説明

潤滑油組成物

【課題】MoDTCと無灰系摩擦調整剤の組み合わせによる、優れた摩擦低減効果とともに銅および鉛に対する高い腐食防止効果を併せもつ環境規制対応型の潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】(A)潤滑油基油、(B)硫化オキシモリブデンジチオカーバメート、(C)酸アミド化合物、(D)(d1)脂肪酸部分エステル化合物及び/または(d2)脂肪族アミン化合物および(E)特定のベンゾトリアゾール誘導体を含み、組成物全量基準で、(B)成分の含有量がモリブデン換算で0.02〜0.1質量%、(C)成分の含有量が0.2〜1.0質量%、(D)成分の含有量が0.2〜1.0質量%、(E)成分の含有量が0.02〜0.1質量%である内燃機関用潤滑油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用潤滑油組成物、さらに詳しくは、硫化オキシモリブデンジチオカーバメートと特定の無灰系摩擦調整剤を組み合わせて用いることで、金属材料への腐食防止効果および摩擦低減効果を向上させた内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球規模での環境規制はますます厳しくなり、特に自動車を取り巻く状況は、燃費規制、排ガス規制等厳しくなる一方である。この背景には地球温暖化等の環境問題と、石油資源の枯渇に対する懸念からの資源保護がある。以上の理由から自動車の省燃費化はますます進められると考えられる。自動車の省燃費化に関しては、自動車の軽量化、エンジンの改良等、自動車自体の改良と共にエンジンでの摩擦ロスを防ぐためのエンジン油の低粘度化、良好な摩擦調整剤の添加等、エンジン油の改善も重要となっている。しかし、このエンジン油の低粘度化はエンジン各部での摩耗の増大を引き起こす原因になるため、この低粘度化に伴う摩擦損失の低減や摩耗防止のために、ますます摩擦調整剤、極圧剤等が重要になっている。
【0003】
ところで、エンジン等の摺動材料は鉄系材料、アルミニウム系材料が主として使用されているが、メインベアリングやコンロッドベアリングなどの摺動部、例えば軸受けメタル等の材質には鉄系に限らずアルミニウム、銅、すず、鉛等と多岐にわたって使用されている。これら銅または鉛含有金属材料は、疲労現象が少ないという優れた特徴を有するが、一方では、腐食され易いという欠点がある。したがって、潤滑油やその添加剤に対しては、上記の摩擦損失の低減や摩耗防止とともに、各種金属材料に対する耐腐食性が求められている。
【0004】
上記のように潤滑油には種々の性能が求められており、このため一般に様々な添加剤が配合されている。しかし、このような複雑な成分中においてはある効果を目的として添加剤を配合しても必ずしも所望の効果が得られるものではない。また、目的の効果が得られたとしても他の性能において負の影響を与えることもあり、添加剤の組み合わせに関する検討は重要である。
【0005】
例えば、摩擦調製剤としては硫化オキシモリブデンジチオカーバメート(以下、MoDTCと略すことがある。)は、その摩擦低減効果の点で優れているが、一方でMoDTCのような硫黄含有化合物は銅、すず等に対して腐食性を有するため、これらの対策が必要になることが多い。
【0006】
金属の腐食に関しては、一般に金属の種類によってその腐食の条件やその容易性が異なるため、通常、金属ごとに対応が必要になる。例えば、金属不活性化剤としてベンゾトリアゾール誘導体が用いられるが、この配合により銅に対する腐食は抑制されるが、他の金属に対してはその効果は発揮されない。またジチオリン酸亜鉛(以下、ZnDTPと略すことがある。)の添加により鉛に対する腐食は抑制されるが、上記のMoDTCと同様にZnDTPもまた硫黄含有化合物であるため、銅、すず等に対する腐食性を有する。
【0007】
金属に対する腐食防止において、上記のような腐食防止剤の配合とは異なる方法が近年提案されている。例えば、特許文献1および2には無灰分散剤を最適化することで、鉛に対する腐食の抑制効果を導いており、これによりジチオリン酸亜鉛の含有量が低減された状態においても、鉛の腐食防止が達成されるとしている。
【0008】
しかし、上記文献に記載された潤滑油組成物は、鉛に対する腐食防止効果を向上させたものであり、硫黄含有化合物の使用に伴う銅に対する腐食を防止するものではない。したがって、上記文献に記載されている無灰分散剤の最適化技術では、MoDTCの配合に伴う銅に対する腐食を防ぐことはできず、優れた摩擦低減能を有するMoDTCの使用が制限されることに変わりはない。
【0009】
【特許文献1】特開2005−220197号公報
【特許文献2】特開2005−220199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような状況下でなされたものであり、MoDTCと無灰系摩擦調整剤および金属不活性化剤の組み合わせによる、優れた摩擦低減効果とともに銅および鉛に対する高い腐食防止効果を併せもつ環境規制対応型の潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、MoDTCに特定量の酸アミド化合物および金属不活性化剤を組み合わせることで、銅に対する高い腐食防止効果が得られることを見出した。またこの酸アミド化合物の配合により鉛に対する腐食性が高まるが、この望ましくない影響は、脂肪酸部分エステル化合物または脂肪族アミン化合物の配合により抑制されることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、(A)潤滑油基油、(B)一般式(I)
【化1】

{式(I)中、R1〜R4はそれぞれ独立に炭素数4〜22のヒドロカルビル基を表し、X1〜X4は、各々硫黄原子又は酸素原子を表す。}
で表される硫化オキシモリブデンジチオカーバメート、(C)酸アミド化合物、
(D)(d1)脂肪酸部分エステル化合物及び/または(d2)脂肪族アミン化合物、および(E)一般式(II)
【化2】

{式(II)中、R5、R6はそれぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子を含んでいてもよい炭素数1〜30のヒドロカルビル基である。}
で表されるベンゾトリアゾール誘導体を含み、
組成物全量基準で、(B)成分の含有量がモリブデン換算で0.02〜0.1質量%、(C)成分の含有量が0.2〜1.0質量%、(D)成分の含有量が0.2〜1.0質量%、(E)成分の含有量が0.02〜0.1質量%である内燃機関用潤滑油組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、(A)潤滑油基油、(B)硫化オキシモリブデンジチオカーバメート、(C)酸アミド化合物、(D)脂肪酸部分エステル化合物及び/または脂肪族アミン化合物及び(E)特定のベンゾトリアゾール誘導体を併用することにより、優れた摩擦低減効果とともに、銅および鉛に対する高い腐食防止効果を併せもつ、環境規制対応型の内燃機関用潤滑油組成物、具体的には、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンおよびガスエンジンなどの内燃機関に用いられる潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の潤滑油組成物は、(A)潤滑油基油、特定量の(B)硫化オキシモリブデンジチオカーバメート、特定量の(C)酸アミド化合物、特定量の(D)(d1)脂肪酸部分エステル化合物及び/または(d2)脂肪族アミン化合物、特定量の(E)特定のベンゾトリアゾール誘導体を配合することで得られ、これら(A)〜(E)成分を併用することを特徴とする。
【0014】
本発明の潤滑油組成物における(A)潤滑油基油については特に制限はなく、従来、内燃機関用潤滑油の基油として使用されている鉱油や合成油の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。
鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等の1つ以上の処理を行って精製した鉱油、あるいはワックス、GTL WAXを異性化することによって製造される鉱油等が挙げられる。
一方、合成油としては、例えば、ポリブテン、ポリオレフィン[α−オレフィン単独重合体や共重合体(例えばエチレン−α−オレフィン共重合体)など]、各種のエステル(例えば、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステルなど)、各種のエーテル(例えば、ポリフェニルエーテルなど)、ポリグリコール、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどが挙げられる。これらの合成油のうち、特にポリオレフィン、ポリオールエステルが好ましい。
本発明においては、基油として、上記鉱油は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記合成油を一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。さらには、鉱油一種以上と合成油一種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0015】
基油の粘度については特に制限はなく、潤滑油組成物の用途に応じて異なるが、通常100℃における動粘度が、通常2〜30mm2/s、好ましくは3〜15mm2/s、特に好ましくは4〜10mm2/sである。100℃における動粘度が2mm2/s以上であると蒸発損失が少なく、また30mm2/s以下であると、粘性抵抗による動力損失が抑制され、燃費改善効果が得られる。
【0016】
また、基油としては、環分析による%CAが3.0以下で硫黄分の含有量が50質量ppm以下のものが好ましく用いられる。ここで、環分析による%CAとは、環分析n−d−M法にて算出した芳香族分の割合(百分率)を示す。また、硫黄分はJIS K 2541に準拠して測定した値である。
%CAが3.0以下で、硫黄分が50質量ppm以下の基油は、良好な酸化安定性を有し、酸価の上昇やスラッジの生成を抑制しうると共に、金属に対する腐食性の少ない潤滑油組成物を提供することができる。
より好ましい%CAは1.0以下、さらには0.5以下であり、またより好ましい硫黄分は30質量ppm以下である。
さらに、基油の粘度指数は、70以上が好ましく、より好ましくは100以上、さらに好ましくは120以上である。この粘度指数が70以上の基油は、温度の変化による粘度変化が小さい。
【0017】
本発明の(B)硫化オキシモリブデンジチオカーバメートとしては下記の一般式(I)で表される化合物が用いられる。
【0018】
【化3】

【0019】
一般式(I)において、R1〜R4は炭素数4〜22の炭化水素基であり、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等である。これらの中でも、R1〜R4は炭素数4〜18の分枝鎖または直鎖のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、炭素数8〜13のアルキル基がより好ましい。例えば、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソノニル基、n−デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基等が挙げられる。これは、あまりに炭素数が少ないと油溶性に乏しくなるためであり、あまりに炭素数が多くなると融点が高くなりハンドリングが悪くなるとともに活性が低くなるためである。又、R1〜R4は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよいが、R1及びR2と、R3及びR4が異なるアルキル基であると、基油への溶解性、貯蔵安定性及び摩擦低減能の持続性が向上する。
又、一般式(I)においては、X1〜X4は各々硫黄原子又は酸素原子であり、X1〜X4の全てが硫黄原子あるいは酸素原子であってもよく、4つのX1〜X4がそれぞれ硫黄原子あるいは酸素原子であってもよいが、硫黄原子と酸素原子の比が、硫黄原子/酸素原子=1/3〜3/1、更には1.5/2.5〜3/1であるのが耐腐食性の面や、基油に対する溶解性を向上させる上で好ましい。
【0020】
本発明においては当該(B)成分は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、潤滑油組成物中の当該(B)成分の含有量は、(B)成分のモリブデン含有量が0.02〜0.1質量%、好ましくは0.03〜0.08となるように選定される。0.02質量%を下回ると、十分な摩擦低減効果が得られず、0.1質量%を上回ると、銅に対する腐食性が高まる。
【0021】
本発明の(C)酸アミド化合物は従来摩擦調製剤等として潤滑油組成物に用いられている酸アミド化合物が使用可能である。本発明においては(C)酸アミド化合物は、(B)MoDTCと組み合わせて用いることで、摩擦を低減する効果を有するとともに、銅材料に対する腐食を低減する効果も有する。
【0022】
(C)酸アミド化合物は、1〜4価のカルボン酸とアルキルアミンまたはアルカノールアミンを用いて得られる化合物である。
【0023】
上記1価のカルボン酸としては炭素数6〜30の炭化水素基を含むカルボン酸が好ましく、特に直鎖状または分岐状の飽和または不飽和の炭化水素基を有するカルボン酸が好ましい。このような1価のカルボン酸を構成する炭化水素基としては、例えば、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ペンタイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基及びトリアコンチル基等のアルキル基や、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基及びトリアコンテニル基等のアルケニル基や、二重結合を2つ以上有する炭化水素基等を挙げることができる。また、2〜4価のポリカルボン酸としてはシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等のポリカルボン酸が挙げられる。
【0024】
一方、上記アルキルアミン化合物としては、炭素数6〜30の直鎖状または分岐状の炭化水素基を有するアルキルアミン化合物が好ましく、該炭化水素基は上記のカルボン酸の炭化水素基として例示したものが挙げられる。
【0025】
さらに、上記アルカノールアミン化合物としては、炭素数2〜6のヒドロキシアルキル基を有するアルカノールアミン化合物が好ましい。
【0026】
摩擦低減効果および銅に対する腐食防止効果の点から、(C)酸アミド化合物は炭素数2〜6のヒドロキシアルキル基を有するアルカノールアミンと炭素数6〜30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有する1価脂肪酸の反応で得られる酸アミド化合物が好ましい。1価脂肪酸の炭化水素基の炭素数は、さらに好ましくは8〜24、特に好ましくは10〜20である。
【0027】
アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−イソプロピルエタノールアミン、N,N−ジイソプロピルエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−メチルイソプロパノールアミン、N,N−ジメチルイソプロパノールアミン、N−エチルイソプロパノールアミン、N,N−ジエチルイソプロパノールアミン、N−イソプロピルイソプロパノールアミン、N,N−ジイソプロピルイソプロパノールアミン、モノn−プロパノールアミン、ジn−プロパノールアミン、トリn−プロパノールアミン、N−メチルn−プロパノールアミン、N,N−ジメチルn−プロパノールアミン、N−エチルn−プロパノールアミン、N,N−ジエチルn−プロパノールアミン、N−イソプロピルn−プロパノールアミン、N,N−ジイソプロピルn−プロパノールアミン、モノブタノールアミン、ジブタノールアミン、トリブタノールアミン、N−メチルブタノールアミン、N,N−ジメチルブタノールアミン、N−エチルブタノールアミン、N,N−ジエチルブタノールアミン、N−イソプロピルブタノールアミン、N,N−ジイソプロピルブタノールアミン等が挙げられる。
【0028】
炭素数6〜30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有する1価脂肪酸としてはカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、およびリグノセリン酸等の飽和脂肪酸やミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、およびリノレン酸等の不飽和脂肪酸が挙げられ、その摩擦低減効果の点で不飽和脂肪酸が好ましい。
【0029】
上記アルカノールアミンと炭素数6〜30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有する1価脂肪酸の反応で得られる酸アミド化合物の好ましい例としては、オレイン酸モノエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、オレイン酸モノプロパノールアミド、オレイン酸ジプロパノールアミド等が挙げられる。
【0030】
本発明においては、(C)酸アミド化合物は、一種を単独で用いてよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は組成物全量基準で0.2〜1.0質量%、好ましくは0.25〜0.8質量%、さらに好ましくは0.3〜0.6質量%である。0.2質量%を下回ると摩擦低減効果および銅腐食防止効果ともに十分な効果が得られず、1.0質量%を上回るとそれに見合った効果が得られないだけでなく、鉛に対する腐食が目立つ結果になる。
【0031】
本発明の(D)(d1)脂肪酸部分エステル化合物および/または(d2)脂肪族アミン化合物は従来摩擦調製剤等として潤滑油組成物に用いられている化合物が使用可能である。本発明においては(D)成分は、(B)MoDTCおよび(C)酸アミド化合物と組み合わせて用いることで、鉛材料に対する腐食を低減する効果も有する。
【0032】
本発明の(d1)脂肪酸部分エステル化合物は、脂肪酸と脂肪族多価アルコールとの反応により得られる部分エステル化合物である。
【0033】
上記脂肪酸は好ましくは炭素数6〜30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有する脂肪酸であり、該炭化水素基の炭素数はより好ましくは8〜24、特に好ましくは10〜20である。
【0034】
炭素数6〜30の直鎖状又は分岐状炭化水素基としては、(C)酸アミド化合物の置換基として例示したものが挙げられ、脂肪酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、およびリグノセリン酸等の飽和脂肪酸やミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、およびリノレン酸等の不飽和脂肪酸が挙げられ、摩擦低減効果の点で不飽和脂肪酸が好ましい。
【0035】
上記脂肪族多価アルコールは2〜6価のアルコールであり、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられ、摩擦低減効果の点でグリセリンが好ましい。
【0036】
グリセリンと上記不飽和脂肪酸との反応で得られる脂肪酸部分エステル化合物としては、グリセリンモノミリストレート、グリセリンモノパルミトレート、グリセリンモノオレート等のモノエステルや、グリセリンジミリストレート、グリセリンジパルミトレート、グリセリンジオレート等のジエステルが挙げられ、モノエステルが好ましい。また、部分エステル化合物はケイ素化合物またはホウ素化合物との反応生成物も挙げられ、ホウ素化合物との反応物が好ましい。
【0037】
本発明の(d2)脂肪族アミン化合物は、好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数8〜24、特に好ましくは炭素数10〜20の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有するアミン化合物である。炭素数6〜30の直鎖状又は分岐状炭化水素基としては、(C)酸アミド化合物の置換基として例示したものが挙げられる。上記(d2)脂肪族アミン化合物としては、脂肪族モノアミン又はそのアルキレンオキシド付加物、アルカノールアミン、脂肪族ポリアミン、イミダゾリン化合物等を例示できる。具体的には、ラウリルアミン、ラウリルジエチルアミン、ラウリルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン、オレイルジエタノールアミン、及びN−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の脂肪族アミン化合物や、これら脂肪族アミン化合物のN,N−ジポリオキシアルキレン−N−アルキル(又はアルケニル)(炭素数6〜28)等のアミンアルキレンオキシド付加物が挙げられる。
【0038】
本発明においては、(D)成分としては、上記(d1)化合物または上記(d2)化合物は一種を単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。また、複数の(d1)化合物および/または複数の(d2)化合物を用いてもよい。(D)成分の配合量は、鉛腐食防止効果および摩擦低減効果の点から両成分の合計で0.2〜1.0質量%、好ましくは0.25〜0.8質量%、さらに好ましくは0.3〜0.6質量%である。0.2質量%を下回ると鉛腐食防止効果および摩擦低減効果ともに十分な効果が得られず、1.0質量%を上回ってもそれに見合う効果は得られない。
【0039】
本発明においては、金属不活性化剤として(E)一般式(II)で示されるベンゾトリアゾール誘導体を配合する。この配合により銅に対する腐食防止効果をさらに高めることができる。
【0040】
【化4】

【0041】
式(II)中、R5、R6はそれぞれ独立に、炭素数1〜30のヒドロカルビル基であり、好ましくは炭素数1〜20、さらには炭素数2〜18、特には炭素数3〜18のヒドロカルビル基が好ましい。該ヒドロカルビル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、また、酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子を含んでいてもよい。このR5およびR6は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0042】
上記(E)ベンゾトリアゾール誘導体はその効果の点から0.02〜0.1質量%、好ましくは0.03〜0.05質量%含まれる。また、(E)ベンゾトリアゾール誘導体を一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。さらには、他の金属不活性化剤を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明においては、(F)ジチオリン酸亜鉛を配合してもよく、この配合により耐摩耗性とともに鉛に対する腐食防止効果がさらに高まる。ジチオリン酸亜鉛としては、一般式(III)で示される化合物が挙げられる。
【0044】
【化5】

【0045】
一般式(III)において、R7、R8、R9およびR10は炭素数3〜22の第1級又は第2級のアルキル基または炭素数3〜18のアルキル基で置換されたアルキルアリール基から選ばれた置換基を表し、それらは互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0046】
本発明においては、これらのジチオリン酸亜鉛は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、特に、第2級のアルキル基のジチオリン酸亜鉛を主成分とするものが、耐摩耗性を高めるため好ましい。
ジチオリン酸亜鉛の具体例としては、ジプロピルジチオリン酸亜鉛、ジブチルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルジチオリン酸亜鉛、ジヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジイソペンチルジチオリン酸亜鉛、ジエチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジオクチルジチオリン酸亜鉛、ジノニルジチオリン酸亜鉛、ジデシルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルジチオリン酸亜鉛、ジプロピルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジプロピルメチルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジノニルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルフェニルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0047】
本発明の潤滑油組成物においては、(F)ジチオリン酸亜鉛の含有量は、組成物全量基準でリン換算で好ましくは0.02〜0.10質量%、さらに好ましくは0.03〜0.08質量%になるように配合される。このリン含有量が0.02質量%未満では、耐摩耗性や高温清浄性が十分でなく、0.10質量%を超えると、排気ガス触媒の触媒被毒が著しくなって好ましくない。
【0048】
本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて他の添加剤、例えば粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤、酸化防止剤、耐摩耗剤又は極圧剤、摩擦低減剤、分散剤、防錆剤、界面活性剤又は抗乳化剤、消泡剤などを適宜配合することができる。
【0049】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体など)などが挙げられる。
これら粘度指数向上剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.5〜15質量%程度であり、好ましくは1〜10質量%である。
【0050】
流動点降下剤としては、例えば重量平均分子量が5000〜50,000程度のポリメタクリレートなどが挙げられる。
【0051】
清浄分散剤としては、無灰分散剤および/または金属系清浄剤を用いることができる。無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤を用いることができるが、例えば、一般式(IV)で表されるモノタイプのコハク酸イミド化合物、または一般式(V)で表されるビスタイプのコハク酸イミド化合物が挙げられる。
【0052】
【化6】

【0053】
一般式(IV)、(V)において、R11、R13及びR14は、それぞれ数平均分子量500〜3,000のアルケニル基若しくはアルキル基で、R13及びR14は同一でも異なっていてもよい。R11、R13及びR14の数平均分子量は好ましくは1,000〜3,000である。また、R12、R15及びR16は、それぞれ炭素数2〜5のアルキレン基で、R15及びR16は同一でも異なっていてもよく、rは1〜10の整数を示し、sは0又は1〜10の整数を示す。
上記R11、R13及びR14の数平均分子量が500未満であると、基油への溶解性が低下し、3,000を超えると、清浄性が低下し、目的の性能が得られないおそれがある。また、上記rは、好ましくは2〜5、より好ましくは3〜4である。rが1未満であると、清浄性が悪化し、rが11以上であると、基油に対する溶解性が悪くなる。
一般式(V)において、sは好ましくは1〜4、より好ましくは2〜3である。上記範囲内であれば、清浄性および基油に対する溶解性の点で好ましい。アルケニル基としては、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン−プロピレン共重合体を挙げることができ、アルキル基としてはこれらを水添したものである。
好適なアルケニル基の代表例としては、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基が挙げられる。ポリブテニル基は、1−ブテンとイソブテンの混合物あるいは高純度のイソブテンを重合させたものとして得られる。また、好適なアルキル基の代表例としては、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基を水添したものである。
【0054】
上記のアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物は、通常、ポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるアルケニルコハク酸無水物、又はそれを水添して得られるアルキルコハク酸無水物を、ポリアミンと反応させることによって製造することができる。
【0055】
上記のモノタイプのコハク酸イミド化合物及びビスタイプのコハク酸イミド化合物は、アルケニルコハク酸無水物若しくはアルキルコハク酸無水物とポリアミンとの反応比率を変えることによって製造することができる。
上記ポリオレフィンを形成するオレフィン単量体としては、炭素数2〜8のα−オレフィンの一種又は二種以上を混合して用いることができるが、イソブテンとブテン−1の混合物を好適に用いることができる。
一方、ポリアミンとしては、エチレンジアミン,プロピレンジアミン,ブチレンジアミン,ペンチレンジアミン等の単一ジアミン、ジエチレントリアミン,トリエチレンテトラミン,テトラエチレンペンタミン,ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、ペンタペンチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミン、アミノエチルピペラジン等のピペラジン誘導体を挙げることができる。
【0056】
また、上記のアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物の他に、そのホウ素誘導体、及び/又はこれらを有機酸で変性したものを用いてもよい。アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物のホウ素誘導体は、常法により製造したものを使用することができる。
例えば、上記のポリオレフィンを無水マレイン酸と反応させてアルケニルコハク酸無水物とした後、更に上記のポリアミンと酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステル、ホウ素酸のアンモニウム塩等のホウ素化合物を反応させて得られる中間体と反応させてイミド化させることによって得られる。
このホウ素誘導体中のホウ素含有量には特に制限はないが、ホウ素として、通常0.05〜5質量%、好ましくは0.1〜3質量%である。
【0057】
これらコハク酸イミド化合物の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.5〜15質量%、好ましくは1〜10質量%である。0.5質量%を下回ると、その効果が発揮されにくく、また15質量%を上回ってもその添加に見合った効果は得られない。さらにコハク酸イミド化合物は鉛に対して腐食性を有するため、必要以上の量を含有することは好ましくなく、潤滑油の酸化安定性や金属腐食の防止も同時に達成するためには、イミド化合物の適切な選択が必要になる。この観点から好ましいコハク酸イミド化合物は、数平均分子量1500以上のポリブテニル基を含有するビスタイプのポリブテニルコハク酸イミド化合物であり、コハク酸イミド化合物の総窒素量に対して好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上配合することにより、鉛に対する腐食性を抑えることができる。また、コハク酸イミド化合物は、上記の規定量を含有する限り、単独または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
金属系清浄剤としては、潤滑油に用いられる任意のアルカリ土類金属系清浄剤が使用可能であり、例えば、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート及びこれらの中から選ばれる2種類以上の混合物等が挙げられる。アルカリ土類金属スルフォネートとしては、分子量300〜1,500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルフォン酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が好ましく用いられる。アルカリ土類金属フェネートとしては、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が特に好ましく用いられる。アルカリ土類金属サリシレートとしては、アルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が好ましく用いられる。前記アルカリ土類金属系清浄剤を構成するアルキル基としては、炭素数4〜30のものが好ましく、より好ましくは6〜18の直鎖又は分枝アルキル基であり、これらは直鎖でも分枝でもよい。これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよい。また、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート及びアルカリ土類金属サリシレートとしては、前記のアルキル芳香族スルフォン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物、アルキルサリチル酸等を直接、マグネシウム及び/又はカルシウムのアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性アルカリ土類金属スルフォネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートだけでなく、中性アルカリ土類金属スルフォネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートと過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属スルフォネート、塩基性アルカリ土類金属フェネート及び塩基性アルカリ土類金属サリシレートや、炭酸ガスの存在下で中性アルカリ土類金属スルフォネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートをアルカリ土類金属の炭酸塩又はホウ酸塩を反応させることにより得られる過塩基性アルカリ土類金属スルフォネート、過塩基性アルカリ土類金属フェネート及び過塩基性アルカリ土類金属サリシレートも含まれる。
【0059】
本発明において金属系清浄剤としては、上記の中性塩、塩基性塩、過塩基性塩及びこれらの混合物等を用いることができ、特に過塩基性サリチレート、過塩基性フェネート、過塩基性スルフォネートの1種以上と中性スルフォネートとの混合がエンジン内部の清浄性、耐摩耗性において好ましい。
【0060】
金属系清浄剤は、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
【0061】
本発明において、金属系清浄剤の全塩基価は、通常10〜500mgKOH/g、好ましくは15〜450mgKOH/gであり、これらの中から選ばれる1種または2種以上併用することができる。なお、ここでいう全塩基価とは、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)による全塩基価を意味する。
【0062】
また、本発明の金属系清浄剤としては、その金属比に特に制限はなく、通常20以下のものを1種または2種以上混合して使用できるが、好ましくは、金属比が3以下、より好ましく1.5以下、特に好ましくは1.2以下の金属系清浄剤を必須成分とすることが、酸化安定性や塩基価維持性及び高温清浄性等により優れるため特に好ましい。なお、ここでいう金属比とは、金属系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(mol%)/せっけん基含有量(mol%)で表され、金属元素とはカルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはスルホン酸基、フェノール基及びサリチル酸基等を意味する。
【0063】
本発明において、金属系清浄剤の含有量は、通常金属元素換算量で1質量%以下であり、0.5質量%以下であることが好ましく、さらに組成物の硫酸灰分を1.0質量%以下に低減するためには、0.25質量%以下とするのが好ましい。また、金属系清浄剤の含有量は、金属元素換算量で0.005質量%以上であり、好ましくは0.01質量%以上であり、酸化安定性や塩基価維持性、高温清浄性をより高めるためには、より好ましくは0.05質量%以上であり、特に0.08質量%以上とすることでより長期間塩基価及び高温清浄性を維持できる組成物を得ることができるため、特に好ましい。なお、ここでいう硫酸灰分とは、JIS K 2272の5.「硫酸灰分試験方法」に規定される方法により測定される値を示し、主として金属含有添加剤に起因するものである。
【0064】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、モリブデンアミン錯体系酸化防止剤等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、例えば4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール);2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール);2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール;2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール;2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール;2,6−ジ−t−アミル−p−クレゾール;2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール);4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール);ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)スルフィド;ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド;n−オクチル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート;n−オクタデシル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート;2,2’−チオ[ジエチル−ビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。これらの中で、特にビスフェノール系及びエステル基含有フェノール系のものが好適である。
【0065】
また、アミン系酸化防止剤としては、例えばモノオクチルジフェニルアミン;モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系、4,4’−ジブチルジフェニルアミン;4,4’−ジペンチルジフェニルアミン;4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン;4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン;4,4’−ジオクチルジフェニルアミン;4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系、テトラブチルジフェニルアミン;テトラヘキシルジフェニルアミン;テトラオクチルジフェニルアミン;テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系、及びナフチルアミン系のもの、具体的にはα−ナフチルアミン;フェニル−α−ナフチルアミン;さらにはブチルフェニル−α−ナフチルアミン;ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン;オクチルフェニル−α−ナフチルアミン;ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのアルキル置換フェニル−α−ナフチルアミンなどが挙げられる。これらの中でジアルキルジフェニルアミン系及びナフチルアミン系のものが好適である。
【0066】
モリブデンアミン錯体系酸化防止剤としては、6価のモリブデン化合物、具体的には三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸とアミン化合物とを反応させてなるもの、例えば特開2003−252887号公報に記載の製造方法で得られる化合物を用いることができる。
6価のモリブデン化合物と反応させるアミン化合物としては特に制限されないが、具体的には、モノアミン、ジアミン、ポリアミン及びアルカノールアミンが挙げられる。より具体的には、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン等の炭素数1〜30のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルキルアミン;エテニルアミン、プロペニルアミン、ブテニルアミン、オクテニルアミン、及びオレイルアミン等の炭素数2〜30のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルケニルアミン;メタノールアミン、エタノールアミン、メタノールエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン等の炭素数1〜30のアルカノール基(これらのアルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルカノールアミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、及びブチレンジアミン等の炭素数1〜30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン;ウンデシルジエチルアミン、ウンデシルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、オレイルプロピレンジアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン等の上記モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物やイミダゾリン等の複素環化合物;これらの化合物のアルキレンオキシド付加物;及びこれらの混合物等が例示できる。また、特公平3−22438号公報及び特開2004−2866公報に記載されているコハク酸イミドの硫黄含有モリブデン錯体等が例示できる。
【0067】
耐摩耗剤としては、ジチオカルバミン酸亜鉛、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、硫化エステル類、チオカーボネート類、チオカーバメート類等の硫黄含有化合物;亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、ホスホン酸エステル類、およびこれらのアミン塩または金属塩等のリン含有化合物;チオ亜リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、チオホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩または金属塩等の硫黄及びリン含有摩耗防止剤が挙げられる。
【0068】
他の摩擦調製剤としては、潤滑油用の摩擦調製剤として通常用いられている任意の化合物が使用可能であり、例えば炭素数6〜30のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤が挙げられる。
【0069】
防錆剤としては、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。これら防錆剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.01〜1質量%程度であり、好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0070】
界面活性剤又は抗乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0071】
消泡剤としては、シリコーン油、フルオロシリコーン油及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられ、消泡効果および経済性のバランスなどの点から、組成物全量に基づき、0.005〜0.1質量%程度含有させることが好ましい。
【0072】
本発明の潤滑油組成物においては、硫黄含有量0.3質量%以下であることが好ましい。硫黄含有量が0.3質量%以下であれば、排出ガスを浄化する触媒の性能低下を抑えることができ、より好ましい硫黄含有量は0.2質量%以下である。
リン含有量は0.1質量%以下であることが好ましい。リン含有量が0.1質量%以下であれば、排出ガスを浄化する触媒の性能低下を抑えることができる。
また、硫酸灰分は0.6質量%以下であることが好ましい。硫酸灰分が0.6質量%以下であれば、前記と同様に、排出ガスを浄化する触媒の性能低下を抑えることができる。また、ディーゼルエンジンにおいては、DPFのフィルタに堆積する灰分量が少なく、該フィルタの灰分詰まりが抑制され、DPFの寿命が長くなる。なお、ここでいう硫酸灰分とは、JIS K 2272の5.「硫酸灰分試験方法」に規定される方法により測定される値を示し、主として金属含有添加剤に起因するものである。
【0073】
本発明の潤滑油組成物は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジンなどの内燃機関に用いられる潤滑油組成物であって、優れた摩擦低減効果とともに銅および鉛に対する高い腐食防止性を有する。さらに、リン含有量及び硫酸灰分の少ない環境規制対応型の潤滑油組成物である。
【実施例】
【0074】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0075】
第1表に示す組成および配合量の潤滑油組成物を調製し、金属腐食試験を行った。試験結果および潤滑油組成物の性状を第2表に示す。なお、潤滑油組成物の調製に用いた各成分は、次のとおりである。
(1)基油A:水素化精製基油、40℃動粘度21mm2/s、100℃動粘度4.5mm2/s、粘度指数127、%CA0.1以下、硫黄含有量20質量ppm未満、NOACK蒸発量13.3質量%
(2)基油B:ポリα−オレフィン、40℃動粘度17.5mm2/s、100℃動粘度3.9mm2/s、粘度指数120、NOACK蒸発量14.9質量%
(3)基油C:ポリα−オレフィン、40℃動粘度28.8mm2/s、100℃動粘度5.6mm2/s、粘度指数136、NOACK蒸発量6.0質量%
(4)モリブデンジチオカーバメート:サクラルーブ515(株式会社ADEKA製)、Mo含有量10.0質量%、硫黄含有量11.5質量%
(5)アミド系摩擦調整剤:オレイン酸ジエタノールアミド
(6)エステル系摩擦調整剤:グリセリンモノオレート
(7)アミン系摩擦調整剤:キクルーブFM910(株式会社ADEKA製)
(8)ジチオリン酸亜鉛:Zn含有量9.0質量%、リン含有量8.2質量%、硫黄含有量17.1質量%、アルキル基;第2級ブチル基と第2級ヘキシル基の混合物
(9)金属不活性化剤:1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール
(10)粘度指数向上剤A:ポリメタクリレート、重量平均分子量420,000、樹脂量39質量%
(11)粘度指数向上剤B:スチレン−イソブチレン共重合体、重量平均分子量583,500、樹脂量10質量%
(12)フェノール系酸化防止剤:オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート
(13)アミン系酸化防止剤:ジアルキルジフェニルアミン、窒素含有量4.62質量%
(14)モリブデンアミン系酸化防止剤:サクラルーブS−710(株式会社ADEKA製)モリブデン含有量10質量%
(15)金属系清浄剤(A):過塩基性カルシウムフェネート、塩基価(過塩素酸法)255mgKOH/g、カルシウム含有量9.3質量%、硫黄含有量3.0質量%
(16)金属系清浄剤(B):過塩基製カルシウムサリシレート、塩基価(過塩素酸法)225mgKOH/g、カルシウム含有量7.8質量%、硫黄含有量0.3質量%
(17)金属系清浄剤(C):カルシウムスルホネート、塩基価(過塩素酸法)17mgKOH/g、カルシウム含有量2.4質量%、硫黄含有量2.8質量%
(18)無灰分散剤A:ポリブテニルコハク酸モノイミド(ポリブテニル基の数平均分子量1000、窒素含有量1.76質量%、ホウ素含有量2.0質量%)
(19)無灰分散剤B:ポリブテニルコハク酸モノイミド(ポリブテニル基の数平均分子量1000、窒素含有量1.23質量%、ホウ素含有量1.3質量%)
(20)無灰分散剤C:ポリブテニルコハク酸ビスイミド(ポリブテニル基の数平均分子量2000、窒素含有量0.99質量%)
(21)その他の添加剤:防錆剤、抗乳化剤および消泡剤
【0076】
基油および潤滑油の性状は以下の試験により行った。
(基油の性状)
動粘度:JIS K2283に準拠して測定した。
粘度指数:JIS K2283に準拠して測定した。
%CA:環分析n−d−M法にて算出した。
NOACK蒸発量:JPI−5S−41−2004に準拠して250℃、1時間の条件で蒸発量を測定した。
(潤滑油組成物の性状)
リン含有量:JPI−5S−38−92に準拠して測定した。
硫酸灰分:JIS K2272に準拠して測定した。
【0077】
〔腐食試験〕
ガラス製試験管に試験油100mlを取り、銅板(75mm×12.5mm×2.5mm)および鉛板(25mm×25mm×1.0mm)を研磨し、試験油に浸漬させ、腐食試験を行った。試験は、油温135℃で空気を5L/hrの流量で吹き込みながら、168時間行った。その結果を、(1)銅板の変色度合い(2)銅の溶出量(3)鉛の溶出量で評価した。本試験では銅の変色が変色番号で2以下、銅及び鉛の溶出量がそれぞれ20ppmおよび100ppm以下の結果であれば、耐腐食性の良好なオイルであると判断した。なお、評価の基準は以下の規定に基づいて行った。
銅板の変色度合い:JIS K2513に規定されている銅板の判定方法に準拠して行った。
銅の溶出量:JPI−5S−38−92に準拠して行った。
鉛の溶出量:JPI−5S−38−92に準拠して行った。
【0078】
【表1】

【0079】
実施例1〜5の潤滑油組成物においては銅および鉛に対する腐食性が抑制されている。一方、比較例1はアミド系摩擦調整剤、エステル系摩擦調整剤、アミン系摩擦調整剤をいずれも含有しない潤滑油組成物であり、MoDTCの銅に対する腐食が目立つ結果になっている。一方上記摩擦調整剤の中でアミド系摩擦調整剤のみを配合した比較例2または5においては、比較例1と比べると銅に対する腐食に関しては改善されているものの、鉛に対する腐食をより高めている。またエステル系摩擦調整剤またはアミン系摩擦調整剤のみを配合した比較例3、4においては銅に対する腐食の改善は見られない。比較例6はアミド系摩擦調整剤、エステル系摩擦調整剤は含有するものの銅不活性化剤を含有しない潤滑油組成物であり、銅に対する腐食が悪化している。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の潤滑油組成物は、優れた摩擦低減効果とともに銅および鉛に対する高い腐食防止性を有する。さらに、リン含有量及び硫酸灰分の少ない環境規制対応型の潤滑油組成物であり、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジンなどの内燃機関に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)潤滑油基油、(B)一般式(I)
【化1】

{式(I)中、R1〜R4はそれぞれ独立に炭素数4〜22のヒドロカルビル基を表し、X1〜X4は、各々硫黄原子又は酸素原子を表す。}
で表される硫化オキシモリブデンジチオカーバメート、(C)酸アミド化合物、
(D)(d1)脂肪酸部分エステル化合物及び/または(d2)脂肪族アミン化合物、および(E)一般式(II)
【化2】

{式(II)中、R5、R6はそれぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子を含んでいてもよい炭素数1〜30のヒドロカルビル基である。}
で表されるベンゾトリアゾール誘導体を含み、
組成物全量基準で、(B)成分の含有量がモリブデン換算で0.02〜0.1質量%、(C)成分の含有量が0.2〜1.0質量%、(D)成分の含有量が0.2〜1.0質量%、(E)成分の含有量が0.02〜0.1質量%である内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
(F)一般式(III)
【化3】

{式(III)中、R7、R8、R9およびR10はそれぞれ独立に炭素数3〜22の第1級又は第2級のアルキル基、炭素数3〜18のアルキル基で置換されたアルキルアリール基から選ばれる置換基を表す。}
で表されるジチオリン酸亜鉛を含有する請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項3】
リン含有量が組成物基準で0.1質量%以下および硫酸灰分が0.6質量%以下である請求項1または2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2008−106199(P2008−106199A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292738(P2006−292738)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】