説明

濾過材料

【課題】塩化物系の溶融塩と反応せずに沈殿物を濾過可能な濾過材を提供すること。
【解決手段】塩化物系の溶融塩と反応し難いガラス、または結晶化ガラスからなる濾過材料である。ガラス組成が、モル%で表して、Pが30〜80、Feが0〜50、Alが0〜30、TiOが0〜35、ZrOが0〜5からなる。また、実質的にアルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を含有しない。また、ガラス及び結晶化ガラスの前駆体であるガラスの軟化点が450℃以上である特徴も持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化物系の溶融塩と反応し難く、溶融塩中の沈殿物の濾過に適した濾過材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩化物系溶融塩を用いた溶融塩電解法は、現在、様々な分野で利用されている。例えば、使用済核燃料の乾式再処理工程は、溶媒中である塩化物系の高温溶融塩に使用済燃料を溶解し、電解処理することで陰極上に析出する電解析出物を回収し、再処理している。使用済電解質融液には、白金族元素のように溶融塩に溶け込まずに沈殿する核分裂生成物が存在する(例えば、非特許文献1)。また、電解により分離不可能な核分裂生成物は、リン酸塩に転換することにより沈殿除去することも検討されている。(例えば、非特許文献2または特許文献1参照)。
【0003】
沈殿は濾過により除去出来るが、用いる濾過材は溶融塩と反応せずに、形状を維持出来る材質が必須である。また、上記のような核分裂生成物を含有する沈殿物は、ガラス固化により安定化されるが、濾過材もまた、核分裂生成物が付着しているため、固化が必要である。特許文献1では、安定化に鉄リン酸ガラスへの沈殿物の充填を検討しているが、濾過材の材質によっては、安定なガラスを形成しないため、濾過材の検討が課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−303934号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「リン酸系ガラスによる放射性廃棄物固化技術」天本一平、明珍宗孝、福井寿樹、New GLASS、Vol.22、No.2、2007、p22
【非特許文献2】「乾式再処理から発生する廃溶融塩の固化技術の開発」豊原尚美 他、日本原子力学会和文論文誌、Vol.1、No.4、2002、p420
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、塩化物系の溶融塩と反応し難く、溶融塩中の沈殿物の濾過に適しており、また、上記問題を解決するために、材質がリン酸系ガラスからなる濾過材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、塩化物系の溶融塩と反応し難く、溶融塩中の沈殿物の濾過に適しており、また、上記問題を解決するために、材質がリン酸系ガラスからなる濾過材料を提供することである。
【0008】
また、モル%で表して、Pが30〜80、Feが0〜50、Alが0〜30、TiOが0〜35、ZrOが0〜10からなるP系ガラス、または結晶化ガラスであることを特徴とする、上記の濾過材料である。
【0009】
また、実質的にアルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を含有しないガラス及び結晶化ガラスであることを特徴とする上記の濾過材料である。
【0010】
さらに、ガラス及び結晶化ガラスの前駆体であるガラスの軟化点が450℃以上であることを特徴とする、上記の濾過材料である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、塩化物系の溶融塩と反応せずに沈殿物を濾過することができ、例えば、溶融塩が電解質融液の場合は電解質融液の再生が可能となり、環境及び経済面での負荷を低減することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は前記問題点を考慮し、塩化物系混合溶融塩と反応し難いことを特徴とする濾過材料でありP系のガラス、または結晶化ガラスからなる。
【0013】
本発明の成分系においてPはガラスの主成分であり、ガラス溶融を容易とするための必須成分である。ガラス中にモル%で30〜80%の範囲で含有させることが望ましい。30%未満では上記作用を発揮しえずかつガラス化が困難となり、80%を超えるとガラスの耐湿性が悪くなる。より好ましくは40〜70%の範囲である。
【0014】
Feは、P系ガラスで問題となる吸湿性を改善し、ガラスを安定化させる成分である。ガラス中にモル%で0〜50%の範囲で含有させることが望ましい。50%を超えるとガラス化しなくなる。より好ましくは0〜45%の範囲である。
【0015】
Alは溶融塩との反応を抑制し、ガラス作製の際に結晶化を抑制して安定化させる成分である。ガラス中にモル%で0〜30%の範囲で含有させることが好ましい。30%を超えるとガラス化しなくなる。好ましくは0〜25%、より好ましくは0〜20%の範囲である。
【0016】
TiOはガラスの耐熱性を向上させ、またAlと同様に溶融塩との反応を抑制する成分である。ガラス中にモル%で0〜35%の範囲で含有させることが好ましい。35%を超えるとガラス化が困難となる。より好ましくは0〜30%の範囲である。
【0017】
ZrOはガラスの耐熱性を向上させ、またAlと同様に溶融塩との反応を抑制する成分である。ガラス中にモル%で0〜10%の範囲で含有させることが好ましい。10%を超えるとガラス化が困難となる。より好ましくは0〜8%の範囲である。
【0018】
この他にも、一般的な酸化物で表すIn、V5、SnO、TeOなど、あるいはFやClなどを上記性質を損なわない範囲で3%まで加えてもよい。3%を超えると、溶融塩との反応がし易くなり、ガラスの性質及び形状を維持出来なくなる。
【0019】
実質的にアルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物を含まないことにより、溶融塩との反応を皆無とすることができる。ここで、実質的にアルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物を含まないとは、ガラス原料中に不純物として混入する程度の量を意味する。例えば、ガラス中における1質量%以下の範囲であれば、溶融塩との反応に与える影響は殆どない。
【0020】
上記成分系において、塩化物系溶融塩に耐性があれば、ガラスあるいは結晶化ガラスのどちらでも構わない。
【0021】
また、ガラス及び結晶化ガラスの前駆体ガラスの軟化点が450℃以上であることを特徴とする収着材料である。軟化点が450℃未満であると、電解質融液の溶融温度に耐えられなくなり、形状を維持出来なくなる。
【0022】
本発明の濾過材料は特に形状を問わないが、濾過性能を上げるために粉末状、繊維状、あるいは多孔質にすることが好ましい。
本発明の濾過材料は、塩化物系電解質融液の溶融塩に効果を示す。ただし、塩化物系電解質融液は、リン酸塩等の他の塩を含有しても良い。
【実施例】
【0023】
以下、実施例に基づき、説明する。
【0024】
源として正リン酸を、Fe源として酸化鉄を、Al源として酸化アルミニウムを、TiO源として酸化チタンを、ZrO源として酸化ジルコニウムを、KO源として炭酸カリウムを、CaO源として炭酸カルシウムを、BaO源として炭酸バリウムを使用し、これらを表の組成となるべく調合したうえで、白金ルツボに投入し、電気加熱炉内で1100〜1300℃、1〜3時間加熱溶融した。溶融ガラスを鋳型に流し込み、ブロック状とし、ガラス転移点以上に保持した電気炉内に移入して徐冷し、表1の実施例1〜5、表2の比較例1〜3に示す組成のガラスを得た。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
このようにして作製した各試料について、軟化点、溶融塩への耐性を評価した。
【0028】
軟化点は、熱分析装置TG―DTA(リガク(株)製)を用いて測定した。塩化物系溶融塩への耐性評価は、LiCl−KCl―CsCl混合塩を、乾燥した大気中500℃で加熱することで溶融塩とし、上記ガラス試料をその溶融塩に5時間浸漬し、溶融塩への耐性を評価した。
【0029】
(結果) 組成および、各種試験結果を表に示す。
【0030】
表から明らかなように、実施例1〜5の各試料は、各組成が適切な範囲であるため、安定なガラスが得られ、また軟化点も所望の範囲に入っていた。塩化物系溶融塩へ浸漬後も、ガラス質及び形状を維持しており、耐性が有る。
【0031】
これらに対して、比較例1〜3の試料は、軟化点は所望の値が得られたものの、組成範囲が適切ではなく、アルカリ金属酸化物もしくはアルカリ土類酸化物を含んでいるため、溶融塩と反応し、結晶化もしくは形状が維持出来ずに溶解しており、溶融塩への耐性は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物系の溶融塩と反応し難いガラス、または結晶化ガラスであることを特徴とする濾過材料。
【請求項2】
モル%で表して、
が30〜80、
Feが0〜50、
Alが0〜30、
TiOが0〜35、
ZrOが0〜10、
からなるガラス、または結晶化ガラスであることを特徴とする請求項1に記載の濾過材料。
【請求項3】
実質的にアルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を含有しない請求項1または2に記載の濾過材料。
【請求項4】
前記ガラス及び結晶化ガラスの前駆体であるガラスの軟化点が450℃以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の収着濾過材料。

【公開番号】特開2011−5444(P2011−5444A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152778(P2009−152778)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】