説明

潤滑油組成物

【課題】低リン分、低硫酸灰分であっても耐デポジット性、耐腐食性及び耐摩耗性に優れる潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】コハク酸イミド化合物と、ビス(n−オクトキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(トリデシルオキシカルボニルエチル)スルフィド、2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、2,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、5−(8−ヘプタデセニル)−3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、5−(8−ヘプタデセニル)−3−アミノ−1,2,4−トリアゾールのホウ酸反応物などの特定の硫黄含有化合物、特定の複素環化合物及びその反応生成物から選択される1種以上を併用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関する。さらに詳しくは、特にガソリンエンジン、ディーゼルエンジン及びガスエンジン等の内燃機関に有用な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の自動車等のエンジンには、排出ガスを清浄化するために酸化触媒、三元触媒、NOx吸蔵型還元触媒、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)等が使用されている。これらの排出ガス浄化装置は、エンジン油中の金属分、リン分、硫黄分によって悪影響を受けることが知られており、これらの成分を低減することが装置の劣化対策の上から必要とされている。
【0003】
ところで、従来、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジンなどに用いる内燃機関用潤滑油の耐摩耗剤兼酸化防止剤として、ジチオリン酸亜鉛(Zn−DTP)が長年使用されており、現在も内燃機関用潤滑油の重要な必須添加剤と考えられている。
しかし、ジチオリン酸亜鉛は、分解すると硫酸やリン酸を発生するため、エンジン油中の塩基性化合物を消耗して潤滑油の劣化を促進し、更油期間を極端に短くすることがある。また、ジチオリン酸亜鉛は高温条件でスラッジ化し、エンジン内部の清浄性を悪化することがある。さらに、ジチオリン酸亜鉛は分子中に金属分(亜鉛)とともに、リン分および硫黄分を多量に含んでいることから、排出ガス浄化装置への悪影響の原因となることが考えられる。したがって、ジチオリン酸亜鉛を使用しなくても耐摩耗性に優れる潤滑油組成物の開発が望まれる。
【0004】
これらの課題を解決する目的で、従来から各種潤滑油用添加剤や潤滑油組成物が提案されている。例えば、特許文献1〜3には特定の構造を有するジスルフィド化合物を主成分とする潤滑油用添加剤や潤滑油組成物が記載されている。また、特許文献4には、潤滑剤添加剤としてトリアジン化合物が記載されている。さらに、特許文献5には、チアジアゾール化合物を含有する潤滑油が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−262964号公報
【特許文献2】特開2004−262965号公報
【特許文献3】特開2008−056876号公報
【特許文献4】特開平1−153681号公報
【特許文献5】特開2004−238514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、各種潤滑油用添加剤や潤滑油組成物の開発がこれまでに行われてきたが、潤滑油に関しては、触媒被毒に関する性能、耐摩耗性および摩擦低減効果等多数の要求性能を同時に満たすことが通常求められるため、上記文献に記載される潤滑油組成物も十分なものとはいえなかった。特にジチオリン酸亜鉛は耐摩耗性や酸化防止性を向上させる際に非常に有用な添加剤であったため、当該化合物を使用することなく従来と同等またはそれ以上の性能を有する潤滑油組成物を得ることは困難であった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、低リン分、低硫酸灰分であっても耐デポジット性、耐腐食性及び耐摩耗性に優れる潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、コハク酸イミド化合物と、特定の硫黄含有化合物、特定の複素環化合物及びその反応生成物から選択される1種以上とを併用することにより上記目的を達成し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、
1.基油に、コハク酸イミド化合物と、下記(A)〜(C)から選択される1種以上とを配合してなる潤滑油組成物、
(A)下記一般式(I)で表される硫黄含有化合物。
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子;アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基およびアリール基から選ばれる炭素数1〜50の炭化水素基;またはこれらの炭化水素基中に酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれる原子を含んでなる炭素数1〜50のヘテロ原子含有基を表す。Yはそれぞれ独立に、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−(C=O)O−、−(C=O)NH−、−O(C=O)NH−、−C(=O)−、−N(H)−、−NHCONH−、−N=N−、−NH−C(=NH)−NH−、−S−C(=O)−、−NH−C(=S)−および−NH−C(=S)−NH−から選ばれる二価の基を表す。X1は1〜3の整数であり、nはそれぞれ独立に1〜5の整数である。)
(B)下記一般式(II)で表される硫黄含有化合物。
【化2】

(式中、R3〜R12はそれぞれ独立に、水素原子;アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基およびアリール基から選ばれる炭素数1〜50の炭化水素基;またはこれらの炭化水素基中に酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれる原子を含んでなる炭素数1〜50のヘテロ原子含有基を表す。Yはそれぞれ独立に、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−(C=O)O−、−(C=O)NH−、−O(C=O)NH−、−C(=O)−、−N(H)−、−NHCONH−、−N=N−、−NH−C(=NH)−NH−、−S−C(=O)−、−NH−C(=S)−および−NH−C(=S)−NH−から選ばれる二価の基を表す。X2は1〜3の整数である。)
(C)下記一般式(III)で表される環状部分に二重結合を有していてもよい複素環化合物、あるいは該複素環化合物と、ホウ素化合物、モリブデン化合物及びケイ素化合物から選ばれる化合物との反応生成物。
【化3】

(一般式(III)中、X1、X2、X3及びX4は、それぞれ独立にNもしくはNH、O又はSを、pは0又は1を示す。x及びyは、それぞれ独立に0〜2の整数、u及びrは、それぞれ独立に0〜3の整数、t及びwは、それぞれ独立に0〜3の整数を示す。pが0の場合、vは0〜5の整数を示し、pが1の場合、vは0〜3の整数を示す。n及びmは、それぞれ独立に0又は1、kは0〜3の整数を示し、pが0の場合、x、y、n、m及びvは同時に0にはならない。R13〜R16は、それぞれ独立に炭素原子に結合する水素原子;炭素数1〜50の炭化水素基;アミノ基、アミド基、エーテル基、チオエーテル基、ジチオエーテル基及びカルボキシル基の中から選ばれる炭素数1〜50の官能基;あるいは該官能基の中から選ばれる少なくとも一種の置換基を有する全炭素数1〜150の炭化水素基を示し、pが0の場合、R13及びR14は同時に水素原子になることはなく、pが1の場合、R13〜R16は同時に水素原子になることはない。Y1及びY2は、それぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;アミノ基、アミド基、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基及びエーテル基の中から選ばれる炭素数1〜50の官能基;あるいは該官能基の中から選ばれる少なくとも一種の官能基を有していてもよい全炭素数が1〜150の炭化水素基又はヘテロ環を示す。)
2.リン含有量が0.5質量%以下であり、かつ、硫酸灰分が0.6質量%以下である上記1記載の潤滑油組成物、
3.リン含有量が0質量%であり、かつ、硫酸灰分が0.1質量%以下である上記1又は2記載の潤滑油組成物、
4.前記一般式(I)において、X1が1である上記1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物、及び
5.後処理装置が装着されたエンジンに用いられる上記1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低リン分、低硫酸灰分であっても耐デポジット性、耐腐食性及び耐摩耗性に優れる潤滑油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の潤滑油組成物は、基油に、コハク酸イミド化合物と、下記(A)〜(C)から選択される1種以上とを配合してなることを特徴とする。
【0011】
〔基油〕
本発明において用いる基油としては、特に制限はなく、従来、潤滑油の基油として使用されている鉱油や合成油の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。
前記鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等のうちの1つ以上の処理を行って精製した鉱油、あるいはワックスや、GTL WAXを異性化することによって製造される鉱油等が挙げられる。
【0012】
一方、前記合成油としては、例えば、ポリブテン、ポリオレフィン[α−オレフィン単独重合体や共重合体(例えばエチレン−α−オレフィン共重合体)など]、各種のエステル(例えば、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステルなど)、各種のエーテル(例えば、ポリフェニルエーテルなど)、ポリグリコール、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどが挙げられる。これらの合成油のうち、特にポリオレフィン、ポリオールエステルが好ましい。
本発明においては、基油として、前記鉱油は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記合成油を一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。更には、鉱油一種以上と合成油一種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0013】
基油の粘度については特に制限はないが、100℃における動粘度が、2〜30mm2/sの範囲であることが好ましく、より好ましくは3〜15mm2/sの範囲、さらに好ましくは4〜10mm2/sの範囲である。
100℃における動粘度が2mm2/s以上であると蒸発損失が少なく、また30mm2/s以下であると、粘性抵抗による動力損失が抑制され、燃費改善効果が得られる。
【0014】
また、基油としては、環分析による%CAが3.0以下で硫黄分の含有量が50質量ppm以下のものが好ましく用いられる。ここで、環分析による%CAとは、環分析n−d−M法にて算出した芳香族分の割合(百分率)を示す。また、硫黄分はJIS K 2541に準拠して測定した値である。
%CAが3.0以下で、硫黄分が50質量ppm以下の基油は、良好な酸化安定性を有し、酸価の上昇やスラッジの生成を抑制しうる潤滑油組成物を提供することができる。より好ましい%CAは1.0以下、さらには0.5以下であり、またより好ましい硫黄分は30質量ppm以下である。
【0015】
さらに、基油の粘度指数は、70以上が好ましく、より好ましくは100以上、さらに好ましくは120以上である。この粘度指数が70以上の基油は、温度の変化による粘度変化が小さい。
【0016】
〔コハク酸イミド化合物〕
本発明におけるコハク酸イミド化合物としては、例えば、下記一般式(IV)で表されるモノタイプのコハク酸イミド化合物、又は下記一般式(V)で表されるビスタイプのコハク酸イミド化合物が挙げられる。
【0017】
【化4】

【0018】
上記一般式(IV)、(V)において、R17、R19及びR22は、それぞれ、数平均分子量500〜4,000のアルケニル基もしくはアルキル基で、R19及びR22は同一でも異なっていてもよい。R17、R19及びR22の数平均分子量は、好ましくは1,000〜4,000である。
上記R17、R19及びR22の数平均分子量が500以上であれば、基油への溶解性が良好であり、4,000以下であれば分散性が低下する恐れがない。
【0019】
また、R18、R20及びR21は、それぞれ、炭素数2〜5のアルキレン基で、R20及びR21は同一でも異なっていてもよく、rは1〜10の整数を示し、sは0又は1〜10の整数を示す。また、上記rは、好ましくは2〜5、より好ましくは3〜4である。rが1以上であると、分散性が良好であり、rが10以下であると、基油に対する溶解性も良好である。
さらに一般式(V)において、sは好ましくは1〜4、より好ましくは2〜3である。sが上記範囲内であれば、分散性及び基油に対する溶解性の点で好ましい。
【0020】
前記アルケニル基としては、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン−プロピレン共重合体を挙げることができ、アルキル基としてはこれらを水添したものである。好適なアルケニル基の代表例としては、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基が挙げられる。該ポリブテニル基は、1−ブテンとイソブテンの混合物あるいは高純度のイソブテンを重合させたものとして得られる。また、好適なアルキル基の代表例は、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基を水添したものである。
コハク酸イミド化合物としては、ポリブテニルコハク酸イミド等のアルケニルコハク酸イミド化合物や、アルキルコハク酸イミド化合物が好ましく用いられる。
【0021】
上記アルケニルコハク酸イミド化合物若しくはアルキルコハク酸イミド化合物は、通常、ポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるアルケニルコハク酸無水物、又はそれを水添して得られるアルキルコハク酸無水物を、ポリアミンと反応させることによって製造することができる。また、前記モノタイプのコハク酸イミド化合物及びビスタイプのコハク酸イミド化合物は、上記アルケニルコハク酸無水物若しくはアルキルコハク酸無水物とポリアミンとの反応比率を変えることによって製造することができる。
【0022】
前記ポリオレフィンを形成するオレフィン単量体としては、炭素数2〜8のα−オレフィンの一種又は二種以上を混合して用いることができるが、イソブテンと1−ブテンとの混合物を好適に用いることができる。
また、前記ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンチレンジアミン等の単一ジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、ペンタペンチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミン;アミノエチルピペラジン等のピペラジン誘導体;などを挙げることができる。
【0023】
また、コハク酸イミド化合物としては、前記アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物の他に、そのホウ素誘導体、及び/又はこれらを有機酸で変性したものを用いてもよい。
アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物のホウ素誘導体は、常法により製造したものを使用することができる。例えば、前記ポリオレフィンを無水マレイン酸と反応させてアルケニルコハク酸無水物とした後、更に上記のポリアミンと酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステル、ホウ素酸のアンモニウム塩等のホウ素化合物を反応させて得られる中間体と反応させてイミド化させることによって得られる。
このホウ素誘導体中のホウ素含有量には、特に制限はないが、ホウ素として、通常、0.05〜5質量%の範囲、好ましくは0.1〜3質量%の範囲である。
【0024】
また、前記コハク酸イミド化合物の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.5〜15質量%の範囲が好ましく、より好ましくは1〜10質量%の範囲、さらに好ましくは3〜7質量%の範囲である。
コハク酸イミド化合物の配合量が0.5質量%以上であると、潤滑油組成物の耐デポジット性が十分に改善し、一方、15質量%以下であると、潤滑油組成物の低温流動性が大幅に改善する。
【0025】
〔硫黄含有化合物〕
前記(A)成分は、下記一般式(I)で表される硫黄含有化合物であり、前記(B)成分は、下記一般式(II)で表される硫黄化合物である。
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子;アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基およびアリール基から選ばれる炭素数1〜50の炭化水素基;またはこれらの炭化水素基中に酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれる原子を含んでなる炭素数1〜50のヘテロ原子含有基を表す。Yはそれぞれ独立に、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−(C=O)O−、−(C=O)NH−、−O(C=O)NH−、−C(=O)−、−N(H)−、−NHCONH−、−N=N−、−NH−C(=NH)−NH−、−S−C(=O)−、−NH−C(=S)−および−NH−C(=S)−NH−から選ばれる二価の基を表す。X1は1〜3の整数であり、nはそれぞれ独立に1〜5の整数である。)
【0028】
【化6】

【0029】
(式中、R3〜R12はそれぞれ独立に、水素原子;アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基およびアリール基から選ばれる炭素数1〜50の炭化水素基;またはこれらの炭化水素基中に酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれる原子を含んでなる炭素数1〜50のヘテロ原子含有基を表す。Yはそれぞれ独立に、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−(C=O)O−、−(C=O)NH−、−O(C=O)NH−、−C(=O)−、−N(H)−、−NHCONH−、−N=N−、−NH−C(=NH)−NH−、−S−C(=O)−、−NH−C(=S)−および−NH−C(=S)−NH−から選ばれる二価の基を表す。X2は1〜3の整数である。)
【0030】
前記一般式(I)及び(II)においてR1〜R12で表されるアルキル基は、炭素数1〜30のアルキル基が好ましく、炭素数1〜24のアルキル基がより好ましい。アルキル基の具体例としては、例えばn−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基および各種イコシル基等が挙げられる。また、アルキル基は芳香族基で置換されていてもよく、例えばベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
1〜R12で表されるシクロアルキル基は、炭素数3〜30のシクロアルキル基が好ましく、炭素数3〜24のシクロアルキル基がより好ましい。シクロアルキル基の具体例としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基およびジエチルシクロヘキシル基等が挙げられる。また、シクロアルキル基は芳香族基で置換されていてもよく、例えばフェニルシクロペンチル基、フェニルシクロヘキシル基等が挙げられる。
1〜R12で表されるアルケニル基は、炭素数2〜30のアルケニル基が好ましく、炭素数2〜24のアルケニル基がより好ましい。アルケニル基の具体例としては、例えばビニル基、アリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−メチルビニル基、1−メチルアリル基、1,1−ジメチルアリル基、2−メチルアリル基、ノネニル基、デセニル基、オクタデセニル基等が挙げられる。また、アルケニル基は芳香族基で置換されていてもよい。
1〜R12で表されるシクロアルケニル基は、炭素数3〜30のシクロアルケニル基が好ましく、炭素数3〜24のシクロアルケニル基がより好ましい。シクロアルケニル基の具体例としては、シクロブテニル基、メチルシクロブテニル基等が挙げられる。また、シクロアルケニル基は芳香族基で置換されていてもよい。
1〜R12で表されるアリール基は、炭素数6〜30のアリール基が好ましく、炭素数6〜24のアリール基がより好ましい。アリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ブチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基等が挙げられる。
【0031】
一般式(I)および(II)において、Yはそれぞれ独立に、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−(C=O)O−、−(C=O)NH−、−O(C=O)NH−、−C(=O)−、−N(H)−、−NHCONH−、−N=N−、−NH−C(=NH)−NH−、−S−C(=O)−、−NH−C(=S)−および−NH−C(=S)−NH−から選ばれる二価の基を表す。
一般式(I)および(II)において、X1及びX2は1〜3の整数であり、1が好ましい。nはそれぞれ独立に1〜5の整数であり、1または2が好ましい。
【0032】
一般式(I)で表される硫黄含有化合物としては、例えば以下の式で表される化合物が挙げられる。尚、式中、xは1〜3の整数を示す。
【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
【化9】

【0036】
【化10】

【0037】
【化11】

【0038】
【化12】

【0039】
【化13】

【0040】
【化14】

【0041】
以下の化合物もまた一般式(I)で表される硫黄含有化合物の例であり、例えば、ビス(メトキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(エトキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(n−プロポキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(イソプロポキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(n−ブトキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(n−オクトキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(n−ドデシルオキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(シクロプロポキシカルボニルメチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−メトキシカルボニルエチル)ジスルフィド、1,1−ビス(3−メトキシカルボニル−n−プロピル)ジスルフィド、1,1−ビス(4−メトキシカルボニル−n−ブチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−エトキシカルボニルエチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−n−プロポキシカルボニルエチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−イソプロポキシカルボニルエチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−シクロプロポキシカルボニルエチル)ジスルフィド、ビス(トリデシルオキシカルボニルエチル)ジスルフィド等のジスルフィド、ビス(メトキシカルボニルメチル)スルフィド、ビス(エトキシカルボニルメチル)スルフィド、ビス(n−プロポキシカルボニルメチル)スルフィド、ビス(イソプロポキシカルボニルメチル)スルフィド、ビス(n−ブトキシカルボニルメチル)スルフィド、ビス(n−オクトキシカルボニルメチル)スルフィド、ビス(n−ドデシルオキシカルボニルメチル)スルフィド、ビス(シクロプロポキシカルボニルメチル)スルフィド、1,1−ビス(2−メトキシカルボニルエチル)スルフィド、1,1−ビス(3−メトキシカルボニル−n−プロピル)スルフィド、1,1−ビス(4−メトキシカルボニル−n−ブチル)スルフィド、1,1−ビス(2−エトキシカルボニルエチル)スルフィド、1,1−ビス(2−n−プロポキシカルボニルエチル)スルフィド、1,1−ビス(2−イソプロポキシカルボニルエチル)スルフィド、1,1−ビス(2−シクロプロポキシカルボニルエチル)スルフィド、ビス(トリデシルオキシカルボニルエチル)スルフィド等のモノスルフィドなどを挙げることができる。
【0042】
一般式(II)で表される硫黄含有化合物の具体例としては、ジチオリンゴ酸テトラメチル、ジチオリンゴ酸テトラエチル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−プロピル、ジチオリンゴ酸テトラ−2−プロピル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−ブチル、ジチオリンゴ酸テトラ−2−ブチル、ジチオリンゴ酸テトライソブチル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−ヘキシル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−オクチル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−(2−エチル)ヘキシル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−(3,5,5−トリメチル)ヘキシル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−デシル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−ドデシル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−ヘキサデシル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−オクタデシル、ジチオリンゴ酸テトラベンジル、ジチオリンゴ酸テトラ−α−(メチル)ベンジル、ジチオリンゴ酸テトラα,α−ジメチルベンジル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−(2−メトキシ)エチル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−(2−エトキシ)エチル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−(2−ブトキシ)エチル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−(2−エトキシ)エチル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−(2−ブトキシ−ブトキシ)エチル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−(2−フェノキシ)エチル等のジスルフィド、チオリンゴ酸テトラメチル、チオリンゴ酸テトラエチル、チオリンゴ酸テトラ−1−プロピル、チオリンゴ酸テトラ−2−プロピル、チオリンゴ酸テトラ−1−ブチル、チオリンゴ酸テトラ−2−ブチル、チオリンゴ酸テトライソブチル、チオリンゴ酸テトラ−1−ヘキシル、チオリンゴ酸テトラ−1−オクチル、チオリンゴ酸テトラ−1−(2−エチル)ヘキシル、チオリンゴ酸テトラ−1−(3,5,5−トリメチル)ヘキシル、チオリンゴ酸テトラ−1−デシル、チオリンゴ酸テトラ−1−ドデシル、チオリンゴ酸テトラ−1−ヘキサデシル、チオリンゴ酸テトラ−1−オクタデシル、チオリンゴ酸テトラベンジル、チオリンゴ酸テトラ−α−(メチル)ベンジル、チオリンゴ酸テトラα,α−ジメチルベンジル、チオリンゴ酸テトラ−1−(2−メトキシ)エチル、チオリンゴ酸テトラ−1−(2−エトキシ)エチル、チオリンゴ酸テトラ−1−(2−ブトキシ)エチル、チオリンゴ酸テトラ−1−(2−エトキシ)エチル、チオリンゴ酸テトラ−1−(2−ブトキシ−ブトキシ)エチル、チオリンゴ酸テトラ−1−(2−フェノキシ)エチル等のモノスルフィドなどを挙げることができる。
【0043】
〔複素環化合物、あるいはその反応生成物〕
【0044】
前記(C)成分は、下記一般式(III)で表される環状部分に二重結合を有していてもよい複素環化合物、あるいは該複素環化合物と、ホウ素化合物、モリブデン化合物及びケイ素化合物から選ばれる化合物との反応生成物である。
【化15】

【0045】
(一般式(III)中、X1、X2、X3及びX4は、それぞれ独立にNもしくはNH、O又はSを、pは0又は1を示す。x及びyは、それぞれ独立に0〜2の整数、u及びrは、それぞれ独立に0〜3の整数、t及びwは、それぞれ独立に0〜3の整数を示す。pが0の場合、vは0〜5の整数を示し、pが1の場合、vは0〜3の整数を示す。n及びmは、それぞれ独立に0又は1、kは0〜3の整数を示し、pが0の場合、x、y、n、m及びvは同時に0にはならない。R13〜R16は、それぞれ独立に炭素原子に結合する水素原子;炭素数1〜50の炭化水素基;アミノ基、アミド基、エーテル基、チオエーテル基、ジチオエーテル基及びカルボキシル基の中から選ばれる炭素数1〜50の官能基;あるいは該官能基の中から選ばれる少なくとも一種の置換基を有する全炭素数1〜150の炭化水素基を示し、pが0の場合、R13及びR14は同時に水素原子になることはなく、pが1の場合、R13〜R16は同時に水素原子になることはない。Y1及びY2は、それぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;アミノ基、アミド基、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基及びエーテル基の中から選ばれる炭素数1〜50の官能基;あるいは該官能基の中から選ばれる少なくとも一種の官能基を有していてもよい全炭素数が1〜150の炭化水素基又はヘテロ環を示す。)
【0046】
前記一般式(III)において、
(1)pが0の場合
1、X2、及びX3は、それぞれ独立にNもしくはNH、O又はSを示す。
x及びyは、それぞれ独立に0〜2の整数、vは0〜5の整数を示す。
n及びmは、それぞれ独立に0又は1、x、y、n、m及びvは同時に0にはならない。
13及びR14は、それぞれ独立に炭素原子に結合する水素原子;炭素数1〜50の炭化水素基;アミノ基、アミド基、エーテル基、チオエーテル基、ジチオエーテル基及びカルボキシル基の中から選ばれる炭素数1〜50の官能基;あるいは該官能基の中から選ばれる少なくとも一種の置換基を有する全炭素数1〜150の炭化水素基を示し、R13及びR14は同時に水素原子になることはない。
【0047】
前記一般式(III)において、
(2)pが1の場合
1、X2、X3及びX4は、それぞれ独立にNもしくはNH、O又はSを示す。
x及びyは、それぞれ独立に0〜2の整数、u及びrは、それぞれ独立に0〜3の整数、t及びwは、それぞれ独立に0〜3の整数を示す。vは0〜3の整数を示す。
n及びmは、それぞれ独立に0又は1、kは0〜3の整数を示し、R13〜R16は、それぞれ独立に炭素原子に結合する水素原子;炭素数1〜50の炭化水素基;アミノ基、アミド基、エーテル基、チオエーテル基、ジチオエーテル基及びカルボキシル基の中から選ばれる炭素数1〜50の官能基;あるいは該官能基の中から選ばれる少なくとも一種の置換基を有する全炭素数1〜150の炭化水素基を示し、R13〜R16は同時に水素原子になることはない。
【0048】
前記一般式(III)におけるY1及びY2は、それぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;アミノ基、アミド基、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基及びエーテル基の中から選ばれる炭素数1〜50の官能基;あるいは該官能基の中から選ばれる少なくとも一種の官能基を有していてもよい全炭素数が1〜150の炭化水素基又はヘテロ環を示す。
【0049】
前記一般式(III)におけるR13〜R16は、好ましくは水素原子又は炭素数1〜150の炭化水素基、チオエーテル基、ジチオエーテル基であり、より好ましくは炭素数1〜150の炭化水素基である。具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、デシル、ドデシル、ドデセニル、テトラデセン、テトラデセニル、ヘキサデセン、ヘキサデセニル、オクタデシル、オクタデセニル、オレイル、ステアリル、イソステアリル、ドコセニル、デセントリマー、ポリブテン基等の炭化水素基であり、これらは直鎖状でも分岐状でも、飽和でも不飽和でもよい。
さらに好ましくは、オクチル、2−エチルヘキシル、デシル、ドデシル、ドデセニル、テトラデセン、テトラデセニル、ヘキサデセン、ヘキサデセニル、オクタデシル、オクタデセニル、オレイル、ステアリル、イソステアリル、ドコセニル、デセントリマー基等の炭素数8〜30の炭化水素基である。
一般式(III)で表される複素環化合物は、例えば、複素環の基本骨格となるピリジン、ピロール、ピリミジン、ピラゾール、ピリダジン、イミダゾール、ピラジン、トリアジン、トリアゾール、テトラゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアゾール、チアジアゾール、フラン、ジオキサン、ピラン、チオフェンを基本骨格とする化合物及びそれらの誘導体(a)と炭素数10〜200のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基を有するハロゲン化合物、アミン化合物、アルコール類、メルカプト類、エポキシ化合物及びカルボキシル基等の官能基を有する化合物(b)とをモル比(a):(b)を1:5〜5:1、好ましくは、1:2〜2:1の割合で反応させて得ることができる。
【0050】
モル比(a):(b)を1:5以上及び5:1以下とすることにより、本発明の耐摩耗剤の有効成分量が少なくなるのを防ぎ、耐摩耗性、摩擦低減性、塩基価維持性を示すために多量添加する必要性がなくなる。
(a)と(b)の反応は、室温〜200℃、好ましくは50〜150℃で行う。
反応は、無触媒でも触媒の存在下で行なってもよい。
また、反応を行うに際して溶剤、例えば、ヘキサン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶剤を使用することもできる。
また、例えば、トリアゾール化合物は、対応するアミン化合物とジアシルヒドラジンの反応、あるいは、対応するアミノグアニジン誘導体と酸誘導体の反応により、チアジアゾール化合物は、対応する硫黄化合物とジアシルヒドラジンの反応により、トリアジン化合物は、対応するニトリル化合物の三量化反応により、複素環を形成して得ることもできる。
【0051】
一般式(III)で表される複素環化合物において、複素環の基本骨格は1つの環が窒素及び/又は酸素及び/又は硫黄数の合計が1〜4である飽和又は不飽和化合物である。
このような環状化合物としては、ピリジン、ピロール、ピリミジン、ピラゾール、ピリダジン、イミダゾール、ピラジン、トリアジン、トリアゾール、テトラゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアゾール、チアジアゾール、フラン、ジオキサン、ピラン、チオフェン及びそれらの誘導体が挙げられる。
より好ましくは、ピリジン、ピロール、ピリミジン、ピラゾール、ピリダジン、イミダゾール、ピラジン、トリアジン、トリアゾール、テトラゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、フラン、ジオキサン、ピラン、及びそれらの誘導体が挙げられる。
これらは、前記した単環の環状化合物であっても、例えば、インドール、インダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、ナフチリジン、カルバゾール、ナフトイミダゾール等の多環の環状化合物であってもかまわない。
また、複素環化合物に官能基として炭化水素基又はアミン、アミド、アルコール、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル、エーテル、チオエーテル、ジチオエーテル、ハロゲン及びそれらを含む炭化水素化合物が付加したものでもよいが、炭化水素基又はアミン、アミド、アルコール、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル、エーテル、チオエーテル、ジチオエーテル及びそれらを含む炭化水素化合物が付加したものがよい。
複素環化合物に付加する官能基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、アミノメチル基等の置換もしくは無置換のアミノ基;カルバモイル基;水酸基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基;カルボキシメチル基、カルボキシエチル基;エトキシル基、プロポキシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基;メチルカルボニル基、エチルカルボニル基;アセトキシル基、プロピオキシル基、ブチロイルキシル基;ホルミル基;ハロゲン;アルキルチオ基、アルキルジチオ基等のスルフィド基、ジスルフィド基;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン等のポリエチレンポリアミン残基;アミノエチルピペラジン残基等が挙げられる。
好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の置換もしくは無置換のアミノ基;アルキルチオ基、アルキルジチオ基等のスルフィド基、ジスルフィド基等が挙げられる。
【0052】
化合物(b)としては、2−デシル−1−ブロモテトラデカン、2−ブチル−1−ブロモオクタン、2−ペンチル−1−ブロモノナン、2−ヘキシル−1−ブロモデカン、2−ヘプチル−1−ブロモウンデカン、2−オクチル−1−ブロモドデカン、2−ノニル−1−ブロモトリデカン、2、4−ジオクチル−1−ブロモテトラデカン、ブロモポリブタン、ブロモオクタン、ブロモドデカン、ブロモドデカン、ブロモテトラデカン、ブロモヘキサデカン、ブロモオクタデカン、ブロモエイコサン、ブロモドコサン、ブロモテトラコサン、ブロモヘプタデセン、ブロモイソステアリルのような臭素系の化合物、2−デシル−1−クロロテトラデカン、2−ブチル−1−クロロオクタン、2、4−ジオクチル−1−クロロテトラデカンクロロポリブタン、クロロオクタン、クロロドデカン、クロロテトラコサン、クロロヘプタデセンのような塩素系の化合物、2−デシル−1−ヨードテトラデカン、2−ブチル−1−ヨードオクタン、2、4−ジオクチル−1−ヨードテトラデカン、ヨードポリブテン、ヨードオクタン、ヨードドデカン、ヨードテトラコサン、ヨードヘプタデセンのようなヨウ素系の化合物、2−デシル−1、2−エポキシテトラデカン、2−ブチル−1,2−エポキシオクタン、2,4−ジオクチル−1,2−エポキシテトラデカン、ポリブテンエポキシド、1,2−エポキシオクタン、1、2−エポキシドデカン、1、2−エポキシテトラコサン、1,2−エポキシヘプタデセンのようなエポキシ化合物、2−デシル−テトラデシルアミン、2−ブチル−オクチルアミン、2、4−ジオクチル−1−テトラデシルアミン、ポリブテニルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、テトラコシルアミン、ヘプタデセニルアミン、アニリン、置換アニリンのようなアミン化合物、2−デシル−テトラデシルメルカプタン、2−ブチル−オクチルメルカプタン、2、4−ジオクチル−1−テトラデシルメルカプタン、ポリブテニルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、テトラコシルメルカプタン、ヘプタデセニルメルカプタンのようなメルカプタン化合物、2−デシル−テトラデシルアルコール、2−ブチル−オクチルアルコール、2、4−ジオクチル−1−テトラデシルアルコール、ポリブテニルアルコール、オクチルアルコール、ドデシルアルコール、テトラコシルアルコール、ヘプタデセニルアルコール、フェノール、置換フェノールのようなアルコール類、2−デシル−テトラデカン酸、2−ブチル−オクタン酸、2、4−ジオクチル−1−テトラデカン酸、ポリブテニルカルボン酸、オクタン酸、ドデカン酸、テトラコサン酸、ヘプタデセン酸のようなカルボキシル基を有する化合物などが挙げられる。
これらは単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物として用いてもよい。
【0053】
一般式(III)で表される複素環化合物におけるpが0の場合の環状構造部分又はpが1の場合の2つの環状構造部分は、上記化合物(a)に由来する。
1及びY2のうちの少なくとも一方は、化合物(b)に由来する。
【0054】
本発明の耐摩耗剤である一般式(III)で表される複素環化合物とホウ化合物との反応生成物は、上記のようにして得られた複素環化合物に対して、ホウ素化合物をモル比1:0.01〜10の割合で、好ましくは1:0.05〜5の割合で反応させて得られるものである。
複素環化合物とホウ素化合物との反応は、50〜250℃、好ましくは100〜200℃で行なわれる。
反応を行うに際して溶剤、例えば、炭化水素油、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の有機溶剤を使用することもできる。
ホウ素化合物としては、例えば、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステルなどを使用することができる。
【0055】
また、本発明の耐摩耗剤である一般式(III)で表される複素環化合物とモリブデン化合物との反応生成物は、上記のようにして得られた複素環化合物に対して、モリブデン化合物をモル比1:0.01〜10の割合で、好ましくは1:0.05〜5の割合で反応させて得られるものである。
複素環化合物とモリブデン化合物との反応は、50〜250℃、好ましくは100〜200℃で行なわれる。
反応を行うに際して溶剤、例えば、炭化水素油、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の有機溶剤を使用することもできる。
モリブデン化合物としては、例えば、酸化モリブデン、ハロゲン化モリブデン、モリブデン酸などを使用することができる。
【0056】
更に、本発明の耐摩耗剤である一般式(III)で表される複素環化合物とケイ素化合物との反応生成物は、上記のようにして得られた複素環化合物に対して、ケイ素化合物をモル比1:0.01〜10の割合で、好ましくは1:0.05〜5の割合で反応させて得られるものである。
複素環化合物とケイ素化合物との反応は、50〜250℃、好ましくは100〜200℃で行なわれる。
反応を行うに際して溶剤、例えば、炭化水素油、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の有機溶剤を使用することもできる。
ケイ素化合物としては、例えば、酸化ケイ素、ハロゲン化ケイ素、ケイ酸、ケイ酸エステルなどを使用することができる。
【0057】
本発明においては、上記(A)〜(C)成分を一種単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
上記(A)及び(B)成分の配合量は、組成物全量基準で、0.01〜5.0質量%が好ましく、0.1〜2.0質量%がより好ましい。0.01質量%以上であることで、通常、十分な耐デポジット性及び耐摩耗性が得られ、5.0質量%を超えた場合、添加量に見合った効果が得られない場合がある。
上記(C)成分の配合量は、組成物全量基準で、0.01〜20質量%、好ましくは、0.05〜15質量%、より好ましくは、0.1〜10質量%である。配合量を0.01質量%以上とすることにより、耐デポジット性及び耐摩耗性が発揮され、20質量%以下とすることにより、コスト増を避け、かつ、潤滑油基油が有する本来の特性を低下させることを防止することができる。
【0058】
本発明の潤滑油組成物においては、その効果を阻害しない範囲において従来公知の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、酸化防止剤、金属系清浄剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、金属不活性化剤、防錆剤、及び消泡剤等が挙げられる。
【0059】
前記酸化防止剤としては、リンを含まない酸化防止剤が好ましく、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、モリブデンアミン錯体系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−アミル−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、n−オクチル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2,2’−チオ[ジエチル−ビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。
これらの中で、特にビスフェノール系及びエステル基含有フェノール系のものが好適である。
【0060】
また、前記アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系;4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系;テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン;テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系;及びα−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、更にはブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのアルキル置換フェニル−α−ナフチルアミン;などが挙げられる。
これらの中で、ジアルキルジフェニルアミン系及びナフチルアミン系のものが好適である。
【0061】
前記モリブデンアミン錯体系酸化防止剤としては、6価のモリブデン化合物、具体的には三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸とアミン化合物とを反応させてなるもの、例えば、特開2003−252887号公報に記載の製造方法で得られる化合物を用いることができる。
前記6価のモリブデン化合物と反応させるアミン化合物としては特に制限されないが、具体的には、モノアミン、ジアミン、ポリアミン及びアルカノールアミンが挙げられる。より具体的には、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン等の炭素数1〜30のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルキルアミン;エテニルアミン、プロペニルアミン、ブテニルアミン、オクテニルアミン、及びオレイルアミン等の炭素数2〜30のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルケニルアミン;メタノールアミン、エタノールアミン、メタノールエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン等の炭素数1〜30のアルカノール基(これらのアルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルカノールアミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、及びブチレンジアミン等の炭素数1〜30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン;ウンデシルジエチルアミン、ウンデシルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、オレイルプロピレンジアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン等の上記モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物やイミダゾリン等の複素環化合物;これらの化合物のアルキレンオキシド付加物;及びこれらの混合物等が例示できる。
また、特公平3−22438号公報及び特開2004−2866号公報に記載されているコハク酸イミドの硫黄含有モリブデン錯体等が例示でき、具体的には、以下の工程(m)および(n)により製造することができる。
(m)酸性モリブデン化合物又はその塩と、コハク酸イミド、カルボン酸アミド、炭化水素モノアミン、炭化水素ポリアミン、マンニッヒ塩基、ホスホン酸アミド、チオホスホン酸アミド、リン酸アミド、分散剤型粘度指数向上剤およびそれらの混合物からなる群より選ばれた塩基性窒素化合物とを、反応温度を約120℃以下に維持して反応させてモリブデン錯体を形成する工程。
(n)(m)の工程の生成物を少なくとも一回のストリッピング又は硫化工程または両工程にかける。ただし、モリブデン錯体をイソオクタンで希釈して、希釈したモリブデン錯体g当りモリブデン0.00025gの一定モリブデン濃度として、UV−可視分光光度計で光路長1センチメートルの石英セルで測定したときに、波長350ナノメータにおける吸光度が0.7未満であるモリブデン錯体を与えるのに充分な時間をかけ、かつストリッピング又は硫化工程における反応混合物の温度を約120℃以下に維持する工程。
また、このモリブデン錯体は、以下の工程(o)、(p)および(q)によっても製造することができる。
(o)酸性モリブデン化合物又はその塩と、コハク酸イミド、カルボン酸アミド、炭化水素モノアミン、炭化水素ポリアミン、マンニッヒ塩基、ホスホン酸アミド、チオホスホン酸アミド、リン酸アミド、分散剤型粘度指数向上剤およびそれらの混合物からなる群より選ばれた塩基性窒素化合物とを、反応温度を約120℃以下に維持して反応させてモリブデン錯体を形成する工程。
(p)(o)の工程の生成物を約120℃以下の温度でストリッピングする工程。
(q)得られた生成物を約120℃以下の温度で、硫黄とモリブデンのモル比が約1:1かそれ以下で、そしてモリブデン錯体をイソオクタンで希釈して希釈したモリブデン錯体g当りモリブデン0.00025gの一定モリブデン濃度にして、UV−可視分光光度計で光路長1センチメートルの石英セルで測定したときに、波長350ナノメータにおける吸光度が0.7未満であるモリブデン錯体を与えるのに充分な時間をかけて、硫化する工程。
【0062】
前記硫黄系酸化防止剤としては、例えばフェノチアジン、ペンタエリスリトール−テトラキス−(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジドデシルサルファイド、ジオクタデシルサルファイド、ジドデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ドデシルオクタデシルチオジプロピオネート、2−メルカプトベンゾイミダゾールなどが挙げられる。
【0063】
このような酸化防止剤の中でも、金属分や硫黄分を低減する観点から、フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤が好ましい。また、前記酸化防止剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。中でも、酸化安定性の効果の観点から、フェノール系酸化防止剤一種又は二種以上とアミン系酸化防止剤一種又は二種以上との混合物が好ましい。
酸化防止剤の配合量は、組成物全量基準で、通常0.1〜5質量%の範囲が好ましく、0.1〜3質量%の範囲がより好ましい。また、モリブデン錯体の配合量は、組成物全量基準でモリブデン量換算により、10〜1000質量ppmが好ましく、30〜800質量ppmがより好ましく、50〜500質量ppmがさらに好ましい。
【0064】
前記金属系清浄剤としては、潤滑油に用いられる任意のアルカリ土類金属系清浄剤が使用可能であり、例えば、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート及びこれらの中から選ばれる二種類以上の混合物等が挙げられる。
【0065】
上記アルカリ土類金属スルホネートとしては、分子量300〜1,500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が好ましく用いられる。
【0066】
前記アルカリ土類金属フェネートとしては、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が特に好ましく用いられる。
【0067】
前記アルカリ土類金属サリシレートとしては、アルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が好ましく用いられる。
【0068】
前記アルカリ土類金属系清浄剤を構成するアルキル基としては、炭素数4〜30のものが好ましく、より好ましくは6〜18の直鎖又は分枝アルキル基であり、これらは直鎖でも分枝でもよい。
これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよい。
【0069】
また、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート及びアルカリ土類金属サリシレートとしては、前記のアルキル芳香族スルホン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物、アルキルサリチル酸等を、直接マグネシウム及び/又はカルシウムのアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性アルカリ土類金属スルホネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートだけでなく、中性アルカリ土類金属スルホネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートと過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属スルホネート、塩基性アルカリ土類金属フェネート及び塩基性アルカリ土類金属サリシレートや、炭酸ガスの存在下で中性アルカリ土類金属スルホネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートをアルカリ土類金属の炭酸塩又はホウ酸塩を反応させることにより得られる過塩基性アルカリ土類金属スルホネート、過塩基性アルカリ土類金属フェネート及び過塩基性アルカリ土類金属サリシレートも含まれる。
【0070】
本発明において用いる金属系清浄剤としては、組成物中の硫黄分を低減する目的から、アルカリ土類金属サリシレートやアルカリ土類金属フェネートが好ましく、中でも過塩基性サリシレートや過塩基性フェネートが好ましく、特に過塩基性カルシウムサリシレートが好ましい。
【0071】
本発明において用いる金属系清浄剤の全塩基価は、10〜500mgKOH/gの範囲が好ましく、より好ましくは15〜450mgKOH/gの範囲であり、これらの中から選ばれる一種又は二種以上併用することができる。
なお、ここでいう全塩基価とは、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)による全塩基価を意味する。
【0072】
また、本発明において用いる金属系清浄剤としては、その金属比に特に制限はなく、通常20以下のものを一種又は二種以上混合して使用できるが、好ましくは、金属比が3以下、より好ましく1.5以下、特に好ましくは1.2以下の金属系清浄剤を用いることが、酸化安定性や塩基価維持性及び高温清浄性等により優れるため特に好ましい。
なお、ここでいう金属比とは、金属系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表され、金属元素とはカルシウム、マグネシウム等、せっけん基とは、スルホン酸基、フェノール基及びサリチル酸基等を意味する。
【0073】
前記金属系清浄剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜20質量%の範囲が好ましく、0.1〜10質量%の範囲がより好ましく、0.5〜5質量%の範囲がさらに好ましい。
配合量が0.01質量%未満の場合、高温清浄性や酸化安定性、塩基価維持性などの性能が得られにくくなるため好ましくない。一方、20質量%以下であれば、通常その添加量に見合った効果が得られるが、当該金属系清浄剤の配合量の上限については、上記の範囲に関わらず、配合量を可能な限り低くすることが肝要である。それによって、潤滑油組成物の金属分、すなわち硫酸灰分を少なくして、自動車の排出ガス浄化装置の劣化を防止することができる。
また、金属系清浄剤は、上記の規定量を含有する限り、単独又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
具体的には、前記金属系清浄剤の中では過塩基性カルシウムサリシレートまたは過塩基性カルシウムフェネートが、前記無灰系分散剤の中では前記ポリブテニルコハク酸ビスイミドが特に好ましい。なお、上記過塩基性カルシウムサリシレート及び過塩基性カルシウムフェネートの全塩基価は100〜500mgKOH/gの範囲であることが好ましく、200〜500mgKOH/gの範囲がより好ましい。
【0075】
前記粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体など)などが挙げられる。
粘度指数向上剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、0.5〜15質量%の範囲が好ましく、より好ましくは1〜10質量%の範囲である。
【0076】
前記流動点降下剤としては、例えば、重量平均分子量が5000〜50,000程度のポリメタクリレートなどが挙げられる。
流動点降下剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、0.1〜2質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜1質量%の範囲である。
【0077】
前記金属不活性化剤としては、例えばベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
金属不活性剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜3質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.01〜1質量%の範囲である。
【0078】
前記防錆剤としては、例えば石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
これら防錆剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜1質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0079】
前記消泡剤としては、例えばシリコーン油、フルオロシリコーン油及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられ、配合量は、消泡効果及び経済性のバランスなどの点から、潤滑油組成物全量基準で、0.005〜0.5質量の範囲が好ましく、より好ましくは0.01〜0.2質量%の範囲である。
【0080】
本発明の潤滑油組成物においては、さらに必要に応じて摩擦調整剤、耐摩耗剤、極圧剤を配合してもよい。なおこの摩擦調整剤は、本発明の必須成分である極性基含有化合物以外の化合物のことを指す。摩擦調整剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で0.01〜2質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.01〜1質量%の範囲である。
【0081】
前記耐摩耗剤又は極圧剤としては、ジチオリン酸亜鉛、リン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、ジスルフィド類(本発明で使用する一般式(I)または(II)で表される硫黄含有化合物以外のものを指し、例えばジベンジルジスルフィドが挙げられる。)、硫化オレフィン類、硫化油脂類、硫化エステル類、チオカーボネート類、チオカーバメート類、ポリサルファイド類等の硫黄含有化合物;亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、ホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩又は金属塩等のリン含有化合物;チオ亜リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、チオホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩又は金属塩等の硫黄及びリン含有耐摩耗剤;などが挙げられる。
【0082】
耐摩耗剤又は極圧剤を配合する場合、その配合量は、耐摩耗剤又は極圧剤を配合することによる潤滑油中のリン分や金属分の含有量が過大にならないように留意する必要がある。
【0083】
本発明の潤滑油組成物は、上記の組成からなるものであるが、その性状として以下を満たすことが好ましい。
(1)硫酸灰分(JIS K2272)が、0.6質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下であること。かつ、
(2)リン含有量(JIS−5S−38−92)が、0.05質量%以下、より好ましくは0.02質量%以下、さらに好ましくは0質量%であること。
さらに、上記に加えて以下を満たすことがより好ましい。
(3)硫黄含有量(JIS K2541)が、0.4質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下であること。
(4)ホウ素含有量が、0.4質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下であること。
これらの性状を満たす本発明の潤滑油組成物は、自動車エンジンの酸化触媒、三元触媒、NOx吸蔵型還元触媒、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)等の劣化を抑制できる。
【0084】
本発明の潤滑油組成物はポリブテニルコハク酸イミドと、上記(A)〜(C)成分を組み合わせて使用するものであり、この併用の結果、それぞれの単独使用時では得られない耐デポジット性が発現する。したがって、従来から潤滑油添加剤としてよく用いられてきたジチオリン酸亜鉛を配合しなくても十分に優れた潤滑性能を有する潤滑油組成物が得られ、上記硫酸灰分等の性状を達成することが容易になる。
【0085】
また、本発明の潤滑油組成物は、JIS K 2513に規定する銅板腐食試験(測定条件:100℃、3時間)で2以下のものが好ましい。当該銅板腐食試験が2以下であれば、油圧作動油組成物の耐熱性が良好でスラッジの発生を抑制する効果を有する。銅板腐食試験は1であれば、より好ましい。
【0086】
本発明の潤滑油組成物は、二輪車、四輪車、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関用潤滑油として好ましく使用することができ、低リン分、低硫黄分、低硫酸灰分であるため、特に排出ガス浄化装置を装着した内燃機関用に好適である。
【0087】
また本発明の潤滑油組成物は上記以外の用途においても好適に用いられる。特に本発明の潤滑油組成物が優れた耐摩耗性および摩擦低減効果を発現することから、例えば、内燃機関、自動変速機、無段変速機、手動変速機、パワーステアリング、ショックアブソーバー、圧縮機、冷媒圧縮機、冷凍機、油圧ポンプ、及びクラッチプーリーなどの潤滑用に用いられる。すなわち、本発明の潤滑油組成物は、内燃機関油、自動変速機油、無段変速機油、手動変速機油、パワーステアリング油、ショックアブソーバー油、圧縮機油、冷凍機油、油圧ポンプ油、クラッチプーリー用潤滑油及びグリースなどに用いることができる。
【実施例】
【0088】
次に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施
例に限定されるものではない。
<性状、性能の測定方法>
以下の実施例、比較例における潤滑油組成物の性状及び性能は、次の方法によって求めた。
【0089】
(1)リン含有量
JPI−5S−38−92に準拠して測定した。
(2)硫黄含有量
JIS K 2541に準拠して測定した。
(3)ホウ素含有量
JPI−5S−38−92に準拠して測定した。
(4)硫酸灰分
JIS K 2272に準拠して測定した。
【0090】
(5)ホットチューブ試験
試験温度は300℃に設定し、その他の条件については、JPI−5S−55−99に準拠して測定した。JPI−5S−55−99に準拠して、試験後のガラス管を0点(黒色)〜10点(無色)の11段階にて評価した。数字が高い程、耐デポジット性が良好であることを示す。
(6)銅板腐食試験
試験温度を100℃、試験時間を3時間とし、それ以外の条件はJIS K 2513に準拠し、下記4段階で評価した。数字が低いほど、耐腐食性が良好であることを示す。
1:わずかに変色
2:中程度に変色
3:濃く変色
4:腐食
(7)往復動摩擦試験
往復動摩擦試験機にて、試験板として硬度(HRC)が61、表面の十点平均粗さ(Rz)が0.042μmで、大きさが3.9mm×38mm×58mmのSUJ−2製板、試験球として直径が10mmのSUJ−2製ボールを用い、下記の試験条件で摩耗試験を行った。摩耗試験後、試験球の摩耗痕径を測定した。摩耗試験後の試験球の摩耗痕径が小さいほど、耐摩耗性が優れていることを示す。
−試験条件−
・試験温度:100℃
・荷重:200N
・振幅10mm
・振動数:10Hz
・試験時間:30分
【0091】
実施例1〜13及び比較例1〜11
第1表及び第2表に示した基油及び添加剤を第1表及び第2表に示す割合で配合して、潤滑油組成物を調製した。その組成物の性状・組成及び性能を第1表及び第2表に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
[注]
基油:水素化精製基油、40℃動粘度21mm2/s、100℃動粘度4.5mm2/s、粘度指数127、%CA0.0、硫黄含有量20質量ppm未満、NOACK蒸発量13.3質量%
ポリブテニルコハク酸モノイミド:ポリブテニル基の数平均分子量1000、窒素含有量1.76質量%、ホウ素含有量1.9質量%
ジアルキルジチオリン酸亜鉛:Zn含有量9.0質量%、リン含有量8.2質量%、硫黄含有量17.1質量%、アルキル基;第2級ブチル基と第2級ヘキシル基の混合物
化合物A:ビス(n−オクトキシカルボニルメチル)ジスルフィド、硫黄含有量15.2%
化合物B:ビス(トリデシルオキシカルボニルエチル)スルフィド、硫黄含有量5.4%
化合物C:2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、硫黄含有量10.9%
化合物D:2,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、硫黄含有量33.5%
化合物E:5−(8−ヘプタデセニル)−3−アミノ−1,2,4−トリアゾール
化合物F:5−(8−ヘプタデセニル)−3−アミノ−1,2,4−トリアゾールのホウ酸反応物
化合物G:オレフィンサルファイド、硫黄含有量43%(日本ルーブリゾール製、商品名:Anglamol33)
化合物H:ジオクチルポリサルファイド、硫黄含有量39%(大日本インキ化学工業製、商品名:DAILUBE GS−440)
化合物I:硫化油脂、硫黄含有量10.4%
化合物J:メチレンビス(ジブチルジチオカーバメート)、硫黄含有量30.3%
【0095】
第1表、第2表に示されるように、実施例1〜13の潤滑油組成物は、ポリブテニルコハク酸モノイミドと、硫黄含有化合物、複素環化合物又はその反応生成物との併用による相乗効果により高い耐デポジット性を示し、かつ、良好な耐腐食性及び低い摩耗痕径値を示している。
また実施例1〜13と比較例5〜9との対比から分かるように、上記併用により発現する本願発明の効果は、ポリブテニルコハク酸モノイミド、硫黄含有化合物、複素環化合物又はその反応生成物をそれぞれ単独で用いても発現しない。
上記のように、ポリブテニルコハク酸イミドと、特定の硫黄含有化合物、特定の複素環化合物及びその反応生成物から選択される化合物とを併用することで、低リン分、低硫黄分、低硫酸灰分であっても耐デポジット性、耐腐食性及び耐摩耗性に優れる潤滑油組成物が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明によれば、低リン分、低硫黄分、低硫酸灰分であっても耐デポジット性、耐腐食性及び耐摩耗性に優れる潤滑油組成物が提供される。したがって、本発明の潤滑油組成物はガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジンなど、内燃機関用潤滑油組成物として特に好ましく利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油に、コハク酸イミド化合物と、下記(A)〜(C)から選択される1種以上とを配合してなる潤滑油組成物。
(A)下記一般式(I)で表される硫黄含有化合物。
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子;アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基およびアリール基から選ばれる炭素数1〜50の炭化水素基;またはこれらの炭化水素基中に酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれる原子を含んでなる炭素数1〜50のヘテロ原子含有基を表す。Yはそれぞれ独立に、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−(C=O)O−、−(C=O)NH−、−O(C=O)NH−、−C(=O)−、−N(H)−、−NHCONH−、−N=N−、−NH−C(=NH)−NH−、−S−C(=O)−、−NH−C(=S)−および−NH−C(=S)−NH−から選ばれる二価の基を表す。X1は1〜3の整数であり、nはそれぞれ独立に1〜5の整数である。)
(B)下記一般式(II)で表される硫黄含有化合物。
【化2】

(式中、R3〜R12はそれぞれ独立に、水素原子;アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基およびアリール基から選ばれる炭素数1〜50の炭化水素基;またはこれらの炭化水素基中に酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれる原子を含んでなる炭素数1〜50のヘテロ原子含有基を表す。Yはそれぞれ独立に、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−(C=O)O−、−(C=O)NH−、−O(C=O)NH−、−C(=O)−、−N(H)−、−NHCONH−、−N=N−、−NH−C(=NH)−NH−、−S−C(=O)−、−NH−C(=S)−および−NH−C(=S)−NH−から選ばれる二価の基を表す。X2は1〜3の整数である。)
(C)下記一般式(III)で表される環状部分に二重結合を有していてもよい複素環化合物、あるいは該複素環化合物と、ホウ素化合物、モリブデン化合物及びケイ素化合物から選ばれる化合物との反応生成物。
【化3】

(一般式(III)中、X1、X2、X3及びX4は、それぞれ独立にNもしくはNH、O又はSを、pは0又は1を示す。x及びyは、それぞれ独立に0〜2の整数、u及びrは、それぞれ独立に0〜3の整数、t及びwは、それぞれ独立に0〜3の整数を示す。pが0の場合、vは0〜5の整数を示し、pが1の場合、vは0〜3の整数を示す。n及びmは、それぞれ独立に0又は1、kは0〜3の整数を示し、pが0の場合、x、y、n、m及びvは同時に0にはならない。R13〜R16は、それぞれ独立に炭素原子に結合する水素原子;炭素数1〜50の炭化水素基;アミノ基、アミド基、エーテル基、チオエーテル基、ジチオエーテル基及びカルボキシル基の中から選ばれる炭素数1〜50の官能基;あるいは該官能基の中から選ばれる少なくとも一種の置換基を有する全炭素数1〜150の炭化水素基を示し、pが0の場合、R13及びR14は同時に水素原子になることはなく、pが1の場合、R13〜R16は同時に水素原子になることはない。Y1及びY2は、それぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;アミノ基、アミド基、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基及びエーテル基の中から選ばれる炭素数1〜50の官能基;あるいは該官能基の中から選ばれる少なくとも一種の官能基を有していてもよい全炭素数が1〜150の炭化水素基又はヘテロ環を示す。)
【請求項2】
リン含有量が0.5質量%以下であり、かつ、硫酸灰分が0.6質量%以下である請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
リン含有量が0質量%であり、かつ、硫酸灰分が0.1質量%以下である請求項1又は2記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記一般式(I)において、X1が1である請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
後処理装置が装着されたエンジンに用いられる請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2011−190331(P2011−190331A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56646(P2010−56646)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】