説明

潤滑油組成物

【課題】 金属疲労寿命を延長でき、さらに安定性にも優れた潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】(A)潤滑油基油に、(B)分子内にノルボルナン環を複数有する総炭素数15〜50の炭化水素化合物を組成物基準で2〜50質量%配合したことを特徴とする潤滑油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、より詳しくは、金属疲労寿命を延長する潤滑油組成物であって、各種潤滑油、中でも歯車用潤滑油や軸受用潤滑油、特に風力発電設備に使用する歯車用潤滑油や軸受用潤滑油として有用な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車や軸受においては、使用する潤滑油によってピッチングやスコーリングなどの金属疲労による寿命が左右されるため、摩擦・摩耗の低減とともに、金属疲労寿命を延長する潤滑油が開発され、使用されてきた(例えば、特許文献1〜3参照)。
しかし、近年益々潤滑油が使用される機械装置が小型化高速化され、機械装置を構成する金属同士の接触条件がより厳しくなってきているため、金属疲労による機械装置のトラブルが増加しつつある。また、最近注目され、増加してきている風力発電の発電設備に使用される歯車や軸受では、風による衝撃負荷によって金属疲労が特に発生しやすい条件下にあり、また設備の設置場所が遠隔地にあることが多いため、メインテナンスをするにも困難を伴う。
そのため、金属疲労寿命をさらに延長(向上)する潤滑油の出現が期待され、さらに安定性にも優れる潤滑油の出現が望まれている。
【0003】
【特許文献1】特開昭59−11397号公報
【特許文献2】特開平10−176178号公報
【特許文献3】特開平10−259393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような状況下でなされたもので、金属疲労寿命を延長でき、さらに安定性にも優れた潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定のノルボルナン化合物を配合することによって、その目的を達成できることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0006】
すなわち、本発明は、
〔1〕(A)潤滑油基油に、(B)分子内にノルボルナン環を複数有する総炭素数15〜50の炭化水素化合物を組成物基準で2〜50質量%配合したことを特徴とする潤滑油組成物、
〔2〕(B)の炭化水素化合物が、いずれも炭素数1〜6のアルキル基が置換してもよいアルケニル置換ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、アルキリデン置換ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、アルケニル置換ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、及びアルキリデン置換ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタンから選ばれた1種又は2種以上のオレフィン原料を二量化又はオリゴマー化し、さらに水素添加処理し得られる炭化水素化合物である前記〔1〕に記載の潤滑油組成物、
〔3〕(A)の潤滑油基油の40℃における動粘度が6〜80,000mm2/s、粘度指数が95以上である前記〔1〕又は〔2〕に記載の潤滑油組成物、
〔4〕さらに数平均分子量が1,500〜500,000のエチレン−α−オレフィン共重合体を配合したことを特徴とする前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の潤滑油組成物、
〔5〕アニリン点が60〜145℃である前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の潤滑油組成物、
〔6〕軸受用潤滑油又は歯車用潤滑油である前記〔1〕〜〔5〕に載の潤滑油組成物、及び
〔7〕風力発電装置の軸受用潤滑油又は歯車用潤滑油である前記〔6〕に載の潤滑油組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の潤滑油組成物は、歯車や軸受の金属疲労寿命を延長することができ、また潤滑油組成物自体の安定性も優れているので、各種の潤滑油、中でも軸受油や歯車油、特に風力発電設備用の軸受油や歯車油として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の潤滑油組成物について詳述する。
本発明に用いる(A)成分としての潤滑油基油としては、特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油、合成油、及びそれらの混合物が使用できる。
鉱油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化脱ろう、水素化精製等を行って精製したもの、あるいはワックスを異性化して得られた鉱油等が上げられる。
【0009】
また、合成油としては、例えば低分子量ポリブテン、低分子量ポリプロピレン、炭素数8〜14のα−オレフィンオリゴマー及びこれらの水素化物、さらにはポリオールエステル(トリメチロールプロパンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステルなど)や二塩基酸エステル、芳香族ポリカルボン酸エステル、リン酸エステルなどのエステル系化合物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどのアルキルアロマ系化合物、ポリアルキレングリコールなどのポリグリコール油、シリコーン油などが挙げられる。
本発明における潤滑油基油としては、上記鉱油、上記合成油又はこれらの中から選ばれる2種以上の任意混合物が使用できる。
【0010】
本発明において用いる潤滑油基油の動粘度は特に制限はないが、その40℃での動粘度は、6mm2/s以上であることが好ましく、20mm2/s以上であることがより好ましい。一方、その上限は、80,000mm2/s以下であることが好ましく、5,000mm2/s以下であることがより好ましい。潤滑油基油の40℃での動粘度が6mm2/s以上であれば、潤滑性が確保でき、また潤滑油基油の蒸発損失が問題になるない。一方、潤滑油基油の40℃での動粘度が80,000mm2/s以下であれば、潤滑剤として必要な流動性を確保することができる。
また、本発明に用いる潤滑油基油の粘度指数は、使用環境が低温から高温までに亘って優れた粘度特性が得られるように、その値は、95以上であることが好ましく、更に好ましくは100以上であり、特に好ましくは105以上である。
【0011】
本発明に用いる潤滑油基油のアニリン点については、150℃以下が好ましく、145℃以下がより好ましい。潤滑油基油のアニリン点が150℃以下であれば、組成物のアニリン点を目的の値に維持でき、潤滑油組成物の安定性を高めることができる。
本発明に用いる潤滑油基油の硫黄分については、特に制限はないが、50質量ppm以下、さらには30ppm以下、特に10ppm以下であることが好ましい。硫黄分が50質量ppm以下であれば、安定性が良好であり、腐食の問題も発生しない。
本発明に用いる潤滑油基油の芳香族分については、特に制限はないが5容量%以下、さらには3容量%以下、特に1容量%以下が好ましい。芳香族分が5容量%以下であれば、安定性が良好である。ここでいう芳香族分は、JIS K 2536に基づいて測定した値である。
これらの中で、特に好ましい潤滑油基油としては、40℃における動粘度が
6〜5,000mm2/sであり、かつ粘度指数が105以上のポリ−α−オレフィン又はその水素化物、水素化分解鉱油、ワックスを異性化して得られた鉱油が挙げられる。
【0012】
本発明の潤滑油組成物においては、(B)成分として、分子中にノルボルナン環を複数有する総炭素数15〜50の炭化水素化合物を用いる。
本発明におけるノルボルナン環とは、他の環と縮合したものを除く概念であって、いわゆる、非縮合ノルボルナン環をいう。本発明における炭化水素化合物は、このようなノルボルナン環を分子中に複数有するが、その数は2〜4個であるのが好ましく、特に、2〜3個有するものが好ましい。これら複数のノルボルナン環は、通常炭素数1〜3のアルキレン基、例えば、メチレン基、エチレン基、又はプロピレン基で結合している。また、各ノルボルナン環は、1個又は2個以上の炭素数1〜6のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などで置換されていてもよい。
【0013】
本発明に使用されるノルボルナン環を複数有する炭化水素化合物は、総炭素数が15〜50、好ましくは15〜30のものである。総炭素数が15〜50であれば、疲労寿命延長効果を高め、また安定性も優れていて、潤滑油基油に対する溶解性が良好である。また、この炭化水素化合物は、軟化点が30℃以下、さらには25℃以下、特に20℃以下(室温で液体)のが好ましい。軟化点が30℃以下であれば、潤滑油基油に対する溶解性が良好であり、疲労寿命延長効果も大きい。
また、同様の理由から、これらの炭化水素化合物の40℃における動粘度は、6〜80,000mm2/sであるものが好ましい。
【0014】
このような分子中にノルボルナン環を複数有する総炭素数が15〜30の炭化水素化合物としては、例えば、2−メチル−3−メチル−2[(3−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−イル)メチル]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3−メチル−2−[(3−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−イル)メチル]−2−[2,3−ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−イル]メチル]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2−〔(ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−イル)メチル〕−2−〔(2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−イル)メチル〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、及び2−〔(ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−イル)エチル〕−2−〔(2−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−イル)エチル〕ビシクロ[2.2.1]ヘプタンなどが挙げられる。本発明においては、これらの炭化水素化合物を一種を配合してもよく、二種以上を組み合わせて配合しても良い。
【0015】
上記分子中にノルボルナン環を複数有する総炭素数15〜50の炭化水素化合物の製造方法としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基が置換してもよい下記のオレフィンを原料とし、これを二量化又はオリゴマー化し、次いで水素化し、蒸留すればよい。
【0016】
そのようなオレフィン原料としては、例えば、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;ビニル置換あるいはイソプロペニル置換ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン等のアルケニル置換ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;メチレン置換,エチリデン置換あるいはイソプロピリデン置換ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン等のアルキリデン置換ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;ビニル置換あるいはイソプロペニル置換ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン等のアルケニル置換ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;メチレン置換,エチリデン置換あるいはイソプロピリデン置換ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン等のアルキリデン置換ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタンなどを挙げることができる。
【0017】
具体的には、例えば、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレンビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−3−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;3−メチレン−2−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2,3−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−7−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;3−メチレン−7−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2,7−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−5−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;3−メチレン−5−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2,5−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−6−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;3−メチレン−6−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2,6−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−1−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;3−メチレン−1−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;1,2−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−4−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;3−メチレン−4−メチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2,4−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−3,7−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;3−メチレン−2,7−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2,3,7−トリメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−3,6−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;3−メチレン−2,6−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2−メチレン−3,3−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;3−メチレン−2,2−ジメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2,3,6−トリメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン;2−メチレン−3−エチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;3−メチレン−2−エチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン;2−メチル−3−エチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エンなどを挙げることができる。
【0018】
上述のオレフィンの二量化又はオリゴマー化は、通常触媒の存在下で必要に応じて溶媒を添加して行う。ここで用いる触媒としては、通常、酸性触媒が使用される。具体的には、活性白土,ゼオライト,モンモリナイト,イオン交換樹脂等の固体酸、フッ化水素酸、ポリリン酸等の鉱酸類、トリフリック酸等の有機酸、塩化アルミニウム,塩化第二鉄,塩化第二スズ,三フッ化ホウ素,三フッ化ホウ素錯体,三臭化ホウ素,臭化アルミニウム,塩化ガリウム,臭化ガリウム等のルイス酸、トリエチルアルミニウム,塩化ジエチルアルミニウム,二塩化エチルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物などを挙げることができる。これらの触媒の使用量は、特に制限されないが、通常は原料オレフィンに対して0.1〜100重量%の範囲である。
【0019】
この二量化、オリゴマー化にあたっては、溶媒は必ずしも必要としないが、反応時の原料オレフィンや触媒の取り扱い上あるいは反応の進行を調節する上で用いることもできる。このような溶媒としては、各種ペンタン,各種ヘキサン,各種オクタン,各種ノナン,各種デカン等の飽和炭化水素、シクロペンタン,シクロヘキサン,メチルシクロサン,デカリン等の脂環式炭化水素、ジエチルエーテル,テトラヒドロフラン等のエーテル化合物、塩化メチレン,ジクロルエタン等のハロゲン含有化合物、ニトロメタン,ニトロベンゼン等のニトロ化合物などを挙げることができる。
【0020】
これら触媒等の存在下で二量化、オリゴマー化反応を行うが、その反応温度としては、一般に−70〜200℃の範囲である。その温度範囲で触媒の種類や添加剤等により適当な条件が設定されるが、反応圧力は通常常圧であり、反応時間については、通常0.5〜10時間である。
次に、このようにして得られた原料オレフィンの二量体又はオリゴマーを水素化し、目的とする二量体等の水素化物とする。なお、水素化は別々に別の原料オレフィンを使用して二量化した二量体を適度に混合したものについて行ってもよい。この水素化反応も、通常は触媒の存在下行うが、その触媒としては、ニッケル,ルテニウム,パラジウム,白金,ロジウム,イリジウム等の水添用触媒を挙げることができる。この触媒の使用量は、通常上記二量化生成物に対して0.1〜100重量%の範囲である。
【0021】
また、この水素化反応は、前記二量化、オリゴマー化反応と同様に、無溶媒下でも進行するが、溶媒を用いることもでき、その場合、溶媒としては、各種ペンタン,各種ヘキサン,各種オクタン,各種ノナン,各種デカン等の飽和炭化水素やシクロペンタン,シクロヘキサン,メチルシクロサン,デカリン等の脂環式炭化水素などを挙げることができる。
反応温度としては、通常20〜300℃、反応圧力については、常圧から200kg/cm2 Gの範囲で行うことができる。反応時間は、通常1〜10時間である。
【0022】
本発明の潤滑油組成物においては、前記(A)成分の潤滑油基油に、前記(B)成分である分子内にノルボルナン環を複数有する総炭素数15〜50の炭化水素化合物を組成物基準で2〜50質量%、好ましくは5〜30質量%、特に好ましくは10〜30質量%配合する。
(B)成分の配合量が組成物基準で2〜50質量%であれば、充分な金属疲労寿命向上効果が得られ、低温から高温に亘って適性粘度を保つことができる。
【0023】
本発明においては、上記(A)成分、及び(B)成分以外に、通常さらに、粘度指数向上剤、極圧剤・油性剤・耐摩耗剤、及びその他の公知の潤滑油添加剤を配合することができる。
粘度指数向上剤としては、数平均分子量が5,000〜200,000の分散型及び非分散型ポリメタクリレート、数平均分子量が1,500〜50,000のエチレン‐α‐オレフィン共重合体又はその水素化物、数平均分子量が1,500〜50,000のポリイソブチレン又はその水素化物などが挙げられる。これらの中でも、せん断安定性の点で、特に数平均分子量が2,500〜8,000のエチレン‐α‐オレフィン共重合体又はその水素化物が好ましい。
本発明においては、上記粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上を含有させることができ、その含有量は、通常潤滑油組成物基準でおよそ0.1〜30質量%である。
【0024】
極圧剤・油性剤・耐摩耗剤としては、例えば硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールアルキルポリスルフィド、ジアリールポリスルフィドなどの硫黄系化合物、リン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、アルキルハイドロゲンホスファイト、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩などのリン系化合物、塩素化油脂、塩素化パラフィン、塩素化脂肪酸エステル、塩素化脂肪酸などの塩素系化合物、アルキル若しくはアルケニルマレイン酸エステル、アルキル若しくはアルケニルコハク酸エステルなどのエステル系化合物、アルキル若しくはアルケニルマレイン酸、アルキル若しくはアルケニルコハク酸などの有機酸系化合物、ナフテン酸塩、ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)、硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエート(MoDTP)、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート(MoDTC)などの有機金属系化合物などが挙げられる。
これらの中で、リン酸エステルアミン塩と硫化オレフィンからなるSP系極圧剤が、耐摩耗性と極圧性のバランスの点で好ましい。本発明においては上記極圧剤・耐摩耗剤中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上を含有させることができ、その含有量は、通常潤滑油組成物基準でおよそ0.1〜10質量%である。
【0025】
その他公知の添加剤としては、例えば、ポリメタクリレートなどの流動点降下剤、アルケニルコハク酸やその部分エステルなどの防錆剤、ベンゾトリアゾールなどの金属腐食防止剤、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールやフェニル−α−ナフチルアミンなどのフェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤、シリコーン、フルオロシリコーンなどの消泡剤などを適宜含有させることができる。
【0026】
本発明の潤滑油組成物は、通常次の性状を有する。すなわち、
本発明の潤滑油組成物はアニリン点が145℃以下であることが好ましく、140℃以下がより好ましい。潤滑油組成物のアニリン点が145℃以下であれば、添加剤などの溶解性が良好であると同時に、劣化生成物に対する溶解性も高いため、潤滑油中のスラッジの生成を抑制でき、安定性を高める効果が得られる。
本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度については、粘度が高い方が潤滑性が高く金属疲労寿命向上効果も優れるが、動力損失が大きくなることがある。そのため、使用する潤滑部分にかかる荷重等の潤滑条件によって適正粘度は変動するものである。したがって、その潤滑条件を考慮して、通常およそ10〜2000mm2/sの範囲内で適正粘度を選定すればよい。
本発明の潤滑油組成物の粘度指数については、80以上、さらには90以上、特に95以上が好ましい。粘度指数が80以上であれば、使用環境が低温から高温までに亘って優れた粘度特性が得られる。
【0027】
本発明の潤滑油組成物は、金属疲労寿命を延長する効果があるため、各種潤滑油、中でも歯車用潤滑油や軸受用潤滑油として有用であり、またその中でも、より大きな金属疲労寿命延長効果と安定性が要求される風力発電設備に使用する歯車用潤滑油や軸受用潤滑油、特に風力発電用増速機に使用される軸受油として有効である。
【実施例】
【0028】
次に実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。なお、金属疲労寿命は次の方法に従って求めた。
〔潤滑油組成物の金属疲労寿命の評価方法〕
(1)実験方法
アンギュラー玉軸受により、転がり軸受疲労実験を行った。実験条件は以下のとおりである。
実験条件
回転数 :1800rpm
面圧 :3.8GPa
油温 :100℃
テストベアリング:7000A(JIS B 1513に規定する転がり軸受けの 型番:NSK製)
繰返回数 :6
(2)判定方法
疲労寿命をワイブル統計処理し、L50(hr)により評価した。
製造例1
12リットルのステンレス製オートクレーブに、クロトンアルデヒド561g(8mol)及びジシクロペンタジエン352g(2.67mol)を入れ、170℃で3時間反応させた。冷却後、ラネーニッケル触媒(川研ファインケミカル(株)社製M−300T)18gを入れ、水素圧9kg/cm2、反応温度150℃で4時間水素化を行った。冷却後、触媒を濾別し、濾液を減圧蒸留することによって105℃/20mmHg留分565gを得た。質量分析スペクトル及び核磁気共鳴スペクトルの分析により、この留分は、2−ヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタンと同定された。次に、外径20mm、長さ500mmの石英ガラス製流通式常圧反応管に、γ−アルミナ20g(日揮化学(株)社製N612N)を入れ、反応温度285℃、重量空間速度(WHSV)1.1hr-1で脱水反応を行ない、2−メチレン−3−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン及び2,3−ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンを含有する2−ヒドロキシメチル−3−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタンの脱水反応生成物を得た。次に、500ミリリットル4つ口フラスコに、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体4.0g、及び上記で得たオレフィン化合物200gを入れ、メカニカルスターラーを用いて攪拌しながら、20℃で6時間オリゴマー化反応を行った。この反応混合物を希水酸化ナトリウム水溶液と飽和食塩水で洗浄した後、1リットルのオートクレーブに水添用ニッケル/ケイソウ土触媒(日揮化学(株)社製N−113)6.0gを加え、水素化を行った。水素化の条件は、水素圧3MPa、反応温度250℃、反応時間5時間であった。反応終了後、濾過により触媒を除き、濾液を減圧蒸留することにより、沸点160〜163℃/1333Pa留分の2−メチル−3−メチル−2[(3−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−イル)メチル]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(以下、「流体1」という)145gと、沸点240〜250℃/1333Pa留分の3−メチル−2−[(3−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−イル)メチル]−2−[2,3−ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−イル)メチル]ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(以下「流体2」という)30gを得た。流体2(79重量%)と流体1(21重量%)とを混合したものを、製造例1とした。
この流体1、流体2の総炭素数は、それぞれ18と27、軟化点は、いずれも30℃以下、40℃の動粘度は、それぞれ17.01mm2/sと11,000mm2/sであった。
【0029】
実施例1〜4及び比較例1〜3
第1表に示した各化合物と配合量の40℃における動粘度が220〜230mm2/sの潤滑油組成物を調製し、その性状と性能を第1表に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例5、及び比較例4
第2表に示した各化合物(基油として鉱油系潤滑油を使用)と配合量の40℃における動粘度が320mm2/sの潤滑油組成物を調製し、その性状と性能を第2表に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
実施例6、及び比較例5,6
第3表に示した各化合物(基油として合成油系潤滑油を使用)と配合量の40℃における動粘度が320mm2/sの潤滑油組成物を調製し、その性状と性能を第3表に示す。
【0034】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の潤滑油組成物によれば、歯車や軸受の金属疲労寿命を延長することができ、また潤滑油組成物自体の安定性も優れているので、各種の潤滑油、特に、軸受油や歯車油、風力発電用増速機に使用する軸受油など、風力発電設備用の軸受油や歯車油として有効に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)潤滑油基油に、(B)分子内にノルボルナン環を複数有する総炭素数15〜50の炭化水素化合物を組成物基準で2〜50質量%配合したことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
(B)の炭化水素化合物が、いずれも炭素数1〜6のアルキル基が置換してもよいアルケニル置換ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、アルキリデン置換ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、アルケニル置換ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、及びアルキリデン置換ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタンから選ばれた1種又は2種以上のオレフィン原料を二量化又はオリゴマー化し、さらに水素添加し得られる炭化水素化合物である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
(A)の潤滑油基油の40℃における動粘度が6〜80,000mm2/s、粘度指数が95以上である請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
さらに数平均分子量が1,500〜500,000のエチレン−α−オレフィン共重合体を配合したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
アニリン点が60〜145℃である請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
軸受用潤滑油又は歯車用潤滑油である請求項1〜5のいずれかに載の潤滑油組成物。
【請求項7】
風力発電装置の軸受用潤滑油又は歯車用潤滑油である請求項6に記載の潤滑油組成物。


【公開番号】特開2006−152166(P2006−152166A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346763(P2004−346763)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】