説明

潤滑油基油の製造方法

【課題】(A)目的とする低温特性を得ることができ、(B)色相などの潤滑油基油の性能を悪化させることなく、(C)長期間、安定に運転することができ、さらに、(D)芳香族分を適切な範囲に制御することが可能な潤滑油基油の製造方法を提供する。
【解決手段】(1)潤滑油基油中間体を、第1の水素化処理触媒と水素の存在下で、油中の塩基性窒素分を20重量ppm以下、芳香族分を40重量%以下、かつ、全芳香族分中の一環芳香族分を70重量%以上、三環以上の芳香族分を2重量%以下とする第1の水素化処理を行い、(2)第1の水素化処理の流出油からアンモニアを分離した精製油とし、(3)この精製油を、ゼオライトを含有する水素化脱ろう触媒と水素の存在下、反応系中のアンモニア濃度100重量ppm以下で、流動点を−20℃以下とする水素化脱ろう処理を行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油、電気絶縁油などに用いられる潤滑油基油を、原油留分から、水素化脱ろう処理により製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気絶縁油、潤滑油などの製品基材となる潤滑油基油中にノルマルパラフィンが多く含まれる場合、製品の低温流動性などの低温特性が損なわれるため、原料留分からノルマルパラフィンを除去する必要がある。この除去工程は、脱ろう処理と呼ばれ、水素化脱ろう処理が多く用いられている。
【特許文献1】特公平6−007926号公報
【特許文献2】特公平6−062960号公報
【0003】
水素化脱ろう処理は、原料留分を水素の存在下で脱ろう触媒と接触させることで脱ろう処理を行うものである。通常高温、高圧下で行われるが、脱ろう触媒の性能が十分でない場合、目的とする低温特性を得ることができない。脱ろう反応をより進めるために、反応温度を高くすると、潤滑油基油の色相が悪化するなど製品の品質に対して好ましくない影響を及ぼしたり、収率が低下したりする。また、触媒性能が急速に劣化するため、触媒寿命が短く、長期間安定した運転ができないこともあった。
【0004】
脱ろう処理の原料留分は、原油を蒸留することにより得られるが、原油の油種によっては、同一の水素化脱ろう処理を行っても、十分な低温特性を得ることができないこともある。さらに、潤滑油基油の芳香族分、特に多環芳香族分は低減されることが必要であるが、特に、電気絶縁油では、芳香族分を適度な値に調整することも必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、潤滑油基油の水素化脱ろう処理により、(A)目的とする低温特性を得ることができ、(B)色相などの潤滑油基油の性能を悪化させることなく、(C)長期間、安定に運転することができ、さらに、(D)芳香族分を適切な範囲に制御することが可能な潤滑油基油の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による潤滑油基油の製造方法は、(1)潤滑油基油中間体を、第1の水素化処理触媒と水素の存在下で、油中の塩基性窒素分を20重量ppm以下、芳香族分を40重量%以下、かつ、全芳香族分中の一環芳香族分を70重量%以上、三環以上の芳香族分を2重量%以下とする第1の水素化処理を行い、(2)第1の水素化処理の流出油からアンモニアを分離した精製油とし、(3)この精製油を、ゼオライトを含有する水素化脱ろう触媒と水素の存在下、反応系中のアンモニア濃度100重量ppm以下で、流動点を−20℃以下とする水素化脱ろう処理を行うものである。
【0007】
さらに、(4)セーボルト色が0未満の請求項1記載の水素化脱ろう処理による脱ろう油を、第2の水素化処理触媒と水素の存在下で、セーボルト色を+15以上とする第2の水素化処理を行うことが好ましい。
【0008】
潤滑油基油中間体が、原油を常圧蒸留した、または、常圧残渣油を減圧蒸留した留分であり、この留分の10%留出温度が200〜400℃であり、90%留出温度が350〜500℃であることが好ましい。本発明による潤滑油基油は、電気絶縁油または潤滑油に好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0009】
潤滑油基油中間体の塩基性窒素分、芳香族分などを第1の水素化処理により所定の範囲に低減し、その精製油からアンモニアを分離し、反応系中のアンモニア濃度100重量ppm以下とした状態で水素化脱ろうを行うものである。これにより、流動点などの低温特性に優れ、また、色相などの基本性能が十分である潤滑油基油の製造において、脱ろう触媒の活性が低下を抑制できるため、長期間、安定した操業が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
〔潤滑油基油中間体〕
潤滑油基油中間体は、潤滑油基油の原料となる石油留分であり、その10%留出温度は、200℃〜400℃、さらには250℃〜360℃が、90%留出温度は、350℃〜500℃、さらには370℃〜450℃が好ましい。潤滑油基油中間体の硫黄分は、0.5重量%〜5重量%、さらには1.5重量%〜3.5重量%が好ましく、その窒素分は、50重量ppm〜1000重量ppm、さらには100重量ppm〜600重量ppmが好ましい。その塩基性窒素分は、20重量ppm〜500重量ppm、さらには50重量ppm〜200重量ppmが好ましい。潤滑油基油中間体のアロマ分(芳香族分)は、20重量%〜60重量%、さらには30重量%〜50重量%が好ましく、そのパラフィン分(飽和分)は、40重量%〜80重量%、さらには50重量%〜70重量%が好ましい。また、全芳香族分中の一環芳香族分は40重量%以上、さらには50重量%以上が好ましい。
【0011】
〔第1の水素化処理〕
第1の水素化処理は、潤滑油基油中間体を水素と混合し、第1の水素化処理触媒と接触させるものである。第1の水素化処理の好ましい反応条件は、反応温度が250℃〜400℃、特には300℃〜350℃、反応圧力(ゲージ圧)が1MPa〜20MPa、特には5MPa〜15MPa、液空間速度(LHSV)が0.2h−1〜3h−1、特には0.5h−1〜1.5h−1、また、水素/油比が200NL/L〜2000NL/L、特には500NL/L〜2000NL/Lである。
【0012】
第1の水素化処理により得られた精製油は、硫黄分は、1.0重量%以下、さらには0.5重量%以下が好ましく、その窒素分は、200重量ppm以下、さらには50重量ppm以下が好ましい。その塩基性窒素分は、20重量ppm以下であり、10重量ppm以下が好ましい。この精製油のアロマ分(芳香族分)は、40重量%以下であり、10重量%〜35重量%、さらには15重量%〜30重量%が好ましく、そのパラフィン分(飽和分)は、65重量%〜90重量%、さらには70重量%〜85重量%が好ましい。また、全芳香族分中の一環芳香族分は、70重量%以上であり、さらには80重量%以上が好ましく、また、三環以上の芳香族分は、2重量%以下であり、さらには1.5重量%以下が好ましい。
【0013】
〔第1の水素化処理触媒〕
第1の水素化処理に用いる水素化精製触媒としては、無機多孔質担体に水素化活性金属担持した触媒が好ましく用いられる。無機多孔質担体としては、アルミナ、特にはγアルミナを主成分とすることが好ましいが、他に、シリカ、ゼオライトなどを、好ましくは金属元素重量として20重量%以下含んでいてもよい。水素化活性金属としては、第6族金属元素および/または第8族非貴金属元素が好ましく用いられ、第6族金属元素としてはモリブデン、タングステン、第8族非貴金属元素としてはニッケル、コバルトが好ましく用いられる。水素化活性金属の好ましい含有量は、第6族金属元素が金属元素換算で5〜30重量%、第8族非貴金属元素が金属元素換算で0.1〜10重量%である。
【0014】
〔アンモニアの分離〕
第1の水素化処理により、潤滑油基油中間体である炭化水素油に含まれる硫黄分、窒素分は、硫化水素、アンモニアとなり、炭化水素油から分離される。これらの硫化水素、アンモニアは、水素ガスに多くは含まれることになるが、一部は炭化水素油に溶解される。本発明では、第1の水素化処理された炭化水素油に含まれているアンモニアを分離することが必要である。炭化水素油中のアンモニア濃度は、次工程の水素化脱ろう時に反応系のアンモニア濃度を100重量ppm以下とするために、炭化水素油重量を基準として100重量ppm以下とするが、50重量ppm以下、特には30重量ppm以下が好ましい。
【0015】
アンモニアの分離工程は、ストリッピングまたは/および水洗浄により行うことが好ましい。ストリッピングは、炭化水素油中に、水素ガス、不活性ガス、水蒸気などのアンモニアを含まず、炭化水素と反応しないガスと接触させ、そのガス中にアンモニアを移行させることで、炭化水素油中のアンモニア濃度を低下させるものである。ストリッピングの条件は、温度が100℃〜400℃、または、前段の第1の水素化処理の反応温度と同じ乃至はそれよりも150℃まで低い温度が好ましく、圧力(ゲージ圧)が1MPa〜20MPa、または、前段の第1の水素化処理の反応圧力と同じ乃至はそれよりも50%まで低い圧力が好ましく、ガス/炭化水素油比は、300NL/L〜3000NL/L、特には1000NL/L〜2000NL/Lが好ましい。
【0016】
水洗浄は、炭化水素油と水とを接触させることで、アンモニアを水中に移行させ、炭化水素油中のアンモニア濃度を低下させるものである。水洗浄の条件は、温度100℃以下が好ましく、圧力(ゲージ圧)が1MPa〜20MPa、または、前段の第1の水素化処理の反応圧力と同じ乃至はそれよりも50%まで低い圧力が好ましい。なお、ストリッピングまたは/および水洗浄の前に気液分離を行うことが好ましいが、通常は、この気液分離のみでは炭化水素油中のアンモニア濃度を十分に下げることはできない。
【0017】
〔水素化脱ろう処理〕
水素化脱ろう処理の好ましい反応条件は、反応温度が250℃〜420℃、特には300℃〜390℃、反応圧力(ゲージ圧)が3MPa〜15MPa、特には4MPa〜12MPa、液空間速度(LHSV)が0.5h−1〜5h−1、特には1h−1〜2.5h−1、また、水素/油比が300NL/L〜3000NL/L、特には1000NL/L〜2000NL/Lである。水素化脱ろう処理により、低温特性が向上し、流動点は−20℃以下、特には−30℃以下、さらには−40℃以下とすること、また、くもり点は−20℃以下とすることができる。通常、流動点は−20℃〜−60℃の範囲である。水素化脱ろう処理された炭化水素油のノルマルパラフィンの含有量は、2.0重量%以下、さらには1.5重量%以下とすることが好ましい。
【0018】
〔水素化脱ろう触媒〕
水素化脱ろう触媒としては、脱ろう活性を持つ触媒を用いることができるが、ZSM−5ゼオライトを50重量%以上、特には、70〜95重量%、さらには80〜95重量%含有する触媒(以下、ZSM−5触媒という)を用いることが好ましい。ZSM−5触媒中のZSM−5ゼオライトの含有率が少ない場合には、触媒の単位重量あたりの脱ろう性能が不十分である。なお、ZSM−5触媒は、ZSM−5ゼオライトにバインダを添加して製造することにより、強度が向上した成型物とすることができる。ZSM−5触媒が含有するZSM−5ゼオライトは、ノルマルパラフィンを選択的に分解することができる。なお、ZSM−5触媒は、ZSM−5ゼオライトに加えて、他のタイプのゼオライトを含有してもよい。また、バインダ成分としては、特に制限はないが、アルミナ、特には偽ベーマイトを焼成したγ−アルミナを用いることが好ましい。なお、ZSM−5触媒においては、バインダ含有率は5〜30重量%であることが好ましい。
【0019】
ZSM−5触媒に用いるZSM−5ゼオライトは、SiO/Alモル比が150〜500mol/molであることが好ましく、250〜400mol/molであることが特に好ましい。ZSM−5ゼオライトのSiO/Al比がこの範囲を超えると、触媒の脱ろう性能が十分でなくなるため好ましくなく、一方、この範囲未満であると、酸性度が高くなるため、過分解による収率の低下や、炭素質の堆積による激しい性能劣化を招くため好ましくない。
【0020】
ZSM−5触媒のメソ細孔の分布は、窒素吸着法で測定することができる。ZSM−5触媒のメソ細孔は、窒素ガス脱着法で測定した20〜50Åの細孔径を有する細孔の細孔容積(A)が、窒素ガス脱着法で測定した20〜600Åの細孔径を有する細孔の細孔容積(B)の25%以上、特には35%以上であることが好ましい。また、この20〜50Åの細孔径を有する細孔の細孔容積(A)は、0.05〜0.10cm/gであることが好ましい。触媒のメソ細孔は、アルミナ等のバインダ内の細孔であり、バインダは触媒中でゼオライトと異なる粒子として存在している。そのため、メソ細孔内での拡散性が高くても、脱ろう性能の向上は期待できない。むしろ、バインダの細孔内に拡散したワックス分は、ゼオライト内に拡散する確率が低いため、メソ細孔内での拡散性が高いと、脱ろう触媒の脱ろう性能が阻害される。そのため、メソ細孔の細孔直径を小さくすることにより、バインダ内へのワックス分の拡散性を抑制し、ゼオライト細孔内へのワックス分の拡散性を向上させることが可能となり、その結果として、触媒の脱ろう性能が向上する。この様にしてゼオライト細孔内へのワックス分の拡散性の向上により活性を向上させた触媒は、ゼオライトの酸性度を上げることにより活性を向上させた触媒と比べ、過分解による収率の低下や炭素質の堆積による性能の急激な低下が起こりにくく、初期劣化後の性能安定期において高い脱ろう性能を有する。
【0021】
ZSM−5触媒のマクロ細孔の分布は、水銀圧入法で測定することができる。ZSM−5触媒のマクロ細孔は、水銀圧入法で測定した1000〜20000Åの細孔直径を有する細孔の細孔容積(C)が、水銀圧入法で測定した200〜20000Åの細孔直径を有する細孔の細孔容積(D)の50%以上であることが好ましく、70%以上であることが特に好ましい。(C)/(D)がこれ未満であると、触媒ペレット内での拡散性が不十分になり、十分に満足な脱ろう性能が得られない。
【0022】
ZSM−5触媒は、水銀圧入法で測定した200〜20000Åの細孔直径を有する細孔の細孔容積(D)が0.10〜0.20cm/gであることが好ましく、0.12〜0.18cm/gであることが特に好ましい。触媒のマクロ細孔は、主にゼオライト粒子とアルミナ等のバインダ粒子との間の空隙によるものである。この空隙は、触媒ペレットの外表部からゼオライト粒子表面へのいわゆる通り道に相当するものであり、脱ろう性能に大きな影響を及ぼす。そして、脱ろう触媒が十分に大きな直径と十分な細孔容積を有するマクロ細孔を有することにより、ノルマルパラフィンのゼオライト細孔内への拡散効率が良くなるため、触媒の脱ろう性能が向上する。しかしながら、マクロ細孔の細孔径や細孔容積が大きすぎると、触媒の機械的強度が低下するため好ましくない。ここで、上記水銀圧入法で測定した200〜20000Åの細孔直径を有する細孔の細孔容積(D)が少なすぎると、ノルマルパラフィンのゼオライト細孔内への拡散性が不十分となり、十分に高い脱ろう活性が得られず、一方、多すぎると、触媒の機械的強度が十分でなくなるため好ましくない。
【0023】
ZSM−5触媒は、シリコンおよびアルミニウム以外の金属成分を実質的に含まないこと、金属元素の合計量が1重量%以下、特には0.1重量%以下であることが好ましい。
【0024】
〔第2の水素化処理〕
第2の水素化処理は、水素化脱ろう処理による脱ろう油を水素の存在下、第2の水素化処理触媒と接触させるものである。脱ろう油のセーボルト色が0未満の場合に、第2の水素化処理により、セーボルト色を+15以上、好ましくは+20以上とすることができる。水素化脱ろう処理から流出する炭化水素油および水素をそのまま、または、水素を追加することで、さらに、必要に応じて加熱し、第2の水素化処理触媒と接触させることが好ましい。水素化脱ろう処理から流出する水素を分離する工程、また、炭化水素油からアンモニア、硫化水素を分離する工程は、行う必要はない。
【0025】
第2の水素化処理の好ましい反応条件は、反応温度が第1の水素化処理の反応温度より高くない温度であり、具体的には200℃〜400℃、特には250℃〜350℃、反応圧力(ゲージ圧)が1MPa〜20MPa、特には5MPa〜15MPa、液空間速度(LHSV)が0.2h−1〜3h−1、特には0.5h−1〜1.5h−1、また、水素/油比が200NL/L〜2000NL/L、特には500NL/L〜2000NL/Lである。
【0026】
〔潤滑油基油〕
本発明により得られる好ましい潤滑油基油の性状・特性は、動粘度(40℃)が5mm/s〜10mm/s; 10%留出温度が200℃〜400℃、特には250℃〜360℃; 90%留出温度が350℃〜500℃、特には370℃〜450℃; パラフィン分が60重量%以上、特には70重量%〜85重量%; アロマ分が40重量%以下、特には15重量%〜30重量%; 硫黄分が2000ppm以下、特には500ppm以下; 窒素分が50ppm以下、特には10ppm以下; 流動点が−20℃以下、特には−30℃以下; 色相(セーボルト)が+15以上、特には+20以上である。
【0027】
〔電気絶縁油〕
本発明により得られる潤滑油基油は、そのまま、またはスルフィド型硫黄分を50重量ppm〜1重量%含む精製鉱油などの天然酸化防止剤、あるいは2,6−ジ−tert-ブチルパラクレゾール(DBPC)などのフェノール系酸化防止剤、及びベンゾトリアゾール(BTA)などトリアゾール系の金属不活性化剤を添加し、適度に濾過、脱水することにより、電気絶縁油として利用できる。本発明の電気絶縁油への、これらの添加剤の添加量は、電気絶縁油全量基準で天然酸化防止剤では1重量%〜50重量%、フェノール系酸化防止剤は0.01重量%〜1.0重量%、金属不活性化剤では5重量ppm〜1重量%の範囲で選ばれる。
【0028】
本発明の電気絶縁油は、脱水によりJIS C 2101で測定される水分を40ppm以下とすることにより、JIS C 2101で測定される絶縁破壊電圧が50kV以上とすることができる。特に、本発明により得られる潤滑油基油を用い、電気絶縁油の芳香族分を15重量%〜30重量%に調整することにより、ASTM D2300で測定されるガス吸収性試験において優れたガス吸収性(0未満)を示す電気絶縁油が得られる。
【0029】
〔潤滑油〕
本発明により得られる潤滑油基油は、安定性および添加剤のレスポンスに優れ、そのまま、あるいは他の鉱油基油、合成油と配合することにより動粘度を調整した後、そのまま、あるいは添加剤を配合することにより潤滑油として利用できる。
【0030】
添加剤としては、公知の潤滑油添加剤を単独で、または数種類組み合わせた形で、本発明の潤滑油に配合することができる。配合可能な公知の添加剤としては、例えば、フェノール系、アミン系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛系、フェノチアジン系などの酸化防止剤; アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル、石油スルフオネート、ジノニルナフタレンスルフォネートなどの錆止め剤; リン酸エステル、硫化油脂、サルファイド、ジチオリン酸亜鉛などの摩耗防止剤、極圧剤; 脂肪族アルコール、脂肪酸、脂肪族アミン、脂肪族アミン塩、脂肪酸アミドなどの摩擦低減剤; アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリチレート、アルカリ土類金属ホスフォネートなどの金属系清浄剤; アルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸エステル、ベンジルアミンなどの無灰分散剤; メチルシリコーン、フルオロシリコーンなどの消泡剤; ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、オレフィンコポリマー、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤、流動点降下剤などが挙げられる。
【0031】
これらの添加剤を本発明の潤滑油に添加する場合には、その添加量は潤滑油全量基準で、消泡剤では0.0005〜1重量%、粘度指数向上剤では1〜30重量%、金属不活性化剤では0.001〜1重量%、その他の添加剤ではそれぞれ0.1〜15重量%の範囲で通常選ばれる。
【0032】
本発明の潤滑油は、例えば、エンジン油、ディーゼルエンジン油、船用ディーゼルエンジン油、工業用多目的潤滑油、タービン油、油圧作動油、スピンドル油、油膜軸受油、冷凍機油、ギヤー油、自動変速機油、シリンダー油、ダイナモ油、マシン油、切削油、金属加工油等として利用できる。
【実施例】
【0033】
〔分析方法〕
本実施例では、以下の分析方法を用いた。密度はJIS K 2249により、硫黄分はJIS K 2541により、窒素分はJIS K 2609により、蒸留性状はJIS K 2254により、色(セイボルト)はJIS K2580により、流動点・くもり点はJIS K 2269により、また、芳香族分(アロマ分)および飽和分(パラフィン分)はASTM D2549によりそれぞれ測定した。塩基性窒素分は、米国UOP社試験法No.269 「Nitrogen Bases in Petroleum Distillates,
Electrometric Titration」により、また、ノルマルパラフィン含有量は、含まれる全てのノルマルパラフィンの含有量をガスクロマトグラフィーによりそれぞれ定量し、合計することにより測定した。
【0034】
芳香族タイプ分析はHPLC(高圧液体クロマトグラフィー)を用いて以下のように行った。試料は、ヘキサンで5倍に希釈することにより前処理を行った。カラムは、ウォーターズ社製Spherisorb A5Y 250×4.6mmを用い、流量は2.5mL/分とし、検出器にはUV検出器を使用し、波長270nmで測定した。溶離液は、試料導入からの時間が0〜10.0分まではヘキサンを用い、10.0〜30.0分まではヘキサン100重量%からジクロロメタン40重量%とヘキサン60重量%の混合溶液に直線的にジクロロメタン含有量を増大させた。試料導入からの時間が30.0〜30.1分の間にジクロロメタン40重量%とヘキサン60重量%の混合溶液をジクロロメタン100重量%の変更し、30.1分以降はジクロロメタンを用いた。
【0035】
得られたピーク面積から以下の式により環別の芳香族炭化水素の含有量(重量%)を求めた。ここで、一環面積は、ベンゼンのピークからナフタレンの直前のピークまでのピーク面積の合計であり、二環面積は、ナフタレンのピークからアントラセンの直前のピークまでのピーク面積の合計であり、また、三環以上面積は、アントラセンのピーク以降のピーク面積の合計である。
一環芳香族分(重量%)=(一環面積/(一環面積+0.1×二環面積+0.025×三環以上面積))×100;
二環芳香族分(重量%)=(0.1×2環面積/(一環面積+0.1×二環面積+0.025×三環以上面積))×100;
三環以上の芳香族分(重量%)=(0.025×三環面積/(一環面積+0.1×二環面積+0.025×三環以上面積))×100
【0036】
〔潤滑油基油中間体〕
原料油となる潤滑油基油中間体として、減圧留出油を用いた。減圧留出油は、常圧残渣油を減圧蒸留して得られた留出油であり、その性状などを表1に示す。
【0037】


【表1】



【0038】
〔第1の水素化処理〕
第1の水素化処理を行う前段反応器と、水素化脱ろう処理を行う後段反応器を直列に接続した。反応器は、それぞれ長さ126cm、内径2.5cmの固定床流通式であり、電熱ヒータにより反応温度を設定できる。また、以下の反応に用いた水素ガスは、純度99.99容積%で、水分が0.5重量ppm以下であり、他の不純物として、硫黄化合物の濃度が硫黄換算で1重量ppm以下、窒素化合物の濃度が0.1重量ppm以下、水以外の酸素化合物の濃度が酸素換算で0.1重量ppm以下、塩素化合物の濃度が塩素換算で0.1重量ppm以下であった。
【0039】
前段反応器には、10〜14メッシュに整粒した市販の脱硫触媒(ART社製HOP−414)を50cm充填した。この脱硫触媒は、γアルミナからなる担体に、モリブデン、ニッケル、リンを担持した触媒であり、担持量は、元素重量基準でモリブデン:12.0重量%、ニッケル:3.3重量%、リン:2.0 重量%である。なお、水素化処理を行う前に、反応器の温度を300℃に設定した状態で、二硫化炭素を1容積%添加した脱硫軽油を24時間流通させることにより脱硫触媒の予備硫化を行った。
【0040】
第1の水素化処理は、反応温度:320または330℃、反応圧力(ゲージ圧):9.0MPa、液空間速度(LHSV):0.8または1.2h−1、水素/油比:1500NL/Lの運転1,2,3の条件で行った。反応条件と第1の水素化処理後の性状などを表2にまとめる。
【0041】


【表2】

【0042】
〔脱ろう触媒〕
ZSM-5型ゼオライト1470g及びアルミナ粉540gを混練機に入れ、4.5重量%の濃度の硝酸水溶液555gを解膠剤として添加し、10分間混練した。この混練物を1.6mmφの孔のダイスを有する押出成形機で円柱状に成形し、130℃で一晩乾燥した。次に、乾燥物をロータリーキルン中で600℃、1時間焼成し、脱ろう触媒を得た。ZSM-5型ゼオライトとしては、Zeolyst社製CBV-28014[SiO2/Al23比=280]を用い、また、バインダとなるアルミナ粉としては、山東アルミ社製のHF-159を用いた。
【0043】
脱ろう触媒の組成分析から求めたゼオライトの含有量は、80重量%であった。メソ細孔特性を窒素吸着法によって評価した結果、20〜50Åの細孔直径を有する細孔の細孔容積(A)は、0.0801cm/gであり、20〜600Åの直径を有する細孔の細孔容積(B)は、0.1625cm/gであった。また、マクロ細孔特性を水銀圧入法により評価した結果、1000〜20000Åの細孔径を有する細孔の細孔容積(C)は、0.122cm/gであり、200〜20000Åの細孔径を有する細孔の細孔容積(D)は、0.153cm/gであった。
【0044】
〔水素化脱ろう処理〕
水素化脱ろう処理を行う後段反応器には、10〜14メッシュに整粒した上述の脱ろう触媒を50cm充填した。水素化脱ろう処理は、反応温度:350℃、反応圧力(ゲージ圧):9.0MPa、液空間速度(LHSV):1.6h−1、水素/油比:1500NL/Lで行った。
【0045】
第1の水素化処理により処理された処理油から気液分離槽により、または気液分離槽とストリッパーにより水素およびアンモニアを分離したものを、水素化脱ろう処理の原料として用いた。水素化脱ろう処理は、250時間経過時点で初期劣化が終了し、ほぼ一定の性能を示すようになった。第1の水素化処理の反応条件と分離工程の有無による水素化脱ろう後の性状などを表3にまとめる。この結果から、第1の水素化処理をした後、後段反応器内のアンモニア濃度を100重量ppm以下、特には50重量ppm以下に低減することにより水素化脱ろう反応性が大幅に向上することおよび、アンモニア濃度を20重量ppm以下とすれば、さらに水素化脱ろう性が高まることがわかる。
【0046】


【表3】



【0047】
気液分離槽は、長さ30cm、内径2.5cmの縦型であり、前段反応器と同じ圧力、温度は200℃とした。気液分離槽の中央部に前段反応器からの流出物を導入し、底部から液相を、また、頂部からガス相を取り出し、気液分離を行った。
【0048】
ストリッパーは、長さ80cm、内径2.5cmの縦型であり、前段反応器と同じ圧力、温度は200℃とした。ストリッパーの中央部に気液分離槽で分離された液相を導入し、下部から水素ガスを導入してストリッピングを行い、底部からストリッピングされた液相を取り出した。水素ガス/油比は1500NL/Lとした。
【0049】
〔第2の水素化処理〕
水素化脱ろうされた処理油をさらに第2の水素化処理を行った。第2の水素化処理の原料としては、表2の実施例1(#1)および実施例2(#2)による脱ろう油を反応温度:320℃、反応圧力(ゲージ圧):9.0MPa、液空間速度(LHSV):0.8h−1、水素/油比:1500NL/Lの条件で、第1の水素化処理と同様の反応器を用いて行った。用いた触媒は、市販の脱硫触媒(ART社製HOP−302)であり、γアルミナからなる担体に、モリブデン、ニッケルを担持した触媒であり、担持量は、元素重量基準でモリブデン:12.0重量%、ニッケル:4.0重量%である。原料となる脱ろう油の性状と、第2の水素化処理後の性状などを表4にまとめる。この結果から、第2の水素化処理によって生成油の色相は大幅に改善することがわかる。
【0050】

【表4】

【0051】
〔電気絶縁油の調製〕
実施例1(#1)の脱ろう油に第2の水素化処理を行い得た潤滑油基油を真空脱水機により脱水して電気絶縁油を調製した。この電気絶縁油は、芳香族分が25.7重量%であり、JIS C 2101で測定される水分が20ppm、絶縁破壊電圧が80kV、誘電正接(80℃)が0.002%、体積抵抗率(80℃)が50TΩ・m(テラオームメートル)であり、また、ASTM D2300で測定されるガス吸収性試験のガス吸収性は、−10μL/minであった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
潤滑油、電気絶縁油などに適した流動点などの低温特性に優れ、また、色相などの基本性能が十分である潤滑油基油の製造において、脱ろう触媒の活性が低下を抑制できるため、長期間、安定した操業が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油中間体を、第1の水素化処理触媒と水素の存在下で、油中の塩基性窒素分を20重量ppm以下、芳香族分を40重量%以下、かつ、全芳香族分中の一環芳香族分を70重量%以上、三環以上の芳香族分を2重量%以下とする第1の水素化処理を行い、
第1の水素化処理の流出油からアンモニアを分離した精製油とし、
この精製油を、ゼオライトを含有する水素化脱ろう触媒と水素の存在下、反応系中のアンモニア濃度100重量ppm以下で、流動点を−20℃以下とする水素化脱ろう処理を行う
潤滑油基油の製造方法。
【請求項2】
セーボルト色が0未満の請求項1記載の水素化脱ろう処理による脱ろう油を、第2の水素化処理触媒と水素の存在下で、セーボルト色を+15以上とする第2の水素化処理を行う
請求項1記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の潤滑油基油中間体が、原油を常圧蒸留した、または、常圧残渣油を減圧蒸留した留分であり、
この留分の10%留出温度が200〜400℃であり、90%留出温度が350〜500℃である
請求項1または2記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の潤滑油基油の製造方法による潤滑油基油を用いた電気絶縁油。
【請求項5】
請求項1記載の潤滑油基油の製造方法による潤滑油基油を用いた潤滑油。

【公開番号】特開2007−186638(P2007−186638A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7192(P2006−7192)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】