説明

澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素及びその製法

【課題】澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製法及びその固定化澱粉加水分解酵素を提供する。
【解決手段】澱粉粒の形態を保持した澱粉粒又はセルロース粉末に、澱粉加水分解酵素を混合し、当該澱粉粒又はセルロース粉末担体に、粉末状態を維持して澱粉加水分解酵素を結合させて澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素とすることから成る澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法、該方法で作製した澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素。
【効果】澱粉粒又はセルロース粉末を担体として、該担体に、澱粉加水分解酵素を結合させた固定化澱粉加水分解酵素を製造し、提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉粒又はセルロース粉末に、澱粉加水分解酵素を結合させた澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素及びその製法に関するものであり、更に詳しくは、澱粉粒に、水又はエタノール水溶液を、澱粉粒重量当たり10〜40%加えて、澱粉加水分解酵素を混合、結合させて澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素を製造する方法及び該製法により作製した澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素に関するものである。
【0002】
本発明は、より効率的に、澱粉加水分解酵素を固定化するために、澱粉粒としては、α−アミラーゼ及び/又はグルコアミラーゼを作用させて、その表面に、穴を開けた澱粉粒又は粒表面を一部糊化した澱粉粒を用いること、また、澱粉粒表面又はセルロース粉末を、酸化処理した後に、澱粉加水分解酵素を結合させること、また、固定化を強化するために、卵白、ゼラチン、カゼインナトリウム、ツェインなど、タンパク質で、澱粉粒又はセルロース粉末表面を被覆してから、酵素を結合させること、更には、澱粉加水分解酵素と担体を、グルタルアルデヒドで結合させること、を特徴とするものである。なお、本発明で、結合とは、化学結合である共有結合、イオン結合、疎水結合、単なる吸着結合も含むものである。澱粉粉末は、通常は、澱粉と呼称され、澱粉粒の形態である。損傷澱粉粒、破砕澱粉も含まれることもあるが、本明細書では、澱粉粒の形態であることを意味するものとして、澱粉、澱粉粒、澱粉粉末は、同義であるものとして取扱う。
【背景技術】
【0003】
従来から、酵素の固定化技術としては、各種の方法がある(非特許文献1)。一般に、酵素を不溶性担体に固定化する方法としては、大別して、3種の方法、すなわち、1)酵素と担体を共有結合、イオン結合、物理的吸着あるいは生化学的な特異性や親和性により結合させる担体結合法、2)2個又はそれ以上の官能基を持つ試薬、例えば、グルタルアルデヒドなどを介して、酵素分子と担体を結合させる架橋法、3)ゲルの格子中に酵素を包み込む「格子型」や、半透膜性ポリマーの皮膜、リポソームや中空繊維に酵素を封じ込む「マイクロカプセル型」形成法がある(非特許文献2)。
【0004】
具体的には、例えば、DEAEなどのイオン交換樹脂に結合させた方法として、酵素セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼを、イオン交換樹脂に固定化し、該固定化酵素を用い、グリシンとホルムアルデヒドからL−セリンを製造する方法がある(特許文献1)。
【0005】
N,N’−メチレン−ビス(メタクリルアミド)・グリシジルメタクリレート・アリルグリシジルエーテル・メタクリルアミド共重合体に固定化されていることを特徴とする、枯草菌由来の酵素を固定化した、固定化アセチルハイドロラーゼがある(特許文献2)。
【0006】
酵素タンパク質のカルボキシ末端側に、システイン残基をカルボキシ末端とする数個のアミノ酸残基から成るアミノ酸配列を導入して、改変酵素タンパク質を調製した後、そのカルボキシ末端のシステイン残基におけるメルカプト基を介して、固定化担体に結合させることにより、固定化酵素を製造する方法がある(特許文献3)。
【0007】
再生粒状多孔質キトサン担体に対し、ビニルアルコールのアルキルエーテルと無水マレイン酸との共重合体溶液を、該担体1乾燥重量部に対し、0.05〜0.60乾燥重量部反応させた後、該溶液を除去し、次いで、酵素水溶液を加え、酵素を固定化した固定化酵素の製造方法がある(特許文献4)。
【0008】
寒天を用いて調製した寒天ゲルを、固定化担体として、多点結合法により、酵素を固定化する方法であって、寒天ゲルに、グリシドール(2,3−エポキシプロパノール)を反応させて、プロパンジオール基を導入し、次いで、過ホウ素酸ナトリウムを反応させて、アセトアルデヒド基とした後、酵素を固定化することを特徴とする固定化酵素の製造方法がある(特許文献5)。
【0009】
エピクロルヒドリンで架橋した澱粉、エピクロルヒドリンで架橋したグアーガム及びセルロースの中から選ばれた少なくとも1種の物質を充填したカラムに、水又は硫酸アンモニウムの溶液中で、糖質関連酵素を吸着させ、硫酸アンモニウム溶液で洗浄して、該酵素以外の不純物を除去した後、水又は緩衝液を用いて、該吸着酵素を溶離して回収することを特徴とする高純度糖質関連酵素の製造方法、並びに該酵素を用いる固定化糖質関連酵素の製造方法がある(特許文献6)。
【0010】
本方法では、特定の物質をカラムに充填し、流速が保持できる酵素吸着用担体を用いて、水又は硫安溶液中で、糖質関連酵素を吸着し、酵素以外の不純物を同溶液で洗浄・除去して、酵素結合ゲル、酵素結合物とし、純水又は緩衝液で、該酵素を溶離して、精製酵素を得て、更に、該酵素を各種の固定化基材と混合し、ゼラチンなどで結合させて、固定化酵素製材としている。
【0011】
澱粉を、ジアルデヒド化するためには、通常、澱粉を溶解して、反応させる(非特許文献3)。澱粉を、水媒体中にて、触媒の存在下、過酸化物を使用して、酸化反応を行う際に、一旦、澱粉を含む水媒体を、当該澱粉の糊化開始温度以上に加熱して、糊化した後、糊化開始温度以下の温度に冷却し、次いで、過酸化物を供給して、反応を行なうことを特徴とする澱粉の酸化方法がある(特許文献7)。
【0012】
グルタルアルデヒド架橋法により、キトサンビーズに、クレアチニンデイミナーゼを固定化した例がある(非特許文献4)。作用極の上に、グルタルアルデヒド架橋牛血清アルブミン膜及びグルコースオキシダーゼ含有光架橋樹脂膜を、順次形成せしめてなる尿糖バイオセンサ、グルコースオキシダーゼ含有光架橋樹脂膜上に、更に、グルコースオキシダーゼ非含有光架橋樹脂膜を形成せしめてなる尿糖バイオセンサがある(特許文献8)。
【0013】
酵素や牛血清アルブミンなどの蛋白質膜を、ガラス基板上に、均一に、しかも安定して、再現性良く塗布し得る固定化酵素膜の形成方法がある(特許文献9)。ヒスタミンオキシダーゼが、多孔性アルキルアミノ化ガラス、多孔性アミノ化ポリアクリロニトリル及び多孔性アルキルアミノ化セラミックスから成る群より選ばれた少なくとも1種のものに固定化され、グルタルアルデヒド架橋法によって、担体に固定化した場合、固定化率が90%以上と極めて高く、カラムに詰めて使用する場合、ビーズ状担体に固定化する方法がある(特許文献10)
【0014】
固定化担体と固定化法について検討した例があり、不織布、バイオキューブ、セライト、キトパール、ウレタンフォームの特性を比較検討した結果、不織布が、他の担体よりタンパク質の吸着量が最も高かった、としている(非特許文献5)。
【0015】
ヘミセルラーゼを、グルタルアルデヒド処理によって、多孔性ガラスに固定化し、また、カルボジイミド処理によって、シリカゲルに固定化することを試み、多孔性ガラスに固定化することで、高い酵素活性が得られている(非特許文献6)。
【0016】
キシラナーゼの固定化において、キトサンを担体として、グルタルアルデヒド処理によって、固定化した酵素は、高い操作安定性を示したという報告もある(非特許文献7)。 キシラナーゼを、カルボジイミド処理により、可溶性高分子(ポリビニルアルコール)に固定化し、60%の活性回収率が得られることを示した例がある(非特許文献8)。
【0017】
キシラナーゼの固定化を行い、グルタルアルデヒド架橋処理によって、ダイヤイオンHP200に固定化した酵素を用いた限外濾過型バイオリアクターにより、キシロビオースの製造が可能であることを報告している例がある(非特許文献9)。キシラナーゼを、ガラスビーズに固定化することにより、酵素の熱安定性が向上することを明らかにした報告もある(非特許文献10)。
【0018】
関連技術として、優れた経時変化耐性、電子レンジ耐性及び風味を付与することができる澱粉ペプチド複合体から成る食品用素材の製造法がある(特許文献11)。本法では、「澱粉類は、水分調整を行なったものでも水分未調整のものでもいずれも使用し得るが、含水率を8〜25%、特に15〜20%に調整した澱粉が好ましい。澱粉類とペプチドとの反応は、常圧又は900kPa[G]以下の加圧下で、温度100〜180℃にて10分間〜5時間、特に20分間〜3時間加熱処理することが好ましい。」としている。
【0019】
澱粉粒に、水分を添加して、粉末状態又は分散状態で、加熱処理し、粒表面を糊化させれば、室温又は定温放置により老化又は固化し、難消化性及び/又は物性が改変されることは、本発明者らによる先願(特許文献12)で提案されている。
【0020】
物理的吸着に先駆けて、澱粉加水分解酵素を、ジアゾ化合物、グルタルアルデヒドなどのモノ又は多機能試薬で修飾又は架橋し、水不溶性担体、活性炭、ガラス、珪藻土、リン酸カルシウムゲル澱粉、アミロースなどに澱粉加水分解酵素を物理的吸着により固定化する方法がある(特許文献13)。
【0021】
このように、固定化酵素の生産には、各種の方法があり、各種の原料から、各種の生産物が製造されている。しかし、これらの固定化酵素の生産方法は、一般に、高コストで、煩雑な工程があり、更に、固定化酵素への生産物の吸着、不要物の混入の可能性があり、また、目的の素材が効率的に得られないなどの不利な面もあるのが実情である。一方、澱粉粒は、安定性に優れ、食品素材として、安全で、大量に生産され、これを固定化酵素の担体として利用できれば、酵素作用で生成されたものを担体に含めた全体利用が可能であり、要すれば、分離も簡単であり、安全性にも優れた製品となると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開平8−84593号公報
【特許文献2】特開2002−266号公報
【特許文献3】特開平8−33485号公報
【特許文献4】特開平11−164687号公報
【特許文献5】特開平11−56357号公報
【特許文献6】特開平8−116970号公報
【特許文献7】特開平9−188704号公報
【特許文献8】特開平9−159645号公報
【特許文献9】特開平9−15191号公報
【特許文献10】特開2002−264号公報
【特許文献11】特開2005−278466号公報
【特許文献12】特願2007−233463
【特許文献13】米国特許第4338398号
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】一島英治、『酵素の化学』、朝倉書店、p.122−134、1995年
【非特許文献2】Trends Food Science Technology,7,279(1996)
【非特許文献3】日本応用糖質科学会誌、Vol.46、pp.407−412(1999)
【非特許文献4】分析化学,54(12),1205−1210(2005)
【非特許文献5】学位論文筑波大学、博乙第2288号、平成19年3月23日
【非特許文献6】Trans.Tech.Sect.,Can.Pulp Pap.Assoc.Vol.3,TR64(1977)
【非特許文献7】Appl.Biotecnol.,38,69(1993)
【非特許文献8】Acta.Biotechnol.,9,191(1989)
【非特許文献9】発酵工学会誌,69(3),151(1991)
【非特許文献10】Biochem.J.,277,413(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、簡便な方法で、食品製造に安全な固定化酵素の製造法を開発することを目標として鋭意研究を重ね、食品素材生産用に好適な材料として、澱粉とセルロースを選択し、これらに、澱粉加水分解酵素を結合させることを試みた結果、条件により、澱粉粒に、直接結合させ、目的とする酵素剤素材が調製できることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、澱粉粒又はセルロース粉末担体に、粉末状態を維持して澱粉加水分解酵素を結合させることを特徴する澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法及びその澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)澱粉粒の形態を保持した澱粉粒又はセルロース粉末に、澱粉加水分解酵素を混合し、当該澱粉粒又はセルロース粉末担体に、粉末状態を維持して澱粉加水分解酵素を結合させて澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素とすることを特徴する澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法。
(2)澱粉粒に、澱粉加水分解酵素を含む水又はエタノール水溶液を、澱粉粒重量当たり5〜40%加えて混合して、当該澱粉粒に、粉末状態を維持して澱粉加水分解酵素を結合させて固定化する、前記(1)に記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法。
(3)澱粉粒に、α−アミラーゼ及び/又はグルコアミラーゼを作用させて、その表面に、穴を開けた澱粉粒又は粒表面を一部糊化した澱粉粒を用いる、前記(1)又は(2)に記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法。
(4)澱粉粒表面又はセルロース粉末を、酸化処理した後に、澱粉加水分解酵素を結合させ処理を行う、前記(1)又は(2)に記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法。
(5)澱粉加水分解酵素が、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ、又はサイクロデキストリン合成酵素である、前記(1)から(4)のいずれかに記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法。
(6)澱粉粒又はセルロース粉末表面をタンパク質で被覆してから、澱粉加水分解酵素を結合させる処理を行う、前記(1)から(5)のいずれかに記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法。
(7)タンパク質が、卵白、ゼラチン、カゼインナトリウム、又はツェインである、前記(6)に記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法。
(8)澱粉加水分解酵素と担体を、グルタルアルデヒドで結合させる、前記(6)に記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法。
(9)前記(1)から(8)のいずれかに記載の方法で、澱粉粒の形態を保持した澱粉粒又はセルロース粉末担体に、粉末状態を維持して澱粉加水分解酵素を結合させて固定化澱粉加水分解酵素としたことを特徴とする澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素。
【0026】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、澱粉粒又はセルロース粉末に、澱粉加水分解酵素を結合させることを特徴する澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法及びその澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素であり、固定化するための条件として、澱粉粒に、水を、澱粉粒重量当たり5〜40%加えて、澱粉加水分解酵素を混合、結合させること、また、固定化を強くするために、α−アミラーゼ及び/又はグルコアミラーゼを作用させて、その表面に、穴を開けた澱粉粒又は粒表面を一部糊化した澱粉粒を用いること、また、結合を強化するために、澱粉粒表面又はセルロース粉末を酸化処理した後に、澱粉加水分解酵素を結合させること、澱粉粒表面又はセルロースを、タンパク質で被覆し、グルタルアルデヒドで処理して、澱粉加水分解酵素を結合すること、などを特徴とするものである。
【0027】
本発明では、澱粉粒又はセルロース粉末に、水分を少なくするようにして、澱粉加水分解酵素の水又はエタノール水溶液を混合、撹拌して、澱粉加水分解酵素を結合させ、粉末又は分散状態を維持して、原料に作用させる方法を確立した。澱粉加水分解酵素の量と種類は、任意であり、目的に応じて適宜選択する。エタノール濃度も任意である。澱粉粉末に添加する水又はエタノール溶液の量を調整することが肝要であり、適量は、澱粉粉末に対して、5〜40%であり、30%が好適である。
【0028】
水又はエタノール水溶液を、これ以上添加すると、45%程度で、澱粉が団子状に固まり、50%では、揺変性(チキソトロピー、Thixotropie)で、これ以上の水の添加では、液状を呈し、このままでは、本発明の方法では使えない。しかし、室温通風乾燥すれば、使えるようになる。
【0029】
澱粉加水分解酵素の種類には、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、サイクロデキストリン合成酵素(以下、CGTaseと略称することがある)、プルラナーゼ、イソアミラーゼ、マルトトリオース生成酵素、マルトテトラオース生成酵素、マルトペンタオース生成酵素、マルトヘキサオース生成酵素があり、澱粉加水分解酵素に限らず、スクラーゼ、ラクターゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼなどの糖質加水分解酵素、タンパク質、ペプチド加水分解酵素、その他の酵素でも、本発明の方法を適用可能である。
【0030】
穴あき澱粉粒の製法には、本発明者ら(深井、高木、小林)の方法があり、文献[日本農藝化學會誌,68(4),793−800(1994)]に掲載されているが、本発明では、該方法により作製したこの穴あき澱粉粒を、空洞澱粉と呼称する。また、澱粉粒表面を糊化させる方法は、本発明者らによる先願(特願2007−233463)に掲載されており、すなわち、澱粉粉末に、水又は水溶液を、澱粉重量当たり30%程度に添加して、大気中、高温で、焙焼する方法、が適宜用いられる。
【0031】
澱粉粒に、直接、澱粉加水分解酵素を結合させて反応に用いると、澱粉粒が徐々に加水分解作用を受け、同時に、酵素が離脱する。そこで、直接、澱粉加水分解酵素の作用を受けないか、受け難いようにする方法が求められる。これに対応して、澱粉粒、空洞澱粉表面を酸化すれば、澱粉加水分解酵素の作用を受け難くすると同時に、該処理澱粉粒への澱粉加水分解酵素の結合を増強することができる。更には、澱粉加水分解酵素の作用を防御するために、澱粉粒表面を被覆することが考えられ、安全性の高い、食品素材での被覆と、酵素との結合の増強が可能である。本発明では、これらを、澱粉酸化処理粉末と呼称する。
【0032】
タンパク質の表面被覆素材としては、卵白が好適に利用できる。卵白のタンパク質は、オボグロビン、オボアルブミン、糖タンパクからなり、62℃で、凝固し、80℃以上で、完全に凝固する。卵白は、約89%が水分であるが、水を加えると、白濁する。少量の食塩を加えて、生理的食塩水程度の食塩濃度にすると、透明に溶解するので、この状態で、澱粉粒又はセルロース粉末を混合して、被覆する。被覆用タンパク質溶液の濃度は限定されないが、均等被覆には、2.5〜20%が好適である。
【0033】
なお、被覆の際の水溶液の添加量は、澱粉粒の場合は、30〜40%、セルロース粉末では、50%程度が好適で、粉末状を保持することができる。粉末状で、高温処理することにより、分散状の澱粉粒又はセルロース粉末が得られる。また、タンパク質素材に、糖質が混入していると、高温処理によるメイラード反応で、着色することがあるが、着色状態でも、本発明の方法は適用できる。
【0034】
プロラミン蛋白は、含水アルコールに可溶な蛋白であり、トウモロコシ由来のプロラミンは、ツェイン(ゼイン)と呼称される。ツェイン蛋白は、50%エタノール水溶液に、5%濃度に溶解して被覆する。また、カゼインは、牛乳タンパク質の1つで、カゼイン自体は、水に溶けないので、アルカリで中和し、ナトリウム塩とした水溶性のカゼインナトリウムが製品化されているので、これを利用することができる。また、ゼラチンは、動物の皮膚や骨に含まれる結合組織を構成する繊維性蛋白質の1種であるコラーゲンを、温水で加熱抽出することにより得られる、変性させたコラーゲンであり、水溶性タンパク質である。
【0035】
このように、ゼラチン、カゼインのような動物性タンパク質、大豆タンパク質、卵タンパク質、小麦タンパク質、トウモロコシタンパク質のような植物タンパク質、いずれでも、本発明の方法は、適用でき、また、タンパク質系に限らず、粒表面を被覆でき、担体が澱粉加水分解酵素の作用を受けないか、受け難くすることができる糖質系、例えば、増粘多糖類が利用可能である。
【0036】
原料からの生成物を、HPLCにより分析して、酵素作用を評価する。分析は、脱気装置(ERC−3310,エルマ(株)),ポンプ(880−U,日本分光(株)),示差屈折検出器(RID−300,日本分光(株)),記録計(Sic Chromatoorder 12,),高速液体クロマトグラフィー用充填カラム(LiChrospher 100 NH(5μm),φ4.0×250mm,関東化学(株))からなる高速液体クロマトシステムを用いて、分析操作を行う。
【0037】
試料は、マイクロシリンジ(702SNR,ハルミトン(株))を用いて、1%糖液、1成分の場合、10μLインジェクターに注入する。溶離液に、65%(v/v)アセトニトリル水溶液を用い、流速1.0mL/min、室温25℃で分析する。反応後、反応液を、密閉バイアルに一部採取、密閉して、沸騰水浴中で、5分間、失活処理して、試料とする。
【0038】
α−アミラーゼ用基質としては、γ−サイクロデキストリンを用い、グルコアミラーゼの共存下で、澱粉加水分解酵素固定化澱粉粒試料を作用させ、消失したγ−サイクロデキストリンの算出と、生成したグルコースを検出する。これは、γ−サイクロデキストリンは、α−アミラーゼにより、加水分解を受けるが、グルコアミラーゼは、γ−サイクロデキストリンに全く作用しないことを利用するものである。加水分解率については、初発γ−サイクロデキストリンピークの面積と反応後のγ−サイクロデキストリンピークの面積の差/初発γ−サイクロデキストリンピークの面積、として、加水分解率を求める。
【0039】
β−アミラーゼ用基質としては、マルトトリオシル−α−サイクロデキストリンを用いる。これは、β−アミラーゼが、マルトトリオシル−α−サイクロデキストリンの枝部分のマルトトリオシル基に作用し、グルコシル基に切断して、マルトースとグルコシル−α−サイクロデキストリンが生成することを利用するものである。加水分解率については、生成マルトース+グルコシル−α−サイクロデキストリンピークの面積/初発マルトトリオシル−α−サイクロデキストリンピークの面積、として、加水分解率を求める。
【0040】
グルコアミラーゼ用基質としては、マルトシル−α−サイクロデキストリンを用いる。これは、グルコアミラーゼが、マルトシル−α−サイクロデキストリンの枝部分のマルトシル基をグルコシル基に切断して、グルコースとグルコシル−α−サイクロデキストリンが生成することを利用するものである。加水分解率については、生成グルコース+グルコシル−α−サイクロデキストリンピークの面積/初発マルトシル−α−サイクロデキストリンピークの面積、として、加水分解率を求める。
【0041】
プルラナーゼ用基質としては、マルトシル−α−サイクロデキストリンを用いる。これは、マルトシル基を切断して、マルトースとα−サイクロデキストリンが生成することを利用するものである。加水分解率については、生成マルトース+α−サイクロデキストリンピークの面積/初発マルトシル−α−サイクロデキストリンピークの面積、として、加水分解率を求める。
【0042】
CGTase用の基質としては、マルトヘプタオースを用いる。これは、α−サイクロデキストリンが生成することを利用するものである。加水分解率については、生成α−サイクロデキストリンピークの面積/初発マルトヘプタオースピークの面積、として、加水分解率を求める。なお、CGTaseの反応初期には、α−サイクロデキストリンの生成が主体である。測定例のHPLCプロファイルについては、後記する。
【0043】
次に、固定化酵素の調製について説明する。400mgのセルロース粉末に、400μLの酵素水又はエタノール水溶液を加えて、スパーテルで撹拌する。適度な湿潤粉末状態となる。粉末状態を保持できる酵素水又はエタノール水溶液の量は、セルロース当たり50%から150%である。50%では、パサパサ状態となり、100%では、湿潤粉末状態となり、150%では、まとまってケーキ状態となる。これ以上の量を添加した場合は、懸濁液状となるが、室温風乾して分散させれば、酵素反応に用いることができる。
【0044】
好適な条件としては、400mgのセルロース粉末に、400μLの酵素溶液を加えて、撹拌し、室温で風乾して用いる。酵素溶液の濃度は、適宜変化させて用いることができる。一例として、市販試薬プルラナーゼでは、10mg/mLの水又はエタノール水溶液を調製して用いる。本条件で調製した酵素標品は、2回の反応で、生成率は、半減する。そこで、結合を増強することが求められる。
【0045】
セルロースを、文献記載の方法[日本応用糖質科学会誌、Vol.46、pp.407−412(1999)]に準拠して、酸化処理する。すなわち、セルロース分散液(10g/500mL)に、100mM過ヨウ素酸ナトリウム500mLを、4℃、一夜、暗所で撹拌して反応させる。反応後、500mLの蒸留水で、3回洗浄して、洗浄後、室温で風乾して、粉末状とし、その後、105℃で、乾燥して、サラサラの粉末とすることができる。本発明では、これを、セルロース酸化処理粉末と呼称する。
【0046】
澱粉の酸化処理は、文献記載の方法[日本応用糖質科学会誌、Vol.46、pp.407−412(1999)]に準拠して行う。すなわち、澱粉、懸濁液(10g/500mL)に、100mM過ヨウ素酸ナトリウム500mLを、4℃で、一夜、暗所で撹拌して反応させる。反応後、500mLの蒸留水で、3回洗浄して、洗浄後、室温で風乾して、粉末状とし、その後、105℃で、乾燥して、サラサラの粉末とする。本発明では、これを、酸化処理澱粉粉末と呼称する。
【0047】
セルロース又はセルロース酸化処理粉末に、タンパク質被覆をする。卵白を、0.9%食塩水に溶解し、セルロースに対して、同量を加えて、混合、撹拌し、150℃、1時間で、焙焼すれば、白色の粉末となる。焙焼温度に制限はないが、180℃で、1時間以上の焙焼では、着色が進む。なお、着色しても、固定化には影響しない。本発明では、これらを、タンパク質被覆処理セルロース粉末と呼称する。
【0048】
澱粉粒、空洞澱粉粒、酸化処理澱粉粉末に、タンパク質被覆をする。卵白を、0.9%食塩水に溶解し、澱粉粒に対して、30%量を加えて、混合、撹拌し、150℃、1時間で、焙焼すれば、白色の粉末となる。澱粉の場合も、焙焼温度に制限はないが、170℃で、1時間以上の焙焼では、着色が進む。なお、着色しても、固定化には影響しない。本発明では、これらを、タンパク質被覆処理澱粉粉末と呼称する。
【0049】
タンパク質被覆処理セルロース粉末、タンパク質被覆処理澱粉粉末に、グルタルアルデヒドを用いて、澱粉加水分解酵素と架橋させ、更に、結合を強力にするには、被覆処理粉末2gを、0.2M炭酸塩緩衝液(pH10)で調製した5%(v/v)グルタルアルデヒド溶液20mLに加え、室温で、2時間、振盪した後(アルデヒド基導入)、pH6.5〜7.5に調整した蒸留水50mLで、2回洗浄し、本蒸留水を、酵素を溶解した溶液(50mg/mL)20mLに移し、室温で、2時間、振盪後、5℃で、一晩放置して、カップリングを行う。反応後、同蒸留水で澱粉を洗浄して、未反応の酵素を除去し、室温で乾燥し、澱粉加水分解酵素架橋固定化タンパク質被覆乾燥粉末を得る。
【0050】
澱粉としては、コーンスターチ(ワキシ、ハイアミロース)、馬鈴薯、甘藷、タピオカ、サゴなど、粒構造を維持しているもの、反応媒体中、構造物で、澱粉加水分解酵素を保持できるものであれば、何れでも、本発明を適用することができる。
【0051】
澱粉粒を、カラムに詰めたり、液状で作用させるとき、水分含有量により、固着する傾向がある。これを防止するために、空隙を均一に存在させることが有効であり、食品素材の生産に適当な素材として、セルロースが好適である。この他、活性炭、グラスビーズなどでも利用できるが、作用終了後の処理に、手数がかかる可能性がある。
【0052】
結合をより強くするための手段としては、糖質の特性を利用したものが適当であり、グルコースのポリマーである場合、2、3位の水酸基を、酸化により、アルデヒド基として、酵素のアミノ基と結合することが考えられる。
【0053】
澱粉加水分解酵素の種類は、極めて多く、作用様式も異なるので、目的により、適宜選択すればよいが、本発明の方法では、澱粉加水分解酵素の種類に制限はない。また、澱粉加水分解酵素産生菌体を直接用いることも可能であるが、効率は高くないものと推測される。澱粉加水分解酵素の量は、任意であり、特に、合成を目的とした場合は、澱粉加水分解酵素の作用を増強させて用いることが望ましい。
【0054】
澱粉の場合、粉末分散状で、高温処理しないと、表面のみの局部処理ができなくなり、本発明の方法が適用できなくなる。すなわち、澱粉は、粒を分散した状態にしてから、高温処理する。この状態以外では、溶解・糊化して、本発明の方法を適用することが困難となる。このような場合、粒構造をとらせ、表面が、液に浸漬したときに、溶解しないようにする。
【0055】
疎水性の環境にすると、遊離酵素では、不安定となるが、固定化すると、安定性が向上し、エタノール溶液中で反応させるができ、逆合成反応が起こりやすい。カラムに詰めて反応する場合、流速を早くするためには、澱粉加水分解酵素固定化澱粉に、セルロース又は澱粉加水分解酵素固定化セルロースを混合するか、澱粉加水分解酵素固定化セルロースを用いる。
【0056】
オリゴ糖生成酵素としては、各種知られているが、これら酵素は、本発明の方法が適用でき、澱粉を可溶化した後、反応させて、各オリゴ糖を製造することができる。水酸基を持つ成分を、各種糖質と組合せ、澱粉加水分解酵素を作用させ、特に、CGTaseを利用すれば、各種の配糖体が得られるので、本発明の方法を適用することができる。
【0057】
澱粉粒に、タンパク質を被覆する方法としては、澱粉粒に、タンパク質溶液を混合撹拌して、粉末状にした状態で、高温加熱する方法、また、澱粉粒を、懸濁状態にして、タンパク質溶液に浸漬し、傾瀉して、タンパク質溶液を除去した後、室温で風乾して、粉末状態にした後に、高温加熱をする方法がある。澱粉粒を表面被覆することにより、澱粉の特性は、各様に変化させることができ、利用面は、拡大するが、本発明では、その一部を利用するものである。
【0058】
本発明の方法は、被覆素材の選択、結合試薬の選択で、酸化還元酵素、異性化酵素、転移酵素など、種類を限定せず、各種の酵素の固定化に適用できる。セルロースも、同様にして、被覆し、利用することができる。
【0059】
また、本発明の方法は、基本的には、タンパク質素材・成分(タンパク質、ペプチド、アミノ酸)、糖質素材・成分、脂質素材・成分などを、澱粉粒(天然澱粉から加工デンプン、ナノレベルの微粒子澱粉までを含む)、セルロースに粒子状態を保持しながら被覆する技術であり、本手法で、澱粉、セルロースの特性を変化させて、幅広い用途を開発することが可能であり、澱粉以外の粒状食品、小麦粉、米粉、微粒子食品にも適用し、物性変換、安定性向上などに利用可能である。特に、普通種澱粉粒に、モチトウモロコシ澱粉成分の被覆、タンパク質の重層被覆、香味成分などの被覆、重層被覆など、物性を変化させ、食味を改良した、新しいタイプの食品素材の製造に有用である。
【0060】
以上のように、本発明は、固定化素材として、澱粉粒、セルロース粉末を選択し、これらの素材を担体として使用し、これらの担体に、澱粉加水分解酵素を固定化できる、安全、かつ簡便な方法で処理し、低コストで、固定化澱粉加水分解酵素を製造し、提供するものとして有用である。
【発明の効果】
【0061】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)澱粉粒に、澱粉粒重量当たり5〜40%澱粉加水分解酵素を含む水又はエタノール水溶液を、粉末状態を維持して混合、撹拌して、澱粉加水分解酵素を結合させることで、固定化澱粉加水分解酵素を製造することができる。
(2)α−アミラーゼ及び/又はグルコアミラーゼを作用させて、その表面に穴を開けた澱粉粒又は粒表面を一部糊化した澱粉粒を用いて、澱粉粒重量当たり5〜40%澱粉加水分解酵素を含む水又はエタノール水溶液を、粉末状態を維持して混合、撹拌して、澱粉加水分解酵素を結合させ、固定化澱粉加水分解酵素を製造することができる。
(3)澱粉粒を酸化し、この酸化澱粉粒に、澱粉粒重量当たり5〜40%、澱粉加水分解酵素を含む水又はエタノール水溶液を、粉末状態を維持して混合、撹拌して、室温で乾燥させて、澱粉加水分解酵素を結合させ、固定化澱粉加水分解酵素を製造することができる。
(4)セルロース粉末を酸化し、この酸化セルロース粉末に、セルロース重量当たり10〜80%、澱粉加水分解酵素を含む水又はエタノール水溶液を、粉末状態を維持して混合、撹拌して、澱粉加水分解酵素を結合させ、固定化澱粉加水分解酵素を製造することができる。
(5)澱粉粒又はセルロース粉末を、タンパク質で被覆し、乾燥タンパク質被膜粒に、粒重量当たり5〜80%、澱粉加水分解酵素を含む水又はエタノール水溶液を、粉末状で混合、撹拌して、澱粉加水分解酵素を結合させ、固定化澱粉加水分解酵素を製造することができる。
(6)タンパク質被覆澱粉又はタンパク質被覆セルロースを、グルタルアルデヒド処理し、その後、澱粉加水分解酵素を結合させ、澱粉加水分解酵素を結合させ、固定化澱粉加水分解酵素を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】α−サイクロデキストリンのHPLCプロファイルを示す。
【図2】マルトシル−α−サイクロデキストリンのHPLCプロファイルを示す。
【図3】マルトヘプタオースのHPLCプロファイルを示す。
【図4】固定化プルラナーゼ反応生成物のHPLCプロファイルを示す。
【図5】遊離プルラナーゼ反応生成物のHPLCプロファイルを示す。
【図6】CGTase遊離酵素反応生成物のHPLCプロファイルを示す。
【図7】固定化CGTase反応生成物のHPLCプロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0064】
コーンスターチ粉末2gに、1)α−アミラーゼ(Wako化学用)10mg/1mL蒸留水溶液、2)グルコアミラーゼ(Wako生化学用)10mg/1mL蒸留水溶液、3)プルラナーゼ(市販試薬粗製プルラナーゼ、林原生物化学研究所製)10mg/1mL蒸留水溶液、4)CGTase(液体コンチザイム、天野エンザイム(株)製)を蒸留水で10倍希釈した溶液、5)β−アミラーゼ(Wako β−アミラーゼ,オオムギ由来)10mg/1mL蒸留水溶液の各600μLを加えて、混合、撹拌した。
【0065】
この混合物は、粉末状態を保持している。2時間、室温で放置し、乾燥して、澱粉加水分解酵素固定化澱粉乾燥粉末を得た。第1回目の反応として、本粉末の100mgを、5mLの1%濃度のγ−サイクロデキストリン、マルトシル−α−サイクロデキストリン、マルトヘプタオース、マルトトリオシル−α−サイクロデキストリン蒸留水溶液に加えて、40℃、1時間、撹拌して反応させた。この上清20μLを、HPLCで測定した結果、加水分解率は、1)で38%、2)で63%、3)で56%、4)で81%、5)で59%であった。
【0066】
対照試験として、同じ酵素溶液を、同様にして反応させた場合も、ほぼ同様の加水分解率であった。試験区の澱粉部分を、遠心分離して集め、第2回目の反応として、基質溶液を加えて、同様に反応させた結果、加水分解率は、全て第1回目の半分以下となった。すなわち、半減回数は、2回以下ということになる。なお、プルラナーゼとCGTaseの反応生成物を示すHPLCプロファイルを、図4と図7に示した。
【実施例2】
【0067】
深井・高木・小林の方法[日本農藝化學會誌,68(4),793−800(1994)]で、コーンスターチから調製した空洞澱粉乾燥粉末2gを用いた以外は、実施例1と同様にして、澱粉加水分解酵素固定化空洞澱粉乾燥粉末を得た。実施例1と同様に反応して、ほぼ同等の加水分解率を得たが、半減回数は、2に向上した。
【実施例3】
【0068】
コーンスターチを、文献記載の方法[日本応用糖質科学会誌、Vol.46、pp.407−412(1999)]に準拠して、酸化処理した。すなわち、コーンスターチ懸濁液(10g/500mL)に、100mM過ヨウ素酸ナトリウム500mLを、4℃、一夜、暗所で撹拌して反応させた。反応後、500mLの蒸留水で3回洗浄して、洗浄後、室温風乾して粉末状とし、その後、105℃で乾燥して、サラサラの粉末とした。この2gを用い、実施例1と同様にして、澱粉加水分解酵素を固定化して、澱粉加水分解酵素固定化酸化澱粉乾燥粉末を得た。実施例1と同様に反応させて、ほぼ同等の加水分解率を得たが、半減回数は、2に向上した。
【実施例4】
【0069】
市販卵を割って、白身部分を、先の太いピペットで吸引してとり、0.9%食塩水で2倍希釈したものを、空洞澱粉2gに、800μL加えて、ミニビーカー中で混合、撹拌し、150℃で、1時間、焙焼した結果、殆ど着色はなく、170℃で、1時間の焙焼で、僅かに黄灰色になる程度であった。
【0070】
この卵白被覆空洞澱粉(卵白被覆空洞澱粉)乾燥粉末2gを用い、実施例1と同様にして、澱粉加水分解酵素固定化卵白被覆空洞澱粉乾燥粉末を得た。本酵素剤を用いて、実施例と同様に反応させた結果、第1回目は、ほぼ同様な結果を得たが、半減回数は、3に向上した。なお、ゼラチン、カゼインナトリウムを用いた場合も、同様の結果を得た。
【実施例5】
【0071】
卵白被覆空洞澱粉5gを用い、0.2M炭酸塩緩衝液(pH10)で調製した5%(v/v)グルタルアルデヒド溶液20mLに加え、室温で、2時間、振盪した後(アルデヒド基導入)、pH6.5〜7.5に調整した蒸留水50mLで、2回洗浄し、本蒸留水に、プルラナーゼ(市販試薬粗製プルラナーゼ、林原生物化学研究所製)を溶解した溶液(50mg/mL)20mLに移し、室温で、2時間、振盪後、5℃で、一晩放置して、カップリングを行った。反応後、同蒸留水で澱粉を洗浄して、未反応の酵素を除去し、室温で乾燥し、澱粉加水分解酵素架橋固定化卵白被覆空洞澱粉乾燥粉末を得た。活性発現率は、50〜80%程度に低下するが、半減回数は、5となった。
【0072】
本標品を、同量のセルロース粉末を均一に混合した後、直径2センチ×20センチのガラスカラムに詰め、50%エタノール溶液を通してから、40℃の定温室内、シリコン管を用いて、ペリスタポンプで、各0.1Mのマルトースとα−サイクロデキストリンを含む溶液を、24時間連続サイクル送液して、マルトシル−α−サイクロデキストリンの生成を検出できた。なお、澱粉加水分解酵素架橋固定化卵白被覆空洞澱粉乾燥粉末のみを詰めたカラムでは、流速の維持が困難である。
【実施例6】
【0073】
セルロース粉末2gに、1)α−アミラーゼ(Wako化学用)10mg/1mL蒸留水溶液、2)グルコアミラーゼ(Wako生化学用)10mg/1mL蒸留水溶液、3)プルラナーゼ(市販試薬粗製プルラナーゼ、林原生物化学研究所製)10mg/1mL蒸留水溶液、4)CGTase(液体コンチザイム、天野エンザイム(株)製)を蒸留水で10倍希釈した溶液、5)β−アミラーゼ(Wako β−アミラーゼ,オオムギ由来)10mg/1mL蒸留水溶液の各1mLを加えて混合撹拌した。この混合物は、粉末状態を保持していた。2時間、室温で放置し、乾燥して、澱粉加水分解酵素固定化セルロース乾燥粉末を得た。
【0074】
第1回目の反応として、本粉末の100mgを、5mLの1%濃度のγ−サイクロデキストリン、マルトシル−α−サイクロデキストリン、マルトヘプタオース、マルトトリオシル−α−サイクロデキストリン蒸留水溶液に加えて、40℃で、1時間、撹拌して反応させた。この上清20μLを、HPLCで測定した結果、加水分解率は、実施例1よりやや高めであった。セルロース部分を遠心分離して集め、第2回目の反応として、基質溶液を加えて、同様に反応した結果、加水分解率は、極めて低く、第1回目の20%以下の加水分解率であった。
【実施例7】
【0075】
セルロースを、文献記載の方法[日本応用糖質科学会誌、Vol.46、pp.407−412(1999)]に準拠して、酸化処理した。すなわち、セルロース懸濁液(10g/500mL)に、100mM過ヨウ素酸ナトリウム500mLを、4℃、一夜、暗所で撹拌して反応させた。反応後、500mLの蒸留水で3回洗浄して、洗浄後、室温で風乾して粉末状とし、その後、105℃で乾燥して、サラサラの粉末とした。この2gを用い、実施例6と同様にして、澱粉加水分解酵素固定化酸化セルロース乾燥粉末を得た。実施例6と同様に反応させて、第1回目では、同等であり、第2回目では、30%以上であった。
【実施例8】
【0076】
市販卵白を、5%濃度で、0.9%食塩水で溶解し、セルロース粉末2gに1mL加えて、ミニビーカー中で、混合、撹拌し、150℃で、1時間、焙焼し、卵白被膜セルロース粉末を得た。この2gに、実施例6と同様にして、澱粉加水分解酵素固定化卵白被覆セルロース乾燥粉末を得た。この2gを用い、実施例6と同様にして、澱粉加水分解酵素固定化酸化セルロース乾燥粉末を得た。実施例6と同様に反応させて、第1回目では、同等であり、第2回目では、第1回目の50%以上であった。すなわち、半減回数は、2以上である。
【実施例9】
【0077】
卵白被覆セルロース5gを用い、0.2M炭酸塩緩衝液(pH10)で調製した5%(v/v)グルタルアルデヒド溶液20mLに加え、室温で、2時間、振盪した後(アルデヒド基導入)、pH6.5〜7.5に調整した蒸留水50mLで、2回洗浄し、本蒸留水に、プルラナーゼ(市販試薬粗製プルラナーゼ、林原生物化学研究所製)を溶解した溶液(50mg/mL)20mLに移し、室温で、2時間、振盪後、5℃で、一晩、放置して、カップリングを行った。反応後、同蒸留水で、セルロースを洗浄して、未反応の酵素を除去し、室温で乾燥し、澱粉加水分解酵素架橋固定化卵白被覆セルロース乾燥粉末を得た。活性発現率は、70%程度に低下するが、半減回数は、5となった。
【実施例10】
【0078】
CGTase(液体コンチザイム、天野エンザイム(株)製)を、pH6.5〜7.5に調整した蒸留水で、10倍希釈した溶液を用いた以外は、実施例9と同様にして、同様の結果を得た。本標品を、直径2センチ×20センチのガラスカラムに詰め、50%エタノール溶液を通してから、40℃の定温室内で、シリコン管を用いて、ペリスタポンプで、各0.1Mのマルトースとカテキンを溶解した50%エタノール溶液を、24時間、連続サイクル送液して、配糖体と予想されるピークを検出できた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上詳述したように、本発明は、澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素及びその製法に係るものであり、本発明により、食品加工上安全性の高い素材である、澱粉粒、セルロース粉末を用いて、澱粉水解酵素の固定化方法及び澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素を提供することができる。本発明では、粒をタンパク質でコーテイングすることにより、固定化が増強され、更に、穏和な条件で、化学的処理、架橋処理をすることにより、固定化を強力にすることを可能にしたものである。本方法では、澱粉粒、セルロース粉末の特性を、被覆という手段で変化させることができ、これら粒構造を持つ素材への適用が可能でもある。また、本発明では、この固定化澱粉水解酵素を用いて、各種の安全性の高い食品素材を製造することもでき、酵素を選択し、逆合成作用を用い、各種の糖質の製造、水酸基を持つ化合物との反応による配糖体の製造も可能であり、極めて広汎な利用面を持つ方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉粒の形態を保持した澱粉粒又はセルロース粉末に、澱粉加水分解酵素を混合し、当該澱粉粒又はセルロース粉末担体に、粉末状態を維持して澱粉加水分解酵素を結合させて澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素とすることを特徴する澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法。
【請求項2】
澱粉粒に、澱粉加水分解酵素を含む水又はエタノール水溶液を、澱粉粒重量当たり5〜40%加えて混合して、当該澱粉粒に、粉末状態を維持して澱粉加水分解酵素を結合させて固定化する、請求項1に記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法。
【請求項3】
澱粉粒に、α−アミラーゼ及び/又はグルコアミラーゼを作用させて、その表面に、穴を開けた澱粉粒又は粒表面を一部糊化した澱粉粒を用いる、請求項1又は2に記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法。
【請求項4】
澱粉粒表面又はセルロース粉末を、酸化処理した後に、澱粉加水分解酵素を結合させ処理を行う、請求項1又は2に記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法。
【請求項5】
澱粉加水分解酵素が、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ、又はサイクロデキストリン合成酵素である、請求項1から4のいずれかに記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法。
【請求項6】
澱粉粒又はセルロース粉末表面をタンパク質で被覆してから、澱粉加水分解酵素を結合させる処理を行う、請求項1から5のいずれかに記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法。
【請求項7】
タンパク質が、卵白、ゼラチン、カゼインナトリウム、又はツェインである、請求項6に記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法。
【請求項8】
澱粉加水分解酵素と担体を、グルタルアルデヒドで結合させる、請求項6に記載の澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の方法で、澱粉粒の形態を保持した澱粉粒又はセルロース粉末担体に、粉末状態を維持して澱粉加水分解酵素を結合させて固定化澱粉加水分解酵素としたことを特徴とする澱粉粒又はセルロース粉末固定化澱粉加水分解酵素。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−226967(P2010−226967A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75263(P2009−75263)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(390021636)塩水港精糖株式会社 (11)
【Fターム(参考)】