説明

濁水処理装置

【課題】トンネル掘削により発生する濁水処理において、凝集反応槽内での極端なpH低下を防止し、良好な凝集状態を得るとともに、放流時のpHも基準に適合させうる濁水処理装置の提供。
【解決手段】トンネル掘削現場から発生する濁水を原水として貯溜する原水槽1と、凝集反応槽3と、沈殿槽2と、凝集反応槽3に設けられたpH指示調節計16と、原水槽と凝集反応槽との間の経路で原水に中和剤を添加する中和剤添加装置6と、pH指示調節計の検出pH値と閾値とを比較し、検出pH値が閾値を越えているとき、中和剤添加装置に中和剤の添加動作を行わせる演算制御装置17とを備え、演算制御装置は、中和剤添加装置が添加動作を行う直前の、原水pHの酸性側極値と設定pH下限値とを比較し、その偏差に基づいて中和剤添加装置から添加される中和剤の量を変化させる濁水処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、濁水処理装置に関し、より詳細にはトンネル掘削により発生する濁水を処理のための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばTBM(トンネルボーリングマシーン)工法などで知られるトンネル掘削においては、掘削に伴って多量の坑内湧水が発生することが多い。この坑内湧水は土砂を含んだ濁水となるので、そのまま河川等に放流することができない。このため、濁水(原水)を沈殿処理し、基準に適合した濁度やpH値として放流している(例えば特許文献1参照)。
【0003】
原水の沈殿処理には前処理として凝集剤を添加し、フロックを生成させるのが通常の手法である。トンネル掘削により発生する濁水はpH値が高く、他方、一般には凝集剤がフロックを生成するための最適pH範囲はそれよりも低いことから、またpH値を放流基準に適合させる必要性からも、原水に炭酸ガス等を添加する等して中和処理を行っている。
【0004】
しかしながら、トンネル掘削に伴って発生する濁水は、掘削作業時と非掘削作業時ではpH値が大きく変動する。また、この変動は掘削土質の変化によっても生じる。そこで、この発明の発明者らは、炭酸ガスの注入を制御する方法として、次のような方法を採用してきた。すなわち、図5に示すように、凝集反応槽のpHを常時測定し、測定pH値が図中αで示す閾値を越えているとき、その間炭酸ガスの注入弁動作をONとする制御方法である。
【0005】
この方法によれば、ある施工現場での原水pHの変動範囲は9.5〜11.0であったが、放流時pHは平均化されて6.7〜8.0となり放流基準(5.8〜8.6)に収めることができた。しかしながら、凝集反応槽内のpHは6.5〜9.6の間で変動し、特にpH7.5以下になったとき、凝集状態が悪くなるという現象が見られた。この現象は、高pHの原水を問題無く処理できるように注入弁の開閉閾値を設定しているので、その結果、図5に示すように原水pHが低下してくると炭酸ガスの注入量が過剰となり、凝集反応槽内pHの酸性側極値が著しく低下することによるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−80267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、トンネル掘削により発生する濁水処理において、凝集反応槽内での極端なpH低下を防止し、良好な凝集状態を得るとともに、放流時のpHも基準に適合させることができる濁水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、トンネル掘削現場から発生する濁水を原水として貯溜する原水槽と、原水槽から送られる原水に凝集剤を添加し、フロックを生成させる凝集反応槽と、原水中のフロックを分離し沈殿させる沈殿槽と、前記凝集反応槽に設けられたpH指示調節計と、前記原水槽と前記凝集反応槽との間の経路で原水に中和剤を添加する中和剤添加装置と、前記pH指示調節計の検出pH値と閾値とを比較し、検出pH値が閾値を越えているとき、その間前記中和剤添加装置に中和剤の添加動作を行わせる演算制御装置とを備えた濁水処理装置であって、
前記演算制御装置は、前記中和剤添加装置が添加動作を行う直前の、原水pHの酸性側極値と設定下限pH値とを比較し、その偏差に基づいて中和剤添加装置から添加される中和剤の量を変化させることを特徴とする濁水処理装置にある。
【0009】
より具体的な態様として、前記中和剤添加装置は中和剤の注入弁を有し、前記演算制御装置は前記注入弁の開度を前記偏差に基づいて変化させるという態様を採用することができる。あるいは、前記中和剤添加装置は中和剤の注入弁を有し、前記演算制御装置は前記注入弁をON・OFF動作させるとともに、そのデューティー比を前記偏差に基づいて変化させる態様を採用することができる。
【0010】
前記中和剤としては炭酸ガスを使用することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、中和剤の添加開始直前の凝集反応槽内pH値に応じた量の中和剤が添加されることから、中和剤は過不足のないものとなる。これにより、凝集反応槽内での極端なpH低下を防止することができ、良好な凝集状態を得るとともに、放流時のpHも基準に適合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施形態を示す処理系統図である。
【図2】pH変動に伴う弁制御の例を示す図である。
【図3】弁制御のフローチャートである。
【図4】pH変動に伴う弁制御の別の例を示す図である。
【図5】pH変動に伴う弁制御の従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、この発明による濁水処理装置の処理系統図である。トンネル掘削の施工現場で発生した濁水は、原水槽1に貯溜される。原水は沈殿槽2に付設された凝集反応槽3に、ポンプ4により管路5を通じて送られる。
【0014】
管路5には炭酸ガス気化器6が管路7を介して接続されている。管路7には炭酸ガスの注入を制御する注入弁8が設けられている。これら炭酸ガス気化器6及び注入弁8は中和剤添加装置を構成する。管路5には、また、凝集剤であるPAC(ポリ塩化アルミニウム)が収容されたPAC槽9が管路10を介して接続されている。PACは管路10に設けられた注入ポンプ11により管路5に送られる。管路5にはラインミキサー23が設けられている。このラインミキサー23により、PACと炭酸ガスとが混合されて、凝集反応槽3に送られる。凝集剤としては高分子凝集剤も用いられる。高分子凝集剤は溶解槽12に収容され注入ポンプ13を有する管路14を通じて凝集反応槽3に送られる。
【0015】
凝集反応槽3には攪拌機15が設けられている。この凝集反応槽3において、凝集剤及び炭酸ガスが添加された原水が攪拌され、フロックが生成される。凝集反応槽3にはpH指示調節計16が設けられ、その計測信号はコンピュータなどで構成される演算制御装置17に入力される。
【0016】
沈殿槽2では凝集反応槽3で生成されたフロックの分離沈殿処理がなされ、上澄水は管路18を通じて放流槽19に送られ、河川等に放流される。放流槽19にはポンプ20により汲み上げて放流水の濁度を測定するための濁度計21と、pH指示調節計22が設けられている。その他、濁水処理装置には沈殿槽2で沈殿したスラリーを引抜き脱水処理する脱水系統や、返送水の系統等が設置されているが、この発明には直接関係しないので、図示及びその説明を省略する。
【0017】
演算制御装置17は、pH指示調節計16の計測信号に基づき、炭酸ガスの注入弁8の動作を制御する。すなわち、演算制御装置17は測定された原水のpH値が設定された閾値αを越えると、その間注入弁8を開状態(ON)とし、注入弁8に管路5への炭酸ガスの注入動作を行わせる。閾値αとしては、図2に示すようにアルカリ側の値がとられる。
【0018】
また、演算制御装置17は、注入弁8が注入動作を行う直前の、原水pHの酸性側極値と設定pH下限値とを比較し、その偏差に基づいて注入弁8の開度を変化させる。ここに、酸性側極値とは、図2に示すように、原水pHは時間経過に伴ってアルカリ側及び酸性側というように上下に変動を繰り返すのであるが、この変動においてpH値が下降から上昇に転じるときの値である。すなわち、注入弁8が注入動作を行う直前の弁開度をRとし、設定pH下限値(図2に示す例では8.0)と酸性側極値との偏差がdであるとすると、演算制御装置17は弁開度R’を
R’=R±Cd(C:定数)・・・(1)
に変化させる。
【0019】
以下、演算制御装置の動作を図2に示すpH変動曲線と図3に示すフローチャートを参照して、さらに詳しく説明する。演算制御装置17は、凝集反応槽3内の原水pHを常時監視し、酸性側極値を検出する(ステップS1)。そして、極値と設定pH下限値(8.0)とを比較し(ステップS2)、極値が下限値よりも下回っていれば弁開度を引き下げる(ステップS3-A)。また、これとは逆に極値が下限値よりも上回っていれば、弁開度を引き上げる(ステップS3-B)。弁開度は、上述のように、極値と下限値との偏差dに基づき、上記(1)式から演算される。
【0020】
次に演算制御装置17は、弁開度の引き下げ又は引き上げの結果、弁開度が下限又は上限に達したか否かを判断し(ステップS4-A,S4-B)、下限又は上限に達していなければ、酸性値側極値の検出を続行する(ステップS1)。また、弁開度が下限又は上限に達していれば、弁のON・OFF動作の閾値を引き上げるか(+0.05)又は引き下げるか(−0.05)したうえで(ステップS5-A,S5-B)、酸性値側極値の検出を続行する(ステップS1)。
【0021】
以上のような弁制御によれば、注入弁8の注入動作開始直前の、凝集反応槽3内の原水pH値に応じた量の炭酸ガスが注入されることから、炭酸ガス量は過不足のないものとなる。これにより、凝集反応槽3内での極端なpH低下を防止することができ、良好な凝集状態を得るとともに、放流時のpHも基準に適合させることができる。
【0022】
図4は別の実施形態を示す弁動作図である。上記実施形態は、測定pH値が閾値を超えている間は弁を常時開状態(ON)とし、その弁開度を変化させることにより炭酸ガスの注入量を変えるようにしたものである。これに対し、この実施形態は、弁開度は変えずに一定として、測定pH値が閾値を超えている間において弁を開閉(ON・OFF)し、弁の開状態(ON)の時間的割合を変化させることにより、炭酸ガスの注入量を変えるようにしたものである。
【0023】
具体的には、弁の開動作が開始する一定時間間隔(周期)aを設定し、その周期において弁の開状態(ON)の持続時間bをb’に変化させることにより、炭酸ガスの注入量を変える方法である。すなわちデュ−ティ比による制御であり、比R(=b/a)をR’(=b’/a)に変えることにより炭酸ガス注入量を制御する方法である。この場合も、デュ−ティ比は、設定pH下限値と酸性側極値との偏差dに基づいて設定され、デュ−ティ比R’を決めるb’は、
b’=b±Cd(C:定数)・・・(2)
で示される。
【0024】
上記各実施形態は例示にすぎず、この発明は種々の形態を採ることができる。例えば、上記各実施形態では中和剤として炭酸ガスを使用しているが、硫酸、塩酸などの酸剤を使用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 原水槽
2 沈殿槽
3 凝集反応槽
5 管路
6 炭酸ガス気化器
8 注入弁
8 注入弁
16 pH指示調節計
17 演算制御装置
19 放流槽
21 濁度計
22 pH指示調節計
23 ラインミキサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル掘削現場から発生する濁水を原水として貯溜する原水槽と、原水槽から送られる原水に凝集剤を添加し、フロックを生成させる凝集反応槽と、原水中のフロックを分離し沈殿させる沈殿槽と、前記凝集反応槽に設けられたpH指示調節計と、前記原水槽と前記凝集反応槽との間の経路で原水に中和剤を添加する中和剤添加装置と、前記pH指示調節計の検出pH値と閾値とを比較し、検出pH値が閾値を越えているとき、その間前記中和剤添加装置に中和剤の添加動作を行わせる演算制御装置とを備えた濁水処理装置であって、
前記演算制御装置は、前記中和剤添加装置が添加動作を行う直前の、原水pHの酸性側極値と設定下限pH値とを比較し、その偏差に基づいて中和剤添加装置から添加される中和剤の量を変化させることを特徴とする濁水処理装置。
【請求項2】
前記中和剤添加装置は中和剤の注入弁を有し、前記演算制御装置は前記注入弁の開度を前記偏差に基づいて変化させることを特徴とする請求項1記載の濁水処理装置。
【請求項3】
前記中和剤添加装置は中和剤の注入弁を有し、前記演算制御装置は前記注入弁をON・OFF動作させるとともに、そのデューティー比を前記偏差に基づいて変化させることを特徴とする請求項1記載の濁水処理装置。
【請求項4】
前記中和剤は炭酸ガスであることを特徴とする請求項1,2,3のいずれか1に記載の濁水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−50947(P2012−50947A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197011(P2010−197011)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000216025)鉄建建設株式会社 (109)
【Fターム(参考)】