濃度定量装置及び濃度定量方法並びにプログラム
【課題】観測対象の任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる濃度定量装置及び濃度定量方法並びにプログラムを提供する。
【解決手段】照射部304、受光部305、光強度取得部306、光路長分布記憶部302、光路長取得部307、時間分解波形記憶部303、光強度モデル取得部308、光の強度分布と光路長分布と光強度モデルとに基づいて任意の層の光強度分布に対応する時間の範囲を算出する積分区間算出部309、光の強度分布と光強度モデル取得部308が取得した時間分解波形のモデルの複数の層の組み合わせに対し時間の範囲を変化させて任意の層の目的成分の光吸収係数を算出し取得する光吸収係数算出・取得部310,312、取得した目的成分の光吸収係数に基づいて任意の層の目的成分の濃度を算出する濃度算出部313を備えている。
【解決手段】照射部304、受光部305、光強度取得部306、光路長分布記憶部302、光路長取得部307、時間分解波形記憶部303、光強度モデル取得部308、光の強度分布と光路長分布と光強度モデルとに基づいて任意の層の光強度分布に対応する時間の範囲を算出する積分区間算出部309、光の強度分布と光強度モデル取得部308が取得した時間分解波形のモデルの複数の層の組み合わせに対し時間の範囲を変化させて任意の層の目的成分の光吸収係数を算出し取得する光吸収係数算出・取得部310,312、取得した目的成分の光吸収係数に基づいて任意の層の目的成分の濃度を算出する濃度算出部313を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光散乱媒質の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量する濃度定量装置及び濃度定量方法並びにプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国は飽食の時代にあって、糖尿病の患者が毎年増加し続けている。そのために、糖尿病性腎炎の患者も毎年増加し続けることとなり、その結果、慢性腎不全の患者も毎年1万人もの増加を続け、患者数は28万人を超えるようになってきている。
一方、高齢化社会の到来により、予防医学に対する要求の高まりを受けて、個人における代謝量管理の重要性が急速に増大している。中でも、血糖値測定は、食前や食後の血糖値を測定することで糖代謝の反応が分かることが知られており、糖尿病のごく初期段階での糖代謝の反応を評価することで、糖尿病の早期診断に基づく早期治療が可能になる。
【0003】
従来、血糖値の測定は、腕あるいは指先等の静脈から採血を行い、この血液中のグルコースに対する酵素活性を測定することで行っている。しかし、このような血糖値の測定方法では、採血が煩雑であり、しかも採血に痛みを伴い、さらには感染症の危険性を伴う等の様々な問題がある。
また、血糖値を連続的に測定する方法としては、静脈に注射針を刺した状態で連続的に血糖値相応のグルコースの定量を行う機器が米国にて開発されており、現在臨床試験中である。しかし、静脈に注射針を刺したままにしているために、血糖値の測定中に針が抜ける危険性や感染症の危険性がある。
そこで、採血無しに頻繁に血糖値を測定することができ、しかも感染症の危険性が無い血糖値の測定装置の開発が求められている。さらには、簡単にかつ常時装着可能であり、小型化可能な血糖値の測定装置の開発が求められている。
【0004】
近赤外の連続光を用いて非侵襲的に血糖値を測定する装置としては、分子吸光の原理を用いた一般的な分光分析測定の原理を適用した装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
この装置は、皮膚の赤外スペクトルを用いて生体成分濃度の定量をおこなう場合に、皮下脂肪の影響を受けて生体成分濃度の定量に誤差が生じることに対応したもので、より具体的には、皮膚に近赤外の連続光を照射し、その光吸収量からグルコースの濃度を算出する装置である。
この装置では、予めグルコース濃度と照射する近赤外光の波長と光の吸収量との関係を示す検量線を作成しておき、皮膚に近赤外の連続光を照射し、この皮膚からの戻り光をモノクロメーター等を用いてある波長域を走査し、その波長域の各波長に対する光の吸収量を求め、この各波長における光の吸収量と検量線とを比較することで、血液中のグルコース濃度、すなわち血糖値を算出している。
【0005】
また、1700nm〜1800nmの波長範囲から選択した皮下脂肪の特異吸収波長での吸光度から、皮膚の性状の分類を行い、「皮膚厚さ」の代用特性として検量式を選択している。
さらには、予備的に近赤外の受光部と発光部との間隔を650μmとして推定した「皮膚厚さ」を1.2mm以上、1.2mm未満のいずれかに判断し、受光部と発光部との間隔を650μm、300μmのいずれかに選択した後に検量式を選択している。
【0006】
一方、近赤外光を用いた生体診断としては、例えば、時間分解計測法を用いた生体組織イメージングにより皮膚主成分における近赤外光の吸収量を測定し、この吸収量を基に皮膚主成分の各割合、例えば、血糖相応のグルコース濃度を求める方法が知られている。
この皮膚主成分の吸収量には波長依存性があるので、通常、予め皮膚主成分の定量に影響を及ぼす変動要因を多変量解析で複数の割合で変化させた複数のスペクトラムを作製しておき、皮膚主成分における近赤外光の吸収量の測定結果のスペクトルを上記の複数のスペクトラムと比較し、これらのスペクトラムから一致するスペクトラムを選ぶことにより、皮膚主成分の各割合を推定する方法が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3931638号公報
【特許文献2】特許第3994588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の近赤外の連続光を用いた非侵襲的に血糖値を測定する装置では、特定深さを通過する経路の光の吸収量のみを測定することができず、したがって、特定深さの皮膚主成分における血糖相応のグルコース濃度を精度よく定量することができないという問題点があった。
また、特許文献1の装置では、皮膚表面から皮下脂肪までの深さを「皮膚厚さ」として、皮下脂肪の特異吸収波長での吸光度から皮膚の性状を分類すること、例えば、皮膚表面から皮下脂肪までの深さを「皮膚厚さ」として代用することには、(1)皮膚の真皮と皮下組織の境界は、皮膚の表面からの深さとして均一では無いこと、(2)真皮には脂肪を分泌する汗腺があって脂肪分泌物を蓄えていること、(3)皮下脂肪の特異吸収波長での吸光度から皮膚の性状の分類を行う場合、真皮の細胞及び間質液には脂肪が含まれているので、真皮と皮下脂肪との区別が難しい、等の理由により問題点があった。
【0009】
一般に、皮膚の赤外スペクトルを用いて生体成分濃度の定量を行う場合、受光部と発光部との間隔によって定まるバナナシェイプ特性により、皮膚内での光路の皮膚表面からの深さが概ね推定される。例えば、受光部と発光部との間隔を650μmとすれば、光路の皮膚表面からの深さは325μmと推定され、また、受光部と発光部との間隔を300μmとすれば、光路の皮膚表面からの深さは150μmと推定される。
しかしながら、特許文献1の装置では、上記の理由等により、皮膚の赤外スペクトルを用いて生体成分濃度の定量を行う部位を特定することができず、したがって、真皮中で間質成分の一つとしてグルコースが存在している網状層(Stratum reticulare)を特定部位として、この特定部位を透過する光路での吸光度を選択的に測定することはできない。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、複数の層により構成される観測対象の構造の光路長分布に近い組み合わせにおける特定部位である任意の層の光吸収係数を選択することで、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる濃度定量装置及び濃度定量方法並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の濃度定量装置及び濃度定量方法並びにプログラムを採用した。
すなわち、本発明の濃度定量装置は、複数の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置であって、前記観測対象に短時間パルス光を照射する照射部と、前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光する受光部と、前記受光部が受光した光の強度から光の強度分布を取得する光強度取得部と、前記観測対象に対して照射する前記短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、前記光路長分布のモデルの所定の時刻における、前記複数の層の各々の層の光路長分布を取得する光路長取得部と、時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部と、前記時間分解波形のモデルの所定の時刻における光強度モデルを取得する光強度モデル取得部と、前記光の強度分布と、前記光路長分布と、前記光強度モデルとに基づいて、前記光の強度分布から前記任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出する積分区間算出部と、前記光の強度分布と、前記光強度モデル取得部が取得した前記時間分解波形のモデルの前記複数の層の組み合わせに対し、前記時間の範囲を変化させて前記任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得する光吸収係数算出・取得部と、前記光吸収係数算出・取得部が取得した前記目的成分の光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出部と、を備えてなることを特徴とする。
【0012】
本発明の濃度定量装置では、照射部により、観測対象に短時間パルス光を照射し、受光部により、短時間パルス光の照射により観測対象から後方散乱される光を受光し、光強度取得部により、受光部が受光した光の強度から光の強度分布を取得し、光路長取得部により、光路長分布のモデルの所定の時刻における複数の層の各々の層の光路長分布を取得し、積分区間算出部により、光の強度分布と、光路長分布と、光強度モデルとに基づいて、光の強度分布から任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出し、光吸収係数算出・取得部により、光の強度分布と、光強度モデル取得部が取得した時間分解波形のモデルの複数の層の組み合わせに対し、前記時間の範囲を変化させて前記任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得し、濃度算出部により、光吸収係数算出・取得部が取得した目的成分の光吸収係数に基づいて、任意の層における目的成分の濃度を算出する。
【0013】
このように、光吸収係数算出・取得部が、光の強度分布と、光強度モデル取得部が取得した時間分解波形のモデルの複数の層の組み合わせに対し、積分区間算出部により算出された時間の範囲を変化させて、任意の層における目的成分の光吸収係数を算出することにより、観測対象の構造の光路長分布に近い組み合わせにおける任意の層の光吸収係数を選択することができる。したがって、任意の層における目的成分の光の吸収量、すなわち目的成分の濃度を精度良く測定することができ、その結果、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる。
【0014】
本発明の濃度定量装置は、前記光吸収係数算出・取得部は、前記時間の範囲を変化させて前記複数の層の各々の層の光吸収係数を算出する光吸収係数算出部と、前記光吸収係数算出部が算出した前記複数の層の各々の層の光吸収係数に基づき前記任意の層における目的成分の光吸収係数を取得する光吸収係数取得部と、を備えてなることを特徴とする。
【0015】
本発明の濃度定量装置では、光吸収係数算出部により、前記時間の範囲を変化させて複数の層の各々の層の光吸収係数を算出し、光吸収係数取得部により、光吸収係数算出部が算出した複数の層の各々の層の光吸収係数に基づき任意の層における目的成分の光吸収係数を取得する。
したがって、任意の層における目的成分の光吸収係数、すなわち目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0016】
本発明の濃度定量装置は、前記光強度モデル取得部は、前記時間分解波形記憶部から前記短時間パルス光の光強度モデルのうち無吸収時の光強度モデルを得る無吸収時光強度取得部と、前記短時間パルス光の光強度モデルのうち吸収時の光強度モデルを得る吸収時光強度取得部と、を備えてなることを特徴とする。
【0017】
本発明の濃度定量装置では、無吸収時光強度取得部により、短時間パルス光の光強度モデルのうち無吸収時の光強度モデルを得、吸収時光強度取得部により、短時間パルス光の光強度モデルのうち吸収時の光強度モデルを得る。これにより、短時間パルス光の光強度モデルの全てを得ることができ、この全ての光強度モデルに基づいて、光の強度分布から任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を精度良く算出することができる。
したがって、任意の層における目的成分の光吸収係数、すなわち目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0018】
本発明の濃度定量装置は、前記光強度取得部は、前記時間の範囲内の前記観測対象の層の数n以上となる複数の時刻t1〜tmにおける光強度を取得し、前記光吸収係数算出部は、自然対数を示すln(・)、前記受光部が前記時間の範囲内の時刻tにおいて受光した光強度を示すI(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記時間の範囲内の時刻tにおける光強度を示すN(t)、前記光路長分布のモデルの前記時間の範囲内の時刻tにおける第i層の光路長を示すLi(t)、第i層の光吸収係数を示すμiを用いて、
【数1】
から任意の層の光吸収係数を算出する、ことを特徴とする。
【0019】
本発明の濃度定量装置では、光強度取得部が、時間の範囲内の観測対象の層の数n以上となる複数の時刻t1〜tmにおける光強度を取得し、光吸収係数算出部が、任意の層の光吸収係数を、上記の式(1)から算出する。
このように、後方散乱光を時間分解計測することで、任意の層以外の層からの後方散乱光をノイズとして低減することができ、目的成分の濃度における任意の層以外の層からの影響を低減することができる。したがって、目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0020】
本発明の濃度定量装置は、前記光強度取得部が光強度を取得する複数の時刻は、前記複数の層の各々の層の光路長分布のピーク時間を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明の濃度定量装置では、光強度取得部が光強度を取得する複数の時刻が、複数の層の各々の層の光路長分布のピーク時間を含むことにより、観測対象中の複数の層から任意の層を効率的に選択することができる。したがって、任意の層における目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0022】
本発明の濃度定量装置は、前記光強度取得部は、前記時間の範囲内の所定の時刻から少なくとも所定の時間τの間の光強度を取得し、前記光吸収係数算出部は、自然対数を示すln(・)、前記受光部が前記時間の範囲内の時刻tにおいて受光した光強度を示すI(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記時間の範囲内の時刻tにおける光強度を示すN(t)、前記光路長分布のモデルの前記時間の範囲内の時刻tにおける第i層の光路長を示すLi(t)、前記観測対象の層の数を示すn、第i層の光吸収係数を示すμiを用いて、
【数2】
から任意の層の光吸収係数を算出する、ことを特徴とする。
【0023】
本発明の濃度定量装置では、光強度取得部が、時間の範囲内の所定の時刻から少なくとも所定の時刻τの間の光強度を取得し、光吸収係数算出部が、任意の層の光吸収係数を、上記の式(2)から算出する。
このように、後方散乱光を時間分解計測することで、任意の層以外の層からの後方散乱光をノイズとして低減することができ、目的成分の濃度における任意の層以外の層からの影響を低減することができる。したがって、目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0024】
本発明の濃度定量装置は、前記照射部は、複数の波長1〜qの光を照射し、前記光吸収係数算出部は、前記任意の層における光吸収係数を前記照射部が照射した複数の波長毎に算出し、前記濃度算出部は、前記任意の層である第a層における波長iの光吸収係数を示すμa(i)、前記観測対象を形成する第j成分のモル濃度を示すgj、第j成分の波長iに対する光吸収係数を示すεj(i)、前記観測対象を形成する主成分の個数を示すp、照射部が照射する波長の種類数を示すqを用いて、
【数3】
から前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する、ことを特徴とする。
【0025】
本発明の濃度定量装置では、照射部が、複数の波長1〜qの光を照射し、光吸収係数算出部が、任意の層における光吸収係数を照射部が照射した複数の波長毎に算出し、濃度算出部が、任意の層における目的成分の濃度を上記の式(3)から算出する。
このように、後方散乱光を時間分解計測することで、任意の層以外の層からの後方散乱光をノイズとして低減することができ、目的成分の濃度における任意の層以外の層からの影響を低減することができる。したがって、目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0026】
本発明の濃度定量装置は、前記照射部が照射する複数の光は、前記目的成分の光吸収係数が大きくなる波長の光を含むことを特徴とする。
【0027】
本発明の濃度定量装置は、前記照射部が照射する複数の光は、前記観測対象を構成する主成分の各々の成分の吸収スペクトル分布の直交性が高くなる波長の光を含むことを特徴とする。
【0028】
本発明の濃度定量方法は、複数の層により構成される観測対象に対して照射する短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部とを備え、前記観測対象のうち任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置を用いた濃度定量方法であって、照射部により、前記観測対象に短時間パルス光を照射し、受光部により、前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光し、光強度取得部により、前記受光部が受光した光の強度を取得し、光路長取得部により、前記光路長分布記憶部から、前記光路長分布のモデルの前記所定の時刻における、前記複数の層の各々の層の光路長分布を取得し、光強度モデル取得部により、前記時間分解波形記憶部から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光強度モデルを取得し、積分区間算出部により、前記光の強度分布と、前記光路長取得部が取得した前記複数の層の各々の層の光路長分布と、前記光強度モデル取得部が取得した光強度モデルとに基づいて、前記光の強度分布から前記任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出し、光吸収係数算出・取得部により、前記光強度取得部が取得した前記光の強度分布と、前記光強度モデル取得部が取得した前記時間分解波形の複数のモデルとの組み合わせに対し、前記積分区間算出部が算出した前記時間の範囲を変化させて前記任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得し、濃度算出部により、前記光吸収係数算出・取得部が取得した前記目的成分の光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する、ことを特徴とする。
【0029】
本発明の濃度定量方法では、照射部により、観測対象に短時間パルス光を照射し、受光部により、短時間パルス光の照射により観測対象から後方散乱される光を受光し、光強度取得部により、受光部が受光した光の強度から光の強度分布を取得し、光路長取得部により、光路長分布のモデルの所定の時刻における複数の層の各々の層の光路長分布を取得し、積分区間算出部により、光の強度分布と、光路長分布と、光強度モデルとに基づいて、光の強度分布から任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出し、光吸収係数算出・取得部により、光の強度分布と、光強度モデル取得部が取得した時間分解波形のモデルの複数の層の組み合わせに対し、前記時間の範囲を変化させて前記任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得し、濃度算出部により、光吸収係数算出・取得部が取得した目的成分の光吸収係数に基づいて、任意の層における目的成分の濃度を算出する。
【0030】
このように、光吸収係数算出・取得部が、光の強度分布と、光強度モデル取得部が取得した時間分解波形のモデルの複数の層の組み合わせに対し、積分区間算出部により算出された時間の範囲を変化させて、任意の層における目的成分の光吸収係数を算出することにより、観測対象の構造の光路長分布に近い組み合わせにおける任意の層の光吸収係数を選択することができる。したがって、任意の層における目的成分の光の吸収量、すなわち目的成分の濃度を精度良く測定することができ、その結果、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる。
【0031】
本発明のプログラムは、複数の層により構成される観測対象に対して照射する短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部とを備え、前記観測対象のうち任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置のコンピューターに、前記観測対象に前記短時間パルス光を照射する照射手順、前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光する受光手順、前記受光部が受光した光の強度を取得する光強度取得手順、前記光路長分布記憶部から、前記光路長分布のモデルの前記所定の時刻における前記複数の層の各々の層の光路長分布を取得する光路長取得手順、前記時間分解波形記憶部から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光強度モデルを取得する光強度モデル取得手順、前記光強度取得手順が取得した前記光の強度分布と、前記光路長取得手順が取得した前記複数の層の各々の層の光路長分布と、前記光強度モデル取得手順が取得した光強度モデルとに基づいて、前記光の強度分布から前記任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出する積分区間算出手順、前記光強度取得手順が取得した前記光の強度分布と、前記光強度モデル取得手順が取得した前記時間分解波形の複数のモデルとの組み合わせに対し、前記積分区間算出部が算出した前記時間の範囲を変化させて前記任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得する光吸収係数算出・取得手順、前記光吸収係数算出・取得部が取得した前記目的成分の光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手順、を実行させることを特徴とする。
【0032】
本発明のプログラムでは、濃度定量装置のコンピューターに、観測対象に短時間パルス光を照射する照射手順、短時間パルス光の照射により観測対象から後方散乱される光を受光する受光手順、受光部が受光した光の強度を取得する光強度取得手順、を実行させた後、光強度取得手順が取得した光の強度分布と、光路長取得手順が取得した光路長分布と、光強度モデル取得手順が取得した光強度モデルとに基づいて、光の強度分布から任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出する積分区間算出手順、光強度取得手順が取得した光の強度分布と、光強度モデル取得手順が取得した時間分解波形の複数のモデルとの組み合わせに対し、積分区間算出部が算出した時間の範囲を変化させて任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得する光吸収係数算出・取得手順、光吸収係数算出・取得部が取得した目的成分の光吸収係数に基づいて、任意の層における目的成分の濃度を算出する濃度算出手順、を順次実行させる。
【0033】
このように、光強度取得手順により取得された光の強度分布と、光路長取得手順により取得された光路長分布と、光強度モデル取得手順により取得された光強度モデルとに基づいて、光の強度分布から任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出する積分区間算出手順、光強度取得手順が取得した光の強度分布と、光強度モデル取得手順が取得した時間分解波形の複数のモデルとの組み合わせに対し、積分区間算出部が算出した時間の範囲を変化させて任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得する光吸収係数算出・取得手順、を順次実行することで、観測対象の構造の光路長分布に近い組み合わせにおける任意の層の光吸収係数を選択することができる。したがって、任意の層における目的成分の光の吸収量、すなわち目的成分の濃度を精度良く測定することができ、その結果、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図2】人の皮膚組織の断面を示す模式図である。
【図3】シミュレーション部が算出した各層の光路長分布を示す図である。
【図4】シミュレーション部が算出した時間分解波形を示す図である。
【図5】皮膚の主成分の吸収スペクトルを示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態の血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第2の実施形態の血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第3の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図9】本発明の第4の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図10】本発明の第4の実施形態のシミュレーション部で得た無吸収時光強度の時間分解波形を示す図である。
【図11】本発明の第4の実施形態のシミュレーションで得た吸収時光強度の時間分解波形をリニアスケールで示す図である。
【図12】本発明の第4の実施形態のシミュレーションで得た吸収時光強度の時間分解波形をログスケールで示す図である。
【図13】本発明の第4の実施形態の血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第4の実施形態の血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
【図15】真皮層における光吸収係数と積分区間との関係を示す図である。
【図16】本発明の第5の実施形態の血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
【図17】本発明の第5の実施形態の血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
【図18】本発明の第6の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の濃度定量装置及び濃度定量方法並びにプログラムを実施するための形態について説明する。
本発明では、濃度定量装置として血糖値測定装置を、観測対象として人の手のひらの皮膚を、目的成分としてグルコースを、それぞれ例に取り説明する。
【0036】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
この血糖値測定装置100は、シミュレーション部101、光路長分布記憶部102、時間分解波形記憶部103、照射部104、受光部105、計測光強度取得部106、光路長取得部107、無吸収時光強度取得部(光強度モデル取得部)108、光吸収係数算出部109、濃度算出部110を備えている。
この血糖値測定装置100は、皮膚(観測対象)の真皮層(任意の層)に含まれるグルコース(目的成分)の濃度を測定する。
【0037】
シミュレーション部101は、光吸収係数がゼロの皮膚モデルに対して光を照射するシミュレーションを行う。
光路長分布記憶部102は、光吸収係数がゼロの皮膚モデルの光路長分布を記憶する。
時間分解波形記憶部103は、光吸収係数がゼロの皮膚モデルの時間分解波形を記憶する。
照射部104は、皮膚に対して短時間パルス光を照射する。この照射部104が照射する複数の短時間パルス光は、皮膚を構成する主成分の各々の成分の吸収スペクトル分布の直交性が高くなる波長の光、すなわち、皮膚を構成する主成分の各々の成分のうち、ある主成分における特定成分の吸収スペクトルの極大値が他の成分の吸収スペクトルの極大値と大きく異なる波長の光を含んでいる。
【0038】
受光部105は、短時間パルス光が皮膚によって後方散乱した光を受光する。
ここで、短時間パルス光とは、パルス幅の時間が照射部104から受光部105へ光が空気中を直接伝搬する時間よりも短いパルス光のことであり、例えば、パルス光の半値幅が0.1ps〜10ps、2つのパルス光の間の時間間隔が1ps〜100psのパルス光のことである。
また、光路長分布とは、光(光子)の移動経路の長さ(光路長)を当該光(光子)が受光部105に到達するまでの時間を基に分布関数として表したものである。
【0039】
計測光強度取得部106は、受光部105が受光した光のある時刻における光強度を取得する。
光路長取得部107は、光路長分布記憶部102からある時刻における光路長を取得する。
無吸収時光強度取得部108は、時間分解波形記憶部103からある時刻における光の吸収係数をゼロ(零)としたときの光強度モデルを取得する。
光吸収係数算出部109は、短時間パルス光を照射した皮膚の真皮層における光吸収係数を算出する。
濃度算出部110は、真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出する。
【0040】
そして、血糖値測定装置100において、照射部104は、皮膚に短時間パルス光を照射し、受光部105は、短時間パルス光が皮膚によって後方散乱した光を受光する。
ここで、観測対象である人の皮膚組織の構造について説明する。
図2は、人の皮膚組織の断面を示す模式図であり、皮膚31は、表皮層32と、真皮層(任意の層)33と、皮下組織34の3層により構成されている。
表皮層32は、最も外側にある厚み0.2mm〜0.3mmの薄い層で、概ね水を60%程度、蛋白質、脂質及びグルコースを含有する層であり、角質層、顆粒層、有棘層、底層等を含む。
真皮層33は、表皮層32下に形成される厚み0.5mm〜2mmの層で、概ね水を60%程度、蛋白質、脂質及びグルコースを含有する層であり、この真皮層33内には神経、毛根、皮脂腺、汗腺、毛包、血管、リンパ管等が存在する。
皮下組織34は、真皮層33下に形成される厚み1〜3mmの層で、大部分が概ね脂質を90%以上含み、残部が水からなる皮下脂肪でできている。
【0041】
真皮層33内には毛細血管等が発達しており、血中グルコースに応じた物質移動が速やかに起こり、血中グルコース濃度(血糖値)に対して真皮層33中のグルコース濃度も追随して変化すると考えられている。そこで、この血糖値測定装置100では、照射部104及び受光部105を所定の入出射間距離Wをおいて皮膚31の表面に密着させ、この密着状態で照射部104から皮膚31の表面に光を照射し、この光が皮膚31内の組織により反射され、この反射光が照射部104及び受光部105に向かって散乱する光(後方散乱した光)を受光部105で検出する。
【0042】
次に、計測光強度取得部106は、時刻tにおいて受光部105が受光した光の強度を取得する。次に、光路長取得部107は、光路長分布記憶部102から、皮膚モデルにおける伝搬光路長分布の時刻tにおける皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部108は、時間分解波形記憶部103から、皮膚モデルにおける短時間パルス光の時間分解波形の時刻tにおける光の強度を取得する。
【0043】
次に、光吸収係数算出部109は、計測光強度取得部106が取得した光強度と光路長取得部107が取得した皮膚の各層の光路長と無吸収時光強度取得部108が取得した光強度とに基づいて、皮膚の真皮層の光吸収係数を算出し、濃度算出部110は、光吸収係数算出部109が算出した光吸収係数に基づいて、真皮層におけるグルコースの濃度を算出する。
【0044】
この血糖値測定装置100では、皮膚31の特定深さの層である真皮層33の光吸収係数を用いてグルコース濃度を算出するので、真皮層33以外の層によるノイズの影響を軽減することができ、特定深さの層である真皮層33に含まれるグルコースの濃度を算出することができる。したがって、特定深さの層に含まれるグルコースの光の吸収量、すなわちグルコースの濃度を、非侵襲的に精度良く測定することができる。
【0045】
次に、血糖値測定装置100の動作を説明する。
血糖値測定装置100は、血糖値を測定する前に、予め皮膚モデルの各層における光路長分布と時間分解波形とを算出しておく必要がある。
まず、皮膚モデルの光路長分布及び時間分解波形の算出方法を説明する。
初めに、シミュレーション部101は、皮膚モデルを生成する。皮膚モデルの生成は、皮膚の各層の光散乱係数、光吸収係数及び厚みを決定することで行う。ここで、皮膚の部分を特定すれば、この特定された皮膚の部分における各層の散乱係数及び厚みは、個体による差が少ないので、予めサンプルを取ることなどによって決定するとよい。なお、表皮層32の厚みは略0.3mm、真皮層33の厚みは略1.2mm、皮下組織34の厚みは略3.0mmである。
また、ここで用いる皮膚モデルの光吸収係数はゼロとする。その理由は、この皮膚モデルを用いて光吸収量を算出するからである。
【0046】
シミュレーション部101は、皮膚モデルを生成すると、この皮膚モデルに光を照射するシミュレーションを行う。このとき、照射部104の位置と受光部105の位置との間の距離Wを決定しておく必要がある。シミュレーションは、例えば、モンテカルロ法を用いて行う。
このモンテカルロ法によるシミュレーションは、例えば以下のように行われる。
【0047】
まず、シミュレーション部101は、照射する光のモデルを光子(光束)とし、この光子を皮膚モデルに照射する計算を行う。皮膚モデルに照射された光子は、皮膚モデル内を移動する。このとき、光子は、次に進む点までの距離L及び方向θを乱数Rによって決定する。シミュレーション部101は、光子が次に進む点までの距離Lの計算を、式(4)により行う。
【0048】
【数4】
【0049】
但し、ln(A)はAの自然対数を示し、μsは、皮膚モデルの第s層(表皮層、真皮層、皮下組織層の何れか)の散乱係数を示す。
また、シミュレーション部101は、光子が次に進む点までの方向θの計算を、式(5)により行う。
【0050】
【数5】
【0051】
但し、gは、散乱角度の余弦(cos)の平均である非等方性パラメーターを示し、皮膚の非等方性パラメーターは、略0.9である。
シミュレーション部101は、上記式(4)、式(5)の計算を単位時間毎に繰り返すことにより、照射部104から受光部105までの光子の移動経路を算出することができる。シミュレーション部101は、複数の光子について移動距離の算出を行う。例えば、シミュレーション部101は、108個の光子について移動距離を算出する。
【0052】
図3は、シミュレーション部101が算出した各層の光路長分布を示す図である。
図3では、横軸を光子の照射からの経過時間とし、縦軸を光路長の対数表示としている。
シミュレーション部101は、受光部105に到達した光子の各々の移動経路を、移動経路が通過する層毎に分類する。そして、シミュレーション部101は、単位時間毎に到達した光子の移動経路の平均長を分類された層毎に算出することで、図3に示すような皮膚の各層の光路長分布を算出する。
【0053】
また、シミュレーション部101は、単位時間毎に受光部104に到達した光子の個数を算出することで、図4に示すような皮膚モデルの時間分解波形を算出する。
図4は、シミュレーション部101が算出した時間分解波形を示す図である。図4では、横軸を光子の照射からの経過時間とし、縦軸を受光部8が検出した光子数としている。
上述したような処理により、シミュレーション部101は、複数の波長に対して、皮膚モデルの光路長分布及び時間分解波形を算出する。このとき、シミュレーション部101は、皮膚の主成分(水、たんぱく質、脂質、グルコース等)の吸収スペクトルの直交性高くなる波長の光、すなわち皮膚の主成分(水、たんぱく質、脂質、グルコース等)の各々の成分のうち、ある主成分における特定成分の吸収スペクトルの極大値が他の成分の吸収スペクトルの極大値と大きく異なる波長の光について、光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0054】
図5は、皮膚の主成分の吸収スペクトルを示すグラフである。この図5では、横軸を照射する光の波長とし、縦軸を吸収係数としている。
図5によれば、グルコースの吸収係数は、波長が1600nmのときに極大となり、水の吸収係数は波長が1450nmのときに極大となることがわかる。
そのため、シミュレーション部101は、例えば1450nm、1600nmというように、皮膚を構成する主成分の各々の成分の吸収スペクトル分布が高くなる波長の光、すなわち、皮膚を構成する主成分の各々の成分のうち、ある主成分における特定成分の吸収スペクトルの極大値が他の成分の吸収スペクトルの極大値と大きく異なる波長の光について、光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0055】
シミュレーション部101が複数の波長に対する皮膚モデルの光路長分布及び時間分解波形を算出すると、光路長分布記憶部102は、算出された光路長分布の情報を記憶し、時間分解波形記憶部103は、算出された時間分解波形の情報を記憶する。なお、シミュレーション部101は血糖測定装置100に含まれない構成としても良い。この場合、外部の装置にてシミュレーションを行った結果を光路長分布記憶部102と時間分解波形記憶部103に記憶することで血糖測定装置100が血糖値測定を行う。
【0056】
次に、この血糖値測定装置100が血糖値を測定する動作について、図6に基づき説明する。
まず、ユーザー(被測定者)が血糖値測定装置100を手首等の皮膚に当て、測定開始スイッチ(図示せず)の押下等により血糖値測定装置100を動作させると、照射部104は、皮膚31に対して波長λ1の短時間パルス光を照射する(ステップS1)。
【0057】
ここで、波長λ1は、シミュレーション部101が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中の1つである。
例えば、皮膚を構成する主成分のうち、ある主成分における特定成分の光吸収係数が他の成分の光吸収係数より大きくなる波長の光、すなわち、特定成分の光吸収係数の極小値が他の成分の光吸収係数の極小値と大きく異なる波長の光について光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0058】
照射部104が短時間パルス光を照射すると、受光部105は、照射部104から照射され皮膚31によって後方散乱された光を受光する(ステップS2)。
このとき、受光部105は、照射開始からの単位時間毎(例えば、1ピコ秒毎)の受光強度を内部メモリー(図示せず)に記録しておく。
【0059】
次いで、受光部105が受光を完了すると、計測光強度取得部106は、内部メモリーに格納されている、異なる時刻tにおける受光強度I(t)を皮膚の層の数と同じ数だけ取得する(ステップS3)。
図6のフローチャートでは、皮膚の3つの層について4種類の波長を用いて濃度測定を行う場合について説明する。
すなわち、計測光強度取得部106は、皮膚の3つの層について4種類の波長を用いて濃度測定を行う場合には、3つの異なる時刻t1〜t3における受光強度I(t1)〜I(t3)を取得する。ここで、皮膚の層の数と同じ数だけ受光強度を取得する理由は、後述する処理において、皮膚の各層の吸収係数を連立方程式によって算出するためである。
【0060】
また、計測光強度取得部が光強度を取得する時刻t1〜t3は、皮膚の各層の伝搬光路長分布のピークとなる時刻であると良い。すなわち、照射部104が短時間パルス光を照射した時刻に、図3に示すグラフにおいて皮膚の各層の光路長が極大となる時間を加算した時刻の光強度をそれぞれ取得すると良い。
【0061】
計測光強度取得部106が受光強度I(t1)〜I(t3)を取得すると、光路長取得部107は、光路長分布記憶部102が記憶する波長λ1の光路長分布から、時刻t1〜t3における皮膚の各層の光路長L1(t1)〜L1(t3)、L2(t1)〜L2(t3)、L3(t1)〜L3(t3)を取得する(ステップS4)。
また、計測光強度取得部106が受光強度I(t1)〜I(t3)を取得すると、無吸収時光強度取得部108は、時間分解波形記憶部103が記憶する波長λ1の時間分解波形から、時刻t1〜t3における検出光子数N(t1)〜N(t3)を取得する(ステップS5)。
【0062】
光路長取得部107が皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部108が検出光子数を取得すると、光吸収係数算出部109は、式(6)に基づいて、皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出する(ステップS6)。ここで、光吸収係数μ1は、表皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μ2は、真皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μ3は、皮下組織の光吸収係数を示す。
【0063】
【数6】
【0064】
但し、ln(A)はAの自然対数を示し、N(t)は特定波長λkの短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度を示す。また、Iinは、照射部7が照射した短時間パルス光の光強度を示す。また、Ninは、シミュレーション部101が照射のシミュレーションを行った光子の個数を示す。
【0065】
光吸収係数算出部109が皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出すると、光吸収係数算出部109は、皮膚の主成分の種類数と同じ数の波長に対して光吸収係数μ1〜μ3を算出したか否かを判定する(ステップS7)。
本実施形態では、皮膚の主成分を水、たんぱく質、脂質、グルコースの4種類として血糖値の測定を行うため、光吸収係数算出部109は、4種類の波長λ1〜λ4に対して光吸収係数μ1〜μ3を算出したか否かを判定する。ここで、波長λ1〜λ4は、シミュレーション部101が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中から選択する。
【0066】
光吸収係数算出部109が、光吸収係数μ1〜μ3を算出していない波長λ1〜λ4があると判定した場合(ステップS7:NO)、ステップS1に戻り、まだ光吸収係数μ1〜μ3を算出していない波長λ1〜λ4の光吸収係数μ1〜μ3の算出を行う。
他方、光吸収係数算出部109が、波長λ1〜λ4の光吸収係数μ1〜μ3を算出していると判定した場合(ステップS7:YES)、濃度算出部110は、式(7)に基づいて真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出する(ステップS8)。
【0067】
【数7】
【0068】
但し、μ2(1)〜μ2(4)は、真皮層における波長λ1〜λ4の光吸収係数を示す。また、g1〜g4は、真皮層におけるそれぞれ皮膚の主成分である水、たんぱく質、脂質、グルコースのモル濃度を示す。また、ε1(1)〜ε1(4)は、波長λ1〜λ4に対する水のモル吸光係数を示し、ε2(1)〜ε2(4)は、波長λ1〜λ4に対するたんぱく質のモル吸光係数を示し、ε3(1)〜ε3(4)は、波長λ1〜λ4に対する脂質のモル吸光係数を示し、ε4(1)〜ε4(4)は、波長λ1〜λ4に対するグルコースのモル吸光係数を示す。
つまり、式(7)のg4を算出することで、真皮層に含まれるグルコースのモル濃度を求めることができる。
【0069】
ここで、式(7)によりグルコースのモル濃度を求めることができる理由を説明する。皮膚の散乱係数の波長依存性は小さいので、検出光子数N(t)及び光路長Ln(t)の波長に対する変化は無視することができる。また、ベア・ランベルト(Beer-Lambert)の法則により、吸光度=モル吸光係数×モル濃度で表すことができる。これにより、2波長で得られた時間分解計測より、検出光子数N(t)を消去することで、真皮層において得られる吸収係数差と皮膚を形成する各成分のモル吸光係数との関係式を示す式(7)を導くことができる。
【0070】
本実施形態によれば、短時間パルス光を照射し、所定の時刻において受光した光の強度に基づいてグルコースの濃度を定量する。これにより、所定の時刻において受光した光の中から、真皮層の吸収係数を選択的に算出することができる。これにより、特定の皮膚の層のグルコースの濃度を算出することができ、他の層によるノイズの影響を軽減し、精度の高い血糖値を算出することが可能になる。
【0071】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態について詳しく説明する。
第2の実施形態における血糖値測定装置の構成は、第1の実施形態の血糖値測定装置100の構成と同一であり、計測光強度取得部106、光路長取得部107、無吸収時光強度取得部108、光吸収係数算出部109の動作が異なる。
【0072】
図7は、血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
まず、血糖値測定装置100を動作させると、照射部104は、皮膚に対して波長λ1の短時間パルス光を照射する(ステップS11)。ここで、波長λ1は、シミュレーション部101が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中の1つである。
【0073】
照射部104が短時間パルス光を照射すると、受光部105は、照射部104から照射され、皮膚によって後方散乱した光を受光する(ステップS12)。このとき、受光部105は、照射開始からの単位時間毎(例えば、1ピコ秒毎)の受光強度を内部メモリーに登録しておく。
受光部105が受光を完了すると、計測光強度取得部106は、内部メモリーに格納されている受光強度から、ある時刻から時間τの間の受光強度の時間分布を取得する(ステップS13)。
【0074】
計測光強度取得部106が、時間τの間の受光強度の時間分布を取得すると、光路長取得部107は、光路長分布記憶部102が記憶する波長λ1の光路長分布から、ある時刻から時間τの間の皮膚の各層の光路長を取得する。
図7のフローチャートでは、皮膚の3つの層について4種類の波長を用いて濃度測定を行う場合について説明する。
すなわち、計測光強度取得部106は、皮膚の3つの層について4種類の波長を用いて濃度測定を行う場合には、ある時刻から時間τの間の皮膚の各層の光路長L1〜L3を取得する(ステップS14)。
【0075】
また、計測光強度取得部106が、時間τの間の受光強度の時間分布を取得すると、無吸収時光強度取得部108は、時間分解波形記憶部103が記憶する波長λ1の時間分解波形から、ある時刻から時間τの間の検出光子数を取得する(ステップS15)。
【0076】
光路長取得部107が皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部108が検出光子数を取得すると、光吸収係数算出部109は、式(8)に基づいて、皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出する(ステップS16)。ここで、光吸収係数μ1は、表皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μ2は、真皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μ3は、皮下組織の光吸収係数を示す。
【0077】
【数8】
【0078】
但し、ln(A)は、Aの自然対数を示す。また、I(t)は、時刻tにおける受光部105の受光強度を示し、Iinは、照射部104が照射した短時間パルス光の光強度を示す。また、N(t)は、時間分解波形の時刻tにおける検出光子数を示し、Ninは、シミュレーション部101が照射のシミュレーションを行った光子の個数を示す。また、L1(t)〜L3(t)は、時刻tにおける皮膚の各層の光路長を示す。
【0079】
光吸収係数算出部109が皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出すると、光吸収係数算出部109は、皮膚の主成分の種類数と同じ数の波長に対して光吸収係数μ1〜μ3を算出したか否かを判定する(ステップS17)。本実施形態では、皮膚の主成分を水、たんぱく質、脂質、グルコースの4種類として血糖値の測定を行うので、光吸収係数算出部109は、4種類の波長λ1〜λ4に対して光吸収係数μ1〜μ3を算出したか否かを判定する。ここで、波長λ1〜λ4は、シミュレーション部101が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中から選択する。
【0080】
ここで、光吸収係数算出部109が光吸収係数μ1〜μ3を算出していない波長λ1〜λ4があると判定した場合(ステップS17:NO)、ステップS1に戻り、まだ光吸収係数μ1〜μ3を算出していない波長λ1〜λ4の光吸収係数μ1〜μ3の算出を行う。
他方、光吸収係数算出部109が波長λ1〜λ4の光吸収係数μ1〜μ3を算出していると判定した場合(ステップS17:YES)、濃度算出部110は、上述した式(7)に基づいて真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出する(ステップS18)。
【0081】
本実施形態によれば、吸収係数μ1〜μ3を、時間τの間の光路長の積分値によって算出する。これにより、計測した受光強度I(t)に含まれている誤差による吸収係数μ1〜μ3の算出結果に対する影響を少なくすることができる。
【0082】
第1の実施形態及び第2の実施形態について、図面を参照して説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
例えば、第1の実施形態及び第2の実施形態では、濃度定量方法を血糖値測定装置100に実装し、皮膚の真皮層に含まれるグルコースの濃度を測定する場合を説明したが、これに限られず、濃度定量方法を、複数の層から形成される観測対象の任意の層における目的成分の濃度を定量する他の装置に用いても良い。
【0083】
また、第1の実施形態及び第2の実施形態では、血糖値測定装置100がシミュレーション部101と、光路長分布記憶部102と、時間分解波形記憶部103とを備えた構成としたが、シミュレーション部101におけるシミュレーションの結果を、光路長分布記憶部102及び時間分解波形記憶部103に記憶させた構成とすれば、シミュレーション部101を別途設ける必要がなくなる。
【0084】
上述の血糖値測定装置100は、内部にコンピューターシステムを備えた構成としてもよい。そして、上述した各処理部の動作または各処理部の一部の動作は、プログラムの形式でコンピューター読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピューターが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここで、コンピューターが読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリー等をいう。また、このコンピュータープログラムを通信回線によってコンピューターに配信し、この配信を受けたコンピューターが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0085】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。
さらに、前述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0086】
[第3の実施形態]
図8は、本発明の第3の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
本実施形態の血糖値測定装置200が、第1の実施形態の血糖値測定装置100と異なる点は、本実施形態の血糖値測定装置200が、照射部104と、受光部105と、コンピューターシステム201とを備え、コンピューターシステム201は、記憶部202と、制御部(CPU)203とを備え、記憶部202は、シミュレーション部101におけるシミュレーションの結果を記憶している光路長分布記憶部102及び時間分解波形記憶部103の機能を実行し、制御部(CPU)203は、計測光強度取得部106、光路長取得部107、無吸収時光強度取得部108、光吸収係数算出部109及び濃度算出部110の機能を実行する点である。
【0087】
本実施形態の血糖値測定装置200においても、第1の実施形態の血糖値測定装置100と同様の作用・効果を奏することができる。
【0088】
[第4の実施形態]
図9は、本発明の第4の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
この血糖値測定装置300は、手のひら等の皮膚(観測対象)を構成する複数層のうちの真皮層(任意の層)に含まれるグルコース(目的成分)の濃度を非侵襲にて定量する装置であり、シミュレーション部301と、光路長分布記憶部302と、時間分解波形記憶部303と、照射部304と、受光部305と、計測光強度取得部306と、光路長取得部307と、無吸収時光強度取得部(光強度モデル取得部)308と、積分区間算出部309と、光吸収係数算出部310と、光吸収係数分布記憶部311と、光吸収係数取得部312と、濃度算出部313とを備えている。
【0089】
シミュレーション部301は、光吸収係数がゼロの皮膚モデルに対して光を照射するシミュレーションを行う。
光路長分布記憶部302は、皮膚に対して照射する短時間パルス光の、この皮膚を構成する各々の層における光路長分布のモデルを記憶する。ここでは、光吸収係数がゼロの皮膚モデルの光路長分布を記憶する。
ここで、短時間パルス光とは、パルス幅の時間が照射部304から受光部305へ光が空気中を直接伝搬する時間よりも短いパルス光のことであり、例えば、パルス光の半値幅が0.1ps〜10ps、2つのパルス光の間の時間間隔が1ps〜100psのパルス光のことである。
また、光路長分布とは、光(光子)の移動経路の長さ(光路長)を当該光(光子)が受光部305に到達するまでの時間を基に分布関数として表したものである。
【0090】
時間分解波形記憶部303は、皮膚に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する。ここでは、光吸収係数がゼロの皮膚モデルの時間分解波形を記憶する。ここで、短時間パルス光の時間分解波形とは、受光部305にて受光した光(光子)の強度を、この短時間パルス光の照射時からの経過時間を基に分布関数として表したものである。
なお、シミュレーション部301におけるシミュレーションの結果を、光路長分布記憶部302及び時間分解波形記憶部303に記憶させた構成とすれば、シミュレーション部301を別途設ける必要がなくなる。
【0091】
照射部304は、皮膚に対して短時間パルス光を照射する。この光は皮膚内の組織によって散乱され、皮膚内に拡散する。拡散した光の一部は、受光部305に到達する(後方散乱光)。この受光部305に到達した後方散乱光が皮膚内を伝搬してきた経路は、図2に示すようにバナナシェイプの経路となる。この照射部304が照射する複数の短時間パルス光は、皮膚を構成する主成分の各々の成分の吸収スペクトル分布の直交性が高くなる波長の光、すなわち、皮膚を構成する主成分の各々の成分のうち、ある主成分における特定成分の吸収スペクトルの極大値が他の成分の吸収スペクトルの極大値と大きく異なる波長の光を含んでいる。
受光部305は、短時間パルス光が皮膚によって後方散乱した光を受光する。この受光部305は、受光強度を記録する内部メモリー(図示せず)を備えている。なお、この内部メモリーは、受光部305に電気的に接続する外部メモリーに代えた構成としてもよい。
【0092】
計測光強度取得部306は、受光部305が受光した光のある時刻における光強度を取得する。
光路長取得部307は、光路長分布記憶部302から、光路長分布のモデルの所定の時刻における、皮膚の各々の層の光路長を取得する。ここでは、光路長分布記憶部302からある時刻における光路長を取得する。ここでいう光路長とは、照射部304から照射された短時間パルス光が皮膚内に侵入し、この皮膚内にて散乱されて受光部305により検出されるまでの光の路の長さのことであり、後述するように、照射部304と受光部305との距離を設定することにより、皮膚の各々の層の光路長が推定される。
【0093】
無吸収時光強度取得部308は、時間分解波形記憶部303から、短時間パルス光の時間分解波形のモデルの所定の時刻における光の吸収係数をゼロ(零)とした時(無吸収時)の光強度モデルを取得する。ここでは、時間分解波形記憶部303からある時刻における無吸収時光強度を取得する。
積分区間算出部309は、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、光路長取得部307が取得した光路長分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した無吸収時光強度とに基づいて、前記光の強度分布から皮膚の各々の層の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を算出する。
【0094】
ここで、積分区間とは、光強度分布における任意の層の光強度に対応する領域の時間幅のことであり、開始時刻と、終了時刻と、増分時間とにより決定することができる。
例えば、(1)後方散乱した光を受光する受光部305の出力する光強度が計測光強度取得部306の最小検出感度を超えて検出された時刻から最小検出感度と等しい光強度で検出された時刻までの時間、(2)シミュレーション部301で得られる無吸収時光強度を記憶している時間分解波形記憶部303から取得した無吸収時光強度の時間特性、(3)皮膚表面に接する受光部305と照射部304との間隔、(4)シミュレーション部301に与える皮膚モデルのサイズ及び光学特性(散乱係数、吸収係数、非等方性パラメーター、または屈折率)を用いて、積分区間の開始時刻、終了時刻、増分時間を決定する。
【0095】
光吸収係数算出部310は、真皮層(任意の層)の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を変化させて、真皮層(任意の層)におけるグルコース(目的成分)の光吸収係数を算出する。
ここでは、積分区間算出部309によって定めた積分区間での皮膚31の各層の光吸収係数及び推定誤差率を求め、積分区間に対する皮膚31の各層の光吸収係数及び推定誤差率の分布を算出する。
この光吸収係数算出部310では、皮膚31における各層の光吸収係数を、下記の式(9)から算出する。
【0096】
【数9】
【0097】
但し、I(t)は受光部305が時刻tにて受光した光強度、N(t)は特定波長λkの短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度、Li(t)は皮膚の各々の層における光路長分布のモデルの時刻tにおける第i層の光路長、μiは第i層の光吸収係数である。
ここで、第1層は表皮層、第2層は真皮層、第3層は皮下組織を示し、μ1は表皮層の光吸収係数、μ2は真皮層の光吸収係数、μ3は皮下組織の光吸収係数を示す。
【0098】
光吸収係数分布記憶部311は、光吸収係数算出部310において、異なる複数の皮膚モデルの無吸収時光強度N(t)及び皮膚の各層の光路長分布(TPD)を用いた場合の組み合わせに対し、積分区間算出部309が定めた積分区間での光吸収係数及び推定誤差率を求め、積分区間に対する分布を記憶する。
光吸収係数取得部312は、光吸収係数分布記憶部311から取得した異なる複数の皮膚モデルの無吸収時光強度N(t)及び皮膚の各層の光路長分布(TPD)を用いた場合の組み合わせに対する光吸収係数及び推定誤差率の分布より、積分区間の変化に対する光吸収係数の変動率の範囲等の基準を用いて、特定深さでの皮膚主成分における血糖相応のグルコース濃度に基づく光吸収係数を取得する。
【0099】
濃度算出部313は、光吸収係数取得部312が取得した皮膚の表面からの特定深さにおける層の皮膚主成分における血糖相応のグルコース濃度に基づく光吸収係数から、特定深さの層に含まれるグルコースの濃度を算出する。
この濃度算出部313では、皮膚の任意の層におけるグルコースの濃度を、下記の式(10)から算出する。
【0100】
【数10】
【0101】
但し、μaは皮膚の任意の層である第a層における光吸収係数、gjは皮膚を構成する第j成分のモル濃度、εjは第j成分の光吸収係数、pは皮膚を構成する主成分の個数、qは特定波長λkの種類数である。
ここで、第1層は表皮層、第2層は真皮層、第3層は皮下組織を示し、μ1は表皮層の光吸収係数、μ2は真皮層の光吸収係数、μ3は皮下組織の光吸収係数を示す。
【0102】
そして、この血糖値測定装置300では、照射部304は、皮膚に短時間パルス光を照射し、受光部305は、短時間パルス光が皮膚により後方散乱した光を受光する。照射部304により照射された短時間パルス光は、皮膚内に一様に拡散して行き、その一部が後方散乱されて受光部305に到達する。受光部305に到達した光の伝搬経路は、図2中の光Rにて示すようなバナナ形の3次元形状となる。
この場合、照射部304と受光部305との入出射間距離Wと皮膚31内に侵入する光Rの侵入深さ(バナナ形の中心軸の最低部と体表面(皮膚表面)との距離)との間には、一定の関係がある。そこで、照射部304と受光部305との入出射間距離Wを規定することにより、皮膚31内に侵入する光Rの侵入深さも一義的に決定されることとなる。例えば、入出射間距離Wを10mmとすると、光Rの侵入深さは10mmとなり、入出射間距離Wを0.8mmとすると、光Rの侵入深さは0.8mmとなる。
【0103】
受光部305が後方散乱した光を受光すると、計測光強度取得部306は、時刻tにおいて受光部305が受光した光強度を取得する。
次いで、光路長取得部307は、光路長分布記憶部302から、皮膚モデルにおける光路長分布の時刻tにおける皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部308は、時間分解波形記憶部303から、皮膚モデルにおける短時間パルス光の時間分解波形の時刻tにおける光の強度を取得する。
【0104】
次いで、積分区間算出部309は、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、光路長取得部307が取得した光路長分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した無吸収時光強度とに基づいて、前記光の強度分布から皮膚の各々の層の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を算出する。
【0105】
例えば、(1)後方散乱した光を受光する受光部305の出力する光強度が計測光強度取得部306の最小検出感度を超えて検出された時刻から最小検出感度と等しい光強度で検出された時刻までの時間、(2)シミュレーション部301で得られる無吸収時光強度を記憶している時間分解波形記憶部303から取得した無吸収時光強度の時間特性、(3)皮膚表面に接する受光部305と照射部304との間隔、(4)シミュレーション部301に与える皮膚モデルのサイズ及び光学特性(散乱係数、吸収係数、非等方性パラメーター、または屈折率)を用いて、積分区間の開始時刻、終了時刻、増分時間を決定する。
【0106】
次いで、光吸収係数算出部310は、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した時間分解波形のモデルの皮膚の複数の層の組み合わせに対し、真皮層(任意の層)の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を変化させて、真皮層(任意の層)におけるグルコース(目的成分)の光吸収係数を算出する。
次いで、光吸収係数分布記憶部311は、光吸収係数算出部310において、異なる複数の皮膚モデルの無吸収時光強度N(t)及び皮膚の各層の光路長分布(TPD)を用いた場合の組み合わせに対し、積分区間算出部309が定めた積分区間での光吸収係数及び推定誤差率を求め、積分区間に対する分布を記憶する。
次いで、光吸収係数取得部312は、光吸収係数分布記憶部311から取得した積分区間に対する任意の層の光吸収係数及び推定誤差率の分布と、積分区間の変化に対する光吸収係数変動率の範囲等の基準とを用いて、皮膚の表面からの特定深さにおける層の皮膚主成分における血糖相応のグルコース濃度に基づく光吸収係数を取得する。
【0107】
次いで、濃度算出部313は、光吸収係数取得部312が取得した皮膚の表面からの特定深さにおける層の皮膚主成分における血糖相応のグルコース濃度に基づく光吸収係数に基づいて、皮膚の表面からの特定深さにおける層に含まれるグルコースの濃度を、上記の式(10)に基づき算出する。
【0108】
以上により、この血糖値測定装置300では、積分区間算出部309が、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、光路長取得部307が取得した光路長分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した無吸収時光強度とに基づいて、前記光の強度分布から皮膚の各々の層の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を算出し、光吸収係数算出部310が、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した時間分解波形のモデルの皮膚の複数の層の組み合わせに対し、真皮層(任意の層)の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を変化させて、真皮層(任意の層)におけるグルコース(目的成分)の光吸収係数を算出するので、皮膚の構造の光路長分布に近い組み合わせにおける真皮層(任意の層)の光吸収係数を選択することができる。したがって、真皮層におけるグルコースの光の吸収量、すなわちグルコースの濃度を精度良く測定することができ、その結果、真皮層におけるグルコースの濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる。
【0109】
次に、血糖値測定装置300の動作を説明する。
血糖値測定装置300は、血糖値を測定する前に、予め皮膚モデルの各層における光路長分布と時間分解波形とを算出しておく必要がある。
ここで、皮膚モデルの光路長分布及び時間分解波形の算出方法を説明する。
初めに、シミュレーション部301は、皮膚モデルを生成する。皮膚モデルの生成は、皮膚の各層の光散乱係数、光吸収係数及び厚みを決定することで行う。ここで、皮膚の部分を特定すれば、この特定された皮膚の部分における各層の散乱係数及び厚みは、個体による差が少ないので、予めサンプルを取ることなどによって決定するとよい。なお、表皮層32の厚みは略0.3mm、真皮層33の厚みは略1.2mm、皮下組織34の厚みは略3.0mmである。
また、ここで用いる皮膚モデルの光吸収係数はゼロとする。その理由は、この皮膚モデルを用いて光吸収量を算出するからである。
【0110】
シミュレーション部301は、皮膚モデルを生成すると、この皮膚モデルに光を照射するシミュレーションを行う。このとき、照射部304の位置と受光部305の位置との間の距離を決定しておく必要がある。シミュレーションは、例えば、モンテカルロ法を用いて行う。
このモンテカルロ法によるシミュレーションは、例えば以下のように行われる。
【0111】
まず、シミュレーション部301は、照射する光のモデルを光子(光束)とし、この光子を皮膚モデルに照射する計算を行う。皮膚モデルに照射された光子は、皮膚モデル内を移動する。このとき、光子は、次に進む点までの距離L及び方向θを乱数Rによって決定する。シミュレーション部301は、光子が次に進む点までの距離Lの計算を、式(11)により行う。
【0112】
【数11】
【0113】
但し、ln(A)はAの自然対数を示し、μsは、皮膚モデルの第s層(表皮層、真皮層、皮下組織層の何れか)の散乱係数を示す。
また、シミュレーション部301は、光子が次に進む点までの方向θの計算を、式(12)により行う。
【0114】
【数12】
【0115】
但し、gは、散乱角度の余弦(cos)の平均である非等方性パラメーターを示し、皮膚の非等方性パラメーターは、略0.9である。
シミュレーション部301は、上記式(11)及び式(12)の計算を単位時間毎に繰り返すことにより、照射部304から受光部305までの光子の移動経路を算出することができる。シミュレーション部301は、複数の光子について移動距離の算出を行う。例えば、シミュレーション部301は、108個の光子について移動距離を算出する。
【0116】
シミュレーション部301は、受光部305に到達した光子の各々の移動経路を、移動経路が通過する層毎に分類する。そして、シミュレーション部301は、単位時間毎に到達した光子の移動経路の平均長を分類された層毎に算出することで、皮膚の各層の散乱係数を変化させ、この変化した皮膚の各層の散乱係数それぞれに対応して光路長分布(TPD)を作成する。このようにして作成された光路長分布(TPD)は、光路長分布記憶部302に格納される。
また、シミュレーション部301は、単位時間毎に受光部305に到達した光子の個数を算出することで、皮膚モデルの時間分解波形を算出する。
【0117】
図10は、シミュレーション部301で得た無吸収時光強度(受光光子数と等しい)N(t)の時間分解波形を示す図である。図10では、表皮層、真皮層、皮下組織の三層の皮膚モデルを用いており、真皮層の吸収係数に対して表皮層の吸収係数を25%から150%まで変化させている。図10中、Aは25%を、Bは50%を、Cは75%を、Dは100%を、Eは125%を、Fは150%を、それぞれ示している。
【0118】
ここでは、表皮層の吸収係数を25%から150%まで変化させ、この変化した散乱係数それぞれに対応して光路長分布(TPD)を作成する。したがって、光路長分布(TPD)は、表皮層の吸収係数を25%から150%まで変化させたそれぞれに対応して作成されることとなる。
図10によれば、30ps程度で光子数または光強度が極大となる値(ピーク値)に対する振幅が5%以下となっており、真値に近いことが分かる。
【0119】
図11は、図10の無吸収時光強度N(t)及び光路長分布(TPD)と共にシミュレーションで得た吸収時光強度I(t)の時間分解波形をリニアスケールで示したものであり、図12は、図11の時間分解波形をログスケールで示したものである。
図11〜図12によれば、真皮層の吸収係数は、表皮層の吸収係数を変化させることにより大きく変化することが分かる。したがって、50ps程度では、真皮層の吸収係数に対して表皮層の吸収係数を25%とした場合、ピーク値に対して3桁程度の減少となっていることが分かる。
【0120】
上述したような処理により、シミュレーション部301は、異なる複数の皮膚モデルの光路長分布及び時間分解波形を算出する。このとき、シミュレーション部301は、皮膚の主成分(水、たんぱく質、脂質、グルコース等)の吸収スペクトルの差が大きい波長について光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0121】
シミュレーション部301が異なる複数の皮膚モデルの光路長分布及び時間分解波形を算出すると、光路長分布記憶部302は、算出された光路長分布の情報を記憶し、時間分解波形記憶部303は、算出された時間分解波形の情報を記憶する。
【0122】
次に、この血糖値測定装置300が血糖値を測定する動作について、図13及び図14に基づき説明する。
まず、被測定者が血糖値測定装置300を、図2に示すような手首等の皮膚31に当て、測定開始スイッチ(図示せず)の押下等により血糖値測定装置300を動作させると、照射部304は、皮膚31に対して波長λkの短時間パルス光を照射する(ステップS21)。
この波長λkとしては、例えば、シミュレーション部301が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中の1つが好ましい。
例えば、皮膚31を構成する主成分のうち、ある主成分における特定成分の光吸収係数が他の成分の光吸収係数より大きくなる波長の光、すなわち、特定成分の光吸収係数の極小値が他の成分の光吸収係数の極小値と大きく異なる波長の光について光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0123】
照射部304が波長λkの短時間パルス光を照射すると、受光部305は、照射部304から照射され皮膚31によって後方散乱された光を受光する(ステップS22)。
このとき、受光部305は、照射開始からの単位時間毎(例えば、1ピコ秒毎の時刻t1〜tm)の受光強度を、内部メモリー(図示せず)に記録しておく。
【0124】
次いで、異なる複数の皮膚モデルとの組み合わせに対し、積分区間を変化させて真皮層33の光吸収係数を算出する(処理A;ステップS23)。
このステップS23は、図14に示す動作により行う。
積分区間算出部309は、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、光路長取得部307が取得した光路長分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した無吸収時光強度とに基づいて、前記光の強度分布から皮膚の各々の層の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を算出する。
【0125】
ここでは、積分区間算出部309により、(1)後方散乱した光を受光する受光部305の出力する光強度が計測光強度取得部306の最小検出感度を超えて検出された時刻から最小検出感度と等しい光強度で検出された時刻までの時間、(2)シミュレーション部301で得られる無吸収時光強度を記憶している時間分解波形記憶部303から取得した無吸収時光強度の時間特性、(3)皮膚表面に接する受光部305と照射部304との間隔、(4)シミュレーション部301に与える皮膚モデルのサイズ及び光学特性(散乱係数、吸収係数、非等方性パラメーター、または屈折率)を用いて、積分区間を算出する。より具体的には、積分区間の開始時刻、終了時刻、増分時間を算出する(ステップS31)。
【0126】
受光部305が受光を完了すると、計測光強度取得部306は、内部メモリーに記録されている受光強度から、ある時刻tにおける受光強度を、異なる複数の皮膚モデルの数と同じ数だけ取得する(ステップS32)。
例えば、異なる複数の皮膚モデルとして、皮膚の3つの層について4種類の波長を用いて濃度測定を行う場合には、3つの異なる時刻t1〜t3における受光強度I(t1)〜I(t3)を取得する。ここで、皮膚の層の数と同じ数だけ受光強度を取得する理由は、後述する処理において、皮膚の各層の吸収係数を連立方程式によって算出するためである。
【0127】
また、計測光強度取得部306が光強度を取得する時刻t1〜t3は、皮膚の各層の光路長分布のピークとなる時刻であると良い。すなわち、照射部304が短時間パルス光を照射した時刻に、図3において皮膚の各層の光路長が極大となる時間を加算した時刻の光強度をそれぞれ取得すると良い。
【0128】
計測光強度取得部306が、受光強度I(t1)〜I(t3)を取得すると、光路長取得部307は、光路長分布記憶部302が記憶する波長λ1の光路長分布から、時刻t1〜t3における皮膚の各層の光路長L1(t1)〜L1(t3)、L2(t1)〜L2(t3)、L3(t1)〜L3(t3)を取得する(ステップS33)。
また、計測光強度取得部306が、受光強度I(t1)〜I(t3)を取得すると、無吸収時光強度取得部308は、時間分解波形記憶部303が記憶する波長λ1の時間分解波形から、短時間パルス光の時間分解波形の異なる複数の皮膚モデルの所定の時刻における光強度、例えば、時刻t1〜t3における検出光子数(無吸収時光強度)N(t1)〜N(t3)を取得する(ステップS34)。
【0129】
光路長取得部307が皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部308が検出光子数(無吸収時光強度)N(t1)〜N(t3)を取得すると、光吸収係数算出部310は、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した時間分解波形のモデルの皮膚の複数の層の組み合わせに対し、真皮層の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を変化させて、真皮層におけるグルコースの光吸収係数を算出する。
ここでは、式(13)に基づいて、積分区間算出部309が算出した積分区間での皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出する(ステップS35)。ここで、光吸収係数μ1は、表皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μ2は、真皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μ3は、皮下組織層の光吸収係数を示す。
【0130】
【数13】
【0131】
但し、ln(A)はAの自然対数を示し、N(t)は特定波長λkの短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度を示す。また、Iinは、照射部7が照射した短時間パルス光の光強度を示す。また、Ninは、シミュレーション部2が照射のシミュレーションを行った光子の個数を示す。
【0132】
光吸収係数算出部310がある積分区間での皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出すると、光吸収係数分布記憶部311は、光吸収係数算出部310が算出した、ある積分区間での皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を記憶する(ステップS36)。
【0133】
図15は、真皮層における光吸収係数と積分区間との関係を示す図である。図15では、表皮層、真皮層、皮下組織の三層の皮膚モデルを用いており、真皮層の光吸収係数に対して表皮層の散乱係数を文献値に対して−50%〜+200%変化させたときの積分区間と真皮層の光吸収係数との関係を示したものである。図15中、Aは−50%を、Bは−0%を、Cは+50%を、Dは+100%を、Eは+150%を、Fは+200%を、それぞれ示している。
【0134】
ここで、表皮層の散乱係数を変化させるということは、無吸収時光強度N(t)及び皮膚モデルの各層の光路長分布(TPD)を変化させたことになる。
図15によれば、積分区間を変化させることで、異なる無吸収時光強度N(t)及び皮膚モデルの各層の光路長分布(TPD)を用いた場合における真皮層の光吸収係数の特性が得られることが分かる。
【0135】
この測定の際に対象となる皮膚構造での真皮層の散乱係数は未知であるが、本実施形態では、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した時間分解波形のモデルの皮膚の複数の層の組み合わせに対し、真皮層の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を変化させて真皮層におけるグルコースの光吸収係数を算出するので、皮膚構造の光路長分布(TPD)に近い組み合わせにおける真皮層の光吸収係数を選択することが可能になる。
【0136】
光吸収係数算出部310がある積分区間での皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出すると、光吸収係数算出部310は、設定した積分区間での真皮層の光吸収係数を算出したか否かを判断する(ステップS37)。
本実施形態では、皮膚の主成分を水、たんぱく質、脂質、グルコースの4種類として血糖値の測定を行うので、光吸収係数算出部310は、4種類の波長λ1〜λ4に対して光吸収係数μ1〜μ3を算出したか否かを判定する。ここで、波長λ1〜λ4は、シミュレーション部301が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中から選出する。
【0137】
ここで、光吸収係数算出部310が設定した積分区間での真皮層の光吸収係数μ1〜μ3に算出しなかった光吸収係数があると判断した場合(ステップS37:NO)、再度、ある時刻における受光強度の取得(ステップS32)に戻り、まだ算出していない真皮層の光吸収係数を算出し、再度、設定した積分区間での真皮層の光吸収係数の算出の可否の判断(ステップS37)を行う。
一方、光吸収係数算出部310が設定した積分区間での真皮層の光吸収係数μ1〜μ3を算出したと判断した場合(ステップS37:YES)、真皮層の光吸収係数分布から光吸収係数を取得する(ステップ38)。
【0138】
光吸収係数取得部312は、皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の光吸収係数を算出したか否かを判断する(ステップS24)。
ここで、光吸収係数取得部312が皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の光吸収係数を算出していないと判断した場合(ステップS24:NO)、短時間パルス光の照射(ステップS21)に戻り、まだ算出していない皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の光吸収係数を算出し、再度、光吸収係数の算出の可否の判断(ステップS24)を行う。
【0139】
一方、光吸収係数取得部312が皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の光吸収係数を算出したと判断した場合(ステップS24:YES)、濃度算出部313は真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出する(ステップS25)。
濃度算出部313は、真皮層におけるグルコースの濃度を、下記の式(14)に基づいて算出する。
【0140】
【数14】
【0141】
但し、μ2(1)〜μ2(4)は、真皮層における波長λ1〜λ4の光吸収係数を示す。また、g1〜g4は、真皮層におけるそれぞれ皮膚の主成分である水、たんぱく質、脂質、グルコースのモル濃度を示す。また、ε1(1)〜ε1(4)は、波長λ1〜λ4に対する水のモル吸光係数を示し、ε2(1)〜ε2(4)は、波長λ1〜λ4に対するたんぱく質のモル吸光係数を示し、ε3(1)〜ε3(4)は、波長λ1〜λ4に対する脂質のモル吸光係数を示し、ε4(1)〜ε4(4)は、波長λ1〜λ4に対するグルコースのモル吸光係数を示す。
つまり、式(14)のg4を算出することで、真皮層に含まれるグルコースのモル濃度を求めることができる。
【0142】
式(14)によりグルコースのモル濃度を求めることができる理由は、第1の実施形態と全く同様である。
【0143】
上述の血糖値測定装置300は、内部にコンピューターシステム(図示略)を有しており、上述した各ステップの処理動作は、プログラムの形式でコンピューター読み取り可能な記録媒体に記憶されている。そこで、このプログラムをコンピューターが読み出して実行することにより、上記の処理動作を行うことができる。
ここで、コンピューター読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリー等が挙げられる。
また、このコンピュータープログラムを通信回線によりコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピューターが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0144】
また、上記プログラムは、上記の機能の一部を実現するためのものであってもよい。
さらに、上述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0145】
以上説明したように、本実施形態によれば、積分区間算出部309により、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、光路長取得部307が取得した光路長分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した無吸収時光強度とに基づいて、前記光の強度分布から皮膚の各々の層の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を算出し、光吸収係数算出部310により、積分区間を変化させて真皮層におけるグルコースの光吸収係数を算出するので、皮膚構造の光路長分布に近い組み合わせにおける真皮層の光吸収係数を選択することができる。したがって、皮膚の真皮層におけるグルコースの光の吸収量、すなわちグルコースの濃度を精度良く測定することができ、その結果、真皮層におけるグルコースの濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる。
また、積分区間を可変させることにより、真皮層におけるグルコースの濃度の測定精度を高めることができる。
【0146】
なお、本実施形態では、シミュレーション部301が、光吸収係数がゼロの皮膚モデルに対して光を照射するシミュレーションを行うこととしたが、シミュレーション部301が行った光吸収係数がゼロの皮膚モデルに対して光を照射するシミュレーションの結果を、光路長分布記憶部302及び時間分解波形記憶部303に記憶させておけば、シミュレーション部301を備えなくとも、本実施形態と同様の作用・効果を奏することができる。
【0147】
[第5の実施形態]
図16及び図17は、本発明の第5の実施形態の血糖値測定装置(濃度定量装置)が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
本実施形態の血糖値測定装置は、第4の実施形態の血糖値測定装置300と同一の構成であり、光路長取得部307、無吸収時光強度取得部308、計測光強度取得部306、光吸収係数算出部310の動作が異なる。
【0148】
次に、本実施形態の血糖値測定装置が血糖値を測定する動作について説明する。
まず、被測定者が血糖値測定装置300を動作させると、照射部304は、皮膚31に対して波長λkの短時間パルス光を照射する(ステップS41)。
この波長λkとしては、例えば、シミュレーション部301が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中の1つが好ましい。
【0149】
照射部304が波長λkの短時間パルス光を照射すると、受光部305は、照射部304から照射され皮膚によって後方散乱された光を受光する(ステップS42)。
このとき、受光部305は、照射開始からの単位時間毎(例えば、1ピコ秒毎)の受光強度を、内部メモリー(図示せず)に記録しておく。
【0150】
次いで、異なる複数の皮膚モデルとの組み合わせに対し、積分区間を変化させて真皮層の光吸収係数を算出する(処理B;ステップS43)。
このステップS43は、図17に示す動作により行う。
積分区間算出部309は、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、光路長取得部307が取得した光路長分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した無吸収時光強度とに基づいて、前記光の強度分布から皮膚の各々の層の光強度に対応する領域の時間の範囲である積分区間を算出する(ステップS51)。
【0151】
受光部305が受光を完了すると、計測光強度取得部306は、受光部305の内部メモリに記録されている受光強度から、ある時刻から時間τの間の受光強度の時間分布を、異なる複数の皮膚モデルの数と同じ数だけ取得する(ステップS52)。
【0152】
計測光強度取得部306が、時間τの間の受光強度の時間分布を取得すると、光路長取得部307は、光路長分布記憶部302が記憶する波長λkの光路長分布から、時間τの間の皮膚の各層の光路長L1〜L3を取得する(ステップS53)。
また、計測光強度取得部306が、時間τの間の受光強度を取得すると、無吸収時光強度取得部308は、時間分解波形記憶部303が記憶する波長λkの時間分解波形から、ある時刻から時間τの間の検出光子数(無吸収時光強度)を取得する(ステップS54)。
【0153】
光路長取得部307が皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部308が検出光子数を取得すると、光吸収係数算出部310は、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した時間分解波形のモデルの皮膚の複数の層の組み合わせに対し、真皮層の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を変化させて、真皮層におけるグルコースの光吸収係数を算出する。
ここでは、式(15)に基づいて、積分区間算出部309が算出した積分区間での皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出する(ステップS55)。ここで、光吸収係数μ1は、表皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μ2は、真皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μ3は、皮下組織の光吸収係数を示す。
【0154】
【数15】
【0155】
但し、ln(A)はAの自然対数を示し、N(t)は特定波長λkの短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度を示す。また、Iinは、照射部304が照射した短時間パルス光の光強度を示す。また、Ninは、シミュレーション部301が照射のシミュレーションを行った光子の個数を示す。
【0156】
光吸収係数算出部310がある積分区間での皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出すると、光吸収係数分布記憶部311は、光吸収係数算出部310が算出した、ある積分区間での皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を記憶する(ステップS56)。
【0157】
また、光吸収係数算出部310がある積分区間での皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出すると、光吸収係数算出部310は、設定した積分区間での真皮層の光吸収係数を算出したか否かを判断する(ステップS57)。
本実施形態では、皮膚の主成分を水、たんぱく質、脂質、グルコースの4種類として血糖値の測定を行うので、光吸収係数算出部310は、4種類の波長λ1〜λ4に対して光吸収係数μ1〜μ3を算出したか否かを判定する。ここで、波長λ1〜λ4は、シミュレーション部301が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中から選出する。
【0158】
ここで、光吸収係数算出部310が設定した積分区間での真皮層の光吸収係数μ1〜μ3に算出しなかった光吸収係数があると判断した場合(ステップS57:NO)、再度、ある時刻における受光強度の取得(ステップS52)に戻り、まだ算出していない真皮層の光吸収係数を算出し、再度、設定した積分区間での真皮層の光吸収係数の算出の可否の判断(ステップS57)を行う。
一方、光吸収係数算出部310が設定した積分区間での真皮層の光吸収係数μ1〜μ3を算出したと判断した場合(ステップS57:YES)、真皮層の光吸収係数分布から光吸収係数を取得する(ステップ58)。
【0159】
光吸収係数取得部312は、皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の光吸収係数を算出したか否かを判断する(ステップS44)。
ここで、光吸収係数取得部312が皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の光吸収係数を算出していないと判断した場合(ステップS44:NO)、短時間パルス光の照射(ステップS41)に戻り、まだ算出していない皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の光吸収係数を算出し、再度、光吸収係数の算出の可否の判断(ステップS44)を行う。
【0160】
一方、光吸収係数取得部312が皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の光吸収係数を算出したと判断した場合(ステップS44:YES)、濃度算出部313は真皮層に含まれるグルコースの濃度を、上記の式(14)に基づいて算出する(ステップS45)。
【0161】
このように、本実施形態によれば、吸収係数μ1〜μ3を、時間τの間の光路長の積分値によって算出する。これにより、計測した受光強度I(t)に含まれている誤差による吸収係数μ1〜μ3の算出結果に対する影響を少なくすることができる。
【0162】
[第6の実施形態]
図18は、本発明の第6の実施形態の血糖値測定装置(濃度定量装置)の構成を示す概略ブロック図である。
本実施形態の血糖値測定装置400が、第4の実施形態の血糖値測定装置300と異なる点は、時間分解波形記憶部303と積分区間算出部309との間に、無吸収時光強度取得部308と並行に吸収時光強度取得部(光強度モデル取得部)401を設けた点である。
【0163】
吸収時光強度取得部401は、シミュレーション部301で得られる無吸収時光強度と同様に得られる、ある時刻における光の吸収係数を1、すなわち100%吸収されるものとしたときの光強度モデルを取得する。
ここでは、吸収時光強度を記憶している時間分解波形記憶部303から、短時間パルス光の時間分解波形のモデルの所定の時刻における吸収時光強度、すなわち、ある時刻における吸収時の光強度を取得する。
【0164】
積分区間算出部309は、光路長取得部307が取得した光路長分布のモデルの皮膚の各々の層の光路長と、無吸収時光強度取得部308が取得した短時間パルス光の時間分解波形のモデルの無吸収時光強度と、吸収時光強度取得部401が取得した短時間パルス光の時間分解波形のモデルの吸収時光強度と、計測光強度取得部306が取得した受光部305が受光した光強度分布とに基づいて、前記光強度分布から任意の層の光強度に対応する領域の積分区間を算出する。
【0165】
この血糖値測定装置400を用いて血糖値を測定する場合、積分区間を変化させて真皮層の光吸収係数を算出する。
この場合、積分区間算出部309は、(1)後方散乱した光を受光する受光部305の出力する光強度が計測光強度取得部306の最小検出感度を超えて検出された時刻から最小検出感度と等しい光強度で検出された時刻までの時間、(2)シミュレーション部301で得られる無吸収時光強度を記憶している時間分解波形記憶部303から取得した無吸収時光強度の時間特性、(3)シミュレーション部301で得られる吸収時光強度を記憶している時間分解波形記憶部303から取得した吸収時光強度の時間特性、(4)皮膚表面に接する受光部305と照射部304との間隔、(5)シミュレーション部301に与える皮膚モデルのサイズ及び光学特性(散乱係数、吸収係数、非等方性パラメーター、または屈折率)を用いて、積分区間を算出する。より具体的には、積分区間の開始時刻、終了時刻、増分時間を算出する。
【0166】
なお、この積分区間算出部309が算出した積分区間に基づいて、光吸収係数算出部310〜濃度算出部313が特定深さの層に含まれるグルコースの濃度を算出する方法及び手順については、第4の実施形態の血糖値測定装置300と全く同様であるから、説明を省略する。
【0167】
本実施形態においても、第4の実施形態と同様に、皮膚構造の光路長分布に近い組み合わせにおける真皮層の光吸収係数を選択することができる。したがって、皮膚の真皮層におけるグルコースの光の吸収量、すなわちグルコースの濃度を精度良く測定することができ、その結果、真皮層におけるグルコースの濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる。
また、積分区間を可変させることにより、真皮層におけるグルコースの濃度の測定精度を高めることができる。
【0168】
以上、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等が可能である。
例えば、上記の各実施形態では、濃度定量装置として血糖値測定装置を、観測対象として人の手のひらの皮膚を、目的成分としてグルコースを、パルス光として短時間パルス光を、それぞれ取ることで、皮膚の真皮層に含まれるグルコースの濃度を測定する場合について説明したが、これに限らず、濃度定量方法を、複数の光散乱媒質の層から形成される観測対象の任意の層における目的成分の濃度を定量する他の装置に用いてもよく、特定波長の短時間パルス光を、特定波長の連続光に替えてもよい。
例えば、携帯型の皮膚主成分の濃度測定装置に適用した場合、皮膚疾患の検査や診断や治療に有効利用することが可能である。
【符号の説明】
【0169】
31…皮膚(観測対象)、33…真皮層(任意の層)、100…血糖値測定装置(濃度定量装置)、102…光路長分布記憶部、103…時間分解波形記憶部、104…照射部、105…受光部、106…計測光強度取得部(光強度取得部)、107…光路長取得部、108…無吸収時光強度取得部(光強度モデル取得部)、109…光吸収係数算出部、110…濃度算出部、200…血糖値測定装置(濃度定量装置)、300…血糖値測定装置(濃度定量装置)、302…光路長分布記憶部、303…時間分解波形記憶部、304…照射部、305…受光部、306…計測光強度取得部(光強度取得部)、307…光路長取得部、308…無吸収時光強度取得部(光強度モデル取得部)、309…積分区間算出部、310…光吸収係数算出部、312…光吸収係数取得部、313…濃度算出部、400…血糖値測定装置(濃度定量装置)、401…吸収時光強度取得部(光強度モデル取得部)、S1〜S8、S11〜S18、S21〜S25、S31〜S38、S41〜S45、S51〜S58…ステップ
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光散乱媒質の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量する濃度定量装置及び濃度定量方法並びにプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国は飽食の時代にあって、糖尿病の患者が毎年増加し続けている。そのために、糖尿病性腎炎の患者も毎年増加し続けることとなり、その結果、慢性腎不全の患者も毎年1万人もの増加を続け、患者数は28万人を超えるようになってきている。
一方、高齢化社会の到来により、予防医学に対する要求の高まりを受けて、個人における代謝量管理の重要性が急速に増大している。中でも、血糖値測定は、食前や食後の血糖値を測定することで糖代謝の反応が分かることが知られており、糖尿病のごく初期段階での糖代謝の反応を評価することで、糖尿病の早期診断に基づく早期治療が可能になる。
【0003】
従来、血糖値の測定は、腕あるいは指先等の静脈から採血を行い、この血液中のグルコースに対する酵素活性を測定することで行っている。しかし、このような血糖値の測定方法では、採血が煩雑であり、しかも採血に痛みを伴い、さらには感染症の危険性を伴う等の様々な問題がある。
また、血糖値を連続的に測定する方法としては、静脈に注射針を刺した状態で連続的に血糖値相応のグルコースの定量を行う機器が米国にて開発されており、現在臨床試験中である。しかし、静脈に注射針を刺したままにしているために、血糖値の測定中に針が抜ける危険性や感染症の危険性がある。
そこで、採血無しに頻繁に血糖値を測定することができ、しかも感染症の危険性が無い血糖値の測定装置の開発が求められている。さらには、簡単にかつ常時装着可能であり、小型化可能な血糖値の測定装置の開発が求められている。
【0004】
近赤外の連続光を用いて非侵襲的に血糖値を測定する装置としては、分子吸光の原理を用いた一般的な分光分析測定の原理を適用した装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
この装置は、皮膚の赤外スペクトルを用いて生体成分濃度の定量をおこなう場合に、皮下脂肪の影響を受けて生体成分濃度の定量に誤差が生じることに対応したもので、より具体的には、皮膚に近赤外の連続光を照射し、その光吸収量からグルコースの濃度を算出する装置である。
この装置では、予めグルコース濃度と照射する近赤外光の波長と光の吸収量との関係を示す検量線を作成しておき、皮膚に近赤外の連続光を照射し、この皮膚からの戻り光をモノクロメーター等を用いてある波長域を走査し、その波長域の各波長に対する光の吸収量を求め、この各波長における光の吸収量と検量線とを比較することで、血液中のグルコース濃度、すなわち血糖値を算出している。
【0005】
また、1700nm〜1800nmの波長範囲から選択した皮下脂肪の特異吸収波長での吸光度から、皮膚の性状の分類を行い、「皮膚厚さ」の代用特性として検量式を選択している。
さらには、予備的に近赤外の受光部と発光部との間隔を650μmとして推定した「皮膚厚さ」を1.2mm以上、1.2mm未満のいずれかに判断し、受光部と発光部との間隔を650μm、300μmのいずれかに選択した後に検量式を選択している。
【0006】
一方、近赤外光を用いた生体診断としては、例えば、時間分解計測法を用いた生体組織イメージングにより皮膚主成分における近赤外光の吸収量を測定し、この吸収量を基に皮膚主成分の各割合、例えば、血糖相応のグルコース濃度を求める方法が知られている。
この皮膚主成分の吸収量には波長依存性があるので、通常、予め皮膚主成分の定量に影響を及ぼす変動要因を多変量解析で複数の割合で変化させた複数のスペクトラムを作製しておき、皮膚主成分における近赤外光の吸収量の測定結果のスペクトルを上記の複数のスペクトラムと比較し、これらのスペクトラムから一致するスペクトラムを選ぶことにより、皮膚主成分の各割合を推定する方法が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3931638号公報
【特許文献2】特許第3994588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の近赤外の連続光を用いた非侵襲的に血糖値を測定する装置では、特定深さを通過する経路の光の吸収量のみを測定することができず、したがって、特定深さの皮膚主成分における血糖相応のグルコース濃度を精度よく定量することができないという問題点があった。
また、特許文献1の装置では、皮膚表面から皮下脂肪までの深さを「皮膚厚さ」として、皮下脂肪の特異吸収波長での吸光度から皮膚の性状を分類すること、例えば、皮膚表面から皮下脂肪までの深さを「皮膚厚さ」として代用することには、(1)皮膚の真皮と皮下組織の境界は、皮膚の表面からの深さとして均一では無いこと、(2)真皮には脂肪を分泌する汗腺があって脂肪分泌物を蓄えていること、(3)皮下脂肪の特異吸収波長での吸光度から皮膚の性状の分類を行う場合、真皮の細胞及び間質液には脂肪が含まれているので、真皮と皮下脂肪との区別が難しい、等の理由により問題点があった。
【0009】
一般に、皮膚の赤外スペクトルを用いて生体成分濃度の定量を行う場合、受光部と発光部との間隔によって定まるバナナシェイプ特性により、皮膚内での光路の皮膚表面からの深さが概ね推定される。例えば、受光部と発光部との間隔を650μmとすれば、光路の皮膚表面からの深さは325μmと推定され、また、受光部と発光部との間隔を300μmとすれば、光路の皮膚表面からの深さは150μmと推定される。
しかしながら、特許文献1の装置では、上記の理由等により、皮膚の赤外スペクトルを用いて生体成分濃度の定量を行う部位を特定することができず、したがって、真皮中で間質成分の一つとしてグルコースが存在している網状層(Stratum reticulare)を特定部位として、この特定部位を透過する光路での吸光度を選択的に測定することはできない。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、複数の層により構成される観測対象の構造の光路長分布に近い組み合わせにおける特定部位である任意の層の光吸収係数を選択することで、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる濃度定量装置及び濃度定量方法並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の濃度定量装置及び濃度定量方法並びにプログラムを採用した。
すなわち、本発明の濃度定量装置は、複数の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置であって、前記観測対象に短時間パルス光を照射する照射部と、前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光する受光部と、前記受光部が受光した光の強度から光の強度分布を取得する光強度取得部と、前記観測対象に対して照射する前記短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、前記光路長分布のモデルの所定の時刻における、前記複数の層の各々の層の光路長分布を取得する光路長取得部と、時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部と、前記時間分解波形のモデルの所定の時刻における光強度モデルを取得する光強度モデル取得部と、前記光の強度分布と、前記光路長分布と、前記光強度モデルとに基づいて、前記光の強度分布から前記任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出する積分区間算出部と、前記光の強度分布と、前記光強度モデル取得部が取得した前記時間分解波形のモデルの前記複数の層の組み合わせに対し、前記時間の範囲を変化させて前記任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得する光吸収係数算出・取得部と、前記光吸収係数算出・取得部が取得した前記目的成分の光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出部と、を備えてなることを特徴とする。
【0012】
本発明の濃度定量装置では、照射部により、観測対象に短時間パルス光を照射し、受光部により、短時間パルス光の照射により観測対象から後方散乱される光を受光し、光強度取得部により、受光部が受光した光の強度から光の強度分布を取得し、光路長取得部により、光路長分布のモデルの所定の時刻における複数の層の各々の層の光路長分布を取得し、積分区間算出部により、光の強度分布と、光路長分布と、光強度モデルとに基づいて、光の強度分布から任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出し、光吸収係数算出・取得部により、光の強度分布と、光強度モデル取得部が取得した時間分解波形のモデルの複数の層の組み合わせに対し、前記時間の範囲を変化させて前記任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得し、濃度算出部により、光吸収係数算出・取得部が取得した目的成分の光吸収係数に基づいて、任意の層における目的成分の濃度を算出する。
【0013】
このように、光吸収係数算出・取得部が、光の強度分布と、光強度モデル取得部が取得した時間分解波形のモデルの複数の層の組み合わせに対し、積分区間算出部により算出された時間の範囲を変化させて、任意の層における目的成分の光吸収係数を算出することにより、観測対象の構造の光路長分布に近い組み合わせにおける任意の層の光吸収係数を選択することができる。したがって、任意の層における目的成分の光の吸収量、すなわち目的成分の濃度を精度良く測定することができ、その結果、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる。
【0014】
本発明の濃度定量装置は、前記光吸収係数算出・取得部は、前記時間の範囲を変化させて前記複数の層の各々の層の光吸収係数を算出する光吸収係数算出部と、前記光吸収係数算出部が算出した前記複数の層の各々の層の光吸収係数に基づき前記任意の層における目的成分の光吸収係数を取得する光吸収係数取得部と、を備えてなることを特徴とする。
【0015】
本発明の濃度定量装置では、光吸収係数算出部により、前記時間の範囲を変化させて複数の層の各々の層の光吸収係数を算出し、光吸収係数取得部により、光吸収係数算出部が算出した複数の層の各々の層の光吸収係数に基づき任意の層における目的成分の光吸収係数を取得する。
したがって、任意の層における目的成分の光吸収係数、すなわち目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0016】
本発明の濃度定量装置は、前記光強度モデル取得部は、前記時間分解波形記憶部から前記短時間パルス光の光強度モデルのうち無吸収時の光強度モデルを得る無吸収時光強度取得部と、前記短時間パルス光の光強度モデルのうち吸収時の光強度モデルを得る吸収時光強度取得部と、を備えてなることを特徴とする。
【0017】
本発明の濃度定量装置では、無吸収時光強度取得部により、短時間パルス光の光強度モデルのうち無吸収時の光強度モデルを得、吸収時光強度取得部により、短時間パルス光の光強度モデルのうち吸収時の光強度モデルを得る。これにより、短時間パルス光の光強度モデルの全てを得ることができ、この全ての光強度モデルに基づいて、光の強度分布から任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を精度良く算出することができる。
したがって、任意の層における目的成分の光吸収係数、すなわち目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0018】
本発明の濃度定量装置は、前記光強度取得部は、前記時間の範囲内の前記観測対象の層の数n以上となる複数の時刻t1〜tmにおける光強度を取得し、前記光吸収係数算出部は、自然対数を示すln(・)、前記受光部が前記時間の範囲内の時刻tにおいて受光した光強度を示すI(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記時間の範囲内の時刻tにおける光強度を示すN(t)、前記光路長分布のモデルの前記時間の範囲内の時刻tにおける第i層の光路長を示すLi(t)、第i層の光吸収係数を示すμiを用いて、
【数1】
から任意の層の光吸収係数を算出する、ことを特徴とする。
【0019】
本発明の濃度定量装置では、光強度取得部が、時間の範囲内の観測対象の層の数n以上となる複数の時刻t1〜tmにおける光強度を取得し、光吸収係数算出部が、任意の層の光吸収係数を、上記の式(1)から算出する。
このように、後方散乱光を時間分解計測することで、任意の層以外の層からの後方散乱光をノイズとして低減することができ、目的成分の濃度における任意の層以外の層からの影響を低減することができる。したがって、目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0020】
本発明の濃度定量装置は、前記光強度取得部が光強度を取得する複数の時刻は、前記複数の層の各々の層の光路長分布のピーク時間を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明の濃度定量装置では、光強度取得部が光強度を取得する複数の時刻が、複数の層の各々の層の光路長分布のピーク時間を含むことにより、観測対象中の複数の層から任意の層を効率的に選択することができる。したがって、任意の層における目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0022】
本発明の濃度定量装置は、前記光強度取得部は、前記時間の範囲内の所定の時刻から少なくとも所定の時間τの間の光強度を取得し、前記光吸収係数算出部は、自然対数を示すln(・)、前記受光部が前記時間の範囲内の時刻tにおいて受光した光強度を示すI(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記時間の範囲内の時刻tにおける光強度を示すN(t)、前記光路長分布のモデルの前記時間の範囲内の時刻tにおける第i層の光路長を示すLi(t)、前記観測対象の層の数を示すn、第i層の光吸収係数を示すμiを用いて、
【数2】
から任意の層の光吸収係数を算出する、ことを特徴とする。
【0023】
本発明の濃度定量装置では、光強度取得部が、時間の範囲内の所定の時刻から少なくとも所定の時刻τの間の光強度を取得し、光吸収係数算出部が、任意の層の光吸収係数を、上記の式(2)から算出する。
このように、後方散乱光を時間分解計測することで、任意の層以外の層からの後方散乱光をノイズとして低減することができ、目的成分の濃度における任意の層以外の層からの影響を低減することができる。したがって、目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0024】
本発明の濃度定量装置は、前記照射部は、複数の波長1〜qの光を照射し、前記光吸収係数算出部は、前記任意の層における光吸収係数を前記照射部が照射した複数の波長毎に算出し、前記濃度算出部は、前記任意の層である第a層における波長iの光吸収係数を示すμa(i)、前記観測対象を形成する第j成分のモル濃度を示すgj、第j成分の波長iに対する光吸収係数を示すεj(i)、前記観測対象を形成する主成分の個数を示すp、照射部が照射する波長の種類数を示すqを用いて、
【数3】
から前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する、ことを特徴とする。
【0025】
本発明の濃度定量装置では、照射部が、複数の波長1〜qの光を照射し、光吸収係数算出部が、任意の層における光吸収係数を照射部が照射した複数の波長毎に算出し、濃度算出部が、任意の層における目的成分の濃度を上記の式(3)から算出する。
このように、後方散乱光を時間分解計測することで、任意の層以外の層からの後方散乱光をノイズとして低減することができ、目的成分の濃度における任意の層以外の層からの影響を低減することができる。したがって、目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0026】
本発明の濃度定量装置は、前記照射部が照射する複数の光は、前記目的成分の光吸収係数が大きくなる波長の光を含むことを特徴とする。
【0027】
本発明の濃度定量装置は、前記照射部が照射する複数の光は、前記観測対象を構成する主成分の各々の成分の吸収スペクトル分布の直交性が高くなる波長の光を含むことを特徴とする。
【0028】
本発明の濃度定量方法は、複数の層により構成される観測対象に対して照射する短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部とを備え、前記観測対象のうち任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置を用いた濃度定量方法であって、照射部により、前記観測対象に短時間パルス光を照射し、受光部により、前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光し、光強度取得部により、前記受光部が受光した光の強度を取得し、光路長取得部により、前記光路長分布記憶部から、前記光路長分布のモデルの前記所定の時刻における、前記複数の層の各々の層の光路長分布を取得し、光強度モデル取得部により、前記時間分解波形記憶部から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光強度モデルを取得し、積分区間算出部により、前記光の強度分布と、前記光路長取得部が取得した前記複数の層の各々の層の光路長分布と、前記光強度モデル取得部が取得した光強度モデルとに基づいて、前記光の強度分布から前記任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出し、光吸収係数算出・取得部により、前記光強度取得部が取得した前記光の強度分布と、前記光強度モデル取得部が取得した前記時間分解波形の複数のモデルとの組み合わせに対し、前記積分区間算出部が算出した前記時間の範囲を変化させて前記任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得し、濃度算出部により、前記光吸収係数算出・取得部が取得した前記目的成分の光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する、ことを特徴とする。
【0029】
本発明の濃度定量方法では、照射部により、観測対象に短時間パルス光を照射し、受光部により、短時間パルス光の照射により観測対象から後方散乱される光を受光し、光強度取得部により、受光部が受光した光の強度から光の強度分布を取得し、光路長取得部により、光路長分布のモデルの所定の時刻における複数の層の各々の層の光路長分布を取得し、積分区間算出部により、光の強度分布と、光路長分布と、光強度モデルとに基づいて、光の強度分布から任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出し、光吸収係数算出・取得部により、光の強度分布と、光強度モデル取得部が取得した時間分解波形のモデルの複数の層の組み合わせに対し、前記時間の範囲を変化させて前記任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得し、濃度算出部により、光吸収係数算出・取得部が取得した目的成分の光吸収係数に基づいて、任意の層における目的成分の濃度を算出する。
【0030】
このように、光吸収係数算出・取得部が、光の強度分布と、光強度モデル取得部が取得した時間分解波形のモデルの複数の層の組み合わせに対し、積分区間算出部により算出された時間の範囲を変化させて、任意の層における目的成分の光吸収係数を算出することにより、観測対象の構造の光路長分布に近い組み合わせにおける任意の層の光吸収係数を選択することができる。したがって、任意の層における目的成分の光の吸収量、すなわち目的成分の濃度を精度良く測定することができ、その結果、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる。
【0031】
本発明のプログラムは、複数の層により構成される観測対象に対して照射する短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部とを備え、前記観測対象のうち任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置のコンピューターに、前記観測対象に前記短時間パルス光を照射する照射手順、前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光する受光手順、前記受光部が受光した光の強度を取得する光強度取得手順、前記光路長分布記憶部から、前記光路長分布のモデルの前記所定の時刻における前記複数の層の各々の層の光路長分布を取得する光路長取得手順、前記時間分解波形記憶部から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光強度モデルを取得する光強度モデル取得手順、前記光強度取得手順が取得した前記光の強度分布と、前記光路長取得手順が取得した前記複数の層の各々の層の光路長分布と、前記光強度モデル取得手順が取得した光強度モデルとに基づいて、前記光の強度分布から前記任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出する積分区間算出手順、前記光強度取得手順が取得した前記光の強度分布と、前記光強度モデル取得手順が取得した前記時間分解波形の複数のモデルとの組み合わせに対し、前記積分区間算出部が算出した前記時間の範囲を変化させて前記任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得する光吸収係数算出・取得手順、前記光吸収係数算出・取得部が取得した前記目的成分の光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手順、を実行させることを特徴とする。
【0032】
本発明のプログラムでは、濃度定量装置のコンピューターに、観測対象に短時間パルス光を照射する照射手順、短時間パルス光の照射により観測対象から後方散乱される光を受光する受光手順、受光部が受光した光の強度を取得する光強度取得手順、を実行させた後、光強度取得手順が取得した光の強度分布と、光路長取得手順が取得した光路長分布と、光強度モデル取得手順が取得した光強度モデルとに基づいて、光の強度分布から任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出する積分区間算出手順、光強度取得手順が取得した光の強度分布と、光強度モデル取得手順が取得した時間分解波形の複数のモデルとの組み合わせに対し、積分区間算出部が算出した時間の範囲を変化させて任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得する光吸収係数算出・取得手順、光吸収係数算出・取得部が取得した目的成分の光吸収係数に基づいて、任意の層における目的成分の濃度を算出する濃度算出手順、を順次実行させる。
【0033】
このように、光強度取得手順により取得された光の強度分布と、光路長取得手順により取得された光路長分布と、光強度モデル取得手順により取得された光強度モデルとに基づいて、光の強度分布から任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出する積分区間算出手順、光強度取得手順が取得した光の強度分布と、光強度モデル取得手順が取得した時間分解波形の複数のモデルとの組み合わせに対し、積分区間算出部が算出した時間の範囲を変化させて任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得する光吸収係数算出・取得手順、を順次実行することで、観測対象の構造の光路長分布に近い組み合わせにおける任意の層の光吸収係数を選択することができる。したがって、任意の層における目的成分の光の吸収量、すなわち目的成分の濃度を精度良く測定することができ、その結果、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図2】人の皮膚組織の断面を示す模式図である。
【図3】シミュレーション部が算出した各層の光路長分布を示す図である。
【図4】シミュレーション部が算出した時間分解波形を示す図である。
【図5】皮膚の主成分の吸収スペクトルを示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態の血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第2の実施形態の血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第3の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図9】本発明の第4の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図10】本発明の第4の実施形態のシミュレーション部で得た無吸収時光強度の時間分解波形を示す図である。
【図11】本発明の第4の実施形態のシミュレーションで得た吸収時光強度の時間分解波形をリニアスケールで示す図である。
【図12】本発明の第4の実施形態のシミュレーションで得た吸収時光強度の時間分解波形をログスケールで示す図である。
【図13】本発明の第4の実施形態の血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第4の実施形態の血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
【図15】真皮層における光吸収係数と積分区間との関係を示す図である。
【図16】本発明の第5の実施形態の血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
【図17】本発明の第5の実施形態の血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
【図18】本発明の第6の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の濃度定量装置及び濃度定量方法並びにプログラムを実施するための形態について説明する。
本発明では、濃度定量装置として血糖値測定装置を、観測対象として人の手のひらの皮膚を、目的成分としてグルコースを、それぞれ例に取り説明する。
【0036】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
この血糖値測定装置100は、シミュレーション部101、光路長分布記憶部102、時間分解波形記憶部103、照射部104、受光部105、計測光強度取得部106、光路長取得部107、無吸収時光強度取得部(光強度モデル取得部)108、光吸収係数算出部109、濃度算出部110を備えている。
この血糖値測定装置100は、皮膚(観測対象)の真皮層(任意の層)に含まれるグルコース(目的成分)の濃度を測定する。
【0037】
シミュレーション部101は、光吸収係数がゼロの皮膚モデルに対して光を照射するシミュレーションを行う。
光路長分布記憶部102は、光吸収係数がゼロの皮膚モデルの光路長分布を記憶する。
時間分解波形記憶部103は、光吸収係数がゼロの皮膚モデルの時間分解波形を記憶する。
照射部104は、皮膚に対して短時間パルス光を照射する。この照射部104が照射する複数の短時間パルス光は、皮膚を構成する主成分の各々の成分の吸収スペクトル分布の直交性が高くなる波長の光、すなわち、皮膚を構成する主成分の各々の成分のうち、ある主成分における特定成分の吸収スペクトルの極大値が他の成分の吸収スペクトルの極大値と大きく異なる波長の光を含んでいる。
【0038】
受光部105は、短時間パルス光が皮膚によって後方散乱した光を受光する。
ここで、短時間パルス光とは、パルス幅の時間が照射部104から受光部105へ光が空気中を直接伝搬する時間よりも短いパルス光のことであり、例えば、パルス光の半値幅が0.1ps〜10ps、2つのパルス光の間の時間間隔が1ps〜100psのパルス光のことである。
また、光路長分布とは、光(光子)の移動経路の長さ(光路長)を当該光(光子)が受光部105に到達するまでの時間を基に分布関数として表したものである。
【0039】
計測光強度取得部106は、受光部105が受光した光のある時刻における光強度を取得する。
光路長取得部107は、光路長分布記憶部102からある時刻における光路長を取得する。
無吸収時光強度取得部108は、時間分解波形記憶部103からある時刻における光の吸収係数をゼロ(零)としたときの光強度モデルを取得する。
光吸収係数算出部109は、短時間パルス光を照射した皮膚の真皮層における光吸収係数を算出する。
濃度算出部110は、真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出する。
【0040】
そして、血糖値測定装置100において、照射部104は、皮膚に短時間パルス光を照射し、受光部105は、短時間パルス光が皮膚によって後方散乱した光を受光する。
ここで、観測対象である人の皮膚組織の構造について説明する。
図2は、人の皮膚組織の断面を示す模式図であり、皮膚31は、表皮層32と、真皮層(任意の層)33と、皮下組織34の3層により構成されている。
表皮層32は、最も外側にある厚み0.2mm〜0.3mmの薄い層で、概ね水を60%程度、蛋白質、脂質及びグルコースを含有する層であり、角質層、顆粒層、有棘層、底層等を含む。
真皮層33は、表皮層32下に形成される厚み0.5mm〜2mmの層で、概ね水を60%程度、蛋白質、脂質及びグルコースを含有する層であり、この真皮層33内には神経、毛根、皮脂腺、汗腺、毛包、血管、リンパ管等が存在する。
皮下組織34は、真皮層33下に形成される厚み1〜3mmの層で、大部分が概ね脂質を90%以上含み、残部が水からなる皮下脂肪でできている。
【0041】
真皮層33内には毛細血管等が発達しており、血中グルコースに応じた物質移動が速やかに起こり、血中グルコース濃度(血糖値)に対して真皮層33中のグルコース濃度も追随して変化すると考えられている。そこで、この血糖値測定装置100では、照射部104及び受光部105を所定の入出射間距離Wをおいて皮膚31の表面に密着させ、この密着状態で照射部104から皮膚31の表面に光を照射し、この光が皮膚31内の組織により反射され、この反射光が照射部104及び受光部105に向かって散乱する光(後方散乱した光)を受光部105で検出する。
【0042】
次に、計測光強度取得部106は、時刻tにおいて受光部105が受光した光の強度を取得する。次に、光路長取得部107は、光路長分布記憶部102から、皮膚モデルにおける伝搬光路長分布の時刻tにおける皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部108は、時間分解波形記憶部103から、皮膚モデルにおける短時間パルス光の時間分解波形の時刻tにおける光の強度を取得する。
【0043】
次に、光吸収係数算出部109は、計測光強度取得部106が取得した光強度と光路長取得部107が取得した皮膚の各層の光路長と無吸収時光強度取得部108が取得した光強度とに基づいて、皮膚の真皮層の光吸収係数を算出し、濃度算出部110は、光吸収係数算出部109が算出した光吸収係数に基づいて、真皮層におけるグルコースの濃度を算出する。
【0044】
この血糖値測定装置100では、皮膚31の特定深さの層である真皮層33の光吸収係数を用いてグルコース濃度を算出するので、真皮層33以外の層によるノイズの影響を軽減することができ、特定深さの層である真皮層33に含まれるグルコースの濃度を算出することができる。したがって、特定深さの層に含まれるグルコースの光の吸収量、すなわちグルコースの濃度を、非侵襲的に精度良く測定することができる。
【0045】
次に、血糖値測定装置100の動作を説明する。
血糖値測定装置100は、血糖値を測定する前に、予め皮膚モデルの各層における光路長分布と時間分解波形とを算出しておく必要がある。
まず、皮膚モデルの光路長分布及び時間分解波形の算出方法を説明する。
初めに、シミュレーション部101は、皮膚モデルを生成する。皮膚モデルの生成は、皮膚の各層の光散乱係数、光吸収係数及び厚みを決定することで行う。ここで、皮膚の部分を特定すれば、この特定された皮膚の部分における各層の散乱係数及び厚みは、個体による差が少ないので、予めサンプルを取ることなどによって決定するとよい。なお、表皮層32の厚みは略0.3mm、真皮層33の厚みは略1.2mm、皮下組織34の厚みは略3.0mmである。
また、ここで用いる皮膚モデルの光吸収係数はゼロとする。その理由は、この皮膚モデルを用いて光吸収量を算出するからである。
【0046】
シミュレーション部101は、皮膚モデルを生成すると、この皮膚モデルに光を照射するシミュレーションを行う。このとき、照射部104の位置と受光部105の位置との間の距離Wを決定しておく必要がある。シミュレーションは、例えば、モンテカルロ法を用いて行う。
このモンテカルロ法によるシミュレーションは、例えば以下のように行われる。
【0047】
まず、シミュレーション部101は、照射する光のモデルを光子(光束)とし、この光子を皮膚モデルに照射する計算を行う。皮膚モデルに照射された光子は、皮膚モデル内を移動する。このとき、光子は、次に進む点までの距離L及び方向θを乱数Rによって決定する。シミュレーション部101は、光子が次に進む点までの距離Lの計算を、式(4)により行う。
【0048】
【数4】
【0049】
但し、ln(A)はAの自然対数を示し、μsは、皮膚モデルの第s層(表皮層、真皮層、皮下組織層の何れか)の散乱係数を示す。
また、シミュレーション部101は、光子が次に進む点までの方向θの計算を、式(5)により行う。
【0050】
【数5】
【0051】
但し、gは、散乱角度の余弦(cos)の平均である非等方性パラメーターを示し、皮膚の非等方性パラメーターは、略0.9である。
シミュレーション部101は、上記式(4)、式(5)の計算を単位時間毎に繰り返すことにより、照射部104から受光部105までの光子の移動経路を算出することができる。シミュレーション部101は、複数の光子について移動距離の算出を行う。例えば、シミュレーション部101は、108個の光子について移動距離を算出する。
【0052】
図3は、シミュレーション部101が算出した各層の光路長分布を示す図である。
図3では、横軸を光子の照射からの経過時間とし、縦軸を光路長の対数表示としている。
シミュレーション部101は、受光部105に到達した光子の各々の移動経路を、移動経路が通過する層毎に分類する。そして、シミュレーション部101は、単位時間毎に到達した光子の移動経路の平均長を分類された層毎に算出することで、図3に示すような皮膚の各層の光路長分布を算出する。
【0053】
また、シミュレーション部101は、単位時間毎に受光部104に到達した光子の個数を算出することで、図4に示すような皮膚モデルの時間分解波形を算出する。
図4は、シミュレーション部101が算出した時間分解波形を示す図である。図4では、横軸を光子の照射からの経過時間とし、縦軸を受光部8が検出した光子数としている。
上述したような処理により、シミュレーション部101は、複数の波長に対して、皮膚モデルの光路長分布及び時間分解波形を算出する。このとき、シミュレーション部101は、皮膚の主成分(水、たんぱく質、脂質、グルコース等)の吸収スペクトルの直交性高くなる波長の光、すなわち皮膚の主成分(水、たんぱく質、脂質、グルコース等)の各々の成分のうち、ある主成分における特定成分の吸収スペクトルの極大値が他の成分の吸収スペクトルの極大値と大きく異なる波長の光について、光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0054】
図5は、皮膚の主成分の吸収スペクトルを示すグラフである。この図5では、横軸を照射する光の波長とし、縦軸を吸収係数としている。
図5によれば、グルコースの吸収係数は、波長が1600nmのときに極大となり、水の吸収係数は波長が1450nmのときに極大となることがわかる。
そのため、シミュレーション部101は、例えば1450nm、1600nmというように、皮膚を構成する主成分の各々の成分の吸収スペクトル分布が高くなる波長の光、すなわち、皮膚を構成する主成分の各々の成分のうち、ある主成分における特定成分の吸収スペクトルの極大値が他の成分の吸収スペクトルの極大値と大きく異なる波長の光について、光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0055】
シミュレーション部101が複数の波長に対する皮膚モデルの光路長分布及び時間分解波形を算出すると、光路長分布記憶部102は、算出された光路長分布の情報を記憶し、時間分解波形記憶部103は、算出された時間分解波形の情報を記憶する。なお、シミュレーション部101は血糖測定装置100に含まれない構成としても良い。この場合、外部の装置にてシミュレーションを行った結果を光路長分布記憶部102と時間分解波形記憶部103に記憶することで血糖測定装置100が血糖値測定を行う。
【0056】
次に、この血糖値測定装置100が血糖値を測定する動作について、図6に基づき説明する。
まず、ユーザー(被測定者)が血糖値測定装置100を手首等の皮膚に当て、測定開始スイッチ(図示せず)の押下等により血糖値測定装置100を動作させると、照射部104は、皮膚31に対して波長λ1の短時間パルス光を照射する(ステップS1)。
【0057】
ここで、波長λ1は、シミュレーション部101が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中の1つである。
例えば、皮膚を構成する主成分のうち、ある主成分における特定成分の光吸収係数が他の成分の光吸収係数より大きくなる波長の光、すなわち、特定成分の光吸収係数の極小値が他の成分の光吸収係数の極小値と大きく異なる波長の光について光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0058】
照射部104が短時間パルス光を照射すると、受光部105は、照射部104から照射され皮膚31によって後方散乱された光を受光する(ステップS2)。
このとき、受光部105は、照射開始からの単位時間毎(例えば、1ピコ秒毎)の受光強度を内部メモリー(図示せず)に記録しておく。
【0059】
次いで、受光部105が受光を完了すると、計測光強度取得部106は、内部メモリーに格納されている、異なる時刻tにおける受光強度I(t)を皮膚の層の数と同じ数だけ取得する(ステップS3)。
図6のフローチャートでは、皮膚の3つの層について4種類の波長を用いて濃度測定を行う場合について説明する。
すなわち、計測光強度取得部106は、皮膚の3つの層について4種類の波長を用いて濃度測定を行う場合には、3つの異なる時刻t1〜t3における受光強度I(t1)〜I(t3)を取得する。ここで、皮膚の層の数と同じ数だけ受光強度を取得する理由は、後述する処理において、皮膚の各層の吸収係数を連立方程式によって算出するためである。
【0060】
また、計測光強度取得部が光強度を取得する時刻t1〜t3は、皮膚の各層の伝搬光路長分布のピークとなる時刻であると良い。すなわち、照射部104が短時間パルス光を照射した時刻に、図3に示すグラフにおいて皮膚の各層の光路長が極大となる時間を加算した時刻の光強度をそれぞれ取得すると良い。
【0061】
計測光強度取得部106が受光強度I(t1)〜I(t3)を取得すると、光路長取得部107は、光路長分布記憶部102が記憶する波長λ1の光路長分布から、時刻t1〜t3における皮膚の各層の光路長L1(t1)〜L1(t3)、L2(t1)〜L2(t3)、L3(t1)〜L3(t3)を取得する(ステップS4)。
また、計測光強度取得部106が受光強度I(t1)〜I(t3)を取得すると、無吸収時光強度取得部108は、時間分解波形記憶部103が記憶する波長λ1の時間分解波形から、時刻t1〜t3における検出光子数N(t1)〜N(t3)を取得する(ステップS5)。
【0062】
光路長取得部107が皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部108が検出光子数を取得すると、光吸収係数算出部109は、式(6)に基づいて、皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出する(ステップS6)。ここで、光吸収係数μ1は、表皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μ2は、真皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μ3は、皮下組織の光吸収係数を示す。
【0063】
【数6】
【0064】
但し、ln(A)はAの自然対数を示し、N(t)は特定波長λkの短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度を示す。また、Iinは、照射部7が照射した短時間パルス光の光強度を示す。また、Ninは、シミュレーション部101が照射のシミュレーションを行った光子の個数を示す。
【0065】
光吸収係数算出部109が皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出すると、光吸収係数算出部109は、皮膚の主成分の種類数と同じ数の波長に対して光吸収係数μ1〜μ3を算出したか否かを判定する(ステップS7)。
本実施形態では、皮膚の主成分を水、たんぱく質、脂質、グルコースの4種類として血糖値の測定を行うため、光吸収係数算出部109は、4種類の波長λ1〜λ4に対して光吸収係数μ1〜μ3を算出したか否かを判定する。ここで、波長λ1〜λ4は、シミュレーション部101が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中から選択する。
【0066】
光吸収係数算出部109が、光吸収係数μ1〜μ3を算出していない波長λ1〜λ4があると判定した場合(ステップS7:NO)、ステップS1に戻り、まだ光吸収係数μ1〜μ3を算出していない波長λ1〜λ4の光吸収係数μ1〜μ3の算出を行う。
他方、光吸収係数算出部109が、波長λ1〜λ4の光吸収係数μ1〜μ3を算出していると判定した場合(ステップS7:YES)、濃度算出部110は、式(7)に基づいて真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出する(ステップS8)。
【0067】
【数7】
【0068】
但し、μ2(1)〜μ2(4)は、真皮層における波長λ1〜λ4の光吸収係数を示す。また、g1〜g4は、真皮層におけるそれぞれ皮膚の主成分である水、たんぱく質、脂質、グルコースのモル濃度を示す。また、ε1(1)〜ε1(4)は、波長λ1〜λ4に対する水のモル吸光係数を示し、ε2(1)〜ε2(4)は、波長λ1〜λ4に対するたんぱく質のモル吸光係数を示し、ε3(1)〜ε3(4)は、波長λ1〜λ4に対する脂質のモル吸光係数を示し、ε4(1)〜ε4(4)は、波長λ1〜λ4に対するグルコースのモル吸光係数を示す。
つまり、式(7)のg4を算出することで、真皮層に含まれるグルコースのモル濃度を求めることができる。
【0069】
ここで、式(7)によりグルコースのモル濃度を求めることができる理由を説明する。皮膚の散乱係数の波長依存性は小さいので、検出光子数N(t)及び光路長Ln(t)の波長に対する変化は無視することができる。また、ベア・ランベルト(Beer-Lambert)の法則により、吸光度=モル吸光係数×モル濃度で表すことができる。これにより、2波長で得られた時間分解計測より、検出光子数N(t)を消去することで、真皮層において得られる吸収係数差と皮膚を形成する各成分のモル吸光係数との関係式を示す式(7)を導くことができる。
【0070】
本実施形態によれば、短時間パルス光を照射し、所定の時刻において受光した光の強度に基づいてグルコースの濃度を定量する。これにより、所定の時刻において受光した光の中から、真皮層の吸収係数を選択的に算出することができる。これにより、特定の皮膚の層のグルコースの濃度を算出することができ、他の層によるノイズの影響を軽減し、精度の高い血糖値を算出することが可能になる。
【0071】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態について詳しく説明する。
第2の実施形態における血糖値測定装置の構成は、第1の実施形態の血糖値測定装置100の構成と同一であり、計測光強度取得部106、光路長取得部107、無吸収時光強度取得部108、光吸収係数算出部109の動作が異なる。
【0072】
図7は、血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
まず、血糖値測定装置100を動作させると、照射部104は、皮膚に対して波長λ1の短時間パルス光を照射する(ステップS11)。ここで、波長λ1は、シミュレーション部101が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中の1つである。
【0073】
照射部104が短時間パルス光を照射すると、受光部105は、照射部104から照射され、皮膚によって後方散乱した光を受光する(ステップS12)。このとき、受光部105は、照射開始からの単位時間毎(例えば、1ピコ秒毎)の受光強度を内部メモリーに登録しておく。
受光部105が受光を完了すると、計測光強度取得部106は、内部メモリーに格納されている受光強度から、ある時刻から時間τの間の受光強度の時間分布を取得する(ステップS13)。
【0074】
計測光強度取得部106が、時間τの間の受光強度の時間分布を取得すると、光路長取得部107は、光路長分布記憶部102が記憶する波長λ1の光路長分布から、ある時刻から時間τの間の皮膚の各層の光路長を取得する。
図7のフローチャートでは、皮膚の3つの層について4種類の波長を用いて濃度測定を行う場合について説明する。
すなわち、計測光強度取得部106は、皮膚の3つの層について4種類の波長を用いて濃度測定を行う場合には、ある時刻から時間τの間の皮膚の各層の光路長L1〜L3を取得する(ステップS14)。
【0075】
また、計測光強度取得部106が、時間τの間の受光強度の時間分布を取得すると、無吸収時光強度取得部108は、時間分解波形記憶部103が記憶する波長λ1の時間分解波形から、ある時刻から時間τの間の検出光子数を取得する(ステップS15)。
【0076】
光路長取得部107が皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部108が検出光子数を取得すると、光吸収係数算出部109は、式(8)に基づいて、皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出する(ステップS16)。ここで、光吸収係数μ1は、表皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μ2は、真皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μ3は、皮下組織の光吸収係数を示す。
【0077】
【数8】
【0078】
但し、ln(A)は、Aの自然対数を示す。また、I(t)は、時刻tにおける受光部105の受光強度を示し、Iinは、照射部104が照射した短時間パルス光の光強度を示す。また、N(t)は、時間分解波形の時刻tにおける検出光子数を示し、Ninは、シミュレーション部101が照射のシミュレーションを行った光子の個数を示す。また、L1(t)〜L3(t)は、時刻tにおける皮膚の各層の光路長を示す。
【0079】
光吸収係数算出部109が皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出すると、光吸収係数算出部109は、皮膚の主成分の種類数と同じ数の波長に対して光吸収係数μ1〜μ3を算出したか否かを判定する(ステップS17)。本実施形態では、皮膚の主成分を水、たんぱく質、脂質、グルコースの4種類として血糖値の測定を行うので、光吸収係数算出部109は、4種類の波長λ1〜λ4に対して光吸収係数μ1〜μ3を算出したか否かを判定する。ここで、波長λ1〜λ4は、シミュレーション部101が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中から選択する。
【0080】
ここで、光吸収係数算出部109が光吸収係数μ1〜μ3を算出していない波長λ1〜λ4があると判定した場合(ステップS17:NO)、ステップS1に戻り、まだ光吸収係数μ1〜μ3を算出していない波長λ1〜λ4の光吸収係数μ1〜μ3の算出を行う。
他方、光吸収係数算出部109が波長λ1〜λ4の光吸収係数μ1〜μ3を算出していると判定した場合(ステップS17:YES)、濃度算出部110は、上述した式(7)に基づいて真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出する(ステップS18)。
【0081】
本実施形態によれば、吸収係数μ1〜μ3を、時間τの間の光路長の積分値によって算出する。これにより、計測した受光強度I(t)に含まれている誤差による吸収係数μ1〜μ3の算出結果に対する影響を少なくすることができる。
【0082】
第1の実施形態及び第2の実施形態について、図面を参照して説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
例えば、第1の実施形態及び第2の実施形態では、濃度定量方法を血糖値測定装置100に実装し、皮膚の真皮層に含まれるグルコースの濃度を測定する場合を説明したが、これに限られず、濃度定量方法を、複数の層から形成される観測対象の任意の層における目的成分の濃度を定量する他の装置に用いても良い。
【0083】
また、第1の実施形態及び第2の実施形態では、血糖値測定装置100がシミュレーション部101と、光路長分布記憶部102と、時間分解波形記憶部103とを備えた構成としたが、シミュレーション部101におけるシミュレーションの結果を、光路長分布記憶部102及び時間分解波形記憶部103に記憶させた構成とすれば、シミュレーション部101を別途設ける必要がなくなる。
【0084】
上述の血糖値測定装置100は、内部にコンピューターシステムを備えた構成としてもよい。そして、上述した各処理部の動作または各処理部の一部の動作は、プログラムの形式でコンピューター読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピューターが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここで、コンピューターが読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリー等をいう。また、このコンピュータープログラムを通信回線によってコンピューターに配信し、この配信を受けたコンピューターが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0085】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。
さらに、前述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0086】
[第3の実施形態]
図8は、本発明の第3の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
本実施形態の血糖値測定装置200が、第1の実施形態の血糖値測定装置100と異なる点は、本実施形態の血糖値測定装置200が、照射部104と、受光部105と、コンピューターシステム201とを備え、コンピューターシステム201は、記憶部202と、制御部(CPU)203とを備え、記憶部202は、シミュレーション部101におけるシミュレーションの結果を記憶している光路長分布記憶部102及び時間分解波形記憶部103の機能を実行し、制御部(CPU)203は、計測光強度取得部106、光路長取得部107、無吸収時光強度取得部108、光吸収係数算出部109及び濃度算出部110の機能を実行する点である。
【0087】
本実施形態の血糖値測定装置200においても、第1の実施形態の血糖値測定装置100と同様の作用・効果を奏することができる。
【0088】
[第4の実施形態]
図9は、本発明の第4の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
この血糖値測定装置300は、手のひら等の皮膚(観測対象)を構成する複数層のうちの真皮層(任意の層)に含まれるグルコース(目的成分)の濃度を非侵襲にて定量する装置であり、シミュレーション部301と、光路長分布記憶部302と、時間分解波形記憶部303と、照射部304と、受光部305と、計測光強度取得部306と、光路長取得部307と、無吸収時光強度取得部(光強度モデル取得部)308と、積分区間算出部309と、光吸収係数算出部310と、光吸収係数分布記憶部311と、光吸収係数取得部312と、濃度算出部313とを備えている。
【0089】
シミュレーション部301は、光吸収係数がゼロの皮膚モデルに対して光を照射するシミュレーションを行う。
光路長分布記憶部302は、皮膚に対して照射する短時間パルス光の、この皮膚を構成する各々の層における光路長分布のモデルを記憶する。ここでは、光吸収係数がゼロの皮膚モデルの光路長分布を記憶する。
ここで、短時間パルス光とは、パルス幅の時間が照射部304から受光部305へ光が空気中を直接伝搬する時間よりも短いパルス光のことであり、例えば、パルス光の半値幅が0.1ps〜10ps、2つのパルス光の間の時間間隔が1ps〜100psのパルス光のことである。
また、光路長分布とは、光(光子)の移動経路の長さ(光路長)を当該光(光子)が受光部305に到達するまでの時間を基に分布関数として表したものである。
【0090】
時間分解波形記憶部303は、皮膚に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する。ここでは、光吸収係数がゼロの皮膚モデルの時間分解波形を記憶する。ここで、短時間パルス光の時間分解波形とは、受光部305にて受光した光(光子)の強度を、この短時間パルス光の照射時からの経過時間を基に分布関数として表したものである。
なお、シミュレーション部301におけるシミュレーションの結果を、光路長分布記憶部302及び時間分解波形記憶部303に記憶させた構成とすれば、シミュレーション部301を別途設ける必要がなくなる。
【0091】
照射部304は、皮膚に対して短時間パルス光を照射する。この光は皮膚内の組織によって散乱され、皮膚内に拡散する。拡散した光の一部は、受光部305に到達する(後方散乱光)。この受光部305に到達した後方散乱光が皮膚内を伝搬してきた経路は、図2に示すようにバナナシェイプの経路となる。この照射部304が照射する複数の短時間パルス光は、皮膚を構成する主成分の各々の成分の吸収スペクトル分布の直交性が高くなる波長の光、すなわち、皮膚を構成する主成分の各々の成分のうち、ある主成分における特定成分の吸収スペクトルの極大値が他の成分の吸収スペクトルの極大値と大きく異なる波長の光を含んでいる。
受光部305は、短時間パルス光が皮膚によって後方散乱した光を受光する。この受光部305は、受光強度を記録する内部メモリー(図示せず)を備えている。なお、この内部メモリーは、受光部305に電気的に接続する外部メモリーに代えた構成としてもよい。
【0092】
計測光強度取得部306は、受光部305が受光した光のある時刻における光強度を取得する。
光路長取得部307は、光路長分布記憶部302から、光路長分布のモデルの所定の時刻における、皮膚の各々の層の光路長を取得する。ここでは、光路長分布記憶部302からある時刻における光路長を取得する。ここでいう光路長とは、照射部304から照射された短時間パルス光が皮膚内に侵入し、この皮膚内にて散乱されて受光部305により検出されるまでの光の路の長さのことであり、後述するように、照射部304と受光部305との距離を設定することにより、皮膚の各々の層の光路長が推定される。
【0093】
無吸収時光強度取得部308は、時間分解波形記憶部303から、短時間パルス光の時間分解波形のモデルの所定の時刻における光の吸収係数をゼロ(零)とした時(無吸収時)の光強度モデルを取得する。ここでは、時間分解波形記憶部303からある時刻における無吸収時光強度を取得する。
積分区間算出部309は、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、光路長取得部307が取得した光路長分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した無吸収時光強度とに基づいて、前記光の強度分布から皮膚の各々の層の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を算出する。
【0094】
ここで、積分区間とは、光強度分布における任意の層の光強度に対応する領域の時間幅のことであり、開始時刻と、終了時刻と、増分時間とにより決定することができる。
例えば、(1)後方散乱した光を受光する受光部305の出力する光強度が計測光強度取得部306の最小検出感度を超えて検出された時刻から最小検出感度と等しい光強度で検出された時刻までの時間、(2)シミュレーション部301で得られる無吸収時光強度を記憶している時間分解波形記憶部303から取得した無吸収時光強度の時間特性、(3)皮膚表面に接する受光部305と照射部304との間隔、(4)シミュレーション部301に与える皮膚モデルのサイズ及び光学特性(散乱係数、吸収係数、非等方性パラメーター、または屈折率)を用いて、積分区間の開始時刻、終了時刻、増分時間を決定する。
【0095】
光吸収係数算出部310は、真皮層(任意の層)の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を変化させて、真皮層(任意の層)におけるグルコース(目的成分)の光吸収係数を算出する。
ここでは、積分区間算出部309によって定めた積分区間での皮膚31の各層の光吸収係数及び推定誤差率を求め、積分区間に対する皮膚31の各層の光吸収係数及び推定誤差率の分布を算出する。
この光吸収係数算出部310では、皮膚31における各層の光吸収係数を、下記の式(9)から算出する。
【0096】
【数9】
【0097】
但し、I(t)は受光部305が時刻tにて受光した光強度、N(t)は特定波長λkの短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度、Li(t)は皮膚の各々の層における光路長分布のモデルの時刻tにおける第i層の光路長、μiは第i層の光吸収係数である。
ここで、第1層は表皮層、第2層は真皮層、第3層は皮下組織を示し、μ1は表皮層の光吸収係数、μ2は真皮層の光吸収係数、μ3は皮下組織の光吸収係数を示す。
【0098】
光吸収係数分布記憶部311は、光吸収係数算出部310において、異なる複数の皮膚モデルの無吸収時光強度N(t)及び皮膚の各層の光路長分布(TPD)を用いた場合の組み合わせに対し、積分区間算出部309が定めた積分区間での光吸収係数及び推定誤差率を求め、積分区間に対する分布を記憶する。
光吸収係数取得部312は、光吸収係数分布記憶部311から取得した異なる複数の皮膚モデルの無吸収時光強度N(t)及び皮膚の各層の光路長分布(TPD)を用いた場合の組み合わせに対する光吸収係数及び推定誤差率の分布より、積分区間の変化に対する光吸収係数の変動率の範囲等の基準を用いて、特定深さでの皮膚主成分における血糖相応のグルコース濃度に基づく光吸収係数を取得する。
【0099】
濃度算出部313は、光吸収係数取得部312が取得した皮膚の表面からの特定深さにおける層の皮膚主成分における血糖相応のグルコース濃度に基づく光吸収係数から、特定深さの層に含まれるグルコースの濃度を算出する。
この濃度算出部313では、皮膚の任意の層におけるグルコースの濃度を、下記の式(10)から算出する。
【0100】
【数10】
【0101】
但し、μaは皮膚の任意の層である第a層における光吸収係数、gjは皮膚を構成する第j成分のモル濃度、εjは第j成分の光吸収係数、pは皮膚を構成する主成分の個数、qは特定波長λkの種類数である。
ここで、第1層は表皮層、第2層は真皮層、第3層は皮下組織を示し、μ1は表皮層の光吸収係数、μ2は真皮層の光吸収係数、μ3は皮下組織の光吸収係数を示す。
【0102】
そして、この血糖値測定装置300では、照射部304は、皮膚に短時間パルス光を照射し、受光部305は、短時間パルス光が皮膚により後方散乱した光を受光する。照射部304により照射された短時間パルス光は、皮膚内に一様に拡散して行き、その一部が後方散乱されて受光部305に到達する。受光部305に到達した光の伝搬経路は、図2中の光Rにて示すようなバナナ形の3次元形状となる。
この場合、照射部304と受光部305との入出射間距離Wと皮膚31内に侵入する光Rの侵入深さ(バナナ形の中心軸の最低部と体表面(皮膚表面)との距離)との間には、一定の関係がある。そこで、照射部304と受光部305との入出射間距離Wを規定することにより、皮膚31内に侵入する光Rの侵入深さも一義的に決定されることとなる。例えば、入出射間距離Wを10mmとすると、光Rの侵入深さは10mmとなり、入出射間距離Wを0.8mmとすると、光Rの侵入深さは0.8mmとなる。
【0103】
受光部305が後方散乱した光を受光すると、計測光強度取得部306は、時刻tにおいて受光部305が受光した光強度を取得する。
次いで、光路長取得部307は、光路長分布記憶部302から、皮膚モデルにおける光路長分布の時刻tにおける皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部308は、時間分解波形記憶部303から、皮膚モデルにおける短時間パルス光の時間分解波形の時刻tにおける光の強度を取得する。
【0104】
次いで、積分区間算出部309は、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、光路長取得部307が取得した光路長分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した無吸収時光強度とに基づいて、前記光の強度分布から皮膚の各々の層の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を算出する。
【0105】
例えば、(1)後方散乱した光を受光する受光部305の出力する光強度が計測光強度取得部306の最小検出感度を超えて検出された時刻から最小検出感度と等しい光強度で検出された時刻までの時間、(2)シミュレーション部301で得られる無吸収時光強度を記憶している時間分解波形記憶部303から取得した無吸収時光強度の時間特性、(3)皮膚表面に接する受光部305と照射部304との間隔、(4)シミュレーション部301に与える皮膚モデルのサイズ及び光学特性(散乱係数、吸収係数、非等方性パラメーター、または屈折率)を用いて、積分区間の開始時刻、終了時刻、増分時間を決定する。
【0106】
次いで、光吸収係数算出部310は、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した時間分解波形のモデルの皮膚の複数の層の組み合わせに対し、真皮層(任意の層)の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を変化させて、真皮層(任意の層)におけるグルコース(目的成分)の光吸収係数を算出する。
次いで、光吸収係数分布記憶部311は、光吸収係数算出部310において、異なる複数の皮膚モデルの無吸収時光強度N(t)及び皮膚の各層の光路長分布(TPD)を用いた場合の組み合わせに対し、積分区間算出部309が定めた積分区間での光吸収係数及び推定誤差率を求め、積分区間に対する分布を記憶する。
次いで、光吸収係数取得部312は、光吸収係数分布記憶部311から取得した積分区間に対する任意の層の光吸収係数及び推定誤差率の分布と、積分区間の変化に対する光吸収係数変動率の範囲等の基準とを用いて、皮膚の表面からの特定深さにおける層の皮膚主成分における血糖相応のグルコース濃度に基づく光吸収係数を取得する。
【0107】
次いで、濃度算出部313は、光吸収係数取得部312が取得した皮膚の表面からの特定深さにおける層の皮膚主成分における血糖相応のグルコース濃度に基づく光吸収係数に基づいて、皮膚の表面からの特定深さにおける層に含まれるグルコースの濃度を、上記の式(10)に基づき算出する。
【0108】
以上により、この血糖値測定装置300では、積分区間算出部309が、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、光路長取得部307が取得した光路長分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した無吸収時光強度とに基づいて、前記光の強度分布から皮膚の各々の層の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を算出し、光吸収係数算出部310が、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した時間分解波形のモデルの皮膚の複数の層の組み合わせに対し、真皮層(任意の層)の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を変化させて、真皮層(任意の層)におけるグルコース(目的成分)の光吸収係数を算出するので、皮膚の構造の光路長分布に近い組み合わせにおける真皮層(任意の層)の光吸収係数を選択することができる。したがって、真皮層におけるグルコースの光の吸収量、すなわちグルコースの濃度を精度良く測定することができ、その結果、真皮層におけるグルコースの濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる。
【0109】
次に、血糖値測定装置300の動作を説明する。
血糖値測定装置300は、血糖値を測定する前に、予め皮膚モデルの各層における光路長分布と時間分解波形とを算出しておく必要がある。
ここで、皮膚モデルの光路長分布及び時間分解波形の算出方法を説明する。
初めに、シミュレーション部301は、皮膚モデルを生成する。皮膚モデルの生成は、皮膚の各層の光散乱係数、光吸収係数及び厚みを決定することで行う。ここで、皮膚の部分を特定すれば、この特定された皮膚の部分における各層の散乱係数及び厚みは、個体による差が少ないので、予めサンプルを取ることなどによって決定するとよい。なお、表皮層32の厚みは略0.3mm、真皮層33の厚みは略1.2mm、皮下組織34の厚みは略3.0mmである。
また、ここで用いる皮膚モデルの光吸収係数はゼロとする。その理由は、この皮膚モデルを用いて光吸収量を算出するからである。
【0110】
シミュレーション部301は、皮膚モデルを生成すると、この皮膚モデルに光を照射するシミュレーションを行う。このとき、照射部304の位置と受光部305の位置との間の距離を決定しておく必要がある。シミュレーションは、例えば、モンテカルロ法を用いて行う。
このモンテカルロ法によるシミュレーションは、例えば以下のように行われる。
【0111】
まず、シミュレーション部301は、照射する光のモデルを光子(光束)とし、この光子を皮膚モデルに照射する計算を行う。皮膚モデルに照射された光子は、皮膚モデル内を移動する。このとき、光子は、次に進む点までの距離L及び方向θを乱数Rによって決定する。シミュレーション部301は、光子が次に進む点までの距離Lの計算を、式(11)により行う。
【0112】
【数11】
【0113】
但し、ln(A)はAの自然対数を示し、μsは、皮膚モデルの第s層(表皮層、真皮層、皮下組織層の何れか)の散乱係数を示す。
また、シミュレーション部301は、光子が次に進む点までの方向θの計算を、式(12)により行う。
【0114】
【数12】
【0115】
但し、gは、散乱角度の余弦(cos)の平均である非等方性パラメーターを示し、皮膚の非等方性パラメーターは、略0.9である。
シミュレーション部301は、上記式(11)及び式(12)の計算を単位時間毎に繰り返すことにより、照射部304から受光部305までの光子の移動経路を算出することができる。シミュレーション部301は、複数の光子について移動距離の算出を行う。例えば、シミュレーション部301は、108個の光子について移動距離を算出する。
【0116】
シミュレーション部301は、受光部305に到達した光子の各々の移動経路を、移動経路が通過する層毎に分類する。そして、シミュレーション部301は、単位時間毎に到達した光子の移動経路の平均長を分類された層毎に算出することで、皮膚の各層の散乱係数を変化させ、この変化した皮膚の各層の散乱係数それぞれに対応して光路長分布(TPD)を作成する。このようにして作成された光路長分布(TPD)は、光路長分布記憶部302に格納される。
また、シミュレーション部301は、単位時間毎に受光部305に到達した光子の個数を算出することで、皮膚モデルの時間分解波形を算出する。
【0117】
図10は、シミュレーション部301で得た無吸収時光強度(受光光子数と等しい)N(t)の時間分解波形を示す図である。図10では、表皮層、真皮層、皮下組織の三層の皮膚モデルを用いており、真皮層の吸収係数に対して表皮層の吸収係数を25%から150%まで変化させている。図10中、Aは25%を、Bは50%を、Cは75%を、Dは100%を、Eは125%を、Fは150%を、それぞれ示している。
【0118】
ここでは、表皮層の吸収係数を25%から150%まで変化させ、この変化した散乱係数それぞれに対応して光路長分布(TPD)を作成する。したがって、光路長分布(TPD)は、表皮層の吸収係数を25%から150%まで変化させたそれぞれに対応して作成されることとなる。
図10によれば、30ps程度で光子数または光強度が極大となる値(ピーク値)に対する振幅が5%以下となっており、真値に近いことが分かる。
【0119】
図11は、図10の無吸収時光強度N(t)及び光路長分布(TPD)と共にシミュレーションで得た吸収時光強度I(t)の時間分解波形をリニアスケールで示したものであり、図12は、図11の時間分解波形をログスケールで示したものである。
図11〜図12によれば、真皮層の吸収係数は、表皮層の吸収係数を変化させることにより大きく変化することが分かる。したがって、50ps程度では、真皮層の吸収係数に対して表皮層の吸収係数を25%とした場合、ピーク値に対して3桁程度の減少となっていることが分かる。
【0120】
上述したような処理により、シミュレーション部301は、異なる複数の皮膚モデルの光路長分布及び時間分解波形を算出する。このとき、シミュレーション部301は、皮膚の主成分(水、たんぱく質、脂質、グルコース等)の吸収スペクトルの差が大きい波長について光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0121】
シミュレーション部301が異なる複数の皮膚モデルの光路長分布及び時間分解波形を算出すると、光路長分布記憶部302は、算出された光路長分布の情報を記憶し、時間分解波形記憶部303は、算出された時間分解波形の情報を記憶する。
【0122】
次に、この血糖値測定装置300が血糖値を測定する動作について、図13及び図14に基づき説明する。
まず、被測定者が血糖値測定装置300を、図2に示すような手首等の皮膚31に当て、測定開始スイッチ(図示せず)の押下等により血糖値測定装置300を動作させると、照射部304は、皮膚31に対して波長λkの短時間パルス光を照射する(ステップS21)。
この波長λkとしては、例えば、シミュレーション部301が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中の1つが好ましい。
例えば、皮膚31を構成する主成分のうち、ある主成分における特定成分の光吸収係数が他の成分の光吸収係数より大きくなる波長の光、すなわち、特定成分の光吸収係数の極小値が他の成分の光吸収係数の極小値と大きく異なる波長の光について光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0123】
照射部304が波長λkの短時間パルス光を照射すると、受光部305は、照射部304から照射され皮膚31によって後方散乱された光を受光する(ステップS22)。
このとき、受光部305は、照射開始からの単位時間毎(例えば、1ピコ秒毎の時刻t1〜tm)の受光強度を、内部メモリー(図示せず)に記録しておく。
【0124】
次いで、異なる複数の皮膚モデルとの組み合わせに対し、積分区間を変化させて真皮層33の光吸収係数を算出する(処理A;ステップS23)。
このステップS23は、図14に示す動作により行う。
積分区間算出部309は、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、光路長取得部307が取得した光路長分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した無吸収時光強度とに基づいて、前記光の強度分布から皮膚の各々の層の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を算出する。
【0125】
ここでは、積分区間算出部309により、(1)後方散乱した光を受光する受光部305の出力する光強度が計測光強度取得部306の最小検出感度を超えて検出された時刻から最小検出感度と等しい光強度で検出された時刻までの時間、(2)シミュレーション部301で得られる無吸収時光強度を記憶している時間分解波形記憶部303から取得した無吸収時光強度の時間特性、(3)皮膚表面に接する受光部305と照射部304との間隔、(4)シミュレーション部301に与える皮膚モデルのサイズ及び光学特性(散乱係数、吸収係数、非等方性パラメーター、または屈折率)を用いて、積分区間を算出する。より具体的には、積分区間の開始時刻、終了時刻、増分時間を算出する(ステップS31)。
【0126】
受光部305が受光を完了すると、計測光強度取得部306は、内部メモリーに記録されている受光強度から、ある時刻tにおける受光強度を、異なる複数の皮膚モデルの数と同じ数だけ取得する(ステップS32)。
例えば、異なる複数の皮膚モデルとして、皮膚の3つの層について4種類の波長を用いて濃度測定を行う場合には、3つの異なる時刻t1〜t3における受光強度I(t1)〜I(t3)を取得する。ここで、皮膚の層の数と同じ数だけ受光強度を取得する理由は、後述する処理において、皮膚の各層の吸収係数を連立方程式によって算出するためである。
【0127】
また、計測光強度取得部306が光強度を取得する時刻t1〜t3は、皮膚の各層の光路長分布のピークとなる時刻であると良い。すなわち、照射部304が短時間パルス光を照射した時刻に、図3において皮膚の各層の光路長が極大となる時間を加算した時刻の光強度をそれぞれ取得すると良い。
【0128】
計測光強度取得部306が、受光強度I(t1)〜I(t3)を取得すると、光路長取得部307は、光路長分布記憶部302が記憶する波長λ1の光路長分布から、時刻t1〜t3における皮膚の各層の光路長L1(t1)〜L1(t3)、L2(t1)〜L2(t3)、L3(t1)〜L3(t3)を取得する(ステップS33)。
また、計測光強度取得部306が、受光強度I(t1)〜I(t3)を取得すると、無吸収時光強度取得部308は、時間分解波形記憶部303が記憶する波長λ1の時間分解波形から、短時間パルス光の時間分解波形の異なる複数の皮膚モデルの所定の時刻における光強度、例えば、時刻t1〜t3における検出光子数(無吸収時光強度)N(t1)〜N(t3)を取得する(ステップS34)。
【0129】
光路長取得部307が皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部308が検出光子数(無吸収時光強度)N(t1)〜N(t3)を取得すると、光吸収係数算出部310は、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した時間分解波形のモデルの皮膚の複数の層の組み合わせに対し、真皮層の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を変化させて、真皮層におけるグルコースの光吸収係数を算出する。
ここでは、式(13)に基づいて、積分区間算出部309が算出した積分区間での皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出する(ステップS35)。ここで、光吸収係数μ1は、表皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μ2は、真皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μ3は、皮下組織層の光吸収係数を示す。
【0130】
【数13】
【0131】
但し、ln(A)はAの自然対数を示し、N(t)は特定波長λkの短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度を示す。また、Iinは、照射部7が照射した短時間パルス光の光強度を示す。また、Ninは、シミュレーション部2が照射のシミュレーションを行った光子の個数を示す。
【0132】
光吸収係数算出部310がある積分区間での皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出すると、光吸収係数分布記憶部311は、光吸収係数算出部310が算出した、ある積分区間での皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を記憶する(ステップS36)。
【0133】
図15は、真皮層における光吸収係数と積分区間との関係を示す図である。図15では、表皮層、真皮層、皮下組織の三層の皮膚モデルを用いており、真皮層の光吸収係数に対して表皮層の散乱係数を文献値に対して−50%〜+200%変化させたときの積分区間と真皮層の光吸収係数との関係を示したものである。図15中、Aは−50%を、Bは−0%を、Cは+50%を、Dは+100%を、Eは+150%を、Fは+200%を、それぞれ示している。
【0134】
ここで、表皮層の散乱係数を変化させるということは、無吸収時光強度N(t)及び皮膚モデルの各層の光路長分布(TPD)を変化させたことになる。
図15によれば、積分区間を変化させることで、異なる無吸収時光強度N(t)及び皮膚モデルの各層の光路長分布(TPD)を用いた場合における真皮層の光吸収係数の特性が得られることが分かる。
【0135】
この測定の際に対象となる皮膚構造での真皮層の散乱係数は未知であるが、本実施形態では、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した時間分解波形のモデルの皮膚の複数の層の組み合わせに対し、真皮層の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を変化させて真皮層におけるグルコースの光吸収係数を算出するので、皮膚構造の光路長分布(TPD)に近い組み合わせにおける真皮層の光吸収係数を選択することが可能になる。
【0136】
光吸収係数算出部310がある積分区間での皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出すると、光吸収係数算出部310は、設定した積分区間での真皮層の光吸収係数を算出したか否かを判断する(ステップS37)。
本実施形態では、皮膚の主成分を水、たんぱく質、脂質、グルコースの4種類として血糖値の測定を行うので、光吸収係数算出部310は、4種類の波長λ1〜λ4に対して光吸収係数μ1〜μ3を算出したか否かを判定する。ここで、波長λ1〜λ4は、シミュレーション部301が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中から選出する。
【0137】
ここで、光吸収係数算出部310が設定した積分区間での真皮層の光吸収係数μ1〜μ3に算出しなかった光吸収係数があると判断した場合(ステップS37:NO)、再度、ある時刻における受光強度の取得(ステップS32)に戻り、まだ算出していない真皮層の光吸収係数を算出し、再度、設定した積分区間での真皮層の光吸収係数の算出の可否の判断(ステップS37)を行う。
一方、光吸収係数算出部310が設定した積分区間での真皮層の光吸収係数μ1〜μ3を算出したと判断した場合(ステップS37:YES)、真皮層の光吸収係数分布から光吸収係数を取得する(ステップ38)。
【0138】
光吸収係数取得部312は、皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の光吸収係数を算出したか否かを判断する(ステップS24)。
ここで、光吸収係数取得部312が皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の光吸収係数を算出していないと判断した場合(ステップS24:NO)、短時間パルス光の照射(ステップS21)に戻り、まだ算出していない皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の光吸収係数を算出し、再度、光吸収係数の算出の可否の判断(ステップS24)を行う。
【0139】
一方、光吸収係数取得部312が皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の光吸収係数を算出したと判断した場合(ステップS24:YES)、濃度算出部313は真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出する(ステップS25)。
濃度算出部313は、真皮層におけるグルコースの濃度を、下記の式(14)に基づいて算出する。
【0140】
【数14】
【0141】
但し、μ2(1)〜μ2(4)は、真皮層における波長λ1〜λ4の光吸収係数を示す。また、g1〜g4は、真皮層におけるそれぞれ皮膚の主成分である水、たんぱく質、脂質、グルコースのモル濃度を示す。また、ε1(1)〜ε1(4)は、波長λ1〜λ4に対する水のモル吸光係数を示し、ε2(1)〜ε2(4)は、波長λ1〜λ4に対するたんぱく質のモル吸光係数を示し、ε3(1)〜ε3(4)は、波長λ1〜λ4に対する脂質のモル吸光係数を示し、ε4(1)〜ε4(4)は、波長λ1〜λ4に対するグルコースのモル吸光係数を示す。
つまり、式(14)のg4を算出することで、真皮層に含まれるグルコースのモル濃度を求めることができる。
【0142】
式(14)によりグルコースのモル濃度を求めることができる理由は、第1の実施形態と全く同様である。
【0143】
上述の血糖値測定装置300は、内部にコンピューターシステム(図示略)を有しており、上述した各ステップの処理動作は、プログラムの形式でコンピューター読み取り可能な記録媒体に記憶されている。そこで、このプログラムをコンピューターが読み出して実行することにより、上記の処理動作を行うことができる。
ここで、コンピューター読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリー等が挙げられる。
また、このコンピュータープログラムを通信回線によりコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピューターが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0144】
また、上記プログラムは、上記の機能の一部を実現するためのものであってもよい。
さらに、上述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0145】
以上説明したように、本実施形態によれば、積分区間算出部309により、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、光路長取得部307が取得した光路長分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した無吸収時光強度とに基づいて、前記光の強度分布から皮膚の各々の層の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を算出し、光吸収係数算出部310により、積分区間を変化させて真皮層におけるグルコースの光吸収係数を算出するので、皮膚構造の光路長分布に近い組み合わせにおける真皮層の光吸収係数を選択することができる。したがって、皮膚の真皮層におけるグルコースの光の吸収量、すなわちグルコースの濃度を精度良く測定することができ、その結果、真皮層におけるグルコースの濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる。
また、積分区間を可変させることにより、真皮層におけるグルコースの濃度の測定精度を高めることができる。
【0146】
なお、本実施形態では、シミュレーション部301が、光吸収係数がゼロの皮膚モデルに対して光を照射するシミュレーションを行うこととしたが、シミュレーション部301が行った光吸収係数がゼロの皮膚モデルに対して光を照射するシミュレーションの結果を、光路長分布記憶部302及び時間分解波形記憶部303に記憶させておけば、シミュレーション部301を備えなくとも、本実施形態と同様の作用・効果を奏することができる。
【0147】
[第5の実施形態]
図16及び図17は、本発明の第5の実施形態の血糖値測定装置(濃度定量装置)が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
本実施形態の血糖値測定装置は、第4の実施形態の血糖値測定装置300と同一の構成であり、光路長取得部307、無吸収時光強度取得部308、計測光強度取得部306、光吸収係数算出部310の動作が異なる。
【0148】
次に、本実施形態の血糖値測定装置が血糖値を測定する動作について説明する。
まず、被測定者が血糖値測定装置300を動作させると、照射部304は、皮膚31に対して波長λkの短時間パルス光を照射する(ステップS41)。
この波長λkとしては、例えば、シミュレーション部301が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中の1つが好ましい。
【0149】
照射部304が波長λkの短時間パルス光を照射すると、受光部305は、照射部304から照射され皮膚によって後方散乱された光を受光する(ステップS42)。
このとき、受光部305は、照射開始からの単位時間毎(例えば、1ピコ秒毎)の受光強度を、内部メモリー(図示せず)に記録しておく。
【0150】
次いで、異なる複数の皮膚モデルとの組み合わせに対し、積分区間を変化させて真皮層の光吸収係数を算出する(処理B;ステップS43)。
このステップS43は、図17に示す動作により行う。
積分区間算出部309は、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、光路長取得部307が取得した光路長分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した無吸収時光強度とに基づいて、前記光の強度分布から皮膚の各々の層の光強度に対応する領域の時間の範囲である積分区間を算出する(ステップS51)。
【0151】
受光部305が受光を完了すると、計測光強度取得部306は、受光部305の内部メモリに記録されている受光強度から、ある時刻から時間τの間の受光強度の時間分布を、異なる複数の皮膚モデルの数と同じ数だけ取得する(ステップS52)。
【0152】
計測光強度取得部306が、時間τの間の受光強度の時間分布を取得すると、光路長取得部307は、光路長分布記憶部302が記憶する波長λkの光路長分布から、時間τの間の皮膚の各層の光路長L1〜L3を取得する(ステップS53)。
また、計測光強度取得部306が、時間τの間の受光強度を取得すると、無吸収時光強度取得部308は、時間分解波形記憶部303が記憶する波長λkの時間分解波形から、ある時刻から時間τの間の検出光子数(無吸収時光強度)を取得する(ステップS54)。
【0153】
光路長取得部307が皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部308が検出光子数を取得すると、光吸収係数算出部310は、計測光強度取得部306が取得した光の強度分布と、無吸収時光強度取得部308が取得した時間分解波形のモデルの皮膚の複数の層の組み合わせに対し、真皮層の光強度に対応する領域の時間の範囲(時間幅)である積分区間を変化させて、真皮層におけるグルコースの光吸収係数を算出する。
ここでは、式(15)に基づいて、積分区間算出部309が算出した積分区間での皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出する(ステップS55)。ここで、光吸収係数μ1は、表皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μ2は、真皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μ3は、皮下組織の光吸収係数を示す。
【0154】
【数15】
【0155】
但し、ln(A)はAの自然対数を示し、N(t)は特定波長λkの短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度を示す。また、Iinは、照射部304が照射した短時間パルス光の光強度を示す。また、Ninは、シミュレーション部301が照射のシミュレーションを行った光子の個数を示す。
【0156】
光吸収係数算出部310がある積分区間での皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出すると、光吸収係数分布記憶部311は、光吸収係数算出部310が算出した、ある積分区間での皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を記憶する(ステップS56)。
【0157】
また、光吸収係数算出部310がある積分区間での皮膚の各層の光吸収係数μ1〜μ3を算出すると、光吸収係数算出部310は、設定した積分区間での真皮層の光吸収係数を算出したか否かを判断する(ステップS57)。
本実施形態では、皮膚の主成分を水、たんぱく質、脂質、グルコースの4種類として血糖値の測定を行うので、光吸収係数算出部310は、4種類の波長λ1〜λ4に対して光吸収係数μ1〜μ3を算出したか否かを判定する。ここで、波長λ1〜λ4は、シミュレーション部301が光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中から選出する。
【0158】
ここで、光吸収係数算出部310が設定した積分区間での真皮層の光吸収係数μ1〜μ3に算出しなかった光吸収係数があると判断した場合(ステップS57:NO)、再度、ある時刻における受光強度の取得(ステップS52)に戻り、まだ算出していない真皮層の光吸収係数を算出し、再度、設定した積分区間での真皮層の光吸収係数の算出の可否の判断(ステップS57)を行う。
一方、光吸収係数算出部310が設定した積分区間での真皮層の光吸収係数μ1〜μ3を算出したと判断した場合(ステップS57:YES)、真皮層の光吸収係数分布から光吸収係数を取得する(ステップ58)。
【0159】
光吸収係数取得部312は、皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の光吸収係数を算出したか否かを判断する(ステップS44)。
ここで、光吸収係数取得部312が皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の光吸収係数を算出していないと判断した場合(ステップS44:NO)、短時間パルス光の照射(ステップS41)に戻り、まだ算出していない皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の光吸収係数を算出し、再度、光吸収係数の算出の可否の判断(ステップS44)を行う。
【0160】
一方、光吸収係数取得部312が皮膚の主成分の種類数に対応した波長数の光吸収係数を算出したと判断した場合(ステップS44:YES)、濃度算出部313は真皮層に含まれるグルコースの濃度を、上記の式(14)に基づいて算出する(ステップS45)。
【0161】
このように、本実施形態によれば、吸収係数μ1〜μ3を、時間τの間の光路長の積分値によって算出する。これにより、計測した受光強度I(t)に含まれている誤差による吸収係数μ1〜μ3の算出結果に対する影響を少なくすることができる。
【0162】
[第6の実施形態]
図18は、本発明の第6の実施形態の血糖値測定装置(濃度定量装置)の構成を示す概略ブロック図である。
本実施形態の血糖値測定装置400が、第4の実施形態の血糖値測定装置300と異なる点は、時間分解波形記憶部303と積分区間算出部309との間に、無吸収時光強度取得部308と並行に吸収時光強度取得部(光強度モデル取得部)401を設けた点である。
【0163】
吸収時光強度取得部401は、シミュレーション部301で得られる無吸収時光強度と同様に得られる、ある時刻における光の吸収係数を1、すなわち100%吸収されるものとしたときの光強度モデルを取得する。
ここでは、吸収時光強度を記憶している時間分解波形記憶部303から、短時間パルス光の時間分解波形のモデルの所定の時刻における吸収時光強度、すなわち、ある時刻における吸収時の光強度を取得する。
【0164】
積分区間算出部309は、光路長取得部307が取得した光路長分布のモデルの皮膚の各々の層の光路長と、無吸収時光強度取得部308が取得した短時間パルス光の時間分解波形のモデルの無吸収時光強度と、吸収時光強度取得部401が取得した短時間パルス光の時間分解波形のモデルの吸収時光強度と、計測光強度取得部306が取得した受光部305が受光した光強度分布とに基づいて、前記光強度分布から任意の層の光強度に対応する領域の積分区間を算出する。
【0165】
この血糖値測定装置400を用いて血糖値を測定する場合、積分区間を変化させて真皮層の光吸収係数を算出する。
この場合、積分区間算出部309は、(1)後方散乱した光を受光する受光部305の出力する光強度が計測光強度取得部306の最小検出感度を超えて検出された時刻から最小検出感度と等しい光強度で検出された時刻までの時間、(2)シミュレーション部301で得られる無吸収時光強度を記憶している時間分解波形記憶部303から取得した無吸収時光強度の時間特性、(3)シミュレーション部301で得られる吸収時光強度を記憶している時間分解波形記憶部303から取得した吸収時光強度の時間特性、(4)皮膚表面に接する受光部305と照射部304との間隔、(5)シミュレーション部301に与える皮膚モデルのサイズ及び光学特性(散乱係数、吸収係数、非等方性パラメーター、または屈折率)を用いて、積分区間を算出する。より具体的には、積分区間の開始時刻、終了時刻、増分時間を算出する。
【0166】
なお、この積分区間算出部309が算出した積分区間に基づいて、光吸収係数算出部310〜濃度算出部313が特定深さの層に含まれるグルコースの濃度を算出する方法及び手順については、第4の実施形態の血糖値測定装置300と全く同様であるから、説明を省略する。
【0167】
本実施形態においても、第4の実施形態と同様に、皮膚構造の光路長分布に近い組み合わせにおける真皮層の光吸収係数を選択することができる。したがって、皮膚の真皮層におけるグルコースの光の吸収量、すなわちグルコースの濃度を精度良く測定することができ、その結果、真皮層におけるグルコースの濃度を、非侵襲的にかつ精度良く定量することができる。
また、積分区間を可変させることにより、真皮層におけるグルコースの濃度の測定精度を高めることができる。
【0168】
以上、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等が可能である。
例えば、上記の各実施形態では、濃度定量装置として血糖値測定装置を、観測対象として人の手のひらの皮膚を、目的成分としてグルコースを、パルス光として短時間パルス光を、それぞれ取ることで、皮膚の真皮層に含まれるグルコースの濃度を測定する場合について説明したが、これに限らず、濃度定量方法を、複数の光散乱媒質の層から形成される観測対象の任意の層における目的成分の濃度を定量する他の装置に用いてもよく、特定波長の短時間パルス光を、特定波長の連続光に替えてもよい。
例えば、携帯型の皮膚主成分の濃度測定装置に適用した場合、皮膚疾患の検査や診断や治療に有効利用することが可能である。
【符号の説明】
【0169】
31…皮膚(観測対象)、33…真皮層(任意の層)、100…血糖値測定装置(濃度定量装置)、102…光路長分布記憶部、103…時間分解波形記憶部、104…照射部、105…受光部、106…計測光強度取得部(光強度取得部)、107…光路長取得部、108…無吸収時光強度取得部(光強度モデル取得部)、109…光吸収係数算出部、110…濃度算出部、200…血糖値測定装置(濃度定量装置)、300…血糖値測定装置(濃度定量装置)、302…光路長分布記憶部、303…時間分解波形記憶部、304…照射部、305…受光部、306…計測光強度取得部(光強度取得部)、307…光路長取得部、308…無吸収時光強度取得部(光強度モデル取得部)、309…積分区間算出部、310…光吸収係数算出部、312…光吸収係数取得部、313…濃度算出部、400…血糖値測定装置(濃度定量装置)、401…吸収時光強度取得部(光強度モデル取得部)、S1〜S8、S11〜S18、S21〜S25、S31〜S38、S41〜S45、S51〜S58…ステップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置であって、
前記観測対象に短時間パルス光を照射する照射部と、
前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光する受光部と、
前記受光部が受光した光の強度から光の強度分布を取得する光強度取得部と、
前記観測対象に対して照射する前記短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、
前記光路長分布のモデルの所定の時刻における、前記複数の層の各々の層の光路長分布を取得する光路長取得部と、
時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部と、
前記時間分解波形のモデルの所定の時刻における光強度モデルを取得する光強度モデル取得部と、
前記光の強度分布と、前記光路長分布と、前記光強度モデルとに基づいて、前記光の強度分布から前記任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出する積分区間算出部と、
前記光の強度分布と、前記光強度モデル取得部が取得した前記時間分解波形のモデルの前記複数の層の組み合わせに対し、前記時間の範囲を変化させて前記任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得する光吸収係数算出・取得部と、
前記光吸収係数算出・取得部が取得した前記目的成分の光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出部と、
を備えてなることを特徴とする濃度定量装置。
【請求項2】
前記光吸収係数算出・取得部は、
前記時間の範囲を変化させて前記複数の層の各々の層の光吸収係数を算出する光吸収係数算出部と、
前記光吸収係数算出部が算出した前記複数の層の各々の層の光吸収係数に基づき前記任意の層における目的成分の光吸収係数を取得する光吸収係数取得部と、
を備えてなることを特徴とする請求項1記載の濃度定量装置。
【請求項3】
前記光強度モデル取得部は、前記時間分解波形記憶部から前記短時間パルス光の光強度モデルのうち無吸収時の光強度モデルを得る無吸収時光強度取得部と、前記短時間パルス光の光強度モデルのうち吸収時の光強度モデルを得る吸収時光強度取得部と、
を備えてなることを特徴とする請求項2記載の濃度定量装置。
【請求項4】
前記光強度取得部は、前記時間の範囲内の前記観測対象の層の数n以上となる複数の時刻t1〜tmにおける光強度を取得し、
前記光吸収係数算出部は、
自然対数を示すln(・)、前記受光部が前記時間の範囲内の時刻tにおいて受光した光強度を示すI(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記時間の範囲内の時刻tにおける光強度を示すN(t)、前記光路長分布のモデルの前記時間の範囲内の時刻tにおける第i層の光路長を示すLi(t)、第i層の光吸収係数を示すμiを用いて、
【数1】
から任意の層の光吸収係数を算出する、
ことを特徴とする請求項2または3記載の濃度定量装置。
【請求項5】
前記光強度取得部が光強度を取得する複数の時刻は、前記複数の層の各々の層の光路長分布のピーク時間を含むことを特徴とする請求項4記載の濃度定量装置。
【請求項6】
前記光強度取得部は、前記時間の範囲内の所定の時刻から少なくとも所定の時間τの間の光強度を取得し、
前記光吸収係数算出部は、
自然対数を示すln(・)、前記受光部が前記時間の範囲内の時刻tにおいて受光した光強度を示すI(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記時間の範囲内の時刻tにおける光強度を示すN(t)、前記光路長分布のモデルの前記時間の範囲内の時刻tにおける第i層の光路長を示すLi(t)、前記観測対象の層の数を示すn、第i層の光吸収係数を示すμiを用いて、
【数2】
から任意の層の光吸収係数を算出する、
ことを特徴とする請求項2または3記載の濃度定量装置。
【請求項7】
前記照射部は、複数の波長1〜qの光を照射し、
前記光吸収係数算出部は、前記任意の層における光吸収係数を前記照射部が照射した複数の波長毎に算出し、
前記濃度算出部は、
前記任意の層である第a層における波長iの光吸収係数を示すμa(i)、前記観測対象を形成する第j成分のモル濃度を示すgj、第j成分の波長iに対する光吸収係数を示すεj(i)、前記観測対象を形成する主成分の個数を示すp、照射部が照射する波長の種類数を示すqを用いて、
【数3】
から前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する、
ことを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項記載の濃度定量装置。
【請求項8】
前記照射部が照射する複数の光は、前記目的成分の光吸収係数が大きくなる波長の光を含むことを特徴とする請求項7記載の濃度定量装置。
【請求項9】
前記照射部が照射する複数の光は、前記観測対象を構成する主成分の各々の成分の吸収スペクトル分布の直交性が高くなる波長の光を含むことを特徴とする請求項7記載の濃度定量装置。
【請求項10】
複数の層により構成される観測対象に対して照射する短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部とを備え、前記観測対象のうち任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置を用いた濃度定量方法であって、
照射部により、前記観測対象に短時間パルス光を照射し、
受光部により、前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光し、
光強度取得部により、前記受光部が受光した光の強度を取得し、
光路長取得部により、前記光路長分布記憶部から、前記光路長分布のモデルの前記所定の時刻における、前記複数の層の各々の層の光路長分布を取得し、
光強度モデル取得部により、前記時間分解波形記憶部から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光強度モデルを取得し、
積分区間算出部により、前記光の強度分布と、前記光路長取得部が取得した前記複数の層の各々の層の光路長分布と、前記光強度モデル取得部が取得した光強度モデルとに基づいて、前記光の強度分布から前記任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出し、
光吸収係数算出・取得部により、前記光強度取得部が取得した前記光の強度分布と、前記光強度モデル取得部が取得した前記時間分解波形の複数のモデルとの組み合わせに対し、前記積分区間算出部が算出した前記時間の範囲を変化させて前記任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得し、
濃度算出部により、前記光吸収係数算出・取得部が取得した前記目的成分の光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する、
ことを特徴とする濃度定量方法。
【請求項11】
複数の層により構成される観測対象に対して照射する短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部とを備え、前記観測対象のうち任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置のコンピューターに、
前記観測対象に前記短時間パルス光を照射する照射手順、
前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光する受光手順、
前記受光部が受光した光の強度を取得する光強度取得手順、
前記光路長分布記憶部から、前記光路長分布のモデルの前記所定の時刻における前記複数の層の各々の層の光路長分布を取得する光路長取得手順、
前記時間分解波形記憶部から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光強度モデルを取得する光強度モデル取得手順、
前記光強度取得手順が取得した前記光の強度分布と、前記光路長取得手順が取得した前記複数の層の各々の層の光路長分布と、前記光強度モデル取得手順が取得した光強度モデルとに基づいて、前記光の強度分布から前記任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出する積分区間算出手順、
前記光強度取得手順が取得した前記光の強度分布と、前記光強度モデル取得手順が取得した前記時間分解波形の複数のモデルとの組み合わせに対し、前記積分区間算出部が算出した前記時間の範囲を変化させて前記任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得する光吸収係数算出・取得手順、
前記光吸収係数算出・取得部が取得した前記目的成分の光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手順、
を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項1】
複数の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置であって、
前記観測対象に短時間パルス光を照射する照射部と、
前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光する受光部と、
前記受光部が受光した光の強度から光の強度分布を取得する光強度取得部と、
前記観測対象に対して照射する前記短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、
前記光路長分布のモデルの所定の時刻における、前記複数の層の各々の層の光路長分布を取得する光路長取得部と、
時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部と、
前記時間分解波形のモデルの所定の時刻における光強度モデルを取得する光強度モデル取得部と、
前記光の強度分布と、前記光路長分布と、前記光強度モデルとに基づいて、前記光の強度分布から前記任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出する積分区間算出部と、
前記光の強度分布と、前記光強度モデル取得部が取得した前記時間分解波形のモデルの前記複数の層の組み合わせに対し、前記時間の範囲を変化させて前記任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得する光吸収係数算出・取得部と、
前記光吸収係数算出・取得部が取得した前記目的成分の光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出部と、
を備えてなることを特徴とする濃度定量装置。
【請求項2】
前記光吸収係数算出・取得部は、
前記時間の範囲を変化させて前記複数の層の各々の層の光吸収係数を算出する光吸収係数算出部と、
前記光吸収係数算出部が算出した前記複数の層の各々の層の光吸収係数に基づき前記任意の層における目的成分の光吸収係数を取得する光吸収係数取得部と、
を備えてなることを特徴とする請求項1記載の濃度定量装置。
【請求項3】
前記光強度モデル取得部は、前記時間分解波形記憶部から前記短時間パルス光の光強度モデルのうち無吸収時の光強度モデルを得る無吸収時光強度取得部と、前記短時間パルス光の光強度モデルのうち吸収時の光強度モデルを得る吸収時光強度取得部と、
を備えてなることを特徴とする請求項2記載の濃度定量装置。
【請求項4】
前記光強度取得部は、前記時間の範囲内の前記観測対象の層の数n以上となる複数の時刻t1〜tmにおける光強度を取得し、
前記光吸収係数算出部は、
自然対数を示すln(・)、前記受光部が前記時間の範囲内の時刻tにおいて受光した光強度を示すI(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記時間の範囲内の時刻tにおける光強度を示すN(t)、前記光路長分布のモデルの前記時間の範囲内の時刻tにおける第i層の光路長を示すLi(t)、第i層の光吸収係数を示すμiを用いて、
【数1】
から任意の層の光吸収係数を算出する、
ことを特徴とする請求項2または3記載の濃度定量装置。
【請求項5】
前記光強度取得部が光強度を取得する複数の時刻は、前記複数の層の各々の層の光路長分布のピーク時間を含むことを特徴とする請求項4記載の濃度定量装置。
【請求項6】
前記光強度取得部は、前記時間の範囲内の所定の時刻から少なくとも所定の時間τの間の光強度を取得し、
前記光吸収係数算出部は、
自然対数を示すln(・)、前記受光部が前記時間の範囲内の時刻tにおいて受光した光強度を示すI(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記時間の範囲内の時刻tにおける光強度を示すN(t)、前記光路長分布のモデルの前記時間の範囲内の時刻tにおける第i層の光路長を示すLi(t)、前記観測対象の層の数を示すn、第i層の光吸収係数を示すμiを用いて、
【数2】
から任意の層の光吸収係数を算出する、
ことを特徴とする請求項2または3記載の濃度定量装置。
【請求項7】
前記照射部は、複数の波長1〜qの光を照射し、
前記光吸収係数算出部は、前記任意の層における光吸収係数を前記照射部が照射した複数の波長毎に算出し、
前記濃度算出部は、
前記任意の層である第a層における波長iの光吸収係数を示すμa(i)、前記観測対象を形成する第j成分のモル濃度を示すgj、第j成分の波長iに対する光吸収係数を示すεj(i)、前記観測対象を形成する主成分の個数を示すp、照射部が照射する波長の種類数を示すqを用いて、
【数3】
から前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する、
ことを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項記載の濃度定量装置。
【請求項8】
前記照射部が照射する複数の光は、前記目的成分の光吸収係数が大きくなる波長の光を含むことを特徴とする請求項7記載の濃度定量装置。
【請求項9】
前記照射部が照射する複数の光は、前記観測対象を構成する主成分の各々の成分の吸収スペクトル分布の直交性が高くなる波長の光を含むことを特徴とする請求項7記載の濃度定量装置。
【請求項10】
複数の層により構成される観測対象に対して照射する短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部とを備え、前記観測対象のうち任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置を用いた濃度定量方法であって、
照射部により、前記観測対象に短時間パルス光を照射し、
受光部により、前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光し、
光強度取得部により、前記受光部が受光した光の強度を取得し、
光路長取得部により、前記光路長分布記憶部から、前記光路長分布のモデルの前記所定の時刻における、前記複数の層の各々の層の光路長分布を取得し、
光強度モデル取得部により、前記時間分解波形記憶部から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光強度モデルを取得し、
積分区間算出部により、前記光の強度分布と、前記光路長取得部が取得した前記複数の層の各々の層の光路長分布と、前記光強度モデル取得部が取得した光強度モデルとに基づいて、前記光の強度分布から前記任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出し、
光吸収係数算出・取得部により、前記光強度取得部が取得した前記光の強度分布と、前記光強度モデル取得部が取得した前記時間分解波形の複数のモデルとの組み合わせに対し、前記積分区間算出部が算出した前記時間の範囲を変化させて前記任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得し、
濃度算出部により、前記光吸収係数算出・取得部が取得した前記目的成分の光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する、
ことを特徴とする濃度定量方法。
【請求項11】
複数の層により構成される観測対象に対して照射する短時間パルス光の、前記複数の層の各々の層における光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶部と、前記観測対象に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶部とを備え、前記観測対象のうち任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置のコンピューターに、
前記観測対象に前記短時間パルス光を照射する照射手順、
前記短時間パルス光の照射により前記観測対象から後方散乱される光を受光する受光手順、
前記受光部が受光した光の強度を取得する光強度取得手順、
前記光路長分布記憶部から、前記光路長分布のモデルの前記所定の時刻における前記複数の層の各々の層の光路長分布を取得する光路長取得手順、
前記時間分解波形記憶部から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光強度モデルを取得する光強度モデル取得手順、
前記光強度取得手順が取得した前記光の強度分布と、前記光路長取得手順が取得した前記複数の層の各々の層の光路長分布と、前記光強度モデル取得手順が取得した光強度モデルとに基づいて、前記光の強度分布から前記任意の層の光強度分布に対応する領域の時間の範囲を算出する積分区間算出手順、
前記光強度取得手順が取得した前記光の強度分布と、前記光強度モデル取得手順が取得した前記時間分解波形の複数のモデルとの組み合わせに対し、前記積分区間算出部が算出した前記時間の範囲を変化させて前記任意の層における目的成分の光吸収係数を算出し取得する光吸収係数算出・取得手順、
前記光吸収係数算出・取得部が取得した前記目的成分の光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手順、
を実行させることを特徴とするプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−85877(P2012−85877A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235927(P2010−235927)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]