低いほうが低温での潤滑性に優れている。
「低温流動性(流動点)の評価基準」
○:−40℃未満
△:−40℃以上、−20℃未満
×:−20℃以上
【0049】
<蒸発性(Noack法)>
ASTM D5800の方法で測定した。蒸発性の少ないほうが高温において周囲への汚染が少ない点で優れている。
「蒸発性の評価基準」
○:1%未満
△:1%以上、2%未満
×:2%以上
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の潤滑剤組成物は、高温での蒸発損失が少なく、かつ低温での潤滑性に優れているので、高温下および/または高真空下で使用するのに適し、例えば真空装置、半導体製造装置などで使用する潤滑剤組成物として適している。また、本発明の潤滑剤組成物は導電性を有しているので、軸受け用潤滑剤組成物などの帯電防止が要求される用途にも適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑性基油の少なくとも一部が一般式(1)もしくは一般式(2)で示される2,2'−ビイミダゾリウムカチオン(A)およびアニオン(B)からなるイオン性液体(AB)である潤滑剤組成物。
【化1】

[式中、R1〜R4は水素原子または総炭素数1〜36の1価の炭化水素基であって、該炭化水素基は水酸基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、アルキルアミノ基、アルキルエステル基、アルキルエーテル基およびハロゲン原子からなる群から選ばれる1種以上の置換基を有していてもよく、R1〜R4はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
イオン性液体(AB)が、−20℃以下の凝固点を有するイオン性液体である請求項1記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
さらに、固体潤滑剤および増ちょう剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、30℃で半固体状である請求項1または2記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
固体潤滑剤が、モリブデン化合物、グラファイト、フッ素樹脂、窒化ホウ素、メラミンシアヌル酸化合物および軟質金属粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、増ちょう剤が、金属石鹸、複合金属石鹸、ウレア化合物、ウレタン化合物、無機質微粒子、導電性フィラーからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
潤滑性基油として、鉱物油、エステル油、ポリα−オレフィンおよびリン酸エステル油からなる群から選ばれる1種以上、並びにイオン性液体(AB)を含有し、30℃で液状である請求項1または2記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
潤滑剤組成物全体のうち、イオン性液体(AB)を5重量%以上含有する請求項1〜5のいずれか記載の潤滑剤組成物。

【公開番号】特開2007−112828(P2007−112828A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302752(P2005−302752)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】